(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-24
(45)【発行日】2024-02-01
(54)【発明の名称】調節可能なビームエネルギー広がりを有する透過荷電粒子顕微鏡
(51)【国際特許分類】
H01J 37/05 20060101AFI20240125BHJP
H01J 37/26 20060101ALI20240125BHJP
G01N 23/04 20180101ALI20240125BHJP
【FI】
H01J37/05
H01J37/26
G01N23/04
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2018219931
(22)【出願日】2018-11-26
【審査請求日】2021-09-10
(32)【優先日】2017-11-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】501233536
【氏名又は名称】エフ イー アイ カンパニ
【氏名又は名称原語表記】FEI COMPANY
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(74)【代理人】
【識別番号】100091214
【氏名又は名称】大貫 進介
(72)【発明者】
【氏名】ペーター クリスティアーン ティーメイヤー
【審査官】藤本 加代子
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-196929(JP,A)
【文献】特開2012-243763(JP,A)
【文献】米国特許第08183526(US,B1)
【文献】特開2012-079699(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01J 37/00-37/36
G01N 23/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
透過荷電粒子顕微鏡を使用する方法であって、前記透過荷電粒子顕微鏡(顕微鏡)は、
-試料を保持するための試料ホルダと、
-荷電粒子のビームを生成するためのビーム源と、
-前記ビームを光軸に沿って方向付けて前記試料を照射する照射体であって、前記照射体は、
・モノクロメータスリットを有し、所与のエネルギー広がりΔE0を有する出力ビームを生成するように構成されたモノクロメータと、
・前記モノクロメータの下流にあるコンデンサレンズアセンブリと、を備える、照射体と、
-前記試料を透過した荷電粒子の束を受け取り、それを感知デバイスに導く結像系と、
-前記顕微鏡の少なくともいくつかの操作面を制御するためのコントローラと、を備え、
以下のステップ:
-第1の使用セッションにおいて、パラメータ
(a)前記コンデンサレンズアセンブリの第1のレンズの励起、
(b)前記第1のレンズの下流のコンデンサアパーチャの幅、の少なくとも1つを選択して調整し、
そうして前記コンデンサアパーチャを出る出射ビームの第1の幅W1-及び関連する第1のエネルギー広がりΔE1-を生成するステップと、
-第2の使用セッションにおいて、前記パラメータ(a)及び(b)の少なくとも1つを選択して調整し、そうして前記出射ビームの第2の異なる幅W2-及び関連する第2の異なるエネルギー広がりΔE2-を生成するステップであって、前記コンデンサアパーチャの前記第2の異なる幅W2-は、前記コンデンサアパーチャの前記第1の幅W1-とは異なる、モノクロメータで発生する収差の削減を引き起こす、ステップと、を含み、
前記第1の使用
セッション及び前記第2の使用
セッションのうちの少なくともいずれかにおいて、前記パラメータ(a)及び(b)の少なくとも1つを選択して調整する際に、(b)を選択して調整すること、を特徴とする、方法。
【請求項2】
パラメータ(a)及び(b)の少なくとも1つの調整は、前記モノクロメータの位置に形成された前記コンデンサアパーチャの虚像を幅において変化させる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記コンデンサレンズアセンブリの第2のレンズは、前記第1のレンズと前記コンデンサアパーチャとの間に配設される、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
ΔE1及びΔE2の少なくとも1つは、0.05eV未満である、請求項1~3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
ΔE0≧0.1eVである、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記感知デバイスは、電子エネルギー損失分光(EELS)モジュールに含まれている、請求項1~5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
透過荷電粒子顕微鏡(顕微鏡)であって、
-試料を保持するための試料ホルダと、
-荷電粒子のビームを生成するためのビーム源と、
-前記ビームを光軸に沿って方向付けて前記試料を照射する照射体であって、前記照射体は、モノクロメータスリットを有し、所与のエネルギー広がりΔE0を有する出力ビームを生成するように構成されたモノクロメータと、前記モノクロメータの下流にあるコンデンサレンズアセンブリと、を備える、照射体と、
-前記試料を透過した荷電粒子の束を受け取り、それを感知デバイスに導く結像系と、
-前記顕微鏡の少なくともいくつかの操作面を制御するためのコントローラと、を備え、
前記コントローラは、
-第1の使用セッションおいて、パラメータ
(a)前記コンデンサレンズアセンブリの第1のレンズの励起、
(b)前記第1のレンズの下流のコンデンサアパーチャの幅、の少なくとも1つを選択して調整し、
そうして前記コンデンサアパーチャを出る出射ビームの第1の幅W1-及び関連する第1のエネルギー広がりΔE1-を生成することと、
-第2の使用セッションにおいて、前記パラメータ(a)及び(b)の少なくとも1つを選択して調整し、そうして前記出射ビームの第2の異なる幅W2-及び関連する第2の異なるエネルギー広がりΔE2-を生成し、であって、前記コンデンサアパーチャの前記第2の異なる幅W2-は、前記コンデンサアパーチャの前記第1の幅W1-とは異なる、モノクロメータで発生する収差の削減を引き起こすことと、
前記第1の使用
セッション及び前記第2の使用
セッションのうちの少なくともいずれかにおいて、前記パラメータ(a)及び(b)の少なくとも1つを選択して調整する際に、(b)を選択して調整することと、を実行するように構成されていることを特徴とする、透過荷電粒子顕微鏡。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、
-試料を保持するための試料ホルダと、
-荷電粒子のビーム生成するためのビーム源と、
-前記ビームを光軸に沿って方向付けて試料を照射する照射体であって、前記照射体は、
・モノクロメータスリットを有し、所与のエネルギー広がりΔE0を有する出力ビームを生成するように構成されたモノクロメータと、
・前記モノクロメータの下流にあるコンデンサレンズアセンブリと、を備える、照射体と、
-試料を透過した荷電粒子の束を受け取り、それを感知デバイスに導く結像系と、
-顕微鏡の少なくともいくつかの操作面を制御するためのコントローラと、を備える、透過荷電粒子顕微鏡を使用する方法に関する。
【0002】
本発明はまた、そのような方法を実施することができる透過荷電粒子顕微鏡に関する。
【0003】
荷電粒子顕微鏡方法は、特に電子顕微鏡の形態で、微小な対象物を撮像するための周知かつますます重要な技術である。歴史的に、電子顕微鏡の基本的な属は、透過電子顕微鏡(TEM)、走査電子顕微鏡(SEM)、及び走査透過電子顕微鏡(STEM)のようないくつかの周知の装置種に進化し、また、例えば、イオンビームミリングまたはイオンビーム誘起堆積(IBID)などの支援活動を可能にする、「加工」集束イオンビーム(FIB)を追加的に採用するいわゆる「デュアルビーム」装置(例えば(FIB-SEM)などの亜種に進化した。より具体的には、
-SEMでは、走査電子ビームによる試料の照射は、二次電子、後方散乱電子、X線、及び陰極ルミネッセンス(赤外、可視及び/または紫外の光子)の形態で、試料からの「補助」放射線の放出を促進し、例えば、この発散放射線の1つ以上の成分が続いて検出され、画像蓄積目的で使用される。
-TEMでは、試料を照射するために使用される電子ビームは、試料(この目的のために、一般的に、SEM試料の場合よりも一般に薄い)へ侵入するのに十分高いエネルギーであるように選択され、そうして試料から放出された透過電子を用いて画像を作成することができる。このようなTEMを走査モードで動作させる(よってSTEMになる)と、照射電子ビームの走査運動中に問題の画像が蓄積される。
ここで解明されているいくつかの話題のさらなる情報は、例えば、以下のWikipediaのリンクから収集することができる。
http://en.wikipedia.org/wiki/Electron_microscope
http://en.wikipedia.org/wiki/Scanning_electron_microscope
http://en.wikipedia.org/wiki/Transmission_electron_microscopy
http://en.wikipedia.org/wiki/Scanning_transmission_electron_microscopy
【0004】
照射ビームとして電子を使用する代わりとして、荷電粒子顕微鏡方法は他の種類の荷電粒子を使用して行うこともできる。この点では、「荷電粒子」という語句は、例えば、電子、正イオン(例えば、GaまたはHeイオン)、負イオン(酸素など)、陽子、及び陽電子を含むものとして広義に解釈されるべきである。非電子ベースの荷電粒子顕微鏡方法に関して、いくつかのさらなる情報は、例えば、以下のような参考文献から収集することができる。
https://en.wikipedia.org/wiki/Focused_ion_beam
http://en.wikipedia.org/wiki/Scanning_Helium_Ion_Microscope
-W.H.Escovitz,T.R.Fox and R.Levi-Setti, Scanning Transmission Ion Microscope with a Field Ion Source, Proc.Nat.Acad.Sci.USA 72(5),pp.1826-1828(1975).
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/22472444
【0005】
撮像及び(局在化した)表面改質(例えば、ミリング、エッチング、堆積など)の実行に加えて、荷電粒子顕微鏡は、分光学の実施、ディフラクトグラムの検査、イオンチャネリング/イオン後方散乱(ラザフォード後方散乱分光測定)等の研究などの他の機能も有し得ることに留意すべきである。
【0006】
すべての場合において、透過荷電粒子顕微鏡(TCPM)は、少なくとも以下の構成要素を備える。
-粒子源、例えばショットキー電子源またはイオン源。
-照射体(荷電粒子ビームカラム)、それはビーム源からの「生の」放射ビームを操作し、かつ、放射ビームに、集束、収差軽減、クロッピング(絞りを用いた)、フィルタリング等などの特定の動作を実行するように機能する。それは、概して1つ以上の(荷電粒子)レンズを含み、他のタイプの(粒子)光学部品を含んでもよい。必要に応じて、照射体は、調査されている資料にわたってその出射ビームに走査運動を行わせるように呼び出すことができる偏向器システムを備えることができる。照射体の(末端)部分は、試料上にビームフットプリントを画定するように機能するコンデンサレンズアセンブリ(その最後のレンズはしばしば「対物レンズ」または「集光対物レンズ」と呼ばれる)を備え、このアセンブリは、典型的には、1つ以上のレンズ/アパーチャプレートを備える。必要に応じて、本発明の場合のように、照射体は、試料に向かって送られる荷電粒子のエネルギー広がりを狭めるように機能するモノクロメータを備えてもよく、このようなモノクロメータは、典型的には、選択されたエネルギー範囲内の粒子の排他的選択を可能にするために利用される-例えば、画質に対する色収差の副作用を低減し、及び/または電子エネルギー損失分光(EELS)における達成可能な分解能を向上させるために利用される分散デバイス(例えば、ウィーンフィルタなど)を備える。
-調査中の試料を保持して位置決め(例えば、傾斜、回転)することができる試料ホルダ。必要に応じて、このホルダは、ビームに関して試料の走査運動をもたらすことができるように動かすことができる。一般に、そのような試料ホルダは、位置決めシステムに接続される。極低温試料を保持しようとする場合、試料ホルダには適切な冷却デバイスを設けることができる。
-本質的に試料(面)を透過する荷電粒子を取り込み、それらを検出/撮像デバイス(カメラ)、分光装置(EELSモジュールなど)等などの感知デバイス上に方向付けする(焦点合わせする)結像系。上述した照射体の場合と同様に、結像系は、収差軽減、クロッピング、フィルタリング等の他の機能も実行してもよく、概して、1つ以上の荷電粒子レンズ及び/または他のタイプの粒子光学部品を備える。
【0007】
ここでいう分光装置が存在する場合には、一般に、以下を備える。
-(結像系からの)荷電粒子の入射束を、エネルギー分解された(連続の)アレイのスペクトルサブビーム、それは最終的にスペクトルを形成するように検出表面に導かれ得る、に分散させるための分散デバイス(例えば、1つ以上の「荷電粒子プリズム」を含む)。基本的には、前記入射束は様々なエネルギーの荷電粒子を含み、かつ、分散デバイスは、(分散方向に沿って)所与のエネルギーのサブビームの(連続的な)収集/アレイに「これらをファンアウト」する(質量分析計を幾分思い出させる様態で)。
【0008】
使用される感知デバイスは、事実上単一であっても、合成/分散していてもよく、感知しようとするものに応じて、多くの異なる形態を取ることができることに留意されたい。それは、例えば、1つ以上のフォトダイオード、CMOS検出器、CCD検出器、光電池等を備えることができる。
【0009】
以下では、本発明は、電子顕微鏡の具体的文脈で説明されるが、そのような単純化は、明快さ/例示目的でのみ意図されており、必ずしも限定するものと解釈されるべきではない。
【0010】
上述したようなTCPMの例は、EELSモジュールが供された(S)TEMである。EELSは、所与の試料に関する元素/化学情報を得るために(S)TEMにおいて使用される技術である。((S)TEMの照射体からの)照射ビーム内の移動電子は、試料中の原子のコアシェルの束縛電子へエネルギーを移行し、このコア電子を外殻へ引き上げることができる(非弾性散乱)。この移動電子からのエネルギー移行は、EELSスペクトル中におけるいわゆる「コア損失ピーク」(CLP)を引き起こす。CLPの(粗い)位置(エネルギー単位)は元素固有であり、その正確な位置及び形状は元素の化学的環境及び結合に固有である。上記で言及したCLPに加えて、EELSスペクトルは、概して、いわゆる「プラズモン共鳴ピーク」(PRP)、すなわち、試料中のプラズモン上の電子の単一または複数の散乱に関連する比較的広い一連のピーク/ショルダーをも含む。これらのPRPは、典型的には、0~50eVのエネルギー範囲にある。典型的には、EELSモジュールはエネルギー選択結像デバイス(EFTEM:エネルギーフィルタ型TEM)としても使用できる。これを達成するために、それらの(主)スペクトル面の近位にスリット(「レターボックス」)を採用する。モジュールが純粋な質量分析計として使用されるとき、このスリットは引っ込められ、スペクトル面は、ポスト分散光学系を使用して使用される検出器(カメラ)上に拡大し、結像することができる。他方、モジュールがエネルギー選択結像デバイスとして使用されるとき、スリットは、特定のエネルギー窓(典型的には10~50eV幅のオーダー)のみを通過/許可するように呼び出すことができ、その場合、ポスト分散(ポストスリット)光学系は、前記スペクトル面のフーリエ変換面を検出器上に結像する。EELS及びEFTEMのさらなる情報については、以下のリンクを参照できる。
http://en.wikipedia.org/wiki/Electron_energy_loss_spectroscopy
http://en.wikipedia.org/wiki/Energy_filtered_transmission_electron_microscopy
【0011】
近年、試料中のプラズモン、フォノン及び/またはバンドギャップをマッピングするためにEELSを使用することに強く関心が高まっている。「標準」(コア損失)モノクローム化EELS-約 0.1eV~1.0eVのオーダーの典型的な分解能で行わる-とは対照的に、「高分解能」(フォノン/プラズモン/バンドギャップ)EELSは、例えば、約0.005~0.030eVの範囲のずっと良い分解能を必要とする。このような分解能は、避けられない光学収差が、(モノクロメータの)増大する励起の関数としてビームエネルギー広がりに望ましくない増加を引き起こすので、従来のモノクロメータを使用して得ることができない。そのような収差に取り組む1つの方法は、縮小入口アパーチャを使用することによってモノクロメータのビーム径を減少させることであろう。しかしながら、
-(例えば、米国特許第5,838,004号に記載されているように)この機能を満たすために可変入口アパーチャを構築することは、アパーチャが典型的に位置する必要がある場所の近くの高電圧及び超高真空のために複雑になり、
-比較的小さなサイズの固定された入口アパーチャを単に用いることは、「標準的な」EELSのビーム電流を過度に減少させるので、望ましくない。
【0012】
本発明の目的は、これらの問題に対処することである。より具体的には、本発明の目的は、使用されるモノクロメータの入口アパーチャを修正することに依存することなく、ビームエネルギー広がりのかなりの減少を可能にする方法/装置を提供することである。特に、本発明の目的は、前記方法/装置が、必要に応じて前記ビームエネルギー広がりの容易な調整を可能にするすることである。
【0013】
これら及び他の目的は、上記の冒頭の段落に記載された方法で達成され、以下のステップを特徴とする。
-第1の使用セッションにおいて、以下のうちの少なくとも1つを選択する。
(a)前記コンデンサレンズアセンブリの第1のレンズ(C1)の励起、
(b)前記第1のレンズの下流のコンデンサアパーチャ(CA)の幅(すなわちサイズ)、
それにより前記アパーチャを出る出射ビームの第1の幅W1-及び関連する第1のエネルギー広がりΔE1-を生成する、
-第2の使用セッションにおいて、前記出射ビームの第2の異なる幅W2-及び関連する第2の異なるエネルギー広がりΔE2-を生成するように、前記パラメータ(a)及び(b)の少なくとも1つを選択する。
【0014】
このため、本発明はモノクロメータ(その関連する出力ビームエネルギー広がりΔE0を有する)を単独で/不変のままにし、それにもかかわらず試料に入射する選択可能な/調整可能なエネルギー広がりΔEnを達成することができ、ここでΔEnは所望/必要に応じて1つ以上の値≦ΔE0を有するように選ぶことができ
【数1】
、したがって、例えば、高分解能EELS分析に対してはΔE1がΔE0よりも著しく小さくなるようにΔE1を選択することができ、次いで、例えば、標準分解能分析に対してはΔE2~ΔE0に戻ることができる。本発明は、モノクロメータ自体に起きる第1の(固定の)段階、及び(下流の)集光で起きる第2の(可変の)段階を有する、一種の「2段階」モノクローム効果を効果的に実現する。
【0015】
本発明を理解する別の方法は、それがモノクロメータの位置に前記コンデンサアパーチャ(CA)の調整可能な虚像を作成するように機能し、そのためコンデンサアパーチャはモノクロメータの可変仮想アパーチャとして働くことを実現することである。この仮想アパーチャのサイズ(及び/または形状)は、以下の方法の1つまたは両方で調整することができる。
-第1コンデンサレンズ(C1レンズ、モノクロメータとコンデンサアパーチャCAの間に位置する)の励起を変化させることによって、及び/または、
-コンデンサアパーチャCAのサイズを変更することによって、例えば、交換器を使用して異なるコンデンサアパーチャCAをビーム経路内に交換することによって、または調整可能な絞り式アパーチャを使用することによって。
【0016】
このような操作の両方は、モノクロメータの位置で実際の可変アパーチャを実現しようとするよりはるかに簡単であり、固定モノクロメータアパーチャを採用するよりも柔軟性がある。上述の仮想アパーチャの正確な位置は、コンデンサレンズアセンブリの特定の実装によって影響されることを留意するべきで、選択された実装に応じて、仮想アパーチャは、例えば、モノクロメータの入射面またはその近傍、モノクロメータの出射面、またはこれらの2つの面の間の位置にあってもよい。
【0017】
いくつかの一般的な(拘束力のない)ガイダンスを与えるために、以下のことを注記する。
(i)ΔEn~ΔE0(実質的に変更されていないモノクロメータ出力)を達成するためには、コンデンサアパーチャCAがモノクロメータを離れるビームに対して大きな縮小/抑制効果を持たないことを保証することができる。これは、CAの平面で比較的狭い出力ビームを生成するように、比較的広いコンデンサアパーチャCAを選択することによって、及び/またはレンズC1を励起することによって達成することができる(例えば
図3Aを参照)。
(i)ΔEn<ΔE0(改善された単色ビーム)を達成するためには、コンデンサアパーチャCAがモノクロメータを離れるビームに対して顕著な縮小/抑制効果を有することを保証することができる。これは、CAの平面で比較的広い出力ビームを生成するように、比較的狭いコンデンサアパーチャCAを選択することによって、及び/またはレンズC1を励起することによって達成することができる(例えば
図3Bを参照)。このようにして、アパーチャCAの入射側のビームの比較的限定された中心部分のみが実際にCAによって試料に向かって通過し、それによりさらなる波長範囲選択に影響を及ぼす(とりわけ、モノクロメータで生じる収差の影響を削減することによって)。アパーチャCAが狭いほど、及び/またはC1からの出力ビームの幅が広いほど、この波長範囲選択が狭くなる。
【0018】
例えば、
-シナリオ(i)は、「標準」EELS/結像に有用な、ΔE0≧0.1eVのオーダーのエネルギー広がりを有する試料レベルのビームを提供するために使用することができる。
-シナリオ(ii)は、低色収差の高分解能EELS/結像のために、ΔEn<0.05eV、好ましくは<0.03eVのオーダーのエネルギー広がりを有する試料レベルのビームを提供するために使用することができる。
【0019】
もちろん、シナリオ(ii)における仮想モノクロメータのアパーチャがより小さいため、シナリオ(ii)では、シナリオ(i)よりも試料レベルビームの電流はかなり小さい。概して、このより小さいビーム電流は、ΔEn<0.05eVのオーダーのエネルギー広がりを必要とする現象(フォノン、プラズモン、及びバンドギャップなど)が、「標準EELS」で研究される現象(コア損失ピークなど)よりもずっと強い電子ビームとの相互作用を有する傾向があるため、EELS実験に限定されない。
【0020】
本発明の特定の実施形態では、前記コンデンサレンズアセンブリの第2のレンズ(C2)は、前記第1のレンズ(C1)と前記コンデンサアパーチャ(CA)との間に配設される。このような第2のレンズC2は、例えば、コンデンサアパーチャCAに衝突する前に、レンズC1を離れた発散ビームを(半)コリメートされたビーム(例えば、約50μmのオーダーの(半)均一幅を有する)に変換するように機能することができる。これは、例えば、対物レンズなどのコンデンサアパーチャCAの下流に位置するさらなる光学系への効率的なビーム入射を容易にすることができる。
【0021】
当業者であれば、本発明によるパラメータ(a)及び/または(b)の調整は、手動で(例えば、ユーザインターフェースメニュー内の特定の値を選択することによって、または(実際のまたは仮想の)「ノブ」を微調することによって)、または自動的に(例えば、ユーザインターフェースメニュー/バッチレシピに示されているように、実行されている分析のタイプに応じて所与のパラメータ値を自律的に選択するように設定/プログラムされたコントローラ/プロセッサによって)なされ得ることを理解するであろう。
【0022】
本発明の有用性/適用性は、高分解能EELSに限定されず、それに加えて/代替的に、例えば、低色収差結像を可能にすることが実現されることを明白に留意すべきである。
【図面の簡単な説明】
【0023】
本発明は、ここで、例示的実施形態及び添付の概略図に基づいてより詳細に解明される。
【0024】
【
図1】本発明が実施されるTCPMの実施形態の長手方向断面立面図を描写する。
【
図2】
図1の一部の拡大詳細図を示し、より具体的にはEELSモジュールを示す。
【
図3A】本発明の第1の実施形態による動作を示す、
図1の上部の拡大図を描写する。
【
図3B】大部分
図3Aに対応するが、本発明の第2の実施形態による動作を示す。
【0025】
図において、関連する場合、対応する部品は対応する参照符号を用いて示されている。
【0026】
実施例1
図1(縮尺通りではない)は、本発明が実施されるTCPMMの実施形態の非常に概略的な描写であり、より具体的には、TEM/STEMの実施形態を示す。図において、真空エンクロージャ2内で、電子源4は、電子光学軸B´に沿って伝搬する電子ビームBを生成し、電子光学照射体(荷電粒子ビームカラム)6を横切り、電子光学照射体は、試料Sの選択された部分(例えば、(局所的に)薄くされ/平坦化されてもよい)上に電子を方向付け/集束する役割を果たす。また偏向器10が描写されており、(とりわけ)ビームBの走査運動を行うために使用することができる。
【0027】
試料Sは、ホルダHが(着脱自在に)固定されている受け台A´を移動させる、位置決めデバイス/ステージAによって多自由度で位置決め可能な試料ホルダHに保持されており、例えば、試料ホルダHは、(とりわけ)XY平面内で移動し得る(図示されたデカルト座標系を参照して、典型的には、Zに平行な運動及びX/Yについての傾斜も可能である)指を備えてもよい。このような移動は、軸B´(Z方向)に沿って走行する電子ビームBによって試料Sの異なる部分を照射/結像/検査すること、及び/またはビーム走査の代替として走査運動を行うことを可能にする。必要に応じて、オプションの冷却デバイス(図示せず)を、試料ホルダHと密接に熱接触させて、それを(及びその上の試料Sを)例えば極低温に維持することができる。
【0028】
電子ビームBは、(例えば)二次電子、後方散乱電子、X線及び光学放射(陰極ルミネッセンス)を含む、様々なタイプの「誘導」放射線を試料Sから放出させるような様態で試料Sと相互作用する。必要に応じて、これらの放射タイプのうちの1つ以上は、分析デバイス22を用いて検出することができ、分析デバイスは、例えば、結合されたシンチレータ/光電子増倍管またはEDX(エネルギー分散型X線分光)モジュールであってもよく、そのような場合には、画像はSEMと基本的に同じ原理を用いて構築され得る。しかしながら、代替的にまたは補足的に、試料Sを横切り(通過し)、そこから出て/放出し、(実質的には、一般的にある程度の偏向/散乱を伴うが)軸B´に沿って伝播し続ける電子を研究し得る。このような透過電子束は、結像系(投射レンズ)24に入り、結像系は、一般に、様々な静電/磁気レンズ、偏向器、補正器(スティグメータなど)等を備える。通常の(非走査)TEMモードでは、この結像系24は、透過電子束を蛍光スクリーン(感知デバイス)26に集束することができ、必要に応じて、蛍光スクリーン26は、(矢印26´によって概略的に示されるように)軸B´の方向から外れるように引っ込められ/引き出され得る。試料S(その一部)の画像またはディフラクトグラムは、結像系24によってスクリーン26上に形成され、これはエンクロージャ2の壁の適切な部分に位置するビューイングポート28を通して見ることができる。スクリーン26の引き込み機構は、例えば、性質上、機械的及び/または電気的であってもよく、ここには描かれていない。
【0029】
スクリーン26上の画像/ディフラクトグラムを見る代わりとして、結像系24を離れる電子束の焦点深度が概して非常に大きい(例えば、1メートルのオーダー)という事実を代わりに利用することができる。結果として、以下に示すような、様々な他のタイプの感知デバイスをスクリーン26の下流で使用することができる。
・TEMカメラ30。カメラ30では、電子束B´´は、コントローラ/プロセッサ20によって処理され、例えば、フラットパネルディスプレイのような表示デバイス(図示せず)上に表示される静止画像またはディフラクトグラムを形成することができる。必要でない場合、カメラ30は、(矢印30´によって概略的に示されるように)軸B´の方向から外れるように引っ込められ/引き出され得る。
・STEMカメラ32。カメラ32からの出力は、試料S上のビームBの(X、Y)走査位置の関数として記録することができ、X、Yの関数としてカメラ32からの出力の「マップ」である画像を構築することができる。カメラ32は、直径が例えば20mmの単一画素を含むことができ、カメラ30内に特徴的に存在する画素のマトリクスとは対照的である。さらに、カメラ32は概してはるかに高い取得速度(例えば、毎秒106ポイント)を有し、カメラ30(例えば、毎秒102画像)よりも高い。再び、必要でない場合には、(矢印32´によって概略的に示されるように)カメラ32を軸B´の方向から外れるように引っ込められ/引き出され得る(ただし、このような引き込みは、例えば、ドーナツ形環状暗視野カメラ32の場合には必要ではなく、そのようなカメラでは、中心穴が、カメラが使用されていないときにビーム束の通過を可能にする)。
-カメラ30または32を使用する撮像の代替として、分光装置34を起動することもでき、現在の例では、分光装置34は、EELSモジュールである。
アイテム30、32、及び34の順序/位置は厳密ではなく、多くの可能な変形が考えられることに留意すべきである。例えば、分光装置34は、結像系24に一体化することもできる。
【0030】
コントローラ(コンピュータプロセッサ)20は、制御ライン(バス)20 ´を介して様々な図示された構成要素に接続されていることに留意されたい。このコントローラ20は、作用の同期、設定点の提供、信号処理、計算の実行、及び表示デバイス(図示せず)上のメッセージ/情報の表示などの様々な機能を提供することができる。言うまでもなく、(概略的に描写された)コントローラ20は、(部分的に)エンクロージャ2の内部または外部にあってもよく、所望に応じて単一または複合の構造を有してもよい。
【0031】
当業者であれば、エンクロージャ2の内部を厳密な真空に保つ必要はないことを理解するであろう、例えば、いわゆる「環境制御型TEM/STEM」において、所与の気体のバックグラウンド雰囲気は、エンクロージャ2内に故意に導入/維持される。当業者であればまた、実際において、エンクロージャ2の容積を制限することが有利であり、そのため、可能な場合、使用される電子ビームが通過する(例えば、直径1cmのオーダーの)小さなチューブの形態をとる軸B´を本質的に抱えるが、電子源4、試料ホルダH、スクリーン26、カメラ30、カメラ32、分光装置34等のような構造を収容するために外に広がることを理解するであろう。
【0032】
ここで
図2を参照すると、これは、
図1の分光装置34の拡大された、より詳細な図を示す。図では、(試料S及び結像系24を通過した)電子束B´´が、電子光学軸B´に沿って伝搬することが示されている。束B´´は、分散デバイス3(「電子プリズム」)に入り、スペクトルサブビーム(
図2に破線で概略的に示されている)のエネルギー分解された/エネルギー差異化された(連続の)アレイ5に分散(ファンアウト)され、分散方向Xに沿って分布し、例示の目的のために、これらのサブビームのうちの3つが図において5a、5b、及び5cと表示されている。これに関して、伝統的に、伝播はZ方向に沿って発生すると考えられ、したがって、描かれたデカルト座標系は、分散デバイス3内の束B´´と「共偏向する」。
【0033】
アイテム3の下流で、サブビームのアレイ5は、調整可能/伸縮自在スリット(レターボックス)7に遭遇し、それは、例えば、EFTEMモードで使用して、アレイ5の所与の部分を選択/認可し、他の部分を廃棄/閉塞することができ、この目的のために、スリット7は、望み通りにスリット7(の開口)を開/閉/移動するように発動することができる駆動デバイス7aに接続されている。EELSモードでは、このスリット7は通常(完全に)開き/引っ込められている。当業者であれば、スリット7は分光装置34の分散面またはその近傍に配設されることが有利であることを理解するであろう、同様に、検出器11も有利にはこのような平面にまたはそのような平面に近接して位置する。もし必要なら、例えば、分散デバイス3及び/または例えば分散デバイス3とスリット7との間に設けられたドリフト管/偏向器(図示せず)(への電気信号)を適宜調整することによって、スリット7に当たるスペクトルサブビームのアレイ5を狙い/シフトすることが可能である。
【0034】
スリット7を横切った後、アレイ5の(選択された部分)は、ポスト分散電子光学系9を通過し、そこで例えば、拡大/集束され、最終的に、検出器11上に方向付け/投射され、サブビーム5a、5b、及び5cは、検出器部分11a、11b、及び11c上にそれぞれ突き当たる。
【0035】
照射体6の2つの特定の構成要素、すなわちモノクロメータ8及びコンデンサレンズアセンブリ12(
図1参照)は、本発明に関して特に重要であり、これらの構成要素の寄与をここで詳細に説明する。
図3A及び
図3Bは、
図1の上部の拡大図を描写する。両方の図において、電子源4は様々な方向に放射線(荷電粒子経路)を放射し、これらは一連のアノード電極4´によって「捕らえられ」加速される。各放射線は、分散が起こる、すなわち所与の公称経路/放射線に沿って通過する粒子の正確なエネルギーに依存する差異偏向が起こる、分散/粒子プリズム8aに入り、様々な放射線にスペクトル拡散を引き起こす。モノクロメータスリット8bは、このスペクトル拡散の比較的狭いサブセクションを選択するために使用され、したがって、選択されたエネルギー範囲ΔE0のみを通過させる。
図3A及び
図3Bに示された特定の設定では、モノクロメータスリット8bが、加速器アノード4´の後に接地電位で位置付けされ、それはスリットの構築を容易にするが、しかしながら、別の構成では、モノクロメータスリット8bは、例えば、モノクロメータの分散素子内またはその近傍に位置付けすることができる。
【0036】
前記エネルギー広がりΔE0を有するビームは、次に、様々なコンデンサレンズC1、C2a、C2b、C3、及びコンデンサアパーチャCAを備えるコンデンサアセンブリ12に入り、(最終的に)試料Sに向けられる。しかしながら、
図3Aと
図3Bとの間には有意差があり、これらは以下のように説明することができる。
-
図3Aにおいて、モノクロメータスリット8bから出てくるビームBは、コンデンサレンズC1によって比較的緩やかに広げられ、そのため、全て(またはその非常に大きな中央部分)がコンデンサアパーチャCAを通過する。必要に応じて、アパーチャCAは、その小さな周辺/環状領域をブロックすることによって、ビームを「クリーンアップ」するために使用することができるが、アパーチャCAを通過するビームフットプリントの全パーセンテージには比較的小さな影響しか及ぼさない。
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図3Bにおいて、モノクロメータスリット8bから出てくるビームBは、コンデンサレンズC1によってより強く拡張され(及び/または比較的小さなコンデンサアパーチャCAが選択され)、そのため、ビームの比較的小さい中央部分のみがアパーチャCAを通過する。これは、アパーチャCAを通過するビームフットプリントの総パーセンテージに大きな影響を与え、ビームエネルギー広がりを付随して低減する。