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特許7425394樹脂組成物、溶融成形用材料および多層構造体
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-23
(45)【発行日】2024-01-31
(54)【発明の名称】樹脂組成物、溶融成形用材料および多層構造体
(51)【国際特許分類】
   C08L 23/00 20060101AFI20240124BHJP
   C08K 3/00 20180101ALI20240124BHJP
   C08L 29/04 20060101ALI20240124BHJP
   B32B 27/32 20060101ALI20240124BHJP
   B32B 27/28 20060101ALI20240124BHJP
【FI】
C08L23/00
C08K3/00
C08L29/04 S
B32B27/32 Z
B32B27/28 102
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2018121680
(22)【出願日】2018-06-27
(65)【公開番号】P2019007005
(43)【公開日】2019-01-17
【審査請求日】2020-12-17
(31)【優先権主張番号】P 2017124966
(32)【優先日】2017-06-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079382
【弁理士】
【氏名又は名称】西藤 征彦
(74)【代理人】
【識別番号】100123928
【弁理士】
【氏名又は名称】井▲崎▼ 愛佳
(74)【代理人】
【識別番号】100136308
【弁理士】
【氏名又は名称】西藤 優子
(74)【代理人】
【識別番号】100207295
【弁理士】
【氏名又は名称】寺尾 茂泰
(72)【発明者】
【氏名】碓氷 眞太郎
(72)【発明者】
【氏名】西村 大知
(72)【発明者】
【氏名】池下 美奈子
【審査官】前田 孝泰
(56)【参考文献】
【文献】特表平07-502065(JP,A)
【文献】特表平07-502221(JP,A)
【文献】実開昭54-142260(JP,U)
【文献】特開2015-071711(JP,A)
【文献】特開2016-029159(JP,A)
【文献】特開平05-255555(JP,A)
【文献】特表2009-519361(JP,A)
【文献】国際公開第2013/146533(WO,A1)
【文献】特開平09-077948(JP,A)
【文献】特開2008-239769(JP,A)
【文献】国際公開第2019/004263(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/004262(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/004261(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/004260(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/004259(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/004258(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/004257(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/004256(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/004255(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/115849(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/115848(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/115847(WO,A1)
【文献】特開2019-011464(JP,A)
【文献】特開2019-007004(JP,A)
【文献】国際公開第2002/18489(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00-101/16
B32B 1/00- 43/00
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
親水性熱可塑性樹脂(A)、疎水性熱可塑性樹脂(B)および鉄化合物(C)を含有する樹脂組成物であって、上記親水性熱可塑性樹脂(A)がエチレン-ビニルアルコール系共重合体であり、上記エチレン-ビニルアルコール系共重合体におけるエチレン構造単位の含有量が20~60モル%であり、上記疎水性熱可塑性樹脂(B)がポリオレフィン系樹脂であり、上記疎水性熱可塑性樹脂(B)に対する上記親水性熱可塑性樹脂(A)の重量含有比率が、親水性熱可塑性樹脂(A)/疎水性熱可塑性樹脂(B)=5050~1/99であり、上記鉄化合物(C)の含有量が樹脂組成物の重量あたり金属換算にて0.0001~ppmであり、上記親水性熱可塑性樹脂(A)と上記鉄化合物(C)との重量比率が、上記親水性熱可塑性樹脂(A)100重量部に対し、上記鉄化合物(C)が金属換算で0.000001~0.002重量部であることを特徴とする樹脂組成物。
【請求項2】
上記鉄化合物(C)の含有量が樹脂組成物の重量あたり金属換算にて0.0001~0.5ppmであることを特徴とする請求項1記載の樹脂組成物。
【請求項3】
上記疎水性熱可塑性樹脂(B)に対する上記親水性熱可塑性樹脂(A)の重量含有比率が、親水性熱可塑性樹脂(A)/疎水性熱可塑性樹脂(B)=5050~2/98であることを特徴とする請求項1または2記載の樹脂組成物。
【請求項4】
上記疎水性熱可塑性樹脂(B)に対する上記親水性熱可塑性樹脂(A)の重量含有比率が、親水性熱可塑性樹脂(A)/疎水性熱可塑性樹脂(B)=50/50~3/97であることを特徴とする請求項1~3のいずれか一項に記載の樹脂組成物。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか一項に記載の樹脂組成物からなることを特徴とする溶融成形用材料。
【請求項6】
請求項1~4のいずれか一項に記載の樹脂組成物からなる層を備えることを特徴とする多層構造体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂組成物、溶融成形用材料およびそれを用いた多層構造体に関するものであり、さらに詳しくは、着色が抑制された樹脂組成物、かかる樹脂組成物からなる溶融成形用材料および、かかる樹脂組成物からなる層を備える多層構造体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
エチレン-ビニルアルコール系共重合体(以下、「EVOH樹脂」と称する。)やポリアミド系樹脂等のガスバリア性樹脂は、親水性に優れた官能基を豊富に有し、水素結合による相互作用によってガスバリア性を発現すると言われている。これらのガスバリア性樹脂は熱可塑性であり、フィルム、シート、ボトル等に成形され、食品包装材料、医薬品包装材料、工業薬品包装材料、農薬包装材料等の各種包装材料として広く用いられている。
【0003】
これらのガスバリア性樹脂は、熱可塑性樹脂のなかでも親水性であり、水分によってガスバリア性が変動するため、ポリエチレン、ポリプロピレンを始めとする疎水性熱可塑性樹脂からなる疎水性熱可塑性樹脂層と上記ガスバリア性樹脂からなるガスバリア性樹脂層(親水性熱可塑性樹脂層)とを積層して各種用途に用いられる。
【0004】
このような疎水性熱可塑性樹脂層および親水性熱可塑性樹脂層を含む多層構造体を用いて、上記の成形物を製造する際には、クズ、端部等の不要部分や不良品、あるいはその成形物を各種用途に使用した後のゴミ等のスクラップが発生する。かかるスクラップは、元の多層構造体の30~50%(面積比)にものぼる。そこで、このスクラップを回収して、溶融成形し、その回収物を積層体の少なくとも1層に、リサイクル層(以下「リグラインド層」と称することがある。)として再利用する場合がある(例えば、特許文献1参照)。このような再生技術は、廃棄物削減や経済性の点で産業上有用である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】国際公開第2009/041440号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
一方、疎水性熱可塑性樹脂層および親水性熱可塑性樹脂層を含む多層構造体の回収物を再溶融しリグラインド層として再利用する際、樹脂が着色する傾向がある。さらに近年、成形技術の進歩に伴い樹脂流路が複雑化し、樹脂が熱劣化を受けやすい傾向があり、かかる着色を抑制できる技術が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記実情に鑑み鋭意検討した結果、親水性熱可塑性樹脂(A)、疎水性熱可塑性樹脂(B)を含む樹脂組成物において微量の鉄化合物(C)を併用する場合に上記課題が解決することを見出した。
【0008】
すなわち、本発明は、親水性熱可塑性樹脂(A)、疎水性熱可塑性樹脂(B)および鉄化合物(C)を含有する樹脂組成物であって、上記鉄化合物(C)の含有量が樹脂組成物の重量あたり金属換算にて0.0001~20ppmである樹脂組成物を第1の要旨とする。また、本発明は、上記樹脂組成物からなる溶融成形用材料を第2の要旨とし、上記樹脂組成物からなる層を備える多層構造体を第3の要旨とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明の樹脂組成物は、親水性熱可塑性樹脂(A)、疎水性熱可塑性樹脂(B)および鉄化合物(C)を含有する樹脂組成物であって、上記鉄化合物(C)の含有量が樹脂組成物の重量あたり金属換算にて0.0001~20ppmであるため、着色を抑制することができる。
【0010】
また、疎水性熱可塑性樹脂(B)に対する上記親水性熱可塑性樹脂(A)の重量含有比率が、親水性熱可塑性樹脂(A)/疎水性熱可塑性樹脂(B)=90/10~1/99であると、より着色を抑制することができる。
【0011】
さらに、上記親水性熱可塑性樹脂(A)が、EVOH樹脂であると、より一層着色を抑制することができる。
【0012】
上記疎水性熱可塑性樹脂(B)が、ポリオレフィン系樹脂であると、より一層着色を抑制することができる。
【0013】
また、本発明の樹脂組成物からなる溶融成形用材料は、着色が抑制されていることから、各種成形物の材料として、例えば、食品、薬品、農薬等の包装材料として好適に用いることができる。
【0014】
さらに本発明の樹脂組成物からなる層を備える多層構造体は、着色が抑制されていることから、各種成形物として、例えば、食品、薬品、農薬等の包装材として好適に用いることができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
つぎに、本発明を実施するための形態について具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0016】
一般的に熱可塑性樹脂層を積層させた積層体は、その製造時に製品のクズ、端部等の不要部分や不良品、あるいはその成形物を各種用途に使用した後のゴミ等が発生する。そして、これらのゴミ等のスクラップは、回収品として、再利用されている。本発明の樹脂組成物は、上記回収品として再利用される際の樹脂組成物として好適に用いることができる。
【0017】
<樹脂組成物>
本発明の樹脂組成物は、親水性熱可塑性樹脂(A)、疎水性熱可塑性樹脂(B)および鉄化合物(C)を含有する。以下、各成分について説明する。
【0018】
[親水性熱可塑性樹脂(A)]
本発明において親水性熱可塑性樹脂(A)とは、例えば、水酸基、アミノ基、アミド基、カルボキシル基等の親水性基を有する熱可塑性樹脂であり、具体的にはEVOH樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂等があげられる。これらのなかでも、着色を抑制する観点からEVOH樹脂が好ましい。以下、本発明の好ましい親水性熱可塑性樹脂であるEVOH樹脂について説明する。
【0019】
〔EVOH樹脂〕
上記EVOH樹脂は、通常、エチレンとビニルエステル系モノマーとの共重合体であるエチレン-ビニルエステル系共重合体をケン化させることにより得られる樹脂であり、非水溶性の熱可塑性樹脂である。上記ビニルエステル系モノマーとしては、経済的な面から、一般的には酢酸ビニルが用いられる。
【0020】
エチレンとビニルエステル系モノマーとの重合法としては、公知の任意の重合法、例えば、溶液重合、懸濁重合、エマルジョン重合等を用いて行うことができるが、一般的にはメタノールを溶媒とする溶液重合が用いられる。得られたエチレン-ビニルエステル系共重合体のケン化も公知の方法で行い得る。
【0021】
このようにして製造されるEVOH樹脂は、エチレン由来の構造単位とビニルアルコール構造単位を主とし、ケン化されずに残存する若干量のビニルエステル構造単位を含むものである。
【0022】
上記ビニルエステル系モノマーとしては、市場入手性や製造時の不純物処理効率がよい点から、代表的には酢酸ビニルが用いられる。他のビニルエステル系モノマーとしては、例えばギ酸ビニル、プロピオン酸ビニル、バレリン酸ビニル、酪酸ビニル、イソ酪酸ビニル、ピバリン酸ビニル、カプリン酸ビニル、ラウリン酸ビニル、ステアリン酸ビニル、バーサチック酸ビニル等の脂肪族ビニルエステル、安息香酸ビニル等の芳香族ビニルエステル等があげられ、通常炭素数3~20、好ましくは炭素数4~10、特に好ましくは炭素数4~7の脂肪族ビニルエステルを用いることができる。これらは通常単独で用いるが、必要に応じて複数種を同時に用いてもよい。
【0023】
EVOH樹脂におけるエチレン構造単位の含有量は、ビニルエステル系モノマーとエチレンとを共重合させる際のエチレンの圧力によって制御することができ、通常20~60モル%、好ましくは25~50モル%、特に好ましくは25~35モル%である。かかる含有量が低すぎる場合は、高湿下のガスバリア性、溶融成形性が低下する傾向があり、逆に高すぎる場合は、ガスバリア性が低下する傾向がある。
なお、かかるエチレン構造単位の含有量は、ISO14663に基づいて測定することができる。
【0024】
EVOH樹脂におけるビニルエステル成分のケン化度は、エチレン-ビニルエステル系共重合体をケン化する際のケン化触媒(通常、水酸化ナトリウム等のアルカリ性触媒が用いられる)の量、温度、時間等によって制御でき、通常90~100モル%、好ましくは95~100モル%、特に好ましくは98~100モル%である。かかるケン化度が低すぎる場合にはガスバリア性、熱安定性、耐湿性等が低下する傾向がある。
かかるEVOH樹脂のケン化度は、JIS K6726(ただし、EVOH樹脂は水/メタノール溶媒に均一に溶解した溶液として用いる)に基づいて測定することができる。
【0025】
また、該EVOH樹脂のメルトフローレート(MFR)(210℃、荷重2160g)は、通常0.5~100g/10分であり、好ましくは1~50g/10分、特に好ましくは3~35g/10分である。かかるMFRが大きすぎる場合には、製膜時の安定性が損なわれる傾向があり、小さすぎる場合には粘度が高くなりすぎて溶融押出しが困難となる傾向がある。
かかるMFRは、EVOH樹脂の重合度の指標となるものであり、エチレンとビニルエステル系モノマーを共重合する際の重合開始剤の量や、溶媒の量によって調整することができる。
【0026】
本発明で用いられるEVOH樹脂には、本発明の効果を阻害しない範囲(例えば、EVOH樹脂の20モル%以下)で、以下に示すコモノマーに由来する構造単位が、さらに含まれていてもよい。上記コモノマーとしては、プロピレン、1-ブテン、イソブテン等のオレフィン類、3-ブテン-1-オール、3-ブテン-1,2-ジオール、4-ペンテン-1-オール、5-ヘキセン-1,2-ジオール等のヒドロキシ基含有α-オレフィン類やそのエステル化物、アシル化物等の誘導体;2-メチレンプロパン-1,3-ジオール、3-メチレンペンタン-1,5-ジオール等のヒドロキシアルキルビニリデン類;1,3-ジアセトキシ-2-メチレンプロパン、1,3-ジプロピオニルオキシ-2-メチレンプロパン、1,3-ジブチリルオキシ-2-メチレンプロパン等のヒドロキシアルキルビニリデンジアセテート類;アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、(無水)フタル酸、(無水)マレイン酸、(無水)イタコン酸等の不飽和酸類あるいはその塩あるいは炭素数1~18のモノまたはジアルキルエステル類;アクリルアミド、炭素数1~18のN-アルキルアクリルアミド、N,N-ジメチルアクリルアミド、2-アクリルアミドプロパンスルホン酸あるいはその塩、アクリルアミドプロピルジメチルアミンあるいはその酸塩あるいはその4級塩等のアクリルアミド類;メタアクリルアミド、炭素数1~18のN-アルキルメタクリルアミド、N,N-ジメチルメタクリルアミド、2-メタクリルアミドプロパンスルホン酸あるいはその塩、メタクリルアミドプロピルジメチルアミンあるいはその酸塩あるいはその4級塩等のメタクリルアミド類;N-ビニルピロリドン、N-ビニルホルムアミド、N-ビニルアセトアミド等のN-ビニルアミド類;アクリルニトリル、メタクリルニトリル等のシアン化ビニル類;炭素数1~18のアルキルビニルエーテル、ヒドロキシアルキルビニルエーテル、アルコキシアルキルビニルエーテル等のビニルエーテル類;塩化ビニル、塩化ビニリデン、フッ化ビニル、フッ化ビニリデン、臭化ビニル等のハロゲン化ビニル化合物類;トリメトキシビニルシラン等のビニルシラン類;酢酸アリル、塩化アリル等のハロゲン化アリル化合物類;アリルアルコール、ジメトキシアリルアルコール等のアリルアルコール類;トリメチル-(3-アクリルアミド-3-ジメチルプロピル)-アンモニウムクロリド、アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸等のコモノマーがあげられる。これらは単独でもしくは2種以上併せて用いることができる。
【0027】
特に、側鎖に1級水酸基を有するEVOH樹脂は、ガスバリア性を保持しつつ二次成形性が良好になる点で好ましく、なかでも、ヒドロキシ基含有α-オレフィン類を共重合したEVOH樹脂が好ましく、特には、1,2-ジオール構造を側鎖に有するEVOH樹脂が好ましい。特に、側鎖に1級水酸基を有する場合、その含有量は、EVOH樹脂の通常0.1~20モル%、さらには0.5~15モル%、特には1~10モル%のものが好ましい。
【0028】
また、EVOH樹脂としては、ウレタン化、アセタール化、シアノエチル化、オキシアルキレン化等の「後変性」されたものであってもよい。
【0029】
さらに、本発明で使用されるEVOH樹脂は、異なる他のEVOH樹脂との混合物であってもよく、かかる他のEVOH樹脂としては、エチレン構造単位の含有量が異なるもの、ケン化度が異なるもの、重合度が異なるもの、共重合成分が異なるもの等をあげることができる。
【0030】
親水性熱可塑性樹脂(A)中におけるEVOH樹脂の含有割合は、通常、60重量%以上、好ましくは70重量%以上、特に好ましくは80重量%以上である。EVOH樹脂の含有割合が少なすぎる場合は、着色抑制効果が不充分となる傾向がある。なお、親水性熱可塑性樹脂(A)中におけるEVOH樹脂の含有割合の上限は、通常100重量%である。
【0031】
[疎水性熱可塑性樹脂(B)]
本発明において疎水性熱可塑性樹脂(B)とは、前記の親水性熱可塑性樹脂(A)が有するような親水性基を有さない熱可塑性樹脂であり、具体的には、例えば、ポリオレフィン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリアクリル系樹脂、アイオノマー、エチレン-アクリル酸共重合体、エチレン-アクリル酸エステル共重合体、エチレン-メタクリル酸共重合体、エチレン-メタクリル酸エステル共重合体、ポリ塩化ビニリデン、ビニルエステル系樹脂、ポリエステルエラストマー、ポリウレタンエラストマー、塩素化ポリエチレン、塩素化ポリプロピレン等があげられる。これらは、単独でもしくは2種以上併せて用いることができる。なかでも着色の抑制の観点からポリオレフィン系樹脂が好ましい。以下、本発明の好適な疎水性熱可塑性樹脂であるポリオレフィン系樹脂について説明する。
【0032】
上記ポリオレフィン系樹脂としては、公知一般のポリオレフィン系樹脂を用いることができ、例えば、直鎖状低密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、超低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、エチレン-プロピレン(ブロックおよびランダム)共重合体、エチレン-α-オレフィン(炭素数4~20のα-オレフィン)共重合体等のポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン、プロピレン-α-オレフィン(炭素数4~20のα-オレフィン)共重合体等のポリプロピレン系樹脂、ポリブテン、ポリペンテン、ポリ環状オレフィン系樹脂(環状オレフィン構造を主鎖および側鎖の少なくとも一方に有する重合体)等のポリオレフィン系樹脂をあげることができる。これらは、単独でもしくは2種以上併せて用いられ、なかでも、ポリエチレン、エチレン-酢酸ビニル共重合体(EVA)、エチレン-プロピレン(ブロックまたはランダム)共重合体、ポリプロピレン(PP)およびこれらのブレンド物が、経済性や機械的特性の点で好ましく、さらにポリエチレン、ポリプロピレン(PP)やエチレン-プロピレン(ブロックまたはランダム)共重合体が、リグラインド層の着色をより一層抑制し、本発明の効果を高める点から、特に好ましい。
【0033】
上記ポリオレフィン系樹脂のメルトフローレート(MFR)(230℃、荷重2160g)は、通常0.1~50g/10分であり、さらには0.5~30g/10分程度のものが好ましい。
【0034】
疎水性熱可塑性樹脂(B)中におけるポリオレフィン系樹脂の含有割合は、通常、50重量%以上、好ましくは60重量%以上、特に好ましくは70重量%以上である。ポリオレフィン系樹脂の含有割合が少なすぎる場合は、着色抑制効果が不充分となる傾向がある。なお、疎水性熱可塑性樹脂(B)中におけるポリオレフィン系樹脂の含有割合の上限は、通常100重量%である。
【0035】
また、疎水性熱可塑性樹脂(B)に対する上記親水性熱可塑性樹脂(A)の重量含有比率(親水性熱可塑性樹脂(A)/疎水性熱可塑性樹脂(B))は、0/10~1/99であり、好ましくは70/0~2/98であり、特に好ましくは50/50~3/97である。重量配合比率が上記範囲外であると着色抑制効果が不充分となる傾向がある。
【0036】
[鉄化合物(C)]
本発明の樹脂組成物は、上記親水性熱可塑性樹脂(A)および疎水性熱可塑性樹脂(B)に加え鉄化合物(C)を含有し、かつこの鉄化合物(C)の含有量が特定微量であることを特徴とする。本発明の樹脂組成物は、上記のような構成を有するため、着色を抑制することができる。
【0037】
一般的に、親水性熱可塑性樹脂層と疎水性熱可塑性樹脂層とを有する多層構造体の回収物をリグラインド層として再利用する際には、樹脂組成物が着色する傾向がある。これは、熱により親水性熱可塑性樹脂が有する官能基(EVOH樹脂が有する水酸基や重合末端のカルボキシ基、ポリアミド系樹脂が有するアミド結合やアミノ基、カルボキシ基)等の反応性の高い部位が縮合や分解等の反応を起こし、かかる反応によりラジカルが発生する等して、疎水性熱可塑性樹脂の劣化を引き起こすためと考えられる。
【0038】
また、鉄化合物(C)を含有する樹脂組成物は、鉄イオンにより製品が着色すると考えられるため、当業者であれば通常避けるものである。しかしながら本発明では、予想外にも、特定微量の鉄化合物(C)を樹脂組成物に含有させることにより、加熱後の着色が抑制された樹脂組成物が得られることを見出した。
【0039】
上記のような効果が得られる理由としては、鉄は微量であっても上記のような水酸基やカルボキシル基、アミド結合やアミノ基等の複数の官能基とイオン結合やキレートを形成し、3価のイオンとして安定化する。そのため上記反応が抑制され、着色を抑制することができるものと推測される。
【0040】
なお、かかる鉄化合物(C)は、樹脂組成物中で、例えば、酸化物、水酸化物、塩化物、鉄塩として存在する場合の他、イオン化した状態、あるいは樹脂や他の配位子との相互作用による錯体の状態で存在していてもよい。上記酸化物としては、例えば、酸化第二鉄、四三酸化鉄、亜酸化鉄等があげられる。上記塩化物としては、例えば、塩化第一鉄、塩化第二鉄等があげられる。上記水酸化物としては、例えば、水酸化第一鉄、水酸化第二鉄等があげられる。上記鉄塩としては、例えば、リン酸鉄、硫酸鉄等の無機塩やカルボン酸(酢酸、酪酸、ステアリン酸等)鉄等の有機塩があげられる。これらは単独でもしくは2種以上併せて用いてもよい。
【0041】
上記鉄化合物(C)は、樹脂組成物における分散性の点で水溶性であることが好ましい。また、分散性と生産性の観点から、その分子量は通常100~10000、好ましくは100~1000、特に好ましくは100~500である。
【0042】
本発明の樹脂組成物は、樹脂組成物の重量あたり鉄化合物(C)を金属換算で通常0.0001~20ppm含有する。かかる鉄化合物(C)の含有量は、好ましくは0.0005~5ppmであり、特に好ましくは0.001~0.5ppm、殊に好ましくは0.001~0.05ppmである。鉄化合物(C)の含有量が少なすぎると着色抑制効果が不充分となり、多すぎると溶融時の経時的な増粘傾向が顕著になる。
【0043】
ここで、鉄化合物(C)の含有量は、樹脂組成物0.5gを赤外線加熱炉で灰化処理(酸素気流中650℃、1時間)後、残った灰分を酸溶解し純水で定容したものを試料溶液として、ICP-MS(Agilent Technologies社製、7500ce型;標準添加法)で測定することにより求めることができる。
【0044】
また、親水性熱可塑性樹脂(A)と鉄化合物(C)との重量比率は、親水性熱可塑性樹脂(A)100重量部に対し、鉄化合物(C)が金属換算で通常、0.000001~0.002重量部であり、好ましくは0.000003~0.001重量部であり、特に好ましくは0.000005~0.0005重量部である。重量比率が少なすぎると着色抑制効果が不充分となる傾向があり、逆に多すぎると成形物が着色する傾向がある。
【0045】
〔リグラインド助剤〕
積層体のスクラップ等から本発明の樹脂組成物を製造する場合は、リグラインド助剤として、従来公知のものを、さらに含有してもよい。上記リグラインド助剤としては、例えば、エチレン-酢酸ビニル系共重合体、エチレン含有率70モル%以上のエチレン-酢酸ビニル系共重合体ケン化物、ハイドロタルサイト類、炭素数12~30の高級脂肪酸金属塩、共役ポリエン化合物等があげられる。これらの化合物は、単独でもしくは2種以上併せて用いることができる。
【0046】
〔他の配合剤〕
本発明の樹脂組成物には、本発明の効果を阻害しない範囲において、一般に熱可塑性樹脂に配合する配合剤が含有されていてもよい。例えば、無機複塩、可塑剤(例えば、エチレングリコール、グリセリン、ヘキサンジオール等の脂肪族多価アルコール等)、酸素吸収剤[例えば、アルミニウム粉、亜硫酸カリウム、光触媒酸化チタン等の無機系酸素吸収剤;アスコルビン酸、さらにその脂肪酸エステルや金属塩等、ハイドロキノン、没食子酸、水酸基含有フェノールアルデヒド樹脂等の多価フェノール類、ビス-サリチルアルデヒド-イミンコバルト、テトラエチレンペンタミンコバルト、コバルト-シッフ塩基錯体、ポルフィリン類、大環状ポリアミン錯体、ポリエチレンイミン-コバルト錯体等の含窒素化合物と鉄以外の遷移金属との配位結合体、テルペン化合物、アミノ酸類とヒドロキシル基含有還元性物質との反応物、トリフェニルメチル化合物等の有機化合物系酸素吸収剤;窒素含有樹脂と鉄以外の遷移金属との配位結合体(例えば、メタキシレンジアミン(MXD)ナイロンとコバルトの組合せ)、三級水素含有樹脂と鉄以外の遷移金属とのブレンド物(例えば、ポリプロピレンとコバルトとの組合せ)、炭素-炭素不飽和結合含有樹脂と鉄以外の遷移金属とのブレンド物(例えば、ポリブタジエンとコバルトとの組合せ)、光酸化崩壊性樹脂(例えば、ポリケトン)、アントラキノン重合体(例えば、ポリビニルアントラキノン)等や、さらにこれらの配合物に光開始剤(ベンゾフェノン等)や過酸化物捕捉剤(市販の酸化防止剤等)や消臭剤(活性炭等)を添加したもの等の高分子系酸素吸収剤]、熱安定剤、光安定剤、紫外線吸収剤、着色剤、帯電防止剤、界面活性剤(ただし、滑剤として用いるものを除く)、抗菌剤、アンチブロッキング剤、充填材(例えば無機フィラー等)等を配合してもよい。これらの化合物は、単独でもしくは2種以上併せて用いることができる。
【0047】
[樹脂組成物の製造]
本発明の樹脂組成物の原料としては、親水性熱可塑性樹脂(A)および疎水性熱可塑性樹脂(B)からなる層を含有する多層構造体のスクラップ等の回収物を用いることが好ましい。場合によって、各種包装材として使用済みの該多層構造体を利用することも可能である。また、一般に食品等の包装材として用いられている多層構造体は、親水性熱可塑性樹脂(A)および疎水性熱可塑性樹脂(B)からなる層以外にも、接着剤樹脂層やリグラインド層が含まれている。そのため本発明の樹脂組成物には、本発明の効果を阻害しない範囲(例えば、樹脂組成物中の30重量%以下)でこれらの接着剤樹脂層やリグラインド層が含まれていてもよい。以下、本発明の樹脂組成物の製造方法について、親水性熱可塑性樹脂(A)および疎水性熱可塑性樹脂(B)からなる層を含有する多層構造体の回収物を利用することを前提として説明する。
【0048】
多層構造体の製品製造時に発生するクズや端部等の不要部分(スクラップ)、廃棄物として回収された多層構造体の回収物は、通常、粉砕した後、必要に応じて篩等で粒度を調節し、本発明の樹脂組成物の原料として用いられる。
【0049】
上記回収物の粉砕にあたっては、公知の粉砕機を使用することにより行うことができる。この粉砕品の見かけ密度は、通常0.25~0.85g/mlであり、さらには0.3~0.7g/ml、特には0.35~0.6g/mlであることが好ましい。見掛け密度が小さすぎる場合、樹脂組成物層中の親水性熱可塑性樹脂(A)の分散が不良となり、得られる成形品の樹脂組成物層の溶融成形性や機械的特性が低下する傾向があり、大きすぎる場合、押出機での供給不良の発生によって得られる成形品のリグラインド層の溶融成形性が低下する傾向がある。なお、上記の見かけ密度は、JIS K6891の「5.3見かけ密度」試験方法に準拠して測定される値である。
【0050】
上記見かけ密度については、粉砕機の粉砕刃の形状、粉砕刃の回転数、粉砕の処理速度、篩として使用するメッシュの目開きの大きさ等を任意に調整することにより、コントロールすることが可能である。また、粉砕品の形状や粒径については、公知の手法で調整することが可能である。
【0051】
本発明の樹脂組成物は、親水性熱可塑性樹脂(A)および疎水性熱可塑性樹脂(B)を含有する多層構造体の回収品の粉砕品(以下、「粉砕品」と称する。)に、鉄化合物(C)成分が、所定範囲で含有されるように調整することにより得られる。かかる粉砕品には、生産性の点から未再生品の疎水性熱可塑性樹脂(B)を配合することが好ましい。かかる樹脂組成物を製造する方法としては、例えば、ドライブレンド法、溶融混練法、溶液混合法、含浸法等の公知の方法があげられる。
【0052】
上記ドライブレンド法としては、例えば、(i)上記粉砕品と、鉄化合物(C)と所望により未再生品の疎水性熱可塑性樹脂(B)をタンブラー等を用いてドライブレンドする方法等があげられる。
【0053】
上記溶融混合法としては、例えば、(ii)上記(i)のドライブレンド物を溶融混練する方法や、(iii)溶融状態の上記粉砕品および所望により未再生品の疎水性熱可塑性樹脂(B)に鉄化合物(C)を添加して溶融混練する方法等があげられる。
【0054】
上記溶液混合法としては、例えば、(iv)上記粉砕品および所望により未再生品の疎水性熱可塑性樹脂(B)を用いて溶液を調製し、ここに鉄化合物(C)を配合し、凝固成形後、固液分離して乾燥する方法等があげられる。
【0055】
上記含浸法としては、例えば、(v)上記粉砕品および所望により未再生品の疎水性熱可塑性樹脂(B)を、鉄化合物(C)を含有する水溶液と接触させ、上記粉砕品および所望により未再生品の疎水性熱可塑性樹脂(B)中に鉄化合物(C)を含有させた後、乾燥する方法等をあげることができる。
【0056】
また、その他の方法としては、例えば(vi)前記リグラインド助剤に鉄化合物(C)を配合し、かかるリグラインド助剤と上記粉砕品とを溶融混練することにより親水性熱可塑性樹脂(A)、疎水性熱可塑性樹脂(B)および鉄化合物(C)を有する樹脂組成物を得る方法等があげられる。
【0057】
本発明においては、上記の異なる手法を組み合わせることが可能である。なかでも、生産性や本発明の効果がより顕著な樹脂組成物が得られる点で、溶融混合法が好ましく、特には(ii)の方法が好ましい。
【0058】
また、上記の各方法で用いられる鉄化合物(C)としては、前述のとおり、好ましくは、水溶性の鉄化合物が用いられ、例えば、酸化第二鉄、四三酸化鉄、亜酸化鉄等の酸化物、塩化第一鉄、塩化第二鉄等の塩化物、水酸化第一鉄、水酸化第二鉄等の水酸化物、リン酸鉄、硫酸鉄等の無機塩やカルボン酸(酢酸、酪酸、ステアリン酸等)鉄等の有機塩等の鉄塩があげられる。なお、かかる鉄化合物は、上述のとおり、樹脂組成物中で、上記の塩として存在する場合の他、イオン化した状態、あるいは樹脂や他の配位子との相互作用による錯体の状態で存在していてもよい。
【0059】
さらに、上記(v)の方法で用いられる鉄化合物(C)を含有する水溶液としては、上記鉄化合物(C)の水溶液や、鉄鋼材料を各種薬剤を含む水に浸漬することで鉄イオンを溶出させたものを用いることができる。なお、その場合、樹脂組成物中の鉄化合物(C)の含有量(金属換算)は、上記粉砕品を浸漬する水溶液中の鉄化合物(C)の濃度や浸漬温度、浸漬時間等によって制御することが可能である。上記浸漬温度、浸漬時間としては、通常、0.5~48時間、好ましくは1~36時間であり、浸漬温度は通常10~40℃、好ましくは20~35℃である。かかる浸漬後の上記粉砕品は公知の手法にて固液分離し、公知の乾燥方法にて乾燥する。かかる乾燥方法として、種々の乾燥方法を採用することが可能であり、静置乾燥、流動乾燥のいずれでもよい。また、これらを組み合わせて行うこともできる。
【0060】
また、上記粉砕品を含む樹脂組成物の鉄化合物(C)の含有量が、樹脂組成物の重量あたり金属換算にて20ppmを既に超えている場合は、下記の方法により鉄化合物(C)の含有量を調整することにより本発明の樹脂組成物を得ることができる。
【0061】
鉄化合物(C)の含有量を調整する方法としては、(I)上記粉砕品を、鉄化合物(C)を含まない、あるいは鉄化合物(C)を除去した抽剤に接触させ、上記粉砕品中の鉄化合物(C)を溶出させた後、乾燥する方法、(II)上記粉砕品を均一溶液とし、キレート剤を用いて鉄化合物(C)を捕捉・分離する方法、(III)未再生品の親水性熱可塑性樹脂(A)または未再生品の疎水性熱可塑性樹脂(B)を樹脂組成物に配合する方法等をあげることができる。
なかでも、工程が簡便であることから、通常は(III)の方法が用いられる。
【0062】
なお、本発明の樹脂組成物は、多層構造体の回収品を原料として用いる場合に限定されず、本発明に規定の配合組成を有するように公知一般の方法、例えば、ドライブレンド法、溶融混合法、溶液混合法、含浸法等を用いて未再生品の樹脂組成物を調製すればよく、そのようにして調製される樹脂組成物も、本発明に包含される。
【0063】
本発明の樹脂組成物の含水率は、通常、0.01~0.5重量%であり、好ましくは0.05~0.35重量%、特に好ましくは0.1~0.3重量%である。
【0064】
なお、本発明における樹脂組成物の含水率は以下の方法により測定・算出されるものである。
樹脂組成物の乾燥前重量(W1)を電子天秤にて秤量し、150℃の熱風乾燥機中で5時間乾燥させ、デシケーター中で30分間放冷後の重量(W2)を秤量し、下記式より算出する。
含水率(重量%)=[(W1-W2)/W1]×100
【0065】
このようにして得られた樹脂組成物は、そのまま溶融成形に供することが可能であるが、溶融成形時のフィード性を安定させる点で、公知の滑剤を含有させることも好ましい。 上記滑剤の種類としては、例えば、炭素数12以上の高級脂肪酸(例えば、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ベヘニン酸、オレイン酸等)、高級脂肪酸エステル(例えば、高級脂肪酸のメチルエステル、イソプロピルエステル、ブチルエステル、オクチルエステル等)、高級脂肪酸アミド(例えば、ラウリン酸アミド、ミリスチン酸アミド、パルミチン酸アミド、ステアリン酸アミド、ベヘニン酸アミド、オレイン酸アミド等の飽和高級脂肪酸アミド;オレイン酸アミド、エルカ酸アミド等の不飽和高級脂肪酸アミド、エチレンビスステアリン酸アミド、エチレンビスオレイン酸アミド、エチレンビスエルカ酸アミド、エチレンビスラウリン酸アミド等のビス高級脂肪酸アミド等)、低分子量ポリオレフィン(例えば、分子量500~10000程度の低分子量ポリエチレン、または低分子量ポリプロピレン等、またはその酸変性品)、炭素数6以上の高級アルコール、エステルオリゴマー、フッ化エチレン樹脂等があげられる。これらの化合物は、単独でもしくは2種以上併せて用いることができる。また、かかる滑剤の含有量は、通常、樹脂組成物の5重量%以下、好ましくは1重量%以下である。
【0066】
本発明の樹脂組成物は、粉末状や液体状といった、さまざまな形態の樹脂組成物として調製され、各種の成形物の溶融成形用材料として提供される。特に本発明においては、溶融成形用の材料として提供される場合、本発明の効果がより効率的に得られる傾向があり好ましい。なお、本発明の樹脂組成物には、本発明の樹脂組成物に用いられる親水性熱可塑性樹脂(A)および疎水性熱可塑性樹脂(B)以外の樹脂を混合して得られる樹脂組成物も含まれる。
【0067】
そして、かかる成形物としては、本発明の樹脂組成物を用いて成形された単層フィルムをはじめとして、本発明の樹脂組成物を用いて成形された層を有する多層構造体として実用に供することができる。
【0068】
[多層構造体]
本発明の多層構造体は、上記本発明の樹脂組成物からなる層を備えるものである。本発明の樹脂組成物からなる層(以下、「樹脂組成物層」と称する。)は、本発明の樹脂組成物以外の熱可塑性樹脂を主成分とする他の基材(以下、「基材樹脂」と称する。)と積層することで、さらに強度を付与したり、他の機能を付与することができる。
【0069】
上記基材樹脂としては、例えば、直鎖状低密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、超低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、エチレン-プロピレン(ブロックおよびランダム)共重合体、エチレン-α-オレフィン(炭素数4~20のα-オレフィン)共重合体等のポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン、プロピレン-α-オレフィン(炭素数4~20のα-オレフィン)共重合体等のポリプロピレン系樹脂、ポリブテン、ポリペンテン、ポリ環状オレフィン系樹脂(環状オレフィン構造を主鎖および側鎖の少なくとも一方に有する重合体)等の(未変性)ポリオレフィン系樹脂や、これらのポリオレフィン類を不飽和カルボン酸又はそのエステルでグラフト変性した不飽和カルボン酸変性ポリオレフィン系樹脂等の変性オレフィン系樹脂を含む広義のポリオレフィン系樹脂、アイオノマー、エチレン-酢酸ビニル共重合体、エチレン-アクリル酸共重合体、エチレン-アクリル酸エステル共重合体、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂(共重合ポリアミドも含む)、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、アクリル系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ビニルエステル系樹脂、ポリエステル系エラストマー、ポリウレタン系エラストマー、ポリスチレン系エラストマー、塩素化ポリエチレン、塩素化ポリプロピレン等のハロゲン化ポリオレフィン、芳香族または脂肪族ポリケトン類等があげられる。これらは単独でもしくは2種以上併せて用いてもよい。
【0070】
これらのうち、経済性と生産性の点でポリアミド系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリスチレン系樹脂が好ましく、より好ましくは、ポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、ポリ環状オレフィン系樹脂およびこれらの不飽和カルボン酸変性ポリオレフィン系樹脂等のポリオレフィン系樹脂である。
【0071】
多層構造体の層構成は、本発明の樹脂組成物層をR、親水性熱可塑性樹脂(A)層をa(a1、a2、・・・)、基材樹脂層をb(b1、b2、・・・)とするとき、b/R/a、b/R/a/b、b/R/a/R/b、b/a/R/a/b、b/R/a/R/a/R/b等とすることも可能である。また、該多層構造体を製造する過程で発生する端部や不良品等を再溶融成形して得られる、本発明の樹脂組成物と基材樹脂との混合物を含むリサイクル層設けることが可能である。多層構造体の層の数はのべ数にて通常2~15、好ましくは3~10である。上記の層構成において、それぞれの層間には、必要に応じて接着性樹脂を含有する接着性樹脂層を介してもよい。
【0072】
上記接着性樹脂としては、公知のものを使用でき、基材樹脂層「b」に用いる熱可塑性樹脂の種類に応じて適宜選択すればよい。代表的には不飽和カルボン酸またはその無水物をポリオレフィン系樹脂に付加反応やグラフト反応等により化学的に結合させて得られるカルボキシル基を含有する変性ポリオレフィン系重合体をあげることができる。上記カルボキシル基を含有する変性ポリオレフィン系重合体としては、例えば、無水マレイン酸グラフト変性ポリエチレン、無水マレイン酸グラフト変性ポリプロピレン、無水マレイン酸グラフト変性エチレン-プロピレン(ブロックおよびランダム)共重合体、無水マレイン酸グラフト変性エチレン-エチルアクリレート共重合体、無水マレイン酸グラフト変性エチレン-酢酸ビニル共重合体、無水マレイン酸変性ポリ環状オレフィン系樹脂、無水マレイン酸グラフト変性ポリオレフィン系樹脂等があげられる。そして、これらから選ばれた1種または2種以上の混合物を用いることができる。
【0073】
多層構造体において、本発明の樹脂組成物層と基材樹脂層との間に、接着性樹脂層を用いる場合、接着性樹脂層が樹脂組成物層の両側に位置することから、疎水性に優れた接着性樹脂を用いることが好ましい。
【0074】
上記基材樹脂、接着性樹脂には、本発明の趣旨を阻害しない範囲(例えば、樹脂全体に対して、30重量%以下、好ましくは10重量%以下)において、従来知られているような可塑剤、フィラー、クレー(モンモリロナイト等)、着色剤、酸化防止剤、帯電防止剤、滑剤、核材、ブロッキング防止剤、ワックス等を含んでいてもよい。これらは単独でもしくは2種以上併せて用いてもよい。
【0075】
本発明の樹脂組成物と上記基材樹脂との積層(接着性樹脂層を介在させる場合を含む)は、公知の方法にて行うことができる。例えば、本発明の樹脂組成物のフィルム、シート等に基材樹脂を溶融押出ラミネートする方法、基材樹脂層に本発明の樹脂組成物を溶融押出ラミネートする方法、樹脂組成物と基材樹脂とを共押出する方法、樹脂組成物層と基材樹脂層とを有機チタン化合物、イソシアネート化合物、ポリエステル系化合物、ポリウレタン化合物等の公知の接着剤を用いてドライラミネートする方法、基材樹脂上に樹脂組成物の溶液を塗工してから溶媒を除去する方法等があげられる。これらのなかでも、コストや環境の観点から、共押出する方法が好ましい。
【0076】
上記の如き多層構造体は、ついで必要に応じて(加熱)延伸処理が施される。延伸処理は、一軸延伸、二軸延伸のいずれであってもよく、二軸延伸の場合は同時延伸であっても逐次延伸であってもよい。また、延伸方法としてはロール延伸法、テンター延伸法、チューブラー延伸法、延伸ブロー法、真空圧空成形等のうち延伸倍率の高いものも採用できる。延伸温度は、多層構造体の融点近傍の温度で、通常40~170℃、好ましくは60~160℃程度の範囲から選ばれる。延伸温度が低すぎる場合は延伸性が不良となり、高すぎる場合は安定した延伸状態を維持することが困難となる。
【0077】
なお、延伸後に寸法安定性を付与することを目的として、ついで熱固定を行ってもよい。熱固定は周知の手段で実施可能であり、例えば上記延伸フィルムを緊張状態を保ちながら通常80~180℃、好ましくは100~165℃で通常2~600秒間程度熱処理を行う。また、本発明の樹脂組成物から得られた多層延伸フィルムをシュリンク用フィルムとして用いる場合には、熱収縮性を付与するために、上記の熱固定を行わず、例えば延伸後のフィルムに冷風を当てて冷却固定する等の処理を行えばよい。
【0078】
また、場合によっては、本発明の多層構造体を用いてカップやトレイ状の多層容器を得ることも可能である。その場合は、通常絞り成形法が採用され、具体的には真空成形法、圧空成形法、真空圧空成形法、プラグアシスト式真空圧空成形法等があげられる。更に多層パリソン(ブロー前の中空管状の予備成形物)からチューブやボトル状の多層容器(積層体構造)を得る場合はブロー成形法が採用される。具体的には、押出ブロー成形法(双頭式、金型移動式、パリソンシフト式、ロータリー式、アキュムレーター式、水平パリソン式等)、コールドパリソン式ブロー成形法、射出ブロー成形法、二軸延伸ブロー成形法(押出式コールドパリソン二軸延伸ブロー成形法、射出式コールドパリソン二軸延伸ブロー成形法、射出成形インライン式二軸延伸ブロー成形法等)等があげられる。得られる積層体は必要に応じ、熱処理、冷却処理、圧延処理、印刷処理、ドライラミネート処理、溶液または溶融コート処理、製袋加工、深絞り加工、箱加工、チューブ加工、スプリット加工等を行うことができる。
【0079】
多層構造体(延伸したものを含む)の厚み、更には多層構造体を構成する樹脂組成物層、基材樹脂層および接着性樹脂層の厚みは、層構成、基材樹脂の種類、接着性樹脂の種類、用途や包装形態、要求される物性等により一概にいえないが、多層構造体(延伸したものを含む)の厚みは、通常10~5000μm、好ましくは30~3000μm、特に好ましくは50~2000μmである。樹脂組成物層は通常1~500μm、好ましくは3~300μm、特に好ましくは5~200μmであり、基材樹脂層は通常5~3000μm、好ましくは10~2000μm、特に好ましくは20~1000μmであり、接着性樹脂層は、通常0.5~250μm、好ましくは1~150μm、特に好ましくは3~100μmである。
【0080】
さらに、多層構造体における樹脂組成物層の基材樹脂層に対する厚みの比(樹脂組成物層/基材樹脂層)は、各層が複数ある場合は最も厚みの厚い層同士の比にて、通常1/99~50/50、好ましくは5/95~45/55、特に好ましくは10/90~40/60である。また、多層構造体における樹脂組成物層の接着性樹脂層に対する厚み比(樹脂組成物層/接着性樹脂層)は、各層が複数ある場合は最も厚みの厚い層同士の比にて、通常10/90~99/1、好ましくは20/80~95/5、特に好ましくは50/50~90/10である。
【0081】
上記の如く得られたフィルム、シート、延伸フィルムからなる袋およびカップ、トレイ、チューブ、ボトル等からなる容器や蓋材は、一般的な食品の他、マヨネーズ、ドレッシング等の調味料、味噌等の発酵食品、サラダ油等の油脂食品、飲料、化粧品、医薬品等の各種の包装材料容器として有用である。特に、本発明の樹脂組成物からなる層は、着色が抑制されていることから、食品、薬品、農薬等の熱水殺菌処理用包装材として特に有用である。
【実施例
【0082】
以下、実施例をあげて本発明を具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、実施例の記載に限定されるものではない。
尚、例中「部」とあるのは、断りのない限り重量基準を意味する。また、実施例のうち「実施例3」は「参考例」である。
【0083】
実施例に先立って以下の親水性熱可塑性樹脂(A)および疎水性熱可塑性樹脂(B)のペレットを準備し、それぞれのペレットに含まれている鉄化合物(C)の含有量を測定した。
・親水性熱可塑性樹脂(A):エチレン構造単位の含有量29モル%、ケン化度99.6モル%、MFR3.9g/10分(210℃、荷重2160g)のエチレン-ビニルアルコール共重合体
・疎水性熱可塑性樹脂(B):ポリプロピレン(三菱ケミカル社製、「ノバテックEA9」)
【0084】
[鉄化合物(C)の含有量の測定]
上記親水性熱可塑性樹脂(A)および疎水性熱可塑性樹脂(B)の各ペレットを粉砕したサンプル0.5gを赤外線加熱炉で灰化処理(酸素気流中650℃、1時間)し、灰分を酸溶解して純水で定容したものを試料溶液とした。この溶液を下記のICP-MS(Agilent Technologies社製、ICP質量分析装置 7500ce型)を用いて標準添加法で測定した。その結果、共に鉄化合物(C)の含有量は、金属換算にて0ppmであった。
【0085】
<実施例1>
上記親水性熱可塑性樹脂(A)のペレット5部と、上記疎水性熱可塑性樹脂(B)のペレット95部と、鉄化合物(C)としてリン酸鉄(III)n水和物(和光純薬工業社製、230℃加熱時の乾燥減量 20.9重量%)0.000034部(樹脂組成物の重量あたり金属換算にて0.1ppm)をプラストグラフ(ブラベンダー社製)にて、230℃において5分間予熱したのち5分間溶融混練し、実施例1の樹脂組成物を得た。得られた樹脂組成物を、粉砕機(ソメタニ産業社製、SKR16-240)で650rpmにて粉砕して粉砕物を得た。かかる粉砕物は、1~5mm角の小片であった。
【0086】
<実施例2>
実施例1において、リン酸鉄(III)n水和物の配合量を0.00034部(樹脂組成物の重量あたり金属換算にて1ppm)に変更した以外は、実施例1と同様にして実施例2の樹脂組成物およびその粉砕物を得た。
【0087】
<実施例3>
実施例1において、リン酸鉄(III)n水和物の配合量を0.0034部(樹脂組成物の重量あたり金属換算にて10ppm)に変更した以外は、実施例1と同様にして実施例3の樹脂組成物およびその粉砕物を得た。
【0088】
<実施例4>
実施例1において、リン酸鉄(III)n水和物の配合量を0.0000017部(樹脂組成物の重量あたり金属換算にて0.005ppm)に変更した以外は、実施例1と同様にして実施例4の樹脂組成物およびその粉砕物を得た。
【0089】
<比較例1>
実施例1において、りん酸鉄(III)n水和物を配合しなかった以外は、実施例1と同様にして比較例1の樹脂組成物およびその粉砕物を得た。
【0090】
下記に示す方法により実施例1~4および比較例1の樹脂組成物の着色評価を行った。結果を下記表1に示す。
【0091】
[着色評価]
上記の樹脂組成物の粉砕物をサンプルとし、日本電色工業社製の分光色差計(SE6000)にてYI値を測定した。このとき、内径32mm高さ30mmの円筒にサンプルを充填し擦りきった状態で測定に供した。また、かかるサンプルを空気雰囲気下のオーブン内で150℃、5時間加熱処理したサンプルについても同様に測定した。かかるYI値が低い場合は、樹脂組成物が着色していないことを意味し、YI値が低いほど好ましい。
【0092】
【表1】
【0093】
鉄化合物(C)を含有する実施例1~4で得られた樹脂組成物は、鉄化合物(C)を含有しない比較例1よりもYI値が低く、着色が抑制されていた。また、かかる樹脂組成物を加熱した後の着色性についても、比較例1より実施例1~4のほうがYI値が低く、着色が抑制されていた。
【産業上の利用可能性】
【0094】
本発明の樹脂組成物は、熱劣化による着色が抑制されていることから、各種食品の他、マヨネーズ、ドレッシング等の調味料、味噌等の発酵食品、サラダ油等の油脂食品、飲料、化粧品、医薬品等の各種の包装材料として特に有用である。