(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-22
(45)【発行日】2024-01-30
(54)【発明の名称】回転電機制御装置
(51)【国際特許分類】
H02P 25/22 20060101AFI20240123BHJP
H02P 27/08 20060101ALI20240123BHJP
H02P 29/028 20160101ALI20240123BHJP
H02M 7/48 20070101ALI20240123BHJP
【FI】
H02P25/22
H02P27/08
H02P29/028
H02M7/48 M ZHV
(21)【出願番号】P 2020105403
(22)【出願日】2020-06-18
【審査請求日】2022-10-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000000011
【氏名又は名称】株式会社アイシン
(73)【特許権者】
【識別番号】304021277
【氏名又は名称】国立大学法人 名古屋工業大学
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】弁理士法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】サハ スブラタ
(72)【発明者】
【氏名】岩井 宏起
(72)【発明者】
【氏名】小坂 卓
(72)【発明者】
【氏名】松盛 裕明
【審査官】保田 亨介
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-192950(JP,A)
【文献】特開2020-054046(JP,A)
【文献】特開2019-134590(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02M7/42-7/98
H02P4/00
21/00-25/03
25/04
25/08-31/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに独立した複数相のオープン巻線を有する回転電機を、第1インバータ及び第2インバータを介して駆動制御する回転電機制御装置であって、
前記第1インバータは、複数相の前記オープン巻線の一端側に接続されて直流と複数相の交流との間で電力を変換し、
前記第2インバータは、複数相の前記オープン巻線の他端側に接続されて直流と複数相の交流との間で電力を変換し、
前記第1インバータ及び前記第2インバータは、それぞれ交流1相分のアームが上段側スイッチング素子と下段側スイッチング素子との直列回路により構成され、
前記第1インバータと前記第2インバータとのそれぞれを、互いに独立して制御可能であり、
前記第1インバータ及び前記第2インバータの何れか一方のインバータにおいて、1つのスイッチング素子が常に開放状態となるオープン故障が生じた場合に、複数相の交流電流のそれぞれを積算して各相の電流積算値を演算し、それぞれの前記電流積算値の正負に基づいて、前記オープン故障の発生を検出すると共に、前記オープン故障が生じた箇所を判別するものであり、
前記回転電機の制御状態が、前記回転電機の回転速度が予め規定された第1規定回転速度以上での力行である状態を第1制御状態とし、
前記回転電機の制御状態が、前記回転電機の回転速度が前記第1規定回転速度よりも低い第2規定回転速度以下での力行である状態、又は、前記回転電機の制御状態が回生である状態を第2制御状態として、
前記第1インバータ及び前記第2インバータの双方の前記インバータを、電気角の1/2周期である第1期間においてパターンの異なる複数のパルスが出力され、残りの1/2周期である第2期間において非有効状態が継続するように制御される混合パルス幅変調制御により制御している際に、前記オープン故障の発生を検出した場合には、
前記第1制御状態におけるそれぞれの前記電流積算値の正負に基づき、前記第1インバータの上段側アーム又は前記第2インバータの下段側アームの何れかが前記オープン故障を生じた故障側アームである第1故障パターン、及び、前記第1インバータ
の下段側アーム又は前記第2インバータ
の上段側アームの何れかが前記故障側アームである第2故障パターン、の何れの故障パターンであるかを判別し、
前
記第2制御状態におけるそれぞれの前記電流積算値に基づき、前記第2インバータの前記下段側アームが前記故障側アームである第1下段側故障パターン、及び前記第1インバータの前記下段側アームが前記故障側アームである第2下段側故障パターン、の何れの下段側故障パターンであるかを判別し、
前記第1制御状態における判別結果と、前記第2制御状態における判別結果とに基づいて、前記第1インバータの前記上段側アーム、前記第1インバータの前記下段側アーム、前記第2インバータの前記上段側アーム、前記第2インバータの前記下段側アームの何れが前記故障側アームであるかを判別する、回転電機制御装置。
【請求項2】
前記第1制御状態において前記第1故障パターンであると判別され、前記第2制御状態において前記第1下段側故障パターンが判別される場合には、前記第2インバータの前記下段側アームが前記故障側アームであると判別し、
前記第1制御状態において前記第1故障パターンであると判別され、前記第2制御状態において前記下段側故障パターンが何れも判別されない場合には、前記第1インバータの前記上段側アームが前記故障側アームであると判別し、
前記第1制御状態において前記第2故障パターンであると判別され、前記第2制御状態において前記第2下段側故障パターンが判別される場合には、前記第1インバータの前記下段側アームが前記故障側アームであると判別し、
前記第1制御状態において前記第2故障パターンであると判別され、前記第2制御状態において前記下段側故障パターンが何れも判別されない場合には、前記第2インバータの前記上段側アームが前記故障側アームであると判別する、請求項1に記載の回転電機制御装置。
【請求項3】
複数の前記電流積算値の内の1相の前記電流積算値が負であり、他の相の前記電流積算値が正の場合に、前記第1故障パターンと判別し、
複数の前記電流積算値の内の1相の前記電流積算値が正であり、他の相の前記電流積算値が負の場合に、前記第2故障パターンと判別する、請求項1又は2に記載の回転電機制御装置。
【請求項4】
複数の前記電流積算値の内の1相の前記電流積算値が負であり、他の相の前記電流積算値が正の場合に、前記第1下段側故障パターンであると判別し、
複数の前記電流積算値の内の1相の前記電流積算値が正であり、他の相の前記電流積算値が負の場合に、前記第2下段側故障パターンであると判別する、請求項1から3の何れか一項に記載の回転電機制御装置。
【請求項5】
前記第2制御状態において、前記オープン故障の発生が検出された場合は、前記オープン故障に起因する複数相の前記交流電流の歪みを抑制する回生フェールアクションを実行する、請求項
1から4の何れか一項に記載の回転電機制御装置。
【請求項6】
前記回生フェールアクションは、
前記第1インバータの前記上段側アームのスイッチングパターンと前記第2インバータの前記下段側アームのスイッチングパターンとを入れ替えると共に、前記第1インバータの前記下段側アームのスイッチングパターンと前記第2インバータの前記上段側アームのスイッチングパターンとを入れ替えるものである、又は、
前記第1インバータの前記上段側アームのスイッチングパターンと前記下段側アームのスイッチングパターンとを入れ替えると共に、前記第2インバータの前記上段側アームのスイッチングパターンと前記下段側アームのスイッチングパターンとを入れ替え、さらに、複数相の前記交流電流のそれぞれの正負を反転させるものである、
請求項
5に記載の回転電機制御装置。
【請求項7】
回生によって前記回転電機の回転速度を低下させる、請求項
1から
6の何れか一項に記載の回転電機制御装置。
【請求項8】
前記第1制御状態において、前記オープン故障の発生を検出すると共に前記故障パターンを判別し、その後、前記第2制御状態において、前記下段側故障パターンを判別し、その後、前記第1制御状態の判別結果と前記第2制御状態の判別結果とに基づいて、前記故障側アームを判別する、請求項1から
7の何れか一項に記載の回転電機制御装置。
【請求項9】
前記第1制御状態において、前記オープン故障の発生を検出すると共に前記故障パターンを判別した後、
前記回転電機の回転速度が予め規定された第1規定回転速度以上の場合には、回生を前記第2制御状態として前記下段側故障パターンを判別し、
前記回転電機の回転速度が前記第1規定回転速度未満の場合には、前記第1規定回転速度よりも低い第2規定回転速度以下での力行を前記第2制御状態として前記下段側故障パターンを判別する、請求項
8に記載の回転電機制御装置。
【請求項10】
前記回転電機の回転速度が予め規定された第1規定回転速度未満の場合、複数相全ての前記スイッチング素子をオフ状態とするシャットダウン制御、又は前記回転電機の出力トルクがゼロとなるように制御するゼロニュートン制御により、前記回転電機の回転速度を前記第2規定回転速度以下まで低下させる、請求項
9に記載の回転電機制御装置。
【請求項11】
前記第1インバータ及び前記第2インバータの双方の前記インバータを、前記混合パルス幅変調制御ではなく、前記第2期間においてもパターンの異なる複数のパルスが出力されて電気角の一周期を通してパターンの異なる複数のパルスが出力されるパルス幅変調制御、又は電気角の一周期において1つのパルスが出力される矩形波制御により制御している場
合、
前記回転電機の制御状態が、前記パルス幅変調制御又は前記矩形波制御による力行又は回生である状態を前記第1制御状態とし、
前記回転電機の制御状態が、前記混合パルス幅変調制御による回生である状態又は前記混合パルス幅変調制御による前記第2規定回転速度以下での力行である状態を前記第2制御状態とし、
前記第1制御状態において、
前記オープン故障の発生を検出すると共に前記故障パターンを判別し、
その後、前記第1インバータ及び前記第2インバータの双方の前記インバータの制御方式を前記混合パルス幅変調制御に変更して、前記第2制御状態において、前記下段側故障パターンを判別し、
その後、前記第1制御状態の判別結果と前記第2制御状態の判別結果とに基づいて、前記故障側アームを判別する、請求項
8から
10の何れか一項に記載の回転電機制御装置。
【請求項12】
互いに独立した複数相のオープン巻線を有する回転電機を、第1インバータ及び第2インバータを介して駆動制御する回転電機制御装置であって、
前記第1インバータは、複数相の前記オープン巻線の一端側に接続されて直流と複数相の交流との間で電力を変換し、
前記第2インバータは、複数相の前記オープン巻線の他端側に接続されて直流と複数相の交流との間で電力を変換し、
前記第1インバータ及び前記第2インバータは、それぞれ交流1相分のアームが上段側スイッチング素子と下段側スイッチング素子との直列回路により構成され、
前記第1インバータと前記第2インバータとのそれぞれを、互いに独立して制御可能であり、
前記第1インバータ及び前記第2インバータの何れか一方
のインバータにおいて、1つのスイッチング素子が常に開放状態となるオープン故障が生じた場合に、複数相の交流電流のそれぞれを積算して各相の電流積算値を演算し、それぞれの前記電流積算値の正負に基づいて、前記オープン故障の発生を検出すると共に、前記オープン故障が生じた箇所を判別するものであり、
前記オープン故障の発生を検出した場合には、
それぞれの前記電流積算値の正負に基づき、前記第1インバータの上段側アーム又は前記第2インバータの下段側アームの何れかに前記オープン故障が生じた第1故障パターン、前記第1インバータ
の下段側アーム又は前記第2インバータ
の上段側アームの何れかに前記オープン故障が生じた第2故障パターン、の何れの故障パターンであるかを判別し、
その後、前記第1インバータ及び前記第2インバータの何れか一方の前記インバータを、前記オープン故障を生じた故障インバータと仮定して故障仮定インバータとし、
判別された前記故障パターンに基づいて、当該故障仮定インバータの前記上段側アーム及び前記下段側アームの内、前記オープン故障が生じている故障側アームと仮定される故障側仮定アームの前記スイッチング素子の全てをオン状態とし、他方の側の非故障側仮定アームの前記スイッチング素子の全てをオン状態としてアクティブショートサーキット制御を行うと共に、前記故障仮定インバータとは異なる前記インバータをスイッチング制御し、
その後、それぞれの前記電流積算値の正負に基づき、前記オープン故障が検出されなかった場合には、前記故障仮定インバータが前記故障インバータであると判別すると共に、前記故障側仮定アームが前記故障側アームであると判別し、
前記オープン故障が検出された場合には、前記故障仮定インバータとは異なる前記インバータが前記故障インバータであると判別すると共に、前記故障パターンに基づいて当該故障インバータにおける前記故障側アームを判別する、回転電機制御装置。
【請求項13】
前記オープン故障の発生を検出した場合に、前記第1故障パターン及び前記第2故障パターンの何れの故障パターンであるかを判別し、
その後、前記アクティブショートサーキット制御、又は複数相全ての前記スイッチング素子をオフ状態とするシャットダウン制御、又は前記回転電機の出力トルクがゼロとなるように制御するゼロニュートン制御により、前記回転電機の回転速度を低下させ、
その後、前記故障仮定インバータとは異なる前記インバータをスイッチング制御する、請求項
12に記載の回転電機制御装置。
【請求項14】
前記オープン故障の発生により、過電流状態が生じた場合には、複数相全ての前記スイッチング素子をオフ状態とするシャットダウン制御、又は、複数相全ての前記アームの前記上段側スイッチング素子をオン状態とする又は複数相全ての前記アームの前記下段側スイッチング素子をオン状態とするアクティブショートサーキット制御により、前記回転電機の回転速度を低下させて前記過電流状態を解消させ、その後、前記故障側アームを判別する、請求項1から
13の何れか一項に記載の回転電機制御装置。
【請求項15】
前記第1インバータ及び前記第2インバータの内、前記オープン故障を生じた前記インバータを故障インバータとし、前記故障インバータとは異なる前記インバータを正常インバータとし、前記故障インバータの前記上段側アーム及び前記下段側アームの内、前記故障側アームとは逆側を非故障側アームとして、
前記故障インバータの前記故障側アームの前記スイッチング素子の全てをオフ状態とし、前記非故障側アームの前記スイッチング素子の全てをオン状態とするアクティブショートサーキット制御を行うと共に、前記正常インバータを介して前記回転電機を駆動するシングルインバータ駆動制御を行う、請求項1から
14の何れか一項に記載の回転電機制御装置。
【請求項16】
電気角の一周期を通してパターンの異なる複数のパルスが出力されるパルス幅変調制御により前記シングルインバータ駆動制御を行う、請求項
15に記載の回転電機制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オープン巻線を有する回転電機を、2つのインバータを介して駆動制御する回転電機制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
3相交流型の回転電機が備える3相オープン巻線の両端にそれぞれ1つずつ備えられたインバータをスイッチング制御して回転電機を駆動制御する制御装置が知られている。特開2014-192950号公報には、そのような3相オープン巻線を駆動するインバータのスイッチング素子に故障が生じた場合であっても回転電機の駆動を継続することが可能な技術が開示されている。これによれば、2つのインバータの内の何れか一方のスイッチング素子に故障が生じた場合には、当該故障したスイッチング素子を含むインバータの上段側スイッチング素子の全て、或いは下段側スイッチング素子の全てを全てオン状態とし、他方の側のスイッチング素子の全てをオフ状態として、当該インバータを中性点化して、故障していない他方のインバータにより、回転電機を駆動する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ここで、故障したスイッチング素子の検出は、各スイッチング素子に対してセンサ等を配置することで可能である。しかし、全てのスイッチング素子に故障検出用のセンサを配置するとコストが掛かる。そこで、制御に用いられている既存のパラメータを利用して故障を検出することも考えられる。即ち、1つのスイッチング素子に故障が生じると、交流の各相電流や電圧等に変化が生じるため、各相電流や電圧等に基づいて故障の有無を検出することも可能と考えられる。しかし、オープン巻線には2つのインバータが接続されているため、何れのインバータに故障が生じた場合であってもオープン巻線に流れる電流や相間電圧に影響し、単純に故障したスイッチング素子を特定することは困難である。
【0005】
上記の文献には、故障したスイッチング素子を特定するための具体的な技術については言及されていない。また、スイッチング素子の故障には、スイッチング素子が常に導通状態となる短絡故障と、スイッチング素子が常に開放状態となるオープン故障とがあり、それぞれ故障によって生じる事象も異なり、その特定方法も異なる。しかし、上記の文献には、それらを区別して特定するための具体的な技術についての言及もない。
【0006】
上記背景に鑑みて、オープン巻線の両端にそれぞれ備えられた2つのインバータを構成するスイッチング素子の内の1つが、オープン故障を生じた場合に、故障箇所を特定する技術の提供が望まれる。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記に鑑みた、互いに独立した複数相のオープン巻線を有する回転電機を、第1インバータ及び第2インバータを介して駆動制御する回転電機制御装置は、1つの態様として、前記第1インバータは、複数相の前記オープン巻線の一端側に接続されて直流と複数相の交流との間で電力を変換し、前記第2インバータは、複数相の前記オープン巻線の他端側に接続されて直流と複数相の交流との間で電力を変換し、前記第1インバータ及び前記第2インバータは、それぞれ交流1相分のアームが上段側スイッチング素子と下段側スイッチング素子との直列回路により構成され、前記第1インバータと前記第2インバータとのそれぞれを、互いに独立して制御可能であり、前記第1インバータ及び前記第2インバータの何れか一方のインバータにおいて、1つのスイッチング素子が常に開放状態となるオープン故障が生じた場合に、複数相の交流電流のそれぞれを積算して各相の電流積算値を演算し、それぞれの前記電流積算値の正負に基づいて、前記オープン故障の発生を検出すると共に、前記オープン故障が生じた箇所を判別するものであり、前記回転電機の制御状態が、前記回転電機の回転速度が予め規定された第1規定回転速度以上での力行である状態を第1制御状態とし、前記回転電機の制御状態が、前記回転電機の回転速度が前記第1規定回転速度よりも低い第2規定回転速度以下での力行である状態、又は、前記回転電機の制御状態が回生である状態を第2制御状態として、前記第1インバータ及び前記第2インバータの双方の前記インバータを、電気角の1/2周期である第1期間においてパターンの異なる複数のパルスが出力され、残りの1/2周期である第2期間において非有効状態が継続するように制御される混合パルス幅変調制御により制御している際に、前記オープン故障の発生を検出した場合には、前記第1制御状態におけるそれぞれの前記電流積算値の正負に基づき、前記第1インバータの上段側アーム又は前記第2インバータの下段側アームの何れかが前記オープン故障を生じた故障側アームである第1故障パターン、及び、前記第1インバータの下段側アーム又は前記第2インバータの上段側アームの何れかが前記故障側アームである第2故障パターン、の何れの故障パターンであるかを判別し、前記第2制御状態におけるそれぞれの前記電流積算値に基づき、前記第2インバータの前記下段側アームが前記故障側アームである第1下段側故障パターン、及び前記第1インバータの前記下段側アームが前記故障側アームである第2下段側故障パターン、の何れの下段側故障パターンであるかを判別し、前記第1制御状態における判別結果と、前記第2制御状態における判別結果とに基づいて、前記第1インバータの前記上段側アーム、前記第1インバータの前記下段側アーム、前記第2インバータの前記上段側アーム、前記第2インバータの前記下段側アームの何れが前記故障側アームであるかを判別する。
【0008】
発明者らによる実験やシミュレーションによれば、2つのインバータの内の何れか一方にスイッチング素子のオープン故障が生じた場合、3相電流波形が非対称で歪んだ波形となることが確認された。例えば、ある相の交流電流の波形は、正側に大きく偏向し、またある相の交流電流の波形は、負側に大きく偏向する。そして、交流電流を所定時間に亘って積算すると、この偏向の傾向がより顕著に現れる。偏向の方向は、オープン故障したスイッチング素子の位置によって異なる。従って、電流積算値の正負に基づけば、オープン故障が生じたこと、及びオープン故障がどちらのインバータの上段側アーム及び下段側アームの何れにおいて生じているかを判別することができる。また、発明者らの実験やシミュレーションによれば、第2制御状態では、上段側アームにおいてオープン故障が生じている場合には、オープン故障の検出自体が困難であるが、下段側アームにおいてオープン故障が生じている場合には、オープン故障の検出が可能、且つ、どちらのインバータにおける故障であるかの判別が可能である。第1制御状態では、上段側アーム及び下段側アームの何れにおいてオープン故障が生じていても、オープン故障の検出が可能である。しかし、第1制御状態では、故障パターンが、第1故障パターンであるか、第2故障パターンであるかの判別は可能であるが、どちらのインバータであるかの判別はできない。本構成によれば、オープン故障が下段側アームで生じている場合には、少なくとも第2制御状態における判別結果に基づいて、故障側アームを判別することができる。また、オープン故障が上段側アームで生じている場合であっても、下段側アームで生じている場合であっても、第1制御状態における判別結果と第2制御状態における判別結果との双方に基づけば、故障側アームを判別することができる。このように、本構成によれば、オープン巻線の両端にそれぞれ備えられた2つのインバータを構成するスイッチング素子の内の1つが、オープン故障を生じた場合に、故障箇所を特定することができる。
【0009】
回転電機制御装置のさらなる特徴と利点は、図面を参照して説明する実施形態についての以下の記載から明確となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図3】
直交ベクトル空間における回転電機の模式的電圧ベクトル図
【
図5】混合連続パルス幅変調(半周期連続パルス)の電圧指令及びスイッチング制御信号の一例を示す波形図
【
図6】混合不連続パルス幅変調(半周期不連続パルス)の電圧指令及びスイッチング制御信号の例を示す波形図
【
図7】混合連続パルス幅変調(半周期連続パルス)の電圧指令及びスイッチング制御信号の他の例を示す波形図
【
図8】混合不連続パルス幅変調(半周期不連続パルス)の電圧指令及びスイッチング制御信号の他の例を示す波形図
【
図9】連続パルス幅変調の電圧指令及びスイッチング制御信号の一例を示す波形図
【
図10】不連続パルス幅変調の電圧指令及びスイッチング制御信号の一例を示す波形図
【
図11】力行時(低速)にオープン故障が生じた場合の3相交流波形の一例を示す波形図
【
図12】力行時(高速)にオープン故障が生じた場合の3相交流波形の一例を示す波形図
【
図13】回生時(低速)にオープン故障が生じた場合の3相交流波形の一例を示す波形図
【
図14】回生時(高速)にオープン故障が生じた場合の3相交流波形の一例を示す波形図
【
図16】超低回転速度の力行時に第1インバータにオープン故障が生じた場合の3相交流波形の一例を示す波形図
【
図17】超低回転速度の力行時に第2インバータにオープン故障が生じた場合の3相交流波形の一例を示す波形図
【
図18】超低回転速度の力行時にオープン故障が生じた場合と、それよりも早い回転速度の力行時にオープン故障が生じた場合との3相交流の挙動の違いを示す図
【
図19】回転電機の制御領域における動作点を示す図
【
図20】故障箇所を判別する際の回転電機のトルク指令と回転速度との関係を示す図
【
図21】下段側でオープン故障が生じている状態で回生時の3相電流波形の歪みを解消するための回生フェールアクションの一例(パルスの入れ替え)を示す図
【
図22】下段側でオープン故障が生じている状態で回生時の3相電流波形の歪みを解消するための回生フェールアクションの他の例(パルスの入れ替え及び交流電流の方向の定義の反転)を示す図
【
図23】
図21及び
図22のスイッチング制御信号により歪みが解消された3相電流波形を示す図
【
図24】オープン故障の発生箇所を判別する概略手順の一例を示すフローチャート
【
図25】故障箇所の判別が可能な3相交流波形及び積算電流の一例を示す図
【
図26】故障箇所の判別が可能な3相交流波形及び積算電流の一例を示す図
【
図27】故障箇所の判別が困難な3相交流波形及び積算電流の一例を示す図
【
図28】交流電流の歪み解消前の積算電流と歪み解消後の積算電流の一例を示す図
【
図29】交流電流の歪み解消前の積算電流と歪み解消後の積算電流の一例を示す図
【
図30】超低回転速度の力行時にオープン故障が生じた場合の、故障箇所の判別が困難な積算電流の一例を示す図
【
図31】超低回転速度の力行時にオープン故障が生じた場合の、故障箇所の判別が可能な積算電流の一例を示す図
【
図32】オープン故障の発生箇所を判別する手順の一例を示すフローチャート
【
図33】第1故障箇所判別処理の手順の一例を示すフローチャート
【
図34】第2故障箇所判別処理の手順の一例を示すフローチャート
【
図35】第3故障箇所判別処理の手順の一例を示すフローチャート
【
図36】ノイズ低減優先モードにおける力行時(低速)にオープン故障が生じた場合の3相交流波形の一例を示す波形図
【
図37】ノイズ低減優先モードにおける力行時(高速)にオープン故障が生じた場合の3相交流波形の一例を示す波形図
【
図38】ノイズ低減優先モードにおける回生時(低速)にオープン故障が生じた場合の3相交流波形の一例を示す波形図
【
図39】ノイズ低減優先モードにおける回生時(高速)にオープン故障が生じた場合の3相交流波形の一例を示す波形図
【
図40】ノイズ低減優先モードにおけるオープン故障の発生箇所を判別する手順の一例を示すフローチャート
【
図41】ノイズ低減優先モードにおけるオープン故障の発生箇所を判別する手順の他の例を示すフローチャート
【
図42】ノイズ低減優先モードにおいて、力行時にオープン故障が生じた場合と、回生時にオープン故障が生じた場合との3相交流波形の挙動を示す図
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、互いに独立した複数相のオープン巻線を有する回転電機を、2つのインバータを介して駆動制御する回転電機制御装置の実施形態を図面に基づいて説明する。
図1は、回転電機制御装置1(MG-CTRL)を含む回転電機駆動システムの模式的ブロック図である。回転電機80は、例えば、電気自動車やハイブリッド自動車などの車両において車輪の駆動力源となるものである。回転電機80は、互いに独立した複数相(本実施形態では3相)のステータコイル8(オープン巻線)を有するオープン巻線型の回転電機である。ステータコイル8の両端には、それぞれ独立して制御されて直流と複数相(ここでは3相)の交流との間で電力を変換するインバータ10が1つずつ接続されている。つまり、ステータコイル8の一端側には第1インバータ11(INV1)が接続され、ステータコイル8の他端側には第2インバータ12(INV2)が接続されている。以下、第1インバータ11と第2インバータ12とを区別する必要がない場合には単にインバータ10と称して説明する。
【0012】
インバータ10は、複数のスイッチング素子3を有して構成される。スイッチング素子3には、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)やパワーMOSFET(Metal Oxide Semiconductor Field Effect Transistor)が用いられる。
図1には、スイッチング素子3としてIGBTが用いられる形態を例示している。本実施形態では、第1インバータ11と第2インバータ12とは、同じ種類のスイッチング素子3を用いた同じ回路構成のインバータ10である。
【0013】
2つのインバータ10は、それぞれ交流1相分のアーム3Aが上段側スイッチング素子3Hと下段側スイッチング素子3Lとの直列回路により構成されている。各スイッチング素子3には、負極FGから正極Pへ向かう方向(下段側から上段側へ向かう方向)を順方向として、並列にフリーホイールダイオード35が備えられている。尚、複数相のアーム3Aにおいて、上段側スイッチング素子3Hを含む側を上段側アームと称し、下段側スイッチング素子3Lを含む側を下段側アームと称する。
【0014】
また、本実施形態では、2つのインバータ10はそれぞれ独立した直流電源6に接続されている。つまり第1インバータ11の負極FGである第1フローティンググラウンドFG1と第2インバータ12の負極FGである第2フローティンググラウンドFG2とは、互いに独立している。また、インバータ10と直流電源6との間には、それぞれ直流電圧を平滑化する直流リンクコンデンサ4(平滑コンデンサ)が備えられている。
【0015】
具体的には、交流1相分のアーム3Aが第1上段側スイッチング素子31Hと第1下段側スイッチング素子31Lとの直列回路により構成された第1インバータ11は、直流側に第1直流リンクコンデンサ41(第1平滑コンデンサ)が接続されると共に、直流側が第1直流電源61に接続され、交流側が複数相のステータコイル8の一端側に接続されて、直流と複数相の交流との間で電力を変換する。交流1相分のアーム3Aが第2上段側スイッチング素子32Hと第2下段側スイッチング素子32Lとの直列回路により構成された第2インバータ12は、直流側に第2直流リンクコンデンサ42(第2平滑コンデンサ)が接続されると共に、直流側が第2直流電源62に接続され、交流側が複数相のステータコイル8の他端側に接続されて、直流と複数相の交流との間で電力を変換する。
【0016】
本実施形態では、第1直流電源61及び第2直流電源62は、電圧などの定格が同等の直流電源であり、第1直流リンクコンデンサ41及び第2直流リンクコンデンサも、容量などの定格が同等のコンデンサである。直流電源6の定格電圧は、48ボルトから400ボルト程度である。直流電源6は、例えば、ニッケル水素電池やリチウムイオン電池などの二次電池(バッテリ)や、電気二重層キャパシタなどの蓄電素子により構成されている。回転電機80は、電動機としても発電機としても機能することができる。回転電機80は、インバータ10を介して直流電源6からの電力を動力に変換する(力行)。或いは、回転電機80は、車輪等から伝達される回転駆動力を電力に変換し、インバータ10を介して直流電源6を充電する(回生)。
【0017】
図1に示すように、インバータ10は、回転電機制御装置1により制御される。回転電機制御装置1は、第1インバータ11と第2インバータ12とのそれぞれを、互いに独立した制御方式で制御可能である(制御方式の詳細については後述する)。回転電機制御装置1は、マイクロコンピュータ等の論理回路を中核部材として構築されている。例えば、回転電機制御装置1は、不図示の車両制御装置等の他の制御装置等から提供される回転電機80の目標トルク(トルク指令)に基づいて、ベクトル制御法を用いた電流フィードバック制御を行って、インバータ10を介して回転電機80を制御する。
【0018】
回転電機80の各相のステータコイル8を流れる実電流は電流センサ15により検出され、回転電機80のロータの各時点での磁極位置は、レゾルバなどの回転センサ13により検出される。回転電機制御装置1は、電流センサ15及び回転センサ13の検出結果を用いて、電流フィードバック制御を実行する。回転電機制御装置1は、電流フィードバック制御のために種々の機能部を有して構成されており、各機能部は、マイクロコンピュータ等のハードウエアとソフトウエア(プログラム)との協働により実現される。
【0019】
図2のブロック図は、回転電機制御装置1の一部の機能部を簡易的に示している。ベクトル制御法では、回転電機80に流れる実電流(U相電流Iu,V相電流Iv,W相電流Iw)を、回転電機80のロータに配置された永久磁石が発生する磁界(磁束)の方向であるd軸と、d軸に直交する方向(磁界の向きに対して電気角でπ/2進んだ方向)のq軸とのベクトル成分(d軸電流Id,q軸電流Iq)に座標変換してフィードバック制御を行う。回転電機制御装置1は、回転センサ13の検出結果(θ:磁極位置、電気角)に基づいて、3相2相座標変換部55で座標変換を行う。
【0020】
電流フィードバック制御部5(FB)は、dq軸直交ベクトル座標系において、回転電機80のトルク指令に基づく電流指令(d軸電流指令Id*,q軸電流指令Iq*)と、実電流(d軸電流Id,q軸電流Iq)との偏差に基づいて回転電機80をフィードバック制御して、電圧指令(d軸電圧指令Vd*,q軸電圧指令Vq*)を演算する。回転電機80は、第1インバータ11と第2インバータ12との2つのインバータ10を介して駆動される。このため、d軸電圧指令Vd*及びq軸電圧指令Vq*は、それぞれ分配部53(DIV)において、第1インバータ11用の第1d軸電圧指令Vd1*及び第1q軸電圧指令Vq1*、第2インバータ12用の第2d軸電圧指令Vd2*及び第2q軸電圧指令Vq2*に分配される。
【0021】
上述したように、回転電機制御装置1は、第1インバータ11と第2インバータ12とのそれぞれを、互いに独立した制御方式で制御可能であり、3相電圧指令演算部73及び変調部74(MOD)を備えた電圧制御部7を2つ備えている。即ち、回転電機制御装置1は、第1インバータ11のU相、V相、W相それぞれのスイッチング制御信号(Su1,Sv1,Sw1)を生成する第1電圧制御部71と、第2インバータ12のU相、V相、W相それぞれのスイッチング制御信号(Su2,Sv2,Sw2)を生成する第2電圧制御部72とを備えている。詳細は、
図6~
図7等を参照して後述するが、第1インバータ11の電圧指令(Vu1
**,Vv1
**、Vw1
**)と、第2インバータ12の電圧指令(Vu2
**,Vv2
**、Vw2
**)との位相は“π”異なっている。このため、第2電圧制御部72には、回転センサ13の検出結果(θ)から“π”を減算した値が入力されている。
【0022】
尚、後述するように、変調方式には、回転電機80の回転に同期した同期変調と、回転電機80の回転とは独立した非同期変調とがある。一般的に、同期変調によるスイッチング制御信号の生成ブロック(ソフトウェアの場合は生成フロー)と、非同期変調によるスイッチング制御信号の生成ブロックとは異なっている。上述した電圧制御部7は、電圧指令と、回転電機80の回転に同期しないキャリアとに基づいてスイッチング制御信号を生成するものであるが、本実施形態では、説明を簡略化するために、同期変調によるスイッチング制御信号(例えば後述する矩形波制御の場合のスイッチング制御信号)も電圧制御部7にて生成されるものとして説明する。
【0023】
尚、インバータ10のそれぞれのアーム3Aは、上述したように、上段側スイッチング素子3Hと下段側スイッチング素子3Lとの直列回路により構成されている。
図2では、区別していないが、各相のスイッチング制御信号は、上段用スイッチング制御信号と、下段用スイッチング制御信号との2種類として出力される。例えば、第1インバータ11のU相をスイッチング制御する第1U相スイッチング制御信号Su1は、末尾に“+”を付した第1U相上段側スイッチング制御信号Su1+と、末尾に“-”を付した第1U相下段側スイッチング制御信号Su1-との2つの信号として出力される。尚、それぞれのアーム3Aを構成する上段側スイッチング素子3Hと下段側スイッチング素子3Lとが同時にオン状態となると当該アーム3Aが短絡状態となる。これを防ぐために、それぞれのアーム3Aに対する上段側スイッチング制御信号と、下段側スイッチング制御信号とが共に非有効状態となるデッドタイムが設けられている。このデッドタイムも、電圧制御部7において付加される。
【0024】
図1に示すように、インバータ10を構成する各スイッチング素子3の制御端子(IGBTやFETの場合はゲート端子)は、ドライブ回路2(DRV)を介して回転電機制御装置1に接続されており、それぞれ個別にスイッチング制御される。インバータ10などの回転電機80を駆動するための高圧系回路(直流電源6に接続された系統)と、マイクロコンピュータなどを中核とする回転電機制御装置1などの低圧系回路(3.3ボルトから5ボルト程度の動作電圧の系統)とは、動作電圧(回路の電源電圧)が大きく異なる。ドライブ回路2は、各スイッチング素子3に対する駆動信号(スイッチング制御信号)の駆動能力(例えば電圧振幅や出力電流など、後段の回路を動作させる能力)をそれぞれ高めて中継する。第1ドライブ回路21は第1インバータ11にスイッチング制御信号を中継し、第2ドライブ回路22は第2インバータ12にスイッチング制御信号を中継する。
【0025】
尚、インバータ10には、インバータ10の異常、例えば、スイッチング素子の温度や、過電流発生の有無等を検出する回路が備えられており、当該情報はドライブ回路2を介して回転電機制御装置1に提供される。これらの情報は、特定のスイッチング素子3を特定していなくてもよく、例えば第1インバータ11における異常、第2インバータ12における異常を検出可能な程度でよい。
【0026】
回転電機制御装置1は、第1インバータ11及び第2インバータ12を構成するスイッチング素子3のスイッチングパターンの形態(電圧波形制御の形態)として、例えば電気角の一周期においてパターンの異なる複数のパルスが出力されるパルス幅変調(PWM:Pulse Width Modulation)制御と、電気角の一周期において1つのパルスが出力される矩形波制御(1パルス制御(1-Pulse))との2つを実行することができる。即ち、回転電機制御装置1は、第1インバータ11及び第2インバータ12の制御方式として、パルス幅変調制御と、矩形波制御とを実行することができる。尚、上述したように、回転電機制御装置1は、第1インバータ11と第2インバータ12とのそれぞれを、互いに独立した制御方式で制御可能である。
【0027】
また、パルス幅変調には、正弦波パルス幅変調(SPWM : Sinusoidal PWM)や空間ベクトルパルス幅変調(SVPWM : Space Vector PWM)などの連続パルス幅変調(CPWM:Continuous PWM)や、不連続パルス幅変調(DPWM:Discontinuous PWM)などの方式がある。従って、回転電機制御装置1が実行可能なパルス幅変調制御には、制御方式として、連続パルス幅変調制御と、不連続パルス幅変調とが含まれる。
【0028】
連続パルス幅変調は、複数相のアーム3Aの全てについて連続的にパルス幅変調を行う変調方式であり、不連続パルス幅変調は、複数相の一部のアーム3Aについてスイッチング素子をオン状態又はオフ状態に固定する期間を含んでパルス幅変調を行う変調方式である。具体的には、不連続パルス幅変調では、例えば3相の交流電力の内の1相に対応するインバータのスイッチング制御信号の信号レベルを順次固定して、他の2相に対応するスイッチング制御信号の信号レベルを変動させる。連続パルス幅変調では、このように何れかの相に対応するスイッチング制御信号が固定されることなく、全ての相が変調される。これらの変調方式は、回転電機80に求められる回転速度やトルクなどの動作条件、そして、その動作条件を満足するために必要な変調率(直流電圧に対する3相交流の線間電圧の実効値の割合)に応じて決定される。
【0029】
パルス幅変調では、電圧指令としての交流波形の振幅と三角波(鋸波を含む)状のキャリア(CA)の波形の振幅との大小関係に基づいてパルスが生成される(
図7等参照。)。キャリアとの比較によらずにデジタル演算により直接PWM波形を生成する場合もあるが、その場合でも、指令値としての交流波形の振幅と仮想的なキャリア波形の振幅とは相関関係を有する。
【0030】
デジタル演算によるパルス幅変調において、キャリアは例えばマイクロコンピュータの演算周期や電子回路の動作周期など、回転電機制御装置1の制御周期に応じて定まる。つまり、複数相の交流電力が交流の回転電機80の駆動に利用される場合であっても、キャリアは回転電機80の回転速度や回転角度(電気角)には拘束されない周期(同期しない周期)を有している。従って、キャリアも、キャリアに基づいて生成される各パルスも、回転電機80の回転には同期していない。従って、正弦波パルス幅変調、空間ベクトルパルス幅変調などの変調方式は、非同期変調(asynchronous modulation)と称される場合がある。これに対して、回転電機80の回転に同期してパルスが生成される変調方式は、同期変調(synchronous modulation)と称される。例えば矩形波制御(矩形波変調)では、回転電機80の電気角1周期に付き1つのパルスが出力されるため、矩形波変調は同期変調である。
【0031】
上述したように、直流電圧から交流電圧への変換率を示す指標として、直流電圧に対する複数相の交流電圧の線間電圧の実効値の割合を示す変調率がある。一般的に、正弦波パルス幅変調の最大変調率は約0.61(≒0.612)、空間ベクトルパルス幅変調制御の最大変調率は約0.71(≒0.707)である。約0.71を越える変調率を有する変調方式は、通常よりも変調率を高くした変調方式として、“過変調パルス幅変調”と称される。“過変調パルス幅変調”の最大変調率は、約0.78である。この0.78は、直流から交流への電力変換における物理的(数学的)な限界値である。過変調パルス幅変調において、変調率が0.78に達すると、電気角の1周期において1つのパルスが出力される矩形波変調(1パルス変調)となる。矩形波変調では、変調率は物理的な限界値である約0.78に固定されることになる。尚、ここで例示した変調率の値は、デッドタイムを考慮していない物理的(数学的)な値である。
【0032】
変調率が0.78未満の過変調パルス幅変調は、同期変調方式、非同期変調方式の何れの原理を用いても実現することができる。過変調パルス幅変調の代表的な変調方式は、不連続パルス幅変調である。不連続パルス幅変調は、同期変調方式、非同期変調方式の何れの原理を用いても実現することができる。例えば、同期変調方式を用いる場合、矩形波変調では、電気角の1周期において1つのパルスが出力されるが、不連続パルス幅変調では、電気角の1周期において複数のパルスが出力される。電気角の1周期に複数のパルスが存在すると、パルスの有効期間がその分減少するため、変調率は低下する。従って、約0.78に固定された変調率に限らず、0.78未満の任意の変調率を同期変調方式によって実現することができる。例えば、電気角の1周期において、9パルスを出力する9パルス変調(9-Pulses)、5パルスを出力する5パルス変調(5-Pulses)などの複数パルス変調(Multi-Pulses)とすることも可能である。
【0033】
また、回転電機制御装置1は、インバータ10や回転電機80に異常が検出されたような場合のフェールセーフ制御として、シャットダウン制御(SDN)やアクティブショートサーキット制御(ASC)を実行することができる。シャットダウン制御は、インバータ10を構成する全てのスイッチング素子3へのスイッチング制御信号を非アクティブ状態にしてインバータ10をオフ状態にする制御である。アクティブショートサーキット制御は、複数相全てのアーム3Aの上段側スイッチング素子3H或いは複数相全てのアーム3Aの下段側スイッチング素子3Lの何れか一方側をオン状態とし、他方側をオフ状態とする制御である。尚、複数相全てのアーム3Aの上段側スイッチング素子3Hをオン状態とし、複数相全てのアーム3Aの下段側スイッチング素子3Lをオフ状態とする場合を上段側アクティブショートサーキット制御(ASC-H)と称する。また、複数相全てのアーム3Aの下段側スイッチング素子3Lをオン状態とし、複数相全てのアーム3Aの上段側スイッチング素子3Hをオフ状態とする場合を下段側アクティブショートサーキット制御(ASC-L)と称する。
【0034】
本実施形態のように、ステータコイル8の両端にそれぞれインバータ10が接続されている場合、一方のインバータ10をアクティブショートサーキット制御によって短絡させると、複数相のステータコイル8が当該一方のインバータ10において短絡される。つまり、当該一方のインバータ10が中性点となって、ステータコイル8がY型結線されることになる。このため、回転電機制御装置1は、2つのインバータ10を介してオープン巻線型の回転電機80を制御する形態と、1つのインバータ10(アクティブショートサーキット制御されていない側のインバータ10)を介してY型結線の回転電機80を制御する形態とを実現することができる。
【0035】
図3は、回転電機80のdq軸ベクトル座標系での1つの動作点におけるベクトル図を例示している。図中、“V1”は第1インバータ11による電圧を示す第1電圧ベクトル、“V2”は第2インバータ12による電圧を示す第2電圧ベクトルを示す。2つのインバータ10を介してオープン巻線であるステータコイル8に現れる電圧は、第1電圧ベクトルV1と第2電圧ベクトルV2との差“V1-V2”に相当する。図中の“Va”は、ステータコイル8に現れる合成電圧ベクトルを示している。また、“Ia”は、回転電機80のステータコイル8を流れる電流を示している。
図3に示すように、第1電圧ベクトルV1と第2電圧ベクトルV2とのベクトルの向きが180度異なるように、第1インバータ11及び第2インバータ12が制御されると、合成電圧ベクトルVaは、第1電圧ベクトルV1の向きに第2電圧ベクトルV2の大きさを加算したベクトルとなる。
【0036】
本実施形態では、回転電機80の動作条件に応じた複数の制御領域R(
図4参照)が設定され、回転電機制御装置1は、それぞれの制御領域Rに応じた制御方式でインバータ10を制御している。
図4は、回転電機80の回転速度とトルクとの関係の一例を示している。例えば、
図4に示すように、回転電機80の制御領域Rとして、第1速度域VR1と、同じトルクにおける回転電機80の回転速度が第1速度域VR1よりも高い第2速度域VR2と、同じトルクにおける回転電機80の回転速度が第2速度域VR2よりも高い第3速度域VR3とが設定される。
【0037】
上述したように、回転電機制御装置1は、第1インバータ11と第2インバータ12とのそれぞれを、スイッチングパターンが異なる複数の制御方式により制御可能である。制御方式には、電気角の一周期においてパターンの異なる複数のパルスが出力されるパルス幅変調制御(PWM)と、電気角(全周期)の1/2周期(半周期)である第1期間T1(
図5等参照)においてパターンの異なる複数のパルスを出力し、残りの1/2周期(半周期)である第2期間T2(
図5等参照)において非有効状態が継続するように制御する混合パルス幅変調制御(MX-PWM)とが含まれる(
図5~
図8を参照して後述する)。回転電機制御装置1は、第1速度域VR1及び第2速度域VR2において、第1インバータ11及び第2インバータ12の双方のインバータを、混合パルス幅変調制御により制御する。
【0038】
混合パルス幅変調制御(MX-PWM)には、混合連続パルス幅変調制御(MX-CPWM)と、混合不連続パルス幅変調制御(MX-DPWM)とが含まれている。詳細は後述するが、混合連続パルス幅変調制御では、第2期間T2において非有効状態が継続するように制御すると共に第1期間T1において複数相のアーム3Aの全てについて連続的にパルス幅変調を行う(
図5、
図7を参照して後述する。)。同様に詳細は後述するが、混合不連続パルス幅変調制御では、第2期間T2において非有効状態が継続するように制御すると共に第1期間T1において複数相の一部のアーム3Aについてスイッチング素子3をオン状態又はオフ状態に固定する期間を含んでパルス幅変調を行う(
図6、
図8を参照して後述する。)。
【0039】
混合パルス幅変調制御では、第2期間T2においてもスイッチング制御信号が非有効状態となるので、インバータ10の損失が低減され、また、スイッチングによる高調波電流も減少して回転電機80の損失(鉄損)も低減される。つまり、混合パルス幅変調制御を実行することによって、システム損失を低減することができる。
【0040】
例えば、下記の表1に示すように、回転電機制御装置1は、第1速度域VR1において、第1インバータ11及び第2インバータ12の双方のインバータ10を後述する混合連続パルス幅変調制御(MX-CPWM)により制御する。また、回転電機制御装置1は、第2速度域VR2において、第1インバータ11及び第2インバータ12の双方のインバータ10を後述する混合不連続パルス幅変調制御(MX-DPWM)により制御する。また、回転電機制御装置1は、第3速度域VR3において、第1インバータ11及び第2インバータ12の双方のインバータ10を矩形波制御により制御する。表中のMi_sys、Mi_inv1、Mi_inv2については後述する。
【0041】
【0042】
それぞれの制御領域Rの境界(第1速度域VR1と第2速度域VR2と第3速度域VR3との境界)は、回転電機80のトルクに応じた回転電機80の回転速度と、直流電圧に対する複数相の交流電圧の線間電圧の実効値(指令値であっても出力電圧からの換算値でもよい)の割合との少なくとも一方に応じて設定されていると好適である。
【0043】
回転電機80の動作条件は、
図4に例示するように、しばしば回転速度とトルクとの関係で定義される。制御領域Rが、1つのパラメータである回転速度に基づいて、設定されていると良い。ここで、制御領域Rの境界を規定する回転速度を、トルクに関わらず一定に設定することも可能であるが、制御領域Rの境界を規定する回転速度が、トルクに応じて異なる値となるように設定されているとさらに好適である。このようにすることにより、回転電機80の動作条件に応じて高い効率で回転電機80を駆動制御することができる。
【0044】
また、例えば、回転電機80に高い出力(速い回転速度や高いトルク)が要求される場合、電圧型のインバータでは、直流電圧を高くすることや、直流電圧が交流電圧に変換される割合を高くすることで当該要求が実現される。直流電圧が一定の場合には、直流電圧が交流電圧に変換される割合を高くすることで当該要求を実現することができる。この割合は、直流電力に対する3相交流電力の実効値の割合(電圧型のインバータの場合には、直流電圧に対する3相交流電圧の実効値の割合と等価)として示すことができる。上述したように、インバータ10を制御する制御方式には、この割合が低いものから高いものまで種々の方式が存在する。
【0045】
表1に示すように、制御領域Rが、回転電機80に対する要求に応じて定まる直流電力に対する3相交流電力の実効値の割合(変調率)に基づいて設定されていると、回転電機80の動作条件に応じて高い効率で回転電機80を駆動制御することができる。尚、表中において、“Mi_inv1”は第1インバータ11の変調率、“Mi_inv2”は第2インバータ12の変調率、“Mi_sys”はシステム全体の変調率を示している。
【0046】
上記、表1には、それぞれの制御領域Rに対応する変調率を例示している。本実施形態では、第1直流電源61の端子間電圧“E1”と第2直流電源62の端子間電圧“E2”は同じである(共に電圧“E”)。第1インバータ11の交流側の実効値を“Va_inv1”、第2インバータ12の交流側の実効値を“Va_inv2”とすると、第1インバータ11の変調率“Mi_inv1”、及び第2インバータ12の変調率“Mi_inv2”は下記式(1)、(2)のようになる。また、システム全体の変調率“Mi_sys”は、下記式(3)のようになる。
【0047】
Mi_inv1=Va_inv1/E1=Va_inv1/E ・・・(1)
Mi_inv2=Va_inv2/E2=Va_inv2/E ・・・(2)
Mi_sys =(Va_inv1+Va_inv2)/(E1+E2)
=(Va_inv1+Va_inv2)/2E ・・・(3)
【0048】
電圧の瞬時値については、瞬時におけるベクトルを考慮する必要があるが、単純に変調率だけを考えると、式(1)~(3)より、システム全体の変調率“Mi_sys”は、“(Mi_inv1+Mi_inv2)/2”となる。尚、表1では、定格値としてそれぞれの制御領域Rに対応する変調率を示している。このため、実際の制御に際しては、制御領域Rで制御方式が変わる場合のハンチング等を考慮して、それぞれの制御領域Rに対応する変調率に重複する範囲が含まれていてもよい。
【0049】
尚、表1に示す変調率“a”や後述する表2に示す変調率“b”は、それぞれの変調方式における変調率の理論上の上限値に基づき、さらに、デッドタイムを考慮して設定される。例えば、“a”は0.5~0.6程度、“b”は0.25~0.3程度である。
【0050】
ここで、
図5~
図8を参照して、本実施形態において特徴的な混合パルス幅変調制御(MX-PWM)について、U相の電圧指令(Vu1
**,Vu2
**)及びU相上段側スイッチング制御信号(Su1+,Su2+)の波形例を示して説明する。尚、第2U相下段側スイッチング制御信号Su2-、及び、V相、W相については、図示を省略する。
図5及び
図7は混合連続パルス幅変調制御(MX-CPWM)の波形例を示し、
図6及び
図8は混合不連続パルス幅変調制御(MX-DPWM)の波形例を示している。
【0051】
図5及び
図6には、第1インバータ11のキャリアCAである第1キャリアCA1と、第2インバータ12のキャリアCAである第2キャリアCA2と、第1インバータ11及び第2インバータ12に共通するU相電圧指令である共通U相電圧指令Vu
**と、第1U相上段側スイッチング制御信号Su1+と、第2U相上段側スイッチング制御信号Su2+との一例を示している。第1U相下段側スイッチング制御信号Su1-、第2U相下段側スイッチング制御信号Su2-、及び、V相、W相については図示を省略する(他の制御方式も同様)。
【0052】
例えば、第1キャリアCA1は“0.5<CA1<1”の間で変化し、第2キャリアCA2は“0<CA2<0.5”の間で変化し、電圧指令(V**)は、“0≦V**≦1”の間で変化可能である。キャリアCA(第1キャリアCA1及び第2キャリアCA2)と、電圧指令(V**)との比較により、電圧指令がキャリアCA以上の場合にスイッチング制御信号が“1”となり、電圧指令がキャリアCA未満の場合にスイッチング制御信号が“0”となる。キャリアCAと電圧指令(V**)との比較論理については、以下の説明においても同様である。
【0053】
図5及び
図6に示すように、第1キャリアCA1及び第2キャリアCA2の振幅は、電圧指令(V
**)に許容される振幅の半分である。一般的なパルス幅変調では、キャリアCAの振幅は、電圧指令に許容される振幅と同等であり、混合パルス幅変調におけるキャリアCAはハーフキャリアと称することができる。このようなハーフキャリアを用いることにより、電気角(全周期)の1/2周期である第1期間T1(半周期)においては、このようなハーフキャリアと電圧指令(V
**)とが交差するため、スイッチング制御信号としてパターンの異なる複数のパルスが出力される。残りの1/2周期である第2期間T2(半周期)においては、ハーフキャリアと電圧指令(V
**)とが交差しないため、スイッチング制御信号は非有効状態が継続するように出力される。
【0054】
尚、混合不連続パルス幅変調制御では、
図6に示すように、第2期間T2においても、部分的に有効状態となるパルスがスイッチング制御信号として出力されている。これは、ベースとなる不連続パルス幅変調の変調率が、連続パルス幅変調に比べて大きいことに起因している。第2期間T2において有効状態となるパルスが出力されているのは、電圧指令(V
**)の振幅中心近傍であり、電圧指令(V
**)の変曲点付近である。
図6に示すように、混合不連続パルス幅変調制御においても、第2期間T2において非有効状態は継続して出力されていると言える。また、第2期間T2をスイッチング制御信号が非有効状態の期間(1/2周期未満の期間)のみとし、
第1期間T1を1周期の中で第2期間T2以外の期間(1/2周期以上の期間)に設定すると、混合パルス幅変調を以下のように定義することもできる。混合パルス幅変調制御は、電気角の1/2周期以上である第1期間T1においてパターンの異なる複数のパルスが出力され、電気角の1周期の残りである第2期間T2において非有効状態が継続するように制御されるということもできる。
【0055】
図7及び
図8は、混合連続パルス幅変調制御及び混合不連続パルス幅変調制御の
図5及び
図6とは異なる形態を例示している。生成されるスイッチング制御信号は、同じである。
図7及び
図8には、第1インバータ11のキャリアCAである第1キャリアCA1と、第2インバータ12のキャリアCAである第2キャリアCA2と、第1インバータ11のU相電圧指令である第1U相電圧指令Vu1
**と、第2インバータ12のU相電圧指令である第2U相電圧指令Vu2
**と、第1U相上段側スイッチング制御信号Su1+と、第2U相上段側スイッチング制御信号Su2+との一例を示している。例えば、第1キャリアCA1及び第2キャリアCA2は“0.5<CA1<1”の間で変化し、電圧指令(V
**)は、“0≦V
**≦1”の間で変化可能である。第1キャリアCA1と第2キャリアCA2とは位相が180度(π)異なっている。また、第1U相電圧指令Vu1
**と第2U相電圧指令Vu2
**とも位相が180度(π)異なっている。
【0056】
図7及び
図8に示すように、第1キャリアCA1及び第2キャリアCA2の振幅は、電圧指令(V
**)に許容される振幅の半分である。従って、
図7及び
図8に示す形態におけるキャリアCAもハーフキャリアである。このようなハーフキャリアを用いることにより、電気角の1/2周期(或いは1/2周期以上)である第1期間T1においては、このようなハーフキャリアと電圧指令(V
**)とが交差するため、スイッチング制御信号としてパターンの異なる複数のパルスが出力される。周期の残りの期間である第2期間T2においては、ハーフキャリアと電圧指令(V
**)とが交差しないため、スイッチング制御信号は非有効状態が継続するように出力される。
【0057】
図5及び
図6に例示した形態は、2つのハーフキャリアと1つの共通のリファレンスとしての電圧指令(V
**)により変調する方式であり、ダブルハーフキャリア・シングルリファレンス方式ということができる。一方、
図7及び
図8に例示した形態は、2つのハーフキャリアと2つの電圧指令(V
**)により変調する方式であり、ダブルハーフキャリア・ダブルリファレンス方式ということができる。
【0058】
図5~
図8を参照して上述したように、混合パルス幅変調制御は、指令値(電圧指令、上記の例ではU相電圧指令(Vu
**(Vu
**=Vu1
**=Vu2
**),Vu1
**,Vu2
**))の変域の1/2の波高のキャリアCAであるハーフキャリア(第1キャリアCA1、第2キャリアCA2)と指令値とに基づいて複数のパルスを生成する。そして、本実施形態では、混合パルス幅変調制御の方式として、ダブルハーフキャリア・シングルリファレンス方式と、ダブルハーフキャリア・ダブルリファレンス方式との2つを例示している。
【0059】
ダブルハーフキャリア・シングルリファレンス方式では、
図5及び
図6を参照して説明したように、ハーフキャリアとして指令値(共通U相電圧指令Vu
**)の振幅中心よりも高電圧側又は低電圧側の一方(ここでは高電圧側)に設定された第1ハーフキャリア(第1キャリアCA1)と第1インバータ11及び第2インバータ12に共通する指令値(共通U相電圧指令Vu
**)とに基づいて第1インバータ11用のパルスを生成する。また、同方式では、第1ハーフキャリア(第1キャリアCA1)と同じ位相で指令値(共通U相電圧指令Vu
**)の振幅中心よりも高電圧側又は低電圧側の他方(ここでは低電圧側)に設定された第2ハーフキャリア(第2キャリアCA2)と指令値(共通U相電圧指令Vu
**)とに基づいて第2インバータ12用のパルスを生成する。
【0060】
ダブルハーフキャリア・ダブルリファレンス方式では、
図7及び
図8を参照して説明したように、ハーフキャリアとして指令値(第1U相電圧指令Vu1
**,第2U相電圧指令Vu2
**)の振幅中心よりも高電圧側又は低電圧側の一方(ここでは高電圧側)に設定された第1ハーフキャリア(第1キャリアCA1)と第1インバータ11用の第1指令値(第1U相電圧指令Vu1
**)とに基づいて第1インバータ11用のパルスを生成する。また、同方式では、第1ハーフキャリア(第1キャリアCA1)と180度異なる位相で第1ハーフキャリア(第1キャリアCA1)と同じ側(高電圧側)に設定された第2ハーフキャリア(第2キャリアCA2)と第1指令値(第1U相電圧指令Vu1
**)とは位相が180度異なる第2インバータ12用の第2指令値(第2U相電圧指令Vu2
**)とに基づいて第2インバータ12用のパルスを生成する。
【0061】
尚、表2を参照して後述するように、第1速度域VR1及び第2速度域VR2においては、混合パルス幅変調ではなく、パルス幅変調によってインバータ10が制御される場合がある。
図9は、第1速度域VR1において第1インバータ11及び第2インバータ12が、共に連続パルス幅変調制御により制御される場合の、第1U相電圧指令Vu1
**と、第2U相電圧指令Vu2
**と、キャリアCAと、第1U相上段側スイッチング制御信号Su1+と、第2U相上段側スイッチング制御信号Su2+との一例を示している。また、
図10は、第2速度域VR2において第1インバータ11及び第2インバータ12が、共に不連続パルス幅変調制御により制御される場合の、第1U相電圧指令Vu1
**と、第2U相電圧指令Vu2
**と、キャリアCAと、第1U相上段側スイッチング制御信号Su1+と、第2U相上段側スイッチング制御信号Su2+との一例を示している。
【0062】
第1インバータ11及び第2インバータ12が共にスイッチング制御される場合、第1U相電圧指令Vu1
**と第2U相電圧指令Vu2
**とは、概ね180度異なる位相である。例えば、U相電圧の最大振幅は “(4/3)E”となり、線間電圧の最大振幅は、“2E”となる(
図3のベクトル図も参照)。尚、第1直流電源61と第2直流電源62とは独立しており、第1直流電源61の第1直流電圧E1と、第2直流電源62の第2直流電圧E2とは、異なる値であってもよい。例えば、正確には、U相電圧の最大振幅は、“((2/3)E1)+(2/3)E2”であるが、理解を容易にするために本明細書中では“E1=E2=E”とする。回転電機80には、2つのインバータ10から同等の電力が供給される。この時、双方のインバータ10に対して、位相が180度(π)異なる同じ電圧指令(V
**)が与えられる。
【0063】
ところで、インバータ10をスイッチング制御した場合、交流電流の基本波に重畳される脈動成分が可聴周波数帯域のノイズを発生させる場合がある。2つのインバータ10がそれぞれ異なる形態のパルスで制御される場合には、それぞれのパルスに応じた脈動が生じ、可聴周波数帯域のノイズが増加するおそれがある。特に回転電機80の回転速度が低速の場合、脈動成分の周波数(或いはそのサイドバンド周波数)が可聴周波数帯域に含まれる可能性が高くなる。回転電機80の制御方式、つまりインバータ10の制御方式は、高いシステム効率での動作と、可聴ノイズの低減とが両立できるように、動作条件に応じて適切に設定されることが望ましい。
【0064】
本実施形態の回転電機制御装置1は、回転電機80の制御モードとして、損失低減優先モード(効率優先モード)と、ノイズ低減優先モードとを切り替え可能に備えている。損失低減優先モードでは、回転電機制御装置1は、表1を参照して上述したように、混合パルス幅変調制御を用いてインバータ10をスイッチング制御する。ノイズ低減優先モードでは、回転電機制御装置1は、下記の表2に例示するように、パルス幅変調制御を用いてインバータ10をスイッチング制御する。
【0065】
【0066】
インバータ10をスイッチング制御した場合、交流電流の基本波に重畳される脈動成分が可聴周波数帯域のノイズを発生させる場合がある。特に回転電機80の回転速度が低速の場合、脈動成分の周波数(或いはそのサイドバンド周波数)が可聴周波数帯域に含まれる可能性が高くなる。混合パルス幅変調では、
図5~
図8に示すように、電気角の半周期において、2つのインバータ10がそれぞれ異なるパルスの形態で制御されるため、それぞれのパルスに応じた脈動が生じ、可聴周波数帯域のノイズが増加する可能性がある。回転電機80の回転速度が相対的に低い第1速度域VR1及び第2速度域VR2では、車両の走行に伴う音(タイヤと路面との接地音などの走行音)も小さいため、駆動される1つのインバータ10から出力されるノイズが可聴周波数帯域のノイズの場合には、ノイズが利用者に聞こえ易くなる可能性がある。
【0067】
例えば、車両の発進時や停止に向けた減速時には、可聴周波数帯域のノイズが利用者に聞こえ易いことを考慮してノイズ低減優先モードが選択され、車両が定常走行する定常運転時には、損失低減優先モードが選択されると好適である。尚、これらのモードは、利用者による操作(設定スイッチ(タッチパネル等からの入力も含む))により、選択されてもよい。
【0068】
ノイズ低減優先モードでは、回転電機80の回転速度が相対的に低い第1速度域VR1及び第2速度域VR2において、第1インバータ11と第2インバータ12とが混合パルス幅変調制御ではなく、パルス幅変調制御により制御される。ステータコイル8に電流を流す2つのインバータ10は、電流の位相がほぼ180度異なるため、脈動成分を含めて電流の位相がほぼ180度異なることになる。従って、脈動成分の少なくとも一部を互いに打ち消し合うことができ、可聴周波数帯域のノイズを低減することができる。
【0069】
ところで、インバータ10を構成するスイッチング素子3は、スイッチング素子3が常にオン状態となる短絡故障や、スイッチング素子3が常にオフ状態となるオープン故障を生じる場合がある。例えば、一般的なY字結線型のステータコイルを備えた回転電機が1つのインバータによって駆動される場合には、短絡故障やオープン故障が生じると、インバータの全てのスイッチング素子をオフ状態とするシャットダウン制御や、複数相全てのアームの上段側スイッチング素子をオン状態とする又は複数相全てのアームの下段側スイッチング素子をオン状態とするアクティブショートサーキット制御が実行され、車両は停止することになる。
【0070】
しかし、本実施形態のように、ステータコイル8として互いに独立した複数相のオープン巻線を有する回転電機80を、第1インバータ11及び第2インバータ12を介して駆動制御する場合には、第1インバータ11及び第2インバータ12の内の1つのインバータ10を介して回転電機80を駆動制御することが可能である。上述したように、一方のインバータ10をアクティブショートサーキット制御によって短絡させると、複数相のステータコイル8が当該一方のインバータ10において短絡され、当該一方のインバータ10が中性点となって、ステータコイル8がY型結線されることになる。このため、回転電機制御装置1は、1つのインバータ10(アクティブショートサーキット制御されていない側のインバータ10)を介してY型結線の回転電機80を制御する形態を実現することができる。
【0071】
回転電機が1つのインバータによって駆動される場合には、短絡故障やオープン故障が生じると、回転電機を駆動力源とする車両を停止させる必要がある。しかし、本実施形態のように、回転電機80が2つのインバータ10によって駆動される場合には、短絡故障やオープン故障が生じても、回転電機80を駆動力源とする車両を停止させることなく、一定の制限の範囲で車両の走行を継続することができる。例えば、自宅や整備工場などの当面の目的地までの走行を可能とすることができる。
【0072】
例えば、一方のインバータ10において短絡故障が生じた場合、上段側アーム及び下段側アームの内、短絡故障したスイッチング素子3を含む側のアームの全てのスイッチング素子3をオン状態とし、他方の側のアームの全てのスイッチング素子3をオフ状態としてアクティブショートサーキット制御を実行するとよい。短絡故障したスイッチング素子3を含む側のアームの全てのスイッチング素子3をオン状態とすることで、短絡故障したスイッチング素子3を故障していないスイッチング素子3として用いることができる。
【0073】
また、一方のインバータ10においてオープン故障が生じた場合、上段側アーム及び下段側アームの内、オープン故障したスイッチング素子3を含まない側のアームの全てのスイッチング素子3をオン状態とし、オープン故障したスイッチング素子3を含む側のアームの全てのスイッチング素子3をオフ状態としてアクティブショートサーキット制御を実行するとよい。オープン故障したスイッチング素子3を含む側のアームの全てのスイッチング素子3をオフ状態とすることで、オープン故障したスイッチング素子3を故障していないスイッチング素子3として用いることができる。
【0074】
このため、少なくとも、故障したスイッチング素子3が、第1インバータ11及び第2インバータ12の何れに属し、且つ、上段側アーム及び下段側アームの何れに属するかを特定する必要がある。より好ましくは、故障したスイッチング素子3が、複数相の内の何れの相であるかまで特定できるとよい。
【0075】
以下、第1インバータ11及び第2インバータ12を構成するスイッチング素子3の内の何れか1つにオープン故障が生じた場合(1相オープン故障が生じた場合)に、オープン故障したスイッチング素子3を特定し、特定後に車両の走行を継続できるように、回転電機80をフェールセーフ制御により駆動する形態について説明する。
【0076】
図11~
図14(及び後述する
図36~
図39)は、オープン故障が生じた場合の3相交流波形(U相電流Iu、V相電流Iv、W相電流Iw)の一例を示す波形図である。
図11及び
図12(及び
図36及び
図37)は、力行時にオープン故障が生じた場合の3相交流波形を示し、
図13及び
図14(及び
図38及び
図39)は、回生時にオープン故障が生じた場合の3相交流波形を示している。
図11~
図14(及び後述する
図36~
図39)に共通して、U相のスイッチング素子3がオープン故障した場合の波形を示している。また、
図11~
図14(及び後述する
図36~
図39)に共通して、第1インバータ11の上段側(HIGHSIDE)のスイッチング素子3がオープン故障した場合の波形、第1インバータ11の下段側(LOWSIDE)のスイッチング素子3がオープン故障した場合の波形、第2インバータ12の上段側(HIGHSIDE)のスイッチング素子3がオープン故障した場合の波形、第2インバータ12の下段側(LOWSIDE)のスイッチング素子3がオープン故障した場合の波形、をマトリクス状に示している。また、
図11に対して
図12(及び
図36に対して
図37)は、同じトルクにおいて回転電機80の回転速度が高い場合を示し、
図13に対して
図14(及び
図38に対して
図39)は、同じトルクにおいて回転電機80の回転速度が高い場合を示している。
【0077】
図11及び
図12に示すように、力行時にオープン故障が生じると、第1インバータ11及び第2インバータ12の上段側であっても、下段側であっても、3相交流波形は非対称で歪んだ波形となる。また、3相交流波形は、第1インバータ11の上段側がオープン故障した場合と、第2インバータ12の下段側がオープン故障した場合とで同様の波形となり、第1インバータ11の下段側がオープン故障した場合と、第2インバータ12の上段側がオープン故障した場合とで同様の波形となる。
【0078】
一方、
図13及び
図14に示すように、回生時には、第1インバータ11及び第2インバータ12の下段側でオープン故障が生じた場合は、3相交流波形が非対称で歪んだ波形となるが、第1インバータ11及び第2インバータ12の上
段側でオープン故障が生じた場合は、3相交流波形は、ほぼ対称でほぼ歪みの無い波形となる。
【0079】
即ち、
図15に示すように、力行時(
図16~
図18を参照して後述する超低速時の力行は除く)には、どこでオープン故障が生じても3相交流波形は異常を示し、その異常の形態は、
図15に示す第1故障パターンFP1と、第2故障パターンFP2との2つの故障パターンFPに大別することができる。回生時には、第1インバータ11及び第2インバータ12の下段側においてオープン故障が生じた場合にのみ、3相交流波形は異常を示す。その異常の形態は、
図15に示す第1下段側故障パターンLF1と、第2下段側故障パターンLF2との2つの下段側故障パターンLFに大別することができる。
【0080】
第1故障パターンFP1は、第1インバータ11の上段側アーム又は第2インバータ12の下段側アームの何れかがオープン故障を生じた故障側アームである場合の故障パターンFPである。第2故障パターンFP2は、第1インバータ11の下段側アーム又は第2インバータ12の上段側アームの何れかが故障側アームである場合の故障パターンFPである。第1下段側故障パターンLF1は、第2インバータの下段側アームが故障側アームである場合の下段側故障パターンLFである。第2下段側故障パターンLF2は、第1インバータの下段側アームが故障側アームである場合の下段側故障パターンLFである。
【0081】
図15に示すように、故障パターンFPと下段側故障パターンLFとの形状は、一部が重複しつつ異なっている。従って、力行時における3相交流波形の状態と、回生時における3相交流波形の状態を照合すれば、オープン故障が検出された場合に、どちらのインバータ10の上段側及び下段側でオープン故障が生じているか(故障側アームがどこであるか)を判別することが可能である。
【0082】
具体的には、力行時に第1故障パターンFP1が検出されており、回生時に3相交流波形に異常が検出されなかった場合には、第1インバータ11の上段側(inv1-HIGHSIDE)においてオープン故障が生じていると判別することができる。力行時に第1故障パターンFP1が検出されており、回生時に第1下段側故障パターンLF1が検出された場合には、第2インバータ12の下段側(inv2-LOWSIDE)においてオープン故障が生じていると判別することができる。また、力行時に第2故障パターンFP2が検出されており、回生時に3相交流波形に異常が検出されなかった場合には、第2インバータ12の上段側(inv2-HIGHSIDE)においてオープン故障が生じていると判別することができる。力行時に第2故障パターンFP2が検出されており、回生時に第2下段側故障パターンLF2が検出された場合には、第1インバータ11の下段側(inv1-LOWSIDE)においてオープン故障が生じていると判別することができる。
【0083】
図16及び
図17は、
図11及び
図13よりも回転電機80の回転速度が低い、超低回転速度においてオープン故障が生じた場合の3相交流波形を示している。
図16及び
図17共に、力行時にオープン故障が生じた場合の3相交流波形を示している。
図16は、第1インバータ11の上段側又は下段側のU相のスイッチング素子3がオープン故障した場合の波形を示しており、
図17は、第2インバータ12の上段側又は下段側のU相のスイッチング素子3がオープン故障した場合の波形を示している。
図16及び
図17に共通して、3種類の異なる回転速度(RS1,RS2,RS3)における波形、上段側(HIGHSIDE)のスイッチング素子3がオープン故障した場合の波形、下段側(LOWSIDE)のスイッチング素子3がオープン故障した場合の波形、をマトリクス状に示している。尚、回転速度は、「RS1<RS2<RS3」であり、3つの中で最も回転速度が高い「RS3」も
図11及び
図13よりも回転電機80の回転速度が低い超低回転速度である。
【0084】
回生時と同様に、
図16及び
図17に示すように、第1インバータ11及び第2インバータ12の下段側でオープン故障が生じた場合は、3相交流波形が非対称で歪んだ波形となるが、第1インバータ11及び第2インバータ12の上
段側でオープン故障が生じた場合は、3相交流波形は、ほぼ対称でほぼ歪みの無い波形となる。つまり、
図18に示すように、回転速度を超低回転速まで低下させると、オープン故障が生じた場合の3相交流波形の状態が変わる。超低回転速度における3相交流波形の挙動は回生の場合と同様であるから、
図15を参照して上述したように、超低回転速度の力行時と、それよりも高速の力行時とにおける、3相交流波形の状態を照合すれば、オープン故障が検出された場合に、どちらのインバータ10の上段側及び下段側でオープン故障が生じているかを判別することが可能である。
【0085】
図19は、回転電機80の制御領域における動作点を示している。尚、
図19における制御領域“Rs”は、1つのインバータ10によって回転電機80を制御する場合のシングルインバータ制御領域Rsを示し、制御領域の全体を示す“Rd”は、2つのインバータ10によって回転電機80を制御する場合のデュアルインバータ制御領域Rdを示している。
【0086】
例えば、シングルインバータ制御領域Rsの外の第1動作点Q1において力行中にオープン故障が検出された場合、動作点を回生側の第2動作点Q2に移動させることで、
図15を参照して上述したように、オープン故障した箇所を判別することができる。
図20は、回転電機80のトルク指令と回転速度との関係を示しており、第1動作点Q1において力行中にオープン故障が検出された時刻t1において、トルク指令が力行トルクから回生トルクへと変更されている。回生制御により、時刻t1から時刻t2の間に回転電機80の回転速度が低下し、時刻t2では、シングルインバータ制御領域Rsの回転速度まで低下している。
【0087】
オープン故障した箇所が特定されると、シングルインバータ制御領域Rsにおいて、故障した側の一方のインバータ10をアクティブショートサーキット制御することによって、故障していない他方のインバータ10を介して回転電機80を駆動制御することができる。第3動作点Q3は、元の第1動作点Q1に比べて回転速度は低いが、同等のトルクを出力できており、一定の制限の範囲で車両の走行を継続することができる。
【0088】
ここでは、詳細な説明は省略するが、力行中にオープン故障が検出された場合に、上述したように動作点を回生側に移動させることなく、例えばシャットダウン制御等によって回転速度を超低回転速度まで低下させて、オープン故障した箇所を特定してもよい。詳細については、
図34を参照して後述する。
【0089】
ところで、上述したように、シングルインバータ制御領域Rsの外の第1動作点Q1において力行中にオープン故障が検出された場合、動作点を回生側の第2動作点Q2に移動させ、回生運転によって回転電機80の回転速度を低下させる場合、故障箇所が下段側であると、3相交流波形は歪んだ状態である。波形が歪んでいると、高調波成分が出現して、直流電源6や直流リンクコンデンサ4等を消耗させたり、電磁ノイズにより他の機器に影響を与えたり、また、可聴ノイズを生じさせたりする場合がある。このため、回生時の電流波形における歪みは抑制されることが好ましい。
【0090】
上述したように、上段側でオープン故障が発生した場合には、回生時に3相交流にほぼ歪みを生じない。そこで、本実施形態では、スイッチングパターンを変更することで3相交流の歪みを解消させる。
図21及び
図22は、オープン故障が生じている状態で回生時の3相電流波形の歪みを解消するためのスイッチング制御信号を示している。
図21は、第1ケース(case1)のスイッチング制御信号を示し、
図22は、第2ケース(case2)のスイッチング制御信号を示している。
【0091】
第1ケースでは、まず、第1インバータ11の上段側のスイッチング制御信号と、下段側のスイッチング制御信号とを入れ替えると共に、第2インバータ12の上段側のスイッチング制御信号と、下段側のスイッチング制御信号とを入れ替える。さらに、第1インバータ11のスイッチング制御信号と、第2インバータ12のスイッチング制御信号とを入れ替える。即ち、第1ケースでは、第1インバータ11の上段側アームのスイッチングパターンと第2インバータ12の下段側アームのスイッチングパターンとを入れ替えると共に、第1インバータ11の下段側アームのスイッチングパターンと第2インバータの上段側アームのスイッチングパターンとを入れ替える。
【0092】
第2ケースでは、第1ケースと同様に、まず、第1インバータ11の上段側のスイッチング制御信号と、下段側のスイッチング制御信号とを入れ替える。そして、ステータコイル8に流れる電流の向きを入れ替える。例えば、
図2に示した3相2相座標変換部55において3相電流の正負を反転させればよい。即ち、第2ケースでは、第1インバータ11の上段側アームのスイッチングパターンと下段側アームのスイッチングパターンとを入れ替えると共に、第2インバータ12の上段側アームのスイッチングパターンと下段側アームのスイッチングパターンとを入れ替え、さらに、複数相の交流電流(Iu,Iv,Iw)のそれぞれの正負を反転させる。
【0093】
図23は、上段側でオープン故障が生じている状態での回生時の3相電流波形(左)と、下段側でオープン故障が生じている状態での回生時において第1ケース(case1)のスイッチング制御信号及び第2ケース(case2)のスイッチング制御信号により歪みが解消された3相電流波形(右の上下)を示している。
図23に示すように、
上段側でオープン故障が生じていても、下段側でオープン故障が生じている場合と同様に、3相交流波形は、ほぼ歪みのない波形となっている。このように、回生時の波形を整える制御を回生フェールアクションと称する。
【0094】
図24は、オープン故障の発生箇所を判別する概略手順の一例を示している。回転電機制御装置1は、オープン故障(OPEN-FAIL)の発生を検出すると(#5)、回転電機80の回転速度が回生(ReGEN)可能な回転速度であるか否かを判定する(#6)。上述したように、本実施形態では、オープン故障箇所を特定した後、故障していない方の1つのインバータ10を介して回転電機80の駆動制御を継続する。回生を行った場合には、回転電機80の回転速度を低下させるため、回転電機80の回転速度が低い場合には回転電機80が停止するまで減速してしまうおそれがある。
【0095】
このため、回転電機制御装置1は、ステップ#6において回転電機80の回転速度が回生可能な回転速度であるか否かを判定し、回生可能な場合に、回生を伴う第1故障箇所判別処理(#10)を実行する。一方、回生が可能ではない場合には、回転電機制御装置1は、回転電機80の回転速度を上述した超低回転速度まで減速させる減速処理(#8)を実行した後、回生を伴わない第2故障箇所判別処理(#20)を実行する。尚、ステップ#6の時点において、すでに回転電機80の回転速度が超低回転速度である場合には、さらに減速する必要はない。ステップ#8の減速処理には、
図34を参照して後述するように、回転速度の判定処理(#81)が含まれている。従って、ステップ#8の減速処理は、必ずしも減速を伴うものではない。
【0096】
第1故障箇所判別処理(#10)又は第2故障箇所判別処理(#20)においてオープン故障箇所が判別されると、回転電機制御装置1は、上述したように、シングルインバータ制御領域Rsにおいて故障していない方のインバータ10を介して回転電機80を駆動制御する(#60:1-inv駆動)。尚、
図32及び
図35を参照して後述するように、第3故障箇所判別処理(#30)によってオープン故障箇所が判別されてもよい。
【0097】
以下、
図25~
図31を参照して、3相電流波形に基づいてオープン故障を生じた箇所を判別する原理について説明し、
図32~
図35のフローチャートを参照して、オープン故障を生じた箇所を判別する手順について説明する。
【0098】
図11~
図14、
図16、
図17に示したように、オープン故障が生じると、3相交流波形が歪みを生じ、また、非対称な波形となる。例えば、第1インバータ11の上段側(又は第2インバータ12の下段側)においてオープン故障が発生すると、
図11に示すように、U相電流Iuは、負側に偏向し、V相電流Iv及びW相電流Iwは、正側に偏向した波形となる。ここで、3相電流(U相電流Iu、V相電流Iv、W相電流Iw)を所定時間(例えば200[ms])に亘って積算すると、
図25等を参照して後述するように、U相積算電流ΣIu、V相積算電流ΣIv、W相積算電流ΣIwを得ることができる。U相積算電流ΣIu、V相積算電流ΣIv、W相積算電流ΣIwは、3相交流波形の歪みを顕著に示しており、これらを用いることでオープン故障の箇所を判別することができる。尚、電流の積算に際しては、それぞれの交流電流のピーク値から積算を開始すると、積算値がオフセットして誤差を生じることを抑制できる。
【0099】
図25及び
図26は、オープン故障箇所の判別が可能な3相交流波形及び積算電流の一例を示しており、
図27は、故障箇所の判別が困難な3相交流波形及び積算電流の一例を示している。また、
図28及び
図29は、上述したように回生時における、交流電流の歪み解消前の積算電流と歪み解消後の積算電流を示している。また、
図30及び
図31は、超低回転速度の力行時にオープン故障が生じた場合の積算電流の一例を示している。
図30は、故障箇所の判別が困難な積算電流の一例を示しており、
図31は、故障箇所の判別が可能な積算電流の一例を示している。
【0100】
また、
図25、
図27、
図30は、第1インバータ11のU相の上段側スイッチング素子3Hがオープン故障した場合の例を示し、
図26、
図28、
図31は第1インバータ11のU相の下段側スイッチング素子3Lがオープン故障した場合の例を示している。また
、図29は、第2インバータ12のU相の下段側スイッチング素子3Lがオープン故障した場合の例を示している。
図25、
図26,
図30、
図31は、力行時の波形であり、
図27~
図29は、回生時の波形である。尚、
図25、
図26,
図30、
図31における一点鎖線は、オープン故障が生じた時刻を示しており、
図28及び
図29における一点鎖線は、歪みを解消するためにスイッチング制御信号を切り替えた時刻を示している。
【0101】
図25に示すように、第1インバータ11のU相の上段側スイッチング素子3Hがオープン故障した状態で混合パルス幅変調制御により力行されると、3相電流波形は非対称で歪んだ波形となる。U相電流Iuは、負側に偏向し、V相電流Iv及びW相電流Iwは、正側に偏向した波形となる。ここで、回転電機制御装置1は、3相電流(U相電流Iu、V相電流Iv、W相電流Iw)を所定時間(例えば200[ms])に亘って積算する。負側に偏向したU相電流Iuが積算されたU相積算電流ΣIuは、
図25に示すように、負側に増加していく(値は減少し、波形は下降していく)。また、正側に偏向したV相電流Iv及びW相電流Iwを積算したV相積算電流ΣIv及びW相積算電流ΣIwは、正側に増加していく(波形は上昇していく)。
【0102】
回転電機制御装置1は、正側及び負側に予め規定された積算閾値を設定し、当該積算閾値を正側或いは負側に超えた場合に、
オープン故障が発生していると判定するとともに、
オープン故障の発生パターンを特定することができる。ここで、正側の積算閾値を“Ith+”とし、負側の
積算閾値を“Ith-”とする。
図25に例示した形態では、以下のような条件が成立するときに、オープン故障の発生が判定される。この条件を第1パターンとする。
【0103】
(ΣIu<Ith-)&&(ΣIv>Ith+)&&(ΣIw>Ith+)
【0104】
尚、この条件は、第1インバータ11のU相の上段側スイッチング素子3Hがオープン故障した場合に加えて、第2インバータ12のU相の下段側スイッチング素子3Lがオープン故障した場合にも成立する。
【0105】
図26に示すように、第1インバータ11のU相の下段側スイッチング素子3Lがオープン故障した状態で混合パルス幅変調制御により力行された場合も、3相電流波形は非対称で歪んだ波形となる。U相電流Iuは、正側に偏向し、V相電流Iv及びW相電流Iwは、負側に偏向した波形となる。正側に偏向したU相電流Iuが積算されたU相積算電流ΣIuは、
図26に示すように、正側に増加していく(波形は上昇していく)。また、負側に偏向したV相電流Iv及びW相電流Iwを積算したV相積算電流ΣIv及びW相積算電流ΣIwは、負側に増加していく(値は減少し、波形は下降していく)。
図26に例示した形態では、以下のような条件が成立するときに、オープン故障の発生が判定される。この条件を第2パターンとする。
【0106】
(ΣIu>Ith+)&&(ΣIv<Ith-)&&(ΣIw<Ith-)
【0107】
尚、この条件は、第1インバータ11のU相の下段側スイッチング素子3Lがオープン故障した場合に加えて、第2インバータ12のU相の上段側スイッチング素子3Hがオープン故障した場合にも成立する。
【0108】
第1インバータ11及び第2インバータ12を構成する12個のスイッチング素子3がオープン故障した場合に成立する条件は下記の表3に示すように、第1パターンから第6パターンまでの6種類ある。以下の説明において、それぞれのスイッチング素子3は、3相の識別記号(U,V,W)、第1インバータ11及び第2インバータ12の識別番号(1,2)、上段側スイッチング素子3H及び下段側スイッチング素子3Lの識別記号(H,L)を用いて、例えば、第1インバータ11のU相の上段側スイッチング素子3Hであれば“U1H”、第2インバータ12のW相の下段側スイッチング素子3Lであれば“W2L”と表記する。
【0109】
【0110】
図27は、第1インバータ11のU相の上段側スイッチング素子3Hがオープン故障した状態で混合パルス幅変調制御により回生された場合の積算電流を示している。
図14等に示すように、3相交流波形の歪みは僅かである。U相電流Iuは、やや負側に偏向し、V相電流Ivは、やや正側に偏向しているものの、W相電流Iwは、ほとんど偏向していない。このため、
図27に示すように、U相積算電流ΣIuが負側に増加していく(値は減少し、波形は下降していく)傾向を示し、V相積算電流ΣIvが正側に増加していく(波形は上昇していく)傾向を示すものの、W相積算電流ΣIwは、正側にも負側にもほとんど増減しない。従って、時間が経過してもW相積算電流ΣIwは、表3に示すパターン1~6の何れの条件も満たさず、オープン故障の検出条件を満たさない。従って、上段側スイッチング素子3Hがオープン故障した場合には、回生時には異常と検出されない(
図15等参照)。
【0111】
図28は、第1インバータ11のU相の下段側スイッチング素子3Lがオープン故障した状態で混合パルス幅変調制御により回生された場合の積算電流を示している。
図13及び
図14に示すように、U相電流Iuは、正側に偏向し、V相電流Iv及びW相電流Iwは、負側に偏向した波形となる。正側に偏向したU相電流Iuが積算されたU相積算電流ΣIuは、
図28に示すように、正側に増加していく(波形は上昇していく)。また、負側に偏向したV相電流Iv及びW相電流Iwを積算したV相積算電流ΣIv及びW相積算電流ΣIwは、負側に増加していく(値は減少し、波形は下降していく)。力行時の第2パターンと同じく、下記が成立して、オープン故障の発生が判定される。
【0112】
(ΣIu>Ith+)&&(ΣIv<Ith-)&&(ΣIw<Ith-)
【0113】
その後、
図21及び
図22を参照して上述したように、歪を解消するためにスイッチング制御信号を入れ替えて回生フェールアクションが実行されると、回生時に第1インバータ11のU相の上段側スイッチング素子3Hがオープン故障した状態と等価となる(
図27と同様の傾向を示すようになる。)。このため、積算電流の正側及び負側への増加も解消される。
【0114】
図29は、第2インバータ12のU相の下段側スイッチング素子3Lがオープン故障した状態で混合パルス幅変調制御により回生された場合の積算電流を示している。
図13及び
図14に示すように、U相電流Iuは、負側に偏向し、V相電流Iv及びW相電流Iwは、正側に偏向した波形となる。負側に偏向したU相電流Iuが積算されたU相積算電流ΣIuは、
図29に示すように、負側に増加していく(値は減少し、波形は下降していく)。また、正側に偏向したV相電流Iv及びW相電流Iwを積算したV相積算電流ΣIv及びW相積算電流ΣIwは、正側に増加していく(波形は上昇していく)。従って、力行時の第1パターンと同じく、下記が成立して、オープン故障の発生が判定される。
【0115】
(ΣIu<Ith-)&&(ΣIv>Ith+)&&(ΣIw>Ith+)
【0116】
その後、
図21及び
図22を参照して上述したように、歪を解消するためにスイッチング制御信号を入れ替えて回生フェールアクションが実行されると、回生時に第2インバータ12のU相の上段側スイッチング素子3Hがオープン故障した状態と等価となる。このため、積算電流の正側及び負側への増加も解消される。
【0117】
回生時において、第1インバータ11及び第2インバータ12の下段側の6個のスイッチング素子3がオープン故障した場合に成立する条件は下記の表4に示すように、第1パターンから第6パターンまでの6種類ある。それぞれのパターンの番号と論理式は、表3と同じである。
【0118】
【0119】
表3と表4とを組み合わせると、下記の表5に示すように、12個のスイッチング素子の何れにおいて、オープン故障が発生しているかを特定することができる。
【0120】
【0121】
図30は、第1インバータ11のU相の上段側スイッチング素子3Hがオープン故障した状態で混合パルス幅変調制御により超低回転速度で力行されている場合の積算電流を示している。
図16及び
図17に示すように、3相交流波形にはほとんど歪みが生じていない。このため、
図30に示すように、U相積算電流ΣIu、V相積算電流ΣIv、W相積算電流ΣIwは、正側にも負側にもほとんど増減しない。従って、時間が経過してもW相積算電流ΣIwは、表3や表4に示すパターン1~6の何れの条件も満足せず、オープン故障の検出条件を満たさない。
【0122】
図31は、第1インバータ11のU相の下段側スイッチング素子3Lがオープン故障した状態で混合パルス幅変調制御により超低回転速度で力行された場合の積層電流を示している。
図16及び
図17に示すように、3相電流波形は非対称で歪んだ波形となる。U相電流Iuは、正側に偏向し、V相電流Iv及びW相電流Iwは、負側に偏向した波形となる。正側に偏向したU相電流Iuが積算されたU相積算電流ΣIuは、
図31に示すように、正側に増加していく(波形は上昇していく)。また、負側に偏向したV相電流Iv及びW相電流Iwを積算したV相積算電流ΣIv及びW相積算電流ΣIwは、負側に増加していく(値は減少し、波形は下降していく)。
図31に例示した形態では、以下のような条件が成立するときに、オープン故障の発生が判定される。この条件は、表3及び表4の第2パターンと同じである。
【0123】
(ΣIu>Ith+)&&(ΣIv<Ith-)&&(ΣIw<Ith-)
【0124】
超低回転速度の力行において、第1インバータ11及び第2インバータ12の下段側の6個のスイッチング素子3がオープン故障した場合に成立する条件は下記の表6に示すように、第1パターンから第6パターンまでの6種類ある。それぞれのパターンの番号と論理式は、表3及び表4と同じであり、表6は表4と同じである。
【0125】
【0126】
表3と表6とを組み合わせると、下記の表7に示すように、12個のスイッチング素子の何れにおいて、オープン故障が発生しているかを特定することができる。これは表5と同じである。
【0127】
【0128】
以下、
図32~
図35のフローチャートも参照して、故障側アームを判別する手順について説明する。
図32は、故障側アームを判別する全体的な手順の一例を示している。
図33は、第1故障箇所判別処理(#10)の手順の一例を示し、
図34は、第2故障箇所判別処理(#20)の手順の一例を示し、
図35は、第3故障箇所判別処理(#30)の手順の一例を示している。
【0129】
上述したように、オープン故障の検出、及び故障側アームの判別には、交流電流の積算値である積算電流を求める必要がある。このため、交流電流(相電流)の積算が開始される(#1)。上述したように、例えば、200[ms]分の交流電流(Iu,Iv,Iw)が積算され、積算電流(ΣIu,ΣIv,ΣIw)が演算される。
【0130】
続くステップ#2では、過電流状態(OC)であるか否かが判定される。発明者らの実験やシミュレーションによれば、例えば
図19に示す高出力領域Rocのように、回転電機80の出力トルクが大きく、回転速度も高いような動作領域においてオープン故障が生じた場合には、3相交流電流の瞬時値が非常に大きな値となることが確認された。このような場合には、インバータ10や回転電機80に備えられた不図示の過電流検出セン
サによって、過電流状態であることが検出され、検出結果が回転電機制御装置1に伝達される。過電流に対する対応は、優先順位が高いため、回転電機制御装置1は、他の制御を制限して、過電流状態を解消させる制御を優先的に実行する。ここでは、回転電機制御装置1は、シャットダウン制御(SDN)やアクティブショートサーキット制御(ASC)を実行して(#3a)、回転電機80の回転速度を低下させる(#3:減速処理)。回転電機制御装置1は、回転速度が目標速度(例えば、動作点が高出力領域Rocの外となる回転速度)に達すると、通常の制御(トルク制御)に復帰する(#3b,#3c)。
【0131】
次に、回転電機80の動作状態が、力行(PWR)であるか、回生(ReGEN)であるかが判定される(#4)。回生である場合には、$1を経て、
図35を参照して後述するように、第3故障箇所判別処理(#30)が実行される。回転電機80が力行している場合には、オープン故障(OPEN-FAIL)が検出されているか否かが判定される(#5)。ここでは、表3に示す6つのパターンの判定条件の何れか1つを満たしているか否かが判定され、何れか1つを満たしている場合に、オープン故障を生じていると検出される。尚、ステップ#5が実行される際の回転電機80の制御状態は第1制御状態に相当する。また、ここでは、
図19に示す第1動作点Q1における第1制御状態で、オープン故障が検出されたとして説明する。$3,$5については
図40及び
図41を参照して後述する。
【0132】
オープン故障を生じていると判定されると、次に回転電機80が回生(ReGEN)可能であるか否かが判定される(#6)。上述したように、2つのインバータ10を備えた本実施形態では、オープン故障が生じた場合も、回転電機80の制御を継続し、車両の走行を継続させるように制御する。回転電機80を回生させると、回転電機80が減速するため、車両の走行速度が低く、回転電機80の回転速度も低い場合には、回生によって回転電機80が停止し、車両も停止してしまうおそれがある。つまり、車両の走行を継続させることが困難となる。ステップ#6では、例えば、回転電機80の回転速度が予め規定された第1規定回転速度以上であるか否かが判定される。
【0133】
回転電機80の回転速度が第1規定回転速度以上の場合には、回転電機制御装置1は、回生トルク(ReGEN-TR)を設定して(#7)、第1故障箇所判別処理(#10)を実行する。回生トルクの設定によって、回転電機80の動作点は、
図19に示す第1動作点Q1から第2動作点Q2へ移動する。回転電機制御装置1は、第1故障箇所判別処理(#10)の実行によって故障
側アームを特定した後、1つのインバータ10で回転電機80を駆動するシングルインバータ駆動制御(1-inv駆動)を実行する(#61(#60))。
【0134】
ステップ#6において、回転電機80の回転速度が第1規定回転速度未満の場合には、第2故障箇所判別処理(#20)が実行される。第2故障箇所判別処理(#20)は、
図16~
図18、
図30,
図31、表6,表7を参照して上述したように、超低回転速度での力行を伴う処理である。即ち、第2故障箇所判別処理(#20)は、第1規定回転速度よりも低い第2規定回転速度以下の回転速度で実行される。このため、第2故障箇所判別処理(#20)に先だって、回転電機80の回転速度を第2規定回転速度(超
低速側規定速度)に設定する処理が実行される(#8)。回転電機制御装置1は、第2故障箇所判別処理(#20)の実行によって故障
側アームを特定した後、1つのインバータ10で回転電機80を駆動するシングルインバータ駆動制御(1-inv駆動)を実行する(#62(#60))。
【0135】
以下、
図33を参照して、第1故障箇所判別処理(#10)について説明する。第1故障箇所判別処理(#10)では、はじめに、回生状態(第2制御状態)においてオープン故障が検出されるか否かが判定される(#11)。ここでは、表4に示す6つのパターンの判定条件の何れか1つを満たしているか否かが判定され、何れか1つを満たしている場合に、オープン故障を生じていると検出される。
【0136】
ステップ#11においてオープン故障を生じていると判定された場合は、
図21~
図23を参照して上述したように、回生における交流電流(Iu,Iv,Iw)の波形の歪みや偏向を解消させるために、回生フェールアクション(#12)が実行される。通常の回生、或いは回生フェールアクションを伴う回生によって、回転電機80の回転速度は低下し、動作点はシングルインバータ制御領域Rsの中まで移動する。ステップ#12に続くステップ#13a(#13)では、回転電機80の動作点がシングルインバータ制御領域Rs内であるか否かが判定される。動作点がシングルインバータ制御領域Rs内でなければ、動作点がシングルインバータ制御領域Rs内と判定されるまで、回生による減速が継続される(#14a(#14))。
【0137】
動作点がシングルインバータ制御領域Rsに入っている場合には、ステップ#5においてオープン故障が検出された際の故障パターンFPが、第1故障パターンFP1であるか否かが判定される(#15a(#15))。故障パターンFPが第1故障パターンFP1である場合には、故障側アームは、第1インバータ11の上段側アーム(inv1:H)又は第2インバータ12の下段側アーム(inv2:L)である。ステップ#11において、回生においてもオープン故障が検出されているので、故障側アームは、第2インバータ12の下段側アーム(inv2:L)である。従って、ステップ#16a(#16)において、故障箇所(FAIL)が、第2インバータ12の下段側アーム(inv2-LOW)であると設定される。
【0138】
回転電機制御装置1は、回転電機80の出力トルクがゼロとなるように制御するゼロニュートン制御(0Nm)を経て、動作点を第3動作点Q3に移動させ、下段側アームにオープン故障が生じている第2インバータ12を上段側アクティブショートサーキット制御(ASC-H)により制御すると共に、第1インバータ11をパルス幅変調により制御する(#17a(#17))。そして、回生から力行へと復帰させ(#18a(#18))、1つのインバータ10で回転電機80を駆動するシングルインバータ駆動制御(1-inv駆動)を実行する(#61(#60))。
【0139】
ステップ#15a(#15)からステップ#16b(#16)、#17b(#17)、#18b(#18)、#61(#60)と遷移する経路も同様であるから、詳細な説明は省略する。また、ステップ#11からステップ#13b(#13)、#14b(#14)、#15b(#15)、#16c(#16)、#17c(#17)、#18c(#18)、#61(#60)と遷移する経路、及び、ステップ#15b(#15)からステップ#16d(#16)、#17d(#17)、#18d(#18)、#61(#60)と遷移する経路についても同様であるから詳細な説明は省略する。
【0140】
尚、
図21、
図22、
図28、
図29等を参照して上述したように、回生フェールアクションが実行されると、交流電流(Iu,Iv,Iw)の歪みや偏向も抑制され、積算電流(ΣIu,ΣIv,ΣIw)の偏向も小さくなる。従って、表4を参照して上述したような回生時の判定条件も成立しなくなる。このため、ステップ#15、#16における判定に用いられる積算電流(ΣIu,ΣIv,ΣIw)は、ステップ#12において回生フェールアクションが実行される前に取得された値(例えばステップ#11における判定時に取得された値)であることが好ましい。或いは、ステップ#15、#16における判定は、回生フェールアクションの前に実行されると好適である。
【0141】
以下、
図34を参照して、第2故障箇所判別処理(#20)について説明する。
図32を参照して上述したように、第2故障箇所判別処理(#20)に先だって、回転電機80の回転速度を第2規定回転速度(超
低速側規定速度)に設定する超
低速側規定速度設定処理(#8)が実行される。超
低速側規定速度設定処理では、はじめに、回転電機80の回転速度が、第2規定回転速度(超
低速側規定速度)以下であるか否かが判定される(#81)。回転速度が、超
低速側規定速度よりも高い場合には、回転電機制御装置1は、シャットダウン制御(SDN)やアクティブショートサーキット制御(ASC)、ゼロニュートン制御(0Nm)により、回転電機80の回転速度を減速させる(#82)。回転電機80の回転速度が、第2規定回転速度(超
低速側規定速度)以下である場合には、回転電機80の制御モードをトルクモードに設定する(#83)。即ち、ステップ#82の減速のための制御を行っていない場合には、トルクモードが継続され、減速のための制御を行っている場合には、トルクモードに復帰することになる。
【0142】
回転電機制御装置1は、回転電機80が第2規定回転速度(超低速側規定速度)以下の回転速度で力行している状態(超低回転速度の力行(第2制御状態))において、オープン故障が検出されるか否かを判定する(#21)。ここでは、表6に示す6つのパターンの判定条件の何れか1つを満たしているか否かが判定され、何れか1つを満たしている場合に、オープン故障を生じていると検出される。
【0143】
ステップ#21においてオープン故障を生じていると判定された場合は、ステップ#5においてオープン故障が検出された際の故障パターンFPが、第1故障パターンFP1であるか否かが判定される(#25a(#25))。故障パターンが第1故障パターンFP1である場合には、故障側アームは、第1インバータ11の上段側アーム(inv1:H)又は第2インバータ12の下段側アーム(inv2:L)である。ステップ#21において、超低回転速度の力行においてもオープン故障が検出されているので、故障側アームは、第2インバータ12の下段側アーム(inv2:L)である。従って、ステップ#26a(#26)において、故障箇所(FAIL)が、第2インバータ12の下段側アーム(inv2-LOW)であると設定される。
【0144】
回転電機制御装置1は、下段側アームにオープン故障が生じている第2インバータ12を上段側アクティブショートサーキット制御(ASC-H)により制御すると共に、第1インバータ11をパルス幅変調により制御する(#27a(#27))。そして、超低回転速度の力行から、通常の力行へと復帰させ(#28a(#28))、1つのインバータ10で回転電機80を駆動するシングルインバータ駆動制御(1-inv駆動)を実行する(#62(#60))。
【0145】
ステップ#25a(#25)からステップ#26b(#26)、#27b(#27)、#28b(#28)、#62(#60)と遷移する経路も同様であるから、詳細な説明は省略する。また、ステップ#21からステップ#25b(#25)、#26c(#26)、#27c(#27)、#28c(#28)、#62(#60)と遷移する経路、及び、ステップ#25b(#25)からステップ#26d(#26)、#27d(#27)、#28d(#28)、#62(#60)と遷移する経路についても同様であるから詳細な説明は省略する。
【0146】
以下、
図35を参照して、第3故障箇所判別処理(#30)について説明する。
図32に示すように、第3故障箇所判別処理(#30)は、ステップ#5の第1制御状態におけるオープン故障判別処理の前に分岐して実行される。第3故障箇所判別処理(#30)は、回転電機80が回生中に実行されるため、第2制御状態における故障判別処理に相当する。しかし、第3故障箇所判別処理(#30)は、第1制御状態における故障判別処理とは別に独立して実行される。上述したように、インバータ10が混合パルス幅変調制御によりスイッチングされる場合は、上段側アームにオープン故障が生じても、回生時の交流波形に生じる歪みが小さく、オープン故障の発生を検出することが困難である。従って、第3故障箇所判別処理(#30)では、下段側アームにオープン故障が生じた場合にのみ、オープン故障の発生を検出すると共に、故障したインバータ10を判別する。尚、回転電機80の運転状態が力行に遷移すると、第1制御状態におけるオープン故障検出が可能である。従って、第3故障箇所判別処理は、回転電機80が回生中に、少なくとも下段側アームにおいて
オープン故障が生じたことを速やかに検出すると共に、故障箇所を特定するために実行される。
【0147】
第3故障箇所判別処理(#30)では、はじめに、回生状態(第2制御状態)においてオープン故障が検出されるか否かが判定される(#31)。第3故障箇所判別処理においても、表4に示す6つのパターンの判定条件の何れか1つを満たしているか否かが判定され、何れか1つを満たしている場合に、オープン故障を生じていると検出される。ここでは、下段側故障パターンLFであることが検出される。上述したように、上段側アームにおいてオープン故障が生じていた場合には、第3故障箇所判別処理(#30)では、故障の検出も、故障箇所の判別も行えない。
【0148】
ステップ#31においてオープン故障を生じていると判定された場合は、
図21~
図23を参照して上述したように、回生における交流電流(Iu,Iv,Iw)の波形の歪みや偏向を解消させるために、回生フェールアクション(#32)が実行される。回生フェールアクションの実行によって、回転電機80の回転速度は低下し、動作点はシングルインバータ制御領域Rsの中まで移動する。ステップ#32に続くステップ#33では、回転電機80の動作点がシングルインバータ制御領域Rs内であるか否かが判定される。動作点がシングルインバータ制御領域Rs内でなければ、動作点がシングルインバータ制御領域Rs内と判定されるまで、回生による減速が継続される(#34)。
【0149】
動作点がシングルインバータ制御領域Rsに入っている場合には、第1インバータ11の下段側アームと、第2インバータ12の下段側アームとの何れにおいてオープン故障が生じていたかが判定される。ここでは、オープン故障の検出相が第2インバータ12であるか否かが判定される(#35)。表4を参照して上述したように、回転電機制御装置1は、6つのパターンの判定条件の何れが成立したかによって、オープン故障しているスイッチング素子3を特定することができる。つまり、オープン故障が第1インバータ11で発生しているか、第2インバータ12で発生しているかは既知である。
【0150】
オープン故障が第2インバータ12で発生している場合は、ステップ#36a(#36)において、故障箇所(FAIL)が、第2インバータ12の下段側アーム(inv2-LOW)であると設定される。また、オープン故障が第1インバータ11で発生している場合は、ステップ#36b(#36)において、故障箇所(FAIL)が、第1インバータ11の下段側アーム(inv1-LOW)であると設定される。
【0151】
オープン故障が第2インバータ12で発生している場合、回転電機制御装置1は、下段側アームにオープン故障が生じている第2インバータ12を上段側アクティブショートサーキット制御(ASC-H)により制御すると共に、第1インバータ11をパルス幅変調により制御する(#37a(#37))。そして、1つのインバータ10で回転電機80を駆動するシングルインバータ駆動制御(1-inv駆動)を実行する(#63(#60))。また、オープン故障が第1インバータ11で発生している場合、回転電機制御装置1は、下段側アームにオープン故障が生じている第1インバータ11を上段側アクティブショートサーキット制御(ASC-H)により制御すると共に、第2インバータ12をパルス幅変調により制御する(#37b(#37))。そして、1つのインバータ10で回転電機80を駆動するシングルインバータ駆動制御(1-inv駆動)を実行する(#63(#60))。
【0152】
尚、シングルインバータ駆動制御(#60)における制御形態は、連続パルス幅変調制御(CPWM)、不連続パルス幅変調制御(DPWM)のみに限らず、矩形波制御(1-Pulse)であってもよい。これらは例示であり、変調形式はどのようなものであってもよい。ここで、混合パルス幅変調制御は、第2期間T2においてスイッチング制御信号が非有効状態となり、システム損失を低減することができる。第1インバータ11と第2インバータ12とで互いに異なる期間を第2期間T2とすることで、全体としては、連続して複数のパルスによってスイッチングされる状態が実現できる。しかし、シングルインバータ駆動制御では、何れか一方のインバータ10のみがスイッチングされるため、混合パルス幅変調制御では、交流波形に歪みが生じる可能性がある。従って、シングルインバータ駆動制御は、電気角の一周期を通してパターンの異なる複数のパルスが出力されるパルス幅変調制御や、矩形波制御により実行されると好適である。しかし、制御形態として、混合パルス幅変調制御(MX-PWM)が選択されることを妨げるものでもない。
【0153】
また、
図21、
図22、
図28、
図29等を参照して上述したように、回生フェールアクションが実行されると、交流電流(Iu,Iv,Iw)の歪みや偏向も抑制され、積算電流(ΣIu,ΣIv,ΣIw)の偏向も小さくなる。従って、表4を参照して上述したような回生時における判定条件も成立しなくなる。このため、第1故障箇所判別処理(#10)と同様に、ステップ#35における判定に用いられる積算電流(ΣIu,ΣIv,ΣIw)は、ステップ#32において回生フェールアクションが実行される前に取得された値(例えばステップ#31の判定の際に取得された値)であることが好ましい。或いは、ステップ#35における判定は、回生フェールアクションの前に実行されると好適である。
【0154】
以上、説明したように、回転電機制御装置1は、1つのスイッチング素子3が常に開放状態となるオープン故障(1相オープン故障)が生じた場合に、複数相の交流電流(Iu,Iv,Iw)のそれぞれを積算して各相の電流積算値(ΣIu,ΣIv、ΣIw)を演算し、それぞれの電流積算値(ΣIu,ΣIv、ΣIw)の正負に基づいて、オープン故障の発生を検出すると共に、オープン故障が生じた箇所を判別する。第1インバータ11及び第2インバータ12が、混合パルス幅変調制御によりスイッチング制御されている場合、回転電機制御装置1は、第1制御状態(力行)におけるそれぞれの電流積算値(ΣIu,ΣIv、ΣIw)の正負に基づき、第1故障パターンFP1、第2故障パターンFP2の何れが故障パターンFPでであるかを判別する。また、回転電機制御装置1は、第1制御状態(力行)とは異なる第2制御状態(回生/超低回転速度での力行)におけるそれぞれの電流積算値(ΣIu,ΣIv、ΣIw)に基づき、第1下段側故障パターンLF1、第2下段側故障パターンLF2の何れが下段側故障パターンLFであるかを判別する。そして、回転電機制御装置1は、第1制御状態における判別結果と、第2制御状態における判別結果とに基づいて、第1インバータ11の上段側アーム、第1インバータ11の下段側アーム、第2インバータ12の上段側アーム、第2インバータ12の下段側アームの何れが故障側アームであるかを判別する。
【0155】
尚、上記においては、
図32等を参照して、第1制御状態における判別の後で、第2制御状態における判別が行われる形態を例示した。しかし、第1制御状態と第2制御状態との順序は逆であってもよい。また、第1制御状態における判別結果と、第2制御状態における判別結果とに基づく判別には、例えば第1制御状態における判別結果がない場合も含まれる。第1制御状態における判別結果がなく、第2制御状態において下段側故障パターンLFが判別された場合には、第1下段側故障パターンLF1により第2インバータ12の下段側アームが故障側アームであることが特定され、第2下段側故障パターンLF2により第1インバータ11の下段側アームが故障側アームであることが特定される。第1制御状態における判別結果と、第2制御状態における判別結果との双方がある場合については、
図15を参照して上述した通りである。
【0156】
尚、上段側アームでオープン故障が生じており、第1制御状態がない場合には、オープン故障を生じている故障側アームが特定されない。しかし、この場合、回転電機80は回生しており、回生時に上段側アームにオープン故障が生じていても交流電流(Iu,Iv,Iw)には歪みは生じない。従って、ほとんど影響がないため、オープン故障が検出されなくても問題はない。その後、回転電機80が力行すると、オープン故障が検出される。この際には、第1制御状態における判別の結果、第1故障パターンFP1、又は、第2故障パターンFP2であることが判別される。力行前の回生時において、第2制御状態における判別結果(下段側故障パターンLF無し)は取得済みであるから、回転電機制御装置1は、第1制御状態における判別結果と、第2制御状態における判別結果とに基づいて、故障側アームを特定することができる。当然ながら、力行においてオープン故障が検出された後、さらに回生、又は超低回転速度の力行を行い、改めて第2制御状態における判別結果を取得した後に、第1制御状態における判別結果と、第2制御状態における判別結果とに基づいて、故障側アームが特定されてもよい。
【0157】
ところで、上述したように、回転電機制御装置1は、回転電機80の制御モードとして、損失低減優先モードと、ノイズ低減優先モードとを有している。表2を参照して上述したように、ノイズ低減優先モードでは、第1インバータ11及び第2インバータ12の双方が、混合パルス幅変調制御ではなく、一般的なパルス幅変調制御によって駆動される。第1インバータ11及び第2インバータ12の双方が、ノイズ低減優先モードで駆動されている際にオープン故障が生じた場合の3相交流の挙動は、
図11~
図14等を参照して上述した挙動とは異なっている。
【0158】
図36~
図39は、
図11~
図14と同様に、ノイズ低減優先モード(即ち、双方のインバータ10がパルス幅変調制御によって制御されている場合)において、オープン故障が生じた場合の3相交流波形(U相電流Iu、V相電流Iv、W相電流Iw)の一例を示す波形図である。
図36及び
図37は、
図11及び
図12と同様に、力行時にオープン故障が生じた場合の3相交流波形を示し、
図38及び
図39は、
図13及び
図14と同様に、回生時にオープン故障が生じた場合の3相交流波形を示している。
図11~
図14と同様に、
図36~
図39に共通して、U相のスイッチング素子3がオープン故障した場合の波形を示している。また、
図11~
図14と同様に、
図36~
図39に共通して、第1インバータ11の上段側(HIGHSIDE)のスイッチング素子3がオープン故障した場合の波形、第1インバータ11の下段側(LOWSIDE)のスイッチング素子3がオープン故障した場合の波形、第2インバータ12の上段側(HIGHSIDE)のスイッチング素子3がオープン故障した場合の波形、第2インバータ12の下段側(LOWSIDE)のスイッチング素子3がオープン故障した場合の波形、をマトリクス状に示している。また、
図11に対する
図12と同様に、
図36に対して
図37は、同じトルクにおいて回転電機80の回転速度が高い場合を示し、
図13に対する
図14と同様に、
図38に対して
図39は、同じトルクにおいて回転電機80の回転速度が高い場合を示している。
【0159】
図11及び
図12と同様に、
図36及び
図37に示すように、力行時にオープン故障が生じると、第1インバータ11及び第2インバータ12の上段側であっても、下段側であっても、3相交流波形は非対称で歪んだ波形となる。また、3相交流波形は、第1インバータ11の上段側がオープン故障した場合と、第2インバータ12の下段側がオープン故障した場合とで同様の波形となり、第1インバータ11の下段側がオープン故障した場合と、第2インバータ12の上段側がオープン故障した場合とで同様の波形となる。
【0160】
また、
図38及び
図39に示すように、回生時にオープン故障が生じた場合も、第1インバータ11及び第2インバータ12の上段側であっても、下段側であっても、3相交流波形は非対称で歪んだ波形となる。また、3相交流波形は、第1インバータ11の上段側がオープン故障した場合と、第2インバータ12の下段側がオープン故障した場合とで同様の波形となり、第1インバータ11の下段側がオープン故障した場合と、第2インバータ12の上段側がオープン故障した場合とで同様の波形となる。
【0161】
損失低減優先モード(即ち、双方のインバータ10が混合パルス幅変調制御によって制御されている場合)においては、
図13及び
図14に示すように、回生時には、第1インバータ11及び第2インバータ12の下段側でオープン故障が生じた場合は、3相交流波形が非対称で歪んだ波形となるが、第1インバータ11及び第2インバータ12の上
段側でオープン故障が生じた場合は、3相交流波形は、ほぼ対称でほぼ歪みの無い波形となる。
【0162】
即ち、損失低減優先モードでは、
図15に示すように、力行時(超低回転速
度時は除く)には、どこでオープン故障が生じても3相交流波形は異常を示し、その異常の形態は、
図15に示す第1故障パターンFP1と、第2故障パターンFP2とに大別された。一方、回生時には、第1インバータ11及び第2インバータ12の下段側においてオープン故障が生じた場合にのみ、3相交流波形は異常を示す。従って、力行時と回生時とにおける、3相交流波形の状態を照合すれば、オープン故障が検出された場合に、どちらのインバータ10の上段側及び下段側でオープン故障が生じているかを判別することが可能である(表3~表5、及びこれらを参照した上記の説明も参照。)。
【0163】
しかし、ノイズ低減優先モードでは、
図42に示すように、力行時と回生時とにおいて、3相交流波形の状態が同じ傾向を示す。つまり、力行時と回生時とのどちらの場合にも、オープン故障が生じている場合には、第1故障パターンFP1又は第2故障パターンFP2が故障パターンFPとして判別可能である。このため、どちらのインバータ10の上段側及び下段側でオープン故障が生じているかを判別することができない。そこで、回転電機制御装置1は、第1インバータ11及び第2インバータ12の何れか一方が故障インバータであると仮定し、その仮定の上で、シングルインバータ制御領域Rsにおいて故障していないと仮定した方のインバータ10を介して回転電機80を駆動制御する(1-inv駆動)。
【0164】
その後、異常(オープン故障)が検出されなければ、仮定が正しかったこととなるので、故障と仮定した方のインバータ10を故障インバータとして確定させる。一方、さらに異常(オープン故障)が検出された場合には、仮定が誤っていたことになるので、故障と仮定した方ではないインバータ10を故障インバータとして確定させる。そして、正しい故障インバータが特定された状態で、シングルインバータ制御領域Rsにおいて故障していない方のインバータ10(正常インバータ)を介して回転電機80を駆動制御する(1-inv駆動)。
【0165】
以下、
図40のフローチャートも参照して説明する。
図36、
図37、
図42を参照して上述したように、インバータ10が混合パルス幅変調制御ではなく、一般的なパルス幅変調制御によりスイッチングされる場合においても、第1制御状態におけるオープン故障の検出によって、故障パターンFPを判別することができる(ステップ#5)。従って、ここでは、ステップ#5に続く処理について説明する。
【0166】
はじめに、ステップ#41において、回転電機80の動作点がシングルインバータ制御領域Rs内であるか否かが判定される。動作点がシングルインバータ制御領域Rs内でなければ、動作点がシングルインバータ制御領域Rs内と判定されるまで、例えばシャットダウン制御(SDN)やアクティブショートサーキット制御(ASC)、ゼロニュートン制御(0Nm)による減速が実行される(#42)。動作点がシングルインバータ制御領域Rsである場合には、回転電機80の制御モードがトルクモードに設定される(#43)。即ち、ステップ#42の減速のための制御を行っていない場合には、トルクモードが継続され、減速のための制御を行っている場合には、トルクモードに復帰することになる。
【0167】
ステップ#5においてオープン故障が検出された際の故障パターンFPは、第1故障パターンFP1又は第2故障パターンFP2である。従って、第1インバータ11及び第2インバータ12の何れのインバータ10においてオープン故障が生じているかは不明である。そこで、回転電機制御装置1は、何れか一方のインバータ10においてオープン故障が生じていると仮定する。即ち、回転電機制御装置1は、第1インバータ11及び第2インバータ12の何れか一方のインバータ10を、オープン故障を生じた故障インバータと仮定して故障仮定インバータに設定し、他方のインバータ10を故障していない正常インバータと仮定して、正常仮定インバータに設定する(#51)。ここでは、第1インバータ11を正常仮定インバータ(NORMAL)と設定し、第2インバータ12を故障仮定インバータ(OPEN-FAIL)と設定している。当然ながらこの仮定は逆であってもよい。
【0168】
例えば、ステップ#5においてオープン故障が検出された際の故障パターンFPが第1故障パターンFP1であったとすれば、故障側アームは、第1インバータ11の上段側アーム又は第2インバータ12の下段側アームである。ステップ#51において、第2インバータ12を故障仮定インバータに設定しているので、故障側アームは、第2インバータ12の下段側アームであると仮定されていることになる。即ち、第2インバータ12の下段側アームは、故障側仮定アームとして設定される。
【0169】
ステップ#52では、ステップ#51で設定された故障仮定インバータと、ステップ#5で判別された故障パターンFPとに基づいて、オープン故障(OPEN-FAIL)を生じている故障側アーム(故障側仮定アーム)が、上段側アームであるか、下段側アームであるかを判定する。ここでは、故障側アームは、下段側アームであるから、回転電機制御装置1は、第2インバータ12を上段側アクティブショートサーキット制御(ASC-H)により制御し、第1インバータ11をパルス幅変調制御により制御する(#53a(#53))。
【0170】
新たな制御形態によるインバータ10のスイッチングが開始されると、相電流が再積算され始める(#54a(#54))。即ち、3相電流(Iu,Iv,Iw)の積算値が一度リセットされ、再度、積算電流(ΣIu,ΣIv,ΣIw)が演算される。次に、ステップ#55a(#55)において、これらの積算電流(ΣIu,ΣIv,ΣIw)に基づき、オープン故障が検出されるか否かが判定される。ここで、オープン故障が検出された場合には、ステップ#51及びステップ#52における仮定に誤りがあったということになる。つまり、故障側アームは、第2インバータ12の下段側アームではなく、第1故障パターンFP1における他方側である第1インバータ11の上段側アームということが判る。
【0171】
回転電機制御装置1は、故障箇所(FAIL)が、第1インバータ11の上段側アーム(inv1-HIGH)であると設定する(#56a(#56))。そして、回転電機制御装置1は、上段側アームにオープン故障が生じている第1インバータ11を下段側アクティブショートサーキット制御(ASC-L)により制御すると共に、第2インバータ12をパルス幅変調により制御する(#57a(#57))。そして、1つのインバータ10で回転電機80を駆動するシングルインバータ駆動制御(1-inv駆動)を実行する(#65(#60))。
【0172】
ステップ#55a(#55)において、オープン故障が検出されなかった場合は、ステップ#51及びステップ#52における仮定が正しかったということになる。つまり、故障側アームは、仮定の通り、第2インバータ12の下段側アームであるということが判る。故障箇所(FAIL)は、第2インバータ12の下段側アーム(inv2-LOW)であると設定される(#56b(#56))。そして、回転電機制御装置1は、下段側アームにオープン故障が生じている第2インバータ12を上段側アクティブショートサーキット制御(ASC-H)により制御すると共に、第1インバータ11をパルス幅変調により制御する(#57b(#57))。そして、1つのインバータ10で回転電機80を駆動するシングルインバータ駆動制御(1-inv駆動)を実行する(#65(#60))。
【0173】
ステップ#52からステップ#53b(#53)、#54b(#54)、#55b(#55)、#56c(#56)、#57c(#57)、#65(#60)と遷移する経路も同様であるから、詳細な説明は省略する。また、ステップ#55b(#55)からステップ#56d(#56)、#57d(#27)、#65(#60)と遷移する経路についても同様であるから詳細な説明は省略する。尚、ノイズ低減優先モードでは、一般的なパルス幅変調制御によりインバータ10がスイッチングされている。このため、シングルインバータ駆動制御(1-inv駆動)の実行に際して、混合パルス幅変調制御から一般的なパルス幅変調制御へ制御方式を変更しなくてもよい。
【0174】
このように、インバータ10の制御方式が混合パルス幅変調制御ではない場合も、回転電機制御装置1は、それぞれの電流積算値(ΣIu,ΣIv、ΣIw)の正負に基づき、オープン故障の故障パターンFPが、第1故障パターンFP1であるか、第2故障パターンFP2であるかを判別し、その後、第1インバータ11及び第2インバータ12の何れか一方のインバータ10を、故障インバータと仮定して故障仮定インバータとする。そして、回転電機制御装置1は、判別された故障パターンFPに基づいて、当該故障仮定インバータの上段側アーム及び下段側アームの内、故障側アームと仮定される故障側仮定アームのスイッチング素子3の全てをオフ状態とし、他方の側の非故障側仮定アームのスイッチング素子3の全てをオン状態としてアクティブショートサーキット制御を行うと共に、故障仮定インバータとは異なるインバータ10(正常仮定インバータ)をスイッチング制御する。その後、回転電機制御装置1は、それぞれの電流積算値(ΣIu,ΣIv、ΣIw)の正負に基づき、オープン故障が検出されなかった場合には、故障仮定インバータが故障インバータであると判別すると共に、故障側仮定アームが故障側アームであると判別する。オープン故障が検出された場合には、回転電機制御装置1は、故障仮定インバータとは異なるインバータ10が故障インバータであると判別すると共に、故障パターンFPに基づいて当該故障インバータにおける故障側アームを判別する。
【0175】
尚、
図40のフローチャートを参照して上述したような、故障インバータを仮定する方法は、当然ながら、制御方式が混合パルス幅変調制御の場合にも適用可能である。
【0176】
また、上記においては、第1インバータ11及び第2インバータ12の何れか一方が故障インバータであると仮定して、故障インバータを判別すると共に、故障箇所を特定する形態を例示した。しかし、
図41のフローチャートに示すように、制御方式をパルス幅変調制御から混合パルス幅変調制御に変更した上で、$5を経由して、
図32~
図34を参照して上述した第1故障箇所判別処理(#10)、又は第2故障箇所判別処理(#20)により、故障インバータを判別すると共に、故障箇所を特定してもよい。
【0177】
即ち、回転電機制御装置1は、第1インバータ11及び第2インバータ12の双方のインバータ10を、混合パルス幅変調制御ではなく、第2期間T2においてもパターンの異なる複数のパルスが出力されて電気角の一周期を通してパターンの異なる複数のパルスが出力されるパルス幅変調制御、又は電気角の一周期において1つのパルスが出力される矩形波制御により制御している場合に、第1制御状態においてオープン故障の発生を検出した場合には、第1制御状態において、故障パターンFPを判別し、その後、第1インバータ11及び第2インバータ12の双方のインバータ10の制御方式を混合パルス幅変調制御に変更して、第2制御状態において、下段側故障パターンLFであるか否かを判別し、その後、第1制御状態の判別結果と第2制御状態の判別結果とに基づいて、故障側アームを判別してもよい。
【0178】
上述したように、ノイズ低減優先モードでは、力行時と回生時とのどちらの場合にも、オープン故障が生じている場合には、第1故障パターンFP1又は第2故障パターンFP2が故障パターンFPとして判別可能である。従って、ノイズ低減優先モードでは、第1制御状態に力行及び回生が含まれる。つまり、制御方式を混合パルス幅変調制御に変更する前における第1制御状態には、力行及び回生が含まれる。制御方式を混合パルス幅変調制御に変更した後の第2制御状態は、損失低減優先モードと同様に、回生、又は超低回転速度の力行である。
【0179】
以上説明したように、本実施形態によれば、オープン巻線のステータコイル8の両端にそれぞれ備えられた2つのインバータ10を構成するスイッチング素子3の内の1つが、オープン故障を生じた場合に、故障箇所を特定することができる。
【0180】
〔実施形態の概要〕
以下、上記において説明した回転電機制御装置(1)の概要について簡単に説明する。
【0181】
1つの態様として、互いに独立した複数相のオープン巻線(8)を有する回転電機(80)を、第1インバータ(11)及び第2インバータ(12)を介して駆動制御する回転電機制御装置(1)であって、前記第1インバータ(11)は、複数相の前記オープン巻線(8)の一端側に接続されて直流と複数相の交流との間で電力を変換し、前記第2インバータ(12)は、複数相の前記オープン巻線(8)の他端側に接続されて直流と複数相の交流との間で電力を変換し、前記第1インバータ(11)及び前記第2インバータ(12)は、それぞれ交流1相分のアーム(3A)が上段側スイッチング素子(3H)と下段側スイッチング素子(3L)との直列回路により構成され、前記第1インバータ(11)と前記第2インバータ(12)とのそれぞれを、互いに独立して制御可能であり、前記第1インバータ(11)及び前記第2インバータ(12)の何れか一方のインバータ(10)において、1つのスイッチング素子(3)が常に開放状態となるオープン故障が生じた場合に、複数相の交流電流(Iu,Iv,Iw)のそれぞれを積算して各相の電流積算値(ΣIu,ΣIv、ΣIw)を演算し、それぞれの前記電流積算値(ΣIu,ΣIv、ΣIw)の正負に基づいて、前記オープン故障の発生を検出すると共に、前記オープン故障が生じた箇所を判別するものであり、前記回転電機の制御状態が、前記回転電機の回転速度が予め規定された第1規定回転速度以上での力行である状態を第1制御状態とし、前記回転電機の制御状態が、前記回転電機の回転速度が前記第1規定回転速度よりも低い第2規定回転速度以下での力行である状態、又は、前記回転電機の制御状態が回生である状態を第2制御状態として、前記第1インバータ(11)及び前記第2インバータ(12)の双方の前記インバータ(10)を、電気角の1/2周期である第1期間においてパターンの異なる複数のパルスが出力され、残りの1/2周期である第2期間において非有効状態が継続するように制御される混合パルス幅変調制御により制御している際に、前記オープン故障の発生を検出した場合には、第1制御状態におけるそれぞれの前記電流積算値(ΣIu,ΣIv、ΣIw)の正負に基づき、前記第1インバータ(11)の上段側アーム又は前記第2インバータ(12)の下段側アームの何れかが前記オープン故障を生じた故障側アームである第1故障パターン(FP1)、及び、前記第1インバータ(11)の下段側アーム又は前記第2インバータ(12)の上段側アームの何れかが前記故障側アームである第2故障パターン(FP2)、の何れの故障パターン(FP)であるかを判別し、前記第2制御状態におけるそれぞれの前記電流積算値(ΣIu,ΣIv、ΣIw)に基づき、前記第2インバータ(12)の前記下段側アームが前記故障側アームである第1下段側故障パターン(LF1)、及び前記第1インバータ(11)の前記下段側アームが前記故障側アームである第2下段側故障パターン(LF2)、の何れの下段側故障パターン(LF)であるかを判別し、前記第1制御状態における判別結果と、前記第2制御状態における判別結果とに基づいて、前記第1インバータ(11)の前記上段側アーム、前記第1インバータ(11)の前記下段側アーム、前記第2インバータ(12)の前記上段側アーム、前記第2インバータ(12)の前記下段側アームの何れが前記故障側アームであるかを判別する。
【0182】
発明者らによる実験やシミュレーションによれば、2つのインバータ(10)の内の何れか一方にスイッチング素子(3)のオープン故障が生じた場合、3相電流波形が非対称で歪んだ波形となることが確認された。例えば、ある相の交流電流の波形は、正側に大きく偏向し、またある相の交流電流の波形は、負側に大きく偏向する。そして、交流電流(Iu,Iv,Iw)を所定時間に亘って積算すると、この偏向の傾向がより顕著に現れる。偏向の方向は、オープン故障したスイッチング素子(3)の位置によって異なる。従って、電流積算値(ΣIu,ΣIv,ΣIw)の正負に基づけば、オープン故障が生じたこと、及びオープン故障がどちらのインバータ(10)の上段側アーム及び下段側アームの何れにおいて生じているかを判別することができる。また、発明者らの実験やシミュレーションによれば、第2制御状態では、上段側アームにおいてオープン故障が生じている場合には、オープン故障の検出自体が困難であるが、下段側アームにおいてオープン故障が生じている場合には、オープン故障の検出が可能、且つ、どちらのインバータ(10)における故障であるかの判別が可能である。第1制御状態では、上段側アーム及び下段側アームの何れにおいてオープン故障が生じていても、オープン故障の検出が可能である。しかし、第1制御状態では、故障パターン(FP)が、第1故障パターン(FP1)であるか、第2故障パターン(FP2)であるかの判別は可能であるが、どちらのインバータ(10)であるかの判別はできない。本構成によれば、オープン故障が下段側アームで生じている場合には、少なくとも第2制御状態における判別結果に基づいて、故障側アームを判別することができる。また、オープン故障が上段側アームで生じている場合であっても、下段側アームで生じている場合であっても、第1制御状態における判別結果と第2制御状態における判別結果との双方に基づけば、故障側アームを判別することができる。このように、本構成によれば、オープン巻線(8)の両端にそれぞれ備えられた2つのインバータ(10)を構成するスイッチング素子(3)の内の1つが、オープン故障を生じた場合に、故障箇所を特定することができる。
【0183】
回転電機制御装置(1)は、前記第1制御状態において前記第1故障パターン(FP1)であると判別され、前記第2制御状態において前記下段側故障パターン(LF)であると判別された場合には、前記第2インバータ(12)の前記下段側アームが前記故障側アームであると判別し、前記第1制御状態において前記第1故障パターン(FP1)であると判別され、前記第2制御状態において前記下段側故障パターン(LF)ではないと判別された場合には、前記第1インバータ(11)の前記上段側アームが前記故障側アームであると判別し、前記第1制御状態において前記第2故障パターン(FP2)であると判別され、前記第2制御状態において前記下段側故障パターン(LF)であると判別された場合には、前記第1インバータ(11)の前記下段側アームが前記故障側アームであると判別し、前記第1制御状態において前記第2故障パターン(FP2)であると判別され、前記第2制御状態において前記下段側故障パターン(LF)ではないと判別された場合には、前記第2インバータ(12)の前記上段側アームが前記故障側アームであると判別すると好適である。
【0184】
この構成によれば、第1制御状態において判別される故障パターン(FP)と、第2制御状態において判別される下段側故障パターン(LF)であるか否かの判別結果とに基づいて、適切に故障側アームを特定することができる。
【0185】
また、回転電機制御装置(1)は、複数の前記電流積算値(ΣIu,ΣIv、ΣIw)の内の1相の前記電流積算値が負であり、他の相の前記電流積算値が正の場合に、前記第1故障パターン(FP1)と判別し、複数の前記電流積算値(ΣIu,ΣIv、ΣIw)の内の1相の前記電流積算値が正であり、他の相の前記電流積算値が負の場合に、前記第2故障パターン(FP2)と判別すると好適である。
【0186】
発明者らの実験やシミュレーションにより、オープン故障したスイッチング素子(3)を含む相の交流電流は、第1制御状態の際に、他の相の交流電流とは異なる傾向で偏向することが確認された。従って、上述したような偏向の傾向に基づいて、故障箇所を特定することができる。
【0187】
また、回転電機制御装置(1)は、複数の前記電流積算値(ΣIu,ΣIv、ΣIw)の内の1相の前記電流積算値が負であり、他の相の前記電流積算値が正の場合に、前記第1下段側故障パターン(LF1)であると判別し、複数の前記電流積算値(ΣIu,ΣIv、ΣIw)の内の1相の前記電流積算値が正であり、他の相の前記電流積算値が負の場合に、前記第2下段側故障パターン(LF2)であると判別すると好適である。
【0188】
発明者らの実験やシミュレーションにより、オープン故障したスイッチング素子(3)を含む相の交流電流は、第2制御状態の際に、他の相の交流電流とは異なる傾向で偏向することが確認された。従って、上述したような偏向の傾向に基づいて、故障箇所を特定することができる。
【0189】
また、前記第1制御状態は、前記回転電機(80)の回転速度が予め規定された第1規定回転速度以上での力行であり、前記第2制御状態は、回生であると好適である。
【0190】
発明者らの実験やシミュレーションによれば、オープン故障を生じている場合に、混合パルス幅変調制御によりインバータ(10)をスイッチング制御すると、力行と回生とによって、交流電流(Iu,Iv,Iw)の挙動が異なることが確認された。従って、第1制御状態を力行、第2制御状態を回生とすることによって、適切に故障アームを判別することができる。
【0191】
また、前記回転電機制御装置(1)は、前記第2制御状態が回生であり、前記第2制御状態において、前記オープン故障の発生が検出された場合は、前記オープン故障に起因する複数相の交流電流(Iu,Iv,Iw)の歪みを抑制する回生フェールアクションを実行すると好適である。
【0192】
発明者らの実験やシミュレーションによれば、上段側アームにオープン故障が生じている場合、第2制御状態においては交流電流(Iu,Iv,Iw)の波形に大きな歪みは生じない。従って、上段側アームにオープン故障が生じていても、第2制御状態では、一定の条件下において、オープン故障が生じてない場合と同様にインバータ(10)を制御する余地がある。本構成によれば、オープン故障に起因する複数相の交流電流(Iu,Iv,Iw)の歪みを抑制する回生フェールアクションを実行することによって、オープン故障が生じていても、オープン故障が生じてない場合と同様にインバータ(10)を制御することができる。
【0193】
ここで、前記回生フェールアクションは、前記第1インバータ(11)の前記上段側アームのスイッチングパターンと前記第2インバータ(12)の前記下段側アームのスイッチングパターンとを入れ替えると共に、前記第1インバータ(11)の前記下段側アームのスイッチングパターンと前記第2インバータ(12)の前記上段側アームのスイッチングパターンとを入れ替えるものである、又は、前記第1インバータ(11)の前記上段側アームのスイッチングパターンと前記下段側アームのスイッチングパターンとを入れ替えると共に、前記第2インバータ(12)の前記上段側アームのスイッチングパターンと前記下段側アームのスイッチングパターンとを入れ替え、さらに、複数相の前記交流電流(Iu,Iv,Iw)のそれぞれの正負を反転させるものである、と好適である。
【0194】
発明者らの実験やシミュレーションによれば、上段側アームにオープン故障が生じている場合、第2制御状態においては交流電流(Iu,Iv,Iw)の波形に大きな歪みは生じない。本構成によれば、見かけ上、上段側アームと下段側アームとが入れ替えることで、オープン故障を生じている故障側アームを上段側アームとし、歪みが抑制された交流電流(Iu,Iv,Iw)を得ることができる。
【0195】
ここで、回生によって前記回転電機(80)の回転速度を低下させると好適である。
【0196】
この構成によれば、故障箇所を判別するための回生動作によって回転電機(80)の回転速度を低下させることで、故障箇所が判別した後に、1つのインバータ(10)を用いて回転電機(80)を駆動するなどの次の制御までのリードタイムを短縮することができる。
【0197】
また、前記第1制御状態は、前記回転電機(80)の回転速度が予め規定された第1規定回転速度以上での力行であり、前記第2制御状態は、前記第1規定回転速度よりも低い第2規定回転速度以下での力行であると好適である。
【0198】
発明者らの実験やシミュレーションによれば、オープン故障を生じている場合に、混合パルス幅変調制御によりインバータ(10)をスイッチング制御すると、同じ力行であっても、回転速度によって、交流電流(Iu,Iv,Iw)の挙動が異なることが確認された。特に、回転速度が低い場合には、回生と同様の挙動となることが確認された。従って、第1制御状態を力行、第2制御状態を第1制御状態よりも低い回転速度による力行とすることによって、適切に故障アームを判別することができる。
【0199】
また、回転電機制御装置(1)は、前記第1制御状態において、前記オープン故障の発生を検出すると共に前記故障パターン(FP)を判別し、その後、前記第2制御状態において、前記下段側故障パターン(LF)を判別し、その後、前記第1制御状態の判別結果と前記第2制御状態の判別結果とに基づいて、前記故障側アームを判別すると好適である。
【0200】
この構成によれば、第1制御状態を実現する制御と、第2制御状態を実現する制御とを順番に実行することによって、適切に故障側アームを判別することができる。
【0201】
また、回転電機制御装置(1)は、前記第1制御状態において、前記オープン故障の発生を検出すると共に前記故障パターン(FP)を判別した後、前記回転電機(80)の回転速度が予め規定された第1規定回転速度以上の場合には、回生を前記第2制御状態として前記下段側故障パターン(LF)を判別し、前記回転電機(80)の回転速度が前記第1規定回転速度未満の場合には、前記第1規定回転速度よりも低い第2規定回転速度以下での力行を前記第2制御状態として前記下段側故障パターン(LF)を判別すると好適である。
【0202】
力行から回生に制御形態を変更すると、回転電機(80)の回転速度が低下する。回転電機(80)の回転速度が低い場合には、回生することによって回転電機(80)が停止してしまう可能性がある。本構成によれば、回転電機(80)の回転速度が第1規定回転速度未満の場合には、回生ではなく第1規定回転速度以下での力行が行われるので、回転電機(80)を停止させることなく、適切に故障箇所を判別することができる。
【0203】
ここで、前記回転電機(80)の回転速度が予め規定された第1規定回転速度未満の場合、複数相全ての前記スイッチング素子(3)をオフ状態とするシャットダウン制御、又は前記回転電機(80)の出力トルクがゼロとなるように制御するゼロニュートン制御により、前記回転電機(80)の回転速度を前記第2規定回転速度以下まで低下させると好適である。
【0204】
この構成によれば、回生ができない回転速度の場合に、適切に第2規定回転速度以下まで回転電機(80)の回転速度を低下させて第2制御状態とすることができる。
【0205】
また、回転電機制御装置(1)は、前記第1インバータ(11)及び前記第2インバータ(12)の双方の前記インバータ(10)を、前記混合パルス幅変調制御ではなく、前記第2期間(T2)においてもパターンの異なる複数のパルスが出力されて電気角の一周期を通してパターンの異なる複数のパルスが出力されるパルス幅変調制御、又は電気角の一周期において1つのパルスが出力される矩形波制御により制御している場合に、前記第1制御状態において前記オープン故障の発生を検出した場合には、前記第1制御状態において、前記故障パターン(FP)を判別し、その後、前記第1インバータ(11)及び前記第2インバータ(12)の双方の前記インバータ(10)の制御方式を前記混合パルス幅変調制御に変更して、前記第2制御状態において、前記下段側故障パターン(LF)を判別し、その後、前記第1制御状態の判別結果と前記第2制御状態の判別結果とに基づいて、前記故障側アームを判別すると好適である。
【0206】
発明者らによる実験やシミュレーションによれば、2つのインバータ(10)が混合パルス幅変調制御によってスイッチング制御される場合には、上述したように、オープン故障が生じた場合に、第1制御状態と第2制御状態とで、交流電流(Iu,Iv,Iw)の挙動に違いが観測されるが、例えば一般的に知られたパルス幅変調制御によってスイッチング制御される場合には、そのような違いが観測されないことが判った。但し、オープン故障が生じた場合には、オープン故障が生じたこと、及び、故障パターン(FP)が第1故障パターン(FP1)であるか第2故障パターン(FP2)であるかは判別される。本構成によれば、第1制御状態においてこれらが判別された後、インバータ(10)の制御方式が混合パルス幅変調制御に変更されて第2制御状態が実現される。従って、第1制御状態と第2制御状態とにおいて、交流電流(Iu,Iv,Iw)の挙動に違いが観測され、故障側アームを判別することができる。
【0207】
また、1つの態様として、互いに独立した複数相のオープン巻線(8)を有する回転電機(80)を、第1インバータ(11)及び第2インバータ(12)を介して駆動制御する回転電機制御装置(1)は、前記第1インバータ(11)は、複数相の前記オープン巻線(8)の一端側に接続されて直流と複数相の交流との間で電力を変換し、前記第2インバータ(12)は、複数相の前記オープン巻線(8)の他端側に接続されて直流と複数相の交流との間で電力を変換し、前記第1インバータ(11)及び前記第2インバータ(12)は、それぞれ交流1相分のアーム(3A)が上段側スイッチング素子(3H)と下段側スイッチング素子(3L)との直列回路により構成され、前記第1インバータ(11)と前記第2インバータ(12)とのそれぞれを、互いに独立して制御可能であり、前記第1インバータ(11)及び前記第2インバータ(12)の何れか一方のインバータ(10)において、1つのスイッチング素子(3)が常に開放状態となるオープン故障が生じた場合に、複数相の交流電流(Iu,Iv,Iw)のそれぞれを積算して各相の電流積算値(ΣIu,ΣIv、ΣIw)を演算し、それぞれの前記電流積算値(ΣIu,ΣIv、ΣIw)の正負に基づいて、前記オープン故障の発生を検出すると共に、前記オープン故障が生じた箇所を判別するものであり、前記オープン故障の発生を検出した場合には、それぞれの前記電流積算値(ΣIu,ΣIv、ΣIw)の正負に基づき、前記第1インバータ(11)の上段側アーム又は前記第2インバータ(12)の下段側アームの何れかに前記オープン故障が生じた第1故障パターン(FP1)、前記第1インバータ(11)の下段側アーム又は前記第2インバータ(12)の上段側アームの何れかに前記オープン故障が生じた第2故障パターン(FP2)、の何れかの故障パターン(FP)であるかを判別し、その後、前記第1インバータ(11)及び前記第2インバータ(12)の何れか一方の前記インバータ(10)を、前記オープン故障を生じた故障インバータと仮定して故障仮定インバータとし、判別された前記故障パターン(FP)に基づいて、当該故障仮定インバータの前記上段側アーム及び前記下段側アームの内、前記オープン故障が生じている故障側アームと仮定される故障側仮定アームの前記スイッチング素子(3)の全てをオン状態とし、他方の側の非故障側仮定アームの前記スイッチング素子(3)の全てをオン状態としてアクティブショートサーキット制御を行うと共に、前記故障仮定インバータとは異なる前記インバータ(10)をスイッチング制御し、その後、それぞれの前記電流積算値(ΣIu,ΣIv、ΣIw)の正負に基づき、前記オープン故障が検出されなかった場合には、前記故障仮定インバータが前記故障インバータであると判別すると共に、前記故障側仮定アームが前記故障側アームであると判別し、前記オープン故障が検出された場合には、前記故障仮定インバータとは異なる前記インバータ(10)が前記故障インバータであると判別すると共に、前記故障パターン(FP)に基づいて当該故障インバータにおける前記故障側アームを判別する。
【0208】
この構成によれば、オープン故障が生じていることが検出されている場合に、故障側アームを仮定して故障側仮定アームとし、当該故障側仮定アームがオープン故障しても可能な形態でインバータ(10)がスイッチング制御される。この状態で、再度、オープン故障であることが検出されなければ、仮定が正しかったことが判り、再度、オープン故障であることが検出されれば、仮定が誤りであったことが判る。従って、本構成によれば、故障側アームを特定することができる。
【0209】
ここで、回転電機制御装置(1)は、前記オープン故障の発生を検出した場合に、前記第1故障パターン(FP1)及び前記第2故障パターン(FP2)の何れの故障パターン(FP)であるかを判別し、その後、前記アクティブショートサーキット制御、又は複数相全ての前記スイッチング素子(3)をオフ状態とするシャットダウン制御、又は前記回転電機(80)の出力トルクがゼロとなるように制御するゼロニュートン制御により、前記回転電機(80)の回転速度を低下させ、その後、前記故障仮定インバータとは異なる前記インバータ(10)をスイッチング制御すると好適である。
【0210】
故障仮定インバータとは異なるインバータ(10)のみで回転電機(80)が駆動される場合、回転電機(80)の動作領域は、2つのインバータ(10)を用いて駆動される場合に比べて狭くなり、例えば、動作可能な回転速度も低くなる。この構成によれば、故障仮定インバータとは異なるインバータ(10)をスイッチング制御する前に回転電機(80)の回転速度を低下させることで、適切に当該インバータ(10)のみで回転電機(80)を駆動することができる。
【0211】
また、回転電機制御装置(1)は、前記オープン故障の発生により、過電流状態が生じた場合には、複数相全ての前記スイッチング素子(3)をオフ状態とするシャットダウン制御、又は、複数相全ての前記アーム(3A)の前記上段側スイッチング素子(3H)をオン状態とする又は複数相全ての前記アーム(3A)の前記下段側スイッチング素子(3L)をオン状態とするアクティブショートサーキット制御により、前記回転電機(80)の回転速度を低下させて前記過電流状態を解消させ、その後、前記故障側アームを判別すると好適である。
【0212】
発明者らの実験やシミュレーションによれば、例えば回転電機(80)の出力トルクが大きく、回転速度も高いような動作点においてオープン故障が生じた場合などでは、3相交流電流の瞬時値が非常に大きな値となる場合があることが確認された。このような場合には、過電流状態であることが検出され、一般的には、インバータ(10)の制御が制限される。従って、このような場合には、過電流状態を解消させた後に、故障側アームを判別することが好適である。
【0213】
また、回転電機制御装置(1)は、前記第1インバータ(11)及び前記第2インバータ(12)の内、前記オープン故障を生じた前記インバータ(10)を故障インバータとし、前記故障インバータとは異なる前記インバータ(10)を正常インバータとし、前記故障インバータの前記上段側アーム及び前記下段側アームの内、前記故障側アームとは逆側を非故障側アームとして、前記故障インバータの前記故障側アームの前記スイッチング素子(3)の全てをオフ状態とし、前記非故障側アームの前記スイッチング素子(3)の全てをオン状態とするアクティブショートサーキット制御を行うと共に、前記正常インバータを介して前記回転電機(80)を駆動するシングルインバータ駆動制御を行うと好適である。
【0214】
オープン巻線(8)の両端にそれぞれインバータ(10)が接続されている場合、故障インバータをアクティブショートサーキット制御によって短絡させると、複数相のオープン巻線(8)が故障インバータにおいて短絡される。つまり、故障インバータが中性点となって、オープン巻線(8)がY型結線されることになる。故障インバータの上段側アームと下段側アームとの内、オープン故障したスイッチング素子(3)を含む故障側アームがオフ状態となってアクティブショートサーキット制御されるため、オープン故障しているスイッチング素子(3)はオープン故障していない状態と等価となる。従って、回転電機制御装置1は、正常インバータを介してY型結線されたオープン巻線(8)を備えた回転電機(80)を適切に駆動制御することができる。
【0215】
ここで、回転電機制御装置(1)は、電気角の一周期を通してパターンの異なる複数のパルスが出力されるパルス幅変調制御により前記シングルインバータ駆動制御を行うと好適である。
【0216】
混合パルス幅変調制御では、第2期間(T2)においてスイッチング制御信号が非有効状態となり、システム損失を低減することができる。第1インバータ(11)と第2インバータ(12)とで互いに異なる期間を第2期間(T2)とすることで、全体としては、連続して複数のパルスによってスイッチングされる状態が実現できる。しかし、シングルインバータ駆動制御では、何れか一方のインバータ(10)のみがスイッチングされるため、混合パルス幅変調制御では、交流波形に歪みが生じることになる。従って、シングルインバータ駆動制御は、電気角の一周期を通してパターンの異なる複数のパルスが出力されるパルス幅変調制御により実行されると好適である。
【符号の説明】
【0217】
1 :回転電機制御装置
3 :スイッチング素子
3A :アーム
3H :上段側スイッチング素子
3L :下段側スイッチング素子
8 :ステータコイル(オープン巻線)
10 :インバータ
11 :第1インバータ
12 :第2インバータ
80 :回転電機
FP :故障パターン
FP1 :第1故障パターン
FP2 :第2故障パターン
LF :下段側故障パターン
LF1 :第1下段故障パターン
LF2 :第2下段故障パターン
T1 :第1期間
T2 :第2期間