(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-23
(45)【発行日】2024-01-31
(54)【発明の名称】酸化物半導体薄膜形成用スパッタリングターゲット、酸化物半導体薄膜形成用スパッタリングターゲットの製造方法、酸化物半導体薄膜、薄膜半導体装置及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C23C 14/34 20060101AFI20240124BHJP
C04B 35/453 20060101ALI20240124BHJP
C23C 14/08 20060101ALI20240124BHJP
H01L 21/363 20060101ALI20240124BHJP
H01L 29/786 20060101ALI20240124BHJP
【FI】
C23C14/34 A
C04B35/453
C23C14/08 K
H01L21/363
H01L29/78 618B
(21)【出願番号】P 2023568636
(86)(22)【出願日】2023-06-29
(86)【国際出願番号】 JP2023024259
【審査請求日】2023-11-15
(31)【優先権主張番号】P 2022148520
(32)【優先日】2022-09-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000231464
【氏名又は名称】株式会社アルバック
(74)【代理人】
【識別番号】100101236
【氏名又は名称】栗原 浩之
(74)【代理人】
【識別番号】100166914
【氏名又は名称】山▲崎▼ 雄一郎
(72)【発明者】
【氏名】谷野 健太
(72)【発明者】
【氏名】半那 拓
(72)【発明者】
【氏名】竹内 将人
(72)【発明者】
【氏名】手塚 尚人
【審査官】神▲崎▼ 賢一
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-030896(JP,A)
【文献】特開2019-203194(JP,A)
【文献】特開2016-132609(JP,A)
【文献】特開2015-038027(JP,A)
【文献】国際公開第2019/221257(WO,A1)
【文献】国際公開第2012/070676(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/026954(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 14/34
C04B 35/453
C23C 14/08
H01L 21/363
H01L 29/786
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の酸化物を含む酸化物半導体で構成され、
前記所定の酸化物の元素比をIn
XSn
YGe
wZn
Zとしたとき、Xが0.245~0.5、Yが0.1~0.3であり、Zが0.2~0.655で、且つX+Y+Z=1となる範囲であり、W/(W+X+Y+Z)が0.01以上0.03以下であり、
移動度が10~20cm
2/V・s、バンドギャップが、2.75eV以上である
酸化物半導体薄膜。
【請求項2】
請求項1に記載の酸化物半導体薄膜において、
硫酸・硝酸系エッチャントまたは酢酸系エッチャントでエッチングした際のエッチングレートが1nm/sec以上である
酸化物半導体薄膜。
【請求項3】
請求項1に記載の酸化物半導体薄膜において、
Ti、Ta、Zr、Y、Al、Mg、Ga及びSbから選択される少なくとも1つの元素であるA群元素をさらに含有する
酸化物半導体薄膜。
【請求項4】
請求項3に記載の酸化物半導体薄膜において、
Tiが4at%以下、Taが4at%以下、Zrが6at%以下、Yが7at%以下、Alが10at%以下、Mgが11at%以下、Gaが12at%以下、Sbが18at%以下であり、
前記A群元素の含有量が、10at%未満である
酸化物半導体薄膜。
【請求項5】
ゲート電極と、
前記ゲート電極上に設けられたゲート絶縁膜と、
前記ゲート絶縁膜上に設けられた、高移動度の酸化物半導体薄膜からなる活性層と、
前記活性層に接続するソース電極及びドレイン電極と、
を具備し、
前記活性層が、請求項1~4の何れか1項に記載の酸化物半導体薄膜からなる
薄膜半導体装置。
【請求項6】
請求項5に記載の薄膜半導体装置において、
前記活性層を覆うように設けられているキャップ層を具備する
薄膜半導体装置。
【請求項7】
請求項6に記載の薄膜半導体装置において、
前記キャップ層は、前記活性層と共にパターニングする際のエッチング比が適している
薄膜半導体装置。
【請求項8】
請求項5に記載の薄膜半導体装置の製造方法であって、
ゲート電極の上にゲート絶縁膜を形成し、
前記ゲート絶縁膜の上に、高移動度の酸化物半導体薄膜からなる前記活性層をスパッタリング法で形成し、
前記活性層をパターニングし、
パターニングした前記活性層を下地膜とする金属層を形成し、
前記金属層をウェットエッチング法でパターニングすることでソース電極及びドレイン電極を形成する
薄膜半導体装置の製造方法。
【請求項9】
請求項
6に記載の薄膜半導体装置の製造方法であって、
ゲート電極の上にゲート絶縁膜を形成し、
前記ゲート絶縁膜の上に、高移動度の酸化物半導体薄膜からなる前記活性層をスパッタリング法で形成し、
前記活性層上に前記キャップ層をスパッタリング法で形成し、
前記活性層及び前記キャップ層の積層膜をパターニングし、
パターニングした前記活性層及び前記キャップ層を下地膜とする金属層を形成し、
前記金属層をウェットエッチング法でパターニングすることでソース電極及びドレイン電極を形成する
薄膜半導体装置の製造方法。
【請求項10】
移動度が10~20cm
2/V・s、バンドギャップが、2.75eV以上である酸化物半導体薄膜を形成する酸化物半導体薄膜形成用スパッタリングターゲットであって、
所定の酸化物を含む酸化物焼結体で構成され、
前記所定の酸化物の元素比をIn
XSn
YGe
wZn
Zとしたとき、Xが0.245~0.5、Yが0.1~0.3であり、Zが0.2~0.655で、且つX+Y+Z=1となる範囲であり、W/(W+X+Y+Z)が0.01以上0.03以下である、
酸化物半導体薄膜形成用スパッタリングターゲット。
【請求項11】
酸化物半導体薄膜を形成する酸化物半導体薄膜形成用スパッタリングターゲットであって、
所定の酸化物を含む酸化物焼結体で構成され、
前記所定の酸化物の元素比をIn
XSn
YGe
wZn
Zとしたとき、Xが0.245~0.5、Yが0.1~0.3であり、Zが0.2~0.655で、且つX+Y+Z=1となる範囲であり、W/(W+X+Y+Z)が0.01以上0.03以下であり、
相対密度が90%以上である
酸化物半導体薄膜形成用スパッタリングターゲット。
【請求項12】
請求項11に記載の酸化物半導体薄膜形成用スパッタリングターゲットにおいて、
前記酸化物焼結体は、Ti、Ta、Zr、Y、Al、Mg、Ga及びSbから選択される少なくとも1つの元素であるA群元素をさらに含有する
酸化物半導体薄膜形成用スパッタリングターゲット。
【請求項13】
請求項12に記載の酸化物半導体薄膜形成用スパッタリングターゲットにおいて、
Tiが4at%以下、Taが4at%以下、Zrが6at%以下、Yが7at%以下、Alが10at%以下、Mgが11at%以下、Gaが12at%以下、Sbが18at%以下であり、
前記A群元素の含有量が、10at%未満である
酸化物半導体薄膜形成用スパッタリングターゲット。
【請求項14】
酸化インジウム粉末、酸化スズ粉末、酸化亜鉛粉末、及び酸化ゲルマニウム粉末を混合して成形体を形成し、1100℃以上1650℃以下で前記成形体を焼成して、請求項11~13の何れか1項に記載の酸化物焼結体を有する酸化物半導体薄膜形成用スパッタリングターゲットを製造する
酸化物半導体薄膜形成用スパッタリングターゲットの製造方法。
【請求項15】
酸化物半導体薄膜を形成する酸化物半導体薄膜形成用スパッタリングターゲットを製造する方法であって、
インジウム、スズ、亜鉛、及びゲルマニウムの酸化物、水酸化物または炭酸塩を混合して600℃以上1500℃以下で仮焼成した前駆体粉末を成形して成形体とし、1100℃以上1650℃以下で前記成形体を焼成して、請求項11~13の何れか1項に記載の酸化物焼結体を有する酸化物半導体薄膜形成用スパッタリングターゲットを製造する
酸化物半導体薄膜形成用スパッタリングターゲットの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸化物半導体薄膜形成用スパッタリングターゲット、酸化物半導体薄膜形成用スパッタリングターゲットの製造方法、酸化物半導体薄膜、薄膜半導体装置及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
In-Ga-Zn-O系酸化物半導体膜(IGZO)を活性層に用いた薄膜トランジスタ(TFT:Thin-Film Transistor)は、従来のアモルファスシリコン膜を活性層に用いたTFTと比較して、高移動度を得ることができることから、近年、種々のディスプレイに幅広く適用されている(例えば、特許文献1~3参照)。
【0003】
例えば、特許文献1には、有機EL素子を駆動するTFTの活性層がIGZOで構成された有機EL表示装置が開示されている。特許文献2には、チャネル層(活性層)がa-IGZOで構成され、移動度が5cm2/Vs以上の薄膜トランジスタが開示されている。特許文献3には、活性層がIGZOで構成され、オン/オフ電流比が5桁以上の薄膜トランジスタが開示されている。
【0004】
一方、IGZOの原料コストを安くする観点から、Zn-Sn-O(ZTO)(特許文献4)または、IGZOのGaの代わりにSnを添加したIn-Sn-Zn-O(ITZO)(特許文献5)が提案されている。なかでもITZOは、IGZOに比べ移動度も非常に高いことからIGZOに次ぐ材料として注目を集めている。
【0005】
さらに、ITZOは、酸化物半導体に用いる材料のなかでも熱膨張係数が大きく、熱伝導率が低く、スパッタリングターゲットに不向きであるという観点から、In+Sn+Zn+X元素および酸素を含有し、各元素の原子比が下記式(1)を満たし、さらにZn2SnO4で表されるスピネル構造化合物を含む、酸化物焼結体を備える、スパッタリングターゲットが提案されている(特許文献6)。
0.001≦X/(In+Sn+Zn+X)≦0.05 ・・・(1)
(X元素は、Ge、Si、Y、Zr 、Al、Mg、Yb、およびGaから少なくとも1種以上が選択される。)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2009-31750号公報
【文献】特開2011-216574号公報
【文献】WO2010/092810号
【文献】特開2017-36497号公報
【文献】WO2013/179676号
【文献】WO2019/026954号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
近年、各種ディスプレイにおける高解像度化、低消費電力化、高フレームレート化に関する要求から、より高い移動度を示す酸化物半導体への要求が高まっている。しかしながら、活性層にIGZOを用いる薄膜トランジスタにおいては、移動度で10cm2/Vsを超えることが難しく、より高い移動度を示す薄膜トランジスタ用途の材料の開発が求められている。
【0008】
一方、高移動度の活性層に用いると、電流がオフからオンに切り替わる閾値電圧の立ち上がりがシフトしてしまうという問題が発生する。すなわち、高移動度の活性層は、バンドギャップが小さくなる傾向となるという問題がある。
【0009】
このように、高機能ディスプレイ用のTFTの活性層としては、高移動度であることとバンドギップが大きいこととのバランスが重要であり、これにより、ディスプレイの光耐性が向上し、高信頼性が実現されるが、このような観点から最適な組成を求めたものは今までなかった。
さらに、TFTの活性層として使用する場合、エッチャントに対するエッチングレートも重要なポイントとなる。
【0010】
以上のような事情に鑑み、本発明の目的は、高移動度と高バンドギャップの両立を図った活性層に適した酸化物半導体薄膜を形成できる酸化物半導体薄膜形成用スパッタリングターゲット及びその製造方法、酸化物半導体薄膜、さらには薄膜半導体装置及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記目的を達成するために種々研究を重ねた結果、インジウム、亜鉛、及びスズを含み且つゲルマニウムを含む酸化物薄膜が目的の活性層として適していることを知見し、本発明を完成させた。
かかる本発明は、以下のとおりである。
【0012】
本発明の第1の態様は、酸化物半導体薄膜を形成する酸化物半導体薄膜形成用スパッタリングターゲットであって、
所定の酸化物を含む酸化物焼結体で構成され、
前記所定の酸化物の元素比をInXSnYGewZnZとしたとき、Xが0.245~0.5、Yが0.1~0.3であり、Zが0.2~0.655で、且つX+Y+Z=1となる範囲であり、W/(W+X+Y+Z)が0.01以上0.03以下である
酸化物半導体薄膜形成用スパッタリングターゲットにある。
【0013】
本発明の第2の態様は、第1の態様に記載の酸化物半導体薄膜形成用スパッタリングターゲットにおいて、
前記酸化物焼結体は、Ti、Ta、Zr、Y、Al、Mg、Ga及びSbから選択される少なくとも1つの元素であるA群元素をさらに含有する
酸化物半導体薄膜形成用スパッタリングターゲットにある。
【0014】
本発明の第3の態様は、第2の態様に記載の酸化物半導体薄膜形成用スパッタリングターゲットにおいて、
Tiが4at%以下、Taが4at%以下、Zrが6at%以下、Yが7at%以下、Alが10at%以下、Mgが11at%以下、Gaが12at%以下、Sbが18at%以下であり、
前記A群元素の含有量が、10at%未満である
酸化物半導体薄膜形成用スパッタリングターゲットにある。
【0015】
本発明の第4の態様は、
第1~3の何れか1つの態様に記載の酸化物半導体薄膜形成用スパッタリングターゲットにおいて、
相対密度が90%以上である
酸化物半導体薄膜形成用スパッタリングターゲットにある。
【0016】
本発明の第5の態様は、
酸化インジウム粉末、酸化スズ粉末、酸化亜鉛粉末、及び酸化ゲルマニウム粉末を混合して成形体を形成し、1100℃以上1650℃以下で前記成形体を焼成して、第1~4の何れかの態様に記載の酸化物焼結体を有する酸化物半導体薄膜形成用スパッタリングターゲットを製造する
酸化物半導体薄膜形成用スパッタリングターゲットの製造方法にある。
【0017】
本発明の第6の態様は、
酸化物半導体薄膜を形成する酸化物半導体薄膜形成用スパッタリングターゲットを製造する方法であって、
インジウム、スズ、亜鉛、及びゲルマニウムの酸化物、水酸化物または炭酸塩を混合して600℃以上1500℃以下で仮焼成した前駆体粉末を成形して成形体とし、1100℃以上1650℃以下で前記成形体を焼成して、第1~4の何れかの態様に記載の酸化物焼結体を有する酸化物半導体薄膜形成用スパッタリングターゲットを製造する
酸化物半導体薄膜形成用スパッタリングターゲットの製造方法にある。
【0018】
本発明の第7の態様は、
所定の酸化物を含む酸化物半導体で構成され、
前記所定の酸化物の元素比をInXSnYGewZnZとしたとき、Xが0.245~0.5、Yが0.1~0.3であり、Zが0.2~0.655で、且つX+Y+Z=1となる範囲であり、W/(W+X+Y+Z)が0.01以上0.03以下である
酸化物半導体薄膜にある。
【0019】
本発明の第8の態様は、
第7の態様に記載の酸化物半導体薄膜において、
移動度が10~20cm2/V・s、バンドギャップが、2.75eV以上である
酸化物半導体薄膜にある。
【0020】
本発明の第9の態様は、
第7または8の態様に記載の酸化物半導体薄膜において、
硫酸・硝酸系エッチャントまたは酢酸系エッチャントでエッチングした際のエッチングレートが1nm/sec以上である
酸化物半導体薄膜にある。
【0021】
本発明の第10の態様は、
第7~9の何れか1つの態様に記載の酸化物半導体薄膜において、
Ti、Ta、Zr、Y、Al、Mg、Ga及びSbから選択される少なくとも1つの元素であるA群元素をさらに含有する
酸化物半導体薄膜にある。
【0022】
本発明の第11の態様は、
第10の態様に記載の酸化物半導体薄膜において、
Tiが4at%以下、Taが4at%以下、Zrが6at%以下、Yが7at%以下、Alが10at%以下、Mgが11at%以下、Gaが12at%以下、Sbが18at%以下であり、
前記A群元素の含有量が、10at%未満である
酸化物半導体薄膜にある。
【0023】
本発明の第12の態様は、
ゲート電極と、
前記ゲート電極上に設けられたゲート絶縁膜と、
前記ゲート絶縁膜上に設けられた、高移動度の酸化物半導体薄膜からなる活性層と、
前記活性層に接続するソース電極及びドレイン電極と、
を具備し、
前記活性層が、第7~11の何れか1つの態様に記載の酸化物半導体薄膜からなる
薄膜半導体装置にある。
【0024】
本発明の第13の態様は、
第12の態様に記載の薄膜半導体装置において、
前記活性層を覆うように設けられているキャップ層を具備する
薄膜半導体装置にある。
【0025】
本発明の第14の態様は、
第13の態様に記載の薄膜半導体装置において、
前記キャップ層は、前記活性層と共にパターニングする際のエッチング比が適している
薄膜半導体装置にある。
【0026】
本発明の第15の態様は、
第12の態様に記載の薄膜半導体装置の製造方法であって、
ゲート電極の上にゲート絶縁膜を形成し、
前記ゲート絶縁膜の上に、高移動度の酸化物半導体薄膜からなる前記活性層をスパッタリング法で形成し、
前記活性層をパターニングし、
パターニングした前記活性層を下地膜とする金属層を形成し、
前記金属層をウェットエッチング法でパターニングすることでソース電極及びドレイン電極を形成する
薄膜半導体装置の製造方法にある。
【0027】
本発明の第16の態様は、
第13又は14の態様に記載の薄膜半導体装置の製造方法であって、
ゲート電極の上にゲート絶縁膜を形成し、
前記ゲート絶縁膜の上に、高移動度の酸化物半導体薄膜からなる前記活性層をスパッタリング法で形成し、
前記活性層上に前記キャップ層をスパッタリング法で形成し、
前記活性層及び前記キャップ層の積層膜をパターニングし、
パターニングした前記活性層及び前記キャップ層を下地膜とする金属層を形成し、
前記金属層をウェットエッチング法でパターニングすることでソース電極及びドレイン電極を形成する
薄膜半導体装置の製造方法にある。
【発明の効果】
【0028】
かかる本発明は、高機能ディスプレイ用のTFTの活性層として最適な、高移動度であることとバンドギップが大きいことの良好なバランスが実現でき、且つ所定のエッチャントに対するエッチングレートが良好な酸化物半導体薄膜が形成できる酸化物半導体薄膜形成用スパッタリングターゲットが実現でき、これにより、ディスプレイの光耐性が向上し、高信頼性が実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【
図1】In、Sn及びZnの3元複合酸化物薄膜の移動度を測定し、移動度が10~20cm
2/V・sの範囲を示す図である。
【
図2】In、Sn及びZnの3元複合酸化物薄膜のバンドギャップが2.75eV以上の範囲を示す図である。
【
図3】In、Sn及びZnの3元複合酸化物薄膜の、硫酸・硝酸系エッチャントまたは酢酸系エッチャントに対するエッチングレートが1nm/sec以上の範囲を示す図である。
【
図5】本発明に係る薄膜トランジスタの一例の概略構成を示す図である。
【
図6】本発明に係る薄膜トランジスタの他の例の概略構成を示す図である。
【
図7】本発明に係る薄膜トランジスタの製造工程の一例の概略構成を示す図である。
【
図8】本発明に係る薄膜トランジスタの製造工程の一例の概略構成を示す図である。
【
図9】本発明に係る薄膜トランジスタの実施例21、22及び比較例21の薄膜トランジスタの初期特性を比較した図であり、(a)は実施例21、(b)は実施例22、(c)は比較例21に対応する。
【
図10】本発明に係る薄膜トランジスタの実施例21、22及び比較例21の薄膜トランジスタのPBTSを比較した図であり、(a)は実施例21、(b)は実施例22、(c)は比較例21に対応する。
【
図11】本発明に係る薄膜トランジスタの実施例21、22及び比較例21の薄膜トランジスタのNBTSを比較した図であり、(a)は実施例21、(b)は実施例22、(c)は比較例21に対応する。
【
図12】本発明に係る薄膜トランジスタの実施例21、22及び比較例21の薄膜トランジスタのNBITSを比較した図であり、(a)は実施例21、(b)は実施例22、(c)は比較例21に対応する。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態を説明する。
最初に、本実施形態に係る酸化物半導体薄膜形成用スパッタリングターゲットを説明する前に、このスパッタリングターゲットを用いて形成される酸化物半導体薄膜の特性について説明する。
【0031】
[酸化物半導体薄膜]
酸化物半導体薄膜は、例えば、いわゆるボトムゲート型の電界効果型トランジスタ等の薄膜トランジスタにおける高移動度の活性層(反転層) に利用される。
ここで、高移動度の活性層は、移動度が10~20cm2/V・s、バンドギャップが、2.75eV以上の活性層をいう。
【0032】
本発明の酸化物半導体薄膜は、所定の酸化物を含む酸化物半導体で構成され、前記所定の酸化物の元素比をInXSnYGewZnZとしたとき、Xが0.245~0.5、Yが0.1~0.3であり、Zが0.2~0.655で、且つX+Y+Z=1となる範囲であり、W/(W+X+Y+Z)が0.01以上0.03以下のものである。
【0033】
本発明では、キャリアジェネレータとしてInを用い、Snにエッチングコントロールの機能や移動度コントロールの機能を有するものとして、また、Znをエッチングコントロールの機能を有するものとして用い、これにキャリアキラーとしてGeを添加する組成としている。In-Sn-Znの3元素系で高移動度、高バンドギャップとなる系とし、且つ所定のエッチャントに対するエッチングレートが高い範囲を規定し、これにキャリアキラーの機能を有する元素として、添加量が多くなってもバンドギャップの低下が小さく且つエッチングレートにも影響の小さいGeを所定量添加するようにしている。
【0034】
このような4元系組成を基本としたのは、InとZnとを1:1で混合した系に対して、各種元素を添加した場合の添加量と移動度の低下の度合いとの関係を測定し、また、各種元素を添加した場合の添加量とバンドギャップの増加の程度との関係を測定した結果、知見したためである。
すなわち、InとZnとを1:1で混合した系に対して、各種元素を添加した場合の添加量と移動度の低下の度合いとの関係を測定することで、In及びZnに、Geを添加していった系が、移動度の低下の割合が小さく、バンドギャップの増加の割合が大きいことを知見した。
また、InとZnとを1:1で混合した系に対して、各種元素を添加した場合の添加量とバンドギャップの増加の程度との関係を測定することで、これらの系にエッチングコントロールの機能や移動度コントロールの機能を有するSnを添加するのがよいことを知見した。
よって、本発明では、In、Zn、Sn及びGeの4元系組成において、高移動度且つ高バンドギャップを実現し、所定のエッチャントに対して高エッチングレートの組成範囲を以下の通り決定した。
【0035】
具体的には、まず、InXSnYZnZからなる3元系酸化物半導体で、移動度、バンドギャップ、及び所定のエッチャントに対するエッチングレートのそれぞれについて、組成比との関係を測定した。なお、エッチャントは、硫酸・硝酸系エッチャントまたは酢酸系エッチャントである。すなわち、硫酸・硝酸系エッチャントは、硫酸及び硝酸を主体としたエッチャントであり、例えば、(H2SO4(7.6~8.4%)+HNO3(3.8~4.2%)を含むエッチャントである。また、酢酸系エッチャントは、酢酸(HOOC-COOH)を主体とするエッチャントである。
移動度が、10~20cm2/V・s、バンドギャップが、2.75eV以上、エッチングレートが、1nm/sec以上である範囲をそれぞれ求め、3者の重複範囲を決定した。
【0036】
まず、In、Sn及びZnの3元複合酸化物薄膜の移動度を測定し、移動度が10~20cm2/V・sの範囲を規定した。なお、移動度の測定は以下の通り行った。
10mm角の半導体試料の4頂点付近にコンタクトを取るためのメタルを塗布して試料とする。
次に試料に電流を流し、その電流に垂直に磁界を作用させることで電流、磁界にも垂直な方向に起電力が生じさせ、これをホール起電力として特定する。
このホール起電力は電流・磁場それぞれに比例する性質を持っており、その比例係数は試料に固有の物理量である。
この係数と同時に試料の電気伝導度(電気抵抗)を測定することにより試料の移動度等の情報を得ることができる。
【0037】
図1には、この結果を示す。この結果、移動度が10~20cm
2/V・sの範囲は、0.245≦X<0.5、0≦Sn≦0.75、0≦Y≦0.75であった。この範囲が好ましいのは、目的となる高移動度が実現できる条件だからである。
【0038】
次に、In、Sn及びZnの3元複合酸化物薄膜のバンドギャップを測定した。バンドギャップの測定は以下の通り行った。
1.分光器より透過率T、反射率Rを測定する。
2.次式より吸収係数αを算出する。
α=((-ln(T/(1-R))/n)/(T/(1-R))
n:膜厚[cm] T,R:測定データ/100
3.(α×hω)^(1/2)を算出する。
hω(光子エネルギー)[eV]:1239.8/波長[nm]
4.横軸: hω[eV],縦軸(α×hω)^(1/2)のグラフより、傾きが最大となる接線とx軸の交点をバンドギャップとする。
【0039】
図2には、この結果を示す。この結果、バンドギャップが2.75eV以上の範囲は、0≦X≦0.5、0.1≦Y≦1、0≦Z≦0.9であった。ここで、バンドギャップが2.75eV以上が好ましいとしたのは、高移動度且つ高バンドギャップを実現するための条件となるためである。
【0040】
次に、硫酸・硝酸系エッチャントまたは酢酸系エッチャントに対するエッチングレートが1nm/sec以上の範囲を測定した。エッチャントは、硫酸(7.6~8.4%)と硝酸(3.8~4.2%)との混酸系エッチャントを用いた。また、酢酸系エッチャントは、酢酸(HOOC-COOH)を主体とするエッチャントを用いた。エッチングレートの測定には、成膜直後の酸化物半導体薄膜の単膜キャップ層を40℃に管理したエッチャントに浸漬するDip法を採用した。
【0041】
図3には、この結果を示す。この結果、エッチングレートが1nm/sec以上の範囲は、0≦X≦0.8、0≦Y≦0.3、0.2≦Z≦1であった。
高移動度且つ高バンドギャップで、且つ硫酸・硝酸系エッチャントまたは酢酸系エッチャントに対する高エッチングレートを実現するための条件となるからである。
【0042】
図1~
図3の範囲を合わせた結果を
図4に示す。この結果、全てを満足する範囲は、In
XSn
YGe
wZn
Zとしたとき、Xが0.245~0.5、Yが0.1~0.3であり、Zが0.2~0.655で、且つX+Y+Z=1となる範囲である。この範囲としたのは、これにGeを添加した場合、目標となる高移動度且つ高バンドギャップで、且つ硫酸・硝酸系エッチャントまたは酢酸系エッチャントに対する高エッチングレートを実現できるからである。
そして、Geの添加量であるW/(W+X+Y+Z)が0.01以上0.03以下である場合、移動度が10~20cm
2/V・s、バンドギャップが、2.75eV以上という、高移動度、高バンドギャップが実現でき、且つ硫酸・硝酸系エッチャントまたは酢酸系エッチャントでエッチングした際のエッチングレートが1nm/sec以上が実現できることがわかった。
【0043】
本発明の酸化物半導体薄膜は、さらに、Ti、Ta、Zr、Y、Al、Mg、Ga及びSbから選択される少なくとも1つの元素であるA群元素をさらに含有することができる。
これらのA群元素の添加量は、Tiが4at%以下、Taが4at%以下、Zrが6at%以下、Yが7at%以下、Alが10at%以下、Mgが11at%以下、Gaが12at%以下、Sbが18at%以下であり、且つA群元素の総含有量が、10at%未満である範囲であり、この酸化物半導体膜が10~20cm2/V・sの高移動度を有し、バンドギャップが2.75eV以上という高バンドギャップが実現できる範囲であることが好ましい。
【0044】
【0045】
[スパッタリングターゲット]
次に、本実施形態のスパッタリングターゲットについて説明する。
【0046】
スパッタリングターゲットは、プレーナ型のターゲットでもよく、円筒状のロータリターゲットでもよい。スパッタリングターゲットは、In、Sn、Ge及びZnを含む酸化物焼結体からなり、組成比は、上述した酸化物半導体薄膜と同じであり、好ましい組成比も同様であるので、重複する説明は省略する。
【0047】
本発明のスパッタリングターゲットの酸化物焼結体の組成範囲は、含有元素の元素比が下記式で表され、下記式のXが0.245~0.5、Yが0.1~0.3であり、Zが0.2~0.655で、且つX+Y+Z=1となる範囲であり、W/(W+X+Y+Z)が0.01以上0.03以下である。
InXSnYGeWZnZ
【0048】
本発明のスパッタリングターゲットを構成する酸化物焼結体は、Ti、Ta、Zr、Y、Al、Mg、Ga及びSbから選択される少なくとも1つの元素であるA群元素をさらに含有することができる。
ここで、これらのA群元素において、Tiが4at%以下、Taが4at%以下、Zrが6at%以下、Yが7at%以下、Alが10at%以下、Mgが11at%以下、Gaが12at%以下、Sbが18at%以下であり、A群元素の総含有量が、10at%未満であることが好ましい。また、酸化物半導体焼結体を用いてスパッタリングした酸化物半導体薄膜が10~20cm2/V・sの高移動度を有し、バンドギャップが2.75eV以上という高バンドギャップが実現できる範囲であることが好ましい。
【0049】
このような本発明のスパッタリングターゲットを用いて形成した酸化物半導体薄膜は、10~20cm2/V・sの高移動度を有し、バンドギャップが2.75eV以上という高バンドギャップが実現でき、また、硫酸・硝酸系エッチャントまたは酢酸系エッチャントに対するエッチングレート1nm/sec以上が実現できる。
【0050】
(スパッタリングターゲットの製造方法)
本発明のスパッタリングターゲットの製造方法は、上記組成の酸化物焼結体となる方法であれば、特に制限されないが、例えば、以下の2つの製造方法を例示できる。
第1の方法は、酸化インジウム粉末、酸化スズ粉末、酸化亜鉛粉末、及び酸化ゲルマニウム粉末を混合して成形体を形成し、1100℃以上1650℃以下で前記成形体を焼成して、酸化物焼結体を有するスパッタリングターゲットを製造する方法である。
原料粉末の重量比は、目的となる上述した酸化物焼結体の元素比となるように決定する。
【0051】
また、第2の方法は、インジウム、スズ、亜鉛、及びゲルマニウムの酸化物、水酸化物または炭酸塩を混合して600℃~1500℃で仮焼成した前駆体粉末を成形して成形体とし、1100℃以上1650℃以下で前記成形体を焼成して酸化物焼結体を有するスパッタリングターゲットを製造する方法である。
なお、原料粉末の重量比は、目的となる上述した酸化物焼結体の元素比となるように決定する。
【0052】
以下、さらに、第2の方法を例示して詳細に製造方法を説明する。
本実施形態では、乾燥と造粒とを一度に行うことが可能なスプレードライ方式で原料粉末が造粒される。バインダー添加によって粉砕性が悪い粉砕作業が不要になること、流動性がよい球形の粉末を使用できること等により、スパッタリングターゲットの組成分布が均一になりやすくなる。
【0053】
原料粉末は、インジウム、スズ、亜鉛、及びゲルマニウムの酸化物、水酸化物または炭酸塩を少なくとも含む。これに加えて、A群元素の酸化物から選択される一種類以上の粉末を混合してもよい。また、原料粉末の混合には、分散剤等が添加されてもよい。
原料粉末の粉砕・混合方法としては、ボールミルを用いればよいが、ボールミル以外にも、例えば、ビーズミル、ロッドミル等のほかの媒体攪拌ミルが使用可能である。撹拌媒体となるボールやビーズの表面に樹脂コート等が施されてもよい。これにより、粉体中への不純物の混入を効果的に抑制される。
混合された粒粉末は、600℃以上1500℃以下の温度で仮焼成される。焼成温度が600℃未満の場合、仮焼成が不十分で複合酸化物が完全に形成されず、1500℃を超えると、仮焼成で焼結が進行して一次粒子の粒形が大きくなるので、その後の本焼成で焼結密度が上がらなくなる。
仮焼成された粉末は、再びボールミル等で分散剤、バインダー等とともに湿式粉砕され、スプレードライによって造粒される。
【0054】
造粒粉末の平均粒子径は、500μm以下とされる。造粒粉末の平均粒子径が500μmを超えると、成形体のクラックや割れの発生が顕著となるとともに、焼成体の表面に粒状の点が発する。このような焼成体をスパッタリングターゲットに使用すると、異常放電あるいはパーティクル発生の原因となるおそれがある。
【0055】
造粒粉末のより好ましい平均粒子径は、20μm以上100μm以下である。これにより、CIP(Cold Isostatic Press)成形前後での体積の変化(圧縮率)が小さく、成形体へのクラック発生が抑制され、長尺の成形体を安定して作製される。なお、平均粒子径が20μm未満の場合、粉末が舞い上がりやすくなり、取り扱いが困難になる。
【0056】
ここで、「平均粒子径」とは、ふるい分け式粒度分布測定器で測定した粒度分布の積算%が50%の値を意味する。また、平均粒子径の値としては、株式会社セイシン企業社製「Robot Sifter RPS-105M」による測定値が用いられる。
【0057】
造粒粉末は、100MPa/cm2以上の圧力で成形される。これにより相対密度が97%以上の焼結体を得ることができる。成形圧力が100MPa未満の場合、成形体が壊れやすく、ハンドリングが困難であり、焼結体の相対密度が低下する。
【0058】
成形方法としては、CIP法が採用される。CIPの形態は、典型的な垂直ロードタイプの縦型方式でもよく、好ましくは、水平ロードタイプの横型方式が望ましい。これは、長尺の板状の成形体を縦型のCIPで製作すると、型中の粉末のズレによって厚みにばらつきが生じたり、ハンドリング中に自重で割れたりするからである。
【0059】
また、成形体は、1100℃以上1650℃以下で焼成して焼結体とされる。
焼成温度が1100℃未満の場合には、導電性及び相対密度が低くなり、ターゲット用途に向かなくなる。一方、焼成温度が1650℃を超えると、一部成分の蒸発が起き、焼成体の組成ずれが発生したり、結晶粒の粗大化によって焼成体の強度が低下したりする。
【0060】
成形体は、大気あるいは酸化性雰囲気で焼成される。これにより目的とする酸化物焼結体が安定して製造される。
【0061】
造粒粉末の作製には、一次粒子の平均粒子径がそれぞれ0.3μm以上1.5μm以下の粉末が用いられる。これにより混合・粉砕時間の短縮が可能となり、造粒粉内の原料粉末の分散性が向上する。
【0062】
造粒粉末の安息角は、32°以下であることが好ましい。これにより造粒粉末の流動性が高まり、成形性及び焼結性が向上する。
【0063】
(加工工程)
以上のようにして作製された焼成体は、所望の形状、大きさ、厚みの板形状に機械加工されることで、In-Sn-Ge-Zn-O系焼結体からなるスパッタリングターゲットが作製される。スパッタリングターゲットは、バッキングプレートへロウ接体化される。
【0064】
本実施形態によれば、長手方向の長さが1000mmを超す長尺のスパッタリングターゲットを作製することができる。これにより分割構造でない大型のスパッタリングターゲットを作製できるため、分割部の隙間(継ぎ目)に侵入したボンディング材(ロウ材)がスパッタされることで発生し得る膜特性の劣化を防止し、安定した成膜が可能となる。また、上記隙間へ堆積したスパッタ粒子の再付着(リデポ)を原因とするパーティクルが発生しにくくなる。
【0065】
[スパッタリングターゲットの評価]
(比抵抗値分布)
比抵抗値は、NPS社製Model sigma-5+を用いて、直流4探計法で測定を行った。
焼結体を加工した後のスパッタ面側の5点の平均比抵抗値を比抵抗値とした。
【0066】
(相対密度)
焼結体の密度は水銀アルキメデス法、あるいは寸法と重量から直接計算によって求めた。
【0067】
(結晶構造)
酸化物焼結体における複合酸化物の生成及び酸化物半導体薄膜がアモルファスかどうかの確認はXRD:X線回折にて確認した。
【0068】
X線回折で使用される装置、測定条件の一例は、以下の通りである。
X線回折装置:株式会社リガク製RINT
走査方法:2θ/θ法
ターゲット:Cu
管電圧:40kV
管電流:20mA
スキャンスピード:2.000°/分
サンプリング幅:0.050°
発散スリット:1°
散乱スリット:1°
受光スリット:0.3mm
【0069】
(組成)
酸化物焼結体の組成についてはSEM-EDX:エネルギー分散型X線分光法にて確認した。
【0070】
組成分析で使用される装置、測定条件の一例は、以下の通りである。
SEM-EDX:TM3030 株式会社日立ハイテクノロジーズ
加速電圧:15kV
検出素子タイプ:シリコンドリフト検出器
素子面積:30mm2
エネルギー分解能:154eV(Cu―Kα)
検出可能元素:B6~Am95
定性分析:オート/マニュアル
定量分析:スタンダードレス法
【0071】
[薄膜トランジスタ]
図5に本発明に係る薄膜トランジスタの一例の概略構成を示す。
本実施形態の薄膜トランジスタ100は、基材10上に、ゲート電極11と、ゲート絶縁膜12と、活性層13と、キャップ層14と、ソース電極15Sと、ドレイン電極15Dと、保護膜16とを有する。
【0072】
ゲート電極11は、基材10の表面に形成された導電膜からなる。基材10は、典型的には、透明なガラス基板である。ゲート電極11は、典型的には、モリブデン(Mo)、チタン(Ti)、アルミニウム(Al)、銅(Cu)などの金属単層膜あるいは金属多層膜で構成され、例えばスパッタリング法によって形成される。本実施形態では、ゲート電極11は、モリブデンで構成される。ゲート電極11の厚さは特に限定されず、例えば、200nmである。ゲート電極11は、例えば、スパッタ法、真空蒸着法等で成膜される。
【0073】
活性層13は、薄膜トランジスタ100のチャネル層として機能する。活性層13の膜厚は、例えば10nm~200nmである。活性層13は、本発明の酸化物半導体薄膜で構成される。活性層13は、例えば、スパッタ法で成膜される。
キャップ層14は、本発明の高移動度で高バンドギャップの酸化物半導体薄膜に最適なキャップ層を用いることができ、エッチングダメージやCVDプロセスによる水素の影響を抑制することができる公知のキャップ層を用いることができる。
【0074】
このキャップ層14と活性層13は、一緒にパターニングされる。エッチャントは、上述したものを用いることができる。
【0075】
ゲート絶縁膜12は、ゲート電極11と活性層13との間に形成される。ゲート絶縁膜12は、例えば、シリコン酸化膜(SiOx)、シリコン窒化膜(SiNx)又はこれらの積層膜で構成される。成膜方法は特に限定されず、CVD法でもよいし、スパッタリング法、蒸着法等であってもよい。ゲート絶縁膜12の膜厚は特に限定されず、例えば、200nm~400nmである。
【0076】
ソース電極15S及びドレイン電極15Dは、活性層13及びキャップ層14の上に相互に離間して形成される。ソース電極15S及びドレイン電極15Dは、例えば、アルミニウム、モリブデン、銅、チタンなどの金属単層膜あるいはこれら金属の多層膜で構成することができる。後述するように、ソース電極15S及びドレイン電極15Dは、金属膜をパターニングすることで同時に形成することができる。当該金属膜の厚さは、例えば、100nm~200nmである。ソース電極15S及びドレイン電極15Dは、例えば、スパッタ法、真空蒸着法等で成膜される。
【0077】
ソース電極15S及びドレイン電極15Dは、保護膜16によって被覆される。保護膜16は、例えばシリコン酸化膜、シリコン窒化膜、またはこれらの積層膜などの電気絶縁性材料で構成される。保護膜16は、活性層13及びキャップ層14を含む素子部を外気から遮蔽するためのものである。保護膜16の膜厚は特に限定されず、例えば、100nm~300nmである。保護膜16は、例えば、CVD法で成膜される。
【0078】
保護膜16の形成後、アニール処理が実施される。これにより、活性層13が活性化される。アニール条件は特に限定されず、本実施形態では、大気中において約30℃、1時間実施される。このとき、キャップ層14は、保護膜16から活性層13への熱による水素の拡散を抑制する働きがあると考えられる。
【0079】
保護膜16には適宜の位置にソース電極15S、ドレイン電極15Dを配線層(図示略)と接続するための層間接続孔16S、16Dが設けられている。上記配線層は、薄膜トランジスタ100を図示しない周辺回路へ接続するためのもので、ITO等の透明導電膜で構成されている。
【0080】
図6に本発明に係る薄膜トランジスタの他の例の概略構成を示す。
この例は、
図5の薄膜トランジスタのキャップ層14を具備しない以外は、
図5と同一であるため、重複する説明は省略する。
【0081】
このように本発明の酸化物半導体薄膜を活性層とした薄膜半導体トランジスタは、
図5や
図6の何れの構造であっても、高機能ディスプレイ用のTFTとして用いることができ、これにより、ディスプレイの光耐性が向上し、高信頼性が実現される。
【0082】
(薄膜トランジスタの製造方法)
本発明の薄膜トランジスタの製造方法の一例を
図7及び
図8を参照しながら説明する。
図7(a)に示すように、まず、基材10上にゲート電極材料層11aを室温でスパッタリングすることにより形成した後、
図7(b)に示すように、湿式でパターニングすることにより、ゲート電極11を形成する。次に、
図7(c)に示すように、ゲート絶縁膜12をCVDにより成膜する。ここでは、SiO
X/SiN
Xの積層体とした。次に、
図7(d)に示すように、活性層材料層13aと、キャップ層材料層14aを基材10の温度を100℃としたスパッタリングにより順次形成する。そして、
図8(a)に示すように、活性層材料層13a及びキャップ層材料層14aをエッチングによりパターニングし、活性層13及びキャップ層14を形成する。エッチャントとして、例えば硫酸・硝酸系エッチャントまたは酢酸系エッチャントを用いてエッチングし、その後、例えば、大気中で400℃で1時間アニールする。次いで、
図8(b)に示すように、ソース・ドレイン用金属材料層15aを室温のスパッタリングで形成し、
図8(c)に示すように、ソース電極15S及びドレイン電極15Dをパターニングにより形成する。最後に、
図8(d)に示すように、保護膜材料層16aをCVDにより形成する。保護膜材料層16aは、例えば、膜厚300nmのSiOxとする。保護膜材料層16aは大気中で300℃でアニールした後、ドライエッチングによりパターニングして、ソース電極15S及びドレイン電極15Dへの層間接続孔16S、16Dを形成する。
【0083】
以上説明した本発明に係る薄膜トランジスタは、キャップ層14として、上述したインジウム、マグネシウム、及びスズを含む酸化物薄膜を用いると、バンドギャップEgが小さい傾向にある高移動度の活性層13の材料に対して、キャップ層14との積層時にTFTのVthのシフトが発生せず、TFT作製時の外的要因を抑制する効果を有する。
具体的には、本発明のキャップ層14は、TFT作製時の水素プロセス、ソース電極15S、ドレイン電極15Dのパターニング時の活性層13へのダメージを抑制する機能を有する。
【0084】
図6に示したキャップ層14を有さない薄膜半導体トランジスタも、キャップ層14を形成しない以外は同様に製造できる。
何れにしても、本発明の酸化物半導体薄膜を活性層とした薄膜半導体トランジスタは、
図5や
図6の何れの構造であっても、高機能ディスプレイ用のTFTとして用いることができ、これにより、ディスプレイの光耐性が向上し、高信頼性が実現される。
【実施例】
【0085】
(スパッタリングターゲット実施例1-6、比較例1-4)
下記表2に示す組成となるように、酸化インジウム、酸化スズ、酸化ゲルマニウム、酸化亜鉛を秤量し、ボールミルを用いて混合した。混合された粒粉末を、大気下で焼結することにより、焼結体を得た。
焼結体について、相対密度と比抵抗値を測定した結果を表2に示す。さらに、混合された粒粉末と酸化物焼結体との焼結前後での組成ずれの有無についてEDXで確認した結果を併せて示す。なお、各組成の複合酸化物の生成はXRDで確認できた。
【0086】
実施例において、酸化インジウム、酸化スズ、酸化ゲルマニウム、酸化亜鉛を原料とし、大気中で焼結することで、90%以上の相対密度を持った焼結体が得られた。この焼結体は、特に、1300℃以上で焼結すると、97%以上の相対密度を持ち、比抵抗値が10mΩ・cm以下であった。
なお、比較例において、焼結温度を1100℃未満としたときには焼結が十分に進まず、相対密度が90%未満であった。また、1650℃以上で焼成したとき、酸化亜鉛の昇華により焼結前後で7%程度の重量減があり、組成ずれが発生した。
【0087】
【0088】
(酸化物半導体薄膜実施例11、12)
スパッタリングターゲット実施例1、2のスパッタリングターゲットを用いて酸化物半導体薄膜を製造し、上述したとおり、移動度、バンドギャップ、所定のエッチャントに対するエッチングレートを測定した。結果を表3に示す。
【0089】
(酸化物半導体薄膜比較例11-13)
複数のスパッタリングターゲットを用いて表3に示す組成の酸化物半導体薄膜を製造し、上述したとおり、移動度、バンドギャップ、所定のエッチャントに対するエッチングレートを測定した。また、XRDでアモルファスかどうかを確認した。結果を表3に示す。
【0090】
実施例、比較例の結果、実施例11、12の酸化物半導体薄膜は、移動度、バンドギャップ、エッチングレートの全てにおいて、所望の特性が得られたが、比較例11-13では、全てにおいて所望の特性を得られなかった。
【0091】
【0092】
(薄膜トランジスタ実施例21、22)
図6の構造のようにキャップ層14を有さない、実施例21、22の薄膜トランジスタを製造した。
活性層13としては、表3に例示した、実施例11、12のIn-Sn-Ge-Zn-Oを用いて50nmの膜厚とした。
薄膜トランジスタ実施例は、酸化物の元素比をIn
XSn
YGe
wZn
Zとしたとき、Xが0.245~0.5、Yが0.1~0.3であり、Zが0.2~0.655で、且つX+Y+Z=1となる範囲であり、W/(W+X+Y+Z)が0.01以上0.03以下の組成範囲の活性層を有するものであり、これについてTFT特性を測定した。
【0093】
(薄膜トランジスタ比較例21)
図6の構造のようにキャップ層14を有さない、比較例21の薄膜トランジスタを製造した。
活性層13としては、市販のITGZOを用いて50nmの膜厚とした。
比較例は既存材料ITGZOから得られた活性層を有する薄膜トランジスタであり、TFT特性を測定した。
【0094】
(TFT特性比較)
実施例21、22及び比較例21の薄膜トランジスタについて、初期特性、PBTS(Positive Bias Temperature Stress)、NBTS(Negative Bias Temperature Stress)、及びNBITS(Negative Bias Illustration Temperature Stress)をそれぞれ測定した結果を
図9~
図12に示す。
図9~
図12において、(a)は実施例21、(b)は実施例22、(c)は比較例21に対応する。
【0095】
この結果、実施例は比較例と比べ、移動度、信頼性(PBTS,NBTS)共に同等以上であることを確認できた。
また、これにより本発明の材料コンセプトを加味することで、移動度と信頼性の両立が可能であることがわかった。
【符号の説明】
【0096】
10…基材
11…ゲート電極
11a…ゲート電極材料層
12…ゲート絶縁膜
13…活性層
13a…活性層材料層
14…キャップ層
14a…キャップ層材料層
15a…ソース・ドレイン用金属材料層
15D…ドレイン電極
15S…ソース電極
16…保護膜
16a…保護膜材料層
16D、16S…層間接続孔
【要約】
高移動度と高バンドギャップの両立を図った活性層に適した酸化物半導体薄膜を形成できる酸化物半導体薄膜形成用スパッタリングターゲット及びその製造方法、酸化物半導体薄膜、さらには薄膜半導体装置及びその製造方法を実現する。
酸化物半導体薄膜を形成する酸化物半導体薄膜形成用スパッタリングターゲットであって、所定の酸化物を含む酸化物焼結体で構成され、前記所定の酸化物の元素比をInXSnYGewZnZとしたとき、Xが0.245~0.5、Yが0.1~0.3であり、Zが0.2~0.655で、且つX+Y+Z=1となる範囲であり、W/(W+X+Y+Z)が0.01以上0.03以下である、酸化物半導体薄膜形成用スパッタリングターゲット。