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特許7426071気泡検出装置、気泡検出方法およびそのプログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-24
(45)【発行日】2024-02-01
(54)【発明の名称】気泡検出装置、気泡検出方法およびそのプログラム
(51)【国際特許分類】
   G01N 29/036 20060101AFI20240125BHJP
   G01V 1/00 20240101ALI20240125BHJP
【FI】
G01N29/036
G01V1/00 A
【請求項の数】 16
(21)【出願番号】P 2019228192
(22)【出願日】2019-12-18
(65)【公開番号】P2021096181
(43)【公開日】2021-06-24
【審査請求日】2022-10-14
(73)【特許権者】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(72)【発明者】
【氏名】グェン タン ヴィン
(72)【発明者】
【氏名】岡田 浩尚
(72)【発明者】
【氏名】一木 正聡
【審査官】村田 顕一郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-051700(JP,A)
【文献】特開2005-337937(JP,A)
【文献】特開2015-102416(JP,A)
【文献】特開2012-137468(JP,A)
【文献】特開平10-073575(JP,A)
【文献】特開2006-337095(JP,A)
【文献】米国特許第06408679(US,B1)
【文献】米国特許出願公開第2017/0356882(US,A1)
【文献】特表2011-506938(JP,A)
【文献】佐藤 強,液滴塗布ヘッド内の気泡検出に関する研究,精密工学会誌,2011年09月05日,Vol.77 No.9,p.861-867
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 29/036
G01V 1/00
B41J 2/01-2/215
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体または液滴中に含まれる気泡を検出する装置であって、
前記液体または液滴に接触可能に設けられ、該液体または液滴中の音波を検知する微小電気機械システム(MEMS)音響センサであって、前記液体または液滴に接触する開口部の少なくとも一部を覆う弾性要素を有し、該弾性要素は前記気泡による音波に応じて湾曲し、該湾曲に応じた歪みを検出する歪み検出層が形成されてなる、前記MEMS音響センサと、
前記検知した音波に応じて生成される前記MEMS音響センサからの出力信号を解析する信号解析部と、を備え、
前記信号解析部は、前記出力信号の周波数特性を求めて周期的な変動を検出する検出部を有し、
前記検出部は、前記周期的な変動を検出した場合は、前記液体または液滴に気泡が含まれると判定する、前記装置。
【請求項2】
液体または液滴中に含まれる気泡を検出する装置であって、
前記液体または液滴に接触可能に設けられ、該液体または液滴中の音波を検知する微小電気機械システム(MEMS)音響センサであって、前記液体または液滴に接触する開口部の少なくとも一部を覆う弾性要素を有し、該弾性要素は前記気泡による音波に応じて湾曲し、該湾曲に応じた歪みを検出する歪み検出層が形成されてなる、前記MEMS音響センサと、
前記検知した音波に応じて生成される前記MEMS音響センサからの出力信号を解析する信号解析部と、を備え、
前記信号解析部は、前記出力信号の周波数特性を求めて周期的な変動を検出する検出部を有し、
前記検出部は、前記出力信号の周波数特性のエネルギーのピークの周波数を取得することによって前記出力信号の周期的な変動を検出し、
前記信号解析部は、予め求めた前記出力信号の周期的な変動の波形部分のエネルギーのピークの周波数と気泡の大きさとの関係を参照して、前記検出部で取得したピークの周波数から、前記気泡の大きさを推定する推定部を更に有する、前記装置。
【請求項3】
液体または液滴中に含まれる気泡を検出する装置であって、
前記液体または液滴に接触可能に設けられ、該液体または液滴中の音波を検知する微小電気機械システム(MEMS)音響センサであって、前記液体または液滴に接触する開口部の少なくとも一部を覆う弾性要素を有し、該弾性要素は前記気泡による音波に応じて湾曲し、該湾曲に応じた歪みを検出する歪み検出層が形成されてなる、前記MEMS音響センサと、
前記検知した音波に応じて生成される前記MEMS音響センサからの出力信号を解析する信号解析部と、
前記液体を対象物の表面に滴下または噴射して液滴を生成する液滴生成部と、を備え、
前記信号解析部は、前記出力信号の周波数特性を求めて周期的な変動を検出する検出部を有し
前記MEMS音響センサは、該MEMS音響センサが設けられた前記対象物の表面に前記液滴が衝突した際に発生する音波を検知する、前記装置。
【請求項4】
前記検出部は、前記出力信号において、前記液滴が前記対象物の表面に衝突した最初のピークの後の前記周期的な変動を検出する、請求項3記載の装置。
【請求項5】
液体または液滴中に含まれる気泡を検出する装置であって、
前記液体または液滴に接触可能に設けられ、該液体または液滴中の音波を検知する微小電気機械システム(MEMS)音響センサであって、前記液体または液滴に接触する開口部の少なくとも一部を覆う弾性要素を有し、該弾性要素は前記気泡による音波に応じて湾曲し、該湾曲に応じた歪みを検出する歪み検出層が形成されてなる、前記MEMS音響センサと、
前記検知した音波に応じて生成される前記MEMS音響センサからの出力信号を解析する信号解析部と、
前記液体に圧力を印加する圧力印加部と、
を備え、
前記信号解析部は、前記出力信号の周波数特性を求めて周期的な変動を検出する検出部を有し、
前記圧力印加部が前記液体に圧力を印加することによって、前記MEMS音響センサは、前記液体に含まれる気泡の振動による音波を検知する、前記装置。
【請求項6】
前記液体を収容するシリンジを更に備え、
前記MEMS音響センサは、該シリンジの内壁面に配置されてなる、請求項5記載の装置。
【請求項7】
前記検出部は、前記周期的な変動を検出した場合は、前記液体または液滴に気泡が含まれると判定する、請求項2および3~6のうちいずれか1項記載の装置。
【請求項8】
前記検出部は、前記出力信号の周波数特性のエネルギーのピークの周波数を取得することによって前記出力信号の周期的な変動を検出し、
前記信号解析部は、予め求めた前記出力信号の周期的な変動の波形部分のエネルギーのピークの周波数と気泡の大きさとの関係を参照して、前記検出部で取得したピークの周波数から、前記気泡の大きさを推定する推定部を更に有する、請求項1および3~6のうちいずれか1項記載の装置。
【請求項9】
液体または液滴中に含まれる気泡を検出する方法であって、
前記液体または液滴に接触可能に設けた微小電気機械システム(MEMS)音響センサであって、前記液体または液滴に接触する開口部の少なくとも一部を覆う弾性要素を有し、該弾性要素は前記気泡による音波に応じて湾曲し、該湾曲に応じた歪みを検出する歪み検出層が形成されてなる、前記MEMS音響センサによって、該液体中を伝搬する音波を検知するステップと、
前記検知した音波に応じて生成される前記MEMS音響センサからの出力信号を解析するステップであって、該出力信号の周波数特性を求めて周期的な変動を検出し、前記周期的な変動を検出した場合は、前記液体または液滴に気泡が含まれると判定する、該ステップと、を含む前記方法。
【請求項10】
液体または液滴中に含まれる気泡を検出する方法であって、
前記液体または液滴に接触可能に設けた微小電気機械システム(MEMS)音響センサであって、前記液体または液滴に接触する開口部の少なくとも一部を覆う弾性要素を有し、該弾性要素は前記気泡による音波に応じて湾曲し、該湾曲に応じた歪みを検出する歪み検出層が形成されてなる、前記MEMS音響センサによって、該液体中を伝搬する音波を検知するステップと、
前記検知した音波に応じて生成される前記MEMS音響センサからの出力信号を解析するステップであって、該出力信号の周波数特性を求めて周期的な変動を検出する、該ステップと、を含み、
前記解析するステップにおいて、前記出力信号の周波数特性のエネルギーのピークの周波数を取得することによって前記出力信号の周期的な変動を検出し、
予め求めた前記出力信号の周期的な変動の波形部分のエネルギーのピークの周波数と気泡の大きさとの関係を参照して、前記取得したピークの周波数から、前記液体または液滴中の気泡の大きさを推定するステップを更に含む、前記方法。
【請求項11】
液体または液滴中に含まれる気泡を検出する方法であって、
前記液体を対象物の表面に滴下または噴射して液滴を生成するステップと、
前記液体または液滴に接触可能に設けた微小電気機械システム(MEMS)音響センサであって、前記液体または液滴に接触する開口部の少なくとも一部を覆う弾性要素を有し、該弾性要素は前記気泡による音波に応じて湾曲し、該湾曲に応じた歪みを検出する歪み検出層が形成されてなる、前記MEMS音響センサによって、該液体中を伝搬する音波を検知するステップと、
前記検知した音波に応じて生成される前記MEMS音響センサからの出力信号を解析するステップであって、該出力信号の周波数特性を求めて周期的な変動を検出する、該ステップと、を含み、
前記MEMS音響センサは、該MEMS音響センサが設けられた前記対象物の表面に前記液滴が衝突した際に発生する音波を検知する、前記方法。
【請求項12】
液体または液滴中に含まれる気泡を検出する方法であって、
圧力印加部によって前記液体に圧力を印加するステップと、
前記液体または液滴に接触可能に設けた微小電気機械システム(MEMS)音響センサであって、前記液体または液滴に接触する開口部の少なくとも一部を覆う弾性要素を有し、該弾性要素は前記気泡による音波に応じて湾曲し、該湾曲に応じた歪みを検出する歪み検出層が形成されてなる、前記MEMS音響センサによって、該液体中を伝搬する音波を検知するステップと、
前記検知した音波に応じて生成される前記MEMS音響センサからの出力信号を解析するステップであって、該出力信号の周波数特性を求めて周期的な変動を検出する、該ステップと、を含み、
前記液体に圧力を印加することによって、前記MEMS音響センサは、前記液体に含まれる気泡の振動による音波を検知する、前記方法。
【請求項13】
コンピュータに、
液体または液滴に接触可能に設けた微小電気機械システム(MEMS)音響センサであって、前記液体または液滴に接触する開口部の少なくとも一部を覆う弾性要素を有し、該弾性要素は液体または液滴に含まれる気泡による音波に応じて湾曲し、該湾曲に応じた歪みを検出する歪み検出層が形成されてなる、前記MEMS音響センサが検知した、前記液体または液滴を伝搬する音波に応じて生成される前記MEMS音響センサからの出力信号を解析するステップであって、該出力信号の周波数特性を求めて周期的な変動を検出し、前記周期的な変動を検出した場合は、前記液体または液滴に気泡が含まれると判定する、該ステップを実行させるプログラム。
【請求項14】
コンピュータに、
液体または液滴に接触可能に設けた微小電気機械システム(MEMS)音響センサであって、前記液体または液滴に接触する開口部の少なくとも一部を覆う弾性要素を有し、該弾性要素は液体または液滴に含まれる気泡による音波に応じて湾曲し、該湾曲に応じた歪みを検出する歪み検出層が形成されてなる、前記MEMS音響センサが検知した、前記液体または液滴を伝搬する音波に応じて生成される前記MEMS音響センサからの出力信号を解析し、該出力信号の周波数特性を求めて周期的な変動を検出するステップであって、前記出力信号の周波数特性のエネルギーのピークの周波数を取得することによって前記出力信号の周期的な変動を検出するステップと、
予め求めた前記出力信号の周期的な変動の波形部分のエネルギーのピークの周波数と気泡の大きさとの関係を参照して、前記取得したピークの周波数から、前記液体または液滴中の気泡の大きさを推定するステップと、を実行させるプログラム。
【請求項15】
コンピュータに、
液体または液滴に接触可能に設けた微小電気機械システム(MEMS)音響センサであって、前記液体または液滴に接触する開口部の少なくとも一部を覆う弾性要素を有し、該弾性要素は液体または液滴に含まれる気泡による音波に応じて湾曲し、該湾曲に応じた歪みを検出する歪み検出層が形成されてなり、前記液体を対象物の表面に滴下または噴射して生成した液滴を伝搬する音波に応じて生成される前記MEMS音響センサからの出力信号を解析し、該出力信号の周波数特性を求めて周期的な変動を検出するステップであって、前記MEMS音響センサは、該MEMS音響センサが設けられた前記対象物の表面に前記液滴が衝突した際に発生する音波を検知する該ステップ、を実行させるプログラム。
【請求項16】
コンピュータに
液体または液滴に接触可能に設けた微小電気機械システム(MEMS)音響センサであって、前記液体または液滴に接触する開口部の少なくとも一部を覆う弾性要素を有し、該弾性要素は気泡による音波に応じて湾曲し、該湾曲に応じた歪みを検出する歪み検出層が形成されてなり、圧力印加部によって圧力を印加された前記液体に含まれる気泡の振動による音波に応じて生成される前記MEMS音響センサからの出力信号を解析するステップであって、該出力信号の周波数特性を求めて周期的な変動を検出する該ステップを実行させるプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体中の気泡を検出および計測する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、液体中の微小量の気泡を検出する手法として、超音波検出装置が知られている。超音波検出装置は、また、液体が通液される導管に超音波検出手段を装着して、導管内に混入した気泡を検出、または定量するものである。受信装置側の超音波の受信レベルによって、導管内の気泡を検出または定量する(例えば、特許文献1参照。)。
【0003】
また、ディスペンサ装置において、シリンジ内に充填された液体中の気泡の有無を、液体に圧力を印加するプランジャの位置により検出する手法が知られている(例えば、特許文献2参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2004-325350号公報
【文献】特開2013-237019号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1の超音波検出装置では、導管内の液体が静止している場合には気泡を検知できず、また固体表面の液滴中の気泡を検出できないという問題がある。特許文献2のディスペンサ装置ではプランジャの変位を正確に計測することは困難であり、その構造も複雑になるという問題がある。
【0006】
本発明の目的は、液体中に含まれる気泡を容易に検出可能な装置、方法およびプログラムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様によれば、液体中に含まれる気泡を検出する装置であって、上記液体に接触可能に設けられ、上記液体中の音波を検知する微小電気機械システム(MEMS)音響センサと、上記検知した音波に応じて生成される上記MEMS音響センサからの出力信号を解析する信号解析部と、を備え、上記信号解析部は、上記出力信号の周波数特性を求めて周期的な変動を検出する検出部を有する、上記装置が提供される。
【0008】
上記態様によれば、液体中の音波をMEMS音響センサが検知し、その音波に応じて生成されるMEMS音響センサからの出力信号を信号解析部の検出部で周波数特性を求めて出力信号の周期的な変動を検出することで、液体中の気泡の有無を検出可能な装置を提供できる。
【0009】
本発明の他の態様によれば、液体中に含まれる気泡を検出する方法であって、上記液体に接触可能に設けた微小電気機械システム(MEMS)音響センサによって、上記液体中の音波を検知するステップと、上記検知した音波に応じて生成される上記MEMS音響センサからの出力信号を解析するステップであって、上記出力信号の周波数特性を求めて周期的な変動を検出する、上記ステップと、を含む上記方法が提供される。
【0010】
上記他の態様によれば、液体に接触可能に設けたMEMS音響センサによって液体中の音波を検知して、MEMS音響センサからの出力信号の周波数特性を求めて周期的な変動を検出することで、液体中の気泡の有無を検出可能な方法を提供できる。
【0011】
本発明のその他の態様によれば、コンピュータに、液体に接触可能に設けた微小電気機械システム(MEMS)音響センサが検知した、液体を伝搬する音波に応じて生成される上記MEMS音響センサからの出力信号を解析するステップであって、上記出力信号の周波数特性を求めて周期的な変動を検出する、上記ステップを実行させるプログラムが提供される。
【0012】
上記その他の態様によれば、液体に接触可能に設けたMEMS音響センサによって検知した液体中の音波に応じたMEMS音響センサからの出力信号を解析して出力信号の周波数特性を求めて周期的な変動を検出することで、液体中の気泡の有無を検出可能なプログラムを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の対象物の表面に衝突した液滴中の気泡を検出する原理の説明図である。
図2】本発明の第1の実施形態に係る気泡検出装置の構成を示すブロック図である。
図3】本発明の第1の実施形態に係る気泡検出装置のMEMS音響センサの概略構成を示す斜視図である。
図4】MEMS音響センサの断面図である。
図5】本発明の第1の実施形態に係る気泡検出装置の信号処理部の回路構成を示す図である。
図6】信号解析部のハードウェアの構成を示すブロック図である。
図7】本発明の第1の実施形態に係る気泡検出方法のフローチャートである。
図8】本発明の第2の実施形態に係る気泡検出装置の構成を示すブロック図である。
図9】実施例1の液滴衝突時の(a)信号処理部からの出力信号の波形図および(b)液滴の写真である。
図10】実施例2の液滴衝突時の(a)MEMS音響センサの出力信号の波形図および(b)液滴の写真である。
図11】実施例2の(a)信号処理部からの出力信号の部分拡大波形図および(b)気泡検出部によりFFT処理された周波数スペクトルである。
図12】気泡半径とピーク周波数との関係を示す図である。
【0014】
以下、図面に基づいて本発明の実施形態を説明する。なお、複数の図面間において共通する要素については同じ符号を付し、その要素の詳細な説明の繰り返しを省略する。
【0015】
図1は、本発明の対象物の表面に衝突した液滴中の気泡を検出する原理を説明するための図である。図1を参照するに、液滴DRを滴下すると、対象物の表面に衝突後すぐに跳ね上がり、その際に対象物の表面の性状により空気を巻き込んで気泡が発生する。液滴中で気泡が振動して音波として液滴中を伝搬する。音波の周波数は、気泡の大きさに依存することが知られている(W. Lauterborn, T. Kurz, Rep. Prog. Phys. 73 (2010) 106501 (88pp))。
【0016】
本願発明者等は、対象物の表面に微小電気機械システム(MEMS)音響センサを配置し、気泡の周期的な振動による音波を検出することで気泡の発生を検出し、さらに音波の周波数特性のエネルギーのピークの周波数に基づいて気泡の大きさ、例えば半径を計測できることを知徳した。後ほど説明するように、この検出手法は液体に雰囲気圧力よりも大きな圧力を作用させることで、液体中の気泡を振動させて検出することも可能である。
【0017】
[第1の実施形態]
図2は、本発明の第1の実施形態に係る気泡検出装置の構成を示すブロック図である。図2を参照するに、第1の実施形態に係る気泡検出装置10は、対象物11の表面11aに配置した微小電気機械システム(MEMS)音響センサ12と、信号処理部13と、信号解析部14とを有する。対象物11は固体、例えば、インクジェット印刷を行う紙である。MEMS音響センサ12は、対象物11の表面11aに配置され、液滴生成部18から滴下された液滴DRが作用する力を検知する。液滴DRがMEMS音響センサ12に作用する力には、上述したように、液滴中の気泡の振動に基づく音波によるものを含む。液体中を伝搬する音波は、伝搬方向に押す機械的な力がMEMS音響センサ12に働く。そのため、液滴DRの少なくとも一部がMEMS音響センサ12に衝突すると、MEMS音響センサ12には、液滴DRの衝突およびリバウンドによる力が働き、さらに、液滴中に気泡が発生した場合は、気泡DRの振動に基づく音波による力が働く。
【0018】
信号処理部13は、MEMS音響センサ12からの液滴DRから作用する力に応じた電気抵抗値の変化を変換して出力信号を信号解析部14に出力する。
【0019】
信号解析部14は、信号処理部13からの出力信号を解析する。信号解析部14は、気泡検出部15を有する。気泡検出部15は、出力信号の周波数特性を求め、周期的な変動を検出する。気泡検出部15は、例えば、出力信号の離散フーリエ変換(DFT)処理、特に高速フーリエ変換(FFT)処理を行い、出力信号の周波数特性のエネルギーのピークの周波数を取得することによって出力信号の周期的な変動を検出する。気泡検出部15は、周期的な変動を検出した場合、液滴DRに気泡が含まれると判定する。気泡検出部15は、判定結果を出力し、例えばディスプレイ(不図示)に表示してもよい。
【0020】
信号解析部14は、気泡サイズ推定部16を有してもよい。気泡サイズ推定部16は、気泡サイズデータ格納部17が格納する予め求めた周期的な変動の波形部分のエネルギーのピークの周波数と気泡の大きさとの関係に関するデータを参照して、気泡検出部15で取得したピークの周波数から、発生した気泡の大きさを推定する。気泡サイズデータ格納部17は、後に示す図11のような、高速度カメラで取得した画像から求めた気泡半径とピーク周波数との回帰式を有してもよく、気泡半径とピーク周波数との対応表を有してもよい。気泡サイズ推定部16は、このようにして得られた気泡の大きさを出力し、例えばディスプレイ(不図示)に表示してもよい。
【0021】
図3は、本発明の一実施形態に係る気泡検出装置のMEMS音響センサの概略構成を示す斜視図である。図4は、MEMS音響センサの図3に示すAA断面図である。なお、図3では、図示の便宜のため図4に示す絶縁層30を省略している。
【0022】
図3および図4を参照するに、MEMS音響センサ12は、対象物11の表面11aに配置される。MEMS音響センサ12は、対象物11の表面11aとMEMS音響センサ12とが連続するように配置されることが好ましい。MEMS音響センサ12は、枠状のシリコン基板20と、その上に酸化シリコン層21と、シリコン層22とがこの順に積層されている。MEMS音響センサ12は、開口部20aに、弾性要素としてカンチレバー23が設けられる。カンチレバー23は、基部23aが枠状のシリコン基板20および酸化シリコン層21の積層体に支持され、先端部23bが自由端である。カンチレバー23は、いわゆる片持ち形状を有し、例えば長さが100μm、幅80μmである。カンチレバー23は、弾性を有する材料であれば特に限定されない。カンチレバー23の両側および先端部には、開口部20sが設けられている。開口部20sの幅は例えば1μm以下である。
【0023】
本実施形態において、カンチレバー23には、シリコン層22の表面から深さ方向に、歪み検出層としてピエゾ抵抗層24c、24dが形成される。シリコン層22およびピエゾ抵抗層24c、24dの一部の上に導電層26および電極28、29が形成される。ピエゾ抵抗層24c、24dは、それぞれ、カンチレバー23の基部側の2つの脚部23c、23dに形成される。枠状のシリコン基板20および酸化シリコン層21の積層体の表面には、電極28、29が形成されている。カンチレバー23の表面には、導電層26が形成されている。
【0024】
ピエゾ抵抗層24c、24d、導電層26および電極28、29の表面に絶縁層30が形成され、液滴が導電性の場合に電気的に短絡することを防止する。絶縁層30は、酸化シリコン、パリレン(登録商標)、ゴム材例えばシリコーンゴム等を用いることができる。絶縁層30は、カンチレバー23の振動の阻害しない程度に薄膜であることが好ましい。
【0025】
脚部23cと脚部23dとの間の切り欠き部31は、液滴DRからの力に対するカンチレバー23のたわみを調整して力に対する感度を調整するもので、その幅は適宜選択される。
【0026】
電極28は、脚部23cの基部側において、ピエゾ抵抗層24cの一端に接触して形成されており、ピエゾ抵抗層24cに電気的に接続される。電極29は、脚部23dの基部側において、ピエゾ抵抗層24dの一端に接触して形成されており、ピエゾ抵抗層24dに電気的に接続される。導電層26は、脚部23cの先端部において、ピエゾ抵抗層24cの他端に接触して形成されており、ピエゾ抵抗層24cに電気的に接続される。導電層26は、さらに、脚部23dの先端部において、ピエゾ抵抗層24dの他端に接触して形成されておりピエゾ抵抗層24dに電気的に接続される。これにより、電極28、ピエゾ抵抗層24c、導電層26、ピエゾ抵抗層24dおよび電極29の直列回路が形成される。
【0027】
ピエゾ抵抗層24c、24dは、例えば、シリコン層22に不純物イオン、例えば、リンイオンをドープした領域であり、ピエゾ抵抗層24c、24dに応力が作用すると、歪みが生じ、歪みに応じて電気抵抗値が変化する。カンチレバー23は、液滴DRから受ける力により脚部23c、23dが湾曲し、力の変動に応じて振動する。脚部23c、23dが湾曲すると、ピエゾ抵抗層24c、24dに応力が作用し、歪が発生して、電気抵抗値が変化してピエゾ抵抗層24c、24dの両端間の電気抵抗値Rが変化する。電気抵抗値の変化率ΔR/Rを、後述するホイートストンブリッジ回路により出力信号に変換する。MEMS音響センサ12は、分解能が0.1Pa以下を有している。
【0028】
MEMS音響センサ12は、カンチレバー23の代替例として、その脚部が1つでもよく、3つ以上でもよい。これにより作用する力に応じてカンチレバーの脚部の湾曲の度合いを調整でき、目的とする圧力範囲に応じてMEMS音響センサの選択が可能となる。
【0029】
MEMS音響センサ12は、弾性要素が、カンチレバー23の代わりに、両持ち梁状またはダイアフラム状に形成されてもよい。
【0030】
図5は、本発明の一実施形態に係る気泡検出装置の信号処理部の回路構成を示す図であり、MEMS音響センサのピエゾ抵抗層の電気抵抗も合わせて示している。
【0031】
図5を参照するに、信号処理部13は、ピエゾ抵抗層24c、24dの抵抗Rおよび3つの抵抗R1、R2、R3(各符号は抵抗値も表す。)を含むホイートストンブリッジ回路35と、差動増幅器36とを有する。
【0032】
ホイートストンブリッジ回路35は、ピエゾ抵抗層24c、24dの合成抵抗値R、歪みによる抵抗値の変化をΔRとすると、ホイートストンブリッジ回路35のPQ間の出力電圧VP-Qは、下記式(1)で表される。
P-Q=1/4×ΔR/R×E ・・・(1)
ただし、ホイートストンブリッジ回路35の平衡をとるため、R×R2=R1×R3になるように抵抗値R1、R2、R3を設定する。直流電源はホイートストンブリッジ回路35のAB間に接続され、電圧E(V)である。例えば、E=1V(ボルト)、ΔR/R=0.001であると、VP-Q=0.25mV(ミリボルト)の出力が得られる。
【0033】
出力電圧VP-Qは、ホイートストンブリッジ回路35のPQ間に接続された差動増幅器36によって増幅され、信号解析部14に供給される。
【0034】
信号解析部14は、図2およびその説明で述べた機能を実現して、液滴中の気泡の検出および気泡の大きさを推定する。信号解析部14は、例えば、図6に示すパーソナルコンピュータを用いることができる。
【0035】
図6は、信号解析部のハードウェアの構成を示すブロック図である。図6を参照するに、信号解析部14は、入力インタフェース41と、プロセッサ42と、メモリ43と、これらを接続するバス44とを有する。入力インタフェース41は、信号処理部13からの出力信号が入力され、アナログ信号からデジタル信号に変換するA/D変換器(不図示)を含みバス44を介してプロセッサ42またはメモリ43に伝送する。プロセッサ42は、CPU(Central Processing Unit)、GPU(Graphic Processing Unit)等であり、メモリ43またはプロセッサ42に含まれるメモリに保存されたプログラムにより、上述した気泡検出部15および気泡サイズ推定部16の機能を実現する。プログラムは、出力信号の周波数特性を求めるプログラム、例えば、離散フーリエ変換(DFT)処理、特に高速フーリエ変換(FFT)処理を行うプログラムを含む。信号波形を表示部45に表示するプログラム等を含んでもよい。
【0036】
メモリ43は、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)等であり、例えばフラッシュメモリである。メモリ43は、上記プログラムを格納してもよく、気泡サイズデータ格納部17は、メモリ43の一部の領域に設けてもよく、専用のメモリまたはハードディスク装置(不図示)を設けてもよい。
【0037】
信号解析部14は、入力される信号波形、FFT処理により周波数スペクトル等を表示する表示部45を含んでもよく、プログラムの設定等を行うユーザインタフェース46を含んでもよい。信号解析部14は、解析結果を出力するために無線通信インタフェース48または/および有線通信インタフェース59を有してもよい。
【0038】
信号解析部14は、オシロスコープ、FFT(高速フーリエ変換)アナライザ等を用いて気泡検出部15を構成してもよい。
【0039】
本実施形態に係る気泡検出装置10によれば、液滴生成部18から液体をMEMS音響センサ12が設けられた対象物11の表面11aに滴下または噴射して、液滴が衝突した際に発生する音波をMEMS音響センサ12が検知し、その音波に応じて生成されるMEMS音響センサ12からの出力信号を信号解析部14の気泡検出部15で周波数特性を求め、例えば周波数特性のエネルギーのピークの周波数を取得することによって出力信号の周期的な変動を検出することで、液滴中の気泡の有無を検出できる。さらに、気泡検出装置10によれば、気泡サイズ推定部16は、気泡検出部15が取得した周波数特性のエネルギーのピークの周波数から、気泡サイズデータ格納部17に格納された、予め求めたピークの周波数と気泡の大きさとの関係を参照して、液滴中の気泡の大きさを推定できる。
【0040】
図7は、本発明の一実施形態に係る気泡検出方法のフローチャートである。図7図2とともに参照しつつ、気泡検出方法を説明する。
【0041】
最初に、液滴生成部18によりMEMS音響センサ12が配置された対象物11の表面11aへ液滴DRを滴下する(S100)。具体的には、液滴生成部18、例えばシリンジ内の液体を一滴、対象物11の表面11aに配置されたMEMS音響センサ12に滴下する。液滴DRは対象物の表面形状、表面粗さ、表面の濡れ性等によって衝突後のリバウンドのプロセス、形状、気泡の形成等が異なる。
【0042】
次いで、MEMS音響センサ12によって、液滴中を伝搬する音波を検知する(S110)。具体的には、滴下された液滴DRはMEMS音響センサ12に衝突による力を与え、さらに表面11aでリバウンドすることでMEMS音響センサ12に作用する力が変化する。衝突した液滴DR内に気泡が発生すると、気泡の振動による周期的な振動(つまり、或る周波数)の音波がMEMS音響センサ12に作用する。MEMS音響センサ12は、このような力および音波を検知する。
【0043】
次いで、MEMS音響センサ12からの出力信号を解析して出力信号の周波数特性を求め周期的な変動を検出する(S120)。具体的には、MEMS音響センサ12のピエゾ抵抗層24c、24dの抵抗値変化を信号処理部13で出力信号に変換して増幅し、信号解析部14において高速フーリエ変換処理により、エネルギースペクトルのピークを検出した場合は、液滴に気泡が含まれると判定する。ピークは周波数軸に対して複数個現れる場合もある。
【0044】
次いで、気泡サイズ推定部16は、気泡サイズデータ格納部17に格納された予め求めた出力信号の周期的な変動の波形部分のエネルギーのピークの周波数と気泡の大きさとの関係を参照して、気泡検出部15で取得したピークの周波数から液滴中の気泡の大きさを推定する(S130)。
【0045】
本実施形態に係る気泡検出方法によれば、液滴生成部18によりMEMS音響センサ12が配置された対象物11の表面11aへ液滴DRを滴下して、MEMS音響センサ12からの出力信号の周波数特性を求めて周期的な変動を検出することで、液滴中の気泡の有無を検出できる。さらに、周波数特性のエネルギーのピークの周波数から、気泡サイズデータ格納部17に格納された、予め求めたピークの周波数と気泡の大きさとの関係を参照して、液滴中の気泡の大きさを推定できる。
【0046】
[第2の実施形態]
図8は、本発明の第2の実施形態に係る気泡検出装置の構成を示すブロック図である。
図8を参照するに、第2の実施形態に係る気泡検出装置100は、シリンジ111と、その内壁に配置したMEMS音響センサ12と、信号処理部13と、信号解析部14と、圧力印加部113と、チューブ114とを有する。
【0047】
シリンジ111内には液体LQが収容されており、圧力印加部113によって、チューブ114を介してシリンジ111内の液体LQに所定の増分の圧力を短時間に印加して保持する。例えば、シリンジ111内の気体の圧力が0.1MPa(1気圧)の場合、0.5MPa以下の増分の圧力を短時間(例えば100ms(ミリ秒))で到達するように印加する。これにより、液体中に気泡がある場合は、液体LQへの圧力印加によって液体中の気泡が振動して音波として液体中を伝搬し、MEMS音響センサ12が音波を検知する。
【0048】
信号処理部13および信号解析部14は、第1の実施形態と同様の動作を行う。信号解析部14の気泡検出部15は出力信号の周波数特性を求め、周期的な変動を検出する。気泡検出部15においてFFT処理を行って出力信号の周波数特性のエネルギーのピークの周波数を取得する。信号解析部14の気泡サイズ推定部16は、気泡サイズデータ格納部17に格納された予め求めた出力信号の周期的な変動の波形部分のエネルギーのピークの周波数と気泡の大きさとの関係を参照して、気泡検出部15で取得したピークの周波数から液体LQ中の気泡の大きさを推定する。
【0049】
液体LQ中に大きさの異なる複数の気泡が存在する場合は、気泡検出部15は、複数の周波数の異なるピークを検出する。気泡サイズ推定部16は、気泡検出部15で取得したピークの周波数毎に気泡の大きさを推定する。
【0050】
これにより、気泡検出装置100は、気泡検出部15が気泡の有無を検出可能であり、さらに、液体LQ中に気泡がある場合、気泡サイズ推定部16が個々の気泡の大きさを推定可能である。
【0051】
気泡検出装置100は、液剤吐出を行うディスペンサに適用可能である。気泡検出装置100を備えるディスペンサは、液剤中の気泡の有無を検出することが可能である。気泡がある場合はアラームを立てることによって、気泡の悪影響により吐出量がばらつくことを回避できる。
【0052】
本発明の第2の実施形態に係る気泡検出方法は、図7に示した第1の実施形態の気泡検出方法とほぼ同様であるので、図示を省略する。第2の実施形態に係る気泡検出方法は、図7のS100の代わりに、圧力印加部113によってシリンジ内の液体LQに所定の圧力を印加するステップを行い、次いで、S110~S130の各ステップを行う。これにより、これにより、気泡の有無を検出可能であり、さらに、液体LQ中に気泡がある場合、個々の気泡の大きさを推定可能である。
【0053】
[実施例]
図2に示した第1の実施形態に係る気泡検出装置10を用いてシリコン基板の表面に配置したMEMS音響センサ12に水滴を滴下して衝突時の出力信号を検出および解析した。これとともに高速度カメラ(フォトロン社製 モデルFASTCAM SA-Z、撮影速度50000フレーム/秒)を用いて水滴の撮影を行った。
【0054】
図9は、実施例1の液滴衝突時の(a)信号処理部からの出力信号の波形図および(b)液滴の写真である。(a)は、横軸は時間であり、縦軸はピエゾ抵抗層の両端間の電気抵抗値Rの変化率ΔR/Rに換算した出力を示している。(b)は滴下開始から2m秒、7m秒、8m秒および14m秒経過した時点の液滴を側方から撮影した写真である。
【0055】
実施例1では、直径2.2mmの水滴をシリコン基板の表面に滴下し衝突時の速度を0.64m/sとした場合である。図9(a)および(b)を参照するに、液滴が表面に衝突した時(2m秒)の衝撃により信号処理部13からの出力信号にはピークが現れ、液滴が表面から離れた時(14m秒)に出力信号が0になる。その間の期間には、周期的な変動は現れていない。図9(b)を参照するに、4枚の液滴の画像の全てに気泡が現れていないことが分かる。
【0056】
図10は、実施例2の液滴衝突時の(a)MEMS音響センサの出力信号の波形図および(b)液滴の写真である。実施例2は、直径2.2mmの水滴をシリコン基板の表面に滴下し衝突時の速度を0.50m/sとした場合である。図10(a)および(b)を参照するに、液滴が表面に衝突した時(2m秒)の衝撃により信号処理部13からの出力信号にはピークが現れ、液滴が表面から離れた時(14m秒)に出力信号が0になる。その間の期間において、7.2m秒~9.7m秒において、周期的な変動は現れていることが分かる。図9(b)に示すように、8m秒における画像の液滴には気泡が現れていることが分かる。
【0057】
図11は、実施例2の(a)信号処理部からの出力信号の部分拡大波形図および(b)気泡検出部によりFFT処理された周波数スペクトルである。
【0058】
図11(a)を参照するに、実施例2の信号処理部からの出力信号には明らかに周期的な変動が含まれるので気泡検出部15により気泡が存在することが分かる。図11(b)を参照するに、気泡検出部15によりFFT処理により取得した周波数スペクトルには、12kHzにエネルギースペクトルのピークがあることが分かる。
【0059】
図12は、気泡半径とピーク周波数との関係を示す図である。図12を参照するに、気泡サイズ推定部16は、気泡サイズデータ格納部17に格納された気泡半径rBとピーク周波数fBとの関係を示す回帰式(fB(kHz)=5×106B(μm)-1.02)を参照して、気泡検出部15により取得したエネルギースペクトルのピークの周波数から気泡のサイズを推定する。図11(b)によれば、ピークの周波数が12kHzであるから、気泡サイズは370μmと推定できる。なお、この回帰式は、最小二乗法により求めたものである。
【0060】
以上、本発明の好ましい実施形態について詳述したが、本発明は係る特定の実施形態に限定されるものではなく、請求の範囲に記載された本発明の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。MEMS音響センサ12のピエゾ抵抗層24c、24dの代わりに、ピエゾ圧電層を採用してもよい。ピエゾ圧電層を用いる場合は、図5に示した信号処理部13のホイートストンブリッジ回路35を省略する。
【0061】
なお、以上の説明に関してさらに実施形態として以下の付記を開示する。
(付記1) 液体中に含まれる気泡を検出する装置であって、
上記液体に接触可能に設けられ、上記液体中の音波を検知する微小電気機械システム(MEMS)音響センサと、
上記検知した音波に応じて生成される上記MEMS音響センサからの出力信号を解析する信号解析部と、を備え、
上記信号解析部は、上記出力信号の周波数特性を求めて周期的な変動を検出する検出部を有する、上記装置。
(付記2) 上記検出部は、上記周期的な変動を検出した場合は、上記液体に気泡が含まれると判定する、付記1記載の装置。
(付記3) 上記検出部は、上記出力信号の周波数特性のエネルギーのピークの周波数を取得することによって上記出力信号の周期的な変動を検出し、
上記信号解析部は、予め求めた上記出力信号の周期的な変動の波形部分のエネルギーのピークの周波数と気泡の大きさとの関係を参照して、上記検出部で取得したピークの周波数から、上記液体中の気泡の大きさを推定する推定部を更に有する、付記1または2記載の装置。
(付記4) 上記検出部が、上記出力信号の周波数特性のエネルギーの複数のピークの周波数を取得した場合は、上記推定部は、上記複数のピークの周波数に各々応じた気泡の大きさを推定可能な、付記3記載の装置。
(付記5) 上記液体を対象物の表面に滴下または噴射して液滴を生成する液滴生成部を更に備え、
上記MEMS音響センサは、上記MEMS音響センサが設けられた上記対象物の表面に上記液滴が衝突した際に発生する音波を検知する、付記1~4のうちいずれか一項記載の装置。
(付記6) 上記検出部は、上記出力信号において、上記液滴が上記対象物の表面に衝突した最初のピークの後の上記周期的な変動を検出する、付記5記載の装置。
(付記7) 上記対象物の表面はインクジェット印刷の印刷面である、付記5または6記載の装置。
(付記8) 上記液体に圧力を印加する圧力印加部を更に備え、
上記圧力印加部が上記液体に圧力を印加することによって、上記MEMS音響センサは、上記液体に含まれる気泡の振動による音波を検知する、付記1~4のうちいずれか一項記載の装置。
(付記9) 上記液体を収容するシリンジを更に備え、
上記MEMS音響センサは、上記シリンジの内壁面に配置されてなる、付記8記載の装置。
(付記10) 上記MEMS音響センサは、上記液体または液滴に接触する開口部の少なくとも一部を覆う弾性要素を有し、上記弾性要素は上記気泡による音波に応じて湾曲し、上記湾曲に応じた歪みを検出する歪み検出層が形成されてなる、付記1~9のうちいずれか一項記載の装置。
(付記11) 上記弾性要素は、片持ち梁状、両持ち梁状、またはダイアフラム状に形成されてなる、付記10記載の装置。
(付記12) 上記歪み検出層がピエゾ抵抗層またはピエゾ圧電層である、付記10または11記載の装置。
(付記13) 液体中に含まれる気泡を検出する方法であって、
上記液体に接触可能に設けた微小電気機械システム(MEMS)音響センサによって、上記液体中を伝搬する音波を検知するステップと、
上記検知した音波に応じて生成される上記MEMS音響センサからの出力信号を解析するステップであって、上記出力信号の周波数特性を求めて周期的な変動を検出する、上記ステップと、を含む上記方法。
(付記14) 上記解析するステップにおいて、上記周期的な変動を検出した場合は、上記液体に気泡が含まれると判定する、付記13記載の方法。
(付記15) 上記解析するステップにおいて、上記出力信号の周波数特性のエネルギーのピークの周波数を取得することによって上記出力信号の周期的な変動を検出し、
予め求めた上記出力信号の周期的な変動の波形部分のエネルギーのピークの周波数と気泡の大きさとの関係を参照して、上記取得したピークの周波数から、上記液体中の気泡の大きさを推定するステップを更に含む付記13または14記載の方法。
(付記16) 上記解析するステップにおいて、上記出力信号の周波数特性のエネルギーの複数のピークの周波数を取得した場合は、上記推定するステップにおいて、上記複数のピークの周波数に各々応じた気泡の大きさを推定する、付記15記載の方法。
(付記17) 上記検知するステップの前に、上記液体を対象物の表面に滴下または噴射して液滴を生成するステップを更に含み、
上記MEMS音響センサは、上記MEMS音響センサが設けられた上記対象物の表面に上記液滴が衝突した際に発生する音波を検知する、付記13~16のうちいずれか一項記載の方法。
(付記18) 上記検知するステップの前に、圧力印加部によって上記液体に圧力を印加するステップを更に含み、
上記液体に圧力を印加することによって、上記MEMS音響センサは、上記液体に含まれる気泡の振動による音波を検知する、付記13~16のうちいずれか一項記載の方法。
(付記19) コンピュータに、
液体に接触可能に設けた微小電気機械システム(MEMS)音響センサが検知した、液体を伝搬する音波に応じて生成される上記MEMS音響センサからの出力信号を解析するステップであって、上記出力信号の周波数特性を求めて周期的な変動を検出する、上記ステップを実行させるプログラム。
(付記20) 上記解析するステップにおいて、上記周期的な変動を検出した場合は、上記液体に気泡が含まれると判定する、付記19記載のプログラム。
(付記21) 上記解析するステップにおいて、上記出力信号の周波数特性のエネルギーのピークの周波数を取得することによって上記出力信号の周期的な変動を検出し、
予め求めた上記出力信号の周期的な変動の波形部分のエネルギーのピークの周波数と気泡の大きさとの関係を参照して、上記取得したピークの周波数から、上記液体中の気泡の大きさを推定するステップを更に含む付記19または20記載のプログラム。
(付記22) 上記解析するステップにおいて、上記出力信号の周波数特性のエネルギーの複数のピークの周波数を取得した場合は、上記推定するステップにおいて、上記複数のピークの周波数に各々応じた気泡の大きさを推定する、付記21記載のプログラム。
【符号の説明】
【0062】
10,100 気泡検出装置
12 微小電気機械システム(MEMS)音響センサ
13 信号処理部
14 信号解析部
15 気泡検出部
16 気泡サイズ推定部
17 気泡サイズデータ格納部
18 液滴生成部
113 圧力印加部

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12