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特許7424969耐熱性重合禁止剤を含むポリシロキサンを含有する仮接着剤
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-22
(45)【発行日】2024-01-30
(54)【発明の名称】耐熱性重合禁止剤を含むポリシロキサンを含有する仮接着剤
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/304 20060101AFI20240123BHJP
   H01L 21/02 20060101ALI20240123BHJP
   C09J 183/05 20060101ALI20240123BHJP
   C09J 183/07 20060101ALI20240123BHJP
   C09J 11/06 20060101ALI20240123BHJP
   C09J 5/04 20060101ALI20240123BHJP
【FI】
H01L21/304 622J
H01L21/02 B
C09J183/05
C09J183/07
C09J11/06
C09J5/04
【請求項の数】 16
(21)【出願番号】P 2020517050
(86)(22)【出願日】2019-04-23
(86)【国際出願番号】 JP2019017197
(87)【国際公開番号】W WO2019212008
(87)【国際公開日】2019-11-07
【審査請求日】2022-04-21
(31)【優先権主張番号】P 2018088393
(32)【優先日】2018-05-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003986
【氏名又は名称】日産化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001999
【氏名又は名称】弁理士法人はなぶさ特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】澤田 和宏
(72)【発明者】
【氏名】森谷 俊介
(72)【発明者】
【氏名】新城 徹也
(72)【発明者】
【氏名】荻野 浩司
(72)【発明者】
【氏名】奥野 貴久
【審査官】宮久保 博幸
(56)【参考文献】
【文献】特表2013-520009(JP,A)
【文献】国際公開第2017/221772(WO,A1)
【文献】特開2012-229333(JP,A)
【文献】国際公開第2016/181879(WO,A1)
【文献】特開2012-169573(JP,A)
【文献】国際公開第2013/022068(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/304
H01L 21/02
C09J 183/05
C09J 183/07
C09J 11/06
C09J 5/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持体とウエハーの回路面との間で剥離可能に接着しウエハーの裏面を加工するための仮接着剤であり、ヒドロシリル化反応により硬化する成分(A)と、Tg-DTAにおける5%質量減少温度が80℃以上である重合禁止剤(B)と、溶媒(C)とを含む上記仮接着剤。
【請求項2】
前記成分(A)が、SiOで表されるシロキサン単位(Q単位)、RSiO1/2で表されるシロキサン単位(M単位)、RSiO2/2で表されるシロキサン単位(D単位)、及びRSiO3/2で表されるシロキサン単位(T単位)からなる群より選ばれるシロキサン単位(但しR乃至R1価化学基であり、それぞれケイ素原子に結合しているものである)を含み、R乃至R として炭素原子数1~10のアルキル基と炭素原子数2~10のアルケニル基とを含むポリオルガノシロキサン(a1)と、前記シロキサン単位を含み、R乃至R として炭素原子数1~10のアルキル基と水素原子を含むポリオルガノシロキサン(a2)とを含むポリシロキサン(A1)と、白金族金属系触媒(A2)とを含むものである請求項1に記載の仮接着剤。
【請求項3】
重合禁止剤(B)が式(1):
【化1】

(ただし、式(1)中、R及びRは、いずれも炭素原子数6~40のアリール基であり、又は炭素原子数1~10のアルキル基と炭素原子数6~40のアリール基の組み合わせであり、RとRは互いに環を形成していても良い)で表される化合物である請求項1又は請求項2に記載の仮接着剤。
【請求項4】
重合禁止剤(B)が、1-フェニル-2-プロピン-1-オール、2-フェニル-3-ブチン-2-オール、1,1-ジフェニル-2-プロピン-1-オール、又は9-エチニル-9-フルオレノールである請求項1又は請求項2に記載の仮接着剤。
【請求項5】
ポリジメチルシロキサン、エポキシ基含有ポリジメチルシロキサン、フェニル基含有ポリジメチルシロキサン、又はそれらの混合物を剥離成分(D)として含む請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載の仮接着剤。
【請求項6】
請求項1乃至請求項5のいずれか1項に記載の仮接着剤を用いて、支持体とウエハーの回路面との間で剥離可能に接着した仮接着剤層を含むウエハーの裏面を加工するための積層体。
【請求項7】
請求項1乃至請求項5のいずれか1項に記載の上記仮接着剤により形成された仮接着剤層と、ポリジメチルシロキサン、エポキシ基含有ポリジメチルシロキサン、フェニル基含有ポリジメチルシロキサン、又はそれらの混合物より形成された剥離剤層とからなる、支持体とウエハーの回路面との間で剥離可能に接着した仮接着剤層と剥離剤層とを含むウエハーの裏面を加工するための積層体。
【請求項8】
第一基体上に請求項1乃至請求項5のいずれか1項に記載の仮接着剤を塗布し、加熱により溶媒を除去し仮接着剤層を形成し、その後、該仮接着剤層に第二基体を接合し、前記第一基体側から加熱する積層体の接合方法。
【請求項9】
第一基体上に請求項1乃至請求項5のいずれか1項に記載の仮接着剤を塗布し、加熱により溶媒を除去し仮接着剤層を形成し、一方、第二基体上にポリジメチルシロキサン、エポキシ基含有ポリジメチルシロキサン、フェニル基含有ポリジメチルシロキサン、又はそれらの混合物を含む剥離剤を塗布し加熱により剥離剤層を形成した後、次いで、該仮接着剤層と該剥離剤層を対向するように前記第一基体と前記第二基体を接合し、前記第一基体側から加熱する積層体の接合方法。
【請求項10】
前記第一基体が支持体であり、前記第二基体がウエハーであり、ウエハーの回路面が前記第一基体の表面と対向するものである請求項8又は請求項9に記載の接合方法。
【請求項11】
前記第一基体がウエハーであり、前記第二基体が支持体であり、ウエハーの回路面が前記第二基体の表面と対向するものである請求項8又は請求項9に記載の接合方法。
【請求項12】
第一基体上に請求項1乃至請求項5のいずれか1項に記載の仮接着剤を塗布し仮接着剤層を形成し、次いでこれに第二基体を接合し、続いて前記第一基体側から加熱し該仮接着剤層を硬化させて、積層体を完成し、その後に該積層体を加工し、そして基体と仮接着剤層の間で剥離せしめる剥離方法。
【請求項13】
第一基体上に請求項1乃至請求項5のいずれか1項に記載の仮接着剤を塗布し仮接着剤層を形成し、一方、第二基体上にポリジメチルシロキサン、エポキシ基含有ポリジメチルシロキサン、フェニル基含有ポリジメチルシロキサン、又はそれらの混合物を含む剥離剤を塗布し加熱により剥離剤層を形成した後、次いで、該仮接着剤層と該剥離剤層を対向するように前記第一基体と前記第二基体を接合し、前記第一基体側から加熱し該仮接着剤層と該剥離剤層を硬化させ、積層体を完成し、その後に該積層体を加工し、そして基体と仮接着剤層乃至剥離剤層の間で剥離せしめる剥離方法。
【請求項14】
前記第一基体が支持体であり、前記第二基体がウエハーであり、ウエハーの回路面が前記
第一基体の表面と対向するものである請求項12又は請求項13に記載の剥離方法。
【請求項15】
前記第一基体がウエハーであり、前記第二基体が支持体であり、ウエハーの回路面が前記第二基体の表面と対向するものである請求項12又は請求項13に記載の剥離方法。
【請求項16】
前記加工が裏面研磨である請求項12乃至請求項15のいずれか1項に記載の剥離方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ウエハー裏面の研磨時にウエハーを支持体に固定するための仮接着剤とそれを用いた積層体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来2次元的な平面方向に集積してきた半導体ウエハーは、より一層の集積化を目的に平面を更に3次元方向にも集積(積層)する半導体集積技術が求められている。この3次元積層はシリコン貫通電極(TSV:through silicon via)によって結線しながら多層に集積していく技術である。多層に集積する際に、集積されるそれぞれのウエハーは形成された回路面とは反対側(即ち、裏面)を研磨によって薄化し、薄化された半導体ウエハーを積層する。
【0003】
薄化前の半導体ウエハー(ここでは単にウエハーとも呼ぶ)を、研磨装置で研磨するために支持体に接着される。その際の接着は研磨後に容易に剥離されなければならないため、仮接着と呼ばれる。この仮接着は支持体から容易に取り外されなければならず、取り外しに大きな力を加えると薄化された半導体ウエハーは、切断されたり、変形することがあったりして、その様なことが生じないように、容易に取り外される。しかし、半導体ウエハーの裏面研磨時に研磨応力によって外れたりずれたりすることは好ましくない。従って、仮接着に求められる性能は研磨時の応力に耐え、研磨後に容易に取り外されることである。
【0004】
例えば研磨時の平面方向に対して高い応力(強い接着力)を持ち、取り外し時の縦方向に対して低い応力(弱い接着力)を有する性能が求められる。
【0005】
このような接着プロセスとして接着層と分離層を持ち、分離層がジメチルシロキサンのプラズマ重合によって形成され、研磨後に機械的に分離する方法(特許文献1、特許文献2参照)、
【0006】
支持基板と半導体ウエハーとを接着性組成物で接着し、半導体ウエハーの裏面を研磨した後に接着剤をエッチング液で除去する方法(特許文献3参照)、並びに支持体と半導体ウエハーを接着する接着層としては、アルケニル基含有オルガノポリシロキサンとヒドロシリル基含有オルガノポリシロキサンとを白金触媒で重合した重合層と、熱硬化性ポリシロキサンからなる重合層との組み合わせを含むウエハー加工体(特許文献3、特許文献4参照、特許文献5参照、特許文献6参照)、が開示されている。
【0007】
ヒドロシリル化反応の抑制剤として長鎖α-アセチレンアルコールと硬化性シリコン組成物が開示されている(特許文献7参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特表2012-510715
【文献】特表2012-513684
【文献】特開2013-179135
【文献】特開2013-232459
【文献】特開2006-508540
【文献】特開2009-528688
【文献】特開平6-329917号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
接着前の硬化の進行を抑制し、ウエハーの回路面や、支持体へのスピンコート性に優れ、接着層との接合時やウエハー裏面の加工時における耐熱性に優れ、ウエハー裏面の研磨後には容易に剥離でき、剥離後はウエハーや支持体に付着した接着剤が簡単に除去できる仮接着剤及びその積層体、それを用いた加工方法を提供するものである。特に支持体とウエハーの間にボイドの発生がなく仮接着が可能な仮接着剤を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は第1観点として、支持体とウエハーの回路面との間で剥離可能に接着しウエハーの裏面を加工するための仮接着剤であり、ヒドロシリル化反応により硬化する成分(A)と、Tg-DTAにおける5%質量減少温度が80℃以上である重合禁止剤(B)と、溶媒(C)とを含む上記仮接着剤、
第2観点として、成分(A)が、SiOで表されるシロキサン単位(Q単位)、RSiO1/2で表されるシロキサン単位(M単位)、RSiO2/2で表されるシロキサン単位(D単位)、及びRSiO3/2で表されるシロキサン単位(T単位)からなる群より選ばれるポリシロキサン(但しR乃至RはそれぞれSi-C結合又はSi-H結合によりケイ素原子に結合しているものである)を含み、R乃至Rで示される1価化学基がそれぞれ炭素原子数1~10のアルキル基と炭素原子数2~10のアルケニル基を含むポリオルガノシロキサン(a1)と、前記ポリシロキサンを含み、R乃至Rで示される1価化学基がそれぞれ炭素原子数1~10のアルキル基と水素原子を含むポリオルガノシロキサン(a2)とを含むポリシロキサン(A1)と、白金族金属系触媒(A2)とを含むものである第1観点に記載の仮接着剤、
第3観点として、重合禁止剤(B)が式(1):
【化1】
(ただし、式(1)中、R及びRは、いずれも炭素原子数6~40のアリール基であり、又は炭素原子数1~10のアルキル基と炭素原子数6~40のアリール基の組み合わせであり、RとRは互いに環を形成していても良い)で表される化合物である第1観点又は第2観点に記載の仮接着剤、
第4観点として、重合禁止剤(B)が、1-フェニル-2-プロピン-1-オール、2-フェニル-3-ブチン-2-オール、1,1-ジフェニル-2-プロピン-1-オール、又は9-エチニル-9-フルオレノールである第1観点又は第2観点に記載の仮接着剤、
第5観点として、ポリジメチルシロキサン、エポキシ基含有ポリジメチルシロキサン、フェニル基含有ポリジメチルシロキサン、又はそれらの混合物を剥離成分(D)として含む第1観点乃至第4観点のいずれか一つに記載の仮接着剤、
第6観点として、第1観点乃至第5観点のいずれか一つに記載の仮接着剤を用いて、支持体とウエハーの回路面との間で剥離可能に接着した仮接着剤層を含むウエハーの裏面を加工するための積層体、
第7観点として、第1観点乃至第5観点のいずれか一つに記載の上記仮接着剤により形成された仮接着剤層と、ポリジメチルシロキサン、エポキシ基含有ポリジメチルシロキサン、フェニル基含有ポリジメチルシロキサン、又はそれらの混合物より形成された剥離剤層とからなる、支持体とウエハーの回路面との間で剥離可能に接着した仮接着剤層と剥離剤層とを含むウエハーの裏面を加工するための積層体、
第8観点として、第一基体上に第1観点乃至第5観点のいずれか一つに記載の仮接着剤を塗布し、加熱により溶媒を除去し仮接着剤層を形成し、その後、該仮接着剤層に第二基体を接合し、前記第一基体側から加熱する積層体の接合方法、
第9観点として、第一基体上に第1観点乃至第5観点のいずれか一つに記載の仮接着剤を塗布し、加熱により溶媒を除去し仮接着剤層を形成し、一方、第二基体上にポリジメチルシロキサン、エポキシ基含有ポリジメチルシロキサン、フェニル基含有ポリジメチルシロキサン、又はそれらの混合物を含む剥離剤を塗布し加熱により剥離剤層を形成した後、次いで、該仮接着剤層と該剥離剤層を対向するように前記第一基体と前記第二基体を接合し、前記第一基体側から加熱する積層体の接合方法、
第10観点として、前記第一基体が支持体であり、前記第二基体がウエハーであり、ウエハーの回路面が前記第一基体の表面と対向するものである第8観点又は第9観点に記載の接合方法、
第11観点として、前記第一基体がウエハーであり、前記第二基体が支持体であり、ウエハーの回路面が前記第二基体の表面と対向するものである第8観点又は第9観点に記載の接合方法、
第12観点として、第一基体上に第1観点乃至第5観点のいずれか一つに記載の仮接着剤を塗布し仮接着剤層を形成し、次いでこれに第二基体を接合し、続いて前記第一基体側から加熱し該仮接着剤層を硬化させて、積層体を完成し、その後に該積層体を加工し、そして基体と仮接着剤層の間で剥離せしめる剥離方法、
第13観点として、第一基体上に第1観点乃至第5観点のいずれか一つに記載の仮接着剤を塗布し仮接着剤層を形成し、一方、第二基体上にポリジメチルシロキサン、エポキシ基含有ポリジメチルシロキサン、フェニル基含有ポリジメチルシロキサン、又はそれらの混合物を含む剥離剤を塗布し加熱により剥離剤層を形成した後、次いで、該仮接着剤層と該剥離剤層を対向するように前記第一基体と前記第二基体を接合し、前記第一基体側から加熱し該仮接着剤層と該剥離剤層を硬化させ、積層体を完成し、その後に該積層体を加工し、そして基体と仮接着剤層乃至剥離剤層の間で剥離せしめる剥離方法、
第14観点として、前記第一基体が支持体であり、前記第二基体がウエハーであり、ウエハーの回路面が前記第一基体の表面と対向するものである第12観点又は第13観点に記載の剥離方法、
第15観点として、前記第一基体がウエハーであり、前記第二基体が支持体であり、ウエハーの回路面が前記第二基体の表面と対向するものである第12観点又は第13観点に記載の剥離方法、及び
第16観点として、前記加工が裏面研磨である第12観点乃至第15観点のいずれか一つに記載の剥離方法である。
【発明の効果】
【0011】
支持体とウエハーの回路面との間に装入される仮接着剤としては、ヒドロシリル化反応により硬化する成分(A)と、Tg-DTAにおける5%質量減少温度が80℃以上である重合禁止剤(B)と、溶媒(C)とを含む。
【0012】
本発明の仮接着剤が、ウエハーの回路面へのスピンコート性に優れ、特定成分の重合禁止剤を含むことにより接着前の硬化の進行を抑制し、溶媒除去の加熱後も良好な貼り合わせ特性を維持することができる。特定成分のポリシロキサンを組み合わせたことにより、接着層との接合時やウエハー裏面の加工時における耐熱性に優れるという効果が得られる。さらに、ウエハー裏面の研磨後には容易に剥離でき、剥離後はウエハーや支持体に付着した本発明の仮接着剤が簡単に除去できる。
【0013】
ウエハーの回路面の反対側の加工とは、研磨によるウエハーの薄化が行われる。その後、シリコン貫通電極(TSV)等の形成を行い、その後に支持体から薄化ウエハーを剥離してウエハーの積層体を形成し、3次元実装化される。また、それに前後してウエハー裏面電極等の形成も行われる。ウエハーの薄化とTSVプロセスには支持体に接着された状態で250~350℃の熱が付加されるが、本発明に用いられる仮接着剤としての積層体はそれらの耐熱性を有している。
【0014】
支持体又はウエハーに仮接着剤を塗布するが、配合される成分や被覆される基体(支持体やウエハー)の形状により粘度調整のため溶媒を含有することがある。これらの仮接着剤に用いられる溶媒は高沸点の炭化水素系溶媒が用いられるが、塗布し硬化する前に溶媒を除去させる。塗布された接着剤中の溶媒はその沸点以下の温度でも蒸発が開始されるが、その工程では温度が必要であり、例えば80℃乃至130℃程度(特には110℃程度)の温度が加えられる。その時に配合されている重合禁止剤は成分によって揮発温度の低いものもあるが、そのような揮発温度の低い重合禁止剤を用いる場合は、配合組成中で重合禁止剤の揮発によってヒドロシリル化がより進行して硬化が予想以上に進行する。支持体やウエハー上に塗布された接着剤が、支持体とウエハーを張り合わせる前に硬化が進行すると支持体とウエハーの接着性が低下しボイド(空孔)を生じる。
【0015】
本発明では5%質量減少温度が80℃以上である重合禁止剤が溶媒除去加熱時の該重合禁止剤の揮発防止に有効であることに着目し発明を完成した。
【0016】
本発明は重合禁止剤が高い耐熱性を有することで、重合禁止剤の揮発を抑制し、十分な硬化性能を保持して基板の加工を行うことが可能な仮接着剤を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明は支持体とウエハーの回路面との間で剥離可能に接着しウエハーの裏面を加工するための仮接着剤であり、ヒドロシリル化反応により硬化する成分(A)と、Tg-DTAにおける5%質量減少温度が80℃以上である重合禁止剤(B)と、溶媒(C)とを含む上記仮接着剤である。
【0018】
本発明では接着剤によって支持体とウエハーが仮接着され、ウエハーの回路面とは反対側の裏面が研磨等によって加工されることにより、ウエハーの厚みを薄化することができる。
【0019】
上記仮接着はウエハー裏面の研磨時は接着されていて、ウエハー裏面の研磨後には支持体と薄化されたウエハーが分離できるものである。
ここで剥離可能とは他の剥離箇所よりも剥離強度が低く、剥離しやすいことを示す。
【0020】
成分(A)が、SiOで表されるシロキサン単位(Q単位)、RSiO1/2で表されるシロキサン単位(M単位)、RSiO2/2で表されるシロキサン単位(D単位)、及びRSiO3/2で表されるシロキサン単位(T単位)からなる群より選ばれるポリシロキサン(但しR乃至RはそれぞれSi-C結合又はSi-H結合によりケイ素原子に結合しているものである)を含み、R乃至Rで示される1価化学基がそれぞれ炭素原子数1~10のアルキル基と炭素原子数2~10のアルケニル基を含むポリオルガノシロキサン(a1)と、前記ポリシロキサンを含み、R乃至Rで示される1価化学基がそれぞれ炭素原子数1~10のアルキル基と水素原子を含むポリオルガノシロキサン(a2)とを含むポリシロキサン(A1)と、白金族金属系触媒(A2)とを含むものである。
【0021】
ポリシロキサン(A1)はポリオルガノシロキサン(a1)とポリオルガノシロキサン(a2)を含む。ポリオルガノシロキサン(a1)が炭素原子数1~10のアルキル基と炭素原子数2~10のアルケニル基を含んでいて、ポリオルガノシロキサン(a2)が炭素原子数1~10のアルキル基と水素原子を含んでいる。アルケニル基とSi-H基が白金族金属系触媒(A2)によりヒドロシリル化反応によって架橋構造を形成し硬化する。
【0022】
ポリオルガノシロキサン(a1)はQ単位、M単位、D単位、T単位から選ばれるが、例えば(Q単位とM単位)と(D単位とM単位)との組み合わせ、(T単位とM単位)と(D単位とM単位)との組み合わせ、(Q単位とT単位とM単位)と(T単位とM単位)との組み合わせ、(T単位とM単位)の組み合わせ、(Q単位とM単位)の組み合わせによって形成することができる。
【0023】
ポリオルガノシロキサン(a2)はQ単位、M単位、D単位、T単位から選ばれるが、例えば(M単位とD単位)の組み合わせ、(Q単位とM単位)の組み合わせ、(Q単位とT単位とM単位)の組み合わせによって形成することができる。
【0024】
上記炭素原子数2~10のアルケニル基は、例えばエテニル基、1-プロペニル基、2-プロペニル基、1-メチル-1-エテニル基、1-ブテニル基、2-ブテニル基、3-ブテニル基、2-メチル-1-プロペニル基、2-メチル-2-プロペニル基、1-エチルエテニル基、1-メチル-1-プロペニル基、1-メチル-2-プロペニル基、1-ペンテニル基、2-ペンテニル基、3-ペンテニル基、4-ペンテニル基、1-n-プロピルエテニル基、1-メチル-1-ブテニル基、1-メチル-2-ブテニル基、1-メチル-3-ブテニル基、2-エチル-2-プロペニル基、2-メチル-1-ブテニル基、2-メチル-2-ブテニル基、2-メチル-3-ブテニル基、3-メチル-1-ブテニル基、3-メチル-2-ブテニル基、3-メチル-3-ブテニル基、1,1-ジメチル-2-プロペニル基、1-i-プロピルエテニル基、1,2-ジメチル-1-プロペニル基、1,2-ジメチル-2-プロペニル基、1-ヘキセニル基、2-ヘキセニル基、3-ヘキセニル基、4-ヘキセニル基、5-ヘキセニル基、1-メチル-1-ペンテニル基、1-メチル-2-ペンテニル基、1-メチル-3-ペンテニル基、1-メチル-4-ペンテニル基、1-n-ブチルエテニル基、2-メチル-1-ペンテニル基、2-メチル-2-ペンテニル基、2-メチル-3-ペンテニル基、2-メチル-4-ペンテニル基、2-n-プロピル-2-プロペニル基、3-メチル-1-ペンテニル基、3-メチル-2-ペンテニル基、3-メチル-3-ペンテニル基、3-メチル-4-ペンテニル基、3-エチル-3-ブテニル基、4-メチル-1-ペンテニル基、4-メチル-2-ペンテニル基、4-メチル-3-ペンテニル基、4-メチル-4-ペンテニル基、1,1-ジペンテニルメチル-2-ブテニル基、1,1-ジメチル-3-ブテニル基、1,2-ジメチル-1-ブテニル基、1,2-ジメチル-2-ブテニル基、1,2-ジメチル-3-ブテニル基、1-メチル-2-エチル-2-プロペニル基、1-s-ブチルエテニル基、1,3-ジメチル-1-ブテニル基、1,3-ジメチル-2-ブテニル基、1,3-ジメチル-3-ブテニル基、1-i-ブチルエテニル基、2,2-ジメチル-3-ブテニル基、2,3-ジメチル-1-ブテニル基、2,3-ジメチル-2-ブテニル基、2,3-ジメチル-3-ブテニル基、2-i-プロピル-2-プロペニル基、3,3-ジメチル-1-ブテニル基、1-エチル-1-ブテニル基、1-エチル-2-ブテニル基、1-エチル-3-ブテニル基、1-n-プロピル-1-プロペニル基、1-n-プロピル-2-プロペニル基、2-エチル-1-ブテニル基、2-エチル-2-ブテニル基、2-エチル-3-ブテニル基、1,1,2-トリメチル-2-プロペニル基、1-t-ブチルエテニル基、1-メチル-1-エチル-2-プロペニル基、1-エチル-2-メチル-1-プロペニル基、1-エチル-2-メチル-2-プロペニル基、1-i-プロピル-1-プロペニル基及び1-i-プロピル-2-プロペニル基等が挙げられる。特に、エテニル基、即ちビニル基、2-プロペニル基、即ちアリル基を好ましく用いることができる。
【0025】
上記炭素原子数1~10のアルキル基は、例えばメチル基、エチル基、n-プロピル基、i-プロピル基、n-ブチル基、i-ブチル基、s-ブチル基、t-ブチル基、n-ペンチル基、1-メチル-n-ブチル基、2-メチル-n-ブチル基、3-メチル-n-ブチル基、1,1-ジメチル-n-プロピル基、1,2-ジメチル-n-プロピル基、2,2-ジメチル-n-プロピル基、1-エチル-n-プロピル基、n-ヘキシル基、1-メチル-n-ペンチル基、2-メチル-n-ペンチル基、3-メチル-n-ペンチル基、4-メチル-n-ペンチル基、1,1-ジメチル-n-ブチル基、1,2-ジメチル-n-ブチル基、1,3-ジメチル-n-ブチル基、2,2-ジメチル-n-ブチル基、2,3-ジメチル-n-ブチル基、3,3-ジメチル-n-ブチル基、1-エチル-n-ブチル基、2-エチル-n-ブチル基、1,1,2-トリメチル-n-プロピル基、1,2,2-トリメチル-n-プロピル基、1-エチル-1-メチル-n-プロピル基及び1-エチル-2-メチル-n-プロピル基等が挙げられる。特にメチル基を好ましく用いることができる。
【0026】
ポリオルガノシロキサン(a1)は炭素原子数1~10のアルキル基と炭素原子数2~10のアルケニル基で構成され、炭素原子数1~10のアルキル基がメチル基であり、炭素原子数2~10のアルケニル基がエテニル基、即ちビニル基であって、アルケニル基がR乃至Rで表す全置換基中に0.1モル%~50.0モル%、好ましくは0.5モル%~30.0モル%とすることができ、残りのR乃至Rはアルキル基とすることができる。
また、ポリオルガノシロキサン(a2)は炭素原子数1~10のアルキル基と水素原子で構成され、炭素原子数1~10のアルキル基がメチル基であり、水素原子はSi-Hの構造を形成する。水素原子、即ちSi-H基がR乃至Rで表す全置換基中に0.1モル%~50.0モル%、好ましくは10.0モル%~40.0モル%とすることができ、残りのR乃至Rはアルキル基とすることができる。
【0027】
ポリオルガノシロキサン(a1)とポリオルガノシロキサン(a2)は、アルケニル基とSi-H基で示される水素原子がモル比で、2.0:1.0、好ましくは1.5:1.0の範囲に含有することができる。
【0028】
上記ポリオルガノシロキサン(a1)及びポリオルガノシロキサン(a2)は、それぞれ重量平均分子量が500~1000000、又は5000~50000の範囲で用いることができる。
【0029】
成分(A)は白金族金属系触媒(A2)を含有する。白金系の金属触媒はアルケニル基とSi-H基とのヒドロシリル化付加反応を促進するための触媒であり、白金黒、塩化第2白金、塩化白金酸、塩化白金酸と1価アルコールとの反応物、塩化白金酸とオレフィン類との錯体、白金ビスアセトアセテート等の白金系触媒が用いられる。白金とオレフィン類との錯体としては、例えばジビニルテトラメチルジシロキサンと白金との錯体が挙げられる。白金触媒の添加量はポリオルガノシロキサン(a1)及びポリオルガノシロキサン(a2)の合計量に対して1.0~50.0ppmの範囲で添加することができる。
【0030】
本発明は更にヒドロシリル化反応の進行を抑える重合禁止剤(抑制剤)(B)としてアルキニルアルコールを添加することができる。重合禁止剤はTg-DTAにおける5%質量減少温度が80℃以上であることが好ましい。これらの重合禁止剤は式(1)で示すことができる。式(1)中、R及びRは、いずれも炭素原子数6~40のアリール基であり、又は炭素原子数1~10のアルキル基と炭素原子数6~40のアリール基の組み合わせであり、RとRは互いに環を形成していても良い。
【0031】
重合禁止剤(B)はその他の重合禁止剤を含有していても良い。その他の重合禁止剤を含有する場合は、全重合禁止剤中で重合禁止剤(B)が25質量%以上含まれていることが好ましい。その他の重合禁止剤としては1-エチニルシクロヘキサノールが挙げられる。
【0032】
重合禁止剤(B)が、1-フェニル-2-プロピン-1-オール、2-フェニル-3-ブチン-2-オール、1,1-ジフェニル-2-プロピン-1-オール、及び9-エチニル-9-フルオレノールが挙げられる。
【化2】
【0033】
重合禁止剤(B)はポリオルガノシロキサン(a1)及びポリオルガノシロキサン(a2)に対して1000.0~10000.0ppmの範囲で添加することができる。
【0034】
本発明では溶媒(C)を添加することができる。脂肪族炭化水素、芳香族炭化水素、ケトンなどが使用できる。その溶剤は例えば、ヘキサン、へプタン、オクタン、ノナン、デカン、ウンデカン、ドデカン、イソドデカン、メンタン、リモネン、トルエン、キシレン、メチシレン、クメン、MIBK(メチルイソブチルケトン)、酢酸ブチル、ジイソブチルケトン、2-オクタノン、2-ノナノン、5-ノナノンなどが使用できる。これらの溶媒は粘度調整のために用いられ、使用量は仮接着剤中で1~40質量%の範囲で用いることができる。
【0035】
本発明は剥離成分(D)を含有することができる。剥離成分(D)はポリジメチルシロキサン、エポキシ基含有ポリジメチルシロキサン、フェニル基含有ポリジメチルシロキサン、又はそれらの混合物を挙げることができる。
【0036】
剥離成分(D)はR10SiO2/2(但しR及びR10はそれぞれSi-C結合によりケイ素原子に結合している。)で表されるシロキサン単位(D単位)を含み、R及びR10はそれぞれ炭素原子数1~10のアルキル基、エポキシ基含有有機基、又はフェニル基含有有機基である。
【0037】
アルキル基は、好ましくはメチル基を挙げることができる。エポキシ基は、好ましくは3-グリシドキシプロピルや、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルであり、エポキシ変性ポリジメチルシロキサンを挙げることができる。0.1~5のエポキシ価であるエポキシ変性ポリジメチルシロキサンとすることができる。
【0038】
また、フェニルメチルシロキサン単位構造又はジフェニルシロキサン単位構造と、ジメチルシロキサン単位構造との組み合わせを用いることができる。
【0039】
剥離成分(D)に用いられるポリオルガノシロキサンは、シロキサン単位(D単位)を含むが、Q単位、M単位、T単位を含んでいても良い。例えば、D単位のみからなる場合、D単位とQ単位の組み合わせの場合、D単位とM単位の組み合わせの場合、D単位とT単位の組み合わせの場合、D単位とQ単位とM単位の組み合わせの場合、D単位とM単位とT単位の組み合わせの場合、D単位とQ単位とM単位とT単位の組み合わせの場合等が挙げられる。
【0040】
剥離成分(D)の重量平均分子量は1500~500000、又は1500~100000の範囲が好ましい。
【0041】
本発明の接着剤は、接着剤中の成分(A)と成分(D)の割合は任意の割合で用いることができる。
【0042】
接着性においては、接着剤中の成分(A)と成分(D)の割合は任意の割合とすることが可能である。更に剥離性が良好であるためには、成分(D)が質量%で0.005以上含まれていることが望ましく、接着剤の力学物性を維持するために、成分(D)が質量%で70以下であることが望ましい。接着剤中の成分(A)と成分(D)の割合が質量%で99.995:0.005~30:70とすることができる。望ましくは、質量%で99.9:0.1~75:25にすることが好ましい。
【0043】
本発明では仮接着剤を用いて、支持体とウエハーの回路面との間で剥離可能に接着した仮接着剤層を含むウエハーの裏面を加工するための積層体である。この積層体は仮接着剤中に剥離成分(D)を含んでいても良い。
【0044】
前記のように、剥離成分(D)はポリジメチルシロキサン、エポキシ基含有ポリジメチルシロキサン、フェニル基含有ポリジメチルシロキサン、又はそれらの混合物を用いることができる。
【0045】
また本発明は、上記仮接着剤により形成された仮接着剤層と、ポリジメチルシロキサン、エポキシ基含有ポリジメチルシロキサン、フェニル基含有ポリジメチルシロキサン、又はそれらの混合物より形成された剥離剤層とからなる、支持体とウエハーの回路面との間で剥離可能に接着した仮接着剤層と剥離剤層とを含むウエハーの裏面を加工するための積層体である。
【0046】
また本発明は、第一基体上に上記仮接着剤を塗布し、加熱により溶媒を除去し仮接着剤層を形成し、その後、該仮接着剤層に第二基体を接合し、上記第一基体側から加熱する積層体の接合方法である。
【0047】
また本発明は、第一基体上に上記仮接着剤を塗布し、加熱により溶媒を除去し仮接着剤層を形成し、一方、第二基体上にポリジメチルシロキサン、エポキシ基含有ポリジメチルシロキサン、フェニル基含有ポリジメチルシロキサン、又はそれらの混合物を含む剥離剤を塗布し加熱により剥離剤層を形成した後、次いで、該仮接着剤層と該剥離剤層を対向するように第一基体と第二基体を接合し、第一基体側から加熱する積層体の接合方法である。
【0048】
本発明における接合方法は、第一基体が支持体であり、第二基体がウエハーであり、ウエハーの回路面が第一基体の表面と対向するものである方法と、第一基体がウエハーであり、第二基体が支持体であり、ウエハーの回路面が第二基体の表面と対向するものである方法が挙げられる。
【0049】
本発明における剥離方法は、第一基体上に上記仮接着剤を塗布し仮接着剤層を形成し、次いでこれに第二基体を接合し、続いて第一基体側から加熱し該仮接着剤層を硬化させて、積層体を完成し、その後に該積層体を加工し、そして基体と仮接着剤層の間で剥離せしめる剥離方法である。
【0050】
また、本発明における剥離方法は、第一基体上に上記仮接着剤を塗布し仮接着剤層を形成し、一方、第二基体上にポリジメチルシロキサン、エポキシ基含有ポリジメチルシロキサン、フェニル基含有ポリジメチルシロキサン、又はそれらの混合物を含む剥離剤を塗布し加熱により剥離剤層を形成した後、次いで、該仮接着剤層と該剥離剤層を対向するように第一基体と第二基体を接合し、第一基体側から加熱し該仮接着剤層と該剥離剤層を硬化させ、積層体を完成し、その後に該積層体を加工し、そして基体と仮接着剤層乃至剥離剤層の間で剥離せしめる剥離方法である。剥離方法において、加工が裏面研磨である。
【0051】
また、本発明における剥離方法は、第一基体が支持体であり、第二基体がウエハーであり、ウエハーの回路面が第一基体の表面と対向するものである剥離方法である。
【0052】
また、本発明における剥離方法は、第一基体がウエハーであり、第二基体が支持体であり、ウエハーの回路面が第二基体の表面と対向するものである剥離方法である。
【0053】
ウエハーとしては例えば直径300mm、厚さ770μm程度のシリコンウエハーが挙げられる。
【0054】
支持体(キャリア)としては例えば直径300mm、厚さ700mm程度のガラスウエハーやシリコンウエハーを挙げることができる。
【0055】
接着層の形成は接着剤を例えばスピンコーターにより支持体上に付着させ、接着層を形成し、支持体とウエハーの回路面の間で接着剤を挟むように貼り合わせ、120~260℃の温度で加熱して接着剤を硬化させ積層体を形成することができる。
【0056】
また、接着剤をスピンコーターによりウエハーの裏面を下にして回路面に接着剤を付着させ溶媒を加熱除去し接着層を形成し、支持体は接着剤を挟むように貼り合わせ、120~260℃の温度で加熱して接着剤を硬化させ積層体を形成することができる。加熱温度は80℃乃至110℃程度から接着剤の硬化が始まり、260℃以上の温度にすることも可能であるが、ウエハーの回路面(デバイス面)の耐熱性の観点から260℃以下が好ましく、例えば110℃~220℃程度、特に200℃程度とすることができる。加熱時間は、硬化によるウエハーの接合の観点から、1分間以上が望ましく、さらに接着剤の物性安定化の観点から5分間以上の加熱がさらに好ましい。例えば、1~180分間、又は5~120分間とすることができる。装置は、ホットプレート、オーブンなどが使用できる。
【0057】
接着層を挟むように形成する支持体とウエハーは、これら物体を減圧下(例えば、10Pa~10000Paの減圧状態)に合体させ積層体を形成させることができる。支持体とウエハーを合体させるときは減圧下に加熱(例えば、30℃~100℃)して行うこともできる。
【0058】
上記の接着剤を塗布する接着層の膜厚は5~500μm、又は10~200μm、又は20~150μm、又は30~120μm、又は30~70μmとすることができる。
【0059】
ウエハーの回路面の反対側の加工とは、研磨によるウエハーの薄化が挙げられる。その後、シリコン貫通電極(TSV)等の形成を行い、その後に支持体から薄化ウエハーを剥離してウエハーの積層体を形成し、3次元実装化される。また、それに前後してウエハー裏面電極等の形成も行われる。ウエハーの薄化とTSVプロセスには支持体に接着された状態で250~350℃の熱が付加されるが、本発明に用いられる仮接着剤としての積層体はそれらの耐熱性を有している。
【0060】
例えば直径300mm、厚さ770μm程度のウエハーは、回路面とは反対の裏面を研磨して、厚さ80μm~4μm程度まで薄化することができる。
【0061】
接着し、裏面の加工(研磨)を行った後に、支持体とウエハーを剥離する。剥離方法は溶剤剥離、レーザー剥離、鋭部を有する機材で機械的に剥離、支持体とウエハーの間で引きはがす剥離等が挙げられる。
【0062】
ウエハーの表面に樹脂が残存した場合、溶剤による洗浄(溶解、リフトオフ)、テープピーリングなどにより樹脂を除去することができる。
【0063】
本発明は上記方法で接合し、ウエハーの裏面を研磨後、上記方法で剥離する積層体の加工方法である。
【実施例
【0064】
(合成例1)
接着剤の成分(A)の調整
ポリシロキサン(a1)としてMw6900のビニル基含有のMQ樹脂からなるベースポリマー(ワッカーケミ社製)10.00g、ポリシロキサン(a1)として粘度1000mPa・sのビニル基含有直鎖状ポリジメチルシロキサン(ワッカーケミ社製)3.90g、ポリシロキサン(a2)として粘度70mPa・sのSiH基含有直鎖状ポリジメチルシロキサン(ワッカーケミ社製)1.168g、ポリシロキサン(a2)として粘度40mPa・sのSiH基含有直鎖状ポリジメチルシロキサン(ワッカーケミ社製)0.77g、アルキニルアルコール重合禁止剤(B)として1,1-ジフェニル-2-プロピン-1-オール(TCL社製)0.042g、溶媒(C)として5-ノナノン(TCL社製)3.90gを攪拌機(シンキー製、あわとり練太郎)で撹拌した。
別途、(A2)として白金触媒(ワッカーケミ社製)0.1gとポリシロキサン(a2)として粘度1000mPa・sのビニル基含有直鎖状ポリジメチルシロキサン(ワッカーケミ社製)5.0gを攪拌機(シンキー製、商品名あわとり練太郎)で5分間撹拌して得られた混合物0.850gを、上記混合物に添加し、さらに5分間撹拌し接着剤の成分(A)を得て(サンプル1)とした。
【0065】
(合成例2)
1,1-ジフェニル-2-プロピン-1-オールの代わりに、2-フェニル-3-ブチン-2-オール(ALDRICH社製)を用いた以外は、合成例1と同様に調整を行い、サンプル2とした。
【0066】
(合成例3)
1,1-ジフェニル-2-プロピン-1-オールの代わりに、1-エチニルシクロヘキサノール(ワッカーケミ社製)を用いた以外は、合成例1と同様に調整を行い、サンプル3とした。
【0067】
(合成例4)
ポリシロキサン(a1)としてMw6900のビニル基含有のMQ樹脂からなるベースポリマー(ワッカーケミ社製)60.80g、ポリシロキサン(a1)として粘度1000mPa・sのビニル基含有直鎖状ポリジメチルシロキサン(ワッカーケミ社製)15.20g、ポリシロキサン(a1)として粘度200mPa・sのビニル基含有直鎖状ポリジメチルシロキサン(ワッカーケミ社製)1.95g、ポリシロキサン(a2)として粘度70mPa・sのSiH基含有直鎖状ポリジメチルシロキサン(ワッカーケミ社製)5.21g、ポリシロキサン(a2)として粘度40mPa・sのSiH基含有直鎖状ポリジメチルシロキサン(ワッカーケミ社製)3.26g、アルキニルアルコール重合禁止剤(B)として1,1-ジフェニル-2-プロピン-1-オール(TCL社製)0.109g、1-エチニルシクロヘキサノール(ワッカーケミ社製)0.217g、溶媒(C)(C)としてウンデカン(WAKO社製)11.34gを攪拌機(シンキー製、あわとり練太郎)で撹拌した。
別途、(A2)として白金触媒(ワッカーケミ社製)1.0gとポリシロキサン(a2)として粘度1000mPa・sのビニル基含有直鎖状ポリジメチルシロキサン(ワッカーケミ社製)5.0gを攪拌機(シンキー製、あわとり練太郎)で5分間撹拌して得られた混合物0.521gを、上記混合物に添加し、さらに5分間撹拌し接着剤の成分(A)を得て(サンプル4)とした。
【0068】
(合成例5)
1,1-ジフェニル-2-プロピン-1-オール(TCL社製)0.109gの代わりに 9-エチニル-9-フルオレノール(TCL社製)0.043gを用いた以外は、合成例4と同様に調整を行い、サンプル5とした。
【0069】
(Tg-DTAの測定条件)
重合禁止剤の5%質量減温度は、TG-DTA200SR(BRUKER社製)を用いて、サンプル量約5mg、Air下10℃/minの昇温レートにより測定した。
〔表1〕
表1 重合禁止剤の5%質量減温度(℃)
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重合禁止剤 合禁止剤の5%質量減温度
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1-エチニルシクロヘキサノール 71℃
1-フェニル-2-プロピン-1-オール 90℃
2-フェニル-3-ブチン-2-オール 99℃
1,1-ジフェニル-2-プロピン-1-オール 170℃
9-エチニル-9-フルオレノール 186℃
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【0070】
(張り合わせ試験)
300mmのシリコンウエハー(厚さ:775μm)に、商品名SILRES604(ワッカー社製、成分はポリジメチルシロキサン)3.0gを、プロピレングリコールモノメチルエーテル67.9g及びプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート29.1gからなる混合溶媒に溶解し、0.1mmの膜厚でスピンコート後、200℃1分間で硬化し、剥離剤層を形成した。剥離剤層を形成した300mmのシリコンウエハーに、膜厚が50μm程度となるようにスピンコートにより、接着剤を成膜し、110℃1分間加熱し、溶媒を除去した。
この接着層を有するシリコンウエハーと、300mmガラスウエハーで接着剤を挟むようにXBS(ズースマイクロテック社製、貼り合せ装置)にて貼り合わせ、積層体を作製した。
その際、ボイドなく貼り合わせができたものを(〇)、貼り合わせができずボイドが発生したものを(×)として評価を行った。
〔表2〕
表2 貼り合わせ試験
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実施例 接着剤 評価
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実施例1 サンプル1 〇
実施例2 サンプル2 〇
実施例3 サンプル4 〇
実施例4 サンプル5 〇
比較例1 サンプル3 ×
―――――――――――――――――――――
【0071】
Tg-DTAにおける5%質量減少温度が80℃以上である重合禁止剤を含まない場合は、加熱による溶媒除去後粘度が増加し、貼り合わせが困難であった。
【0072】
本発明にかかわる接着剤は、永久または仮接合に使用される接着剤であり、その接着層を形成する接着剤はヒドロシリル化反応により硬化するポリオルガノシロキサン成分と、Tg-DTAにおける5%質量減少温度が80℃以上である重合禁止剤と溶媒を含むものである。溶媒を含むことにより、樹脂の塗布性を向上でき、Tg-DTAにおける5%質量減少温度が80℃以上である重合禁止剤を含むことにより、溶媒除去時の加熱による急激な粘度増加が起こらず、その後ボイドなく貼り合わせることが可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0073】
支持体(支持基板)とウエハーの間の仮接着剤層を形成する仮接着剤はヒドロシリル化反応により硬化するポリオルガノシロキサン成分(A)とTg-DTAにおける5%質量減少温度が80℃以上である重合禁止剤(B)と溶媒(C)とを含む。耐熱性の高い重合禁止剤を用いるため、仮接着剤の溶媒を揮発させるための加熱時に重合禁止剤の揮発が少ないため、仮接着剤の予定外の硬化が進行せず、支持体とウエハーの間にボイドの発生がなく仮接着が可能である。