(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-24
(45)【発行日】2024-02-01
(54)【発明の名称】テーブル類
(51)【国際特許分類】
A47B 13/08 20060101AFI20240125BHJP
【FI】
A47B13/08 A
(21)【出願番号】P 2019170246
(22)【出願日】2019-09-19
【審査請求日】2022-09-05
(73)【特許権者】
【識別番号】304021277
【氏名又は名称】国立大学法人 名古屋工業大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000578
【氏名又は名称】名古屋国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 孝紀
【審査官】川村 大輔
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-291430(JP,A)
【文献】実開昭55-158924(JP,U)
【文献】特開2003-275036(JP,A)
【文献】米国特許第04281602(US,A)
【文献】意匠登録第1223338(JP,S)
【文献】特開2005-111092(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A47B 1/00-41/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
天板を含むテーブル類であって、前記天板はその前端部に沿った略柱形状の前縁を備え、前記前縁の断面形状は略円形であ
り、
前記略円形は前記天板の上前端を始点とし、前記始点に対応した終点は前記天板の下面との交点であり、
前記略円形は半径が16mm~18mmの円形であり、前記円形の部分の直径は前記天板の厚みより大であり、
前記円形の部分は、前記天板の下面より下方に、14mm~18mm張り出していることを特徴とするテーブル類。
【請求項2】
ダイニングテーブル、作業用テーブル、食事用テーブル、又は打合せ用テーブルである請求項
1に記載のテーブル類。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、天板が有する前縁を利用したテーブル類に関する。
【背景技術】
【0002】
高齢者となって脚力が低下すると、高齢者がテーブル類と組み合わされた椅子に座った状態から立ち上がろうとするとき、脚力の低下を補うために、補助部材が利用されることがある。
【0003】
特許文献1には、補助天板や天板の前縁部に下方に突出する突出部を設け、使用者が突出部を掴んで身体を引き寄せたりする動作を行うことができる事が記載されている。また特許文献2には、天板の一部を昇降させたり傾けたりすることができるスタンディングテーブルが記載されている。
【0004】
特許文献3には、指先の挿入孔を天板の周端部にその端縁に沿わせて設けて、挿入孔に沿って隣接する前記端縁側の天板部分を手摺としたテーブルが記載され、図面より端縁側の天板は断面が略円形である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2011-182877号公報
【文献】登録実用新案03206215号公報
【文献】特開2003-275036号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、補助部材としては補助手すり等があるが、補助部材の使用は、新たな補助部材を用意するために、コストがかかったり、補助部材を保管する場所や手間が必要となったりして、望ましくない場合がある。
そこで、本発明は、補助部材を使わなくても、テーブル類が有する前縁を利用して、高齢者が立ち上がり動作をしやすくすることができるテーブル類を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決する本発明は以下の通りである。
(1)天板を含むテーブル類であって、前記天板はその前端部に沿った略柱形状の前縁を備え、前記前縁の断面形状は略円形であることを特徴とするテーブル類である。
(2)前記略円形は前記天板の上前端又は下前端を始点とし、前記始点に対応した終点はそれぞれ前記天板の下面又は上面との交点であることを特徴とする(1)に記載のテーブル類ある。
(3)前記略円形はそれぞれの上端が前記上前端から下端が前記下前端まで移動した範囲の略円形であることを特徴とする(1)又は(2)に記載のテーブル類である。
(4)前記略円形は半径が16mm~20mmの円形であることを特徴とする(1)~(3)に記載のテーブル類である。
(5)ダイニングテーブル、作業用テーブル、食事用テーブル、又は打合せ用テーブルである(1)~(4)に記載のテーブル類である。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、補助部材を使わなくても、高齢者がテーブル類の前縁を利用して、立ち上がり動作をしやすくすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の一つの実施形態であるダイニングテーブルについて、ダイニングテーブルの天板が備える前縁の位置を模式的に示した図である。
【
図2】テーブル類が備える前縁の断面形状が円形である場合について、(A-1)円形の始点が天板の上前端、終点が天板の下面であるもの、(A-2)円形の始点が天板の下前端、終点が天板の上面であるもの、(B)その円形が(A-1)から(A-2)に移動する場合においてその移動変位が半分であるときのものを、それぞれ示した図である。
【
図3】被験者を青年として前縁が様々な断面形状である場合(三角形、四角形、円形、円柱)の試験条件と、その調査結果をまとめて示した図である。
【
図4】前縁の断面形状が円形であって、その半径R(直径)を変化させたものをまとめて示した図である。
【
図5】被験者を青年、高齢者として腰関節角度の測定の条件等を示した図である。
【
図6】
図5に記載された被験者が、
図4に示した前縁を使用した場合の印象評価の評価結果を示した図である。
【
図7】
図5に記載された被験者が、
図4に示した前縁を使用した場合の最大腰関節角度の評価結果を示した図である。
【
図8】(A)高齢者がダイニングテーブルの前縁を利用して立ち上がるときの様子、(B)高齢者が立ち上がり補助手すりを利用して立ち上がるときの様子を、それぞれ示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照しつつ本発明の実施の形態について説明する。本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、発明の範囲を逸脱しない限りにおいて、変更、修正、改良を加え得るものである。
【0011】
図1に示すように、前縁21はダイニングテーブル1の使用者特に高齢者が、前縁21を利用して椅子に座った状態から容易に立ち上がることができるようにする観点から、ダイニングテーブル1の天板10の前端部12に沿って設けられる。またその観点から前縁21の形状は、使用者が前縁21をつかみやすくするため略柱形状である。
【0012】
図8(A)は、高齢者30がダイニングテーブル2の前縁22を利用して立ち上がるときの様子を示した図である。この場合には前縁22を利用するため、前縁22がない場合と対比すると、高齢者30は椅子3から用意に立ち上がることできる。一方、同(B)高齢者31が立ち上がり補助手すり32を利用して立ち上がるときの様子を示した図である。この場合には、椅子4の他に立ち上がり補助手すり32が必要となる。
【0013】
前縁を備えるテーブル類としては高齢者の普段使用の観点から、ダイニングテーブル作業用テーブル、食事用テーブル、又は打合せ用テーブルが好ましい。
【0014】
前縁21が略柱形状であるとき、その断面形状は略円形となる。略円形では、木材加工の容易さの観点から円形が好ましい。
【0015】
図2(A-1)は、前縁22の断面形状が円形である場合について、円形の始点13が天板11の上前端15にあり、円形の終点14が天板11の下面18にあるもの(以下、「丸下」と略す場合がある)を示している。また、同(A-2)は、円形の始点13´が天板11の下前端16にあり、円形の終点14´が天板の上面17であるもの(以下、「丸上」と略す場合がある)を示している。同(B)は、円形が(A-1)のものから(A-2)のものに移動する場合において、その移動変位が半分であるときのものを示した図である。このとき、天板11の厚みを半分に分ける仮想線Lの延長は円形の直径を与えることになる。テーブルとしての使いやすさの観点からは、
図2(A-1)が好ましく、高齢者が指をかけやすいという観点からは、(A-2)の場合が好ましい。また、それら二つを兼ね備えるという観点からは、同(B)が好ましい。
【実施例】
【0016】
図3は、被験者を青年として前縁が様々な断面形状である場合の試験条件と、その調査結果をまとめて示した図である。青年としては男性5名、女性5名であり、その平均年齢(歳)、平均身長(cm)、平均上肢長(cm)及び平均手の大きさ(cm)、そして調査概要(7パターンのテーブル前縁に対して順位法を用いた印象評価、印象評価とは、被験者が印象の良かった順番に1~7の順位を与える評価法である)、前縁の断面形状(三角形(比較例1)、四角形(比較例2)、円形及び円柱(比較例3))と、それらの太さ・寸法(7パターン)等は
図3に示したようである。
【0017】
その結果、平均順位が上位の2パターンは、断面形状が円形もの(太さ(直径)が30mm(平均順位2.0)、太さ(直径)が35mm(平均順位3.3))であった。そのため、以下の評価試験では、断面形状が円形の前縁を用いた。断面形状が三角形(比較例1)、四角形(比較例2)と円柱(比較例3)であるときには、断面形状はそれぞれ頂点となるいわゆる角がたった箇所を有することにより、平均順位が劣る結果となったと推定された。そのことからすると、前縁の断面形状には角がたった箇所を有しない略円形が好ましい。
【0018】
図4は、評価試験に用いた、厚み18mmの天板、断面形状が円形の前縁であって、その円形の半径Rを変化させたものをまとめて示した図である。円形の半径Rが9~20mm(直径が18~40mm)であり、それぞれに対して丸下及び丸上について評価試験を行った。但し、円形の半径Rが9mmのときは、天板の厚みと円形の直径が同じになるので、丸下と丸上という区別はなかった。
【0019】
図5は、被験者を青年、高齢者とした腰関節角度の測定の条件等を示した図であり、青年としては男性8名、女性8名、高齢者としては男性3名、女性5名であって、それぞれの平均年齢(歳)、平均身長(cm)、平均上肢長(cm)が記載されている。腰関節角度の計測は、モーションキャプチャ(MC)を用い、
図5にその調査環境や調査風景を示した。腰関節角度は被験者の立上動作に従って変化するが、その最大の計測値を最大腰関節角度とした。最大腰関節角度(計測角度)が小さいと、安定した立上動作が可能となる。
【0020】
なお、モーションキャプチャ(MC)の概要について、メーカはMicrosoft社、プラットフォームはXbox One、カラーカメラ解像度は1920×1080、深度センサー方式はToF、音響入力はマルチアイ・マイクロフォン、接続はUSB3.0であった。
【0021】
図6に、
図5に記載された被験者が
図4に示した前縁を使用した場合の印象評価の評価結果を示した。
図6に記載の「18」、「丸下20」等とは、それぞれ
図4に記載の直径18mm、下(上段)直径20mm等のことである。
印象評価について青年平均は3.1(18)~2.6(丸上40)であり、高齢者平均は2.4(18)~3.5(丸上40)であった。青年最高評価は3.7(丸下28)、青年最低評価は2.6(丸上40)であり、高齢者最高評価は3.9(丸上32)、高齢者最低評価は2.4(18)であった。また、高齢者の印象評価は丸上24~丸上40の範囲で3.4~3.9と高かった。
【0022】
図7に、
図5に記載された被験者が、
図4に示した前縁を使用した場合の最大腰関節角度を示した。
図8に記載の「18」、「丸下20」等とは、
図6と同様に、それぞれ
図4に記載の直径18mm、下(上段)直径20mm等のことである。
最大腰関節角度について青年平均は127.0(18)~123.6(丸上40)であり、高齢者平均は125.0(18)~123.9(丸上40)であった。青年最小値(青年での最小値)は121.1(丸下24)、青年最大値(青年での最大値)は127.6(丸上32)であり、高齢者最小値(高齢者での最小値)は120.1(丸下36)、高齢者最大値(高齢者での最大値)は130.5(丸下20)であった。また、高齢者の最大腰関節角度は丸下32~丸下36の範囲で120.1(丸下36)~123.6(丸上32)と低かった。
【0023】
図7から高齢者にとって18、丸上20、丸下32~丸上40が好ましく、
図6から高齢者にとって丸上24~丸上40であった。それらを総合すると、丸下32~丸上40であった。
【産業上の利用可能性】
【0024】
テーブル類と組み合わされた椅子に座った状態の高齢者が、立ち上がりやくすることができるテーブル類として利用可能である。
【符号の説明】
【0025】
1、2:ダイニングテーブル
3、4:椅子
10、11:天板
12:前端部
15:上前端
16:下前端
17:上面
18:下面
19、19´:斜面部
13、13´:円形の始点
14、14´:円形の終点
21、22、23、24:前縁
30、31:高齢者
32:立ち上がり補助手すり