(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-22
(45)【発行日】2024-01-30
(54)【発明の名称】サケ目魚類の筋肉の融解を防ぐ方法
(51)【国際特許分類】
A61K 31/4184 20060101AFI20240123BHJP
A61P 33/00 20060101ALI20240123BHJP
A61P 21/00 20060101ALI20240123BHJP
【FI】
A61K31/4184 ZNA
A61P33/00 171
A61P21/00
(21)【出願番号】P 2020541318
(86)(22)【出願日】2019-09-06
(86)【国際出願番号】 JP2019035189
(87)【国際公開番号】W WO2020050403
(87)【国際公開日】2020-03-12
【審査請求日】2022-09-06
(31)【優先権主張番号】P 2018166892
(32)【優先日】2018-09-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004189
【氏名又は名称】株式会社ニッスイ
(73)【特許権者】
【識別番号】591047970
【氏名又は名称】共立製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100196508
【氏名又は名称】松尾 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100122644
【氏名又は名称】寺地 拓己
(72)【発明者】
【氏名】平澤 徳高
(72)【発明者】
【氏名】秋山 孝介
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼野 良子
(72)【発明者】
【氏名】局 詩織
(72)【発明者】
【氏名】内山 藍
【審査官】辰己 雅夫
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-186306(JP,A)
【文献】国際公開第2018/062246(WO,A1)
【文献】LOM, J. et al.,Redescription of Microsporidium takedai (Awakura, 1974) as Kabatana takedai (Awakura, 1974) comb. n.,Diseases of aquatic organisms,2001年,Vol.44, No.3,pp.223-230
【文献】SCHMAHL, G. et al.,Treatment of fish parasites. 11. Effects of different benzimidazole derivatives (albendazole, mebend,Parasitology research,1998年,Vol.84, No.1,pp.41-49
【文献】高橋 誓ほか,アユのグルギア症に関する研究-IV. 胞子の注射による人為感染,魚病研究,1978年,Vol.12, No.4,p.255-259
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K31/00-33/44
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ベンゾイミダゾール系化合物を有効成分として含有する微胞子虫の駆除剤を投与することを特徴とする、サケ目魚類に発生する微胞子虫による筋肉の融解を防ぐ方法
であって、ベンゾイミダゾール系化合物がアルベンダゾール、フェバンテル、フェンベンダゾール、オクスフェンダゾール、およびリコベンダゾールから選択される1種又は2種以上の化合物である、前記方法。
【請求項2】
養殖魚であるサケ目魚類に対して微胞子虫の駆除剤を5日以上連続して投与する投与期間を設けることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
養殖魚であるサケ目魚類に対して、20~60日間のサイクルで、微胞子虫の駆除剤の投与期間と休薬期間を設けることを特徴とする請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
養殖魚であるサケ目魚類に対して、積算水温で260~780℃のサイクルで、微胞子虫の駆除剤の投与期間と休薬期間を設けることを特徴とする請求項1又は2に記載の方法。
【請求項5】
ベンゾイミダゾール系化合物を有効成分として含有する、
筋肉の融解の防止において使用するための、サケ目
サケ科魚類の筋肉に寄生した微胞子虫の駆除剤
であって、ベンゾイミダゾール系化合物がアルベンダゾール、フェバンテル、フェンベンダゾール、オクスフェンダゾール、およびリコベンダゾールから選択される1種又は2種以上の化合物である、前記駆虫剤。
【請求項6】
ベンゾイミダゾール系化合物がアルベンダゾール、フェバンテル、フェンベンダゾール、およびオクスフェンダゾール
から選択される1種又は2種以上の化合物である請求項5に記載の駆除剤。
【請求項7】
サケ科魚類が、サケ属、タイセイヨウサケ属、イワナ属及びイトウ属のいずれかに属する魚類で
ある請求項5または6に記載の駆除剤。
【請求項8】
ベンゾイミダゾール系化合物が、1~25mg/kg魚体重/日の投与量で投与される
請求項5~7のいずれかに記載の駆除剤。
【請求項9】
投与期間が5日以上である
請求項5~8のいずれかに記載の駆除剤。
【請求項10】
養殖魚である
サケ目サケ科魚類に対して、20~60日間のサイクルで、投与期間と休薬期間を設けることを特徴とする
請求項5~9のいずれかに記載の駆除剤。
【請求項11】
養殖魚である
サケ目サケ科魚類に対して、積算水温で260~780℃のサイクルで、微胞子虫の駆除剤の投与期間と休薬期間を設けることを特徴とする請求項5~9のいずれかに記載の
駆除剤。
【請求項12】
1サイクルあたりの駆除剤の投与量が総量として、5~50mg/kg魚体重である
請求項10又は11に記載の駆除剤。
【請求項13】
単回投与される、
請求項5~8のいずれかに記載の駆除剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、サケ目魚類に発生する筋肉の融解を防ぐ方法に関する。さらに、サケ目魚類の筋肉に寄生する微胞子虫を経口投与により駆除する薬剤及び駆除方法に関する。
【背景技術】
【0002】
日本の多くの県でご当地サーモンと称したサケ科魚類の海面養殖がここ数年で盛んに行われるようになってきた。日本で養殖されるサケ科魚類の多くは刺身としても提供されている。
【0003】
ベンゾイミダゾール系化合物は、抗寄生虫薬として知られており、日本では、メベンダゾールが蟯虫症治療薬として、アルベンダゾールが包虫症治療薬として、フルベンダゾールが円虫目、回虫目線虫用の動物用医薬品として、フェバンテル、フェンベンダゾールが線虫や条虫に対する動物用医薬品として認可されている。水産用では、フェバンテルがフグ用に認可されている。
【0004】
ニジマスの鰓に寄生する微胞子虫であるLoma salmonaeに対するアルベンダゾールの効果を試験した報告がある(非特許文献1)。イトヨ(トゲウオ目トゲウオ科)に寄生する微胞子虫であるGlugea anomalaに対するアルベンダゾール、メベンダゾール、およびフェンベンダゾールの効果を試験した報告がある(非特許文献2)。スズキ目又はカレイ目の魚介類に寄生する微胞子虫にベンゾイミダゾール系薬剤が有効であるという報告がある(特許文献1、2)。また、べこ病および粘液胞子虫症の治療のためにアルベンダゾールまたはフェンバンテルなどを使用することについての報告もされている(特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2017-186306号公報
【文献】WO 2018/062246 A1
【文献】WO 2018/062246 A1
【非特許文献】
【0006】
【文献】D.J. Speare, et al., J.Comp. Path. 121, 241-248, 1999. “A Preliminary Investigation of Alternatives to Fumagillin for the Treatment of Loma salmonae Infection in Rainbow Trout”.
【文献】Schmahl G., Benini J., Parasitol Res., 84(1), 41-49, 1998. “Treatment of fish parasites. 11. Effects of different benzimidazole derivatives (albendazole, mebendazole, fenbendazole) on Glugea anomala, Monies, 1887 (Microsporidia): ltrastructural aspects and efficacy studies.”.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
刺身に用いられる魚の筋肉に融解が生じると、その部分は刺身として用いることができず、その商品価値を大きく損なう。また、融解による筋肉の陥没は焼き魚としても外観が悪く商品価値を下げる。サケ目魚類の筋肉に生じる融解の原因を特定し、解決する方法を提供することを本発明の課題とする。さらにサケ目魚類の筋肉に生じる融解を防止し、サケ目魚類の筋肉の外観を改善する方法を提供することもまた本発明の課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、サケの皮の下の筋肉に融解症状がみられることに気づいた。目視でも見つかるその融解症状による窪みは小さいものでは直径が約2~3mm、大きくなると約15mmまたはそれ以上になり、出血を伴った窪みとなる。皮の上からでは、注意深く観察しなければ見つからない。小さいものは、皮の上から見つけることは難しいが、大きくなると皮の上からみてもスポット状に浮き出て見える。それらサケの筋肉に認められる筋肉の融解の原因を特定するため、検査したところ、融解箇所から無数の微胞子虫胞子(
図4)が観察された。また、シストも観察され(
図1および
図3)、シスト内に微胞子虫胞子が観察された。これらの結果から、本症は、筋肉に寄生した微胞子虫が原因であると考えられた。海面養殖サケで微胞子虫による筋肉の融解はこれまで報告はなく、新たな発見である。
【0009】
サケ目魚類の筋肉に寄生するタイプの微胞子虫の駆除に有効な経口投与薬剤を求めて、既存の動物用各種抗寄生虫薬や天然物由来物質等を探索した。その結果、動物用抗寄生虫薬として販売されているアルベンダゾールがサケの食欲を低下させることなく経口投与でき且つ駆虫効果が認められることを見出し、本発明を完成させた。
【0010】
本願発明は、下記の(A1)~(A11)のサケ目魚類に発生する微胞子虫による筋肉の融解を防ぐ方法、(B1)~(B12)のサケ目魚類の筋肉に寄生した微胞子虫の駆除剤を包含する。
(A1)ベンゾイミダゾール系化合物を有効成分として含有する微胞子虫の駆除剤を投与することを特徴とする、サケ目魚類に発生する微胞子虫による筋肉の融解を防ぐ方法。
(A2)微胞子虫が感染する環境にある魚に対して微胞子虫の駆除剤を5日以上連続して投与する投与期間を設けることを特徴とする(A1)に記載の方法。
(A3)養殖魚であるサケ目魚類に対して、20~60日間のサイクルで、微胞子虫の駆除剤の投与期間と休薬期間を設けることを特徴とする(A1)又は(A2)に記載の方法。
(A4)養殖魚であるサケ目魚類に対して、積算水温で260~780℃のサイクルで、微胞子虫の駆除剤の投与期間と休薬期間を設けることを特徴とする(A1)又は(A2)に記載の方法。
(A5)ベンゾイミダゾール系化合物がアルベンダゾール、フェバンテル、フェンベンダゾール、オクスフェンダゾール、メベンダゾール、フルベンダゾール、オキシベンダゾール、トリクラベンダゾール、リコベンダゾール及びチアベンダゾールから選択される1種又は2種以上の化合物である、(A1)~(A4)のいずれかに記載の方法。
(A6)サケ目魚類がサケ科魚類又はキュウリウオ科の魚類である、(A1)~(A5)のいずれかに記載の方法。
(A7)サケ科魚類が、サケ属、タイセイヨウサケ属、イワナ属及びイトウ属のいずれかに属する魚類であり、キュウリウオ科の魚類が、ワカサギ属、アユ属に属する魚類である、(A6)に記載の方法。
(A8)ベンゾイミダゾール系化合物が経口投与される、(A1)~(A7)のいずれかに記載の方法。
(A9)ベンゾイミダゾール系化合物が、1~25mg/kg/日の投与量で投与される、(A1)~(A8)のいずれかに記載の方法。
(A10)1サイクルあたりの駆除剤の投与量が総量として、5~50mg/kgである(A3)~(A9)のいずれかに記載の方法。
(A11)駆除剤が単回投与される、(A1)に記載の方法。
【0011】
(B1)ベンゾイミダゾール系化合物を有効成分として含有する、サケ目魚類の筋肉に寄生した微胞子虫の駆除剤。
(B2)ベンゾイミダゾール系化合物がアルベンダゾール、フェバンテル、フェンベンダゾール、オクスフェンダゾール、メベンダゾール、フルベンダゾール、オキシベンダゾール、トリクラベンダゾール、リコベンダゾール及びチアベンダゾールから選択される1種又は2種以上の化合物である(B1)に記載の駆除剤。
(B3)サケ目魚類がサケ科魚類又はキュウリウオ科の魚類である(B1)又は(B2)に記載の駆除剤。
(B4)サケ科魚類が、サケ属、タイセイヨウサケ属、イワナ属及びイトウ属のいずれかに属する魚類であり、キュウリウオ科の魚類が、ワカサギ属、アユ属に属する魚類である(B3)に記載の駆除剤。
(B5)経口投与により使用されるための、(B1)~(B4)のいずれかに記載の方法。
(B6)ベンゾイミダゾール系化合物の1~25mg/kg/日の量での投与において使用するための、(B1)~(B5)のいずれかに記載の駆除剤。
(B7)投与期間が5日以上である(B1)~(B6)のいずれかに記載の駆除剤。
(B8)養殖魚であるサケ目魚類に対して、20~60日間のサイクルで、投与期間と休薬期間を設けることを特徴とする(B1)~(B7)のいずれかに記載の駆除剤。
(B9)養殖魚であるサケ目魚類に対して、積算水温で260~780℃のサイクルで、微胞子虫の駆除剤の投与期間と休薬期間を設けることを特徴とする(B1)~(B7)のいずれかに記載の駆除剤。
(B10)1サイクルあたりの駆除剤の投与量が総量として、5~50mg/kgである(B8)~(B9)のいずれかに記載の駆除剤。
(B11)単回投与される、(B1)~(B6)のいずれかに記載の駆除剤。
(B12)(B1)~(B11)に記載の駆除剤をサケ目魚類に投与する工程を含む、微胞子虫の駆除方法。
【0012】
さらに本願発明は以下の(C1)~(C11)に記載される発明を包含する。
(C1)ベンゾイミダゾール系化合物を有効成分として含有する微胞子虫の駆除剤を投与することを特徴とする、サケ目魚類の筋肉に発生する微胞子虫による筋肉の融解を防ぐ方法。
(C2)微胞子虫が感染する環境にある魚に対して微胞子虫の駆除剤を5日以上連続して投与する投与期間を設けることを特徴とする(C1)の方法。
(C3)微胞子虫が感染する環境にある魚に対して、20~60日間のサイクルで、微胞子虫の駆除剤の投与期間と休薬期間を設けることを特徴とする(C1)又は(C2)の方法。
(C4)ベンゾイミダゾール系化合物を有効成分として含有する、サケ目魚類の筋肉に寄生した微胞子虫の駆除剤。
(C5)ベンゾイミダゾール系化合物がアルベンダゾール、フェバンテル、フェンベンダゾール、オクスフェンダゾール、メベンダゾール、フルベンダゾール、オキシベンダゾール、トリクラベンダゾール、リコベンダゾール及びチアベンダゾールから選択される1種又は2種以上の化合物である(C4)の駆除剤。
(C6)サケ目魚類がサケ科魚類又はキュウリウオ科の魚類である(C4)又は(C5)の駆除剤。
(C7)サケ科魚類が、サケ属、タイセイヨウサケ属、イワナ属及びイトウ属のいずれかに属する魚類であり、キュウリウオ科の魚類が、ワカサギ属、アユ属に属する魚類である(C6)の駆除剤。
(C8)ベンゾイミダゾール系化合物が、1~25mg/kg/日の投与量で投与される(C4)~(C7)のいずれかに記載の駆除剤。
(C9)投与期間が5日以上である(C4)~(C8)のいずれかに記載の駆除剤。
(C10)微胞子虫が感染する環境にある魚に対して、20~60日間のサイクルで、投与期間と休薬期間を設けることを特徴とする(C4)~(C9)のいずれかに記載の駆除剤。
(C11)1サイクルあたりの駆除剤の投与量が総量として、5~50mg/kgである(C10)に記載の駆除剤。
【発明の効果】
【0013】
本発明により、サケ目魚類の筋肉に寄生する微胞子虫を経口投与で駆除することができる。それにより、サケ目魚類に見られる筋肉の融解も抑制することができる。さらに本発明により、サケ目魚類の筋肉に生じる融解を防止し、サケ目魚類の筋肉の外観を改善する方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】ギンザケのフィーレの全体を示す写真である。
【
図2】
図1の(1)の部分を拡大した写真で矢印は筋肉の融解を示す。
【
図3】
図1の(2)の部分を拡大した写真で矢印はシストを示す。
【
図4】
図1の(1)、(2)から共通して観察された微胞子虫胞子の写真である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明は、サケ目魚類の筋肉に認められる融解症状の原因を微胞子虫によるものであることを解明し、その微胞子虫を駆除するために経口投与で効果がある薬剤を見出したものである。
【0016】
本発明の対象となる魚類は、生物分類学上サケ目魚類に分類される魚類である。本明細書中で特に指定が無ければ「サケ目魚類」との語は、場合によってはサケ亜目魚類に分類されうる魚類(キュウリウオ科など)も含む魚類を意味する。「サケ目魚類」が狭い意味に解される場合には、本発明の対象となる魚類は「サケ目魚類」または「サケ亜目魚類」である。例えば、本発明の対象となる魚類はサケ目サケ科又はキュウリウオ科に属する魚類である。
【0017】
サケ科に属する魚種としては、サケ属に属するカラフトマス(Oncorhynchus gorbuscha)、シロザケ(Oncorhynchus keta)、ベニザケ(Oncorhynchus nerka)、サクラマス(ヤマメ)(Oncorhynchus masou)、サツキマス(Oncorhynchus masou ishikawae)、ビワマス(Oncorhynchus masou rhodurus)、ギンザケ(Oncorhynchus kisutch)、マスノスケ(Oncorhynchus tshawytscha)、スチールヘッド、ニジマス(Oncorhynchus mykiss)、タイセイヨウサケ属に属するブラウントラウト(Salmo trutta)、タイセイヨウサケ(Salmo salar)、イワナ属に属するイワナ(Salvelinus Richardson)、イトウ属に属するイトウ(Parahucho perryi)が例示される。
【0018】
キュウリウオ科に属する魚種としては、ワカサギ属に属するチカ(Hypomesus japonicus)、ワカサギ(Hypomesus nipponensis)、アユ属に属するアユ(Plecoglossus altivelis)が例示される。
好ましい態様において、本発明の寄生虫駆除剤は、これらの魚類の養殖魚に用いられる。
【0019】
本発明の寄生虫駆除剤の有効成分は、ベンゾイミダゾール系化合物に分類される薬剤である。ベンゾイミダゾール系化合物とは、ベンゾイミダゾールを基本骨格として有する薬剤であって、寄生虫駆除剤や殺菌剤として知られている薬剤である。アルベンダゾール(Albendazole;methyl N-(5-propylsulfanyl-1H-benzimidazol-2-yl)carbamate)、フェバンテル(Febantel;methyl (NE)-N-[[2-[(2-methoxyacetyl)amino]-4-phenylsulfanylanilino]-(methoxycarbonylamino)methylidene]carbamate)、フェンベンダゾール(Fenbendazole;methyl N-(5-phenylsulfanyl-1H-benzimidazol-2-yl)carbamate)、オクスフェンダゾール(Oxfendazole;methyl N-[5-(benzenesulfinyl)-1H-benzimidazol-2-yl]carbamate)、メベンダゾール(Mebendazole;methyl [5-(Benzoyl)benzimidazol-2-yl]carbamate)、フルベンダゾール(Flubendazole;methyl N-[5-(4-fluorobenzoyl)-1H-benzimidazol-2-yl]carbamate)、オキシベンダゾール、トリクラベンダゾール、リコベンダゾール、又はチアベンダゾールなどが挙げられる。フェバンテルはプロドラッグであることが知られており、その活性成分は、フェンベンダゾール及びオクスフェンダゾールである。
【0020】
好ましい態様において、本発明の寄生虫駆除剤は、アルベンダゾールを有効成分とする。
【0021】
本発明の駆除剤の対象となる微胞子虫は、サケ目魚類の筋肉に寄生して、筋肉の融解を引き起こす微胞子虫である。
図1はギンザケの切り身(フィーレ)の写真であり、(1)に示す箇所には筋肉の融解が生じている。
図2は(1)に示す筋肉の融解箇所の拡大写真である。
図1の(2)に示す箇所には微胞子虫のシストが確認されている。
図3はその拡大写真であり、矢印の箇所にシストが存在する。(1)および(2)からは共通して微胞子虫胞子が検出されており、
図4はその拡大写真である。
図4の写真において、極胞、極管、後部液胞が確認できる。サケ目魚類の筋肉に寄生して筋肉の融解を引き起こすことは、これまでに知られている微胞子虫と明確に異なる特徴と解される。本発明の一つの態様において、原因寄生虫は、サケ目魚類の筋肉に寄生して筋肉の融解を引き起こす微胞子虫である。
【0022】
一つの態様において、原因寄生虫はDNAの塩基配列、リボソームDNA領域の塩基配列、またはSSU リボソームDNA領域の塩基配列を解析することにより特定することができる。原因寄生虫となる微胞子虫は、配列番号1~8のいずれか一つの塩基配列に対応する塩基配列を比較した場合、例えば、92%以上、93%以上、94%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上、または99%以上の類似性(相同性、同一性)を有する。該比較は、例えば、200bp以上、300bp以上、400bp以上、500bp以上、600bp以上、700bp以上、800bp以上、または900bp以上の塩基配列に関して行うことができる。塩基配列の比較には、公知のツール(例えば、Clustal W (https://clustalw.ddbj.nig.ac.jp/)など)を用いることができる。
【0023】
本発明の寄生虫駆除剤は経口投与で効果を発現することができる。また、薬剤を溶解した液に魚を漬ける薬浴による投与や注射による投与も可能である。
本発明に寄生虫駆除剤の用法用量は何ら限定されるものではない。実施例に示すように、投与量が多いと摂餌活性が低下するが、単回投与や短期間の投与であれば、生存に影響するものではない。寄生虫の感染状態によっては、多い量を単回投与、あるいは短期間投与することにより寄生虫を抑えることが望ましい。その後、感染状態を観察しながら、低用量を一定期間継続し、休薬するという方法がある。また、感染状態が軽度であれば、最初から低用量を一定期間継続し、休薬するということもできる。寄生虫の感染状態を把握し、獣医師の判断により適宜、用法用量を変更しながら投与するのが好ましい。この場合、高用量としては、効果と副作用の点から5~25mg/kg/日、低用量としては、1~5mg/kg/日とするのが好ましい。
【0024】
一方で、生け簀での飼育においては常に微胞子虫の感染のリスクがあること、また微胞子虫感染の症状が初期には発見しにくいことなどから、治療効果と予防効果を期待して、わずかでも感染が認められた場合、一定用量の投与期間と休薬期間を交互に繰り返す方法が、実用的である。この場合、1回の投与期間と休薬期間を1サイクルとする。1サイクルは、20~60日間、30~60日間、あるいは30~45日間とすることができる。1サイクル中の投与期間を5~20日間、休薬期間を15~40日間とすることができる。例えば、1サイクルを4週間として、1週間投薬、3週間の休薬とする。あるいは、1サイクルを6週間として、2週間投薬、4週間の休薬とするというように設定することができる。これらを、魚を生け簀に移した後、出荷するまで繰り返す。同じサイクルを繰り返しても、サイクルごとに投与期間、休薬期間を変更してもよい。好ましい投与量は1~5mg/kg/日である。例えば、1mg/kg/日を2週間投与後、4週間休薬するというように設計できる。寄生虫は低水温では発生・成長しにくく、高水温では発生・成長しやすい傾向がある。水温に応じて、用法用量を調節することも有効である。いずれの場合も、1サイクルの投与量の合計は5~50mg/kgとすることができる。
【0025】
本発明の実施における1回の投与期間と休薬期間を含む1サイクルを、積算水温により特定することもできる。積算水温は、1日の平均水温を毎日加算した値となる。1サイクルは、例えば、260~780℃、390~780℃、あるいは390~585℃とすることができる。1サイクル中の投与期間を65~260℃、休薬期間を195~520℃とすることができる。例えば、1サイクルを364℃として、91℃投薬、273℃の休薬とする。あるいは、1サイクルを546℃として、182℃投薬、364℃の休薬とするというように設定することができる。これらを、魚を生け簀に移した後、出荷するまで繰り返す。同じサイクルを繰り返しても、サイクルごとに投与期間、休薬期間を変更してもよい。一例において、積算温度13℃当たり好ましい投与量は1~5mg/kgである。例えば、1mg/kg/日を積算温度182℃の期間に投与後、積算温度364℃の期間休薬するというように設計できる。寄生虫は低水温では発生・成長しにくく、高水温では発生・成長しやすい傾向がある。水温に応じて、用法用量を調節することも有効である。いずれの場合も、1サイクルの投与量の合計は5~50mg/kgとすることができる。
【0026】
サケやアユなどの養殖では、多くの場合、感染リスクのある生け簀等で飼育される期間は、3か月から半年程度である。飼育期間が短い場合は1サイクルの投与で終了する場合もある。半年の養殖期間では3~6サイクルの投与を行うことになる。
【0027】
上記のとおり、本発明の寄生虫駆除剤の投与期間に、特に制限はない。例えば、投与期間は1~20日間、3~20日間、5~14日間から適宜選択することができる。
【0028】
本発明の寄生虫駆除剤の投与は、寄生虫駆除剤を投与しない期間である休薬期間を設けてもよい。実施例2に示すように、生け簀で42日間飼育することにより微胞子虫に感染させた魚を陸上施設に搬入後、21日目に最初の投与を行う方法でも、微胞子虫症を大幅に抑制することができた。感染のリスクがある生け簀にて飼育する場合でも、全期間投与する必要はない。実施例2に示すように最初に1日間の単回投与をし、17日間の休薬期間を経て、14日間連続して投与する等、魚類の健康状態や寄生虫の発生状況に応じて適宜投与期間を設定することができる。
【0029】
また本発明の寄生虫駆除剤の投与期間は、積算水温に基づいて適宜決定することもでき、特に制限はない。例えば、投与期間は13~260℃の期間、39~260℃の期間、65~182℃の期間から適宜選択することができる。
【0030】
本発明の寄生虫駆除剤の投与量は、例えば、いずれの魚においても1日当たり魚体重1kgに対してベンゾイミダゾール系化合物が1mg~25mgの投与量(以下「1~25mg/kg/日」として記載する。)であり、好ましくは1~10mg/kg/日、1~8mg/kg/日又は1~5mg/kg/日の範囲で経口投与する。本発明の一つの態様において、ベンズイミダゾール系化合物は上記の日薬量を1回のみ投与することができる。
【0031】
本発明の寄生虫駆除剤は、詳細な作用機序については明らかとなっていないが、効果が一定期間にわたって持続される。寄生虫駆除剤の投与量は、一日当たりの投与量ではなく、1サイクルに投与される総量で調整することもできる。全投与期間の総量は、例えば5~50mg/kg、10~25mg/kgとすることができる。1サイクルにおいて投与する頻度は1サイクルあたりの投与量が確保されていれば特に限定されず、例えば1日に1回であり、1日に2回、3回、またはそれ以上か、2日に1回、3日に1回、4日に1回、または5日以上で1回であってもよい。1サイクルとして投与量が確保されていればよく、給餌の頻度は1サイクル中で変更してもよい。
【0032】
本発明の治療剤又は寄生虫駆除剤は、有効成分である前記化合物を単独で用いる他、必要に応じて他の物質、例えば担体、安定剤、溶媒、賦形剤、希釈剤などの補助的成分と組み合わせて用いることができる。また、形態も粉末、顆粒、錠剤、カプセルなど、通常これらの化合物に使用されている形態のいずれでもよい。化合物の味や臭いに敏感な魚の場合は、コーティングなどの方法により、飼料の嗜好性の低下を防止し、化合物が漏出しにくくすることができる。
【0033】
魚類の場合、経口投与の薬剤は飼料に添加して用いるのが通常である。本発明の治療剤又は寄生虫駆除剤を飼料に添加する場合、それぞれの魚種用に必要とする栄養成分や物性が考慮された飼料を用いるのが好ましい。飼料としては、通常、魚粉、糟糠類、でんぷん、ミネラル、ビタミン、魚油などを混合してペレット状にしたもの、もしくは、イワシなどの冷凍魚と魚粉にビタミンなどを添加した粉末飼料(マッシュ)とを混合してペレット状にしたものなどが使用されている。魚の種類、サイズによって、1日の摂餌量はほぼ決まっているので、上記の用法用量となるよう換算した量の本発明の治療剤又は寄生虫駆除剤を飼料に添加する。本発明の治療剤又は寄生虫駆除剤は1日量を1回で投与しても、数回に分けて投与してもかまわない。本発明の治療剤は、魚の飼料に添加して用いるため、魚が1日当たりに摂取する飼料に適切な濃度を添加するのに適した製剤とするのが好ましい。具体的には、製剤中に有効成分としてベンゾイミダゾール系化合物が1~50重量%、好ましくは5~30重量%、さらに好ましくは10~20重量%含有するように製剤化して用いるのが好ましい。
【0034】
本発明の一つの態様において、微胞子虫による筋肉融解の防除において使用される、サケ目魚類用の飼料であって、乾燥重量でベンゾイミダゾール系化合物を0.0001~5重量%、好ましくは0.0005~2.5重量%、さらに好ましくは0.001~0.5重量%含有する前記飼料が提供される。
【0035】
「微胞子虫が感染する環境」とは、魚類が微胞子虫に感染しうる環境であれば特に限定されず、例えば生簀などを用いて魚類が微胞子虫が存在しうる外界に曝されている状況、または海面生簀を用いて魚類を養殖する環境を含む。また、閉鎖系環境であっても魚類の飼育環境において微胞子虫が感染しうる状況があれば、当該環境も「微胞子虫が感染する環境」に含まれる。
【0036】
実施例に示したように、ギンザケは淡水から海面生簀に移し、当該生簀で42日間飼育することにより微胞子虫に感染した。感染したギンザケを陸上に戻してから21日後に薬剤の投与を開始し、高い駆虫効果を得ることができた。実際の養殖現場では、海面に沖出してから20~60日後もしくは30~60日後、または積算水温で260~780℃もしくは390~780℃の期間経過後に最初の薬剤を投与する。海面生簀では微胞子虫の感染が続くため、薬剤投与終了から20~60日後もしくは30~60日後、または積算水温で260~780℃もしくは390~780℃の期間経過後に2回目の薬剤を投与するのが好ましい。したがって、本発明の駆除剤は、魚を微胞子虫が感染する環境に置く場合に20~60日もしくは30~60日毎、または積算水温で260~780℃もしくは390~780℃の期間毎に、投与期間を設け、それを繰り返すことにより、微胞子虫を駆虫し、発症を防ぐことができる。
【0037】
微胞子虫感染は、死亡原因にならず、成長に影響を与えるほどでもないため、発見が遅れることにつながる。出荷段階になって、皮膚に融解をみつけたのでは、商品価値の低下が免れない。微胞子虫により生じる筋肉の融解は、表皮の直下に観察される頻度が高く、その表皮の色は周辺より白っぽく見える。本発明の一つの態様において、魚の状態を観察し、そのような外観を呈する魚が観察された際は直ちに薬剤投与を実施する。
【0038】
以下に本発明の実施例を記載するが、本発明はこれらに何ら限定されるものではない。
【実施例1】
【0039】
<アルベンダゾール投与の魚の摂餌性に及ぼす影響>
海産トラウト(海産ニジマス)、ブリ、およびトラフグを水槽に収容した。水槽の規模は海産トラウトを500リットル、ブリおよびトラフグを200リットルとした。砂ろ過・紫外線殺菌海水を2.4リットル/分の条件で各水槽に注水した。アルベンダゾール投与の前日に魚体重を測定した。馴致後に各魚種および各区ともに5日間連続で試験飼料を給餌した。アルベンダゾールの投与は1日1回とした。アルベンダゾール添加飼料の調製は、ポリエチレン袋に所定量の市販飼料(商品名:おとひめ、製造元:日清丸紅飼料)およびアルベンダゾール(東京化成工業社製)を入れ、そこに2倍希釈した展着剤(低糖化還元水飴、商品名:エスイー30、製造元:物産フードサイエンス株式会社)を飼料重量の4%量加え撹拌することで行った。対照区の飼料の調製は、希釈したエスイー30のみを飼料重量の4%量加え撹拌することで行った。給餌量は、海産トラウトでは魚体重の1重量%、ブリでは2重量%、トラフグでは1.5重量%と設定した。アルベンダゾールの摂餌に及ぼす影響評価は、摂餌状況を観察することで行った。水温、試験開始時の供試魚体重、供試尾数、アルベンダゾール投与量および結果を表1に示した。
【0040】
ブリやトラフグでは、1日当たりアルベンダゾール40mg/kg魚体重を5日間投与することは摂餌性へ影響を及ぼさなかった。ブリにおいては1日当たり200mg/kg魚体重を5日間投与しても摂餌性に影響を受けなかったが、トラフグでは1日当たり80mg/kg魚体重の5日間投与で摂餌性に影響を受けた。一方、海産トラウトは1日当たり10mg/kg魚体重を5日間投与という非常に少ない投与量で摂餌性に影響を受けた。これらの結果からアルベンダゾール投与の摂餌に及ぼす影響は、魚種によって異なることが判明した。特に、海産トラウトは、他魚種と比べ、1日当たりアルベンダゾール10mg/kg魚体重という少ない投与量でも摂餌に影響を受けた。サケ目魚類では、ベンゾイミダゾール系化合物に対する忍容性が低いことが確認された。
【0041】
【実施例2】
【0042】
<アルベンダゾールのギンザケの摂餌に及ぼす影響および微胞子症に対する駆虫効果>
ギンザケ稚魚を漁場の生簀に導入し、42日間飼育した。この海面生簀飼育によりギンザケ稚魚を微胞子虫に自然感染させた。陸上施設に搬入したギンザケを3群に分け、各群を別々の2t水槽に収容した。この時の平均魚体重は466gであった。試験区と供試尾数を表2に示す。水槽への注水は実施例1と同じ条件で行った。搬入後の飼育期間は99日とした。試験期間中の水温は、10.9~14.9℃で平均13.2℃であった。また、試験開始時の微胞子虫症発症状況を把握するために、10尾を剖検して体側筋のシスト数および筋肉の融解の有無を観察した。
【0043】
飼育試験終了時に、全試験区から全魚を取り上げ、剖検により体側筋のシストを計数し、シストが観察された魚を発症魚とした。観察されたシストは、縦横の長さを測定して面積を算出した。評価は、対照区とアルベンダゾール経口投与区の発症率(発症魚尾数/供試尾数×100)、発症魚のシスト数およびシスト面積を比較することで行った。
【0044】
【0045】
結果と考察
アルベンダゾール投与区は、単回投与翌日に摂餌が不活発となり所定量の半量の摂餌となった。海産トラウト同様にギンザケでも10mg/kg魚体重以上の投与は、摂餌性に悪影響を及ぼした。これらの結果より、サケ目魚類は、他魚種と比べ、アルベンダゾール10mg/kg魚体重と少ない投与量でも摂餌に悪影響を受けやすいことが判明した。しかしながら、飼育期間中の成長、生残は対照区より優れていた(表3)。これは、後述する微胞子虫駆虫効果によるものと推察された。
【0046】
微胞子虫に対するアルベンダゾールの駆虫効果を表4に示した。アルベンダゾール20mg/kg魚体重単回投与区の発症率は対照区と比較して明らかに低い値となり、アルベンダゾールが本原因虫に対して駆虫効果を発揮することが明らかになった。さらに、10 mg/kg魚体重単回投与+1mg/kg魚体重・14日間連続投与区の駆虫率は、20mg/kg魚体重単回投与区と比べ明らかに低く、1mg/kg魚体重の少ない投与量でも長期間投与することで本虫を駆虫できることが判明した。さらに、1mg/kg魚体重・14日間の投与中に摂餌の低下は観察されなかった。
【0047】
サケ目魚類は10mg/kg魚体重の少ない投与量で摂餌に悪影響を受けること、1mg/kg魚体重・14日間の投与は摂餌を低下させることなく投与でき、微胞子虫を駆虫できることが明らかとなった。また、本症を原因とする死亡は観察されなかった。このことは、本虫感染魚を出荷するまで、感染に気付きにくい原因となる。
【0048】
ここで、表4の発症数とは、筋肉にシスト又は融解症状があった魚の比率であり、シスト数及びサイズはシスト又は融解の数とサイズである。すなわち、アルベンダゾール投与により、シスト及び筋肉の融解の発生が抑制されていることが示された。
【0049】
【0050】
【実施例3】
【0051】
<アルベンダゾールおよびフェバンテルのギンザケ微胞子症に対する駆虫効果-1>
ギンザケ稚魚を漁場の生簀に導入し、35日間飼育した。この海面生簀飼育によりギンザケ稚魚を微胞子虫に自然感染させた。陸上施設に搬入したギンザケを4群に分け、各群を別々の500L水槽に収容した。この時の平均魚体重は252gであった。試験区と供試尾数を表5に示す。水槽への注水は実施例1と同じ条件で行った。搬入後の飼育期間は89日とした。試験期間中の水温は、11.6~15.3℃で平均13.2℃であった。また、試験開始時の微胞子虫症発症状況を把握するために、10尾を剖検して体側筋のシスト数および筋肉の融解の有無を観察した。
【0052】
飼育試験終了時に、全試験区から全魚を取り上げ、剖検により体側筋のシストを計数し、シストが観察された魚を発症魚とした。評価は、対照区と薬剤経口投与区の発症率(発症魚尾数/供試尾数×100)、発症魚のシスト数を比較することで行った。尚、試験期間中に、縄張り行動による尾鰭欠損が原因で死亡魚が発生し、生残が低い試験区があった。そのため、陸上水槽で飼育を実施してから65日以降の死亡魚の剖検結果を生残魚の結果に加え、駆虫効果を評価した。
【0053】
【0054】
結果と考察
陸上水槽搬入時に10尾の魚の筋肉を調べたところ、シストは観察されなかった。試験終了時の各区の魚体重と尾叉長、死亡率を表6に示した。アルベンダゾールおよびフェバンテルの成長、生残は対照区より優れており、これら薬剤投与がギンザケに悪影響を及ぼしていないことが考えられた。また、死亡魚を観察したところ、尾鰭欠損が顕著であり、貧血になっていた。従って、本試験での死亡は、縄張り行動による尾鰭欠損が原因であった。
【0055】
【0056】
微胞子虫に対するアルベンダゾールおよびフェバンテルの駆虫効果を表7に示した。対照区の発症率が10%であったのに対して、アルベンダゾールおよびフェバンテル投与区は0%であった。1日当たり1mg/kg魚体重の少ない投与量でも長期間投与することで本虫を駆虫できることが判明した。また、アルベンダゾールと同様にフェバンテルもサケ科魚類で新たに発生した筋肉を融解させる微胞子虫に対して駆虫効果を有することが明らかとなった。
【0057】
【実施例4】
【0058】
<アルベンダゾールおよびフェバンテルのギンザケ微胞子症に対する駆虫効果-2>
ギンザケ稚魚を漁場の生簀に導入し、28日間飼育した。この海面生簀飼育によりギンザケ稚魚を微胞子虫に自然感染させた。陸上施設に搬入したギンザケを4群に分け、各群を別々の500L水槽に収容した。この時の平均魚体重は261gであった。試験区と供試尾数を表8に示す。水槽への注水は実施例1と同じ条件で行った。搬入後の飼育期間は77日とした。試験期間中の水温は、10.5~14.6℃で平均13.0℃であった。また、試験開始時の微胞子虫症発症状況を把握するために、10尾を剖検して体側筋のシスト数および筋肉の融解の有無を観察した。
【0059】
飼育試験終了時に、全試験区から全魚を取り上げ、剖検により体側筋のシストを計数し、シストが観察された魚を発症魚とした。評価は、対照区と薬剤経口投与区の発症率(発症魚尾数/供試尾数×100)、発症魚のシスト数を比較することで行った。尚、試験期間中に、縄張り行動による尾鰭欠損が原因で死亡魚が発生し、生残が低い試験区があった。そのため、陸上水槽で飼育を実施してから38日以降の死亡魚の剖検結果を生残魚の結果に加え、駆虫効果を評価した。
【0060】
【0061】
結果と考察
陸上水槽搬入時に10尾の魚の筋肉を調べたところ、シストは観察されなかった。試験終了時の各区の魚体重と尾叉長、死亡率を表9に示した。アルベンダゾールおよびフェバンテルの成長、生残は対照区より優れており、これら薬剤投与がギンザケに悪影響を及ぼしていないことが考えられた。また、死亡魚を観察したところ、尾鰭欠損が顕著であり、貧血になっていた。従って、本試験での死亡は、縄張り行動による尾鰭欠損が原因であった。
【0062】
【0063】
微胞子虫に対するアルベンダゾールおよびフェバンテルの駆虫効果を表10に示した。対照区の発症率が11.8%であったのに対して、アルベンダゾールおよびフェバンテル投与区は0%であった。実施例3の結果が再現された。1日当たり1mg/kg魚体重の少ない投与量でも長期間投与することで本虫を駆虫できること、アルベンダゾールと同様にフェバンテルもサケ科魚類で新たに発生した筋肉を融解させる微胞子虫に対して駆虫効果を有することが改めて示された。
【0064】
【0065】
<筋肉を融解する原因微胞子虫の塩基配列解析>
本症状がみられた海面養殖ギンザケ病変部の組織を採取し、顕微鏡下で原因微胞子虫の胞子の存在を確認した後にDNAを抽出した。その後、既報の文献(Bell, A. S., et al., J. Eukaryot. Microbiol. 2001, 48, 258-265.)に従い、530f (5’-GTGCATCCAGCCGCGG-3’)(配列番号9)、及び580r (5’-GGTCCGTGTTTCAAGACGG-3’) (配列番号10)のプライマー対で増幅される約1500 bpのリボソームDNA領域の原因微胞子虫の塩基配列を決定した。得られた塩基配列をBLAST検索 (https://blast.ncbi.nlm.nih.gov/Blast.cgi)に供して既知のものであるかどうかを確認した。さらに、得られた塩基配列のうちのSSU リボソームDNA領域約940 bpを対象として、サケ科魚類への寄生が報告されている既知の微胞子虫5種の配列との類似性を比較した。比較にはClustal W (https://clustalw.ddbj.nig.ac.jp/)を用いた。
【0066】
原因微胞子虫からは変異を含む8パターンの塩基配列(配列番号1~8)を有するDNAを採取した。そのうちのタイプ1(配列番号1)を使用して以下の検討を行った。一般的に、rDNA領域はリピート構造をとっており、同一個体内でも、各リピートで配列が一致しない場合があることが知られている。それぞれの配列の類似性は99%以上であった。取得した塩基は約1.5kbpであった。他の微胞子虫について登録されている塩基配列に対応する、取得塩基の5末端側の約900pbを用いて、他種と相同性を比較した。
【0067】
結果
得られた配列はデータベースに登録されているいずれの種とも一致しなかった。また、サケ科魚で既報の微胞子虫塩基配列に対する類似性は68-84%程度に留まった。さらに、罹病魚に観察される症状も、これらのいずれの種とも異なった。従って、本種はこれまでに発生報告のない未知の種であることが明らかとなった。
【0068】
【0069】
サケ科魚での微胞子虫種の症状については、以下の文献に報告されている:Dis Aquat Org 101: 43-49, 2012;Dis Aquat Org 44: 223-230, 2001;および「魚介類の感染症・寄生虫病」、江草周三監修、恒星社厚生閣発行。309~312頁および318~320頁(2004年)。
【産業上の利用可能性】
【0070】
サケ目魚類の筋肉に寄生する微胞子虫の経口投与で有効な駆除剤を提供することができる。本症を原因とする死亡は観察されないことから、コストをかけて出荷サイズにまで育成した魚が感染していれば商品価値を失うことになる。本発明により、筋肉の融解を防ぐことができれば、商品価値の低下を防ぎ、産業上の価値がある。
【配列表】