(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-24
(45)【発行日】2024-02-01
(54)【発明の名称】カーボンナノチューブ分散液
(51)【国際特許分類】
C01B 32/174 20170101AFI20240125BHJP
C08K 3/04 20060101ALI20240125BHJP
C08L 33/02 20060101ALI20240125BHJP
B82Y 30/00 20110101ALI20240125BHJP
【FI】
C01B32/174
C08K3/04
C08L33/02
B82Y30/00
(21)【出願番号】P 2019065037
(22)【出願日】2019-03-28
【審査請求日】2021-12-15
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110000408
【氏名又は名称】弁理士法人高橋・林アンドパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】周 英
(72)【発明者】
【氏名】阿澄 玲子
【審査官】青木 千歌子
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-039899(JP,A)
【文献】特開2015-092540(JP,A)
【文献】特開2014-172968(JP,A)
【文献】国際公開第2018/225863(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/188175(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 32/00-32/991
C08K 3/04
C08L 33/02
B82Y 30/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
カーボンナノチューブと溶剤と平均分子量500以上100,000以下のポリアクリル酸とを含み、
前記カーボンナノチューブは、改良直噴熱分解合成法のカーボンナノチューブ、スーパーグロース法のカーボンナノチューブ、又は気相法炭素繊維であり、
前記カーボンナノチューブのバンドルの平均太さが50nm以下であり、
カーボンナノチューブ:ポリアクリル酸の重量比が1:0.5から1:5までであり、
前記溶剤のHansen溶解度パラメータのdD値が15.2MPa
0.5以上17.5MPa
0.5以下、dP値が4.3MPa
0.5以上6.8MPa
0.5以下、dH値が9.4MPa
0.5以上17.0MPa
0.5以下であり
、
2-プロパノールとエタノールの9対1混合溶媒は前記溶剤から除くことを特徴とするカーボンナノチューブ分散液。
【請求項2】
前記カーボンナノチューブ分散液から取り出して測定したカーボンナノチューブの平均のG/D比が20以上であることを特徴とする請求項1に記載のカーボンナノチューブ分散液。
【請求項3】
前記溶剤に分散させる前のカーボンナノチューブのG/D比に対する、前記カーボンナノチューブ分散液から取り出して測定したカーボンナノチューブのG/D比の減少率が70%以下であることを特徴とする請求項1又は2に記載のカーボンナノチューブ分散液。
【請求項4】
前記カーボンナノチューブの濃度が0.001重量%以上10重量%以下であることを特徴とする請求項1乃至3の何れか一に記載のカーボンナノチューブ分散液。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カーボンナノチューブ分散液に関する。また、カーボンナノチューブ分散液を用いて製造したカーボンナノチューブ複合膜に関する。
【背景技術】
【0002】
カーボンナノチューブ(以下、CNTとも称する。)は、様々な新機能を発揮しうる新素材として大きな注目を集め世界中で活発な研究開発が行われている。CNTを含む複合材料を製造する場合、CNTを何らかの溶剤に分散させた分散液を調製する。今後、産業上の様々な用途に有効に使用するためには、均質で安定な分散液を大量に製造する必要がある。
【0003】
CNTを簡便、ローコストで膜にするために、元来不溶性であるCNTを、界面活性剤などの溶液に分散し、塗布製膜する方法が提案されている(非特許文献1)。また、たとえばゼラチンやセルロース誘導体をマトリックス高分子として用いることで(特許文献1)、複数のCNTが相互に分離した良好な状態で分散したCNT含有薄膜が提案されている。
【0004】
しかし、これらの従来技術は、CNTの分散液を製造するために、分散剤を添加した溶剤に超音波を照射することによりCNTを細かく分散する方法を一般に用いている。しかし、超音波照射技術では、プローブの近傍での局所的な分散効果しか得られず、CNT分散液の量産化には適切な技術とは言い難い。また、超音波照射技術では、CNTのグラファイト構造にダメージを与え、導電率などのCNTが本来有する特性を大幅に劣化させる。また、得られた分散液の安定性も十分なものではなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】国際公開第2005/082775号パンフレット
【非特許文献】
【0006】
【文献】Michael J. O'Connel et al., "Band gap fluorescence from individual single-walled carbon nanotubes", Science, 2002, 297, 593-596.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の一実施形態は、CNTを安定に分散させたCNT分散液を提供する。また、一実施形態において、CNTが有する特性を維持したCNT分散液を提供する。また、一実施形態において、CNTが有する特性を維持したCNT複合膜を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
また、本発明の一実施形態によると、カーボンナノチューブと溶剤とを含み、溶剤のHansen溶解度パラメータのdD値が13.5MPa0.5以上17.5MPa0.5以下、dP値が3MPa0.5以上8MPa0.5以下、dH値が9MPa0.5以上17MPa0.5以下であるカーボンナノチューブ分散液が提供される。
【0009】
高分子酸をさらに含み、溶剤のHansen溶解度パラメータのdD値が13.5MPa0.5以上17.5MPa0.5以下、dP値が3MPa0.5以上8MPa0.5以下、dH値が9MPa0.5以上17MPa0.5以下であってもよい。
【0010】
カーボンナノチューブのバンドルの平均太さが50nm以下であってもよい。
【0011】
カーボンナノチューブ分散液から取り出したカーボンナノチューブの平均のG/D比が20以上であってもよい。
【0012】
溶剤に分散させる前のカーボンナノチューブのG/D比に対する、カーボンナノチューブ分散液から取り出したカーボンナノチューブのG/D比の減少率が70%以下であってもよい。
【0013】
カーボンナノチューブの濃度が0.001重量%以上であってもよい。
【0014】
高分子酸が平均分子量500以上100,000以下のポリアクリル酸であり、カーボンナノチューブ:ポリアクリル酸の重量比が1:0.5から1:5までであってもよい。
【0015】
また、本発明の一実施形態によると、カーボンナノチューブと高分子酸とを含み、カーボンナノチューブの網目状の構造を備えるカーボンナノチューブ複合膜であって、カーボンナノチューブの平均のG/D比が20以上であるカーボンナノチューブ複合膜が提供される。
【0016】
高分子酸が平均分子量500以上100,000以下のポリアクリル酸であり、カーボンナノチューブ:ポリアクリル酸の重量比が1:0.5から1:5までであってもよい。
【発明の効果】
【0017】
本発明の一実施形態によると、CNTを安定に分散させたCNT分散液を提供することができる。また、一実施形態によると、CNTが有する特性を維持したCNT分散液を提供することができる。一実施形態によると、CNTが有する特性を維持したCNT複合膜を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明の一実施形態に係るCNT膜10を示す模式図である。
【
図2】本発明の一実施形態に係るCNT複合膜20を示す模式図である。
【
図3】本発明の一実施例に係るCNT分散液の分散性及び安定性を示す図である。
【
図4】本発明の一実施例に係るCNT分散液の分散性及び安定性を示す図である。
【
図5】本発明の一実施例に係るCNT分散液の分散性及び安定性を示す図である。
【
図6】本発明の一実施例に係るCNT分散液の分散性及び安定性を示す図である。
【
図7】本発明の一実施例に係るCNT分散液の分散性及び安定性を示す図である。
【
図8】本発明の一実施例に係るラマン分光法測定結果を示す図である。
【
図9】本発明の一実施例に係るCNT透明導電膜のシート抵抗値と、波長が550 nmにおける透過率(基材の透過率を100%としたときの相対値)の関係を示す図である。
【
図10】本発明の一実施例に係るCNT複合膜のSEM像である。
【
図11】比較例に係るCNT複合膜のSEM像である。
【
図12】本発明の一実施例に係るCNT複合膜のSEM像である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を参照して本発明に係るカーボンナノチューブ分散液(以下、CNT分散液とも称する。)及びカーボンナノチューブ複合膜(以下、CNT複合膜とも称する。)について説明する。なお、本発明のCNT分散液及びCNT複合膜は、以下に示す実施の形態及び実施例の記載内容に限定して解釈されるものではない。なお、本実施の形態及び後述する実施例で参照する図面において、同一部分又は同様な機能を有する部分には同一の符号を付し、その繰り返しの説明は省略する。
【0020】
CNTが有する特性を維持したCNT分散液を実現するには、従来の超音波照射技術を用いた分散方法ではなく、マイルドな分散条件でCNTを溶剤に分散せる必要がある。しかし、マイルドな分散方法のみを用いた場合、CNT分散液でのCNTの分散性が低下し、安定したCNT分散液を実現することはできない。
【0021】
本発明者らが検討した結果、マイルドな分散条件と、CNTの高い分散性及び安定した分散性という、相反する要求を実現するために、ハンセン溶解度パラメータに基づいて溶剤を選択することにより、CNTへのダメージを抑制したマイルドな分散条件で、CNTが有する特性を維持しつつ、CNTの高い分散性及び安定した分散性を実現することが可能であることを見出した。ハンセン溶解度パラメータに基づいてCNTの分散に適した溶剤を選択することにより、撹拌法を用いてCNTを溶剤に分散させ、高い分散性を有する安定した分散液を提供することができる。
【0022】
また、従来報告されているCNT分散液においては、CNTを分散させることのみに着眼しており、例えば樹脂等を含むCNT複合膜を製造する場合に利用可能な溶剤が制限されていた。しかし、本発明に係るCNT分散液においては、ハンセン溶解度パラメータが所定の範囲になるように、複数の溶剤を組合せて用いることも可能であり、溶剤の選択範囲が大幅に向上し、樹脂等の第3の成分との組合せの自由度が大幅に向上する。また、CNT分散液を用いてCNT複合膜を製造する場合、多様な基材と多様な成膜法に適用可能な分散液を提供することができる。
【0023】
さらに、撹拌法を用いてCNTを溶剤に分散させるため、超音波照射技術とは異なり、大量のCNT分散液を製造することが可能となり、CNTを用いた製品の量産化に大きく貢献することが可能となる。また、超音波照射技術を用いないことから、CNTへのダメージを抑制し、CNTが有する特性を維持したCNT分散液を量産可能である。
【0024】
本発明に係るCNT分散液に用いるCNTは特に限定されない。例えば、改良直噴熱分解合成(eDIPS)法により製造されたCNT、スーパーグロース(SG)法により製造されたCNT、気相法炭素繊維(VGCF(登録商標))等を用いることができる。
【0025】
本発明に係るCNT分散液は、一実施形態において、CNT分散液を100重量%としたときに、0.001重量%以上のCNTを含有する。または、0.5重量%以上10重量%以下のCNTを含有してもよい。本発明に係るCNT分散液は、CNTの特性を劣化させずに、0.5重量%以上10重量%以下の高濃度のCNTを均一かつ安定に分散させることができる。
【0026】
本発明に係るCNT分散液は、一実施形態において、CNTと溶剤とを含み、溶剤のHansen溶解度パラメータ(以下、HSPとも称する。)のdD値が13.5MPa0.5以上17.5MPa0.5以下、dP値が3MPa0.5以上8MPa0.5以下、dH値が9MPa0.5以上17MPa
0.5
以下である。ここで、dD値は、分子間の分散力によるエネルギーを示し、dP値は、分子間の双極子相互作用によるエネルギーを示し、dHは、分子間の水素結合によるエネルギーを示す。
【0027】
これら3つのパラメータは、3次元空間(ハンセン空間)の座標にプロットすることができる。CNTのHSPと溶剤のHSPをハンセン空間内にプロットしたとき、2点間の距離が近ければ近いほどCNTが溶剤に分散しやすい。CNTのHSPと溶剤のHSPとの間の距離Raは以下の式によって計算される。
(Ra)2=4(dD-dDCNT)2+(dP-dPCNT)2+(dH-dHCNT)2
【0028】
一実施形態において、CNT分散液は、Raが5以下となる範囲にHSPを有する溶剤を含む。このようなCNTのHSPと溶剤のHSPとの関係を有することにより、マイルドな分散条件で、量産可能な撹拌法を用いて、CNT分散液を製造することができる。
【0029】
溶剤は、CNT複合膜の製造工程において、CNT分散液から除去する目的から有機溶剤であることが好ましく、上記のHSP及びRaの範囲を有する限り特には限定されない。溶剤は上記のHSP及びRaの範囲にHSP及びRaを有する1種類の溶剤であってもよく、2種類の溶剤を混合して、上記のHSP及びRaの範囲にHSP及びRaを有する混合溶剤を調製してもよい。さらに、3種類以上の溶剤を混合して、上記のHSP及びRaの範囲にHSP及びRaを有する混合溶剤を調製してもよい。
【0030】
例えば、2種類の溶剤を用いた混合溶剤を調製する場合、第1の溶剤と第2の溶剤との混合比を調製することにより、上記のHSP及びRaの範囲にHSP及びRaを有する混合溶剤を調製することができる。
【0031】
単独の溶剤としては、例えば、1-プロパノール、2-プロパノール、1-ブタノール等を用いることができるが、これらに限定されない。また、混合溶剤としては、例えば、エタノールと2-プロパノール(0.5:9.5)の混合溶剤、エタノールと2-ブタノール(1:9)の混合溶剤、1-プロパノールと2-ブタノール(0.5:9.5~1:9)の混合溶剤、1-プロパノールとiso-ブタノール(0.5:9.5~2:8)の混合溶剤、1-プロパノールと1-ペンタノール(0.5:9.5~2:8)の混合溶剤等のアルコール系溶剤の組合せから選択することができるが、これらに限定されない。さらに、アルコール系溶剤と非アルコール系溶剤との組合せとして、例えば、1-プロパノールと1,4-ジオキサン(5:5~9:1)の混合溶剤、1-プロパノールとメチルイソブチルケトン(以下、MIBKとも称する。)(5:5~9:1)の混合溶剤等の組合せから選択することができるが、これらに限定されない。
【0032】
また、一実施形態において、本発明に係るCNT分散液は、界面活性剤や高分子電解質などの分散剤や、分散液又は製膜後の製品に付加的な機能を付与するためのその他成分を含んでいてもよい。たとえば、分散を補助するための高分子酸を含んでいてもよい。高分子酸としては、例えば、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸などの高分子カルボン酸、ポリ(p-スチレンスルホン酸)などの高分子スルホン酸などからなる群より選択される少なくとも1つを好ましく用いることができるが、これらに限定されない。CNT分散液において、高分子酸は、少量でCNTを均一に分散し、均質な複合膜を得られる効果を付与する。高分子酸は、製膜後に分散剤を除去することなく導電性膜とすることができ、後処理工程が簡単となり製造プロセス上有利である。また、高分子酸自体がドーピング効果を示すため別途ドーパントを追加する必要がないうえに、高分子酸は安定で揮発性もないため、長期的に安定な導電性を示す導電膜が得られる。さらに、CNTのみならず高分子酸も分子構造が柔軟であるため、極めて曲げに強い膜を得ることができる。
【0033】
一実施形態において、高分子酸の重量平均分子量は500以上250,000以下であり、1,800以上25,000以下であることが好ましい。また、ポリアクリル酸(以下、PAAとも称する。)の繰り返し単位の平均値が、8以上3,500以下であり、25以上350以下であることが好ましい。分子量が大きい高分子酸のほうがCNTをよく分散するが、分子量の小さい高分子酸のほうが、ドーピング効果が大きい傾向がみられる。
【0034】
また、ポリアクリル酸を用いる場合、平均分子量500以上100,000以下であることが好ましい。なお、同じ重量のポリアクリル酸であれば、分子量の小さいポリアクリル酸を用いるほうが、ドーピング効果が高い。重量平均分子量(MW)が25,000以下のポリアクリル酸を用いると、ドーピング効果が大きい。PAAは一般に分子量分散が比較的大きな高分子であると考えられ、たとえばDubayの下記の文献によれば、Polyscience社製の重量平均分子量5000のPAAは、分子量100から100000までの高分子を含み、同社の重量平均分子量50000のPAAは、分子量1000から1000000までの高分子を含むとされている。また、同社の重量平均分子量20000のポリアクリル酸ナトリウムは、分子量100から300000までの高分子を含むとされている。(M. R. Dubay: "The Molecular Weight Effects of Poly(acrylic acid) on Calcium Carbonate Inhibition in the Kraft Pulping Process" Dissertation, the University of Minnesota, May, 2011, https://conservancy.umn.edu/handle/11299/107782)。したがって、本明細書において重量平均分子量で示されたPAAにおいては、重量平均分子量の1/10~1/100倍程度の分子量のPAAから10~100倍程度の分子量のPAAが含まれてもよいことを意図する。
【0035】
一実施形態において、本発明に係るCNT分散液は、高分子酸が1本のCNTの単体に付着した部分、又は複数のCNTが凝集したCNTのバンドルに高分子酸が付着した部分を含み、CNTが露出している部分をさらに含むと推察される。一実施形態において、CNTと高分子酸との重量比が1対0.5から1対5である。高分子酸とCNTとの重量比がこの範囲にあるとき、CNTとCNTとの電気的接続、バンドルとバンドルとの電気的接続及びCNTとCNTのバンドルとの電気的接続が高分子酸によって妨げられない。
【0036】
CNT分散液がCNTと高分子酸を含む場合、溶剤のHansen溶解度パラメータのdD値が13.5MPa0.5以上17.5MPa0.5以下、dP値が3MPa0.5以上8MPa0.5以下、dH値が9MPa0.5以上17MPa0.5以下である。
【0037】
一実施形態において、CNTと高分子酸を含むCNT分散液は、Raが5以下となる範囲にHSPを有する溶剤を含む。このようなCNTのHSPと溶剤のHSPとの関係を有することにより、マイルドな分散条件で、量産可能な撹拌法を用いて、CNT分散液を製造することができる。
【0038】
溶剤は、CNT複合膜の製造工程において、CNT分散液から除去する目的から有機溶剤であることが好ましく、上記のHSP及びRaの範囲を有する限り特には限定されない。溶剤は上記のHSP及びRaの範囲にHSP及びRaを有する1種類の溶剤であってもよく、2種類の溶剤を混合して、上記のHSP及びRaの範囲にHSP及びRaを有する混合溶剤を調製してもよい。さらに、3種類以上の溶剤を混合して、上記のHSP及びRaの範囲にHSP及びRaを有する混合溶剤を調製してもよい。2種類の溶剤を用いた混合溶剤を調製する場合、第1の溶剤と第2の溶剤との混合比を調製することにより、上記のHSP及びRaの範囲にHSP及びRaを有する混合溶剤を調製することができる。
【0039】
単独の溶剤としては、例えば、1-プロパノール、2-プロパノール、1-ブタノール等を用いることができるが、これらに限定されない。また、混合溶剤としては、例えば、エタノールと2-プロパノール(0.5:9.5)の混合溶剤、エタノールと2-ブタノール(1:9)の混合溶剤、1-プロパノールと2-ブタノール(0.5:9.5~1:9)の混合溶剤、1-プロパノールとiso-ブタノール(0.5:9.5~2:8)の混合溶剤、1-プロパノールと1-ペンタノール(0.5:9.5~2:8)の混合溶剤等のアルコール系溶剤の組合せから選択することができるが、これらに限定されない。さらに、アルコール系溶剤と非アルコール系溶剤との組合せとして、例えば、1-プロパノールと1,4-ジオキサン(5:5~9:1)の混合溶剤、1-プロパノールとメチルイソブチルケトン(以下、MIBKとも称する。)(5:5~9:1)の混合溶剤等の組合せから選択することができるが、これらに限定されない。
【0040】
[CNT分散液の評価]
本明細書において、CNT分散液の評価は、CNT分散液から取り出したCNTを用いて評価する。具体的には、CNT分散液から溶剤を除去し、CNT膜を得る。CNT膜と、CNT膜に含まれるCNTの特性を測定することにより、CNT分散液の評価とすることができる。これは、CNT分散液に分散したCNT自体を直接評価するのが困難であるためである。
【0041】
一実施形態において、CNT分散液から取り出したCNT膜に含まれるCNTのバンドルの平均太さが50nm以下である。また、CNTのバンドルの平均太さが30nm以下であることが好ましい。CNTのバンドルの太さは、CNT膜の走査型電子顕微鏡(SEM)像において、CNTのバンドルの幅(CNTの繊維方向と概略直交する方向)を測定することにより求められる。このように細いCNTのバンドルが観察されることから、本発明に係るCNT分散液においては、CNTの分散性が高いことが示される。
【0042】
一実施形態において、CNT分散液から取り出したCNTの平均のG/D比が20以上である。CNTのG/D比は、532nmの励起波長の光を用いたラマン分光測定により得られたラマンスペクトルおいて、1590cm-1付近に観察されるグラファイト構造に由来するG-bandのピークと、1320cm-1付近に観察されるグラファイト構造の欠陥に由来するD-bandのピークとの比である。CNTのG/D比が高ければ、CNT分散液の製造工程に起因するCNTの損傷又は欠陥が低減されていることを示す。G/D比の上限は特には限定されないが、原材料として用いた分散前のCNTのG/D比を超えることはできない。CNTの平均のG/D比は少なくとも5点測定値を平均した値である。
【0043】
一実施形態において、溶剤に分散させる前のCNTのG/D比に対する、分散液から取り出したCNTのG/D比の減少率が70%以下であることが好ましい。分散液から取り出したCNTのG/D比の減少率が低ければ、CNT分散液の製造工程に起因するCNTの損傷又は欠陥が低減されていることを示す。なお、CNTのG/D比の減少率の下限は特には限定されない。
【0044】
[CNT膜]
上述したCNT分散液を用いて、CNT膜を製造することができる。
図1は、一実施形態に係るCNT膜10を示す模式図である。CNT膜10は、CNT1で構成される。CNT膜10は、CNT1の単体、又はCNT1が凝集した束状の構造体であるバンドル3で構成される。バンドル3においては、局所的にCNT1同士が配向しているが、部分的にCNT1同士が分離した構造を有してもよい。また、CNT1同士が接触する部分(接触部5a)、CNTのバンドル3同士が接触する部分(接触部5b)及びCNT1とCNTのバンドル3が接触する部分(接触部5c)の一つ以上を備える。これにより、CNT1は、全体として網目状の構造であるネットワークを構成する。このCNTのネットワークにおいては、接触部5aにおいてCNT1とCNT1との電気的接続、接触部4bにおいてバンドル3とバンドル3との電気的接続及び接触部5cにおいてCNT1とCNTのバンドル3との電気的接続を提供し、ネットワーク全体に導電性を付与する。
【0045】
一実施形態において、CNT膜10に含まれるCNT1は、平均のG/D比が20以上である。CNTのG/D比の測定方法には、上述した測定方法を用いることができる。本実施形態においては、CNT分散液の製造工程に起因するCNTの損傷又は欠陥が低減されたCNT膜を提供することができる。
【0046】
[CNT複合膜]
高分子酸を含む上述したCNT分散液を用いて、CNT複合膜を製造することができる。
図2は、一実施形態に係るCNT膜20を示す模式図である。CNT膜20は、CNT1と高分子酸7で構成される。CNT膜20は、CNT1の単体、又はCNT1が凝集した束状の構造体であるバンドル3を含む。高分子酸7が1本のCNT1の単体又はCNTのバンドル3に付着した部分とCNT1が露出している部分とを含む。高分子酸7は、ファンデアワールス力により、CNT1の単体又はCNTのバンドル3の周囲を取り巻くように付着する。
【0047】
バンドル3においては、局所的にCNT1同士が配向しているが、部分的にCNT1同士が分離した構造を有してもよい。また、CNT1同士が接触する部分(接触部5a)、CNTのバンドル3同士が接触する部分(接触部5b)及びCNT1とCNTのバンドル3が接触する部分(接触部5c)の一つ以上を備える。これにより、CNT1は、全体として網目状の構造であるネットワークを構成する。このCNTのネットワークにおいては、接触部5aにおいてCNT1とCNT1との電気的接続、接触部4bにおいてバンドル3とバンドル3との電気的接続及び接触部5cにおいてCNT1とCNTのバンドル3との電気的接続を提供し、ネットワーク全体に導電性を付与する。
【0048】
CNT複合膜20は、高分子酸7とCNTのネットワークを含み、CNT1の周囲に高分子酸7が配置されながらCNT1同士の接触も確保されている。したがって、CNT複合膜20においては、CNT1とCNT1との電気的接続、バンドル3とバンドル3との電気的接続及びCNT1とCNTのバンドル3との電気的接続が高分子酸7によって妨げられない。このため、CNT複合膜20はCNTネットワークにおける電気的な接続を良好にして、電気性能に優れる。
【0049】
一実施形態において、CNT複合膜20に含まれるCNT1は、平均のG/D比が20以上である。CNTのG/D比の測定方法には、上述した測定方法を用いることができる。本実施形態においては、CNT分散液の製造工程に起因するCNTの損傷又は欠陥が低減されたCNT複合膜を提供することができる。
【0050】
一実施形態において、CNT複合膜20に含まれる高分子酸には、上述した高分子酸を用いることができため、詳細な説明は、諸略する。一実施形態において、高分子酸は平均分子量500以上100,000以下のポリアクリル酸であってもよい。また、CNT:ポリアクリル酸の重量比は1:0.5から1:5までであってもよい。CNT複合膜20は、高分子酸自体がドーピング効果を示すため別途ドーパントを追加する必要がないうえに、高分子酸は安定で揮発性もないため、長期的に安定な導電性を示す。また、CNTのみならず高分子酸も分子構造が柔軟であるため、極めて曲げに強い膜を得ることができる。
【実施例】
【0051】
次に、本発明を実施例に基づいて、さらに詳述する。なお、以下の説明は、本発明の理解を容易にするためのものであり、これに限定されるものではない。
【0052】
以下の実施例においては、名城ナノカーボン社の改良直噴熱分解合成(eDIPS)法により合成した単層CNT、産業技術総合研究所のスーパーグロース(SG)法により合成した単層CNT、またはCNano Technology社製造のCnano多層CNT、昭和電工株式会社製のVGCF多層CNTを用いた。また、高分子酸として、富士フィルム和光純薬株式会社製の重量平均分子量5,000又は25,000のPAAを用いた。また、重量平均分子量が1,800のPAAはシグマアルドリッチ社製の試薬を用いた。
【0053】
[表面抵抗]
CNT導電膜の表面抵抗率は、四探針法抵抗率測定装置(ロレスター、株式会社三菱ケミカルアナリテック)により室温、大気中で測定した。
【0054】
[紫外-可視-近赤外透過スペクトル]
紫外-可視-近赤外透過スペクトルは、紫外可視近赤外分光光度計(V-670、日本分光株式会社)で測定した。以下、特に断らない限り、透過率は、550 nmの波長の光を用いた基材の透過率を100%としたときの相対値として示す。
【0055】
[走査型電子顕微鏡]
走査型電子顕微鏡は、株式会社日立ハイテクノロジーズのS4800を用いて測定した。
【0056】
[光学顕微鏡]
光学顕微鏡は、株式会社キーエンスのVH-Z500を用いて測定した。
【0057】
[ラマン分光]
ラマン分光測定は、PerkinElmer社のRamanStation 400を用いて測定した。
【0058】
[実施例1]
本実施例では単独の溶剤を用い、CNTの分散性と分散液の安定性を検討した。単独の溶剤として、水、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、1-ブタノール、又は1,4―ジオキサンを用いた。これらの単独の溶剤40 mlにPAA(重量平均分子量5,000)を10 mg溶解し、次いでCNT(eDIPS)を10 mg添加して混合した。高速撹拌機を用い、この混合液を15000 rpmの回転スピードで30分撹拌し、CNT分散液を得た。
【0059】
参考例として、これらの単独の溶剤40 mlにPAA(重量平均分子量5,000)を10 mg溶解し、次いでCNT(eDIPS)を10 mg添加して混合した。この混合液を1,500 rpmの回転スピードで一晩撹拌した。その後、本分散として、バス型の超音波処理を用いて、処理温度が5℃前後を保つよう冷却しながら超音波照射を行った。得られた混合液をさらに、超音波ホモジナイザーを用いて、処理温度が5℃前後を保つよう冷却しながら超音波照射処理を行い、参考例のCNT分散液を得た。
【0060】
得られたCNT分散液の分散性を光学顕微鏡評価した。また、得られたCNT分散液を室温で静置し、1日後の安定性を評価した。さらにスピンコーターを用いてガラス基板の片面に製膜し、電子顕微鏡によりCNTバンドルや網目構造を評価した。
【0061】
実施例1のCNT分散液の分散性及び安定性を
図3に示す。単独の溶剤のハンセン溶解度パラメータは、ハンセン溶解度パラメータの計算ソフトウェアのHansen Solubility Parameters in Practice (HSPiP 5
th Edition, 2015)に記載されている値を転載した。
【0062】
図3に示すように、2-プロパノール、1-プロパノール及び
1-ブタノールは、撹拌法によるCNTの分散処理において、良好な分散性と高い安定性を示した。一方、エタノールを溶剤として用いる場合、超音波照射処理を用いることにより、分散可能であることが示された。しかし、1,4―ジオキサンを溶剤として用いた場合、超音波照射処理によっても分散するのは困難であった。また、水を溶剤として用いる場合は、超音波照射処理を用いることにより分散可能であることが示されたが、撹拌時に泡が激しく発生するため、効率のよい撹拌処理ができなかった。
【0063】
[実施例2]
本実施例では、混合溶剤として、2種類のアルコール類の溶剤を混合し、その混合比を変化させて、CNT分散液の分散性と安定性を検討した。実施例1と同じ方法で分散液を作製し、分散液の分散性と安定性を評価した。
【0064】
実施例2のCNT分散液の分散性及び安定性を
図4に示す。
図4に示したように、混合溶剤においても、本発明に係る溶剤のHansen溶解度パラメータの範囲に調整することにより、CNT分散液における優れた分散性と高い安定性を得られることが明らかとなった。また、Ra値が小さい方がCNT分散液の分散性がよく、安定性も高いことが示された。
【0065】
[実施例3]
本実施例では混合溶剤として、アルコール類と非アルコール類の1,4-ジオキサン又はMIBKとの混合溶剤について検討した。アルコール類の1-プロパノールと非アルコール類の1,4-ジオキサン又はMIBKを混合のための溶剤として用いて、その混合比を変化させて、実施例1と同じ方法で分散液を調製し、CNT分散液の分散性と安定性を評価した。
【0066】
実施例3のCNT分散液の分散性及び安定性を
図5に示す。
図5に示したように、非アルコール類の溶剤を用いた場合にも、混合溶剤のHansen溶解度パラメータを発明に係る溶剤のHansen溶解度パラメータの範囲になるように、アルコール類の溶剤との混合比を調整することにより、CNT分散液において分散性と安定性を得られることが示された。また、Ra値が小さい方がCNT分散液の分散性がよく、安定性も高いことが示された。
【0067】
[実施例4]
本実施例においては、CNTに対するPAAの添加量及び添加するPAAの平均分子量の違いによる分散性と安定性について検討した。実施例2の1-プロパノールと2―ブタノールの0.5対9.5混合溶剤を40ml用い、実施例1と同じ方法でCNT:PAAの重量比が1:0から1:3となるように混合し、実施例1と同様に撹拌によりCNTを分散した。また、平均重量分子量が1800、5000、25000のPAAをそれぞれ10mg秤量して、1-プロパノールと2―ブタノールの0.5対9.5混合溶剤40 mLに溶解し、これにCNTを10 mg加えて実施例1と同様に撹拌処理により分散した。なお、1-プロパノールと2―ブタノールの0.5対9.5混合溶剤のHansen溶解度パラメータは、dD値が15.8MPa0.5、dP値が5.8MPa0.5、dH値が14.6MPa0.5である。
【0068】
実施例4のCNT分散液の分散性及び安定性を
図6に示す。
図6に示したように、発明に係る溶剤のHansen溶解度パラメータの範囲にある1-プロパノールと2―ブタノールの0.5対9.5混合溶剤を用いた場合、CNT:PAAの重量比を1:0.5まで低下させても、優れた分散性と高い安定性を得られることが明らかとなった。
【0069】
また、比較例として、エタノールと2-プロパノールの1対9の混合溶剤を40ml用い、CNT:PAAの重量比が1:0.8から1:3となるように混合し、参考例と同様に超音波照射処理により分散した。平均重量分子量が1800、5000、25000のPAAをそれぞれ10mg秤量して、エタノールと2-プロパノールの1対9の混合溶剤40 mLに溶解し、これにCNTを10 mg加えて参考例と同様に超音波照射により分散した。なお、エタノールと2-プロパノールの1対9混合溶剤のHansen溶解度パラメータは、dD値が15.8MPa0.5、dP値が6.4MPa0.5、dH値が16.7MPa0.5である。
【0070】
図6に示したように、エタノールと2-プロパノールの1対9の混合溶剤では、PAAの添加量がCNTの添加量より少ない場合には、超音波処理を行っても、分散性が悪く、分散液の安定性が低いことが明らかとなった。
【0071】
[実施例5]
本実施例では、CNT種類の影響を検討した。すなわち、PAA(平均重量分子量5000)250mgを1-プロパノールと2―ブタノールの0.5対9.5混合溶媒50mlに溶解し、次いでeDIPS、SGCNT、CNano、VGCFそれぞれを250mg添加して混合した。この混合液を10000 rpmの回転スピードで60分間撹拌し、0.5重量%のCNT分散液を得た。更に、50ml混合溶剤に対してPAAとVGCFをそれぞれ2,500mg用いて混合した。この混合液を10000 rpmの回転スピードで60分間撹拌し、5重量%CNT分散液を得た。光学顕微鏡を用い分散性と安定性を評価した。
【0072】
実施例5のCNT分散液の分散性及び安定性を
図7に示す。
図7に示したように、発明に係る溶剤のHansen溶解度パラメータの範囲にある1-プロパノールと2―ブタノールの0.5対9.5混合溶剤と用いた場合、種類の異なるSGCNT又はVGCFに対しても分散性と安定性が得られることが明らかとなった。また、VGCFの添加量を10倍量である5重量%に変更しても分散性と安定性が得られることが明らかとなった。
【0073】
CNanoについては、他のCNTに比して分散性および安定性がやや低い結果となった。これは、CNanoが、他のCNTとはHansen溶解度パラメータがわずかにずれているためであると推察される。
【0074】
[実施例6]
本実施例では、分散処理条件によるCNTへのダメージを検討した。1-プロパノールと2―ブタノールの0.5対9.5の混合溶媒40mlに対して、PAAとCNT(eDIPS)をそれぞれ10mg用いた。混合液を15000rpmの回転スピードで撹拌時間20分と60分でそれぞれ分散液を調製した。スピンコーターを用いてガラス基板の片面にCNT膜を製膜し、ラマン分光法測定によりCNTの品質を評価した。比較例として、エタノールと2-プロパノールの1対9の混合溶媒を40ml、PAAとCNT(eDIPS)をそれぞれ10mg用いて、参考例と同様に超音波照射処理により分散した。また、分散前のCNT原料(eDIPS)のラマンスペクトルも測定した。
【0075】
図8にラマン分光法測定結果を示す。得られたCNTのラマンスペクトルにおいて、1590cm
-1付近にグラファイト構造に由来のG-bandと1320cm
-1付近に欠陥由来のD-bandのピークが検出された。これらのピークを用いてCNTの結晶性の純度や欠陥濃度を評価するため、G/D比を算出した。結果を表1に示す。
【表1】
【0076】
CNT原料ではD-bandピークがほとんど確認できず、G/D比も89と高いため、高い結晶性を示していることが明らかである。撹拌分散処理20分後の成膜ではG/D比は48であり、高い結晶性を維持したことがわかった。また更に撹拌分散処理60分後の成膜でもG/D比は37であり、撹拌処理の時間に従い、CNTの欠陥が増えたことが確認できた。一方、超音波照射による分散法では、10分の処理でもD-bandが高くなり、G/D比も10までに減少した。これらの結果から、撹拌法による分散処理ではCNTへのダメージを大幅に抑制することが明らかとなった。
【0077】
[実施例7]
本実施例では、分散処理方法によるCNT膜の導電率の変化を検討した。実施例6に記載された方法で超音波照射処理と撹拌処理(撹拌時間20分)による分散液をそれぞれ作製した。得られたCNT分散液を用いて、スピンコーターによりガラス基板の片面にCNT膜を製膜した。膜厚や透過率はスピンコーターの回転数を変更することにより調整した。その後、ホットプレート(100℃、10分)で溶剤を除去し、CNT膜を完全に乾燥させることによりCNT透明導電膜を得た。CNT透明導電膜のシート抵抗値と、波長が550 nmにおける透過率(基材の透過率を100%としたときの相対値)の関係を
図9に示す。また、代表的な透過率を有するCNT透明導電膜のシート抵抗値を表2に示す。
【表2】
【0078】
撹拌処理で作製したCNT分散液で作製したCNT膜のシート抵抗は、超音波照射法を行ったCNT膜のシート抵抗より低かった。この結果から、撹拌処理による分散方法を用いることにより、CNTへのダメージが少なく、CNTの高結晶性及び高導電性が維持されることが明らかとなった。
【0079】
[実施例8]
本実施例では、分散処理方法によるCNT分散性を検討した。撹拌法で作製した実施例6のCNT複合膜のSEM像を
図10に示し、超音波照射処理により作製した比較例のCNT複合膜のSEM像を
図11に示す。なお、
図10及び
図11において、(b)は(a)の拡大図である。撹拌処理で得られたCNT複合膜におけるCNTのバンドルの太さ、分布またはCNTのネットワーク構造は、超音波照射処理により作製した比較例のCNT複合膜におけるCNTのバンドルの太さ、分布またはCNTのネットワーク構造とほぼ同じであり、撹拌処理で十分なCNTの分散性が得られることが明らかとなった。
【0080】
[実施例9]
本実施例では、分散剤であるPAAを添加しないCNTの分散性を検討した。実施例4で作製したCNT(eDIPS):PAAの重量比が1:0のCNT分散液(PAA添加せず)をガラス上に成膜し、SEMで観察した。
図12に実施例9のCNT膜のSEM像を示す。分散剤であるPAAを添加しなくても、発明に係る溶剤のHansen溶解度パラメータの範囲にある溶剤を用いて撹拌処理することにより、CNTの分散性が得られることが明らかとなった。
【符号の説明】
【0081】
1:CNT、3:バンドル、5a:接触部、5b:接触部、5c:接触部、7:高分子酸、10:CNT膜、20:CNT複合膜