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  • 特許-農園芸作物低温保存用容器 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-23
(45)【発行日】2024-01-31
(54)【発明の名称】農園芸作物低温保存用容器
(51)【国際特許分類】
   B65D 85/50 20060101AFI20240124BHJP
   A01N 31/16 20060101ALI20240124BHJP
   A01P 3/00 20060101ALI20240124BHJP
   A01N 25/18 20060101ALI20240124BHJP
   A23L 3/00 20060101ALI20240124BHJP
   A23B 7/00 20060101ALI20240124BHJP
   B65D 81/18 20060101ALI20240124BHJP
   B65D 81/28 20060101ALI20240124BHJP
   B32B 27/00 20060101ALI20240124BHJP
【FI】
B65D85/50 120
A01N31/16
A01P3/00
A01N25/18 102B
A23L3/00 101A
A23B7/00 101
B65D85/50 200
B65D81/18 D
B65D81/28 Z
B32B27/00 H
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020068991
(22)【出願日】2020-04-07
(65)【公開番号】P2021165161
(43)【公開日】2021-10-14
【審査請求日】2022-12-14
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構生物系特定産業技術研究支援センター「革新的技術開発・緊急展開事業(うち先導プロジェクト)」、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】501203344
【氏名又は名称】国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構
(73)【特許権者】
【識別番号】308013436
【氏名又は名称】小島プレス工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100162396
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 泰之
(74)【代理人】
【識別番号】100202430
【弁理士】
【氏名又は名称】太田 千香子
(72)【発明者】
【氏名】西村 麻里江
(72)【発明者】
【氏名】瀬尾 茂美
(72)【発明者】
【氏名】足立 嘉彦
(72)【発明者】
【氏名】小塚 明彦
(72)【発明者】
【氏名】辻 朗
(72)【発明者】
【氏名】田中 貴章
【審査官】家城 雅美
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-108040(JP,A)
【文献】特開2017-226188(JP,A)
【文献】特開平04-325069(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2016-0078558(KR,A)
【文献】国際公開第2017/175225(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B65D 85/50
A01N 31/16
A01P 3/00
A01N 25/18
A23L 3/00
A23B 7/00
B65D 81/18
B65D 81/28
B32B 1/00-43/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材フィルム層と、
沸点が100~240℃の範囲にある揮散性抗菌活性化合物群から選択される1種以上を含有する揮散性抗菌活性成分層と、
蒸着重合膜からなる揮散性抗菌活性成分透過層を、
この順で積層してなる徐放性抗菌フィルムと、
前記徐放性抗菌フィルムとは別の素材により構成される保存用箱形状容器を備え、
前記徐放性抗菌フィルムは保存用箱形状容器の上面部に配され、
低温が-3℃以上15℃以下の温度範囲であり、かつ、
下記要件1~3を満たす農園芸作物低温保存用箱形状容器。
[要件1];保存用箱形状容器の容積が500cm以上5,000cm以下である。
[要件2];徐放性抗菌フィルムの面積が10cm以上500cm以下である。
[要件3];保存用箱形状容器の容積(cm)に対する、徐放性抗菌フィルムの面積(cm)の比が、0.02以上0.078以下である。
【請求項2】
前記徐放性抗菌フィルムが保存用箱形状容器の天面部に配される、請求項1に記載の農園芸作物低温保存用箱形状容器。
【請求項3】
請求項1に記載の低温保存用箱形状容器に農園芸作物を収容してなる、農園芸作物収容包装体。
【請求項4】
請求項1に記載の保存用箱形状容器を用いて農園芸作物を収容して、-3℃以上15℃以下で保存する、農園芸作物の保存方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、徐放性抗菌フィルムを備える農園芸作物低温保存用容器、農園芸作物入り包装体および、農園芸作物の低温保存方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、収穫された普通作物、野菜類、果物類、花卉類、菌茸等といった農園芸作物の長期保存方法として、脱酸素剤の同封などにより農園芸作物の呼吸を適度に抑制する方法や、0℃以下の氷温で保存する方法などが知られている(例えば、特許文献1等)が、これらの方法では、カビの発生を抑制することができないという問題があった。国内では、農園芸作物の流通時に殺菌剤等の農薬の使用は認められておらず、欧州などの海外でもその使用には大きな制限がある。そのため、農園芸作物の防カビ方法として、収穫された農園芸作物を予め次亜塩素酸系の消毒剤で殺菌処理する手法が知られているが、次亜塩素酸系の消毒剤は取扱に高度な注意が必要であり、長期間の効果が得られないなどの問題があった。
【0003】
一方、農園芸作物の包装に使用する樹脂製フィルム等に、抗菌性能を付与するための方法として、当該フィルム表面に気化性抗菌剤を被覆する方法(例えば、特許文献2等)や、樹脂に無機系抗菌剤や有機系抗菌剤を練り込む方法(例えば、特許文献3、4等)が知られている。前者の被覆する方法は、抗菌フィルムから気化する抗菌剤の量をコントロールすることが難しく、抗菌剤の気化濃度が高くなると、包装された農園芸作物への匂い移りのほか、変色などの品質劣化を招く恐れがある。また、後者の練り込む方法は、抗菌フィルムの表面に露出した抗菌剤と接触した部分に限り抗菌活性が生じるため、包装された農園芸作物全体への抗菌活性の発現が難しいことや、樹脂内部に存在する抗菌剤は抗菌活性を発揮し得ず、所望の抗菌活性を得るためには、多量の抗菌剤が必要になるという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平06-046749号公報
【文献】特開2006-199852号公報
【文献】特開2016-030406号公報
【文献】特開2015-189138号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、カビによる農園芸作物の商品価値の著しい低下を確実に抑制し、かつ、抗菌活性成分による匂い移りのほか、変色などの品質劣化をさせることのない、流通や保存に適した新たな容器、新たな包装体さらには、新たな保存方法を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、保存用容器の容積と徐放性抗菌フィルムの面積および、両者の比を特定の範囲とすることにより、農園芸作物の品質を低下させることなく、カビによる農園芸作物の商品価値の著しい低下を確実に抑制できることを見出し、上記課題を解決するに至ったものである。
【0007】
本発明は、具体的には次の事項を要旨とする。
1.基材フィルム層と、沸点が100~240℃の範囲にある揮散性抗菌活性化合物群から選択される1種以上を含有する揮散性抗菌活性成分層と、蒸着重合膜からなる揮散性抗菌活性成分透過層を、この順で積層してなる徐放性抗菌フィルムを備え、かつ、下記要件1~3を満たす農園芸作物低温保存用容器。
[要件1];保存用容器の容積が25cm以上250,000cm以下である。
[要件2];徐放性抗菌フィルムの面積が1cm以上5,000cm以下である。
[要件3];保存用容器の容積(cm)に対する、徐放性抗菌フィルムの面積(cm)の比が、0.02以上である。
2.1.に記載の低温保存用容器に農園芸作物を収容してなる、農園芸作物収容包装体。
3.1.に記載の保存用容器を用いて農園芸作物を収容して、-3℃以上15℃以下で保存する、農園芸作物の保存方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明の容器に備えられている徐放性抗菌フィルムは、揮散性抗菌活性成分透過層が蒸着重合膜により構成されていることから、揮散性抗菌活性成分層に含有される特定の揮散性抗菌活性化合物を安定的に放出させることが可能であり、保存用容器の容積(要件1)と当該徐放性抗菌フィルムの面積(要件2)とを特定の範囲のものとし、さらに当該容積に対する当該面積の比を特定の数値以上(要件3)とすることにより、保存用容器内の揮散した抗菌活性成分量を適正なものとすることができる。本発明は、これらの相乗効果により、農園芸作物の品質を低下させることなく、カビによる農園芸作物の商品価値の著しい低下を確実に抑制することができる。
本発明において使用する、特定の沸点範囲を有する揮散性抗菌活性化合物は、食品添加物として使用される植物香気成分でもあるため、農園芸作物を安全に保存できる点において、本発明は有用である。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】実施例の農園芸作物低温保存に関する試験1における、保存試験を実施した容器の構成1~4を説明する写真図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明における農園芸作物低温保存用容器や、当該容器を用いた農園芸作物の保存方法について詳細に説明する。なお、本発明における「低温」は、-3℃以上15℃以下の温度範囲を意味する。
<農園芸作物について>
本発明における農園芸作物低温保存用容器は、農園芸作物を保存するための容器である。ここで、本発明における農園芸作物とは、普通作物、野菜類、果物類、花卉類、菌茸類等の栽培作物全般を意味する。農園芸作物としては、特に限定されないが、例えば、水稲、麦類、トウモロコシ、イモ類、マメ類などの普通作物、ダイコン、ニンジン、ゴボウ等の根菜類、タマネギ、アスパラガス、ウド等の茎菜類、キャベツ、レタス、ホウレンソウ、ハクサイ等の葉菜類、トマト、ナス、カボチャ等の果菜類、カリフラワー、ブロッコリー、食用菊等の花菜類などの野菜類、柑橘、リンゴ、ナシ、ブドウ、ブルーベリー、イチゴ、桜桃、桃等の果物類、切り花などの花卉類、シメジ、マツタケ、マイタケ等の菌茸類が挙げられる。
中でも、冷温保存に適し、効果的にカビ発生抑制効果を得る観点から、本発明における農園芸作物としては、果物類において好適であり、中でも、ブドウ、桜桃、桃、イチゴにおいてより好適である。ブドウ、桜桃、桃、イチゴについては、0℃以上5℃以下の温度範囲がより好適な保存温度である。
【0011】
<揮散性抗菌活性成分について>
本発明は、沸点が100~240℃の範囲にある揮散性抗菌活性化合物群から選択される1種以上を、揮散性抗菌活性成分とするものである。
本発明の揮散性抗菌活性化合物群に含まれる化合物としては、構成する炭素原子数は5個以上10個以下の範囲のものが好ましく、好適な化合物の具体例としては、例えば、ヒノキチオール(沸点:140℃)、シトロネラール(沸点:204~206℃)、青葉アルデヒド(トランス-2-ヘキセナール、沸点:146℃)、シトロネロール(沸点:225℃)、ゲラニオール(沸点:229℃)、ネロール(沸点:224~225℃/745mmHg)等が挙げられる。中でも、沸点が100~200℃の範囲にある揮散性抗菌活性化合物が好ましく、特に、ヒノキチオール、青葉アルデヒドが好ましい。
【0012】
本発明の揮散性抗菌活性成分層の形成については、使用する揮散性抗菌活性成分の形態や性質等に応じた手法を適宜選択することができる。例えば、室温で液体の揮散性抗菌活性成分であれば、希釈せずそのまま、基材フィルム層の一方の面上に塗布して揮散性抗菌活性成分層を形成することができる。室温で固体の揮散性抗菌活性成分や室温で液体の揮散性抗菌活性成分であっても、所定の溶媒、例えば、エタノール等により溶液を調製し、それを基材フィルム層の一方の面上に塗工し、溶媒を蒸散させることにより、実質的に揮散性抗菌活性成分のみからなる揮散性抗菌活性成分層を形成することもできる。また、揮散性抗菌活性成分を加熱して気化もしくは昇華して、基材フィルム層の一方の面上に付着させることにより、揮散性抗菌活性成分のみからなる揮散性抗菌活性成分層を形成する、蒸着処理方法を選択することもできる。
本発明における揮散性抗菌活性成分層の厚さは、選択する揮散性抗菌活性成分の種類や、所望の抗菌活性維持期間により適宜決定すればよいが、通常、1μm以上5mm以下の範囲である。
【0013】
<揮散性抗菌活性成分透過層について>
本発明における揮散性抗菌活性成分透過層は、蒸着重合膜からなるものである。ここで蒸着重合膜とは、蒸着重合法に従って得られる薄膜を意味する。
蒸着重合膜は、一般的に、加熱により蒸気化された二種以上の原料モノマーを、真空状態の成膜室内に導入し、成膜室内に配置された成膜対象物の表面に付着させ、かかる表面にて原料モノマー間の重合を進行させることによって、形成されるものである。すなわち、膜の形成が、本発明における揮散性抗菌活性成分層の表面に存在する、微細な凹凸に追従しながら進行することにより、揮散性抗菌活性成分透過層が形成されるため、揮散性抗菌活性成分層と揮散性抗菌活性成分透過層との間において優れた密着性を発揮する。また、蒸着重合膜は、極めて薄い膜厚においても作製することが可能であり、得られる蒸着重合膜は、不純物の含有が非常に少ないという利点をも有する。従って、本発明における徐放性抗菌フィルムは、揮散性抗菌活性成分層と揮散性抗菌活性成分透過層との間において、加水分解やヒートショック等に起因する層間剥離の発生が有利に抑制されるため、目的に応じた揮散性抗菌活性成分量を安定的に、放出し揮散させることが可能となる。
【0014】
本発明における揮散性抗菌活性成分透過層を構成する合成樹脂としては、従来から知られている蒸着重合法に従って膜形成が可能な合成樹脂の中から、揮散性抗菌活性成分に応じたものが適宜選択することができる。具体的には、揮散性抗菌活性成分透過層を構成する合成樹脂膜としては、ポリユリア樹脂膜、ポリアミド樹脂膜、ポリイミド樹脂膜、ポリアミドイミド樹脂膜、ポリエステル樹脂膜、ポリアゾメチン樹脂膜やポリウレタン樹脂膜等の、公知の蒸着重合法に従って作製可能な各種の合成樹脂膜を例示することができる。中でも、特に、ポリユリア樹脂膜は、揮散性抗菌活性成分が効果的に透過可能な架橋構造を有するため、有利に採用することができる。
また、揮散性抗菌活性成分透過層の厚さは、揮散性抗菌活性成分のフィルム外部への単位時間当たりの放出量や、揮散性抗菌活性成分層に含まれる揮散性抗菌活性成分の種類や量等を総合的に考慮し、適宜に決定することができる。具体的には、揮散性抗菌活性成分透過層の厚さは、0.01μm以上50μm以下の範囲が好ましく、0.1μm以上10μm以下の範囲がより好ましい。
【0015】
<徐放性抗菌フィルムについて>
本発明における徐放性抗菌フィルムは、基材フィルム層の一方の面上に揮散性抗菌活性成分層が形成されており、さらに該揮散性抗菌活性成分層の面上に、蒸着重合膜からなる揮散性抗菌活性成分透過層が形成されている態様が好ましく、基材フィルム層、揮散性抗菌活性成分層および揮散性抗菌活性成分透過層の大きさが、概略同等であることが好ましい。
本発明における徐放性抗菌フィルムは、農園芸作物低温保存用容器の上部に配されることが好ましく、当該容器内部の農園芸作物表面を覆う、または、当該容器天面部に貼付等により配されることがより好ましい。この場合、徐放性抗菌フィルムにおける揮散性抗菌活性成分透過層が、当該容器内部の農園芸作物に対向するように配することが好ましい。
本発明の農園芸作物低温保存用容器は、「要件2」として、1cm以上5,000cm以下の徐放性抗菌フィルムを備えることを特徴とするものである。徐放性抗菌フィルムの面積は、5cm以上1,000cm以下のものが好ましく、10cm以上500cm以下のものがより好ましい。
本発明の農園芸作物低温保存用容器に備える徐放性抗菌フィルムは、1枚でも良いし、2枚以上複数枚使用しても良い。複数枚使用する場合、本発明における徐放性抗菌フィルムの面積は、使用する全ての徐放性抗菌フィルムの面積の総和を意味する。
【0016】
<農園芸作物低温保存用容器について>
本発明の農園芸作物低温保存用容器は、樹脂製や紙製など素材や、袋形状、箱形状など形態は、特に限定するものではないが、中でも、箱形状のものが好適である。ただし、本発明における徐放性抗菌フィルムから揮散される揮散性抗菌活性成分量を維持できるように、ある程度密封可能な容器であることが好ましい。
本発明の農園芸作物低温保存用容器は、本発明における徐放性抗菌フィルムから構成される容器であってもよいが、本発明における徐放性抗菌フィルムとは別の素材により構成される袋状のものも含む保存用容器に、農園芸作物を収容して、収容された農園芸作物の上部に本発明における徐放性抗菌フィルムを配置する方が簡便であり、コストの面からも有利である。
本発明の農園芸作物低温保存用容器は、「要件1」として、その容積が25cm以上250,000cm以下であることを特徴とするものである。保存用容器の容積は、500cm以上100,000cm以下のものが好ましく、1000cm以上50,000cm以下のものがより好ましい。
【0017】
<揮散性抗菌活性成分量について>
本発明の農園芸作物低温保存用容器は、保存用容器内の揮散性抗菌活性成分量を適正なものとすることができるため、揮散性抗菌活性成分による匂い移りや変色などで農園芸作物の品質が低下することなく、カビによる農園芸作物の商品価値の著しい低下を確実に抑制することができる。
一般的に、密閉容器に徐放性抗菌フィルムを入れると、時間経過とともに、容器内の抗菌成分量は上昇する。容器内の抗菌成分量が少ないと十分な抗菌活性が得られず、農園芸作物が腐敗してしまう一方、容器内の抗菌成分量が多くなり過ぎると、揮散性抗菌活性成分の匂い移りや変色など農園芸作物の商品価値が低下してしまう。すなわち、カビによる農園芸作物の商品価値の著しい低下を確実に抑制し、かつ、揮散性抗菌活性成分による匂い移りのほか、変色などの品質劣化も抑制するためには、保存用容器内の抗菌成分量を適正な範囲にコントロールする必要がある。
本発明は、保存用容器内の抗菌成分量を適正な範囲にコントロールできるものであり、そのために必要な徐放性抗菌フィルムの面積と保存用容器の容積の範囲および、徐放性抗菌フィルムと保存用容器との関係性を初めて特定したものである。
【0018】
本発明における揮散性抗菌活性成分は、沸点が100~240℃の範囲にある揮散性抗菌活性化合物群から選択される1種以上のものであることも、上記保存用容器内の抗菌成分量を適正なものとすることを可能とする要件の1つである。
以上のとおり、本発明の農園芸作物低温保存用容器内の揮散性抗菌活性成分量を適正なものとすることにより、カビによる農園芸作物の商品価値の著しい低下を確実に抑制し、かつ、抗菌活性成分による匂い移りのほか、変色などの品質劣化をさせることのない、流通や保存に適した農園芸作物低温保存用容器とすることができるものである。
【0019】
本発明の農園芸作物低温保存用容器内の揮散性抗菌活性成分量を、適正なものとするためには、下記要件1~3を満たすことが必要である。
[要件1];保存用容器の容積が25cm以上250,000cm以下である。
[要件2];徐放性抗菌フィルムの面積が1cm以上5,000cm以下である。
[要件3];保存用容器の容積(cm)に対する、徐放性抗菌フィルムの面積(cm)の比が、0.02以上である。
上記「要件3」について説明する。
「要件3」は、保存用容器の容積(cm)に対する、徐放性抗菌フィルムの面積(cm)の比が、すなわち、徐放性抗菌フィルムの面積(cm)を、保存用容器の容積(cm)で除した値が、0.02以上とするものである。
本発明の農園芸作物低温保存用容器内の揮散性抗菌活性成分量を、適正なものとするためには、特に、この「要件3」を満たすことが重要である。この「要件3」の比が0.02より小さい場合には、農園芸作物低温保存用容器内の揮散性抗菌活性成分量が不足し、保存用容器内の農園芸作物に対する防カビ効果を得ることができない。「要件3」の比を0.02以上とすることにより、カビによる農園芸作物の商品価値の著しい低下を確実に抑制し、かつ、抗菌活性成分による匂い移りのほか、変色などの品質劣化をさせることのない、流通や保存に適した農園芸作物低温保存用容器とすることが可能となる。
【実施例
【0020】
以下、実施例を挙げて本発明を説明するが、本発明の技術範囲はこれらにより限定されるものではない。
【0021】
<徐放性抗菌フィルムの調製>
揮散性抗菌活性化合物であるヒノキチオールを、ロール・ツー・ロール(roll to roll)方式の蒸着重合膜形成装置を用いて、ポリエチレンテレフタレート(PET)製フィルム(厚さ:12μm)上に、有効成分量が1.3mg/cmとなるように揮散性抗菌活性成分層を形成した。次いで、同じ蒸着重合膜形成装置を用いて、ポリユリア樹脂からなる蒸着重合膜を作製した。ポリユリア樹脂からなる蒸着重合膜は、厚さ:4μmにて作製した。
【0022】
<農園芸作物低温保存に関する試験1>
保存用容器として、中敷きザル付きの密閉容器1(容量:1,100cm、底面サイズ:外寸150mm×134mm、高さ:外寸77mm)を使用した。図1に示すように、保存用容器の底面に蒸留水(20mL)を浸したペーパータオルを敷いて、湿度を保持できるようにし(図1中の1)、中敷きザルには包装用スポンジ載置し(図1中の2)、保存用容器の蓋部内側に調製した徐放性抗菌フィルム1(面積:78cm)を両面テープにより貼り(図1中の3)、使用した。上記保存用容器は、本発明における「要件3」が約0.071である。
保存する農園芸作物として、シャインマスカットの果粒を使用した。図1に示すように、包装用スポンジ載置した中敷きザルに12粒を入れ(図1中の4のように)、滅菌水を噴霧した後、風乾したものを使用した。これを、図1中の1にセットして蓋(図1中の3)を閉めたものを実施例1として保存試験を行った。
徐放性抗菌フィルムを使用しない点でのみ相違する保存用容器を比較例1として、同様の保存試験を行った。
保存開始から1週間毎に観察し、各試験区に発生した腐敗果を確認し、その数をカウントした。なお、腐敗果は観察確認時に取り除いた。
保存試験は、それぞれ3回実施して、累積腐敗果率(%)の平均値を算出した。
表1に、保存温度5℃における試験結果をまとめて示す。
【0023】
【表1】
【0024】
表1に示すとおり、本発明の農園芸作物低温保存用容器(実施例1)は、保存開始から70日間(2.5カ月間)経過しても腐敗果が全く無く、保存開始から91日間(3カ月以上)経過後の累積腐敗果率の平均が11.1%であった。また、保存開始から91日経過後の果粒は、揮散性抗菌活性成分による匂い移りや変色などの品質劣化は確認されなかった。これに対して、本発明のものとは異なる保存用容器を使用した場合(比較例1)では、保存開始から21日間(3週間)経過した時点で累積腐敗果率の平均が8.3%であり、91日間(3カ月以上)経過後には69.4%に達した。
すなわち、本発明の農園芸作物低温保存用容器を使用することにより、高価であり商品価値の高いシャインマスカットの様な農園芸作物のカビによる腐敗を、有効に抑制し得ることが明らかとなった。
一方、詳細な試験データは省略するものの、本発明の農園芸作物低温保存用容器を使用して、本発明の低温の定義から外れる20℃で保存した場合、21日(3週間)までに果粒表面に褐色の斑点が現れ、その後49日(7週間)までに全ての果粒の腐敗が確認された。この結果は、本発明の農園芸作物低温保存用容器を使用しても、低温保存以外の条件下では、抗菌活性成分による変色などの品質劣化が発生し、その後、腐敗が助長されることを示唆するものと考えている。
【0025】
<農園芸作物低温保存に関する試験2>
上記「農園芸作物低温保存に関する試験1」と同じ中敷きザル付きの密閉容器1(容量:1,100cm、底面サイズ:外寸150mm×134mm、高さ:外寸77mm)に果粒12粒と徐放性抗菌フィルム1(面積:78cm)を、同様の容器2(容量:5,000cm、底面サイズ:外寸213mm×263mm、高さ:外寸130mm)に果粒25粒と徐放性抗菌フィルム2(面積:312cm)を、それぞれ使用して、上記「農園芸作物低温保存に関する試験1」と同様にセットした。
保存する農園芸作物として、灰色かび病菌分生子懸濁液(10個/mL)を噴霧接種した後、風乾したシャインマスカットの果粒を使用し保存温度5℃における保存試験を行った。なお、容器1(実施例2、比較例2)は蒸留水(20mL)を、容器2(実施例3、比較例3)は蒸留水(100mL)を用いて湿度を保持した。
保存開始から1週間毎に観察し、各試験区に発生した腐敗果を確認し、その数をカウントした。なお、腐敗果は観察確認時に取り除いた。
保存試験は、実施例2、比較例2が5回、実施例3、比較例3は4回実施して、累積腐敗果率(%)の平均値を算出した。
表2に、試験結果をまとめて示す。
【0026】
【表2】
【0027】
この「農園芸作物低温保存に関する試験2」は、強制的に灰色かび病菌を接種する非常に厳しい環境を模した、保存試験である。
表2に示すとおり、本発明とは異なる保存用容器である比較例2は、保存開始から28日目に試験果粒の全てが、同じく本発明とは異なる保存用容器である比較例3では、試験果粒の98%が腐敗した。
一方、このような非常に厳しい条件下の保存試験においても、本発明の農園芸作物低温保存用容器(実施例2、3)では、農園芸作物のカビによる腐敗は試験果粒の概略5分の1以下程度に留まり、特に、実施例3では試験果粒の6%と、腐敗抑制効果に極めて優れていることが明らかとなった。また、この優れた腐敗抑制効果は「要件1」の保存用容器の容積の違いに関わらず、発揮されることが明らかとなった。
また、実施例2、3の保存開始から28日経過後の果粒は、抗菌活性成分による匂い移りや変色などの品質劣化は確認されなかった。
【0028】
<農園芸作物低温保存に関する試験3>
上記「農園芸作物低温保存に関する試験1」と同じ中敷きザル付きの密閉容器1(容量:1,100cm、底面サイズ:外寸150mm×134mm、高さ:外寸77mm)に果粒12粒、徐放性抗菌フィルム1(面積:78cm)、徐放性抗菌フィルム3(面積:39cm)、徐放性抗菌フィルム4(面積:19cm)をそれぞれ使用し、上記「農園芸作物低温保存に関する試験1」と同様にセットし、蒸留水(20mL)を用いて湿度を保持した。
保存する農園芸作物として、灰色かび病菌分生子懸濁液(10個/mL)を噴霧接種した後、風乾したシャインマスカット果粒を使用し温度5℃における保存試験を行った。
保存開始から1週間毎に観察し、各試験区に発生した腐敗果を確認し、その数をカウントした。なお、腐敗果は観察確認時に取り除いた。
保存試験は、それぞれ4回実施して、累積腐敗果率(%)の平均値を算出した。
表3に、試験結果をまとめて示す。
【0029】
【表3】
【0030】
この「農園芸作物低温保存に関する試験3」は、強制的に灰色かび病菌を接種する非常に厳しい環境を模した、保存試験である。
表3に示すとおり、本発明とは異なる保存用容器である比較例5は、保存開始から28日目において、試験果粒の97.9%が腐敗した。
一方、このような非常に厳しい条件下の保存試験においても、本発明の農園芸作物低温保存用容器(実施例4、5)では、農園芸作物のカビによる腐敗は、保存開始から70日(2.5カ月)経過後においても、試験果粒の概略30%以下に留まり、腐敗抑制効果に極めて優れていることが明らかとなった。
一方、比較例4は、本発明における「要件3」、すなわち保存用容器の容積(cm)に対する、徐放性抗菌フィルムの面積(cm)の比が約0.017であるため、本発明の保存用容器とは相違する。そのため、比較例4での保存では、保存開始から28日目以降の農園芸作物のカビによる腐敗の進行が、実施例の2.5~4倍程度にまで進むことが確認された。
【0031】
<農園芸作物低温保存に関する試験4>
中敷きザル付きの密閉容器3(容量:0.0030m、底面サイズ:外寸239mm×176mm、高さ:外寸91mm)に果粒41粒を入れ、徐放性抗菌フィルム5(面積:233cm)、徐放性抗菌フィルム1(面積:78cm)それぞれを使用し、上記「農園芸作物低温保存に関する試験1」と同様に、滅菌水を噴霧接種(無接種)した後、風乾した果粒について、表4に示す保存温度における保存試験を行った。なお、容器3は蒸留水(60mL)を用いて湿度を保持した。
保存開始から1週間毎に観察し、各試験区に発生した腐敗果を確認し、その数をカウントした。なお、腐敗果は観察確認時に取り除いた。
保存試験は、それぞれ3回実施して、累積腐敗果率(%)の平均値を算出した。
表4に、試験結果をまとめて示す。なお、比較例8、9は、保存開始から21日目の結果において、実施例6、7と大きな差が出たことからこれ以上の経過観察は必要ないと判断し試験を終了した。表4中「-」は、試験観察を実施しなかったことを意味する。
【0032】
【表4】
【0033】
表4に示すとおり、本発明の農園芸作物低温保存用容器(実施例6、7)は、一般的な保存状態を模した灰色かび病菌の無接種保存において、本発明のものとは異なる保存用容器(比較例6、7)に比べて、農園芸作物のカビによる腐敗抑制効果に極めて優れていることが明らかとなった。また、実施例6、7の保存開始から28日経過後の果粒は、抗菌活性成分による匂い移りや変色などの品質劣化は確認されなかった。
一方、本発明の低温の定義から外れる23℃で保存した場合(比較例8、9)、徐放性抗菌フィルムを使用(比較例8)しても、カビによる腐敗抑制効果が得られないことも明らかとなった。さらに、比較例8において、保存開始から約10日目で変色がみられた。この結果は、本発明の農園芸作物低温保存用容器を使用しても、低温保存以外の条件下では、抗菌活性成分による変色などの品質劣化が発生し、その後、腐敗が助長されることを示唆するものと考えている。
【産業上の利用可能性】
【0034】
本発明の容器に備えられている徐放性抗菌フィルムは、揮散性抗菌活性成分透過層が蒸着重合膜により構成されていることから、揮散性抗菌活性成分層に含有される特定の揮散性抗菌活性化合物を安定的に放出させることが可能であり、保存用容器の容積(要件1)と当該徐放性抗菌フィルムの面積(要件2)とを特定の範囲のものとし、さらに当該容積に対する当該面積の比を特定の数値以上(要件3)とすることにより、保存用容器内の揮散した抗菌活性成分量を適正なものととすることができる。これらの相乗効果により、農園芸作物の品質を低下させることなく、カビによる農園芸作物の商品価値の著しい低下を確実に抑制することができ非常に有用である。
図1