(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-25
(45)【発行日】2024-02-02
(54)【発明の名称】加齢に伴う認知機能障害の予防又は改善剤、及び加齢に伴う意欲低下の予防又は改善剤、並びにこれらの製造方法
(51)【国際特許分類】
A23L 33/105 20160101AFI20240126BHJP
A23F 3/18 20060101ALI20240126BHJP
A61K 31/216 20060101ALI20240126BHJP
A61K 31/352 20060101ALI20240126BHJP
A61K 31/7028 20060101ALI20240126BHJP
A61K 36/82 20060101ALI20240126BHJP
A61P 25/28 20060101ALI20240126BHJP
A61P 43/00 20060101ALN20240126BHJP
【FI】
A23L33/105
A23F3/18
A61K31/216
A61K31/352
A61K31/7028
A61K36/82
A61P25/28
A61P43/00 111
(21)【出願番号】P 2020046203
(22)【出願日】2020-03-17
【審査請求日】2022-09-13
(31)【優先権主張番号】P 2019050198
(32)【優先日】2019-03-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】501203344
【氏名又は名称】国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100150898
【氏名又は名称】祐成 篤哉
(74)【代理人】
【識別番号】100114292
【氏名又は名称】来間 清志
(72)【発明者】
【氏名】野村 幸子
(72)【発明者】
【氏名】物部 真奈美
(72)【発明者】
【氏名】吉田 克志
(72)【発明者】
【氏名】山下 修矢
(72)【発明者】
【氏名】根角 厚司
【審査官】川崎 良平
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2010/0040762(US,A1)
【文献】国際公開第2014/065369(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/190307(WO,A1)
【文献】特開2006-096740(JP,A)
【文献】特開2011-084543(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 33/00-33/105
A61K 36/00-36/9068
A61P 1/00-43/00
FSTA/CAplus/AGRICOLA/BIOSIS/MEDLINE/EMBASE(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
茶葉又は該茶葉の抽出物である茶葉抽出物を含む、加齢に伴う認知機能障害の予防又は改善剤であって、
前記茶葉及び前記茶葉抽出物は、非ガレート型カテキン
と、テオガリン
と、ストリクチニン及びGストリクチニンの少なくとも一方とを含み、
非ガレート型カテキンのモル濃度(μmol/L)に対するテオガリンのモル濃度(μmol/L)の割合が、0.3以上である、加齢に伴う認知機能障害の予防又は改善剤。
【請求項2】
前記茶葉及び前記茶葉抽出物は、ストリクチニンを含み、非ガレート型カテキンのモル濃度(μmol/L)に対するストリクチニンのモル濃度(μmol/L)の割合が、0.002以上である、請求項
1に記載の加齢に伴う認知機能障害の予防又は改善剤。
【請求項3】
前記茶葉及び前記茶葉抽出物は、Gストリクチニンを含み、非ガレート型カテキンのモル濃度(μmol/L)に対するGストリクチニンのモル濃度(μmol/L)の割合が、0.001以上である、請求項
1又は
2に記載の加齢に伴う認知機能障害の予防又は改善剤。
【請求項4】
茶葉又は該茶葉の抽出物である茶葉抽出物を含む、加齢に伴う意欲低下の予防又は改善剤であって、
前記茶葉及び前記茶葉抽出物は、非ガレート型カテキン
と、テオガリン
と、ストリクチニン及びGストリクチニンの少なくとも一方とを含み、
非ガレート型カテキンのモル濃度(μmol/L)に対するテオガリンのモル濃度(μmol/L)の割合が、0.3以上である、加齢に伴う意欲低下の予防又は改善剤。
【請求項5】
前記茶葉及び前記茶葉抽出物は、ストリクチニンを含み、非ガレート型カテキンのモル濃度(μmol/L)に対するストリクチニンのモル濃度(μmol/L)の割合が、0.002以上である、請求項
4に記載の加齢に伴う意欲低下の予防又は改善剤。
【請求項6】
前記茶葉及び前記茶葉抽出物は、Gストリクチニンを含み、非ガレート型カテキンのモル濃度(μmol/L)に対するGストリクチニンのモル濃度(μmol/L)の割合が、0.001以上である、請求項
4又は
5に記載の加齢に伴う意欲低下の予防又は改善剤。
【請求項7】
請求項1~
3のいずれか1項に記載の認知機能障害の予防又は改善剤の製造方法であって、
前記茶葉を-5℃以上40℃以下の水で抽出することにより前記茶葉抽出物を製造する工程を有する、認知機能障害の予防又は改善剤の製造方法。
【請求項8】
請求項
4~
6のいずれか1項に記載の加齢に伴う意欲低下の予防又は改善剤の製造方法であって、
前記茶葉を-5℃以上40℃以下の水で抽出することにより前記茶葉抽出物を製造する工程を有する、加齢に伴う意欲低下の予防又は改善剤の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加齢に伴う認知機能障害の予防又は改善剤、ニューロトロフィン3の増強剤、及び加齢に伴う意欲低下の予防又は改善剤、並びにこれらの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
加齢に伴う認知機能の低下が問題視されており、認知機能の低下を抑制することができる成分が検討されている。
例えば、カフェインは、動物実験により、加齢に伴う脳機能の低下を抑えられることが報告されている(非特許文献1~3参照)。また、テアニンの投与により実験動物の認知機能が向上することが報告されている(特許文献1及び非特許文献4参照)。そして、最も盛んに研究されているのがエピガロカテキンガレート(EGCG)をはじめとするガレート型カテキンであり、EGCGを中心とするカテキン類が、老化促進モデル動物等にみられる認知機能の低下に対して予防効果を発揮することが報告されている(非特許文献5~9参照)。また、アルツハイマー病モデル動物において、カテキン類が認知機能の低下を抑制することが報告されている(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開09-012454号公報
【文献】特開2006-096740号公報
【非特許文献】
【0004】
【文献】Neuroscience. 2008;153(4):1071-8.
【文献】Exp Gerontol. 2011;46(4):309-15.
【文献】Neuropharmacology. 2013;64:153-9.
【文献】Nutr Neurosci. 2014;17(6):279-83.
【文献】Biogerontology. 2007;8(2):89-95.
【文献】Biofactors. 2008;34(4):263-71.
【文献】ANTI-AGING MEDICINE 2011;8(6):75-81
【文献】Neuroscience. 2009;163(3):741-9.
【文献】Neuroscience. 2009;159(4):1208-15.
【文献】AGE. 2012;34:1435-52.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、カフェインは交感神経系の興奮を誘導することから、高濃度での継続的な摂取は敬遠されている。また、カテキン類(特に、EGCG等のガレート型カテキン)は、苦渋味が強く、継続的に摂取することは難しい。そして、テアニンは、安全面や嗜好面には問題はないが有効濃度が非常に高いため、例えば通常の緑茶の飲用量では、認知機能の向上効果が得られない。また、テアニン含量を増した茶を栽培することが可能ではあるが栽培に手間がかかり、また、テアニン含量の高い茶は同時にカフェインやガレート型カテキンを多く含むため好ましくない。
【0006】
したがって、上記成分以外の成分等を用いて認知機能障害の抑制等をすることが望ましい。なお、テオガリンや、ストリクチニン、Gストリクチニンは、加齢に伴う認知機能障害の予防や改善効果は知られていない。
また、摂取の容易性から、食品として摂取可能であることが望ましい。
【0007】
また、加齢に伴う症状として、上述の加齢に伴う認知機能の低下の他に、不安様行動を観察する行動試験の結果から、実験動物でも加齢に伴って探索意欲が低下することが報告されている(非特許文献10)。
このため、加齢に伴う意欲の低下の抑制等をすることも望まれる。なお、テオガリンや、ストリクチニン、Gストリクチニンは、加齢に伴う意欲低下の予防や改善効果も知られていない。
【0008】
ここで、神経栄養因子の一種であるニューロトロフィン-3(NT-3)は、記憶・学習能を改善する可能性が報告されている。例えば、NT-3を投与すると記憶・学習能が回復する。また、NT-3は、抗うつ作用の可能性も報告されている。
したがって、NT-3を増強することにより、認知機能障害の予防や改善に加えて抗うつ作用、例えば意欲の低下の抑制等も期待できる。
【0009】
なお、上述のとおり、EGCG等のガレート型カテキンは苦渋味が強いため、嗜好性の観点から、EGCGの含有量が少なくなる方法で製造できることが望ましい。
また、上述のとおり、カフェインの含有量が少なくなる方法で製造できることも望ましい。
【0010】
本発明は、上記の状況に鑑みてなされたものであり、加齢に伴う認知機能障害の予防又は改善剤、ニューロトロフィン3の増強剤、及び加齢に伴う意欲低下の予防又は改善剤、並びにこれらの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、テオガリンを含む茶葉又は該茶葉の抽出物の継続的な摂取により、加齢に伴う認知機能障害の予防又は改善や、加齢に伴う意欲低下の予防又は改善が可能であること、及び、ニューロトロフィン-3を増強可能であること、並びに、茶葉を-5℃以上40℃以下の水で抽出するとテオガリンの浸出が良好で且つエピガロカテキンガレート(EGCG)等のガレート型カテキンの浸出を抑制できることを見出し、本発明を完成するに至った。より具体的には、本発明は以下のものを提供する。
【0012】
(1) 茶葉又は該茶葉の抽出物である茶葉抽出物を含む、加齢に伴う認知機能障害の予防又は改善剤であって、
前記茶葉及び前記茶葉抽出物は、非ガレート型カテキン及びテオガリンを含み、非ガレート型カテキンのモル濃度(μmol/L)に対するテオガリンのモル濃度(μmol/L)の割合が、0.3以上である、加齢に伴う認知機能障害の予防又は改善剤。
【0013】
(2) 茶葉又は該茶葉の抽出物である茶葉抽出物を含む、加齢に伴う認知機能障害の予防又は改善剤であって、
前記茶葉は、テオガリンを1質量%以上含む茶葉、「MK5601」、及び、「MK5601」の後代から選択される少なくとも一種を含む、加齢に伴う認知機能障害の予防又は改善剤。
【0014】
(3) 前記茶葉及び前記茶葉抽出物は、ストリクチニン及びGストリクチニンの少なくとも一方を含む、(1)又は(2)に記載の加齢に伴う認知機能障害の予防又は改善剤。
【0015】
(4) 前記茶葉及び前記茶葉抽出物は、ストリクチニンを含み、非ガレート型カテキンのモル濃度(μmol/L)に対するストリクチニンのモル濃度(μmol/L)の割合が、0.002以上である、(3)に記載の加齢に伴う認知機能障害の予防又は改善剤。
【0016】
(5) 前記茶葉及び前記茶葉抽出物は、Gストリクチニンを含み、非ガレート型カテキンのモル濃度(μmol/L)に対するGストリクチニンのモル濃度(μmol/L)の割合が、0.001以上である、(3)又は(4)に記載の加齢に伴う認知機能障害の予防又は改善剤。
【0017】
(6) 茶葉又は該茶葉の抽出物である茶葉抽出物を含む、ニューロトロフィン3の増強剤であって、
前記茶葉及び前記茶葉抽出物は、非ガレート型カテキン及びテオガリンを含み、非ガレート型カテキンのモル濃度(μmol/L)に対するテオガリンのモル濃度(μmol/L)の割合が、0.3以上である、ニューロトロフィン3の増強剤。
【0018】
(7) 茶葉又は該茶葉の抽出物である茶葉抽出物を含む、ニューロトロフィン3の増強剤であって、
前記茶葉は、テオガリンを1質量%以上含む茶葉、「MK5601」、及び、「MK5601」の後代から選択される少なくとも一種を含む、ニューロトロフィン3の増強剤。
【0019】
(8) 前記茶葉及び前記茶葉抽出物は、ストリクチニン及びGストリクチニンの少なくとも一方を含む、(6)又は(7)に記載のニューロトロフィン3の増強剤。
【0020】
(9) 前記茶葉及び前記茶葉抽出物は、ストリクチニンを含み、非ガレート型カテキンのモル濃度(μmol/L)に対するストリクチニンのモル濃度(μmol/L)の割合が、0.002以上である、(8)に記載のニューロトロフィン3の増強剤。
【0021】
(10) 前記茶葉及び前記茶葉抽出物は、Gストリクチニンを含み、非ガレート型カテキンのモル濃度(μmol/L)に対するGストリクチニンのモル濃度(μmol/L)の割合が、0.001以上である、(8)又は(9)に記載のニューロトロフィン3の増強剤。
【0022】
(11) 茶葉又は該茶葉の抽出物である茶葉抽出物を含む、加齢に伴う意欲低下の予防又は改善剤であって、
前記茶葉及び前記茶葉抽出物は、非ガレート型カテキン及びテオガリンを含み、
非ガレート型カテキンのモル濃度(μmol/L)に対するテオガリンのモル濃度(μmol/L)の割合が、0.3以上である、加齢に伴う意欲低下の予防又は改善剤。
【0023】
(12) 茶葉又は該茶葉の抽出物である茶葉抽出物を含む、加齢に伴う意欲低下の予防又は改善剤であって、
前記茶葉は、テオガリンを1質量%以上含む茶葉、「MK5601」、及び、「MK5601」の後代から選択される少なくとも一種を含む、加齢に伴う意欲低下の予防又は改善剤。
【0024】
(13) 前記茶葉及び前記茶葉抽出物は、ストリクチニン及びGストリクチニンの少なくとも一方を含む、(11)又は(12)に記載の加齢に伴う意欲低下の予防又は改善剤。
【0025】
(14) 前記茶葉及び前記茶葉抽出物は、ストリクチニンを含み、非ガレート型カテキンのモル濃度(μmol/L)に対するストリクチニンのモル濃度(μmol/L)の割合が、0.002以上である、(13)に記載の加齢に伴う意欲低下の予防又は改善剤。
【0026】
(15) 前記茶葉及び前記茶葉抽出物は、Gストリクチニンを含み、非ガレート型カテキンのモル濃度(μmol/L)に対するGストリクチニンのモル濃度(μmol/L)の割合が、0.001以上である、(13)又は(14)に記載の加齢に伴う意欲低下の予防又は改善剤。
【0027】
(16) (1)~(5)のいずれか1項に記載の認知機能障害の予防又は改善剤の製造方法であって、
前記茶葉を-5℃以上40℃以下の水で抽出することにより前記茶葉抽出物を製造する工程を有する、認知機能障害の予防又は改善剤の製造方法。
【0028】
(17) (6)~(7)のいずれか1項に記載のニューロトロフィン3の増強剤の製造方法であって、
前記茶葉を-5℃以上40℃以下の水で抽出することにより前記茶葉抽出物を製造する工程を有する、ニューロトロフィン3の増強剤の製造方法。
【0029】
(18) (11)~(15)のいずれか1項に記載の加齢に伴う意欲低下の予防又は改善剤の製造方法であって、
前記茶葉を-5℃以上40℃以下の水で抽出することにより前記茶葉抽出物を製造する工程を有する、加齢に伴う意欲低下の予防又は改善剤の製造方法。
【発明の効果】
【0030】
本発明によれば、加齢に伴う認知機能障害の予防又は改善剤、ニューロトロフィン3の増強剤、及び加齢に伴う意欲低下の予防又は改善剤を提供することができる。そして、これらは茶葉又は該茶葉の抽出物である茶葉抽出物を含むため、飲食品として摂取することができる。また、これらは、テオガリンの浸出が良好で且つエピガロカテキンガレート(EGCG)等のガレート型カテキンの浸出を抑制できる製造方法により製造することも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【
図1】海馬中の神経栄養因子(ニューロトロフィン-3(NT-3))濃度の測定結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明するが、本発明は、以下の実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の目的の範囲内において適宜変更を加えて実施することができる。
なお、本明細書において、「茶葉」とは、チャノキ(Camellia sinensis)の茶葉(緑茶葉、紅茶葉、半発酵茶葉)であり、好ましくは乾燥した茶葉である。
また、本明細書において、「茶葉抽出物」とは、茶葉抽出物の原料である茶葉(原料茶葉)を、必要に応じて焙煎した後、抽出溶媒を用いて抽出した抽出液、又は、該抽出液の濃縮物(液状濃縮物、粉末状濃縮物)である。
【0033】
(実施形態1)加齢に伴う認知機能障害の予防又は改善剤、及びその製造方法
実施形態1に係る加齢に伴う認知機能障害の予防又は改善剤は、茶葉又は該茶葉の抽出物である茶葉抽出物を含む。
そして、実施形態1においては、茶葉及び該茶葉抽出物は、非ガレート型カテキン及びテオガリンを含み、加齢に伴う認知機能障害の予防又は改善剤中の、非ガレート型カテキンのモル濃度(μmol/L)に対するテオガリンのモル濃度(μmol/L)の割合(テオガリンのモル濃度/非ガレート型カテキンのモル濃度)が、0.3以上である。
テオガリンは、下記式(1)で表される化合物である。
また、本明細書において、非ガレート型カテキンは、カテキン(C)、ガロカテキン(GC)、エピカテキン(EC)及びエピガロカテキン(EGC)であり、非ガレート型カテキンのモル濃度は、これらの濃度の合計値である。
【0034】
【0035】
このように、茶葉又は茶葉抽出物を含み、加齢に伴う認知機能障害の予防又は改善剤中の、非ガレート型カテキンのモル濃度(μmol/L)に対するテオガリンのモル濃度(μmol/L)の割合を0.3以上にすることにより、後述する実施例に示すように、継続的な摂取、例えば16週間以上の摂取により加齢に伴う認知機能障害を予防又は改善することができる、加齢に伴う認知機能障害の予防又は改善剤を得ることができる。本実施の形態の加齢に伴う認知機能障害の予防又は改善剤は、茶葉又は茶葉抽出物を含むため、飲食品として摂取が可能である。
加齢に伴う認知機能障害の予防又は改善剤中の、非ガレート型カテキンのモル濃度(μmol/L)に対するテオガリンのモル濃度(μmol/L)の割合は、0.3以上であればよいが、0.4以上が好ましく、0.5以上がより好ましく、0.6以上がさらに好ましい。
加齢に伴う認知機能障害の予防又は改善剤中のテオガリンの濃度は、700μmol/L以上が好ましく、900μmol/L以上がより好ましい。加齢に伴う認知機能障害の予防又は改善剤中のテオガリンの濃度の上限値は、例えば3000μmol/Lである。
【0036】
テオガリンは、その構造的特徴として代謝産物が脳血液脳関門を通過する可能性があるが、マクロな視点での行動学的検証は行われておらず、継続的な摂取による加齢に伴う認知機能障害の予防又は改善効果は、従来知られていなかった。今回、本発明者らにより、テオガリンを含む茶葉又は茶葉抽出物の継続的な摂取により加齢に伴う認知機能障害の予防や改善が可能であることが知見された。なお、後述する実施例において用いたマウスは、アルツハイマー病モデル等の特殊なマウスではなく、野生型マウスの自然老化モデルである。前者のアルツハイマー病では、アミロイドβの神経毒性など特定の病原因子により、加齢に伴う認知機能障害及びその他の障害・疾患が引き起こされる一方、後者の野生型マウスの加齢では、アミロイドβではなく他の複合的要因により脳内のニューロトロフィン3(NT-3)等が不足し、認知機能障害が引き起こされる。したがって、両者は異なる機能障害である。
【0037】
本実施の形態において、茶葉や、茶葉抽出物の原料茶葉は、テオガリンを1質量%以上含む茶葉、茶品種「MK5601」や、茶品種「MK5601」の後代であることが好ましい。
「MK5601」は、Camellia sinensis (L.) Kuntzeに属する茶葉である。「MK5601」は、国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構において入手可能なテオガリン高含有品種である。なお、「MK5601」の品種登録出願番号は第33550号である。
「MK5601」の茶葉は、乾燥茶葉中に、テオガリンを1質量%以上含む品種である。また、「MK5601」の茶葉は、乾燥茶葉中に、ストリクチニン及びG-ストリクチニンを合計で1.5質量%以上含有しうる品種である。そして、「MK5601」は、他の茶葉と比較してカフェイン、テアニンや、カテキン類以外の成分が多い品種である。なお、日本国内で最も一般的な茶品種である「やぶきた」は、乾燥茶葉中で、テオガリンの含有量は約0.3質量%程度、ストリクチニンの含有量は1質量%以下であり、G-ストリクチニンは含まない。
【0038】
本実施の形態において、茶葉や、茶葉抽出物の原料茶葉は、ストリクチニンや、Gストリクチニン(1,2-di-O-galloyl-4,6-O-(S)-hexahydroxydiphenoyl-β-D-glucose)を含んでいることが好ましい。ストリクチニンは下記式(2)で表される化合物であり、Gストリクチニンは下記式(3)で表される化合物である。
【0039】
【0040】
【0041】
茶葉や茶葉抽出物がストリクチニンを含む場合、加齢に伴う認知機能障害の予防又は改善剤中の、非ガレート型カテキンのモル濃度(μmol/L)に対するストリクチニンのモル濃度(μmol/L)の割合(ストリクチニンのモル濃度/非ガレート型カテキンのモル濃度)は、例えば0.002以上であり、0.02以上であることが好ましく、0.03以上であることがより好ましく、0.04以上であることがさらに好ましい。
加齢に伴う認知機能障害の予防又は改善剤中のストリクチニンの濃度は、例えば5μmol/L以上であり、40μmol/L以上が好ましく、50μmol/L以上がより好ましく、60μmol/L以上がさらに好ましい。加齢に伴う認知機能障害の予防又は改善剤中のストリクチニンの濃度の上限値は、例えば600μmol/Lである。
【0042】
茶葉や茶葉抽出物がGストリクチニンを含む場合、加齢に伴う認知機能障害の予防又は改善剤中の、非ガレート型カテキンのモル濃度(μmol/L)に対するGストリクチニンのモル濃度(μmol/L)の割合(Gストリクチニンのモル濃度/非ガレート型カテキンのモル濃度)は、例えば0.001以上であり、0.01以上であることが好ましく、0.05以上であることがより好ましく、0.06以上であることがさらに好ましい。
加齢に伴う認知機能障害の予防又は改善剤中のGストリクチニンの濃度は、例えば3μmol/L以上であり、30μmol/L以上が好ましく、50μmol/L以上がより好ましく、70μmol/L以上がより好ましく、90μmol/L以上がより好ましい。加齢に伴う認知機能障害の予防又は改善剤中のGストリクチニンの濃度の上限値は、例えば700μmol/Lである。
【0043】
また、茶葉や茶葉抽出物は、テオガリンや、ストリクチニン、Gストリクチニン以外のその他の成分を含んでいてもよい。その他の成分としては、カフェイン、テアニンや、非ガレート型カテキン以外のカテキン類(ガレート型カテキン)が挙げられる。但し、本発明においては、これら以外の成分であるテオガリンによって、加齢に伴う認知機能障害を予防や改善することができるため、これらの成分は、含有量が少なくてもよく、また、含んでいなくてもよい。例えば、加齢に伴う認知機能障害の予防又は改善剤をカフェインレスとしてもよく、カフェインレスの場合の加齢に伴う認知機能障害の予防又は改善剤中のカフェイン濃度は、例えば10mg/L以下である。
加齢に伴う認知機能障害の予防又は改善剤中の、カフェイン濃度は例えば4000μmol/L以下であり、テアニン濃度は例えば2000μmol/L以下であり、非ガレート型カテキン以外のカテキン類の濃度は例えば5000μmol/L以下であり3000μmol/L以下でもよい。
なお、カフェイン濃度が低い、加齢に伴う認知機能障害の予防又は改善剤とする場合は、茶葉として、熱水処理装置等を利用した熱水処理により茶葉中のカフェイン量が低減(例えば60%以上低減)された茶葉を用いたり、詳しくは後述する特定の抽出方法による茶葉抽出物を用いることが好ましい。
【0044】
本実施の形態の加齢に伴う認知機能障害の予防又は改善剤の形態はどのようなものであってもよく、例えば、飲食品の形態であってもよい。本実施の形態の加齢に伴う認知機能障害の予防又は改善剤は、上記茶葉又は茶葉抽出物そのものであってもよく、茶葉抽出物を水等の溶媒で希釈したものでもよく、これらに、目的に応じて他の成分を添加したものでもよい。例えば、本実施の形態の加齢に伴う認知機能障害の予防又は改善剤を、飲食品として適用する場合、上記茶葉抽出物や茶葉抽出物を水等の溶媒で希釈したものをそのまま茶飲料として摂取されるようにしてもよいし、種々の飲料品素材又は食品素材、例えば菓子、健康食品、サプリメントとして摂取されるようにしてもよい。本実施の形態の加齢に伴う認知機能障害の予防又は改善剤の性状としては固体状又は液体状を呈し、固体状である場合、例えば、茶葉、茶葉抽出物や、茶葉抽出物を水等の溶媒で希釈したものを錠剤、カプセル剤、顆粒剤、シロップ剤、トローチ剤等の剤型に加工してもよい。また、本実施の形態の加齢に伴う認知機能障害の予防又は改善剤を飲食品として適用する場合、ゲル化剤、糖類、香料、甘味料、油脂、基材、賦形剤、食品添加剤、副素材、増量剤等を適宜配合してもよい。
【0045】
なお、茶葉抽出物は、茶葉を溶媒で抽出処理して得ることができ、従来公知の方法を採用可能である。
テオガリン等の有効成分を抽出する点から、茶葉は、粉砕して抽出することが好ましい。茶葉の粉砕物(粉末)は、均一な大きさであることが好ましいため、粉砕物をふるいにかけてもよい。
【0046】
抽出溶媒としては、毒性の無いものであればよく、水若しくは親水性溶媒又はこれらの混合物を挙げることができる。水としては、例えば水道水、蒸留水、純水、イオン交換水等を挙げることができる。親水性溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、プロピルアルコール、イソプロピルアルコール等の低級アルコール、アセトン、メチルエチルケトン等の低級脂肪族ケトン、1,3-ブチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン等の多価アルコールを挙げることができる。
【0047】
また、抽出温度(抽出溶媒の温度)は、40℃以下であることが好ましく、30℃以下であることがより好ましく、10℃以下であることがさらに好ましい。抽出温度の下限については、例えば-5℃以上である。なお、テオガリンが低温(40℃以下)でも浸出率が高く極めてよく浸出(溶出)できることは従来知られていなかった。
また、40℃以下の低温での抽出で、テオガリンだけでなく、ストリクチニンや、Gストリクチニンも浸出することができる。
【0048】
茶葉を-5℃以上40℃以下の水で抽出することにより、テオガリンを極めてよく浸出しつつ、エピガロカテキンガレート(EGCG)等のガレート型カテキンの浸出量を低減することができる。このため、茶葉抽出物を含む加齢に伴う認知機能障害の予防又は改善剤の製造において、茶葉を-5℃以上40℃以下の水で抽出することにより茶葉抽出物を製造する工程を有する場合、テオガリンによる加齢に伴う認知機能障害の予防又は改善効果を奏しつつEGCGによる渋味が抑制されるため、嗜好性に優れた加齢に伴う認知機能障害の予防又は改善剤を製造することができる。なお、30℃以下の水で抽出することにより、熱水(例えば70℃以上の水)と比べて、EGCGの浸出量を、1/5以上1/2以下に抑えることができる。
また、茶葉を-5℃以上10℃以下の水で抽出することにより、EGCG等のガレート型カテキンだけでなくカフェインの浸出量も低減しつつ、-5℃以上10℃以下の低温の水でも浸出率の高いテオガリンを特異的に浸出することができる。このため、茶葉抽出物を含む加齢に伴う認知機能障害の予防又は改善剤の製造において、茶葉を-5℃以上10℃以下の水で抽出することにより茶葉抽出物を製造する工程を有する場合、カフェイン量が低減された加齢に伴う認知機能障害の予防又は改善剤を製造することができる。なお、-5℃以上10℃以下の水で抽出することにより、熱水(例えば70℃以上の水)と比べて、カフェインの浸出量を、1/5以上1/2以下に抑えることができる。また、10℃以下の低温での抽出で、ストリクチニンや、Gストリクチニンも浸出することができる。
【0049】
また、茶葉を溶媒で抽出処理して得られた抽出液に対して、EGCGのガレート分子内のデプシド結合を加水分解するタンナーゼを作用させることにより、EGCGをエピガロカテキン(EGC)と没食子酸とに変換する処理を行ってもよい。
【0050】
抽出は、一度抽出した後の残渣を回収して複数回行なっていてもよい。また抽出は、化学分離精製手法として一般的に用いられる方法を使用してもよい。例えば、液-液分配、薄層クロマトグラフィー、吸着カラムクロマトグラフィー、分配カラムクロマトグラフィー、ゲルろ過カラムクロマトグラフィー、イオン交換カラムクロマトグラフィー、電気泳動や高速液体クロマトグラフィー等を用いることができる。また、必要に応じこれらの分離精製手段を組み合わせて行ってもよい。
【0051】
(実施形態2)加齢に伴う認知機能障害の予防又は改善剤、及びその製造方法
実施形態2に係る加齢に伴う認知機能障害の予防又は改善剤は、茶葉又は該茶葉の抽出物である茶葉抽出物を含む。
そして、実施形態2おいては、茶葉は、テオガリンを1質量%以上含む茶葉、「MK5601」、及び、「MK5601」の後代から選択される少なくとも一種を含む。
以下に、実施形態2について説明するが、下記以外は実施形態1と同様であり、実施形態1と重複する内容は一部説明を省略する。
【0052】
このように、茶葉又は茶葉抽出物を含み、該茶葉を、テオガリンを1質量%以上含む茶葉、「MK5601」、及び、「MK5601」の後代から選択される少なくとも一種を含むものにすることにより、後述する実施例に示すように、継続的な摂取、例えば16週間以上の摂取により加齢に伴う認知機能障害を予防又は改善することができる、加齢に伴う認知機能障害の予防又は改善剤を得ることができる。茶葉又は茶葉抽出物を含むため、飲食品として摂取が可能である。
「MK5601」の茶葉については、実施形態1と同様である。
【0053】
本実施の形態の茶葉及び茶葉抽出物は、非ガレート型カテキン及びテオガリンを含み、加齢に伴う認知機能障害の予防又は改善剤中の、非ガレート型カテキンのモル濃度(μmol/L)に対するテオガリンのモル濃度(μmol/L)の割合(テオガリンのモル濃度/非ガレート型カテキンのモル濃度)が、0.3以上であることが好ましい。
加齢に伴う認知機能障害の予防又は改善剤中の、非ガレート型カテキンのモル濃度(μmol/L)に対するテオガリンのモル濃度(μmol/L)の割合は、0.4以上が好ましく、0.5以上がより好ましく、0.6以上がさらに好ましい。
加齢に伴う認知機能障害の予防又は改善剤中のテオガリンの濃度は、700μmol/L以上が好ましく、900μmol/L以上がより好ましい。加齢に伴う認知機能障害の予防又は改善剤中のテオガリンの濃度の上限値は、例えば3000μmol/Lである。
【0054】
本実施の形態において、茶葉や、茶葉抽出物の原料茶葉は、ストリクチニンや、Gストリクチニンを含むことが好ましい。加齢に伴う認知機能障害の予防又は改善剤中の、非ガレート型カテキンのモル濃度(μmol/L)に対するストリクチニンのモル濃度(μmol/L)の割合、加齢に伴う認知機能障害の予防又は改善剤中のストリクチニンの濃度、加齢に伴う認知機能障害の予防又は改善剤中の、非ガレート型カテキンのモル濃度(μmol/L)に対するGストリクチニンのモル濃度(μmol/L)の割合や、加齢に伴う認知機能障害の予防又は改善剤中のGストリクチニンの濃度は、実施形態1と同様である。
【0055】
本実施の形態の茶葉や茶葉抽出物が含んでいてもよい、テオガリンや、上記ストリクチニン、Gストリクチニン以外のその他の成分や、その他成分の加齢に伴う認知機能障害の予防又は改善剤中の濃度等は、実施形態1と同様である。
【0056】
また、本実施の形態の加齢に伴う認知機能障害の予防又は改善剤の形態や、茶葉抽出物を得る方法等も、実施形態1と同様である。
【0057】
(実施形態3)ニューロトロフィン3の増強剤、及びその製造方法
実施形態3に係るニューロトロフィン3の増強剤は、茶葉又は該茶葉の抽出物である茶葉抽出物を含む。
そして、実施形態3においては、茶葉及び茶葉抽出物は、非ガレート型カテキン及びテオガリンを含み、ニューロトロフィン3の増強剤の、非ガレート型カテキンのモル濃度(μmol/L)に対するテオガリンのモル濃度(μmol/L)の割合(テオガリンのモル濃度/非ガレート型カテキンのモル濃度)が、0.3以上である。
【0058】
このように、茶葉又は茶葉抽出物を含み、ニューロトロフィン3の増強剤中の、非ガレート型カテキンのモル濃度(μmol/L)に対するテオガリンのモル濃度(μmol/L)の割合を0.3以上にすることにより、後述する実施例に示すように、継続的な摂取、例えば16週間以上の摂取によりニューロトロフィン3を増強することができる、ニューロトロフィン3の増強剤を得ることができる。ニューロトロフィン3を増強することにより、認知機能障害の予防や改善をすることができ、かつ/または、抗うつ作用(抗うつ効果)等も期待できる。本実施の形態のニューロトロフィン3の増強剤は、茶葉又は茶葉抽出物を含むため、飲食品として摂取が可能である。
ニューロトロフィン3の増強剤中の、非ガレート型カテキンのモル濃度(μmol/L)に対するテオガリンのモル濃度(μmol/L)の割合は、0.3以上であればよいが、0.4以上が好ましく、0.5以上がより好ましく、0.6以上がさらに好ましい。
ニューロトロフィン3の増強剤が茶葉抽出物を含む場合、ニューロトロフィン3の増強剤中のテオガリンの濃度は、700μmol/L以上が好ましく、900μmol/L以上がより好ましい。ニューロトロフィン3の増強剤中のテオガリンの濃度の上限値は、例えば3000μmol/Lである。
【0059】
テオガリンは、その構造的特徴として代謝産物が脳血液脳関門を通過する可能性があるが、マクロな視点での行動学的検証は行われておらず、継続的な摂取によるニューロトロフィン3の増強効果は、従来知られていなかった。今回、本発明者らにより、テオガリンを含む茶葉又は該茶葉の抽出物の継続的な摂取により、ニューロトロフィン3の増強が可能であることが知見された。
【0060】
本実施の形態において、茶葉や、茶葉抽出物の原料茶葉は、テオガリンを1質量%以上含む茶葉、茶品種「MK5601」や、茶品種「MK5601」の後代であることが好ましい。
「MK5601」(品種登録出願番号:第33550号)は、Camellia sinensis (L.) Kuntzeに属する茶葉であり、実施形態1で述べたとおりである。
「MK5601」の茶葉は、乾燥茶葉中に、テオガリンを1質量%以上含む品種である。また、「MK5601」の茶葉は、乾燥茶葉中に、ストリクチニン及びG-ストリクチニンを合計で1.5質量%以上含有しうる品種である。そして、「MK5601」は、他の茶葉と比較してカフェイン、テアニンや、カテキン類以外の成分が多い品種である。なお、日本国内で最も一般的な茶品種である「やぶきた」は、乾燥茶葉中で、テオガリンの含有量は約0.3質量%程度、ストリクチニンの含有量は1質量%以下であり、G-ストリクチニンは含まれない。
【0061】
本実施の形態において、茶葉や、茶葉抽出物の原料茶葉は、ストリクチニンや、Gストリクチニンを含んでいることが好ましい。
【0062】
茶葉や茶葉抽出物がストリクチニンを含む場合、ニューロトロフィン3の増強剤中の、非ガレート型カテキンのモル濃度(μmol/L)に対するストリクチニンのモル濃度(μmol/L)の割合(ストリクチニンのモル濃度/非ガレート型カテキンのモル濃度)は、例えば0.002以上であり、0.02以上であることが好ましく、0.03以上であることがより好ましく、0.04以上であることがさらに好ましい。
ニューロトロフィン3の増強剤中のストリクチニンの濃度は、例えば5μmol/L以上であり、40μmol/L以上が好ましく、50μmol/L以上がより好ましく、60μmol/L以上がより好ましい。ニューロトロフィン3の増強剤中のストリクチニンの濃度の上限値は、例えば600μmol/Lである。
【0063】
茶葉や茶葉抽出物がGストリクチニンを含む場合、ニューロトロフィン3の増強剤中の、非ガレート型カテキンのモル濃度(μmol/L)に対するGストリクチニンのモル濃度(μmol/L)の割合(Gストリクチニンのモル濃度/非ガレート型カテキンのモル濃度)は、例えば0.001以上であり、0.01以上であることが好ましく、0.05以上であることがより好ましく、0.06以上であることがよりさらに好ましい。
ニューロトロフィン3の増強剤中のGストリクチニンの濃度は、例えば3μmol/L以上であり、30μmol/L以上が好ましく、50μmol/L以上がより好ましく、70μmol/L以上がより好ましく、90μmol/L以上がより好ましい。ニューロトロフィン3の増強剤中のGストリクチニンの濃度の上限値は、例えば700μmol/Lである。
【0064】
また、茶葉や茶葉抽出物は、テオガリンや、ストリクチニン、Gストリクチニン以外のその他の成分を含んでいてもよい。その他の成分としては、カフェイン、テアニンや、非ガレート型カテキン以外のカテキン類(ガレート型カテキン)が挙げられる。但し、これらの成分は、含有量が少なくてもよく、また含んでいなくてもよい。例えば、ニューロトロフィン3の増強剤をカフェインレスとしてもよく、カフェインレスの場合のニューロトロフィン3の増強剤中のカフェイン濃度は、例えば10mg/L以下である。
ニューロトロフィン3の増強剤中の、カフェイン濃度は例えば4000μmol/L以下であり、テアニン濃度は例えば2000μmol/L以下であり、非ガレート型カテキン以外のカテキン類の濃度は例えば5000μmol/L以下であり3000μmol/L以下でもよい。
なお、カフェイン濃度が低いニューロトロフィン3の増強剤とする場合は、茶葉として、熱水処理装置等を利用した熱水処理により茶葉中のカフェイン量が低減(例えば60%以上低減)された茶葉を用いたり、詳しくは後述する特定の抽出方法による茶葉抽出物を用いることが好ましい。
【0065】
本実施の形態のニューロトロフィン3の増強剤の形態はどのようなものであってもよく、例えば、飲食品の形態であってもよい。本実施の形態のニューロトロフィン3の増強剤は、上記茶葉又は茶葉抽出物そのものであってもよく、茶葉抽出物を水等の溶媒で希釈したものでもよく、これらに、目的に応じて他の成分を添加したものでもよい。例えば、本実施の形態のニューロトロフィン3の増強剤を、飲食品として適用する場合、上記茶葉抽出物や茶葉抽出物を水等の溶媒で希釈したものをそのまま茶飲料として摂取されるようにしてもよいし、種々の飲料品素材又は食品素材、例えば菓子、健康食品、サプリメントとして摂取されるようにしてもよい。本実施の形態のニューロトロフィン3の増強剤の性状としては固体状又は液体状を呈し、固体状である場合、例えば、茶葉、茶葉抽出物や、茶葉抽出物を水等の溶媒で希釈したものを錠剤、カプセル剤、顆粒剤、シロップ剤、トローチ剤等の剤型に加工してもよい。また、本実施の形態のニューロトロフィン3の増強剤を飲食品として適用する場合、ゲル化剤、糖類、香料、甘味料、油脂、基材、賦形剤、食品添加剤、副素材、増量剤等を適宜配合してもよい。
【0066】
茶葉抽出物は、茶葉を抽出溶媒で抽出処理して得ることができ、従来公知の方法を採用可能である。有効成分を抽出する点から、茶葉は、粉砕して抽出することが好ましい。茶葉の粉砕物(粉末)は、均一な大きさであることが好ましいため、粉砕物をふるいにかけてもよい。
【0067】
抽出溶媒としては、毒性の無いものであればよく、水若しくは親水性溶媒又はこれらの混合物を挙げることができる。水としては、例えば水道水、蒸留水、純水、イオン交換水等を挙げることができる。親水性溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、プロピルアルコール、イソプロピルアルコール等の低級アルコール、アセトン、メチルエチルケトン等の低級脂肪族ケトン、1,3-ブチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン等の多価アルコールを挙げることができる。
【0068】
また、抽出温度は、40℃以下であることが好ましく、30℃以下であることがより好ましく、10℃以下であることがさらに好ましい。抽出温度の下限については、例えば-5℃以上である。なお、テオガリンが低温(40℃以下)でも浸出率が高く極めてよく浸出(溶出)できることは従来知られていなかった。
また、40℃以下の低温での抽出で、テオガリンだけでなく、ストリクチニンや、Gストリクチニンも浸出することができる。
【0069】
茶葉を-5℃以上40℃以下の水で抽出することにより、テオガリンを極めてよく浸出しつつ、エピガロカテキンガレート(EGCG)等のガレート型カテキンの浸出量を低減することができる。このため、茶葉抽出物を含むニューロトロフィン3の増強剤の製造において、茶葉を-5℃以上40℃以下の水で抽出することにより茶葉抽出物を製造する工程を有する場合、テオガリンによるニューロトロフィン3の増強効果を奏しつつEGCGによる渋味が抑制されるため、嗜好性に優れたニューロトロフィン3の増強剤を製造することができる。なお、30℃以下の水で抽出することにより、熱水(例えば70℃以上の水)と比べて、EGCGの浸出量を、1/5以上1/2以下に抑えることができる。
また、茶葉を-5℃以上10℃以下の水で抽出することにより、EGCG等のガレート型カテキンだけでなくカフェインの浸出量も低減しつつ、-5℃以上10℃以下の低温の水でも浸出率の高いテオガリンを特異的に浸出することができる。このため、茶葉抽出物を含むニューロトロフィン3の増強剤の製造において、茶葉を-5℃以上10℃以下の水で抽出することにより茶葉抽出物を製造する工程を有する場合、カフェイン量が低減されたニューロトロフィン3の増強剤を製造することができる。なお、-5℃以上10℃以下の水で抽出することにより、熱水(例えば70℃以上の水)と比べて、カフェインの浸出量を、1/5以上1/2以下に抑えることができる。また、10℃以下の低温での抽出で、ストリクチニンや、Gストリクチニンも浸出することができる。
【0070】
また、茶葉を溶媒で抽出処理して得られた抽出液に対して、EGCGのガレート分子内のデプシド結合を加水分解するタンナーゼを作用させることにより、EGCGをエピガロカテキン(EGC)と没食子酸とに変換する処理を行ってもよい。
抽出は、一度抽出した後の残渣を回収して複数回行なっていてもよい。また抽出は、化学分離精製手法として一般的に用いられる方法を使用してもよい。例えば、液-液分配、薄層クロマトグラフィー、吸着カラムクロマトグラフィー、分配カラムクロマトグラフィー、ゲルろ過カラムクロマトグラフィー、イオン交換カラムクロマトグラフィー、電気泳動や高速液体クロマトグラフィー等を用いることができる。また、必要に応じこれらの分離精製手段を組み合わせて行ってもよい。
【0071】
(実施形態4)ニューロトロフィン3の増強剤、及びその製造方法
実施形態4に係るニューロトロフィン3の増強剤は、茶葉又は該茶葉の抽出物である茶葉抽出物を含む。
そして、実施形態4おいては、茶葉は、テオガリンを1質量%以上含む茶葉、「MK5601」、及び、「MK5601」の後代から選択される少なくとも一種を含む。
以下に、実施形態4について説明するが、下記以外は実施形態3と同様であり、実施形態3と重複する内容は一部説明を省略する。
【0072】
このように、茶葉又は茶葉抽出物を含み、該茶葉を、テオガリンを1質量%以上含む茶葉、「MK5601」、及び、「MK5601」の後代から選択される少なくとも一種を含むものにすることにより、後述する実施例に示すように、継続的な摂取、例えば16週間以上の摂取によりニューロトロフィン3を増強することができる、ニューロトロフィン3の増強剤を得ることができる。ニューロトロフィン3を増強することにより、認知機能障害の予防や改善をすることができ、かつ/または、抗うつ作用(抗うつ効果)等も期待できる。本実施の形態のニューロトロフィン3の増強剤は、茶葉又は茶葉抽出物を含むため、飲食品として摂取が可能である。
「MK5601」の茶葉は、実施形態3と同様である。
【0073】
本実施の形態の茶葉及び該茶葉抽出物は、非ガレート型カテキン及びテオガリンを含み、ニューロトロフィン3の増強剤中の、非ガレート型カテキンのモル濃度(μmol/L)に対するテオガリンのモル濃度(μmol/L)の割合(テオガリンのモル濃度/非ガレート型カテキンのモル濃度)が、0.3以上であることが好ましい。
ニューロトロフィン3の増強剤中の、非ガレート型カテキンのモル濃度(μmol/L)に対するテオガリンのモル濃度(μmol/L)の割合は、0.4以上が好ましく、0.5以上がより好ましく、0.6以上がさらに好ましい。
【0074】
本実施の形態において、茶葉や、茶葉抽出物の原料茶葉は、ストリクチニンや、Gストリクチニンを含んでいることが好ましい。ニューロトロフィン3の増強剤中の、非ガレート型カテキンのモル濃度(μmol/L)に対するストリクチニンのモル濃度(μmol/L)度の割合、ニューロトロフィン3の増強剤中のストリクチニンの濃度、ニューロトロフィン3の増強剤中の、非ガレート型カテキンのモル濃度(μmol/L)に対するGストリクチニンのモル濃度(μmol/L)の割合や、ニューロトロフィン3の増強剤中のGストリクチニンの濃度は、実施形態3と同様である。
【0075】
本実施の形態の茶葉や茶葉抽出物が含んでいてもよい、テオガリンや、ストリクチニン、Gストリクチニン以外のその他の成分や、そのニューロトロフィン3の増強剤中の濃度は、実施形態3と同様である。
【0076】
また、本実施の形態のニューロトロフィン3の増強剤の形態や、茶葉抽出物を得る方法も、実施形態3と同様である。
【0077】
(実施形態5)加齢に伴う意欲低下の予防又は改善剤、及びその製造方法
実施形態5に係る加齢に伴う意欲低下の予防又は改善剤は、茶葉又は該茶葉の抽出物である茶葉抽出物を含む。
そして、実施形態5においては、茶葉及び茶葉抽出物は、非ガレート型カテキン及びテオガリンを含み、加齢に伴う意欲低下の予防又は改善剤の、非ガレート型カテキンのモル濃度(μmol/L)に対するテオガリンのモル濃度(μmol/L)の割合(テオガリンのモル濃度/非ガレート型カテキンのモル濃度)が、0.3以上である。
【0078】
このように、茶葉又は茶葉抽出物を含み、加齢に伴う意欲低下の予防又は改善剤中の、非ガレート型カテキンのモル濃度(μmol/L)に対するテオガリンのモル濃度(μmol/L)の割合を0.3以上にすることにより、後述する実施例に示すように、継続的な摂取、例えば16週間以上の摂取により加齢に伴う意欲低下を予防又は改善することができる、加齢に伴う意欲低下の予防又は改善剤を得ることができる。本実施の形態の加齢に伴う意欲低下の予防又は改善剤は、茶葉又は茶葉抽出物を含むため、飲食品として摂取が可能である。
加齢に伴う意欲低下の予防又は改善剤中の、非ガレート型カテキンのモル濃度(μmol/L)に対するテオガリンのモル濃度(μmol/L)の割合は、0.3以上であればよいが、0.4以上が好ましく、0.5以上がより好ましく、0.6以上がさらに好ましい。
加齢に伴う意欲低下の予防又は改善剤が茶葉抽出物を含む場合、加齢に伴う意欲低下の予防又は改善剤中のテオガリンの濃度は、700μmol/L以上が好ましく、900μmol/L以上がより好ましい。加齢に伴う意欲低下の予防又は改善剤中のテオガリンの濃度の上限値は、例えば3000μmol/Lである。
【0079】
テオガリンは、その構造的特徴として代謝産物が脳血液脳関門を通過する可能性があるが、マクロな視点での行動学的検証は行われておらず、継続的な摂取による加齢に伴う意欲低下の予防又は改善効果は、従来知られていなかった。今回、本発明者らにより、テオガリンを含む茶葉又は該茶葉の抽出物の継続的な摂取により、加齢に伴う意欲低下の予防又は改善が可能であることが知見された。
【0080】
本実施の形態において、茶葉や、茶葉抽出物の原料茶葉は、テオガリンを1質量%以上含む茶葉、茶品種「MK5601」や、茶品種「MK5601」の後代であることが好ましい。
「MK5601」(品種登録出願番号:第33550号)は、Camellia sinensis (L.) Kuntzeに属する茶葉であり、実施形態1で述べたとおりである。
「MK5601」の茶葉は、乾燥茶葉中に、テオガリンを1質量%以上含む品種である。また、「MK5601」の茶葉は、乾燥茶葉中に、ストリクチニン及びG-ストリクチニンを合計で1.5質量%以上含有しうる品種である。そして、「MK5601」は、他の茶葉と比較してカフェイン、テアニンや、カテキン類以外の成分が多い品種である。なお、日本国内で最も一般的な茶品種である「やぶきた」は、乾燥茶葉中で、テオガリンの含有量は約0.3質量%程度、ストリクチニンの含有量は1質量%以下であり、G-ストリクチニンは含まれない。
【0081】
本実施の形態において、茶葉や、茶葉抽出物の原料茶葉は、ストリクチニンや、Gストリクチニンを含んでいることが好ましい。
【0082】
茶葉や茶葉抽出物がストリクチニンを含む場合、加齢に伴う意欲低下の予防又は改善剤中の、非ガレート型カテキンのモル濃度(μmol/L)に対するストリクチニンのモル濃度(μmol/L)の割合(ストリクチニンのモル濃度/非ガレート型カテキンのモル濃度)は、例えば0.002以上であり、0.02以上であることが好ましく、0.03以上であることがより好ましく、0.04以上であることがさらに好ましい。
加齢に伴う意欲低下の予防又は改善剤中のストリクチニンの濃度は、例えば5μmol/L以上であり、40μmol/L以上が好ましく、50μmol/L以上がより好ましく、60μmol/L以上がより好ましい。加齢に伴う意欲低下の予防又は改善剤中のストリクチニンの濃度の上限値は、例えば600μmol/Lである。
【0083】
茶葉や茶葉抽出物がGストリクチニンを含む場合、加齢に伴う意欲低下の予防又は改善剤中の、非ガレート型カテキンのモル濃度(μmol/L)に対するGストリクチニンのモル濃度(μmol/L)の割合(Gストリクチニンのモル濃度/非ガレート型カテキンのモル濃度)は、例えば0.001以上であり、0.01以上であることが好ましく、0.05以上であることがより好ましく、0.06以上であることがよりさらに好ましい。
加齢に伴う意欲低下の予防又は改善剤中のGストリクチニンの濃度は、例えば3μmol/L以上であり、30μmol/L以上が好ましく、50μmol/L以上がより好ましく、70μmol/L以上がより好ましく、90μmol/L以上がより好ましい。加齢に伴う意欲低下の予防又は改善剤中のGストリクチニンの濃度の上限値は、例えば700μmol/Lである。
【0084】
また、茶葉や茶葉抽出物は、テオガリンや、ストリクチニン、Gストリクチニン以外のその他の成分を含んでいてもよい。その他の成分としては、カフェイン、テアニンや、非ガレート型カテキン以外のカテキン類(ガレート型カテキン)が挙げられる。但し、これらの成分は、含有量が少なくてもよく、また含んでいなくてもよい。例えば、加齢に伴う意欲低下の予防又は改善剤をカフェインレスとしてもよく、カフェインレスの場合の加齢に伴う意欲低下の予防又は改善剤中のカフェイン濃度は、例えば10mg/L以下である。
加齢に伴う意欲低下の予防又は改善剤中の、カフェイン濃度は例えば4000μmol/L以下であり、テアニン濃度は例えば2000μmol/L以下であり、非ガレート型カテキン以外のカテキン類の濃度は例えば5000μmol/L以下であり3000μmol/L以下でもよい。
なお、カフェイン濃度が低い加齢に伴う意欲低下の予防又は改善剤中とする場合は、茶葉として、熱水処理装置等を利用した熱水処理により茶葉中のカフェイン量が低減(例えば60%以上低減)された茶葉を用いたり、詳しくは後述する特定の抽出方法による茶葉抽出物を用いることが好ましい。
【0085】
本実施の形態の加齢に伴う意欲低下の予防又は改善剤の形態はどのようなものであってもよく、例えば、飲食品の形態であってもよい。本実施の形態の加齢に伴う意欲低下の予防又は改善剤は、上記茶葉又は茶葉抽出物そのものであってもよく、茶葉抽出物を水等の溶媒で希釈したものでもよく、これらに、目的に応じて他の成分を添加したものでもよい。例えば、本実施の形態の加齢に伴う意欲低下の予防又は改善剤を、飲食品として適用する場合、上記茶葉抽出物や茶葉抽出物を水等の溶媒で希釈したものをそのまま茶飲料として摂取されるようにしてもよいし、種々の飲料品素材又は食品素材、例えば菓子、健康食品、サプリメントとして摂取されるようにしてもよい。本実施の形態の加齢に伴う意欲低下の予防又は改善剤の性状としては固体状又は液体状を呈し、固体状である場合、例えば、茶葉、茶葉抽出物や、茶葉抽出物を水等の溶媒で希釈したものを錠剤、カプセル剤、顆粒剤、シロップ剤、トローチ剤等の剤型に加工してもよい。また、本実施の形態の加齢に伴う意欲低下の予防又は改善剤を飲食品として適用する場合、ゲル化剤、糖類、香料、甘味料、油脂、基材、賦形剤、食品添加剤、副素材、増量剤等を適宜配合してもよい。
【0086】
茶葉抽出物は、茶葉を抽出溶媒で抽出処理して得ることができ、従来公知の方法を採用可能である。有効成分を抽出する点から、茶葉は、粉砕して抽出することが好ましい。茶葉の粉砕物(粉末)は、均一な大きさであることが好ましいため、粉砕物をふるいにかけてもよい。
【0087】
抽出溶媒としては、毒性の無いものであればよく、水若しくは親水性溶媒又はこれらの混合物を挙げることができる。水としては、例えば水道水、蒸留水、純水、イオン交換水等を挙げることができる。親水性溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、プロピルアルコール、イソプロピルアルコール等の低級アルコール、アセトン、メチルエチルケトン等の低級脂肪族ケトン、1,3-ブチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン等の多価アルコールを挙げることができる。
【0088】
また、抽出温度は、40℃以下であることが好ましく、30℃以下であることがより好ましく、10℃以下であることがさらに好ましい。抽出温度の下限については、例えば-5℃以上である。なお、テオガリンが低温(40℃以下)でも浸出率が高く極めてよく浸出(溶出)できることは従来知られていなかった。
また、40℃以下の低温での抽出で、テオガリンだけでなく、ストリクチニンや、Gストリクチニンも浸出することができる。
【0089】
茶葉を-5℃以上40℃以下の水で抽出することにより、テオガリンを極めてよく浸出しつつ、エピガロカテキンガレート(EGCG)等のガレート型カテキンの浸出量を低減することができる。このため、茶葉抽出物を含む加齢に伴う意欲低下の予防又は改善剤の製造において、茶葉を-5℃以上40℃以下の水で抽出することにより茶葉抽出物を製造する工程を有する場合、テオガリンによる加齢に伴う意欲低下の予防又は改善効果を奏しつつEGCGによる渋味が抑制されるため、嗜好性に優れた加齢に伴う意欲低下の予防又は改善剤を製造することができる。なお、30℃以下の水で抽出することにより、熱水(例えば70℃以上の水)と比べて、EGCGの浸出量を、1/5以上1/2以下に抑えることができる。
また、茶葉を-5℃以上10℃以下の水で抽出することにより、EGCG等のガレート型カテキンだけでなくカフェインの浸出量も低減しつつ、-5℃以上10℃以下の低温の水でも浸出率の高いテオガリンを特異的に浸出することができる。このため、茶葉抽出物を含む加齢に伴う意欲低下の予防又は改善剤の製造において、茶葉を-5℃以上10℃以下の水で抽出することにより茶葉抽出物を製造する工程を有する場合、カフェイン量が低減された加齢に伴う意欲低下の予防又は改善剤を製造することができる。なお、-5℃以上10℃以下の水で抽出することにより、熱水(例えば70℃以上の水)と比べて、カフェインの浸出量を、1/5以上1/2以下に抑えることができる。また、10℃以下の低温での抽出で、ストリクチニンや、Gストリクチニンも浸出することができる。
【0090】
また、茶葉を溶媒で抽出処理して得られた抽出液に対して、EGCGのガレート分子内のデプシド結合を加水分解するタンナーゼを作用させることにより、EGCGをエピガロカテキン(EGC)と没食子酸とに変換する処理を行ってもよい。
【0091】
抽出は、一度抽出した後の残渣を回収して複数回行なっていてもよい。また抽出は、化学分離精製手法として一般的に用いられる方法を使用してもよい。例えば、液-液分配、薄層クロマトグラフィー、吸着カラムクロマトグラフィー、分配カラムクロマトグラフィー、ゲルろ過カラムクロマトグラフィー、イオン交換カラムクロマトグラフィー、電気泳動や高速液体クロマトグラフィー等を用いることができる。また、必要に応じこれらの分離精製手段を組み合わせて行ってもよい。
【0092】
(実施形態6)加齢に伴う意欲低下の予防又は改善剤、及びその製造方法
実施形態6に係る加齢に伴う意欲低下の予防又は改善剤は、茶葉又は該茶葉の抽出物である茶葉抽出物を含む。
そして、実施形態6においては、茶葉は、テオガリンを1質量%以上含む茶葉、「MK5601」、及び、「MK5601」の後代から選択される少なくとも一種を含む。
以下に、実施形態6について説明するが、下記以外は実施形態5と同様であり、実施形態5と重複する内容は一部説明を省略する。
【0093】
このように、茶葉又は茶葉抽出物を含み、該茶葉を、テオガリンを1質量%以上含む茶葉、「MK5601」、及び、「MK5601」の後代から選択される少なくとも一種を含むものにすることにより、後述する実施例に示すように、継続的な摂取、例えば16週間以上の摂取により加齢に伴う意欲低下を予防又は改善することができる、加齢に伴う意欲低下の予防又は改善剤を得ることができる。本実施の形態の加齢に伴う意欲低下の予防又は改善剤は、茶葉又は茶葉抽出物を含むため、飲食品として摂取が可能である。
「MK5601」の茶葉は、実施形態5と同様である。
【0094】
本実施の形態の茶葉及び該茶葉抽出物は、非ガレート型カテキン及びテオガリンを含み、加齢に伴う意欲低下の予防又は改善剤中の、非ガレート型カテキンのモル濃度(μmol/L)に対するテオガリンのモル濃度(μmol/L)の割合(テオガリンのモル濃度/非ガレート型カテキンのモル濃度)が、0.3以上であることが好ましい。
加齢に伴う意欲低下の予防又は改善剤中の、非ガレート型カテキンのモル濃度(μmol/L)に対するテオガリンのモル濃度(μmol/L)の割合は、0.4以上が好ましく、0.5以上がより好ましく、0.6以上がさらに好ましい。
【0095】
本実施の形態において、茶葉や、茶葉抽出物の原料茶葉は、ストリクチニンや、Gストリクチニンを含んでいることが好ましい。加齢に伴う意欲低下の予防又は改善剤中の、非ガレート型カテキンのモル濃度(μmol/L)に対するストリクチニンのモル濃度(μmol/L)度の割合、加齢に伴う意欲低下の予防又は改善剤中のストリクチニンの濃度、加齢に伴う意欲低下の予防又は改善剤中の、非ガレート型カテキンのモル濃度(μmol/L)に対するGストリクチニンのモル濃度(μmol/L)の割合や、加齢に伴う意欲低下の予防又は改善剤中のGストリクチニンの濃度は、実施形態5と同様である。
【0096】
本実施の形態の茶葉や茶葉抽出物が含んでいてもよい、テオガリンや、ストリクチニン、Gストリクチニン以外のその他の成分や、その加齢に伴う意欲低下の予防又は改善剤中の濃度は、実施形態5と同様である。
【0097】
また、本実施の形態の加齢に伴う意欲低下の予防又は改善剤の形態や、茶葉抽出物を得る方法も、実施形態5と同様である。
【実施例】
【0098】
以下、本発明を実施例によってさらに具体的に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0099】
(茶葉の各成分の濃度の測定)
実施例で用いた「MK5601」の荒茶粉末(乾燥茶葉粉末)について、カフェイン、ガレート型カテキン、非ガレート型カテキン、テオガリン、ストリクチニン、Gストリクチニンの各含有量を以下の方法で測定した。なお、測定したガレート型カテキンは、エピガロカテキンガレート(EGCG)、エピカテキンガレート、ガロカテキンガレート及びカテキンガレートである。
まず、「MK5601」の荒茶粉末(乾燥茶葉粉末)250mgを、2%(v/v)リン酸水溶液:エタノール(1:1,v/v)の混合液20mLで、30℃で60分間抽出し、蒸留水(DW)で25mLにフィルアップした後、濾過した。得られた濾液の上清中の、カフェイン、ガレート型カテキン、非ガレート型カテキン、テオガリン、ストリクチニン、Gストリクチニンの含有量を、以下の条件1で、高速液体クロマトグラフ法で測定した。
(条件1)
LC-10ADvp,Shimadzu,Kyoto
カラム:Wakopak Navi C18-5(i.d.4.6×150mm,粒子径5μm、富士フィルム和光純薬株式会社、大阪)
ガードカラム:Wakopak Navi C18-5(i.d.4.6×10mm、粒子径5μm、富士フィルム和光純薬株式会社、大阪)
カラム温度:40℃
検出波長:242nm及び272nm
注入量:20μL(DISMIC-13-HPPTFE、0.45μmろ過液、株式会社アドバンテック、東京)
流速:1mL/min
移動相:移動相A(DW:アセトニトリル:リン酸(H3PO4)=400:10:1(v/v/v)及び移動相B(メタノール:移動相A=1:2(v/v))を用い、溶出は、0~2分はA:B=95:5(v/v)で、2~27分はA:B=20:80(v/v)でリニアグラジエントし、27~35分はA:B=20:80(v/v)を維持し、その後A:B=95:5(v/v)に戻す。
【0100】
また、実施例で用いた「MK5601」の荒茶粉末(乾燥茶葉粉末)について、テアニンの含有量を以下の方法で測定した。
まず、「MK5601」の荒茶粉末(乾燥茶葉粉末)100mgを、内部標準物質を含む蒸留水(DW)10mLで80℃、30分間抽出した後、濾過した。得られた濾液の上清中のテアニン含有量を、以下の条件2で、高速液体クロマトグラフ法で測定した。
(条件2)
オートサンプラSIL-30AC(Shimadzu,Kyoto)によるo-phthalaldehyde自動プレカラム誘導体化法を利用
LC-20AD、Shimadzu,Kyoto
カラム:Inesrtsil ODS-4(3μm、4.6mm×150mm、GLSciences Inc.、Tokyo)
移動相:移動相A(20mMリン酸カリウム緩衝液(pH6.4))及び移動相B(DW:アセトニトリル:メタノール=15:45:40(V:V:V))を用い、溶出は、0~3分はA:B=86:14(v/v)で、3~15分はA:B=65:35(v/v)でリニアグラジエントして、15~19分はA:B=60:40(v/v)を維持し、その後A:B=86:14(v/v)に戻す。
内部標準物質:グリシルグリシン
【0101】
これらの結果「MK5601」の荒茶粉末(乾燥茶葉粉末)中の、カフェイン含有量は2.8質量%であり、ガレート型カテキン含有量は11.9質量%であり、非ガレート型カテキンの含有量は4.3質量%であり、テオガリン含有量は2.4質量%であり、ストリクチニンの含有量は0.8質量%であり、G-ストリクチニンの含有量は3.6質量%であった。
【0102】
[実施例1]「MK5601」
「MK5601」の荒茶粉末(乾燥茶葉粉末)を4℃の冷水に加えて浸出液(茶葉抽出物)を調製した。
なお、このように、10℃以下の冷水で抽出することにより、カフェイン、ガレート型カテキンの浸出量を減らし、冷水でも浸出効率の高いテオガリンを特異的に浸出させ、ストリクチニン、Gストリクチニンも浸出させた。このことは、下記の<各成分の濃度の測定>の結果によって示されている。
次に、得られた浸出液のカフェイン濃度が約950μmol/Lになるように水で希釈して希釈液を得た。カフェイン濃度950μmol/Lは、加齢に伴う脳機能の低下を抑えられることが報告されている非特許文献1~3のカフェイン濃度と比較して、約5分の1であり、はるかに低い濃度であった。
【0103】
[比較例1]「やぶきた」
「MK5601」の荒茶粉末の代わりに、「やぶきた」の荒茶粉末を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、希釈液を得た。
【0104】
<各成分の濃度の測定>
得られた実施例1の希釈液及び比較例1の希釈液について、カフェイン、ガレート型カテキン、非ガレート型カテキン、テオガリン、ストリクチニン、Gストリクチニンの各濃度(μmol/L)は上記条件1で、また、テアニンの濃度は上記条件2で、高速液体クロマトグラフィーにより、測定した。結果を表1に示す。なお、総カテキンは、ガレート型カテキン及び非ガレート型カテキンの合計である。また、表1の結果から、非ガレート型カテキンのモル濃度に対する、テオガリン、ストリクチニン又はGストリクチニンのモル濃度(μmol/L)の割合をそれぞれ求めた結果を、表2に示す。
【0105】
表1に示されように、テアニン濃度は、実施例1の希釈液は、比較例1の希釈液の7割程度だった。また、実施例1の希釈液のテアニン濃度は、テアニンの投与により実験動物の認知機能が向上することが報告されている非特許文献4と比較して、約30分の1であり、はるかに低い濃度であった。
総カテキン濃度は、実施例1の希釈液は、比較例1の希釈液と比較して、約1.2倍であり、大きな差はなかった。また、非ガレート型カテキン濃度は、実施例1の希釈液は、比較例1の希釈液と比べて、ほぼ同じ量だった。
また、テオガリン濃度は、実施例1の希釈液は、比較例1の希釈液と比較して、約10倍であった。
ストリクチニン濃度は、実施例1の希釈液は、比較例1の希釈液と比較して、約5.5倍であった。
Gストリクチニンは、実施例1の希釈液には含まれていたが、比較例1の希釈液には含まれていなかった。
【0106】
これらの結果から、実施例1の希釈液と比較例1の希釈液を用いることで、下記の<<神経栄養因子濃度による評価>>、<<行動学的手法による加齢に伴う認知機能障害の評価>>及び<<行動学的手法による加齢に伴う意欲低下の評価>>に関与する成分はカフェイン、テアニン、カテキン類ではなく、テオガリンや、ストリクチニン、Gストリクチニンであると言える。
【0107】
【0108】
【0109】
<<神経栄養因子濃度による評価>>
上記で調製した実施例1の希釈液及び比較例1の希釈液を、中年期の野生型マウス(C57/BL6、♂、8月齢)群に16週間、自由摂取させた。また、コントロールマウス群には水を与え、これを比較例2とした。
用いたマウスは、アルツハイマー病モデル等の特殊なマウスではなく、野生型マウスの自然老化モデルであり、脳機能の低下が始まるとされている中年期の野生型マウスである。
【0110】
<海馬中の神経栄養因子(ニューロトロフィン-3(NT-3))濃度の測定>
上記16週間自由摂取させた後の中年期の野生型マウスから、学習・記憶において重要な役割を果たす海馬を摘出して、抽出液を調製した。抽出液の総タンパク量をBCA(ビシンコニン酸)法にて定量した後、神経栄養因子の一種であるニューロトロフィン-3(NT-3)の濃度をELISA法にて測定した。海馬中の神経栄養因子(ニューロトロフィン-3(NT-3))濃度の測定結果を
図1に示す。
(Mean±SEM.、n=9、ANOVA(分散分析):p<0.01,Tukey’stest(テューキーの検定):*p<0.05)
【0111】
また、マウスが摂取した各成分の量(摂取量)を、希釈液の減量から求めた。結果を表3に示す。
【0112】
表3に示されるように、中枢神経系に最も大きな影響を与えると思われるカフェインの摂取量は、実施例1の希釈液を摂取させた中年期マウスと、比較例1の希釈液を摂取させた中年期マウスとで、同程度であった。
総カテキンの摂取量は、実施例1の希釈液を摂取させた中年期マウスと、比較例1の希釈液を摂取させた中年期マウスとで、同程度であった。
テアニン摂取量は、実施例1の希釈液を摂取させた中年期マウスは、比較例1の希釈液を摂取させた中年期マウスと比較して、約65%と低かったが、テアニンの投与により実験動物の認知機能が向上することが報告されている非特許文献4と比較すると、実施例1及び比較例1とも10分の1以下の摂取量であった。
一方、テオガリン摂取量は、実施例1の希釈液を摂取させた中年期マウスは、比較例1の希釈液を摂取させた中年期マウスと比較して、8倍ほど高かった。
なお、ストリクチニンの摂取量は、他の成分に比べると少なかったが、実施例1の希釈液を摂取させた中年期マウスは、比較例1の希釈液を摂取させた中年期マウスと比較して、約5倍であり、Gストリクチニンは、実施例1の希釈液を摂取させた中年期マウスにのみ含まれていた。
【0113】
また、
図1に示されるように、実施例の希釈液を摂取させた中年期マウスは、水を摂取させた中年期マウス(比較例2)や比較例1の希釈液を摂取させた中年期マウスと比較して、神経栄養因子であるニューロトロフィン3(NT-3)の海馬中の濃度が高かった。
【0114】
したがって、テオガリンを含む茶葉の抽出液の継続的な摂取により、脳海馬中の神経栄養因子(NT-3)が増加することが確認された。
そして、用いたマウスは、アルツハイマー病モデル等の特殊なマウスではなく、野生型マウスの自然老化モデルであるため、テオガリンを含む茶葉の抽出液の継続的な摂取により、アルツハイマー病関連因子であるアミロイドβの神経毒性を標的とした効果ではなく、より普遍的な状況で認知機能等の脳機能の維持に関わっている神経栄養因子(NT-3)を増加させる効果を奏することが確認されたと言える。
【0115】
【0116】
<<行動学的手法による加齢に伴う認知機能障害の評価>>
上記で調製した実施例1の希釈液及び比較例1の希釈液を、中年期の野生型マウス(C57/BL6、♂、8月齢)群に16週間、自由摂取させた。コントロールマウスには水を与えて、これを比較例2とした。また、若年コントロールとして2~4月齢のマウスに水を与え、これを比較例3とした。
【0117】
<新規位置認識試験>
上記16週間自由摂取させた後に、海馬依存的な行動試験である新規位置認識試験を実施し、空間認知機能を評価した。
具体的には、16週間自由摂取させた後に、見本段階(
図2(a))でマウスに2個の同一オブジェクトX1、X2を自由に探索させた。その後、一定時間(1時間)経過後、試験段階(
図2(b))では片方のオブジェクトX1を移動させて、探索時間を測定した。
新規位置認識試験の結果を
図3に示す。見本段階での結果が
図3(a)であり、試験段階での結果が
図3(b)である。なお、マウスが見本段階でオブジェクトの位置を記憶していれば、移動させた新規位置オブジェクトの探索時間が相対的に増加する。
(Mean±SEM、n=13~18、Unpaired t test:*p<0.05)
【0118】
見本段階では、
図3(a)に示すように、いずれもオブジェクトX1の探索時間とオブジェクトX2の探索時間に差はほとんどなかった。
一方、試験段階では、
図3(b)に示すように、水を摂取させた若年マウス(比較例3)と比較して、比較例1の希釈液を摂取させた中年期マウス(比較例1)及び水を摂取させた中年期コントロールマウス(比較例2)では、新規位置にあるオブジェクトX1の探索時間と非新規位置にあるオブジェクトX2の探索時間に有意な偏りがみられなかった。したがって、比較例1及び比較例2が加齢に伴う認知機能障害を予防や改善しているとは言えない。
これに対し、実施例1の希釈液を摂取させた中年期マウス(実施例1)では、試験段階において、新規位置にあるオブジェクトX1の探索時間と非新規位置にあるオブジェクトX2の探索時間には有意な偏りがみられ、水を摂取させた若年マウス(比較例3)と同程度であった。したがって、テオガリンを含む茶葉の抽出液の継続的な摂取が、加齢に伴う認知機能障害を効率的に予防や改善することが示されたと言える。
【0119】
以上の結果から、テオガリンを含む茶葉の抽出液の継続的な摂取が、脳海馬中の神経栄養因子濃度(NT-3)を増加させ、また、加齢に伴う認知機能障害を予防や改善すると言える。
【0120】
<<行動学的手法による加齢に伴う意欲低下の評価>>
上記で調製した実施例1の希釈液及び比較例1の希釈液を、中年期の野生型マウス(C57/BL6、♂、8月齢)群に16週間、自由摂取させた。コントロールマウスには水を与えて、これを比較例2とした。また、若年コントロールとして2~4月齢のマウスに水を与え、これを比較例3とした。
【0121】
<高架式十字迷路試験>
上記16週間自由摂取させた後に、不安様行動を観察する行動試験である高架式十字迷路試験を実施し、加齢に伴う意欲低下を評価した。
高架式十字迷路試験は、動物が本質的に有する好奇心に基づいた探索行動と、不安や恐怖が動因となる回避行動を利用したコンフリクトモデルである。壁の無い通路(オープンアーム)と壁のある通路(クローズドアーム)を十字に交差させ、床から高い位置に設置した。
高架式十字迷路試験の結果を
図4に示す。なお、実験動物にとって、クローズドアーム比べてオープンアームの方が不安を感じる区域と考えられ、不安レベルが高い動物程オープンアームへの侵入回数は減少する。一方、探索意欲が高く維持されている動物は、オープンアームへの侵入回数が多くなる。
(Mean±SEM、n=18~19、クラスカル=ウォリス検定:p<0.001、Sheffe’s multiple comparison procedure(シェッフェの多重比較検定):**p<0.005、***p<0.001)
【0122】
図4に示すように、水を摂取させた若年マウス(比較例3)と比較して、比較例1の希釈液を摂取させた中年期マウス(比較例1)及び水を摂取させた中年期コントロールマウス(比較例2)では、オープンアームへの侵入回数が有意に減少し、探索意欲の有意な低下がみられた。したがって、比較例1及び比較例2が加齢に伴う意欲低下を予防や改善しているとは言えない。
これに対し、実施例1の希釈液を摂取させた中年期マウス(実施例1)では、オープンアームへの侵入回数の有意な減少は見られなかった。したがって、テオガリンを含む茶葉の抽出液の継続的な摂取が、加齢に伴う意欲の低下を、部分的に抑制することが示されたと言える。
【0123】
以上の結果から、テオガリンを含む茶葉の抽出液の継続的な摂取が、加齢に伴う意欲低下を予防や改善すると言える。
【0124】
<抽出試験1>
「MK5601」の緑茶葉(乾燥茶葉粉末)を、表4に記載する温度(抽出温度)の水に加えて、浸出液(茶葉抽出物)を調製した。なお、緑茶葉(乾燥茶葉粉末)に対して40倍量(質量基準)の水を用い、表4に記載する抽出時間とした。
用いた緑茶葉及び浸出液について、各成分(テオガリン、EGCG及びカフェイン)の濃度を測定し、緑茶葉中の含有量に対する浸出液中の含有量の割合(浸出液中の含有質量/緑茶葉中の含有質量)を求めた。結果を表4に示す。
【0125】
表4に示すように、抽出溶媒の温度が10℃以下の場合は、EGCG及びカフェインの浸出割合を、それぞれ熱水(70℃以上)で抽出した場合と比較して1/3、1/2程度にまで抑制できることが分かる。このため、10℃以下の水で抽出した茶葉抽出物を用い、例えば2倍程度に濃縮することにより、テオガリンの濃度を高めつつ、熱水で抽出した茶葉抽出物を用いた場合と同程度のカフェイン量且つ1/2程度のEGCG量とすることができる。
【0126】
【0127】
<抽出試験2>
「MK5601」の緑茶葉として乾燥茶葉(リーフ)を用いたことと、抽出温度及び抽出時間を表5~8に記載した値としたことの他は、<抽出試験1>と同様にして、緑茶葉中の含有量に対する浸出液中の含有量の割合を求めた。結果を表5~8に示す。なお、「MK5601」の緑茶葉中のカフェイン及びEGCGの水への浸出率は、「やぶきた」等の緑茶葉と同じであり、文献JARQ 52 (1):1-6(2018)から、抽出時間が60分を超えても60分での浸出率以上にはなり難いことが分かるため、抽出時間を60分までにした。
【0128】
表5~8に示すように、40℃以下の水で抽出することにより、テオガリンを極めてよく浸出しつつ、EGCGの浸出量を低減することができることが分かる。詳述すると、テオガリンは約100質量%を維持しつつ、溶出時間15分以内で、EGCGは1/3程度、カフェインは1/2程度にまで抑えることができる。
また、30℃以下の水で抽出することにより、テオガリンは100質量%を維持しつつ、溶出時間30分以内でEGCGは1/5、カフェインは1/2程度にまで抑えることができる。
【0129】
【0130】
【0131】
【0132】
【符号の説明】
【0133】
X1、X2 オブジェクト