(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-23
(45)【発行日】2024-01-31
(54)【発明の名称】聴診器
(51)【国際特許分類】
A61B 7/02 20060101AFI20240124BHJP
A61B 7/04 20060101ALI20240124BHJP
【FI】
A61B7/02 G
A61B7/04 D
(21)【出願番号】P 2020057776
(22)【出願日】2020-03-27
【審査請求日】2023-01-30
(73)【特許権者】
【識別番号】000191238
【氏名又は名称】日清紡マイクロデバイス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001896
【氏名又は名称】弁理士法人朝日奈特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】桝本 尚己
(72)【発明者】
【氏名】坂田 大輔
(72)【発明者】
【氏名】口地 博行
【審査官】磯野 光司
(56)【参考文献】
【文献】米国特許第05796053(US,A)
【文献】中国特許出願公開第107510472(CN,A)
【文献】特開昭54-012701(JP,A)
【文献】特開昭57-017641(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 7/00-7/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
チェストピースを備えた聴診器であって、
前記チェストピースは、
ベル型のチェストピースを構成する第1の集音部材と、該第1の集音部材に連続あるいは当接する押圧部材と、前記第1の集音部材
の先端
部の外周を取り囲み、前記第1の集音部材の先端部より突出して聴診対象に接触する先端部を有する第2の集音部材とを備え、
前記押圧部材に加わる圧力に応じ、前記第1の集音部材
の先端部が
、開口する前記第2の集音部材の先端部の位置まで移動可能で
、
前記第2の集音部材の先端部が聴診対象に接触して前記第1の集音部材および前記第2の集音部材により形成される集音領域で集音される音に対する感度が、前記第1の集音部材の先端部が前記第2の集音部材の先端部の位置まで移動し、前記第1の集音部材の先端部が聴診対象に接触して前記第1の集音部材により形成される集音領域で集音される音に対する感度より低いことを特徴とする聴診器。
【請求項2】
請求項
1記載の聴診器において、
前記第1の集音部材に音波出力孔、あるいは集音マイクを備えていることを特徴とする聴診器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、チェストピースを備えた聴診器に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的な聴診器は、音源(聴診対象の生体音)の高周波帯域の聴診に用いられるダイヤフラム型のチェストピースと、低周波帯域の聴診に用いられるベル型のチェストピースを備えている(例えば特許文献1)。
【0003】
ところで、ベル型のチェストピースを用いて聴診する場合、聴診対象の体表面にチェストピースを接触させる際、あるいは体表面からチェストピースを離す際、不快な音が発生するという問題があった。電子聴診器であれば、チェストピースを聴診対象の体表面に接触させた後に電子聴診器を動作させるスイッチをオンすれば良いが、複数個所の聴診を行う場合には、スイッチのオンオフを繰り返して行う必要があり、操作が煩わしい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ベル型のチェストピースを備える聴診器を使用する際、聴診対象の体表面にチェストピースを接触させる際等に、不快な音が発生するという問題があった。本発明は、聴診時以外に不快な音の感度を低下させ、聴診時には感度を上げることができる聴診器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本願請求項1に係る発明は、チェストピースを備えた聴診器であって、前記チェストピースは、ベル型のチェストピースを構成する第1の集音部材と、該第1の集音部材に連続あるいは当接する押圧部材と、前記第1の集音部材の先端部の外周を取り囲み、前記第1の集音部材の先端部より突出して聴診対象に接触する先端部を有する第2の集音部材とを備え、前記押圧部材に加わる圧力に応じ、前記第1の集音部材の先端部が、開口する前記第2の集音部材の先端部の位置まで移動可能で、前記第2の集音部材の先端部が聴診対象に接触して前記第1の集音部材および前記第2の集音部材により形成される集音領域で集音される音に対する感度が、前記第1の集音部材の先端部が前記第2の集音部材の先端部の位置まで移動し、前記第1の集音部材の先端部が聴診対象に接触して前記第1の集音部材により形成される集音領域で集音される音に対する感度より低いことを特徴とする。
【0008】
本願請求項2に係る発明は、請求項1記載の聴診器において、前記第1の集音部材に音波出力孔、あるいは集音マイクを備えていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明の聴診器は、予め集音領域の容積を大きくしておくことで、チェストピースを聴診対象の体表面に接触させる際等に発生する不快な音の感度を下げることができる。一方聴診を行う際には、集音領域の容積を小さくして聴診したい周波数帯域の音の感度を上げることができる。この切替は、押圧部材に圧力を加えるだけでよいので非常に簡便な方法である。
【0010】
また押圧部材に加える圧力を調整することで、集音領域の容積を調整して感度を調整しながら聴診すれば、聴診対象の音の大きさを変えることも簡便に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の聴診器の集音領域の容積と音の感度との関係を示すグラフである。
【
図2】本発明の第1の実施例の聴診器のチェストピースの断面図である。
【
図3】本発明の第1の実施例の聴診器のチェストピースを聴診対象の体表面に接触させるときの状態の変化を説明する断面図である。
【
図4】本発明の第2の実施例の聴診器のチェストピースの断面図である。
【
図5】本発明の第2の実施例の聴診器のチェストピースを聴診対象者の体表面に接触させるときの状態の変化を説明する断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明は、チェストピースの形状に大きな特徴を有する聴診器であり、チェストピースに接続されるチューブ、耳管部、イヤーチップ等は通常の形状を採用することができる。
【0013】
従来型のベル型聴診器は、低周波数帯域の心音のような聴診に適している。このようなベル型聴診器では、
図1に示すようにチェストピースの集音領域(聴診対象の体表面とチェストピースのベルとで囲まれた空間)の容積によって感度を変化させることができる。
図1は50Hz、100Hz、150Hzの音について、集音領域の容積と音の感度との関係を示すグラフである。
図1に示すように、集音領域の容積の変化に応じて、感度が変化することがわかる。具体的には、容積が大きくなるほど感度が低下することがわかる。また周波数の異なる音でも、周波数によらず同様の傾向を示すことがわかる。
【0014】
そこで本願発明は、聴診のため聴診対象の体表面にチェストピースを接触させるとき等に発生する不快な音が発生するときには感度を低下させ、聴診を行うときには、通常の感度とすることができる聴診器とするため、チェストピースの一部の部材を移動可能として集音領域の容積を変化できるようにしている。以下、本発明の実施例について説明する。
【実施例1】
【0015】
まず、第1の実施例について説明する。
図2は、本発明の第1の実施例のチェストピース10aの断面図である。
図2において、1は第1の集音部材で、例えば従来型の聴診器のベルに相当する。この第1の集音部材1には、集音された音をイヤーチップまで伝搬させるチューブや耳管部に接続するための音波出力孔2および連通孔3を備えている。また第1の集音部材1から突出する突起部4aを備えている。この突起部4aは、第1の集音部材1とは別の部材として、第1の集音部材1に接触(当接)あるいは接続する構造とすることもできる。また突起部4aは、加圧部4bに接触あるいは接続する構造となっている。突起部4aと加圧部4bは押圧部材に相当し、後述するように第1の集音部材1を移動するために使用される。
【0016】
第1の集音部材1の周囲には、第2の集音部材5が配置される。一般的に第1の集合部材1を構成するベルは外周が円形であるため、第2の集音部材5は円柱状の形状とし、内部に円柱状の空洞を備え、底面となる一方の面は開口し、他方の面に突起部4aが貫通する開口を備える構造とすることができる。第2の集音部材5と加圧部4bとの間には、弾性部材として例えばバネ6を配置する。当然ながらバネ以外の弾性部材を用いてもよい。
【0017】
図2に示すチェストピース10aを備える聴診器を用いて聴診する場合、診察者は、第2の集音部材5を拇指と、薬指および小指で挟み、加圧部4bの凸部の両側に示指と中指を添えてチェストピース10aを持つ。この状態では加圧部4bに圧力は加わらないため、第1の集音部材1は第2の集音部材5の内部に入り込んだ状態となっている。
【0018】
図2に示す状態でチェストピース10aを聴診対象の体表面に接触させた状態を
図3(a)に示す。第1の集音部材1と第2の集音部材5と聴診対象の体表面との間で形成される集音領域7aは十分大きく設定されており、第2の集音部材5が聴診対象の体表面に接触する際に発生する音に対する感度は低く、診察者が不快に感じることはない。
【0019】
その後、聴診のため診察者は、加圧部4bを押圧する。加えられた圧力は突起部4aに伝わり、第1の集音部材1が聴診対象に近づき、さらに圧力を加えると
図3(b)に示すように体表面に接触する。このとき第1の集音部材1と聴診対象の体表面との接触面積が小さくなるように第1の集音部材1の先端の面積を小さくしておくと、接触する際に発生する音は十分に小さく診察者が不快に感じることを防ぐことができる。
図3(b)に示すように集音空間7bは小さくなっている。この状態で聴診を行えば、通常のベル型のチェストピースと同等の感度となる。
【0020】
聴診後、加圧部4bに加えた圧力を開放すると、バネ6が元に戻り、
図3(a)に示す状態に戻ることになる。この状態は、感度の低い状態であるから、体表面からチェストピース10を離す際に不快な音が発生したとしても何ら問題はない。
【0021】
また
図3(a)に示す状態から
図3(b)に示す状態に至る前の状態、すなわち加圧部4bに加える圧力を調節して第1の集音部材1が聴診対象の体表面に接触しない状態でも聴診は可能である。その場合、
図3(b)に示す状態より集音領域の容積が大きく感度が低下しているものの、
図3(a)に示す状態より感度が大きい状態となるので、聴診は可能となる。
【実施例2】
【0022】
次に第2の実施例について説明する。
図4は、本発明の第2の実施例のチェストピース10bの断面図である。
図4において、1は第1の集音部材で、例えば従来型の聴診器のベルに相当する。この第1の集音部材1には、集音された音をイヤーチップまで伝搬させるチューブや耳管部に接続するための音波出力孔2および連結孔3を備えている。また第1の集音部材1から突出する押圧部4を備えている。この押圧部4は、第1の集音部材1とは別の部材として、第1の集音部材1に接続する構造とすることもできる。この押圧部4は押圧部材に相当し、後述するように第1の集音部材1を移動するために使用される
【0023】
第1の集音部材1の周囲には、第2の集音部材5が配置される。一般的に第1の集音部材1を構成するベルは外周が円形であるため、第2の集音部材5は円柱状で一方の端部が球状に突出した形状とし、内部に円柱状の空洞を備え、底面となる一方の面は開口し、他方の面に押圧部4が貫通する開口を備える構造とすることができる。空洞内において第1の集音部材1と第2の集音部材5との間には、弾性部材として例えばバネ6を配置する。当然ながらバネ以外の弾性部材を用いてもよい。
【0024】
図4に示すチェストピース10bを備える聴診器を用いて聴診する場合、診察者は、第2の集音部材5を持つ。この状態では押圧部4に圧力は加わらないため、第1の集音部材1は第2の集音部材5の内部に入り込んだ状態となっている。
【0025】
図4に示す状態でチェストピース10bを聴診対象の体表面に接触させた状態を
図5(a)に示す。第1の集音部材1と第2の集音部材5と聴診対象の体表面との間に形成される集音領域7aは十分大きく設定されており、第2の集音部材5が聴診対象の体表面に接触する際に発生する音に対する感度は低く、診察者が不快に感じることはない。
【0026】
その後、聴診のため診察者は、押圧部4を押す。加えられた圧力により第1の集音部材1が聴診対象に近づき、さらに圧力を加えると
図5(b)に示すように体表面に接触する。このとき第1の集音部材1と聴診対象の体表面との接触面積が小さくなるように第1の集音部材1の先端の面積を小さくしておくと、接触する際に発生する音は十分に小さく診察者が不快に感じることを防ぐことができる。
図5(b)に示すように集音空間7bは小さくなっている。この状態で聴診を行えば、通常のベル型のチェストピースと同等の感度となる。
【0027】
聴診後、押圧部4に加えた圧力を開放すると、バネ6が元に戻り、
図5(a)に示す状態に戻ることになる。この状態は、感度の低い状態であるから、体表面からチェストピース10を離す際に不快な音が発生したとしても何ら問題はない。
【0028】
また
図5(a)に示す状態から
図5(b)に示す状態に至る前の状態、すなわち押圧部4に加える圧力を調整して第1の集音部材1が聴診対象の体表面に接触しない状態でも聴診は可能である。その場合、
図5(b)に示す状態より集音領域の容積が大きく感度が低下しているものの、
図5(a)に示す状態より感度が大きい状態となるので、聴診は可能となる。
【0029】
なお上記第1および第2の実施例では、第1の集音部材1および第2の集音部材5が体表面に直接接触するように図示したが、通常の聴診器同様、接触面となる表面にゴム製のリムを付加することができる。
【0030】
以上本発明の実施例について説明したが、本発明は上記実施例に限定されるものでないことは言うまでもない。例えば、上記実施例は従来型の聴診器を例にとり説明したが、電子聴診器に適用することも可能である。この場合、音波出力孔の代わりにマイクロフォンを配置し、所望の信号処理を行い、イヤーチップから音を出す構成とすればよい。
【0031】
第2の集音部材5は、第1の集音部材1全体を覆うように配置することは必須ではなく、少なくとも第1の集音部材1とともに容積の異なる集音領域を形成することが可能であれば、適宜変更可能である。
【0032】
また第1の集音部材1を移動可能とする構造は、実施例に限定されるものではない。例えば、第1の実施例で説明したチェストピース10において、加圧部4bの代わりにメンブレン型のチェストピースを付加する構成とすることができる。その場合、ベル型とメンブレン型のいずれかの音波出力孔から選択的に連通孔に接続するチューブに接続する方法も従来型の聴診器の構造を採用すれば良い。
【符号の説明】
【0033】
1:第1の集音部材、2:音波出力孔、3:連通孔、4:押圧部、4a:突起部、4b:加圧部、5:第2の集音部材、6:バネ、7a、7b:集音領域、10a、10b:チェストピース