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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-25
(45)【発行日】2024-02-02
(54)【発明の名称】巻磁心の製造方法および巻磁心
(51)【国際特許分類】
   H01F 41/02 20060101AFI20240126BHJP
   H01F 27/24 20060101ALI20240126BHJP
   H01F 27/25 20060101ALI20240126BHJP
【FI】
H01F41/02 A
H01F41/02 J
H01F27/24 Q
H01F27/25
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2018139108
(22)【出願日】2018-07-25
(65)【公開番号】P2020017608
(43)【公開日】2020-01-30
【審査請求日】2021-06-14
【審判番号】
【審判請求日】2022-09-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000005083
【氏名又は名称】株式会社プロテリアル
(72)【発明者】
【氏名】三木 裕彦
(72)【発明者】
【氏名】板橋 弘光
(72)【発明者】
【氏名】中田 二友
【合議体】
【審判長】井上 信一
【審判官】小池 秀介
【審判官】畑中 博幸
(56)【参考文献】
【文献】特開平2-16706(JP,A)
【文献】特開昭63-302504(JP,A)
【文献】特開平2-226706(JP,A)
【文献】特開昭61-10212(JP,A)
【文献】特開昭56-118306(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F 27/24-27/25
H01F 41/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
軟磁性合金薄帯が巻き回された巻磁心の製造方法であって、
軟磁性合金薄帯の両面に前記軟磁性合金薄帯の質量に対し0.2~1%のMgO粒子を付着させた絶縁層を形成して第1の軟磁性合金薄帯とする工程と、
前記第1の軟磁性合金薄帯と、絶縁層が形成されていない第2の軟磁性合金薄帯との組合せからなる複数枚の軟磁性合金薄帯を、同時に巻き回して、1枚の前記第2の軟磁性合金薄帯の両面側に前記第1の軟磁性合金薄帯が積層された状態とする工程と、
を有する、巻磁心の製造方法。
【請求項2】
軟磁性合金薄帯が巻き回された巻磁心であって、
両面にMgO粒子を付着させた絶縁層が形成された第1の軟磁性合金薄帯と、絶縁層が形成されていない第2の軟磁性合金薄帯との組合せからなる複数枚の軟磁性合金薄帯が巻き回されていて、1枚の前記第2の軟磁性合金薄帯の両面側に前記第1の軟磁性合金薄帯が積層されている巻磁心であり、
前記第1の軟磁性合金薄帯に付着させた前記MgO粒子は、前記第1の軟磁性合金薄帯の質量に対し0.2~1%である巻磁心
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軟磁性合金薄帯を用いた巻磁心の製造方法、およびそれにより得られる巻磁心に関する。
【背景技術】
【0002】
中間周波変圧器やリアクトルなどの電磁機器に用いられる磁心は、動作中に鉄損が生じる。これらの電磁機器は電力変換機に多用されているため、鉄損による損失は、全体として膨大となる。省エネルギーやCO排出量の低減が強く求められている昨今では、鉄損を低減することが強く求められている。
【0003】
磁心の材料として、従来は電磁鋼板が主に用いられていたが、鉄損を低減するために、非晶質合金薄帯やナノ結晶合金薄帯等の、軟磁性合金薄帯(以下、合金薄帯とも言う)への置き換えが進んでいる。
これらの軟磁性合金薄帯は、標準的な電磁鋼板に比べて鉄損が約1/10から1/50と低く、中間周波変圧器などに用いられた場合に変換器の効率向上に適しており、損失の低減に貢献できる。
【0004】
鉄損は、ヒステリシス損失と、渦電流損失に大別され、さらに、渦電流損失は、古典的渦電流損失と異常渦電流損失に分けられる。電磁鋼板に比べて軟磁性合金薄帯の鉄損が低くなる理由としては、電磁鋼板に比べて保磁力が小さいためにヒステリシス損失を小さくでき、板厚も電磁鋼板に比べて約1/10と薄いため古典的渦電流損失を小さくすることができる。
【0005】
このことから、軟磁性合金薄帯を用いて重量が1kg程度の小型の磁心を作製した場合、容易に低損失な磁心を得ることができるが、重量が10kgを超えるような大型の磁心を作製した場合、軟磁性合金薄帯が本来もつ鉄損の何倍もの鉄損を生じることがある。この理由は、軟磁性合金薄帯の幅広化や磁心重量の増大などにより、軟磁性合金薄帯の層間で電流が流れやすくなり、この電流が生じることにより、渦電流が発生し、損失が増大するためである。
【0006】
なお、軟磁性合金薄帯からなる磁心は、所定の長さで切断されて積層された積層磁心が用いられることもあるが、渦状に巻き回された巻磁心として用いられることも多い。
巻磁心において、渦電流損の発生を抑制して巻磁心の鉄損を低減させるために、合金薄帯の層間の絶縁性を高めることが行われることがある。
例えば、特許文献1では、合金薄帯と絶縁テープとを重ねて巻き回し、層間絶縁を行った巻磁心を製造することが開示されている。また、同文献では、合金表面に酸化物層を形成し合金表面に絶縁層を形成することが、開示されている。
また、特許文献2では、軟磁性合金薄帯の他に、絶縁性を有するテープを用い、両者を同時に巻くことが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開昭63-302504号公報
【文献】実開平1-58914号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
巻磁心は、長尺の合金薄帯を巻くだけで磁心にすることができるので、積層磁心の製造工程に必要な、所定の長さでの合金薄帯の切断工程や、積層工程、積層後のそれぞれの合金薄帯同士の固着工程、等が不要となる。そのため、巻磁心の製造方法において、簡易な工夫で、合金薄帯の層間の絶縁性を高める手段の確立が望まれる。
【0009】
しかし、特許文献1および特許文献2に記載される、層間絶縁に、絶縁テープを用いる方法は、次の問題がある。軟磁性合金薄帯は板厚が5μm~50μm程度と非常に薄いため、薄い絶縁テープを用いたとしても、磁心における絶縁テープの占める割合が大きくなる。結果、軟磁性合金薄帯の占積率が小さくなるので、その分、巻磁心が大型化する。
【0010】
なお、特許文献1には、前記のように、合金表面に酸化物層を形成し、合金表面に絶縁層を形成することが開示されている。この酸化物層の形成方法として、たとえばSiO,MgO,Al等の粉末を浸積、スプレー法や電気泳動法により付着させたり、スパッター法や蒸着法でSiO等の膜をつける方法等が開示されている。
しかしながら、軟磁性合金薄帯の表面に絶縁層を形成させる場合は、そのための別の製造工程が必要になり、製造工程が複雑になる。
【0011】
本発明の課題は、巻磁心の製造方法において、軟磁性合金薄帯の層間の絶縁性を簡易に確保できる製造方法を提供することである。また、別の本発明の課題は、その簡易な製造方法により得られた、軟磁性合金薄帯の層間の絶縁性が確保された巻磁心を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の一形態は、
軟磁性合金薄帯が巻き回された巻磁心の製造方法であって、
軟磁性合金薄帯の両面に絶縁層を形成して第1の軟磁性合金薄帯とする工程と、
前記第1の軟磁性合金薄帯と、絶縁層が形成されていない第2の軟磁性合金薄帯との組合せからなる複数枚の軟磁性合金薄帯を、同時に巻き回して、前記第2の軟磁性合金薄帯の両面側に前記第1の軟磁性合金薄帯が積層された状態とする工程と、
を有する、巻磁心の製造方法である。
【0013】
また本発明の別の形態は、
軟磁性合金薄帯が巻き回された巻磁心であって、
絶縁層が両面に形成された第1の軟磁性合金薄帯と、絶縁層が形成されていない第2の軟磁性合金薄帯との組合せからなる複数枚の軟磁性合金薄帯が巻き回されていて、前記第2の軟磁性合金薄帯の両面側に前記第1の軟磁性合金薄帯が積層されている巻磁心である。
【発明の効果】
【0014】
本発明により、軟磁性合金薄帯の層間の絶縁性を簡易に確保できる巻磁心の製造方法を提供でき、それにより、軟磁性合金薄帯の層間の絶縁性が確保された巻磁心を低コストで提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の巻磁心における、積層面の模式図である。
図2】第1と第2の軟磁性合金薄帯を同時に巻き回す状態を示す概略図である。
図3】軟磁性合金薄帯に絶縁性粒子を付着させる装置の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
次に本発明を実施形態によって具体的に説明するが、これら実施形態により本発明が限定されるものではない。
本発明の一形態は、
軟磁性合金薄帯が巻き回された巻磁心の製造方法であって、
軟磁性合金薄帯の両面に絶縁層を形成して第1の軟磁性合金薄帯とする工程と、
前記第1の軟磁性合金薄帯と、絶縁層が形成されていない第2の軟磁性合金薄帯との組合せからなる複数枚の軟磁性合金薄帯を、同時に巻き回して、前記第2の軟磁性合金薄帯の両面側に前記第1の軟磁性合金薄帯が積層された状態とする工程と、
を有する、巻磁心の製造方法である。
この製造方法によると、複数枚の軟磁性合金薄帯を同時に巻き回しても、軟磁性合金薄帯の層間において渦電流の発生が抑制された状態とすることができるので、1枚の軟磁性合金薄帯を巻き回す場合と比較し、巻き回す回数が低減でき、製造時間を短縮できる。
また、本発明の製造方法は、巻き回す軟磁性合金薄帯として、両面に絶縁層が形成された第1の軟磁性合金薄帯と、絶縁層が形成されていない第2の軟磁性合金薄帯とを組み合わせて用いるため、巻磁心に用いる軟磁性合金薄帯のうち、一部の軟磁性合金薄帯のみに絶縁層を形成させるだけでよいので、軟磁性合金薄帯に絶縁層を形成させる作業を減らすことができる。
また、本発明の製造方法では、第1の軟磁性合金薄帯の両面に絶縁層が形成されていて、第2の軟磁性合金薄帯の両面側に第1の軟磁性合金薄帯が積層される状態とするため、第2の軟磁性合金薄帯は、第1の軟磁性合金薄帯の両面に形成された絶縁層により、常に絶縁性が保たれる。
絶縁層は、例えば、絶縁性粒子を軟磁性合金薄帯の表面に付着させたものとすることができる。
【0017】
上記の製造方法により得られる、本発明の別の形態は、
軟磁性合金薄帯が巻き回された巻磁心であって、
両面に絶縁層が形成された第1の軟磁性合金薄帯と、絶縁層が形成されていない第2の軟磁性合金薄帯との組合せからなる複数枚の軟磁性合金薄帯が巻き回されていて、前記第2の軟磁性合金薄帯の両面側に前記第1の軟磁性合金薄帯が積層されている巻磁心である。
【0018】
以下に、本発明をさらに詳述するが、本発明はこれに限られない。
軟磁性合金薄帯は、例えば、合金溶湯をロール冷却して得られる、帯状の合金薄帯を採用することができる。
具体的には、軟磁性合金薄帯は、合金溶湯を用意し、回転する冷却ロールの表面に合金溶湯を吐出させることによって、冷却ロールの表面に合金溶湯の膜を形成し、冷却ロールの表面にて形成されたアモルファス状の合金薄帯を冷却ロールの表面から剥離して形成される合金薄帯を用いることができる。
剥離した合金薄帯は、巻き取りロールによってロール状に巻き取ることができる。
【0019】
軟磁性合金薄帯は、例えば、アモルファス合金や、ナノ結晶化が可能なアモルファス合金を採用することができる。
本発明に用いる第1と第2の軟磁性合金薄帯は、どちらも同じ合金を用いることが望ましい。特に、熱処理を施す場合には、同じ合金を用いることで、両者の軟磁性合金薄帯を最適な条件で熱処理することができる。
【0020】
アモルファス合金の組成は、例えば、Fe、SiおよびBの合計量を100原子%としたとき、Siが0原子%以上10原子%以下、Bが10原子%以上20原子%以下であり、残部をFeが占める組成とすることができる。
Si量およびB量がこの範囲を外れると、ロール冷却で製造する際にアモルファス合金とすることが難しくなったり、量産性が低下したりしやすい。添加物あるいは不可避的不純物として、Mn、S、C、Al等、Fe、SiおよびB以外の元素を含んでいてもよい。添加物や不可避不純物を含む場合、Fe、SiおよびBの合計の割合は、95質量%以上であることが好ましく、さらには98質量%以上であることが好ましい。
アモルファス合金は、結晶構造に由来する異方性がなく、磁壁の移動を妨げる結晶粒界が存在しないため、高磁束密度でありながら高透磁率、低損失の優れた軟磁気特性を有する。上記組成のアモルファスの合金からなる軟磁性合金薄帯は、単体で、1.48T以上の磁束密度B80を有するものとすることができる。
【0021】
ナノ結晶化が可能なアモルファス合金は、例えば、一般式:(Fe1-aMa)100-x-y-z-α-β-γCuxSiyBzM’αM”βXγ(原子%)(ただし、MはCo及び/又はNiであり、M’はNb,Mo,Ta,Ti,Zr,Hf,V,Cr,Mn及びWからなる群から選ばれた少なくとも1種の元素、M”はAl,白金族元素,Sc,希土類元素,Zn,Sn,Reからなる群から選ばれた少なくとも1種の元素、XはC、Ge、P、Ga、Sb、In、Be、Asからなる群から選ばれた少なくとも1種の元素、a,x,y,z,α,β及びγはそれぞれ0≦a≦0.5,0.1≦x≦3,0≦y≦30,0≦z≦25,5≦y+z≦30、0≦α≦20,0≦β≦20及び0≦γ≦20を満たす。)により表される組成の合金からなるものを使用することができる。好ましくは、上記一般式において、a,x,y,z,α,β及びγは、それぞれ0≦a≦0.1,0.7≦x≦1.3,12≦y≦17,5≦z≦10,1.5≦α≦5,0≦β≦1及び0≦γ≦1を満たす範囲である。
【0022】
このナノ結晶化が可能なアモルファス合金は、ナノ結晶化のための熱処理を施すことで、平均粒径が100nm以下のbcc-Fe固溶体結晶が組織の50%以上を占めるナノ結晶組織を有するナノ結晶合金とすることができる。
巻磁心の製造において、ナノ結晶化の熱処理は、通常、軟磁性合金薄帯を巻き回した積層体に対して行われる。
上記組成の軟磁性合金薄帯であれば、通常450℃以上650℃以下の範囲で、ナノ結晶化の熱処理が施される。熱処理温度が450℃未満であると結晶化が起こりにくく、熱処理に時間がかかり過ぎ、650℃を超えると粗大な結晶粒が不均一に生成する恐れがあり、ナノ結晶粒を均一に得ることが難しくなるからである。
ナノ結晶化の熱処理は、磁場中で行うこともできる。
【0023】
軟磁性合金薄帯の厚さは、5μm以上50μm以下であることが好ましい。厚さが5μm未満であると、軟磁性合金薄帯の機械的強度が不十分となる傾向がある。厚さは、10μm以上であることがより好ましく、更に、15μm以上であることがより好ましい。一方、軟磁性合金薄帯の厚さが50μmを超えると、ロール冷却で作製する際、アモルファス相を安定して得ることが難しくなる傾向がある。厚さは、35μm以下であることがより好ましく、更に、30μm以下であることがより好ましい。
【0024】
絶縁層について説明する。
絶縁層は、軟磁性合金薄帯に用いられる既知のものを使用することができる。例えば、絶縁性粒子を軟磁性合金薄帯の表面に付着させた絶縁層を適用することができる。
絶縁性粒子は、例えばSiO、Al、MgO等の金属酸化物が使用できる。この場合、金属アルコキシドを含有するアルコール溶液を合金薄帯に塗布、乾燥させることにより形成させる方法、粉末の浸漬法、スプレー法、電気泳動法により付着させる方法、スパッター法や蒸着法で成膜させる方法、熱処理により合金薄帯の表面に形成させる方法など、公知の方法を適宜採用することができる。
以下、絶縁層として、絶縁性粒子を軟磁性合金薄帯の表面に付着させた実施形態で説明する。
【0025】
本発明の一実施形態において、絶縁性粒子は、第1の軟磁性合金薄帯の両面に付着される。
図3は、第1の軟磁性合金薄帯の両面に絶縁性粒子を付着させるための装置の概略図を示すものである。
装置100は、液槽に貯められたコーティング溶液3に、巻き出しリール20’から巻き出された軟磁性合金薄帯2’を連続的に浸漬させることが可能な構造を有する。
巻き出しリール20’は、ロール冷却により得られた軟磁性合金薄帯2’が巻き取られたものである。巻き出しリール20’から巻き出された軟磁性合金薄帯2’は、複数のバーにより屈曲されながら、コーティング溶液3の中に搬送される。コーティング溶液3は、例えば、有機溶媒中に絶縁性粒子が攪拌されたものを用いることができる。コーティング溶液3の中を通過する軟磁性合金薄帯2’は、その両面に有機溶媒と共に絶縁性粒子が付着される。軟磁性合金薄帯は、コーティング溶液3から搬出された後、乾燥炉に搬入される。軟磁性合金薄帯は、乾燥炉により表面に残る有機溶媒が除去され、絶縁性粒子が両面に付着した第1の軟磁性合金薄帯1となる。こうして得られた第1の軟磁性合金薄帯1は、巻き取りリールに巻かれて、巻磁心を製造する際に使用される巻き出しリール10となる。
なお、本実施形態においては、コーティング溶液3としてIPA(イソプロピルアルコール)を用い、絶縁性粒子として酸化物粉末(MgO)を用いた。酸化物粉末は、IPAに対して5wt%添加した。軟磁性合金薄帯をコーティング溶液内で搬送させる際には、超音波により酸化物粉末を攪拌させた。このコーティング溶液3に軟磁性合金薄帯をおおよそ0.2秒浸漬させることにより、リボン質量に対し0.2~1%のMgO粒子を軟磁性合金薄帯の表面に付着させた。
【0026】
なお、絶縁性粒子が付着されていない第2の軟磁性合金薄帯は、ロール冷却により得られた軟磁性合金薄帯をそのまま使用することができる。例えば、図3で示した巻き出しリール20’と同じものを、第2の軟磁性合金薄帯の巻き出しリールとして使用できる。
なお、軟磁性合金薄帯は、原子%で、Cu:1%、Nb:3%、Si:15.5%、B:6.5%、残部Fe及び不可避不純物からなる合金溶湯を単ロ-ル法により急冷した、幅50mm、厚さ14μmのFe基アモルファス合金薄帯を用いた。
【0027】
図2(a)は、両面に絶縁性粒子が付着された第1の軟磁性合金薄帯1と、絶縁性粒子が付着されていない第2の軟磁性合金薄帯2を、同時に巻き回して巻磁心とする工程を示す概略図である。
巻き出しリール10から第1の軟磁性合金薄帯1が巻き出され、巻き出しリール20から第2の軟磁性合金薄帯2が巻き出される。巻き出された第1と第2の軟磁性合金薄帯は、その先端がボビン60に固定される。ボビン60は軸方向の断面形状が略矩形の形状を有する。ボビン60が軸回転することで、第1の軟磁性合金薄帯1と第2の軟磁性合金薄帯2が巻き出され、そして、ボビン60に同時に巻き回される。これにより、巻磁心50が得られる。なお、軟磁性合金薄帯にナノ結晶化が可能なアモルファス合金薄帯を用いた場合は、ボビン60に巻き回された後、ナノ結晶化の熱処理が施される。
なお、図2(b)は、図2(a)と、第2の軟磁性合金薄帯が巻き出される巻き出しリール20の配置する位置を変えたものである。具体的には、巻き出しリール10と巻き出しリール20の配置する位置を、ボビン60の回転軸に対して点対象になるように配置したものである。
【0028】
図1は、本発明で得られた巻磁心50の積層面を軸方向に見た模式図である。巻磁心50は、第2の軟磁性合金薄帯の両面側に第1の軟磁性合金薄帯が積層されている。言い換えれば、絶縁性粒子1aが付着された第1の軟磁性合金薄帯1と、絶縁性粒子が付着されていない第2の軟磁性合金薄帯2が、積層方向(径方向)に交互に積層されている。
【0029】
なお、図1の巻磁心以外の本発明の実施形態として、第1の軟磁性合金薄帯を2枚用い、第2の軟磁性合金薄帯を1枚用い、積層方向に順に、一方の第1の軟磁性合金薄帯、他方の第1の軟磁性合金薄帯、第2の軟磁性合金薄帯の3枚からなる軟磁性合金薄帯を同時に巻き回し、この3枚の組合せからなる軟磁性合金薄帯が繰り返し積層される巻磁心としてもよい。また、第1の軟磁性合金薄帯1と第2の軟磁性合金薄帯2とを2枚ずつ用い、積層方向に順に、一方の第1の軟磁性合金薄帯、一方の第2の軟磁性合金薄帯、他方の第1の軟磁性合金薄帯、他方の第2の軟磁性合金薄帯の4枚からなる軟磁性合金薄帯を同時に巻き回し、この4枚の組合せからなる軟磁性合金薄帯が繰り返し積層される、巻磁心としてもよい。このような組合せであっても、第2の軟磁性合金薄帯の両面側に第1の軟磁性合金薄帯が積層された状態となり、軟磁性合金薄帯の層間の絶縁性を保つことができる。
このように本発明は、同時に巻き回す、第1の軟磁性合金薄帯と第2の軟磁性合金薄帯との組合せを適宜変更することができる。
【0030】
本実施形態では、第2の軟磁性合金薄帯の両面側に第1の軟磁性合金薄帯が積層されている巻き回し体を得た後、この巻き回し体を熱処理炉に入れ、無磁場中、550℃で60分保持するナノ結晶化のための熱処理を行った。これにより得られる本発明の巻磁心は、第1および第2の軟磁性合金薄帯が、平均粒径が100nm以下のbcc-Fe固溶体結晶が組織の50%以上を占めるナノ結晶組織を有するものである。
【符号の説明】
【0031】
1:第1の軟磁性合金薄帯、1a:絶縁性粒子、2:第2の軟磁性合金薄帯、3:コーティング溶液、4:乾燥炉、10,20:巻き出しリール、50:巻磁心、60:ボビン
図1
図2
図3