(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-24
(45)【発行日】2024-02-01
(54)【発明の名称】セメント成形体の製造方法、セメント成形体の製造条件の設定方法
(51)【国際特許分類】
B28B 11/24 20060101AFI20240125BHJP
【FI】
B28B11/24
(21)【出願番号】P 2020160911
(22)【出願日】2020-09-25
【審査請求日】2023-02-07
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 令和2年5月18日に一般社団法人セメント協会により発行された第74回セメント技術大会講演要旨の第56,57頁において発表
(73)【特許権者】
【識別番号】000183266
【氏名又は名称】住友大阪セメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002734
【氏名又は名称】弁理士法人藤本パートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】西山 沙友里
(72)【発明者】
【氏名】中上 明久
(72)【発明者】
【氏名】小田部 裕一
【審査官】末松 佳記
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-168003(JP,A)
【文献】特開2000-290087(JP,A)
【文献】特開2002-087892(JP,A)
【文献】特開2019-084706(JP,A)
【文献】特開2010-209629(JP,A)
【文献】特開2013-252983(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 7/00-28/36
C04B 40/00-40/06
B28B 11/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
セメント組成物と水とを混練して成形したセメント成形体を養生環境に配置して加熱養生する加熱養生工程と、
加熱養生工程にあるセメント成形体を養生環境から取り出す取出工程と、
下記(1)式に基づいて算出されるΔTの最大値が30℃以下であるセメント成形体を基準とし、基準としたセメント成形体を製造した際の加熱養生工程の温度条件および取出工程を開始する直前のセメント成形体の温度条件を把握する温度条件把握工程と、
を備えており、
該温度条件把握工程で
は、下記(a)~(c)の温度条件を把握し、把握した該温度条件に基づいて、下記(A)~(C)の温度条件を設定し、
取出工程は、下記(A)~(C)の温度条件を満たした時に行い、他のセメント成形体を製造する、
セメント成形体の製造方法。
ΔT=(T
ai-T
a0)-(T
bi-T
b0)・・・(1)
(T
a0:取出工程を開始する直前におけるセメント成形体の内部温度)
(T
ai:取出工程を開始する直前から所定時間経過する毎に測定するセメント成形体の内部温度)
(T
b0:取出工程を開始する直前におけるセメント成形体の表面温度)
(T
bi:取出工程を開始する直前から所定時間経過する毎に測定するセメント成形体の表面温度)
(a)下記(2)式で表されるΔT1
(b)取出工程を開始する直前のセメント成形体における5分間あたりの内部温度の上昇量の増減
(c)取出工程を開始する直前のセメント成形体における15分間あたりの内部温度の上昇量
(A)ΔT1が55℃以上70℃以下であること。
(B)5分間あたりの内部温度の上昇量が増加から減少に転じていること。
(C)15分間あたりの内部温度の上昇量が5℃以下となっていること。
ΔT1=Td-Tc・・・(2)
(Tc:養生環境の外側の環境の温度)
(Td:加熱養生工程における養生環境の最高温度)
【請求項2】
セメント組成物と水とを混練して成形したセメント成形体を養生環境に配置して加熱養生する加熱養生工程と、
加熱養生工程にあるセメント成形体を養生環境から取り出す取出工程と、
下記(1)式に基づいて算出されるΔTの最大値が30℃以下であるセメント成形体を基準とし、基準としたセメント成形体を製造した際の取出工程を開始する直前のセメント成形体の温度条件を把握する温度条件把握工程と、
を備えており、
該温度条件把握工程で
は、下記(a’)~(c)の温度条件を把握し、把握した該温度条件に基づいて、下記(A’)~(C)の温度条件を設定し、
取出工程は、下記(A’)~(C)の温度条件を満たした時に行い、他のセメント成形体を製造する、
セメント成形体の製造方法。
ΔT=(T
ai-T
a0)-(T
bi-T
b0)・・・(1)
(T
a0:取出工程を開始する直前におけるセメント成形体の内部温度)
(T
ai:取出工程を開始する直前から所定時間経過する毎に測定するセメント成形体の内部温度)
(T
b0:取出工程を開始する直前におけるセメント成形体の表面温度)
(T
bi:取出工程を開始する直前から所定時間経過する毎に測定するセメント成形体の表面温度)
(a’)下記(3)式で表されるΔT2
(b)取出工程を開始する直前のセメント成形体における5分間あたりの内部温度の上昇量の増減
(c)取出工程を開始する直前のセメント成形体における15分間あたりの内部温度の上昇量
(A’)ΔT2が54.9℃以上70℃以下であること。
(B)5分間あたりの内部温度の上昇量が増加から減少に転じていること。
(C)15分間あたりの内部温度の上昇量が5℃以下となっていること。
ΔT2=Te-Tc・・・(3)
(Tc:養生環境の外側の環境の温度)
(Te:取出工程を開始する直前のセメント成形体の表面温度)
【請求項3】
セメント組成物と水とを混練して成形したセメント成形体を養生環境に配置して加熱養生する加熱養生工程と、
加熱養生工程にあるセメント成形体を養生環境から取り出す取出工程と、
を備えており、
取出工程は、下記(d)~(f)の温度条件を満たしたときに行う、
セメント成形体の製造方法。
(d)下記(2)式で表されるΔT1が
55℃以上70℃以下であること。
(e)加熱養生工程におけるセメント成形体について所定時間あたりの内部温度の上昇量が増加から減少に転じていること。
(f)加熱養生工程におけるセメント成形体について15分間あたりの内部温度の上昇量が5℃以下となっていること。
ΔT1=Td-Tc・・・(2)
(Tc:養生環境の外側の環境の温度)
(Td:加熱養生工程における養生環境の最高温度)
【請求項4】
セメント組成物と水とを混練して成形したセメント成形体を養生環境に配置して加熱養生する加熱養生工程と、
加熱養生工程にあるセメント成形体を養生環境から取り出す取出工程と、
を備えており、
取出工程は、下記(d’)~(f)の温度条件を満たしたときに行う、
セメント成形体の製造方法。
(d’)下記(3)式で表されるΔT3が
54.9℃以上70℃以下であること。
(e)加熱養生工程におけるセメント成形体について所定時間あたりの内部温度の上昇量が増加から減少に転じていること。
(f)加熱養生工程におけるセメント成形体について15分間あたりの内部温度の上昇量が5℃以下となっていること。
ΔT3=Tf-Tc・・・(3)
(Tc:養生環境の外側の環境の温度)
(Tf:加熱養生工程におけるセメント成形体の表面温度)
【請求項5】
セメント組成物と水とを混練して成形したセメント成形体を養生環境に配置して加熱養生する加熱養生工程と、
加熱養生工程にあるセメント成形体を養生環境から取り出す取出工程と、
下記(1)式に基づいて算出されるΔTの最大値が30℃以下であるセメント成形体を基準とし、基準としたセメント成形体を製造した際の加熱養生工程の温度条件および取出工程を開始する直前のセメント成形体の温度条件を把握する温度条件把握工程と、
を備えており、
該温度条件把握工程で
は、下記(a)~(c)の温度条件を把握し、把握した該温度条件に基づいて、下記(A)~(C)の温度条件を設定し、
取出工程は、下記(A)~(C)の温度条件を満たした時に行い、他のセメント成形体を製造する、
セメント成形体の製造条件の設定方法。
ΔT=(T
ai-T
a0)-(T
bi-T
b0)・・・(1)
(T
a0:取出工程を開始する直前におけるセメント成形体の内部温度)
(T
ai:取出工程を開始する直前から所定時間経過する毎に測定するセメント成形体の内部温度)
(T
b0:取出工程を開始する直前におけるセメント成形体の表面温度)
(T
bi:取出工程を開始する直前から所定時間経過する毎に測定するセメント成形体の表面温度)
(a)下記(2)式で表されるΔT1
(b)取出工程を開始する直前のセメント成形体における5分間あたりの内部温度の上昇量の増減
(c)取出工程を開始する直前のセメント成形体における15分間あたりの内部温度の上昇量
(A)ΔT1が55℃以上70℃以下であること。
(B)5分間あたりの内部温度の上昇量が増加から減少に転じていること。
(C)15分間あたりの内部温度の上昇量が5℃以下となっていること。
ΔT1=Td-Tc・・・(2)
(Tc:養生環境の外側の環境の温度)
(Td:加熱養生工程における養生環境の最高温度)
【請求項6】
セメント組成物と水とを混練して成形したセメント成形体を養生環境に配置して加熱養生する加熱養生工程と、
加熱養生工程にあるセメント成形体を養生環境から取り出す取出工程と、
下記(1)式に基づいて算出されるΔTの最大値が30℃以下であるセメント成形体を基準とし、基準としたセメント成形体を製造した際の取出工程を開始する直前のセメント成形体の温度条件を把握する温度条件把握工程と、
を備えており、
該温度条件把握工程で
は、下記(a’)~(c)の温度条件を把握し、把握した該温度条件に基づいて、下記(A’)~(C)の温度条件を設定し、
取出工程は、下記(A’)~(C)の温度条件を満たした時に行い、他のセメント成形体を製造する、
セメント成形体の製造条件の設定方法。
ΔT=(T
ai-T
a0)-(T
bi-T
b0)・・・(1)
(T
a0:取出工程を開始する直前におけるセメント成形体の内部温度)
(T
ai:取出工程を開始する直前から所定時間経過する毎に測定するセメント成形体の内部温度)
(T
b0:取出工程を開始する直前におけるセメント成形体の表面温度)
(T
bi:取出工程を開始する直前から所定時間経過する毎に測定するセメント成形体の表面温度)
(a’)下記(3)式で表されるΔT2
(b)取出工程を開始する直前のセメント成形体における5分間あたりの内部温度の上昇量の増減
(c)取出工程を開始する直前のセメント成形体における15分間あたりの内部温度の上昇量
(A’)ΔT2が54.9℃以上70℃以下であること。
(B)5分間あたりの内部温度の上昇量が増加から減少に転じていること。
(C)15分間あたりの内部温度の上昇量が5℃以下となっていること。
ΔT2=Te-Tc・・・(3)
(Tc:養生環境の外側の環境の温度)
(Te:取出工程を開始する直前のセメント成形体の表面温度)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セメント成形体の製造方法、および、セメント成形体を製造する際の製造条件の設定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
早期強度発現を目的として、セメント組成物と水とを混練して成形したセメント成形体を養生環境に配置して加熱養生する加熱養生工程が知られている。該加熱養生工程は、例えば、セメント成形体と高温の蒸気とを接触させる方法等で行われている(特許文献1参照)。
【0003】
加熱養生工程が終了した後、セメント成形体を養生環境から取り出すと、セメント成形体の内部温度と表面温度との差が大きくなり、セメント成形体にひび割れ(以下、温度ひび割れとも記す)が生じることがある。このような温度ひび割れを抑制する方法としては、養生環境から取り出したセメント成形体に急激な温度低下が生じないように、加熱養生工程の温度管理を行うことが考えられる。例えば、加熱養生工程の養生温度を比較的低温に設定し、加熱養生工程の養生温度と養生環境の外の温度との差を比較的小さくすることが考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記のように、加熱養生工程の養生温度を比較的低く設定すると、必要とする積算温度が得られるまでに長時間を要することがあり、加熱養生工程を効率的に行うことができない。このため、温度ひび割れを抑制しうる他の方法が要求されている。
【0006】
そこで、本発明は、温度ひび割れを抑制できるセメント成形体の製造方法、および、セメント成形体の製造条件の設定方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係るセメント成形体の製造方法は、
セメント組成物と水とを混練して成形したセメント成形体を養生環境に配置して加熱養生する加熱養生工程と、
加熱養生工程にあるセメント成形体を養生環境から取り出す取出工程と、
下記(1)式に基づいて算出されるΔTの最大値が30℃以下であるセメント成形体を基準とし、基準としたセメント成形体を製造した際の加熱養生工程の温度条件および取出工程を開始する直前のセメント成形体の温度条件を把握する温度条件把握工程と、
を備えており、
該温度条件把握工程で把握した温度条件に基づいて他のセメント成形体を製造する。
ΔT=(Tai-Ta0)-(Tbi-Tb0)・・・(1)
(Ta0:取出工程を開始する直前におけるセメント成形体の内部温度)
(Tai:取出工程を開始する直前から所定時間経過する毎に測定するセメント成形体の内部温度)
(Tb0:取出工程を開始する直前におけるセメント成形体の表面温度)
(Tbi:取出工程を開始する直前から所定時間経過する毎に測定するセメント成形体の表面温度)
【0008】
斯かる構成によれば、温度条件把握工程でΔTの最大値が30℃以下であるセメント成形体から把握される温度条件に基づいて他のセメント成形体を製造することで、ΔTの最大値が30℃以下のセメント成形体を製造できるため、該セメント成形体の温度ひび割れを抑制できる。
【0009】
温度条件把握工程では、
下記(2)式で表されるΔT1(温度条件a)と、
取出工程を開始する直前のセメント成形体における所定時間あたりの内部温度の上昇量の増減(温度条件b)と、
取出工程を開始する直前のセメント成形体における所定時間あたりの内部温度の上昇量(温度条件c)と、
を把握する、
ように構成してもよい。
ΔT1=Td-Tc・・・(2)
(Tc:養生環境の外側の環境の温度)
(Td:加熱養生工程における養生環境の最高温度)
【0010】
斯かる構成によれば、ΔTの最大値が30℃以下であるセメント成形体の上記の温度条件a~cに基づいて他のセメント成形体を製造することで、より効果的に温度ひび割れを抑制することができる。
【0011】
本発明に係る他のセメント成形体の製造方法は、
セメント組成物と水とを混練して成形したセメント成形体を養生環境に配置して加熱養生する加熱養生工程と、
加熱養生工程にあるセメント成形体を養生環境から取り出す取出工程と、
下記(1)式に基づいて算出されるΔTの最大値が30℃以下であるセメント成形体を基準とし、基準としたセメント成形体を製造した際の取出工程を開始する直前のセメント成形体の温度条件を把握する温度条件把握工程と、
を備えており、
該温度条件把握工程で把握した温度条件に基づいて他のセメント成形体を製造する。
ΔT=(Tai-Ta0)-(Tbi-Tb0)・・・(1)
(Ta0:取出工程を開始する直前におけるセメント成形体の内部温度)
(Tai:取出工程を開始する直前から所定時間経過する毎に測定するセメント成形体の内部温度)
(Tb0:取出工程を開始する直前におけるセメント成形体の表面温度)
(Tbi:取出工程を開始する直前から所定時間経過する毎に測定するセメント成形体の表面温度)
【0012】
斯かる構成によれば、温度条件把握工程でΔTの最大値が30℃以下であるセメント成形体から把握される温度条件に基づいて他のセメント成形体を製造することで、ΔTの最大値が30℃以下のセメント成形体を製造できるため、該セメント成形体の温度ひび割れを抑制できる。
【0013】
温度条件把握工程では、
下記(3)式で表されるΔT2(温度条件a’)と、
取出工程を開始する直前のセメント成形体における所定時間あたりの内部温度の上昇量の増減(温度条件b)と、
取出工程を開始する直前のセメント成形体における所定時間あたりの内部温度の上昇量(温度条件c)と、
を把握する、
ように構成してもよい。
ΔT2=Te-Tc・・・(3)
(Tc:養生環境の外側の環境の温度)
(Te:取出工程を開始する直前のセメント成形体の表面温度)
【0014】
斯かる構成によれば、ΔTの最大値が30℃以下であるセメント成形体の上記の温度条件a’~cに基づいて他のセメント成形体を製造することで、より効果的に温度ひび割れを抑制できる。
【0015】
本発明に係る他のセメント成形体の製造方法は、
セメント組成物と水とを混練して成形したセメント成形体を養生環境に配置して加熱養生する加熱養生工程と、
加熱養生工程にあるセメント成形体を養生環境から取り出す取出工程と、
を備えており、
取出工程は、下記(d)~(f)の温度条件を満たしたときに行う。
(d)下記(2)式で表されるΔT1が70℃以下であること。
(e)加熱養生工程におけるセメント成形体について所定時間あたりの内部温度の上昇量が増加から減少に転じていること。
(f)加熱養生工程におけるセメント成形体について15分間あたりの内部温度の上昇量が5℃以下となっていること。
ΔT1=Td-Tc・・・(2)
(Tc:養生環境の外側の環境の温度)
(Td:加熱養生工程における養生環境の最高温度)
【0016】
斯かる構成によれば、上記の温度条件(d)~(f)を満たす際に、取出工程を開始することで、セメント成形体の温度ひび割れを抑制できる。
【0017】
本発明に係る更に他のセメント成形体の製造方法は、
セメント組成物と水とを混練して成形したセメント成形体を養生環境に配置して加熱養生する加熱養生工程と、
加熱養生工程にあるセメント成形体を養生環境から取り出す取出工程と、
を備えており、
取出工程は、下記(d’)~(f)の温度条件を満たしたときに行う、
ように構成してもよい。
(d’)下記(3)式で表されるΔT3が70℃以下であること。
(e)加熱養生工程におけるセメント成形体について所定時間あたりの内部温度の上昇量が増加から減少に転じていること。
(f)加熱養生工程におけるセメント成形体について15分間あたりの内部温度の上昇量が5℃以下となっていること。
ΔT3=Tf-Tc・・・(3)
(Tc:養生環境の外側の環境の温度)
(Tf:加熱養生工程におけるセメント成形体の表面温度)
【0018】
斯かる構成によれば、上記の温度条件(d’)~(f)を満たす際に、取出工程を開始することで、セメント成形体の温度ひび割れを抑制できる。
【0019】
本発明に係るセメント成形体の製造条件の設定方法は、
セメント組成物と水とを混練して成形したセメント成形体を養生環境に配置して加熱養生する加熱養生工程と、
加熱養生工程にあるセメント成形体を養生環境から取り出す取出工程と、
下記(1)式に基づいて算出されるΔTの最大値が30℃以下であるセメント成形体を基準とし、基準としたセメント成形体を製造した際の加熱養生工程の温度条件および取出工程を開始する直前のセメント成形体の温度条件を把握する温度条件把握工程と、
を備えており、
該温度条件把握工程で把握した温度条件に基づいて他のセメント成形体の製造条件を設定する。
ΔT=(Tai-Ta0)-(Tbi-Tb0)・・・(1)
(Ta0:取出工程を開始する直前におけるセメント成形体の内部温度)
(Tai:取出工程を開始する直前から所定時間経過する毎に測定するセメント成形体の内部温度)
(Tb0:取出工程を開始する直前におけるセメント成形体の表面温度)
(Tbi:取出工程を開始する直前から所定時間経過する毎に測定するセメント成形体の表面温度)
【0020】
斯かる構成によれば、温度条件把握工程でΔTの最大値が30℃以下であるセメント成形体から把握された温度条件に基づいて他のセメント成形体の製造条件を設定することで、該セメント成形体の温度ひび割れを抑制しうる製造条件を容易に設定できる。
【0021】
本発明に係るセメント成形体の製造条件の設定方法は、
セメント組成物と水とを混練して成形したセメント成形体を養生環境に配置して加熱養生する加熱養生工程と、
加熱養生工程にあるセメント成形体を養生環境から取り出す取出工程と、
下記(1)式に基づいて算出されるΔTの最大値が30℃以下であるセメント成形体を基準とし、基準としたセメント成形体を製造した際の取出工程を開始する直前のセメント成形体の温度条件を把握する温度条件把握工程と、
を備えており、
該温度条件把握工程で把握した温度条件に基づいて他のセメント成形体の製造条件を設定する。
ΔT=(Tai-Ta0)-(Tbi-Tb0)・・・(1)
(Ta0:取出工程を開始する直前におけるセメント成形体の内部温度)
(Tai:取出工程を開始する直前から所定時間経過する毎に測定するセメント成形体の内部温度)
(Tb0:取出工程を開始する直前におけるセメント成形体の表面温度)
(Tbi:取出工程を開始する直前から所定時間経過する毎に測定するセメント成形体の表面温度)
【0022】
斯かる構成によれば、温度条件把握工程でΔTの最大値が30℃以下であるセメント成形体から把握された温度条件に基づいて他のセメント成形体の製造条件を設定することで、該セメント成形体の温度ひび割れを抑制しうる製造条件を容易に設定できる。
【発明の効果】
【0023】
以上のように、本発明によれば、温度ひび割れを抑制できるセメント成形体の製造方法、および、セメント成形体の製造条件の設定方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の実施形態について説明する。
【0025】
<第一実施形態>
本実施形態に係るセメント成形体の製造方法は、セメント組成物と水とを混練して成形したセメント成形体を養生する養生工程を備える。該養生工程は、前置き工程と、前置き工程後に行う加熱養生工程とを備える。なお、前置き工程および加熱養生工程については後述する。また、本実施形態に係るセメント成形体の製造方法は、加熱養生工程を行う養生環境からセメント成形体を取り出す取出工程と、所定のセメント成形体を基準とし、基準としたセメント成形体を製造した際の温度条件を把握する温度条件把握工程とを更に備える。
【0026】
初めにセメント成形体について説明する。
セメント成形体は、セメント組成物と水とを混練して形成した混練物を成形型に打設して成形したものであってもよく、成形型を用いずに成形したものであってもよい。また、セメント成形体を成形する際には、セメント成形体の内部温度および表面温度を測定する装置が備えるセンサーをセメント成形体および/または成形型に設置する。セメント成形体の内部の温度とは、セメント成形体の内部に空洞が形成されない場合には、セメント成形体の中心部の温度であり、中心部を特定できない場合(例えば、セメント成形体の内部に空洞がある場合等)は、セメント成形体における最も部材厚が厚い部分の中心部の温度をいう。
【0027】
セメント組成物に含まれるセメントとしては、特に限定されず、例えば、普通ポルトランドセメント、早強ポルトランドセメント、超早強ポルトランドセメント、中庸熱ポルトランドセメント、低熱ポルトランドセメント、耐硫酸性ポルトランドセメント等のJIS R 5210:2009に規定されるポルトランドセメント、JIS R 5211:2009に規定される高炉セメント、JIS R 5213:2009に規定されるフライアッシュセメント、JIS R 5212:2009に規定されるシリカセメントおよびJIS R 5214:2009に規定されるエコセメント等が挙げられ、これらの単独でまたは混合して用いることができる。
【0028】
また、セメント組成物は、混和材を含むものであってもよい。例えば、セメント組成物は、高炉スラグ粉末、フライアッシュ、シリカヒューム、石灰石粉末、石英粉末、二水石膏、半水石膏、I型無水石膏、II型無水石膏、III型無水石膏等を一つまたは複数含むものであってもよい。
【0029】
また、セメント組成物は、粗骨材、および/または、細骨材を含むものであってもよい。粗骨材としては、例えば、粒径2.5~40mmの砂利、砕石等の公知の粗骨材、これらの混合物や軽量骨材等が挙げられる。また、細骨材としては、山砂、川砂、陸砂、砕砂、海砂、珪砂3~7号等の比較的粒径の細かい細骨材、JIS A 5011:2003に記載される高炉スラグ骨材、フェロニッケルスラグ骨材、銅スラグ骨材、電気炉酸化スラグ骨材または珪砂粉、石灰石粉等の微粉末等の公知の細骨材等が挙げられる。なお、粗骨材、および/または、細骨材がセメント組成物に含まれない場合には、粗骨材、および/または、細骨材と、セメント組成物と、水とを混練して混練物を形成してもよい。
【0030】
また、セメント組成物は、各種添加剤を含むものであってもよい。例えば、添加剤としては、無機混和材、AE剤、減水剤、凝結遅延剤、硬化促進剤、消泡剤、防錆剤、防凍剤、着色剤、空気連行剤等の混和剤や、耐久性を向上させるための炭素繊維や鋼繊維や化学繊維等の補強材等が挙げられる。
【0031】
混練物を形成する際の水/セメント比(質量比)としては、特に限定されず、使用するセメント等材料の種類や配合により変化させることができる。例えば、水/セメント比(質量比)としては、30%以上60%以下とすることができ、35%以上50%以下とすることができる。
【0032】
セメント成形体の大きさ(体積)としては、特に限定されず、例えば、0.064m3以上30m3以下とすることができ、0.1m3以上20m3以下とすることができ、0.2m3以上10m3以下とすることができる。セメント成形体の最大部材厚寸法(最も部材厚が厚い部分)としては、特に限定されず、例えば、0.2m以上1.0m以下とすることができ、0.3m以上0.8m以下であってもよく、0.3m以上0.6m以下であってもよい。
【0033】
次に、養生工程について説明する。
養生工程は、セメント成形体を一定の温度環境(または、温度管理されていない屋内の温度環境)に保持する前置き工程と、前置き工程後にセメント成形体を加熱養生する加熱養生工程とを備える。
【0034】
前置き工程は、成形型に収容された状態のセメント成形体に対して行ってもよく、成形型から取り出したセメント成形体に対して行ってもよい。前置き工程では、前置き時間を、例えば、1時間~24時間とすることができる。また、前置き工程では、前置き温度を、例えば、0℃~40℃とすることができる。
【0035】
加熱養生工程は、セメント成形体を養生環境に配置して行う。養生環境としては、特に限定されず、例えば、セメント成形体を成形型に収容した状態で加熱養生工程を行う場合には、該成形型内の環境(セメント成形体を成形する空間)を養生環境としてもよく、成形型を配置する環境(例えば、成形型を収容可能な養生槽内の環境)を養生環境としてもよい。セメント成形体を成形型から取り出して加熱養生工程を行う場合には、該セメント成形体を配置する環境(例えば、セメント成形体を収容可能な養生槽内の環境)を養生環境としてもよい。なお、成形型内の環境が養生環境となる場合としては、特に限定されず、例えば、下記の場合が挙げられる。具体的には、成形型にヒーター等の加熱機器を取り付けて成形型を加熱し、成形型の熱によって成形型内でセメント成形体を加熱養生する場合が挙げられる。または、温風や高温の水蒸気等を成形型の内部に供給して成形型を加熱し、成形型の熱によって成形型内でセメント成形体を加熱養生する場合が挙げられる。
【0036】
加熱養生工程は、養生環境の温度が所定時間で所定温度(最高温度)に達するように(例えば、昇温速度10℃~20℃/hに)構成し、最高温度に達した後、所定時間、最高温度を保持するように構成することができる。養生環境の最高温度としては、特に限定されず、例えば、40℃~90℃とすることができる。また、加熱養生工程は、最高温度を所定時間保持した後、所定の降温速度で(または温度管理されない状態で)セメント成形体の温度を降下させるように構成することができる。加熱養生工程でセメント成形体を加熱する方法としては、特に限定されず、例えば、ボイラー等で発生させた蒸気を養生環境に供給して加熱する方法等が挙げられる。セメント成形体の温度を降下させる方法としては、特に限定されず、例えば、セメント成形体および/または成形型を冷風や冷水で冷却する方法や、セメント成形体および/または成形型を養生環境(具体的には、養生槽内)に放置する方法等が挙げられる。
【0037】
加熱養生工程は、所定の積算温度が得られるまで行うことが好ましい。積算温度は、セメント組成物と水との混合物を成形型に打ち込んでからの時間に対する環境温度(セメント成形体が配置される環境温度)の積算値である。具体的な積算温度としては、セメント成形体の寸法や形状、取り出し後の運搬方法等により異なるが、例えば、200℃・h~300℃・hとすることができる。
【0038】
また、加熱養生工程は、セメント成形体の内部温度および表面温度を測定しながら行う。温度測定の頻度としては、特に限定されず、例えば、1秒おき~15分おきとすることができ、具体的には、5分おき、または、3分おきとすることができる。
【0039】
これにより、加熱養生工程におけるセメント成形体の内部温度について、一定時間(例えば、5分間)当たりの上昇量の増減(温度条件b)を把握することができる。例えば、5分間あたりの内部温度の上昇量が5℃から6℃になれば、内部温度の上昇量が増加傾向にあることを把握することができる。逆に、5分間あたりの内部温度の上昇量が5℃から4℃になれば、内部温度の上昇量が減少傾向にある(減少に転じている)ことを把握することができる。
【0040】
これに加え、加熱養生工程におけるセメント成形体の内部温度について、一定時間(例えば、15分間)当たりの上昇量(温度条件c)を把握することができる。例えば、内部温度が15分間に20℃から30℃に上昇したときは内部温度が10℃上昇したと把握することができ、内部温度が15分間に30℃から34℃に上昇したときは内部温度が4℃上昇したと把握することができる。
【0041】
次に、取出工程について説明する。
取出工程は、加熱養生工程にあるセメント成形体を養生環境から取り出す工程である。具体的には、成形型内に養生環境を形成して加熱養生工程を行う場合には、セメント成形体を成形型から脱型することで取出工程を行う。また、セメント成形体を収容した状態の成形型を養生環境(具体的には、養生槽等)に配置して加熱養生工程を行う場合には、該成形型ごとセメント成形体を養生環境(具体的には、養生槽等)から取り出すことで取出工程を行ってもよく、成形型から脱型したセメント成形体を養生環境(具体的には、養生槽等)から取り出すことで取出工程を行ってもよい。また、セメント成形体を成形型から取り出して加熱養生工程を行う場合には、該セメント成形体を養生環境(具体的には、養生層)から取り出すことで取出工程を行う。
【0042】
セメント成形体を「養生環境から外に取り出す」とは、セメント成形体を外気温と略同じ温度環境に配置すること、または、外気に曝すことをいう。取出工程で養生環境から取り出したセメント成形体を配置する環境(養生環境の外側の環境)の温度(例えば、セメント成形体を外気に曝す場合には、外気温)としては、例えば、-5℃以上40℃以下であってもよく、5℃以上30℃以下であってもよい。
【0043】
次に、温度条件把握工程について説明する。
温度条件把握工程では、下記(1)式に基づいて算出されるΔTの最大値が30℃以下(好ましくは28℃以下)であるセメント成形体を基準とし、基準としたセメント成形体を製造した際の加熱養生工程の温度条件および取出工程を開始する直前のセメント成形体の温度条件を把握する。ΔTの最大値を求める方法としては、取出工程を開始する直前から好ましくは4時間以上にわたってセメント成形体の内部温度および表面温度を所定時間おきに測定し、測定結果毎にΔTを算出することで最大値を求めることができる。
ΔT=(Tai-Ta0)-(Tbi-Tb0)・・・(1)
(Ta0:取出工程を開始する直前におけるセメント成形体の内部温度)
(Tai:取出工程を開始する直前から所定時間経過する毎に測定するセメント成形体の内部温度)
(Tb0:取出工程を開始する直前におけるセメント成形体の表面温度)
(Tbi:取出工程を開始する直前から所定時間経過する毎に測定するセメント成形体の表面温度)
【0044】
具体的には、温度条件把握工程では、下記(2)式で表されるΔT1(温度条件a)と、取出工程を開始する直前のセメント成形体における所定時間あたりの内部温度の上昇量の増減(温度条件b)と、取出工程を開始する直前のセメント成形体における所定時間あたりの内部温度の上昇量(温度条件c)と、を把握する。下記の「Tc:養生環境の外側の環境の温度」とは、取出工程を行うことでセメント成形体を配置する環境(養生環境の外側の環境)の温度(例えば、セメント成形体を外気に曝す場合には、外気温)である。
ΔT1=Td-Tc・・・(2)
(Tc:養生環境の外側の環境の温度)
(Td:加熱養生工程における養生環境の最高温度)
【0045】
そして、温度条件把握工程で把握した温度条件に基づいて他のセメント成形体を製造する(具体的には、他のセメント成形体の製造条件を設定する)。つまり、予め製造したセメント成形体のうち、ΔTの最大値が30℃以下であるセメント成形体を製造した際の上記の温度条件a~cを、他のセメント成形体を製造する際の温度条件として用いる。具体的には、他のセメント成形体を製造する際に、温度条件把握工程で把握された上記の温度条件a~cを、他のセメント成形体の製造における加熱養生工程の温度条件および取出工程を開始する際(取出工程を開始する直前)のセメント成形体の温度条件として用いる。
【0046】
より詳しくは、ΔT1(温度条件a)と他のセメント成形体を製造する際のTc(養生環境の外側の環境の温度)とに基づいて、他のセメント成形体を製造する際のTd(加熱養生工程における養生環境の最高温度)を設定する。また、他のセメント成形体を製造する際に、加熱養生工程で温度条件b,cが満たされたとき(具体的には、満たされてから5分以内)に取出工程を開始する。
【0047】
以上のように本実施形態に係るセメント成形体の製造方法によれば、ΔTの最大値が30℃以下であるセメント成形体から把握された温度条件に基づいて他のセメント成形体を製造することで、ΔTの最大値が30℃以下のセメント成形体を製造できるため、該セメント成形体の温度ひび割れを抑制できる。また、ΔTの最大値が30℃以下であるセメント成形体から把握された温度条件に基づいて他のセメント成形体の製造条件を設定することで、温度ひび割れを抑制しうる製造条件を容易に設定することができる。
【0048】
<第二実施形態>
本実施形態に係るセメント成形体の製造方法は、第一実施形態と比較して、温度条件把握工程が異なるものである。そこで、以下では、第一実施形態と異なる点について説明する。
【0049】
本実施形態に係るセメント成形体の製造方法は、第一実施形態と同様に、加熱養生工程と、取出工程と、温度条件把握工程と、を備えるが、温度条件把握工程で、ΔTの最大値が30℃以下であるセメント成形体における加熱養生工程の温度条件を把握しない(具体的には、温度条件aに代えて温度条件a’を把握する)点で異なる。
【0050】
具体的には、温度条件把握工程では、ΔTの最大値が30℃以下であるセメント成形体を製造した際の取出工程を開始する直前のセメント成形体の温度条件として、第一実施形態と同様に、温度条件b(取出工程を開始する直前のセメント成形体について単位時間毎に測定された内部温度の上昇量の増減)と、温度条件c(取出工程を開始する直前のセメント成形体について単位時間における内部温度の上昇量)と、を把握すると共に、下記(3)式で表されるΔT2(温度条件a’)を把握する。
ΔT2=Te-Tc・・・(3)
(Tc:養生環境の外側の環境の温度)
(Te:取出工程を開始する直前のセメント成形体の表面温度)
【0051】
そして、第一実施形態と同様に、他のセメント成形体を製造する(具体的には、他のセメント成形体の製造条件を設定する)際に、温度条件把握工程で把握された温度条件a’~cを、他のセメント成形体の製造における取出工程を開始する際(取出工程を開始する直前)のセメント成形体の温度条件として用いる。具体的には、他のセメント成形体の製造において、上記の温度条件a’~cを満たしたとき(満たされてから5分以内)に取出工程を開始する。
【0052】
以上のように本実施形態に係るセメント成形体の製造方法によれば、ΔTの最大値が30℃以下であるセメント成形体から把握された温度条件に基づいて他のセメント成形体を製造することで、ΔTの最大値が30℃以下のセメント成形体を製造できるため、該セメント成形体の温度ひび割れを抑制できる。また、ΔTの最大値が30℃以下であるセメント成形体から把握された温度条件に基づいて他のセメント成形体の製造条件を設定することで、温度ひび割れを抑制しうる製造条件を容易に設定することができる。
【0053】
<第三実施形態>
本実施形態に係るセメント成形体の製造方法は、第一実施形態と同様に、加熱養生工程と、取出工程と、を備えるが、温度条件把握工程を備えない点で、第一実施形態と異なる。また、取出工程は、下記(d)~(f)の温度条件を満たしたときに行う点で、第一実施形態と異なる。そこで、以下では、第一実施形態と異なる点について説明する。
(d)下記(2)式で表されるΔT1が70℃以下(好ましくは65℃以下、より好ましくは60℃以下)であること。
(e)加熱養生工程におけるセメント成形体について所定時間あたりの内部温度の上昇量が増加から減少に転じたこと。
(f)加熱養生工程におけるセメント成形体について15分間あたりの内部温度の上昇量が5℃以下となったこと。
ΔT1=Td-Tc・・・(2)
(Tc:養生環境の外側の環境の温度)
(Td:加熱養生工程における養生環境の最高温度)
【0054】
具体的には、所定の積算温度に達した後、セメント成形体の内部温度の一定時間当たりの上昇量が増加から減少に転じており[温度条件(e)]、且つ、セメント成形体の内部温度の15分間当たりの上昇量が5℃以下となっていること[温度条件(f)]を確認する。例えば、温度条件(e)については、5分間あたりの内部温度の上昇量が5℃であるときから6℃になれば、内部温度の上昇量が増加傾向にあると判断する。逆に、5分間あたりの内部温度の上昇量が5℃であるときから4℃になれば、内部温度の上昇量が減少傾向にある(減少に転じている)と判断する。また、例えば、温度条件(f)については、内部温度が15分間に20℃から30℃に上昇したときは内部温度が10℃上昇したと判断し、内部温度が15分間に30℃から34℃に上昇したときは内部温度が4℃上昇したと判断する。
【0055】
そして、上記の温度条件(d)において、温度条件(e)(f)を満たしたときに、取出工程を開始する。つまり、ΔT1が上記の範囲である加熱養生工程において[温度条件(d)]、取出工程を開始する際の条件として温度条件(e)(f)を用いる。
【0056】
以上のように、本実施形態に係るセメント成形体の製造方法によれば、上記のように温度条件(d)~(f)を満たすときに取出工程を開始することで、ΔTの最大値が30℃以下であるセメント成形体を得ることができるため、該セメント成形体の温度ひび割れを抑制できる。
【0057】
<第四実施形態>
本実施形態に係るセメント成形体の製造方法は、第三実施形態と比較して、取出工程を開始する際の温度条件(d)~(f)のうち、温度条件(d)に代えて温度条件(d’)を用いる点で異なるものである。そこで、以下では、第三実施形態と異なる点について説明する。
【0058】
本実施形態に係るセメント成形体の製造方法は、第三実施形態と同様に、加熱養生工程と、取出工程と、を備える。そして、下記(d’)~(f)の温度条件を満たしたときに取出工程を行う。
(d’)下記(3)式で表されるΔT3が70℃以下(好ましくは65℃以下、より好ましくは60℃以下)であること。
(e)加熱養生工程におけるセメント成形体について所定時間あたりの内部温度の上昇量が増加から減少に転じていること。
(f)加熱養生工程におけるセメント成形体について15分間あたりの内部温度の上昇量が5℃以下となっていること。
ΔT3=Tf-Tc・・・(3)
(Tc:養生環境の外側の環境の温度)
(Tf:加熱養生工程におけるセメント成形体の表面温度)
【0059】
具体的には、所定の積算温度に達した後、上記のΔT3が上記の範囲であることを確認し[温度条件(d’)]、セメント成形体の内部温度の一定時間当たりの上昇量が増加から減少に転じており[温度条件(e)]、且つ、セメント成形体の内部温度の15分間当たりの上昇量が5℃以下となっていること[温度条件(f)]を確認する。そして、上記の温度条件(d’)~(f)を満たしたときに、取出工程を開始する。つまり、上記温度条件(d’)~(f)を取出工程を開始する際の条件として用いる。
【0060】
以上のように、本実施形態に係るセメント成形体の製造方法によれば、上記のように温度条件(d’)~(f)を満たすときに取出工程を開始することで、ΔTの最大値が30℃以下であるセメント成形体を得ることができるため、該セメント成形体の温度ひび割れを抑制できる。
【0061】
なお、本発明に係るセメント成形体の養生方法は、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。また、上記した複数の実施形態の構成や方法等を任意に採用して組み合わせてもよく(1つの実施形態に係る構成や方法等を他の実施形態に係る構成や方法等に適用してもよく)、さらに、他の各種の変更例に係る構成や方法等を任意に選択して、上記した実施形態に係る構成や方法等に採用してもよいことは勿論である。
【0062】
上記実施形態では、加熱養生工程の前に前置き工程が行われるが、これに限定されず、例えば、前置き工程を行わないように構成してもよい。
【実施例】
【0063】
以下、試験例を用いて本発明を更に具体的に説明するが、本発明は、以下の試験例に限定されるものではない。
【0064】
<使用材料>
W:水道水(ρ=1.00g/cm3)
C:早強ポルトランドセメント(住友大阪セメント社製、ρ=3.13g/cm3)
S:細骨材(静岡県掛川市産山砂、ρ=2.60g/cm3)
G:粗骨材(茨城県岩瀬町産砕石、ρ=2.64g/cm3)
SP:ポリカルボン酸系高性能減水剤(花王社製)
【0065】
<セメント成形体の作製>
上記の各材料を用いて、下記表1の配合でセメント成形体を作製した。該セメント成形体のサイズおよび練り混ぜ環境の温度については、下記表2に示す。また、得られたセメント成形体に対して、下記表3の条件で、加熱養生工程を行った。加熱養生工程は、セメント成形体を成形型に収容した状態で、該成形型を養生環境(具体的には、養生槽内)に配置することで行った。なお、セメント成形体には、内部温度および表面温度を測定する熱電対(T-G‐0.32、東京測器研究所社製)を設置した。
【0066】
【0067】
【0068】
【0069】
<温度ひび割れの評価>
加熱養生工程で所定の積算温度が得られた後、上記表3の「取出工程の開始」のタイミングでセメント成形体を成形型ごと養生環境の外に取り出した(取出工程)。
そして、取出工程を行い、脱型した直後から210分間、セメント成形体の表面を目視で観察し、ひび割れ(温度ひび割れ)の有無を確認した。ひび割れの有無、および、ひび割れ発生までの時間(取出工程を行ったときからひび割れが発生するまでの時間)については、下記表4に示す。
【0070】
また、取出工程を開始する直前におけるセメント成形体の内部温度、取出工程を開始する直前におけるセメント成形体の表面温度、および、取出工程を開始する直前から5分間隔で測定したセメント成形体の内部温度および表面温度を用いて、ΔTを算出した。ΔTの最大値、および、ΔTが最大値となるまでの時間については、下記表4に示す。
また、取出工程を開始する直前のセメント成形体における「養生環境の外側の環境の温度」と「加熱養生工程における養生環境の最高温度」との差ΔT1を算出した[温度条件a(d)]。ΔT1については、下記表4に示す。
また、取出工程を開始する直前のセメント成形体における「脱型環境温度(養生環境の外側の環境の温度)」と「セメント成形体の表面温度」との差ΔT2(ΔT3)を算出した[温度条件a’(d’)]。ΔT2(ΔT3)については、下記表4に示す。
また、取出工程を行う直前のセメント成形体における「5分あたりの内部温度の上昇量の増減(温度条件b)」、および、「15分間あたりの内部温度の上昇量(温度条件c)」については、下記表4に示す。
【0071】
【0072】
<まとめ>
上記の表4の各実施例と各比較例とを比較すると、各実施例では、ひび割れが生じていないことが認められる。つまり、ΔT1が70℃以下であること[温度条件(d)]、加熱養生工程におけるセメント成形体について所定時間あたりの内部温度の上昇量が増加から減少に転じたこと[温度条件(e)]、加熱養生工程におけるセメント成形体について15分間あたりの内部温度の上昇量が5℃以下となったこと[温度条件(f)]を条件として、取出工程を開始することで、セメント成形体の温度ひび割れを抑制することできる。
また、上記の温度条件(d)~(f)のうち、温度条件(d)に代えて、ΔT3が70℃以下であること[温度条件(d’)]を条件として、取出工程を開始することで、セメント成形体の温度ひび割れを抑制することできる。
また、実施例1~3のように、ΔTの最大値が30℃以下であることで、セメント成形体の温度ひび割れが抑制される。このため、実施例1~3の温度条件a~cまたは温度条件a’~c[具体的には、温度条件(d)~(f)または温度条件(d’)~(f)]を、他のセメント成形体の製造における取出工程を開始する際の温度条件として用いることで、該セメント成形体の温度ひび割れを抑制しうる温度条件を容易に設定することができる。