(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-24
(45)【発行日】2024-02-01
(54)【発明の名称】樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
C08F 22/14 20060101AFI20240125BHJP
C08G 73/00 20060101ALI20240125BHJP
C09J 4/02 20060101ALI20240125BHJP
C09J 11/06 20060101ALI20240125BHJP
H01L 23/29 20060101ALI20240125BHJP
H01L 23/31 20060101ALI20240125BHJP
C08J 5/24 20060101ALI20240125BHJP
【FI】
C08F22/14
C08G73/00
C09J4/02
C09J11/06
H01L23/30 R
C08J5/24 CEZ
(21)【出願番号】P 2023025901
(22)【出願日】2023-02-22
(62)【分割の表示】P 2018189193の分割
【原出願日】2018-10-04
【審査請求日】2023-02-22
(73)【特許権者】
【識別番号】591252862
【氏名又は名称】ナミックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001508
【氏名又は名称】弁理士法人 津国
(72)【発明者】
【氏名】新井 史紀
(72)【発明者】
【氏名】岩谷 一希
【審査官】久保 道弘
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/022810(WO,A1)
【文献】特開2020-138548(JP,A)
【文献】国際公開第2018/022780(WO,A1)
【文献】特開2021-008623(JP,A)
【文献】特表2017-527668(JP,A)
【文献】特開2017-061601(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F
C08G
C09J
H01L
C08J
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記成分(a)及び(b)を含む樹脂組成物。
(a)少なくとも一種の2-メチレン-1,3-ジカルボニル化合物であって、各々、下記式(I):
【化10】
で表される構造単位を少なくとも1つ有し、かつ分子量が180~10000である、2-メチレン-1,3-ジカルボニル化合物
(b)少なくとも一種の
活性水素原子を有さない第三級アミン化合物であって、各々、
下記式:
【化11】
(式中、R
101
及びR
102
は各々独立に、1価の炭化水素基を表す(但し、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ペンチル基、イソペンチル基、n-ヘプチル基、イソヘプチル基、n-ノニル基、イソノニル基、n-ウンデシル基、イソウンデシル基及びフェニル基を除く))
で表される構造を有し、分子量が100~1000であり、かつ式中の二置換アミノ基について、pKaが8.0以上である、第三級アミン化合物
(但し、テトラメチルグアニジンを除く)
【請求項2】
前記二置換アミノ基について、pKaが9.0以上である、請求項1記載の組成物。
【請求項3】
前記第三級アミン化合物が80℃で液状である、請求項
1又は2記載の組成物。
【請求項4】
前記第三級アミン化合物が25℃で液状である、請求項
1~3いずれか一項記載の組成物。
【請求項5】
前記第三級アミン化合物の量が、前記2-メチレン-1,3-ジカルボニル化合物に対して0.01~30mol%である、請求項
1~4いずれか一項記載の組成物。
【請求項6】
電子部品製造に用いられる、請求項
1~5いずれか一項記載の組成物。
【請求項7】
請求項
1~6いずれか一項記載の樹脂組成物を含む、接着剤又は封止材。
【請求項8】
電子部品用である、請求項
7記載の接着剤又は封止材。
【請求項9】
請求項
1~6いずれか一項記載の樹脂組成物を含む、フィルム又はプリプレグ。
【請求項10】
電子部品用である、請求項
9記載のフィルム又はプリプレグ。
【請求項11】
請求項
1~6いずれか一項記載の樹脂組成物の硬化物を含む、半導体装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂組成物に関し、特に、電子部品用接着剤に好適な樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
携帯電話やスマートフォンのカメラモジュールとして使用されるイメージセンサモジュールの製造時には、なるべく低温で硬化する一液型接着剤が使用される。半導体素子、集積回路、大規模集積回路、トランジスタ、サイリスタ、ダイオード、コンデンサ等の電子部品の製造時においても、なるべく低温で硬化する一液型接着剤の使用が好ましい。熱による周辺部材の特性劣化を回避するため、さらには、製造効率の向上のため、より低温で硬化可能な一液型接着剤が求められている。
【0003】
また、イメージセンサモジュールやその他電子部品の製造時に使用される一液型接着剤に求められる特性としては、使用時(塗布時)又は硬化時において揮発する成分が少ないことも重要である。
常温での使用時、または硬化時に揮発する成分が接着剤に多いと、特にこれをカメラ・センサーモジュール等の電子部品用途に用いる際に、揮発物がセンサ、レンズ、電極等へ付着して、それらの汚染を引き起こすことがある。モジュール製造工程においては一般に、工程中で発生する、このような汚染をもたらす付着物を除去するため、溶剤による洗浄を行う場合がある。付着物が液状であれば、このような洗浄によって比較的容易に付着物を除去できるが、付着物が部材上で硬化した固形物の場合には、部材からの除去が困難となり、歩留まりの低下等、製造コストの増加を引き起こす懸念が高まる。また、硬化物中に揮発物に起因する気泡が発生すると、バルク強度の低下や、被着体界面積の減少によって、接着強度が低下するおそれがある。硬化時に気泡が発生した場合、変形によって被着物の位置精度が低下するおそれがある等の信頼性の低下を引き起こす懸念がある。さらには、揮発成分が多い場合には、目や気管支等に刺激を与えるなど、作業者の健康面での影響も心配され、作業環境の悪化を招くことがある。
【0004】
従来から、イメージセンサモジュール等の電子部品用途の一液型接着剤としては、エポキシ樹脂、多官能チオール化合物、および、硬化促進剤を必須成分とするチオール系接着剤や、ラジカル開始剤やアニオン開始剤を必須成分とするアクリレート樹脂系接着剤が知られており、80℃程度で硬化可能なものも知られている。しかしながら、製造効率の向上のため、より低温で硬化可能な一液型接着剤が求められている。
【0005】
特許文献1には、室温のような低温でも短時間に硬化可能である、ジエチルメチレンマロネートモノマー(DEMM)及び不活性係合状態で担持された重合活性剤を含む重合系が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1の重合系は、常温使用時または硬化時において揮発する成分が多く、特にイメージセンサモジュール等の電子部品用途に用いる際には、センサ、レンズ、電極等への付着・汚染や、作業環境の悪化、信頼性の低下等の上記の問題を引き起こす懸念がある。一方、この重合系において、ジエチルメチレンマロネートモノマーの代わりに、より揮発しにくい分子量の大きなメチレンマロネート等をモノマーとして使用した場合には、立体障害によって反応開始が遅れ、低温短時間で硬化させる用途には適さない場合がある。
【0008】
また、近年、電子部品にはプラスチック材料が多用されている。プラスチック材料は一般に、金属やセラミック等の無機材料に比して、熱による変形が大きい。電子部品の製造において、寸法精度は電子部品の特性を左右する重要な問題であるため、電子部品(特に、プラスチック材料で構成された部材を含むもの)の製造に使用される接着剤には、低温で硬化可能であることが求められる。また電子部品の製造時、室温に近い温度での接着が可能であれば、部品又はその周辺環境の温度を変化させるための時間やエネルギーを低減できるため、製造効率が向上する。このような観点から、電子部品の製造に使用される接着剤における硬化温度は、80℃以下であることが好ましく、室温~60℃であることがより好ましい。
また、塗布された液状の接着剤が硬化反応により流動性を失い、被着体を固定できるようになるまでの時間(ゲルタイム)を短縮することは、製造効率の向上に極めて有効である。一般に、硬化温度を低下させると硬化反応の速度は低下してしまうが、製造効率を考慮すると、ゲルタイムは24時間以内であることが好ましく、12時間以内であることがより好ましく、6時間以内であることがさらに好ましく、2時間(120分)以内であることが特に好ましい。
しかし、揮発する成分が少なく、上記のように低温・短時間での硬化が可能な一液型接着剤を得ることは、従来は困難であった。
【0009】
本発明は、上記した従来技術の問題点を解決するため、室温程度の低温において比較的短時間(数時間以内)に硬化可能で、樹脂揮発による周囲への汚染が起こりにくい、イメージセンサモジュール等の電子部品の製造時に使用する一液型接着剤として好適な樹脂組成物の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記問題点を解決するために鋭意研究を重ねた結果、本発明に到達した。
【0011】
すなわち、本発明は、以下に限定されるものではないが、次の発明を包含する。
【0012】
1.下記成分(a)及び(b)を含む樹脂組成物。
(a)少なくとも一種の2-メチレン-1,3-ジカルボニル化合物であって、各々、下記式(I):
【化1】
で表される構造単位を少なくとも1つ有し、かつ分子量が180~10000である、2-メチレン-1,3-ジカルボニル化合物
(b)少なくとも一種の第三級アミン化合物であって、各々、式[NR(CH
3)]
n-R’(式中、各々のRは独立に1価の炭化水素基を表し、nは1以上の整数であり、R’はn価の有機基を表す)で表され、分子量が100~1000であり、かつ式中の二置換アミノ基NR(CH
3)-の少なくとも1つについて、pKaが8.0以上である、第三級アミン化合物
【0013】
2.少なくとも1つの前記二置換アミノ基について、Rがメチル基であり、かつpKaが8.5以上である、前項1記載の組成物。
【0014】
3.少なくとも1つの前記二置換アミノ基について、Rが非メチル炭化水素基であり、かつpKaが9.0以上である、前項1記載の組成物。
【0015】
4.前記第三級アミン化合物におけるnが1である、前項1記載の組成物。
【0016】
5.前記第三級アミン化合物が活性水素原子を有さない、前項1~4いずれか一項記載の組成物。
【0017】
6.前記第三級アミン化合物が80℃で液状である、前項1~5いずれか一項記載の組成物。
【0018】
7.前記第三級アミン化合物が25℃で液状である、前項1~6いずれか一項記載の組成物。
【0019】
8.前記第三級アミン化合物の量が、前記2-メチレン-1,3-ジカルボニル化合物に対して0.01~30mol%である、前項1~7いずれか一項記載の組成物。
【0020】
9.電子部品製造に用いられる、前項1~8いずれか一項記載の組成物。
【0021】
10.前項1~9いずれか一項記載の樹脂組成物を含む、接着剤又は封止材。
【0022】
11.電子部品用である、前項10記載の接着剤又は封止材。
【0023】
12.前項1~9いずれか一項記載の樹脂組成物を含む、フィルム又はプリプレグ。
【0024】
13.電子部品用である、前項12記載のフィルム又はプリプレグ。
【0025】
14.前項1~9いずれか一項記載の樹脂組成物の硬化物を含む、半導体装置。
【発明の効果】
【0026】
本発明の樹脂組成物は、室温程度の低温でも比較的短時間(数時間以内)に硬化可能なうえ、揮発した樹脂による周囲の汚染が起こりにくいので、イメージセンサモジュール等の電子部品の製造時に使用する一液型接着剤として好適である。このような特性により、電子部品の製造効率を高めることができるとともに、使用時や硬化時における周囲の汚染が少なく、作業環境を良好に保つことができ、また、硬化物の高い信頼性をも得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。
【0029】
本発明の樹脂組成物は、2-メチレン-1,3-ジカルボニル化合物及び第三級アミン化合物を各々少なくとも一種含む。以下、本発明の組成物に含まれる成分について説明する。
【0030】
[(a)2-メチレン-1,3-ジカルボニル化合物]
本発明の樹脂組成物は、少なくとも一種の2-メチレン-1,3-ジカルボニル化合物(成分(a))を含む。これらの2-メチレン-1,3-ジカルボニル化合物は各々、下記式(I):
【化2】
で表される構造単位を少なくとも1つ有し、かつ分子量が180~10000である化合物である。
2-メチレン-1,3-ジカルボニル化合物は、上記式(I)の構造単位を1つ又は2つ以上含む。ある態様においては、2-メチレン-1,3-ジカルボニル化合物は、上記式(I)の構造単位を2つから6つ、好ましくは2つ含む。
【0031】
上記の2-メチレン-1,3-ジカルボニル化合物は、上記式(I)の構造単位を含むことから、後述する第3級アミン化合物の作用により重合するため、一液型接着剤の主成分として使用可能である。上記の2-メチレン-1,3-ジカルボニル化合物が、上記式(I)の構造単位を2つ以上有するもの(多官能)を含む場合、硬化時に架橋が生じ、硬化物の高温での機械特性が向上する等の、物性の改善が見込まれる。
【0032】
本発明の樹脂組成物は、2-メチレン-1,3-ジカルボニル化合物を1種類又は2種類以上、好ましくは、2種類以上含む。本発明の樹脂組成物に含まれる2-メチレン-1,3-ジカルボニル化合物のうち、少なくとも1種は、分子量が180~10000であり、より好ましくは180~5000、さらに好ましくは180~2000、さらに好ましくは200~1500、さらに好ましくは240~1500、特に好ましくは250~1500、最も好ましくは260~1500である。樹脂組成物中に含まれる2-メチレン-1,3-ジカルボニル化合物の分子量及び樹脂組成物全体又は樹脂組成物中の2-メチレン-1,3-ジカルボニル化合物全体を1としたときにおける各2-メチレン-1,3-ジカルボニル化合物の質量含有率は、例えば、逆相高速液体クロマトグラフィー(逆相HPLC)の手法で、カラムとしてODSカラム、検出器として質量分析器(MS)及びPDA(検出波長:190~800nm)あるいはELSDを用いて検量することにより明らかとなる。2-メチレン-1,3-ジカルボニル化合物の分子量が180未満では、同化合物の揮発性が高くなり作業環境が悪化する。また揮発成分により、周囲部材に付着物(固形物)が発生しやすくなる。一方、2-メチレン-1,3-ジカルボニル化合物の分子量が10000を超えると、組成物の粘度が高くなり、作業性が低下するほか、充填剤の添加量が制限されるなどの弊害を生じる。
【0033】
本発明に係る2-メチレン-1,3-ジカルボニル化合物は、硬化物の耐熱性の観点から、多官能の2-メチレン-1,3-ジカルボニル化合物(多官能成分)を含むことが好ましい。ここで、多官能とは、2-メチレン-1,3-ジカルボニル化合物が、上記式(I)の構造単位を2つ以上含むことを指す。2-メチレン-1,3-ジカルボニル化合物に含まれる上記式(I)の構造単位の数を、当該2-メチレン-1,3-ジカルボニル化合物の「官能基数」とよぶ。2-メチレン-1,3-ジカルボニル化合物のうち、官能基数が1のものを「単官能」、官能基数が2のものを「2官能」、官能基数が3のものを「3官能」と呼ぶ。
2-メチレン-1,3-ジカルボニル化合物が多官能成分を含む場合、多官能成分の含有量は、高温時における機械特性の観点から、2-メチレン-1,3-ジカルボニル化合物の総質量に対し、1~100質量%であることが好ましく、5~95質量%であることがより好ましく、5~90質量%であることがさらに好ましく、10~90質量%であることが特に好ましく、10~80質量%であることが最も好ましい。多官能成分の含有量が0.1質量%未満であると、硬化時に架橋が十分に形成されず、硬化物の高温(軟化点以上)での機械特性が著しく損なわれる。
本発明の樹脂組成物が多官能成分を含む場合、その硬化物は網目状の架橋構造を形成するため、高温時、特にガラス転移温度以上の温度においても流動することがなく、一定の貯蔵弾性率を保持する。硬化物の高温時における貯蔵弾性率は例えば動的粘弾性測定(DMA)によって評価できる。一般に架橋構造を形成した硬化物をDMAによって評価した場合、ガラス転移温度以上の温度域にプラトーと呼ばれる貯蔵弾性率の温度変化が比較的小さい領域が広範囲にわたって観察される。このプラトー域の貯蔵弾性率は架橋密度、すなわち樹脂組成物中における多官能成分の含有率に関係した量として評価される。
【0034】
また、本発明に係る2-メチレン-1,3-ジカルボニル化合物は、反応性の観点から、エステル構造を含むことが好ましい。
【0035】
本発明の樹脂組成物は、上記式(I)で表される構造単位を2つ以上含む2-メチレン-1,3-ジカルボニル化合物を少なくとも1種含むことができる。
【0036】
本発明の樹脂組成物に含まれる2-メチレン-1,3-ジカルボニル化合物の、組成物全体に対する質量割合は、0.05~0.999、より好ましくは、0.15~0.999、さらに好ましくは、0.50~0.999である。本発明の組成物に含まれる2-メチレン-1,3-ジカルボニル化合物の、組成物全体に対する質量割合が0.05未満であると、2-メチレン-1,3-ジカルボニル化合物が組成物全体に行き渡らず、硬化が不均一となる懸念がある。
【0037】
ある態様において、2-メチレン-1,3-ジカルボニル化合物は、下記式(II):
【化3】
(式中、
X
1及びX
2は、各々独立に、単結合、O又はNR
3(式中、R
3は、水素又は1価の炭化水素基を表す)を表し、
R
1及びR
2は、各々独立に、水素、1価の炭化水素基又は下記式(III):
【化4】
(式中、
X
3及びX
4は、各々独立に、単結合、O又はNR
5(式中、R
5は、水素又は1価の炭化水素基を表す)を表し、
Wは、スペーサーを表し、
R
4は、水素又は1価の炭化水素基を表す)を表す)
で表される。
【0038】
ある態様において、2-メチレン-1,3-ジカルボニル化合物は、下記式(IV):
【化5】
(式中、
R
1及びR
2は、各々独立に、水素、1価の炭化水素基又は下記式(V):
【化6】
(式中、
Wは、スペーサーを表し、
R
4は、水素又は1価の炭化水素基を表す)を表す)
で表される。
【0039】
別の態様において、2-メチレン-1,3-ジカルボニル化合物は、下記式(VI):
【化7】
(式中、
R
11は、下記式(VII):
【化8】
で表される1,1-ジカルボニルエチレン単位を表し、
それぞれのR
12は、各々独立に、スペーサーを表し、
R
13及びR
14は、各々独立に、水素又は1価の炭化水素基を表し、
X
11並びにそれぞれのX
12及びX
13は、各々独立に、単結合、O又はNR
15(式中、R
15は、水素又は1価の炭化水素基を表す)を表し、
それぞれのmは、各々独立に、0又は1を表し、
nは、1以上20以下の整数を表す)
で表されるジカルボニルエチレン誘導体である。
【0040】
本明細書において、1価の炭化水素基とは、炭化水素の炭素原子から水素原子を1つ除去することにより生じる基を指す。該1価の炭化水素基としては、例えば、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、シクロアルキル基、アルキル置換シクロアルキル基、アリール基、アラルキル基、アルカリル基が挙げられ、これらの一部にN、O、S、P及びSi等のヘテロ原子が含まれていても良い。
【0041】
上記1価の炭化水素基は、それぞれ、アルキル、シクロアルキル、ヘテロシクリル、アリール、ヘテロアリール、アリル、アルコキシ、アルキルチオ、ヒドロキシル、ニトロ、アミド、アジド、シアノ、アシロキシ、カルボキシ、スルホキシ、アクリロキシ、シロキシ、エポキシ、またはエステルで置換されても良い。
上記1価の炭化水素基は、好ましくは、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基又はシクロアルキル基で置換されているアルキル基であり、さらに好ましくは、アルキル基、シクロアルキル基、又はシクロアルキル基で置換されているアルキル基である。
【0042】
上記アルキル基、アルケニル基、及びアルキニル基(以下、「アルキル基等」と総称する)の炭素数には特に限定はない。上記アルキル基の炭素数は、通常1~12、好ましくは2~10、更に好ましくは3~8、より好ましくは4~7、特に好ましくは5~6である。また、上記アルケニル基及びアルキニル基の炭素数は、通常2~12、好ましくは2~10、更に好ましくは3~8、より好ましくは3~7、特に好ましくは3~6である。上記アルキル基等が環状構造の場合、上記アルキル基等の炭素数は、通常4~12、好ましくは4~10、更に好ましくは5~8、より好ましくは6~8である。
【0043】
上記アルキル基等の構造には特に限定はない。上記アルキル基等は、直鎖状でもよく、側鎖を有していてもよい。上記アルキル基等は、鎖状構造でもよく、環状構造(シクロアルキル基、シクロアルケニル基、及びシクロアルキニル基)でもよい。上記アルキル基等は、他の置換基を1種又は2種以上有していてもよい。例えば、上記アルキル基等は、置換基として、炭素原子及び水素原子以外の原子を含む置換基を有していてもよい。また、上記アルキル基等は、鎖状構造中又は環状構造中に炭素原子及び水素原子以外の原子を1つ又は2つ以上含んでいてもよい。上記炭素原子及び水素原子以外の原子としては、例えば、酸素原子、窒素原子、硫黄原子、リン原子、及び珪素原子の1種又は2種以上が挙げられる。
【0044】
上記アルキル基として具体的には、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、i-プロピル基、n-ブチル基、i-ブチル基、sec-ブチル基、t-ブチル基、ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、及び2-エチルヘキシル基が挙げられる。上記シクロアルキル基として具体的には、例えば、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基、及び2-メチルシクロヘキシル基が挙げられる。上記アルケニル基としては、例えば、ビニル基、アリル基、及びイソプロペニル基が挙げられる。上記シクロアルケニル基として具体的には、例えば、シクロヘキセニル基が挙げられる。上記2-メチレン-1,3-ジカルボニル化合物の具体的例としては、ジブチルメチレンマロネート、ジペンチルメチレンマロネート、ジヘキシルメチレンマロネート、ジシクロヘキシルメチレンマロネート、エチルオクチルメチレンマロネート、プロピルヘキシルメチレンマロネート、2-エチルヘキシル-エチルメチレンマロネート、エチルフェニル-エチルメチレンマロネート等が挙げられる。これらは、揮発性が低く、反応性が高いために好ましい。取り扱い性の観点からは、ジヘキシルメチレンマロネート、ジシクロヘキシルメチレンマロネートが特に好ましい。
【0045】
本明細書において、スペーサーとは、2価の炭化水素基を指し、より具体的には、環状、直鎖又は分岐の置換又は非置換のアルキレン基である。上記アルキレン基の炭素数には特に限定はない。上記アルキレン基の炭素数は、通常1~12、好ましくは2~10、より好ましくは3~8、さらに好ましくは4~8である。ここで、上記アルキレン基は、所望であれば、N、O、S、P、およびSiから選択されるヘテロ原子を含有する基を途中に含んでいてよい。また、上記アルキレン基は、不飽和結合を有していても良い。ある態様においては、スペーサーは炭素数4~8の非置換アルキレン基である。好ましくは、スペーサーは、直鎖の置換又は非置換アルキレン基、より好ましくは、式-(CH2)n-(式中、nは2~10、好ましくは4~8の整数である)で表される構造を有するアルキレン基であって、その両末端の炭素原子が、2-メチレン-1,3-ジカルボニル化合物の残りの部分と結合する。
上記スペーサーとしての2価の炭化水素基の具体的な例としては、1,4-n-ブチレン基及び1,4-シクロヘキシレンジメチレン基が挙げられるが、これらに限定されない。
【0046】
上記2-メチレン-1,3-ジカルボニル化合物がスペーサーを有する場合、末端の一価の炭化水素基の炭素数は6以下であることが好ましい。すなわち、上記2-メチレン-1,3-ジカルボニル化合物が、上記式(II)又は(IV)で表される場合、上記式(III)又は(V)におけるR4は炭素数1~6のアルキルであることが好ましく、ただし、R1及びR2の一方が上記式(III)又は式(V)で表される場合は、R1及びR2の他方は炭素数1~6のアルキルであることが好ましい。この場合、上記式(II)又は(IV)において、R1及びR2の両方が上記式(III)又は式(V)で表されてもよいが、好ましくは、R1及びR2の一方だけが上記式(III)又は式(V)で表される。好ましくは、上記2-メチレン-1,3-ジカルボニル化合物は、上記式(IV)で表される。
特に好ましい化合物としては、上記式(IV)におけるR1又はR2の一方が、エチル基、n-ヘキシル基、シクロヘキシル基のいずれかであり、他方が上記式(V)で表され、Wは1,4-n-ブチレン基又は1,4-シクロヘキシレンジメチレン基のいずれかであり、R4はエチル基、n-ヘキシル基、シクロヘキシル基のいずれかである化合物が挙げられる。また、他の特に好ましい化合物としては、上記式(IV)におけるR1及びR2が上記式(V)で表され、Wは1,4-n-ブチレン基又は1,4-シクロヘキシレンジメチレン基のいずれかであり、R4はエチル基、n-ヘキシル基、シクロヘキシル基のいずれかである化合物が挙げられる。
【0047】
分子量の異なる2-メチレン-1,3-ジカルボニル化合物は、米国オハイオ州SIRRUS Inc.から入手可能であり、その合成方法は、WO2012/054616、WO2012/054633及びWO2016/040261等の公開特許公報に公開されている。2-メチレン-1,3-ジカルボニル化合物に含まれる上記式(I)で表される構造単位の両端が酸素原子に結合している場合は、特表2015-518503に開示されているジオール又はポリオールとのエステル交換等の公知の方法を用いることによって、上記式(I)で表される構造単位がエステル結合及び上記スペーサーを介して複数結合している、より大きな分子量の2-メチレン-1,3-ジカルボニル化合物を製造することができる。このようにして製造された2-メチレン-1,3-ジカルボニル化合物は、上記式(II)又は上記式(IV)中のR1及びR2、上記式(III)又は上記式(V)中のR4、並びに上記式(VI)中のR14及びR13が、ヒドロキシ基を含み得る。
【0048】
[(b)第三級アミン化合物]
本発明の樹脂組成物は、少なくとも一種の第三級アミン化合物(成分(b))を含む。この第三級アミン化合物は、開始剤としての作用を示し、前記2-メチレン-1,3-ジカルボニル化合物(成分(a))のオレフィン炭素へのマイケル付加によって、樹脂組成物が硬化する際の反応の開始に寄与することが期待される化合物である。これらの第三級アミン化合物は各々、式[NR(CH3)]n-R’(式中、各々のRは独立に1価の炭化水素基を表し、nは1以上の整数であり、R’はn価の有機基を表す)で表され、かつ分子量が100~1000である。更に、前記式中の二置換アミノ基NR(CH3)-の少なくとも1つについて、pKaが8.0以上である。本発明において、前記第三級アミン化合物は、単独で使用しても、2種以上を併用してもよい。
【0049】
前記第三級アミン化合物の分子量は100~1000であり、好ましくは100~500であり、より好ましくは110~300である。前記第三級アミン化合物の分子量が100未満であると、その揮発性が高いため、周辺部材への影響や、硬化物における物性の変動等が懸念される。前記第三級アミン化合物の分子量が1000を超えると、前記第三級アミン化合物の粘度増加や、樹脂組成物中への分散性低下等が懸念される。
【0050】
前記炭化水素基Rとしての1価の炭化水素基は、前記成分(a)について定義されたものと同様である。なお、Rに芳香環が含まれる場合、その芳香環が、前記二置換アミノ基における窒素原子に直接結合していると、その二置換アミノ基のpKaが低くなる(塩基性が弱くなる)傾向にある点に注意を要する。ある態様においては、第三級アミン化合物は、前記二置換アミノ基における窒素原子に、R中の芳香環が直接結合した構造を含まない。
【0051】
前記第三級アミン化合物における前記有機基R’の構造は、前記第三級アミン化合物の分子量が100~1000となる有機基(例えば炭化水素基)である限り特に制限されない。有機基R’は、は直鎖状、分岐鎖状、環状のいずれの構造を有していてもよく、不飽和結合及び/又は芳香環を有していてもよく、また有機基R’と前記Rが一緒になって、環を形成していてもよい。なお、R’に芳香環が含まれる場合、その芳香環が、前記二置換アミノ基における窒素原子に直接結合していると、その二置換アミノ基のpKaが低くなる(塩基性が弱くなる)傾向にある点に注意を要する。ある態様においては、第三級アミン化合物は、前記二置換アミノ基における窒素原子に、R’中の芳香環が直接結合した構造を含まない。また有機基R’は、本発明の効果を損なわない限り、非置換であってもよく、置換基で置換されていてもよく、炭素原子及び水素原子以外の原子(酸素原子、窒素原子、硫黄原子、リン原子、珪素原子等)を含んでいてもよい。
【0052】
前記第三級アミン化合物におけるnは、1であってもよく、2以上の整数であってもよい。換言すれば、有機基R’は、1つの前記二置換アミノ基と結合した1価の有機基であってもよく、2つ以上の前記二置換アミノ基と結合した2価以上の有機基であってもよい。したがって、例えば2,6,10-トリメチル-2,6,10-トリアザウンデカン(TMTAU)のように、前記二置換アミノ基に該当する複数種の塩基性部位を有する化合物も、前記第三級アミン化合物に含まれる。ただし、物性を調節する観点から、グアニジン化合物を避けることが望ましい場合もある。ある態様においては、第三級アミン化合物はグアニジン骨格を含まない。前記第三級アミン化合物におけるnは、好ましくは1~3、より好ましくは1~2、最も好ましくは1である。
【0053】
前記第三級アミン化合物は、前記二置換アミノ基に加え、前記二置換アミノ基に該当しない二置換アミノ基、例えば2つの非メチル炭化水素基を有する二置換アミノ基を有機基R’中に含んでいてもよい。前記第三級アミン化合物はさらに、非置換又は一置換アミノ基を含んでいてもよいが、これらに含まれる活性水素原子(交換性水素)は重合反応を抑制する可能性がある。そのため前記第三級アミン化合物は、非置換又は一置換アミノ基を含まないことが好ましい。同様の理由で、前記第三級アミン化合物はヒドロキシ基やメルカプト基を含まないことが好ましい。また、窒素原子に直接結合する炭素原子が、不飽和結合を有する場合、窒素原子上の孤立電子対が非局在化するため、pKaが低くなる(塩基性が弱くなる)傾向にある。この不飽和結合としては、炭素原子-炭素原子、炭素原子-窒素原子、炭素原子-酸素原子の結合がある。例えば、芳香環やカルボニル基が窒素原子に直接結合した二置換アミノ基では、pKaが低くなる(塩基性が弱くなる)傾向にある。ある態様においては、第三級アミン化合物は、前記二置換アミノ基における窒素原子に芳香環やカルボニル基が直接結合した構造を含まない。
【0054】
一般に、アミンなどの塩基性化合物の塩基性度は、その塩基性化合物と、対応する共役酸の間の平衡についての酸解離定数Kaの逆数の常用対数値(-logKa)である、酸解離指数pKaによって評価できる(見積もられる)。本明細書においては、前記第三級アミン化合物(又はそれに含まれる二置換アミノ基)の共役酸のpKaを、単に当該化合物又は基のpKaと呼ぶことがある。
前記第三級アミン化合物において、前記二置換アミノ基のうち少なくとも1つについて、pKaは8.0以上であり、好ましくは9.0以上であり、より好ましくは10.0以上であり、最も好ましくは11.0以上である。前記二置換アミノ基全てについて、pKaが8.0未満であると、前記第三級アミン化合物の開始剤としての作用が不十分で、樹脂組成物が所定の時間内に硬化しない。これは、本発明の樹脂組成物では、前記成分(a)に含まれる2-メチレン-1,3-ジカルボニル化合物の分子量が180以上であることに起因する。
【0055】
前記2-メチレン-1,3-ジカルボニル化合物の分子量が180以上であることは、同化合物が比較的大きな置換基を有することに相当する。このことに伴い、前記オレフィン炭素近傍の立体障害が比較的大きいので、前記第三級アミン化合物の前記オレフィン炭素への接近は比較的困難である。このため、前記第三級アミン化合物が開始剤として十分強い作用を示すためには、前記第三級アミン化合物がある程度強い塩基性を示す、即ち前記二置換アミノ基についてのpKaがある一定以上の値であることが必要であり、さもないと、前記第三級アミン化合物の開始剤としての作用が不十分で、反応が開始されにくくなると考えられる。
【0056】
上記の酸解離指数pKaは、電気化学的方法、分光学的方法等の当業者に公知の方法で適宜決定する事ができる。本明細書において、「pKa」は、特に断りがない限り、ChemAxon社製のソフトウェアMarvinSketch 17.22.0を用いて、温度:298K、Mode:macro、Acid/base prefix:staticの設定にて、化学構造を元に溶媒を水とした場合に推算されるpKa値を指す。前記第三級アミン化合物が、前記二置換アミノ基に該当する複数の塩基性部位を含む場合には、最も大きなpKa値を、当該アミン化合物のpKa値として採用する。
【0057】
立体障害が最も小さい炭化水素基はメチル基であるから、前記二置換アミノ基におけるRがメチル基である、即ち前記二置換アミノ基がジメチルアミノ基であるとき、窒素原子近傍の立体障害は最も小さい。この場合、前記第三級アミン化合物が開始剤として十分強い作用を示すために必要な前記二置換アミノ基のpKaは、前記Rがメチル基でない場合に比して、若干低くなる。前記二置換アミノ基におけるRがメチル基である場合、その二置換アミノ基についてのpKaは8.5以上であることが特に好ましい。
【0058】
一方、前記二置換アミノ基におけるRがメチル基以外の炭化水素基(非メチル炭化水素基)であるとき、窒素原子の近傍の立体障害は、Rがメチル基であるときに比して大きくなる。したがってこの場合、前記第三級アミン化合物の開始剤としての作用を十分強くするためには、Rがメチル基である場合に比して、前記二置換アミノ基がより高いpKa値、すなわちより強い塩基性を示すことが必要になる。より具体的には、前記二置換アミノ基におけるRが非メチル炭化水素基であるときには、その二置換アミノ基についてのpKaが9.0以上であることが好ましい。
【0059】
前記二置換アミノ基上の置換基がいずれも非メチル炭化水素基であると、窒素原子の近傍の立体障害が大きすぎるため、前記第三級アミン化合物の開始剤としての作用を十分強くすることが困難である。
【0060】
本発明で用いられる第三級アミン化合物のうち、前記二置換アミノ基としてジメチルアミノ基を1つ有するものの例としては、ジメチルn-ブチルアミン、ジメチルイソブチルアミン、ジメチルs-ブチルアミン、ジメチルt-ブチルアミン、ジメチルn-ヘキシルアミン、ジメチルイソヘキシルアミン、ジメチルシクロヘキシルアミン、ジメチルn-オクチルアミン、ジメチルイソオクチルアミン、ジメチルn-デシルアミン、ジメチルイソデシルアミン、ジメチルn-ドデシルアミン、ジメチルイソドデシルアミン、ジメチルベンジルアミン等を挙げることができるが、これらに限定されない。
【0061】
本発明で用いられる第三級アミン化合物のうち、前記二置換アミノ基としてジメチルアミノ基以外の基を1つ有するものの例としては、前記ジメチルアミノ基を1つ有する第三級アミン化合物における、ジメチルアミノ基上の2つのメチル基のうちの1つが、非メチル炭化水素基(例えば、前記ジメチルアミノ基を1つ有する第三級アミン化合物中の非メチル炭化水素基)で置換された第三級アミン化合物を挙げることができるが、これらに限定されない。
【0062】
本発明で用いられる第三級アミン化合物のうち、前記二置換アミノ基としてジメチルアミノ基を2つ以上有するものの例としては、テトラメチルエチレンジアミン、テトラメチルプロピレンジアミン、2,6,10-トリメチル-2,6,10-トリアザウンデカン(TMTAU)等を挙げることができるが、これらに限定されない。
【0063】
ある態様においては、第三級アミン化合物は、下記式:
【化9】
(式中、R
101及びR
102は各々独立に、1価の炭化水素基(前記成分(a)について定義されたものと同様)を表す)
で表される構造を有する。R
101及びR
102は各々、炭素数1~30であるものが好ましく、炭素数1~20であるものがより好ましく、炭素数1~12であるものが特に好ましい。R
101及びR
102はそれぞれ独立に、あるいは共同して窒素原子周辺の立体障害をもたらす。このため、R
101及びR
102の一方が炭素数4以上のような大きな基であっても、他方がエチル基のような比較的炭素数の少ない基であると、開始剤として十分な作用が得られることがある。また、R
101及びR
102が共に炭素数6以上の基であっても、芳香環やシクロアルキル基のような環状構造を有する場合には、分子運動が環状構造を有しない場合に比べて制限されることから、開始剤として十分な作用が得られることがある。さらに、R
101及びR
102が互いに結合して環状構造を形成している場合、両者の総炭素数が4以上であっても窒素原子周辺の立体障害は比較的小さいことから、開始剤として十分な作用が得られることがある。
【0064】
本発明においては、樹脂組成物の硬化時に第三級アミン化合物が固体であると、反応が組成物全体において均一に進行せず、実質的に第三級アミン化合物の表面のみで進行するため、硬化が不均一となる。このため、第三級アミン化合物は80℃で液状であることが好ましく、25℃で液状であることが更に好ましい。
【0065】
本発明で用いられる第三級アミン化合物は、分離又は潜在化によって、開始剤として不活性となっていて、任意の熱、光、機械的剪断等の刺激によって活性化するものであってもよい。より具体的には、第三級アミン化合物は、マイクロカプセル、イオン解離型、包接型などの潜在性硬化触媒の形態であってもよく、熱、光、電磁波、超音波、物理的せん断によって塩基を発生する形態であってもよい。また、本発明の樹脂組成物は、二液型の接着剤として使用することもできる。
【0066】
本発明において、前記第三級アミン化合物の含有量は、樹脂組成物中の2-メチレン-1,3-ジカルボニル化合物の全量(100mol%)に対して、好ましくは0.01mol%~30mol%、より好ましくは、0.01mol%~10mol%である。第三級アミン化合物の含有量が0.01mol%未満であると、硬化が不安定になる。逆に、第三級アミン化合物の含有量が30mol%よりも多いときは、硬化物中で樹脂マトリックスと化学結合を形成していない第三級アミン化合物が大量に残留し、硬化物の物性低下やブリード等を引き起こす。
【0067】
本発明の樹脂組成物は、上記成分(a)及び(b)以外に、以下に述べる成分を必要に応じて含有してもよい。
【0068】
[(c)無機充填剤]
本発明の樹脂組成物は、無機充填剤(成分(c))を含むことができる。成分(c)としては、コロイダルシリカ、疎水性シリカ、微細シリカ、ナノシリカ等のシリカフィラー、炭酸カルシウム、アルミナ、酸化亜鉛等の金属酸化物、ニッケル、銅、銀等の金属、アクリルビーズ、ガラスビーズ、ウレタンビーズ、ベントナイト、アセチレンブラック、ケッチェンブラック等が挙げられる。これらの中でも、シリカフィラーが、充填量を高くできることから好ましい。成分(c)の無機充填剤は、シランカップリング剤等で表面処理が施されたものであってもよい。表面処理が施されたフィラーを使用した場合、フィラーの凝集を防止する効果が期待される。成分(c)の無機充填剤は、単独でも2種以上を併用してもよい。
【0069】
また、成分(c)の無機充填剤の平均粒径(粒状でない場合は、その平均最大径)は、特に限定されないが、0.01~50μmであることが、樹脂組成物中に充填剤を均一に分散させるうえで好ましく、また、樹脂組成物を接着剤やアンダーフィル等の液状封止材として使用した際の注入性に優れる等の理由から好ましい。0.01μm未満であると、樹脂組成物の粘度が上昇して、接着剤やアンダーフィル等の液状封止材として使用した際に注入性が悪化するおそれがある。50μm超であると、樹脂組成物中に充填剤を均一に分散させることが困難になるおそれがある。また、硬化後の樹脂組成物の熱ストレスから、銅製ワイヤーを保護する観点から、成分(c)の平均粒径は、0.6~10μmであると、より好ましい。市販品としては、アドマテックス製高純度合成球状シリカ(品名:SE5200SEE、平均粒径:2μm;品名:SO-E5、平均粒径:2μm;品名:SO-E2、平均粒径:0.6μm)、龍森製シリカ(品名:FB7SDX、平均粒径:10μm)、マイクロン製シリカ(品名:TS-10-034P、平均粒径:20μm)等が挙げられる。ここで、無機充填剤の平均粒径は、動的光散乱式ナノトラック粒度分析計により測定する。
【0070】
成分(c)は、絶縁性であってもよく、導電性であっても良い。成分(c)の無機充填剤の含有量は、無機充填剤が絶縁性の場合には、樹脂組成物の全成分の合計100質量部に対して、0~95質量部であることが好ましく、より好ましくは0~85質量部、さらに好ましくは、0~50質量部である。0~50質量部であると、樹脂組成物をアンダーフィル等の液状封止材として使用する場合に、樹脂組成物の注入性の悪化をさけることができる。10~95質量部であると、樹脂組成物の線膨張係数を下げることができる。また、成分(c)の無機充填剤の含有量は、無機充填剤が導電性の場合には、導電性ペーストとして用いられるように、50~95質量部であることが電気伝導性の観点から好ましい。
【0071】
[(d)安定化剤]
本発明の樹脂組成物は、安定化剤(成分(d))を含んでもよい。
成分(d)は、樹脂組成物の保存時の安定性を高めるためのものであり、意図しないラジカルや塩基性成分による重合反応の発生を抑制するために添加される。2-メチレン-1,3-ジカルボニル化合物は、低い確率で自分からラジカルを発生することがあり、そのラジカルを基点として意図しないラジカル重合反応が発生する場合がある。また、2-メチレン-1,3-ジカルボニル化合物は、非常に微量の塩基性成分の混入によってアニオン重合反応が発生する場合がある。成分(d)を添加することによって、このような意図しないラジカルや塩基性成分による重合反応の発生を抑制することができる。
【0072】
成分(d)は公知のものを使用可能であり、例えば、強酸やラジカル捕捉剤を用いることができる。具体的な成分(d)の例としては、トリフルオロメタンスルホン酸、マレイン酸、メタンスルホン酸、ジフルオロ酢酸、トリクロロ酢酸、リン酸、ジクロロ酢酸、N-ニトロソ-N-フェニルヒドロキシルアミンアルミニウム、トリフェニルホスフィン、4-メトキシフェノール、及びハイドロキノンを挙げることができる。この中で、好ましい成分(d)は、マレイン酸、メタンスルホン酸、N-ニトロソ-N-フェニルヒドロキシルアミンアルミニウム及び4-メトキシフェノールから選ばれる少なくとも1つである。また成分(d)は、特開2010-117545号公報、特開2008-184514号公報などに開示された公知のものを用いることもできる。成分(d)は、単独でも2種以上を併用してもよい。
【0073】
[(e)界面処理剤]
本発明の樹脂組成物は、界面処理剤(成分(e))を含んでもよい。
成分(e)は、特に限定されないが、典型的には、カップリング剤を用いることができる。カップリング剤は、分子中に2つ以上の異なった官能基を有しており、その一つは、無機質材料と化学結合する官能基であり、他の一つは、有機質材料と化学結合する官能基である。接着剤がカップリング剤を含有することによって、接着剤の基板等への密着性が向上する。
【0074】
カップリング剤の例として、シランカップリング剤、アルミニウムカップリング剤、チタンカップリング剤等が挙げられるが、これらに限定されない。カップリング剤は、1種を使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0075】
シランカップリング剤が有する官能基の例として、ビニル基、エポキシ基、スチリル基、メタクリル基、アクリル基、アミノ基、イソシアヌレート基、ウレイド基、メルカプト基、スルフィド基、イソシアネート基、等を挙げることができる。
【0076】
[(f)顔料]
本発明の樹脂組成物は、顔料(成分(f))を含んでいても良い。
成分(f)を含むことで、本発明の樹脂組成物の色度を調整することができる。成分(f)としては、特に限定されないが、例えば、カーボンブラック、チタン窒化物等のチタンブラック、黒色有機顔料、混色有機顔料、および無機顔料等を用いることができる。黒色有機顔料としては、ペリレンブラック、アニリンブラック等が、混色有機顔料としては、赤、青、緑、紫、黄色、マゼンダ、シアン等から選ばれる少なくとも2種類以上の顔料を混合して疑似黒色化されたものが、無機顔料としては、グラファイト、およびチタン、銅、鉄、マンガン、コバルト、クロム、ニッケル、亜鉛、カルシウム、銀等の金属微粒子、金属酸化物、複合酸化物、金属硫化物、金属窒化物等が挙げられる。これらは、1種単独で用いても、2種以上を混合して用いてもよい。成分(f)は、好ましくは、カーボンブラック又はチタンブラックである。
【0077】
[(g)可塑剤]
本発明の樹脂組成物は、可塑剤(成分(g))を含んでいても良い。
成分(g)としては、公知の任意の可塑剤を配合することが出来る。成分(g)により、成形性を向上させたり、ガラス転移温度を調整したりすることができる。成分(g)は、相溶性が良好で、ブリ-ドし難いものを用いることができる。
成分(g)の例としては、ジ-n-ブチルフタレート、ジ-n-オクチルフタレート、ビス(2-エチルヘキシル)フタレート、ジ-n-デシルフタレート、ジイソデシルフタレート等のフタル酸エステル類;ビス(2-エチルヘキシル)アジペート、ジ-n-オクチルアジペート等のアジピン酸エステル類;ビス(2-エチルヘキシル)セバケート、ジ-n-ブチルセバケート等のセバシン酸エステル類;ビス(2-エチルヘキシル)アゼレート等のアゼライン酸エステル類;塩素化パラフィン等のパラフィン類;ポリプロピレングリコール等のグリコール類;エポキシ化大豆油、エポキシ化アマニ油等のエポキシ変性植物油類;トリオクチルホスフェート、トリフェニルホスフェート等のリン酸エステル類;トリフェニルホスファイト等の亜リン酸エステル類;アジピン酸と1,3-ブチレングリコールとのエステル化物等のエステルオリゴマー類;低分子量ポリブテン、低分子量ポリイソブチレン、低分子量ポリイソプレン等の低分子量重合体;プロセスオイル、ナフテン系オイル等のオイル類等が挙げられる。成分(g)は、単独でも2種以上を併用してもよい。
【0078】
本発明の樹脂組成物は、上記2-メチレン-1,3-ジカルボニル化合物及び上記第三級アミン化合物以外に、必要に応じて成分(c)~(g)を含有する。本発明の組成物は、これらの成分を混合することにより調製することができる。混合には、公知の装置を用いることができる。例えば、ヘンシェルミキサーやロールミルなどの公知の装置によって混合することができる。これらの成分は、同時に混合してもよく、一部を先に混合し、残りを後から混合してもよい。
【0079】
[蒸気圧]
本発明の樹脂組成物に含まれる2-メチレン-1,3-ジカルボニル化合物は、25℃における蒸気圧が0.05mmHg以下であることが好ましく、0.01mmHg以下であることが更に好ましく、0.001mmHg以下であることが特に好ましい。
【0080】
本発明において、2-メチレン-1,3-ジカルボニル化合物等の化合物の蒸気圧は、市販されているソフトウェアであるHSPiP(5th Edition 5.0.04)を用いてY-MB法によって推算した値である。
また本発明において、第三級アミン化合物の蒸気圧も、同様の方法で推算することができる。本発明の組成物に含まれる第三級アミン化合物は、25℃における蒸気圧が100mmHg以下であることが好ましく、10mmHg以下であることが更に好ましく、1mmHg以下であることが特に好ましい。
【0081】
本発明の樹脂組成物は、本発明の効果を損なわない範囲で、上記2-メチレン-1,3-ジカルボニル化合物、第三級アミン化合物及び(c)~(g)以外の成分、例えば、難燃剤、イオントラップ剤、消泡剤、レベリング剤、破泡剤等を含有してもよい。
【0082】
本発明の樹脂組成物は、接着剤又は封止材として使用することができる。特に、1液型の樹脂組成物、1液型の接着剤又は封止材として使用することができる。さらに、無溶剤タイプの1液型の樹脂組成物、無溶剤タイプの1液型の接着剤又は封止材として使用することができる。具体的には、本発明の樹脂組成物は、電子部品用の接着及び封止に好適である。より具体的には、本発明の樹脂組成物は、カメラモジュール用部品、接着及び封止に用いることができ、特に、イメージセンサモジュール等、センサモジュールの接着に好適である。これは、本発明の樹脂組成物は、周囲を汚染する揮発成分が極めて少ないため、付着物(固形物)が発生しにくいことによる。
【0083】
例えば、
図1に示すように、本発明の樹脂組成物は、IRカットフィルタ20とプリント配線基板24との接着に用いることができる。本発明の樹脂組成物は、撮像素子22とプリント配線基板24との接着に用いることができる。本発明の樹脂組成物は、支持体18とプリント配線基板24との接着に用いることができる。樹脂組成物の被接着面への供給には、ジェットディスペンサー、エアーディスペンサー等を使用することができる。本発明の樹脂組成物は、加熱をせず常温で硬化させることができる。本発明の樹脂組成物は、また、例えば、25~80℃の温度で加熱することで硬化させることができる。加熱温度は、好ましくは、50~80℃である。加熱時間は、例えば、0.5~4時間である。
【0084】
本発明の樹脂組成物は、カメラモジュール以外のイメージセンサモジュール等、センサモジュールに使用することもできる。例えば、指紋認証装置、顔認証装置、スキャナ、医療機器等に組み込まれることのあるイメージセンサモジュール等、センサモジュールの部品の接着及び封止に用いることができる。
【0085】
また、本発明の樹脂組成物は、フィルム又はプリプレグの構成材料として使用することもできる。特に、本発明の樹脂組成物は、配線パターンを保護するカバーレイ用フィルムや、多層配線基板の層間接着フィルム、プリプレグの構成材料に好適である。これは、本発明の樹脂組成物は、揮発成分が極めて少ないため、ボイドが発生しにくいことによる。また、本発明の樹脂組成物を含んだフィルム又はプリプレグは、好ましくは、電子部品用に使用することができる。
【0086】
本発明の樹脂組成物を含むプリプレグは、公知の方法、例えばホットメルト法及びソルベント法などにより製造することができる。ホットメルト法を用いる場合、本発明の樹脂組成物を有機溶剤に溶解することなく、樹脂組成物と剥離性の良い離型紙に一旦コーティングし、それをシート状繊維基材にラミネートする、あるいはダイコータにより直接塗工することなどにより、プリプレグを製造できる。また、ソルベント法を用いる場合、まず、本発明の樹脂組成物を有機溶剤に溶解した樹脂組成物ワニスにシート状繊維基材を浸漬することにより、樹脂組成物ワニスをシート状繊維基材に含浸させ、その後に、シート状繊維基材を乾燥させることで、プリプレグを製造できる。
【0087】
本発明の樹脂組成物を含むフィルムは、本発明の樹脂組成物から公知の方法により得ることができる。例えば、本発明の樹脂組成物を溶剤で希釈してワニスとし、これを支持体の少なくとも片面に塗布し、乾燥させた後、支持体付のフィルム、または、支持体から剥離したフィルムとして提供することができる。
【0088】
本発明においては、本発明の樹脂組成物を硬化して得られる硬化物も提供される。また、本発明においては、本発明の樹脂組成物を含む接着剤又は封止材を硬化して得られる硬化物、及び本発明の樹脂組成物を含むフィルム又はプリプレグを硬化させて得られる硬化物も提供される。
さらには、本発明においては、本発明の硬化物、本発明の接着剤若しくは封止材の硬化物、又は本発明のフィルム若しくはプリプレグの硬化物を含む半導体装置も提供される。
【0089】
本発明では、本発明の樹脂組成物を、電子部品を構成する部材に塗布し、前記電子部品を構成する別の部材に接着する、電子部品を構成する部材の接着方法も提供される。前記電子部品は、好ましくは、カメラモジュール用部品であり、より好ましくは、イメージセンサモジュールである。また、本発明の樹脂組成物を塗布または注入し、電子部品や半導体素子を基板上に接着または封止する方法も提供される。さらに、本発明の樹脂組成物を基板上に形成された電子回路上に塗布することによって、前記電子回路を封止する方法も提供される。
【実施例】
【0090】
以下、本発明の実施例及び比較例について説明する。本発明は、以下の実施例及び比較例に限定されるものではない。以下の実施例及び比較例において、樹脂組成物に含まれる成分の割合は、質量部で示している。
【0091】
[蒸気圧の推算]
本発明に用いる2-メチレン-1,3-ジカルボニル化合物のうち幾つかの態様について、各温度における蒸気圧を、HSPiP(5th Edition 5.0.04 Y-MB法)を用いて推算を行った。表3に示す3種の2-メチレン-1,3-ジカルボニル化合物についての各温度における蒸気圧(単位:mmHg)を表1に示す。
【0092】
【表1】
表1より、分子量が180以上の2-メチレン-1,3-ジカルボニル化合物は蒸気圧が低く、特に25℃における蒸気圧が0.05mmHg以下であることがわかる。25℃における蒸気圧が0.05mmHg以下の2-メチレン-1,3-ジカルボニル化合物は、室温での硬化時に揮発が少なく、周囲部材への汚染が少ない。
【0093】
本発明に用いる第三級アミン化合物のうち幾つかの態様についても、同様に蒸気圧を推算した。表2に、ジメチルドデシルアミン(DMDA)、2,6,10-トリメチル-2,6,10-トリアザウンデカン(TMTAU)、N,N-ジメチルベンジルアミン(DMBA)、ジエチルメチルアミン(DEMA)、エチルメチルベンジルアミン(EMBA)、N,N-ジシクロヘキシルメチルアミン(DCHMA)、N,N,2,4,6-ペンタメチルアニリン(PMAN)及びジエチルベンジルアミン(DEBA)についての各温度における蒸気圧(単位:mmHg)を示す。
【0094】
【表2】
表2より、分子量が100未満の第三級アミン化合物(DEMA)は、蒸気圧が著しく高く、特に25℃における蒸気圧が100mmHgを超えることがわかる。このような第三級アミン化合物は揮発性が高いので、本発明における使用には適していない。
【0095】
[樹脂組成物の調製]
以下の実施例及び比較例において使用した樹脂組成物の原料は、以下のとおりである。
2-メチレン-1,3-ジカルボニル化合物:
DHMM (SIRRUS社製)
DCHMM (SIRRUS社製)
CDM-XL (SIRRUS社製)
上記2-メチレン-1,3-ジカルボニル化合物の具体的な構造は、下記表3中の化学式のとおりである。
【表3】
【0096】
第三級アミン化合物:
DMDA ジメチルドデシルアミン
(和光純薬工業株式会社、分子量:213.4、pKa:9.8)
TMTAU 2,6,10-トリメチル-2,6,10-トリアザウンデカン
(東京化成工業株式会社、分子量:201.4、pKa:9.5)
DMBA N,N-ジメチルベンジルアミン
(和光純薬工業株式会社、分子量:135.2、pKa:8.9)
EMBA エチルメチルベンジルアミン
(東京化成工業株式会社、分子量:149.2、pKa:9.2)
DCHMA N,N-ジシクロヘキシルメチルアミン
(東京化成工業株式会社、分子量:195.3、pKa:11.2)
PMAN N,N,2,4,6-ペンタメチルアニリン
(東京化成工業株式会社、分子量:163.3、pKa:5.8)
DEBA ジエチルベンジルアミン
(和光純薬工業株式会社、分子量:165.3、pKa:9.5)
DEMA ジエチルメチルアミン
(和光純薬工業株式会社、分子量:87.2、pKa:10.0)
これらの第三級アミン化合物のうち、DEBAは、メチル基が結合した二置換アミノ基を有していない。DMDA、TMTAU、DMBA及びPMANは、ジメチルアミノ基を有する。他の第三級アミン化合物は、メチル基が1つ結合した二置換アミノ基を有する。複数の塩基性部位を有するTMTAUについてのpKa値は、互いに等価な2つのジメチルアミノ基に関するもので、これはそれらの塩基性部位が示すpKa値の中で最大である。
【0097】
ホウ珪酸ガラス製のスクリュー管瓶に、表4及び5に示す量(単位:g)の、上記2-メチレン-1,3-ジカルボニル化合物及び第三級アミン化合物を入れた。この瓶を室温(25℃)で3分間激しく振盪して内容物を十分混合した。その後、スクリュー管瓶の内容物が事実上流動性を失うまでの時間を室温(25℃)で測定した。この結果を表4及び5に示す。ここで事実上流動性を失うとは、前記スクリュー管瓶の内容物が、スクリュー管瓶を直立させた状態から瞬時に水平に傾けた場合に、重力下10秒間にわたり明らかな形状変化が観察されない状態をさす。
【0098】
【0099】
【0100】
(結果の考察)
実施例1~3は、ジメチルアミノ基、即ちRがメチル基である二置換アミノ基NR(CH3)-を少なくとも一つ含み、かつそのジメチルアミノ基についてのpKaが8.0以上である第三級アミン化合物(DMDA、TMTAU、DMBA)を開始剤として用いると、ごく短時間でゲル化することを示している。実施例6~8は、2-メチレン-1,3-ジカルボニル化合物の種類や数を種々変更しても同様であることを示している。
なお、このような構造を有する第三級アミン化合物でも、分子量が100未満では揮発しやすい(特にトリメチルアミンは、揮発性が著しく高い(常温で気体)上、毒性が非常に高い)ため、本発明における使用には適していない。
【0101】
実施例4~5は、ジメチルアミノ基を有していない第三級アミン化合物(EMBA、DCHMA)を開始剤として用いた場合でも、第三級アミン化合物が二置換アミノ基NR(CH3)-を有し、その二置換アミノ基についてのpKaが8.0以上であれば、120分以内にゲル化することを示している。ただしゲル化に要した時間は、ジメチルアミノ基を少なくとも一つ含む第三級アミン化合物を用いた場合に比べて長かった。なお、DEMA(比較例3)はこの場合に該当するが、分子量が100未満であり揮発性が高いため、本発明における使用には適していない。
【0102】
比較例1は、第三級アミン化合物がジメチルアミノ基を含んでいても、そのジメチルアミノ基についてのpKaが8.0より低い(PMAN)と、ゲル化に要する時間は120分を超えることを示している。
また比較例2は、第三級アミン化合物の有する二置換アミノ基がNR(CH3)-に該当しない(第三級アミン化合物が、メチル基の結合した二置換アミノ基を有していない)と、その二置換アミノ基についてのpKaが8.0以上(DEBA)であっても、ゲル化に要する時間は120分を超えることを示している。
【0103】
以上から明らかなように、立体障害の影響で硬化反応が進行しにくい、分子量が180~10000である2-メチレン-1,3-ジカルボニル化合物を含む樹脂を、開始剤としての第三級アミン化合物を用いて硬化させる場合、適切な第三級アミン化合物は、分子量が100~1000であり、少なくとも1つのメチル基が結合した二置換アミノ基NR(CH3)-を1つ以上有し、その二置換アミノ基の少なくとも1つについて、pKaが8.0以上である第三級アミン化合物である。
【符号の説明】
【0104】
10 カメラモジュール
12 レンズ
14 ボイスコイルモータ
16 レンズユニット
18 支持体
20 カットフィルタ
22 撮像素子
24 プリント配線基板
30、32、34 接着剤