(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-25
(45)【発行日】2024-02-02
(54)【発明の名称】エレクトレット
(51)【国際特許分類】
H10N 30/85 20230101AFI20240126BHJP
H10N 30/30 20230101ALI20240126BHJP
H10N 30/045 20230101ALI20240126BHJP
H01G 7/02 20060101ALI20240126BHJP
【FI】
H10N30/85
H10N30/30
H10N30/045
H01G7/02 A
(21)【出願番号】P 2019225736
(22)【出願日】2019-12-13
【審査請求日】2022-09-09
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和元年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、戦略的創造研究推進事業「高出力環境発電のための革新的エレクトレット材料の創成」、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(73)【特許権者】
【識別番号】000125370
【氏名又は名称】学校法人東京理科大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000648
【氏名又は名称】弁理士法人あいち国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】松下 規由起
(72)【発明者】
【氏名】小澤 宜裕
(72)【発明者】
【氏名】加納 一彦
(72)【発明者】
【氏名】田中 優実
(72)【発明者】
【氏名】大塚 宏基
(72)【発明者】
【氏名】小鷹 悠生
【審査官】小山 満
(56)【参考文献】
【文献】特表2002-533195(JP,A)
【文献】特開2017-162906(JP,A)
【文献】国際公開第2012/073465(WO,A1)
【文献】米国特許第06759356(US,B1)
【文献】国際公開第00/000267(WO,A1)
【文献】特開2009-182207(JP,A)
【文献】田中優実,エレクトレットを利用した振動発電,理大科学フォーラム,第33巻第7号,日本,2016年07月,p.24-29
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H10N 30/85
H10N 30/30
H10N 30/045
H01G 7/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
無機誘電体粒子(21)が母材膜(22)中に分散保持されている複合膜を分極処理してなるエレクトレット層(2)を有し、
上記エレクトレット層において、上記無機誘電体粒子は、バンドギャップエネルギが4eV以上である無機誘電体材料を主成分とする粒子であ
り、
上記無機誘電体材料は、異なる2種の金属元素A、Bを含むABO
3
型のペロブスカイト構造を有する複合酸化物であり、
上記複合酸化物は、上記ペロブスカイト構造のAサイトを、La、Y、Pr、Sm及びNdから選ばれる希土類元素Rが占有し、BサイトをAlが占有する、エレクトレット(1)。
【請求項2】
基板(10)と、その表面に形成されたエレクトレット層(2)とを有し、
上記エレクトレット層は、無機誘電体粒子(21)が母材膜(22)中に分散保持されている複合膜を分極処理してなり、上記無機誘電体粒子は、バンドギャップエネルギが4eV以上である無機誘電体材料を主成分とする粒子であ
り、
上記無機誘電体材料は、異なる2種の金属元素A、Bを含むABO
3
型のペロブスカイト構造を有する複合酸化物であり、
上記複合酸化物は、上記ペロブスカイト構造のAサイトを、La、Y、Pr、Sm及びNdから選ばれる希土類元素Rが占有し、BサイトをAlが占有する、エレクトレット(1)。
【請求項3】
無機誘電体粒子(21)が母材膜(22)中に分散保持されている複合膜を分極処理してなるエレクトレット層(2)を有し、
上記エレクトレット層において、上記無機誘電体粒子は、バンドギャップエネルギが4eV以上である無機誘電体材料を主成分とする粒子であり、
上記無機誘電体材料は、リン酸イオンと水酸化物イオンとを含むアパタイト構造を有する無機化合物である、エレクトレット(1)。
【請求項4】
基板(10)と、その表面に形成されたエレクトレット層(2)とを有し、
上記エレクトレット層は、無機誘電体粒子(21)が母材膜(22)中に分散保持されている複合膜を分極処理してなり、上記無機誘電体粒子は、バンドギャップエネルギが4eV以上である無機誘電体材料を主成分とする粒子であり、
上記無機誘電体材料は、リン酸イオンと水酸化物イオンとを含むアパタイト構造を有する無機化合物である、エレクトレット(1)。
【請求項5】
上記複合酸化物は、上記金属元素A、Bのうちの少なくとも一方について、その一部が異なる金属元素からなるドーパント元素にて置換されており
上記金属元素Aを置換する上記ドーパント元素は、アルカリ土類金属元素であり、上記金属元素Bを置換する上記ドーパント元素は、アルカリ土類金属元素及びZnから選ばれる1つ以上の元素である、請求項
1又は2に記載のエレクトレット。
【請求項6】
上記金属元素Aを置換する上記ドーパント元素の置換割合は、0.5atm%~20atm%であり、上記金属元素Bを置換する上記ドーパント元素の置換割合は、0.5atm%~20atm%である、請求項5に記載のエレクトレット。
【請求項7】
上記母材膜は、分極処理時の電界強度よりも高い絶縁破壊電界強度を有し、分極処理時の温度にて安定な材料からなる、請求項1
~6のいずれか1項に記載のエレクトレット。
【請求項8】
上記複合膜における上記無機誘電体粒子の含有量は、30体積%以上75体積%以下である、請求項1~7のいずれか1項に記載のエレクトレット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エレクトレットに関する。
【背景技術】
【0002】
環境中に存在するエネルギーを電力に変換するエネルギーハーベスティング技術として、エレクトレットを用いた振動発電素子等の実用化が検討されている。エレクトレットの構成材料としては、フッ素樹脂等の有機高分子材料が一般的に用いられており、例えば、鎖状の含フッ素樹脂や主鎖に含フッ素脂肪族環構造を有する重合体を用いたものが知られている。
【0003】
有機高分子材料は、薄膜形成における形状の自由度や膜厚等の制御性に優れる利点がある一方で、有機物であることから、表面電位の熱的安定性や高温環境下での経時的な性能低下が懸念されている。これに対して、特許文献1には、主鎖又は側鎖の末端に極性の官能基を有する有機高分子に、比誘電率が2.0~4.0×103の金属酸化物微粒子を、0.02体積%以上10体積%未満の体積分率で混合することにより、熱安定性を向上させたエレクトレットが提案されている。
【0004】
一方、高温での安定性に優れる無機化合物材料を用いてエレクトレットを構成することが検討されている。例えば、特許文献2には、六方晶ハイドロキシアパタイトの結晶構造を有し、水酸化物イオンの含有量が量論組成のハイドロキシアパタイトよりも少ない焼結体を用いたエレクトレット材が提案されている。この焼結体は、ハイドロキシアパタイト粉体を原料とする成形体を、1250℃を超え1500℃未満の高温で焼結・脱水処理して得られ、水酸化物イオンの欠陥に起因して、分極処理後に高い表面電位が発現すると考えられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第5563746号公報
【文献】特許第6465377号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
無機系のエレクトレットを用いた発電素子等を、基板上に形成される集積回路等に組み込むことにより、発電デバイスの小型化や高温環境下での使用が可能になり、種々の用途への応用が期待される。ところが、特許文献2のエレクトレット材は、粉体原料を用いたバルク焼結体であることから、デバイスの基板上への適用は難しい。あるいは、成膜装置を用いて薄膜形成することも可能であるが、その場合には、成膜に時間を要するだけでなく、制御可能な膜厚の範囲が限られる。特許文献1のエレクトレット材は、有機高分子が主体であることから、膜厚の制御性は向上するものの、熱的安定性は十分とは言えず、高温環境での使用において経時的な性能の低下が懸念される。
【0007】
本発明は、かかる課題に鑑みてなされたものであり、熱的に安定で膜厚の制御が容易であり、高温環境での使用に適したエレクトレットを提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様は、
無機誘電体粒子(21)が母材膜(22)中に分散保持されている複合膜を分極処理してなるエレクトレット層(2)を有し、
上記エレクトレット層において、上記無機誘電体粒子は、バンドギャップエネルギが4eV以上である無機誘電体材料を主成分とする粒子であり、
上記無機誘電体材料は、異なる2種の金属元素A、Bを含むABO
3
型のペロブスカイト構造を有する複合酸化物であり、
上記複合酸化物は、上記ペロブスカイト構造のAサイトを、La、Y、Pr、Sm及びNdから選ばれる希土類元素Rが占有し、BサイトをAlが占有する、エレクトレット(1)にある。
【0009】
本発明の他の態様は、
基板(10)と、その表面に形成されたエレクトレット層(2)とを有し、
上記エレクトレット層は、無機誘電体粒子(21)が母材膜(22)中に分散保持されている複合膜を分極処理してなり、上記無機誘電体粒子は、バンドギャップエネルギが4eV以上である無機誘電体材料を主成分とする粒子であり、
上記無機誘電体材料は、異なる2種の金属元素A、Bを含むABO
3
型のペロブスカイト構造を有する複合酸化物であり、
上記複合酸化物は、上記ペロブスカイト構造のAサイトを、La、Y、Pr、Sm及びNdから選ばれる希土類元素Rが占有し、BサイトをAlが占有する、エレクトレット(1)にある。
本発明の他の態様は、
無機誘電体粒子(21)が母材膜(22)中に分散保持されている複合膜を分極処理してなるエレクトレット層(2)を有し、
上記エレクトレット層において、上記無機誘電体粒子は、バンドギャップエネルギが4eV以上である無機誘電体材料を主成分とする粒子であり、
上記無機誘電体材料は、リン酸イオンと水酸化物イオンとを含むアパタイト構造を有する無機化合物である、エレクトレット(1)にある。
本発明の他の態様は、
基板(10)と、その表面に形成されたエレクトレット層(2)とを有し、
上記エレクトレット層は、無機誘電体粒子(21)が母材膜(22)中に分散保持されている複合膜を分極処理してなり、上記無機誘電体粒子は、バンドギャップエネルギが4eV以上である無機誘電体材料を主成分とする粒子であり、
上記無機誘電体材料は、リン酸イオンと水酸化物イオンとを含むアパタイト構造を有する無機化合物である、エレクトレット(1)にある。
【発明の効果】
【0010】
上記構成のエレクトレットは、エレクトレット層に複合膜を用い、分極処理にてエレクトレット化される無機誘電体粒子を母材膜中に分散させた構成としたことにより、例えば、基材上に形成されるエレクトレット層の膜厚を容易に制御可能となり、形状の自由度が向上する。また、無機誘電体粒子は、4eV以上の高いバンドギャップエネルギを有する無機誘電体材料からなることにより、絶縁破壊電圧を大きくすることができ、分極処理時に高い電圧を印加することによって高い表面電位が得られる。したがって、熱的に安定で、高温環境下や長期使用による表面電位の低下を起こしにくいエレクトレットとすることができる。
【0011】
以上のごとく、上記態様によれば、熱的に安定で膜厚の制御が容易であり、高温環境での使用に適したエレクトレットを提供することができる。
なお、特許請求の範囲及び課題を解決する手段に記載した括弧内の符号は、後述する実施形態に記載の具体的手段との対応関係を示すものであり、本発明の技術的範囲を限定するものではない。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】実施形態1における、エレクトレットの概略構成例であり基本構造となるエレクトレット層を示す模式図。
【
図2】実施形態1における、エレクトレットの概略構成例を示す模式図。
【
図3】実施形態1における、エレクトレットの概略構成例であり、エレクトレット層を構成する母材膜の他の例を示す模式図。
【
図4】実施形態2における、エレクトレットの概略構成例であり、エレクトレット層を構成する無機誘電体粒子の他の例を示す模式図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
(実施形態1)
エレクトレットに係る実施形態1について、
図1~
図3を参照して説明する。
図1に示すように、本形態のエレクトレット1は、基本構造として、エレクトレット層2を有する。エレクトレット層2は、無機誘電体粒子21が母材膜22中に分散保持されている複合膜を分極処理してなるものであり、無機誘電体粒子21は、バンドギャップエネルギが4eV以上である無機誘電体材料を主成分とする粒子である。
【0014】
図2に示すように、本形態のエレクトレット1は、基板10と、その表面に形成されたエレクトレット層2とを有する構成とすることができる。エレクトレット層2は、
図1に基本構造として示したように、無機誘電体粒子21が母材膜22中に分散保持されている複合膜を分極処理してなり、無機誘電体粒子21は、バンドギャップエネルギが4eV以上である無機誘電体材料を主成分とする粒子である。
【0015】
ここで、「主成分とする」とは、無機誘電体材料のみで構成される粒子であってもよいし、無機誘電体材料の原料等に起因する不純物等が含まれる粒子や、無機誘電体材料を粒子状とする過程において若干の他の成分が添加された粒子であってもよいことを意味する。また、
図1に示したエレクトレット1(すなわち、エレクトレット層2)は、例えば、
図2に示したエレクトレット1におけるエレクトレット層2が、基板10から剥離された状態のものである。
【0016】
エレクトレット1は、周囲に静電場を提供する帯電物質であり、無機誘電体粒子21を含む複合膜を分極処理したエレクトレット層2によって、表面電位を発現している。無機誘電体粒子21は、母材膜22中に保持されて均一に分散した状態となり、安定した特性を有するエレクトレット層2とすることが可能になる。
【0017】
エレクトレット層2は、無機誘電体粒子21に、バンドギャップエネルギが4eV以上と比較的大きい無機誘電体材料を用いており、絶縁破壊電圧が大きくなるため、分極処理時に高電圧を印加して、所望の高い表面電位を発現させることが可能になる。また、エレクトレット層2は、無機誘電体粒子21を、膜形成に適した母材膜22に分散させた複合膜からなるので、基板10の形状に応じた膜形成や膜厚制御が容易であり、形状の自由度や熱的安定性に優れたエレクトレット1とすることができる。
【0018】
このようなエレクトレット1は、機械エネルギーと電気エネルギーとを相互に変換する各種装置、例えば、環境振動を動力源とする小型の静電式振動発電装置等において、集積回路組込型の発電素子等として利用することができる。
【0019】
エレクトレット1は、基板10の形状(例えば、矩形平板状又は円盤形状等)に応じた任意の外形形状を有し、基板10の一方の表面側に、エレクトレット層2が積層形成されている。ここでは、図中の上下方向を、基板10の厚さ方向Xとし、以降、エレクトレット層2が積層される側の表面を、上表面とし、その反対側の表面を、下表面として説明する。
【0020】
無機誘電体粒子21の構成材料は、バンドギャップエネルギが4eV以上である無機誘電体材料であれば、特に制限されない。好適には、このような無機誘電体材料として、異なる2種の金属元素A、Bを含むABO3型のペロブスカイト構造を有する複合酸化物が用いられる。
本形態では、以下、ペロブスカイト構造を有する複合酸化物を用いたエレクトレット層2について、主に説明する。
【0021】
ペロブスカイト構造を有する複合酸化物とは、組成式ABO3で表されるペロブスカイト型の結晶構造を有する複合酸化物であり、代表的には、立方晶系の単位格子を持つ。金属元素Aは立方晶の中心位置に、金属元素Bは立方晶の各頂点に位置し、各金属元素A、Bに対して、酸素原子Oが正八面体に配位する。ペロブスカイト構造において、酸素原子の欠損により非化学量論組成をとることも多い。その場合には、組成式ABOx(x<3)で表すことができ、酸素量が量論比よりも少ないことにより、結晶欠陥が発生する。好適には、酸素量が量論比よりも低減した構成が好ましく、表面電位の向上に寄与する。
【0022】
エレクトレット層2において、無機誘電体材料となる無機誘電体粒子21は、組成式ABO3で表されるペロブスカイト構造を基本組成とする複合酸化物粒子からなる。組成式ABO3における金属元素A、Bの組み合わせは、特に制限されないが、例えば、3価の希土類元素R(金属元素A)と3価のAl(金属元素B)を組み合わせた希土類アルミネート(RAlO3)が好適に用いられる。
【0023】
具体例としては、ABO3型のペロブスカイト構造において、Aサイト(金属元素A)を、La、Y、Pr、Sm及びNdから選ばれる希土類元素Rが占有し、Bサイト(金属元素B)をAlが占有する構成とすることができる。これらを組み合わせた希土類アルミネートは、バンドギャップエネルギが4eV以上と大きく、比誘電率が比較的小さいため(例えば、100以下)、高い表面電位が実現できる。また、比較的安価な材料を用いて作製することができ、製造コスト面で有利である。
【0024】
無機誘電体粒子21を構成する複合酸化物は、ペロブスカイト構造のAサイト(金属元素A)及びBサイト(金属元素B)のうちの少なくとも一方について、その一部が異なる金属元素からなるドーパント元素にて置換された組成となっていてもよい。その場合には、ドーパント元素として、金属元素A、Bよりも低価数の金属元素が用いられることにより、結晶構造中に酸素欠陥が導入されやすくなる。
【0025】
例えば、Aサイトが、上述した3価の希土類元素Rである場合には、ドーパント元素は、Aサイトの一部を占有する2価のアルカリ土類金属元素(Mgを含む)とすることができる。このような2価のアルカリ土類金属元素としては、例えば、CaもしくはSrが挙げられる。
【0026】
あるいは、Bサイトが、上述した3価のAlである場合には、ドーパント元素は、その一部を占有する2価のアルカリ土類金属元素(Mgを含む)及びZnから選ばれる1つ以上の元素とすることができる。
AサイトとBサイトの両方について、その一部をドーパント元素で置換した構成とすることも、もちろんできる。
【0027】
このように、複合酸化物を構成する金属元素A、Bの一部が置換された組成とすることによって、酸素欠陥を導入しやすくなる。エレクトレット層2において高い表面電位を得るには、無機誘電体材料内の欠陥の存在が重要と考えられており、無機誘電体粒子21にペロブスカイト構造の材料を用いることにより、元素置換により欠陥量を制御しやすくなる。
【0028】
金属元素Aを置換するドーパント元素の置換割合は、例えば、0.5atm%~20atm%の範囲で、適宜設定することができる。同様に、金属元素Bを置換するドーパント元素の置換割合は、例えば、0.5atm%~20atm%の範囲で、適宜設定することができ、置換割合に応じた所望の高い表面電位が得られる。このように、ドーパント元素の導入によって欠陥を発生させることができ、金属元素A、Bの置換割合を制御することにより、欠陥量の制御が可能になり、安定した表面電位特性が得られる。
【0029】
エレクトレット層2は、このような複合酸化物を粒子状に調製して無機誘電体粒子21とし、母材膜22となる母材材料と混合した材料を用いて、基板10上に形成された複合膜からなる。母材材料は、無機誘電体粒子21と均一混合されて、所定厚さの膜状に形成可能な有機系材料又は無機系材料であり、耐熱性、耐電圧性に優れるものであればよい。
【0030】
好適には、母材膜22は、後述する分極処理の条件に応じて要求される耐熱性、耐電圧性を有していればよい。例えば、分極処理時の温度にて安定で、分極処理時の温度よりも高い融点又は熱分解温度(例えば、200℃以上)を有し、かつ、分極処理時の電界強度よりも高い絶縁破壊電界強度(例えば、4kV/mm以上)を有する材料にて構成されることが望ましい。
【0031】
このような母材材料として、例えば、ポリイミド、シリコン樹脂、ポリアミドイミド、アリル樹脂、フッ素樹脂等の有機系材料、又は、ケイ酸ナトリウム等の無機系材料を用いることができる。その他、ケイ素を含むガラス状のSOG(スピン・オン・ガラス)、シリコン樹脂等、液状で膜形成が可能な任意の材料を用いることができる。
【0032】
基板10の材料は、特に限定されず、本形態では、例えば、導電性Si基板を用いる。その他、導電性酸化物やアルミニウム、鉄、銅等の金属を用いた導電性基板や、石英ガラス、ソーダガラス、サファイア、PP(ポリプロピレン)、PET(ポリエチレンテレフタレート)、ポリカーボネート等を用いた絶縁性基板を用いることもできる。
【0033】
基板10上へのエレクトレット層2となる複合膜の形成は、例えば、印刷法、ディスペンス法、キャスト法、スピンコート法等、任意の方法によって行うことができる。例えば、印刷法による場合には、無機誘電体粒子21と母材材料を含む液状材料を用いて、基板10上に所望の膜厚となるように印刷塗布し、乾燥及び熱硬化させることにより、所定厚さの複合膜として形成される。
【0034】
このように、エレクトレット層2を、無機誘電体粒子21を母材膜22に分散させた膜構造とすることにより、高温高真空条件が必要な成膜装置等を用いることなく、より簡便に、高い表面電位を発現するエレクトレット層2を基板10上に成膜することができる。エレクトレット層2は、任意の膜厚とすることができ、通常の成膜装置で成膜される膜厚よりも厚い複合膜(例えば、10μm以上)を、容易に形成可能となる。
【0035】
エレクトレット層2となる複合膜において、無機誘電体粒子21の体積割合は、所望の表面電位や膜強度が得られるように、適宜調整することができる。好適には、30体積%以上75体積%以下の範囲とすることが望ましく、無機誘電体粒子21の体積割合が多くなるほど、より大きい表面電位を得ることができ、複合膜の強度も向上する。また、無機誘電体粒子21として球状粒子を用いることによって、膜厚の制御がより容易になる。その場合には、75体積%で最密構造となるので、これを上限とすることによって、より大きい表面電位を得ることができ、無機誘電体粒子21の保持能力を低下させることなく、複合膜の強度を確保することができる。
【0036】
エレクトレット1は、この複合膜が基板10の上表面に形成された状態で、分極処理を施すことによって得られる。そのために、厚さ方向Xにおいて、エレクトレット層2と反対側となる基板10の下表面に、導電層3が配置されることが望ましい。導電層3は、Ti、Au、Ptの導電性金属を用いて形成される導電性膜からなり、複数の導電性膜が積層された構造であってもよい。この導電層3を分極処理時の電極として利用することによって、複合膜を分極処理して、エレクトレット層2とすることができる。
【0037】
図2に示すエレクトレット1は、導電性Siからなる基板10の下表面側に、2層構造の導電層3が形成されている。基板10の下表面に接する第1導電層31は、密着性の良好なTi等の金属からなり、第1導電層31の下表面に接する第2導電層32は、導電性の良好な貴金属(例えば、Pt、Au等)からなる。なお、基板10の上表面にはSi酸化膜11があり、その上表面に接してエレクトレット層2が配置される。
【0038】
分極処理方法は、特に限定されるものではなく、例えば、コロナ放電等を用いて、接地電極となる導電層3と対向電極との間に、電圧を印加することにより行う。分極処理条件は、例えば、100℃以上の温度で、電界強度1kV/mm以上、好適には、4kV/mm以上となるように電圧を印加することが望ましい。振動発電等のデバイス用として、効率のよい発電を実現するには、表面電位として400V以上が必要とされており、例えば、膜厚が100μmのエレクトレット層2であれば、電界強度4kV/mm以上での分極処理で、所望の表面電位が実現可能となる。
【0039】
ここで、分極処理後のエレクトレット層2の表面電位は、基板10に成膜された複合膜に印加する電圧に比例するため、用途に応じて要求される表面電位を実現するように、必要となる電圧を印加すればよい。あるいは、必要となる電圧に対して、絶縁破壊が生じないように、それに応じて膜厚を大きくすればよい。
【0040】
このようにして作製されるエレクトレット1は、基板10上に形成されるエレクトレット層2が無機材料を主体とすることから、有機材料からなるエレクトレットに比べて、高温環境下での使用における耐久性に優れ、経時的な性能低下を抑制して、高い表面電位を保持することができる。
【0041】
(実施例1)
以下の方法で、
図2に示した構成のエレクトレット1を作製した。
<溶液調製>
まず、エレクトレット層2となる複合膜を形成するために、無機誘電体材料の原料として、酸化ランタン(La
2O
3)、酸化アルミニウム(Al
2O
3)、炭酸カルシウム(CaCO
3)の粉末を、La、Al、Caのモル比が99:100:1となるように配合し、十分に混合した。この混合物を、1600℃で2時間、加熱焼成させることによって、ランタンアルミネート系複合酸化物La
0.99Ca
0.01AlO
xの焼結粉末(以下、LAO系焼結粉末)を作製した。得られた焼結粉末を、平均粒径がおよそ50μmとなるように十分に粉砕して、無機誘電体粒子21とした。
【0042】
次に、母材膜22となる母材材料の原料として、N-メチル-2-ピロリドンとポリアミック酸の有機混合液を、ポリアミック酸濃度が約6%となるように作製した。この有機混合液に、無機誘電体粒子21となるLAO系焼結粉末を30質量%となるように添加し、混合して、複合膜を形成するための粉末混合液を調製した。
【0043】
<膜形成>
導電性Siからなる基板10の上表面を熱酸化して、膜厚50nmのSi酸化膜11を形成した。次いで、その下表面に、スパッタ法により導電層3を形成した。導電層3は、基板10に接する側から順に、第1導電層31となるTi膜30nm、第2導電層32となるAu膜200nmを、各層を形成する金属材料をターゲットとして成膜した。
【0044】
次いで、基板10のSi酸化膜11の上表面に、上記のようにして調製した粉末混合液を、印刷法により、厚さが約160μmとなるよう塗布した。塗布した後、LAO系焼結粉末が下方に沈殿する場合は、必要に応じて、LAO系焼結粉末を含まない上層の有機混合液を取り除いた。
なお、エレクトレット層2の形成後のLAO系焼結粉末の体積割合は、70体積%であった。
【0045】
その後、粉末混合液を塗布した基板10を、大気雰囲気下、110℃で15分かけて乾燥させた。さらに280℃で1時間かけて熱処理することによってポリアミック酸をポリイミド化した。これにより、ポリイミド(熱分解温度≧500℃)からなる母材材料によって、ペロブスカイト構造を有するLAO系焼結粉末からなる無機誘電体粒子21が取り囲まれて保持され、母材膜22中に均一分散された状態の有機無機複合膜を形成した。なお、熱処理時の昇温レートは、3℃/minとした。
【0046】
<分極処理>
このようにして基板10上にエレクトレット層2となる有機無機複合膜を形成し、分極処理を施してエレクトレット1とした。分極処理にはコロナ放電を用い、基板10の下表面に接する導電層3を接地して接地電極とし、エレクトレット層2の上表面側にコロナ放電電極を対向配置して、負電圧を印加することによりコロナ放電を発生させた。コロナ放電の条件は、以下の通りとした。なお、降温時も電圧印加しコロナ放電を継続した。
・放電電圧:-6kV
・温度:200℃
・処理時間:1時間
【0047】
これにより、基板10上に形成された有機無機複合膜が分極して、上表面側にマイナス電荷を帯びることによって、エレクトレット性能を持たせたエレクトレット層2が得られる。このとき、分極処理条件に応じた高い表面電位が得られ、また、分極処理温度を室温より高い温度(例えば、200℃)で行うことにより、使用環境が高温となる用途においても、表面電位の変動が抑制されやすい。これにより、安定したエレクトレット性能を実現可能となる。なお、分極処理の温度その他の条件は、有機無機複合膜の構成材料の融点や、想定される使用環境で要求される特性等に応じて、適宜変更することができる。
【0048】
実施例1のエレクトレット1において、無機誘電体粒子21を構成するLAO系無機誘電体材料は、代表的な組成であるランタンアルミネート(LaAlO3)のバンドギャップエネルギが5.6eVであり、厚さ1mmの多結晶体における表面電位は4000V(分極時の電界強度1kV/mm以上)であった。Alの一部をドーパント元素であるCaで置換した(La0.99Ca0.01AlOx)もほぼ同等のバンドギャップエネルギを有し、Caの置換割合yを0.5atm%~20atm%の範囲で変更した(La1-yCayAlO3-δ)のバンドギャップエネルギもほぼ同等となる。また、厚さ1mmの多結晶体としたときの(La1-yCayAlO3-δ)の表面電位は、1000V~3500V(分極時の電界強度1kV/mm以上)であった。
【0049】
他の希土類アルミネートについて、代表的な組成におけるバンドギャップエネルギを以下に示す。これら希土類アルミネートの金属元素の一部を置換した場合もほぼ同等のバンドギャップエネルギを有する。このうち、厚さ1mmの多結晶体としたときのYAlO3の表面電位は、1000V(分極時の電界強度1kV/mm以上)であった。
YAlO3:7.9eV
PrAlO3:4.7eV
SmAlO3:4.6eV
NdAlO3:4.4eV
【0050】
これに対して、ペロブスカイト構造を有するBaTiO3(バンドギャップエネルギ:3.5eV)は、厚さ1mmの多結晶体としたときの表面電位は、4V(分極時の電界強度1kV/mm以上)であった。これらの対比により、希土類アルミネートのように、4eV以上のバンドギャップエネルギを有する複合酸化物を用いることにより、エレクトレット層2に無機誘電体粒子21を含むエレクトレット1のエレクトレット性能を向上可能であることがわかる。
【0051】
ここで、実施例1では、無機誘電体粒子21を構成するLAO系焼結粉末は、平均粒径がおよそ50μmとなるように粉砕したものを用いたが、これより大きくても小さくてもよく、複合膜の厚さ等に応じて、均一分散可能な範囲で任意に設定することができる。
また、母材膜22となる有機物材料としてポリイミドを用いたが、これに限るものではなく、他の有機系材料または無機系材料でもよい。
【0052】
例えば、
図3に示すように、エレクトレット層2において、無機誘電体粒子21を分散保持させる母材膜22を、無機物材料であるケイ酸ナトリウムにて構成することもできる。その場合には、母材材料となるケイ酸ナトリウムを含む無機溶液に、所定の割合となるようにLa
0.99Ca
0.01AlO
xの焼結粉末を添加し、混合して、複合膜を形成するための粉末混合液を調製すればよい。それ以外の構成及び作製方法は、同様とすることができる。
【0053】
このように、無機物材料であるケイ酸ナトリウムを用いることにより、無機複合膜にてエレクトレット層2が構成されるので、より熱的安定性の高いエレクトレット1とすることができる。
【0054】
なお、基板10には、導電性Siを用いたが、これに限るものではなく、導電性酸化物やアルミニウム、鉄、銅等の金属を用いた導電性基板や、石英ガラス、ソーダガラス、サファイア、PP(ポリプロピレン)、PET(ポリエチレンテレフタレート)、ポリカーボネート等を用いた絶縁性基板でもよい。ただし、分極時にエレクトレット層2となる複合膜に電界をかける必要があり、厚み方向Xにおける一方の表面を接地するために、複合膜の一方の表面側(接地側)に導電層3が設けられる。ここでは、基板10の下表面に導電層3を設けて、間接的に電界をかける構成としたが、複合膜の一方の表面に直接接するように導電層3を設けて、接地してもよい。
【0055】
このようにして、
図2に示したように、基板10上にエレクトレット層2が配置された構成のエレクトレット1が得られる。また、
図1に示した構成のように、基板10からエレクトレット層2が剥離された状態のエレクトレット1とすることもできる。その場合には、基板10上にエレクトレット層2となる複合膜を形成した後に、複合膜を基板10から剥離し、分極処理を施すために、例えば、複合膜を電極となる一対の金属板の間に挟み、DC電源から直接電圧を印加すればよい。
【0056】
あるいは、基板10上にエレクトレット層2となる複合膜が形成された状態で、分極処理を行い、その後にエレクトレット層2を基板10から剥離して、エレクトレット1とすることもできる。
得られたエレクトレット1は、このように、エレクトレット層2を基板10から剥離したものであり、所望の場所に配置して使用することができる。
【0057】
(実施形態2)
エレクトレットに係る実施形態2について、
図4を参照して説明する。
図4に示すように、本形態のエレクトレット1の基本構成は、上記実施形態1と同様であり、基板10と、その表面に形成されたエレクトレット層2とを有する。本形態では、エレクトレット層2の無機誘電体粒子21を構成する無機誘電体材料が異なっている。以下、相違点を中心に説明する。
なお、実施形態2以降において用いた符号のうち、既出の実施形態において用いた符号と同一のものは、特に示さない限り、既出の実施形態におけるものと同様の構成要素等を表す。
【0058】
本形態においても、エレクトレット層2は、バンドギャップエネルギが4eV以上である無機誘電体材料を主成分とする無機誘電体粒子21が、母材膜22に分散保持された構造を有する。上記実施形態1では、無機誘電体材料をABO3型のペロブスカイト構造を有する複合酸化物としたが、本形態では、リン酸イオンと水酸化物イオンとを含むアパタイト構造を有する無機化合物を用いている。
【0059】
アパタイトとは、組成式M10(ZO4)6(X)2で表される化合物の総称であり、代表的には、単位格子が六方晶系に分類されて、かつ空間群がP63/mであるような結晶構造を有し、非化学量論組成をとることも多い。リン酸イオンと水酸化物イオンとを含むアパタイト構造を有する無機化合物とは、組成式M10(PO4)6(OH)2で表される化合物であり、金属元素Mとしては、Ca等の2価のアルカリ土類金属元素が挙げられる。
【0060】
好適には、リン酸イオンと水酸化物イオンとを含むアパタイト構造を有する無機化合物として、ハイドロキシアパタイト(HA)が用いられる。ハイドロキシアパタイトは、化学量論を満たしている場合の組成式が(Ca10(PO4)6(OH)2)であり、単位格子が六方晶系に分類されて、かつ空間群がP63/mであるような結晶構造を有する化合物である。
【0061】
好適には、無機誘電体材料となる無機化合物は、アパタイト構造における水酸化物イオンの含有量が、量論比よりも少ないことが好ましい。ハイドロキシアパタイトは、水酸化物イオンとリン酸イオンとを有する原料粉末を、例えば、1250℃を超え1500℃未満の温度で焼成することにより、六方晶ハイドロキシアパタイトの結晶構造となり、その過程で、水酸化物イオンの含有量が、量論比よりも低減する。これは、ハイドロキシアパタイトが加熱されることによって水酸基からの脱水が生じることによるもので、ハイドロキシアパタイトからオキシハイドロキシアパタイト(OHA)が生成し、結晶欠陥が発生する。
【0062】
本形態において、エレクトレット層2は、無機誘電体粒子21となる無機誘電体材料として、ハイドロキシアパタイト等のアパタイト構造を有する無機化合物を用いる。この無機化合物を粒子状に調製して無機誘電体粒子21とし、母材膜22中に分散させた複合膜が、エレクトレット層2として基板10上に形成されることによって、エレクトレット1が構成される。基板10の材料や母材膜22となる母材材料、エレクトレット層2となる複合膜の形成方法は、上記実施形態1と同様とすることができる。
【0063】
(実施例2)
以下の方法で、
図4に示した構成のエレクトレット1を作製した。
<溶液調製>
まず、エレクトレット層2となる複合膜を形成するために、無機誘電体材料の原料として、粒径50~60μmの分布を持つハイドロキシアパタイト(HA)粉末を用い、1400℃で2時間加熱して焼成させると共に、脱水させることによって、オキシハイドロキシアパタイト(OHA)を含む焼結粉末(以下、OHAを含むHA焼結粉末)を作製した。このとき、焼結により粉末サイズが大きくなるので、十分に粉砕して、粉砕後の粒径が、焼成前に比べて2割ほど小さくなるようにし、得られた焼結粉末を、無機誘電体粒子21とした。
【0064】
次に、母材膜22となる母材材料の原料として、N-メチル-2-ピロリドンとポリアミック酸の有機混合液を、ポリアミック酸濃度が約6%となるように作製した。この有機混合液に、OHAを含むHA焼結粉末を30質量%となるように添加し、混合して、複合膜を形成するための粉末混合液を調製した。
【0065】
<膜形成>
導電性Siからなる基板10の上表面を熱酸化して、膜厚50nmのSi酸化膜11を形成した。次いで、その下表面に、スパッタ法により導電層3を形成した。導電層3は、基板10に接する側から順に、第1導電層31となるTi膜30nm、第2導電層32となるAu膜200nmを、各層を形成する金属材料をターゲットとして成膜した。
【0066】
次いで、基板10のSi酸化膜11の上表面に、上記のようにして調製した粉末混合液を、印刷法により、厚さが約160μmとなるよう塗布した。塗布した後、OHAを含むHA焼結粉末が下方に沈殿する場合は、必要に応じて、OHAを含むHA焼結粉末を含まない上層の有機混合液を取り除いた。
なお、エレクトレット層2の形成後のOHAを含むHA焼結粉末の体積割合は、70体積%であった。
【0067】
その後、粉末混合液を塗布した基板10を、大気雰囲気下、110℃で15分かけて乾燥させた。さらに280℃で1時間かけて熱処理することによってポリアミック酸をポリイミド化した。これにより、ポリイミド(熱分解温度≧500℃)からなる母材材料によって、OHAを含むHA焼結粉末からなる無機誘電体粒子21が取り囲まれて保持され、母材膜22中に均一分散された状態の有機無機複合膜を形成した。なお、熱処理時の昇温レートは、3℃/minとした。
【0068】
<分極処理>
このようにして基板10上にエレクトレット層2となる有機無機複合膜を形成し、分極処理を施してエレクトレット1とした。分極処理にはコロナ放電を用い、基板10の下表面に接する導電層3を接地して接地電極とし、エレクトレット層2の上表面側にコロナ放電電極を対向配置して、両電極間に電圧を印加することによりコロナ放電を発生させた。コロナ放電の条件は、以下の通りとした。なお、降温時も電圧印加しコロナ放電を継続した。
・放電電圧:-6kV
・温度:200℃
・処理時間:1時間
【0069】
実施例2のエレクトレット1において、無機誘電体粒子21を構成するHA系無機誘電体材料(OHAを含むHA)は、バンドギャップエネルギが、7eV以上であり、4eV以上の大きなバンドギャップエネルギを有する。また、分極処理したエレクトレット層2(厚さ160μm)の表面電位は、1.3kVであり、無機誘電体粒子21が母材膜22に分散された複合膜とした場合にも、高い表面電位が得られることが確認された。
【0070】
このようにしても、上記実施例1と同様に、基板10上に形成された有機無機複合膜が分極して、上表面側にマイナス電荷を帯びることによって、エレクトレット性能を持たせたエレクトレット層2が得られる。この場合も、分極処理条件に応じた高い表面電位が得られ、安定したエレクトレット性能を実現可能となる。
【0071】
本発明は上記各実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の実施形態に適用することが可能である。
【符号の説明】
【0072】
1 エレクトレット
10 基板
11 Si酸化膜
2 エレクトレット層
21 無機誘電体粒子
22 母材
3 導電層
31 第1導電層
32 第2導電層