(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-22
(45)【発行日】2024-01-30
(54)【発明の名称】耐寒用無機系アンカー材料及び当該アンカー材料を用いたアンカー部材の固定方法
(51)【国際特許分類】
C04B 7/345 20060101AFI20240123BHJP
C04B 22/08 20060101ALI20240123BHJP
C04B 28/02 20060101ALI20240123BHJP
E04B 1/41 20060101ALI20240123BHJP
E04G 21/12 20060101ALI20240123BHJP
E01D 22/00 20060101ALI20240123BHJP
【FI】
C04B7/345
C04B22/08 B
C04B28/02
E04B1/41 503B
E04G21/12 105Z
E01D22/00 A
E01D22/00 B
(21)【出願番号】P 2020057948
(22)【出願日】2020-03-27
【審査請求日】2023-03-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000183266
【氏名又は名称】住友大阪セメント株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000235543
【氏名又は名称】飛島建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100116687
【氏名又は名称】田村 爾
(74)【代理人】
【識別番号】100098383
【氏名又は名称】杉村 純子
(72)【発明者】
【氏名】安藤 重裕
(72)【発明者】
【氏名】兼吉 孝征
(72)【発明者】
【氏名】田村 努
(72)【発明者】
【氏名】川上 明大
(72)【発明者】
【氏名】阿部 隆英
(72)【発明者】
【氏名】折田 現太
【審査官】田中 永一
(56)【参考文献】
【文献】特開昭62-235239(JP,A)
【文献】特開昭64-042346(JP,A)
【文献】特開昭58-004098(JP,A)
【文献】特開2012-062636(JP,A)
【文献】特開2019-019022(JP,A)
【文献】特開平02-271945(JP,A)
【文献】特開2006-335586(JP,A)
【文献】特開2001-097759(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2021/0380482(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第107056329(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第109485356(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 2/00 - 32/02
E04B 1/41
E04G 21/12
E01D 22/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
超速硬性バインダー及び亜硝酸塩を含み、前記超速硬性バインダー中に超速硬性鉱物としてのCAを10~50質量%及びC2ASを3~40質量%含み、C12A7は実質的に含有せず、亜硝酸塩は、超速硬性バインダー100質量部に対して3~13質量部で含有されることを特徴とする、耐寒用無機系アンカー材料。
【請求項2】
請求項1記載の耐寒用無機系アンカー材料において、亜硝酸塩は、亜硝酸リチウム、亜硝酸カルシウム及び亜硝酸ナトリウムから成る群より選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする、耐寒用無機系アンカー材料。
【請求項3】
請求項1又は2記載の耐寒用無機系アンカー材料において、-10℃における圧縮強度がJIS A 1108の「コンクリート圧縮強さ試験」に準拠して測定して29.4N/mm
2以上で、―10℃におけるアンカー部材の付着強度がJCAAの「あと施工アンカー試験方法」に準拠して測定して10.9N/mm
2以上であることを特徴とする、耐寒用無機系アンカー材料。
【請求項4】
請求項1乃至3いずれかの項記載の耐寒用無機系アンカー材料を、カートリッジに内包し、該カートリッジを注入ガンに取り付けて、当該耐寒用無機系アンカー材料をコンクリート構造物の孔に充填して硬化させて、アンカー部材を固定することを特徴とする、アンカー部材の固定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐寒用無機系アンカー材料及び該アンカー材料を用いたアンカー部材の固定方法に関し、特に低温下、例えば氷点下の環境においても有効に使用できる耐寒用注入式無機系あと施工アンカー材料及び当該アンカー材料を用いたアンカー部材の固定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
建築物や舗装道路等の構造物の表面から所定の深さで形成される孔に、アンカー筋を収容し、アンカー筋と孔との間に充填材を充填することで、アンカー筋を構造物に固定する方法が知られている。
かかる建築・土木構造物であるコンクリート構造物に設けられた孔に注入するアンカー材料としては、無機系と有機系とに大別することができ、また施工形態として、カプセルタイプと注入タイプとがある。
【0003】
無機系アンカー材料は、セメントを主成分とし、水と混練されて、孔とアンカー筋との間に充填された後、硬化することで硬化層を形成する。そして、該硬化層が構造物およびアンカー筋と結合し、アンカー筋に対して孔から引き抜く方向に力が加わった際に、高い付着性能を有することで、アンカー筋が引き抜かれないように維持することが所望される。
【0004】
例えば、建築構造物では、手すり、看板等の取り付け、ブレス工法等の耐震補強工事、土木構造物では、橋梁の落橋防止、トンネル内設備の取り付け、固定等に採用されているのが一般的である。
【0005】
通常、コンクリートやモルタル等のセメント系材料は、寒冷地における氷点下で使用する場合には、練り混ぜに使用する水が凍結するため、初期凍害を受けてしまい、耐久性、水密性等が著しく劣ることが知られている。
そこで、冬季の施工においては、特に氷点下の環境では、亜硝酸塩、硝酸塩、尿素、エチレングリコール等の防凍剤を添加して混練水の凝固点を降下させ、凍結を防止して施工を実施している。
また、無機系アンカー材料も、氷点下の場合には、初期凍害を受けてアンカー筋との付着性能に大きな影響を及ぼすことも懸念されている。
【0006】
低温でのセメント材料用付着保持材として、特許第5740909号(特許文献1)には、コンクリート構造体をセメント系材料で補修するための下地処理材として温度5℃以下の環境下で使用するセメント材料用付着保持材であって、亜硝酸ナトリウム、亜硝酸リチウム、硝酸カルシウム、亜硝酸カルシウムからなる群より選ばれる物質が固形分濃度5~50質量%で溶解している水溶液であることを特徴とする、セメント材料用付着保持材が記載されている。
【0007】
また、特開昭62-235239号公報(特許文献2)には、セメント質物質とアルカリ金属硝酸塩、アルカリ土類金属硝酸塩、アルカリ金属亜硝酸塩及びアルカリ土類金属亜硝酸塩の群から選ばれた1種以上とを主成分とする素子の定着組成物であって、セメント質物質は、ポルトランド系セメント、アルミナセメント、スラグ系セメント及びこれらのセメントにCa0-Al203系の化合物を混合したものが開示されている。
さらに特開2018-080092号公報(特許文献3)には、水との接触により最高で10℃の作業温度及び/又は周辺温度で硬化する寒冷地用の水硬性組成物であって、ポルトランドセメント、アルミナセメント、及び急結剤を含有する水硬成分と、カオリンを主成分とする強度増進剤と、流動化剤と、凝結調整剤とを含み、前記ポルトランドセメントを20~40質量部、前記アルミナセメントを30~50質量部、前記急結剤を10~30質量部、前記カオリンを1~10質量部、前記凝結調整剤を0.1~1質量部、前記流動化剤を0.1~1質量部とする水硬性組成物が開示されている。
【0008】
しかし、従来の無機系アンカー材料では、上記防凍剤を使用した場合に、圧縮強度の改善は得られるが、防凍剤の添加により流動性が悪くなり、また収縮率が増加して、アンカー材料に所望される施工性能(上向き施工時のダレ性)や力学特性(圧縮強度や引張強度)が低下してしまう。
【0009】
そこで、氷点下の環境でも、可使時間を確保でき、ダレ性が少ない良好な施工性能を有するとともに、アンカー部材との付着性能に優れ、十分な圧縮強度を有する耐寒用無機系アンカー材料が所望されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】特許第5740909号公報
【文献】特開昭62-235239号公報
【文献】特開2018-080092号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の目的は、上記課題を解決し、氷点下の環境でも適切な可使時間を確保でき、ダレ性が少ない良好な施工性能を有するとともに、アンカー筋等のアンカー部材との付着性能に優れ、当該アンカー材料とコンクリート構造物との付着強度を良好に維持することができる耐寒用無機系アンカー材料、特にあと施工アンカー材料を提供することである。
また、本発明の他の目的は、本発明の耐寒用無機系アンカー材料を用いて、寒冷環境下においてもアンカー部材を簡易に且つ有効に定着することができる、アンカー部材の固定方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、氷点下の条件においても、特定のセメントと特定の防凍剤とを含み、防凍剤の含有量を特定することで、上記課題を解決することを見出し、本発明に到った。
【0013】
請求項1記載の耐寒用無機系アンカー材料は、超速硬性バインダー及び亜硝酸塩を含み、超速硬性バインダーは、超速硬性鉱物としてのCA(CaO・Al2O3)を10~50質量%及びC2AS(2CaO・Al2O3・SiO2)を3~40質量%含み、C12A7(12CaO・7Al2O3)は実質的に含有せず、亜硝酸塩は、超速硬性バインダー100質量部に対して3~13質量部で含有されることを特徴とする、耐寒用無機系アンカー材料である。
【0014】
請求項2記載の耐寒用無機系アンカー材料は、上記耐寒用無機系アンカー材料において、亜硝酸塩は、亜硝酸リチウム、亜硝酸カルシウム及び亜硝酸ナトリウムから成る群より選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする、耐寒用無機系アンカー材料である。
【0015】
請求項3記載の耐寒用無機系アンカー材料は、上記いずれかの耐寒用無機系アンカー材料において、-10℃における圧縮強度がJIS A 1108の「コンクリート圧縮強さ試験」に準拠して測定して29.4N/mm2以上で、―10℃におけるアンカー部材の付着強度がJCAAの「あと施工アンカー試験方法」に準拠して測定して10.9N/mm2以上であることを特徴とする、耐寒用無機系アンカー材料である。
【0016】
請求項4記載のアンカー部材の固定方法は、上記いずれかの耐寒用無機系アンカー材料を、カートリッジに内包し、該カートリッジを注入ガンに取り付けて、当該耐寒用無機系アンカー材料をコンクリート構造物の孔に充填して硬化させてアンカー部材を固定することを特徴とする、アンカー部材の固定方法である。
【発明の効果】
【0017】
本発明の耐寒用無機系アンカー材料は、超速硬性バインダーと亜硝酸塩とを組み合わせることにより、氷点下の環境においても適切な可使時間を有し、ダレ性等の施工性に優れるため、上向き施工においても有効に使用でき、高い圧縮強度を有し、アンカー部材との優れた付着強度を保持することが可能となる。
また本発明のアンカー部材の固定方法は、寒冷環境下においても、コンクリート構造物の孔に充填した該無機系アンカー材料が垂れることなく、効率よく簡単に施工することができる。
また特に、アンカー用カートリッジ等の注入容器を用いることで、耐寒用無機系アンカー材料の撹拌混合作業と充填作業を同一の容器で行うこともでき、撹拌混合作業中の粉塵の発生をほぼゼロに抑えられ、孔内充填、特に上向き充填を簡便に行うことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】無機系アンカー材料のダレ性を評価するためのフロー試験の概略図である。
【
図2】無機系アンカー材料とアンカー部材との付着性能を評価する引張強度試験の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明を次の形態により説明するが、これらに限定されるものではない。
本発明の耐寒用無機系アンカー材料は、超速硬性バインダー及び亜硝酸塩を含み、前記超速硬性バインダーは、超速硬性鉱物としてのCAを10~50質量%、C2ASを3~40質量%含み、C12A7は実質的に含有せず、亜硝酸塩は、超速硬性バインダー100質量部に対して3~13質量部で含有される、耐寒用無機系アンカー材料である。
【0020】
通常、超速硬性鉱物としては、CA、C2AS及びC12A7が該当するが、本発明においては、超速硬性バインダー中にはCA及びC2ASが含まれ、C12A7は実質的に含まれない。超速硬性バインダー中に含まれるCA及びC2ASの含有量は、CAが10~50質量%、C2ASが3~40質量%である。
かかる範囲でCA及びC2ASを含有し、更にC12A7を実質的に含有しないことにより、本発明の上記効果を有効に発現することができる。
ここでC12A7を実質的に含有しないとは、仮に含まれたとしても1質量%未満であることを意味し、好ましくは0%である。
C12A7を1質量%以上で含むと、適切な可使時間を確保できず、施工性は十分ではなくなる場合があり望ましくない。
【0021】
また、超速硬性バインダー中には、CAが10~50質量%含まれるとともにC2ASが3~40質量%含まれる。かかる含有範囲を逸脱すると、氷点下の環境でのコンクリート構造物との付着性が劣り、適切な可使時間が得られず施工性が劣ることとなる。
【0022】
かかる超速硬性バインダーとして、CAが10~50質量%、C2ASが3~40質量%含まれ、C12A7は実質的に含有されない超速硬性バインダーが得られるのであれば、超速硬セメントを超速硬性バインダーとして含むこともできる。
【0023】
一例としての従来のポルトランドセメントを用いるアンカー材料は、凝結時間が長く、特に横向きや上向きの孔に充填する場合には、時間の経過とともに、アンカー材料が孔から垂れてきたり、次工程までの移行時間が長くなっていたが、本発明においては、氷点下の環境においても適切な可使時間を確保するとともにダレ性に優れるため、このような問題は生じない。
【0024】
また本発明の耐寒用無機系アンカー材料には、前記超速硬性バインダーと組み合わせて、亜硝酸塩を必須成分として含有する。
本発明の耐寒用無機系アンカー材料に用いる亜硝酸塩としては、特に限定されず、任意の亜硝酸塩を含むことができるが、好ましくは、亜硝酸リチウム、亜硝酸カルシウム及び亜硝酸ナトリウムから成る群より選ばれる少なくとも1種の亜硝酸塩を用いることが、本発明の上記効果を更に有効に発現するために望ましい。
また、亜硝酸塩の粒度は特に限定されず、またその配合量は、上記超速硬性バインダー100質量部に対して3~13質量部であり、好ましくは3.5~12.5質量部である。
かかる範囲で超速硬性バインダーと亜硝酸塩とを組み合わせて用いることにより、氷点下における環境においても、施工性に優れ、圧縮強度や付着(引張)強度を良好に保持することが可能となる。
なお、かかる亜硝酸塩は、混練水に予め配合して溶解させておくことが望ましい。
【0025】
従来は、防凍剤として、尿素、エチレングリコール、硝酸カルシウム等を用いていたが、本発明においては、これらの防凍剤は含まれない。
【0026】
本発明の耐寒用無機系アンカー材料には、骨材が含有されるが、骨材としては特に限定されず、コンクリートやモルタルに用いられる一般的な細骨材を好適に用いることができる。
細骨材としては、川砂、海砂、山砂、砕砂等の天然細骨材、再生細骨材、人工細骨材を例示することができる。
細骨材の配合割合は、特に限定されず、現場での所望する要求に応じて、任意に配合することができるが、好適には、超速硬性バインダー100質量部に対して、好ましくは30~200質量部、より好ましくは40~100質量部であり、細骨材の最大寸法は1.2mmであることが望ましい。
【0027】
更に、水を配合して本発明の耐寒用無機系アンカー材料を得るが、水は、水/超速硬性バインダー質量比で好ましくは30~50、より好ましくは35~45である。30未満であるとバインダー粉体と水とが不均一となりノズルからの排出が困難となり、50を超えると充填した材料が孔から流出したり、ダレ性や付着強度が低下するため好ましくない。
【0028】
本発明の耐寒用無機系アンカー材料には、必要に応じて、公知の混和剤や添加剤、例えば減水剤、遅延剤、ポリマー、防錆剤、凝結遅延剤等を、本発明の効果を害さない範囲で添加することができる。
【0029】
本発明の耐寒用無機系アンカー材料は、予め、超速硬性バインダーと亜硝酸塩等の粉末体を配合し、それに細骨材や水を配合して均一に混練することで製造することもできるが、好ましくは予め亜硝酸塩を混練水に溶解し、超速硬性バインダーと、亜硝酸塩水溶液と、骨材等の各材料を現場で配合して、任意のミキサーを用いて混練することで製造することも可能であり、均一な材料が調製できればその方法は限定されない。
【0030】
本発明の耐寒用無機系アンカー材料は、特に氷点下の環境で、例えば、既設のコンクリート構造物にアンカー部材を固定するのに用いられる。
具体的には、コンクリート構造物に表面より穿孔し、該孔に本発明の耐寒用無機系アンカー材料を充填し、アンカー筋を挿入して、該耐寒用無機系アンカー材料を硬化させて、アンカー部材を固定させる。
孔への耐寒用無機系アンカー材料の充填方法は、特に限定されず、公知の方法を適用することができるが、施工の容易性より、例えば、カートリッジに当該アンカー材料を充填し、該カートリッジを注入ガンと称される吐出機に取り付けて、ノズルから当該アンカー材料を孔の奥に注入して硬化させる方法を好適に用いることができる。
また、アンカー材料として本発明の耐寒用無機系アンカー材料を用いているため、氷点下の環境でも、適切な可使時間を保持し、注入した当該アンカー材料が垂れてくることがなく、迅速にアンカー部材を固定することができる。
【0031】
カートリッジや注入ガンは、任意の公知のものを用いることができ、例えば、シーリングガンまたはコーキングガンは、カートリッジを装着するカートリッジ用ガンとして使用することができる。
【0032】
本発明の耐寒用無機系アンカー材料は、下記試験例に記載したように、氷点下、例えば-10℃の温度下において、JASS15 M103(セルフレベリング材の品質基準試験)に準じて測定したダレ性のフロー試験値が70mm以下であり、可使時間も下記試験例の方法で測定して31~80分と適切であり、またJIS A 1108「コンクリート圧縮強さ試験」に準じて測定した圧縮強度が29.4N/mm2以上であり、また、JCAAの「あと施工アンカー試験方法」に準拠して測定したアンカー筋の引張強度が10.9N/mm2以上とすることが可能となる。
本発明のアンカー部材の固定方法は、氷点下の環境においても、適切な可使時間を有し、材料ダレすることなく施工性に優れ、初期凍害を受けることなく強度を発現し、アンカー部材の付着性能を著しく向上させることができる。
【実施例】
【0033】
本発明を次の実施例、比較例及び試験例に基づき説明する。
(1)原材料
無機系アンカー材料を調製するにあたり、以下の各原材料を用いた。
・超速硬性バインダー:表1及び表2に示す超速硬性鉱物組成を有するもの
・普通ポルトランドセメント:住友大阪セメント(株)製
・早強ポルトランドセメント:住友大阪セメント(株)製
・防凍剤:亜硝酸リチウム(日産化学工業(株)製)
亜硝酸カリウム(関東化学(株)製)
亜硝酸ナトリウム(関東化学(株)製)
尿素:(関東化学(株)製)
硝酸カルシウム:(関東化学(株)製)
・細骨材(B):6号砂
・混練水(W):水道水
・増粘剤:メチルセルロース系増粘剤(2%水溶液、粘度:4000mPa・s) ハイメトローズ90:(信越化学工業(株)製)
【0034】
(2)実施例1~15及び比較例1~16
上記各原材料を用いて、表1及び表2に示す配合比で各原材料を配合して、各無機系アンカー材料を調製した。
具体的には、混練水に予め上記各防凍剤を溶解して各水溶液を調製した。
表1及び2に示す超速硬性バインダーと、骨材と、増粘剤と、調製した上記各水溶液とを、表1及び表2に示す配合割合で混錬して、各無機系アンカー材料を調製した。
【0035】
(3)試験例
以下の試験は、-10℃、-5℃、0℃の寒冷温度下で実施した。
(試験例1)施工性/ダレ性
上記各実施例及び比較例で得られた練り混ぜ直後の各無機系アンカー材料を用いて、JASS15 M103「セルフレベリング材の品質基準試験」に準じ、
図1に示すようにしてφ50mm×h51mmフロー試験により評価した。
その結果を、表1及び表2に示す。
なお、以下の評価基準で評価した。
〇:70mm以下
△:71~75mm
×:76mm以上
【0036】
(試験例2)施工性/可使時間
上記各実施例及び比較例で得られた練り混ぜ直後の各無機系アンカー材料を用いて、市販のシーリングガン用のカートリッジ樹脂製注入器(330mlタイプ:エーディーワイ(株)製)に充填し、前記カートリッジに注入用ノズル(φ12mm)を取付けて、当該注入器からの排出可能時間を評価した。
その結果を、表1及び表2に示す。
なお、以下の評価基準で評価した。・
〇:30~80分(適切)
△:20分~30分未満
×:20分未満または80分を超える
【0037】
(試験例3)機械的強度/圧縮強度
JIS A 1108「コンクリート圧縮強さ試験」に準拠して圧縮強度試験を実施した。
具体的には、φ50×100mmに各無機系アンカー材料を成形し、上記の各温度で養生し、材齢28日における圧縮強度を測定した、
その結果を、表1及び表2に示す。
なお、以下の評価基準で評価した。
〇:29.4N/mm2以上
×:29.4N/mm2未満
【0038】
(試験例4)機械的強度/引張強度(アンカー筋との付着性)
鋼管に打設したコンクリートに、φ16mmの孔を形成し、各無機系アンカー材料を注入して、全ねじボルトM12(材質SNB7)を定着させて、JCAAの「あと施工アンカー試験」に準じて、引張(付着)強度試験を実施した。
付着試験におけるアンカー筋等の条件は以下のとおりである。
・アンカー筋:M12
・種類:SNB7
・埋め込み長さ:84mm(7da)
・アンカー筋直径:12mm
・穿孔径:φ16mm
・母材コンクリート:鋼管打ち込みコンクリート(σB=25N/mm2)
【0039】
具体的には、
図2に示すような試験装置を用い、上記各実施例及び比較例で得られた無機系アンカー材料を、φ16mmの孔に注入して前記全ねじボルトM12で定着させたものを上記の各温度の恒温槽に28日間入れて、その後引張強度試験を実施した。
アンカー筋である全ねじボルトM12を孔から引き抜く際の最大荷重Aを測定した。
次いで、最大荷重Aと付着面積Bとから引張(付着)強度Cを算出した。
なお、付着面積B及び引張(付着)強度Cは、下記式(1)及び(2)により算出した。
付着面積B=アンカー筋の直径D×π×定着長(埋め込み深さ)L・・・(1)
引張強度C=最大荷重A/付着面積B・・・(2)
その結果を、表1及び表2に示す。
また、以下の評価基準で評価した。
〇:10.9N/mm
2以上
×:10.9N/mm
2未満
【0040】
(総合評価)
上記試験例1~4の評価の中で、すべての評価が〇のものを総合評価〇とし、評価の少なくとも一つが×のものは総合評価×とし、×の評価はないが△の評価が一つあり他の評価結果は〇のものを総合評価△として、その総合評価の結果も表1及表2に示す。
【0041】
【0042】
【0043】
上記表1及び2より、本発明の実施例の無機系アンカー材料は、氷点下の環境においてもダレ性は良好で、適切な可使時間を有し、アンカー筋の引張強度等を良好に保持することが可能であることがわかる。
一方、無機系アンカー材料に含まれる超速硬性バインダー中の超速硬性鉱物組成が、本発明の範囲外の比較例1~5では、氷点下の環境においては、適切な可使時間を有することができないか、機械的強度が十分でないことが明らかである。
【0044】
また、亜硝酸塩の含有割合が本発明の範囲外の比較例6~7、本発明の亜硝酸塩以外の防凍剤を含む8~13、防凍剤を含まない比較例14、本発明の超速硬性バインダーを含まない比較例15~16のアンカー材料は、氷点下の環境においては、施工性が悪いか、機械的強度が十分でないことが明らかである。
【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明の耐寒用無機系アンカー材料は、寒冷場所における建築・土木分野におけるコンクリート構造物に設けた孔に、アンカー筋等のアンカー部材を強固に付着させることができ、適切な可使時間を有するため施工の作業効率が高く、特に寒冷地における構造物に有効に適用することができる。