(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-22
(45)【発行日】2024-01-30
(54)【発明の名称】繊維状吸着材およびその製造方法、並びに、当該繊維状吸着材を用いた重金属の固定化方法
(51)【国際特許分類】
B01J 20/06 20060101AFI20240123BHJP
B01J 20/30 20060101ALI20240123BHJP
B01J 20/28 20060101ALI20240123BHJP
【FI】
B01J20/06 C
B01J20/30
B01J20/28 Z
(21)【出願番号】P 2019193495
(22)【出願日】2019-10-24
【審査請求日】2022-08-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000224798
【氏名又は名称】DOWAホールディングス株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504147243
【氏名又は名称】国立大学法人 岡山大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000001085
【氏名又は名称】株式会社クラレ
(74)【代理人】
【識別番号】100091362
【氏名又は名称】阿仁屋 節雄
(74)【代理人】
【識別番号】100161034
【氏名又は名称】奥山 知洋
(72)【発明者】
【氏名】赤堀 文雄
(72)【発明者】
【氏名】石川 彰彦
(72)【発明者】
【氏名】野中 寿
(72)【発明者】
【氏名】関谷 真司
【審査官】柴田 昌弘
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-078751(JP,A)
【文献】特開2009-136795(JP,A)
【文献】特開2008-168182(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 20/00- 20/34
C02F 1/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリビニルアルコール系ポリマーと、水酸化ナトリウム中和シュベルトマナイトとからなり、且つ繊維中に、前記水酸化ナトリウム中和シュベルトマナイトを重量比で20~90%含むことを特徴とする繊維状吸着材。
【請求項2】
前記水酸化ナトリウム中和シュベルトマナイトが、中央粒径が10μm以下の粒子であることを特徴とする請求項1に記載の繊維状吸着材。
【請求項3】
一般式Fe
8O
8(OH)
8-2x(SO
4)
xで表記される構造を有するシュベルトマナイト(但し、xは1≦x≦1.75である。)へ、水酸化ナトリウムを反応させて水酸化ナトリウム中和シュベルトマナイトを得る工程と、
前記水酸化ナトリウム中和シュベルトマナイトをポリビニルアルコール系ポリマー溶液へ均一に分散した原液を、製糸する工程とを行うことを特徴とする繊維状吸着材の製造方法。
【請求項4】
前記水酸化ナトリウム中和シュベルトマナイトの分散量が、前記製糸工程の原液に対して、1~60質量%であることを特徴とする請求項3に記載の繊維状吸着材の製造方法。
【請求項5】
請求項1または2に記載の繊維状吸着材を用いて、環境中に存在する重金属を固定化することを特徴とする重金属の固定化方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、環境中に存在する重金属の固定化や除去に適用出来る、繊維状吸着材およびその製造方法、並びに、当該繊維状吸着材を用いた重金属の固定化方法に係る。
【背景技術】
【0002】
シュベルトマナイトを用いて、汚染土壌中に含有される砒素や重金属を不動態化して汚染土壌を浄化する汚染土壌の浄化方法が特許文献1に記載されている。
また、シュベルトマナイトの構造内に存在する硫酸イオンをケイ酸イオンに置換し、シュベルトマナイトの構造を安定化することにより、安定化したヒ素収着能を有するシュベルトマナイトが特許文献2に提案されている。
また、本出願人も特許文献3を出願し、シュベルトマナイトへ炭酸カルシウムを反応させて成る炭酸カルシウム中和シュベルトマナイトを用いた、環境中に存在する重金属の固定化方法を開示した。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2003-112162号公報
【文献】特許第3859001号公報
【文献】特開2018-47397号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述したように、シュベルトマナイト、特に、当該シュベルトマナイトへ炭酸カルシウムを作用させて中和した、炭酸カルシウム中和シュベルトマナイトは、環境中の重金属を吸着、固定化する優れた固定化剤である。
ここで、本発明者らは、当該炭酸カルシウム中和シュベルトマナイトを繊維化して繊維状吸着材とすれば、多様な環境への適用範囲が拡大すると共に、重金属の固定化や除去に係る作業性も大幅に向上出来ることに想到した。
【0005】
上述の着想に基づき本発明者らは、シュベルトマナイトや炭酸カルシウム中和シュベルトマナイトを繊維状吸着材とする研究を行った結果、ポリビニルアルコール系ポリマー(本発明において「PVA」と記載する場合がある。)と複合材料化し、繊維状吸着材を得ることが好ましいことに想到した。
しかしながら、シュベルトマナイトや炭酸カルシウム中和シュベルトマナイトをPVAと複合材料化したものを繊維化することは、困難であることが判明した。
尚、本発明において「ポリビニルアルコール系ポリマー」とは、ポリビニルアルコールポリマーを初めとした、ポリビニルアルコールの主鎖を有するポリマーのことを指す。
【0006】
本発明は、上述の状況の下で為されたものであり、その解決しようとする課題は、優れた重金属の吸着/捕捉、固定化/不溶化能力を有する、シュベルトマナイトとPVAとを複合材料化した繊維状吸着材およびその製造方法、並びに、当該繊維状吸着材を用いた重金属の固定化方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究した結果、シュベルトマナイトや炭酸カルシウム中和シュベルトマナイトとPVAとの複合材料を、繊維化することが困難であるのは、シュベルトマナイトや炭酸カルシウム中和シュベルトマナイトの酸性度が高いことに起因することに想到した。ここで、さらに研究を続け、シュベルトマナイトや炭酸カルシウム中和シュベルトマナイトの酸性度を下げる為に、シュベルトマナイトへ水酸化ナトリウムを反応させて成る水酸化ナトリウム中和シュベルトマナイトに想到した。
【0008】
そして当該水酸化ナトリウム中和シュベルトマナイトは、PVAとは複合材料化が可能で、且つ、当該水酸化ナトリウム中和シュベルトマナイトとPVAとの複合材料を繊維化した繊維状吸着材は、優れた重金属の吸着、固定化能力を有していることを知見して本発明を完成した。
【0009】
すなわち、上述の課題を解決するための第1の発明は、
ポリビニルアルコール系ポリマーと、水酸化ナトリウム中和シュベルトマナイトとからなり、且つ繊維中に、前記水酸化ナトリウム中和シュベルトマナイトを重量比で20~90%含むことを特徴とする繊維状吸着材である。
第2の発明は、
前記水酸化ナトリウム中和シュベルトマナイトが、中央粒径が10μm以下の粒子であることを特徴とする第1の発明に記載の繊維状吸着材である。
第3の発明は、
一般式Fe8O8(OH)8-2x(SO4)xで表記される構造を有するシュベルトマナイト(但し、xは1≦x≦1.75である。)へ、水酸化ナトリウムを反応させて水酸化ナトリウム中和シュベルトマナイトを得る工程と、
前記水酸化ナトリウム中和シュベルトマナイトをポリビニルアルコール系ポリマー溶液へ均一に分散した原液を、製糸する工程とを行うことを特徴とする繊維状吸着材の製造方法である。
第4の発明は、
前記水酸化ナトリウム中和シュベルトマナイトの分散量が、前記製糸工程の原液に対して、1~60質量%であることを特徴とする第3の発明に記載の繊維状吸着材の製造方法である。
第5の発明は、
第1または第2の発明に記載の繊維状吸着材を用いて、環境中に存在する重金属を固定化することを特徴とする重金属の固定化方法である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、ポリビニルアルコール系ポリマーと水酸化ナトリウム中和シュベルトマナイトとの複合材料(本発明において「複合材料」と略記する場合がある。)が、繊維化された重金属の固定化能力に優れた繊維状吸着材を得ることが出来た。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】実施例および比較例に係る重金属の吸着材によるヒ素(V)の除去率を示すグラフである。
【
図2】実施例および比較例に係る重金属の吸着材によるヒ素(III)の除去率を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明に係る繊維状吸着材について、1.水酸化ナトリウム中和シュベルトマナイト、2.水酸化ナトリウム中和シュベルトマナイトとPVAとの複合材料、3.繊維状吸着材、4.繊維状吸着材の使用方法例、の順に説明する。
【0013】
1.水酸化ナトリウム中和シュベルトマナイト
本発明に係る水酸化ナトリウム中和シュベルトマナイトは、Fe8O8(OH)8-2x(SO4)x(但し、xは1≦x≦1.75である。)構造を有するシュベルトマナイトへ、水酸化ナトリウムを反応させて、当該シュベルトマナイトの酸性度を低下させ、PVAとの複合材料化、および当該複合材料の繊維化を可能としたものである。
【0014】
ここで、本発明に係る水酸化ナトリウム中和シュベルトマナイトの製造方法例について説明する。
硫化鉄鉱床の鉱山から得られる排水へ第二鉄塩を添加し、さらにアルカリを添加してpHを3~4の範囲とする。そして水酸化第二鉄の沈殿を形成させた後、当該排水を殿物スラリーと上澄水とに分離する(除去工程)。
前記除去工程で得られた上澄水へ鉄酸化細菌を添加し、前記上澄水に含まれる2価鉄を3価鉄へ酸化して処理液を得る(酸化工程)。
前記酸化工程後の処理液をバクテリア酸化殿物スラリーと上澄水とに分離し、得られた酸化工程後の上澄水へ水酸化ナトリウムを添加して中和し、得られる鉄殿物のpH値を4~8の範囲とし、その後に、乾燥、解砕、粉砕を必要に応じて行うことで、中央粒径10μm以下の水酸化ナトリウム中和シュベルトマナイトが得られる。
水酸化ナトリウム中和シュベルトマナイトの中央粒径が10μm以下であると、均一な分散体が得られることから機械強度に優れる繊維が得られるとともに、高い表面積を有することから優れた吸着性能を有する観点から好ましい。
【0015】
2.水酸化ナトリウム中和シュベルトマナイトとPVAとの複合材料
本発明に係る複合材料は、上述した水酸化ナトリウム中和シュベルトマナイトとPVAとの混合物であって、後述する繊維状吸着材を製造する為の紡糸原液となるものである。
【0016】
ここで、本発明に係る水酸化ナトリウム中和シュベルトマナイトとPVAとの複合材料の製造方法について説明する。
複合材料の製造に用いる溶媒としては、PVA系繊維の製造に際して従来から用いられている溶媒、例えば、水、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、またはグリセリン、エチレングリコール、トリエチレングリコール等の多価アルコール類、ジエチレントリアミン、ロダン塩などの1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。この中でも、供給性、環境負荷への影響の観点から、水及びDMSOが特に好ましい。複合材料の調製方法は特に限定されるものではなく、PVA、水酸化ナトリウム中和シュベルトマナイトをそれぞれ単独で複合材料の溶媒中に溶解または分散したものを適当な割合で混合する方法、複合材料の溶媒中に一括で仕込んだ後に、溶解、分散させる方法、いずれも採用することができる。また、添加順序には特に限定はない。複合材料中の固形分濃度(PVA、水酸化ナトリウム中和シュベルトマナイトの合計量)は、PVAの組成や重合度、溶媒によって異なるが、1~60質量%の範囲が一般的で好ましい範囲である。6~60質量%の範囲であればさらに好ましい。
【0017】
3.繊維状吸着材
本発明に係る繊維状吸着材は、上述した複合材料を紡糸原液とし、紡糸操作を行って製造された水酸化ナトリウム中和シュベルトマナイトを含有する繊維である。
【0018】
その際の繊維の断面形状に関しても特に制限はなく、円形、中空、あるいは星型等異型断面であってもかまわない。例えば、本発明による繊維状吸着材を50重量%以上、好ましくは、80重量%以上、特に、90重量%以上含む布帛とすることによって、優れた重金属の吸着、固定化能力を示す繊維製品を得ることができる。この時、併用しうる繊維として特に限定はないが、微粒子を含有しないPVA系繊維や、ポリエステル系繊維、ポリアミド系繊維、セルロース系繊維等を挙げることができる。
【0019】
本発明により得られる繊維状吸着材に含有される水酸化ナトリウム中和シュベルトマナイトの重量比は20~90%とする。これは、水酸化ナトリウム中和シュベルトマナイトの重量比が、90%を超えると、繊維の曳糸性や工程性が著しく損なわれ、繊維化困難となるからである。一方、重量比が20%未満であると水酸化ナトリウム中和シュベルトマナイトがPVAによって被覆される面積が大きくなり、吸着性能が損なわれるからである。
【0020】
ここで、本発明に係る繊維状吸着材の製造方法例について説明する。
本発明に係る繊維状吸着材は、上述した本発明に係る複合材料を用い、湿式紡糸、乾湿式紡糸、乾式紡糸などの紡糸操作を実施することで製造することが出来る。
【0021】
複合材料の吐出時の液温は、複合材料が分解しない範囲であることが好ましく、具体的には50~150℃とすることが好ましい。なお、湿式紡糸とは、紡糸ノズルから直接固化浴に紡糸原液を吐出する方法のことであり、一方で乾湿式紡糸とは、紡糸ノズルから一旦任意の距離の空気中あるいは不活性ガス中に紡糸原液を吐出し、その後に固化浴に導入する方法のことであり、また、乾式紡糸とは、紡糸ノズルから空気中あるいは不活性ガス中に紡糸原液を吐出し、固化浴を経由せずに乾燥して繊維を得る方法のことである。
【0022】
本発明では、水酸化ナトリウム中和シュベルトマナイトがPVA中において、中央粒径が10μm以下の微粒子であることが必要であり、5μm以下であるような微粒子であることが好ましく、1μm以下であるような微粒子であると更に好ましい。それを達成する手段としては特に制限はないが、例えば、湿式粉砕および乾式粉砕等の任意の粉砕手法によって水酸化ナトリウム中和シュベルトマナイトを処理する方法や、予め調製した水酸化ナトリウム中和シュベルトマナイト分散液に十分なせん断力を付与する方法を例示することができる。
【0023】
尚、本発明において「中央粒径」とは、遠心沈降式粒度分布測定装置(例えば、CAPA―700;堀場製作所製)にて測定された粒径分布において、積算%が50%になる粒径(d50、メジアン径)のことを言う。
【0024】
本発明において、湿式紡糸または乾湿式紡糸の際に用いる固化浴は、複合材料の溶媒が有機溶媒の場合と水の場合では異なる。有機溶媒を用いた原液の場合には、得られる繊維強度等の点から固化浴溶媒と原液溶媒からなる混合液であることが好ましく、固化溶媒としては特に制限はないが、例えばメタノール、エタノール、プロパノール、ブタノールなどのアルコール類、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンなどのケトン類等のPVA系ポリマーに対して固化能を有する有機溶媒を用いることができる。これらの中でも低腐食性及び溶剤回収の点でメタノールとDMSOとの組合せが好ましい。一方、複合材料が水溶液の場合、固化浴を構成する固化溶媒としては、芒硝、硫酸アンモニウム、炭酸ナトリウム等のPVAに対して固化能を有する無機塩類や苛性ソーダの水溶液を用いることができる。
【0025】
次に固化された原糸から複合材料の溶媒を抽出除去するために、抽出浴を通過させるが、抽出時に同時に原糸を湿延伸することが、乾燥時の繊維間膠着抑制及び得られる繊維の機械的特性を向上させるうえで好ましい。その際の湿延伸倍率としては2~10倍であることが工程性、生産性の点で好ましい。抽出溶媒としては固化溶媒単独あるいは原液溶媒と固化溶媒の混合液を用いることができる。
【0026】
湿延伸後、乾燥し、更に場合によっては乾熱延伸、熱処理を施す。このための延伸条件は、一般的には100℃以上の温度、好ましくは150℃~260℃の温度で行うのがよく、3倍以上の全延伸倍率、好ましくは5~25倍の全延伸倍率で延伸すると、繊維の結晶化度と配向度が上昇し、その結果、繊維の機械特性が著しく向上するので好ましい。温度が100℃未満の場合、繊維の白化が生じ、そのため機械的物性の低下をもたらす。また260℃を越えると繊維の部分的な融解が生じ、この場合においても機械的物性の低下をもたらすので好ましくない。なお、ここでいう延伸倍率とは、先述した乾燥前の固化浴中での湿延伸と乾燥後の延伸倍率の積である。例えば、湿延伸を3倍とし、その後の乾熱延伸を2倍とした場合の全延伸倍率は6倍となる。
【0027】
また、本発明により得られる繊維状吸着材の繊度は特に限定されず、例えば0.1~10000dtex、好ましくは1~1000dtexの繊度の繊維が広く使用できる。繊維の繊度はノズル径や延伸倍率により適宜調整すればよい。
【0028】
4.繊維状吸着材の使用方法例
本発明に係る繊維状吸着材は、例えばステープルファイバー、ショートカットファイバー、フィラメントヤーン、紡績糸、紐状物、ロープ、布帛などのあらゆる繊維形態において、優れた重金属の吸着、固定化能力を示す。そこで、環境浄化の広い用途に用いることができる。
【0029】
本発明に係る繊維状吸着材は、重金属を吸着、固定化する能力に加えて、力学物性、耐熱性に優れることから、フィラメントや紡績糸、更には紙、不織布、織物、編物などの布帛とすることが可能であり多くの用途に極めて有用である。
【実施例】
【0030】
以下、本発明について実施例を参照しながら具体的に説明する。尤も、本発明は当該実施例に限定されるものではない。
【0031】
[実施例1]
(水酸化ナトリウム中和シュベルトマナイトの製造)
硫化鉄鉱床の鉱山から得られる排水を28℃とし、当該排水へ第二鉄塩としてのポリ硫酸第二鉄(卯根倉鉱業株式会社製 バイオフェリック)を、添加濃度が7g/Lとなるよう添加する。そして、当該ポリ硫酸第二鉄を含む排水を撹拌し、次いで24質量%の苛性ソーダ溶液を添加してpHを3.6とした。
当該排水のpHとして3.6の状態を保持しながら、水酸化第二鉄の沈殿を形成させた。そして、シックナーを用いて、当該排水を殿物スラリーと上澄水とに分離した(除去工程)。尚、排水のpHは、pHメーター(株式会社堀場製作所製 HORIBA 9625-10D)を用いて測定した。
【0032】
除去工程で得られた上澄水へ、鉄酸化細菌としてチオバチルス・フェロオキシダンス(Thiobachillus ferrooxidans)を添加し、前記上澄水に含まれる2価鉄を3価鉄へ酸化し、水酸化鉄澱物としてシュベルトマナイトを得た。
得られたシュベルトマナイト(含水率40質量%)500gを、精製水300mlに分散させて、シュベルトマナイトの分散液を得た。
一方、水酸化ナトリウム24gを、精製水200mlに溶解し水酸化ナトリウム水溶液を準備し、当該シュベルトマナイトの分散液へ加えて混合液とし、これを攪拌した。
当該混合液を6時間静置後、当該混合液をろ紙を用いてろ過し、当該ろ紙上の残留物(中和シュベルトマナイト)を精製水で洗浄した。そして、当該残留物(中和シュベルトマナイト)を、80℃で6時間乾燥の後、粉砕処理を行い、実施例1に係るNaOH中和シュベルトマナイトを得た。
当該実施例1に係るNaOH中和シュベルトマナイトの平均粒子径は0.9μmであった。
【0033】
(繊維状吸着材の製造)
得られたNaOH中和シュベルトマナイト1重量部と、重合度1700、ケン価度99モル%のPVA1重量部と、DMSO6重量部とを混合して複合材料を製造し、これを紡糸原液とした。得られた紡糸原液を、孔径0.17mm、孔数20ホールのノズルを通して、公知の方法により紡糸し、延伸して製糸することで繊維化し、実施例1に係る繊維状吸着材を得た。
当該実施例1に係る繊維状吸着材の繊維中に含有されたNaOH中和シュベルトマナイトの重量比は50%であった。
【0034】
(As(V)の吸着試験)
実施例1に係る繊維状吸着材50mgを、ヒ酸ナトリウム水溶液(濃度1.0×10
-5mol/l)100mlに浸漬し、24時間静置した。
静置後に、ヒ酸ナトリウム水溶液のヒ素濃度をICPにより測定し、実施例1に係る繊維状吸着材によるヒ素除去率を求めたところ、81質量%のヒ素が除去されていることを知見した。当該結果を
図1のグラフに記載する。
【0035】
(As(III)の吸着試験)
実施例1に係る繊維状吸着材50mgを、亜ヒ酸ナトリウム水溶液(濃度1.0×10
-5mol/l)100mlに浸漬し、24時間静置した。
静置後に、亜ヒ酸ナトリウム水溶液のヒ素濃度をICPにより測定し、実施例1に係る繊維状吸着材によるヒ素除去率を求めたところ、80質量%のヒ素が除去されていることを知見した。当該結果を
図2のグラフに記載する。
【0036】
[比較例1]
実施例1と同様の操作を行って、シュベルトマナイト1重量部と、重合度1700、ケン価度99モル%のPVA1重量部と、DMSO6重量部とを混合し、調製液を得た。
得られた調製液をノズルに通すことなく、当該調製液から固体成分をろ過回収し、メタノールで洗浄後、乾燥させて、比較例1に係るフレーク状の吸着材を得た。
そして、当該比較例1に係るフレーク状の吸着材を用いて、実施例1と同様に、(As(V)の吸着試験)および(As(III)の吸着試験)を実施した。
すると、(As(V)の吸着試験)において、51質量%のヒ素が除去されていることを知見した。当該結果を
図1のグラフに記載する。
また、(As(III)の吸着試験)において、19質量%のヒ素が除去されていることを知見した。当該結果を
図2のグラフに記載する。
【0037】
[比較例2]
実施例1に係る繊維状吸着材に代えて、三菱ケミカル株式会社製:ダイヤイオンCRB05(メチルグルカミン型キレート樹脂)(登録商標)を準備した。
そして、当該比較例2に係るダイヤイオン50mgと純水50mgとの混合物を用いて、実施例1と同様に、(As(V)の吸着試験)および(As(III)の吸着試験)を実施した。
すると、(As(V)の吸着試験)において、59質量%のヒ素が除去されていることを知見した。当該結果を
図1のグラフに記載する。
また、(As(III)の吸着試験)において、37質量%のヒ素が除去されていることを知見した。当該結果を
図2のグラフに記載する。
【0038】
(実施例1、比較例1-2のまとめ)
本発明の一例である実施例1の繊維状吸着材の吸着試験の結果より、水酸化ナトリウム中和シュベルトマナイトを繊維状にすると、比較例1のフレーク状にした場合に比べて重金属の吸着効果は極めて大きく、更に、比較例2の従来技術に係るキレート樹脂よりも高い吸着効果を示すことも判明した。