(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-24
(45)【発行日】2024-02-01
(54)【発明の名称】メタクリル系樹脂組成物及び樹脂成形体
(51)【国際特許分類】
C08L 33/10 20060101AFI20240125BHJP
C08L 33/08 20060101ALI20240125BHJP
C08K 5/05 20060101ALI20240125BHJP
C08K 5/3435 20060101ALI20240125BHJP
C08F 2/44 20060101ALI20240125BHJP
【FI】
C08L33/10
C08L33/08
C08K5/05
C08K5/3435
C08F2/44 B
(21)【出願番号】P 2019212670
(22)【出願日】2019-11-25
【審査請求日】2022-09-26
(31)【優先権主張番号】P 2018223590
(32)【優先日】2018-11-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100142309
【氏名又は名称】君塚 哲也
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【氏名又は名称】大浪 一徳
(72)【発明者】
【氏名】磯村 学
(72)【発明者】
【氏名】中川 和彦
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 正法
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 博之
【審査官】岡部 佐知子
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-051655(JP,A)
【文献】特開2000-095998(JP,A)
【文献】特表2004-506760(JP,A)
【文献】特開平03-059015(JP,A)
【文献】特開昭55-139404(JP,A)
【文献】特表2008-514752(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08K 3/00-13/08
C08L 1/00-101/16
C08F 2/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(メタ)アクリル系重合体(P)、アルコール(A)及び、ヒンダードアミン系光安定剤(B)を含有するメタクリル系樹脂組成物であって、
前記(メタ)アクリル系重合体(P)が、メタクリル酸アルキル(M1)由来の繰り返し単位と、炭素数1~6のアルキル基を側鎖として有するアクリル酸アルキル(M2)由来の繰り返し単位とを含有
し、
前記(メタ)アクリル系重合体(P)が、該(メタ)アクリル系重合体(P)の総質量に対して、メタクリル酸アルキル(M1)由来の繰り返し単位95.0質量%以上99.0質量%以下と炭素数1~6のアルキル基を側鎖として有するアクリル酸アルキル(M2)由来の繰り返し単位1.0質量%以上5.0質量%以下を含む、メタクリル系樹脂組成物。
【請求項2】
前記アクリル酸アルキル(M2)が、アクリル酸n-エチル又はアクリル酸n-ブチルを含む、請求項
1に記載のメタクリル系樹脂組成物。
【請求項3】
前記メタクリル系樹脂組成物が、総質量に対して、前記アクリル系重合体(P)を94.0質量%以上含む、請求項1
又は2に記載のメタクリル系樹脂組成物。
【請求項4】
前記アルコール(A)が、分子内にヒドロキシ基を1個以上4個以下含有する化合物を含む、請求項1~
3のいずれか一項に記載のメタクリル系樹脂組成物。
【請求項5】
前記アルコール(A)が二価アルコール(A2)を含む、請求項1~
4のいずれか一項に記載のメタクリル系樹脂組成物。
【請求項6】
前記二価アルコール(A2)が、隣接した二つの炭素原子のそれぞれの炭素原子にヒドロキシ基が一つずつ付加した構造を有する、請求項
5に記載のメタクリル系樹脂組成物。
【請求項7】
前記二価アルコール(A2)が、少なくとも1,2プロパンジオールを含む、請求項
5又は
6に記載のメタクリル系樹脂組成物。
【請求項8】
前記アルコール(A)が一価アルコール(A1)を含む、請求項1~
7のいずれか一項に記載のメタクリル系樹脂組成物。
【請求項9】
前記一価アルコール(A1)が、エタノールである、請求項
8に記載のメタクリル系樹脂組成物。
【請求項10】
前記メタクリル系樹脂組成物が、該メタクリル系樹脂組成物の総質量に対して、前記(メタ)アクリル系重合体(P)95.0質量%以上99.0質量%以下、前記アルコール(A)0.5質量%以上4.5質量%以下、及びヒンダードアミン光安定剤(B)0.05質量%以上0.6質量%以下を含有する、請求項1~
9のいずれか一項に記載のメタクリル系樹脂組成物。
【請求項11】
メタクリル酸アルキル(M1)が、メタクリル酸メチルである、請求項1~
10のいずれか一項に記載のメタクリル系樹脂組成物。
【請求項12】
前記ヒンダードアミン系光安定剤(B)が、セバシン酸ビス(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)、コハク酸ジメチルと1-(2-ヒドロキシエチル)-4-ヒドロキシ-2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジン重縮合物、ブタン-1,2,3,4-テトラカルボン酸テトラキス(1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジニル)、及びブタン-1,2,3,4-テトラカルボン酸1-ヘキサデシル-2,3,4-トリス(1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジニル)からなる群より選ばれる少なくとも一種である、請求項1~
11のいずれか一項に記載のメタクリル系樹脂組成物。
【請求項13】
請求項1~
12のいずれか一項に記載のメタクリル系樹脂組成物を含む樹脂成形体。
【請求項14】
日焼けベッド、照明機器、スキンセラピー機器、医療機器、UVにより硬化又は反応させるためのデバイス、動植物育成用機器、天窓、及びHIDランプのいずれかに使用される透明部材として用いられる、請求項
13に記載の樹脂成形体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、メタクリル系樹脂組成物、及び前記メタクリル系樹脂組成物を含む樹脂成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
メタクリル系樹脂は、透明性、耐熱性及び耐侯性に優れ、且つ、機械的強度、熱的性質、成形加工性等の樹脂物性においてバランスのとれた性能を有している。特に、メタクリル系樹脂を板状にしたメタクリル系樹脂板は、日焼けベッド、照明機器、スキンセラピー機器、医療機器、紫外線(以下、「UV」という。)により硬化又は反応させるためのデバイス、動植物育成用機器、天窓、HIDランプに使用される透明部材等の用途に使用されている。
【0003】
上記用途において、直射日光やUVランプ等のUVに曝露される環境下にメタクリル系樹脂板が設置された場合、メタクリル系樹脂板は、黄帯色(黄ばみ)が発生し、UV透過性が低下し、更にUV曝露表面にクラックが発生するという問題点があった。
即ち、UVに長時間曝露されたときに、あらゆる曝露時間において、黄帯色の発生とUV透過性の低下が抑制され、且つ、UV曝露表面にクラックが発生することのない、即ちUV安定性と耐クラック性に優れるメタクリル系樹脂が要求されていた。
なお、本明細書において「あらゆる曝露時間」とは、メタクリル系樹脂板にUVを照射した直後から、200時間後までのことをいう。
【0004】
メタクリル系樹脂のUV安定性を向上する技術として、紫外線吸収剤(以下、「UVA」という。)をメタクリル系樹脂に配合する方法が知られている。しかし、UVAを配合することにより、メタクリル系樹脂のUV透過性が低下するため、上記用途には不適であった。
メタクリル系樹脂のUV透過性を低下させずに、UV安定性を向上する技術として、例えば、特許文献1には、ヒンダードアミン系光安定剤(以下、「HALS」という。)の一種である2,2,6,6-テトラメチルピペリジンの誘導体を含むメタクリル系樹脂組
成物が提案されている。
特許文献2には、脂肪族アルコールや高沸点ヒドロキシ化合物を単体又は混合物を含むメタクリル系樹脂組成物が提案されている。
特許文献3には、HALSと活性物質の混合物を含むメタクリル系樹脂組成物が提案されており、活性物質として、一価アルコール、水、ビニルエステル、酢酸ブチルが例示されている。
特許文献4には、HALSと活性物質の混合物含むメタクリル系樹脂組成物が提案されており、活性物質として、α-ヒドロキシ酸又はその混合物を含む1種以上のカルボン酸化合物が例示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開昭55-139404号
【文献】特開平3-59015号
【文献】特表2004-506760号
【文献】特表2008-514752号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1~4に記載のメタクリル系樹脂組成物は、UVに長時間曝露された場合、黄帯色が発生し、UV透過性が低下するという問題があった。特に、特許文献2に記載のメタクリル系樹脂組成物は、UVに長時間曝露された時、曝露表面においてクラックが発生するという問題があった。
【0007】
本発明はこれらの問題点を解決することを目的とする。すなわち、本発明は、UVに長時間曝露されたときにあらゆる曝露時間において、黄帯色の発生が抑制され、UV透過性に優れ、且つ、UV曝露表面におけるクラックの発生が抑制されたメタクリル系樹脂組成物及び樹脂成形体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
発明の要旨は、以下の構成を有する。
本発明の第1の要旨は、(メタ)アクリル系重合体(P)、アルコール(A)及び、ヒンダードアミン系光安定剤(B)を含有するメタクリル系樹脂組成物であって、 前記アクリル系重合体(P)が、メタクリル酸アルキル(M1)由来の繰り返し単位と、炭素数1~6のアルキル基を側鎖として有するアクリル酸アルキル(M2)由来の繰り返し単位とを含有する、請求項1に記載のメタクリル系樹脂組成物にある。
本発明の第2の要旨は、前記メタクリル系樹脂組成物を含む樹脂成形体にある。
本発明の第3の要旨は、日焼けベッド、照明機器、スキンセラピー機器、医療機器、UVにより硬化又は反応させるためのデバイス、動植物育成用機器、天窓、及びHIDランプのいずれかに使用される透明部材として用いられる、前記樹脂成形体にある。
【発明の効果】
【0009】
本発明により、UVに長時間曝露されたときに、あらゆる曝露時間、特にUV暴露の初期において、黄帯色の発生が抑制され、UV透過性に優れ、且つ、UV曝露表面におけるクラックの発生が抑制されたメタクリル系樹脂組成物を安定に提供することができる。
本発明の樹脂成形体は、前記メタクリル系樹脂組成物を含むので、UVに長時間曝露されたときに、あらゆる曝露時間、特にUV暴露の初期において、黄帯色の発生が抑制され、UV透過性に優れ、且つ、UV曝露表面におけるクラックの発生が抑制されている。
このような樹脂成形体は、日焼けベッド、照明機器、スキンセラピー機器、医療機器、UVにより硬化又は反応させるためのデバイス、動植物育成用機器、天窓、HIDランプに使用される透明部材等の用途に好適である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明において、「(メタ)アクリレート」は、「アクリレート」及び「メタクリレート」から選ばれる少なくとも1種を意味し、「(メタ)アクリル酸」は、「アクリル酸」及び「メタクリル酸」から選ばれる少なくとも1種を意味する。
本発明において、「単量体」は未重合の化合物を意味し、「繰り返し単位」は単量体が重合することによって形成された前記単量体に由来する単位を意味する。繰り返し単位は、重合反応によって直接形成された単位であってもよく、ポリマーを処理することによって前記単位の一部が別の構造に変換された単位であってもよい。
本発明において、「質量%」は全体量100質量%中に含まれる特定の成分の含有量を示す。
特に断らない限り、本明細書において「~」を用いて表される数値範囲は、「~」の前後に記載された数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味し、「A~B」は、A以上B以下であることを意味する。
【0011】
本明細書において、UVとは、波長範囲として295nm以上430nm以下の光、即ち、波長380nm以下の波長領域の光を主として含む光を意味する。
本明細書において、本発明のメタクリル系樹脂組成物及び本発明のメタクリル系樹脂組成物を成形して得られた樹脂成形体のことを、単に「得られた樹脂成形体」という。
本明細書において、得られた樹脂成形体がUVに長時間曝露されたとき、あらゆる曝露時間において、黄帯色の発生とUV透過性の低下が抑制されていることを、適宜「UV安定性に優れる」、あるいは「優れたUV安定性」ともいう。
本明細書において、得られた樹脂成型体がUVに長時間曝露された後の、UV曝露表面におけるクラックの発生が抑制されていることを、適宜「耐クラック性に優れる」、あるいは「優れた耐クラック性」ともいう。
【0012】
<メタクリル系樹脂組成物>
本発明のメタクリル系樹脂組成物は、後述する(メタ)アクリル系重合体(P)、後述するアルコール(A)、及び後述するヒンダードアミン系光安定剤(B)を含有するメタクリル系樹脂組成物である。
本発明のメタクリル系樹脂組成物は、(メタ)アクリル系重合体(P)を含むことで、得られた樹脂成形体の透明性が良好となる。
【0013】
本発明のメタクリル系樹脂組成物は、アルコール(A)及びヒンダードアミン系光安定剤(B)を含むことで、得られた樹脂成形体は、UVに長時間曝露されても、黄帯色の発生と、UV透過性の低下が抑制され、且つ、曝露表面におけるクラックの発生を抑制される。
その理由は定かではないが、アルコール(A)が有する黄帯色成分の発生を抑制する作用と、ヒンダードアミン系光安定剤(B)が有する樹脂の光酸化を抑制する作用が相まって、得られた樹脂成形体は、UVに長時間曝露されたときの、黄帯色の発生とUV透過性の低下が抑制され、曝露表面におけるクラックの発生が抑制されるものと推察される。
【0014】
本発明のメタクリル系樹脂組成物は、該メタクリル系樹脂組成物の総質量に対して、前記(メタ)アクリル系重合体(P)95.0質量%以上99.0質量%以下、前記アルコール(A)0.5質量%以上4.5質量%以下、及びヒンダードアミン光安定剤(B)0.05質量%以上0.6質量%以下を含有することができる。
【0015】
(メタ)アクリル系重合体(P)の含有割合の下限値は、特に制限されるものではなく、得られた樹脂成形体の耐熱性が良好となる観点から、該メタクリル系樹脂組成物の総質量に対して、95.0質量%が好ましく、95.5質量%がさらに好ましい。一方、(メタ)アクリル系重合体(P)の含有割合の上限値は、特に制限されるものではなく、得られた樹脂成形体のUV安定性に優れるとなる観点から、99.0質量%が好ましく、98.9質量%がさらに好ましい。上記の上限値及び下限値は任意に組み合わせることができる。
或いは又、(メタ)アクリル系重合体(P)の含有割合は、95.0質量%以上99.0質量%以下が好ましく、95.5質量%以上98.9質量%以下がさらに好ましい。
【0016】
アルコール(A)の含有割合の下限値は、特に制限されるものではなく、得られた樹脂成形体のUV安定性に優れる観点から、該メタクリル系樹脂組成物の総質量に対して、0.5質量%が好ましく、1.0質量%がさらに好ましい。一方、アルコール(A)の含有割合の上限値は、特に制限されるものではなく、得られた樹脂成形体の耐熱性が良好となる観点から、4.5質量%が好ましく、4.0質量%がさらに好ましい。上記の上限値及び下限値は任意に組み合わせることができる。
或いは又、アルコール(A)の含有割合は、0.5質量%以上4.5質量%以下が好ましく、1.0質量%以上4.0質量%以下がさらに好ましい。
【0017】
ヒンダードアミン系光安定剤(B)の含有割合の下限値は、特に制限されるものではなく、得られた樹脂成形体の耐クラック性に優れる観点から、該メタクリル系樹脂組成物の総質量に対して、0.05質量%が好ましく、0.1質量%がさらに好ましい。一方、ヒンダードアミン系光安定剤(B)の含有割合の上限値は、特に制限されるものではなく、得られた樹脂成形体の残存モノマー量を低減できる観点から、0.6質量%が好ましく、0.5質量%がさらに好ましい。上記の上限値及び下限値は任意に組み合わせることができる。
或いは又、ヒンダードアミン系光安定剤(B)の含有割合は、0.05質量%以上0.6質量%以下が好ましく、0.1質量%以上0.5質量%以下がさらに好ましい。
【0018】
<(メタ)アクリル系重合体(P)>
(メタ)アクリル系重合体(P)は、本発明のメタクリル系樹脂組成物の構成成分の一つである。
本発明のメタクリル系樹脂組成物は、(メタ)アクリル系重合体(P)を含むことにより、得られた樹脂成形体の透明性が向上するとともに、樹脂成形体の熱や光による分解が抑制され、加熱成形性、耐熱性、機械的強度を良好にすることができる。さらに、(メタ)アクリル系重合体(P)が本来有しているUV安定性と、前記アルコール(A)、及び前記ヒンダードアミン系光安定剤(B)が有している上述した作用・効果との相乗効果により、UVに長時間曝露されたときに、あらゆる曝露時間において黄帯色の発生が抑制され、UV透過性を維持することができ、UV曝露表面におけるクラックの発生が抑制されたメタクリル系樹脂成形体を得ることが可能となる。
【0019】
(メタ)アクリル系重合体(P)は、メタクリル酸アルキル(M1)由来の繰り返し単位(以下、「メタクリル酸アルキル(M1)単位」という。)及び炭素数1~6のアルキル基を側鎖として有するアクリル酸アルキル(M2)由来の繰り返し単位(以下、「アクリル酸アルキル(M2)単位」という。)を含有する共重合体である。
メタクリル酸アルキル(M1)としては、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸n-ブチル、メタクリル酸t-ブチル、メタクリル酸2-エチルヘキシル等が挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。これらの単量体の中でも、長時間のUV曝露において、黄帯色の発生を抑制し、高いUV透過性を維持する観点から、メタクリル酸メチル(以下、「MMA」という。)であることが好ましい。
【0020】
前記アクリル酸アルキル(M2)としては、炭素数1~6のアルキル基を側鎖として有するアクリル酸アルキルであって、メタクリル酸アルキル(M1)と共重合可能な単量体であれば特に限定されるものではなく、例えば、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸n-ブチル、アクリル酸t-ブチル等が挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。これらの単量体の中でも、得られた樹脂成形体が、UVに長時間曝露されたときに、黄帯色の発生を抑制し、高いUV透過性を維持する観点から、アクリル酸n-エチル又はアクリル酸n-ブチルが好ましい。
【0021】
(メタ)アクリル系重合体(P)に含まれるメタクリル酸アルキル(M1)単位の含有割合の下限値は、特に制限されるものではなく、得られた樹脂成形体の耐熱性が良好となる観点から、該(メタ)アクリル系重合体(P)の総質量に対して、95.0質量%が好ましく、96.0質量%がさらに好ましい。一方、メタクリル酸アルキル(M1)単位の含有割合の上限値は、特に制限されるものではなく、得られた樹脂成形体のUV安定性に優れる観点から、99.0質量%が好ましく、98.0質量%がさらに好ましい。上記の上限値及び下限値は任意に組み合わせることができる。
或いは又、メタクリル酸アルキル(M1)の含有割合は、該(メタ)アクリル系重合体(P)の総質量に対して、95.0質量%以上99.0質量%以下が好ましく、96.0質量%以上98.0質量%以下がさらに好ましい。
【0022】
(メタ)アクリル系重合体(P)に含まれるアクリル酸アルキル(M2)単位の含有割合の下限値は、特に制限されるものではなく、得られた樹脂成形体のUV安定性に優れる観点から、該(メタ)アクリル系重合体(P)の総質量に対して、1.0質量%が好ましく、2.0質量%がさらに好ましい。一方、アクリル酸アルキル(M2)単位の含有割合の上限値は、特に制限されるものではなく、得られた樹脂成形体の耐熱性が良好となる観点から、5.0質量%が好ましく、4.0質量%がさらに好ましい。上記の上限値及び下限値は任意に組み合わせることができる。
或いは又、アクリル酸アルキル(M2)の含有割合は、該(メタ)アクリル系重合体(P)の総質量に対して、1.0質量%以上5.5質量%以下が好ましく、2.0質量%以上4.0質量%以下がさらに好ましい。
【0023】
さらに、本発明の(メタ)アクリル系重合体(P)は、得られた樹脂成形体の性能を損なわない範囲で、一分子中にラジカル重合性官能基を2個以上含む多官能性単量体(M3)由来の構造単位(以下、「多官能性単量体(M3)単位」という。)を含むことができる。
ここでいうラジカル重合性官能基とは、炭素-炭素2重結合を有し、ラジカル重合可能な基であれば何れでもよく、具体的には、ビニル基、アリル基、(メタ)アクリロイル基、(メタ)アクリロイルオキシ基などが挙げられる。特に(メタ)アクリロイル基は、ラジカル重合性官能基を有する化合物の貯蔵安定性が優れている観点や、当該化合物の重合性を制御することが容易である観点から好ましい。なお、「(メタ)アクリロイル」は「アクリロイル」と「メタクリロイル」の一方あるいは両方を示す。なお、ラジカル重合性官能基を2個有する単量体中のラジカル重合性官能基は、同一であっても異なっていてもよい。
(メタ)アクリル系重合体(P)が、多官能性単量体(M3)単位を含むことにより、得られた樹脂成形体の耐溶剤性及び耐薬品性をより優れたものにできる。
多官能性単量体(M3)としては、メタクリル酸アリル、アクリル酸アリル、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、エチレングリコールトリ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート等が挙げられるが、特にこれらに限定されるものではない。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。これらの多官能性単量体(M3)の中でも、得られた樹脂成形体の耐溶剤性及び耐薬品性がより良好となる観点から、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレートがより好ましく、エチレングリコールジ(メタ)アクリレートがさらに好ましい。
【0024】
本発明のメタクリル系樹脂組成物においては、特に(メタ)アクリル系重合体(P)が、該(メタ)アクリル系重合体(P)の総質量に対して、MMA単位を95.0質量%以上99.0質量%以下及びnBA単位を1.0質量%以上5.0質量%以下を含む共重合体は、UVに長時間曝露されたときに、黄帯色の発生が抑制され、UV透過性を維持することができ、UV曝露表面におけるクラックの発生が抑制されることがわかった。その理由は定かではないが、メタクリル系樹脂組成物を製造するときに、(メタ)アクリル系重合体(P)のnBA単位の含有割合が1.0質量%以上5.0質量%以下の範囲となるように、該(メタ)アクリル系重合体(P)の原料がnBAを含むことにより、得られた樹脂成形体中に含まれる未反応の残存モノマー量が低減するので、UVに曝された残存モノマーの変質に起因する黄帯色の発生やUV透過性の低下を抑制できるためと推察される。
【0025】
さらに、本発明のメタクリル系樹脂組成物においては、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定した、前記(メタ)アクリル系重合体(P)の重量平均分子量(Mw)は、特に限定されるものではなく、得られた樹脂成形体の使用用途等に応じて、100,000~1,000,000の範囲で適宜設定することができる。
なお、重量平均分子量は、標準試料として標準ポリスチレンを用い、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーを用いて測定した値とする。重量平均分子量を適宜大きくすることにより、耐溶剤性及び耐薬品性を高めることができる。
(メタ)アクリル系重合体(P)の重量平均分子量(Mw)は、重合温度、重合時間、重合開始剤の添加量、連載移動剤の種類や添加量等を調整することにより制御できる。
【0026】
<アルコール(A)>
アルコール(A)は、本発明のメタクリル系樹脂組成物の構成成分の一つである。
本発明のメタクリル系樹脂組成物は、アルコール(A)を含有することにより、得られた樹脂成形体がUVに長時間曝露されたときに、黄帯色の発生とUV透過性の低下を抑制することができる。
前記アルコール(A)としては、分子内にヒドロキシ基を1個以上4個以下含有する化合物が、得られた樹脂成形体が、得られた樹脂成形体がUVに長時間曝露されたときに、黄帯色の発生とUV透過性の低下をより抑制できる観点から好ましい。
【0027】
本発明のメタクリル系樹脂組成物において、アルコール(A)とは、温度20~30℃の範囲内における酸解離定数(pka)が10.0以上であるアルコールのことをいう。例えば、乳酸は、pka=3.8~3.9であるので、本発明におけるアルコール(A)に含まれない。酸解離定数(pka)の値は、電位差滴定法等の公知の中和滴定を行って測定される。
【0028】
本発明のメタクリル系樹脂組成物において、前記アルコール(A)が二価アルコール(A2)を含むことが、得られた樹脂成形体が、得られた樹脂成形体がUVに長時間曝露されたときに、黄帯色の発生とUV透過性の低下をさらに抑制できる観点から好ましい。
【0029】
二価アルコール(A2)とは、一分子中に2個のヒドロキシ基を有する二価アルコールであって、隣接した二つの炭素原子のそれぞれの炭素原子に、ヒドロキシ基が一つずつ付加した構造を有する二価アルコールが、得られた樹脂成形体が、得られた樹脂成形体がUVに長時間曝露されたときに、黄帯色の発生とUV透過性の低下を特に抑制できる観点から好ましい。
【0030】
その理由は定かではないが、隣接した二つの炭素原子のそれぞれの炭素原子に、ヒドロキシ基が一つずつ付加した構造を有していることにより、二つのヒドロキシ基によるUV安定化作用が発現しやすいためと推察される。
【0031】
本発明における二価アルコール(A2)としては、特に限定されるものではなく、例えば、1,2-エチレンジオール、1,2-プロパンジオール、1,2-ブタンジオール、2,3-ブタンジオール等が挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。これらの二価アルコールの光学異性体については、D体・L体それぞれの単体であっても、混合物であっても構わない。これらの二価アルコールの中でも、人体への有害性が少なく、またUV安定性に優れることから、1,2-プロパンジオールが好ましい。
前記二価アルコール(A2)と前記(メタ)アクリル系重合体(P)を組み合わせて用いることにより、得られた樹脂成形体のUV安定性に優れる相乗効果が得られ、あらゆる曝露時間において良好な外観とUV透過率を維持する。
【0032】
本発明のメタクリル系樹脂組成物において、前記アルコール(A)が一価アルコール(A1)を含むことが、得られた樹脂成形体が、得られた樹脂成形体がUVに長時間曝露されたときに、黄帯色の発生とUV透過性の低下をさらに抑制できる観点から好ましい。
【0033】
本発明における一価アルコール(A1)としては、特に限定されるものではなく、例えば、メタノール、エタノール、2-プロパノール、1-ブタノール等が挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。これらの一価アルコール(A1)の中でも、UV安定性に優れることから、エタノールが好ましい。
【0034】
<ヒンダードアミン系光安定剤(B)>
ヒンダードアミン系光安定剤(B)は、本発明のメタクリル系樹脂組成物の構成成分の一つである。
本発明のメタクリル系樹脂組成物がヒンダードアミン系光安定剤(B)を含有することにより、得られた樹脂成形体がUVに長時間曝露されたときに、UV曝露表面におけるクラックの発生を抑制することができる。
【0035】
本発明のメタクリル系樹脂組成物は、上述したように(メタ)アクリル系重合体(P)、アルコール(A)、及びヒンダードアミン系光安定剤(B)を含有することにより、(メタ)アクリル系重合体(P)が本来有しているUV安定性と、アルコール(A)が有する黄帯色成分の発生を抑制する作用と、ヒンダードアミン系光安定剤(B)が有する樹脂の光酸化を抑制する作用の相乗効果が得られるので、得られた樹脂成形体がUVに長時間曝露されたときに、黄帯色の発生とUV透過性の低下を抑制することができ、且つ、UV曝露表面におけるクラックの発生を抑制することができる。
【0036】
メタクリル酸アルキル(M1)の単独重合体及びヒンダードアミン系光安定剤(B)から成る樹脂組成物、並びに、メタクリル酸アルキル(M1)の単独重合体とアルコール(A)から成る樹脂組成物は、UV安定性又は耐クラック性が不十分であった。しかし、本発明のメタクリル系樹脂組成物のように、(メタ)アクリル系重合体(P)、アルコール(A)及びヒンダードアミン系光安定剤(B)を含む樹脂組成物は、UV安定性と耐クラック性に優れている。
さらに、前記(メタ)アクリル系重合体(P)がアクリル酸アルキル(M2)単位を含むことにより、UV安定性により優れる。その理由は定かではないが、(メタ)アクリル系重合体(P)の原料がアクリル酸アルキル(M2)単量体を含むことにより、前記原料に用いられる種々の単量体の共重合性が向上して、得られた樹脂成形体中に含まれる未反応の残存モノマー量が低減するので、樹脂成形体がUVに曝されたときに、残存モノマーの変質に起因するヒンダードアミン系光安定剤(B)の変質が抑制され、その結果、樹脂成形体の黄帯色の発生やUV透過性の低下を抑制できるためと推察される。
【0037】
本発明におけるヒンダードアミン系光安定剤(B)としては、特に限定されるものではなく、セバシン酸ビス(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)として、例えば、Tinuvin770DF(商品名、BASF社製)、LA-77(商品名、ADEKA社製)、SanolLS-770(商品名、BASF社製)、セバシン酸ビス(1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジニル)として、例えば、Tinuvin765(商品名、BASF社製)、SanolLS-765(商品名、BASF社製)、コハク酸ジメチルと1-(2-ヒドロキシエチル)-4-ヒドロキシ-2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジン重縮合物として、例えば、Tinuvin622SF(商品名、BASF社製)、ブタン-1,2,3,4-テトラカルボン酸テトラキス(1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジニル)として、例えば、LA-52(商品名、ADEKA社製)、ブタン-1,2,3,4-テトラカルボン酸1-ヘキサデシル-2,3,4-トリス(1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジニル)として、例えば、LA-57(商品名、ADEKA社製)、1,2,3,4-ブタンテトラカルボン酸と1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジノール及び3,9-ビス(2-ヒドロキシ-1,1-ジメチルエチル)-2,4,8,10-テトラオキサスピロ[5.5]ウンデカンとの混合エステル化物として、例えば、LA-63P(商品名、ADEKA社製)等が挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
これらの中でも、得られた樹脂成形体がUVに長時間曝露されたときに、黄帯色の発生とUV透過性の低下を抑制する効果に優れている観点から、セバシン酸ビス(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)、コハク酸ジメチルと1-(2-ヒドロキシエチル)-4-ヒドロキシ-2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジンの重縮合物、ブタン-1,2,3,4-テトラカルボン酸テトラキス(1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピ
ペリジニル)、ブタン-1,2,3,4-テトラカルボン酸1-ヘキサデシル-2,3,4-トリス(1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジニル)が好ましい。
【0038】
本発明のメタクリル系樹脂組成物は、前記(メタ)アクリル系重合体(P)、前記アルコール(A)及び前記ヒンダードアミン系光安定剤(B)を含有しているので、UV安定性と耐クラック性に優れている。
具体的には、本発明のメタクリル系樹脂組成物からなる試験片(縦50mm×横50mmの正方形状、厚さ3mm)に、後述するUV曝露試験を施したときに、前記試験片について、UV曝露試験の開始前からUV曝露試験開始後200時間の間に得られる、ASTM D1925に準拠して測定した黄色度(YI)が4.0以下、クラックの発生本数が20本未満、且つ、波長295nmにおける光線透過率が15.0%以上、波長315nmにおける光線透過率が35.0%以上とすることができる。
さらに、前記UV曝露試験を開始して200時間後の試験片において、メタルハライドランプの光を照射した側の試験片表面の縦50mm、横50mmの正方形状の領域に発生したクラックの本数が20本未満とすることができる。
【0039】
<メタクリル系樹脂組成物又は樹脂成形体の製造方法>
本発明のメタクリル系樹脂組成物又は樹脂成形体を得る方法としては、後述する重合性組成物(X2)を重合する方法が挙げられる。
前記重合性組成物(X2)を重合してメタクリル系樹脂組成物を得る際に使用されるラジカル重合開始剤としては、例えば、2,2’-アゾビス(イソブチロニトリル)、2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)等の公知のアゾ化合物、及び、ベンゾイルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド等の公知の有機過酸化物が挙げられる。これらは単独で又は2種以上を併せて使用できる。
必要に応じて、ラジカル重合開始剤と共にアミン、メルカプタン等の公知の重合促進剤や、離型剤、熱安定剤、酸化防止剤、他の光安定剤等の添加剤を併用することができる。
重合性組成物(X2)中のラジカル重合開始剤の含有率は、特に限定されるものでなく、当業者が周知技術に従い適宜決めることができる。通常は、前記重合性組成物(X2)の総質量100質量部に対して、0.01質量部以上1.0質量部以下である。
【0040】
重合性組成物(X2)を重合する際の重合温度は、特に限定されるものでなく、当業者が周知技術に従い適宜決めることができる。通常、使用するラジカル重合開始剤の種類に応じて40~180℃、より好ましくは50~150℃の範囲で適宜設定される。また、重合性組成物(X2)は必要に応じて多段階の温度条件で重合を行うことができる。重合時間は、重合硬化の進行に応じて適宜決定すればよい。
【0041】
重合性組成物(X2)の重合法としては、例えば、塊状重合法、懸濁重合法、乳化重合法及び分散重合法が挙げられるが、これらの中で、生産性の点で、塊状重合法が好ましい。
【0042】
また、本発明のメタクリル系樹脂組成物を含む樹脂成形体を製造する方法は、特に限定されるものではなく、例えばセルキャスト法や連続キャスト法等の公知のキャスト重合法を用いて、塊状重合法を行うことにより樹脂成形体を製造する方法、或いは又、塊状重合法で製造した本発明のメタクリル系樹脂組成物を、押出成形法及び射出成形法を用いて樹脂成形体を製造する方法が挙げられる。高分子量化や架橋構造の導入により、メタクリル系樹脂組成物の耐熱性のさらなる向上を図れる観点から、キャスト重合(注型重合)法がより好ましい。
【0043】
キャスト重合法としては、例えば、板状の形態を有するメタクリル系樹脂組成物を得る場合、対向する2枚のガラス板又は金属板(SUS板)と、その縁部に配置された軟質樹脂チューブ等のガスケットとから形成された空間を鋳型として、重合性組成物(X2)又は重合性組成物(X2)の一部を重合したシラップを前記鋳型に注入し、加熱・重合処理することによって重合を完結させ、鋳型からメタクリル系樹脂組成物又は樹脂成形体を取り出すセルキャスト法が挙げられる。或いは又、同一方向に同一速度で所定の間隔をもって対向して走行する2枚のステンレス製エンドレスベルトと、その両側辺部に配置された軟質樹脂チューブ等のガスケットとで形成された空間を鋳型として、前記エンドレスベルトの一端から連続的に重合性組成物(X2)又は重合性組成物(X2)の一部を重合したシラップを前記鋳型の注入し、加熱・重合処理することによって重合を完結させ、エンドレスベルトの他端から連続的にメタクリル系樹脂組成物又は樹脂成形体を取り出す連続キャスト法が挙げられる。
鋳型の空隙の間隔を、ガスケットの太さ(直径)で適宜調整して、所望の厚さのメタクリル系樹脂組成物又は樹脂成形体を得ることができる。板状のメタクリル系樹脂組成物の厚さは、通常は1~30mmの範囲に設定される。
【0044】
<重合性組成物(X2)>
重合性組成物(X2)は、メタクリル系樹脂組成物を得るための原料の一実施態様であり、後述する原料組成物(X1)、アルコール(A)及びヒンダードアミン系光安定剤(B)、並びに公知のラジカル重合開始剤を含有する組成物である。
【0045】
重合性組成物(X2)中に含まれる原料組成物(X1)の含有率(単位:質量%)は、特に限定されるものではなく、該重合性組成物(X2)の総質量に対して、95.5質量%以上98.9質量%以下の範囲とすることができる。
重合性組成物(X2)中に含まれるアルコール(A)の含有率(単位:質量%)は、特に限定されるものではなく、該重合性組成物(X2)の総質量に対して、1.0質量%以上5.0質量%以下の範囲とすることができる。
重合性組成物(X2)中に含まれるヒンダードアミン系光安定剤(B)の含有率(単位:質量%)は、特に限定されるものではなく、該重合性組成物(X2)の総質量に対して、0.1質量%以上0.5質量%以下の範囲とすることができる。
【0046】
<原料組成物(X1)>
原料組成物(X1)は、前記重合性組成物(X2)の構成成分であり、前記(メタ)アクリル系重合体(P)の原料成分でもある。
原料組成物(X1)とは、メタクリル酸アルキル(M1)のみを含む組成物、若しくは、前記メタクリル酸アルキル(M1)及びアクリル酸アルキル(M2)を含む組成物が挙げられる。前記メタクリル酸アルキル(M1)及び前記アクリル酸アルキル(M2)としては、上述した(メタ)アクリル系重合体(P)の欄に記載したメタクリル酸アルキル(M1)及びアクリル酸アルキル(M2)と同様の単量体を用いることができる。
原料組成物(X1)が、メタクリル酸アルキル(M1)とアクリル酸アルキル(M2)を含むことにより、メタクリル系樹脂組成物のUV安定性が向上し、得られた樹脂成形体がUVに長時間曝露されたときに、黄帯色の発生と、UV透過性の低下を抑制することができる。
また、原料組成物(X1)中のメタクリル酸アルキル(M1)の含有割合は、特に限定されるものではなく、メタクリル系樹脂組成物のUV安定性を向上できることから、該原料組成物(X1)100質量%に対して、95.0質量%以上99.0質量%以下とすることができる。
メタクリル酸アルキル(M1)としては、メタクリル系樹脂組成物の透明性、耐熱性及び耐候性に優れる観点から、メタクリル酸メチル(MMA)が好ましい。
【0047】
また、原料組成物(X1)中のアクリル酸アルキル(M2)の含有割合は、特に限定されるものではなく、メタクリル系樹脂組成物のUV安定性を向上できることから、該原料組成物(X1)100質量%に対して、1.0質量%以上5.0質量%以下とすることができる。
アクリル酸アルキル(M2)としては、メタクリル系樹脂組成物のUV安定性に優れる観点から、アクリル酸n-ブチル(nBA)が好ましい。
【0048】
また、前記原料組成物(X1)は、メタクリル酸アルキル(M1)単位を含む重合体を予め含むことができる。具体的には、原料組成物(X1)は、後述する重合体(a)を、予め含むことができる。原料組成物(X1)が重合体(a)を含むことにより、重合性組成物(X2)は粘性を有する液体(以下、「シラップ」という)となるため、重合時間を短縮でき、生産性を向上することができる。
上述したシラップを得る方法としては、例えば、原料組成物(X1)に重合体を溶解させる方法、或いは原料組成物(X1)に公知のラジカル重合開始剤を添加して、その一部を重合させる方法が挙げられる。
【0049】
重合性組成物(X2)の一実施態様として、重合性組成物(X2)がシラップである場合には、下記の重合体(a)と単量体組成物(m)を含む組成物が挙げられる。
重合体(a):重合体(a)の総質量に対して、メタクリル酸アルキル(M1)単位95.0質量%以上99.0質量%未満と前記アクリル酸アルキル(M2)単位1.0質量%を超えて5.0質量%以下を含む重合体、若しくは、メタクリル酸アルキル(M1)単位100質量%からなる重合体。
単量体組成物(m):単量体組成物(m)の総質量に対して、メタクリル酸アルキル(M1)95.0質量%以上99.0質量%未満、アクリル酸アルキル(M2)1.0質量%を超えて5.0質量%以下を含む単量体組成物、若しくは、メタクリル酸アルキル(M1)100質量%からなる単量体組成物。
【0050】
<樹脂成形体>
本発明のメタクリル系樹脂組成物を用いて樹脂成形体を製造することにより、優れたUV安定性と耐クラック性を有する樹脂成形体を得ることができる。
【0051】
前記樹脂成形体の形状としては、例えば板状の樹脂成形体(樹脂板)又はシート状の樹脂成形体(樹脂シート)が挙げられる。樹脂成形体の厚みとしては、厚い板状から薄いフィルム状まで必要に応じて任意の厚さに調整することができる。例えば厚み1mm以上30mm以下とすることができる。
【0052】
本発明の樹脂成形体は、上述したメタクリル系樹脂組成物からなるので、UV安定性と耐クラック性に優れている。
すなわち、本発明の樹脂成形体は、上述したUV曝露試験の開始前からUV曝露試験開始後200時間の間に得られる、ASTM D1925に準拠して測定した黄色度(YI)が4.0以下、クラックの発生本数が20本未満、且つ、波長295nmにおける光線透過率が15.0%以上、波長315nmにおける光線透過率が35.0%以上となるような、優れたUV安定性を有する。さらに、前記UV曝露試験を開始して200時間後の試験片において、メタルハライドランプの光を照射した側の試験片表面の縦50mm、横50mmの正方形状の領域に発生したクラックの本数が20本未満となるような、優れたUV安定性を有する。
【実施例】
【0053】
以下に本発明を、実施例を用いて説明する。以下において、「部」及び「%」はそれぞれ「質量部」及び「質量%」を示す。また、実施例及び比較例で使用した化合物の略号は以下の通りである。
MMA:メタクリル酸メチル(三菱ケミカル(株)製)
nBA:アクリル酸n-ブチル(三菱ケミカル(株)製)
EA:アクリル酸エチル(三菱ケミカル(株)製)
(A1-1):エタノール(日本アルコール販売(株)製)
(A1-2):メタノール(富士フイルム和光純薬(株)製)
(A2-1):プロピレングリコール(富士フイルム和光純薬(株)製)
(A2-2):エチレングリコール(富士フイルム和光純薬(株)製)
(B-1):セバシン酸ビス(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)(商品名:Tinuvin770DF、BASF社製)
AVN:2,2´-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)(商品名:V-65、富士フイルム和光純薬(株)製)
HPP:t-ヘキシルペルオキシピバレート(商品名:パーヘキシルPV、日油(株)製)
シラップ(1):製造例1で作製した単量体組成物
【0054】
<評価方法>
実施例及び比較例における評価は以下の方法により実施した。
【0055】
(1)UV曝露試験
UV安定性の指標として、メタルハライドランプ(ダイプラ・ウィンテス(株)製、型式:MW-60W)と可視光カットフィルタ(ダイプラ・ウィンテス(株)製、型式:KF-2)を備えたメタルウェザー超促進耐候性試験機(ダイプラ・ウィンテス(株)製、機種名:KU-R4CI-A)を用いて、UV曝露試験を行い、後述する方法に従って、UV曝露試験の開始前から開始後200時間の間の黄色度(YI)、波長295nm及び315nmにおける光線透過率、及びクラックの発生本数を測定した。
具体的には、前記メタルウェザー超促進耐候性試験機の評価室内に、実施例・比較例で得られたメタクリル系樹脂組成物からなる試験片(縦50mm×横50mmの正方形状、厚さ3mm)を設置した。
前記メタルハライドランプから試験片に照射される紫外線(UV)の照射強度は、紫外線照度計(ウシオ電機(株)製、機種名:UIT-101)で測定した波長330~390nmにおける照射強度が80mW/cm2となるように補正した。メタルウェザー超促進耐候性試験機の評価室内は、温度63℃湿度50RH%の環境下となるように設定して、メタルハライドランプの紫外線光(照射強度80mW/cm2)を、前記試験片に照射した。
UV曝露開始前(0時間)の試験片、及びUV曝露開始後5時間後、10時間後、100時間後、200時間後にメタルウェザー超促進耐候性試験機から取り出した前記試験片について、後述する方法に従って黄帯色(黄ばみ)とUV透過性、及びクラックの発生本数を評価した。
【0056】
(2)黄色度(YI)
黄帯色(黄ばみ)の指標として、分光式色差計(日本電色工業(株)製、機種名:SE-7700)を用い、ASTM D1925に準拠して前記試験片の黄色度(イエローインデックス:YI)を測定した。試験片1点を用いて、各試験片につき1回測定を行い、その測定値を黄色度(YI)とした。
【0057】
(3)波長295nm及び315nmの光線透過率(T295、T315)
UV透過性の指標として、波長295nm及び315nmの光線透過率(T295、T315)を測定した。紫外可視分光光度計(日本分光(株)製、機種名:V-630)を用い、透過率取込間隔1nm、バンド幅1.5nm、走査速度1000nm/minの測定条件で、前記試験片に平行光を入射して、波長295nm及び波長315nmにおける光線透過率(単位:%)を測定し、T295、T315(単位:%)とした。試験片1点を用いて、各試験片につき1回測定を行い、波長295nm及び波長315nmにおけるそれぞれの光線透過率の測定値をT295、T315(単位:%)とした。
【0058】
(4)UV曝露表面におけるクラック
耐クラック性の指標として、UV曝露試験を開始して200時間後の前記試験片において、メタルハライドランプの光を照射した側の試験片表面(UV曝露表面)の縦50mm×横50mmの正方形状の領域に発生したクラックの本数を測定した。具体的には、デジタルマイクロスコープ((株)ハイロックス製、機種名:KH-8700)を用いて明視野で透過観察することにより、前記クラックの本数を測定した。
【0059】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0060】
[製造例1]
アクリルシラップの製造:単量体組成物の全質量を100質量%として、MMA99.5質量%とAVN0.05質量%からなる単量体組成物を重合槽に供給し、均一になるように十分撹拌しながら、窒素ガスでバブリングした後、加熱を開始した。次いで、重合槽の単量体組成物の温度を100℃に維持して10分間重合を行い、重合体含有率20質量%、温度20℃における粘度が1.5Pa・sのシラップ(1)を得た。
【0061】
[実施例1]
重合性組成物の全質量を100質量%として、製造例1で製造したシラップ(1)を93.4質量%、アクリル酸アルキル(M2)としてnBAを4.0質量%、アルコール(A)としてエタノール(A1-1)を2.0質量%、ヒンダードアミン系光安定剤(B)としてTinuvin770DF(商品名、BASF社製)(B-1)を0.30質量%、重合開始剤としてHPPを0.3質量%の含有割合で配合し、次いで真空中で脱気し、これを重合性組成物(X2)とした。次いで、対向して配置した2枚のガラス板の端部に、軟質樹脂製ガスケットを設置して、鋳型を作製した。次いで、上記の鋳型の中に前記重合性組成物(X2)を流し込んだ後、軟質樹脂製ガスケットで封止した。続いて、前記鋳型を、1段階目の重合(1st重合)として80℃まで昇温して45分間保持した後、次いで122℃まで昇温して30分間保持して、鋳型中の重合性組成物(X2)を重合させた。その後、室温まで冷却し、SUS板を取り除いて厚さ3.0mmの板状のメタクリル系樹脂組成物(樹脂成形体)を得た。
得られたメタクリル系樹脂組成物は、メタクリル酸アルキル(M1)単位としてMMA単位とアクリル酸アルキル(M2)単位としてnBA単位を含む(メタ)アクリル系重合体(P)、アルコール(A)、及びヒンダードアミン系光安定剤(B)を含有する樹脂組成物であった。
得られた樹脂成形体の評価結果を表2に示す。
【0062】
[実施例2~5、比較例1~7]
シラップ(1)の配合量、アルコール(A)、及びヒンダードアミン系光安定剤(B)の種類及び配合量を表1記載のとおりに変更した以外は、実施例1と同様の方法で板状の樹脂成形体を得た。得られた樹脂成形体の評価結果を表2に示す。
【0063】
【0064】
【0065】
実施例1~5の樹脂成形体は、(メタ)アクリル系重合体(P)、アルコール(A)及びヒンダードアミン系光安定剤(B)を含むので、UV暴露後に、黄帯色の発生とUV透過性の低下が抑制され、且つ、クラックの発生が抑制されており、UV安定性に優れていた。
【0066】
比較例1~3の樹脂成形体は、ヒンダードアミン系光安定剤(B)を含まないため、UV暴露後にクラックの発生が見られた。特に、比較例1~2はUV透過性の低下が見られた。
【0067】
比較例4の樹脂成形体は、アルコール(A)を含まないため、UV暴露後に、黄帯色の発生及びUV透過性の低下が見られた。
【0068】
比較例5の樹脂成形体は、アルコール(A)の代わりに乳酸(酸解離定数(pka)が3.8~3.9)を用たため、UV暴露後に、UV透過性の低下が見られた。
【0069】
比較例6,7の樹脂成形体は、(メタ)アクリル系重合体(P)がアクリル酸アルキル(M2)単位を含有しないため、UV暴露後に、UV透過性の低下が見られた。
【産業上の利用可能性】
【0070】
本発明のメタクリル系樹脂組成物及び樹脂成形体は、UVに長時間曝露されたときに、あらゆるUV曝露時間において黄帯色の発生が抑制され、UV透過性に優れ、且つ、UV曝露表面におけるクラックの発生が抑制されるので、日焼けベッド、照明機器、スキンセラピー機器、医療機器、UVにより硬化又は反応させるためのデバイス、動植物育成用機器、天窓、HIDランプに使用される透明部材等の用途に好適である。