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特許7425451永久磁石用合金及びその製造方法並びに永久磁石及びその製造方法
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  • 特許-永久磁石用合金及びその製造方法並びに永久磁石及びその製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-23
(45)【発行日】2024-01-31
(54)【発明の名称】永久磁石用合金及びその製造方法並びに永久磁石及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01F 1/047 20060101AFI20240124BHJP
   H01F 41/02 20060101ALI20240124BHJP
   B22F 1/00 20220101ALI20240124BHJP
   B22F 3/00 20210101ALI20240124BHJP
   C22C 22/00 20060101ALI20240124BHJP
【FI】
H01F1/047
H01F41/02 G
B22F1/00 Y
B22F3/00 F
C22C22/00
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2022514550
(86)(22)【出願日】2021-09-10
(86)【国際出願番号】 JP2021033394
(87)【国際公開番号】W WO2022065089
(87)【国際公開日】2022-03-31
【審査請求日】2022-03-03
(31)【優先権主張番号】P 2020160621
(32)【優先日】2020-09-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2021042837
(32)【優先日】2021-03-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】504157024
【氏名又は名称】国立大学法人東北大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000005083
【氏名又は名称】株式会社プロテリアル
(74)【代理人】
【識別番号】100101683
【弁理士】
【氏名又は名称】奥田 誠司
(74)【代理人】
【識別番号】100155000
【弁理士】
【氏名又は名称】喜多 修市
(72)【発明者】
【氏名】貝沼 亮介
(72)【発明者】
【氏名】大森 俊洋
(72)【発明者】
【氏名】許 ▲キョウ▼
(72)【発明者】
【氏名】橋本 直樹
(72)【発明者】
【氏名】槙 智仁
【審査官】久保田 昌晴
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第106997800(CN,A)
【文献】特開昭53-28014(JP,A)
【文献】特開昭63-104405(JP,A)
【文献】特公昭41-21965(JP,B1)
【文献】特公昭37-2454(JP,B1)
【文献】特公昭38-10007(JP,B1)
【文献】特公昭39-2362(JP,B1)
【文献】特開昭54-38206(JP,A)
【文献】特開平5-21216(JP,A)
【文献】米国特許第4342608(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F 1/047、1/08、41/02
B22F 1/00、3/00、9/04
C22C 1/04、22/00
C22F 1/00、1/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Mn:41原子%以上53原子%以下、
Al:46原子%以上53原子%以下、
Cu:0.5原子%以上10原子%以下、
を含み、Cが0.8原子%以下(0原子%を含む)であり、正方晶構造を有する安定相の比率が50%以上である永久磁石用合金。
【請求項2】
Cが0.5原子%以下(0原子%を含む)である請求項1に記載の永久磁石用合金。
【請求項3】
Mn:44原子%以上53原子%以下、
Al:46原子%以上51.5原子%以下、
Cu:0.5原子%以上7原子%以下、
を含む、請求項1又は請求項2に記載の永久磁石用合金。
【請求項4】
Mn:45原子%以上51.5原子%以下、
Al:46原子%以上50原子%以下、
Cu:0.5原子%以上5原子%以下、
を含む、請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の永久磁石用合金。
【請求項5】
Mn、Al、Cu及びCの含有量が合計で100原子%(但し、不可避的不純物は含有してもよい)である、請求項1乃至請求項のいずれかに記載の永久磁石用合金。
【請求項6】
Mn:41原子%以上53原子%以下、
Al:46原子%以上53原子%以下、
Cu:0.5原子%以上10原子%以下、
を含む永久磁石用合金となるように第一合金を準備する第一工程と、
前記第一合金を真空中又は不活性ガス中で300℃以上、750℃以下で熱処理し、第二合金を得る第二工程と、
を含
前記第一工程では、Cを0.8原子%以下(0原子%を含む)含む永久磁石用合金となるように前記第一合金を準備する、永久磁石用合金の製造方法。
【請求項7】
前記第一工程では、Cを0.5原子%以下(0原子%を含む)含む永久磁石用合金となるように前記第一合金を準備する、請求項6に記載の永久磁石用合金の製造方法。
【請求項8】
前記第一工程では、
Mn:44原子%以上53原子%以下、
Al:46原子%以上51.5原子%以下、
Cu:0.5原子%以上7原子%以下、
を含む永久磁石用合金となるように前記第一合金を準備する、請求項6又は請求項7に記載の永久磁石用合金の製造方法。
【請求項9】
前記第一工程では、
Mn:45原子%以上51.5原子%以下、
Al:46原子%以上50原子%以下、
Cu:0.5原子%以上5原子%以下、
を含む永久磁石用合金となるように前記第一合金を準備する、請求項請求項6乃至請求項8のいずれかに記載の永久磁石用合金の製造方法。
【請求項10】
前記第一工程では、Mn、Al、Cu及びCの含有量が合計で100原子%(但し、不可避的不純物は含有してもよい)の永久磁石用合金となるように前記第一合金を準備する、請求項乃至請求項のいずれかに記載の永久磁石用合金の製造方法。
【請求項11】
Mn:41原子%以上53原子%以下、
Al:46原子%以上53原子%以下、
Cu:0.5原子%以上10原子%以下、
を含み、Cが0.8原子%以下(0原子%を含む)であり、正方晶構造を有する安定相の比率が50%以上である永久磁石。
【請求項12】
Cが0.5原子%以下(0原子%を含む)である請求項11に記載の永久磁石。
【請求項13】
Mn:44原子%以上53原子%以下、
Al:46原子%以上51.5原子%以下、
Cu:0.5原子%以上7原子%以下、
を含む、請求項11又は請求項12に記載の永久磁石。
【請求項14】
Mn:45原子%以上51.5原子%以下、
Al:46原子%以上50原子%以下、
Cu:0.5原子%以上5原子%以下、
を含む、請求項11乃至請求項13のいずれかに記載の永久磁石。
【請求項15】
請求項乃至請求項10のいずれかに記載の製造方法によって永久磁石用合金を準備する合金準備工程と、
前記永久磁石用合金の粉末を緻密化する緻密化工程と、
を含む永久磁石の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、永久磁石用合金及びその製造方法並びに永久磁石及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
Nd-Fe-B系やSm-Co系などの希土類系永久磁石は自動車用、鉄道用、家電用、産業用などのモータで使用され、これらの小型化・高性能化に貢献している。しかし、希土類系永久磁石に用いられる希土類元素は産出地が限定されているなどの理由から供給が安定しておらず、永久磁石の世界的な市場拡大が見込まれる中で希土類元素の将来的な資源リスク及び価格高騰リスクがある。そのため、可能な限り希土類元素を用いない永久磁石が求められている。
【0003】
希土類元素を用いない永久磁石としてMn-Al系永久磁石が古くから知られている。Mn-Al系永久磁石は正方晶構造を有する強磁性相のτ-MnAl相を主相としている。τ-MnAl相は準安定相であり、原子比でMn:Al=55:45付近の組成において六方晶構造を有する高温相から冷却した際に出現する。特許文献1にはCを加えることでτ-MnAl相の安定性を向上させたMn-Al-C系永久磁石が開示されている。
【0004】
特許文献2には重量比でCu:0.1~65%、Al:15~50%、総計5%以下の複成分元素、残部MnからなるCu-Al-Mn系磁石合金の液体急冷法を用いた製造方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特公昭39-012223号公報
【文献】特開昭59-004946号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
Mn-Al系永久磁石は、主相であるτ-MnAl相が準安定相であり、例えば600℃で10時間熱処理することで安定相である非強磁性相のγ-MnAl相及びβ-Mn相に変化する場合があることから、磁気特性が低下しやすいという問題があった。特許文献1に開示されているMn-Al-C系永久磁石はCの添加によってτ-MnAl相の安定性が向上しているものの、準安定相であることに変わりはなく、熱処理により非強磁性相に変化する場合があるため、高い磁気特性を得ることが難しかった。
【0007】
特許文献2に開示されているCu-Al-Mn系磁石合金の製造方法では急冷が必須であり、磁気特性が非常に低いことから磁石合金としての実用性に乏しかった。
【0008】
本開示は、希土類元素を使用せず、安定性に優れた正方晶構造を有する永久磁石用合金及びその製造方法並びに永久磁石及びその製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本開示の永久磁石用合金は、限定的でない例示的な実施形態において、Mn:41原子%以上53原子%以下、Al:46原子%以上53原子%以下、Cu:0.5原子%以上10原子%以下、を含み、正方晶構造を有する安定相の比率が50%以上である。
【0010】
ある実施形態において、Mn:44原子%以上53原子%以下、Al:46原子%以上51.5原子%以下、Cu:0.5原子%以上7原子%以下、を含む。
【0011】
ある実施形態において、Mn:45原子%以上51.5原子%以下、Al:46原子%以上50原子%以下、Cu:0.5原子%以上5原子%以下、を含む。
【0012】
ある実施形態において、Cが1原子%未満(0原子%を含む)である。
【0013】
ある実施形態において、Mn、Al、Cu及びCの含有量が合計で100原子%(但し、不可避的不純物は含有してもよい)である。
【0014】
本開示の永久磁石用合金の製造方法は、限定的でない例示的な実施形態において、Mn:41原子%以上53原子%以下、Al:46原子%以上53原子%以下、Cu:0.5原子%以上10原子%以下、を含む永久磁石用合金となるように第一合金を準備する第一工程と、前記第一合金を真空中又は不活性ガス中で300℃以上、750℃以下で熱処理し、第二合金を得る第二工程と、を含む。
【0015】
ある実施形態において、前記第一工程では、Mn:44原子%以上53原子%以下、Al:46原子%以上51.5原子%以下、Cu:0.5原子%以上7原子%以下、を含む永久磁石用合金となるように前記第一合金を準備する。
【0016】
ある実施形態において、前記第一工程では、Mn:45原子%以上51.5原子%以下、Al:46原子%以上50原子%以下、Cu:0.5原子%以上5原子%以下、を含む永久磁石用合金となるように前記第一合金を準備する。
【0017】
ある実施形態において、前記第一工程では、Cを1原子%未満(0原子%を含む)含む永久磁石用合金となるように前記第一合金を準備する。
【0018】
ある実施形態において、前記第一工程では、Mn、Al、Cu及びCの含有量が合計で100原子%(但し、不可避的不純物は含有してもよい)の永久磁石用合金となるように前記第一合金を準備する。
【0019】
本開示の永久磁石は、限定的でない例示的な実施形態において、Mn:41原子%以上53原子%以下、Al:46原子%以上53原子%以下、Cu:0.5原子%以上10原子%以下、を含み、正方晶構造を有する安定相の比率が50%以上である。
【0020】
ある実施形態において、永久磁石は、Mn:44原子%以上53原子%以下、Al:46原子%以上51.5原子%以下、Cu:0.5原子%以上7原子%以下、を含む。
【0021】
ある実施形態において、永久磁石は、Mn:45原子%以上51.5原子%以下、Al:46原子%以上50原子%以下、Cu:0.5原子%以上5原子%以下、を含む。
【0022】
本開示の永久磁石の製造方法は、限定的でない例示的な実施形態において、上記のいずれかの永久磁石用合金の製造方法によって永久磁石用合金を準備する合金準備工程と、前記永久磁石用合金の粉末を緻密化する緻密化工程と、を含む。
【発明の効果】
【0023】
本開示によれば、希土類元素を使用せず、安定性に優れた正方晶構造を有する永久磁石用合金及びその製造方法並びに永久磁石及びその製造方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】実施例1における第二合金の結晶構造をX線回折装置で測定した結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明者らは、Mn、Al、Cuの各元素を適正な組成範囲に限定し、かつ適正な熱処理を行うことによって、永久磁石用合金として好適な飽和磁化の大きい正方晶構造が安定相として50%以上の高い比率で得られることを見出した。なお、本開示における安定相とは、正方晶構造を有し、500℃以上750℃以下の熱処理温度の範囲内で24時間以上等温保持した後でも存在する正方晶相のことをいう。
【0026】
<永久磁石用合金>
永久磁石用合金の組成等の限定理由について以下に説明する。
【0027】
Mnの含有量は41原子%以上53原子%以下である。Mnの含有量が41原子%未満又は53原子%を超えると、飽和磁化の小さい異相(γ-MnAl相やβ-Mn相)の比率が大きくなって正方晶構造を有する安定相の比率が50%以上得られず、永久磁石として十分な磁化が得られない。より高い磁化を得るためには、Mnの含有量は44原子%以上53原子%以下が好ましく、45原子%以上51.5原子%以下がより好ましい。
【0028】
Alの含有量は46原子%以上53原子%以下である。Alの含有量が46原子%未満又は53原子%を超えると、飽和磁化の小さい異相の比率が大きくなって正方晶構造を有する安定相の比率が50%以上得られず、永久磁石として十分な磁化が得られない。より高い磁化を得るためには、Alの含有量は46原子%以上51.5原子%以下が好ましく、46原子%以上50原子%以下がより好ましい。
【0029】
Cuの含有量は0.5原子%以上10原子%以下である。Cuの含有量が0.5原子%未満又は10原子%を超えると、飽和磁化の小さい異相の比率が大きくなって正方晶構造を有する安定相の比率が50%以上得られず、永久磁石として十分な磁化が得られない。より高い磁化を得るためには、Cuの含有量は0.5原子%以上7原子%以下が好ましく、0.5原子%以上5原子%以下がより好ましい。
【0030】
Mn及びAl及びCuの含有量を上述の特定範囲内にしたうえで、更にCを添加することができる。しかし、Cの含有量が多くなると正方晶相のキュリー温度が大幅に低下し、永久磁石の高温における磁気特性の低下を招く。Cの含有量は0原子%を含む1原子%未満が好ましく、0原子%を含む0.8原子%以下がより好ましい。
【0031】
Mn、Al、Cu、及びCの一部を他の元素で置換してもよいが、この永久磁石用合金は他の元素を含有しないことが好ましい。即ち、原子%で示すMn、Al、Cu、及びCの含有量が合計で100%(但し、不可避的不純物は含有してもよい)であることが好ましい。
【0032】
永久磁石用合金の形態は塊(バルク)の形態に限定されず、棒状、膜状、また粉末粒子状の形態等をとり得る。
【0033】
<永久磁石用合金の製造方法>
本開示における永久磁石用合金の製造方法の実施形態を以下に説明する。
【0034】
(第一工程)
本開示において、上述した永久磁石用合金の組成範囲に含まれる組成を有する第一合金を得ることを第一工程という。
【0035】
第一合金には、Mn、Al、Cuの含有量を上述の特定範囲内にした上で、更にCを添加することができる。
【0036】
第一合金の組成に関しては、上述した永久磁石用合金と同じであるため説明を省略する。
【0037】
はじめに、第一合金の組成が上述した範囲内になるように原料を溶解、鋳造する。溶解、鋳造は任意の方法で行うことができる。例えば高周波溶解やアーク溶解、ストリップキャスト、液体超急冷などの方法により鋳造を行う。鋳造後、組織均質化のために800℃以上の温度で熱処理を行ってもよい。
【0038】
(第二工程)
本開示において、前記第一合金に対して真空中又は不活性ガス中で熱処理を実施し、正方晶構造を有する安定相の比率が50%以上である第二合金を得ることを第二工程という。
【0039】
前記第一合金には飽和磁化や結晶磁気異方性の小さい高温相が残存する場合があり、正方晶構造を有する安定相を高い比率で得ることができない。上記特定の組成範囲内の第一合金を真空中又はアルゴンガスなどの不活性ガス中で熱処理することにより、第1合金内で正方晶構造への相変化が起こり、正方晶構造を有する安定相を高い比率で得ることができる。熱処理温度は300℃以上750℃以下であることが好ましい。300℃未満では正方晶相への変化に非常に長時間を要し量産化することが困難になる恐れがある。750℃を超えると高温相が生成する領域となり、正方晶構造を有する安定相を高い比率で得ることができない。熱処理の保持時間については、正方晶構造を有する安定相の比率が50%以上となるように組成及び熱処理温度によって適切な時間を設定すればよい。熱処理の保持時間は、例えば1時間から336時間である。なお、第二合金を公知の方法で粉砕してもよく、さらに粉砕による歪みを取り除くための熱処理を行ってもよい。
【0040】
なお、正方晶構造を有する相が安定相であるかどうかは、例えば、上記第二工程において長時間熱処理(24時間以上)を実施した後も存在する相であるかどうかによって確認できる。また、例えば、第二工程後に追加で長時間熱処理(24時間以上)を実施した後も存在する相であるかどうかによっても確認できる。上述したように、本開示において、正方晶構造を有し、500℃以上750℃以下の熱処理温度の範囲内で24時間以上等温保持した後でも存在する正方晶相のことを安定相という。
【0041】
正方晶相の結晶構造は、X線回折や電子線回折を用いて確認することができる。具体的には、X線回折や電子線回折によって得られた回折パターンが公知の正方晶構造の回折パターンと一致すれば正方晶構造であると確認することできる。同様に、正方晶相以外のβ-Mn相やγ-MnAl相であるかどうかの確認も、それぞれの公知の回折パターンと一致するかどうかによって確認することができる。
【0042】
正方晶相の比率は、X線回折のリートベルト解析によって確認することができる。具体的には、X線回折によって得られた回折パターンに対し、正方晶相及び正方晶相以外の相の結晶構造のモデルから計算される回折パターンを用いて最小二乗法にてフィッティングを行い、各相の強度比から相比率を求めることで確認できる。
【0043】
<永久磁石>
本開示における永久磁石は、前記永久磁石用合金の製造方法によって製造された永久磁石用合金を用いて、例えば、以下に説明する製造方法の実施形態によって得ることができる。永久磁石の組成範囲は永久磁石用合金の組成範囲と同一である。また、永久磁石においても、前記正方晶構造を有する安定相が主相であり、永久磁石における安定相の比率が50%以上である。永久磁石は永久磁石用合金が緻密化した状態である。永久磁石における組成等の限定理由は永久磁石用合金と同様であるため説明を省略する。
【0044】
<永久磁石の製造方法>
本開示における永久磁石の製造方法の実施形態を以下に説明する。
【0045】
本開示の永久磁石は、前記永久磁石用合金の製造方法によって製造された永久磁石用合金を準備する合金準備工程と、前記永久磁石用合金の粉末を緻密化する緻密化工程を経ることにより得られる。合金準備工程では、第二合金を準備し、緻密化工程では、第二合金の粉末を公知の方法で緻密化することができる。また、緻密化工程では、第二合金の粉末を成形して成形体を形成してから焼結をしてもよいし、成形と焼結が同時でもよく、また樹脂と混合または混錬して成形することで緻密化してもよい。
【0046】
緻密化工程で焼結する場合の焼結温度は前記第二工程と同じ熱処理温度範囲(300℃以上750℃以下)が好ましい。例えば800℃以上の比較的高い温度で行うと、焼結後に高温相が生成し正方晶構造を有する安定相の比率が著しく低下する場合がある。その場合は焼結後に更に前記第二工程と同じ熱処理(300℃以上750℃以下)を行えばよい。いずれの場合も永久磁石用合金が緻密化した状態の永久磁石となる。焼結時の緻密化を促進させるためにホットプレスなどの方法を用いてもよい。また、前記第二工程によって得られた第二合金及び緻密化後の永久磁石に対し、切断や切削など公知の機械加工や、耐食性を付与するためのめっきなど、公知の表面処理を行うことができる。
【実施例
【0047】
本開示を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明は、それらに限定されるものではない。
【0048】
実施例1
Mn、Al、Cuの各元素を秤量し、高周波誘導溶解炉を用いて溶解及び鋳造を行い、インゴットを得た。得られたインゴットをアルゴンガス雰囲気の石英管に封入し、加熱炉にて900℃で24時間保持する均質化処理を実施し第一合金を得た(第一工程)。引き続き、得られた第一合金に600℃で168時間保持する熱処理を実施し第二合金を得た(第二工程)。得られた第二合金の成分を高周波誘導結合プラズマ発光分光分析法(ICP-OES)を使用して測定したところ、Mn49.1Al48.4Cu2.5(原子%)であった。
【0049】
第二工程後に得られた第二合金を75μm以下に粉砕し、結晶構造をX線回折装置を用いて測定し、相比率をリートベルト法を用いて解析した。図1は実施例1における第二合金の結晶構造をX線回折装置で測定した結果である。図1に示す様に、第二合金は公知の正方晶構造の回折パターンと一致した。600℃で168時間保持後も存在する正方晶相であり、安定相であると確認できた。リートベルト解析より正方晶構造以外のピークが見られないことから、正方晶相の相比率は100%であった。第二合金のインゴットを粗く粉砕して直径約1.5mmの粒を取り出し、磁気特性を高磁場印加可能な振動試料型磁力計を用いて測定したところ、磁化は印加磁場9Tにおいて127.0A・m/kgと高い値を示した。
【0050】
実施例2
Mn、Al、Cuの各元素の秤量重量を変えた以外は実施例1と同様にして第一合金及び第二合金を作製した。得られた第二合金の成分、結晶構造、相比率、磁気特性を実施例1と同様に測定したところ、成分はMn49.7Al48.8Cu1.5(原子%)であり、主相が正方晶相であることが確認できた。正方晶相の相比率は99%であった。磁化は印加磁場9Tにおいて117.2A・m/kgであった。
【0051】
実施例3~5
実施例1と同組成となるようにMn、Al、Cuの各元素を秤量し、小型超急冷装置を用いて第一合金を得た(第一工程)。得られた第一合金の成分を高周波誘導結合プラズマ発光分光分析法(ICP-OES)を使用して測定したところ、成分はMn48.9Al48.7Cu2.4(原子%)と実施例1とほぼ同組成であった。得られた第一合金を石英管に入れ、ロータリーポンプで真空引きした後にアルゴンガス雰囲気とし、加熱炉にて600℃で1時間から168時間保持する熱処理を実施し第二合金を複数個得た(第二工程)。
【0052】
第二合金の相の同定はX線回折装置を用いて測定し、相比率はリートベルト解析により求めた。磁気特性は振動試料型磁力計を用いて測定した。測定結果を表1に示す。いずれの実施例においても90%以上の高い正方晶相比率が得られた。正方晶相が安定相として得られる合金組成では、比較的短時間の熱処理でも高い正方晶相比率が得られた。印加磁場7Tのパルス着磁機にて着磁後、磁気特性を最大印加磁場2Tの振動試料型磁力計を用いて測定したところ、磁化の最大値は75A・m/kg以上の高い値を示した。
【0053】
【表1】
【0054】
実施例6~16
Mn、Al、Cuの各元素を秤量し、小型超急冷装置を用いて第一合金を複数個得た(第一工程)。得られた第一合金の成分を高周波誘導結合プラズマ発光分光分析法(ICP-OES)を使用して測定したところ、表2に示す組成であった。得られた第一合金を実施例3~5と同様の方法にて600℃で1時間保持する熱処理を実施し、第二合金を複数個得た(第二工程)。
【0055】
第二合金の相の同定はX線回折装置を用いて測定し、相比率はリートベルト解析により求めた。磁気特性は振動試料型磁力計を用いて測定した。測定結果を表2に示す。いずれの実施例においても50%以上の高い正方晶相比率が得られた。安定相かどうかの確認のため、600℃で168時間の熱処理を行ったものを同様に測定したところ、いずれも50%以上の高い正方晶相比率が得られていた。
【0056】
【表2】
【0057】
実施例17~20及び比較例1、2
Mn、Al、Cu、Cの各元素を秤量し、小型超急冷装置を用いて第一合金を複数個得た(第一工程)。得られた第一合金の成分をMn、Al、Cuは高周波誘導結合プラズマ発光分光分析法(ICP-OES)、Cは燃焼-赤外線吸収法を使用して測定したところ、表3に示す組成であった。得られた第一合金を石英管に入れ、ロータリーポンプで真空引きした後にアルゴンガス雰囲気とし、加熱炉にて600℃で1時間保持する熱処理を実施し第二合金を複数個得た(第二工程)。
【0058】
第二合金の相の同定はX線回折装置を用いて測定し、相比率はリートベルト解析により求めた。その結果、Cが1原子%未満である実施例においては50%以上の高い正方晶比率が得られていた。
【0059】
キュリー温度は熱重量分析装置の天秤付近に永久磁石を取り付け、磁力変化を読み取る熱磁気分析にて測定した。測定結果を表3に示す。Cが1原子%未満である実施例においては高いキュリー温度を示した。一方、Cが1原子%以上である比較例ではキュリー温度が低かった。また、安定相かどうかの確認のため、実施例17~20に関して、600℃で24時間および600℃で168時間の熱処理をそれぞれ行ったものを同様に測定したところ、いずれも50%以上の高い正方晶相比率が得られていた。
【0060】
【表3】
【0061】
実施例21~37
Mn、Al、Cuの各元素を秤量し、小型超急冷装置を用いて第一合金を複数個得た(第一工程)。得られた第一合金の成分を高周波誘導結合プラズマ発光分光分析法(ICP-OES)を使用して測定したところ、表4に示す組成であった。得られた第一合金を管状炉に入れ、ロータリーポンプで真空引きした後にアルゴンガス雰囲気とし、500℃から600℃で1時間から24時間保持する熱処理を実施し第二合金を複数個得た(第二工程)。
【0062】
第二合金の相の同定はX線回折装置を用いて測定し、相比率はリートベルト解析により求めた。磁気特性は振動試料型磁力計を用いて測定した。測定結果を表4に示す。いずれの実施例においても50%以上の高い正方晶相比率が得られた。安定相かどうかの確認のため、500℃から600℃で24時間以上の熱処理を行ったものを同様に測定したところ、いずれも50%以上の高い正方晶相比率が得られていた。
【0063】
【表4】
【0064】
実施例38~54
Mn、Al、Cu、Cの各元素を秤量し、小型超急冷装置を用いて第一合金を複数個得た(第一工程)。得られた第一合金の成分をMn、Al、Cuは高周波誘導結合プラズマ発光分光分析法(ICP-OES)、Cは燃焼-赤外線吸収法を使用して測定したところ、表5に示す組成であった。得られた第一合金を管状炉に入れ、ロータリーポンプで真空引きした後にアルゴンガス雰囲気とし、500℃から700℃で1時間から168時間保持する熱処理を実施し第二合金を複数個得た(第二工程)。
【0065】
第二合金の相の同定はX線回折装置を用いて測定し、相比率はリートベルト解析により求めた。磁気特性は振動試料型磁力計を用いて測定した。キュリー温度は熱重量分析装置の天秤付近に永久磁石を取り付け、磁力変化を読み取る熱磁気分析にて測定した。
【0066】
測定結果を表5に示す。Cが1原子%未満であるいずれの実施例においても50%以上の高い正方晶比率が得られ、高いキュリー温度を示した。安定相かどうかの確認のため、500℃から700℃で24時間以上の熱処理を行ったものを同様に測定したところ、いずれも50%以上の高い正方晶相比率が得られていた。
【0067】
【表5】
【0068】
実施例55
Mn、Al、Cuの各元素の秤量重量を変えた以外は実施例1と同様にして第一合金及び第二合金を作製した。得られた第二合金の成分、結晶構造、相比率を実施例1と同様に測定したところ、成分はMn49.5Al49.0Cu2.5(原子%)であり、主相が正方晶相であることが確認できた。正方晶相の相比率は96%であった。第二合金を425μm以下に粉砕した後、遊星ボールミルにて微粉砕し、粉砕粒径D50が22μmの微粉砕粉を得た(合金準備工程)。なお、粉砕粒径D50は、気流分散法によるレーザー回折法で得られた体積中心値(体積基準メジアン径)である。微粉砕粉を真空ホットプレス装置にて100MPaの圧力を印加しながら600℃で10分間保持し、永久磁石のバルク体を作製した(緻密化工程)。得られた永久磁石のバルク体を印加磁場7Tのパルス着磁機にて着磁後、磁気特性を最大印加磁場2Tの振動試料型磁力計を用いて測定したところ、磁化の最大値は63.6A・m2/kgと高い値を示した。得られた永久磁石のバルク体を75μm以下に粉砕し、結晶構造をX線回折装置、相比率をリートベルト解析法を用いて測定したところ、正方晶相の相比率は91%であり、粉砕工程および焼結工程後も高い正方晶比率が得られた。
【0069】
実施例56~81
Mn、Al、Cu、Cの各元素を秤量し、小型超急冷装置を用いて第一合金を複数個得た(第一工程)。得られた第一合金の成分をMn、Al、Cuは高周波誘導結合プラズマ発光分光分析法(ICP-OES)、Cは燃焼-赤外線吸収法を使用して測定したところ、表6に示す組成であった。得られた第一合金を管状炉に入れ、ロータリーポンプで真空引きした後にアルゴンガス雰囲気とし、500℃から700℃で1時間から168時間保持する熱処理を実施し第二合金を複数個得た(第二工程)。
【0070】
第二合金の相の同定はX線回折装置を用いて行い、相比率はリートベルト解析により求めた。磁気特性は振動試料型磁力計を用いて測定した。キュリー温度は熱重量分析装置の天秤付近に永久磁石を取り付け、磁力変化を読み取る熱磁気分析にて測定した。
【0071】
測定結果を表6に示す。Cが1原子%未満であるいずれの実施例においても50%以上の高い正方晶比率が得られ、高いキュリー温度を示した。安定相かどうかの確認のため、500℃から700℃で24時間以上の熱処理を行ったものを同様に測定したところ、いずれも50%以上の高い正方晶相比率が得られていた。
【0072】
【表6】
【0073】
実施例82~87
実施例55と同様に第二合金を作成し、粉砕を行い微粉砕粉を得た(合金準備工程)。微粉砕粉を真空ホットプレス装置にて200MPaまたは400MPaの圧力を印加しながら450℃から700℃で12分間保持し、永久磁石のバルク体を作製した(緻密化工程)。得られた永久磁石のバルク体を印加磁場7Tのパルス着磁機にて着磁後、磁気特性を最大印加磁場2Tの振動試料型磁力計を用いて測定した。得られた永久磁石のバルク体を75μm以下に粉砕し、結晶構造をX線回折装置を用いて測定し、相比率をリートベルト法を用いて解析した。磁気特性は振動試料型磁力計を用いて測定した。
【0074】
測定結果を表7に示す。磁化の最大値はいずれも高い値を示した。得られた粉末はいずれも70%以上の高い正方晶相比率が得られていた。
【0075】
【表7】
【0076】
実施例88~94
実施例55と同様に第二合金を作成し、粉砕を行い微粉砕粉を得た。微粉砕粉の一部を未熱処理の粉末とし、残りはアルゴンガス雰囲気の石英管に封入し、加熱炉にて300℃から600℃で12分間保持して熱処理した。未熱処理の粉末および熱処理した粉末を緻密化せずにパラフィンで固定した後、印加磁場7Tのパルス着磁機にて着磁後、磁気特性を最大印加磁場2Tの振動試料型磁力計を用いて測定した。
【0077】
測定結果を表8に示す。磁化の最大値はいずれも高い値を示した。前記未熱処理の粉末および熱処理した粉末の結晶構造をX線回折装置を用いて測定し、相比率をリートベルト法を用いて解析したところ、いずれも90%以上の高い正方晶相比率が得られていた。
【0078】
【表8】
【産業上の利用可能性】
【0079】
本開示により得られた永久磁石用合金および永久磁石は、自動車用、鉄道用、家電用、産業用などのモータ用永久磁石に好適に利用できる可能性がある。
図1