(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-22
(45)【発行日】2024-01-30
(54)【発明の名称】真空排気装置及びその運転方法
(51)【国際特許分類】
H02P 3/18 20060101AFI20240123BHJP
H02P 5/46 20060101ALI20240123BHJP
【FI】
H02P3/18 101D
H02P5/46 C
(21)【出願番号】P 2019152652
(22)【出願日】2019-08-23
【審査請求日】2022-06-03
(73)【特許権者】
【識別番号】000231464
【氏名又は名称】株式会社アルバック
(74)【代理人】
【識別番号】110003339
【氏名又は名称】弁理士法人南青山国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100104215
【氏名又は名称】大森 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100196575
【氏名又は名称】高橋 満
(74)【代理人】
【識別番号】100168181
【氏名又は名称】中村 哲平
(74)【代理人】
【識別番号】100144211
【氏名又は名称】日比野 幸信
(72)【発明者】
【氏名】町家 賢二
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 敏生
(72)【発明者】
【氏名】田中 智成
(72)【発明者】
【氏名】橋本 建治
(72)【発明者】
【氏名】木村 康宏
【審査官】島倉 理
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-069294(JP,A)
【文献】特開平10-248281(JP,A)
【文献】特開2011-139620(JP,A)
【文献】特開2010-110139(JP,A)
【文献】特開2011-230040(JP,A)
【文献】特開2002-064901(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02P 3/18
H02P 5/46
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の吸気口、第1の排気口、及び第1のモータを有する第1のポンプ本体と、前記第1のモータを駆動する第1の駆動回路とを有する第1の真空ポンプと、
前記第1の排気口に接続される第2の吸気口、第2の排気口、及び第2のモータを有し前記第1のポンプ本体の後段に接続された第2のポンプ本体と、前記第2のモータを駆動する第2の駆動回路とを有する
、前記第1の真空ポンプよりも排気速度が小さい第2の真空ポンプと、
前記第1の駆動回路と前記第2の駆動回路との間を電気的に接続する通電ライン、及び前記通電ラインに接続され、前記第1の駆動回路と前記第2の駆動回路との間の電気的な接続及びその遮断を切り替え可能なスイッチ回路を有する電力供給部と、
前記スイッチ回路の切り替えを制御する制御部とを具備し、
前記制御部は、
前記第1の真空ポンプ及び前記第2の真空ポンプの駆動中に、前記第1の吸気口と前記第1の排気口と間の差圧、又は前記第2の吸気口と前記第2の排気口と間の差圧の変動によって発生しうる回生電圧を監視し、前記回生電圧の大きさが所定値以上である旨を検出したときに、前記第1の駆動回路と前記第2の駆動回路との間が電気的に接続されるように前記スイッチ回路を制御する
真空排気装置。
【請求項2】
請求項1に記載の真空排気装置であって、さらに、
前記第2の排気口への大気の逆流を阻止する逆止弁を具備し、
前記第2の排気口は、前記逆止弁を介して大気に連通する
真空排気装置。
【請求項3】
請求項1
又は2に記載の真空排気装置であって、
前記第1の駆動回路および前記第2の駆動回路は、交流電流を整流する整流回路部と、平滑用コンデンサを含む平滑回路部と、モータ駆動電流を生成するインバータ回路部とをそれぞれ有する
真空排気装置。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1つに記載の真空排気装置であって、
前記第1の真空ポンプは、単段のメカニカルブースタポンプであり、
前記第2の真空ポンプは、多段型のドライポンプである
真空排気装置。
【請求項5】
第1の吸気口、第1の排気口、及び第1のモータを有する第1のポンプ本体と、前記第1のモータを駆動する第1の駆動回路とを有する第1の真空ポンプと、
前記第1の排気口に接続される第2の吸気口、第2の排気口、及び第2のモータを有し前記第1のポンプ本体の後段に接続された第2のポンプ本体と、前記第2のモータを駆動する第2の駆動回路とを有する
、前記第1の真空ポンプよりも排気速度が小さい第2の真空ポンプと、
前記第1の駆動回路と前記第2の駆動回路との間を電気的に接続する通電ライン、及び前記通電ラインに接続され、前記第1の駆動回路と前記第2の駆動回路との間の電気的な接続及びその遮断を切り替え可能なスイッチ回路を有する電力供給部と
を具備する真空排気装置の運転方法において、
前記
第1の真空ポンプ及び前記第2の真空ポンプの駆動中に、前記第1の吸気口と前記第1の排気口と間の差圧、又は前記第2の吸気口と前記第2の排気口と間の差圧の変動によって発生しうる回生電圧を監視し、
前記回生電圧の大きさが所定値以上である旨を検出したときに、前記第1の駆動回路と前記第2の駆動回路との間が電気的に接続されるように前記スイッチ回路を制御する
真空排気装置の運転方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、第1の真空ポンプと、第1の真空ポンプの後段に接続された第2の真空ポンプとを備えたポンプ装置及びその運転方法に関する。
【背景技術】
【0002】
メカニカルブースタポンプやスクリューポンプ等のドライポンプは、ケーシング内部のポンプ室に配置された二つのポンプロータを互いに反対方向に同期回転させて吸気口から排気口へ気体を移送する容積移送型の真空ポンプである。この種の真空ポンプは、両ポンプロータ間および各ポンプロータとケーシング等の間での接触がないため、機械的損失が非常に少なく、例えば油回転真空ポンプのような摩擦仕事の大きい真空ポンプに比べて、駆動に要するエネルギーを少なくできるという利点を有する。また、この種のドライポンプを複数台多段に接続した構造の真空排気装置が広く知られている(例えば特許文献1参照)。
【0003】
一方、この種のドライポンプは、整流回路やインバータ回路を含む駆動回路で駆動されるモータを備える。モータは、典型的には三相のブラシレス同期モータであり、インバータ回路で生成される駆動電流の供給を受けてポンプロータを回転させる。この種の駆動回路においては、モータのトルクが回生のとき等にモータで発生する回生電圧を吸収する制動抵抗を備えたものが知られている(例えば特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開第2012/124277号
【文献】特開平3-27788号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
例えば、真空チャンバに接続される第1の真空ポンプとその後段に接続される第2の真空ポンプとを備えた多段構造の真空排気装置においては、プロセスガスの導入等により真空チャンバ内部の圧力が急激に上昇すると、第1の真空ポンプではモータの負荷を低減するため回転数を一時的に減少させる制御が実行される場合がある。このとき、第1の真空ポンプと第2の真空ポンプとの間に圧力が生じ、第2の真空ポンプの吸気側の圧力によって第1の真空ポンプのポンプロータが回転させられ、第1の真空ポンプのモータで過大な回生電圧が生じる場合がある。
【0006】
また、上記構造の真空排気装置においては、真空チャンバが所定圧力以下にまで到達した際に第2の真空ポンプの消費電力を低減する目的で、第2の真空ポンプの回転数を減少させる制御が実行される場合がある。この場合も第1の真空ポンプと第2の真空ポンプとの間に圧力が生じ、第1の真空ポンプの排気側の圧力で第2の真空ポンプのポンプロータが回転させられ、第2の真空ポンプのモータで過大な回生電圧が生じる場合がある。
【0007】
これらの回生電圧が結果として駆動回路を構成するインバータ回路などの各部の素子の耐電圧を超えるほど大きくなる場合等で、当該駆動回路が劣化あるいは損傷するおそれがある。このため、駆動回路に制動抵抗などの回生電圧を吸収する回路部品の設置が必要となり、部品点数の増加が問題となる。
【0008】
以上のような事情に鑑み、本発明の目的は、制動抵抗等の回生電圧吸収用の回路部品を不要とすることができる真空排気装置及びその運転方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため、本発明の一形態に係る真空排気装置は、第1の真空ポンプと、第2の真空ポンプと、電力供給部とを具備する。
前記第1の真空ポンプは、第1のモータを有する第1のポンプ本体と、前記第1のモータを駆動する第1の駆動回路とを有する。
前記第2の真空ポンプは、第2のモータを有し前記第1のポンプ本体の後段に接続された第2のポンプ本体と、前記第2のモータを駆動する第2の駆動回路とを有する。
前記電力供給部は、前記第1の駆動回路と前記第2の駆動回路との間を電気的に接続可能な通電ラインを有する。
【0010】
上記真空排気装置において、第1の駆動回路と第2の駆動回路が通電ラインを介して相互に接続可能に構成されているため、第1の真空ポンプのモータで発生した回生電圧は第2の駆動回路へ供給可能とされ、第2の真空ポンプのモータで発生した回生電圧は第1の駆動回路へ供給可能とされる。これにより、第1の駆動回路及び第2の駆動回路にそれぞれ回生電圧吸収用の回路部品を必要とすることなく、回生電圧から駆動回路を保護することができる。
【0011】
前記第1の駆動回路および前記第2の駆動回路は、交流電流を整流する整流回路部と、平滑用コンデンサを含む平滑回路部と、モータ駆動電流を生成するインバータ回路部とをそれぞれ有してもよい。
【0012】
前記電力供給部は、前記第1の駆動回路と前記第2の駆動回路との間の電気的な接続及びその遮断を切り替え可能なスイッチ回路をさらに有してもよい。
【0013】
前記真空排気装置は、前記スイッチ回路の切り替えを制御する制御部をさらに具備してもよい。
【0014】
前記制御部は、前記第1の駆動回路及び/又は前記第2の駆動回路における回生電圧が所定値以上のときに、前記第1の駆動回路と前記第2の駆動回路との間が電気的に接続されるように前記スイッチ回路を制御するように構成されてもよい。
【0015】
前記制御部は、前記第1の駆動回路及び前記第2の駆動回路の電源が停止したときに、前記第1の駆動回路と前記第2の駆動回路との間が電気的に接続されるように前記スイッチ回路を制御するように構成されてもよい。
【0016】
前記第1の真空ポンプは、単段のメカニカルブースタポンプであり、前記第2の真空ポンプは、多段型のドライポンプであってもよい。
【0017】
本発明の一形態に係る真空排気装置の運転方法は、第1の真空ポンプと、前記第1の真空ポンプの後段に接続された第2の真空ポンプとを駆動することを含む。
前記第1の真空ポンプのモータが回生電圧を生じたときは、前記第1の真空ポンプの駆動回路と前記第2の真空ポンプの駆動回路との間に接続された通電ラインを介して、当該回生電圧は、前記第2の真空ポンプの駆動回路へ供給される。
前記第2の真空ポンプのモータが回生電圧を生じたときは、前記通電ラインを介して、当該回生電圧は、前記第1の真空ポンプの駆動回路へ供給される。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、制動抵抗等の回生電圧吸収用の回路部品を不要とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明の第1の実施形態に係る真空排気装置を示す概略構成図である。
【
図2】上記真空排気装置におけるコントローラの内部構成を示すブロック図である。
【
図3】上記真空排気装置における第1の駆動回路及び第2の駆動回路の一構成例を示す回路図である。
【
図4】上記真空排気装置の運転方法を説明するフローチャートである。
【
図5】上記真空排気装置の作用を説明する模式図である。
【
図6】上記真空排気装置の作用を説明する図であって、真空チャンバの内圧の時間変化と第1及び第2の真空ポンプの動力の時間変化の一例を示す説明図である。
【
図7】本発明の第2の実施形態に係る真空排気装置を示す概略構成図である。
【
図8】上記真空排気装置の作用を説明する模式図である。
【
図9】第1及び第2の真空ポンプの動力の時間変化の一例を示す説明図である。
【
図10】上記真空排気装置の運転方法を説明するフローチャートである。
【
図11】本発明の第3の実施形態に係る真空排気装置の運転方法を説明するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態を説明する。
【0021】
<第1の実施形態>
図1は、本発明の一実施形態に係る真空排気装置100を示す概略構成図である。真空排気装置100は、メインポンプとしての第1の真空ポンプ110と、補助ポンプとしての第2の真空ポンプ120と、コントローラ130とを備える。
【0022】
第1の真空ポンプ110は、第2の真空ポンプ120よりも排気速度が大きい容積移送型のドライポンプであり、本実施形態では、メカニカルブースタポンプが採用される。第1の真空ポンプ110は、単段のポンプロータR1を内蔵したポンプ本体111(第1のポンプ本体)と、ポンプロータR1を回転させるモータ112(第1のモータ)とを有する。ポンプ本体111は、配管L1を介して真空チャンバ1へ接続される吸気口E11と、配管L2を介して第2の真空ポンプ120に接続される排気口E12とを有する。
【0023】
第2の真空ポンプ120は、第1の真空ポンプ110の後段に接続された容積移送型のドライポンプであり、本実施形態では、スクリューポンプである。第2の真空ポンプ120は、多段のポンプロータ(スクリューロータ)R2を内蔵したポンプ本体121(第2のポンプ本体)と、ポンプロータR2を回転させるモータ122(第2のモータ)とを有する。ポンプ本体121は、配管L2を介して第1の真空ポンプ110の排気口E12と接続される吸気口E21と、大気へ連通する排気口E22とを有する。第2の真空ポンプ120は、典型的には、第1の真空ポンプ110の運転開始とともに始動され、第1の真空ポンプ110の運転中は常時、駆動される。
【0024】
モータ112,122は、ブラシレスDCモータであり、本実施形態では、ロータコアの周面あるいはその内部に永久磁石が取り付けられた永久磁石同期型のキャンドモータで構成される。モータ112は、ポンプロータR1を回転させることで、吸気口E11を介して吸引された真空チャンバ1内の気体を排気口E12へ向けて移送する。モータ122は、ポンプロータR2を回転させることで、吸気口E21を介して吸引された第1の真空ポンプ110の背圧を排気口E22へ向けて移送する。
【0025】
コントローラ130は、第1の真空ポンプ110及び第2の真空ポンプ120の動作を制御する制御部として構成される。コントローラ130は、モータ112を駆動する第1の駆動回路51と、モータ122を駆動する第2の駆動回路52とを有する。
【0026】
図2は、コントローラ130の内部構成を示すブロック図である。コントローラ130は、第1の真空ポンプ110のモータ112を駆動する第1の駆動回路51と、第2の真空ポンプ120のモータ122を駆動する第2の駆動回路52と、第1の駆動回路51及び第2の駆動回路52を制御する制御部53とを有する。
【0027】
図3は、第1の駆動回路51及び第2の駆動回路52の一構成例を示す回路図である。第1の駆動回路51及び第2の駆動回路52はそれぞれ同様な構成を有する。すなわち、第1の駆動回路51及び第2の駆動回路52は、整流回路部5aと、平滑回路部5bと、インバータ回路部5cとをそれぞれ有する。
【0028】
整流回路部5aは、商用電源である三相交流電源60に接続され、三相交流電源60から供給される交流電流を整流する。平滑回路部5bは、整流回路部5aの出力を平滑化するためのもので、チョークコイルLと平滑用コンデンサC(C1,C2)とを含むチョークコイルインプット型平滑回路で構成される。インバータ回路部5cは、モータ112,122を所定の回転数(例えば、5000rpm)で回転させる駆動電流(モータ駆動電流)を生成する複数の半導体スイッチング素子Trを有する。これら半導体スイッチング素子Trは、MOSFET、IGBT等のトランジスタで構成され、制御部53により開閉タイミングが個別に制御されることにより、モータ112,122の各相(U相、V相及びW相)の巻線へ供給される駆動電流(定格電流)を生成する。
【0029】
第1の駆動回路51と第2の駆動回路52は、電力供給部54を介して電気的に接続可能に構成される。電力供給部54は、第1の駆動回路51と第2の駆動回路52との間に接続された通電ライン541と、通電ライン541を介しての第1の駆動回路51と第2の駆動回路52との間の電気的な接続及びその遮断を切り替え可能なスイッチ回路542とを有する。
【0030】
通電ライン541は、第1の駆動回路51の高圧側配線と第2の駆動回路52の高圧側配線との間に接続される。本実施形態において通電ライン541は、第1及び第2の駆動回路51,52の直流電圧部(例えば、整流回路部5bとインバータ回路部5cとの間)を相互に接続する。第1及び第2の駆動回路51,52の低圧側配線は、グランド電位に接続される。
【0031】
スイッチ回路542は、通電ライン541に接続される。スイッチ回路542は、機械スイッチ、半導体スイッチ等のスイッチング素子で構成され、制御部53によりその開閉が制御される。スイッチ回路542は、典型的には、ノーマリ―オフ(A接点)スイッチである。
【0032】
制御部53は、第1の駆動回路51、第2の駆動回路52を制御する。また、制御部53は、電力供給部54のスイッチ回路542の切り替えを制御する。制御部53は、典型的には、CPUと、真空排気装置100の動作を制御するための各種プログラムや制御パラメータを記憶するメモリを含むコンピュータで構成される。
【0033】
制御部53は、第1の駆動回路51の回路電圧を監視する監視部を有する。制御部53は、後述するように、第1の駆動回路51の回路電圧が所定値を超えたときは、スイッチ回路542をオン動作(短絡)させる制御を実行するように構成される。
【0034】
なお後述するように、上記監視部は、第1の駆動回路51の監視電圧に加えて又はこれに代えて、第2の駆動回路52の回路電圧を監視可能に構成されてもよい。この場合、制御部53は、第2の駆動回路52の回路電圧が所定値を超えたときは、スイッチ回路542をオン動作(短絡)させる制御を実行するように構成される。
【0035】
例えば、第1の真空ポンプ110のモータ112で回生電圧が発生し、その電圧が第1の駆動回路51におけるインバータ回路部5cの定格電圧を超えたとき、制御部53は、スイッチ回路542をオン動作させる。これにより、第1の駆動回路51を過電圧から保護するとともに、第1の駆動回路51と第2の駆動回路52とを電気的に平衡に保つ。
【0036】
以下、制御部53の詳細について、真空排気装置100の動作とともに説明する。
【0037】
真空排気装置100の運転開始時、スイッチ回路542はオフ状態にある。真空排気装置100の運転が開始されると、制御部53は、第1の駆動回路51において駆動電流を生成させ、これをモータ112へ供給することで、第1の真空ポンプ110を駆動する。第1の真空ポンプ110のポンプロータR1は、モータ112により所定の定格回転数(例えば5000rpm)で回転することで、吸気口E11から排気口E12へ向けて気体を移送する。これにより、真空チャンバ1の内部が所定の減圧雰囲気に排気される。
【0038】
制御部53はさらに、第2の駆動回路52において駆動電流を生成させ、これをモータ122へ供給することで、第2の真空ポンプ120を駆動する。第2の真空ポンプ120のポンプロータR2は、モータ122により所定の定格回転数(例えば5000rpm)で回転することで、吸気口E21から排気口E22へ向けて気体を移送する。これにより、第1の真空ポンプ110の背圧が排気され、第1の真空ポンプ110(モータ112)の消費電力を低減することができる。
【0039】
図4は、制御部53において実行される真空排気装置100の運転方法を説明するフローチャートである。
図4に示すように、制御部53は、真空排気装置100の運転中、第1の真空ポンプ110のモータ112において発生し得る回生電圧の大きさを監視し、これが所定値以上の場合に、スイッチ回路542をオフ状態からオン状態に切り替える動作を実行するように構成される。
【0040】
図5(a)~(c)は、本実施形態の作用を説明する真空排気装置100の模式図であり、
図6(a),(b)は、真空チャンバ1の内圧の時間変化と第1及び第2の真空ポンプ110,120(モータ112,122)の動力の時間変化の一例を示す説明図である。
【0041】
真空チャンバ1が所定の減圧雰囲気に維持された状態において、多量のプロセスガスが真空チャンバ1に導入されると、真空チャンバ1の内圧が急激に上昇する(
図5(a)、
図6(a)の時刻t1)。このとき、第1の真空ポンプ110の排気速度が第2の真空ポンプ120の排気速度よりも大きいため、第2の真空ポンプ120による排気が追い付かずに、
図5(b)において黒色矢印で示すように、第2の真空ポンプ120へ向けて排出された気体が第1の真空ポンプ110側へ逆流(当該領域が昇圧)する場合がある。この現象は、真空チャンバ1へのプロセスガスの導入量が多いほど顕著となる。
【0042】
第1の真空ポンプ110においてはモータ112の負荷トルクが過大となり、制御部53は、モータ112を過負荷から保護するため、例えば第1の駆動回路51による駆動電流を制限する。その結果、モータ112は目標速度をもつ速度制御からトルク制御類似の状態となり、ポンプロータR1の回転数は低下するが、ほぼ最大のトルクを発揮する状態が継続することとなる。そして、第2の真空ポンプ120による排気が追い付かない場合は当該領域の昇圧に結びつき、最終的には吸気口E11側領域よりも排気口E12側領域の圧力が高くなる。これは、気体圧縮には時間遅れ要素があり、モータ112の動特性により生じるためである。これにより、モータ112のトルクが力行から回生へと逆転する現象が発生する。
【0043】
上記のように、第1の真空ポンプ110と第2の真空ポンプ120との間に圧力が生じ、
図5(b),(c)に示すように、第2の真空ポンプ120の吸気側の圧力によって第1の真空ポンプ110のポンプロータR1の回転が減速状態から加速される(第1の真空ポンプ110の吸気側の圧力と第2の真空ポンプ120の吸気側の圧力との圧力差に起因する力を受ける)現象と駆動電流制限とが干渉しあうため、気体の脈動現象等が発生する場合がある。このとき、モータ112において発生する回生電圧が、インバータ回路部5cを構成するパワー素子の耐電圧を超えるほど過大となるおそれがある。
【0044】
そこで本実施形態では、制御部53は、モータ112によって発生する第1の駆動回路51における回生電圧を監視し、その大きさが所定値(例えば、インバータ回路部5cの定格電圧を超える任意の値)以上のときは、スイッチ回路542をオフ状態からオン状態へ切り替える制御を実行する(
図4においてステップ101,102)。スイッチ回路542がオン状態に切り替えられると、第1の駆動回路51の回路電圧が通電ライン541を介して第2の駆動回路52へ供給され、第1の駆動回路51と第2の駆動回路52が互いに電気的に平衡となる。これにより、モータ112の過大な回生電圧から第1の駆動回路51を保護することができる。
【0045】
また、本実施形態によれば、過大な回生電圧から回路を保護するための制動抵抗のような回生電圧吸収用の回路部品が不要となる。これにより、第1の駆動回路51の回路構成の簡素化と部品コストの低減を図ることができる。
【0046】
さらに、モータ112において過大な回生電圧が生じた際に、通電ライン541を介して第1の駆動回路51における過剰な電圧分が第2の駆動回路52へ供給されるため、モータ112へ印加される電圧が上昇することを理由に、モータ112のトルクが回生から力行へ復帰する作用が加速される。その結果、第1の真空ポンプ110におけるポンプ作用の停止期間が短くなり、第1の真空ポンプ110において発生し得る気体の脈動現象を低減することができる。このような効果は、第2の真空ポンプ120に対する第1の真空ポンプ110の排気容積比が小さいほど顕著に得られる。
【0047】
制御部53は、スイッチ回路542のオン状態の経過時間を算出し、これが所定時間経過した後は、スイッチ回路542をオフ状態へ復帰させる(
図4のステップ103,104)。これにより、第1の駆動回路51と第2の駆動回路52との電気的導通が遮断され、第1の真空ポンプ110及び第2の真空ポンプ120の個別運転制御が再開される。上記所定時間は特に限定されず、典型的には、モータ112で発生した過大な回生電圧を消失させるのに十分な時間に設定される。さらに、制御部53で回生電圧を監視し、当該電圧がインバータ回路部5cの半導体スイッチング素子Trの耐圧以下のときにスイッチ回路542をオフにするようにすれば、モータ112のトルクをより迅速に力行に復帰させることができる点で好ましい。以後、上述の処理が繰り返し実行される。なお、回生電圧の監視値は、半導体スイッチング素子Trの耐圧に対して任意の安全率を乗じた値であることが望ましい。
【0048】
なお、
図6(b)では、第1の真空ポンプ120は、モータ112のトルクの回生から力行への復帰により動力が徐々に増加し、時刻t3で動力のピークが現れる例が示されている。一方、第2の真空ポンプ120については、プロセスガスの吸入による第1の真空ポンプ120の内圧の増加に応じて動力が増加し、時刻t2で動力が最大値に達する例が示されている。これらの動力の時間変化は、あくまでも一例であり、第1及び第2の真空ポンプ110,120の容積比やポンプ特性等に応じて異なる態様を示すことがある。
【0049】
本実施形態においては、第1の駆動回路51と第2の駆動回路52とを電気的に平衡化することで第1の駆動回路51の電圧上昇を抑えているため、モータ112の加減速の制御性が向上するとともに、加速制御時における回転数のオーバーシュートを防ぐことができる。
【0050】
<第2の実施形態>
続いて、本発明の第2の実施形態について説明する。
図7は、本実施形態の真空排気装置200を示す概略構成図である。以下、第1の実施形態と異なる構成について主に説明し、第1の実施形態と同様の構成については同様の符号を付しその説明を省略または簡略化する。
【0051】
本実施形態の真空排気装置200は、
図2に示すように、第1の真空ポンプ110と、その後段に位置する第2の真空ポンプ120と、コントローラ130とを備える点で第1の実施形態と共通するが、第2の真空ポンプ120の排気口E22が逆止弁140を介して大気に連通している点で、第1の実施形態と異なる。逆止弁140は、排気口E22から大気の方向への気体の流れを順方向とする弁部材であって、典型的には、排気口E22から排出される気体の圧力が大気圧以上の場合に開弁することが可能に構成される。
【0052】
本実施形態の真空排気装置200において、制御部53は、第2の真空ポンプ120の省電力運転制御を実行することが可能に構成される。つまり、本実施形態の真空排気装置200においては、第2の真空ポンプ120の吸気口E22に逆止弁140が接続されているため、排気口E22への大気の逆流を阻止でき、ポンプロータR2の負荷トルクを逆止弁140がない場合と比較して低くすることができる。そこで、例えば
図8に示すように、第2の真空ポンプ120のモータ122が所定トルク以下の場合においてはモータ122の回転数を定格回転数(例えば、5000rpm)よりも低い所定の制御回転数(例えば、3000rpm)に低下させることで、第2の真空ポンプ120の消費電力の低減を図ることが可能となる。
【0053】
一方、第2の真空ポンプ120が定格回転数から制御回転数へ切り替わり、多量のプロセスガスが第1の真空ポンプ110に導入されたときは、第1の真空ポンプ110と第2の真空ポンプ120との間に圧力が生じ、第1の真空ポンプ110の排気側の圧力で第2の真空ポンプ120のポンプロータR2が回転させられ、第2の真空ポンプ120のモータ122で過大な回生電圧が生じる場合がある。この現象は、第2の真空ポンプ120の排気容積が第1の真空ポンプ110の排気容積よりも小さいほど顕著となる。
【0054】
図8(a),(b)は、本実施形態の作用を説明する真空排気装置200の模式図であり、
図9は、第1及び第2の真空ポンプ110,120(モータ112,122)の動力の時間変化の一例を示す説明図である。
図10は、制御部53において実行される真空排気装置200の運転方法を説明するフローチャートである。
【0055】
例えば、
図9の時刻t1において第2の真空ポンプ120が定格回転数(
図8(a))から制御回転数(
図8(b))へ切り替えられると、第2の真空ポンプ120のモータ122は定格回転数から制御回転数に至るまで回転数を低減させた制御運転の状態となる。ここで、時刻t2の状況で第1の真空ポンプ110から多量のプロセスガスが導入されて第1の真空ポンプ110の圧力が高くなり、第2の真空ポンプ120との間に圧力が生じる。モータ122のトルクは、力行から回生に変化する。一方、第1の真空ポンプ110と第2の真空ポンプ120の排気容積比が比較的大きい場合、
図8(b)において黒色矢印で示すように、第1の真空ポンプ110の排気圧力で第2の真空ポンプ120のポンプロータR2の回転数が加速され、モータ122において発生する回生電圧が、インバータ回路部5cを構成するパワー素子の耐電圧を超えるほど過大となるおそれがある。
【0056】
そこで本実施形態では、制御部53は、
図10に示すように、モータ122によって発生する第2の駆動回路52における回生電圧を監視し、その大きさが所定値(例えば、第2の駆動回路52におけるインバータ回路部5cの定格電圧を超える任意の値)以上のときは、電力供給部54のスイッチ回路542をオフ状態からオン状態へ切り替える制御を実行する(ステップ201,202)。スイッチ回路542がオン状態に切り替えられると、第2の駆動回路52の回路電圧が通電ライン541を介して第1の駆動回路51へ供給され、第1の駆動回路51と第2の駆動回路52が互いに電気に平衡となる。これにより、モータ122の過大な回生電圧から第2の駆動回路52を保護することができる。
【0057】
また、本実施形態によれば、過大な回生電圧から回路を保護するための制動抵抗のような回生電圧吸収用の回路部品が不要となるため、第2の駆動回路52の回路構成の簡素化と部品コストの低減を図ることができる。
【0058】
さらに、モータ122において過大な回生電圧が生じた際に、通電ライン541を介して第2の駆動回路52における過剰な電力分を第1の駆動回路51へ供給することができるため、モータ122を回生モードから力行モードへ速やかに復帰させることができる(
図9における時刻t2)。その結果、第2の真空ポンプ120におけるポンプ作用の停止期間が短くなり、第2の真空ポンプ120において発生し得る気体の脈圧振動を低減することができる。
【0059】
制御部53は、スイッチ回路542のオン状態の経過時間を算出し、これが所定時間経過した後は、スイッチ回路542をオフ状態へ復帰させる(ステップ203,204)。これにより、第1の駆動回路51と第2の駆動回路52との電気的導通が遮断され、第1の真空ポンプ110及び第2の真空ポンプ120の個別運転制御が再開される。上記所定時間は特に限定されず、典型的には、モータ122で発生した過大な回生電圧を消失させるのに十分な時間に設定される。さらに、制御部53で回生電圧を監視し、当該電圧がインバータ回路部5cの半導体スイッチング素子Trの耐圧以下のときにスイッチ回路542をオフにするのが好ましい。以後、上述の処理が繰り返し実行される。
【0060】
なお、本実施形態においても第1の実施形態と同様な作用効果を得ることができる。すなわち、制御部53は、第2の駆動回路52の回路電圧だけでなく、第1の駆動回路51の回路電圧も監視することで、真空チャンバ1の急激な内圧上昇時にスイッチ回路542をオン状態にすることで、第1の駆動回路51をモータ112の過大な回生電圧から保護することができる。
【0061】
<第3の実施形態>
続いて、本発明の第3の実施形態について説明する。本実施形態の真空排気装置300は、
図2に示すように、第1の真空ポンプ110と、その後段に位置する第2の真空ポンプ120と、コントローラ130とを備える点で第1及び第2の実施形態と共通するが、制御部53の構成が第1及び第2の実施形態と異なる。
【0062】
本実施形態の制御部53は、第1の駆動回路51及び第2の駆動回路52におけるモータ112,122の回生電圧の監視に加えて又はこれに代えて、第1の駆動回路51及び第2の駆動回路52に接続される交流電源60の瞬時停電(瞬時電圧低下)の有無を監視する機能を有する。そして、制御部53は、交流電源60の瞬時停電を検出したとき、電力供給部54におけるスイッチ回路542をオン状態に切り替えて、第1の駆動回路51と第2の駆動回路52とを電気的に接続するように構成される。
【0063】
図11は、制御部53において実行される真空排気装置300の運転方法を説明するフローチャートである。制御部53は、真空排気装置300の運転中に瞬時停電の発生の有無を監視し、瞬時停電の発生を検出したときは、スイッチ回路542をオフ状態からオン状態へ切り替えることで、第1の駆動回路51と第2の駆動回路52との間を電気的に接続する(ステップ301,302)。
【0064】
瞬時停電が発生すると、第1の駆動回路51は、モータ駆動電流の生成が行なえなくなるため、モータ112のトルクは力行から回生に変化する。回生電圧の大きさは、瞬時停電の発生時におけるポンプロータR1の回転数で決定され、ポンプロータR1の慣性による回転エネルギーが回生電圧に変換される。
【0065】
一方、第2の駆動回路52においては、スイッチ回路542のオン状態への切り替えにより、通電ライン541を介して第1の駆動回路51から第2の駆動回路52へモータ112の回生電圧が供給される。これにより、第2の真空ポンプ120は、第1の駆動回路51から第2の駆動回路52へモータ122の駆動に必要な電力が供給される限りにおいてポンプ作用を継続し、真空チャンバ1の真空度の低下を抑えることができる。
【0066】
この場合において第2の真空ポンプ120の延命時間(ポンプ作用が停止するまでの時間)は、電源復帰までに必要な時間が理想であり、補助電源(バックアップ電源)が併設される場合には、瞬時停電が発生してから当該補助電源が作動するまでの時間以上であることが好適である。このような理由から、第1の駆動回路51におけるコンデンサC1は、第2の駆動回路52におけるコンデンサC2よりも大容量の素子で構成されるのが好ましい。
【0067】
なお、本実施形態においてスイッチ回路542は、ノーマリ―オン(B接点)スイッチで構成されてもよい。これにより、スイッチ回路542をオン状態に維持する電力が不要となるため、第2の真空ポンプ120の延命時間を最大限に引き延ばすことができる。また、停電時に速やかにスイッチ回路542をオン状態に切り替えることが可能となる。
【0068】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上述の実施形態にのみ限定されるものではなく種々変更を加え得ることは勿論である。
【0069】
例えば以上の実施形態では、第1の真空ポンプ110としてメカニカルブースタポンプを、第2の真空ポンプ120としてスクリューポンプをそれぞれ採用したが、これに限られず、ルーツポンプ、スクロールポンプ等の他の真空ポンプが採用可能である。
【0070】
また、以上の実施形態では、電力供給部54におけるスイッチ回路542が制御部53の指示に基づいてオフ状態からオン状態(又はオン状態からオフ状態)へ切り替え可能に構成されたが、これに限られない。例えば、スイッチ回路542は、回路電圧が所定値以上のときに自動的にオン状態に切り替わるスイッチング素子が採用されてもよい。
【0071】
真空排気装置の構成も上述の例に限られず、例えば、第1の真空ポンプ110の後段に、第2の真空ポンプ120とは並列に、第1の真空ポンプ110の排気口から大気への気体の流れを順方向とする逆止弁が接続されてもよい。
【符号の説明】
【0072】
1…真空チャンバ
51…第1の駆動回路
52…第2の駆動回路
53…制御部
54…電力供給部
100,200,300…真空排気装置
110…第1の真空ポンプ
112,122…モータ
120…第2の真空ポンプ
130…コントローラ
541…通電ライン
542…スイッチ回路