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特許7425744ホウ素核形成層を利用した低温モリブデン膜堆積
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-23
(45)【発行日】2024-01-31
(54)【発明の名称】ホウ素核形成層を利用した低温モリブデン膜堆積
(51)【国際特許分類】
   C23C 16/14 20060101AFI20240124BHJP
   C23C 16/455 20060101ALI20240124BHJP
   H01L 21/285 20060101ALI20240124BHJP
   H01L 21/28 20060101ALI20240124BHJP
【FI】
C23C16/14
C23C16/455
H01L21/285 C
H01L21/28 301R
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2020558011
(86)(22)【出願日】2019-04-17
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-08-30
(86)【国際出願番号】 US2019027792
(87)【国際公開番号】W WO2019204382
(87)【国際公開日】2019-10-24
【審査請求日】2021-01-04
(31)【優先権主張番号】15/958,568
(32)【優先日】2018-04-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】505307471
【氏名又は名称】インテグリス・インコーポレーテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】メン, シュアン
(72)【発明者】
【氏名】アッション, リチャード ウルリヒ
(72)【発明者】
【氏名】ヘンドリックス, ブライアン クラーク
(72)【発明者】
【氏名】バウム, トーマス エイチ.
【審査官】宮崎 園子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/013778(WO,A1)
【文献】特表2004-502301(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 16/14
C23C 16/455
H01L 21/285
H01L 21/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
モリブデン層の製造方法であって、
基板上のホウ素含有核形成層とモリブデン及び塩素原子を含有する分子を含む蒸気組成物とを反応させることであって、基板が450℃から550℃の間の温度であり、当該反応により、モリブデン層が元素分析による5重量%未満のホウ素を含むように、ホウ素含有核形成層が消費され、ホウ素含有核形成層の実質的に全てが、基板の上でモリブデン核形成層と置き換わる、反応させることと、
基板の上のモリブデン核形成層の上にさらなるホウ素含有核形成層を堆積することであって、基板が300℃から550℃の間の温度である、堆積することと、
さらなるホウ素含有核形成層とモリブデンおよび塩素原子を含有する分子を含む蒸気組成物とを反応させることであって、基板が450℃から550℃の間の温度であり、当該反応により、さらなるホウ素含有核形成層の少なくとも一部が消費され、消費された少なくとも一部のさらなるホウ素含有核形成層が、さらなるモリブデン核形成層に置き換わる、反応させることと、
を含み、
さらなるホウ素含有核形成層の堆積された厚さが、基板の上のホウ素含有核形成層の堆積された厚さよりも薄い、方法。
【請求項2】
モリブデン層の製造方法であって、
第1の期間にわたり基板の上にホウ素含有核形成層を蒸着させることと、
基板上のホウ素含有核形成層とモリブデン及び塩素原子を含有する分子を含む蒸気組成物とを反応させることであって、基板が450℃から550℃の間の温度であり、当該反応により、モリブデン層が元素分析による5重量%未満のホウ素を含むように、ホウ素含有核形成層が消費され、ホウ素含有核形成層の実質的に全てが、基板の上でモリブデン核形成層と置き換わる、反応させることと、
第2の期間にわたり基板の上のモリブデン核形成層の上にさらなるホウ素含有核形成層を蒸着させることであって、基板が300℃から550℃の間の温度であり、第2の期間が第1の期間よりも短い、蒸着させることと、
さらなるホウ素含有核形成層とモリブデンおよび塩素原子を含有する分子を含む蒸気組成物とを反応させることであって、基板が450℃から550℃の間の温度であり、当該反応により、さらなるホウ素含有核形成層の少なくとも一部が消費され、消費された少なくとも一部のさらなるホウ素含有核形成層が、さらなるモリブデン核形成層に置き換わる、反応させることと、
を含む、方法。
【請求項3】
ホウ素含有核形成層の厚さが5Åから50Åの間である、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
モリブデン層が元素分析による1重量%未満のホウ素を含む、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項5】
リブデン層が元素分析による5重量%未満のホウ素を含むように、さらなるホウ素含有核形成層が当該反応によって実質的に消費される、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項6】
リブデン層が元素分析による1重量%未満のホウ素を含む、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
蒸気組成物が還元ガスを実質的に含まない、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項8】
さらなるモリブデン核形成層が、上部モリブデン核形成層を構成する、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項9】
モリブデン錯体を蒸着させることを含み、450℃から550℃の間の温度で上部モリブデン核形成層の上にバルクモリブデン層を形成することを含む、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
モリブデン錯体がMoClまたはMoOClを含む、請求項8に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
この出願は、その開示が全ての目的のために全体として参照により本明細書に組み込まれる、2016年11月23日に出願された米国特許仮出願第62/425,704号明細書の利益を主張する、2017年11月22日に出願された米国特許出願第15/820,640号明細書の一部継続である。
【0002】
本開示は、より低いプロセス温度で、ただしモリブデンの伝統的な高温蒸着条件を使用して達成されるものと類似の堆積速度で作成され得る、蒸着されたモリブデン膜または層に関する。低温堆積によって形成された結果的なモリブデン膜または層もまた低抵抗率を有し半導体デバイスおよび表示デバイスなどの様々な物品に使用され得る。
【背景技術】
【0003】
モリブデンは、メモリ、論理チップ、およびポリシリコン金属ゲート電極構造を使用するその他のデバイスにおける材料としてタングステンに取って代わる可能性のある、低抵抗の耐熱金属である。モリブデンを含有する薄膜は、一部の有機発光ダイオード、液晶ディスプレイ、ならびに薄膜太陽電池および太陽光発電でも使用され得る。モリブデン薄膜は、バリア膜として使用され得る。
【0004】
モリブデン薄膜を堆積するために、様々な前駆体および蒸着技術が使用されてきた。前駆体は、無機および有機金属試薬を含み、蒸着技術は、化学蒸着(CVD)および原子層堆積(ALD)、ならびに紫外レーザー光解離CVD、プラズマ支援CVD、およびプラズマ支援ALDなどの多くの修正例を含むことができる。CVDおよびALDプロセスは、非平面性の高いマイクロエレクトロニクスデバイス形状に対して優れたコンフォーマルなステップカバレッジを与えることができるので、ますます使用されているが、プラズマ支援堆積および高温堆積システムのコストおよび複雑さにより、生産コストおよび工具コストが増加する可能性がある。高温プロセスは、以前に堆積した、または下にある構造を損傷する可能性もある。
【0005】
典型的なCVDプロセスでは、前駆体は、低圧または大気圧反応チャンバ内の任意選択的に加熱された基板(たとえば、ウエハ)の上を通過する。前駆体は、基板表面上で反応および/または分解し、モリブデンなどの堆積した材料の薄膜を作成する。揮発性副生成物は、反応チャンバを通るガス流によって除去される。2つ以上のガスを反応チャンバに供給し、ガスを反応させて基板上に金属を堆積させることによって、CVDプロセスにおいていくつかの金属膜が形成される。堆積した膜の厚さおよび均一性は、温度、圧力、ガス流量と混合均一性、化学的枯渇効果、時間などの多くのパラメータの調整に依存する。
【0006】
耐熱金属膜は、密閉チャンバ内で二酸化ケイ素などの基板を約500℃から800℃の温度に加熱すること、引き続き堆積されるモリブデン層との表面の接着性を向上させるために加熱された表面を六フッ化モリブデンなどの蒸発物質で短期間処理すること、全ての未反応六フッ化モリブデンをチャンバからパージすること、および六フッ化モリブデンを減少させ、HF(g)を生成し、モリブデンの一部を加熱された表面上に堆積するために、水素を新たに蒸発した六フッ化モリブデンと混合することによってモリブデン膜を堆積することを含むCVDプロセスで、基板上に堆積されてきた。この堆積のための高温は、処理機器を複雑にし、温度に敏感なデバイスの熱履歴を消費する。さらに、HF(g)の毒性ならびにHF(g)を扱うための関連する除害および安全機器が、このプロセスを高額で複雑にする。
【0007】
良好なステップカバレッジを有する滑らかな低抵抗モリブデン膜は、モリブデン前駆体としてMoOClまたはMoClおよび還元ガスとしてHを使用して、約700℃の高温での化学蒸着(CVD)によって基板上に堆積され得る。これらの高温モリブデン膜は有用であるが、DRAMまたは光起電などのデバイスを作成するために使用される熱履歴の消費が少なく、膜を作成するためにあまり高額でも複雑でもない機器を使用することができるため、堆積温度が低い方がさらに有益であろう。上記の堆積プロセス中の基板の温度は700℃未満に低下したため、MoOClおよびMoClの両方で約550℃の反応温度カットオフが観察された。この温度の付近で、膜の粗さが増加し、膜の抵抗率が増加し、膜の堆積速度が低下し、最終的にカットオフ温度未満で停止した。このカットオフ温度は、モリブデン膜のステップカバレッジ性能も制限した。良好なステップカバレッジを有する滑らかな低抵抗モリブデン膜は、半導体デバイス製造で使用される薄膜の非常に有益な品質である。
【0008】
より低い堆積温度で、複雑で高額な加熱および蒸気除害機器なしで様々な基板上にモリブデン金属膜を作成する、継続的な必要性がある。
【発明の概要】
【0009】
550℃から700℃の間で形成された粗く高抵抗率の膜を含む、高温モリブデン処理の問題を克服するために、ホウ素分解層またはホウ素核形成層が基板上に堆積され、これは後に550℃未満の温度で基板上の高品質モリブデン核形成層に置き換えられた。このようにして調製されたモリブデン核形成層は、下にある基板をたとえばMoClのエッチング効果から保護し、その上でのその後の滑らかなCVDによるMo成長の核形成を促進し、低温でのCVDによるMo堆積を可能にすることがわかった。モリブデン核形成層は、バルクモリブデンのその後のCVD成長の粒径を制御し、ひいては最終的なモリブデン膜の電気抵抗率を制御するために使用することもできた。場合によっては、SEMによって視認可能な大量のホウ素がモリブデン層の下に見られ、これが膜抵抗率を増加させた。これは、ホウ素およびモリブデンの複数の交互の層が堆積されたときに、特に問題であった。高温モリブデン膜形成および堆積されたモリブデン核形成層中の大量のホウ素の存在の問題は、モリブデンおよび塩素の蒸気含有分子、たとえばMoOClまたはMoClとの反応によって基板上に堆積された固体ホウ素核形成層の実質的に全てを消費または置換することによって、克服された。この反応は、モリブデン核形成層を形成し、水素のような還元ガスの存在下または非存在下で発生することができ、同時にホウ素核形成層を置換する。結果的なモリブデン核形成層は、たとえば水素のような還元ガスの存在下でMoOClまたはMoClを含む蒸気組成物を使用して、後続のバルクMoのCVD膜形成プロセスのためのカットオフ温度をMoOClでは400℃から575℃の間に、MoClでは450℃から550℃の間に低下させた。このようにして形成されたモリブデンCVD膜は、膜抵抗率が低く、滑らかで、モリブデン前駆体としてMoOClまたはMoClおよび還元ガスとしてHを使用して約700℃の高温で化学蒸着(CVD)されたモリブデンによって基板上に堆積されたモリブデン膜と比較して、ステップカバレッジが優れていた。
【0010】
本開示は、基板上にモリブデン核形成層を作成するための組成物および方法に関する。任意選択的に、基板はそれ自体がモリブデン核形成層であってもよい。あるいは、基板はモリブデンを実質的に含まなくてもよい。
【0011】
方法は、基板上の核形成層を含む既存の固体ホウ素と、モリブデンおよび塩素原子を含有する分子を含む蒸気組成物との反応の行為またはステップを含むことができる。いくつかのバージョンでは、蒸気組成物は還元ガスを実質的に含まない。基板は450℃から550℃の間の温度に保持され、蒸気との反応は、基板の上にモリブデン核形成層を形成しながら、ホウ素核形成層の少なくとも一部を消費する。いくつかのバージョンでは、モリブデン核形成層は、450℃から480℃の間の温度に保持された基板上に形成することができる。いくつかのバージョンでは、堆積されたモリブデン核形成層は、約5オングストローム(5Å)から約100オングストローム(100Å)の範囲の厚さを有することができる。適切には、堆積されたモリブデン核形成層の厚さは、約5から約50オングストロームの範囲、任意選択的に5から約30オングストロームの範囲、たとえば約5から約20オングストロームの範囲であってもよい。モリブデンおよび塩素の分子を含む蒸気組成物は、10トルから60トルの間の圧力で、いくつかのバージョンでは20トルから40トルの圧力で、加熱された基板とともに反応チャンバ内に存在することができる。
【0012】
本発明の一態様は、モリブデン層を作成する方法を提供し、方法は、基板上のホウ素含有核形成層とモリブデンおよび塩素原子を含有する分子を含む蒸気組成物との反応であって、基板は450℃から550℃の間の温度であり、前記反応は、ホウ素核形成層の少なくとも一部を消費し、基板の上にモリブデン核形成層を形成する、反応を含む。
【0013】
実質的に消費されるホウ素含有核形成層は、約5Åから約100Åの間の厚さを有することができる。適切には、ホウ素含有核形成層の厚さは、約5から約50オングストロームの範囲、任意選択的に約5から約30オングストロームの範囲、たとえば約5から約20オングストロームの範囲であってもよい。
【0014】
有利には、ホウ素含有核形成層は、モリブデン層が元素分析による5重量%未満のホウ素、任意選択的に1重量%未満のホウ素を含むように、前記反応によって実質的に消費されてもよい。
【0015】
ホウ素核形成層は、加熱された基板上でBの分解によって適切に形成され得る。いくつかのバージョンでは、基板は、ホウ素核形成層堆積中に300℃から450℃に加熱される。ホウ素核形成層を堆積するために、他のホウ素含有前駆体および条件を使用することもできる。たとえば、450℃から550℃の間の、モリブデン堆積に使用されるのと同じかまたは実質的に同じ温度を、ホウ素核形成層の堆積に使用することができる。
【0016】
したがって、いくつかのバージョンでは、方法は、基板の上にホウ素含有核形成層を堆積することであって、基板は300℃から550℃の間の温度である、ことを含む。
【0017】
方法は、前記基板の上の前記モリブデン核形成層の上にさらなるホウ素含有核形成層を堆積することであって、基板は300℃から550℃、任意選択的に300℃から450℃の間の温度である、ことと、さらなるホウ素含有核形成層とモリブデンおよび塩素原子を含有する分子を含む蒸気組成物との反応であって、基板は450℃から550℃の間の温度であり、前記反応は、さらなるホウ素核形成層の少なくとも一部を消費し、さらなるモリブデン核形成層を形成する、反応と、を任意選択的に含み得る。
【0018】
さらなるホウ素含有核形成層の厚さは、適切に5Åから100Åの間であり得る。適切には、さらなるホウ素含有核形成層の厚さは、約5から約50オングストロームの範囲、任意選択的に約5から約30オングストロームの範囲、たとえば約5から約20オングストロームの範囲であってもよい。さらなるホウ素含有核形成層の堆積された厚さは、基板の上のホウ素含有核形成層の堆積された厚さよりも薄くてもよい。
【0019】
方法は、第1の期間にわたり基板の上にホウ素含有核形成層を蒸着させること、および第2の期間にわたりさらなるホウ素含有核形成層を蒸着させることを含んでもよく、第2の期間は第1の期間よりも短い。
【0020】
さらなるホウ素含有核形成層は、さらなるモリブデン層が元素分析による5重量%未満のホウ素、任意選択的に1重量%未満のホウ素を含むように、前記反応によって実質的に消費されてもよい。
【0021】
有利には、堆積および反応のステップは繰り返されてもよく、これにより、複数のさらなるモリブデン核形成層を形成する。
【0022】
任意選択的に、(1つまたは複数の)モリブデン核形成層は、450℃から480℃の間の温度に保持された基板上に形成することができる。有利には、蒸気組成物は、10トルから60トルの間の圧力であり得る。蒸気組成物は還元ガスを実質的に含まなくてもよい。
【0023】
方法が、上部モリブデン核形成層を作成することを含み得ることは、理解されるだろう。前記基板上のモリブデン核形成層、またはさらなるモリブデン核形成層は、上部モリブデン核形成層を構成し得る。
【0024】
実際、上部モリブデン核形成層を作成するための方法の別のバージョンは、基板の上、または基板上のモリブデン核形成層の上にホウ素含有核形成層を堆積することであって、基板または基板上のモリブデン核形成層は300℃から550℃の間、任意選択的に300℃から450℃の間の温度である、ことと、続いて、ホウ素含有核形成層とモリブデンおよび塩素原子を含有する分子を含む蒸気組成物との反応であって、基板は450℃から550℃の間の温度である、反応とを含む。
【0025】
蒸気組成物とホウ素層との間の反応は、ホウ素核形成層の少なくとも一部を消費し、上部モリブデン核形成層を形成する。方法のバージョンでは、ホウ素含有核形成層の厚さは5Åから100Åの間であり得る。適切には、ホウ素含有核形成層の厚さは、約5から約50オングストロームの範囲、任意選択的に約5から約30オングストロームの範囲、たとえば約5から約20オングストロームの範囲であってもよい。
【0026】
基板上に上部モリブデン層を作成する方法のいくつかのバージョンでは、ホウ素核形成層の少なくとも一部を消費することは、ホウ素核形成層を実質的にまたは完全に消費する。ホウ素核形成層の少なくとも一部を消費することは、揮発性ホウ素化合物を生成する可能性がある。
【0027】
上部モリブデン核形成層を作成するための方法の様々なバージョンでは、ホウ素含有核形成層(ホウ素分解層とも呼ばれる)を堆積し、これをモリブデンおよび塩素を含有する分子を含む蒸気組成物と反応させるステップは、1回以上繰り返されてもよい。1つ以上のモリブデン核形成層は、SEM分析、元素分析、または電気抵抗率測定から判定されるように、ホウ素を実質的に含まなくてもよい。
【0028】
モリブデン核形成層を作成する方法は、450℃から550℃の間の温度で上部モリブデン核形成層の上にバルクモリブデン層を蒸着させることを含み得る。バルクモリブデン層を蒸着するために、モリブデン錯体を使用することができる。いくつかのバージョンでは、モリブデン錯体はモリブデンおよび塩素を含有する。さらに別のバージョンでは、モリブデン錯体はMoClを含むことができ、またはMoOClを含むことができる。
【0029】
適切には、膜の厚さは200オングストローム以上であり得、モリブデン膜の抵抗率は、モリブデン核形成層のない700℃の基板上の前記モリブデン錯体から堆積された±10%の実質的に類似の厚さのモリブデン膜の、室温(RT、20℃~23℃)で測定された抵抗率の±20%であり得る。
【0030】
モリブデン膜を作成する方法のバージョンでは、基板の上のモリブデン膜は、最上部バルクモリブデン層と、1つ以上の下にあるモリブデン核形成層を含む。モリブデン膜は、200オングストローム以上のモリブデン膜層厚で25μΩ・cm未満の電気抵抗率を有することができ、いくつかのバージョンでは、モリブデン膜は、200オングストローム以上のモリブデン層厚で20μΩ・cm未満の電気抵抗率を有する。低抵抗率のモリブデン膜は、高抵抗率のモリブデン膜を有するデバイスよりも少ない電力を消費し、少ない熱を発生する。
【0031】
モリブデン膜を作成する方法の別のバージョンでは、基板の上のモリブデン膜は、最上部バルクモリブデン層と、1つ以上の下にあるモリブデン核形成層とを含む。基板の上のモリブデン膜は、10μΩ・cmから25μΩ・cmの間の、室温(RT、20℃~23℃)で測定された電気抵抗率を有することができ、800オングストロームから200オングストロームの間の厚さを有するモリブデン膜で、いくつかのバージョンでは、電気抵抗率は12μΩ・cmから25μΩ・cmの間であり得、いくつかの別のバージョンでは電気抵抗率は10μΩ・cmから20μΩ・cmであり得る。いくつかのバージョンでは、モリブデン膜は、200Åから1000Åの厚さを有する。モリブデン膜を作成する方法のさらに別のバージョンでは、モリブデン膜の抵抗率は、類似の基板上に700℃で堆積された±10%の類似の厚さの蒸着されたモリブデン膜の、室温(RT、20℃~23℃)で測定された抵抗率の±20%以内であり得る。
【0032】
基板上にモリブデン膜を作成する方法の1つのバージョンは、250℃から550℃の温度範囲および10トルから60トルの圧力範囲のBガスに基板を曝露する行為またはステップと、基板表面上に固体ホウ素核形成層を形成する行為またはステップと、450℃を超える温度でモリブデンおよび塩素原子を含有する蒸気にホウ素核形成層を曝露し、ホウ素層をモリブデン核形成層に変換し、BCl(g)またはBOCl(g)のようなホウ素化合物を生成する行為またはステップと、任意選択的に、追加のモリブデン核形成層を形成するために最初の4つのステップを1回以上繰り返す行為またはステップと、モリブデンおよび塩素原子を含有するモリブデン錯体のH還元によって上部モリブデン核形成層の上に550℃以下の温度でモリブデンをCVD堆積する行為またはステップとを含むことができる。
【0033】
基板上にモリブデン膜を作成する別のバージョンは、300℃から550℃の温度範囲および10トルから60トルの圧力範囲のBガスに基板を最初に曝露する行為またはステップを含む。ホウ素分解またはホウ素核形成層が基板表面上に形成され、この層の厚さはBの流量および投入時間によって制御することができる。続いて、ホウ素層は、450℃を超える温度でMoClに曝露される。反応は、ホウ素層をモリブデン核形成層に変換し、副生成物としてBCl(g)またはBOCl(g)を含有する揮発性ガスを生じる。結果的なモリブデン核形成層の厚さは、ホウ素分解層の開始厚さに依存する。ホウ素核形成層を作成してこれをモリブデン核形成層に変換するプロセスは、所望の上部モリブデン核形成層が達成されるまで何回も繰り返すことができる。その後、従来のCVDモリブデン堆積は、上部モリブデン核形成層上で進行することができる。モリブデン核形成層は、CVDモリブデン堆積温度カットオフを550℃から450℃に低下させるのに役立つことができる。上部核形成層上に堆積されたCVDモリブデン膜は、深いビア構造上で低い粗さおよび良好なステップカバレッジを有する。
【0034】
モリブデン膜を作成する方法のバージョンは、基板上に半導体デバイスを形成する製造プロセスで実行されることが可能である。本開示のモリブデン膜はまた、様々な電子、表示、または光起電デバイスの製造中に堆積されることも可能である。電子デバイスの例は、デジタルメモリストレージ用のダイナミックランダムアクセスメモリ(DRAM)およびフラッシュメモリデバイスで使用される3-DNAND論理ゲートを含む。
【発明を実施するための形態】
【0035】
本開示は、ホウ素およびモリブデン核形成層を利用して基板上にモリブデン膜を作成する方法に関する。結果的なモリブデン膜は、低い電気抵抗率を有してもよく、ホウ素を実質的に含まなくてもよく、ホウ素またはモリブデン核形成層を使用しない従来の化学蒸着プロセスと比較して低温で作成することができる。このプロセスによって形成されたモリブデン核形成層は、MoClまたはMoOClのような塩素含有前駆体のエッチング効果から基板を保護することができ、モリブデン核形成層の上でのその後のCVDによるMo成長の核形成を促進することができ、低温でのモリブデンCVD堆積を可能にする。モリブデン核形成層は、その後のCVDモリブデン成長の粒径を制御し、ひいては最終的なモリブデン膜の電気抵抗率を制御するために使用することもできる。
【0036】
ホウ素核形成層は、300℃から550℃の温度範囲および10トルから60トルの圧力範囲のBガスに基板(薄い上側の膜を含んでもよい)を最初に曝露することによって形成されることが可能である。ホウ素を含有する固体核形成または分解層が基板表面(または上側の薄膜)上に形成され、分解層を含むこのホウ素含有核形成層またはホウ素の厚さは、Bの流量および投入時間によって制御することができる。このホウ素含有核形成層の厚さは、5Åから100Åの間であり得る。適切には、ホウ素含有核形成層の厚さは、約5から約50オングストロームの範囲、任意選択的に5から約30オングストロームの範囲、たとえば約5から約20オングストロームの範囲であってもよい。
【0037】
モリブデン核形成層は、高温でのモリブデン、塩素、および任意選択的に酸素を含む蒸気組成物に対するホウ素核形成層の曝露および反応によって形成することができる。蒸気組成物とのこの反応は、ホウ素核形成層を消費し、これをモリブデン核形成層と置き換える。蒸気組成物は、MoCl、MoOCl、またはその他の材料を含むことができる。たとえば、ホウ素核形成層を有する基板は、反応器内のステージ上で450℃から550℃の間の温度に保持されることが可能であり、MoClのみを含有するかまたはこれからなる組成物に曝露されること、もしくはMoClおよびアルゴン(Ar)のような不活性ガスを含む混合物であり得る組成物に曝露されること、もしくはMoClおよび水素(H)のような還元ガスを含む混合物であり得る組成物に曝露されることが可能である。別の例では、ホウ素核形成層を有する加熱されたステージ上の基板は、450℃から550℃の間の温度に保持され、MoOClを含有するかまたはこれからなる組成物に曝露されること、もしくはMoOClおよびアルゴン(Ar)のような不活性ガスを含む混合物であり得る組成物に曝露されること、もしくはMoOClおよび水素(H)のような還元ガスを含む混合物であり得る組成物に曝露されることが可能である。これらの組成物の1つ以上に対する450℃から550℃の間の温度でのホウ素核形成層の曝露により、ホウ素核形成層を、核形成層を含むモリブデンに変換する。
【0038】
BClまたはホウ素含有揮発性材料は、ホウ素核形成層のモリブデン核形成層への変換の副生成物として生成され得る。この反応は、およそ450℃の温度カットオフを有する。
【0039】
の存在下で、反応副生成物は、HCl、BCl、およびOClを含み得る(MoOClを含有する蒸気組成物の場合)。反応は、ホウ素核形成層上のH共反応物の有無にかかわらず発生する可能性がある。
【0040】
結果的なモリブデン核形成層の厚さは、ホウ素核形成層の開始厚さに依存する。いくつかのバージョンでは、ホウ素核形成層をモリブデン核形成層に変換するために、モリブデン、塩素、および任意選択的に酸素を含むが還元ガスを含まない蒸気組成物を使用することができる。結果的なモリブデン核形成層の厚さは、ホウ素核形成層の厚さに比例する。
【0041】
有利には、ホウ素核形成層を堆積するステップおよびモリブデン核形成層を形成するためのホウ素核形成層の反応のステップは、1つ以上のさらなるホウ素核形成層を形成するために繰り返されてもよい。
【0042】
複数のホウ素核形成層が形成される場合、これらは実質的に同一の方法で作成されてもよい。あるいは、たとえば本明細書のどこかに記載されるように、異なる層のために異なる条件が採用されてもよい。
【0043】
方法は、上部モリブデン核形成層を作成することを含み得る。前記基板上のモリブデン核形成層、またはさらなるモリブデン核形成層は、上部モリブデン核形成層を構成し得る。
【0044】
モリブデン膜形成プロセスのバージョンは、バルクモリブデン層を形成するために、基板上の上部モリブデン核形成層上にモリブデン錯体を蒸着させる行為またはステップをさらに含むことができる。バルクモリブデン層および1つ以上の下にあるモリブデン核形成層はモリブデン膜を構成し、モリブデン膜は、50Åから3000Åの範囲の厚さを有することができる。いくつかのバージョンでは、モリブデン膜の厚さは200Åから1000Åであり得る。基板は、このバルク蒸着行為またはステップの間、450℃から550℃の間の温度であり得る。いくつかのバージョンでは、モリブデン錯体は、モリブデンおよび塩素原子を含有する蒸気組成物であり得、別のケースでは、モリブデン錯体は、モリブデン、塩素、および酸素原子を含有する蒸気組成物であり得る。方法のバージョンで使用され得るモリブデン錯体の例は、MoClおよびMoOClを含む。
【0045】
モリブデンおよび塩素原子を含む分子を含む組成物またはモリブデンおよび塩素原子を含むモリブデン錯体は、モリブデン膜形成方法で使用するためのモリブデンおよび塩素原子を含む蒸気組成物を作成するために蒸発することができる。組成物または錯体は、MoCl(いくつかのバージョンでは99%以上の分子純度)またはMoOCl(いくつかのバージョンでは99%以上の分子純度)を別個に含むことができる。いくつかのバージョンでは、モリブデン錯体は、シクロペンタジエニルおよび他の配位子を含有する有機金属モリブデン化合物であり得る。モリブデン錯体は、昇華によって99.99%を超える分子純度に精製されることが可能である。たとえば、MoClは、微量の高蒸気圧MoOClを除去するために、昇華によって精製されることが可能である。本開示のバージョンは、蒸着プロセスで使用するように適合されたアンプルを含むことができ、アンプルは、99.99%を超える分子純度のMoClを含有する。本開示の別のバージョンは、蒸着プロセスで使用するように適合されたアンプルを含むことができ、アンプルは、99.99%を超える分子純度のMoOClを含有する。昇華は、MoClまたはMoOClを精製し、望ましくない金属ハロゲン化物および金属オキシハロゲン化物を除去するために使用することができる。
【0046】
ホウ素核形成層がモリブデン膜を作成する方法のバージョンで実質的に消費されるという言及は、1つ以上のホウ素核形成層が1つ以上のモリブデン核形成層で置き換えられたサンプルの断面のSEM分析によって視認可能なホウ素がないことを指し得る。実質的に消費されるとは、付加的または代替的に、5重量%未満、または場合により1重量%未満のホウ素がモリブデン膜に、及び任意の下にあるモリブデン核形成層に存在することを指し得る。ホウ素含有量は、基板からの膜の酸溶解によって決定され、元素分析によって測定されることが可能である。実質的に消費されるとは、MoClから700℃で類似の基板上に蒸着された類似の厚さ(±10%)のモリブデン層の±20%以内の室温(RT、20℃~23℃)で測定された抵抗率を有するモリブデン膜も指すことができる。
【0047】
熱履歴とは、製造中に全ての熱処理ステップによって半導体マイクロエレクトロニクストランジスタ、論理ゲート、または光起電に付与される累積熱エネルギーを指す。プロセスの熱履歴を制御することで、接合部におけるドーパントの再分布およびバリア層を通じた金属の拡散を防止するのに役立つことができる。製造中に高温が必要とされる場合、プロセスの持続時間を制限することによって適度な熱履歴が達成され得る。同様に、プロセスが完了するのにかなりの時間を要する場合には、過剰な熱履歴を回避するために、温度を下げることができる。方法のバージョンでは、モリブデン核形成層およびバルクモリブデン層は、500℃未満の温度で、Mo核形成層のない700℃のモリブデンプロセスと比較して類似の堆積時間で、堆積することができる。本明細書に開示される新しい方法のより低い堆積温度は、モリブデン膜が半導体デバイス製造で使用されるプロセスの熱履歴に対する要求を減らすために使用することができる。加えて、現在のプロセスによって達成される低プロセス温度は、より安価なプロセス機器および設計の利用を可能にすることによって、コストを削減することができる。
【0048】
モリブデン膜を作成する方法のバージョンでは、ホウ素を含有する分解層または核形成層は、実質的にホウ化物を含まない。同様に、モリブデン核形成層およびモリブデン膜は、実質的にホウ化物を含まない。ホウ化物は、ホウ素と、ケイ素などのより陰性の元素との間で形成される物質である。ホウ化物層は、バリア層の下にある領域への金属およびその他の不純物の拡散を抑制するための、集積回路の製造におけるバリア層として提案されてきた。ホウ化物は、典型的には化学蒸着(CVD)技術を使用して形成される。たとえば、四塩化物は、CVDを使用して金属二ホウ化物を形成するために、ジボランと反応させられてもよい。しかしながら、ホウ化物バリア層を形成するためにCl系化学物質が使用されるときには、信頼性の問題が生じる可能性がある。具体的には、CVD塩素系化学物質を使用して形成されたホウ化物層は、典型的に高い塩素含有量を有する(たとえば、約3%を超える塩素含有量)。塩素はホウ化物バリア層から隣接する配線層内に移動する場合があり、これにより、このような配線層の接触抵抗を増加させ、そこから作成される集積回路の特性を潜在的に変化させる可能性があるので、高い塩素含有量は望ましくない。本明細書に開示される方法によって調製されたモリブデン膜は、MoCl、MoOClのエッチング効果から基板を保護することがわかった。
【0049】
基板の上にモリブデン膜を作成するバージョンでは、バルクモリブデン、(1つまたは複数の)モリブデン核形成層、およびホウ素核形成層は、蒸着によって堆積されることが可能である。蒸着は、化学蒸着(CVD)、原子層堆積(ALD)、これらの高圧および低圧バージョン、ならびにプラズマ強化CVD、レーザー支援、およびマイクロ波支援などの、ただしこれらに限定されないこれらの支援バージョンを含むバージョンの、いずれかを含む。
【0050】
本開示のいくつかのバージョンでは、基板の上の材料の層がある。この層は、たとえば、窒化チタン、モリブデン、または半導体デバイスのバルクモリブデン層の下に存在するであろうその他の材料であり得るが、これらに限定されない。たとえば、モリブデンなどの耐熱元素金属がポリシリコン金属ゲート電極構造内で使用されるとき、高温処理中に元素金属のシリサイド化を防止するために、ポリシリコンと元素金属との間に薄い導電性拡散バリアを設けることができる。拡散バリアは典型的に、窒化タングステン(WN)、窒化チタン(TiN)、窒化タンタル(TaN)などの導電性金属窒化物、および/またはWSiN、TiSiN、およびTaSiNなどのそれぞれのシリコン含有三元化合物で構成される。
【0051】
いくつかのバージョンでは、基板はモリブデン核形成層、たとえば本発明にしたがって事前に形成されたモリブデン核形成層を含む。
【0052】
方法のバージョンで使用され得る基板は、シリコン、酸化シリコン、ガリウムヒ素、アルミナ、ならびに適切な化学的および温度特性を有するその他のセラミックおよび金属を含む。
【0053】
ホウ素核形成層またはホウ素分解層は、約5オングストローム(5Å)から約100オングストローム(100Å)の範囲の厚さを有することができる。モリブデン核形成層は、約5オングストローム(5Å)から約100オングストローム(100Å)の範囲の厚さを有することができる。ホウ素核形成層は、250℃から550℃の間の温度まで加熱された基板または基板の上の層上に堆積することができる。いくつかのバージョンでは、ホウ素核形成層は、300℃から450℃の間の温度まで加熱された基板または基板の上の層上に堆積することができる。300℃から450℃の間で作成されたホウ素核形成層は、滑らかで抵抗率の低いバルクモリブデン層を提供する。300℃から550℃の温度範囲および10トルから60トルの圧力範囲のBガスに基板を曝露することによって、1つ以上のB核形成層が堆積され得る。
【0054】
モリブデン錯体から上部核形成層へのバルクモリブデン蒸着は、水素のような還元ガスの存在下で行われることが可能である。たとえば、NまたはArキャリアガスの流れとともに、容器またはアンプルからの昇華によって五塩化モリブデンMoCl錯体が反応チャンバに送達されることが可能である。錯体として五塩化モリブデンを収容するアンプル容器は、たとえば70℃から100℃の間の温度まで加熱されることが可能である。蒸発の温度は、使用されるモリブデン錯体に応じて異なる。より低いアンプル温度は、モリブデン錯体の分解を減少させ、これによってより一定のモリブデン堆積速度を提供するので、全ての蒸気発生にとって有益である。
【実施例1】
【0055】
この実施例は、基板上の50Å厚の窒化チタン層の上のモリブデンの堆積を示す。モリブデン核形成層およびバルクモリブデンの堆積後の窒化チタン層の厚さは、最初に測定されたTiN層厚の厚さの±20%以内であり、モリブデン核形成層が塩素含有前駆体および副生成物から下にあるTiNにエッチング耐性を提供することを示した。
【0056】
基板の上のモリブデン膜を、以下の表1に詳述されるように、様々な温度および圧力でマルチステッププロセスによって堆積した。最初のステップは、SiO基板の上の窒化チタン層上に固体ホウ素核形成層を堆積するサブステップと、MoClおよび水素を含む組成物に固体ホウ素核形成層(またはホウ素分解層)を曝露し、結果的にホウ素核形成層をモリブデン核形成層に実質的に置き換える、サブステップとを含んでいた。
【0057】
次のステップは、最初のホウ素層核形成よりも短い浸漬でのモリブデン核形成層の上の新しいホウ素核形成層の堆積、次いでモリブデンを形成するために新しいホウ素核形成を実質的に消費することによって開始されるバルクモリブデン堆積、これに継ぎ目なく続く、MoClのHとの反応によって基板上にモリブデン膜を形成するためのモリブデンの堆積であった。
【0058】
膜の電気抵抗率を室温(RT、20℃から23℃)で測定した。
【0059】
【0060】
表1に詳述されるように、モリブデン核形成層の堆積温度は、480℃から450℃の温度、具体的には480℃、460℃、または450℃の温度で行った。核形成またはバルクモリブデン堆積ステップの圧力は、10トルから40トルの間で変更した。MoClアンプルの温度(アンプル温度℃)は摂氏90度であった。
【0061】
この実施例の結果は、10トルのプロセス圧力では、480℃でほとんどまたはまったくMo堆積が得られないことを示している。しかしながら、40トルのプロセス圧力では、Mo膜堆積速度は、約300Å以上の厚さの膜をもたらし、堆積温度が低下すると堆積速度も低下した。480℃および40トルの圧力では、モリブデン堆積速度は約65Å/分であり、460℃および40トルの圧力では、モリブデン堆積速度は約54Å/分であり、460℃および40トルの圧力では、モリブデン堆積速度は約28Å/分であった。
【0062】
この実施例の結果は、700オングストロームから300オングストロームの間の厚さを有するモリブデン膜で、それぞれ12μΩ・cmから20μΩ・cmの間の室温(RT、20℃~23℃)で測定した4点電気抵抗率を有するバルクモリブデン層および1つ以上のモリブデン核形成層を含むモリブデン膜が作成されたことも示している。全ての膜は、室温(RT、20℃~23℃)で測定したときに20μΩ・cm未満の低い抵抗率を示した。
【実施例2】
【0063】
この比較例は、モリブデン核形成層のない基板上のモリブデンの堆積を示す。550℃から700℃のステージ温度で堆積をテストし、堆積時間を30秒から600秒まで変化させた。Moを形成するためのMoClの堆積を、SiO基板の上の100ÅのTiN層上で行った。MoClアンプルを70℃に加熱し、チャンバ圧力を60トルとし、H流量を2000sccmとし、アルゴンキャリアガス流量を50sccmとした。
【0064】
表2の結果は、Mo膜のCVD堆積が、550℃を超えるステージ温度でMoCl/Hを使用してTiN被覆基板上で実現されたことを示している。より低い温度(たとえば、550℃未満のステージ温度)では、MoClからの基板エッチング効果および不適切な核形成のため、Moは堆積しなくなった。
【0065】
【0066】
この実施例の結果は、180秒のほぼ同じ堆積時間で、堆積されたモリブデン膜の厚さが、700℃で341Å(1.89Å/秒の堆積速度)から600℃で150Å(0.83Å/秒の堆積速度)に減少し、550℃では37Å(0.2Å/秒の堆積速度)の低さであったことを示している。異なる温度で調製された同様の厚さの膜では、室温(RT、20℃~23℃)で測定されたモリブデン膜の抵抗率は、堆積温度の低下とともに増加した。たとえば、550℃で堆積された241Å厚のMo膜は60μΩ・cmの抵抗率を有し、600℃で堆積された248Å厚のMo膜は30.3μΩ・cmの抵抗率を有し、700℃で堆積された231Å厚の膜は21.8μΩ・cmの抵抗率を有していた。
【実施例3】
【0067】
この実施例は、1つ以上のモリブデン核形成層と、MoClからの蒸着によって堆積されたバルクモリブデン層とを含むモリブデン膜を作成することを示す。
【0068】
結果的なモリブデン膜を、表3に詳述されるように作成し、特徴付けた。使用した基板は、SiOの上に50Åの窒化チタン層を有していた。300℃のステージ温度、40トルのチャンバ圧力、35sccmのB流量、および250sccmのアルゴン流量で、TiN層上の固体ホウ素核形成層の形成を実行した。時間は、ホウ素核形成層をTiN上で形成するか初期モリブデン核形成層上で形成するかに応じて60から30秒の間で変化させた。ホウ素核形成層の推定厚さは5から30オングストロームであった。
【0069】
MoClアンプル温度は90度、チャンバ圧力は20トル、アルゴンキャリア流量は100sccm、Hは2000sccmであり、ステージ温度は480℃から500℃まで変化させた。モリブデン核形成層が初期ホウ素核形成層を消費することによって形成されるか否か、または第2のモリブデン核形成層が形成され、これにバルクMoのCVDが続くか否かに応じて、反応時間を30秒から600秒の間で変化させた。
【0070】
【0071】
これらのモリブデン膜は、800オングストロームから200オングストロームの間の厚さを有するモリブデン層で、それぞれ12μΩ・cmから25μΩ・cmの範囲の室温で測定された電気抵抗率を有していた。
【0072】
この実施例の結果は、基板上のホウ素含有核形成層の、モリブデンおよび塩素原子を含む分子を含む蒸気組成物との反応を介してホウ素核形成層を消費することによって、480℃から500℃の間の基板温度で低抵抗率のモリブデン膜を作成できることを、さらに示している。この実施例のバルクモリブデン膜の抵抗率は、モリブデン核形成層のない700℃の類似の基板上に同じモリブデン錯体から堆積された実質的に類似の厚さ(±10%)のバルクモリブデン層の室温で測定された抵抗率の、±20%であった。たとえば、実施例2のサンプル322-237-12のモリブデン錯体を使用した類似の基板上のモリブデンの堆積で、340Å厚の膜で約16.1μΩ・cmの抵抗率を有する膜が得られた。
【実施例4】
【0073】
この実施例は、ホウ素核形成層が堆積されたモリブデン膜の抵抗率およびホウ素核形成層を使用したモリブデンの堆積のためのカットオフ温度に対する、過剰な残留ホウ素の有害な影響を示す。
【0074】
450℃、500℃、および550℃の基板温度での堆積の後のモリブデン厚を、1、2、3、4、5サイクル後に測定した。5核形成サイクル後に、450℃の堆積温度でのモリブデン膜厚は25Å未満であった。5核形成サイクル後に、500℃の堆積温度でのモリブデン膜厚は約275Åであった。5核形成サイクル後に、550℃の堆積温度でのモリブデン膜厚は約410Åであった。これらの結果に基づいて、MoClとホウ素との間の反応のカットオフ温度は、450℃から500℃の間であると決定した。
【0075】
基板温度500℃および550℃での堆積に続いて室温で測定されたモリブデン膜抵抗率を、1、2、3、4、5サイクル後に測定した。500℃での1核形成サイクル後の抵抗率は高すぎて測定できなかったが、550℃での1核形成サイクル後のモリブデン膜の抵抗率は、約310μΩ・cmであった。500℃で形成されたモリブデン膜の2核形成サイクル後の抵抗率は約250μΩ・cmであり、550℃での2核形成サイクル後のモリブデン膜の抵抗率は約275μΩ・cmであった。500℃で形成されたモリブデン膜の5核形成サイクル後の抵抗率は約250μΩ・cmであり、550℃での5核形成サイクル後のモリブデン膜の抵抗率は約340μΩ・cmであった。この実施例の2核形成サイクル後の抵抗率は、たとえば実施例1の2核形成サイクル後に作成された類似の膜よりもはるかに高く、理論に拘束されることを望まないが、膜中のホウ素の存在によるものであると考えられる。
【実施例5】
【0076】
この実施例は、TiN層を有するホウ素核形成層のない基板上のモリブデンの堆積を示す。反応器内のステージ上で基板を700℃に加熱し、MoCl蒸気および異なる量の水素ガスを含む組成物で処理した。プロセス条件は、50sccmの不活性アルゴンガス流量、60トルのチャンバ圧力、ならびに2000sccmの低水素流量および4000sccmの高水素流量を含んでいた。
【0077】
この実施例の結果は、核形成層のない基板上に堆積されたモリブデン膜の4点測定電気抵抗率が、ホウ素核形成層なしで堆積された200Å厚のモリブデン膜で約15μΩ・cmから23μΩ・cm、ホウ素核形成層なしで堆積された600~800Å厚のモリブデン膜で約10μΩ・cmから16μΩ・cmの範囲であったことを示している。より高い水素流量を使用して調製された全ての膜の抵抗率は、より低い水素流量で調製されたものよりも低く、およそ800Å厚のモリブデン膜では、より高い水素流量で作成された膜の抵抗率は、より低い水素流量で作成されたサンプルと比較して、約5μΩ・cm低かった。モリブデン膜抵抗率は、膜厚の増加とともに減少した。
【0078】
様々な組成物および方法が記載されているが、本発明は、変化する可能性があり、記載されている特定の分子、組成物、設計、方法論、またはプロトコルに限定されるものではないことを、理解すべきである。説明で使用される術語は、特定のバージョンまたは実施形態を記載することのみを目的としており、添付請求項によってのみ限定される本発明の範囲を限定するように意図されないこともまた、理解すべきである。
【0079】
なお、本明細書および添付請求項で使用される際に、単数形の「a」、「an」、および「the」は、文脈が明確に別の指示をしない限り、複数の言及を含むことにも留意すべきである。したがって、たとえば、「核形成層」への言及は、1つ以上の核形成層および当業者に知られている同等物などへの言及である。別途定義されない限り、本明細書で使用される全ての技術用語および科学用語は、当業者によって一般に理解されるのと同じ意味を有する。本明細書に記載されるものと類似または同等の方法および材料は、本発明の実施形態の実践またはテストで使用することができる。本明細書で言及される全ての刊行物は、参照によりその全体が組み込まれる。本明細書中のいかなるものも、本発明が先行発明によりそのような開示に先行する権利を与えられないことの承認として解釈されるべきではない。「任意選択的な」または「任意選択的に」とは、後に記載されるイベントまたは状況が発生してもしなくてもよいこと、および説明が、イベントが発生する場合としない場合とを含むことを意味する。本明細書の全ての数値は、明示的に示されるか否かにかかわらず、用語「約」によって修正可能である。用語「約」は一般に、当業者が挙げられた値と同等であると見なす(すなわち、同じ機能または結果を有する)数の範囲を指す。いくつかの実施形態では、用語「約」は述べられた値の±10%を指し、別の実施形態では、用語「約」は述べられた値の±2%を指す。組成物および方法は、様々な成分またはステップを「含む(comprising)」(「含むがこれらに限定されない」という意味で解釈される)という言葉で記載されるが、組成物および方法はまた、様々な組成物およびステップ「から本質的になる」または「からなる」ことも可能であり、このような術語は、本質的に排他的、または排他的なメンバーグループとして解釈されるべきである。
【0080】
本発明は、1つ以上の実装形態に関して示され、記載されてきたが、この明細書および添付の図面の読み取りおよび理解に基づいて、同等の変形例および修正例が当業者に想起されるだろう。本発明は、全てのこのような修正例および変形例を含み、以下の請求項の範囲によってのみ限定される。加えて、本発明の特定の特徴または態様は、いくつかの実装形態のうちの1つのみに関して開示されてきたが、このような特徴または態様は、所与のまたは特定の用途に望ましく有利となるように、別の実装形態の1つ以上の別の特徴または態様と組み合わせられてもよい。さらに、用語「含む(includes)」、「有する(having)」、「有する(has)」、「有する(with)」、またはこれらの変形が詳細な説明または請求項で使用される限り、このような用語は、用語「含む(comprising)」と同様に包括的であるように意図される。また、用語「例示的(exemplary)」は、最良のものではなく、むしろ単に一例を意味するように意図される。本明細書に示される特徴、層、および/または要素は、単純化および理解のしやすさのために互いに対して特定の寸法および/または配向で示されており、実際の寸法および/または配向は、本明細書に示されるものとは実質的に異なる可能性があることも、理解すべきである。