(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-24
(45)【発行日】2024-02-01
(54)【発明の名称】米飯類の保存安定性を向上させる方法
(51)【国際特許分類】
A23L 7/10 20160101AFI20240125BHJP
【FI】
A23L7/10 B
(21)【出願番号】P 2023048879
(22)【出願日】2023-03-24
【審査請求日】2023-04-13
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】598060981
【氏名又は名称】エースシステム株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】519135633
【氏名又は名称】公立大学法人大阪
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】佐古 圭弘
(72)【発明者】
【氏名】竹中 重雄
【審査官】手島 理
(56)【参考文献】
【文献】特開昭56-082067(JP,A)
【文献】特開2007-020485(JP,A)
【文献】特開2018-015047(JP,A)
【文献】特開2019-180829(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L
A47J
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
保存後における米飯類の硬さの増加を抑制する方法であって、
液体を保持できる容器に入った生米を、チャンバ内にて過熱水蒸気で処理する過熱水蒸気処理工程を有し、
上記過熱水蒸気処理工程における過熱水蒸気の供給量は、単位時間および上記チャンバの単位容積あたり、20kg/h・m
3以上
、150kg/h・m
3
以下であり、
上記過熱水蒸気処理工程において、容器内に加水および排水を行わない、方法。
【請求項2】
上記過熱水蒸気処理工程において、過熱水蒸気の噴流が上記容器の内容物に直接当たらないように過熱水蒸気の噴射方向を制御する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
上記過熱水蒸気処理工程における過熱水蒸気の温度は、110~140℃である、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
請求項1~
3のいずれか1項に記載の
保存後における米飯類の硬さの増加を抑制する方法を含む、米飯類の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、米飯類の保存安定性を向上させる方法に関する。
【背景技術】
【0002】
100℃を超える高温の過熱水蒸気と生米とを接触させる炊飯方法が、従来知られている。このような炊飯方法において、得られる米飯類の老化を防ぐ方法が様々に検討されている(例えば、特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に開示されている炊飯方法には、容器に収容された原料米に散水する工程が含まれる。この炊飯方法においては、散水により容器に供給された水の一部は、原料米の表面を洗浄するとともに、容器に設けられた通水部から排出される。同文献が述べるところによると、このような炊飯方法とすることにより、老化促進成分であるアミロースや糠油が洗い流され、米飯の老化が抑えられる。
【0005】
しかし、特許文献1に開示されている技術のように、加水および排水を伴う炊飯方法では、生米に含まれていた成分の一部が流出するために、栄養分の損失が発生したり、食味を向上させる余地を残したりしていた。
【0006】
本発明の一態様は、加水および排水を伴わない炊飯方法により、米飯類の保存安定性を向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らが検討したところ、生米と接触させる過熱水蒸気の供給量を調節することにより、上記の課題を解決できることが判明した。したがって、本発明には、下記の態様が含まれる。
<1>
米飯類の保存安定性を向上させる方法であって、
液体を保持できる容器に入った生米を、チャンバ内にて過熱水蒸気で処理する過熱水蒸気処理工程を有し、
上記過熱水蒸気処理工程における過熱水蒸気の供給量は、単位時間および上記チャンバの単位容積あたり、20kg/h・m3以上であり、
上記過熱水蒸気処理工程において、容器内に加水および排水を行わない、方法。
<2>
上記過熱水蒸気処理工程における過熱水蒸気の供給量は、単位時間および上記チャンバの単位容積あたり、150kg/h・m3以下である、<1>に記載の方法。
<3>
上記過熱水蒸気処理工程において、過熱水蒸気の噴流が上記容器の内容物に直接当たらないように過熱水蒸気の噴射方向を制御する、<1>または<2>に記載の方法。
<4>
上記過熱水蒸気処理工程における過熱水蒸気の温度は、110~140℃である、<1>~<3>のいずれかに記載の方法。
<5>
<1>~<4>のいずれかに記載の米飯類の保存安定性を向上させる方法を含む、米飯類の製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明の一態様によれば、加水および排水を伴わない炊飯方法により、米飯類の保存安定性を向上させられる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の一実施形態に係る方法を用いて精白米を炊飯し、得られた米飯の硬さを表すグラフである。
【
図2】本発明の一実施形態に係る方法を用いて精白米を炊飯し、得られた米飯の水分量を表すグラフである。
【
図3】本発明の一実施形態に係る方法を用いて精白米を炊飯し、得られた米飯の微細構造を表すSEM像である。
【
図4】過熱水蒸気処理工程において供給する過熱水蒸気の量と、得られる白飯の硬さとの関係を表すグラフである。
【
図5】本発明の一実施形態に係る方法を用いて低タンパク米を炊飯し、得られた米飯の硬さを表すグラフである。
【
図6】本発明の一実施形態に係る方法を用いて低タンパク米を炊飯し、得られた米飯の水分量を表すグラフである。
【
図7】本発明の一実施形態に係る方法を用いて低タンパク米を炊飯し、得られた米飯の微細構造を表すSEM像である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態の一例について詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されない。そうではなく、本発明は、請求項に示した範囲で種々の変更が可能である。例えば、異なる実施形態に開示されている技術的手段を適宜組合せて得られる実施形態も、本発明の技術的範囲に含まれる。
【0011】
本明細書において特記しない限り、数値範囲を表す「A~B」は、「A以上、B以下」を意味する。
【0012】
〔1.米飯類の保存安定性を向上させる方法〕
本発明の一態様に係る方法は、米飯類の保存安定性を向上させる方法である。
【0013】
本明細書において、「米飯類」とは、生米を炊飯して得られる食品を表す。米飯類は、生米以外に由来する食品成分を含んでいてもよい(他の穀類、具材、調味料など)。米飯類の例としては、白飯、玄米飯、赤飯、麦ごはん、雑穀ご飯、炊込みご飯が挙げられる。
【0014】
本明細書において、「生米」とは、一般的にコメに分類される穀物であって、炊飯調理される前の穀物を表す。生米の例としては、精白米、玄米、発芽玄米、胚芽米が挙げられる。加えて、低糖質米や低タンパク米のように、コメに対して処理を加えたり、他の成分を加えたりした製品も、生米の範疇に含める。
【0015】
本明細書において、「保存安定性」とは、一定期間保存後における米飯類の老化を低減することを表す。米飯類の老化を低減できているかどうかは、一定期間保存後における米飯類の硬さの増加が低減できているかどうかにより判断する。米飯類の硬さの測定方法については、本願実施例を参照。
【0016】
本発明の一実施形態に係る方法は、過熱水蒸気処理工程を有する。過熱水蒸気処理工程とは、液体を保持できる容器に入った生米を、チャンバ内にて過熱水蒸気で処理する工程である。特許文献1が開示する技術との相違点として、過熱水蒸気処理工程においては、容器内に加水をせず、容器内から排水をしない。
【0017】
本明細書において、「容器内に加水する」とは、意図的に容器内に水を加えることを表す。例えば、特許文献1が開示する技術のように、散水によって容器内に水を加えることを表す。本発明の一実施形態に係る方法においては、例えば、過熱水蒸気の一部が冷却されて意図せずに容器内に入ることもありうる。このような例は、「容器内に加水する」ことに含まれない。
【0018】
本明細書において、「容器内から排水する」とは、意図的に容器内から水を除去することを表す。例えば、特許文献1が開示する技術のように、容器に設けられた通液部を通して水を除去することを表す。本発明の一実施形態に係る方法においては、例えば、乾燥により容器内の水が蒸発することもありうる。このような例は、「容器内から排水する」ことには含まれない。
【0019】
生米を収容する容器は、液体を保持できるように構成されている。一実施形態において、この容器は、液体を排出する通液部を有していない。このように容器を構成することにより、過熱水蒸気処理工程において、容器内から排水されなくなる。そのため、生米に含まれている成分が流出しなくなる。その結果、栄養分の損失を低減し、色味や食味を向上させられるようになる。
【0020】
生米を収容する容器の寸法および材質は、特に限定されない。大形の容器を用いて大人数分の米飯類をまとめて炊飯してもよいし、個食用の容器を用いて個食用米飯製品を製造してもよい。容器の材質の例としては、金属、プラスチックが挙げられる。
【0021】
容器には、生米以外の材料を入れてもよい。例えば、生米に加えて水を入れてもよい。容器に水を入れずに炊飯することもできるが、一般的には、容器に水を加えて炊飯すると食味がよくなる傾向にある。また、他の穀類、具材、調味料などを入れてもよい。
【0022】
容器に入れられた生米は、チャンバ内にて過熱水蒸気により処理される。本明細書において、「過熱水蒸気」とは、飽和水蒸気の温度以上(1atmの場合は100℃以上)に過熱された水蒸気を表す。過熱水蒸気は、種々の公知の装置によって得られる。
【0023】
チャンバは、容器に入れられた生米と過熱水蒸気とを接触させるように構成されており、具体的な構成は特に限定されない。例えば、チャンバ内は密閉式であってもよいし、非密閉式であってもよい。チャンバ内が非密閉式である場合は、過熱水蒸気を散逸しにくくするために、開口部に樹脂シートによるパーティションを設けてもよい。一実施形態において、チャンバ内は加圧されている。一実施形態において、チャンバ内は実質的に常圧である。
【0024】
過熱水蒸気処理工程における過熱水蒸気の温度の下限は、110℃以上が好ましく、115℃以上がより好ましい。過熱水蒸気処理工程における過熱水蒸気の温度の上限は、140℃以下が好ましく、135℃以下がより好ましい。過熱水蒸気の温度が110℃以上であれば、得られる米飯類に余分な水分が残らず、ベタつきを低減できる。過熱水蒸気の温度が140℃以下であれば、得られる米飯類の乾燥や焦付きを低減できる。本明細書において「過熱水蒸気の温度」とは、過熱水蒸気の発生源における温度を意味する。
【0025】
過熱水蒸気処理工程における過熱水蒸気の供給量の下限は、単位時間およびチャンバの単位容積あたり、20kg/h・m3以上であり、25kg/h・m3以上が好ましく、30kg/h・m3以上がより好ましい。過熱水蒸気処理工程における過熱水蒸気の供給量の上限は、単位時間およびチャンバの単位容積あたり、150kg/h・m3以下が好ましく、120kg/h・m3以下がより好ましい。供給量が20kg/h・m3以上であれば、米飯類の保存安定性を上首尾に向上させられる。供給量が150kg/h・m3以下であれば、容器内の水の蒸発速度が適度な範囲となり、米飯類が硬くなりすぎる事態を回避しやすい。
【0026】
生米を過熱水蒸気に接触させる時間は、過熱水蒸気の温度、過熱水蒸気の供給量、仕込む生米の量などに応じて、適宜設定できる。接触時間の下限は、5分間以上が好ましく、10分間以上がより好ましく、15分間以上がさらに好ましい。接触時間の上限は、60分間以下が好ましく、55分以下がより好ましく、50分以下がさらに好ましい。
【0027】
生米を均一に加熱するためには、噴出口から噴出された過熱水蒸気の噴流が、容器の内容物に直接当たらないように噴射方向を制御することが好ましい。例えば、過熱水蒸気を充満させたチャンバ内に、生米を収容した容器を配置することが好ましい。
【0028】
上述した過熱水蒸気処理工程は、公知の装置により実施できる。このような装置の例としては、日本国特許第6,397,448号に記載された蒸煮装置が挙げられる。市販の装置としては、ベジタブルスチームクッカー、マルチスチームクッカー(いずれもエースシステム株式会社)が好適に用いられる。
【0029】
上述の装置は、処理室および搬送装置を備えている。処理室は、生米と過熱水蒸気とを接触させるためのチャンバに該当する。搬送装置は、処理室を通過するように配置されており、生米を収容した容器を搬送する。搬送装置により搬送される容器は、処理室を通過する間に過熱水蒸気と接触し、過熱水蒸気処理工程が実施される。このような設計であるため、上述の装置は、搬送路の長さおよび搬送速度を変化させることにより、生米と過熱水蒸気との接触時間を調節することができる。
【0030】
また、上述の装置は、処理室の上方に配置されている蒸気室と、下方に配置されている蒸気供給室とを備えている。過熱水蒸気発生装置から供給される過熱水蒸気は、まず蒸気供給室に流入し、その後に蒸気室へと移動する。そのため、生米に対して均一に過熱水蒸気を接触させることができる。
【0031】
本発明の一実施形態に係る方法によれば、米飯類の保存安定性が向上する。つまり、保存した米飯の食味を通常よりも長期間にわたり維持でき、それゆえ、フードロスを削減できる。また、生米に含まれる成分を洗い流さないので、原料利用率を向上させられる。これらの効果は、例えば、国連が提唱する持続可能な開発目標(SDGs)の目標2「飢餓をゼロに」の達成に貢献しうる。
【0032】
〔2.米飯類の製造方法〕
本発明の一態様に係る米飯類の製造方法は、上述した米飯類の保存安定性を向上させる方法を含む。すなわち、本発明の一態様に係る米飯類の製造方法は、上述した過熱水蒸気処理工程を有し、これにより米飯類の保存安定性を向上させる。この製造方法は、過熱水蒸気処理工程以外の工程を有してもよい。このような工程の例としては、洗米工程、浸漬工程、密封工程が挙げられる。
【0033】
洗米工程とは、生米を洗米する工程である。洗米は、通常は、生米を水で洗浄することにより行われる。生米として無洗米を利用する場合などでは、洗米工程を省略してもよい。
【0034】
浸漬工程は、過熱水蒸気処理工程に先立って、生米を水に浸漬する工程である。生米を浸漬する時間の下限は、10分間以上が好ましく、15分間以上がより好ましい。生米を浸漬する時間の上限は、60分間以下が好ましく、50分間以下がより好ましい。その他の工程の条件によっては、浸漬工程を省略しても米飯類を製造できる。
【0035】
密封工程とは、過熱水蒸気処理工程の後に、炊飯された米飯類が収容されている容器を密封する工程である。容器の密封は、例えば、シール材によって行われる。典型的には、個食用米飯製品を製造する際に密封工程を実施する。
【実施例】
【0036】
〔実施例1〕
本発明の一実施形態に係る方法により、精白米を炊飯した米飯の保存安定性が向上することを確認した。
【0037】
[試料の調製]
精白米としては、秋田県産あきたこまちを使用した。下記の手順により、精白米を洗米および浸漬した。
1. 300gの精白米を、ボウルに入れた。
2. 水をボウルに溜め、攪拌した後、水を捨てた。この工程を合計3回行った。
3. 米を擦り合せるようにして20回研いだ。
4. 水をボウルに溜め、攪拌した後、水を捨てた。この工程を合計2回行った。
5. 450gの水を加え、1時間浸漬した。
【0038】
浸漬後、水を捨てずに過熱水蒸気調理機または電気炊飯器により炊飯した。炊飯条件は下記の通りである。
●過熱水蒸気調理機
・使用機器:ベジタブルスチームクッカー(エースシステム株式会社)
・過熱水蒸気の温度:120℃
・過熱水蒸気の供給量:40kg/h・m3
・炊飯時間:30分間
●電気炊飯器
・使用機器:NS-WB10(象印マホービン株式会社)
・炊飯モード:標準炊飯モード
・炊飯時間:約40分間
【0039】
炊飯後の米飯を、室温にて15分間放冷した。このようにして、保存0時間後の試料を得た。次に、保存0時間後の試料をプラスチック製密閉容器に入れ、25℃のインキュベーター内で24時間、48時間または72時間保存した。このようにして、保存24時間後の試料、保存48時間後の試料および保存72時間後の試料をそれぞれ得た。
【0040】
[測定方法]
(硬さ)
保存0時間後の試料、保存24時間後の試料、保存48時間後の試料および保存72時間後の試料を測定に用いた。具体的な測定方法は、下記の通りである。
1. それぞれの試料から、1粒の米飯を無作為に選択した。
2. テクスチャーメーター(TEX-100N、日本計測システム株式会社)により、切断時の硬さ(N)を測定した。試験条件は、プランジャーの形状:楔型、プランジャーの移動速度:120mm/minとした。
【0041】
(水分含有率)
保存0時間後の試料および保存24時間後の試料を測定に用いた。具体的な測定方法は、下記の通りである。
1. 約1gの試料を用意した。
2. 加熱乾燥式水分計(MX-50、株式会社エー・アンド・デイ)を用いて、水分含有率を測定した。測定条件は、測定モード:標準モード、測定温度:200℃であった。水分含有率は、「(乾燥前重量-乾燥後重量)/乾燥前重量」により求められる。
【0042】
(微細構造)
保存0時間後の試料および保存24時間後の試料を観察に用いた。具体的な観察方法は、下記の通りである。
1. それぞれの試料を液体窒素により急速冷凍した。
2. -80℃にて24時間以上保存した。
3. 凍結乾燥機にて12時間以上乾燥させた。
4. ナイフで割断面を作製し、走査型電子顕微鏡(JSM-6510LV、日本電子株式会社)での観察に用いた。観察倍率は、2000倍であった。
【0043】
[結果]
硬さの測定結果を
図1に示す。同図では、平均値±標準偏差を棒グラフおよびエラーバーで表した。また、2元配置分散分析により結果を解析し、有意差がない群間には同じ文字が含まれ、有意差がある群間には同じ文字が含まれないようにアルファベットを割り振った(N=20、p<0.05を有意差とする)。
図1から分かるように、過熱水蒸気処理工程により炊飯した米飯は、電気炊飯器により炊飯した米飯よりも、保存後における硬さの増加が有意に小さかった。
【0044】
水分含有率の測定結果を
図2に示す。同図では、平均値±標準偏差を棒グラフおよびエラーバーで表した。また、2元配置分散分析により結果を解析し、有意差がない群間には同じ文字が含まれ、有意差がある群間には同じ文字が含まれないようにアルファベットを割り振った(N=6、p<0.05を有意差とする)。
図2から分かるように、過熱水蒸気処理工程により炊飯した米飯は、電気炊飯器により炊飯した米飯よりも、水分含有率が有意に高かった。
【0045】
微細構造のSEM像を
図3に示す。
図3から分かるように、過熱水蒸気処理工程により炊飯した米飯と、電気炊飯器により炊飯した米飯とでは、微細構造に明らかな違いがあった。具体的には、過熱水蒸気処理工程により炊飯した米飯の方が、割断面における開口が小さい。過熱水蒸気処理工程により炊飯した米飯は、開口が小さいために水分を保持しやすく、老化が遅延されるのではないかと推定される。
【0046】
以上の結果から、本発明の一実施形態に係る方法によれば、米飯の水分含有率を高め、保存後における米飯の硬化を遅延させられることが示唆される。すなわち、本発明の一実施形態に係る方法によれば、米飯の保存安定性を高め、老化を遅延させられることが示唆される。SEM像により観察される微細構造の違いは、このことを支持している。
【0047】
〔実施例2〕
過熱水蒸気処理工程における過熱水蒸気の供給量と、得られる米飯類の保存安定性と関係を検討した。
【0048】
[試料の調製]
精白米としては、秋田県産あきたこまちを使用した。下記の手順により、精白米を洗米および浸漬した。
1. 60gの精白米を、ボウルに入れた。
2. 水をボウルに溜め、攪拌した後、水を捨てた。この工程を合計3回行った。
3. 米を擦り合せるようにして1分間程度研いだ。
4. 水をボウルに溜め、攪拌した後、水を捨てた。この工程を合計2回行った。
5. 90gの水を加え、1時間浸漬した。
【0049】
浸漬後、水を捨てずに過熱水蒸気調理機により炊飯した。炊飯に際して、洗米および浸漬は行わなかった。炊飯条件は下記の通りである。
・使用機器:ベジタブルスチームクッカー(エースシステム株式会社)
・過熱水蒸気の温度:117℃
・過熱水蒸気の供給量:23kg/h・m3または19kg/h・m3
・炊飯時間:30分間
【0050】
炊飯後の米飯を、室温にて15分間放冷した。このようにして、保存0時間後の試料を得た。次に、保存0時間後の試料をプラスチック製密閉容器に入れ、家庭用冷蔵庫(3~8℃)内で24時間、48時間または72時間保存した。このようにして、保存24時間後の試料、保存48時間後の試料および保存72時間後の試料をそれぞれ得た。
【0051】
それぞれの試料の硬さを測定した。具体的な測定方法は、下記の通りである。
1. 10gの試料を測定用トレー(直径:40mm、高さ:12mm)に充填した。充填した試料は米飯集団粒とした。
2. 食感測定器(テンシプレッサーMyBoyII、有限会社タケトモ電機)により、試料の硬さ(N)を測定した。各条件あたり6個の試料を測定し、平均値を求めた。試験条件は、プランジャーの形状:円柱型、プランジャーの移動速度:120mm/min、硬さの定義:92%圧縮時の荷重とした。
【0052】
結果を
図4に示す。同図は、保存0時間後の試料を基準とした硬さの変化を表す。
図4から分かるように、過熱水蒸気の供給量が23kg/h・m
3の条件で炊飯した米飯は、過熱水蒸気の供給量が19kg/h・m
3の条件で炊飯した米飯よりも、保存後における硬さが増加しにくかった。この結果から、過熱水蒸気処理工程における過熱水蒸気の供給量が20kg/h・m
3以上ならば、米飯類の保存安定性を向上させる効果が見込めることが示唆される。
【0053】
〔実施例3〕
本発明の一実施形態に係る方法と、特許文献1が開示するような散水式炊飯法とでそれぞれ精白米を炊飯し、色味および食味の違いを検討した。
【0054】
[試料の調製]
精白米としては、大阪府産にこまるを使用した。下記の手順により、精白米を洗米および浸漬した。
1. 60gの精白米を、ボウルに入れた。
2. 水をボウルに溜め、攪拌した後、水を捨てた。この工程を合計3回行った。
3. 米を擦り合せるようにして1分間程度研いだ。
4. 水をボウルに溜め、攪拌した後、水を捨てた。この工程を合計2回行った。
5. 90gの水を加えた。
【0055】
本発明の一実施形態に係る方法による炊飯は、下記の条件で行った。
・使用機器:過熱水蒸気炊飯機SRM-100(エースシステム株式会社)
・過熱水蒸気の温度:115℃
・過熱水蒸気の供給量:80kg/h・m3
・炊飯時間:25分間
【0056】
散水式炊飯法による炊飯は、下記の条件で行った。
・使用機器:過熱水蒸気炊飯機SRM-100(エースシステム株式会社;散水装置を使用)
・過熱水蒸気の温度:115℃
・過熱水蒸気の供給量:80kg/h・m3
・炊飯時間:25分間
・散水温度:60~65℃
・散水速度:0.4L/min×9箇所および0.3L/min×1箇所(炊飯時間の間均等に散水されるようにコンベアの経路上に散水箇所を設けた)
【0057】
[官能評価]
2種類の方法で炊飯した米飯(水分率:64~65%)に対して、専門の訓練を受けた10人のパネルに下記の各質問を回答させた。パネルは、試料の炊飯方法について盲検化した。
・どちらが硬いか?
・どちらが白いか?
・どちらの香りが強いか?
・どちらの粘りが強いか?
・どちらの甘味が強いか?
【0058】
(結果)
硬さについては、炊飯方法の違いによる傾向の違いは見られなかった。一方、白さ、香り、粘りおよび甘味については、本発明の一実施形態に係る方法の方が選択される傾向にあった。
【0059】
この結果から分かるように、本発明の一実施形態に係る方法によれば、散水式炊飯法と同程度の硬さの米飯が得られた。すなわち、本発明の一実施形態に係る方法は、散水式炊飯法と同程度に米飯の保存安定性を向上させていた。一方、白さ、香り、粘りおよび甘味は、本発明の一実施形態に係る方法で炊飯した米飯の方が、散水式炊飯法で炊飯した米飯よりも強調される傾向にあった。すなわち、本発明の一実施形態に係る方法を採用することにより、散水式炊飯法よりも色味および食味がより一層好ましい米飯が得られた。
【0060】
[散水式炊飯法による流出成分の検討]
特許文献1に記載されるような散水式炊飯法では、排水に伴う成分の流出があると考えられる。どのような成分がどの程度流出するかは、既報(竹満ら「連続蒸気炊飯装置を用いて炊飯した米飯の食味と保存性」『日本食品化学工学会誌』第60巻、第11号、628~634頁)の情報に基づいて推定できる。同文献の方法および結果を要約すると、次の通りである。
●方法
・吸水させた1kgの生米をコンベア式の連続蒸気炊飯装置に仕込み、22分間加熱することにより炊飯した。炊飯工程の前半では100℃の飽和水蒸気と接触させ、後半では125℃の過熱水蒸気と接触させた。炊飯工程中の4地点において、85℃の温水を1.05L/minの速度で散水した。
・炊飯開始4分後から1分ごとに、流出液を回収した。流出液の全糖量を、フェノール硫酸法により求めた。流出液の還元糖量を、ソモギ・ネルソン法により求めた。
・炊飯開始から8分後、12分後、16分後、20分後の時点で回収した流出液を、濃縮後に凍結乾燥させ、固形物重量を測定した。
・吸水されずに残った浸漬水に含まれる全糖量および還元糖量も、同様に測定した。
●結果
・浸漬水には、約1.5gの全糖量および約0.5gの還元糖量が含まれていた。
・流出液には、合計で約13.4gの全糖量が流出していた。流出液には、還元糖は検出限界以下しか含まれていなかった。固形分重量は全糖量とほぼ一致し、溶出物はほとんどが糖であることが示された。
・浸漬水および流出液を合計すると、1kgの生米から約15gの糖(米重量の1.5%程度)が流出していた。
・流出液に含まれる糖は、主としてアミロースであった。
【0061】
既報を参考にすると、散水速度が1.05L/minであるときに流出する糖は、米重量の1.5%程度である。既報の炊飯条件では、20kg/h(0.33kg/min)の速度で生米を供給していた。一方、実施例3で採用した散水式炊飯条件では、100kg/h(1.67kg/min)の速度で生米を供給し、3.9L/minで散水した。流出する糖量が、供給される生米量あたりの散水量に比例するとすれば(つまり、1kgあたりの生米に散水される水量が少ないほど、流出する糖量も少なくなるとすれば)、実施例3採用した散水式炊飯法では、米重量の1.1~1.2%程度の糖が流出していることになる。このことが、官能評価における色味および食味の違いの原因となった可能性がある。
【0062】
また、散水式炊飯法では、散水した温水を排水するため、生米に含まれていた成分の一部が流出することになる。一方、本発明の一実施形態に係る方法では、過熱水蒸気処理工程において排水をしないので、このような成分の損失は低減できている。つまり、本発明の一実施形態に係る方法は、原料利用率がより高く、栄養分の損失がより少ない方法であると言える。
【0063】
〔実施例4〕
本発明の一実施形態に係る方法で低タンパク米を炊飯し、得られる米飯において保存安定性が向上することを確認した。
【0064】
[試料の調製]
300gの低タンパク米に360gの水を加えて、過熱水蒸気調理機または電気炊飯器により炊飯した。炊飯に際して、洗米および浸漬は行わなかった。炊飯条件は下記の通りである。
●過熱水蒸気調理機
・使用機器:ベジタブルスチームクッカー(エースシステム株式会社)
・過熱水蒸気の温度:120℃
・過熱水蒸気の供給量:40kg/h・m3
・炊飯時間:25分間
●電気炊飯器
・使用機器:NS-WB10(象印マホービン株式会社)
・炊飯モード:白米急速モード
・炊飯時間:約25分間
【0065】
炊飯後の米飯を、室温にて15分間放冷した。このようにして、保存0時間後の試料を得た。次に、保存0時間後の試料をプラスチック製密閉容器に入れ、25℃のインキュベーター内で2時間、4時間または6時間保存した。このようにして、保存2時間後の試料、保存4時間後の試料および保存6時間後の試料をそれぞれ得た。
【0066】
[測定方法]
(硬さ)
保存0時間後の試料、保存2時間後の試料、保存4時間後の試料および保存6時間後の試料を測定に用いた。具体的な測定方法は、下記の通りである。
1. それぞれの試料を型に詰めた。型の寸法は、直径:約3.5cm、高さ:約2.5cmであった。
2. テクスチャーメーター(TEX-100N、日本計測システム株式会社)により、圧縮時の硬さ(N)を測定した。試験条件は、プランジャーの形状:円柱型、プランジャーの移動速度:60mm/min、圧縮率:50%とした。
【0067】
(水分含有率)
保存0時間後の試料および保存6時間後の試料を測定に用いた。具体的な測定方法は、下記の通りである。
1. 約1gの試料を用意した。
2. 加熱乾燥式水分計(MX-50、株式会社エー・アンド・デイ)を用いて、水分含有率を測定した。測定条件は、測定モード:標準モード、測定温度:200℃であった。水分含有率は、「(乾燥前重量-乾燥後重量)/乾燥前重量」により求められる。
【0068】
(微細構造)
保存0時間後の試料および保存6時間後の試料を観察に用いた。具体的な観察方法は、下記の通りである。
1. それぞれの試料を液体窒素により急速冷凍した。
2. -80℃にて24時間以上保存した。
3. 凍結乾燥機にて12時間以上乾燥させた。
4. ナイフで割断面を作製し、走査型電子顕微鏡(JSM-6510LV、日本電子株式会社)での観察に用いた。観察倍率は、2000倍であった。
【0069】
[結果]
硬さの測定結果を
図5に示す。同図では、平均値±標準偏差を棒グラフおよびエラーバーで表した。また、2元配置分散分析により結果を解析し、有意差がない群間には同じ文字が含まれ、有意差がある群間には同じ文字が含まれないようにアルファベットを割り振った(N=3、p<0.05を有意差とする)。
図5から分かるように、過熱水蒸気処理工程により炊飯した米飯は、電気炊飯器により炊飯した米飯よりも、保存後における硬さの増加が有意に小さかった。
【0070】
水分含有率の測定結果を
図6に示す。同図では、平均値±標準偏差を棒グラフおよびエラーバーで表した。また、2元配置分散分析により結果を解析し、有意差がない群間には同じ文字が含まれ、有意差がある群間には同じ文字が含まれないようにアルファベットを割り振った(N=4、p<0.05を有意差とする)。
図6から分かるように、過熱水蒸気処理工程により炊飯した米飯は、電気炊飯器により炊飯した米飯よりも、水分含有率が有意に高かった。
【0071】
微細構造のSEM像を
図7に示す。
図7から分かるように、過熱水蒸気処理工程により炊飯した米飯と、電気炊飯器により炊飯した米飯とでは、微細構造に明らかな違いがあった。具体的には、過熱水蒸気処理工程により炊飯した米飯の方が、割断面における開口が小さい。過熱水蒸気処理工程により炊飯した米飯は、開口が小さいために水分を保持しやすく、老化が遅延されるのではないかと推定される。
【0072】
以上の結果から、本発明の一実施形態に係る方法によれば、低タンパク質米においても、米飯の水分含有率を高め、保存後における米飯の硬化を遅延させられることが示唆される。すなわち、本発明の一実施形態に係る方法によれば、多様な種類の米において、米飯の保存安定性を高め、老化を遅延させられることが示唆される。SEM像により観察される微細構造の違いは、このことを支持している。低タンパク米は老化が早く、短時間で食味が低下しやすいとされている。そのため、本実施例の知見は、腎疾患患者の福祉の向上などに大きく寄与しうる。
【産業上の利用可能性】
【0073】
本発明は、米飯類の製造などに利用できる。
【要約】
【課題】加水および排水を伴わない炊飯方法により、米飯類の保存安定性を向上させる。
【解決手段】本発明の一態様に係る方法は、液体を保持できる容器に入った生米を、チャンバ内にて過熱水蒸気で処理する過熱水蒸気処理工程を有し;過熱水蒸気処理工程における過熱水蒸気の供給量は、単位時間および上記チャンバの単位容積あたり、20kg/h・m
3以上であり;過熱水蒸気処理工程において、容器内に加水および排水を行わない。
【選択図】
図1