(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-24
(45)【発行日】2024-02-01
(54)【発明の名称】エポキシ樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
C08G 59/66 20060101AFI20240125BHJP
C08G 59/68 20060101ALI20240125BHJP
C08L 63/00 20060101ALI20240125BHJP
C09J 163/00 20060101ALI20240125BHJP
H01L 23/29 20060101ALI20240125BHJP
H01L 23/31 20060101ALI20240125BHJP
【FI】
C08G59/66
C08G59/68
C08L63/00 Z
C09J163/00
H01L23/30 R
(21)【出願番号】P 2020500988
(86)(22)【出願日】2019-02-20
(86)【国際出願番号】 JP2019006298
(87)【国際公開番号】W WO2019163818
(87)【国際公開日】2019-08-29
【審査請求日】2021-12-06
(31)【優先権主張番号】P 2018029036
(32)【優先日】2018-02-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】591252862
【氏名又は名称】ナミックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001508
【氏名又は名称】弁理士法人 津国
(72)【発明者】
【氏名】上杉 陽平
(72)【発明者】
【氏名】岩谷 一希
【審査官】藤井 明子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/141347(WO,A1)
【文献】国際公開第2013/080732(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/057019(WO,A1)
【文献】特開平09-015611(JP,A)
【文献】国際公開第2012/093510(WO,A1)
【文献】特開2016-169275(JP,A)
【文献】特開2017-031268(JP,A)
【文献】国際公開第2016/171072(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 59/00-59/72
C08L 1/00-101/14
C08K 3/00-13/08
H01L 23/29
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エポキシ樹脂組成物であって、下記成分(A)~(C):
(A)少なくとも1種の、下記式(1):
【化5】
(式中、
R
1及びR
2は、各々独立に、水素原子、炭素数1~12のアルキル基又はフェニル基からなる群より選択され、
R
3、R
4、R
5及びR
6は、各々独立に、メルカプトメチル基、メルカプトエチル基及びメルカプトプロピル基からなる群より選択される)
で表される化合物である非加水分解性多官能チオール化合物を含むチオール系硬化剤;
(B)下記成分(B-1)
~(B-3):
(B-1)ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、
(B-2)シクロヘキサン型ジグリシジルエーテル、及び
(B-3)ジシクロペンタジエン型ジグリシジルエーテル
からなる群より選択される少なくとも1種の主脂肪族多官能エポキシ樹脂からなる主多官能エポキシ樹脂;並びに
(C)硬化触媒(ただし、1,4-ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン(DABCO)を含む、イソシアネートアダクト型マイクロカプセル化硬化触媒を除く)
を含み、
25℃での粘度が0.05Pa・s以上、3Pa・s以下である、エポキシ樹脂組成物
(ただし、
(a)エポキシ樹脂、(b)下記式:
【化6】
で示される化合物、(c)硬化促進剤、(d)シランカップリング剤を含み、
前記(a)成分のエポキシ樹脂のエポキシ基と前記(b)成分の化合物のチオール基の当量比で1:0.5から1:2.5であり、
前記(d)成分のシランカップリング剤の含有量が、前記(a)成分、前記(b)成分、前記(c)成分、および、前記(d)成分の合計量100質量部に対して0.2質量部から50質量部であり、前記(b)成分の化合物のチオール基と前記(d)成分のシランカップリング剤のSiとの当量比が1:0.002から1:1である、樹脂組成物を除く)。
【請求項2】
前記非加水分解性多官能チオール化合物が、エステル結合を有しない化合物である、請求項1記載のエポキシ樹脂組成物。
【請求項3】
前記式(1)で表される化合物が、1,3,4,6-テトラキス(2-メルカプトエチル)グリコールウリル及び/又は1,3,4,6-テトラキス(3-メルカプトプロピル)グリコールウリルである、請求項1記載のエポキシ樹脂組成物。
【請求項4】
(B’-1)前記主脂肪族多官能エポキシ樹脂以外の脂肪族多官能エポキシ樹脂である、少なくとも1種の補助脂肪族多官能エポキシ樹脂、及び
(B’-2)少なくとも1種の芳香族多官能エポキシ樹脂
からなる群より選択される少なくとも1種を含む(B’)補助多官能エポキシ樹脂を更に含む、請求項1~3いずれか一項記載のエポキシ樹脂組成物。
【請求項5】
単官能エポキシ樹脂を更に含む、請求項1~4いずれか一項記載のエポキシ樹脂組成物。
【請求項6】
前記成分(B)の25℃での粘度が0.3Pa・s以下である、請求項1~5いずれか一項記載のエポキシ樹脂組成物。
【請求項7】
前記成分(C)が潜在性硬化触媒である、請求項1~6いずれか一項に記載のエポキシ樹脂組成物。
【請求項8】
請求項1~7いずれか一項に記載のエポキシ樹脂組成物を含む封止材又は接着剤。
【請求項9】
請求項1~7いずれか一項に記載のエポキシ樹脂組成物、又は請求項8に記載の封止材もしくは接着剤を硬化させることにより得られる硬化物。
【請求項10】
請求項9に記載の硬化物を含む電子部品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エポキシ樹脂組成物、それを含む封止材、それを硬化させて得られる硬化物及びその硬化物を含む電子部品に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、半導体装置に用いられる電子部品、例えば半導体チップの組み立てや装着には、信頼性の保持等を目的として、硬化性樹脂組成物、特にエポキシ樹脂組成物を含む接着剤、封止材等がしばしば用いられる。半導体装置の中でも特に、携帯電話やスマートフォンのカメラモジュールとして使用されるイメージセンサモジュールは、レンズ等の高温条件下で劣化する部品を含んでいるので、その製造工程はいずれも低温条件下で行う必要がある。従って、イメージセンサモジュールの製造に使用される接着剤や封止材には、低温条件下でも十分な硬化性を示すことが要求される。それらには同時に、生産コストの面から、短時間で硬化することも要求される。それらはまた、電子部品内への水分の侵入を防止するために用いられるものでもあるため、十分な耐湿性を示すことも更に要求される。
【0003】
このような電子部品用の接着剤や封止材に用いられるエポキシ樹脂組成物(以降、単に「硬化性組成物」と称する場合がある)は一般に、エポキシ樹脂及び硬化剤を含む。エポキシ樹脂は、種々の多官能エポキシ樹脂(2個以上のエポキシ基を有するエポキシ樹脂)を含む。硬化剤は、エポキシ樹脂中のエポキシ基と反応する官能基を2個以上有する化合物を含む。このような硬化性組成物のうち、チオール系硬化剤を硬化剤として用いるものは、低温条件下でも適度に短時間で硬化することが知られている(特許文献1、2)。チオール系硬化剤は、2個以上のチオール基を有する化合物、即ち多官能チオール化合物を含む。電子部品用の硬化性組成物において、硬化剤として従来用いられる多官能チオール化合物としては、例えば、ペンタエリスリトールテトラキス(3-メルカプトプロピオネート、トリメチロールプロパントリス(3-メルカプトプロピオネート)、ペンタエリスリトールテトラキス(3-メルカプトブチレート)等が知られている。しかし、そのような硬化剤を用いる硬化性組成物には、耐湿性が不十分な硬化物を与えるという問題があったため、その改善が望まれていた。
【0004】
この不十分な耐湿性は、従来の多官能チオール化合物の多くが、エステル結合のような加水分解性の部分構造を有することに起因していると考えられる。特にエステル結合は、高温多湿環境下で加水分解されやすいために、硬化物における耐湿性の低下をもたらす可能性が高い。そのため、硬化性組成物用の硬化剤として、加水分解性の部分構造を有しない多官能チオール化合物(非加水分解性チオール化合物)を用いることにより、得られる硬化物の耐湿性を改善することが提案されている。
【0005】
例えば、特許文献3は、硬化性組成物における硬化剤として用いる多官能チオール化合物を開示しており、具体的な例としては、1,3,4,6-テトラキス(2-メルカプトエチル)グリコールウリル、1,3,4,6-テトラキス(3-メルカプトプロピル)グリコールウリル等を挙げることができる。これらは、特許文献4にも記載されている。
【0006】
また、特許文献5は、硬化性組成物における硬化剤として用いる多官能チオール化合物を開示しており、化合物の具体的な例としては、ペンタエリスリトールトリプロパンチオール等を挙げることができる。
【0007】
これらの多官能チオール化合物はいずれも、加水分解性の部分構造を有しない非加水分解性チオール化合物である。非加水分解性チオール化合物を含むチオール系硬化剤を用いる硬化性組成物は、従来のチオール系硬化剤を用いる硬化性組成物と同様に、低温条件下でも適度に短時間で硬化する。また前者の硬化性組成物が与える硬化物は、後者の硬化性組成物が与えるそれに比して、耐湿性が改善されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開平6-211969号公報
【文献】特開平6-211970号公報
【文献】特開2017-031268
【文献】特開2016-169275
【文献】国際特許公開第WO2016/171072号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかし、非加水分解性チオール化合物を用いると、得られる硬化性組成物の粘度が過度に上昇し、適用箇所への適用・注入が困難になるという問題があることを、本発明者らは見出した。この高い粘度は、非加水分解性チオール化合物が極性の高い構造を有することに起因している。例えば前記1,3,4,6-テトラキス(2-メルカプトエチル)グリコールウリルは、極性の高い尿素結合(-N-(C=O)-N-)が、比較的小さな母核内に2つ含まれる化学構造を有する。そのような構造が1,3,4,6-テトラキス(2-メルカプトエチル)グリコールウリルの非常に高い極性、ひいては硬化性組成物全体の過度に上昇した粘度の原因となる。
【0010】
硬化性組成物全体の粘度を低下させようとして、低粘度のエポキシ樹脂を使用すると、成分の分離が生じ、均一な硬化性組成物を得ることができない。これは、低粘度のエポキシ樹脂が概して有する極性の低い化学構造と、非加水分解性チオール化合物の高い極性のため、両者間の相溶性が低いことに起因している。
【0011】
そこで、本発明の目的は、低温条件下でも短時間で硬化して耐湿性に優れた硬化物を与え、また低粘度で適用箇所に容易に適用又は注入することができるエポキシ樹脂組成物、及びそれを含む封止材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
このような状況下において、本発明者らは、低温条件下でも短時間で硬化して、耐湿性に優れた硬化物を与えるのみならず、低粘度で適用箇所に容易に適用又は注入することができ、しかも均一で成分の分離が生じない硬化性組成物を開発すべく、鋭意研究を行った。その結果意外にも、特定の非加水分解性多官能チオール化合物を含むチオール系硬化剤を、特定の化学構造を有する主脂肪族多官能エポキシ樹脂からなる主エポキシ樹脂及び硬化触媒を組み合わせることにより、均一な硬化性組成物を得ることができ、この組成物から前記各成分が分離することもないことを見出した。本発明者らは更に、この硬化性組成物は、低温条件下でも短時間で硬化して、耐湿性に優れた硬化物を与えること、またこの硬化性組成物は、25℃で3Pa・s以下という低い粘度を示すため、適用箇所に容易に適用又は注入することができることを見出した。以上の新たな知見に基づき、本発明を完成するに至った。
【0013】
すなわち、本発明は、以下に限定されるものではないが、次の発明を包含する。
【0014】
1.エポキシ樹脂組成物であって、下記成分(A)~(C):
(A)少なくとも1種の、水酸基及び/又は尿素結合を1つ以上有する非加水分解性多官能チオール化合物を含むチオール系硬化剤;
(B)下記成分(B-1)~(B-3):
(B-1)ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、
(B-2)シクロヘキサン型ジグリシジルエーテル、及び
(B-3)ジシクロペンタジエン型ジグリシジルエーテル
からなる群より選択される少なくとも1種の主脂肪族多官能エポキシ樹脂からなる主エポキシ樹脂;並びに
(C)硬化触媒
を含み、
25℃での粘度が0.05Pa・s以上、3Pa・s以下である、エポキシ樹脂組成物。
【0015】
2.前記非加水分解性多官能チオール化合物が、エステル結合を有しない化合物である、前項1記載のエポキシ樹脂組成物。
【0016】
3.前記非加水分解性多官能チオール化合物が、下記式(1):
【化1】
(式中、
R
1及びR
2は、各々独立に、水素原子、炭素数1~12のアルキル基又はフェニル基からなる群より選択され、
R
3、R
4、R
5及びR
6は、各々独立に、メルカプトメチル基、メルカプトエチル基及びメルカプトプロピル基からなる群より選択される)
で表される化合物である、前項1又は2記載のエポキシ樹脂組成物。
【0017】
4.前記式(1)で表される化合物が、1,3,4,6-テトラキス(2-メルカプトエチル)グリコールウリル及び/又は1,3,4,6-テトラキス(3-メルカプトプロピル)グリコールウリルである、前項3記載のエポキシ樹脂組成物。
【0018】
5.前記非加水分解性多官能チオール化合物が、下記式(2):
(R8)m-A-(R7-SH)n (2)
(式中、
Aは、n+m個の水酸基を有する多価アルコールの残基であって、該水酸基に由来するn+m個の酸素原子を含み、
各々のR7は独立に、炭素数1~10のアルキレン基であり、
各々のR8は独立に、水素原子又は炭素数1~10のアルキル基であり、
mは、0以上の整数であり、
nは、2以上の整数であり、
該R1及びR2は各々、該酸素原子を介して該Aと結合している)
で表される化合物である、前項1又は2記載のエポキシ樹脂組成物。
【0019】
6.(B’-1)前記主脂肪族多官能エポキシ樹脂以外の脂肪族多官能エポキシ樹脂である、少なくとも1種の補助脂肪族多官能エポキシ樹脂、及び
(B’-2)少なくとも1種の芳香族多官能エポキシ樹脂
からなる群より選択される少なくとも1種を含む(B’)補助エポキシ樹脂を更に含む、前項1~5いずれか一項記載のエポキシ樹脂組成物。
【0020】
7.単官能エポキシ樹脂を更に含む、前項1~6いずれか一項記載のエポキシ樹脂組成物。
【0021】
8.前記成分(B)の25℃での粘度が0.3Pa・s以下である、前項1~7いずれか一項記載のエポキシ樹脂組成物。
【0022】
9.前記成分(C)が潜在性硬化触媒である、前項1~8いずれか一項に記載のエポキシ樹脂組成物。
【0023】
10.前項1~9いずれか一項に記載のエポキシ樹脂組成物を含む封止材又は接着剤。
【0024】
11.前項1~9いずれか一項に記載のエポキシ樹脂組成物、又は前項10に記載の封止材もしくは接着剤を硬化させることにより得られる硬化物。
【0025】
12.前項11に記載の硬化物を含む電子部品。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0027】
本発明のエポキシ樹脂組成物(硬化性組成物)は、前記したように、チオール系硬化剤(成分(A))、主エポキシ樹脂(成分(B))及び硬化触媒(成分(C))を必須の成分として含み、場合により補助エポキシ樹脂(成分(B’))を更に含む。これらの成分(A)~(C)及び(B’)につき以下に説明する。
なお本明細書においては、エポキシ樹脂の分野における慣例に倣い、硬化前のエポキシ樹脂組成物を構成する成分に対して、通常は高分子(特に合成高分子)を指す用語「樹脂」を含む名称を、その成分が高分子ではないにも関わらず用いる場合がある。
【0028】
(1)チオール系硬化剤(成分(A))
本発明において用いるチオール系硬化剤(成分(A))は、少なくとも1種の、水酸基及び/又は尿素結合を1つ以上有する非加水分解性多官能チオール化合物を含む。この非加水分解性多官能チオール化合物は、先に記載した通り、後述のエポキシ樹脂(成分(B)及び(B’))や単官能エポキシ樹脂(任意成分)中のエポキシ基と反応するチオール基を2個以上有する化合物であって、加水分解性の部分構造を有しない化合物である。この化合物は更に、水酸基及び/又は尿素結合を1つ以上有する。
【0029】
従来のチオール系硬化剤は、エステル結合等の加水分解性の部分構造を有する多官能チオール化合物を含むため、これを用いて得られる硬化性組成物が与える硬化物では、特に高温多湿環境下においてそのような部分構造の加水分解が起こり、耐湿性が不十分である。これに対し、非加水分解性多官能チオール化合物を含む前記成分(A)では、高温多湿環境下においても加水分解が起こらないので、これを用いて得られる硬化性組成物が与える硬化物の耐湿性が大幅に改善される。
【0030】
加水分解性の部分構造とは、比較的温和な条件下においても加水分解されうる部分構造を指し、これには例えばエステル結合などが含まれる。このような部分構造は当然ながら、例えば高温多湿環境下など、過酷な条件下では更に加水分解されやすい。一方、極めて過酷な条件下でなければ加水分解されない部分構造は、加水分解性の部分構造には含まれない。例えば尿素結合は、理論的には加水分解の可能性があるが、実際には、前記1,3,4,6-テトラキス(2-メルカプトエチル)グリコールウリルのような、尿素結合を有する化合物中の尿素結合は、極めて過酷な条件下でなければ加水分解されない。本発明において用いる非加水分解性多官能チオール化合物は、好ましくはエステル結合を有しない化合物である。
【0031】
本発明において用いうる好ましい非加水分解性多官能チオール化合物は、下記式(1):
【化2】
(式中、
R
1及びR
2は、各々独立に、水素原子、炭素数1~12のアルキル基又はフェニル基からなる群より選択され、
R
3、R
4、R
5及びR
6は、各々独立に、メルカプトメチル基、メルカプトエチル基及びメルカプトプロピル基からなる群より選択される)
で表される化合物である。式(1)で表される化合物の例には、前記1,3,4,6-テトラキス(2-メルカプトエチル)グリコールウリル(商品名:TS-G、四国化成工業株式会社製)及び1,3,4,6-テトラキス(3-メルカプトプロピル)グリコールウリル(商品名:C3 TS-G、四国化成工業株式会社製)に加え、1,3,4,6-テトラキス(メルカプトメチル)グリコールウリル、1,3,4,6-テトラキス(メルカプトメチル)-3a-メチルグリコールウリル、1,3,4,6-テトラキス(2-メルカプトエチル)-3a-メチルグリコールウリル、1,3,4,6-テトラキス(3-メルカプトプロピル)-3a-メチルグリコールウリル、1,3,4,6-テトラキス(メルカプトメチル)-3a,6a-ジメチルグリコールウリル、1,3,4,6-テトラキス(2-メルカプトエチル)-3a,6a-ジメチルグリコールウリル、1,3,4,6-テトラキス(3-メルカプトプロピル)-3a,6a-ジメチルグリコールウリル、1,3,4,6-テトラキス(メルカプトメチル)-3a,6a-ジフェニルグリコールウリル、1,3,4,6-テトラキス(2-メルカプトエチル)-3a,6a-ジフェニルグリコールウリル、1,3,4,6-テトラキス(3-メルカプトプロピル)-3a,6a-ジフェニルグリコールウリル等が含まれる。これらは、それぞれ単独で用いることも、また二種以上を混合して用いても良い。これらのうち、1,3,4,6-テトラキス(2-メルカプトエチル)グリコールウリル及び1,3,4,6-テトラキス(3-メルカプトプロピル)グリコールウリルが特に好ましい。
【0032】
本発明において用いうる他の好ましい非加水分解性多官能チオール化合物は、下記式(2):
(R8)m-A-(R7-SH)n (2)
(式中、
Aは、n+m個の水酸基を有する多価アルコールの残基であって、前記水酸基に由来するn+m個の酸素原子を含み、
各々のR7は独立に、炭素数1~10のアルキレン基であり、
各々のR8は独立に、水素原子又は炭素数1~10のアルキル基であり、
mは、0以上の整数であり、
nは、2以上の整数であり、
前記R7及びR8は各々、前記酸素原子を介して前記Aと結合している)
で表される化合物である。式(2)で表される化合物を2種以上組み合わせて用いてもよい。式(2)で表される化合物の例には、ペンタエリスリトールトリプロパンチオール(商品名:PEPT、SC有機化学株式会社製)に加え、トリメチロールプロパンジプロパンチオール等が含まれる。これらのうち、ペンタエリスリトールトリプロパンチオールが特に好ましい。
【0033】
成分(A)は、従来の加水分解性多官能チオール化合物を含まないことが特に好ましいが、本発明の趣旨を損なわない範囲でこれを含んでいてもよい。成分(A)における加水分解性多官能チオール化合物の含有量は、非加水分解性多官能チオール化合物100質量部に対し100質量部未満、好ましくは70質量部未満、より好ましくは50質量部未満である。加水分解性多官能チオール化合物の含有量が100質量部以上であると、本発明のエポキシ樹脂組成物が与える硬化物の耐湿性が不十分となる。
【0034】
(2)主エポキシ樹脂(成分(B))
本発明において用いる主エポキシ樹脂(成分(B))は、下記成分(B-1)~(B-3):
(B-1)ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、
(B-2)シクロヘキサン型ジグリシジルエーテル、及び
(B-3)ジシクロペンタジエン型ジグリシジルエーテル
からなる群より選択される少なくとも1種の主脂肪族多官能エポキシ樹脂からなる。
また、本発明の別の態様においては、用いる主エポキシ樹脂(成分(B))は、下記成分(B-1)及び(B-3):
(B-1)ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、及び
(B-3)ジシクロペンタジエン型ジグリシジルエーテル
からなる群より選択される少なくとも1種の主脂肪族多官能エポキシ樹脂からなってもよい。
【0035】
本明細書において、「シクロヘキサン型ジグリシジルエーテル」とは、2個のグリシジル基が、各々エーテル結合を介して、1個のシクロヘキサン環を母体構造として有する2価の飽和炭化水素基に結合した構造を有する化合物を意味する。
本明細書において、「ジシクロペンタジエン型ジグリシジルエーテル」とは、2個のグリシジル基が、各々エーテル結合を介して、ジシクロペンタジエン骨格を母体構造として有する2価の飽和炭化水素基に結合した構造を有する化合物を意味する。
【0036】
前記成分(A)における非加水分解性多官能チオール化合物の使用は、本発明のエポキシ樹脂組成物が与える硬化物の耐湿性を改善する上で重要である。しかし先に記載した通り、非加水分解性多官能チオール化合物を用いて調製した硬化性組成物の粘度は極度に高い。しかも、そのような硬化性組成物の粘度を、いわゆる反応性希釈剤(25℃における粘度が1Pa・s以下のエポキシ樹脂)を用いて調節することは困難である。これらはいずれも、非加水分解性多官能チオール化合物が非常に極性の高い構造を有することに起因している。そこで本発明者らは、非加水分解性多官能チオール化合物を用いて調製した硬化性組成物の粘度を低下させる手段につき、種々検討した。その結果、前記成分(B-1)~(B-3)からなる群より選択される少なくとも1種の主脂肪族多官能エポキシ樹脂からなる主エポキシ樹脂を用いることにより、目的が達成されることが見出された。
【0037】
前記主脂肪族多官能エポキシ樹脂は、いずれも低粘度エポキシ樹脂であるため、硬化性組成物の粘度を低下させるのに有効である。先に記載した通り、大半の低粘度エポキシ樹脂は低極性であるため、非加水分解性チオール化合物との相溶性が低い。しかし、前記主脂肪族多官能エポキシ樹脂は、非加水分解性チオール化合物に対し十分に高い相溶性を示す。これは少なくとも部分的には、前記主脂肪族多官能エポキシ樹脂が、低粘度エポキシ樹脂の中では相対的に幾分高極性であるためと推定される。
【0038】
本発明のエポキシ樹脂組成物においては、前記成分(B)についてのエポキシ官能基当量の、前記成分(A)についてのチオール官能基当量に対する比(〔エポキシ官能基当量〕/〔チオール官能基当量〕)が、0.4以上、1.2以下であることが好ましい。
【0039】
チオール官能基当量とは、注目する成分又は組成物に含まれるチオール化合物のチオール基の総数を意味し、注目する成分又は組成物に含まれるチオール化合物の質量(g)を、そのチオール化合物のチオール当量で割った商(チオール化合物が複数含まれる場合は、各チオール化合物についてのそのような商の合計)である。あるチオール化合物のチオール当量とは、そのチオール化合物の分子量を、そのチオール化合物1分子中のチオール基数で割った商である。この方法でチオール当量を算出できない場合には、例えば、そのチオール化合物のチオール価を電位差測定によって求めることを含む方法により、チオール当量を決定することができる。
【0040】
一方、エポキシ官能基当量とは、同成分又は組成物に含まれるエポキシ樹脂(前記成分(B)及び(B’)、並びに単官能エポキシ樹脂)のエポキシ基の総数を意味し、注目する成分又は組成物に含まれるエポキシ樹脂の質量(g)を、そのエポキシ樹脂のエポキシ当量で割った商(エポキシ樹脂が複数含まれる場合は、各エポキシ樹脂についてのそのような商の合計)である。あるエポキシ樹脂のエポキシ当量とは、そのエポキシ樹脂の分子量を、そのエポキシ樹脂1分子中のエポキシ基数で割った商である。
【0041】
このような成分(B)の使用に伴い、本発明のエポキシ樹脂組成物は、25℃において、0.05Pa・s以上、3Pa・s以下という低い粘度を示す。本発明のエポキシ樹脂組成物の粘度は、好ましくは、25℃において0.3Pa・s以下である。
【0042】
前記成分(B-1)であるポリエチレングリコールジグリシジルエーテルは、ポリエチレングリコールの両末端の水酸基がグリシジル化された構造を有する。このため、これに含まれる繰り返し単位の数に分布が存在し、その平均の繰り返し単位数、即ち平均重合度により、前記成分(B-1)のうち好ましいものを特定することができる。前記成分(B-1)における平均重合度は、好ましくは5~14であり、より好ましくは、8~10である。
【0043】
前記成分(B-2)であるシクロヘキサン型ジグリシジルエーテルは、2個のグリシジル基が、各々エーテル結合を介して、1個のシクロヘキサン環を母体構造として有する2価の飽和炭化水素基に結合した構造を有する限り、特に限定されず、種々の構造を有するものが含まれる。前記成分(B-2)は、下記式(3):
【化3】
で表される1,4-シクロヘキサンジメタノールジグリシジルエーテルであることが特に好ましい。
【0044】
前記成分(B-3)であるジシクロペンタジエン型ジグリシジルエーテルは、2個のグリシジル基が、各々エーテル結合を介して、ジシクロペンタジエン骨格を母体構造として有する2価の飽和炭化水素基に結合した構造を有する限り、特に限定されず、種々の構造を有するものが含まれる。前記成分(B-3)は、下記式(4):
【化4】
で表されるジシクロペンタジエンジメタノールジグリシジルエーテル(CAS番号:50985-55-2)であることが特に好ましい。
【0045】
(2’)補助エポキシ樹脂(成分(B’))
本発明において用いるエポキシ樹脂は、前記主エポキシ樹脂(成分(B))のみであってもよいが、所望であれば、本発明の趣旨を損なわない範囲で、前記成分(B)をそれ以外のエポキシ樹脂、即ち補助エポキシ樹脂(成分(B’))と組み合わせて用いてもよい。成分(B’)は、下記成分(B’-1)~(B’-2):
(B’-1)少なくとも1種の補助脂肪族多官能エポキシ樹脂、及び
(B’-2)少なくとも1種の芳香族多官能エポキシ樹脂
からなる群より選択される少なくとも1種を含む。
【0046】
前記補助脂肪族多官能エポキシ樹脂(成分(B’-1))は、脂肪族多官能エポキシ樹脂のうち、前記主エポキシ樹脂(成分(B))を構成する、前記成分(B-1)~(B-3)のいずれにも該当しないものを指す。成分(B’-1)などの脂肪族多官能エポキシ樹脂は一般に、芳香族多官能エポキシ樹脂に比して粘度が低い(従って低粘度エポキシ樹脂に該当する)ので、本発明のエポキシ樹脂組成物の粘度を、成分(B’-1)の添加により調節することができる。ただし成分(B’-1)は、非加水分解性チオール化合物に対し低い相溶性を示すので、これを過剰に用いると、均一な硬化性組成物を得ることができなくなる。
【0047】
成分(B’-1)の例としては、
-(ポリ)プロピレングリコールジグリシジルエーテル、ブタンジオールジグリシジルエーテル、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、1,6-ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、トリメチロールプロパンジグリシジルエーテル、ポリテトラメチレンエーテルグリコールジグリシジルエーテル、グリセリンジグリシジルエーテル、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテルのようなジエポキシ樹脂;
-トリメチロールプロパントリグリシジルエーテル、グリセリントリグリシジルエーテルのようなトリエポキシ樹脂;
-ビニル(3,4-シクロヘキセン)ジオキシド、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)-5,1-スピロ-(3,4-エポキシシクロヘキシル)-m-ジオキサンのような脂環式エポキシ樹脂;
-テトラグリシジルビス(アミノメチル)シクロヘキサンのようなグリシジルアミン型エポキシ樹脂;
-1,3-ジグリシジル-5-メチル-5-エチルヒダントインのようなヒダントイン型エポキシ樹脂;及び
-1,3-ビス(3-グリシドキシプロピル)-1,1,3,3-テトラメチルジシロキサンのようなシリコーン骨格を有するエポキシ樹脂
などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
成分(B’-1)の補助脂肪族多官能エポキシ樹脂は、分子量が150~800であるものが特に好ましい。
【0048】
一方、前記芳香族多官能エポキシ樹脂(成分(B’-2))は、ベンゼン環等の芳香環を含む構造を有する多官能エポキシ樹脂である。ビスフェノールA型エポキシ樹脂など、従来頻用されているエポキシ樹脂にはこの種のものが多い。成分(B’-2)は一般に、脂肪族多官能エポキシ樹脂に比して粘度が高いので、本発明のエポキシ樹脂組成物の粘度を調節する目的には使用できない。しかし成分(B’-2)には、非加水分解性チオール化合物に対し高い相溶性を示すものがあり、そのような成分(B’-2)は、エポキシ樹脂組成物の均一性を維持する目的で添加することができる。
【0049】
成分(B’-2)の例としては、
-ビスフェノールA型エポキシ樹脂;
-p-グリシジルオキシフェニルジメチルトリスビスフェノールAジグリシジルエーテルのような分岐状多官能ビスフェノールA型エポキシ樹脂;
-ビスフェノールF型エポキシ樹脂;
-ノボラック型エポキシ樹脂;
-テトラブロモビスフェノールA型エポキシ樹脂;
-フルオレン型エポキシ樹脂;
-ビフェニルアラルキルエポキシ樹脂;
-p-tert-ブチルフェニルグリシジルエーテル、1,4-フェニルジメタノールジグリシジルエーテルのようなジエポキシ樹脂;
-3,3’,5,5’-テトラメチル-4,4’-ジグリシジルオキシビフェニルのようなビフェニル型エポキシ樹脂;
-ジグリシジルアニリン、ジグリシジルトルイジン、トリグリシジル-p-アミノフェノール、テトラグリシジル-m-キシリレンジアミンのようなグリシジルアミン型エポキシ樹脂;及び
-ナフタレン環含有エポキシ樹脂
などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
成分(B’-2)の芳香族多官能エポキシ樹脂は、分子量が200~400であるものが特に好ましい。
【0050】
後述するように、本発明のエポキシ樹脂組成物においては、前記成分(A)のチオール基に対し、前記成分(B)及び(B’)(後述の単官能エポキシ樹脂を用いる場合はそれも)のエポキシ基がほぼ当量であることが好ましい。前記成分(B)を、そのエポキシ基が前記成分(A)のチオール基に対しほぼ当量となる量で用いる場合、必ずしも前記成分(B’)を用いる必要はない。しかし、前記成分(B’)を添加して、前記成分(B)及び(B’)のエポキシ基が、前記成分(A)のチオール基に対しほぼ当量となるようにすることもできる。その際、低粘度である前記成分(B’-1)と、非加水分解性チオール化合物に対し高い相溶性を示す前記成分(B’-2)の添加量を適切に調節することにより、エポキシ樹脂組成物の均一性を維持しつつ、その粘度を調節することができる。
【0051】
本発明においては、前記成分(B’)が前記成分(B’-2)を含む場合、前記成分(B’-2)の質量が、前記成分(B)及び(B’)の合計質量の50%未満であることが好ましく、30%未満であることがより好ましい。これは、成分(B’-2)が多すぎると、粘度が高くなってしまうからである。また、本発明においては、低粘度化の観点から、脂肪族多官能エポキシ樹脂(前記成分(B)及び(B’-1))の合計質量が、全多官能エポキシ樹脂の合計質量の50%以上であることが好ましく、60%以上であることがより好ましく、65%以上であることがさらに好ましい。なお、これらのエポキシ樹脂の質量は、後述の成分(C)に含まれるエポキシ樹脂を含む質量である。
【0052】
(3)硬化触媒(成分(C))
本発明において用いる硬化触媒(成分(C))は、エポキシ樹脂(前記成分(B)及び(B’))の硬化触媒であれば特に限定されず、公知のものを使用することができるが、潜在性硬化触媒であることが好ましい。潜在性硬化触媒とは、室温では不活性の状態で、加熱することにより活性化されて、硬化触媒として機能する化合物であり、例えば、常温で固体のイミダゾール化合物;アミン化合物とエポキシ化合物の反応生成物(アミン-エポキシアダクト系)等の固体分散型アミンアダクト系潜在性硬化触媒;アミン化合物とイソシアネート化合物または尿素化合物の反応生成物(尿素型アダクト系)等が挙げられる。前記成分(C)を用いることにより、本発明のエポキシ樹脂組成物を低温条件下でも短時間で硬化させることができる。
【0053】
常温で固体のイミダゾール化合物としては、例えば、2-ヘプタデシルイミダゾール、2-フェニル-4,5-ジヒドロキシメチルイミダゾール、2-ウンデシルイミダゾール、2-フェニル-4-メチル-5-ヒドロキシメチルイミダゾール、2-フェニル-4-ベンジル-5-ヒドロキシメチルイミダゾール、2,4-ジアミノ-6-(2-メチルイミダゾリル-(1))-エチル-S-トリアジン、2,4-ジアミノ-6-(2’-メチルイミダゾリル-(1)’)-エチル-S-トリアジン・イソシアヌール酸付加物、2-メチルイミダゾール、2-フェニルイミダゾール、2-フェニル-4-メチルイミダゾール、1-シアノエチル-2-フェニルイミダゾール、1-シアノエチル-2-メチルイミダゾール-トリメリテイト、1-シアノエチル-2-フェニルイミダゾール-トリメリテイト、N-(2-メチルイミダゾリル-1-エチル)-尿素、N,N′-(2-メチルイミダゾリル-(1)-エチル)-アジボイルジアミド等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0054】
潜在性硬化触媒の市販品の代表的な例としては、アミン-エポキシアダクト系(アミンアダクト系)としては、「アミキュアPN-23」(味の素ファインテクノ(株)商品名)、「アミキュアPN-40」(味の素ファインテクノ(株)商品名)、「アミキュアPN-50」(味の素ファインテクノ(株)商品名)、「ハードナーX-3661S」(エー・シー・アール(株)商品名)、「ハードナーX-3670S」(エー・シー・アール(株)商品名)、「ノバキュアHX-3742」(旭化成(株)商品名)、「ノバキュアHX-3721」(旭化成(株)商品名)、「ノバキュアHXA9322HP」(旭化成(株)商品名)、「ノバキュアHXA3922HP」(旭化成(株)商品名)、「ノバキュアHXA3932HP」(旭化成(株)商品名)、「ノバキュアHXA5945HP」(旭化成(株)商品名)、「ノバキュアHXA9382HP」(旭化成(株)商品名)、「フジキュアーFXR1121」(T&K TOKA(株)商品名)などが挙げられ、また、尿素型アダクト系としては、「フジキュアーFXE-1000」(T&K TOKA(株)商品名)、「フジキュアーFXR-1030」(T&K TOKA(株)商品名)等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。成分(C)は、単独でも2種以上を併用してもよい。成分(C)としては、ポットライフ、硬化性の観点から、固体分散型アミンアダクト系潜在性硬化触媒が好ましい。
【0055】
なお成分(C)には、エポキシ樹脂(特に前記成分(B’))に分散された分散液の形態で提供されるものがある。そのような形態の成分(C)を使用する場合、それが分散しているエポキシ樹脂の量も、本発明のエポキシ樹脂組成物における前記成分(B)及び/又は(B’)の量に含まれることに注意すべきである。
【0056】
本発明のエポキシ樹脂組成物は、所望であれば、上記(A)~(C)成分以外の任意成分、例えば以下に述べるものを必要に応じて含有してもよい。
【0057】
・単官能エポキシ樹脂
本発明のエポキシ樹脂組成物には、所望であれば、単官能エポキシ樹脂を添加することができる。単官能エポキシ樹脂は、エポキシ基を1個有するエポキシ樹脂であり、従来より反応性希釈剤としてエポキシ樹脂組成物の粘度調整に用いられている。このため、単官能エポキシ樹脂は低粘度であることが好ましい。先に述べた通り、反応性希釈剤としての単官能エポキシ樹脂の、非加水分解性チオール化合物との相溶性は十分高いとは限らないので、適切な単官能エポキシ樹脂を選択する必要がある。
【0058】
単官能エポキシ樹脂の例としては、n-ブチルグリシジルエーテル、2-エチルヘキシルグリシジルエーテル、フェニルグリシジルエーテル、クレジルグリシジルエーテル、p-s-ブチルフェニルグリシジルエーテル、スチレンオキシド、α-ピネンオキシド、アリルグリシジルエーテル、1-ビニル-3,4-エポキシシクロヘキサン、1,2-エポキシ-4-(2-メチルオキシラニル)-1-メチルシクロヘキサン、4-tert-ブチルフェニルグリシジルエーテル、1,3-ビス(3-グリシドキシプロピル)-1,1,3,3-テトラメチルジシロキサン、ネオデカン酸グリシジルエステル等を挙げることができる。この中では、1,2-エポキシ-4-(2-メチルオキシラニル)-1-メチルシクロヘキサン及び4-tert-ブチルフェニルグリシジルエーテルが好ましく、4-tert-ブチルフェニルグリシジルエーテルが特に好ましい。
単官能エポキシ樹脂は、分子量が100~250であるものが特に好ましい。
【0059】
本発明のエポキシ樹脂組成物は、必須成分である前記成分(B)に加え、任意成分である前記成分(B’)及びこの単官能エポキシ樹脂を含みうるが、これらに含まれるエポキシ基の合計数(量)は、前記成分(A)のチオール基に対しほぼ当量であることが好ましい。より具体的には、本発明のエポキシ樹脂組成物においては、チオール官能基当量とエポキシ官能基当量の比(〔チオール官能基当量〕/〔エポキシ官能基当量〕)が0.5以上、2.0以下であることが好ましく、0.8以上、1.2以下であることがさらに好ましい。ここで、〔チオール官能基当量〕とは、前記成分(A)のチオール官能基当量を表す。また、〔エポキシ官能基当量〕とは、前記成分(B)、前記成分(B’)及び単官能エポキシ樹脂のうち、存在する成分の合計のエポキシ官能基当量を表す。
これにより、同組成物中のエポキシ基とチオール基の両者について、エポキシ基とチオール基の間の反応、即ち分子間架橋の形成に関与するものが一定以上の割合となるので、適切な架橋密度を有する強固な硬化物が得られ、接着強度も高くすることができる。前記官能基当量比が0.5未満では、チオール基に対しエポキシ基が大過剰であるため、エポキシ基とチオール基の間の反応に加え、過剰なエポキシ基間の反応(ホモ重合)が進行する。この結果、得られる硬化物にはこれら両方の反応による分子間架橋が形成されるので、架橋密度が高くなりすぎ、接着強度が低下する。一方、前記官能基当量比が2.0超では、エポキシ基に対しチオール基が大過剰であるため、十分な数の分子間架橋が形成されず、架橋密度が低くなりすぎる。この結果、硬化物表面でブリードが発生し易くなり、接着強度が低下する。
【0060】
・安定剤
本発明のエポキシ樹脂組成物には、所望であれば、安定剤を添加することができる。安定剤は、本発明のエポキシ樹脂組成物に、その貯蔵安定性を向上させ、ポットライフを長くするために添加することができる。エポキシ樹脂を主剤とする一液型接着剤の安定剤として公知の種々の安定剤を使用することができるが、貯蔵安定性を向上させる効果の高さから、液状ホウ酸エステル化合物、アルミキレート及び有機酸からなる群から選択される少なくとも1つが好ましい。
【0061】
液状ホウ酸エステル化合物の例としては、2,2’-オキシビス(5,5’-ジメチル-1,3,2-オキサボリナン)、トリメチルボレート、トリエチルボレート、トリ-n-プロピルボレート、トリイソプロピルボレート、トリ-n-ブチルボレート、トリペンチルボレート、トリアリルボレート、トリヘキシルボレート、トリシクロヘキシルボレート、トリオクチルボレート、トリノニルボレート、トリデシルボレート、トリドデシルボレート、トリヘキサデシルボレート、トリオクタデシルボレート、トリス(2-エチルヘキシロキシ)ボラン、ビス(1,4,7,10-テトラオキサウンデシル)(1,4,7,10,13-ペンタオキサテトラデシル)(1,4,7-トリオキサウンデシル)ボラン、トリベンジルボレート、トリフェニルボレート、トリ-o-トリルボレート、トリ-m-トリルボレート、トリエタノールアミンボレート等が挙げられる。液状ホウ酸エステル化合物は常温(25℃)で液状であるため、配合物粘度を低く抑えられるため好ましい。アルミキレートとしては、例えばアルミキレートAを用いることができる。有機酸としては、例えばバルビツール酸を用いることができる。
【0062】
安定剤を添加する場合、その添加量は、成分(A)~(C)の合計量100質量部に対して、0.01~30質量部であることが好ましく、0.05~25質量部であることがより好ましく、0.1~20質量部であることが更に好ましい。
【0063】
・充填剤
本発明のエポキシ樹脂組成物には、所望であれば、充填剤を添加することができる。本発明のエポキシ樹脂成物を一液型接着剤として使用する場合、これに充填剤を添加すると、接着した部位の耐湿性および耐サーマルサイクル性、特に耐サーマルサイクル性が向上する。充填剤の添加により耐サーマルサイクル性が向上するのは、硬化物の線膨張係数が減少する、即ちサーマルサイクルによる硬化物の膨張・収縮が抑制されるためである。
【0064】
充填剤は、線膨張係数を減少させる効果を有するものである限り特に限定されず、各種充填剤を使用することができる。充填剤の具体的な例としては、シリカフィラー、アルミナフィラー、タルクフィラー、炭酸カルシウムフィラー、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)フィラー等が挙げられる。これらの中でも、充填量を高くできることから、シリカフィラーが好ましい。
【0065】
充填剤を添加する場合、本発明のエポキシ樹脂組成物における充填剤の含有量は、エポキシ樹脂組成物全体において、5~80質量%であることが好ましく、5~65質量%であることがより好ましく、5~50質量%であることが更に好ましい。
【0066】
・カップリング剤
本発明のエポキシ樹脂組成物には、所望であれば、カップリング剤を添加することができる。カップリング剤、特にシランカップリング剤の添加は、接着強度向上の観点から好ましい。カップリング剤としては、エポキシ系、アミノ系、ビニル系、メタクリル系、アクリル系、メルカプト系等の各種シランカップリング剤を用いることができる。シランカップリング剤の具体例としては、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリメトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、3-トリエトキシシリル-N-(1,3-ジメチル-ブチリデン)プロピルアミン、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、p-スチリルトリメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルメチルトリメトキシシラン、3-アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、8-グリシドキシオクチルトリメトキシシラン、3-ウレイドプロピルトリエトキシシラン、3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、ビス(トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、3-イソシアネートプロピルトリエトキシシラン等が挙げられる。これらのシランカップリング剤は、単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0067】
本発明のエポキシ樹脂組成物において、カップリング剤の添加量は、接着強度向上の観点から、成分(A)~(C)の合計量100質量部に対して0.01質量部から50質量部であることが好ましく、0.1~30質量部であることがより好ましい。
【0068】
・その他の添加剤
本発明のエポキシ樹脂組成物には、所望であれば、本発明の趣旨を損なわない範囲で、その他の添加剤、例えばカーボンブラック、チタンブラック、イオントラップ剤、レベリング剤、酸化防止剤、消泡剤、揺変剤、粘度調整剤、難燃剤、着色剤、溶剤等を添加することができる。各添加剤の種類、添加量は常法通りである。
【0069】
本発明のエポキシ樹脂組成物を製造する方法は、特に限定されない。例えば、成分(A)~(C)及び所望であればその他の添加剤を、適切な混合機に同時に、または別々に導入して、必要であれば加熱により溶融しながら撹拌して混合し、均一な組成物とすることにより、本発明のエポキシ樹脂組成物を得ることができる。この混合機は特に限定されないが、撹拌装置及び加熱装置を備えたライカイ機、ヘンシェルミキサー、3本ロールミル、ボールミル、プラネタリーミキサー、ビーズミル等を使用することができる。また、これら装置を適宜組み合わせて使用してもよい。
【0070】
このようにして得られたエポキシ樹脂組成物は熱硬化性であり、温度80℃の条件下では、5時間で硬化することが好ましく、1時間で硬化することがより好ましい。また、温度150℃で数秒といった、高温超短時間で硬化させることも可能である。本発明のエポキシ樹脂組成物を、高温条件下で劣化する部品を含むイメージセンサモジュールの製造に使用する場合、同組成物を60~90℃の温度で30~120分熱硬化させる、あるいは120~200℃の温度で1~300秒熱硬化させることが好ましい。
【0071】
本発明のエポキシ樹脂組成物は、例えば、種々の電子部品を含む半導体装置や、電子部品を構成する部品同士を固定、接合又は保護するための接着剤、封止材、ダム剤、又はその原料として用いることができる。本発明のエポキシ樹脂組成物は、特に、カメラモジュールや電子部品などを保護や固定するためのフィル材として好適である。
電子部品用の接着剤や封止材は、狭小部への注入が必要になることがあるが、本発明のエポキシ樹脂組成物は低粘度化が可能なため、これらの用途に適している。また、本発明のエポキシ樹脂組成物は、耐湿性に優れた硬化物を与える。従来のチオール系硬化剤を使用する硬化性組成物が与える硬化物は耐湿性に劣り、高温多湿環境下では劣化してしまうという問題があった。これに対し、本発明のエポキシ樹脂組成物が与える硬化物は、高温多湿環境下でも劣化しにくい。
【0072】
本発明においては、本発明のエポキシ樹脂組成物を含む封止材も提供される。本発明の封止材は、例えば、モジュールや電子部品などを保護や固定するためのフィル材として好適である。
また、本発明においては、本発明のエポキシ樹脂組成物又は封止材を硬化させることにより得られる硬化物も提供される。
さらには、本発明においては、本発明の硬化物を含む電子部品も提供される。
【実施例】
【0073】
以下、本発明について、実施例により説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお以下の実施例において、部、%は、断りのない限り質量部、質量%を示す。
【0074】
実施例1~13、比較例1~4
表1及び2に示す配合に従って、3本ロールミルを用いて所定の量の各成分を混合することにより、エポキシ樹脂組成物を調製した。表1及び2において、各成分の量は質量部で表されている。括弧内の数値は、該当するチオール化合物(又はエポキシ樹脂)についてのチオール官能基当量(又はエポキシ官能基当量)を表わす。主エポキシ樹脂の量の、主エポキシ樹脂と補助エポキシ樹脂の合計量に対する比(成分(B)/(成分(B)+成分(B’))は、質量比で示されている。
【0075】
・非加水分解性多官能チオール化合物(成分(A))
実施例及び比較例において、成分(A)として用いた化合物は、以下の通りである。
(A-1):1,3,4,6-テトラキス(2-メルカプトエチル)グリコールウリル(商品名:TS-G、四国化成工業株式会社製、チオール当量:100)
(A-2):1,3,4,6-テトラキス(3-メルカプトプロピル)グリコールウリル(商品名:C3 TS-G、四国化成工業株式会社製、チオール当量:114)
【0076】
・主エポキシ樹脂(成分(B))
実施例及び比較例において、成分(B)として用いた化合物は、以下の通りである。
(B-1):ポリエチレングリコールグリシジルエーテル(平均重合度:9)(商品名:SR-8EGS、阪本薬品工業株式会社製、エポキシ当量:262)
(B-2):1,4-シクロヘキサンジメタノールジグリシジルエーテル(商品名:CDMDG、昭和電工株式会社製、エポキシ当量:133)
(B-3):ジシクロペンタジエンジメタノールジグリシジルエーテル(商品名4088L:、株式会社ADEKA製、エポキシ当量:165)
【0077】
・補助エポキシ樹脂(成分(B’))
実施例及び比較例において、成分(B’)として用いた化合物は、以下の通りである。
(B’-1)-1:1,3-ビス(3-グリシドキシプロピル)-1,1,3,3-テトラメチルジシロキサン(商品名:TSL9906、モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ製、平均分子量:362、エポキシ当量:181)
(B’-1)-2:ポリプロピレングリコールジグリシジルエーテル(平均分子量:640)(商品名:PG-207GS、新日鉄住金化学株式会社製、エポキシ当量:320)
(B’-2):ビスフェノールF型エポキシ樹脂(平均分子量:318)(商品名:YDF-8170、新日鉄住金化学株式会社製、エポキシ当量:159)
【0078】
・硬化触媒(成分(C))
実施例及び比較例において、成分(C)として用いた化合物は、以下の通りである。
(C-1)アミン-エポキシアダクト系潜在性硬化触媒1(商品名:ノバキュアHXA9322HP、旭化成株式会社製)
(C-2)アミン-エポキシアダクト系潜在性硬化触媒2(商品名:フジキュアーFXR1121、株式会社T&K TOKA製)
【0079】
前記硬化触媒(C-1)は、微粒子状の潜在性硬化触媒が、エポキシ樹脂(ビスフェノールA型エポキシ樹脂(エポキシ当量:180)とビスフェノールF型エポキシ樹脂(エポキシ当量:159)の混合物)に分散されてなる分散液(潜在性硬化触媒/ビスフェノールA型エポキシ樹脂/ビスフェノールF型エポキシ樹脂=33/53/14(質量比))の形態で提供される。この分散液を構成するエポキシ樹脂は、成分(B’)の一部をなすものとして扱われる。よって表1及び2では、(C-1)中の潜在性硬化触媒のみの量を成分(C)の欄に示し、(C-1)中のエポキシ樹脂の量は成分(B’)の欄に示す。
【0080】
・単官能エポキシ樹脂
実施例及び比較例においては、p-tert-ブチルフェニルグリシジルエ-テル(商品名:ED-509S、製、エポキシ当量:206)を単官能エポキシ樹脂として用いた。
【0081】
・安定剤及び充填剤
実施例及び比較例においては、ホウ酸トリイソプロピルを安定剤として、シリカフィラーを充填剤として用いた。
【0082】
実施例及び比較例においては、エポキシ樹脂組成物の特性を以下のようにして測定した。
〈相溶性〉
調製したエポキシ樹脂組成物を目視で観察し、明確な成分の分離が認められないものを○(良い)、懸濁状態のものを△(許容しうる)、明確な成分の分離が認められるものを×(悪い)と評価した。
〈粘度〉
東機産業社製E型粘度計(型番:TVE-22H、ローター名:1°34’×R24)(適切な測定レンジ(H、RまたはU)に設定)を用い、エポキシ樹脂組成物の粘度(単位:Pa・s)を、その調製から1時間以内に、ローター回転数10rpmで測定した。注入の容易さの観点から、粘度はより低いことが好ましい。結果を表1及び2に示す。相溶性が×と評価された組成物については、粘度を測定しなかった。粘度が1Pa・s以下のものを◎(とても良い)、1Pa・s超、3Pa・s以下のものを○(良い)、3Pa・s超のものを×(悪い)と評価した。
【0083】
【0084】
表1及び2からわかるように、実施例1~13のいずれにおいても、粘度が3Pa・s以下と低く、また明確な成分の分離は認められなかった。これに対し、成分(B)を含まない比較例1~3ではいずれも、明確な成分の分離が認められ、均一な組成物を得ることができなかった。また、成分(B)の含有量が少ない比較例4では、均一な組成物を得ることができたものの、組成物の粘度が3Pa・s超と高かった。
【産業上の利用可能性】
【0085】
本発明のエポキシ樹脂組成物は、低温条件下でも短時間で硬化して、耐湿性に優れた硬化物を与え、また3Pa・s以下と低粘度であり、適用箇所に容易に適用又は注入することができるので、半導体装置や電子部品用の接着剤、封止材、ダム剤等として非常に有用である。