(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-22
(45)【発行日】2024-01-30
(54)【発明の名称】研磨用添加剤含有液の濾過方法、研磨用添加剤含有液、研磨用組成物、研磨用組成物の製造方法およびフィルタ
(51)【国際特許分類】
H01L 21/304 20060101AFI20240123BHJP
C09G 1/02 20060101ALI20240123BHJP
B24B 37/00 20120101ALI20240123BHJP
B24B 57/02 20060101ALI20240123BHJP
【FI】
H01L21/304 622C
C09G1/02
H01L21/304 622D
B24B37/00 H
B24B57/02
(21)【出願番号】P 2019146778
(22)【出願日】2019-08-08
【審査請求日】2022-05-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000236702
【氏名又は名称】株式会社フジミインコーポレーテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100117606
【氏名又は名称】安部 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100136423
【氏名又は名称】大井 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100154449
【氏名又は名称】谷 征史
(74)【代理人】
【識別番号】100174159
【氏名又は名称】梅原 めぐみ
(72)【発明者】
【氏名】古田 慎二
(72)【発明者】
【氏名】早川 隆志
(72)【発明者】
【氏名】芦▲高▼ 圭史
(72)【発明者】
【氏名】三輪 直也
(72)【発明者】
【氏名】土屋 公亮
(72)【発明者】
【氏名】丹所 久典
(72)【発明者】
【氏名】秋月 麗子
【審査官】湯川 洋介
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2011/108418(WO,A1)
【文献】特開2016-089297(JP,A)
【文献】特開2014-173013(JP,A)
【文献】特開2012-044056(JP,A)
【文献】特開2015-045114(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/304
C09G 1/02
B24B 37/00
B24B 57/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
研磨用添加剤を含有する液の濾過方法であって、
以下の特性:
パームポロメータで測定される平均孔径Pが0.15μm以下である;および
SEM観察により測定される入口側平均孔径S
inと出口側平均孔径S
outの比である孔径勾配(S
in/S
out)が3以下である;
を有するフィルタによって前記液を濾過する工程を含
み、
ここで、前記研磨用添加剤は水溶性高分子を含み、
前記研磨用添加剤含有液は、砥粒を実質的に含まない、方法。
【請求項2】
前記水溶性高分子はセルロース誘導体を含む、請求項
1に記載の方法。
【請求項3】
前記液は水を含み、
前記水溶性高分子は、その少なくとも一部が前記水に溶解している、請求項
1または
2に記載の方法。
【請求項4】
前記液は、1または2以上の予備濾過を経た濾液である、請求項1から
3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
請求項1から
4のいずれか一項に記載の方法で濾過された研磨用添加剤含有液。
【請求項6】
以下の特性:
パームポロメータで測定される平均孔径Pが0.15μm以下である;および
SEM観察により測定される入口側平均孔径S
inと出口側平均孔径S
outの比である孔径勾配(S
in/S
out)が3以下である;
を有するフィルタによって濾過された研磨用添加剤含有液に含まれる研磨用添加剤を含む、研磨用組成物
であって、
前記研磨用添加剤は水溶性高分子を含み、
前記研磨用添加剤含有液は、砥粒を実質的に含まない、研磨用組成物。
【請求項7】
以下の特性:
パームポロメータで測定される平均孔径Pが0.15μm以下である;および
SEM観察により測定される入口側平均孔径S
inと出口側平均孔径S
outの比である孔径勾配(S
in/S
out)が3以下である;
を有するフィルタによって濾過された研磨用添加剤含有液に含まれる研磨用添加剤を含ませることを特徴と
し、
前記研磨用添加剤は水溶性高分子を含み、
前記研磨用添加剤含有液は、砥粒を実質的に含まない、研磨用組成物の製造方法。
【請求項8】
研磨用添加剤を含有する液の濾過に用いられるフィルタであって、
以下の特性:
パームポロメータで測定される平均孔径Pが0.15μm以下である;および
SEM観察により測定される入口側平均孔径S
inと出口側平均孔径S
outの比である孔径勾配(S
in/S
out)が3以下である;
を有
し、
ここで、前記研磨用添加剤は水溶性高分子を含み、
前記研磨用添加剤含有液は、砥粒を実質的に含まない、フィルタ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、添加剤含有液の濾過方法に関する。詳しくは、研磨用組成物に含有されて用いられる添加剤(研磨用添加剤)を含有する液の濾過方法に関する。
【背景技術】
【0002】
金属や半金属、非金属、その酸化物等の材料表面に対して、研磨用組成物を用いた精密研磨が行われている。上記研磨用組成物や研磨用組成物に用いられる成分は、一般に、表面平滑性低下の原因となり得る粗大粒子や異物を除去、低減することを目的として各種フィルタによって濾過された後、研磨に供される。この種の技術に関する先行技術文献として特許文献1および2が挙げられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平11-302633号公報
【文献】特開2017-75316号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年、シリコンウェーハ等の半導体基板その他の基板について、より高品位の表面が要求されるようになってきており、従来は問題とされてこなかったレベルでの欠陥抑制が求められている。このため、研磨用組成物に含まれる粗大粒子や異物について、より高精度に除去、低減することが求められている。例えば、特許文献2に記載の技術では、砥粒含有液に対してフィルタ濾過がなされている。しかしながら、上述するような基板の高品質化の流れから、砥粒または砥粒含有液の濾過だけでは十分でなくなりつつある。
【0005】
研磨用組成物には、砥粒だけでなく、種々の研磨性能向上の観点から各種添加剤(研磨用添加剤)が含まれる。これら各種添加剤に由来する粗大粒子や異物は、砥粒や砥粒由来の粗大粒子に比べて相対的に粒径が小さい傾向にあるため、比較的大径の砥粒と同時には除去することが困難である。そこで、添加剤由来の粗大粒子や異物を高精度に除去するためには、添加剤または添加剤含有液をフィルタ濾過することが有効である。
【0006】
このような添加剤含有液の濾過においては、添加剤由来の粗大粒子が比較的小径であるため、従来の研磨用組成物の濾過で用いられるフィルタよりも高精度の(即ち、より小径の粒子を除去する目的で構成された)フィルタが必要となる場合がある。しかしながら、一般に、高精度のフィルタによる濾過は、フィルタ目詰まりを起こしやすい傾向にあり、濾過を始めてから比較的早期のうちに濾過流量が低下する。このため、添加剤含有液の濾過において、添加剤由来の粗大粒子や異物の除去精度を向上させることと、フィルタの長寿命や低圧力損失、高流量とを両立して実現することは困難であった。
【0007】
本発明は、かかる事情に鑑みてなされたものであって、研磨用添加剤含有液の濾過において、実用的なフィルタのライフ(寿命)を維持しつつ、優れた欠陥低減能を示す研磨用組成物を実現し得る、研磨用添加剤含有液の濾過方法を提供することを目的とする。本発明の関連する他の目的は、上記濾過方法により濾過された研磨用添加剤含有液を提供することである。また、本発明の関連する他の目的は、上記濾過された研磨用添加剤含有液に含まれる研磨用添加剤を含む研磨用組成物を提供することである。本発明の関連する他の目的は、研磨用組成物の製造方法を提供することである。さらに、本発明の関連する他の目的は、研磨用添加剤含有液の濾過に用いられるフィルタを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明によると、研磨用添加剤を含有する液の濾過方法が提供される。上記濾過方法は、以下の特性:パームポロメータで測定される平均孔径Pが0.15μm以下である;および、SEM観察により測定される入口側平均孔径Sinと出口側平均孔径Soutの比である孔径勾配(Sin/Sout)が3以下である;を有するフィルタによって上記液を濾過する工程を含む。
【0009】
かかる特性を有するフィルタによると、パームポロメータで測定される平均孔径Pが0.15μm以下であるため、研磨用添加剤由来の比較的粒径の小さい粗大粒子であっても、適切に捕捉することができる。また、孔径勾配(Sin/Sout)が3以下であると、濾過においてフィルタ目詰まりが生じにくく、フィルタライフが改善されやすい。したがって、かかる濾過方法によると、添加剤含有液の濾過において実用的な濾過フィルタのライフを維持しつつ、研磨用添加剤由来の粗大粒子や異物の除去、低減が高精度に行われ得る。
【0010】
ここに開示される技術の好ましい一態様において、上記研磨用添加剤は、水溶性高分子を含む。水溶性高分子を含む液において、水溶性高分子は、その一部が低溶解性体、会合体、高分子量体等の状態となることがあり、かかる水溶性高分子は、粗大粒子発生の要因となり得る。本明細書に記載の技術によると、フィルタライフを維持しながら、上述するような水溶性高分子に由来する粗大粒子が高精度に除去され得る。このため、水溶性高分子を含む添加剤含有液に対して、ここに開示される技術を適用することは有意義である。
【0011】
ここに開示される技術の好ましい一態様において、上記水溶性高分子はセルロース誘導体を含む。セルロース誘導体を含む液において、セルロース誘導体は、その一部が低溶解性体、会合体、高分子量体等の状態となることがあり、かかるセルロース誘導体は、粗大粒子発生の要因となり得る。ここに開示される技術は、セルロース誘導体を含む研磨用添加剤含有液に適用されて、より好適にフィルタライフの維持と、添加剤由来粗大粒子の除去または低減がなされ得る。
【0012】
ここに開示される技術の好ましい一態様において、上記液は水を含む。また、上記水溶性高分子は、その少なくとも一部が上記水に溶解している。本発明の技術は、水溶性高分子と水とを含み、該水溶性高分子の少なくとも一部が該水に溶解している研磨用添加剤含有液に適用されて、より好適にフィルタライフの維持と、添加剤由来粗大粒子の除去または低減がなされ得る。
【0013】
ここに開示される技術の好ましい一態様において、上記液は、砥粒を実質的に含まない。砥粒や砥粒由来の粗大粒子は、砥粒以外の添加剤や該添加剤由来の粗大粒子よりもサイズが大きい傾向にある。したがって、砥粒よりも平均サイズが小さい添加剤の高精度濾過のためには、砥粒を実質的に含まない形態で濾過することが有効である。ここに開示される濾過方法は、砥粒を実質的に含まない添加剤含有液に用いられて、フィルタ目詰まりを抑制しながら、添加剤含有液中の比較的小径の添加剤由来粗大粒子を精度よく捕捉して除去または低減することができる。
【0014】
ここに開示される技術の好ましい一態様において、上記液は、1または2以上の予備濾過を経た濾液である。かかる濾過方法によると、予備濾過により、フィルタ目詰まりの原因となり得る粗大粒子がある程度取り除かれた研磨用添加剤含有液に対して、特定のフィルタでの濾過を行うため、フィルタライフが改善されやすい。
【0015】
この明細書によると、ここに開示されるいずれかの方法で濾過された研磨用添加剤含有液が提供される。かかる研磨用添加剤含有液は、添加剤由来の粗大粒子や異物が高精度で除去または低減されたものとなりやすい。このような研磨用添加剤含有液は、該研磨用添加剤含有液に含まれる研磨用添加剤が研磨用組成物に含有されて用いられて、欠陥低減能を向上させる傾向がある。
【0016】
この明細書によると、以下の特性:パームポロメータで測定される平均孔径Pが0.15μm以下である;および、SEM観察により測定される入口側平均孔径Sinと出口側平均孔径Soutの比である孔径勾配(Sin/Sout)が3以下である;を有するフィルタによって濾過された研磨用添加剤含有液に含まれる研磨用添加剤を含む研磨用組成物が提供される。上記研磨用添加剤含有液に含まれる研磨用添加剤は、添加剤由来の粗大粒子や異物が高精度で除去または低減されたものとなり得る。このように粗大粒子等が除去または低減された研磨用添加剤を含む研磨用組成物は、より優れた欠陥低減能を有するものとなりやすい。
【0017】
この明細書によると、研磨用組成物の製造方法が提供される。上記製造方法は、以下の特性:パームポロメータで測定される平均孔径Pが0.15μm以下である;および、SEM観察により測定される入口側平均孔径Sinと出口側平均孔径Soutの比である孔径勾配(Sin/Sout)が3以下である;を有するフィルタによって濾過された研磨用添加剤含有液に含まれる研磨用添加剤を含ませることを特徴とする。上記特性を有するフィルタによる研磨用添加剤含有液の濾過により、研磨用組成物の欠陥低減能を悪化させ得る添加剤由来の粗大粒子や異物を、高精度で除去または低減させることができる。このため、上記方法によると、優れた欠陥低減能を有する研磨用組成物が製造され得る。
【0018】
この明細書によると、研磨用添加剤を含有する液の濾過に用いられるフィルタが提供される。上記フィルタは、以下の特性:パームポロメータで測定される平均孔径Pが0.15μm以下である;および、SEM観察により測定される入口側平均孔径Sinと出口側平均孔径Soutの比である孔径勾配(Sin/Sout)が3以下である;を有する。かかるフィルタによると、研磨用添加剤を含有する液の濾過に用いられて、実用的なフィルタライフを維持しつつ、該研磨用添加剤含有液に含まれる粗大粒子や異物の除去または低減を高精度に行うことができる。また、上記フィルタによると、欠陥低減性に優れた研磨用組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の好適な実施形態を説明する。なお、本明細書において特に言及している事項以外の事柄であって本発明の実施に必要な事柄は、当該分野における従来技術に基づく当業者の設計事項として把握され得る。本発明は、本明細書に開示されている内容と当該分野における技術常識とに基づいて実施することができる。
【0020】
<濾過方法>
(濾過対象液)
ここに開示される濾過方法において、その濾過対象は、研磨用添加剤を含有する液(以下、単に「添加剤含有液」ともいう。)である。ここで本明細書において、研磨用添加物(以下、単に「添加剤」ともいう。)は、研磨用組成物に含有されて用いられる成分全般のうち、砥粒を除く成分のことを指す。ただし、研磨用添加剤が砥粒を除く成分であるとは、添加剤自体が研磨対象物を機械的に研磨する機能を有することを排除する意味ではない。
【0021】
また、本明細書において、上記濾過対象である研磨用添加剤含有液のことは、濾過を経た濾液である研磨用添加剤含有液(以下、「添加剤含有濾液」ともいう。)と区別する目的で、便宜上「濾過対象液」ともいう。
【0022】
上記添加剤としては、特に制限されることなく、研磨用組成物の分野で通常使用される各種添加剤から選ばれて用いられ得る。上記添加剤の例としては、水溶性高分子、界面活性剤、塩基性化合物、水、キレート剤、有機酸、有機酸塩、無機酸、無機酸塩、防腐剤、防カビ剤、酸化剤等が挙げられる。これらの添加剤は一種を単独でまたは二種以上を組み合わせて用いることができる。
【0023】
(水溶性高分子)
ここに開示される技術は、研磨用添加剤として水溶性高分子を含む濾過対象液に対して、好ましく適用され得る。水溶性高分子を含む濾過対象液において、水溶性高分子の一部は、低溶解性体、会合体、高分子量体等の状態で存在することがある。これら低溶解性体等の水溶性高分子は、粗大粒子の要因となりやすい。ここに開示される技術によると、実用的なフィルタライフを維持しつつ、上述するような水溶性高分子に由来する粗大粒子が高精度に除去され得る。このため、水溶性高分子を含む濾過対象液に対して、ここに開示される技術を適用することは有意義である。
【0024】
水溶性高分子の種類は特に制限されず、カチオン基、アニオン基およびノニオン基から選ばれる少なくとも一種の官能基を有するものを使用することができる。水溶性高分子は、水酸基、カルボキシル基、アシル基、アシルオキシ基、スルホ基、アミド基、第四級アンモニウム構造、複素環構造、ビニル構造、ポリオキシアルキレン構造等を有するものであり得る。
【0025】
水溶性高分子の例としては、セルロース誘導体;デンプン誘導体;エチレンオキサイド(EO)とプロピレンオキサイド(PO)との共重合体等のオキシアルキレン単位を含むポリマー;ポリビニルアルコール(PVA)等のビニルアルコール系ポリマー;N-ビニル型のモノマー単位を含むポリマー、イミン誘導体、N-(メタ)アクリロイル型のモノマー単位を含むポリマー等の窒素原子を含有するポリマー;等が挙げられる。なかでも、粗大粒子が生じやすいために本発明を適用する意義が大きいこと、および、研磨用組成物に用いられて研磨性能を向上させ得るという観点から、ビニルアルコール系ポリマー、セルロース誘導体、N-(メタ)アクリロイル型のモノマー単位を含むポリマーが好ましく、セルロース誘導体がより好ましい。これらの水溶性高分子は、一種を単独でまたは二種以上を組み合わせて用いることができる。
【0026】
セルロース誘導体は、主たる繰返し単位としてβ-グルコース単位を含むポリマーである。セルロース誘導体の具体例としては、ヒドロキシエチルセルロース(HEC)、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシエチルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、メチルセルロース、エチルセルロース、エチルヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース等が挙げられる。なかでもHECが好ましい。
【0027】
水溶性高分子としては、特に限定されず、天然物に由来するポリマー、合成ポリマーのいずれも使用可能である。天然物由来ポリマーは、純度や異物の制御に限界があるため、ここに開示される濾過方法による効果が得られやすい。
【0028】
水溶性高分子(例えば、セルロース誘導体)の重量平均分子量(Mw)は、特に限定されない。研磨対象面の保護性や研磨性能向上の観点から、水溶性高分子のMwは、通常、0.4×104以上が適当であり、好ましくは1×104以上、より好ましくは10×104以上である。さらに好ましい一態様において、上記Mwは、例えば15×104以上、さらには20×104以上であってもよく、25×104以上でもよい。濾過対象液の濾過におけるフィルタライフ改善の観点からは、水溶性高分子のMwは凡そ300×104以下とすることができ、150×104以下が適当である。上記Mwは、例えば100×104以下であってもよく、50×104以下でもよく、40×104以下でもよい。
【0029】
なお、本明細書において、水溶性高分子のMwとしては、ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)に基づく値(水系、ポリエチレンオキサイド換算)を採用することができる。GPC測定装置としては、東ソー社製の機種名「HLC-8320GPC」を用いるとよい。測定条件は以下のとおりとするとよい。後述の実施例についても同様の方法が採用される。
[GPC測定条件]
サンプル濃度:0.1重量%
カラム:TSKgel GMPWXL
検出器:示差屈折計
溶離液:0.1mol/L NaNO3水溶液
流速:1.0mL/分
測定温度:40℃
サンプル注入量:200μL
【0030】
濾過対象液における水溶性高分子の含有量(濾過対象液が二以上の水溶性高分子を含む場合は、それらの合計含有量)は特に制限されない。例えば、濾過対象液における水溶性高分子の含有量は、0.001重量%以上とすることができ、0.01重量%以上とすることもできる。濾過効率の観点から、濾過対象液における水溶性高分子の含有量は、0.1重量%以上であることが好ましく、より好ましくは0.5重量%以上、さらに好ましくは0.8重量%以上(例えば、1.0重量%以上)である。フィルタライフ維持の観点から、濾過対象液における水溶性高分子の含有量は、30重量%以下であることが適切であり、好ましくは10重量%以下であり、より好ましくは5重量%以下であり、さらに好ましくは3重量%以下(例えば1.5重量%以下)である。
【0031】
ここに開示される濾過対象液は、好ましい一態様において、界面活性剤を含む。界面活性剤は、研磨液またはその濃縮液の分散安定性向上に寄与し得る。界面活性剤としては、特に限定されず、両性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、アニオン性界面活性剤およびノニオン性界面活性剤のいずれも使用可能である。また、界面活性剤としては、例えば、Mwが4000未満の有機化合物が用いられる。濾過対象液の濾過性や研磨対象物の洗浄性等の観点から、界面活性剤のMwは3500以下であることが好ましい。また、ここに開示される技術の好ましい一態様において、界面活性剤のMwは、100以上であり、より好ましくは200以上であり、さらに好ましくは250以上、特に好ましくは300以上である。上記Mwを有する界面活性剤を研磨用組成物に用いることにより、改善された研磨速度が得られやすい。
【0032】
界面活性剤のMwとしては、GPCにより求められる値(水系、ポリエチレングリコール換算)を採用することができる。GPCの測定条件は、水溶性高分子のMwの測定条件と同様とすることができる。上記条件でMwが測定できない場合、界面活性剤のMwとしては、化学式から算出される値を採用することができる。Mwが測定できない場合とは、例えば、界面活性剤のMwが小さい場合等が挙げられる。
【0033】
界面活性剤の例としては、例えば、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール等のオキシアルキレン重合体や、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルアミン、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレングリセリルエーテル脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール等のポリオキシアルキレン付加物や、複数種のオキシアルキレンの共重合体(ジブロック型、トリブロック型、ランダム型、交互型)等のノニオン性の界面活性剤が挙げられる。上記界面活性剤としては、ポリオキシアルキレン構造を含有する界面活性剤を用いることが好ましい。これらの界面活性剤は、一種を単独でまたは二種以上を組み合わせて用いることができる。
【0034】
ポリオキシアルキレン構造を含有するノニオン性界面活性剤の具体例としては、エチレンオキサイド(EO)とプロピレンオキサイド(PO)とのブロック共重合体(ジブロック型共重合体、PEO(ポリエチレンオキサイド)-PPO(ポリプロピレンオキサイド)-PEO型トリブロック体、PPO-PEO-PPO型のトリブロック共重合体等)、EOとPOとのランダム共重合体、ポリオキシエチレングリコール、ポリオキシエチレンプロピルエーテル、ポリオキシエチレンブチルエーテル、ポリオキシエチレンペンチルエーテル、ポリオキシエチレンヘキシルエーテル、ポリオキシエチレンオクチルエーテル、ポリオキシエチレン-2-エチルヘキシルエーテル、ポリオキシエチレンノニルエーテル、ポリオキシエチレンデシルエーテル、ポリオキシエチレンイソデシルエーテル、ポリオキシエチレントリデシルエーテル、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンセチルエーテル、ポリオキシエチレンステアリルエーテル、ポリオキシエチレンイソステアリルエーテル、ポリオキシエチレンオレイルエーテル、ポリオキシエチレンフェニルエーテル、ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンドデシルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンスチレン化フェニルエーテル、ポリオキシエチレンラウリルアミン、ポリオキシエチレンステアリルアミン、ポリオキシエチレンオレイルアミン、ポリオキシエチレンモノラウリン酸エステル、ポリオキシエチレンモノステアリン酸エステル、ポリオキシエチレンジステアリン酸エステル、ポリオキシエチレンモノオレイン酸エステル、ポリオキシエチレンジオレイン酸エステル、モノラウリン酸ポリオキシエチレンソルビタン、モノパルチミン酸ポリオキシエチレンソルビタン、モノステアリン酸ポリオキシエチレンソルビタン、モノオレイン酸ポリオキシエチレンソルビタン、トリオレイン酸ポリオキシエチレンソルビタン、テトラオレイン酸ポリオキシエチレンソルビット、ポリオキシエチレンヒマシ油、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油等が挙げられる。
【0035】
濾過対象液における界面活性剤の含有量(濾過対象液が二以上の界面活性剤を含む場合は、それらの合計含有量)は特に制限されない。例えば、濾過対象液における界面活性剤の含有量は、0.0005重量%以上とすることができ、0.001重量%以上とすることもできる。濾過対象液における界面活性剤の含有量は、0.01重量%以上であることが好ましく、より好ましくは0.05重量%以上、さらに好ましくは0.08重量%以上(例えば、0.1重量%以上)である。濾過対象液における界面活性剤の含有量は、3重量%以下であることが適切であり、好ましくは1重量%以下であり、より好ましくは0.5重量%以下であり、さらに好ましくは0.3重量%以下(例えば0.2重量%以下)である。
【0036】
(水)
ここに開示される濾過対象液は、好ましい一態様において、水を含む。濾過対象液に含まれる水としては、イオン交換水(脱イオン水)、純水、超純水、蒸留水等を好ましく用いることができる。使用する水は、濾過対象液または研磨用組成物に含有される他の成分の働きが阻害されることを極力回避するため、例えば遷移金属イオンの合計含有量が100ppb以下であることが好ましい。例えば、イオン交換樹脂による不純物イオンの除去、フィルタによる異物の除去、蒸留等の操作によって水の純度を高めることができる。
【0037】
ここに開示される濾過対象液は、好ましい一態様において、水溶性高分子と水とを含み、該水溶性高分子はその少なくとも一部が該水に溶解している。かかる濾過対象液に対して、ここに開示される技術を適用すると、実用的なフィルタライフを維持しつつ、添加剤由来の粗大粒子を高精度に除去、低減することができる。
【0038】
(塩基性化合物)
ここに開示される濾過対象液は、好ましい一態様において、塩基性化合物を含む。本明細書において塩基性化合物とは、水に溶解して水溶液のpHを上昇させる機能を有する化合物を指す。塩基性化合物を用いると、濾過対象液における水溶性高分子の溶解性が向上しやすくなる。塩基性化合物としては、窒素を含む有機または無機の塩基性化合物、アルカリ金属の水酸化物、アルカリ土類金属の水酸化物、第四級ホスホニウム化合物、各種の炭酸塩や炭酸水素塩等を用いることができる。窒素を含む塩基性化合物の例としては、第四級アンモニウム化合物、アンモニア、アミン(好ましくは水溶性アミン)等が挙げられる。このような塩基性化合物は、一種を単独でまたは二種以上を組み合わせて用いることができる。
【0039】
これらの塩基性化合物のうち、例えば、アルカリ金属水酸化物、水酸化第四級アンモニウムおよびアンモニアから選択される少なくとも一種の塩基性化合物を好ましく使用し得る。なかでも水酸化カリウム、水酸化テトラアルキルアンモニウム(例えば、水酸化テトラメチルアンモニウム)およびアンモニアがより好ましく、アンモニアが特に好ましい。
【0040】
(その他の成分)
その他、ここに開示される濾過対象液には、本発明の効果が著しく妨げられない範囲で、キレート剤、有機酸、有機酸塩、無機酸、無機酸塩、酸化剤、防腐剤、防カビ剤等の、研磨用組成物(典型的には、シリコンウェーハのポリシング工程に用いられる研磨用組成物)に用いられ得る公知の添加剤を、必要に応じてさらに含有してもよい。
【0041】
ここに開示される濾過対象液は、砥粒を実質的に含まないことが好ましい。砥粒や砥粒由来の粗大粒子は、砥粒以外の添加剤や該添加剤由来の粗大粒子よりも粒径が大きい傾向にある。したがって、濾過対象液に砥粒が含まれていると、フィルタが目詰まりを起こしやすくなり、フィルタライフが悪化する傾向にあるためである。ここで、濾過対象液が砥粒を実質的に含まないとは、少なくとも意図的には砥粒を配合しないことをいい、具体的には濾過対象液における砥粒の含有量が0.001重量%以下(好ましくは0.0001重量%以下、より好ましくは0.00001重量%以下)であることをいう。好ましい一態様において、濾過対象液における砥粒の含有量は0重量%である。
【0042】
<pH>
ここに開示される濾過対象液のpHは、特に限定されない。水溶性高分子の溶解性を向上させる観点から、濾過対象液のpHは、7.0以上であることが適当であり、好ましくは8.0以上、より好ましくは8.5以上であり、9.0以上であってもよい。また、水溶性高分子の分散安定性の観点から、濾過対象液のpHは、12.0以下であることが好ましく、11.0以下であることがより好ましく、10.5以下であることがさらに好ましく、例えば10.0以下であってもよい。
【0043】
濾過対象液のpHは、pHメーター(例えば、堀場製作所製のガラス電極式水素イオン濃度指示計(型番F-23))を使用し、標準緩衝液(フタル酸塩pH緩衝液 pH:4.01(25℃)、中性リン酸塩pH緩衝液 pH:6.86(25℃)、炭酸塩pH緩衝液 pH:10.01(25℃))を用いて3点校正した後で、ガラス電極を測定対象の組成物に入れて、2分以上経過して安定した後の値を測定することにより把握することができる。
【0044】
(フィルタ)
ここに開示される濾過方法では、濾過対象液はフィルタによって濾過される。このフィルタは、以下の条件(1)および(2)を満たす。
(1)パームポロメータで測定される平均孔径Pが0.15μm以下である。
(2)SEM観察により測定される入口側平均孔径Sinと出口側平均孔径Soutの比である孔径勾配(Sin/Sout)が3以下である。
【0045】
ここで、本明細書におけるフィルタの平均孔径Pとしては、ASTM E1294-89に準拠したハーフドライ法に基づいて測定して得られる細孔径分布において、孔径分布の積算値が50%に相当する孔径D50の値が採用される。例えば、PMI社製のパームポロメータ(CFP-1200AXL)を用いて測定することができる。後述の実施例においても上記の測定方法が採用される。
【0046】
また、孔径勾配(Sin/Sout)の測定方法は以下の通りである。まず、フィルタの入口側平均孔径Sinを、濾過される液が入る側(一次側)のフィルタ表面を走査型電子顕微鏡(SEM)により観測し、得られた平面視像を画像解析ソフトを用いて画像解析することにより測定する。同様に、フィルタの出口側平均孔径Soutを、濾過される液が出る側(二次側)のフィルタ表面をSEMにより観測し、得られた平面視像を画像解析ソフトを用いて画像解析することにより測定する。フィルタの孔径勾配(Sin/Sout)は、出口側平均孔径Soutに対する入口側平均孔径Sinの比として算出される。SEMとしては、日立ハイテクノロジーズ社製、SU8000シリーズまたはその相当品が用いられる。画像解析ソフトとしては、MOUNTECH Co.,Ltd.製、Mac-Viewまたはその相当品を用いることができる。後述の実施例においても上記の測定方法が採用される。
【0047】
パームポロメータで測定される平均孔径Pが0.15μm以下に小さいフィルタによると、砥粒由来の粗大粒子等の他の粒子と比較して粒径が小さい傾向にある添加剤由来の粗大粒子であっても精度よく捕捉して、濾過対象液から除去することができる。また、孔径勾配(Sin/Sout)が3以下に小さいフィルタによると、濾過においてフィルタの目詰まりが生じにくく、フィルタライフが長くなりやすい。したがって、かかるフィルタを用いて濾過対象液を濾過すると、実用的な濾過フィルタのライフを維持しつつ、添加剤由来の粗大粒子や異物が高精度で除去、低減されやすい。
【0048】
フィルタの孔径勾配(Sin/Sout)が3以下であることによって、良好なフィルタライフが実現される理由としては、限定的に解釈されるものではないが、例えば次のことが考えられる。すなわち、孔径勾配(Sin/Sout)が相対的に小さいフィルタは、孔径勾配(Sin/Sout)が相対的に大きいフィルタと比較して、添加剤由来の粗大粒子の捕捉に有効な細孔を有する部分が多い。このため、孔径勾配(Sin/Sout)が3以下程度に小さいフィルタによると、フィルタが閉塞(目詰まり)するまでにより多くの粗大粒子を捕捉することができる。結果的に、かかるフィルタは濾過対象液の濾過に用いられて、良好なフィルタライフが実現され得る。
【0049】
ここに開示される技術は、パームポロメータで測定される平均孔径Pが0.15μm以下であるフィルタを選択して用いることにより、濾過対象液中の異物の除去を効率よく実現することができる。濾過対象液中の異物の除去を特に効率よく行えることから、好ましい一態様において、フィルタの平均孔径Pは0.14μm以下であってもよく、より好ましくは0.13μm以下であり、さらに好ましくは0.12μm以下である。また、上記平均孔径Pを有するフィルタのなかから、さらに孔径勾配(Sin/Sout)が3以下のものを選択して用いることにより、粗大粒子等に対して高精度濾過を実現しつつ、長寿命や低圧力損失、高流量を実現することができる。特に長寿命を実現することができることから孔径勾配(Sin/Sout)が2.5以下のものを選択して用いることが好ましく、2以下のものがより好ましい。
【0050】
フィルタの構造は、フィルタが上記条件(1)および(2)を満たす限りにおいて、特に限定されない。ここに開示される技術の好ましい一態様において、上記フィルタは多孔性の膜で構成された層を含むメンブレンフィルタである。好ましい他の一態様において、上記フィルタはフィルタ繊維から構成されたフィルタ繊維層を備えるものである。フィルタ繊維層を備えるフィルタの例としては、織布フィルタ(メッシュフィルタ)が挙げられる。
【0051】
メンブレンフィルタの材質は特に限定されない。メンブレンフィルタの材質としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)等のポリオレフィン、ナイロン等のポリアミド、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)等のフッ素樹脂、セルロース、セルロースアセテート、セルロース混合エステル等のセルロース系ポリマー、ポリイミド、ポリスルホン(PSF)、ポリエーテルスルホン(PES)等が挙げられる。上記平均孔径Pおよび孔径勾配に関する条件(1)および(2)を満たしやすい観点から、ポリエーテルスルホン、ポリスルホン、ナイロンが好ましく、ポリエーテルスルホン、ポリスルホンがより好ましい。
【0052】
フィルタは、支持体を含んでいてもよく、含まなくてもよい。支持体を含まないフィルタの方が濾過性に優れる傾向がある。支持体は上記フィルタ繊維層であってもよい。
【0053】
上記フィルタがフィルタ繊維層を備えるものである場合において、フィルタ繊維の材質は特に限定されない。ガラス繊維(GF)、炭素繊維等の無機繊維や、ポリマー繊維等の有機繊維を用いることができる。無機繊維(好適にはGF)は、樹脂を含浸したものを用いてもよい。ポリマー繊維としては、例えば、ポリエチレン(PE)やポリプロピレン(PP)等のポリオレフィン、ナイロン等のポリアミド、ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等のフッ素樹脂、ポリカーボネート、ポリエーテルスルホン、アクリル樹脂、ポリスチレン、ポリウレタン、セルロース、セルロースアセテートの1種または2種以上からなる繊維を用いてもよい。例えば、強酸、強アルカリへの耐性等を考慮して、フィルタ繊維は、ポリオレフィン繊維、ポリアミド繊維、ポリエステル繊維、フッ素樹脂繊維を用いてもよく、ポリプロピレン繊維を用いてもよい。また、GF等の無機繊維の1種または2種以上と、ポリオレフィン繊維、ポリアミド繊維、ポリエステル繊維等の有機繊維の1種または2種以上とを組み合わせて使用してもよい。
【0054】
また、ここに開示されるフィルタ繊維(ひいてはフィルタ繊維層やフィルタ)は、カチオン化処理されたものであってもよい。上記カチオン化処理により、フィルタ繊維(ひいてはフィルタ繊維層やフィルタ)は正のゼータ電位を有するものとなり得る。カチオン化処理の方法は特に限定されず、例えばアミン(第一級アミン、第二級アミン、第三級アミン)や第四級アンモニウム等のカチオン性基を有するカチオン性物質(カチオン性ポリアミド)をフィルタ繊維に添加(例えば含浸)する方法が挙げられる。上記カチオン化処理されたフィルタ繊維は、上記のカチオン性物質を保持したものであり得る。
【0055】
ここに開示されるフィルタのメディア形状は特に限定されず、種々の構造、形状、機能を有するフィルタを適宜採用することができる。具体例としては、デプスフィルタ、サーフェスフィルタ、デプスフィルタをプリーツ状にしたデプスプリーツフィルタ、サーフェスフィルタをプリーツ状にしたプリーツフィルタ等がある。なかでも濾過対象液の濾過性向上の観点から、プリーツフィルタが好ましい。
【0056】
ここに開示されるフィルタを含むフィルタ要素の全体構造は特に限定されない。フィルタ要素は、例えば、実質的に円筒型であり得る。かかるフィルタ要素は、定期的な交換が可能なカートリッジタイプのものであり得る。上記フィルタ要素は、濾材のほかにコア等の他部材を含み得るが、それらについては本発明を特徴づけるものではないので、ここでは特に説明しない。
【0057】
(濾過)
ここに開示される濾過対象液(添加剤含有液)は、ここに開示されるフィルタによって濾過される。典型的には、ここに開示される技術は濾過対象液をフィルタで濾過する操作を含む。濾過の条件(例えば濾過差圧、濾過速度、濾過量)については、この分野の技術常識に基づき、目標品質や生産効率等を考慮して適宜設定すればよい。ここに開示される濾過は、例えば、濾過差圧0.8MPa以下(例えば0.5MPa以下、典型的には0.3MPa以下)の条件で好ましく実施され得る。濾過の方法は特に限定されず、例えば、常圧で行う自然濾過の他、吸引濾過、加圧濾過、遠心濾過等の公知の濾過方法を適宜採用することができる。
【0058】
ここに開示されるフィルタによる濾過において、濾過速度(流速)は特に限定されない。例えば、直径47mmのディスクフィルタを用いた場合において、流速は1.0g/分以上であることが適切であり、生産効率等の観点から、1.2g/分以上であることが好ましく、より好ましくは1.5g/分以上であり、さらに好ましくは2.0g/分以上である。
【0059】
また、ここに開示されるフィルタによる濾過における濾過量は特に限定されない。例えば、直径47mmのディスクフィルタを用いた場合において、濾過量は25g以上であることが適切であり、生産効率等の観点から、好ましくは50g以上、より好ましくは100g以上、さらに好ましくは120g以上である。
【0060】
また、ここに開示される技術では、上記濾過の前後で、粗大粒子の除去や高精度濾過等の目的に応じて、予備的にまたは多段階に、任意に追加の濾過処理を行ってもよい。例えば、上記追加の濾過処理は、ここに開示される濾過より前に行われ得るものであってもよく、該濾過で用いられるフィルタと同程度の濾過精度を有するフィルタまたは該濾過で用いられるフィルタよりも濾過精度の大きいフィルタを用いての追加の濾過処理であってもよい。あるいはまた、追加の濾過処理は、ここに開示される濾過より後に行われ得るものであってもよく、該濾過で用いられるフィルタと同程度の濾過精度を有するフィルタまたは該濾過で用いられるフィルタよりも濾過精度の小さいフィルタを用いての追加の濾過処理であってもよい。好ましい一態様では、ここに開示される濾過より前に、粗大粒子等の異物を除去することを目的として、1または2以上の予備濾過を行うものであり得る。この場合、ここに開示される濾過は、多段階濾過のうちの一工程であり得る。
【0061】
予備濾過は、例えば、濾過精度が0.05μm以上1μm未満(好ましくは0.1μm以上0.5μm以下、より好ましくは0.15μm以上0.25μm以下)のフィルタで1段目濾過を実施し、濾過精度が0.01μm以上0.5μm以下(好ましくは0.03μm以上0.1μm以下、より好ましくは0.04μm超0.06μm以下)のフィルタで2段目濾過を実施するものであってよい。あるいは、予備濾過として上記1段目濾過および上記2段目濾過のいずれか一方と、他の予備濾過とを含むものであってもよい。上記濾過精度は、メーカーによる定格値を採用すればよい。後述の実施例においても同様である。
【0062】
ここに開示される技術における濾過は、添加剤を砥粒含有液と混合する直前の濾過であることが好ましい。すなわち、ここに開示される技術における濾過は、添加剤含有液の濾過のうち、最終段階の濾過であることが好ましい。濾過された濾液は、砥粒含有液と混合するまでのあいだ、容器に保管される。上記濾液は、後述の多剤型研磨用組成物のパートBであり得る。
【0063】
(混合)
この明細書によると、ここに開示されるいずれかの濾過方法を用いて濾過された添加剤含有液(添加剤含有濾液)を用いて研磨用組成物を製造する方法が提供される。研磨用組成物の製造方法は、例えば研磨用組成物に含まれる成分を混合する工程を含み得る。典型的には、研磨用組成物は、翼式攪拌機、超音波分散機、ホモミキサー等の周知の混合装置を用いて、研磨用組成物に含まれる各成分を混合して製造することができる。これらの成分を混合する態様は特に限定されず、例えば全成分を一度に混合してもよく、適宜設定した順序で混合してもよい。
【0064】
<研磨用組成物>
ここに開示される技術によると、ここに開示されるいずれかの濾過方法を用いて濾過されて得られる添加剤含有濾液に含まれる添加剤を含む研磨用組成物が提供される。ここに開示される技術における研磨用組成物は、上記添加剤を含有することの他に特に限定はない。上記研磨用組成物は、上記添加剤含有濾液に含まれない他の成分(例えば砥粒)を含んでいてもよい。
【0065】
(砥粒)
ここに開示される研磨用組成物は、好ましい一態様において、砥粒を含む。砥粒は、研磨対象物の表面を機械的に研磨する働きをする。砥粒の材質や性状は特に制限されず、研磨用組成物の使用目的や使用態様等に応じて適宜選択することができる。砥粒の例としては、無機粒子、有機粒子、および有機無機複合粒子が挙げられる。無機粒子の具体例としては、シリカ粒子、アルミナ粒子、酸化セリウム粒子、酸化クロム粒子、二酸化チタン粒子、酸化ジルコニウム粒子、酸化マグネシウム粒子、二酸化マンガン粒子、酸化亜鉛粒子、ベンガラ粒子等の酸化物粒子;窒化ケイ素粒子、窒化ホウ素粒子等の窒化物粒子;炭化ケイ素粒子、炭化ホウ素粒子等の炭化物粒子;ダイヤモンド粒子;炭酸カルシウムや炭酸バリウム等の炭酸塩等が挙げられる。有機粒子の具体例としては、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)粒子やポリ(メタ)アクリル酸粒子(ここで(メタ)アクリル酸とは、アクリル酸およびメタクリル酸を包括的に指す意味である。)、ポリアクリロニトリル粒子等が挙げられる。このような砥粒は、一種を単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0066】
上記砥粒としては、無機粒子が好ましく、なかでも金属または半金属の酸化物からなる粒子が好ましく、シリカ粒子が特に好ましい。後述するシリコンウェーハ等のようにシリコンからなる表面を有する研磨対象物の研磨(例えば仕上げ研磨)に用いられ得る研磨用組成物では、砥粒としてシリカ粒子を採用することが特に有意義である。ここに開示される技術は、例えば、上記砥粒が実質的にシリカ粒子からなる態様で好ましく実施され得る。ここで「実質的に」とは、砥粒を構成する粒子の95重量%以上(好ましくは98重量%以上、より好ましくは99重量%以上であり、100重量%であってもよい。)がシリカ粒子であることをいう。
【0067】
シリカ粒子の具体例としては、コロイダルシリカ、フュームドシリカ、沈降シリカ等が挙げられる。シリカ粒子は、一種を単独でまたは二種以上を組み合わせて用いることができる。研磨後において表面品位に優れた研磨面が得られやすいことから、コロイダルシリカの使用が特に好ましい。コロイダルシリカとしては、例えば、イオン交換法により水ガラス(珪酸Na)を原料として作製されたコロイダルシリカや、アルコキシド法コロイダルシリカ(アルコキシシランの加水分解縮合反応により製造されたコロイダルシリカ)を好ましく採用することができる。コロイダルシリカは、一種を単独でまたは二種以上を組み合わせて用いることができる。
【0068】
砥粒(典型的にはシリカ粒子)のBET径は特に限定されないが、研磨効率等の観点から、好ましくは5nm以上、より好ましくは10nm以上である。より高い研磨効果(例えば、ヘイズの低減、欠陥の除去等の効果)を得る観点から、上記BET径は、15nm以上が好ましく、20nm以上(例えば20nm超)がより好ましい。また、スクラッチ防止等の観点から、砥粒のBET径は、好ましくは100nm以下、より好ましくは50nm以下、さらに好ましくは40nm以下である。ここに開示される技術は、高品位の表面(例えば、LPD数が少ない表面)が得られやすいことから、研磨後に高品位の表面が求められる研磨に適用されることが好ましい。かかる研磨用組成物に用いる砥粒としては、BET径が35nm以下(典型的には35nm未満、より好ましくは32nm以下、例えば30nm未満)の砥粒が好ましい。
【0069】
なお、本明細書においてBET径とは、BET法により測定される比表面積(BET値)から、BET径(nm)=6000/(真密度(g/cm3)×BET値(m2/g))の式により算出される粒子径をいう。例えばシリカ粒子の場合、BET径(nm)=2727/BET値(m2/g)によりBET径を算出することができる。比表面積の測定は、例えば、マイクロメリテックス社製の表面積測定装置、商品名「Flow Sorb II 2300」を用いて行うことができる。
【0070】
(水溶性高分子)
ここに開示される研磨用組成物は、好ましい一態様において、水溶性高分子を含む。上記研磨用組成物を製造するのに用いられる添加剤含有濾液に水溶性高分子が含まれる場合において、上記研磨用組成物は上記添加剤含有濾液に含まれる水溶性高分子のみを含むものであってもよく、上記添加剤含有濾液に含まれる水溶性高分子に加えて他の水溶性高分子をさらに含むものであってもよい。ここに開示される研磨用組成物に用いられる好適な水溶性高分子としては、上述した濾過対象液に用いられる水溶性高分子として挙げられたもののうち、一種を単独でまたは二種以上を組み合わせて用いることができる。研磨用組成物に用いられる水溶性高分子についての具体的な説明は、重複となるため省略する。
【0071】
(界面活性剤)
ここに開示される研磨用組成物は、好ましい一態様において、界面活性剤を含む。上記研磨用組成物を製造するのに用いられる添加剤含有濾液に界面活性剤が含まれる場合において、上記研磨用組成物は上記添加剤含有濾液に含まれる界面活性剤のみを含むものであってもよく、上記添加剤含有濾液に含まれる界面活性剤に加えて他の界面活性剤をさらに含むものであってもよい。ここに開示される研磨用組成物に用いられる好適な界面活性剤としては、上述した濾過対象液に用いられる界面活性剤として挙げられたもののうち、一種を単独でまたは二種以上を組み合わせて用いることができる。研磨用組成物に用いられる界面活性剤についての具体的な説明は、重複となるため省略する。
【0072】
(水)
ここに開示される研磨用組成物は、好ましい一態様において、水を含む。ここに開示される研磨用組成物に含まれる水としては、濾過対象液に用いられる水として挙げられたものと同様のものが好適に用いられ得る。
【0073】
(塩基性化合物)
ここに開示される研磨用組成物は、好ましい一態様において、塩基性化合物を含む。上記研磨用組成物を製造するのに用いられる添加剤含有濾液に塩基性化合物が含まれる場合において、上記研磨用組成物は上記添加剤含有濾液に含まれる塩基性化合物のみを含むものであってもよく、上記添加剤含有濾液に含まれる塩基性化合物に加えて他の塩基性化合物をさらに含むものであってもよい。ここに開示される研磨用組成物に好適に用いられる塩基性化合物としては、上述した濾過対象液に用いられる塩基性化合物として挙げられたもののうちの一種を単独でまたは二種以上を組み合わせて用いることができる。研磨用組成物に用いられる塩基性化合物についての具体的な説明は、重複となるため省略する。
【0074】
<その他の成分>
その他、ここに開示される研磨用組成物は、本発明の効果が著しく妨げられない範囲で、キレート剤、有機酸、有機酸塩、無機酸、無機酸塩、防腐剤、防カビ剤等の、研磨スラリー(典型的には、シリコンウェーハのポリシング工程に用いられる研磨スラリー)に用いられ得る公知の添加剤を、必要に応じてさらに含有してもよい。
【0075】
ここに開示される研磨用組成物は、酸化剤を実質的に含まないことが好ましい。研磨用組成物中に酸化剤が含まれていると、当該組成物が供給されることでシリコン基板の表面が酸化されて酸化膜が生じ、これにより研磨レートが低下してしまうことがあり得るためである。ここで、研磨用組成物が酸化剤を実質的に含有しないとは、少なくとも意図的には酸化剤を配合しないことをいい、原料や製法等に由来して微量の酸化剤が不可避的に含まれることは許容され得る。上記微量とは、研磨用組成物における酸化剤のモル濃度が0.0005モル/L以下(好ましくは0.0001モル/L以下、より好ましくは0.00001モル/L以下、特に好ましくは0.000001モル/L以下)であることをいう。好ましい一態様に係る研磨用組成物は、酸化剤を含有しない。ここに開示される研磨用組成物は、例えば、過酸化水素、過硫酸ナトリウム、過硫酸アンモニウムおよびジクロロイソシアヌル酸ナトリウムをいずれも含有しない態様で好ましく実施され得る。
【0076】
<pH>
ここに開示される研磨用組成物のpHは、典型的には8.0以上であり、好ましくは8.5以上、より好ましくは9.0以上、さらに好ましくは9.3以上、例えば9.5以上である。研磨用組成物のpHが高くなると、研磨能率が向上する傾向にある。一方、砥粒(例えばシリカ粒子)の溶解を防いで機械的な研磨作用の低下を抑制する観点から、研磨用組成物のpHは、12.0以下であることが適当であり、11.0以下であることが好ましく、10.8以下であることがより好ましく、10.5以下であることがさらに好ましい。pHは、上述の濾過対象液のpHの測定方法と同様の方法で測定することができる。
【0077】
<用途>
ここに開示される技術における研磨用組成物は、種々の材質および形状を有する研磨対象物の研磨に適用され得る。研磨対象物の材質は、例えば、シリコン、アルミニウム、ニッケル、タングステン、銅、タンタル、チタン、ステンレス鋼等の金属もしくは半金属、またはこれらの合金;石英ガラス、アルミノシリケートガラス、ガラス状カーボン等のガラス状物質;アルミナ、シリカ、サファイア、窒化ケイ素、窒化タンタル、炭化チタン等のセラミック材料;炭化ケイ素、窒化ガリウム、ヒ化ガリウム等の化合物半導体基板材料;ポリイミド樹脂等の樹脂材料;等であり得る。これらのうち複数の材質により構成された研磨対象物であってもよい。
【0078】
ここに開示される技術における研磨用組成物は、シリコンからなる表面の研磨(典型的にはシリコンウェーハの研磨)に特に好ましく使用され得る。ここでいうシリコンウェーハの典型例はシリコン単結晶ウェーハであり、例えば、シリコン単結晶インゴットをスライスして得られたシリコン単結晶ウェーハである。
【0079】
ここに開示される研磨用組成物は、研磨対象物(例えばシリコンウェーハ)のポリシング工程に好ましく適用することができる。研磨対象物には、ここに開示される研磨用組成物によるポリシング工程の前に、ラッピングやエッチング等の、ポリシング工程より上流の工程において研磨対象物に適用され得る一般的な処理が施されていてもよい。
【0080】
ここに開示される研磨用組成物は、例えば、上流の工程によって表面粗さ0.1nm~100nmの表面状態に調製された研磨対象物(例えばシリコンウェーハ)のポリシングにおいて好ましく用いられ得る。研磨対象物の表面粗さRaは、例えば、Schmitt Measurement System Inc.社製のレーザースキャン式表面粗さ計「TMS-3000WRC」を用いて測定することができる。ファイナルポリシング(仕上げ研磨)またはその直前のポリシングでの使用が効果的であり、ファイナルポリシングにおける使用が特に好ましい。ここで、ファイナルポリシングとは、目的物の製造プロセスにおける最後のポリシング工程(すなわち、その工程の後にはさらなるポリシングを行わない工程)を指す。
【0081】
ここに開示される研磨用組成物は、典型的には該研磨用組成物を含む研磨液の形態で研磨対象物に供給されて、その研磨対象物の研磨に用いられる。上記研磨液は、例えば、ここに開示されるいずれかの研磨用組成物を希釈(典型的には、水により希釈)して調製されたものであり得る。あるいは、該研磨用組成物をそのまま研磨液として使用してもよい。すなわち、ここに開示される技術における研磨用組成物の概念には、研磨対象物に供給されて該研磨対象物の研磨に用いられる研磨液(ワーキングスラリー)と、希釈して研磨液として用いられる濃縮液(すなわち、研磨液の原液)との双方が包含される。ここに開示される研磨用組成物を含む研磨液の他の例として、該組成物のpHを調整してなる研磨液が挙げられる。
【0082】
(研磨液)
研磨液における砥粒の含有量は特に制限されないが、典型的には0.01重量%以上であり、0.05重量%以上であることが好ましく、より好ましくは0.10重量%以上、例えば0.15重量%以上である。砥粒の含有量の増大によって、より高い研磨速度が実現され得る。研磨用組成物中粒子の分散安定性の観点から、上記含有量は、10重量%以下が適当であり、好ましくは7重量%以下、より好ましくは5重量%以下、さらに好ましくは2重量%以下、例えば1重量%以下であり、0.7重量%以下であってもよい。好ましい一態様において、上記含有量は、0.5重量%以下であってもよく、0.2重量%以下であってもよい。
【0083】
研磨液における水溶性高分子の濃度(合計濃度)は特に制限されず、例えば0.0001重量%以上とすることができる。ヘイズ低減等の観点から、好ましい濃度は0.0005重量%以上であり、より好ましくは0.001重量%以上、例えば0.003重量%以上であり、0.005重量%以上であってもよい。また、研磨速度等の観点から、水溶性高分子の濃度は、0.2重量%以下とすることが好ましく、0.1重量%以下とすることがより好ましく、0.05重量%以下(例えば0.01重量%以下)であってもよい。
【0084】
研磨液における塩基性化合物の濃度は特に制限されない。研磨速度向上等の観点から、上記濃度を研磨液の0.001重量%以上とすることが好ましく、0.003重量%以上(例えば0.004重量%以上)とすることがより好ましい。また、ヘイズ低減等の観点から、上記濃度は、0.3重量%未満とすることが適当であり、0.1重量%未満とすることが好ましく、0.05重量%未満とすることがより好ましく、0.03重量%未満(例えば0.01重量%未満)とすることがさらに好ましい。
【0085】
(濃縮液)
ここに開示される研磨用組成物は、研磨対象物に供給される前には濃縮された形態(すなわち、研磨液の濃縮液の形態であり、研磨液の原液としても把握され得る。)であってもよい。このように濃縮された形態の研磨用組成物は、製造、流通、保存等の際における利便性やコスト低減等の観点から有利である。濃縮倍率は特に限定されず、例えば、体積換算で2倍~100倍程度とすることができ、通常は5倍~50倍程度(例えば10倍~40倍程度)が適当である。
【0086】
このような濃縮液は、所望のタイミングで希釈して研磨液(ワーキングスラリー)を調製し、該研磨液を研磨対象物に供給する態様で使用することができる。上記希釈は、例えば、上記濃縮液に水を加えて混合することにより行うことができる。
【0087】
上記濃縮液における砥粒の含有量は、例えば50重量%以下とすることができる。上記濃縮液の取扱い性(例えば、砥粒の分散安定性や濾過性)等の観点から、上記濃縮液における砥粒の含有量は、好ましくは45重量%以下、より好ましくは40重量%以下である。また、製造、流通、保存等の際における利便性やコスト低減等の観点から、砥粒の含有量は、例えば0.5重量%以上とすることができ、好ましくは1重量%以上、より好ましくは3重量%以上である。
【0088】
(研磨用組成物の調製)
ここに開示される技術において使用される研磨用組成物は、好ましい一態様において、二剤型を始めとする多剤型である。例えば、研磨用組成物の構成成分のうち少なくとも砥粒を含むパートAと、残りの成分の少なくとも一部を含むパートBとを混合し、これらを必要に応じて適切なタイミングで混合および希釈することにより研磨液が調製されるように構成されていてもよい。パートBは、上述の添加剤含有濾液であり得る。パートAは、1または2以上の濾過を経たものであり得る。
【0089】
研磨用組成物の調製方法は特に限定されない。例えば、翼式攪拌機、超音波分散機、ホモミキサー等の周知の混合装置を用いて、研磨用組成物を構成する各成分を混合するとよい。これらの成分を混合する態様は特に限定されず、例えば全成分を一度に混合してもよく、適宜設定した順序で混合してもよい。また、混合の後、1または2以上の濾過をしてもよく、濾過をしなくてもよい。
【0090】
<研磨>
ここに開示される研磨用組成物は、例えば以下の操作を含む態様で、研磨対象物の研磨に使用することができる。以下、ここに開示される研磨用組成物を用いて研磨対象物(例えばシリコンウェーハ)を研磨する方法の好適な一態様につき説明する。
すなわち、ここに開示されるいずれかの研磨用組成物を含む研磨液を用意する。上記研磨液を用意することには、研磨用組成物に濃度調整(例えば希釈)、pH調整等の操作を加えて研磨液を調製することが含まれ得る。あるいは、研磨用組成物をそのまま研磨液として使用してもよい。
【0091】
次いで、その研磨液を研磨対象物に供給し、常法により研磨する。例えば、シリコンウェーハの仕上げ研磨を行う場合、典型的には、ラッピング工程を経たシリコンウェーハを一般的な研磨装置にセットし、該研磨装置の研磨パッドを通じて上記シリコンウェーハの研磨対象面に研磨液を供給する。典型的には、上記研磨液を連続的に供給しつつ、シリコンウェーハの研磨対象面に研磨パッドを押しつけて両者を相対的に移動(例えば回転移動)させる。かかる研磨工程を経て研磨対象物の研磨が完了する。
【0092】
上記研磨工程に使用される研磨パッドは、特に限定されない。例えば、発泡ポリウレタンタイプ、不織布タイプ、スウェードタイプ等の研磨パッドを用いることができる。各研磨パッドは、砥粒を含んでもよく、砥粒を含まなくてもよい。通常は、砥粒を含まない研磨パッドが好ましく用いられる。
【0093】
ここに開示される研磨用組成物を用いて研磨された研磨対象物は、典型的には洗浄される。洗浄は、適当な洗浄液を用いて行うことができる。使用する洗浄液は特に限定されず、例えば、半導体等の分野において一般的なSC-1洗浄液(水酸化アンモニウム(NH4OH)と過酸化水素(H2O2)と水(H2O)との混合液)、SC-2洗浄液(HClとH2O2とH2Oとの混合液)等を用いることができる。洗浄液の温度は、例えば室温(典型的には約15℃~25℃)以上、約90℃程度までの範囲とすることができる。洗浄効果を向上させる観点から、50℃~85℃程度の洗浄液を好ましく使用し得る。
【実施例】
【0094】
以下、本発明に関するいくつかの実施例を説明するが、本発明をかかる実施例に示すものに限定することを意図したものではない。なお、以下の説明において「%」は、特に断りがない限り重量基準である。
【0095】
<試験例1;濾過試験>
[濾過対象液の調製]
Mw28×104のHECと水とアンモニアとを混合することにより、HECを1.012%の濃度で含み、pHが9程度である水溶性高分子含有液を調製した。調製した水溶性高分子含有液を濾過精度0.05μmのプレフィルタで予備濾過し、その濾液を濾過対象液とした。
【0096】
[濾過試験]
表1に示す平均孔径Pおよび孔径勾配(Sin/Sout)を有するフィルタFL1(濾材:PSF膜、平均孔径:0.118μm、孔径勾配:1.99、フィルタ直径47mm)、フィルタFL2(濾材:PES膜、平均孔径:0.145μm、孔径勾配:1.74、フィルタ直径47mm)、フィルタFL3(濾材:PES膜、平均孔径:0.144μm、孔径勾配:4.25、フィルタ直径47mm)およびフィルタFL4(濾材:ナイロン膜、平均孔径:0.418μm、孔径勾配:1.11、フィルタ直径47mm)を用意した。上記で調製した濾過対象液をフィルタFL1~FL4をそれぞれ用いて濾過する濾過試験を行った。上記濾過試験は送液ポンプを使用し、濾過差圧0.2MPa以下の条件で、加圧濾過方式で行った。上記濾過試験において、濾過対象液を120g濾過し終わった時の濾過流速を記録し、該濾過流速の大きさに応じて下記の2段階でフィルタFL1~FL4のフィルタライフ(寿命)を評価した。得られたフィルタライフの評価結果を表1に示す。
濾過流速が2.1g/分以上である場合:良好(○)
濾過流速が2.1g/分未満である場合、または濾過対象液120gを濾過し終わる前にフィルタ閉塞により濾過試験が続行不能となった場合:不良(×)
【0097】
【0098】
なお、HECに加えてさらに、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール(Mw3100、オキシエチレン平均付加モル数160)を添加した添加剤含有液について同様の濾過試験を行い、フィルタライフについて同じ結果または傾向を示すことを確認している。
【0099】
<試験例2;研磨試験>
<研磨用組成物の調製>
(例1)
HECとポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコールと水とアンモニアを混合し、HECを1.012%、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコールを0.149%の濃度で含み、pHが9程度である添加剤含有液を調製した。HECのMwは28×104であった。ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコールのMwは3100であり、オキシエチレン平均付加モル数は160であった。上記添加剤含有液を定格濾過精度0.05μmのプレフィルタで予備濾過し、次いでフィルタFL1で濾過した。このようにして得られた濾液を例1に係る研磨用組成物調製用の添加剤含有濾液として用いた。
【0100】
別に、砥粒と水とアンモニアとを含む砥粒含有液を用意した。該砥粒含有液と上記で調製した添加剤含有濾液とを混合することにより、砥粒を3.5%、アンモニアを0.10%、HECを0.17%、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコールを0.025%の濃度で含む組成物を調製し、この組成物を例1の研磨用組成物とした。砥粒としては、BET径25nmのコロイダルシリカを使用した。上記BET径は、マイクロメリテックス社製の表面積測定装置、商品名「Flow Sorb II 2300」を用いて測定されたものである。
【0101】
(例2~例4)
添加剤含有液をフィルタFL1で濾過する代わりに、表2に示すフィルタで濾過したこと以外は例1と同様にして、本例の研磨用組成物を調製した。なお、フィルタFL3を用いた例3は、フィルタFL3の目詰まりにより所定量の添加剤含有液の濾過を行うことができなかったため、研磨用組成物の調製は行わなかった。
【0102】
<シリコンウェーハの研磨>
各例に適用した前段研磨工程の内容を示す。
(前段研磨工程)
砥粒19%および塩基性化合物1.3%を含み、残部が水からなる前段研磨用組成物を調製した。砥粒としては、BET径35nmのコロイダルシリカを使用した。塩基性化合物としては水酸化カリウム(KOH)を使用した。
この前段研磨用組成物を水で20倍に希釈したものを研磨液(ワーキングスラリー)として使用して、研磨対象物としてのシリコンウェーハを下記の前段研磨条件で研磨した。シリコンウェーハとしては、ラッピングおよびエッチングを終えた直径300mmの市販シリコン単結晶ウェーハ(伝導型:P型、結晶方位:<100>、抵抗率:1Ω・cm以上100Ω・cm未満、COPフリー)を使用した。
【0103】
[前段研磨条件]
研磨装置:岡本工作機械製作所製の枚葉研磨機、型式「PNX-332B」
研磨荷重:20kPa
定盤回転数:20rpm
キャリア回転数:20rpm
研磨パッド:フジボウ愛媛社製、製品名「FP400」
研磨液供給レート:1リットル/分
研磨液の温度:20℃
定盤冷却水の温度:20℃
研磨時間:2.1分
【0104】
(仕上げ研磨工程)
各例に係る研磨用組成物を水で20倍に希釈したものを研磨液(ワーキングスラリー)として使用して、上記前段研磨工程を終えたシリコンウェーハを、下記の仕上げ研磨条件で研磨した。
【0105】
[仕上げ研磨条件]
研磨装置:岡本工作機械製作所製の枚葉研磨機、型式「PNX-332B」
研磨荷重:15kPa
定盤回転数:30rpm
キャリア回転数:30rpm
研磨パッド:フジボウ愛媛社製の研磨パッド、商品名「POLYPAS27NX」
研磨液供給レート:2リットル/分
研磨液の温度:20℃
定盤冷却水の温度:20℃
研磨時間:2.1分
【0106】
研磨後のシリコンウェーハを研磨装置から取り外し、NH4OH(29%):H2O2(31%):脱イオン水(DIW)=2:5.4:20(体積比)の洗浄液を用いて洗浄した(SC-1洗浄)。より具体的には、周波数720kHzの超音波発振器を取り付けた洗浄槽を用意し、洗浄槽に上記洗浄液を収容して60℃に保持し、研磨後のシリコンウェーハを洗浄槽に6分浸漬し、その後超純水による洗浄を行った。この工程を2回繰り返した後、シリコンウェーハを乾燥させた。
【0107】
[欠陥測定(LPD-N)]
シリコンウェーハの表面(研磨面)に存在するLPD-Nの個数を、ケーエルエー・テンコール社製のウェーハ検査装置、商品名「SURFSCAN SP2XP」を使用して、同装置のDCOモードで計測した。計測されたLPD-Nの個数を表2に示した。
【0108】
[欠陥測定(MAGICS)]
シリコンウェーハの表面(研磨面)に存在する欠陥の個数を、レーザーテック社製のウェーハ検査装置、商品名「MAGICS M5350」を使用して計測した。計測された欠陥数(MAGICS)を表2に示した。
【0109】
【0110】
表1に示された結果から明らかなように、平均孔径の孔径勾配(Sin/Sout)が3以下であるフィルタFL1、FL2およびFL4を用いると、HEC含有液の濾過において、良好なフィルタライフを示した。一方、孔径勾配(Sin/Sout)が3より大きいフィルタFL3を用いると、HEC含有液の濾過において、フィルタライフが悪化することがわかった。
【0111】
また、表2に示された結果から明らかなように、パームポロメータで測定される平均孔径Pが0.15μm以下であり、かつ平均孔径の孔径勾配(Sin/Sout)が3以下であるフィルタFL1およびFL2を用いて調製した例1および例2の研磨用組成物によると、平均孔径Pが0.15μmよりも大きいFL4を用いて調製した例4の研磨用組成物に比べて、LPD-NおよびMAGICSのいずれの欠陥数についても顕著な低減を示した。これらの結果より、平均孔径Pが0.15μm以下であり、かつ平均孔径の孔径勾配(Sin/Sout)が3以下であるフィルタFL1およびFL2を用いた濾過によると、実用的なフィルタライフを維持しつつ、研磨用添加剤由来の粗大粒子や異物が適切に除去されることにより優れた欠陥低減能を発揮したことがわかる。
【0112】
以上、本発明の具体例を詳細に説明したが、これらは例示にすぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。