(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-24
(45)【発行日】2024-02-01
(54)【発明の名称】シックナーレーキ旋回軸受点検装置
(51)【国際特許分類】
C22B 1/00 20060101AFI20240125BHJP
B01D 21/06 20060101ALI20240125BHJP
【FI】
C22B1/00 101
B01D21/06 A
(21)【出願番号】P 2020063365
(22)【出願日】2020-03-31
【審査請求日】2022-12-02
(73)【特許権者】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100123869
【氏名又は名称】押田 良隆
(72)【発明者】
【氏名】柿山 拓司
【審査官】藤長 千香子
(56)【参考文献】
【文献】特開昭57-171115(JP,A)
【文献】特開2019-166503(JP,A)
【文献】特開2017-145511(JP,A)
【文献】特開2017-144418(JP,A)
【文献】特開2013-154262(JP,A)
【文献】特開2010-201324(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22B 1/00-61/00
B01D 21/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
対でシックナー旋回軸軸受を構成する別体のシックナーレーキ旋回軸側軸受部材と、シックナー構造体側軸受部材との相対的位置を検出するシックナーレーキ旋回軸受点検装置であって、
前記相対的位置の検出が、前記シックナーレーキ旋回軸側軸受部材とシックナー構造体側軸受部材との高さの差を検出することで、
検出基準部と目盛で構成され、
前記検出基準部が、前記シックナー構造体側軸受部材
の動きを再現する箇所に設置、固定され、
前記相対的位置の検出基準点を与え、
前記目盛が、前記シックナーレーキ旋回軸側軸受部材に設置、固定されて前記相対的位置を表示することを特徴とするシックナーレーキ旋回軸受点検装置。
【請求項2】
対でシックナー旋回軸軸受を構成する別体のシックナーレーキ旋回軸側軸受部材とシックナー構造体側軸受部材との相対的位置を検出するシックナーレーキ旋回軸受点検装置であって、
前記相対的位置の検出が、前記シックナーレーキ旋回軸側軸受部材とシックナー構造体側軸受部材との高さの差を検出することで、
検出基準部と目盛で構成され、
前記目盛が、前記シックナー構造体側軸受部材
の動きを再現する箇所に設置、固定され、前記相対的位置を表示し、
前記検出基準部が、前記シックナーレーキ旋回軸側軸受部材に設置、固定され、
前記相対的位置の検出基準点を与えることを特徴とするシックナーレーキ旋回軸受点検装置。
【請求項3】
基部から延伸した目盛と、
前記目盛の基部に、前記目盛がシックナーレーキ旋回軸の軸方向と平行になるように、シックナーレーキ旋回軸側軸受部材に
取り付ける第2の固定具と、
前記目盛を前記シックナーレーキ旋回軸側軸受部材に固定する第1の固定具と
、を備えるシックナーレーキ旋回軸受点検治具を有するとともに、
高さの検出基準点を有し、
前記検出基準点
が前記シックナーレーキ旋回軸側軸受部材と対を成して組み合わさるシックナー構造体側軸受部材の位置と連動するように
、前記シックナー構造体側軸受部材
の動きを再現する箇所に取り付けられ
る検出基準部を有することを特徴とするシックナーレーキ旋回軸受点検装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
鉱石の湿式分離処理に用いられるシックナーにおけるシックナーレーキ旋回軸受(以下、レーキ旋回軸受とも称す)の保全方法に関する。
【背景技術】
【0002】
鉱石分離を行なうシックナー(例えば、特許文献1参照)は、長時間連続して運転する用いられ方をされている。
シックナーは、たとえば
図1に示すように、シックナー缶体と梁で構成されるシックナー構造体Saの内側に配置されたレーキ1が、レーキ旋回軸2を中心軸として旋回している。
【0003】
その回転運動を支えているシックナー構造体側軸受部材(
図4、符号3A参照)とレーキ旋回軸側軸受部材(
図4、符号3B参照)とで対を成して構成するレーキ旋回軸受(
図2、点線で囲まれた範囲の符号3)は長期間の運転により損耗し、軸方向の隙間が増加するレーキ旋回軸受はシックナーを構成する部品の中で重要な部品の一つで、安定したシックナーの運転を行うためには、レーキ旋回軸受の損耗を把握し、計画的に交換することは重要である。
【0004】
このレーキ旋回軸受の損耗を把握できず、シックナーが運転不能に至るまでレーキ旋回軸受の損耗を放置すると、生産計画外の突発的なシックナー停止を招き、損傷したレーキ旋回軸受を交換する必要が出てきてしまい、生産活動への影響が大きい。
【0005】
そこで、通常、レーキ旋回軸受の損耗を把握する方法として、短期間シックナーを停止させ、レーキ旋回軸受の上部に位置する駆動部を取り外し、レーキ旋回軸受の内部を確認する方法や、シックナー内部を空にしてレーキを上下方向に動かし、レーキ旋回軸受内の隙間を確認する方法が行なわれている。
【0006】
そのようなレーキ旋回軸受の損耗の把握法では、シックナーを停止させる必要があるため生産活動への影響が発生してしまうという問題と、レーキ旋回軸受点検にシックナー駆動部の分解工事やレーキを上下させる作業などを要するという問題も生じてしまう。
そこで、生産活動への影響が許容できる範囲で一定期間ごとにレーキ旋回軸受を交換する方法も考えられるが、その場合、交換用にレーキ旋回軸受の在庫を多く要し交換作業を要するという問題が発生してしまう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
このような状況に鑑みて、生産活動への影響と、点検に必要な費用を最小化することが経済的な生産、保全活動を行う上で求められていた。
【0009】
本発明はシックナーレーキ旋回軸受の状態監視のために行う点検において、シックナー駆動部(駆動モーター及び駆動減速機)を取り外したり、シックナー内を空にしたりすることなくシックナーレーキ旋回軸受の損耗による軸方向の隙間を測定できる点検装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
レーキ旋回軸受に直接的にまたは間接的に目盛を取付けて本発明のレーキ旋回軸受点検装置を構成する。本発明のシックナーレーキ旋回軸受点検装置に設けられた目盛の値と、目盛が見える範囲に設けた任意の基準点との高さの差、即ち相対的位置の変化を測定できるようにしておく。定期的に基準点と目盛との高さの差を測定する。レーキ旋回軸受の損耗により発生する軸方向の隙間が増大すると、基準点と目盛との高さの差が変化し、レーキ旋回軸受の損耗により発生する軸方向の相対的位置の変化を測定でき、この相対的位置の変化を監視する。その状態変化の測定の結果を基に計画的かつ必要最低限のレーキ旋回軸受交換を実施することができる。
【0011】
このような本発明の第1の発明は、対でシックナー旋回軸受を構成する別体のシックナーレーキ旋回軸側軸受部材と、シックナー構造体側軸受部材との相対的位置を検出するシックナーレーキ旋回軸受点検装置であって、前記相対的位置の検出が、前記シックナーレーキ旋回軸側軸受部材とシックナー構造体側軸受部材との高さの差を検出することで、
検出基準部と目盛で構成され、前記検出基準部が、前記シックナー構造体側軸受部材の動きを再現する箇所に設置、固定され、前記相対的位置の検出基準点を与え、前記目盛が、前記シックナーレーキ旋回軸側軸受部材に設置、固定されて前記相対的位置を表示することを特徴とするシックナーレーキ旋回軸受点検装置である。
【0012】
本発明の第2の発明は、対でシックナー旋回軸受を構成する別体のシックナーレーキ旋回軸側軸受部材とシックナー構造体側軸受部材との相対的位置を検出するシックナーレーキ旋回軸受点検装置であって、前記相対的位置の検出が、前記シックナーレーキ旋回軸側軸受部材とシックナー構造体側軸受部材との高さの差を検出することで、検出基準部と目盛で構成され、前記目盛が、前記シックナー構造体側軸受部材の動きを再現する箇所に設置、固定され、前記相対的位置を表示し、前記検出基準部が、前記シックナーレーキ旋回軸側軸受部材に設置、固定され、前記相対的位置の検出基準点を与えることを特徴とするシックナーレーキ旋回軸受点検装置である。
【0013】
本発明の第3の発明は、基部から延伸した目盛と、前記目盛の基部に、前記目盛がシックナーレーキ旋回軸の軸方向と平行になるように、シックナーレーキ旋回軸側軸受部材に取り付ける第2の固定具と、前記目盛を前記シックナーレーキ旋回軸側軸受部材に固定する第1の固定具と、を備えるシックナーレーキ旋回軸受点検治具を有するとともに、高さの検出基準点を有し、前記検出基準点が、前記シックナーレーキ旋回軸側軸受部材と対を成して組み合わさるシックナー構造体側軸受部材の位置と連動するように、前記シックナー構造体側軸受部材の動きを再現する箇所に取り付けられる検出基準部を有することを特徴とするシックナーレーキ旋回軸受点検装置である。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係る装置を取付けたシックナーでは、レーキ旋回軸受の損耗により発生する軸方向の隙間を、シックナーを停止させたり、シックナー内部を空にすることなく把握することができる。これにより、レーキ旋回軸受の損耗を放置することなく計画的にレーキ旋回軸受を交換できるので、生産活動を円滑にでき、産業上顕著な効果を奏するものである。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明が使用されるシックナーの一実施態様の概略断面図である。
【
図2】本発明の一実施態様に係るシックナー駆動部及びレーキ旋回軸軸受部の概略断面図である。
【
図3】本発明の一実施態様に係るシックナーレーキ旋回軸受点検治具である。
【
図4】レーキ旋回軸受が損耗した際の状況を説明する概念図で、(a)は正常な状態を示し、(b)は軸受が損耗し、軸方向の隙間が増大した状態を示している。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本実施の形態はレーキ旋回軸受の状態監視のために行う点検において、シックナー駆動部(駆動モーター及び駆動減速機)を取り外したり、シックナー内を空にしたりすることなくレーキ旋回軸受の損耗による軸方向の隙間を測定できる点検装置である。
以下、図面を用いて本実施の形態を説明する。
【0017】
図1は、本実施の形態が使用されるシックナーの一実施態様の概略断面図で、Sはシックナー、Saはシックナー缶体及び梁(または蓋、歩廊)からなるシックナー構造体、Aはレーキ旋回軸受部、Cはレーキ駆動部、1はシックナーレーキ、1aはブレード、2はレーキ旋回軸(シックナーレーキ旋回軸とも称す)である。
シックナーSは、シックナー缶体と梁から構成するシックナー構造体Saを備え、シックナー缶体の中で回転するシックナーレーキ1を備えている。シックナーレーキ1は、シックナー底に沈積した固形物を周方向に撫でるブレード1aと、シックナー内溶液を貫くようにブレードと駆動源(駆動部)を接続して駆動力を伝達するレーキ旋回軸2を備えている。
【0018】
本実施態様に係るシックナーレーキ旋回軸受点検治具7は、
図2に示すように、レーキ旋回軸2の上面Uに設置、固定されて用いられる形態の治具である。
図2は、本実施の形態に係るシックナー駆動部及びレーキ旋回軸受部の概略断面図で、4はスプライン、5は駆動減速機、6は駆動モーターで、レーキ駆動部Cを構成している。また、8は検出基準部、7はシックナーレーキ旋回軸受点検治具で、これらはレーキ旋回軸受点検装置を構成している。検出基準部8は、符号3のレーキ旋回軸受と合わせてレーキ旋回軸受部Aを構成するように配置することができる。
【0019】
レーキ駆動部Cでは、駆動モーター6で発生させた回転力を、駆動減速機5を介してスプライン4へ伝える。スプライン部はレーキ旋回軸に接続されておりシックナーレーキを回転させる。回転するレーキ旋回軸2を支えるためにレーキ旋回軸受3が取り付けられている。本実施の形態の治具7はシックナーレーキ旋回軸側軸受部材3Bの上面に取付けられるもので、検出基準部8はシックナー構造体側軸受部材3Aの動きを再現する箇所に設けられている(
図4も参照)。レーキ旋回軸受3は通常、レーキ旋回軸2の周方向に等間隔に配置されているが、シックナーレーキ旋回軸受点検装置(7+8)は必要な方角にのみあれば足りる。
【0020】
図2に示す本実施態様に係るシックナーレーキ旋回軸受点検治具7の拡大説明図を
図3に示す。
本実施の形態のシックナーレーキ旋回軸受点検治具7は、等間隔に刻まれた目盛13の基部に、シックナーレーキ旋回軸受上面にあるボルト頭部に被せるように取付けるための第2の固定具の治具取付穴11、及び被せた状態でシックナーレーキ旋回軸受点検治具7を固定するための第1の固定具の治具固定セットスクリュー12を備えている。
【0021】
次に、本実施の形態に係る装置の取付例と、その使用方法について説明する。
図3に示す本実施の形態に係るシックナーレーキ旋回軸受点検治具を、
図2のようにレーキ旋回軸側軸受部材上面の取付部(図示せず)に第2の固定具の取付穴11を嵌合して取り付け、更に、第1の固定具の治具固定セットスクリュー12にて固定した。
本実施態様では、軸受上面の円周上に等間隔で4基取り付けた例で示している。取付ける基数としては、1基から可能であるが、少なくとも2基から、60度おきの6基程度を取付けることで、レーキが傾き負荷が偏るなどの軸受の劣化による不具合の検出を容易とする。
【0022】
軸受の不具合の検出は、次のように行う。まず、シックナー周辺に任意の基準点を構成する検出基準部8を設け、定期的に基準点と本実施の形態の治具に設けられた目盛との相対的位置の変化、具体的には、それぞれの高さを測定し、その高さの差を求める。この定期的な基準点と本実施の形態の治具に設けられた目盛との高さの差が、シックナーレーキ旋回軸受に発生する軸方向の隙間の大きさに対応する。たとえば高さの差が70mmのときに隙間が0mmであったらば、高さの差が5mm減った(目盛の方向によっては5mm増えた)65mmのときに隙間は5mmということになる。したがって、測定値(高さの差)の経時的変化を捉えることで、レーキ旋回軸受に発生する軸方向の隙間の変化を把握することができる。
【0023】
検出基準としては、隙間の下限値と上限値としてレーキの動作に支障が想定される値を予め決めておき、これを超えたときに不具合とみなす。あるシックナーレーキ旋回軸受点検治具7の示す測定値(高さの差)が他のシックナーレーキ旋回軸受点検治具7の示す測定値(高さの差)よりいくらか大きい場合にも、レーキの傾き・位置ずれを示すものとして不具合とみなす。
【0024】
なお、検出基準部8の設置、固定は、シックナーレーキ旋回軸受点検治具7と対をなし、シックナー構造体側軸受部材3Aの動きを再現する位置に設置、固定されている。複数個設置する場合は、レーキ旋回軸2が回転してシックナーレーキ旋回軸受点検治具7の水平方向に移動することを利用して、7または8の設置基数を節約してもよく、この場合は7と8の設置基数は一致しない。
【0025】
以上の説明は、目盛がレーキ旋回軸側に設置、固定され、検出基準部がシックナー構造体側に設置、固定される態様で説明したが、位置関係を逆にしても同様に機能する。すなわち、目盛をシックナー構造体側に設置、固定し、検出基準部をレーキ旋回軸側に設置、固定する組み合わせであってもよい。
【実施例】
【0026】
本実施例に係るシックナーレーキ旋回軸受点検治具を、等間隔に3基を装着したシックナーを用い、ニッケル酸化鉱石の鉱石処理を行なった前・後のシックナーレーキ旋回軸受の損耗状態をそれぞれ調査し、損耗検出の可能性を評価した。
【0027】
図4にその時の鉱石処理前の旋回軸受の状態を(a)に、半年間の処理終了後の旋回軸受の状態を(b)に示す。
図4(b)はレーキ旋回軸受の損耗により軸方向の隙間δが増大し、レーキ旋回軸が下がっている(
図4(b)の黒矢印)状況が目視できた。
そこで、シックナーに設置した基準点8Aと本実施例の治具7に設けられた目盛(図示せず)との高さの差を測定することでレーキ旋回軸受に存在する軸方向の隙間の計測履歴を比較した。
正常な状態(
図4(a))では、レーキ旋回軸受に存在する軸方向の隙間が0mmであるとき、基準点との相対的位置の値(高さの差)δは70mmを示していたのに対し、半年間の処理終了後(
図4(b))では、レーキ旋回軸受の損耗により軸方向の隙間が増大し、δは65mmを示していた。このときレーキ旋回軸受に存在する軸方向の隙間は5mmであり、レーキ旋回軸受に存在する軸方向の隙間を把握できることが確認された。
【符号の説明】
【0028】
1 シックナーレーキ
1a ブレード
2 レーキ旋回軸
3 レーキ旋回軸受
3A シックナー構造体側軸受部材
3B シックナーレーキ旋回軸側軸受部材
4 スプライン
5 駆動減速機
6 駆動モーター
7 (シックナーレーキ旋回軸受点検)治具
8 検出基準部
8A 基準点
11 第2の固定具(治具取付穴)
12 第1の固定具(治具固定セットスクリュー)
13 目盛
A レーキ旋回軸受部
C レーキ駆動部
S シックナー
Sa シックナー構造体(缶体+梁または蓋、歩廊)
U レーキ旋回軸上面