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特許7426316メチルセルローススラリー及びその製造方法並びに該メチルセルローススラリーを含む肉様蛋白加工食品及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-24
(45)【発行日】2024-02-01
(54)【発明の名称】メチルセルローススラリー及びその製造方法並びに該メチルセルローススラリーを含む肉様蛋白加工食品及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08L 1/28 20060101AFI20240125BHJP
   A23J 1/00 20060101ALI20240125BHJP
   A23L 13/00 20160101ALI20240125BHJP
   C08J 3/03 20060101ALI20240125BHJP
【FI】
C08L1/28
A23J1/00 B
A23L13/00 Z
C08J3/03 CEP
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020155405
(22)【出願日】2020-09-16
(65)【公開番号】P2022049282
(43)【公開日】2022-03-29
【審査請求日】2023-01-05
(73)【特許権者】
【識別番号】000226976
【氏名又は名称】日清食品ホールディングス株式会社
(72)【発明者】
【氏名】南部 智子
(72)【発明者】
【氏名】吉田 和樹
【審査官】櫛引 智子
(56)【参考文献】
【文献】特表2016-519707(JP,A)
【文献】特表2013-525447(JP,A)
【文献】国際公開第2016/167373(WO,A1)
【文献】特表2013-539815(JP,A)
【文献】特表2018-509900(JP,A)
【文献】国際公開第2018/079796(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L,C08J,A23J,A23L
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
メチルセルロースまたは/及びヒドロキシプロピルメチルセルロースを水に溶解し、他の原料と共に攪拌してムース状のスラリーを作製するスラリー作製工程と、
前記スラリー作製工程で作製したスラリーを、凍結、解凍する際の0~5℃の温度帯の通過時間が合計で10時間以上となるように凍結、解凍する低温処理工程と、を含むことを特徴とするメチルセルローススラリーの製造方法。
【請求項2】
前記メチルセルローススラリーの最終品温が10℃以下であることを特徴とする請求項1載のメチルセルローススラリーの製造方法。
【請求項3】
前記メチルセルローススラリー中のメチルセルロース含量が1.5~4重量%であることを特徴とする請求項1または2記載のメチルセルローススラリーの製造方法。
【請求項4】
請求項1~3何れか一項記載のメチルセルローススラリーの製造方法で製造したメチルセルローススラリー。
【請求項5】
組織状植物蛋白質と、請求項記載のメチルセルローススラリーと、を含むことを特徴とする肉様蛋白加工食品。
【請求項6】
組織状植物蛋白質と、請求項記載のメチルセルローススラリーと、を混合し、生地を作製する生地作製工程と、
前記生地作製工程で作製した生地を成形する成型工程と、
前記成型工程で成形した生地を加熱する加熱工程と、を含むことを特徴とする肉様蛋白加工食品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、メチルセルローススラリー及びその製造方法並びに該メチルセルローススラリーを含む肉様蛋白加工食品及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ベジタリアン向けだけでなく、環境面からも植物蛋白質を使用した代替肉(肉様蛋白加工食品)が検討されており、多数の代替肉が上市されている。これらの代替肉の製造方法として、大豆、エンドウ豆、小麦などの植物蛋白粉やこれらをエクストルーダーで押し出して製造した組織状植物蛋白が使用されているが、植物蛋白粉を含むエマルジョンカードや組織状植物蛋白の結着材としてメチルセルロースが使用されている(例えば特許文献1~4)。
【0003】
しかしながら、メチルセルロースを結着材として使用する場合、求めるような弾力が得られなかったり、食感にばらつきがあり、品質が安定しないなどの欠点があった。また、メチルセルロースは食品当たり2重量%以下の使用制限があり、使用量を増やすことに限界があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特公表2018-533945号公報
【文献】特公表2017-509349号公報
【文献】特開2018-29565号公報
【文献】特開2005-21163号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、従来よりも弾力性があり、品質ぶれの少ない肉様蛋白加工食品用のメチルセルローススラリーを提供すること及び該メチルセルローススラリーを用いた肉様蛋白加工食品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の発明者らは、植物由来の組織状植物蛋白使用した肉様蛋白加工食品の製造について鋭意検討したが、肉塊としての弾力に欠けるだけでなく、製造ごとに食感が安定しなないといった課題があった。その原因について鋭意研究した結果、メチルセルローススラリーに原因があると考えた。そしてさらに鋭意研究した結果、従来よりも弾力性に優れ、品質が安定したメチルセルローススラリー及びその製造方法を見出し、本発明に至った。
【0007】
すなわち、0~5℃の温度帯に10時間以上保持されたメチルセルローススラリーである。
【0008】
また、本発明に係るメチルセルローススラリーの製造方法としては、メチルセルロースを水に溶解したスラリーを作製するスラリー作製工程と、スラリー作製工程で作製したスラリーを0~5℃の温度帯に10時間以上保持する低温処理工程と、を含むことが好ましい。
【0009】
また、本発明に係るメチルセルローススラリーの製造方法においては、低温処理工程が、スラリー作製工程で作製したスラリーを凍結、解凍する工程であり、スラリーを凍結、解凍する際の0~5℃の温度帯の通過時間が合計で10時間以上となるように凍結、解凍することがこのましい。
【0010】
また、本発明に係るメチルセルローススラリーの製造方法で作製したメチルセルローススラリーの最終品温は、10℃以下であることが好ましい。
【0011】
また、本発明に係るメチルセルローススラリーの製造方法においては、メチルセルローススラリー中のメチルセルロース含量が1.5~4重量%であることが好ましい。
【0012】
また、本発明に係る肉様蛋白加工食品としては、組織状植物蛋白、請求項1~5何れか一項記載のメチルセルローススラリーと、を含むことが好ましい。
【0013】
また、本発明に係る肉様蛋白加工食品の製造方法としては、組織状植物蛋白、請求項1~5何れか一項記載のメチルセルローススラリーと、を混合し、生地を作製する生地作製工程と、生地作製工程で作製した生地を成形する成型工程と、成型工程で成形した生地を加熱する加熱工程と、を含むことが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明により、従来よりも弾力性があり、品質ぶれの少ない肉様蛋白加工食品用のメチルセルローススラリーを提供することができる。また、本発明に係るメチルセルローススラリーを使用することにより、従来よりも弾力性があり、品質ぶれの少ない肉様蛋白加工食品を製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明について詳細に説明する。ただし、本発明は以下の記載に限定されるものではない。
【0016】
1.スラリー作製工程
本発明に係るメチルセルローススラリーの製造方法としては、水にメチルセルロースを溶解させスラリーを作製する。本発明に係るメチルセルロースは、メチルセルロースやヒドロキシプロピルメチルセルロースであれば特に問題がなく使用することができる。粘度やメトキシ基及びヒドロキシプロポキシ基の置換量によって性質が異なるが、ゲル化温度50℃以上、ゲル再溶解温度10℃~50℃程度のものを使用すればよい。粘度の高いものの方が少ない添加量でスラリーが硬くなりやすく、好ましく、20℃2重量%の水溶液の粘度として2800mm/s以上、特に好ましくは、77000mm/s以上の高粘度のメチルセルロースが好ましい。メチルセルロースは、冷水に溶解するため、溶解する水の温度は10℃以下が好ましい。
【0017】
また、本発明に係るメチルセルローススラリーは、主に組織状植物蛋白を使用した肉様蛋白加工食品の組織状植物蛋白同士を結着させる結着剤として使用されるため、その他の原料として、風味付けのためのオイル、フレーバー、食塩、砂糖などや、蛋白素材として大豆蛋白や小麦蛋白などの植物蛋白粉、色付けのためのカラメル色素などの色素を添加することができる。水にメチルセルロースとこれらの原料を加えて、サイレントカッターなどでムース状となるまで撹拌し、スラリーを作製する。
【0018】
本発明に係るメチルセルローススラリー中のメチルセルロース含量としては、1.5~4重量%が好ましい。1.5重量%未満だとメチルセルローススラリーの結着性が弱く、また、食感を出すためにメチルセルローススラリーの添加量が多くなる。4重量%よりも多いとメチルセルローススラリーの結着性が強く、また、非常に弾力が強まるが、メチルセルロースには食品添加物としての使用制限があり、スラリーの添加量が少なくなるため、逆に結着性が悪くなる。より好ましくは、2~3.5重量%である。
【0019】
2.低温処理工程
次いで、スラリー作製工程で作製したスラリーを低温処理する。本発明における低温処理とは、作製したスラリーを0~5℃の温度帯に少なくとも10時間以上保持させることをいう。このように0~5℃の特定の温度帯にスラリーを長時間保持させることにより、従来よりも弾力性に優れたメチルセルローススラリーとすることができる。スラリーを0~5℃の温度帯で保持する方法としては、0~5℃の環境温度下で10時間以上保存してもよいが、スラリーを凍結・解凍する際に、0~5℃の温度帯の通過に合計で10時間以上かかるように凍結・解凍してもよい。凍結時、解凍時合計で10時間以上となればよいが、より好ましくは、凍結時は急速凍結で凍結し、解凍時に0~5℃の温度帯を10時間以上かけて通過するように解凍することが好ましい。そうすることで、予めスラリーを大量に凍結しておいて、使用毎に特定の条件で解凍することで常に一定の品質となるようなメチルセルローススラリーを作製できる。
【0020】
また、保持時間としては、0~5℃の温度帯でも温度が高い程、同一の強度となるためには保持する時間が長くなるが、長すぎると作業場問題があるため、好ましくは70時間以下、より好ましくは46時間以下、さらに好ましくは24時間以下となるように0~5℃での保持温度、通過方法などを調整することが好ましい。
【0021】
3.肉様蛋白加工食品の製造
(生地作製工程)
作製したメチルセルローススラリーは、植物蛋白粉を含むエマルジョンカードとしても使用できるが、特に好ましくは、組織状植物蛋白を使用した肉様蛋白加工食品の製造において、組織状植物蛋白同士を結着、保形させ、肉様蛋白加工食品自体の弾力を出すための結着剤として使用することが好ましい。
【0022】
発明に係る組織状植物蛋白は、大豆蛋白(大豆粉を含む)、エンドウ豆蛋白、小麦蛋白などの植物蛋白粉や必要により澱粉などの植物素材やカルシウム塩など無機物を二軸エクストルーダーにより高温高圧で押し出すことで作製され、膨化した粒状蛋白や、冷却ダイなどにより吐出口を冷却しながら押し出すことで膨化を抑えて線維の方向性をもたせた繊維状蛋白が挙げられる。膨化した粒状蛋白は、ハンバーグのようなミンチ肉などの弾力のある粒的な食感が得られ、繊維状蛋白は、ステーキ肉のような筋肉の繊維っぽい食感が得られる。これらの組織状植物蛋白は求める肉様蛋白加工食品の食感に合わせて単独または混合して使用することができる。また、破砕や切断することにより、大きさや長さなどを適宜調整して使用することができる。
【0023】
これらは、乾燥しているか、水分が少ない状態の場合は、一度水や熱湯で吸水させて復水してから使用することが好ましい。また、必要により、油の中に浸漬しながら加温する油調処理によって組織状植物蛋白の持つ植物由来の風味を低減することもできる。
【0024】
水または油調処理した組織状植物蛋白とメチルセルローススラリーの他にその他の材料として、味付け用の資材や具材を混合し、生地を作製する。混合方法に特に限定はなく、ミキサーなどで混合しても、手によって混合してもよく、均質に混ざるように混合すればよい。
【0025】
生地中のメチルセルローススラリーの含量としては、20~70重量%が好ましい、メチルセルローススラリーが多すぎると、組織状植物蛋白の添加量が少なくなり、風味も悪くなる。逆にメチルセルローススラリーが少なすぎると組織状植物蛋白を成形しづらくなる。また、生地中のメチルセルロースの含量としては、0.8~1.4重量%が好ましい。0.8重量%未満であると弾力が弱く、1.4重量%よりも多いと弾力が強くなりすぎる。
【0026】
その他の材料としては、食塩、核酸、グルタミンソーダ、醤油、赤ワイン、胡椒、大豆油、菜種油などの植物油、香料、大豆蛋白粉などや、タマネギ、ニンジン、キャベツなどの具材が挙げられる。
【0027】
(成型工程)
作製した生地は、成形型などにより成形する。成形型としては、加熱耐性があれば特に限定はなく、ステンレス製のものや、ハム、ソーセージなどで使用されるケーシングや腸が挙げられる。これらの成形型に作製した生地を入れ目的とする形状に成形する。
【0028】
(加熱工程)
成型した生地を加熱して肉様蛋白加工食品とする。加熱方法は特に限定はなく、ボイルやスチーム、焼成などにより加熱する。加熱方法は一つに限定せず、スチームの後、焼成してもよく、スチームの後味付けのためのボイル調理をしてもよい。メチルセルロースの凝固温度が50℃以上であるため、品温(中心温)が50℃程度以上となるように加熱すればよいが、殺菌も兼ねているため、品温が80℃以上となるまで加熱することが好ましい。
【0029】
作製した肉様蛋白加工食品は、そのまま喫食できるものは喫食してもよいが、冷蔵や冷凍して保存し、焼成やボイル、電子レンジ調理により再加熱して喫食してもよい。
【0030】
以上のように、メチルセルロースを水に溶解したスラリーに低温処理を施すことにより、従来よりも弾力性があり、品質ぶれの少ない肉様蛋白加工食品用のメチルセルローススラリーを提供することができる。また、本発明に係るメチルセルローススラリーを使用することにより、従来よりも弾力性があり、品質ぶれの少ない肉様蛋白加工食品を提供することができる。
【0031】
以下に実施例を挙げて本実施形態をさらに詳細に説明する。
【実施例
【0032】
<実験1>メチルセルローススラリーの低温処理条件の検討
下記表1に記載の資材をサイレントカッターで5分間撹拌、混合しスラリーを作製した。
【0033】
【表1】
【0034】
作製したスラリーに対して表3記載の試験例1~17の低温処理を行い、それぞれの試験区のスラリーの品温が0~5℃の温度帯に滞在した総時間をデーターロガ(株式会社KNラボラトリーズ社製:温度データロガー サーモクロンGタイプ)にて測定した。なお、各試験区の低温処理の条件は、試験例1は、低温処理なし、試験例2及び3は、10℃の低温庫、試験例4~8は、5℃の低温庫、試験例9~12は、0℃の低温庫で行った。また、試験例13は、-20℃の業務用冷凍庫で直接冷気が当たらないように段ボールで覆い緩慢凍結し、20℃で解凍し、試験例14及び15では、-20℃の業務用冷凍庫で通常凍結し、試験例14は、20℃で解凍し、試験例15は5℃で解凍した。また、試験例16及び17は-40℃の急速凍結庫で急速凍結し、5℃で解凍し、試験例17は5℃で解凍した後に常温に置き品温を10℃とした。
【0035】
作製したメチルセルローススラリーは、スラリー自体の破断強度を測定した。測定方法は、レオメータ―(株式会社山電社 RHEONER II CREEP METER RE2-330005C)で測定した。プランジャーはφ5mmの円柱(プラスチック製)を用い、38x38x12mmのトレーに各試験区のスラリーを10g添加し、速度60mm/minでプランジャーを上方向から下方向に移動させてスラリーを押圧することで測定した。
【0036】
また、作製した各試験区のメチルセルローススラリーを用いて、肉様蛋白加工食品(ハンバーガー用パテ)を作製し、パテでの弾力について評価を行った。
【0037】
パテの作製方法については、下記表2に記載したように、5x5x3mmとなるようにカットした繊維状蛋白12重量%と、粒状蛋白10重量%をカラメル色素0.3重量%、水9.7重量%で復水したものと、グルタミンソーダ0.3重量%、核酸0.2重量%、分離大豆蛋白粉5重量%、黒コショウ0.4重量%、粉末トコフェロール0.2重量%を混合した粉体物と、醤油4.2重量%、グリセリン1.5重量%、濃縮赤ワイン2.7重量%を混合した液体物と、大豆油3重量%、菜種油0.1重量%、ショートニング4重量%を含む加温溶解した油脂混合物と、3mm角に切断したオニオンソテー6重量%と、試験例1~17で作製したメチルセルローススラリー40重量%とを混合し、生地(100重量%)を作製し、良く撹拌して126x96x15mmの楕円形の型枠に1個あたり150gとなるように生地を充填し成形した後、98℃で15分(中心温度が80℃以上)となるようにスチーマーで加熱処理し、冷却して、-30℃の急速凍結機で冷凍し、肉様蛋白加工食品サンプルとした。
【0038】
【表2】
【0039】
冷凍した各試験区のサンプルを180℃に温めたフライパンで片面2分ずつ焼成し、さらに片面ずつ1分間焼成したものを喫食し、官能評価を行った。官能評価については5段階で行い、弾力が非常に良好なものを5、弾力が良好なものを4、弾力があり商品として可なもの3、弾力が弱く商品として不可なものを2、著しく弾力が弱く不可なものを1とした。
【0040】
各試験区の低温処理条件、0~5℃温度帯の保持時間、レオメータ―による分析結果、肉様蛋白加工食品での官能評価結果について下記表3に示す。
【0041】
【表3】
【0042】
試験例1、2、4、9で示すように冷却温度を低くすることでメチルセルローススラリーの破断強度は高くなるが、短時間ではパテで十分な弾力の食感が得られる程度までは、メチルセルローススラリーの破断強度は高くならず、パテ作製時にメチルセルローススラリーを作製している従来法では、どんなに低温化で行ったとしても十分な破断強度とはならない。また、パテ作製時にメチルセルローススラリーを作製している従来法では、メチルセルローススラリーの品温によって破断強度が異なるため、パテの品質のブレにつながりやすい。
【0043】
また、試験例3で示すように、5℃よりも高い温度で長時間することによりメチルセルローススラリー強度は高くなるが、パテで十分な弾力の食感が得られる程度までは、メチルセルローススラリーの破断強度は高くならない。
【0044】
それに対し、試験例5~8及び試験例10~12で示すように、0~5℃の温度帯で10時間以上保持することにより、パテ作製時にメチルセルローススラリーを作製している従来法よりも高いメチルセルローススラリーの破断強度とすることができ、パテでの評価においても十分以上の官能評価が得られる。また、試験例5~8及び試験例10~12で示すように、0~5℃の温度帯でも品温が低い方が短時間でメチルセルローススラリーの破断強度が増加し、0~5℃の温度帯での保持時間が長くなるほどメチルセルローススラリーの破断強度は高くなる。しかしながら、試験例8及び試験例12で示すように、スラリーの破断強度が強くなりすぎるとパテでの官能評価も弾力が強くなりすぎるため、適度なメチルセルローススラリー強度となるように0~5℃の保持時間を調整することが好ましい。
【0045】
試験例14で示すように、凍結・解凍において0~5℃の通過時間の合計が10時間未満であると十分なメチルセルローススラリーの破断強度は得られないが、試験例13~17で示すように、作製したスラリーを凍結・解凍し0~5℃の温度帯を通過させることにより0~5℃の温度帯に10時間以上保持させることにより、パテ作製時にメチルセルローススラリーを作製している従来法よりも高いメチルセルローススラリーの破断強度とすることができ、パテでの評価においても十分以上の官能評価が得られる。
【0046】
試験例13で示すように、凍結時の0~5℃の保持時間を長くし、0~5℃の保持時間を10時間以上とすることでメチルセルローススラリーの破断強度を強くすることもでき、試験例15及び16で示すように凍結を迅速に行った後、ゆっくりと解凍させることにより0~5℃の通過時間を長くし、0~5℃の保持時間を10時間以上とすることでスラリーの破断強度を強くすることもできる。凍結、解凍による方法の方が、スラリーを大量に作製して保存しておくことができ、使用前に一定の条件で解凍することにより、メチルセルローススラリーの破断強度が安定し、その結果、品質の安定したパテを製造することが可能となる。また、凍結時に0~5℃の通過時間を長くとるよりかは、解凍時に0~5℃の温度帯の通過時間を長くとる方が作業状簡便であり、好ましい。
【0047】
また、試験17で示すように、一度低温処理したメチルセルローススラリーを放置して、品温を10℃まで上昇させたものだが、10℃まで上昇するとメチルセルローススラリーの強度が落ちるため、使用する際のメチルセルローススラリーの品温は、10℃以下、より好ましくは5℃以下が好ましい。
【0048】
<実験2>ハンバーガーパテでの検証
下記表4の配合で実験1同様にスラリーを作製した後、-40℃で試験例16と同じ低温処理を行い、メチルセルローススラリーを作製した(試験例18~23)。
【0049】
【表4】
【0050】
作製したメチルセルローススラリーを実験1の下記表5の配合で実験1と同様に肉様蛋白加工食品(ハンバーガーパテ)を作製し、実験1同様に調理して官能評価を行った。また、各試験例の保形性についても評価を行った。パテの保形性についての評価は、加熱処理し、冷却したサンプルについて行い、しっかりと保形しており非常に良好なものを5、若干保形が弱いが良好なものを4、保形がやや弱いが崩れずに概ね可なものを3、保形が弱く崩れるものを2、保形していないものを1とした。評価結果については下記表6に示す。
【0051】
【表5】
【0052】
【表6】
【0053】
試験例18~22で示すようにメチルセルローススラリー中のメチルセルロース濃度が高くなるほどパテの保形性がよくなっていく。それに対し、官能評価では、スラリー中のメチルセルロース濃度が高くなるにつれ、パテ中のメチルセルロース濃度も高くなり、食感としては弾力が強くなっていくが、パテ中のメチルセルロース濃度が高くなりすぎると弾力が強くなりすぎて評価として低くなる。
【0054】
試験例23、24で示すようにメチルセルローススラリー中のメチルセルロース濃度が低いまたは高い場合に、パテ中のメチルセルローススラリーの配合量を増減することにより、保形性や食感を良くすることが可能である。
【0055】
実験2の結果から、メチルセルローススラリー中のメチルセルロースの濃度としては、1.5~4重量%が好ましく、より好ましくは、2~3.5重量%が好ましい。また、パテ中のメチルセルロースの濃度としては、0.8~1.4重量%が好ましく、より好ましくは1.1~1.4重量%が好ましい。さらに、メチルセルローススラリーのパテ中の配合量としては、20~70重量%が好ましい。