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特許7425414セメンチング組成物用シリカ系添加剤、セメンチング組成物及びセメンチング方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-23
(45)【発行日】2024-01-31
(54)【発明の名称】セメンチング組成物用シリカ系添加剤、セメンチング組成物及びセメンチング方法
(51)【国際特許分類】
   C04B 28/02 20060101AFI20240124BHJP
   C04B 22/06 20060101ALI20240124BHJP
   C01B 33/142 20060101ALI20240124BHJP
   C09K 8/473 20060101ALI20240124BHJP
【FI】
C04B28/02 ZAB
C04B22/06 A
C01B33/142
C09K8/473
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020547956
(86)(22)【出願日】2019-05-29
(86)【国際出願番号】 JP2019021383
(87)【国際公開番号】W WO2020059213
(87)【国際公開日】2020-03-26
【審査請求日】2022-01-21
(31)【優先権主張番号】P 2018173939
(32)【優先日】2018-09-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003986
【氏名又は名称】日産化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001999
【氏名又は名称】弁理士法人はなぶさ特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】村上 智
(72)【発明者】
【氏名】木全 政樹
(72)【発明者】
【氏名】太田 勇夫
【審査官】小川 武
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2015/0322328(US,A1)
【文献】特開2013-224225(JP,A)
【文献】国際公開第2015/151714(WO,A1)
【文献】特開2011-173779(JP,A)
【文献】特開2012-111869(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2014/0332217(US,A1)
【文献】材料名:非晶質コロイダルシリカ 事業者名:日産化学工業株式会社,ナノマテリアル情報提供シート,2016年06月,全5頁
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B2/00-32/02
C04B40/00-40/06
C04B103/00-111/94
C01B 33/14-33/159
C09K 8/473
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
油田及びガス油田のセメンチング用セメントスラリーにおいて、100℃以上300℃以下の高温・高圧環境下で該スラリーからの遊離水の発生を抑制するシリカ系添加剤であって、2.15g/cm以上2.30g/cm未満の真密度を有し、窒素吸着による比表面積値(BET(N))が10~500m/gであり、水蒸気吸着による比表面積値(BET(HO))が5~65m/gであり、前記水蒸気吸着による比表面積値と前記窒素吸着による比表面積値の比[BET(HO)/BET(N)]が0.1~1.3であるナノシリカ粒子を含有する水性シリカゾルを含み、
前記ナノシリカ粒子は、BET(N )から算出された等価球換算粒子径が20nm~100nmであり、動的光散乱法による粒子径が30nm~200nmである
シリカ系添加剤。
【請求項2】
前記ナノシリカ粒子は、固体29Si-NMRで測定されるシリカのQ4値が35~80モル%である、請求項1に記載のシリカ系添加剤。
【請求項3】
油井セメント100部に対して、請求項1又は請求項2に記載のシリカ系添加剤を、シリカ固形分として0.1%~10%BWOC(BWOCは、セメントの乾燥固形分に基づく質量%を意味する)の割合で含有することを特徴とする、
セメンチング用セメントスラリー。
【請求項4】
油井セメント100部に対して、請求項1又は請求項2に記載のシリカ系添加剤を、シリカ固形分として0.1%~10%BWOCの割合で、水を30~60%BWOCの割合で、セメント遅硬剤を0.1~5%BWOCの割合で、及びその他の添加剤を0.001~10%BWOCの割合で、それぞれ含有するセメンチング用セメントスラリーであって、前記その他の添加剤は脱水調整剤、消泡剤、速硬剤、低比重骨材、高比重骨材、セメント分散剤、セメント強度安定剤、及び逸泥防止剤からなる群より選ばれた少なくとも1種類の添加剤である、セメンチング用セメントスラリー。
【請求項5】
油田又はガス油田の掘削において、100℃以上300℃以下の高温・高圧環境下から石油又はガスを採掘するにあたり、地層とケーシングパイプとの空隙部を油井セメントで充填するためのセメンチング用セメントスラリーとして、請求項又は請求項に記載のセメンチング用セメントスラリーを用いることを特徴とする、セメンチング工法。
【請求項6】
請求項又は請求項に記載のセメンチング用セメントスラリーを坑井中に導入する工程、及び
前記セメンチング用セメントスラリーを凝結させる工程
を含む、セメンチング方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高温・高圧の環境にある油田及びガス油田のフィールドの坑井掘削時に使用するセメンチング用セメントスラリーにおいて、該スラリーからの遊離水の発生を抑制することにより優れた流動性と強度を実現するセメントスラリー用のシリカ系添加剤に関する。
【背景技術】
【0002】
油田やガス田等の坑井掘削では、坑井仕上の際、坑井内に内枠として挿入したケーシング・パイプの固定や補強、腐食防止、また地下水の坑井内への流入防止のため、ケーシング・パイプと地層(坑壁)との空隙(環状の間隙:annulas(アニュラス)などとも称されることがある)にセメントスラリーを注入するセメンチング作業が実施される。セメンチングとは、坑井内の様々な箇所、あるいはケーシング内・外に、セメント及び水あるいは添加剤を含む溶解水で作られたセメントスラリーを適用すること指し、プライマリー及びセカンダリーセメンチングに分別される。プライマリーセメンチングは、前述したように、ケーシング降下後にケーシングアニュラス部(外側)にセメントを充填するセメンチングを指し、通常のケーシングに際しては必ず実施される。またセカンダリーセメンチングは、その後の二次的なセメンチングであり、必要に応じて局所的に実施されるセメンチングを指す。
【0003】
油田やガス田等の坑井掘削は、ビット(削孔用具)による掘削作業と上記のセメンチング作業が繰り返し実施され、油井が深くなるに従い、作業現場の温度は上昇し、圧力も上昇することとなる。近年、掘削技術が向上し、深さ500~1000m以上の深層の油田及びガス油田層の掘削が行われており、高温・高圧環境下においてもセメンチングが可能となるセメントスラリーの設計が求められる。また近年、油田及びガス油田層の生産層を水平に掘り進んで生産量を増やすことができる、水平坑井の頻度が増している。水平坑井は、従来の垂直井、傾斜井と異なり、掘削中の泥水性状やセメンチングに使用するセメントスラリーデザインに注意を払う必要が生じている。
【0004】
セメンチング用セメントスラリーは、上述したような坑井条件に合わせて設計され、セメントと水に加え、セメント速硬剤、セメント遅硬剤、低比重骨材、高比重骨材、セメント分散剤、セメント脱水調整剤、セメント強度安定剤、逸泥防止剤などの添加剤を加えて調製される。
またセメンチングに使用されるセメント(油井セメント、地熱井セメントなどとも称する)は、一般構造用のセメントとは異なる要求性能を有し、例えば高温・高圧下でもスラリー流動性や強度発現性といった施工性と耐久性を備えることが要求される。
こうした要求性能を考慮した規格として、API規格(American Petroleum Institute(アメリカ石油協会)が定めた石油に関する規格)では、各種の油井セメントがクラス別・耐硫酸塩別に規定され、中でもクラスGセメントは、油井掘削用として最も使用されているセメントである。
しかし、上記のAPI規格を満たしていても、高温及び高圧の環境下では、セメントスラリーからの遊離水の発生量が増大し、その結果、セメントスラリーの流動性やセメント強度が損なわれるといった問題があり、上記の坑井環境下においても遊離水の発生を抑制できる手段が求められている。
【0005】
これまでに、セメントスラリーからの遊離水の発生を抑制する添加剤として、粒子径が3~20nm程度の水性シリカゾルやABS樹脂(アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合樹脂)やASA樹脂(アクリロニトリル-スチレン-アクリレート共重合樹脂)などのポリマーを用いた提案がある。
例えばコロイダルシリカ(シリカゾル)の添加により、セメントスラリーからの遊離水の抑制を図った提案として、特許文献1には、比表面積が約50m/g~1000m/gであるコロイダルシリカをセメントの乾燥重量に対して約1~約30%の割合で添加したセメントスラリーが開示されている。該スラリーは、25~91℃でコンディショニング(所定温度での養生)した後の遊離水が0%~3.2%であった点が開示されている。
特許文献2には、水硬性バインダー、水および0.05ないし3wt%のAlを含有するアルミニウム変性コロイドシリカを含有する建築材料(道路、トンネル、橋、建物、坑井セメント固着など)が開示されている。同文献には、比表面積が80~900m/gのアルミニウム変性コロイドシリカを含有したセメントスラリーが、良好な流動性を有し、遊離水が実質ゼロのスラリーであった点が開示されている(但し温度条件の開示はない)。
特許文献3には、セメント、比表面積が約110m/g~約260m/g、粒径1nm~100nmの疎水性ナノシリカ、少なくとも1種の添加剤および水を含む低比重ないし超低比重セメント組成物(セメントスラリー)が、高圧縮強度、低気孔率、低遊離水及び低脱水量、迅速なシックニング時間となった点が開示されている。例えば実施例3には、クラスHのセメントに、比表面積が180m/g、粒径20nmの疎水性ナノシリカをセメントの乾燥重量に対して5%、また115μmのガラス微粒子をセメントの乾燥重量に対して70%配合したセメントスラリーにおいて、25℃における遊離水が0ccであった点が開示されている。
また非特許文献1には、生産層を水平に掘削するケースが増加する中、生産層を水平に掘削する時の掘削泥水とセメントスラリーとの置換効率向上、およびスラリー中での材料分離(遊離液体を含めて)を低減する対策として、クラスGセメントに粒径0.05μm、比表面積500m/gのコロイダルシリカを添加(セメントスラリーの比重は1.89)し、水平部(長さ約1500m)にての実施工が行われた点が記載されている。
そして特許文献4には、セメント組成物の自由水(遊離水)を制御する揺変性添加剤(thixotropic additives)の具体例として、石膏、水溶性カルボキシアルキル、ヒドロキシアルキル、混合カルボキシアルキル/ヒドロキシアルキルのいずれものセルロース、多価金属塩、ヒドロキシエチルセルロースとのオキシ塩化ジルコニウム、またはこれらの組合せが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】米国特許第5,149,370号明細書
【文献】特許4146719号明細書
【文献】米国特許第8,834,624号明細書
【文献】特表2017-508709号公報
【非特許文献】
【0007】
【文献】Journal of the Society of Inorganic Materials,Japan 14巻 2007年 464頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
これまでに開示されている水性シリカゾル、例えば粒子径が3~20nm程度の水性シリカゾルは、105℃以上ではシリカゾルがゲル化し、また前述のポリマー材料は、ABS樹脂の耐熱温度が100℃程度、ASA樹脂は150℃程度とされ、150℃以上の高温環境下ではで遊離水の発生を抑制する効果が失われるとされている。上述の特許文献1乃至特許文献3や非特許文献1には、シリカの配合により遊離水の抑制を図った点は記載されているものの、150℃以上の温度環境下において遊離水の抑制が可能であったことは確認できない。
加えて特許文献3に記載された疎水性シリカは、一般に、有機溶媒に分散されたシリカゾルにおいて疎水性のシラン化合物による表面処理を施す必要があり、製造自体が高コストとなる他、水性であるセメントスラリーへの混和性が低くなることが懸念される。
さらに特許文献4に記載されている水溶性ヒドロキシアルキルセルロースであるヒドロキシエチルセルロースも融点が140℃であり、140℃を超えると遊離水の発生を抑制する効果が失われることが推測される。
【0009】
本発明は、油田及びガス油田のセメンチング用セメントスラリーに配合される添加剤を対象とするものであり、すなわち100℃以上、特に150℃以上もの高温環境下においてもセメントスラリーからの遊離水の発生を抑制できる添加剤及び該添加剤を配合してなるセメントスラリー処方を提供することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために本発明者らが鋭意検討した結果、2.15g/cm以上2.30g/cm未満の真密度を有するナノシリカ粒子を含有する水性シリカゾルを含むシリカ系添加剤が、これを添加したセメンチング用のセメントスラリーにおいて、100℃以上、特に150℃以上300℃以下といった高温・高圧環境下においても凝集することなく、優れた流動性を有し、セメントスラリーからの遊離水の発生を抑制し、高いセメント強度を発現でき、更に施工不備(セメントがやせ細り、空隙の充填が不十分となる)を抑制できることを見出した。
【0011】
即ち、本発明は、第1観点として、油田及びガス油田のセメンチング用セメントスラリーにおいて、100℃以上300℃以下の高温・高圧環境下で該スラリーからの遊離水の発生を抑制するシリカ系添加剤であって、2.15g/cm以上2.30g/cm未満の真密度を有するナノシリカ粒子を含有する水性シリカゾルを含む、シリカ系添加剤に関する。
第2観点として、前記ナノシリカ粒子は、窒素吸着による比表面積値(BET(N))が10~500m/gであり、水蒸気吸着による比表面積値(BET(HO))が5~65m/gである、第1観点に記載のシリカ系添加剤に関する。
第3観点として、前記ナノシリカ粒子は、固体29Si-NMRで測定されるシリカのQ4値が35~80モル%である、第1観点又は第2観点に記載のシリカ系添加剤に関する。
第4観点として、前記ナノシリカ粒子は、BET(N)から算出された等価球換算粒子径が5~100nmであり、動的光散乱法による粒子径が10~200nmである、第1観点乃至第3観点の何れか一項に記載のシリカ系添加剤に関する。
第5観点として、油井セメント100部に対して、第1観点乃至第4観点のうち何れか一項に記載のシリカ系添加剤を、シリカ固形分として0.1%~10%BWOC(BWOCは、セメントの乾燥固形分に基づく質量%を意味する)の割合で含有することを特徴とする、セメンチング用セメントスラリーに関する。
第6観点として、油井セメント100部に対して、第1観点乃至第4観点のうち何れか一項に記載のシリカ系添加剤を、シリカ固形分として0.1%~10%BWOCの割合で、水を30~60%BWOCの割合で、セメント遅硬剤を0.1~5%BWOCの割合で、及びその他の添加剤を0.001~10%BWOCの割合で、それぞれ含有するセメンチング用セメントスラリーであって、前記その他の添加剤は脱水調整剤、消泡剤、速硬剤、低比重骨材、高比重骨材、セメント分散剤、セメント強度安定剤、及び逸泥防止剤からなる群より選ばれた少なくとも1種類の添加剤である、セメンチング用セメントスラリーに関する。
第7観点として、油田又はガス油田の掘削において、100℃以上300℃以下の高温・高圧環境下から石油又はガスを採掘するにあたり、地層とケーシングパイプとの空隙部を油井セメントで充填するためのセメンチング用セメントスラリーとして、第5観点又は第6観点に記載のセメンチング用セメントスラリーを用いることを特徴とする、セメンチング工法に関する。
第8観点として、第5観点又は第6観点に記載のセメンチング用セメントスラリーを坑井中に導入する工程、及び
前記セメンチング用セメントスラリーを凝結させる工程
を含む、セメンチング方法に関する。
【発明の効果】
【0012】
本発明のシリカ系添加剤は、これを添加したセメンチング用セメントスラリーを、100℃以上、特に150℃以上300℃以下の高温・高圧油層における掘削時に使用したとき、セメントスラリーからの遊離水の発生を抑制することができ、且つ、優れた流動性を有するとともに高いセメント強度を実現し、また施工不備(例えば、セメントがやせ細って地層との隙間が埋められず、ケーシングの固定が不十分になる)を抑制することができる。
従って、本発明のシリカ系添加剤をセメンチング用セメントスラリーに用いることにより、高温・高圧環境下であっても、坑井仕上を安定して、生産性よく実施することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明のシリカ系添加剤は、2.15g/cm以上2.30g/cm未満の真密度を有するナノシリカ粒子を含有する水性シリカゾルを含むことを特徴とする。
以下、本発明のシリカ系添加剤について詳細に説明する。
【0014】
<ナノシリカ粒子を含有する水性シリカゾル>
水性シリカゾルは、水性溶媒を分散媒とし、コロイダルシリカ粒子を分散質とするコロイド分散系をいい、水ガラス(ケイ酸ナトリウム水溶液)を原料として公知の方法により製造することができる。
【0015】
本発明のシリカ添加剤として使用する上記水性シリカゾルに含まれるナノシリカ粒子(コロイダルシリカ粒子)は、真密度が2.15g/cm以上2.30g/cm未満であることを特徴とする。
真密度は、物質自身が占める体積だけを密度算定用の体積とする密度であり、たとえば多孔質物質に含まれる細孔や内部空隙は、密度算定用の体積には含まれず、粒子の構造が密でないと真密度は低いものとなる。コロイダルシリカ粒子は、その調製過程の条件や調製後の熱処理などによって微細構造(細孔構造)は変化し、例えば市販のシリカ粒子としてはおよそ2.0g/cm以下の真密度を有するものが知られている。なお二酸化ケイ素(SiO)の真密度は2.20g/cmであり、この値に近いほど、構造が密である(細孔や内部空隙が少ない)シリカ粒子であることを意味する。
本明細書における真密度の測定は、ヘリウムガスを用いて定容積膨張法により10回測定した際の平均値を真密度とした。
【0016】
上記ナノシリカ粒子は、窒素吸着による比表面積値(BET(N)という)が10~500m/gであることが好ましく、例えば30~300m/gであり、あるいは40~200m/gとすることができる。
また上記ナノシリカ粒子は、水蒸気吸着による比表面積値(BET(HO)という)が5~65m/gであることが好ましく、例えば10~50m/gであり、あるいは15~50m/gとすることができる。シリカはシラノール基のヒドロキシ(OH)部位に水蒸気が吸着し、本値はナノシリカ粒子表面のシラノール基の存在量を反映したものといえる。
上記窒素吸着による比表面積値はBET法、水蒸気吸着による比表面積は重量吸着法により測定した。
なお、水蒸気吸着による比表面積値と窒素吸着による比表面積値の比[BET(HO)/BET(N)]は、ナノシリカ粒子表面の親水性を評価するのに有効であり、この比が小さいほど疎水性であると評価できる。例えば本発明にあっては、BET(HO)/BET(N)を0.1~1.3とすることができる。
【0017】
また上記ナノシリカ粒子は、固体29Si-NMRで表されるシリカのQ4値が35~80モル%であることが好ましく、例えば40~80モル%、40~70モル%、35~70モル%、40~60モル%、あるいは35~60モル%とすることができる。
本発明では、CP(Cross Polarization)法を用いた、固体29Si-NMRのスペクトル解析によりシリカのQ4値を評価する。
固体29Si-NMRはシリカ等の固体Si化合物の結合状態の把握に有効である。シリカの結合状態は、Si-O-Si結合とSi-O-H結合(シラノール基)の数によって、Q2、Q3、Q4と表すことができ、Q4は4個の結合が全てSi-O-Si結合の状態を示す状態、すなわちSiがヒドロキシ基(-OH)を有していない状態に相当する。固体29Si-NMRでは、これら結合状態が異なるケイ素由来のピークは異なる位置にて検出され、これらをピーク分離し面積比を算出することにより、該面積比をそれぞれの結合状態のSiの存在比とみなすことができる。すなわち、固体29Si-NMR測定により、ナノシリカ粒子のシラノール基の量を結合状態から定量的に把握することが可能となる。
【0018】
また本発明において、水性シリカゾル(コロイダルシリカ粒子)の平均粒子径は、分散質であるコロイダルシリカ粒子の平均粒子径をいい、窒素吸着法により測定して得られる比表面積径(BET(N)から算出された等価球換算粒子径)と、動的光散乱法(DLS法)による粒子径によって表される。
窒素吸着法により測定して得られる比表面積径(BET(N)から算出された等価球換算粒子径)D(nm)は、窒素吸着法で測定される比表面積S(m/g)から、D(nm)=2720/Sの式によって与えられる。
また動的光散乱法(DLS法)による粒子径(以下、DLS平均粒子径と称する)は、2次粒子径(分散粒子径)の平均値を表しており、完全に分散している状態のDLS平均粒子径は、平均粒子径(窒素吸着法(BET法)により測定して得られる比表面積径であり、1次粒子径の平均値を表す)の2倍程度あると言われている。そして、DLS平均粒子径が大きくなるほど水性シリカゾル中のシリカ粒子が凝集状態になっていると判断できる。
本発明の上記水性シリカゾルのナノシリカ粒子において、BET(N)から算出された等価球換算粒子径は、好ましくは5~100nmであり、例えば10~100nm、又は20~80nm、又は20~70nmとすることができる。
また上記動的光散乱法による粒子径は、好ましくは10~200nmであり、例えば10~100nm、又は20~100nm、又は30~100nmとすることができる。
【0019】
水性シリカゾルは、上述したように公知の方法により製造でき、例えばケイ酸アルカリ水溶液の陽イオン交換により得られた珪酸液を加熱する方法により製造することができる。
なお、使用する水性シリカゾルにおけるシリカ(SiO)濃度は特に限定されないが、例えば5~55質量%とすることができる。
【0020】
<セメンチング用セメントスラリー>
本発明は、前記シリカ系添加剤を含有するセメンチング用セメントスラリー(セメンチング組成物)も対象とする。
詳細には、本発明のセメンチング用セメントスラリーは、油井セメントとシリカ系添加剤とを含有し、前記油井セメント100部に対して前記シリカ系添加剤を、シリカ固形分として0.1%~10%BWOC(BWOCは、セメントの乾燥固形分に基づく質量%(By Weight of Cement)を意味する)の割合で含有する。
また本発明のセメンチング用セメントスラリーは、前記油井セメントとシリカ系添加剤に加え、水、セメント遅硬剤、並びにその他の添加剤を含有していてもよい。このとき、各成分の配合量は、シリカ系添加剤(シリカ固形分として)0.1%~10%BWOCの割合で、水を30%~60%BWOCの割合で、セメント遅硬剤を0.1%~5%BWOCの割合で、及びその他の添加剤を0.001%~10%BWOCの割合で、配合することができる。
【0021】
前記油井セメントとしては、API(American Petroleum Institute)の規格「APISPEC 10A Specification for Cements and Materials for Well」のクラスAセメント~クラスHセメントのいずれも使用できる。中でも、クラスGセメント及びクラスHセメントは、添加剤により成分調整が容易であり、広範囲の深度や温度に使用できるためより好ましい。
【0022】
前記セメント遅硬剤は、作業終了までのセメントスラリーの適正な流動性を保ち、シックニングタイムを調整するために使用される。
セメント遅硬剤は、主成分としてリグニンスルホン酸塩類、ナフタレンスルホン酸塩類、ホウ酸塩類等を含む。
【0023】
またその他の添加剤として、脱水調整剤、消泡剤、速硬剤、低比重骨材、高比重骨材、セメント分散剤、セメント強度安定剤、及び逸泥防止剤からなる群より選ばれた少なくとも1種類の添加剤を含むことができる。
【0024】
脱水調整剤は、水に鋭敏な地層の保護やスラリーの早期脱水防止などを目的として使用することができ、主成分として有機高分子ポリマー、ビニルアミドビニルスルホン酸共重合物等を含む。
消泡剤は、主成分としてシリコン系化合物、高級アルコール等を含む。
低比重骨材は、逸水層や低圧層がある場合にセメントスラリーの比重を下げることなどを目的として使用することができ、主成分としてベントナイト、ギルソナイト、珪藻土、パーライト、中空パーライト中空粒子、フライアッシュ中空粒子、アルミナケイ酸ガラス中空粒子、ホウケイ酸ソーダ中空粒子、アルミナ中空粒子、又はカーボン中空粒子等を含む。
高比重骨材は、高圧層抑圧泥水と置換効率を良好にするためにセメントスラリーの比重を上げることなどを目的として使用することができ、主成分として硫酸バリウム、ヘマタイト、又はイルメナイト等を含む。
またセメント分散剤は、セメントスラリーの粘性を下げ、泥水との置換効率を高めることなどを目的として使用することができ、主成分としてナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物、ポリアクリル酸縮合物、又はスルホン化メラミン縮合物等を含む。
セメント強度安定剤は、主成分としてフライアッシュ、ケイ石粉等を含む。
逸泥防止剤は、逸水防止に使用され、セメントの性質に影響を与えない不活性粒状のものが挙げられ主成分としてクルミの殻、ヒル石、ギルソナイト、雲母、セロハン屑等を含む。
そしてセメント速硬剤は、初期強度や硬化待ち時間の短縮等を目的として使用され、主成分として塩化カルシウム、水ガラス、石膏等を含む。
【0025】
また本発明のセメンチング用セメントスラリーには、上記の油井セメント、シリカ系添加剤、セメント遅硬剤、並びにその他の添加剤に加えて、一般構造用のセメント組成物やコンクリート組成物に使用する各種セメントや骨材、これらセメント組成物等に使用されるその他添加剤を含有していてもよい。
例えば従来慣用の一般構造用のセメントとして、ポルトランドセメント(例えば普通ポルトランドセメント、早強ポルトランドセメント、超早強ポルトランドセメント、低熱・中庸熱ポルトランドセメント、耐硫酸塩ポルトランドセメント等)、各種混合セメント(高炉セメント、シリカセメント、フライアッシュセメント等)、白色ポルトランドセメント、アルミナセメント、超速硬セメント(1クリンカー速硬性セメント、2クリンカー速硬性セメント、リン酸マグネシウムセメント)、グラウト用セメント、低発熱セメント(低発熱型高炉セメント、フライアッシュ混合低発熱型高炉セメント、ビーライト高含有セメント)、超高強度セメント、セメント系固化材、エコセメント(都市ごみ焼却灰、下水汚泥焼却灰の一種以上を原料として製造されたセメント)などを使用してもよく、さらに、混和材として高炉スラグ、フライアッシュ、シンダーアッシュ、クリンカーアッシュ、ハスクアッシュ、シリカヒューム、シリカ粉末、石灰石粉末等の微粉体や石膏を添加してもよい。
また、骨材としては、砂利、砕石、水砕スラグ、再生骨材等以外に、珪石質、粘土質、ジルコン質、ハイアルミナ質、炭化珪素質、黒鉛質、クロム質、クロマグ質、マグネシア質等の耐火骨材が使用可能である。
セメント組成物等に使用されるその他添加剤としては、高性能AE減水剤、高性能減水剤、AE減水剤、減水剤、空気連行剤(AE剤)、起泡剤、分離低減剤、増粘剤、収縮低減剤、養生剤、撥水剤等など、公知のセメント・コンクリート添加剤を配合することができる。
【0026】
<セメンチング工法>
また本発明は、前述のセメンチング用セメントスラリーを用いるセメンチング工法も対象とする。
詳細には、本発明のセメンチング工法は、油田又はガス油田の掘削において、100℃以上、特に150℃以上300℃以下の高温・高圧環境下から石油又はガスを採掘するにあたり、地層とケーシングパイプとの空隙部を油井セメントで充填するためのセメンチング用セメントスラリーとして、前述のセメンチング用セメントスラリーを用いることを特徴とする。
【0027】
<セメンチング方法>
また本発明は、前述のセメンチング用セメントスラリーを坑井中に導入する工程、及び前記セメンチング用セメントスラリーを凝結させる工程を含む、セメンチング方法も対象とする。
【0028】
前述したように、本発明のシリカ系添加剤には、2.15g/cm以上2.30g/cm未満の真密度を有するナノシリカ粒子、すなわち構造が緻密(細孔や内部空隙が少ない)であり、表面に露出するシラノール基が少ないとみられるナノシリカ粒子を含有する。さらに、好ましくは水蒸気吸着による比表面積値(BET(HO))が5~65m/gであり、また好ましくは固体29Si-NMRで表されるシリカのQ4値が35~80モル%であるという特徴からも、該粒子はシラノール基の量が比較的少なく、表面の親水性が比較的弱いといえるナノシリカ粒子ということができる。
このような性状のナノシリカ粒子を含有する本発明のシリカ系添加剤を、セメンチング用セメントスラリーに配合し、該スラリーを100℃以上、特に150℃以上300℃以下の環境下で使用すると、市販の親水性の表面を有するシリカ粒子を添加する場合と比べ、親水性を弱めた表面を有するナノシリカ粒子を含有するシリカゾルが水を取り込んで水和ゲルを形成する効果が高く、セメントスラリーからの遊離水の発生を抑制する効果がより発揮されると考えられる。
【実施例
【0029】
以下、合成例、実施例及び比較例に基づいてさらに詳述するが、本発明はこれらの実施例により何ら限定されるものではない。
【0030】
(測定装置・方法)
合成例で調製した水性シリカゾルの分析(シリカ濃度、pH値、DLS平均粒子径、粘度、窒素吸着法の比表面積、水蒸気吸着法の比表面積)は、以下の装置を用いて行なった。
・シリカ固形分濃度:水素型陽イオン交換樹脂で水性シリカゾルのアルカリ分を除いた後、乾燥したものの1000℃焼成残分から、シリカ固形分濃度を求めた。
・pH:pHメーター(東亞ディーケーケー(株)製)を用いた。
・粘度:オストワルド粘度計(柴田科学(株)製)を用いた。
・DLS平均粒子径(動的光散乱法粒子径):動的光散乱法粒子径測定装置 ゼーターサイザー ナノ(スペクトリス(株)マルバーン事業部製)を用いた。
・窒素吸着法の比表面積:陽イオン交換樹脂で水性シリカゾルにおける水溶性の陽イオン分を除去した後、290℃乾燥したものを測定試料とし、窒素吸着法の比表面積測定装置 Monosorb(カンタクローム・インスツルメンツ・ジャパン合同会社製)を用いた。
・水蒸気吸着法の比表面積:陽イオン交換樹脂、陰イオン交換樹脂、陽イオン交換樹脂の順で水性シリカゾルにおける水溶性の陽イオン、陰イオン分を除去した後、290℃乾燥したものを測定試料とし、水蒸気吸着法の比表面積測定装置 Q5000SA(ティー・エス・インスツルメンツ・ジャパン(株)製)を用いた。
・真密度:陽イオン交換樹脂で水性シリカゾルにおける水溶性の陽イオン分を除去した後、150℃乾燥したものを測定試料とし、AccuPycTM 1330 Pycnometer(Micromeritics Instrument社製)を用い、定容積膨張法で真密度を測定した。
・シリカの固体29Si-NMRで測定されるQ4値:陽イオン交換樹脂で水性シリカゾルにおける水溶性の陽イオン分を除去した後、150℃にて乾燥したものを測定試料とし、核磁気共鳴装置(NMR)AVANCE III 500(BRUKER ANALYTIK製)を用い、固体29Si-NMRをCP(Cross Polarization)法で測定した。得られたシリカの固体29Si-NMRスペクトルから、Q4値の比率を算出した。
【0031】
<合成例:水性シリカゾルの調製>
撹拌機、コンデンサー及び滴下ロートを備えた3Lのガラス製反応器にSiO/NaOモル比3.3の市販工業用水ガラスと純水を投入してSiO濃度3.0質量%の珪酸ナトリウム水溶液357gを調製し、撹拌下、液温を加熱保持した。別途、希釈珪酸ナトリウム水溶液を水素型陽イオン交換樹脂で処理することにより、SiO濃度3.6質量%、pH=2.8の室温の活性珪酸の水性コロイド水溶液1,414gを調製し、直ちにこれを反応器中の珪酸ナトリウム水溶液中へ加熱保持しながら定量ポンプを用い6時間かけて添加し反応混合液を製造した。引き続き、この反応混合液の加熱を保持しながら1時間加熱熟成した。次いでこの反応混合に8質量%の硫酸水溶液23gを添加した後に、加熱を保持して30分間熟成した。次いで、市販のポロサルホン製管状限外濾過膜を設置した限外濾過装置(アドバンテック東洋(株)製)を用いて、表1に記載のシリカ固形分濃度(SiO濃度)まで濃縮し、水性シリカゾルを製造した。上記の加熱保持温度を変えることにより、シリカゾルA、シリカゾルB、シリカゾルC、シリカゾルD、及びシリカゾルEの5種類の水性シリカゾルを製造した。各水性シリカゾルの物性を表1に示す。
【0032】
【表1】
【0033】
<実施例1~6、比較例1~7:セメントスラリーの調製>
セメントスラリーの調製は、API規格(アメリカ石油協会が定めた石油に関する規格)10B-2に準拠して、専用の装置及び表2及び表3に示す材料及び仕込量で行った。即ち、専用ミキサーに純水を投入し、撹拌翼を4,000rpmで回転させながら、90秒間で表2に示す配合量にて、市販の脱水調整剤、水性シリカゾル、市販の遅硬剤及び消泡剤、並びにクラスGセメント(宇部三菱セメント(株)製)を投入した後、撹拌翼の回転数を12,000rpmに上げ、35秒間撹拌してセメントスラリーを調製した。
調製した各セメントスラリーについて、下記手順により流動性を評価するとともに、さらにAPI規格に準拠し、専用の装置を用いて、遊離水量(フリーウォーター)、シックニングタイム試験、セメント強度(超音波強度測定)、フルイドロスについて評価した。
得られた結果を表2及び表3に示す。
【0034】
1)セメントスラリーの流動性評価
調製したセメントスラリー500ccを分取し、API規格記載の高温高圧シックニングタイム測定装置 Model 290 HPHT(High-Pressure, High-Temperature)Consistometer(Fann Instrument Company製)に投入後、1時間かけて150℃、3,700psi、または180℃、5,000psiまで昇温・昇圧させ、同温度で30分間保持してコンディショニング(所定温度・圧力での養生)を行った。
30分間の高温・高圧の保持後、30分間かけて88℃までセメントスラリーを冷却し、大気圧まで圧力を解放した後にセメントスラリーを装置から取り出した時、セメントスラリーと撹拌翼の外観を目視にて観察し、以下の評価基準にて流動性を評価した。
《流動性の評価基準》
A:セメントスラリーが液状(無撹拌でも流動性を保っている状態)
B:セメントスラリーが半固体(撹拌することで流動性が出る状態)
C:セメントスラリーが固体(撹拌を行っても流動性が出ない状態)
【0035】
2)遊離水量(フリーウォーター)の測定
前記1)セメントスラリーの流動性評価に記載した方法でセメントスラリーをコンディショニングした後、30分間かけて88℃までセメントスラリーを冷却し、大気圧まで圧力を解放した後にメントスラリーを装置から取り出し、そのセメントスラリー250ccを対象容量250ccの樹脂製メスシリンダーに投入し、該メスシリンダーを45度に傾けて、2時間静置した。静置後2時間の時点でスラリー上部に遊離した水をスポイトで採取し、その量(250ccのスラリーに対する体積%)を遊離水量とした。
なおAPI規格には、遊離水量の数値範囲に関する特段の規定はないものの、2体積%以下が好適とされる。
また本実施例において、遊離水量が3体積%を超えるものについては、セメンチング用セメントスラリーとして不適であるため、以降の評価については行っていない。
【0036】
3)シックニングタイム試験(Thickening Time Test)
調製したセメントスラリー500ccを分取し、API規格記載のシックニングタイム測定装置 Model 290 HPHT(High-Pressure, High-Temperature)Consistometer(Fann Instrument Company製)に投入後、撹拌翼でセメントスラリーを撹拌しながら1時間かけて150℃、3,700psi、または180℃、5,000psiまで昇温・昇圧させ、前記所定温度・圧力で保持した。試験開始からシックニングタイム測定装置で経時にコンシステンシーを測定し、測定値(ビアーデン単位(BC))が70BCに到達するまでこの温度を保持した。この時の加熱開始から70BCに到達するまでの時間をシックニングタイム(時:分)とした。
なおAPI規格には、シックニングタイムに関する特段の規定はないものの、2時間~6時間が目安とされる。
【0037】
4)セメント強度の測定(Compressive Strength test)
調製したセメントスラリー130ccを分取し、API規格記載の圧縮強度測定装置 Ultrasonic Cement Analyzer Model 304に投入後、1時間かけて120℃、3,700psi、または150℃、5,000psiまで昇温・昇圧し、この温度・圧力を3時間保持した後、20時間かけて120℃から150℃まで、または150℃から180℃まで昇温し、それぞれ前記の圧力を保持したまま測定した圧縮強度をセメント強度とした。
なおAPI規格には、圧縮強度の数値範囲に関する特段の規定はないものの、2,000psi超が目安値とされる。
【0038】
5)フルイドロスの測定
前記1)セメントスラリーの流動性評価に記載した方法でセメントスラリーをコンディショニングした後、30分間かけて88℃までセメントスラリーを冷却し、大気圧まで圧力を解放した後にメントスラリーを装置から取り出し、そのセメントスラリー130ccを分取し、API規格記載のフルイドロス測定装置 Fluid Loss Test Instrument(Fann Instrument Company製)に投入後、88℃条件下で30分間、1,000psiの圧力を加え続けた時にセメントスラリーから発生した水(脱水)を容積100ccの樹脂製メスシリンダーで回収し、測定時間t(30分)における脱水量V(V)を式1に当てはめて、フルイドロスを算出した。
【化1】
なおAPI規格には、フルイドロスの数値範囲に関する特段の規定はないものの、およそ100ml以下であることが好適とされる。
【0039】
【表2】
1 スラリー組成における各成分の配合量(固形分換算量も含む)の単位:%BWOC
2 15分間で完全脱水
【0040】
【表3】
1 スラリー組成における各成分の配合量(固形分換算量も含む)の単位:%BWOC
2 スラリー調製の際、混合時にセメントがダマになり、スラリー作製に至らず
【0041】
表2に示すように、真密度が2.15g/cm以上2.30g/cm未満のナノシリカ粒子を含有する水性シリカゾルA、B、及びCを使用した実施例1乃至実施例6は、何れも流動性に優れ、2体積%未満の遊離水量を示した。また、セメンチング用スラリーとして求められるシックニングタイム、セメント強度、フルイドロスを充足するものであった。
特にシリカゾルBを使用した実施例2及び実施例3は、150℃(コンディショニング温度)で遊離水量が0.6体積%と非常に少ない結果となった。また180℃(コンディショニング温度)においても1.6体積%未満の低い遊離水量を実現でき、遅硬剤の配合量の調整によっては0.2体積%という極めて少ない遊離水量をも実現することができた。更にシリカゾルCを使用した実施例6は、180℃(コンディショニング温度)で遊離水量が0.1体積%と極めて少ない結果となった。
【0042】
一方、表3に示すように、ナノシリカ粒子の真密度が所定の数値範囲(2.15g/cm以上2.30g/cm未満)よりも極めて小さい(1.80g/cm)シリカゾルDを用いた場合、シリカゾルの配合量が少ない場合には、実施例と比べて流動性に劣り、遊離水量も多いものとなり(比較例1)、配合量を増加させることで流動性は得られるものの遊離水量はさらに増加し(比較例2及び比較例3)、ついにはセメントがダマとなってスラリー作製に至らない(比較例4)結果となった。
また、ナノシリカ粒子の真密度が所定の数値範囲(2.15g/cm以上2.30g/cm未満)よりわずかに小さい(2.13g/cm)シリカゾルEであっても、遊離水量が多いとする結果となった(比較例5)。
なお、水性シリカゾルを使用しない場合、遅硬剤の配合量を変化させても、遊離水量の改善には至らず、遅硬剤の配合は遊離水の発生量に影響を与えないことを確認した(比較例6及び比較例7)。
【0043】
以上の結果より、2.15g/cm以上2.30g/cm未満の真密度を有するナノシリカ粒子を含有する水性シリカゾルを含むシリカ系添加剤が、高温・高圧環境下でセメントスラリーからの遊離水の発生を抑制するセメンチング用セメントスラリーのシリカ系添加剤であることが確認された。