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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-23
(45)【発行日】2024-01-31
(54)【発明の名称】膵臓癌の判定用マーカー
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/574 20060101AFI20240124BHJP
【FI】
G01N33/574 B
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2020527470
(86)(22)【出願日】2019-06-21
(86)【国際出願番号】 JP2019024634
(87)【国際公開番号】W WO2020004244
(87)【国際公開日】2020-01-02
【審査請求日】2022-06-13
(31)【優先権主張番号】P 2018120945
(32)【優先日】2018-06-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】306037311
【氏名又は名称】富士フイルム株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】505155528
【氏名又は名称】公立大学法人横浜市立大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】弁理士法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】川崎 ナナ
(72)【発明者】
【氏名】太田 悠葵
(72)【発明者】
【氏名】市川 靖史
(72)【発明者】
【氏名】寺内 康夫
(72)【発明者】
【氏名】芝田 渉
【審査官】西浦 昌哉
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2013/172105(WO,A1)
【文献】国際公開第2009/136506(WO,A1)
【文献】特開2003-004748(JP,A)
【文献】国際公開第2011/034182(WO,A1)
【文献】特表2008-541060(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/48-33/98
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記(1)~(5)から選ばれる糖鎖を含む、膵臓癌の判定用マーカー:
(1)インターアルファトリプシンインヒビター重鎖H3に存在する、下記式5で表される糖鎖、
(2)ロイシンリッチアルファ2グリコプロテインに存在する、下記式6で表される糖鎖、
(3)ビトロネクチンに存在する、下記式1~3で表される少なくとも1つの糖鎖、
(4)補体C4-Aに存在する、下記式4で表される糖鎖、
(5)チロキシン結合グロブリンに存在する、下記式3で表される糖鎖。
(式1中、m1は0~2の整数を表す)
(式2中、m2は0又は1を表す)
(式3中、n1は0又は1を表す)
(式5中、n2は0又は1を表す)
【請求項2】
前記糖鎖が、下記(1-1)~(5-1)の何れか1つで表される糖鎖である、請求項1に記載のマーカー:
(1-1)インターアルファトリプシンインヒビター重鎖H3のアミノ酸配列のN末端より580番目のアスパラギン残基に結合している前記式5で表される糖鎖、
(2-1)ロイシンリッチアルファ2グリコプロテインのアミノ酸配列のN末端より186番目のアスパラギン残基に結合している前記式6で表される糖鎖、
(3-1)ビトロネクチンのアミノ酸配列のN末端より169番目のアスパラギン残基に結合している前記式1~3で表される少なくとも1つの糖鎖、
(4-1)補体C4-Aのアミノ酸配列のN末端より1328番目のアスパラギン残基に結合している前記式4で表される糖鎖、
(5-1)チロキシン結合グロブリンのアミノ酸配列のN末端より36番目のアスパラギン残基に結合している前記式3で表される糖鎖。
【請求項3】
前記糖鎖が、インターアルファトリプシンインヒビター重鎖H3のアミノ酸配列のN末端より580番目のアスパラギン残基に結合している前記式5で表される糖鎖である、請求項1に記載のマーカー。
【請求項4】
前記糖鎖が、ロイシンリッチアルファ2グリコプロテインのアミノ酸配列のN末端より186番目のアスパラギン残基に結合している前記式6で表される糖鎖である、請求項1に記載のマーカー。
【請求項5】
血液由来試料中の、下記(1)~(5)から選ばれる糖鎖の量を測定し、得られた測定結果が、膵臓癌を判定するために用いられる、膵臓癌の判定のための方法
(1)インターアルファトリプシンインヒビター重鎖H3に存在する、下記式5で表される糖鎖、
(2)ロイシンリッチアルファ2グリコプロテインに存在する、下記式6で表される糖鎖、
(3)ビトロネクチンに存在する、下記式1~3で表される少なくとも1つの糖鎖、
(4)補体C4-Aに存在する、下記式4で表される糖鎖、
(5)チロキシン結合グロブリンに存在する、下記式3で表される糖鎖。
(式1中、m1は0~2の整数を表す)
(式2中、m2は0又は1を表す)
(式3中、n1は0又は1を表す)
(式5中、n2は0又は1を表す)
【請求項6】
前記糖鎖が、下記(1-1)~(5~1)の何れか1つで表される糖鎖である、請求項5に記載の判定方法:
(1-1)インターアルファトリプシンインヒビター重鎖H3のアミノ酸配列のN末端より580番目のアスパラギン残基に結合している前記式5で表される糖鎖、
(2-1)ロイシンリッチアルファ2グリコプロテインのアミノ酸配列のN末端より186番目のアスパラギン残基に結合している前記式6で表される糖鎖、
(3-1)ビトロネクチンのアミノ酸配列のN末端より169番目のアスパラギン残基に結合している前記式1~3で表される少なくとも1つの糖鎖、
(4-1)補体C4-Aのアミノ酸配列のN末端より1328番目のアスパラギン残基に結合している前記式4で表される糖鎖、
(5-1)チロキシン結合グロブリンのアミノ酸配列のN末端より36番目のアスパラギン残基に結合している前記式3で表される糖鎖。
【請求項7】
前記糖鎖が、インターアルファトリプシンインヒビター重鎖H3のアミノ酸配列のN末端より580番目のアスパラギン残基に結合している前記式5で表される糖鎖である、請求項5に記載の判定方法。
【請求項8】
前記糖鎖が、ロイシンリッチアルファ2グリコプロテインのアミノ酸配列のN末端より186番目のアスパラギン残基に結合している前記式6で表される糖鎖である、請求項5に記載の判定方法。
【請求項9】
前記試料が、全血、血清又は血漿である、請求項5に記載の判定方法。
【請求項10】
血液由来試料中の、下記(1)~(5)から選ばれる糖鎖の量を測定することによりなされる、膵臓癌の判定を行うためのデータを得る方法:
(1)インターアルファトリプシンインヒビター重鎖H3に存在する、下記式5で表される糖鎖、
(2)ロイシンリッチアルファ2グリコプロテインに存在する、下記式6で表される糖鎖、
(3)ビトロネクチンに存在する、下記式1~3で表される少なくとも1つの糖鎖、
(4)補体C4-Aに存在する、下記式4で表される糖鎖、
(5)チロキシン結合グロブリンに存在する、下記式3で表される糖鎖。
(式1中、m1は0~2の整数を表す)
(式2中、m2は0又は1を表す)
(式3中、n1は0又は1を表す)
(式5中、n2は0又は1を表す)
【請求項11】
下記(1)~(5)から選ばれる糖鎖に親和性を有する物質を含む、膵臓癌の判定用キット:
(1)インターアルファトリプシンインヒビター重鎖H3に存在する、下記式5で表される糖鎖、
(2)ロイシンリッチアルファ2グリコプロテインに存在する、下記式6で表される糖鎖、
(3)ビトロネクチンに存在する、下記式1~3で表される少なくとも1つの糖鎖、
(4)補体C4-Aに存在する、下記式4で表される糖鎖、
(5)チロキシン結合グロブリンに存在する、下記式3で表される糖鎖。
(式1中、m1は0~2の整数を表す)
(式2中、m2は0又は1を表す)
(式3中、n1は0又は1を表す)
(式5中、n2は0又は1を表す)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、膵臓癌の判定用マーカーに関する。
【背景技術】
【0002】
糖鎖とは、グルコース、ガラクトース、マンノース、フコース、キシロース、N-アセチルグルコサミン、N-アセチルガラクトサミン、シアル酸等の単糖及びこれらの誘導体がグリコシド結合によって鎖状に結合した分子の総称である。
糖鎖は、生体内ではタンパク質や脂質と結合した複合糖質の形態で主に細胞表面に存在しており、細胞の増殖、細菌やウイルスの感染、神経の伸長、炎症、免疫等の生理作用に関与している。
【0003】
一方、糖鎖は、膵臓癌等の疾患に伴いその構造が変化することも知られており、近年、糖鎖を膵臓癌等の疾患の診断用マーカーとして用いるための研究が行われている。
糖鎖を有する膵臓癌等の疾患の診断用マーカーとしては、例えば、CA19-9(carbohydrate antigen 19-9:膵臓癌マーカー)、ハプトグロビン(haptoglobin:膵臓癌マーカー)等が知られている(特許文献1)。
【0004】
しかしながら、これら公知の糖鎖を有する膵臓癌マーカーは、確度(正確度・精度)の点で十分ではなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2009-168470
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、確度(正確度・精度)の高い、膵臓癌の判定用マーカーの提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上記課題を解決する目的でなされたものであり、以下の構成よりなる。
[1]
下記(1)~(5)から選ばれる糖鎖を含む、膵臓癌の判定用マーカー:
(1)インターアルファトリプシンインヒビター重鎖H3に存在する、下記式5で表される糖鎖、
(2)ロイシンリッチアルファ2グリコプロテインに存在する、下記式6で表される糖鎖、
(3)ビトロネクチンに存在する、下記式1~3で表される少なくとも1つの糖鎖、
(4)補体C4-Aに存在する、下記式4で表される糖鎖、
(5)チロキシン結合グロブリンに存在する、下記式3表される糖鎖。
(式1中、m1は0~2の整数を表す)
(式2中、m2は0又は1を表す)
(式3中、n1は0又は1を表す)

(式5中、n2は0又は1を表す)
[2]
前記糖鎖が、下記(1-1)~(5-1)の何れか1つで表される糖鎖である、[1]に記載のマーカー:
(1-1)インターアルファトリプシンインヒビター重鎖H3のアミノ酸配列のN末端より580番目のアスパラギン残基に結合している前記式5で表される糖鎖、
(2-1)ロイシンリッチアルファ2グリコプロテインのアミノ酸配列のN末端より186番目のアスパラギン残基に結合している前記式6で表される糖鎖、
(3-1)ビトロネクチンのアミノ酸配列のN末端より169番目のアスパラギン残基に結合している前記式1~3で表される少なくとも1つの糖鎖、
(4-1)補体C4-Aのアミノ酸配列のN末端より1328番目のアスパラギン残基に結合している前記式4で表される糖鎖、
(5-1)チロキシン結合グロブリンのアミノ酸配列のN末端より36番目のアスパラギン残基に結合している前記式3で表される糖鎖。
[3]
前記糖鎖が、インターアルファトリプシンインヒビター重鎖H3のアミノ酸配列のN末端より580番目のアスパラギン残基に結合している前記式5で表される糖鎖である、[1]又は[2]に記載のマーカー。
[4]
前記糖鎖が、ロイシンリッチアルファ2グリコプロテインのアミノ酸配列のN末端より186番目のアスパラギン残基に結合している前記式6で表される糖鎖である、[1]~[3]の何れか1つに記載のマーカー。
[5]
試料中の、下記(1)~(5)から選ばれる糖鎖の量を測定し、得られた測定結果に基づいて膵臓癌を判定する、膵臓癌の判定方法:
(1)インターアルファトリプシンインヒビター重鎖H3に存在する、下記式5で表される糖鎖、
(2)ロイシンリッチアルファ2グリコプロテインに存在する、下記式6で表される糖鎖、
(3)ビトロネクチンに存在する、下記式1~3で表される少なくとも1つの糖鎖、
(4)補体C4-Aに存在する、下記式4で表される糖鎖、
(5)チロキシン結合グロブリンに存在する、下記式3で表される糖鎖。
(式1中、m1は0~2の整数を表す)
(式2中、m2は0又は1を表す)
(式3中、n1は0又は1を表す)

(式5中、n2は0又は1を表す)
[6]
前記糖鎖が、下記(1-1)~(5~1)の何れか1つで表される糖鎖である、[5]に記載の判定方法:
(1-1)インターアルファトリプシンインヒビター重鎖H3のアミノ酸配列のN末端より580番目のアスパラギン残基に結合している前記式5で表される糖鎖、
(2-1)ロイシンリッチアルファ2グリコプロテインのアミノ酸配列のN末端より186番目のアスパラギン残基に結合している前記式6で表される糖鎖、
(3-1)ビトロネクチンのアミノ酸配列のN末端より169番目のアスパラギン残基に結合している前記式1~3で表される少なくとも1つの糖鎖、
(4-1)補体C4-Aのアミノ酸配列のN末端より1328番目のアスパラギン残基に結合している前記式4で表される糖鎖、
(5-1)チロキシン結合グロブリンのアミノ酸配列のN末端より36番目のアスパラギン残基に結合している前記式3で表される糖鎖。
[7]
前記糖鎖が、インターアルファトリプシンインヒビター重鎖H3のアミノ酸配列のN末端より580番目のアスパラギン残基に結合している前記式5で表される糖鎖である、[5]又は[6]に記載の判定方法。
[8]
前記糖鎖が、ロイシンリッチアルファ2グリコプロテインのアミノ酸配列のN末端より186番目のアスパラギン残基に結合している前記式6で表される糖鎖である、[5]~[7]の何れか1つに記載の判定方法。
[9]
前記試料が、全血、血清又は血漿である、[5]~[8]の何れか1つに記載の判定方法。
[10]
試料中の、下記(1)~(5)から選ばれる糖鎖の量を測定することによりなされる、膵臓癌の判定を行うためのデータを得る方法:
(1)インターアルファトリプシンインヒビター重鎖H3に存在する、下記式5で表される糖鎖、
(2)ロイシンリッチアルファ2グリコプロテインに存在する、下記式6で表される糖鎖、
(3)ビトロネクチンに存在する、下記式1~3で表される少なくとも1つの糖鎖、
(4)補体C4-Aに存在する、下記式4で表される糖鎖、
(5)チロキシン結合グロブリンに存在する、下記式3で表される糖鎖。

(式1中、m1は0~2の整数を表す)
(式2中、m2は0又は1を表す)
(式3中、n1は0又は1を表す)

(式5中、n2は0又は1を表す)
[11]
下記(1)~(5)から選ばれる糖鎖に親和性を有する物質を含む、膵臓癌の判定用キット:
(1)インターアルファトリプシンインヒビター重鎖H3に存在する、下記式5で表される糖鎖、
(2)ロイシンリッチアルファ2グリコプロテインに存在する、下記式6で表される糖鎖、
(3)ビトロネクチンに存在する、下記式1~3で表される少なくとも1つの糖鎖、
(4)補体C4-Aに存在する、下記式4で表される糖鎖、
(5)チロキシン結合グロブリンに存在する、下記式3で表される糖鎖。
(式1中、m1は0~2の整数を表す)
(式2中、m2は0又は1を表す)
(式3中、n1は0又は1を表す)

(式5中、n2は0又は1を表す)
【発明の効果】
【0008】
本発明の膵臓癌の判定用マーカー及びこれを用いた膵臓癌の判定方法、並びに膵臓癌の判定を行うためのデータを得る方法によれば、確度(正確度・精度)の高い、膵臓癌の判定(診断、検査)を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】糖ペプチドA、B及びCのピーク面積値について、健常者(11検体)の平均値及び膵臓癌患者(10検体)の平均値を示した図である。
図2】糖ペプチドD及びEのピーク面積値について、健常者(11検体)の平均値及び膵臓癌患者(10検体)の平均値を示した図である。
図3】糖ペプチドF及びGのピーク面積値について、健常者(11検体)の平均値及び膵臓癌患者(10検体)の平均値を示した図である。
図4】糖ペプチドHのピーク面積値について、健常者(11検体)の平均値及び膵臓癌患者(10検体)の平均値を示した図である。
図5】糖ペプチドIのピーク面積値について、健常者(11検体)の平均値及び膵臓癌患者(10検体)の平均値を示した図である。
図6】糖ペプチドJのピーク面積値について、健常者(11検体)の平均値及び膵臓癌患者(10検体)の平均値を示した図である。
図7】糖ペプチドK及びLのピーク面積値について、健常者(11検体)の平均値及び膵臓癌患者(10検体)の平均値を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
<本発明の膵臓癌の判定用マーカー>
本発明の膵臓癌の判定用マーカー(以下、本発明のマーカーと略記する場合がある)は、下記(1)~(5)から選ばれる糖鎖を含むものである。
(1)インターアルファトリプシンインヒビター重鎖H3に存在する、上記式5で表される糖鎖(以下、本発明のマーカー(1)と略記する場合がある)、
(2)ロイシンリッチアルファ2グリコプロテインに存在する、上記式6で表される糖鎖(以下、本発明のマーカー(2)と略記する場合がある)、
(3)ビトロネクチンに存在する、上記式1~3で表される少なくとも1つの糖鎖(以下、本発明のマーカー(3)と略記する場合がある)、
(4)補体C4-Aに存在する、上記式4で表される糖鎖(以下、本発明のマーカー(4)と略記する場合がある)、
(5)チロキシン結合グロブリンに存在する、上記式3で表される糖鎖(以下、本発明のマーカー(5)と略記する場合がある)。
尚、本発明のマーカーは、本発明のマーカー(1)~(5)の何れかを単独で含むものでも、或いは複数種を含むものであってもよい。
【0011】
以下に、本発明のマーカー(1)~(5)についてそれぞれ説明する。
【0012】
[本発明のマーカー(1)]
本発明のマーカー(1)は、インターアルファトリプシンインヒビター重鎖H3に存在する、下記式5で表される糖鎖を含むものである。
(式5中、n2は0又は1を表す)
尚、上記式5における、NeuNAcはN-アセチルノイラミン酸、Galはガラクトース、GlcNAcはN-アセチルグルコサミン、Manはマンノース、Fucはフコースを表す。
以下、本明細書において同じ意味を表す。
尚、本発明のマーカー(1)としては、上記式5で表される何れかの糖鎖を単独で使用しても、複数種を組み合わせて使用してもよい。
【0013】
本発明のマーカー(1)に係るインターアルファトリプシンインヒビター重鎖H3(Inter-alpha-trypsin inhibitor heavy chain H3)とは、血漿中に存在するプロテアーゼインヒビターファミリーの1つであり、その機能は明らかにされていないが、胎児の着床等に関与していることが報告されている。
また、該インターアルファトリプシンインヒビター重鎖H3のアミノ酸配列は、例えば、Uniprot(アクセッション番号:Q06033)等のデータベースに登録されている。
本発明のマーカー(1)に係るインターアルファトリプシンインヒビター重鎖H3は、上記データベースに登録されているもののみならず、生体内で生じ得る変異体等も含む。例えば、該インターアルファトリプシンインヒビター重鎖H3において1~5個、好ましくは1又は2個のアミノ酸が欠失、置換又は/及び付加されたものであって多型性や突然変異等により生じるものである。
但し、変異体等であっても、後述する本発明のマーカー(1)における式5で表される糖鎖と該インターアルファトリプシンインヒビター重鎖H3との結合部位である、該インターアルファトリプシンインヒビター重鎖H3のアミノ酸配列のN末端より580番目のアミノ酸残基(アスパラギン残基)が保存されているものが好ましい。
【0014】
本発明のマーカー(1)における式5で表される糖鎖(末端のN-アセチルグルコサミン)は、インターアルファトリプシンインヒビター重鎖H3のアミノ酸配列のN末端より580番目のアミノ酸残基(アスパラギン残基)に結合(N-グリコシド結合)しているものが好ましい。
以下に、本発明のマーカー(1)における式5で表される糖鎖について説明する。
【0015】
インターアルファトリプシンインヒビター重鎖H3に存在する式5で表される糖鎖
(式5中、n2は0又は1を表す)
上記式5におけるn2は、0又は1を表し、式5はそれぞれ、n2が0の場合、下記式5-1を表し、n2が1の場合、下記式5-2を表す。
上記式5としては、下記式5-1で表されるもの、又は下記式5-1で表されるものと下記式5-2で表されるものとの組み合わせが好ましい。

また、上記式5-1及び5-2で表される糖鎖としては、具体的には、例えば、下記式5-1’、5-1’’、5-2’、5-2’’等で表されるものが挙げられ、下記式5-1’で表されるものと下記式5-1’’で表されるものとの組み合わせ又は下記式5-1’で表されるものと、下記式5-1’’で表されるものと、下記式5-2’で表されるものと、下記式5-2’’で表されるものとの組み合わせが好ましい。



【0016】
本発明のマーカー(1)、即ち、インターアルファトリプシンインヒビター重鎖H3に存在する式5で表される糖鎖を含む、マーカーとしては、(i)インターアルファトリプシンインヒビター重鎖H3に存在する(由来する)式5で表される糖鎖そのもの、(ii)式5で表される糖鎖が結合したインターアルファトリプシンインヒビター重鎖H3、(iii)インターアルファトリプシンインヒビター重鎖H3の一部分であって、式5で表される糖鎖が結合したペプチド断片等が挙げられ、(ii)又は(iii)が好ましい。
尚、上記ペプチド断片とは、式5で表される糖鎖とインターアルファトリプシンインヒビター重鎖H3との結合部位である、インターアルファトリプシンインヒビター重鎖H3のアミノ酸配列のN末端より580番目のアミノ酸残基(アスパラギン残基)を少なくとも有する任意の断片であるのが好ましい。該ペプチド断片としては、具体的には、例えば、生体内で生じるものや、インターアルファトリプシンインヒビター重鎖H3をトリプシン、リシルエンドペプチダーゼ、AspN等のプロテアーゼ処理に付した結果生じるものが挙げられ、より具体的には、例えば、2~50個のアミノ酸残基からなるもの等が挙げられ、配列番号3(アクセッション番号Q06033:572番~584番)で表されるものが好ましい。
【0017】
[本発明のマーカー(2)]
本発明のマーカー(2)は、ロイシンリッチアルファ2グリコプロテインに存在する、下記式6で表される糖鎖を含むものである。
尚、本発明のマーカー(2)としては、上記式6で表される何れかの糖鎖を単独で使用しても、複数種を組み合わせて使用してもよい。
【0018】
本発明のマーカー(2)に係るロイシンリッチアルファ2グリコプロテイン(Leucine-rich alpha-2-glycoprotein)とは、血液に含まれるタンパク質であり、炎症性腸疾患等種々の疾患に関与していることが報告されている。また、ロイシンリッチアルファ2グリコプロテインのアミノ酸配列は、例えば、Uniprot(アクセッション番号:P02750)等のデータベースに登録されている。
本発明のマーカー(2)に係るロイシンリッチアルファ2グリコプロテインは、上記データベースに登録されているもののみならず、生体内で生じ得る変異体等も含む。例えば、該ロイシンリッチアルファ2グリコプロテインにおいて1~5個、好ましくは1又は2個のアミノ酸が欠失、置換又は/及び付加されたものであって多型性や突然変異等により生じるものである。
但し、変異体等であっても、後述する本発明のマーカー(2)における式6で表される糖鎖と該ロイシンリッチアルファ2グリコプロテインとの結合部位である、該ロイシンリッチアルファ2グリコプロテインのアミノ酸配列のN末端より186番目のアミノ酸残基(アスパラギン残基)が保存されているものが好ましい。
【0019】
本発明のマーカー(2)における式6で表される糖鎖(末端のN-アセチルグルコサミン)は、ロイシンリッチアルファ2グリコプロテインのアミノ酸配列のN末端より186番目のアミノ酸残基(アスパラギン残基)に結合(N-グリコシド結合)しているものが好ましい。
以下に、本発明のマーカー(2)における式6で表される糖鎖について説明する。
【0020】
ロイシンリッチアルファ2グリコプロテインに存在する式6で表される糖鎖
また、上記式6で表される糖鎖としては、具体的には、例えば、下記式6-1で表されるものが好ましい。
【0021】
本発明のマーカー(2)、即ち、ロイシンリッチアルファ2グリコプロテインに存在する式6で表される糖鎖を含む、マーカーとしては、(i)ロイシンリッチアルファ2グリコプロテインに存在する(由来する)式6で表される糖鎖そのもの、(ii)式6で表される糖鎖が結合したロイシンリッチアルファ2グリコプロテイン、(iii)ロイシンリッチアルファ2グリコプロテインの一部分であって、式6で表される糖鎖が結合したペプチド断片等が挙げられ、(ii)又は(iii)が好ましい。
尚、上記ペプチド断片とは、式6で表される糖鎖とロイシンリッチアルファ2グリコプロテインとの結合部位である、ロイシンリッチアルファ2グリコプロテインのアミノ酸配列のN末端より186番目のアミノ酸残基(アスパラギン残基)を少なくとも有する任意の断片である。該ペプチド断片としては、具体的には、例えば、生体内で生じるものや、ロイシンリッチアルファ2グリコプロテインをトリプシン、リシルエンドペプチダーゼ、AspN等のプロテアーゼ処理に付した結果生じるものが挙げられ、より具体的には、例えば、2~50個のアミノ酸残基からなるもの等が挙げられ、配列番号4(アクセッション番号P02750:179番~191番)で表されるものが好ましい。
【0022】
[本発明のマーカー(3)]
本発明のマーカー(3)は、ビトロネクチンに存在する、下記式1~3で表される少なくとも1つの糖鎖を含むものである。
(式1中、m1は0~2の整数を表す)
(式2中、m2は0又は1を表す)
(式3中、n1は0又は1を表す)
尚、本発明のマーカー(3)としては、上記式1~3で表される何れかの糖鎖を単独で使用しても、複数種を組み合わせて使用してもよい。組み合わせる場合には、上記式1~3から組み合わせても、上記式1のみの組み合わせ、上記式2のみの組み合わせ又は上記式3のみの組み合わせでもよい。
【0023】
本発明のマーカー(3)に係るビトロネクチン(Vitronectin)とは、血液や細胞外マトリックス等に存在する糖タンパク質であり、組織形成や神経細胞の分化等、生体において重要な役割を果たしている。また、該ビトロネクチンのアミノ酸配列は、例えば、Uniprot(アクセッション番号:P04004)等のデータベースに登録されている。
本発明のマーカー(3)に係るビトロネクチンは、上記データベースに登録されているもののみならず、生体内で生じ得る変異体等も含む。例えば、該ビトロネクチンにおいて1~5個、好ましくは1又は2個のアミノ酸が欠失、置換又は/及び付加されたものであって多型性や突然変異等により生じるものである。
但し、変異体等であっても後述する本発明のマーカー(3)における式1~3で表される糖鎖と該ビトロネクチンとの結合部位である、該ビトロネクチンのアミノ酸配列のN末端より169番目のアミノ酸残基(アスパラギン残基)が保存されているものが好ましい。
【0024】
本発明のマーカー(3)における式1~3で表される糖鎖(末端のN-アセチルグルコサミン)は、それぞれビトロネクチンのアミノ酸配列のN末端より169番目のアミノ酸残基(アスパラギン残基)に結合(N-グリコシド結合)しているものが好ましく、式1で表されるものがより好ましい。
以下に、本発明のマーカー(3)における式1~3で表される糖鎖についてそれぞれ説明する。
【0025】
ビトロネクチンに存在する式1で表される糖鎖
(式1中、m1は0~2の整数を表す)
上記式1におけるm1は、0~2の整数を表し、式1はそれぞれ、m1が0の場合、下記式1-1を表し、m1が1の場合、下記式1-2を表し、m1が2の場合、下記式1-3を表す。
上記式1としては、m1が0の場合、即ち、下記式1-1で表されるものが好ましい。



また、上記式1-1、1-2及び1-3で表される糖鎖としては、具体的には、例えば、下記式1-1’、1-2’、1-3’等で表されるものが挙げられ、下記式1-1’で表されるものが好ましい。


(式1-1’、1-2’及び1-3’中、α2-3/6は、α2-3グリコシド結合又はα2-6グリコシド結合を表す。以下、本明細書にて同じ意味を表す)
【0026】
ビトロネクチンに存在する式2で表される糖鎖
(式2中、m2は0又は1を表す)
上記式2におけるm2は、0又は1を表し、式2はそれぞれ、m2が0の場合、下記式2-1を表し、m2が1の場合、下記式2-2を表す。

また、上記式2-1及び2-2で表される糖鎖としては、具体的には、例えば、下記式2-1’、2-1’’、2-2’等で表されるものが挙げられ、下記式2-1’で表されるもの又は式2-1’で表されるものと式2-1’’で表されるものとの組み合わせが好ましい。


【0027】
ビトロネクチンに存在する式3で表される糖鎖
(式3中、n1は0又は1を表す)
上記式3におけるn1は、0又は1を表し、式3はそれぞれ、n1が0の場合、下記式3-1を表し、n1が1の場合、下記式3-2を表す。
上記式3としては、n1が1の場合、即ち、下記式3-2で表されるものが好ましい。


また、上記式3-1及び3-2で表される糖鎖としては、具体的には、例えば、下記式3-1’、3-2’等で表されるものが挙げられ、下記式3-2’で表されるものが好ましい。


【0028】
本発明のマーカー(3)、即ち、ビトロネクチンに存在する式1~3で表される少なくとも1つの糖鎖を含む、マーカーとしては、(i)ビトロネクチンに存在する(由来する)式1~3で表される少なくとも1つの糖鎖そのもの、(ii)式1~3で表される少なくとも1つの糖鎖が結合したビトロネクチン、(iii)ビトロネクチンの一部分であって、式1~3で表される少なくとも1つの糖鎖が結合したペプチド断片等が挙げられ、(ii)又は(iii)が好ましい。
尚、上記ペプチド断片とは、式1~3で表される糖鎖とビトロネクチンとの結合部位である、ビトロネクチンのアミノ酸配列のN末端より169番目のアミノ酸残基(アスパラギン残基)を少なくとも有する任意の断片であるのが好ましい。該ペプチド断片としては、具体的には、例えば、生体内で生じるものや、ビトロネクチンをトリプシン、リシルエンドペプチダーゼ、AspN等のプロテアーゼ処理に付した結果生じるものが挙げられ、より具体的には、例えば、2~50個のアミノ酸残基からなるもの等が挙げられ、配列番号1(アクセッション番号P04004:169番~176番)で表されるものが好ましい。
【0029】
[本発明のマーカー(4)]
本発明のマーカー(4)は、補体C4-Aに存在する、下記式4で表される糖鎖を含むものである。
尚、本発明のマーカー(4)としては、上記式4で表される何れかの糖鎖を単独で使用しても、複数種を組み合わせて使用してもよい。
【0030】
本発明のマーカー(4)に係る補体C4-A(complement C4-A)とは、血漿タンパク質の1つであり、肝細胞等で生産され、細菌等の感染防御に重要な役割を果たしている。また、該補体C4-Aのアミノ酸配列は、例えば、Uniprot(アクセッション番号:P0C0L4)等のデータベースに登録されている。
本発明のマーカー(4)に係る補体C4-Aは、上記データベースに登録されているもののみならず、生体内で生じ得る変異体等も含む。例えば、該補体C4-Aにおいて1~5個、好ましくは1又は2個のアミノ酸が欠失、置換又は/及び付加されたものであって多型性や突然変異等により生じるものである。
但し、変異体等であっても、後述する本発明のマーカー(4)における式4で表される糖鎖と該補体C4-Aとの結合部位である、該補体C4-Aのアミノ酸配列のN末端より1328番目のアミノ酸残基(アスパラギン残基)が保存されているものが好ましい。
【0031】
本発明のマーカー(4)における式4で表される糖鎖(末端のN-アセチルグルコサミン)は、補体C4-Aのアミノ酸配列のN末端より1328番目のアミノ酸残基(アスパラギン残基)に結合(N-グリコシド結合)しているものが好ましい。
以下に、本発明のマーカー(4)における式4で表される糖鎖について説明する。
【0032】
補体C4-Aに存在する式4で表される糖鎖
また、上記式4で表される糖鎖としては、具体的には、例えば、下記式4-1で表されるものが好ましい。
【0033】
本発明のマーカー(4)、即ち、補体C4-Aに存在する式4で表される糖鎖を含む、マーカーとしては、(i)補体C4-Aに存在する(由来する)式4で表される糖鎖そのもの、(ii)式4で表される糖鎖が結合した補体C4-A、(iii)補体C4-Aの一部分であって、式4で表される糖鎖が結合したペプチド断片等が挙げられ、(ii)又は(iii)が好ましい。
尚、上記ペプチド断片とは、式4で表される糖鎖と補体C4-Aとの結合部位である、補体C4-Aのアミノ酸配列のN末端より1328番目のアミノ酸残基(アスパラギン残基)を少なくとも有する任意の断片であるのが好ましい。該ペプチド断片としては、具体的には、例えば、生体内で生じるものや、補体C4-Aをトリプシン、リシルエンドペプチダーゼ、AspN等のプロテアーゼ処理に付した結果生じるものが挙げられ、より具体的には、例えば、2~50個のアミノ酸残基からなるもの等が挙げられ、配列番号2(アクセッション番号P0C0L4:1326番~1336番)で表されるものが好ましい。
【0034】
[本発明のマーカー(5)]
本発明のマーカー(5)は、チロキシン結合グロブリンに存在する、下記式3で表される糖鎖を含むものである。
(式3中、n1は0又は1を表す)
尚、本発明のマーカー(5)としては、上記式3で表される何れかの糖鎖を単独で使用しても、複数種を組み合わせて使用してもよい。
【0035】
本発明のマーカー(5)に係るチロキシン結合グロブリン(Thyroxine-binding globulin)とは、チロキシンに結合するタンパク質のことであり、甲状腺ホルモンの輸送等に関与していることが報告されている。また、チロキシン結合グロブリンのアミノ酸配列は、例えば、Uniprot(アクセッション番号:P05543)等のデータベースに登録されている。
本発明のマーカー(5)に係るチロキシン結合グロブリンは、上記データベースに登録されているもののみならず、生体内で生じ得る変異体等も含む。例えば、該チロキシン結合グロブリンにおいて1~5個、好ましくは1又は2個のアミノ酸が欠失、置換又は/及び付加されたものであって多型性や突然変異等により生じるものである。
但し、変異体等であっても後述する本発明のマーカー(5)における式3で表される糖鎖と該チロキシン結合グロブリンとの結合部位である、該チロキシン結合グロブリンのアミノ酸配列のN末端より36番目のアミノ酸残基(アスパラギン残基)が保存されているものが好ましい。
【0036】
本発明のマーカー(5)における式3で表される糖鎖(末端のN-アセチルグルコサミン)は、チロキシン結合グロブリンのアミノ酸配列のN末端より36番目のアミノ酸残基(アスパラギン残基)に結合(N-グリコシド結合)しているものが好ましい。
尚、本発明のマーカー(5)における式3で表される糖鎖については、前述の通りであり、その具体例は同じであるが好ましい例としては、式上記3-1で表されるものが挙げられ、より好ましい例としては、上記式3-1’で表されるものが挙げられる。
【0037】
本発明のマーカー(5)、即ち、チロキシン結合グロブリンに存在する式3で表される糖鎖を含む、マーカーとしては、(i)チロキシン結合グロブリンに存在する(由来する)式3で表される糖鎖そのもの、(ii)式3で表される糖鎖が結合したチロキシン結合グロブリン、(iii)チロキシン結合グロブリンの一部分であって、式3で表される糖鎖が結合したペプチド断片等が挙げられ、(ii)又は(iii)が好ましい。
尚、上記ペプチド断片とは、式3で表される糖鎖とチロキシン結合グロブリンとの結合部位である、チロキシン結合グロブリンのアミノ酸配列のN末端より36番目のアミノ酸残基(アスパラギン残基)を少なくとも有する任意の断片であるのが好ましい。該ペプチド断片としては、具体的には、例えば、生体内で生じるものや、チロキシン結合グロブリンをトリプシン、リシルエンドペプチダーゼ、AspN等のプロテアーゼ処理に付した結果生じるものが挙げられ、より具体的には、例えば、2~50個のアミノ酸残基からなるものが挙げられ、配列番号5(アクセッション番号P05543:27番~41番)で表されるものが好ましい。
【0038】
本発明のマーカーとしては、(i)インターアルファトリプシンインヒビター重鎖H3に存在する、式5で表される糖鎖又は(ii)ロイシンリッチアルファ2グリコプロテインに存在する、式6で表される糖鎖が好ましく、(iii)インターアルファトリプシンインヒビター重鎖H3に存在する、式5で表される糖鎖がより好ましく、(iv)インターアルファトリプシンインヒビター重鎖H3のアミノ酸配列のN末端より580番目のアミノ酸残基(アスパラギン残基)に結合している式5で表される糖鎖が特に好ましい。
【0039】
[本発明に係る膵臓癌]
本発明に係る膵臓癌とは、膵臓から発生した癌のことである。
本発明に係る膵臓癌には、具体的には、例えば、浸潤性膵管癌、膵腺房細胞癌、膵管内乳頭粘液性腫瘍等の外分泌性膵臓癌、神経内分泌腫瘍等の内分泌性膵臓癌等が含まれる。
【0040】
<本発明の膵臓癌の判定方法>
本発明の膵臓癌の判定方法(以下、本発明の判定方法と略記する場合がある)は、試料中の、下記(1)~(5)から選ばれる糖鎖の量を測定し(以下、本発明に係る測定工程と略記する場合がある)、得られた測定結果に基づいて膵臓癌を判定する(以下、本発明に係る判定工程と略記する場合がある)ことによりなされる。
(1)インターアルファトリプシンインヒビター重鎖H3に存在する、上記式5で表される糖鎖(本発明のマーカー(1))、
(2)ロイシンリッチアルファ2グリコプロテインに存在する、上記式6で表される糖鎖(本発明のマーカー(2))、
(3)ビトロネクチンに存在する、上記式1~3で表される少なくとも1つの糖鎖(本発明のマーカー(3))、
(4)補体C4-Aに存在する、上記式4で表される糖鎖(本発明のマーカー(4))、
(5)チロキシン結合グロブリンに存在する、上記式3で表される糖鎖(本発明のマーカー(5))
尚、本発明の判定方法としては、本発明のマーカー(1)~(5)の何れか単独を用いてなされても、或いは複数種を用いてなされてもよい。
【0041】
[本発明に係る試料]
本発明に係る試料としては、被検動物由来のものであればよく、例えば、血清、血漿、全血、尿、唾液、脳脊髄液、組織液、汗、涙、羊水、骨髄液、胸水、腹水、間接液、眼房水、硝子体液等の生体由来試料が挙げられ、血清、血漿、全血等の血液由来試料が好ましく、血清がより好ましい。
上記被検動物としては、ヒト、サル、マウス、ラット、イヌ、ネコ、ブタ、ウサギ、チンパンジー等の哺乳動物が挙げられ、ヒト、サル、マウス又はラットが好ましく、ヒトがより好ましい。
【0042】
本発明に係る試料を被検動物から得る(採取する)方法は、特に限定されず、例えば、自体公知の方法に基づいて、該被検動物から該試料を得る(採取する)ことによりなされればよく、要すれば自体公知の方法に従って、分離、濃縮、精製等を行ってもよい。
尚、上記試料は、被検動物から得られた(採取された)直後のものであっても、該試料を保存したものであってもよい。試料を保存する方法としては、通常この分野で行われている方法であれば何れでもよい。
【0043】
[本発明に係る測定工程]
本発明に係る測定工程は、下記(1)~(5)から選ばれる糖鎖の量を測定することによりなされる。
(1)インターアルファトリプシンインヒビター重鎖H3に存在する、上記式5で表される糖鎖、
(2)ロイシンリッチアルファ2グリコプロテインに存在する、上記式6で表される糖鎖、
(3)ビトロネクチンに存在する、上記式1~3で表される少なくとも1つの糖鎖、
(4)補体C4-Aに存在する、上記式4で表される糖鎖、
(5)チロキシン結合グロブリンに存在する、上記式3で表される糖鎖
尚、本発明に係る測定工程としては、本発明のマーカー(1)~(5)の何れか単独を測定することによりなされても、或いは複数種を測定することによりなされてもよい。
【0044】
本発明に係る測定工程における上記(1)~(5)から選ばれる糖鎖の量の測定とは、本発明のマーカー(1)~(5)から選ばれる1つを測定することであり、具体的には、例えば、(i)本発明のマーカーにおけるタンパク質に存在する(由来する)糖鎖そのものの量の測定、(ii)本発明のマーカーにおける糖鎖が結合したタンパク質の量の測定、(iii)本発明のマーカーにおけるタンパク質の一部分であって、糖鎖が結合したペプチド断片の量の測定等が挙げられ、(ii)又は(iii)が好ましい。
上記本発明のマーカーにおけるタンパク質とは、本発明のマーカーにおける糖鎖以外の部分を意味し、本発明のマーカー(1)であれば、インターアルファトリプシンインヒビター重鎖H3を意味し、本発明のマーカー(2)であれば、ロイシンリッチアルファ2グリコプロテインを意味し、本発明のマーカー(3)であれば、ビトロネクチンを意味し、本発明のマーカー(4)であれば、補体C4-Aを意味し、本発明のマーカー(5)であれば、チロキシン結合グロブリンを意味する。
尚、上記「量」とは、容量、質量等の絶対値又は濃度、イオン強度、吸光度、蛍光強度、濁度、ピーク面積等から算出された値等の相対値の何れであってもよい。
【0045】
本発明に係る測定工程における測定方法としては、通常この分野で行われているものであれば何れでもよく、具体的には、例えば、(A)本発明のマーカーに対して親和性を有する物質(例えば、抗体、レクチン等)を用いる方法、(B)質量分析法を利用する方法等が挙げられ、(A)が好ましい。
以下に、上記(A)及び(B)についてそれぞれ具体的に説明する。
【0046】
(A)本発明のマーカーに対して親和性を有する物質を用いる方法
本発明のマーカーに対して親和性を有する物質を用いる方法としては、具体的には、例えば、酵素結合免疫吸着測定法(ELISA法)、酵素免疫測定法(EIA法)、放射免疫測定法(RIA法)、蛍光免疫測定法(FIA法)、化学発光酵素免疫測定法(CLEIA法)、電気化学発光免疫測定法(ECLEIA法)、免疫比濁法、免疫比ろう法、ラテックス凝集法、イムノクロマト法、ウェスタンブロット法、Luminescent Oxygen ChannelingImmunoassay(LOCI法)、Liquid-phase Binding Assay-ElectroKinetic Analyte Transport Assay(LBA-EATA法)等の免疫学的測定法に準じた方法が挙げられる。
【0047】
上記免疫学的測定法に準じた方法としては、具体的には、例えば、本発明のマーカーに対して親和性を有する物質と本発明のマーカーとを接触させて、本発明のマーカーに対して親和性を有する物質と本発明のマーカーとの複合体を形成させ、該複合体の量を測定することによりなされればよい。
【0048】
上記本発明のマーカーに対して親和性を有する物質とは、本発明のマーカーにおけるタンパク質(又はペプチド断片)に特異的に結合する抗体や、本発明のマーカーにおける糖鎖に特異的に結合するレクチンや抗体等が挙げられる。
【0049】
上記本発明のマーカーにおけるタンパク質(又はペプチド断片)に特異的に結合する抗体としては、具体的には、例えば、本発明のマーカー(1)であれば、抗インターアルファトリプシンインヒビター重鎖H3抗体、本発明のマーカー(2)であれば、抗ロイシンリッチアルファ2グリコプロテイン抗体、本発明のマーカー(3)であれば、抗ビトロネクチン抗体、本発明のマーカー(4)であれば、抗補体C4-A抗体、本発明のマーカー(5)であれば、抗チロキシン結合グロブリン抗体等が挙げられる。
上記抗体は、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体の何れであってもよく、これらを単独で或いは組み合わせて用いてもよい。
上記抗体は、Fab、F(ab’2)、Fv、sFv等の抗体フラグメントやダイアボディ、トリアボディ、テトラボディ等の合成抗体等であってもよい。
また、上記抗体は、市販の抗体を用いても、自体公知の方法に従って調製したものを用いてもよい。
尚、自体公知の方法に従って、上記抗体を調製する場合には、例えば、「免疫測定法」(生物化学的測定研究会編集、講談社、2014年)等に記載の方法に従ってなされればよい。
【0050】
また、上記抗体は、標識物質で標識されたものであってもよい。該標識物質としては、具体的には、例えば、西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)、ウシ小腸アルカリホスファターゼ、β-ガラクトシダーゼ等の酵素、99mTc、131I、125I、14C、H、32P、35S等の放射性同位元素、フルオレセイン、フルオレセインイソチアシネート(FITC)、4-メチルウンベリフェロン、ローダミン或いはこれらの誘導体等の蛍光性物質、ルシフェリン、ルミノール、ルテニウム錯体等の発光性物質、フェノール、ナフトール、アントラセン或いはこれらの誘導体等の紫外部に吸収を有する物質、4-アミノ-2,2,6,-テトラメチルピぺリジン-1-オキシル等のオキシル基を有する化合物に代表されるスピンラベル化剤としての性質を有する物質、HiLyte系色素、Alexa系色素、CyDye系色素等の色素、金コロイド、量子ドット等のナノ粒子等が挙げられる。
尚、上記標記物質を抗体に結合させる方法としては、自体公知の方法に従ってなされればよい。
【0051】
上記本発明のマーカーにおける糖鎖に特異的に結合するレクチンとしては、具体的には、例えば、本発明のマーカー(1)であれば、上記式5で表される糖鎖のGlcNAc(N-アセチルグルコサミン)に結合するPhaseolus vulgaris Leucoagglutinin(PHA-L)等、本発明のマーカー(2)であれば、上記式6で表される糖鎖のMan(マンノース)に結合するGNL、LCA、PSA、Con A等、本発明のマーカー(3)であれば、上記式1で表される糖鎖のMan(マンノース)に結合するGalanthus nivalis Lectin(GNL)、Lens culinaris Agglutinin(LCA)、Pisum sativum Agglutinin(PSA)、Concanavalin A(Con A)等、上記式2で表される糖鎖のFuc(フコース)に結合するAleuria aurantia Lectin(AAL)、Lotus Tetragolonobus Lectin(LTL)等、上記式3で表される糖鎖のNeuNAc(N-アセチルノイラミン酸)に結合するSambucus Nigra Lectin(SNL)、Maackia amrensis Lectin II(MAL II)等、本発明のマーカー(4)であれば、上記式4で表される糖鎖のFuc(フコース)に結合するAAL、LTL等、本発明のマーカー(5)であれば、上記式3で表される糖鎖のNeuNAc(N-アセチルノイラミン酸)に結合するMAL II等が挙げられる。
【0052】
上記レクチンは、標識物質で標識されたものであってもよく、該標識物質としては、上記本発明のマーカーにおけるタンパク質(又はペプチド断片)に特異的に結合する抗体にて説明した通りであり、具体例等も同じである。また、上記標識物質をレクチンに結合させる方法としては、自体公知の方法に従ってなされればよい。
【0053】
上記本発明のマーカーにおける糖鎖に特異的に結合する抗体としては、具体的には、例えば、本発明のマーカー(1)であれば、上記式5で表される糖鎖に特異的に結合する抗体、本発明のマーカー(2)であれば、上記式6で表される糖鎖に特異的に結合する抗体、本発明のマーカー(3)であれば、上記式1で表される糖鎖に特異的に結合する抗体、上記式2で表される糖鎖に特異的に結合する抗体、上記式3で表される糖鎖に特異的に結合する抗体、本発明のマーカー(4)であれば、上記式4で表される糖鎖に特異的に結合する抗体、本発明のマーカー(5)であれば、上記式3で表される糖鎖に特異的に結合する抗体等が挙げられる。
【0054】
上記抗体は、標識物質で標識されたものであってもよく、該標識物質としては、上記本発明のマーカーにおけるタンパク質(又はペプチド断片)に特異的に結合する抗体にて説明した通りであり、具体例等も同じである。
また、上記標識物質をレクチンに結合させる方法としては、自体公知の方法に従ってなされればよい。
【0055】
上記本発明のマーカーに対して親和性を有する物質と本発明のマーカーとの複合体の量を測定する方法としては、該複合体の量を測定し得る方法であれば何れでもよく、具体的には、例えば、本発明のマーカーに対して親和性を有する物質に結合した標識物質に由来するシグナルを検出する方法、本発明のマーカーに対して親和性を有する物質と本発明のマーカーとの複合体に由来する性質を利用する方法等が挙げられ、本発明のマーカーに対して親和性を有する物質に結合した標識物質に由来するシグナルを検出する方法が好ましい。
【0056】
上記本発明のマーカーに対して親和性を有する物質に結合した標識物質に由来するシグナルを検出する方法としては、具体的には、例えば、本発明のマーカーに対して親和性を有する物質に結合した標識物質に由来するシグナルを自体公知の方法により検出することによりなされればよい。例えば、標識物質が酵素の場合には、免疫測定法の常法、例えば「酵素免疫測定法」(蛋白質 核酸 酵素 別冊 No.31、北川常廣・南原利夫・辻章夫・石川榮治編集、51~63,共立出版、1987)等に記載された方法に準じて測定を行えばよく、標識物質が放射性物質の場合には、例えばRIAで行われている常法に従い、該放射性物質の出す放射線の種類および強さに応じて液浸型GMカウンター、液体シンチレーションカウンター、井戸型シンチレーションカウンター、HPLC用カウンター等の測定機器を適宜選択して使用し、測定を行えばよい(例えば医化学実験講座、第8巻、山村雄一監修、第1版、中山書店、1971等参照)。また、標識物質が蛍光物質の場合には、例えば蛍光光度計等の測定機器を用いるFIAで行われている常法、例えば「図説 蛍光抗体、川生明著、第1版、ソフトサイエンス社、1983」等に記載された方法に準じて測定を行えばよく、標識物質が発光物質の場合にはフォトカウンター等の測定機器を用いる常法、例えば「酵素免疫測定法」(蛋白質 核酸 酵素 別冊 No.31、北川常廣・南原利夫・辻章夫・石川榮治編集、252~263、共立出版、1987)等に記載された方法に準じて測定を行えばよい。さらに、標識物質が紫外部に吸収を有する物質の場合には分光光度計等の測定機器を用いる常法によって測定を行えばよく、標識物質がスピンの性質を有する場合には電子スピン共鳴装置を用いる常法、例えば「酵素免疫測定法」(蛋白質 核酸 酵素 別冊 No.31、北川常廣・南原利夫・辻章夫・石川榮治編集、264~271、共立出版、1987)等に記載された方法に準じてそれぞれ測定を行えばよい。
【0057】
上記本発明のマーカーに対して親和性を有する物質と本発明のマーカーとの複合体に由来する性質を利用する方法としては、具体的には、例えば、表面プラズモン共鳴法等のホモジニアスイムノアッセイ系等の方法等が挙げられる。
尚、上記方法の具体的な手法については、自体公知の手法に従ってなされればよい。
【0058】
以下に、(A)本発明のマーカーに対して親和性を有する物質を用いる方法について、より具体的に説明する。
尚、下記説明において、本発明のマーカーにおけるタンパク質(又はペプチド断片)を「標的タンパク質(又は標的ペプチド断片)」、本発明のマーカーにおける糖鎖を「標的糖鎖」と表記する。
例えば、本発明のマーカー(1)を測定する場合、インターアルファトリプシンインヒビター重鎖H3が「標的タンパク質(又は標的ペプチド断片)」を、式5で表される糖鎖が「標的糖鎖」を意味し、本発明のマーカー(2)を測定する場合、ロイシンリッチアルファ2グリコプロテインが「標的タンパク質(又は標的ペプチド断片)」を、式6で表される糖鎖が「標的糖鎖」、本発明のマーカー(3)を測定する場合、ビトロネクチンが「標的タンパク質(又は標的ペプチド断片)」、式1~3で表される少なくとも1つの糖鎖が「標的糖鎖」を意味し、本発明のマーカー(4)を測定する場合、補体C4-Aが「標的タンパク質(又は標的ペプチド断片)」を、式4で表される糖鎖が「標的糖鎖」を意味し、本発明のマーカー(5)を測定する場合、チロキシン結合グロブリンが「標的タンパク質(又は標的ペプチド断片)」を、式3で表される糖鎖が「標的糖鎖」を意味する。
【0059】
上記(A)本発明のマーカーに対して親和性を有する物質を用いる方法としては、具体的には、例えば、下記工程1及び2を含む方法が挙げられる。
(工程1)試料から標的糖鎖が結合した標的タンパク質(本発明のマーカー)を分離する工程、
(工程2)前記工程1で分離された標的糖鎖が結合した標的タンパク質の量を測定する工程
【0060】
工程1としては、試料から標的糖鎖が結合した標的タンパク質を分離し得る方法であれば何れでもよく、具体的には、例えば、試料中に存在する標的糖鎖が結合した標的タンパク質と他の成分とを分離する方法が挙げられる。このような方法としては、具体的には、例えば、2種以上の親和性を有する物質、即ち、標的糖鎖に特異的に結合する物質、及び標的タンパク質に特異的に結合する物質を用いて、標的糖鎖が結合した標的タンパク質と親和性を有する物質との複合体(標的タンパク質に特異的に結合する物質-本発明のマーカー-標的糖鎖に特異的に結合する物質)を形成させ、自体公知の方法により、標的糖鎖が結合した標的タンパク質を分離すればよい。
尚、標識物質で標識された親和性を有する物質を用いる場合には、標的糖鎖が結合した標的タンパク質の分離は、標識物質で標識された親和性を有する物質と本発明のマーカーとの複合体の分離と言い換えてもよく、この場合、標識物質で標識された親和性を有する物質と本発明のマーカー以外の成分との複合体又は/及び遊離の標識物質で標識された親和性を有する物質とを分離すればよい。標識物質で標識された親和性を有する物質を構成成分として含まない成分との分離は不要である。
また、上記糖鎖に特異的に結合する親和性を有する物質及びタンパク質に特異的に結合する親和性を有する物質については、上述の通りであり、具体例等も同じである。
【0061】
工程2としては、前記工程1で分離された標的糖鎖が結合した標的タンパク質を測定し得る方法であれば何れでもよく、具体例等は上述の通りである。
【0062】
上記方法において、工程1を行う前に、予め試料中の全タンパク質(標的タンパク質を含む)をペプチド断片化し、工程1で標的糖鎖が結合した標的ペプチド断片を分離し、工程2で該標的糖鎖が結合した標的ペプチド断片を測定してもよい。
該断片化処理としては、具体的には、例えば、工程1を行う前に、試料にトリプシン、リシルエンドペプチダーゼ、AspN等のプロテアーゼを加えることによりなされればよく、工程1で標的糖鎖に結合する物質、及び標的ペプチド断片に結合する物質をそれぞれ用いて、標的糖鎖が結合した標的ペプチド断片と親和性を有する物質との複合体(標的ペプチド断片に特異的に結合する物質-本発明のマーカー-標的糖鎖に特的に結合する物質)を形成させ、該複合体を上述の如く分離した後、該複合体の量を測定すればよい。
【0063】
また、上記全タンパク質の断片化を行った場合、該断片化に引き続いて、レクチンカラム等のカラムによる濃縮を行ってもよい。該濃縮は自体公知の方法に従ってなされればよく、市販のレクチンカラム等のカラムを用いればよい。
【0064】
更に、上記方法において、工程2のかわりに、工程1で分離された標的糖鎖が結合した標的タンパク質から標的糖鎖を分離し、該標的糖鎖のみを測定してもよい。
具体的には、例えば、工程1で分離された標的糖鎖が結合した標的タンパク質を、グリカナーゼ、ヒドラジン等にて処理することにより標的糖鎖を分離した後、該糖鎖の量のみを上述の如く測定すればよい。
【0065】
(B)質量分析法を利用する方法
質量分析法を利用する方法としては、具体的には、例えば、液体クロマトグラフィー質量分析計(LC/MS)、キャピラリー電気泳動質量分析計(CE/MS)、ガスクロマトグラフィー質量分析計(GC/MS)、液体クロマトグラフィータンデム型質量分析計(LC/MS/MS)等を利用する方法が挙げられる。
上記方法としては、具体的には、例えば、液体クロマトグラフ等のクロマトグラフを有する分離部にて、試料中の成分を分離し、分離された種々の成分を質量分析部にてイオン化させ、更に質量電荷比(m/z)毎に分離することによりなされればよい。
尚、上記質量分析法を利用する方法における具体的な手法は自体公知の手法やWO2014/038524、WO2017/19588、WO2018/034346等に記載の手法に従ってなされればよい。
【0066】
上記質量分析法を利用する方法において、試料から予め全タンパク質を抽出してもよく、その方法としては、具体的には、例えば、試料に、アセトン、メタノール、エタノール、トリクロロ酢酸、塩酸水溶液等の溶媒を用いて全タンパク質を沈殿させることによりなされればよい。
【0067】
また、必要に応じ、試料から全タンパク質を抽出する前又は後に、全タンパク質を断片化してもよく、断片化を行った場合、該断片化に引き続いて、レクチンカラム等のカラムによる濃縮を行ってもよい。該断片化及び濃縮については、上述の通りである。
【0068】
[好ましい測定工程]
本発明に係る測定工程では、(i)インターアルファトリプシンインヒビター重鎖H3に存在する、式5で表される糖鎖の量又は(ii)ロイシンリッチアルファ2グリコプロテインに存在する、式6で表される糖鎖の量を測定することが好ましく、(iii)インターアルファトリプシンインヒビター重鎖H3に存在する、式5で表される糖鎖の量を測定することがより好ましく、(vi)インターアルファトリプシンインヒビター重鎖H3のアミノ酸配列のN末端より580番目のアミノ酸残基(アスパラギン残基)に結合している式5で表される糖鎖の量を測定することが更に好ましい。
また、上記測定を行う場合には、本発明のマーカーに対して親和性を有する物質を用いる方法が好ましく、ELISA法、EIA法、RIA法、FIA法、CLEIA法、ECLEIA法、免疫比濁法、免疫比ろう法、ラテックス凝集法、イムノクロマト法、ウェスタンブロット法、LOCI法、LBA-EATA法等の免疫学的測定法に準じた方法がより好ましく、本発明のマーカーに対して親和性を有する物質と本発明のマーカーとを接触させて、本発明のマーカーに対して親和性を有する物質と本発明のマーカーとの複合体を形成させ、該複合体の量を測定する方法が更に好ましく、本発明のマーカーに対して親和性を有する物質と本発明のマーカーとを接触させて、本発明のマーカーに対して親和性を有する物質と本発明のマーカーとの複合体を形成させ、該複合体に結合した標識物質に由来するシグナルを検出する方法が特に好ましい。
【0069】
[本発明に係る判定工程]
本発明に係る判定工程は、本発明に係る測定工程により得られた測定結果に基づいて膵臓癌を判定する工程である。
【0070】
本発明に係る判定工程は、具体的には、例えば、被検動物由来の試料を用いて本発明に係る測定工程により得られた値(以下、被検動物由来の値と略記する場合がある)と予め設定した基準値(カットオフ値等)とを用いてなされる。
即ち、(i)被検動物由来の値が、予め設定した基準値(カットオフ値等)以上の場合、「被検動物が膵臓癌に罹患しているおそれがある、或いは被検動物が膵臓癌に罹患しているおそれが高い」等の判定を下すことができ、(ii)被検動物由来の値が、予め設定した基準値(カットオフ値等)未満の場合、「被検動物が膵臓癌に罹患しているおそれはない、或いは膵臓癌に罹患しているおそれが低い」等の判定を下すことができる。
また、別の態様として、(i)被検動物由来の値が、予め設定した基準値(カットオフ値等)以下の場合、「被検動物が膵臓癌に罹患しているおそれがある、或いは被検動物が膵臓癌に罹患しているおそれが高い」等の判定を下すことができ、(ii)被検動物由来の値が、予め設定した基準値(カットオフ値等)超の場合、「被検動物が膵臓癌に罹患しているおそれはない、或いは膵臓癌に罹患しているおそれが低い」等の判定を下すことができる。
尚、上記基準値(カットオフ値等)は、膵臓癌に罹患している動物由来の試料を用いて本発明に係る測定工程により得られた測定値と健常動物由来の試料を用いて本発明に係る測定工程により得られた値(以下、健常動物由来の値と略記する場合がある)とを用いてROC(Receiver Operating Characteristic)曲線解析等の統計解析に基づいて決定することができる。
また、上記基準値(カットオフ値等)の感度又は/特異度は、例えば60%以上、好ましくは70%以上、より好ましくは80%以上、更に好ましくは90%以上である。
【0071】
別の形態として、被検動物由来の値と健常動物由来の値とを比較し、(i)被検動物由来の値が、健常動物由来の値より多い場合、「被検動物が膵臓癌に罹患しているおそれがある、或いは被検動物が膵臓癌に罹患しているおそれが高い」等の判定を下すことができ、(ii)被検動物由来の値と、健常動物由来の値との間に顕著な差が認められない場合、「被検動物が膵臓癌に罹患しているおそれはない、或いは膵臓癌に罹患しているおそれが低い」等の判定を下すことができる。
【0072】
更に別の形態として、同一の被検動物において、ある時点における被検動物由来の値と、異なる時点での被検動物由来の値とを比較し、該値の有無又は/及び増減の程度を評価することにより、膵臓癌の進行度、悪性度の診断、術後の予後診断等が可能である。即ち、(i)値の増加が認められた場合、膵臓癌へ病態が進行した(或いは膵臓癌の悪性度が増した)、又は膵臓癌への病態の進行の兆候が認められる(或いは膵臓癌の悪性度が増す兆候が認められる)等の判定を下すことができ、(ii)値の減少が認められた場合、膵臓癌の病態が改善した、又は膵臓癌の病態の改善の兆候が認められる等の判定を下すことができる。
【0073】
尚、本発明に係る測定工程にて本発明のマーカーを複数種測定した場合は、得られた複数の値を用いて上述の通りに本発明に係る判定工程を行えばよく、より確度(正確度・精度)の高い判定が可能となる。
【0074】
<本発明の膵臓癌の判定を行うためのデータを得る方法>
本発明の膵臓癌の判定を行うためのデータを得る方法(以下、本発明のデータを得る方法と略記する場合がある)は、試料中の下記(1)~(5)から選ばれる糖鎖の量を測定することによりなされる。
(1)インターアルファトリプシンインヒビター重鎖H3に存在する、上記式5で表される糖鎖、
(2)ロイシンリッチアルファ2グリコプロテインに存在する、上記式6で表される糖鎖、
(3)ビトロネクチンに存在する、上記式1~3で表される少なくとも1つの糖鎖、
(4)補体C4-Aに存在する、上記式4で表される糖鎖、
(5)チロキシン結合グロブリンに存在する、上記式3で表される糖鎖
即ち、本発明のデータを得る方法は、本発明のマーカー、言い換えると、本発明のマーカー(1)~(5)から選ばれるものを測定することによりなされる。
尚、本発明のデータを得る方法としては、本発明のマーカー(1)~(5)の何れか単独を用いてなされても、或いは複数種を用いてなされてもよい。
【0075】
本発明のデータを得る方法におけるデータとしては、(i)本発明のデータを得る方法により得られた本発明のマーカーの量の値、(ii)該値を更に多重ロジスティック回帰分析、判別分析、ポアソン回帰分析、重回帰分析、コックスの比例ハザードモデル、パス解析等の多変量解析に付して得られる値、(iii)本発明のデータを得る方法により得られた本発明のマーカーの量の値と前述の基準値(カットオフ値等)との大小関係を示すデータ(比較結果)、(iv)被験動物が膵臓癌に罹患しているおそれがある、或いは被検動物が膵臓癌に罹患しているおそれが高い等を示唆するデータ等が挙げられ、(i)又は(iii)が好ましく、(i)がより好ましい。
尚、本発明のデータを得る方法における、本発明のマーカー、該マーカーの測定、膵臓癌及び試料については、<本発明のマーカー>及び<本発明の判定方法>にて説明した通りであり、具体例、好ましい例等も同じである。
【0076】
<本発明の膵臓癌の判定用キット>
本発明の膵臓癌の判定用キット(以下、本発明のキットと略記する場合がある)は、下記(1)~(5)から選ばれる糖鎖に親和性を有する物質を含むものである。
(1)インターアルファトリプシンインヒビター重鎖H3に存在する、上記式5で表される糖鎖、
(2)ロイシンリッチアルファ2グリコプロテインに存在する、上記式6で表される糖鎖、
(3)ビトロネクチンに存在する、上記式1~3で表される少なくとも1つの糖鎖、
(4)補体C4-Aに存在する、上記式4で表される糖鎖、
(5)チロキシン結合グロブリンに存在する、上記式3で表される糖鎖
本発明のキットは、本発明のマーカー、言い換えると、本発明のマーカー(1)~(5)にそれぞれ親和性を有する物質を含むものである。
尚、本発明のキットにおける、本発明のマーカー及び膵臓癌については、<本発明のマーカー>及び<本発明の判定方法>にて説明した通りであり、具体例、好ましい例等も同じである。
【0077】
上記親和性を有する物質とは、本発明のマーカーにおける糖鎖やタンパク質(又はペプチド断片)に特異的に結合するものであり、レクチン、抗体等が挙げられる。
上記親和性を有する物質については、<本発明の判定方法>にて説明した通りであり、具体例、好ましい例等も同じである。
【0078】
本発明のキットには、更に、通常この分野で用いられる試薬類、例えば、トリプシン、リシルエンドペプチダーゼ、AspN等のペプチド断片化用試薬、レクチンカラム等の濃縮用カラム、タンパク質抽出用溶媒、緩衝剤、洗浄剤、反応促進剤、糖類、タンパク質、塩類、界面活性剤等の安定化剤、防腐剤、試料を希釈するための液、レクチン固定化固相、抗体固定化固相、抗原固定化固相等の固定化固相、標識物質で標識された二次抗体又は該二次抗体の断片、標識物質検出用試薬等であって、共存する試薬等の安定性を阻害しないものが含まれていてもよい。また、その濃度、pHも通常この分野で用いられている範囲であればよい。
【0079】
上記レクチン固定化固相、抗体固定化固相、抗原固定化固相等の固定化固相としては、磁性シリカ粒子等の磁性粒子、ポリスチレン、ポリカーボネート、ポリビニルトルエン、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリ塩化ビニル、ナイロン、ポリメタクリレート、ゼラチン、アガロース、セルロース、ポリエチレンテレフタレート、ガラス、セラミック等の素材に、本発明のマーカーにおけるタンパク質(又はペプチド断片)や糖鎖に特異的に結合する親和性を有する物質(レクチン、抗体又は該抗体の断片等)を固相化したものであれば何れでもよい。
尚、上記レクチン固定化固相、抗体固定化固相、抗原固定化固相等の固定化固相における素材については、自体公知の方法により製造されたものを用いても、市販のものを用いてもよい。例えば、自体公知の方法により上記磁性シリカ粒子等の磁性粒子を製造する場合、WO2012/173002に記載の方法により製造することができる。
【0080】
上記標識物質で標識された二次抗体又はその抗体断片とは、上記固相化された親和性を有する物質(レクチン、抗体又は該抗体の断片等)にそれぞれ結合する抗体又はその抗体断片である。
尚、上記標識物質で標識された二次抗体又はその抗体断片における、標識物質及び標識物質を結合させる方法については、<本発明の判定方法>にて説明した通りであり、好ましい例、具体例等も同じである。
【0081】
上記標識物質検出用試薬とは、レクチン、抗体又は該抗体の断片等の親和性を有する物質が標識物質で標識されている場合、標識物質で標識されたレクチン、抗体又は該抗体の断片等の親和性を有する物質中の標識又は/及び上記標識された二次抗体又は該二次抗体の断片中の標識を検出するものであり、テトラメチルベンジジン、オルトフェニレンジアミン等の吸光度測定用基質、ヒドロキシフェニルプロピオン酸、ヒドロキシフェニル酢酸等の蛍光基質、ルミノール等の発光物質が挙げられ、4-ニトロフェニルフォスフェート等の吸光度測定用試薬、4-メチルウンベリフェリルフォスフェート等の蛍光基質等が挙げられる。
【0082】
更に、本発明のキットには、本発明の判定方法又は/及びデータを得る方法を行うための説明書等を含まれていてもよい。当該「説明書」とは、本発明の判定方法又は/及びデータを得る方法の特徴、原理、操作手順、判定手順等が文章又は/及び図表により実質的に記載されている本発明に係る試薬の取扱い説明書、添付文書、パンフレット(リーフレット)等を意味する。
【0083】
このように本発明のキットによれば、本発明の判定方法又は/及び本発明のデータを得る方法を簡便、短時間且つ精度よく行うことができる。
【0084】
<本発明に係る膵臓癌の判定を行うための装置>
本発明に係る膵臓癌の判定を行うための装置(以下、本発明に係る判定装置と略記する場合がある)は、少なくとも(1)測定部を備えている。更に、(2)判定部、(3)出力部及び(4)入力部を備えていてもよい。
【0085】
本発明に係る判定装置における(1)測定部は、試料中の上記本発明のマーカー(1)~(5)から選ばれる糖鎖の量を測定するように構成されている。具体的には、例えば、本発明に係る測定工程にて用いられる各種質量分析計、免疫学的測定法に準じた方法に用いられる装置等の測定装置が挙げられる。
尚、要すれば、(1)測定部では、測定された測定値に基づいて、上記本発明のマーカー(1)~(5)の量を算出するように構成されていてもよい。
【0086】
本発明に係る判定装置における(2)判定部は、(1)測定部にて得られる結果に基づいて膵臓癌を判定するように構成されている。
【0087】
本発明に係る判定装置における(3)出力部は、(1)測定部にて得られる結果又は/及び(2)判定部にて得られる結果を出力するよう構成されている。
【0088】
本発明に係る判定装置における(4)入力部は、操作する者の操作を受けて、(1)測定部へ、当該(1)測定部を作動させるための信号を送るよう構成されている。
【0089】
尚、上記本発明に係る判定装置の(1)測定部及び(2)判定部によりなされる測定、判定等については、<本発明の判定方法>にて説明した通りであり、好ましい例、具体例等も同じである。
【0090】
上記本発明に係る判定装置によれば、本発明の判定方法又は/及び本発明のデータを得る方法を簡便、短時間且つ精度よく行うことができる。
【0091】
<本発明に係る膵臓癌の判定を補助する方法>
本発明に係る膵臓癌の判定を補助する方法(以下、本発明に係る補助方法と略記する場合がある)は、試料中の上記本発明のマーカー(1)~(5)から選ばれる糖鎖の量を測定し、得られた測定結果に基づいて膵臓癌の判定を補助することによりなされる。
本発明に係る補助方法は、医師等による膵臓癌の診断を補助する方法として用いることができる。
尚、本発明に係る補助方法における試料、マーカー、測定、判定等については、<本発明の判定方法>にて説明した通りであり、好ましい例、具体例等も同じである。
【0092】
<本発明に係る膵臓癌を判定し、治療する方法>
本発明に係る膵臓癌を判定し、治療する方法(以下、本発明に係る治療方法と略記する場合がある)は、試料中の本発明のマーカー(1)~(5)から選ばれる糖鎖の量を測定し、得られた測定結果に基づいて膵臓癌を判定し、その判定結果に基づいて膵臓癌のおそれがある又は膵臓癌のおそれが高いと判定された患者に適切な治療を施すことによりなされる。
尚、本発明に係る治療方法における試料、マーカー、測定、判定等については、<本発明の判定方法>にて説明した通りであり、好ましい例、具体例等も同じである。
本発明に係る治療方法における適切な治療としては、具体的には、例えば、膵頭十二指腸切除術、膵体尾部切除術、膵全摘術、バイパス手術等の外科療法、化学放射線療法等の放射線治療、ユーエフティ(商品名)等の薬剤を投与することによりなされる薬物療法等が挙げられる。
【0093】
以下、実施例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は実施例によって何ら限定されるものではない。
【実施例
【0094】
実施例1.膵臓癌マーカーの選別
[(1)検体(サンプル)]
横浜市立大学センター病院及び横浜市立大学先端医科学研究センターバイオバンクより提供された、膵臓癌患者由来の血清(10検体)及び健常者由来の血清(11検体)を検体(サンプル)として用いた。
【0095】
[(2)糖ペプチドの調製]
上記(1)の膵臓癌患者由来の血清及び健常者由来の血清 10μLを、High-Select Top14 Abundant Protein Depletion Resin(ThermoFisher Scientific社製)にそれぞれ入れ、25℃で10分間インキュベートすることにより、albumin、immunoglobulin等の血清中に存在する夾雑タンパク質を除去した。次いで、アセトン 40μLをそれぞれ加え、-20℃で16時間インキュベートした後、14000rpmで遠心分離した。上清を除去後、沈殿物に8M尿素含有50mMトリス塩酸バッファー(pH8.0) 50μLをそれぞれ加え溶解し、プロテインアッセイBCAキット(富士フイルム和光純薬社製)にてタンパク質濃度をそれぞれ測定した。測定後、タンパク質試料 20μgに、500mMジチオスレイトール 1μLをそれぞれ加え、37℃で30分間インキュベートした。次いで、500mMヨードアセトアミド 2.8μLをそれぞれ加え、37℃で30分間インキュベートすることにより、還元アルキル化を行った(尚、該還元アルキル化は、500mMジチオスレイトール 0.5μLを加えることにより、その反応を停止させた)。その後、Zeba Spin Desalting column(0.5mL;ThermoFisher Scientific社製)にて50mMトリス塩酸バッファー(pH8.0) 130μLに溶媒置換し、変性剤及び還元剤をそれぞれ除去した。次いで、タンパク質試料 1μgに、Trypsin/Lys-C Mix(プロメガ社製)をそれぞれ加え、37℃で16時間インキュベートした。その後、Oasis PRiME HLB固相抽出カラム(Waters社製)にて脱塩を行い、遠心エバポレーターにて乾固し、糖ペプチドを得た。
【0096】
[(3)糖ペプチドの濃縮]
上記(2)で調製した21検体分(膵臓癌患者:10検体、健常者:11検体)の各糖ペプチド 10μgについて、下記手順に従い、濃縮した。
(A)WO2017/195887記載の糖ペプチド濃縮カラムに、0.1%TFA溶液 100μLを入れ、200μLチップ専用の卓上遠心機にセットし、該溶液をカラムに通過させ、ポリマー性ポリオール層を洗浄した。
(B)カラムに、80%アセトニトリル/0.1%TFA溶液 100μLを入れ、200μLチップ専用の卓上遠心機にセットし、該溶液をカラムに通過させ、固相抽出担体相を洗浄した。
(C)カラムに、80%アセトニトリル/0.1%TFA溶液 100μLを入れ、200μLチップ専用の卓上遠心機にセットし、2秒間遠心することによりカラム内の空気を除いた。
(D)カラム内の80%アセトニトリル/0.1%TFA溶液に、上記(2)で調製した糖ペプチド試料 10μgを加え、200μLチップ専用の卓上遠心機にセットし、20秒間遠心した。
(E)カラムに、80%アセトニトリル/0.1%TFA溶液 100μLを加え、200μLチップ専用の卓上遠心機にセットし、20秒間遠心し、夾雑物を除去した。
(F)上記(E)を更に2回繰り返した。
(G)カラムに、0.1%TFA 100μLを加え、200μLチップ専用の卓上遠心機にセットし、30秒間遠心し、固相抽出担体相に糖ペプチドを濃縮させた。
(H)カラムに、80%アセトニトリル/0.1%TFA溶液 100μLを加え、アダプター付きのシリンジを用いて1.5mLチューブに糖ペプチドを溶出させた後、遠心エバポレーターにて乾燥し、濃縮した糖ペプチドを得た。
【0097】
[(4)脱糖鎖ペプチドの調製]
上記(3)で調製した濃縮糖ペプチド試料 5μgを、50mMリン酸ナトリウム緩衝液(pH7.4) 10μLに溶解し、1UのPNGase F(ロシュ社製) 1μL加え、37℃にて16時間インキュベートすることにより、N結合型糖鎖を切断した。次いで、Oasis PRiME HLB固相抽出カラム(Waters社製)にて脱塩した後、遠心エバポレーターで乾固し、脱糖鎖ペプチドを得た。
【0098】
[(5)ナノ液体クロマトグラフィー質量分析(nanoLC/MS/MS)による解析]
上記(3)で調製した濃縮糖ペプチドを、0.1%ギ酸 4μLに2.5μg/μLとなるようにそれぞれ溶解し、糖ペプチド試料とした。また、上記(4)で調製した脱糖鎖ペプチドを、0.1%ギ酸 4μLに1.25μg/μLとなるようにそれぞれ溶解し、脱糖鎖ペプチド試料とした。
上記糖ペプチド試料及び脱糖鎖ペプチド試料について、ナノ液体クロマトグラフィー質量分析(nanoLC/MS/MS)による解析(分離/分析)を行った。
具体的には、分析カラム(Nano HPLC capillary column;日京テクノス社製)を装着したナノ液体クロマトグラフ(EASY-nLC 1000;ThermoFisher Scientific社製)を、ハイブリッド四重極オービトラップ質量分析計(Q Exactive;ThermoFisher Scientific社製)に接続し、上記糖ペプチド試料 4μLを分析カラムにインジェクションした後、流速300nL/minで該糖ペプチド試料の分離を行った。
尚、A溶媒として、0.1%ギ酸水溶液、B溶媒として、0.1%ギ酸アセトニトリルを用い、0分~70分でB溶媒0%からB溶媒35%のリニアグラジエント、70分~75分でB溶媒35%からB溶媒100%のリニアグラジエントを用いた。また、全測定を通して、ポジティブイオンモード(印加電圧:1900V)とした。
上記脱糖鎖ペプチドについては、上記と同様にしてそれぞれ分離した後、Proteome Discoverer 1.4(ThermoFisher Scientific社製)を用いて該脱糖鎖ペプチドにおける糖鎖結合部位を同定した。
更に、上記情報を基に、糖ペプチドの質量と保持時間より、糖ペプチドの構造を確認した。
【0099】
[(6)結果]
上記(1)~(5)により、下記表1に示す通り、ビトロネクチン、補体C4-A、インターアルファトリプシンインヒビター重鎖H3、ロイシンリッチアルファ2グリコプロテイン及びチロキシン結合グロブリンにそれぞれ由来する糖ペプチドA~Lが同定された。
また、上記糖ペプチドA~Lのピーク面積値について、健常者(11検体)の平均値及び膵臓癌患者(10検体)の平均値を図1~7にそれぞれ示す。
【0100】
【表1】
【0101】
上記表1及び図1より、ビトロネクチンに由来する、(i)式1-1’で表される糖鎖を有する糖ペプチドA(健常者平均ピーク面積値:7390723、膵臓癌患者平均ピーク面積値:18531358)、(ii)式1-2’で表される糖鎖を有する糖ペプチドB(健常者平均ピーク面積値:14869167、膵臓癌患者平均ピーク面積値:32795940)及び(iii)式1-3’で表される糖鎖を有する糖ペプチドC(健常者平均ピーク面積値:3937759、膵臓癌患者平均ピーク面積値:8910019)の発現量は、健常者と比べて、膵臓癌患者において顕著に増加していることが分かった。
また、上記式1-1’、式1-2’及び式1-3’で表される糖鎖は、ビトロネクチンのアミノ酸配列のN末端より169番目のアスパラギン残基にそれぞれ結合していることを確認した。
【0102】
上記表1及び図2より、ビトロネクチンに由来する、(i)式2-1’又は式2-1’’で表される糖鎖を有する糖ペプチドD(健常者平均ピーク面積値:48626、膵臓癌患者平均ピーク面積値:657118並びに(ii)式2-2’で表される糖鎖を有する糖ペプチドE(健常者平均ピーク面積値:0、膵臓癌患者平均ピーク面積値:634085)の発現量は、健常者と比べて、膵臓癌患者において顕著に増加していることが分かった。特に、(ii)式2-2’で表される糖鎖を有する糖ペプチドEについては、健常者では全く発現していないことが分かった。
また、上記式2-1’、式2-1’’及び式2-2’で表される糖鎖は、ビトロネクチンのアミノ酸配列のN末端より169番目のアスパラギン残基にそれぞれ結合していることを確認した。
【0103】
上記表1及び図3より、ビトロネクチンに由来する、(i)式3-1’で表される糖鎖を有する糖ペプチドF(健常者平均ピーク面積値:4043373、膵臓癌患者平均ピーク面積値:13038720)及び(ii)式3-2’で表される糖鎖を有する糖ペプチドG(健常者平均ピーク面積値:0、膵臓癌患者平均ピーク面積値:634085)の発現量は、健常者と比べて、膵臓癌患者において顕著に増加していることが分かった。特に、(ii)式3-2’で表される糖鎖を有する糖ペプチドGについては、健常者では全く発現していないことが分かった。
また、上記式3-1’及び式3-2’で表される糖鎖は、ビトロネクチンのアミノ酸配列のN末端より169番目のアスパラギン残基にそれぞれ結合していることを確認した。
【0104】
上記表1及び図4より、補体C4-Aに由来する、(i)式4-1で表される糖鎖を有する糖ペプチドH(健常者平均ピーク面積値:3075257、膵臓癌患者平均ピーク面積値:26703362)の発現量は、健常者と比べて、膵臓癌患者において顕著に増加していることが分かった。
また、上記式4-1で表される糖鎖は、補体C4-Aのアミノ酸配列のN末端より1328番目のアスパラギン残基にそれぞれ結合していることを確認した。
【0105】
上記表1及び図5より、インターアルファトリプシンインヒビター重鎖H3に由来する、(i)式5-1’、式5-1’’、式5-2’又は式5-2’’で表される糖鎖を有する糖ペプチドI(健常者平均ピーク面積値:644343、膵臓癌患者平均ピーク面積値:9886996)の発現量は、健常者と比べて、膵臓癌患者において顕著に増加していることが分かった。
また、上記式5-1’、式5-1’’、式5-2’及び式5-2’’で表される糖鎖は、インターアルファトリプシンインヒビター重鎖H3のアミノ酸配列のN末端より580番目のアスパラギン残基にそれぞれ結合していることを確認した。
【0106】
上記表1及び図6より、ロイシンリッチアルファ2グリコプロテインに由来する、(i)式6-1で表される糖鎖を有する糖ペプチドJ(健常者平均ピーク面積値:639693、膵臓癌患者平均ピーク面積値:17070316)の発現量は、健常者と比べて、膵臓癌患者において顕著に増加していることが分かった。
また、上記式6-1で表される糖鎖は、ロイシンリッチアルファ2グリコプロテインのアミノ酸配列のN末端より186番目のアスパラギン残基に結合していることを確認した。
【0107】
上記表1及び図7より、チロキシン結合グロブリンに由来する、(i)式3-1’で表される糖鎖を有する糖ペプチドK(健常者平均ピーク面積値:20923691、膵臓癌患者平均ピーク面積値:124825070)及び(ii)式3-2’で表される糖鎖を有する糖ペプチドL(健常者平均ピーク面積値:0、膵臓癌患者平均ピーク面積値:4808134)の発現量は、健常者と比べて、膵臓癌患者において顕著に増加していることが分かった。特に、式3-2’で表される糖鎖を有する糖ペプチドLについては、健常者では全く発現していないことが分かった。
また、上記式3-1’及び式3-2’で表される糖鎖は、チロキシン結合グロブリンのアミノ酸配列のN末端より36番目のアスパラギン残基にそれぞれ結合していることを確認した。
【0108】
更に、上記糖ペプチドA~Lの発現量について、ROC(Receiver Operating Characteristic)曲線解析によりAUC値(Area Under the Curve:曲線面積値)を算出した。
その結果を下記表2に示す。尚、AUC値については、0.75以上が好ましく、0.80以上となれば極めて高い判定能があると考える。
【0109】
【表2】
【0110】
上記表2より、上記糖ペプチドA~Lは、何れも良好なAUC値を示した。
【0111】
以上のことより、上記糖ペプチドA~Lをマーカーとして用いることにより、検体(サンプル)が膵臓癌であるか否かが判定可能であることが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0112】
本発明の膵臓癌の判定用マーカー及びこれを用いた膵臓癌の判定方法、並びに膵臓癌の判定を行うためのデータを得る方法によれば、確度(正確度・精度)の高い、膵臓癌の判定(診断、検査)を行うことができる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
【配列表】
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