(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-22
(45)【発行日】2024-01-30
(54)【発明の名称】ガリウム化合物系半導体基板研磨用組成物
(51)【国際特許分類】
H01L 21/304 20060101AFI20240123BHJP
B24B 37/00 20120101ALI20240123BHJP
C09K 3/14 20060101ALI20240123BHJP
【FI】
H01L21/304 622D
H01L21/304 622W
H01L21/304 622F
B24B37/00 H
C09K3/14 550D
C09K3/14 550Z
(21)【出願番号】P 2020509937
(86)(22)【出願日】2019-03-22
(86)【国際出願番号】 JP2019011978
(87)【国際公開番号】W WO2019188747
(87)【国際公開日】2019-10-03
【審査請求日】2021-12-10
(31)【優先権主張番号】P 2018061192
(32)【優先日】2018-03-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2018061193
(32)【優先日】2018-03-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000236702
【氏名又は名称】株式会社フジミインコーポレーテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100117606
【氏名又は名称】安部 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100136423
【氏名又は名称】大井 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100154449
【氏名又は名称】谷 征史
(74)【代理人】
【識別番号】100174159
【氏名又は名称】梅原 めぐみ
(72)【発明者】
【氏名】織田 博之
(72)【発明者】
【氏名】今 宏樹
(72)【発明者】
【氏名】野口 直人
(72)【発明者】
【氏名】高見 信一郎
【審査官】宮久保 博幸
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2005/0208883(US,A1)
【文献】特開2016-124743(JP,A)
【文献】特開2014-073958(JP,A)
【文献】特開2007-109777(JP,A)
【文献】国際公開第2017/150118(WO,A1)
【文献】特開2015-153852(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2010/0184292(US,A1)
【文献】特開2007-067153(JP,A)
【文献】特開平02-262956(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/304
B24B 37/00
C09K 3/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガリウム化合物系半導体基板の研磨に用いられる研磨用組成物であって、
シリカ砥粒;
リン酸基またはホスホン酸基を有する化合物C
pho;および、
水;
を含み、かつ酸化剤を含有せず、
前記研磨用組成物における前記シリカ砥粒の濃度が22重量%以上50重量%以下であり、
pHが2.0未満である、研磨用組成物。
【請求項2】
前記化合物C
phoとして、ホスホン酸基を有するキレート化合物を含む、請求項1に記載の研磨用組成物。
【請求項3】
前記化合物C
phoとして、リン酸モノC
1-4アルキルエステル、リン酸ジC
1-4アルキルエステルおよび亜リン酸モノC
1-4アルキルエステルからなる群から選択される少なくとも一種の化合物を含む、請求項1または2に記載の研磨用組成物。
【請求項4】
前記化合物C
phoとして、リン酸および亜リン酸の少なくとも一方を含む、請求項1または2に記載の研磨用組成物。
【請求項5】
前記化合物C
phoとして、リン酸の無機塩および亜リン酸の無機塩からなる群から選択される少なくとも一種の化合物を含む、請求項1または2に記載の研磨用組成物。
【請求項6】
さらに酸を含む、請求項1から5のいずれか一項に記載の研磨用組成物。
【請求項7】
前記化合物C
phoの含有量m1[モル/kg]と前記酸の含有量m2[モル/kg]との関係が、以下の式:
m1/(m1+m2)≧0.1;
を満たす、請求項6に記載の研磨用組成物。
【請求項8】
前記ガリウム化合物系半導体基板は、窒化ガリウム基板または酸化ガリウム基板である、請求項1から7のいずれか一項に記載の研磨用組成物。
【請求項9】
請求項1から8のいずれか一項に記載の研磨用組成物をガリウム化合物系半導体基板に供給して該基板を研磨することを含む、研磨方法。
【請求項10】
ガリウム化合物系半導体基板を研磨する方法であって、
砥粒A1および水を含むスラリーS1で研磨する第一研磨工程と、
砥粒A2および水を含むスラリーS2で研磨する第二研磨工程と、
をこの順で含み、
ここで、前記砥粒A2はシリカ砥粒
であり、
前記スラリーS2において、前記砥粒A2としての前記シリカ砥粒の濃度は22重量%以上50重量%以下であり、
前記スラリーS2は、リン酸基またはホスホン酸基を有する化合物C
phoをさらに含み、
前記スラリーS2のpHが3.0未満であり、
前記スラリーS1は、前記化合物C
phoを含まないか、または前記化合物C
phoの濃度[重量%]が前記スラリーS2における前記化合物C
phoの濃度[重量%]より低
く、
前記スラリーS1は、強酸および酸化剤の少なくとも1つを含み、
前記スラリーS1のpHが2.0未満である、研磨方法。
【請求項11】
前記酸化剤は、過マンガン酸塩、メタバナジン酸塩および過硫酸塩からなる群から選択される少なくとも一つを含む、請求項
10に記載の研磨方法。
【請求項12】
前記砥粒A1はシリカ砥粒を含む、請求項10
または11に記載の研磨方法。
【請求項13】
前記スラリーS2は酸化剤を含まない、請求項10から
12のいずれか一項に記載の研磨方法。
【請求項14】
前記スラリーS2における前記化合物C
phoの濃度が0.2重量%以上15重量%以下である、請求項10から
13のいずれか一項に記載の研磨方法。
【請求項15】
前記第二研磨工程では、軟質発泡ポリウレタン製の表面を有する研磨パッドを用いて研磨する、請求項10から
14のいずれか一項に記載の研磨方法。
【請求項16】
請求項10から
15のいずれか一項に記載の研磨方法に用いられる研磨用組成物セットであって、
前記スラリーS1またはその濃縮液である組成物Q1と、
前記スラリーS2またはその濃縮液である組成物Q2と
を含み、
前記組成物Q1と前記組成物Q2とは互いに分けて保管されている、研磨用組成物セット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、研磨用組成物に関し、詳しくはガリウム化合物系半導体基板の研磨に用いられる研磨用組成物に関する。また、本発明は、ガリウム化合物系半導体基板の研磨方法および該方法に用いられる研磨用組成物セットに関する。本出願は、2018年3月28日に出願された日本国特許出願2018-61192号および2018年3月28日に出願された日本国特許出願2018-61193号に基づく優先権を主張しており、それらの出願の全内容は本明細書中に参照として組み入れられている。
【背景技術】
【0002】
パワーデバイスや発光ダイオード(LED)等に用いられる化合物半導体材料として、窒化ガリウム基板や酸化ガリウム基板等のガリウム化合物系半導体基板の重要性が増している。ガリウム化合物系半導体を用いてパワーデバイス等を製造する場合、一般的に、加工ダメージがなくかつ平滑な面を得る必要があるため、ガリウム化合物系半導体基板の表面研磨が実施される。窒化ガリウム等の窒化物半導体基板の研磨に関する技術文献として、特許文献1~3が挙げられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】日本国特許出願公開2015-153852号公報
【文献】日本国特許出願公開2013-201176号公報
【文献】日本国特許第5116305号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
化合物半導体は一般に化学的に非常に安定であり反応性が低く、なかには窒化ガリウム等のように硬度の非常に高いものもあり、概して研磨による加工は容易ではない。そのため、通常、化合物半導体基板は、研磨定盤にダイヤモンド砥粒を供給して行う研磨(ラッピング)を行った後、該ラッピング等により生じた傷を除去するために、研磨パッドと研磨対象物との間に砥粒を含むスラリーを供給して行う研磨(ポリシング)や、砥粒を含まない溶液による化学エッチングを行って仕上げられる。特許文献1、2は、砥粒を含むスラリーを用いて窒化物半導体結晶を研磨する技術に関し、主に砥粒の粒子径の検討によって研磨レートの向上を図っている。しかし、化合物半導体基板に要求される表面品質は次第に高くなる傾向にあり、特許文献1、2に記載の技術では十分に対応し切れなくなくなってきている。また、特許文献3は、第1の研磨組成物を用いて研磨(一次研磨)した窒化ガリウム系半導体基板を、さらに第2の研磨組成物を用いて研磨(二次研磨)することを提案している。しかし、化合物半導体基板に要求される表面品質は次第に高くなる傾向にある一方、生産性の観点から実用的な研磨能率を維持することも求められている。かかる要求に対して、特許文献3に記載の技術では十分に対応し切れなくなくなってきている。
【0005】
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、窒化ガリウムその他のガリウム化合物系半導体基板の研磨に用いられて、高い研磨能率と研磨後におけるより高品質の表面とを両立し得る研磨用組成物を提供することである。関連する他の目的は、上記研磨用組成物を用いてガリウム化合物系半導体基板を研磨する方法を提供することである。さらに他の目的は、窒化ガリウムその他のガリウム化合物系半導体基板について、高品位な表面を効率よく実現することのできる研磨(ポリシング)方法を提供することである。関連する他の目的は、かかる研磨方法を実現するために適した研磨用組成物セットを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この明細書によると、ガリウム化合物系半導体基板の研磨に用いられる研磨用組成物が提供される。上記研磨用組成物は、シリカ砥粒と、リン酸基またはホスホン酸基を有する化合物Cpho(以下、単に「化合物Cpho」と表記することがある。)と、水と、を含む。ここで、上記研磨用組成物は、酸化剤を含有しない。かかる研磨用組成物は、シリカ砥粒を含むことにより、砥粒を含まない溶液によるエッチングに比べて、研磨対象物であるガリウム化合物系半導体基板の表面をより効率よく除去することができる。また、上記化合物Cphoを含み、かつ酸化剤を含まないことにより、研磨による研磨対象物表面の荒れを抑制し、研磨後の面品質を改善することができる。
【0007】
ここに開示される研磨用組成物は、前記化合物Cphoとして、例えば、(A)ホスホン酸基を有するキレート化合物、(B)リン酸モノC1-4アルキルエステル、リン酸ジC1-4アルキルエステルおよび亜リン酸モノC1-4アルキルエステルからなる群から選択される化合物、(C)リン酸および亜リン酸の少なくとも一方、(D)リン酸の無機塩および亜リン酸の無機塩からなる群から選択される化合物、の少なくともいずれかを用いる態様で好ましく実施することができる。
【0008】
ここに開示される研磨用組成物は、pHが2未満であることが好ましい。pHが2未満の研磨用組成物によると、高い面品質を有する表面が効率よく実現され得る。
【0009】
ここに開示される研磨用組成物は、さらに酸を含んでいてもよい。化合物Cphoと酸とを組み合わせて用いることにより、良好な面品質を効率よく実現し得る。研磨用組成物における化合物Cphoの含有量m1[モル/kg]および酸の含有量m2[モル/kg]は、次式:m1/(m1+m2)≧0.1;を満たすように設定することが好ましい。
【0010】
ここに開示される研磨用組成物は、窒化ガリウム基板または酸化ガリウム基板を研磨するための研磨用組成物として好適である。
【0011】
この明細書によると、ガリウム化合物系半導体基板の研磨方法が提供される。上記研磨方法は、ここに開示されるいずれかの研磨用組成物をガリウム化合物系半導体基板に供給して該基板を研磨することを含む。かかる研磨方法によると、ガリウム化合物系半導体基板の面品質を効果的に高めることができる。
【0012】
この明細書によると、ガリウム化合物系半導体基板(以下、「研磨対象物」ということもある。)を研磨する方法が提供される。その研磨方法は、砥粒A1および水を含むスラリーS1で研磨する第一研磨工程と、砥粒A2および水を含むスラリーS2で研磨する第二研磨工程と、をこの順で含む。ここで、上記砥粒A2はシリカ砥粒を含む。また、上記スラリーS2は、リン酸基またはホスホン酸基を有する化合物Cphoをさらに含む。上記スラリーS1は、上記化合物Cphoを含まないか、または上記化合物Cphoの濃度[重量%]が上記スラリーS2における上記化合物Cphoの濃度[重量%]より低い。かかる研磨方法によると、スラリーS1を用いて研磨された研磨対象物を、化合物Cphoを含むスラリーS2を用いてさらに研磨することにより、研磨時間の増加抑制と研磨後における高品位な表面とを両立することができる。
【0013】
いくつかの態様において、上記スラリーS1のpHは2.0未満であり得る。このような低pHのスラリーS1によると、第一研磨工程において高い研磨能率が得られやすい。このような低pHのスラリーS1を用いて第一研磨工程を行った後に、化合物Cphoを含むスラリーS2を用いて第二研磨工程を行うことにより、高品位な表面を効率よく実現することができる。
【0014】
いくつかの態様において、強酸を含有するスラリーS1を好ましく採用し得る。強酸を用いることにより、スラリーS1のpHを効率よく制御することができる。
【0015】
いくつかの態様において、上記スラリーS1は酸化剤を含み得る。かかる組成のスラリーS1を用いて第一研磨工程を行った後に第二研磨工程を行うことにより、高品位な表面を効率よく実現することができる。上記酸化剤としては、過マンガン酸塩、メタバナジン酸塩および過硫酸塩からなる群から選択される少なくとも一つを好ましく使用し得る。
【0016】
いくつかの態様において、砥粒A1はシリカ砥粒を含み得る。シリカ砥粒を含むスラリーS1を用いて第一研磨工程を行うことにより、その後に行われる第二研磨工程において研磨対象物の表面品位を効率よく向上させ得る。
【0017】
いくつかの態様において、上記スラリーS2のpHは3.0未満であり得る。低pHのスラリーS2によると、第二研磨工程において高い研磨能率が得られやすい。また、スラリーS2が化合物Cphoを含むことにより、低pHにおいても研磨対象物表面の荒れを抑制し、研磨後において高品質の表面を得ることができる。
【0018】
上記スラリーS2における上記化合物Cphoの濃度は、例えば0.2重量%以上15重量%以下であり得る。化合物Cphoの濃度が上記範囲にあると、第二研磨工程において、高い研磨能率と研磨後における高品質の表面を好適に両立することができる。
【0019】
上記第二研磨工程の研磨に用いる研磨パッドとしては、軟質発泡ポリウレタン製の表面を有する研磨パッドが好ましい。このような研磨パッドを用いて第二研磨工程を行うことにより、研磨後において高品質の表面が得られやすくなる。
【0020】
この明細書によると、ここに開示されるいずれかの研磨方法に用いられ得る研磨用組成物セットが提供される。その研磨用組成物セットは、上記スラリーS1またはその濃縮液である組成物Q1と、上記スラリーS2またはその濃縮液である組成物Q2と、を含む。ここで、上記組成物Q1と上記組成物Q2とは、互いに分けて保管されている。このような構成の研磨用組成物セットを用いて好適に実施することができる。
【0021】
この明細書により開示される事項には、ここに開示されるいずれかの研磨方法において第二研磨工程に用いられる研磨用組成物であって、上記スラリーS2またはその濃縮液である研磨用組成物が含まれる。上記研磨用組成物は、例えば、ここに開示される研磨用組成物セットを構成する上記組成物Q2として好ましく用いられ得る。上記スラリーS2のpHは、例えば3.0未満、2.0未満または1.5未満であり得る。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の好適な実施形態を説明する。なお、本明細書において特に言及している事項以外の事柄であって本発明の実施に必要な事柄は、当該分野における従来技術に基づく当業者の設計事項として把握され得る。本発明は、本明細書に開示されている内容と当該分野における技術常識とに基づいて実施することができる。
【0023】
<研磨対象物>
ここに開示される技術は、ガリウム化合物系半導体基板を研磨対象物とする研磨に適用される。本明細書におけるガリウム化合物系半導体の概念には、窒化ガリウム(GaN)および酸化ガリウム(Ga2O3)の他、これらにおけるGaの一部が他の周期表13族元素(B、Al、In)で置換された組成を有する半導体、例えばAlGaN、GaInN、AlGaInN等が包含される。ここに開示される技術は、このようなガリウム化合物系半導体材料からなる表面を有する基板の研磨に好ましく適用され得る。上記表面、すなわち研磨対象面は、いずれか一種のガリウム化合物系半導体材料からなる表面、例えば該材料の単結晶の表面であってもよく、二種以上のガリウム化合物系半導体材料の混合物からなる表面、例えばそれらの材料の混晶の表面であってもよい。上記ガリウム化合物系半導体基板は、自立型のガリウム化合物系半導体ウェーハであってもよく、適宜の下地層の上にガリウム化合物系半導体の結晶を有するものであってもよい。そのような下地層の例としては、サファイア基板、シリコン基板、SiC基板等が挙げられる。ガリウム化合物系半導体は、導電性の付与等を目的としてドープされていてもよく、ノンドープであってもよい。
【0024】
ここに開示される技術の好ましい適用対象として、窒化ガリウム基板および酸化ガリウム基板が挙げられる。上記酸化ガリウム基板は、典型的にはβ-Ga2O3の結晶からなる表面を有し、好ましくはβ-Ga2O3の単結晶からなる表面を有する。上記窒化ガリウム基板は、典型的にはGaNの結晶からなる表面を有し、好ましくはGaNの単結晶からなる表面を有する。GaNの結晶の主面、すなわち研磨対象面の面指数は、特に限定されない。上記研磨対象面の例としては、C面等の極性面;A面およびM面等の非極性面;半極性面;等が挙げられる。
【0025】
<研磨用組成物>
(砥粒)
ここに開示される研磨用組成物は、砥粒を含有する。砥粒を含む研磨用組成物を用いた研磨によると、砥粒等の固形粒子を含まない溶液による化学エッチングに比べて、例えばラッピング等の前工程において研磨対象物に生じた傷をより効率よく除去し得る。また、ここに開示される研磨用組成物によると、該組成物が後述する化合物Cphoを含むことにより、研磨による表面の荒れを抑制しつつ上記傷を効率よく除去することができる。
【0026】
ここに開示される研磨用組成物は、上記砥粒として、少なくともシリカ砥粒を含有する。シリカ砥粒を含む研磨用組成物によると、高い面品質が得られやすい。シリカ砥粒は、公知の各種シリカ粒子のなかから適宜選択して使用することができる。そのような公知のシリカ粒子としては、コロイダルシリカ、乾式法シリカ等が挙げられる。なかでも、コロイダルシリカの使用が好ましい。コロイダルシリカを含むシリカ砥粒によると、高い研磨レートと良好な面精度とが好適に達成され得る。ここでいうコロイダルシリカの例には、Na、K等のアルカリ金属とSiO2とを含有するケイ酸アルカリ含有液(例えばケイ酸ナトリウム含有液)を原料に用いて製造されるシリカや、テトラエトキシシランやテトラメトキシシラン等のアルコキシシランの加水分解縮合反応により製造されるシリカ(アルコキシド法シリカ)が含まれる。また、乾式法シリカの例には、四塩化ケイ素やトリクロロシラン等のシラン化合物を典型的には水素火炎中で燃焼させることで得られるシリカ(フュームドシリカ)や、金属シリコンと酸素の反応により生成するシリカが含まれる。
【0027】
ここに開示される研磨用組成物は、本発明の効果を損なわない範囲で、シリカ砥粒に加えて、シリカ以外の材質からなる砥粒(以下、非シリカ砥粒ともいう。)を含有してもよい。そのような非シリカ砥粒の構成材料の例として、酸化アルミニウム、酸化セリウム、酸化クロム、二酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化マグネシウム、酸化マンガン、酸化亜鉛、酸化鉄粒子等の酸化物;窒化ケイ素、窒化ホウ素等の窒化物;炭化ケイ素、炭化ホウ素粒子等の炭化物;ダイヤモンド;等が挙げられる。
【0028】
表面改質した砥粒を使用してもよい。砥粒の表面改質は、具体的には、砥粒表面に砥粒表面とは異なる電位を有する物質を付着または結合させ、砥粒表面の電位を変えることにより行われる。砥粒表面の電位を変えるために使用される物質には制限はないが、例えば砥粒が酸化ケイ素であった場合には、界面活性剤や、無機酸、有機酸の他、酸化アルミニウムなどの金属酸化物を使用することができる。
【0029】
ここに開示される技術は、研磨後の面品質向上の観点から、研磨用組成物に含まれる砥粒の全重量のうちシリカ砥粒の割合が70重量%よりも大きい態様で好ましく実施され得る。上記シリカ砥粒の割合は、より好ましくは90重量%以上、さらに好ましくは95重量%以上、特に好ましくは99重量%以上である。なかでも、研磨用組成物に含まれる砥粒の100重量%がシリカ砥粒である研磨用組成物が好ましい。
【0030】
研磨用組成物中に含まれる砥粒の平均二次粒子径は、5nm以上が適当であり、好ましくは10nm以上、より好ましくは20nm以上である。砥粒の平均二次粒子径が大きくなるにつれて、研磨用組成物による研磨対象物の研磨能率は向上する傾向にある。いくつかの態様において、砥粒の平均二次粒子径は、35nm以上であってよく、50nm以上でもよい。また、より高品位の表面を得るという観点から、砥粒の平均二次粒子径は、300nm以下が適当であり、好ましくは200nm以下、より好ましくは150nm以下であり、100nm以下または80nm以下でもよい。
【0031】
なお、ここに開示される技術において、砥粒の平均二次粒子径とは、動的光散乱法に基づく体積平均粒子径(体積平均径D50)をいう。砥粒の平均二次粒子径は、市販の動的光散乱法式粒度分析計を用いて測定することができ、例えば、日機装社製の型式「UPA-UT151」またはその相当品を用いて測定することができる。
【0032】
研磨用組成物中に含まれる砥粒は、一種類でもよく、材質、粒子形状または粒子サイズの異なる二種類以上であってもよい。砥粒の分散安定性や研磨用組成物の品質安定性の観点から、いくつかの態様に係る研磨用組成物は、該組成物に含まれる砥粒のうち90重量%以上、より好ましくは95重量%以上、さらに好ましくは99重量%以上が一種類のシリカ砥粒であってよい。ここに開示される研磨用組成物は、例えば、砥粒として一種類のシリカ砥粒のみを含む態様で好ましく実施され得る。
【0033】
研磨用組成物における砥粒の濃度は、特に限定されない。上記砥粒の濃度は、例えば5重量%以上であってよく、12重量%以上でもよく、17重量%以上でもよく、22重量%以上でもよい。砥粒濃度が高くなるにつれて、研磨用組成物による研磨対象物の研磨能率は向上する傾向にある。また、研磨レートと研磨後の面品質とを高いレベルで両立する等の観点から、砥粒の濃度は、通常、概ね50重量%以下とすることが適当であり、40重量%以下とすることが好ましい。ここに開示される研磨用組成物は、砥粒濃度が35重量%以下または30重量%以下である態様でも好ましく実施され得る。
【0034】
(水)
ここに開示される研磨用組成物は、必須成分として水を含む。水としては、イオン交換水(脱イオン水)、純水、超純水、蒸留水等を好ましく用いることができる。ここに開示される研磨用組成物は、必要に応じて、水と均一に混合し得る有機溶剤(低級アルコール、低級ケトン等)をさらに含有してもよい。通常は、研磨用組成物に含まれる溶媒の90体積%以上が水であることが好ましく、95体積%以上(典型的には99~100体積%)が水であることがより好ましい。
【0035】
(化合物Cpho)
ここに開示される研磨用組成物は、リン酸基またはホスホン酸基を有する化合物Cphoを、必須成分として含有する。砥粒を含む研磨用組成物に化合物Cphoを含有させることにより、研磨による研磨対象物表面の荒れを抑制し、研磨後の面品質を改善することができる。これにより、表面粗さRaが小さく、かつピットの発生が抑制された表面が効果的に実現され得る。化合物Cphoは、一種を単独でまたは二種以上を組み合わせて用いることができる。
【0036】
化合物Cphoは、無機化合物であってもよく、有機化合物であってもよい。無機化合物である化合物Cphoの例には、リン酸(H2PO4)、亜リン酸(H3PO3)、およびそれらの無機塩が含まれる。上記無機塩は、例えば、ナトリウム塩、カリウム塩、リチウム塩等のアルカリ金属塩であり得る。リン酸の無機塩の具体例として、リン酸三カリウム、リン酸水素二カリウム、リン酸二水素カリウム、リン酸三ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム等の、アルカリ金属リン酸塩およびアルカリ金属リン酸水素塩が挙げられる。なお、研磨用組成物に含まれる化合物Cphoは、その互変異性体を含み得る。例えば、化合物Cphoとして亜リン酸を含む研磨用組成物は、亜リン酸とともに、その互変異性体であるホスホン酸を含み得る。
【0037】
有機化合物である化合物Cphoの例として、リン酸エステル類および亜リン酸エステル類が挙げられる。上記リン酸エステル類としては、モノエステルおよびジエステルが好ましく用いられ、モノエステルとジエステルとの混合物であってもよい。上記混合物におけるモノエステルとジエステルとのモル比は、例えば20:80~80:20であってよく、40:60~60:40でもよい。また、上記亜リン酸エステル類としては、モノエステルを好ましく使用し得る。
リン酸または亜リン酸とエステル結合を形成する有機基としては、C1-20程度の炭化水素基が好ましく、C1-12の炭化水素基がより好ましく、C1-8の炭化水素基がさらに好ましく、C1-4の炭化水素基が特に好ましい。なお、この明細書において、CX-Yとは、「炭素原子数X以上Y以下」を意味する。上記炭化水素基は、脂肪族性でもよく、芳香族性でもよい。脂肪族性炭化水素基は、飽和でも不飽和でもよく、鎖状でも環状でもよく、直鎖状でも分岐状でもよい。
ここに開示される研磨用組成物のいくつかの態様において、化合物Cphoとして、リン酸モノC1-4アルキルエステルおよびリン酸ジC1-4アルキルエステルからなる群から選択される少なくとも一種を好ましく使用し得る。例えば、化合物Cphoとして、リン酸モノエチルとリン酸ジエチルとの混合物を用いることができる。
【0038】
有機化合物である化合物Cphoは、ホスホン酸基を有するキレート化合物であってもよい。そのような化合物Cphoの例には、1-ヒドロキシエチリデン-1,1-ジホスホン酸、アミノトリ(メチレンホスホン酸)、エチレンジアミンテトラ(メチレンホスホン酸)、ジエチレントリアミンペンタ(メチレンホスホン酸)、エタン-1,1-ジホスホン酸、エタン-1,1,2-トリホスホン酸、エタン-1-ヒドロキシ-1,1-ジホスホン酸、エタン-1-ヒドロキシ-1,1,2-トリホスホン酸、エタン-1,2-ジカルボキシ-1,2-ジホスホン酸等の、一分子中に2つ以上のホスホン酸基を有するキレート化合物;2-アミノエチルホスホン酸、メタンヒドロキシホスホン酸、2-ホスホノブタン-1,2-ジカルボン酸、1-ホスホノブタン-2,3,4-トリカルボン酸、α-メチルホスホノコハク酸等の、一分子中に1つのホスホン酸基を有するキレート化合物;等が含まれる。研磨能率の低下抑制と研磨後の面品質の向上とを好適に両立しやすくする観点から、化合物Cphoの有するホスホン酸基の数は、一分子あたり1以上4以下であることが有利であり、1以上3以下であることが好ましく、1または2であることが特に好ましい。同様の観点から、化合物Cphoの分子量は、800以下であることが有利であり、好ましくは600以下、より好ましくは400以下であり、300以下または250以下であることがさらに好ましい。
有機化合物である化合物Cphoの他の例としては、リン酸または亜リン酸と有機カチオンとの塩等が挙げられる。
【0039】
ここに開示される研磨用組成物は、化合物Cphoとして、(A)ホスホン酸基を有するキレート化合物、(B)リン酸モノC1-4アルキルエステル、リン酸ジC1-4アルキルエステルおよび亜リン酸モノC1-4アルキルエステルからなる群から選択される化合物、(C)リン酸および亜リン酸の少なくとも一方、(D)リン酸の無機塩および亜リン酸の無機塩からなる群から選択される化合物、の少なくともいずれかを用いる態様で好ましく実施することができる。化合物Cphoは、上記(A)~(D)のいずれか1つから選択される二種以上の化合物を含んでいてもよく、上記(A)~(D)のうち2つ以上から選択される二種以上の化合物を含んでいてもよい。あるいは、化合物Cphoは、上記(A)~(D)のいずれか1つから選択される一種類の化合物のみを含んでいてもよい。
【0040】
研磨用組成物における化合物Cphoの濃度[重量%]は特に限定されない。この濃度は、通常、0.05重量%以上とすることが適当であり、0.08重量%以上とすることが好ましく、0.15重量%以上とすることがより好ましく、0.2重量%以上でもよく、0.4重量%以上でもよい。化合物Cphoの濃度の上昇により、研磨後の面品質は、概して向上する傾向にある。いくつかの態様において、化合物Cphoの濃度は、0.5重量%以上でもよく、0.5重量%超でもよく、0.8重量%以上でもよく、2.5重量%以上でもよく、4.0重量%以上でもよい。また、面品質の向上と良好な研磨能率とを両立する観点から、化合物Cphoの濃度は、通常、25重量%以下とすることが適当であり、20重量%以下が好ましく、15重量%以下でもよい。いくつかの態様において、化合物Cphoの濃度は、例えば10重量%以下であってよく、6重量%以下でもよく、3重量%以下でもよく、1.5重量%以下でもよく、1.0重量%以下でもよい。
【0041】
上述した化合物Cphoの濃度は、研磨に用いるために研磨対象物に供給されるときの研磨用組成物における化合物Cphoの濃度、すなわち該組成物の使用時(Point-of-Use;POU)における化合物Cphoの濃度に適用され得る。以下、研磨対象物に供給されるときの研磨用組成物のことを「ワーキングスラリー」ともいう。また、ここに開示される研磨用組成物は、砥粒含有量(砥粒濃度)25重量%における化合物Cphoの濃度が、上述した化合物Cphoの濃度を満たすことが好ましい。なお、砥粒濃度25重量%における化合物Cp
hoの濃度とは、砥粒濃度が25重量%となるように換算された化合物Cphoの濃度をいう。例えば、砥粒濃度がX重量%、化合物Cphoの濃度がY重量%である場合、次式:Y×(25/X);により、砥粒濃度25重量%における化合物Cphoの濃度を算出することができる。
【0042】
(酸化剤)
ここに開示される研磨用組成物は、本発明の効果を大きく損なわない限度で、必要に応じて酸化剤を含んでいてもよい。研磨用組成物が酸化剤を含む場合における該酸化剤の濃度は、例えば、0重量%を超えて5.0重量%以下とすることができる。
ここに開示される研磨用組成物のいくつかの態様において、該研磨用組成物は、酸化剤の濃度が所定以下であることが好ましく、酸化剤を含まなくてもよい。特に、研磨対象材料表面の仕上げ研磨工程に用いられる研磨用組成物では、酸化剤の濃度が所定以下であることが好ましい。
【0043】
砥粒を含む研磨用組成物を用いてガリウム化合物系半導体基板を研磨することに関する従来の技術では、研磨促進等の目的から、過酸化水素(H2O2)等の酸化剤を含有させることが一般的であった。ところが本発明者らは、シリカ砥粒および化合物Cphoを含む研磨用組成物では、酸化剤を含有させることによって、化合物Cphoによる面品質の向上効果が損なわれてしまうことを見出した。したがって、本明細書により開示される研磨用組成物のいくつかの態様において、該研磨用組成物は、酸化剤の濃度が所定以下であることが好ましい。研磨用組成物における酸化剤の濃度は、0.1重量%未満であることが好ましく、より好ましくは0.05重量%未満、さらに好ましくは0.02重量%未満、特に好ましくは0.01重量%未満である。本明細書により開示される研磨用組成物の一態様において、該研磨用組成物は酸化剤を含有しないことが望ましい。ここに開示される研磨用組成物は、少なくとも、過酸化水素、過硫酸ナトリウム、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム、ジクロロイソシアヌル酸ナトリウムを、いずれも含有しない態様で好ましく実施され得る。ここで、研磨用組成物が酸化剤を含有しないとは、少なくとも意図的には酸化剤を配合しないことをいい、原料や製法等に由来して微量の酸化剤が不可避的に含まれることは許容され得る。上記微量とは、研磨用組成物における酸化剤のモル濃度が0.0005モル/L以下(好ましくは0.0001モル/L以下、より好ましくは0.00001モル/L以下、特に好ましくは0.000001モル/L以下)であることをいう。酸化剤の濃度がゼロまたは検出限界以下であることが好ましい。
【0044】
(pH)
ここに開示される研磨用組成物のpHは、5.0未満であることが好ましく、3.0未満であることが好ましい。より低いpHの研磨用組成物を使用することにより、研磨能率は向上する傾向にある。いくつかの態様において、研磨用組成物のpHは、例えば2.5以下であってよく、2.5未満でもよく、2.0未満でもよく、1.5未満でもよく、1.3未満でもよい。ここに開示される研磨用組成物によると、該組成物が化合物Cphoを含むことにより、低pHにおいても研磨対象物表面の荒れを効果的に抑制することができる。このことによって、良好な研磨能率と高い面品質とを好適に両立することができる。研磨用組成物のpHの下限は特に制限されないが、設備の腐蝕抑制や環境衛生の観点から、通常は0.5以上であることが適当であり、0.7以上であってもよい。
なお、この明細書において、pHは、pHメーターを使用し、標準緩衝液(フタル酸塩pH緩衝液 pH:4.01(25℃)、中性リン酸塩pH緩衝液 pH:6.86(25℃)、炭酸塩pH緩衝液 pH:10.01(25℃))を用いて3点校正した後で、ガラス電極を測定対象の組成物に入れて、2分以上経過して安定した後の値を測定することにより把握することができる。pHメーターとしては、例えば、堀場製作所製のガラス電極式水素イオン濃度指示計(型番F-23)またはその相当品を使用する。
【0045】
(酸)
ここに開示される研磨用組成物は、必須成分である砥粒、水および化合物Cphoの他に、必要に応じてpH調整等の目的で用いられる任意成分として、一種または二種以上の酸を含んでいてもよい。化合物Cphoに該当する酸、すなわちリン酸、亜リン酸、ホスホン酸は、ここでいう酸の例には含まれない。酸の具体例としては、硫酸、硝酸、塩酸、ホスフィン酸、ホウ酸等の無機酸;酢酸、イタコン酸、コハク酸、酒石酸、クエン酸、マレイン酸、グリコール酸、マロン酸、メタンスルホン酸、ギ酸、リンゴ酸、グルコン酸、アラニン、グリシン、乳酸、トリフルオロ酢酸、トリフルオロメタンスルホン酸等の有機酸;等が挙げられる。酸は、該酸の塩の形態で用いられてもよい。上記酸の塩は、例えば、ナトリウム塩やカリウム塩等のアルカリ金属塩や、アンモニウム塩等であり得る。化合物Cphoと酸とを組み合わせて用いることにより、上記酸を用いない場合に比べて化合物Cphoの使用量を減らしても、良好な面品質を効率よく実現し得る。このことは経済性や環境負荷軽減の観点から有利となり得る。
【0046】
いくつかの態様に係る研磨用組成物は、該組成物が化合物Cphoと強酸とを組み合わせて含む。強酸によると、少量の使用によって研磨用組成物のpHを効果的に調節することができる。強酸としては、pKaが1未満のものが好ましく、pKaが0.5未満のものがより好ましく、pKaが0未満のものがさらに好ましい。また、強酸としてはオキソ酸が好ましい。ここに開示される研磨用組成物に用いられ得る強酸の好適例として、塩酸、硫酸および硝酸が挙げられる。
【0047】
酸の濃度は特に限定されず、本発明の効果が大きく損なわれないように適宜設定することができる。酸の濃度は、例えば0.05重量%以上であってよく、0.1重量%以上でもよく、0.3重量%以上でもよい。化合物Cphoを効果的に作用させる観点から、いくつかの態様において、酸の濃度は、例えば5重量%未満であってよく、3重量%未満でもよく、1.5重量%未満でもよく、1.1重量%未満でもよく、1.0重量%未満でもよい。上述した酸の濃度は、酸のなかでも強酸(特にオキソ酸)の濃度に好ましく適用され得る。また、ここに開示される研磨用組成物は、砥粒濃度25重量%における酸の濃度が、上述した酸の濃度を満たすことが好ましい。砥粒濃度25重量%における酸の濃度は、砥粒濃度25重量%における化合物Cphoの濃度と同様にして算出することができる。
【0048】
いくつかの態様において、研磨用組成物における化合物Cphoの濃度w1[重量%]と酸(好ましくは強酸)の濃度w2[重量%]との合計、すなわちw1+w2は、例えば0.1重量%以上であってよく、研磨能率と研磨後の面品質とをより高レベルで両立する観点から、通常は0.3重量%以上が好ましく、0.5重量%以上でもよく、0.7重量%以上でもよい。また、上記w1+w2は、例えば30重量%以下であってよく、研磨能率と研磨後の面品質とをより高レベルで両立する観点から、通常は25重量%以下が好ましく、20重量%以下、15重量%以下、または10重量%以下でもよい。ここに開示される研磨用組成物は、上記w1+w2が、例えば5重量%以下、3重量%以下、2重量%以下、1.5重量%以下または1.4重量%以下である態様でも好ましく実施され得る。
【0049】
ここに開示される研磨用組成物が化合物Cphoと酸(好ましくは強酸)とを組み合わせて含む場合、それらの含有量は、化合物Cphoの含有量m1[モル/kg]と酸の含有量m2[モル/kg]との関係が、以下の式:
m1/(m1+m2)≧0.1;
を満たすように設定することができる。すなわち、モル基準で、研磨用組成物1kg当たりに含まれる化合物Cphoと酸との合計量のうち10%以上が化合物Cphoであることが好ましい。このように設定することにより、研磨能率と研磨後の良好な面品質とがバランスよく両立する傾向にある。m1/(m1+m2)が0.15以上または0.20以上である研磨用組成物によると、より好適な結果が実現され得る。m1/(m1+m2)は、典型的には1未満であり、0.95未満または0.90未満でもよい。
【0050】
ここに開示される研磨用組成物が上記(C)に属する化合物Cphoと酸(好ましくは強酸)とを組み合わせて含む場合、上記(C)の化合物Cphoの含有量m1C[モル/kg]は、m1C/(m1C+m2)が例えば0.30以上となるように設定することができる。研磨後の面品質を高める観点から、m1C/(m1C+m2)は、0.40以上が好ましく、0.55以上がより好ましく、0.70以上でもよい。m1C/(m1C+m2)は、典型的には1未満であり、研磨能率向上の観点から0.95未満または0.90未満としてもよい。
【0051】
ここに開示される研磨用組成物が上記(A)に属する化合物Cphoと酸(好ましくは強酸)とを組み合わせて含む場合、上記(A)の化合物Cphoの含有量m1A[モル/kg]は、m1A/(m1A+m2)が例えば0.15以上となるように設定することができる。研磨後の面品質を高める観点から、m1A/(m1A+m2)を0.20以上とすることが好ましい。m1A/(m1A+m2)は、典型的には1未満であり、研磨能率向上の観点から0.90未満または0.80未満でもよく、0.70未満でもよく、0.60未満でもよい。いくつかの態様において、m1A/(m1A+m2)は、0.50未満でもよく、0.40未満でもよく、0.30未満でもよい。
このような上記(A)の化合物Cphoの含有量m1Aと酸の含有量m2との関係は、ここに開示される研磨用組成物が上記(B)に属する化合物Cphoと酸(好ましくは強酸)とを組み合わせて含む場合における上記(B)の化合物Cphoの含有量m1Bと酸の含有量m2との関係や、ここに開示される研磨用組成物が上記(D)に属する化合物Cphoと酸(好ましくは強酸)とを組み合わせて含む場合における上記(D)の化合物Cphoの含有量m1Dと酸の含有量m2との関係にも好ましく適用され得る。
【0052】
(その他の成分)
ここに開示される研磨用組成物は、本発明の効果を損なわない範囲で、キレート剤、増粘剤、分散剤、表面保護剤、濡れ剤、有機または無機の塩基、界面活性剤、防錆剤、防腐剤、防カビ剤等の、研磨用組成物(典型的には高硬度材料研磨用組成物、例えば窒化ガリウム基板研磨用組成物)に用いられ得る公知の添加剤を、必要に応じてさらに含有してもよい。
【0053】
<研磨用組成物の製造>
ここに開示される研磨用組成物の製造方法は特に限定されない。例えば、翼式攪拌機、超音波分散機、ホモミキサー等の周知の混合装置を用いて、研磨用組成物に含まれる各成分を混合するとよい。これらの成分を混合する態様は特に限定されず、例えば全成分を一度に混合してもよく、適宜設定した順序で混合してもよい。
【0054】
ここに開示される研磨用組成物は、一剤型であってもよいし、二剤型を始めとする多剤型であってもよい。例えば、該研磨用組成物の構成成分(典型的には、溶媒以外の成分)のうち一部の成分を含むA液と、残りの成分を含むB液とが混合されて研磨対象物の研磨に用いられるように構成されていてもよい。
【0055】
ここに開示される研磨用組成物は、研磨対象物に供給される前には濃縮された形態(すなわち、研磨液の濃縮液の形態)であってもよい。このように濃縮された形態の研磨用組成物は、製造、流通、保存等の際における利便性やコスト低減等の観点から有利である。濃縮倍率は、例えば、体積換算で1.2倍~5倍程度とすることができる。
【0056】
このように濃縮液の形態にある研磨用組成物は、所望のタイミングで希釈して研磨液を調製し、その研磨液を研磨対象物に供給する態様で使用することができる。上記希釈は、典型的には、上記濃縮液に前述の溶媒を加えて混合することにより行うことができる。また、上記溶媒が混合溶媒である場合、該溶媒の構成成分のうち一部の成分のみを加えて希釈してもよく、それらの構成成分を上記溶媒とは異なる量比で含む混合溶媒を加えて希釈してもよい。多剤型の研磨用組成物においては、それらのうち一部の剤を希釈した後に他の剤と混合して研磨液を調製してもよく、複数の剤を混合した後にその混合物を希釈して研磨液を調製してもよい。
【0057】
<研磨方法>
ここに開示される研磨用組成物は、例えば以下の操作を含む態様で、研磨対象物の研磨に使用することができる。
すなわち、ここに開示されるいずれかの研磨用組成物を含む研磨液を用意する。上記研磨液を用意することには、研磨用組成物を希釈することが含まれ得る。あるいは、上記研磨用組成物をそのまま研磨液として使用してもよい。また、多剤型の研磨用組成物の場合、上記研磨液を用意することには、それらの剤を混合すること、該混合の前に1または複数の剤を希釈すること、該混合の後にその混合物を希釈すること、等が含まれ得る。
次いで、その研磨液を研磨対象物表面に供給し、常法により研磨する。例えば、一般的な研磨装置に研磨対象物をセットし、該研磨装置の研磨パッドを通じて該研磨対象物の表面(研磨対象面)に上記研磨液を供給する。典型的には、上記研磨液を連続的に供給しつつ、研磨対象物の表面に研磨パッドを押しつけて両者を相対的に移動(例えば回転移動)させる。かかるポリシング工程を経て研磨対象物の研磨が完了する。
【0058】
この明細書によると、研磨対象材料を研磨する研磨方法および該研磨方法を用いた研磨物の製造方法が提供される。上記研磨方法は、ここに開示される研磨用組成物を用いて研磨対象物を研磨する工程を含むことによって特徴づけられる。好ましい一態様に係る研磨方法は、予備ポリシングを行う工程(予備研磨工程)と、仕上げポリシングを行う工程(仕上げ研磨工程)と、を含んでいる。ここでいう予備研磨工程とは、研磨対象物に対して、予備研磨を行う工程である。典型的な一態様では、予備研磨工程は、仕上げ研磨工程の直前に配置される研磨工程である。また、ここでいう仕上げ研磨工程は、予備研磨が行われた研磨対象物に対して仕上げ研磨を行う工程であって、砥粒を含む研磨用組成物を用いて行われる研磨工程のうち最後に(すなわち、最も下流側に)配置される研磨工程のことをいう。このように予備研磨工程と仕上げ研磨工程とを含む研磨方法において、ここに開示される研磨用組成物は、予備研磨工程で用いられてもよく、仕上げ研磨工程で用いられてもよく、予備研磨工程および仕上げ研磨工程の両方で用いられてもよい。
【0059】
好ましい一態様において、上記研磨用組成物を用いる研磨工程は、仕上げ研磨工程である。ここに開示される研磨用組成物は、研磨後において表面粗さRaが小さく、かつピットの発生が抑制された高品質な表面を実現し得ることから、研磨対象材料表面の仕上げ研磨工程に用いられる研磨用組成物(仕上げ研磨用組成物)として特に好ましく使用され得る。
【0060】
(予備研磨用組成物)
ここに開示される研磨用組成物を仕上げ研磨工程において使用する場合、該仕上げ研磨工程に先立って行われる予備研磨工程は、典型的には、砥粒および水を含む予備研磨工程用組成物を用いて行われる。以下、予備研磨工程用組成物に含まれる砥粒のことを、予備研磨用砥粒ということがある。
【0061】
予備研磨用砥粒の材質や性状は、特に制限されない。予備研磨用砥粒として使用し得る材料としては、例えば、シリカ粒子、アルミナ、酸化セリウム、酸化クロム、二酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化マグネシウム、二酸化マンガン、酸化亜鉛、酸化鉄等の酸化物;窒化ケイ素、窒化ホウ素等の窒化物;炭化ケイ素、炭化ホウ素等の炭化物;ダイヤモンド;炭酸カルシウムや炭酸バリウム等の炭酸塩;等のいずれかから実質的に構成される砥粒が挙げられる。シリカ砥粒、アルミナ砥粒が特に好ましい。アルミナ砥粒としては、典型的にはα-アルミナが用いられる。
【0062】
なお、本明細書において、砥粒の組成について「実質的にXからなる」または「実質的にXから構成される」とは、当該砥粒に占めるXの割合(Xの純度)が、重量基準で90%以上(好ましくは95%以上、より好ましくは97%以上、さらに好ましくは98%以上、例えば99%以上)であることをいう。
【0063】
予備研磨用砥粒の平均二次粒子径は、通常は20nm以上が適当であり、研磨効率等の観点から、好ましくは35nm以上であり、より好ましくは50nm以上であり、60nm以上でもよい。また、仕上げ研磨工程において面品質を高めやすくする観点から、予備研磨用砥粒の平均二次粒子径は、通常は2000nm以下が適当であり、1000nm以下、800nm以下または600nm以下でもよく、300nm以下、200nm以下、150nm以下、100nm以下または80nm以下でもよい。このような予備研磨用砥粒(例えばシリカ砥粒)を含む予備研磨用組成物によると、より短時間の仕上げ研磨工程によっても高品質の表面を実現し得る。
【0064】
予備研磨用組成物に含まれる予備研磨用砥粒は、一種類でもよく、材質、粒子形状または粒子サイズの異なる二種類以上であってもよい。予備研磨用の分散安定性や予備研磨用組成物の品質安定性の観点から、いくつかの態様において、予備研磨用砥粒のうち、例えば70重量%以上、好ましくは80重量%以上、より好ましくは90重量%以上、さらに好ましくは95重量%以上、特に好ましくは99重量%以上を、一種類のシリカ砥粒またはアルミナ砥粒とすることができる。予備研磨用砥粒が一種類のシリカ砥粒または一種類のアルミナ砥粒からなる予備研磨用組成物を用いてもよい。予備研磨用砥粒が一種類のシリカ砥粒(例えばコロイダルシリカ)からなる予備研磨用組成物によると、予備研磨工程における表面の荒れを抑制し、仕上げ研磨工程において高品質の表面をより効率よく実現し得る。
【0065】
予備研磨用砥粒の濃度は、特に限定されず、例えば0.1重量%以上、0.5重量%または1重量%以上とすることができる。また、予備研磨用砥粒の濃度は、50重量%以下、40重量%以下、35重量%以下または30重量%以下とすることができる。いくつかの態様において、予備研磨用砥粒の濃度は、例えば5重量%以上であってよく、12重量%以上でもよく、17重量%以上でもよく、22重量%以上でもよい。予備研磨用砥粒の濃度が高くなるにつれて、研磨能率は向上する傾向にある。上記濃度は、例えば、予備研磨用砥粒がシリカ砥粒からなるか、予備研磨用砥粒の70重量%以上がシリカ砥粒からなる態様において好ましく適用され得る。
【0066】
予備研磨用組成物は、任意成分として、上述したいずれかの酸の一種または二種以上を含み得る。酸の使用により、予備研磨用組成物のpHを調節することができる。例えば、酸を用いて予備研磨用組成物のpHを2.0未満、1.5未満または1.0未満とすることにより、高い研磨効率が得られやすくなる。酸としては、強酸が好ましく、具体的にはpKaが1未満のものが好ましく、pKaが0.5未満のものがより好ましく、pKaが0未満のものがさらに好ましい。また、強酸としてはオキソ酸が好ましい。予備研磨用組成物に用いられ得る強酸の好適例として、塩酸、硫酸および硝酸が挙げられる。また、予備研磨用組成物における酸の濃度は、上述した酸の濃度から適宜選択することができる。
【0067】
予備研磨用組成物は、任意成分として、一種または二種以上の酸化剤を含み得る。酸化剤は、予備研磨工程における研磨効率向上や表面粗さ低減に役立ち得る。
予備研磨用組成物に使用する酸化剤の具体例としては、過酸化水素;硝酸化合物類、例えば硝酸鉄、硝酸銀、硝酸アルミニウム等の硝酸塩や、硝酸セリウムアンモニウム等の硝酸錯体;過硫酸化合物類、例えば過硫酸ナトリウム、過硫酸カリウム等の過硫酸金属塩や過硫酸アンモニウムのような過硫酸塩;塩素酸化合物類または過塩素酸化合物類、例えば過塩素酸カリウム等の過塩素酸塩や塩素酸塩;臭素酸化合物、例えば臭素酸カリウム等の臭素酸塩;ヨウ素酸化合物類、例えばヨウ素酸アンモニウム等のヨウ素酸塩;過ヨウ素酸化合物類、例えば過ヨウ素酸ナトリウム等の過ヨウ素酸塩;ジクロロイソシアヌル酸ナトリウム、ジクロロイソシアヌル酸カリウム等のジクロロイソシアヌル酸塩;鉄酸化合物類、例えば鉄酸カリウム等の鉄酸塩;過マンガン酸化合物類、例えば過マンガン酸ナトリウム、過マンガン酸カリウム等の過マンガン酸塩;クロム酸化合物類、例えばクロム酸カリウム、二クロム酸カリウム等のクロム酸塩;バナジン酸化合物類、例えばメタバナジン酸アンモニウム、メタバナジン酸ナトリウム、メタバナジン酸カリウム等のメタバナジン酸塩;過ルテニウム酸塩等の過ルテニウム酸化合物類;モリブデン酸化合物類、例えばモリブデン酸アンモニウム、モリブデン酸二ナトリウム等のモリブデン酸塩;過レニウム酸塩等の過レニウム酸化合物類;タングステン酸化合物類、例えばタングステン酸二ナトリウム等のタングステン酸塩;が挙げられる。これらは1種を単独でまたは2種以上を適宜組み合わせて用いることができる。
【0068】
いくつかの態様において、予備研磨用組成物は、酸化剤として複合金属酸化物を含む。上記複合金属酸化物としては、硝酸金属塩、鉄酸化合物類、過マンガン酸化合物類、クロム酸化合物類、バナジン酸化合物類、ルテニウム酸化合物類、モリブデン酸化合物類、レニウム酸化合物類、タングステン酸化合物類が挙げられる。過マンガン酸化合物類、バナジン酸化合物類、鉄酸化合物類、クロム酸化合物類がより好ましく、過マンガン酸化合物類、バナジン酸化合物類がさらに好ましい。
【0069】
予備研磨用組成物が酸化剤として上記複合金属酸化物を含む場合、該予備研磨用組成物は、複合金属酸化物以外の酸化剤をさらに含んでもよく、含まなくてもよい。ここに開示される技術は、予備研磨用組成物が酸化剤として上記複合金属酸化物以外の酸化剤(例えば、過酸化水素や過硫酸塩)を実質的に含まない態様で好ましく実施され得る。あるいは、予備研磨用組成物は、上記複合金属酸物に加えて、他の酸化剤、例えば過酸化水素や過硫酸塩を含んでいてもよい。
【0070】
予備研磨用組成物が酸化剤を含む態様において、該酸化剤の濃度は特に限定されない。酸化剤の濃度は、通常、0.01重量%以上とすることが適当であり、0.05重量%以上でもよく、0.1重量%以上、0.5重量%以上または1.0重量%以上でもよい。また、酸化剤の濃度は、通常、5.0重量%以下とすることが適当であり、3.0重量%以下でもよく、2.5重量%以下、1.5重量%以下、1.0重量%以下、0.5重量%以下または0.3重量%以下でもよい。
【0071】
予備研磨用組成物のpHは特に限定されず、例えば、0.5~12程度の範囲から選択することができる。予備研磨用組成物のpHは、該予備研磨用組成物に含まれる他の成分の組成等を考慮して選択することができる。
【0072】
いくつかの態様において、予備研磨用組成物は、pH7.0未満の酸性であり得る。予備研磨用組成物のpHは、5.0未満であってよく、3.0未満でもよく、2.5未満でもよい。特に、予備研磨用組成物のpHが、2.0未満、1.5未満または1.2未満であることが好ましい。より低いpHの予備研磨用組成物を使用することにより、研磨能率は向上する傾向にある。このような強酸性の予備研磨用組成物による研磨の後に、ここに開示される研磨用組成物を用いて仕上げ研磨を行うことにより、高品位の表面を効率よく得ることができる。
予備研磨用組成物のpHが5.0未満である場合、該予備研磨用組成物は、酸化剤を含有してもよく、酸化剤を含有しなくてもよい。例えば、pHが2.0未満であって、少なくとも過酸化水素を含有しない予備研磨用組成物を好ましく用いることができる。pH5.0未満の予備研磨用組成物に酸化剤を含有させる場合、該酸化剤としては、例えば過硫酸金属塩を用いることができる。予備研磨用組成物は、pH5.0未満またはpH3.0未満であって、過硫酸金属塩を含有し、かつ過酸化水素を含有しない組成であり得る。
【0073】
また、いくつかの態様において、予備研磨用組成物のpHは、例えば5.0以上であってよく、5.5以上でもよく、6.0以上でもよい。また、予備研磨用組成物のpHは、例えば10以下であってよく、8.0以下でもよい。このように弱酸性から弱アルカリ性の液性を有する予備研磨用組成物には、取扱い性がよいという利点がある。上記液性を有する予備研磨用組成物には、酸化剤を含有させることが好ましい。弱酸性から弱アルカリ性であって酸化剤を含む組成の予備研磨用組成物による研磨の後に、ここに開示される研磨用組成物を用いて仕上げ研磨を行うことにより、高品位の表面を効率よく得ることができる。
予備研磨用組成物のpHが5.0以上である場合、該予備研磨用組成物は、酸を含有してもよく、含有しなくてもよい。例えば、pHが5.5以上であって、少なくとも強酸を含有しない予備研磨用組成物を好ましく用いることができる。
【0074】
予備研磨用組成物には、任意成分として、上述した化合物Cphoを含有させることができる。予備研磨用組成物における化合物Cphoの濃度wp[重量%]と、仕上げ研磨用組成物における化合物Cphoの濃度w1[重量%]との相対関係は特に限定されない。例えばwp<w1でもよく、wp>w1でもよく、wpとw1とが同程度でもよい。高品質の表面を効率よく得る観点から、予備研磨用組成物に化合物Cphoを含有させる場合は、その濃度をwp<w1となるように設定することが好ましい。wpは、例えばw1の3/4以下であってよく、2/3以下でもよく、1/2以下でもよく、1/5以下でもよく、1/10以下でもよい。好ましい一態様に係る予備研磨用組成物は、化合物Cphoを含有しない。この場合、wpはゼロである。
【0075】
予備研磨および仕上げ研磨は、片面研磨装置による研磨、両面研磨装置による研磨のいずれにも適用可能である。片面研磨装置では、セラミックプレートにワックスで研磨対象物を貼りつけたり、キャリアと呼ばれる保持具を用いて研磨対象物を保持し、研磨用組成物を供給しながら研磨対象物の片面に研磨パッドを押しつけて両者を相対的に移動(例えば回転移動)させることにより研磨対象物の片面を研磨する。両面研磨装置では、キャリアと呼ばれる保持具を用いて研磨対象物を保持し、上方より研磨用組成物を供給しながら、研磨対象物の対向面に研磨パッドを押しつけ、それらを相対方向に回転させることにより研磨対象物の両面を同時に研磨する。
【0076】
予備研磨工程および仕上げ研磨工程の各々に研磨使用される研磨パッドは、特に限定されない。例えば、硬度の高いもの、硬度の低いもの、砥粒を含むもの、砥粒を含まないもの等のいずれを用いてもよい。少なくとも第二研磨工程では砥粒を含まない研磨パッドを用いることが好ましい。例えば、第一、第二研磨工程のいずれにおいても砥粒を含まない研磨パッドを使用することが好ましい。
ここで、硬度の高いものとはAskerC硬度が80より高い研磨パッドであり、硬度の低いものとはAskerC硬度が80以下の研磨パッドである。硬度の高い研磨パッドとは、例えば硬質発泡ポリウレタンタイプや不織布タイプの研磨パッドである。硬度の低い研磨パッドとは、好適には、少なくとも研磨対象物に押しつけられる側が軟質発泡ポリウレタン等の軟質発泡樹脂により構成されている研磨パッドであり、例えばスウェードタイプの研磨パッドである。スウェードタイプの研磨パッドは、典型的には、研磨対象物に押しつけられる側が軟質発泡ポリウレタンにより構成されている。AskerC硬度は、Asker社製のアスカーゴム硬度計C型を用いて測定することができる。ここに開示される研磨用組成物による研磨は、例えば、スウェードタイプの研磨パッドを用いて好ましく実施され得る。特に、仕上げ研磨工程ではスウェードタイプの研磨パッドを用いることが好ましい。
【0077】
ここに開示される方法により研磨された研磨物は、典型的には研磨後に洗浄される。この洗浄は、適当な洗浄液を用いて行うことができる。使用する洗浄液は特に限定されず、公知、慣用のものを適宜選択して用いることができる。
【0078】
なお、ここに開示される研磨方法は、上記予備研磨工程および仕上げ研磨工程に加えて任意の他の工程を含み得る。そのような工程としては、予備研磨工程の前に行われるラッピング工程が挙げられる。上記ラッピング工程は、研磨定盤(例えば鋳鉄定盤)の表面を研磨対象物に押し当てることにより研磨対象物の研磨を行う工程である。したがって、ラッピング工程では研磨パッドは使用しない。ラッピング工程は、典型的には、研磨定盤と研磨対象物との間に砥粒(典型的にはダイヤモンド砥粒)を供給して行われる。また、ここに開示される研磨方法は、予備研磨工程の前や、予備研磨工程と仕上げ研磨工程との間に追加の工程(洗浄工程や研磨工程)を含んでもよい。
【0079】
<研磨物の製造方法>
ここに開示される技術には、上記研磨用組成物を用いた研磨工程を含む研磨物の製造方法(例えば、窒化ガリウム基板または酸化ガリウム素基板の製造方法)および該方法により製造された研磨物の提供が含まれ得る。すなわち、ここに開示される技術によると、研磨対象材料から構成された研磨対象物に、ここに開示されるいずれかの研磨用組成物を供給して該研磨対象物を研磨することを含む、研磨物の製造方法および該方法により製造された研磨物が提供される。上記製造方法は、ここに開示されるいずれかの研磨方法の内容を好ましく適用することにより実施され得る。上記製造方法によると、高品質な表面を有する研磨物(例えば、窒化ガリウム基板、酸化ガリウム素基板等)が効率的に提供され得る。
【0080】
<研磨方法>
ここに開示される研磨方法は、典型的には、ガリウム化合物系半導体基板(以下、単に「基板」ともいう。)のポリシング工程に適用される。上記基板には、上記第一研磨工程の前に、研削(グラインディング)やラッピング等の、ポリシング工程より上流の工程においてガリウム化合物系半導体基板に適用され得る一般的な処理が施されていてもよい。
【0081】
以下、ここに開示される研磨方法に用いられるスラリーについて、第二研磨工程に用いられるスラリーS2、第一研磨工程に用いられるスラリーS1の順に説明する。
【0082】
<スラリーS2>
ここに開示される技術におけるスラリーS2は、砥粒A2と、水と、化合物Cphoとを含む。スラリーS2としては、上述した研磨用組成物と同様のものを好ましく使用し得る。
【0083】
(砥粒A2)
ここに開示される技術におけるスラリーS2は、砥粒A2を含む。砥粒A2としては、上述した研磨用組成物に含まれる砥粒と同様のものを好ましく使用し得る。スラリーS2における砥粒A2の濃度は、特に限定されないが、上述した研磨用組成物における砥粒の濃度と同様の濃度とすることができる。
【0084】
(水)
スラリーS2は、必須成分として水を含む。スラリーS2に含まれる水としては、上述した研磨用組成物に含まれる水と同様のものを好ましく使用し得る。
【0085】
(化合物Cpho)
ここに開示される技術におけるスラリーS2は、リン酸基またはホスホン酸基を有する化合物Cphoを、必須成分として含有する。砥粒A2を含むスラリーS2に化合物Cphoを含有させることにより、該スラリーS2を用いる研磨において、研磨対象物表面の荒れを抑制し、研磨後の面品質を改善することができる。これにより、表面粗さRaの小さい表面が効果的に実現され得る。また、化合物Cphoは、研磨対象物表面におけるピットの発生抑制にも役立ち得る。化合物Cphoは、一種を単独でまたは二種以上を組み合わせて用いることができる。スラリーS2に含まれる化合物Cphoとしては、上述した研磨用組成物に含まれる化合物Cphoと同様のものを好ましく使用し得る。スラリーS2における化合物Cphoの濃度[重量%]は特に限定されないが、上述した研磨用組成物における化合物Cphoの濃度と同様の濃度とすることができる。
【0086】
(酸化剤)
ここに開示される技術におけるスラリーS2は、化合物Cphoによる面品質の向上効果をよりよく発揮させる観点から、酸化剤を含有しないか、または酸化剤の濃度が所定以下であることが好ましい。スラリーS2における酸化剤の濃度は、0.1重量%未満であることが好ましく、より好ましくは0.05重量%未満、さらに好ましくは0.02重量%未満、特に好ましくは0.01重量%未満である。スラリーS2が酸化剤を含有する場合、該酸化剤は、後述するスラリーS1に用いられ得る酸化剤と同様のものから選択することができる。スラリーS1,S2がいずれも酸化剤を含有する態様において、スラリーS1に含まれる酸化剤と、スラリーS2に含まれる酸化剤とは、同一であってもよく、異なっていてもよい。
【0087】
ここに開示される技術は、酸化剤を含有しないスラリーS2を用いて好ましく実施することができる。かかる組成のスラリーS2によると、化合物Cphoによる面品質の向上効果が特によく発揮される傾向にある。したがって、表面粗さRaが低く、かつピットの発生が抑制された表面が効果的に実現され得る。酸化剤のなかでも、特に、過酸化水素、過硫酸ナトリウム、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム、ジクロロイソシアヌル酸ナトリウムを、いずれも含有しないスラリーS2を用いることが好ましい。ここで、本明細書において、研磨用組成物(スラリー)が酸化剤を含有しないとは、少なくとも意図的には酸化剤を配合しないことをいい、原料や製法等に由来して微量の酸化剤が不可避的に含まれることは許容され得る。上記微量とは、研磨用組成物における酸化剤のモル濃度が0.0005モル/L以下(好ましくは0.0001モル/L以下、より好ましくは0.00001モル/L以下、特に好ましくは0.000001モル/L以下)であることをいう。酸化剤の含有量がゼロまたは検出限界以下であることが好ましい。
【0088】
(pH)
スラリーS2のpHは、上述した研磨用組成物のpHと同程度の範囲とすることができる。
【0089】
(酸)
スラリーS2は、必須成分である砥粒、水および化合物Cphoの他に、必要に応じてpH調整等の目的で用いられる任意成分として、一種または二種以上の酸を含んでいてもよい。化合物Cphoに該当する酸、すなわちリン酸、亜リン酸、ホスホン酸は、ここでいう酸の例には含まれない。スラリーS2に含まれ得る酸としては、上述した研磨用組成物に含まれ得る酸と同様のものを好ましく使用し得る。酸の濃度は特に限定されないが、上述した研磨用組成物に含まれ得る酸と同様の濃度とすることができる。
【0090】
いくつかの態様において、スラリーS2における化合物Cphoの濃度w1[重量%]と酸(好ましくは強酸)の濃度w2[重量%]との合計は、上述した研磨用組成物における化合物Cphoの濃度w1[重量%]と酸(好ましくは強酸)の濃度w2[重量%]との合計と同様の範囲とすることができる。
【0091】
スラリーS2が化合物Cphoと酸(好ましくは強酸)とを組み合わせて含む場合、化合物Cphoの含有量m1[モル/kg]と酸の含有量m2[モル/kg]との関係は、上述した研磨用組成物における化合物Cphoと酸(好ましくは強酸)の含有量と同様に設定することができる。スラリーS2が上記(C)に属する化合物Cphoと酸(好ましくは強酸)とを組み合わせて含む場合、上記(C)の化合物Cphoの含有量m1C[モル/kg]は、上述した研磨用組成物における上記(C)の化合物Cphoの含有量m1Cと同様とすることができる。
【0092】
スラリーS2が上記(A)に属する化合物Cphoと酸(好ましくは強酸)とを組み合わせて含む場合、上記(A)の化合物Cphoの含有量m1A[モル/kg]は、上述した研磨用組成物における上記(A)の化合物Cphoの含有量m1Aと同様とすることができる。このような上記(A)の化合物Cphoの含有量m1Aと酸の含有量m2との関係は、スラリーS2が上記(B)に属する化合物Cphoと酸(好ましくは強酸)とを組み合わせて含む場合における上記(B)の化合物Cphoの含有量m1Bと酸の含有量m2との関係や、スラリーS2が上記(D)に属する化合物Cphoと酸(好ましくは強酸)とを組み合わせて含む場合における上記(D)の化合物Cphoの含有量m1Dと酸の含有量m2との関係にも好ましく適用され得る。
【0093】
(その他の成分)
スラリーS2は、本発明の効果を損なわない範囲で、キレート剤、増粘剤、分散剤、表面保護剤、濡れ剤、有機または無機の塩基、界面活性剤、防錆剤、防腐剤、防カビ剤等の、研磨用組成物(典型的には高硬度材料研磨用組成物、例えば窒化ガリウム基板研磨用組成物)に用いられ得る公知の添加剤を、必要に応じてさらに含有してもよい。
【0094】
(スラリーS2の製造方法)
スラリーS2の製造方法は、特に限定されない。例えば、翼式攪拌機、超音波分散機、ホモミキサー等の周知の混合装置を用いて、スラリーS2に含まれる各成分を混合するとよい。これらの成分を混合する態様は特に限定されず、例えば全成分を一度に混合してもよく、適宜設定した順序で混合してもよい。スラリーS1についても同様である。
【0095】
スラリーS2は、研磨対象物に供給される前には濃縮された形態(すなわち、研磨液の濃縮液の形態)であってもよい。このように濃縮された形態の研磨用組成物は、該研磨用組成物の製造、流通、保存等の際における利便性やコスト低減等の観点から有利である。濃縮倍率は、例えば、体積換算で1.2倍~5倍程度とすることができる。濃縮液の形態にある研磨用組成物は、所望のタイミングで希釈して研磨液を調製し、その研磨液を研磨対象物に供給する態様で使用することができる。上記希釈は、典型的には、上記濃縮液に前述の溶媒を加えて混合することにより行うことができる。また、上記溶媒が混合溶媒である場合、該溶媒の構成成分のうち一部の成分のみを加えて希釈してもよく、それらの構成成分を上記溶媒とは異なる量比で含む混合溶媒を加えて希釈してもよい。多剤型の研磨用組成物では、それらのうち一部の剤を希釈した後に他の剤と混合して研磨液を調製してもよく、複数の剤を混合した後にその混合物を希釈して研磨液を調製してもよい。スラリーS1についても同様である。
【0096】
<スラリーS1>
第一研磨工程に用いられるスラリーS1は、砥粒A1と水とを含む。スラリーS1としては、上述した予備研磨用組成物と同様のものを好ましく使用し得る。水としては、スラリーS2と同様のものを好ましく使用し得る。
【0097】
(砥粒A1)
砥粒A1の材質や性状は、特に制限されない。砥粒A1として使用し得る材料としては、例えば、シリカ粒子、アルミナ、酸化セリウム、酸化クロム、二酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化マグネシウム、二酸化マンガン、酸化亜鉛、酸化鉄等の酸化物;窒化ケイ素、窒化ホウ素等の窒化物;炭化ケイ素、炭化ホウ素等の炭化物;ダイヤモンド;炭酸カルシウムや炭酸バリウム等の炭酸塩;等のいずれかから実質的に構成される砥粒が挙げられる。なかでも、シリカ、アルミナ、酸化セリウム、酸化クロム、酸化ジルコニウム、二酸化マンガン、酸化鉄等の酸化物から実質的に構成される砥粒は、良好な表面を形成し得るので好ましい。高い研磨能率と第二研磨工程後における高い面品質とを両立しやすくする観点から、シリカ砥粒、アルミナ砥粒、酸化ジルコニウム砥粒がより好ましく、シリカ砥粒、アルミナ砥粒が特に好ましい。
【0098】
砥粒A1に用いるシリカ砥粒は、スラリーS2に使用し得るシリカ砥粒として上記で例示した材料から適宜選択することができる。砥粒A1として用いられるシリカ砥粒と、砥粒A2として用いられるシリカ砥粒とは、粒径や形状が同一であってもよく、粒径および形状の一方または両方が互いに異なっていてもよい。
【0099】
砥粒A1に用いるアルミナ砥粒は、公知の各種アルミナ粒子のなかから適宜選択して使用することができる。そのような公知のアルミナ粒子の例には、α-アルミナおよび中間アルミナが含まれる。ここで中間アルミナとは、α-アルミナ以外のアルミナ粒子の総称であり、具体的には、γ-アルミナ、δ-アルミナ、θ-アルミナ、η-アルミナ、κ-アルミナ、χ-アルミナ等が例示される。また、製法による分類に基づきヒュームドアルミナと称されるアルミナ(典型的にはアルミナ塩を高温焼成する際に生産されるアルミナ微粒子)を使用してもよい。さらに、コロイダルアルミナまたはアルミナゾルと称されるアルミナ(例えばベーマイト等のアルミナ水和物)も、上記公知のアルミナ粒子の例に含まれる。研磨能率の観点から、α-アルミナが特に好ましい。
【0100】
スラリーS1に含まれる砥粒A1の平均二次粒子径は、通常は20nm以上であり、研磨効率等の観点から、好ましくは35nm以上であり、より好ましくは50nm以上であり、60nm以上でもよい。また、第二研磨工程において面品質を高めやすくする観点から、砥粒A1の平均二次粒子径は、通常は2000nm以下が適当であり、1000nm以下が好ましく、800nm以下でもよく、600nm以下でもよい。
いくつかの態様において、砥粒A1の平均二次粒子径は、好ましくは100nm以上であり、より好ましくは200nm以上であり、300nm以上または400nm以上であってもよい。このような平均二次粒子径を有する砥粒A1(例えばアルミナ砥粒)によると、第一研磨工程において高い研磨能率が得られやすい。
また、いくつかの態様において、砥粒A1の平均二次粒子径は、好ましくは300nm以下であり、より好ましくは200nm以下であり、150nm以下、100nm以下または80nm以下でもよい。このような平均二次粒子径を有する砥粒A1(例えばシリカ砥粒)によると、より短時間の第二研磨工程によっても高品質の表面を実現し得る。
【0101】
スラリーS1に含まれる砥粒A1としては、上述した予備研磨用組成物に含まれる砥粒と同様のものを好ましく用いることができる。スラリーS1における砥粒A1の濃度は、特に限定されないが、上述した予備研磨用組成物における砥粒の濃度と同様とすることができる。
【0102】
他のいくつかの態様において、経済性等の観点から、スラリーS1における砥粒A1の濃度は、例えば20重量%以下であってよく、15重量%以下でもよく、10重量%以下でもよく、5重量%以下でもよい。上記濃度は、例えば、砥粒A1がシリカ砥粒よりも高硬度の砥粒からなる態様や、砥粒A1の70重量%以上が上記高硬度の砥粒からなる態様において好ましく適用され得る。上記高硬度の砥粒の例としては、アルミナ砥粒、酸化ジルコニウム砥粒等が挙げられる。
【0103】
(酸)
スラリーS1は、任意成分として、一種または二種以上の酸を含み得る。酸の使用により、スラリーS1のpHを調節することができる。例えば、酸を用いてスラリーS1のpHを2.0未満、1.5未満または1.0未満とすることにより、高い研磨効率が得られやすくなる。
スラリーS1に使用する酸は、上述した研磨用組成物(またはスラリーS2)に使用し得る酸として上記で例示した材料から適宜選択することができる。酸の濃度は、上述した研磨用組成物(またはスラリーS2)における酸の濃度と同程度の範囲から適宜選択することができる。
【0104】
(酸化剤)
スラリーS1は、任意成分として、一種または二種以上の酸化剤を含み得る。スラリーS1に酸化剤を含有させることにより、該スラリーS1を研磨対象物の表面に効果的に作用させることができる。したがって、スラリーS1に酸化剤を含有させることは、研磨効率向上や表面粗さ低減に役立ち得る。
スラリーS1に使用する酸化剤の具体例としては、過酸化水素;硝酸化合物類、例えば硝酸鉄、硝酸銀、硝酸アルミニウム等の硝酸塩や、硝酸セリウムアンモニウム等の硝酸錯体;過硫酸化合物類、例えば過硫酸ナトリウム、過硫酸カリウム等の過硫酸金属塩や過硫酸アンモニウムのような過硫酸塩;塩素酸化合物類または過塩素酸化合物類、例えば過塩素酸カリウム等の過塩素酸塩や塩素酸塩;臭素酸化合物、例えば臭素酸カリウム等の臭素酸塩;ヨウ素酸化合物類、例えばヨウ素酸アンモニウム等のヨウ素酸塩;過ヨウ素酸化合物類、例えば過ヨウ素酸ナトリウム等の過ヨウ素酸塩;ジクロロイソシアヌル酸ナトリウム、ジクロロイソシアヌル酸カリウム等のジクロロイソシアヌル酸塩;鉄酸化合物類、例えば鉄酸カリウム等の鉄酸塩;過マンガン酸化合物類、例えば過マンガン酸ナトリウム、過マンガン酸カリウム等の過マンガン酸塩;クロム酸化合物類、例えばクロム酸カリウム、二クロム酸カリウム等のクロム酸塩;バナジン酸化合物類、例えばメタバナジン酸アンモニウム、メタバナジン酸ナトリウム、メタバナジン酸カリウム等のメタバナジン酸塩;過ルテニウム酸塩等の過ルテニウム酸化合物類;モリブデン酸化合物類、例えばモリブデン酸アンモニウム、モリブデン酸二ナトリウム等のモリブデン酸塩;過レニウム酸塩等の過レニウム酸化合物類;タングステン酸化合物類、例えばタングステン酸二ナトリウム等のタングステン酸塩;が挙げられる。これらは1種を単独でまたは2種以上を適宜組み合わせて用いることができる。
【0105】
ここに開示される技術のいくつかの態様において、スラリーS1は、酸化剤として複合金属酸化物を含む。上記複合金属酸化物としては、硝酸金属塩、鉄酸化合物類、過マンガン酸化合物類、クロム酸化合物類、バナジン酸化合物類、ルテニウム酸化合物類、モリブデン酸化合物類、レニウム酸化合物類、タングステン酸化合物類が挙げられる。過マンガン酸化合物類、バナジン酸化合物類、鉄酸化合物類、クロム酸化合物類がより好ましく、過マンガン酸化合物類、バナジン酸化合物類がさらに好ましい。
【0106】
いくつかの好ましい態様では、スラリーS1は、上記複合金属酸化物として、1価もしくは2価の金属元素(ただし、遷移金属元素を除く。)と、周期表の第4周期遷移金属元素と、を有する複合金属酸化物が用いられる。上記1価または2価の金属元素の好適例としては、Na、K、Mg、Caが挙げられる。なかでも、Na、Kがより好ましい。周期表の第4周期遷移金属元素の好適例としては、Fe、Mn、Cr、V、Tiが挙げられる。なかでも、Mn、V、Fe、Crがより好ましく、Mn、Vがさらに好ましい。
【0107】
スラリーS1が酸化剤として上記複合金属酸化物を含む場合、該スラリーS1は、複合金属酸化物以外の酸化剤をさらに含んでもよく、含まなくてもよい。ここに開示される技術は、スラリーS1が酸化剤として上記複合金属酸化物以外の酸化剤(例えば、過酸化水素や過硫酸塩)を実質的に含まない態様で好ましく実施され得る。あるいは、スラリーS1は、上記複合金属酸物に加えて、他の酸化剤、例えば過酸化水素や過硫酸塩を含んでいてもよい。
【0108】
スラリーS1が酸化剤を含む態様において、該酸化剤の濃度は特に限定されない。酸化剤の濃度は、通常、0.01重量%以上とすることが適当であり、0.05重量%以上が好ましい。いくつかの態様において、スラリーS1の酸化剤濃度は、例えば0.1重量%以上であってよく、0.5重量%以上でもよく、1.0重量%以上でもよい。また、酸化剤の濃度は、通常、5.0重量%以下とすることが適当であり、3.0重量%以下が好ましい。いくつかの態様において、スラリーS1の酸化剤濃度は、例えば2.5重量%以下であってよく、1.5重量%以下でもよく、1.0重量%以下、0.5重量%以下または0.3重量%以下でもよい。
【0109】
(pH)
スラリーS1のpHは特に限定されず、例えば、0.5~12程度の範囲から選択することができる。スラリーS1のpHは、該スラリーS1に含まれる他の成分の組成等を考慮して選択することができる。
【0110】
いくつかの態様において、スラリーS1は、pH7.0未満の酸性であり得る。スラリーS1のpHは、5.0未満であってよく、3.0未満でもよく、2.5未満でもよい。特に、スラリーS1のpHが、2.0未満、1.5未満または1.2未満であることが好ましい。より低いpHのスラリーS1を使用することにより、研磨能率は向上する傾向にある。ここに開示される研磨方法では、スラリーS1による研磨の後にスラリーS2による研磨をさらに行うので、強酸性のスラリーS1を使用しても、第二研磨工程において表面品質を効果的に高めることができる。したがって、強酸性のスラリーS1で研磨する第一研磨工程と、スラリーS2で研磨する第二研磨工程とをこの順に行うことにより、高品位の表面を効率よく得ることができる。
スラリーS1のpHが5.0未満である態様において、該スラリーS1は、酸化剤を含有してもよく、酸化剤を含有しなくてもよい。例えば、pHが2.0未満であって、少なくとも過酸化水素を含有しないスラリーS1を好ましく用いることができる。pH5.0未満のスラリーS1に酸化剤を含有させる場合、該酸化剤としては、例えば過硫酸金属塩を用いることができる。スラリーS1は、pH5.0未満またはpH3.0未満であって、過硫酸金属塩を含有し、かつ過酸化水素を含有しない組成であり得る。
【0111】
また、いくつかの態様において、スラリーS1のpHは、例えば5.0以上であってよく、5.5以上でもよく、6.0以上でもよい。また、スラリーS1のpHは、例えば10以下であってよく、8.0以下でもよい。このように弱酸性から弱アルカリ性の液性を有するスラリーS1には、取扱い性がよいという利点がある。上記液性を有するS1には、酸化剤を含有させることが好ましい。弱酸性から弱アルカリ性であって酸化剤を含む組成のスラリーS1を用いて第一研磨工程を行うことにより、第二研磨工程における表面品位の向上に適した表面を効率よく実現することができる。
スラリーS1のpHが5.0以上である態様において、該スラリーS1は、酸を含有してもよく、含有しなくてもよい。例えば、pHが5.5以上であって、少なくとも強酸を含有しないスラリーS1を好ましく用いることができる。
【0112】
(化合物Cpho)
スラリーS1には、任意成分として、リン酸基またはホスホン酸基を有する化合物Cph
oを含有させることができる。スラリーS1に化合物Cphoを含有させることにより、第一研磨工程における表面の荒れを抑制する効果が発揮され得る。スラリーS1が化合物Cph
oを含有する場合、該化合物Cphoは、スラリーS2に用いられ得る化合物Cphoと同様のものから選択することができる。スラリーS1,S2がいずれも化合物Cphoを含有する態様において、スラリーS1に含まれる化合物Cphoと、スラリーS2に含まれる化合物Cphoとは、同一であってもよく、異なっていてもよい。
【0113】
スラリーS1が化合物Cphoを含む場合、該スラリーS1における化合物Cphoの濃度[重量%]は、スラリーS2における化合物Cphoの濃度w1[重量%]より低くすることが好ましい。以下、スラリーS1における化合物Cphoの濃度[重量%]をwpと表すことがある。wpがw1以上であると、第一、第二研磨工程を含む多段研磨プロセス全体としての効率が低下しやすくなり、高品位の表面を得るために要する合計研磨時間が長くなる傾向にある。かかる観点から、スラリーS1に化合物Cphoを含有させる場合における該化合物Cphoの濃度wp[重量%]は、スラリーS2における化合物Cphoの濃度w1[重量%]に対して、その3/4以下とすることが適当であり、2/3以下でもよく、1/2以下でもよく、1/5以下でもよく、1/10以下でもよい。
なお、上記合計研磨時間とは、第一研磨工程での研磨時間と第二研磨工程での研磨時間との合計を意味する。したがって、例えば第一研磨工程の研磨終了から第二研磨工程の研磨開始までの時間は、上記合計研磨時間には含まれない。
【0114】
スラリーS1における化合物Cphoの濃度wp[重量%]は、例えば0.01重量%以上であってよく、0.1重量%以上でもよく、0.5重量%以上でもよく、1重量%以上でもよい。また、wpは、5.0重量%未満、4.0重量%未満または3.0重量%未満であって、かつw1より低くなるように設定することが好ましい。ここに開示される技術は、スラリーS1が化合物Cphoを含有しない態様でも好ましく実施され得る。
【0115】
(その他の成分)
スラリーS1は、本発明の効果を損なわない範囲で、キレート剤、増粘剤、分散剤、表面保護剤、濡れ剤、有機または無機の塩基、界面活性剤、防錆剤、防腐剤、防カビ剤等の、研磨用組成物(典型的には高硬度材料研磨用組成物、例えば窒化ガリウム基板研磨用組成物)に用いられ得る公知の添加剤を、必要に応じてさらに含有してもよい。
【0116】
<研磨用組成物セット>
ここに開示される技術には、例えば、以下のような研磨用組成物セットの提供が含まれ得る。すなわち、ここに開示される技術によると、互いに分けて保管される組成物Q1および組成物Q2を含む研磨用組成物セットが提供される。上記組成物Q1は、ここに開示される研磨方法における第一研磨工程に用いられるスラリーS1またはその濃縮液であり得る。上記組成物Q2は、ここに開示される研磨方法における第二研磨工程に用いられるスラリーS2またはその濃縮液であり得る。このような構成の研磨用組成物セットによると、第一、第二研磨工程を含む多段研磨プロセスにおいて、高い研磨能率と、研磨後における高品質の表面とを好適に両立し得る。
【0117】
<研磨方法>
ここに開示される研磨方法は、第一研磨工程と第二研磨工程とをこの順に含む。第一研磨工程は、スラリーS1を含む研磨液を用いて研磨対象物を研磨する工程である。第二研磨工程は、第一研磨工程が行われた研磨対象物を、スラリーS2を含む研磨液を用いてさらに研磨する工程である。
【0118】
上記研磨方法では、ここに開示されるいずれかのスラリーS1を含む第一研磨液、すなわち第一研磨工程の研磨において研磨対象物に供給される研磨液を用意する。また、ここに開示されるいずれかのスラリーS2を含む第二研磨液、すなわち第二研磨工程の研磨において研磨対象物に供給される研磨液を用意する。上記研磨液を用意することには、各スラリーをそのまま研磨液として使用することを包含し、あるいは各スラリーに濃度調整(例えば希釈)、pH調整等の操作を加えて研磨液を調製することが含まれ得る。
【0119】
用意した第一研磨液を用いて第一研磨工程を行う。具体的には、研磨対象物であるガリウム化合物系半導体基板表面に第一研磨液を供給し、常法により研磨する。例えば、ラッピング工程を経た研磨対象物を一般的な研磨装置にセットし、該研磨装置の研磨パッドを通じて上記研磨対象物表面に第一研磨液を供給する。典型的には、上記第一研磨液を連続的に供給しつつ、研磨対象物表面に研磨パッドを押しつけて両者を相対的に移動(例えば回転移動)させる。
【0120】
次いで、用意した第二研磨液を用いて第二研磨工程を行う。具体的には、研磨対象物であるガリウム化合物系半導体基板に第二研磨液を供給し、常法により研磨する。第二研磨工程は、研磨装置の研磨パッドを通じて、第一研磨工程を終えた後の研磨対象物表面に第二研磨液を供給して行う。典型的には、上記第二研磨液を連続的に供給しつつ、研磨対象物表面に研磨パッドを押しつけて両者を相対的に移動(例えば回転移動)させる。上記のような研磨工程を経てガリウム化合物系半導体基板の研磨が完了する。
【0121】
なお、本明細書において第一研磨工程とは、砥粒および水を含む研磨用組成物(スラリー)を研磨パッドと研磨対象物との間に供給して行われる研磨工程であって、第二研磨工程より前に行われる研磨工程のことをいう。典型的な一態様では、第一研磨工程は、第二研磨工程の直前に配置されるポリシング工程である。第一研磨工程は、1段の研磨工程であってもよく、2段以上の複数段の研磨工程であってもよい。
【0122】
また、本明細書において第二研磨工程とは、砥粒および水を含む研磨用組成物を研磨パッドと研磨対象物との間に供給して行われる研磨工程のうち最後に(すなわち、最も下流側に)配置される研磨工程のことをいう、したがって、ここに開示される技術におけるスラリーS2は、ガリウム化合物系半導体基板の研磨過程で用いられる研磨用組成物のうち、最も下流側で用いられる種類の研磨用組成物として把握され得る。
【0123】
各研磨工程における研磨条件は、研磨対象物や、目標とする表面品位(例えば表面粗さ)、研磨能率等に鑑みて、当業者の技術常識に基づき、適切に設定される。例えば、研磨能率の観点から、研磨対象物の加工面積1cm2あたりの研磨圧力は、好ましくは50g以上であり、より好ましくは100g以上である。また、負荷増大に伴う過度な発熱による研磨対象物表面の変質や砥粒の劣化を防ぐ観点から、通常は、加工面積1cm2あたりの研磨圧力は1000g以下であることが適当である。
【0124】
線速度は、一般に、定盤回転数、キャリアの回転数、研磨対象物の大きさ、研磨対象物の数等の影響により変化し得る。線速度の増大によって、より高い研磨効率が得られる傾向にある。また、研磨対象物の破損や過度な発熱を防止する観点から、線速度は所定以下に制限され得る。線速度は、技術常識に基づき設定すればよく特に限定されないが、凡そ0.1~20m/秒の範囲とすることが好ましく、0.5~5m/秒の範囲とすることがより好ましい。
【0125】
研磨時における研磨液の供給量は特に限定されない。上記供給量は、研磨対象物表面に研磨液がムラなく全面に供給されるのに十分な量となるように設定することが望ましい。好適な供給量は、研磨対象物の材質や、研磨装置の構成その他の条件等によっても異なり得る。例えば、研磨対象物の加工面積1mm2あたり0.001~0.1mL/分の範囲とすることが好ましく、0.003~0.03mL/分の範囲とすることがより好ましい。
【0126】
ここに開示される研磨方法における合計研磨時間(すなわち、第一研磨工程の研磨時間と第二研磨工程の研磨時間との合計)は、特に限定されない。ここに開示される研磨方法によると、GaNその他のガリウム化合物系半導体基板について、例えば10時間以下の合計研磨時間で高品位の表面が実現され得る。いくつかの好ましい態様では8時間以下、より好ましい態様では6時間以下の合計研磨時間によって、GaNその他のガリウム化合物系半導体基板について高品位の表面を実現することができる。
【0127】
第一、第二の各研磨工程は、片面研磨装置による研磨、両面研磨装置による研磨のいずれにも適用可能である。片面研磨装置では、セラミックプレートにワックスで研磨対象物を貼りつけたり、キャリアと呼ばれる保持具を用いて研磨対象物を保持し、ポリシング用組成物を供給しながら研磨対象物の片面に研磨パッドを押しつけて両者を相対的に移動(例えば回転移動)させることにより研磨対象物の片面を研磨する。両面研磨装置では、キャリアと呼ばれる保持具を用いて研磨対象物を保持し、上方よりポリシング用組成物を供給しながら、研磨対象物の対向面に研磨パッドを押しつけ、それらを相対方向に回転させることにより研磨対象物の両面を同時に研磨する。
【0128】
各研磨工程に使用する研磨パッドは、特に限定されない。例えば、硬度の高いもの、硬度の低いもの、砥粒を含むもの、砥粒を含まないもの等のいずれを用いてもよい。ここで、硬度の高いものとはAskerC硬度が80より高い研磨パッドであり、硬度の低いものとはAskerC硬度が80以下の研磨パッドである。硬度の高い研磨パッドとは、例えば硬質発泡ポリウレタンタイプや不織布タイプの研磨パッドである。硬度の低い研磨パッドとは、好適には、少なくとも研磨対象物に押しつけられる側が軟質発泡ポリウレタン等の軟質発泡樹脂により構成されている研磨パッドであり、例えばスウェードタイプの研磨パッドである。スウェードタイプの研磨パッドは、典型的には、研磨対象物に押しつけられる側が軟質発泡ポリウレタンにより構成されている。AskerC硬度は、Asker社製のアスカーゴム硬度計C型を用いて測定することができる。ここに開示される研磨方法は、少なくとも第二研磨工程では砥粒を含まない研磨パッドを用いる態様で好ましく実施することができる。例えば、第一、第二研磨工程のいずれにおいても砥粒を含まない研磨パッドを使用することが好ましい。
【0129】
第二研磨工程において好ましく使用し得る研磨パッドとして、軟質発泡ポリウレタン製の表面を有する研磨パッド、すなわち軟質発泡ポリウレタン製の表面を研磨対象物に押しつけて使用するように構成された研磨パッドが挙げられる。ここで、軟質発泡ポリウレタン製の表面を有する研磨パッドの概念には、全体が軟質発泡ポリウレタンにより構成されているパッドや、不織布やポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム等のパッド基材(ベース基材ともいう。)の上に軟質発泡ポリウレタンの層が設けられた構成を有する研磨パッドが含まれる。なかでも、湿式製膜法を用いて製造された軟質発泡ポリウレタン層をベース基材上に有する、いわゆるスウェードタイプの研磨パッドを用いることが好ましい。スウェードタイプの研磨パッドを用いて第二研磨工程を実施することにより、より高品質の(例えば、より表面粗さRaの小さい)表面が得られる傾向にある。
なお、例えば不織布にポリウレタンを含浸させた構成の研磨パッドは、上記軟質発泡ポリウレタン製の表面を有する研磨パッドの概念には含まれない。
【0130】
上記スウェードパッドは、第一研磨工程においても好ましく用いることができる。また、第一研磨工程は、硬質発泡ポリウレタンタイプの研磨パッドや、不織布タイプの研磨パッドを用いても好ましく実施され得る。硬質発泡ポリウレタンタイプまたは不織布タイプの研磨パッドによると、第一研磨工程において、より高い研磨能率が得られる傾向にある。その後に、スラリーS2を用い、好ましくはスウェードパッドを用いて研磨する第二研磨工程を実施することにより、高品質の表面を効率よく実現することができる。
【0131】
ここに開示される方法により研磨された研磨物は、典型的には研磨後に洗浄される。この洗浄は、適当な洗浄液を用いて行うことができる。使用する洗浄液は特に限定されず、公知、慣用のものを適宜選択して用いることができる。
【0132】
ここに開示される研磨方法は、第一研磨工程および第二研磨工程に加えて任意の他の工程を含み得る。そのような工程の例としては、第一研磨工程の前に行われるラッピング工程が挙げられる。上記ラッピング工程は、研磨定盤(例えば鋳鉄定盤)の表面を研磨対象物に押し当てることにより研磨対象物の研磨を行う工程である。したがって、ラッピング工程では研磨パッドは使用しない。ラッピング工程は、典型的には、研磨定盤と研磨対象物との間に砥粒(典型的にはダイヤモンド砥粒)を供給して行われる。また、ここに開示される研磨方法は、第一研磨工程の前や、第一研磨工程と第二研磨工程との間に、追加の工程(洗浄工程や他の研磨工程)を含んでもよい。
【0133】
<研磨物の製造方法>
この明細書により開示される事項には、上述した研磨方法を実施することを含む研磨物の製造方法(例えば、窒化ガリウム基板または酸化ガリウム素基板の製造方法)および該方法により製造された研磨物の提供が含まれ得る。すなわち、この明細書により、ここに開示されるいずれかの研磨方法を適用して研磨対象物を研磨することを含む、研磨物の製造方法および該方法により製造された研磨物が提供される。上記製造方法によると、高品質な表面を有する研磨物(例えば、窒化ガリウム基板、酸化ガリウム素基板等)が効率的に提供され得る。
【実施例】
【0134】
以下、本発明に関するいくつかの実施例を説明するが、本発明を実施例に示すものに限定することを意図したものではない。なお、以下の説明において「%」は、特に断りがない限り重量基準である。
【0135】
<試験例1>
<研磨用組成物の調製>
表1に示す組成を有す研磨用組成物を調製した。シリカ砥粒としては、平均二次粒子径(D50)が65nmの、球状のコロイダルシリカを使用した。表1中、HEDPはヒドロキシエチリデンジホスホン酸、EDTPOはエチレンジアミンテトラ(メチレンホスホン酸)、EAPはエチルアシッドホスフェートを表し、これらは化合物Cphoに該当する。なお、ここで使用したEAPは、リン酸のモノエステルとジエステルとの混合物であり、それらの重量分率に基づく重量平均分子量は140である。また、表1中、TTHAはトリエチレンテトラミン六酢酸、DTPAはジエチレントリアミン五酢酸を表し、これらはリン酸基もホスホン酸基も有しないため、化合物Cphoに該当しない。表1に示す成分の他、実施例1-3の研磨用組成物にはEDTPOを溶解させるために0.6%の水酸化カリウムを含有させ、比較例1-3、1-4の研磨用組成物にはTTHA、DTPAを溶解させるために0.3%の水酸化カリウムを含有させた。各例に係る研磨用組成物の残部は水からなる。表1には、各例に係る研磨用組成物のpHを併せて示している。
【0136】
<研磨能率>
各例に係る研磨用組成物をそのまま研磨液として使用し、市販のノンドープ(n型)自立型GaNウェーハの(0001)面、すなわちC面を、下記のポリシング条件で研磨した。使用したGaNウェーハはいずれも、直径2インチの円形である。
[ポリシング条件]
研磨装置:不二越機械工業社製の片面研磨機装置、型式「RDP-500」
研磨パッド:軟質発泡ポリウレタン製スウェードパッド(フジミインコーポレーテッド社製、Surfin 019-3、AskerC硬度:58)
研磨圧力:45kPa
研磨液供給レート:20mL/分(掛け流し)
平均線速度:1.5m/秒
研磨時間:60分
【0137】
上記ポリシングの前後におけるウェーハの重量に基づいて、以下の計算式(1)~(3)に従って研磨能率を算出した。結果を表1に示す。
(1) ΔV=(W0-W1)/ρ
(2) Δx=Δ/S
(3) R=Δx/t
ここで、
W0:研磨前におけるウェーハの重量、
W1:研磨後におけるウェーハの重量、
ρ:GaNの比重(6.15g/cm3)、
ΔV:研磨によるウェーハの体積変化量、
S:ウェーハの表面積、
Δx:研磨によるウェーハの厚さ変化量、
t:研磨時間(60分)、
R:研磨能率、である。
【0138】
<表面粗さRa>
各例に係る研磨用組成物を用いて上記ポリシングを行った後のウェーハ表面について、以下の条件で表面粗さRaを測定した。結果を表1に示す。
[Ra測定条件]
評価装置:bruker社製 原子間力顕微鏡(AFM)
装置型式:nanoscope V
視野角:10μm角
走査速度:1Hz(20μm/秒)
走査あたりの測定点数:256(点)
走査本数:256(本)
測定部位:5(ウェーハ中心部の1か所と、該ウェーハの1/2半径部の周上における90°間隔の4か所について測定を行い、上記5か所における測定結果の平均をRaとして記録した。)
【0139】
<ピット抑制性能>
上記表面粗さRaの測定で得られた5つのAFM像を利用して、各AFM像内に存在するピットの個数を目視でカウントした。このとき、直径100nm以上かつ基準面に対する深さが2nm以上の円形の凹み欠陥をピットとして認定した。その結果に基づいて、以下の0点~4点の5水準でピット抑制性能を評価し、表1に示した。点数が高いほどピット抑制性能が高いといえる。
4点:5つのAFM像の全てにおいてピットの存在は認められない。
3点:5つのAFM像のうち1つでピットが確認される。
2点:5つのAFM像のうち2つでピットが確認されるか、または、
少なくとも1つのAFM像において3個以上のピットが確認される。
1点:5つのAFM像のうち3つ以上でピットが確認されるか、または、
少なくとも1つのAFM像において5個以上のピットが確認される。
0点:表面状態が粗く、ピットの個数をカウントできない。
【0140】
【0141】
表1に示されるように、化合物Cphoを含む実施例1-1~1-11の研磨用組成物によると、実用的な研磨能率を維持しつつ、化合物Cphoを含まない比較例1-1~1-4の研磨用組成物に比べて研磨後の面品質が顕著に改善された。
【0142】
酸化剤の含有による影響を調べるため、さらに以下の実験を行った。
すなわち、酸化剤を含有しない実施例1-6の研磨用組成物に、表2に示す濃度で酸化剤としての過硫酸ナトリウムまたはH2O2をさらに含有させることにより、比較例1-5、1-6に係る研磨用組成物を調製した。また、酸化剤を含有しない実施例1-11の研磨用組成物に、表2に示す濃度で酸化剤としてのH2O2をさらに含有させることにより、比較例1-7に係る研磨用組成物を調製した。これらの比較例に係る研磨用組成物について、上記と同様にしてGaNウェーハの研磨を行い、ピット抑制性能を評価した。結果を表2に示す。
【0143】
【0144】
表2に示されるように、実施例1-6の研磨用組成物に酸化剤を添加した比較例1-5、1-6の研磨用組成物によると、ピット抑制性能が大きく損なわれることが確認された。実施例1-11と比較例1-7との対比においても同様の傾向が認められた。
【0145】
<試験例2>
<研磨用組成物の調製>
砥粒および添加剤を表3、4の各例に示す濃度で含むスラリーS1、S2を調製した。表3、4の砥粒種の欄において、「S」はシリカ砥粒を表し、「A」はアルミナ砥粒を表す。上記シリカ砥粒としては、平均二次粒子径(D50)が65nmの、球状のコロイダルシリカを使用した。上記アルミナ砥粒としては、平均二次粒子径(D50)が450nmのα-アルミナを使用した。また、表3中、スラリーS2の添加剤の欄において、HEDPはヒドロキシエチリデンジホスホン酸、EDTPOはエチレンジアミンテトラ(メチレンホスホン酸)を表し、これらはいずれも化合物Cphoに該当する。実施例2-10のスラリーS2には、表3に示す成分の他、EDTPOを溶解させるために0.6%の水酸化カリウムを含有させた。各例に係るスラリーS1、S2の残部は水からなる。表3、4には、各例に係るスラリーS1、S2のpHを併せて示している。
【0146】
<GaN基板の研磨>
(第一研磨工程)
上記で調製したスラリーS1をそのまま研磨液として使用して、市販のノンドープ(n型)自立型GaNウェーハの(0001)面、すなわちC面を、下記のポリシング条件で研磨した。使用したGaNウェーハはいずれも、直径2インチの円形である。
[ポリシング条件]
研磨装置:日本エンギス社製の片面研磨装置、型式「EJ-380IN」
研磨パッド:表3に示すとおり。
研磨圧力:30kPa
研磨液供給レート:20mL/分(掛け流し)
平均線速度:1.0m/秒
研磨時間:表3に示すとおり。
【0147】
(第二研磨工程)
次いで、上記で調製したスラリーS2をそのまま研磨液として使用して、第一研磨工程を実施した後のGaNウェーハの表面に対して第二研磨工程を実施した。第二研磨工程は、研磨パッドおよび研磨時間を表4に示すとおりとした他は、第一研磨工程と同様のポリシング条件により行った。ただし、比較例2-1~2-4では第二研磨工程は行わなかった。
【0148】
なお、表3、4の研磨パッドの欄において、「P1」は軟質発泡ポリウレタン製スウェードパッド(フジミインコーポレーテッド社製、Surfin 019-3、AskerC硬度:58)を示し、「P2」は硬質発泡ポリウレタンタイプの研磨パッド(AskerC硬度:97)、「P3」は不織布タイプの研磨パッド(AskerC硬度:82)をそれぞれ示している。
【0149】
<表面粗さRa>
研磨後のウェーハ表面について、以下の条件で表面粗さRaを測定した。結果を表3、4に示す。
[Ra測定条件]
評価装置:bruker社製 原子間力顕微鏡(AFM)
装置型式:nanoscope V
視野角:10μm角
走査あたりの測定点数:256(点)
走査本数:256(本)
測定部位:5(ウェーハ中心部の1か所と、該ウェーハの1/2半径部の周上における90°間隔の4か所について測定を行い、上記5か所における測定結果の平均をRaとして記録した。)
【0150】
【0151】
【0152】
表3、4に示されるように、実施例2-1~2-15によると、合計研磨時間が10時間以内の条件で、Raが0.3nm以下の高品質の表面が効率よく得られた。なかでも、実施例2-1、2-9、2-12では、より短い合計研磨時間で高品質の表面が得られた。また、実施例2-1、2-6~2-9、2-11、2-13は、研磨後の面品質が特に良好であった。一方、比較例2-1~2-3は研磨後のRaが高く、研磨時間を10時間まで延長してもRaの低減は不十分であった。比較例2-4、2-5においても、Raが0.3nm以下の表面を10時間以内に得ることはできなかった。なお、実施例2-13の第二研磨工程に使用する研磨パッドをP1からP3に変更したところ、実施例2-13に比べて研磨後の表面粗さRaが大きくなることが確認された。
【0153】
以上、本発明の具体例を詳細に説明したが、これらは例示にすぎず、請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。