(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-25
(45)【発行日】2024-02-02
(54)【発明の名称】多孔体の製造方法
(51)【国際特許分類】
C01B 33/18 20060101AFI20240126BHJP
【FI】
C01B33/18 D
(21)【出願番号】P 2020030066
(22)【出願日】2020-02-26
【審査請求日】2022-08-23
(73)【特許権者】
【識別番号】000000044
【氏名又は名称】AGC株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】390005728
【氏名又は名称】AGCエスアイテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001634
【氏名又は名称】弁理士法人志賀国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】片山 肇
(72)【発明者】
【氏名】近藤 雅史
(72)【発明者】
【氏名】田坂 真維
(72)【発明者】
【氏名】有働 武司
【審査官】廣野 知子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/097106(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/097103(WO,A1)
【文献】特開2015-113277(JP,A)
【文献】特開昭56-120508(JP,A)
【文献】特開2003-020218(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 33/00ー33/193
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水を含む第一の液体で空隙が満たされた多孔体前駆体である、湿潤体を得た後、
前記湿潤体と、フッ素系溶媒を含み前記第一の液体と均一に混合しうる第二の液体とを接触させ、前記湿潤体に含まれる前記第一の液体を前記第二の液体に置換し、前記湿潤体から前記第二の液体を除去する、多孔体の製造方法であって、
前記多孔体前駆体が、ケイ酸ソーダを原料とするシリカ粒子であり、
前記第一の液体及び前記第二の液体の少なくとも一方に
、化合物Xを存在させ
、
前記化合物Xが、アルコール類、ケトン類、アルデヒド類及びニトリル類からなる群から選択される少なくとも1種である、多孔体の製造方法。
【請求項2】
水で空隙が満たされた多孔体前駆体と水を含む第一の液体とを接触させ、空隙内の水を前記第一の液体で置換し、湿潤体を得た後、
前記湿潤体と、フッ素系溶媒を含み前記第一の液体と均一に混合しうる第二の液体とを接触させ、前記湿潤体に含まれる前記第一の液体を前記第二の液体に置換し、前記湿潤体から前記第二の液体を除去する、多孔体の製造方法であって、
前記多孔体前駆体が、ケイ酸ソーダを原料とするシリカ粒子であり、
前記第一の液体及び前記第二の液体の少なくとも一方に、化合物Xを存在させ、
前記化合物Xが、アルコール類、ケトン類、アルデヒド類及びニトリル類からなる群から選択される少なくとも1種である、多孔体の製造方法。
【請求項3】
前記化合物Xが、前記第二の液体に存在する、請求項1又は2に記載の多孔体の製造方法。
【請求項4】
前記化合物Xが、前記第一の液体及び前記第二の液体の両方に存在する、請求項1又は2に記載の多孔体の製造方法。
【請求項5】
前記フッ素系溶媒が、フルオロアルコール類、ハイドロフルオロオレフィン類及びハイドロフルオロエーテル類からなる群から選択される少なくとも1種である、請求項1
~4のいずれか1項に記載の多孔体の製造方法。
【請求項6】
前記第二の液体が、引火点を持たない、請求項1~
5のいずれか1項に記載の多孔体の製造方法。
【請求項7】
前記多孔体が球状粒子である、請求項1~
6のいずれか1項に記載の多孔体の製造方法。
【請求項8】
前記球状粒子の平均粒子径が1~1000μmである、請求項
7に記載の多孔体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多孔体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
高い空隙率を有するシリカ粒子は、断熱材、真空断熱材の芯材、食品添加剤、医療用診断剤、塗料用フィラー、化粧品用フィラー、樹脂フィルム用フィラー、液晶用スペーサー、クロマトグラフィー用充填剤、触媒、触媒担体、樹脂充填剤、吸着剤又は乾燥剤等の用途に好適である。シリカ粒子は、例えば、シリカヒドロゲルを作成し、水を除去し、乾燥することによって製造される。この製造方法では、シリカ粒子の空隙率は乾燥収縮によって低下する。
【0003】
特許文献1には、空隙を有する材料を溶媒置換して乾燥収縮を抑制する方法が記載されている。
非特許文献1には、予め水分を含む粉体や固体をフッ素系溶媒に浸漬させ、フッ素系溶媒を沸騰などによって蒸発又は揮発させることで、粉体や固体の水分を除去することを特徴とする有機物粉体又は無機物粉体の乾燥方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】米国特許出願公開第2018/0112054号明細書
【非特許文献】
【0005】
【文献】発明協会公開技報公技番号2009―502138号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、非特許文献1に記載された乾燥方法では、シリカ粒子等の多孔体の乾燥収縮を充分に抑制できなかった。また特許文献1に記載された方法では、多数の溶媒置換が必要とされていて工程が煩雑であった。
【0007】
そこで、本発明は、乾燥収縮の抑制が可能な、多孔体の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
[1] 水を含む第一の液体を含む湿潤体と、フッ素系溶媒を含み前記第一の液体と均一に混合しうる第二の液体とを接触させ、前記湿潤体に含まれる前記第一の液体を前記第二の液体に置換し、前記湿潤体から前記第二の液体を除去する、多孔体の製造方法であって、
前記第一の液体及び前記第二の液体の少なくとも一方に水の表面張力を低下させる化合物Xを存在させる、多孔体の製造方法。
[2] 前記化合物Xが、アルコール類、ケトン類、アルデヒド類及びニトリル類からなる群から選択される少なくとも1種である、[1]に記載の多孔体の製造方法。
[3] 前記フッ素系溶媒が、フルオロアルコール類、ハイドロフルオロオレフィン類及びハイドロフルオロエーテル類からなる群から選択される少なくとも1種である[1]又は[2]に記載の多孔体の製造方法。
[4] 前記第一の液体が水であり、前記第二の液体が前記フッ素系溶媒と化合物Xとの混合物である[1]~[3]のいずれか1項に記載の多孔体の製造方法。
[5] 前記第二の液体が、引火点を持たない、[1]~[4]のいずれか1項に記載の多孔体の製造方法。
[6] 前記多孔体が無機酸化物粒子である、[1]~[3]のいずれか1項に記載の多孔体の製造方法。
[7] 前記無機酸化物粒子がシリカ粒子である、[6]に記載の多孔体の製造方法。
[8] 前記多孔体が球状粒子である、[1]~[7]のいずれか1項に記載の多孔体の製造方法。
[9] 前記球状粒子の平均粒子径が1~1000μmである、[8]に記載の多孔体の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、乾燥収縮の抑制が可能な、多孔体の製造方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【発明を実施するための形態】
【0011】
「~」を用いて表される数値範囲は、「~」の両側の数値をその数値範囲に含む。
「多孔体」とは、連続した細孔を有する材料である。
「空隙率」は、みかけの体積中に含まれている気体の量を体積百分率で表した値である。
「水混和性」とは、水と任意の比率で混合して均一な溶液を形成する性質を意味する。
「溶解度を有する」とは、2種以上の液体を混合した場合に、均一な溶液を形成し得る性質を意味する。
「共沸組成」とは、液体の混合物が沸騰する際に液相と気相の組成が同じになる組成である。
液体の表面張力は、表面張力計(DY-300、協和界面科学株式会社)を用いて測定した、20℃における表面張力(単位:mN/m)である。
多孔体の細孔容積(PV)は、窒素吸着法によって測定した細孔容積(単位:mL/g)である。
多孔体の比表面積(SA)は、窒素吸着法によって測定した比表面積(単位:m2/g)である。
粒子の平均粒子径は、30000個の粒子の粒子径を測定して得られた値の算術平均値である。
多孔体の空隙率は、下記式により算出したものである。
空隙率(%)=細孔容積(mL/g)÷{(細孔容積(mL/g)+1/多孔質材料の真密度(g/cm3)}×100(%)
【0012】
以下、本発明を実施するための形態を説明する。しかし、本発明は後述する実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない限り、種々の変形が可能である。
【0013】
[多孔体の製造方法]
本発明の多孔体の製造方法は、水を含む第一の液体を含む湿潤体と、フッ素系溶媒を含み上記第一の液体と均一に混合しうる第二の液体とを接触させ、上記湿潤体に含まれる上記第一の液体を上記第二の液体に置換し、上記湿潤体から上記第二の液体を除去する製造方法であって、上記第一の液体及び上記第二の液体の少なくとも一方に水の表面張力を低下させる化合物Xを存在させることを特徴とする、多孔体の製造方法である。
【0014】
<第一の液体>
第一の液体は、水を含む液体である。
第一の液体は、水、又は水と後述する化合物Xとの混合物が好ましく、水、又は水と水混和性アルコールとの混合物がより好ましく、水がさらに好ましい。
【0015】
水混和性アルコールは、水と任意の比率で混合して均一な溶液を形成するアルコールである。
水混和性アルコールの具体例は、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、エチレングリコール、プロピレングリコール及び1,3-プロパンジオール(別名:トリメチレングリコール)である。
水混和性アルコールとしては、メタノール、エタノール、1-プロパノール及び2-プロパノールからなる群から選択される少なくとも1種が好ましく、エタノール、プロパノール及び2-プロパノールからなる群から選択される少なくとも1種がより好ましく、エタノールが特に好ましい。
水混和性アルコールとしてエタノール、1-プロパノール又は2-プロパノールを用いると、人体に対する毒性が比較的低いため、作業者の健康に対する悪影響が少ない。また、エタノールは、1-プロパノール及び2-プロパノールに比べて臭気が弱いため、作業環境を悪化させにくい。
【0016】
第一の液体として水と水混和性アルコールとの混合物を用いる場合の水混和性アルコールの濃度は、5~90質量%が好ましく、10~70質量%がより好ましく、15~50質量%がさらに好ましい。
第一の液体として水と水混和性アルコールとの混合物を用いると、水混和性アルコールを用いる場合に比べて、引火のリスクを低減できる。特に、水混和性アルコールの濃度が50体積%以下であると、引火のリスクをより低減できる。
水は、イオン交換水、蒸留水又は逆浸透(RO)水が好ましい。
【0017】
<第二の液体>
第二の液体は、フッ素系溶媒を含み第一の液体と均一に混合しうる液体である。均一に混合しうるとは、25℃において同体積の第一の液体と第二の液体とを混合した場合に均一に混合しうることをいう。
第二の液体としては、フッ素系溶媒、フッ素系溶媒と後述する化合物Xとの混合物、又はフッ素系溶媒と後述する化合物Xと水との混合物が好ましく、フッ素系溶媒、フッ素系溶媒と水混和性アルコールとの混合物、又はフッ素系溶媒と水混和性アルコールと水との混合物がより好ましく、フッ素系溶媒と水混和性アルコールとの混合物がさらに好ましい。
水混和性アルコール及び水は、上述したとおりである。
上述した第1の液体が水であるとき、第二の液体はフッ素系溶媒と後述する化合物Xとの混合物が好ましく、フッ素系溶媒と水混和性アルコールとの混合物がより好ましい。
第二の液体は、引火点を持たないことが好ましい。
【0018】
フッ素系溶媒は、フルオロアルコール類、ハイドロフルオロオレフィン類及びハイドロフルオロエーテル類からなる群から選択される少なくとも1種が好ましく、ハイドロフルオロエーテル類が特に好ましい。
フルオロアルコール類としては、炭素数1~10のフルオロアルコール類が好ましい。その具体例としては、ペンタフルオロエチル-エタノールが挙げられる。
ハイドロフルオロオレフィン類としては、炭素数1~10のハイドロフルオロオレフィン類が好ましい。その具体例としては、トリデカフルオロヘキシルエチレンが挙げられる。
ハイドロフルオロエーテル類としては、炭素数1~15のハイドロフルオロエーテル類が好ましい。ハイドロフルオロエーテル類の具体例は、アサヒクリンAE-3000(AGC社製、分子式CF3CH2OCF2CHF2、別名:HFE-347pc-f)、ノベック7000(C3F7OCH3、3M社製)、ノベック7100(C4F9OCH3、3M社製)、ノベック7200(C4F9OC2H5、3M社製)、ノベック7300(C2F5CF(OCH3)C3F7、3M社製)、エルノバNF(トクヤマMETEL社製)及びエルノバNFR(旭化成ケミカルズ社製)である。
【0019】
第二の液体としてフッ素系溶媒と水混和性アルコールとの混合物を用いる場合の水混和性アルコールの含有量は、0.1~15質量%が好ましく、0.5~10質量%がより好ましく、1~6質量%がさらに好ましい。
ハイドロフルオロエーテルと水混和性アルコールとの混合物は、上述したハイドロフルオロエーテルと上述した水混和性アルコールを混合して調製できる。また、ハイドロフルオロエーテルと水混和性アルコールとの混合物の市販品を使用してもよく、具体例として、アサヒクリンAE-3100E (AGC社製、アサヒクリンAE-3000とエタノールとの混合物、エタノール含有量5.5体積%)及びノベック71IPA(3M社製、ノベック7100と2-プロパノールとの混合物、2-プロパノール含有量5質量%)が挙げられる。
【0020】
第二の液体としてフッ素系溶媒と水混和性アルコールと水との混合物を用いる場合の水混和性アルコールの含有量は、0.1~15質量%が好ましく、0.5~10質量%がより好ましく、1~6質量%がさらに好ましい。また、水の含有量は、0~5質量%が好ましく、0~1質量%がより好ましく、0~0.5質量%がさらに好ましい。
【0021】
<化合物X>
化合物Xは、第一の液体及び第二の液体の少なくとも一方に含まれ、水の表面張力を低下させる化合物である。化合物Xとしては、アルコール類、ケトン類、アルデヒド類及びニトリル類からなる群から選択される少なくとも1種が好ましく、アルコール類が特に好ましい。化合物Xの炭素数は1~10が好ましい。
アルコール類としては、上記水混和性アルコールが挙げられ、特にエタノールが好ましい。
ケトン類としては、アセトン、メチルエチルケトン、3-ペンタノンが挙げられ、特にアセトンが好ましい。
アルデヒド類としては、アセトアルデヒド、プロピルアルデヒドが挙げられる。
ニトリル類としては、アセトニトリルが挙げられる。
【0022】
<湿潤体>
湿潤体は、空隙が水で満たされた多孔体前駆体と、第一の液体とを接触させ、空隙内の水を上記第一の液体で置換して得られるものが好ましい。湿潤体は、空隙が水で満たされた多孔体前駆体をそのまま用いてもよい。
【0023】
多孔体前駆体は、無機酸化物粒子が好ましく、シリカ粒子が特に好ましい。
シリカ粒子以外の無機酸化物粒子としては、例えば、アルミナ粒子、チタニア粒子及びジルコニア粒子が挙げられる。
本発明の多孔体の製造方法によって得られる高い空隙率を有する多孔質粒子は、断熱材、真空断熱材の芯材、食品添加剤、医療用診断剤、塗料用フィラー、化粧品用フィラー、樹脂フィルム用フィラー、液晶用スペーサー、クロマトグラフィー用充填剤、触媒、触媒担体、樹脂充填剤、吸着剤又は乾燥剤等の用途に用いることができる。
【0024】
多孔体前駆体の形状は、球状が好ましい。多孔体前駆体が球状である場合の平均粒子径は、1~1000μmが好ましく、5~500μmがより好ましく、10~200μmがさらに好ましい。
【0025】
<湿潤体と第二の液体との接触方法>
湿潤体と第二の液体との接触は、従来公知の方法によって行うことができ、例えば、湿潤体を第二の液体中に浸漬することで行える。第二の液体に湿潤体を浸漬する時間及び温度は、第一の液体が第二の液体に完全に置換される時間及び温度に設定することが好ましい。
【0026】
<第二の液体の除去方法>
湿潤体と第二の液体とを接触させ、湿潤体に含まれる第一の液体を第二の液体に置換させた後の、第二の液体を含む多孔体前駆体からの第二の液体の除去は、従来公知の方法によって行うことができ、例えば、加熱して第二の液体を蒸発させることで行える。加熱以外の除去方法としては、例えば、風乾又は減圧乾燥が挙げられる。
【0027】
<湿潤体の製造方法>
本発明の多孔体の製造方法において用いる湿潤体の製造方法について説明する。
以下では、湿潤体が第一の液体で空隙が満たされたシリカ粒子前駆体である場合について詳細に説明するが、シリカ粒子前駆体以外の多孔体前駆体である場合であっても、当業者であれば容易に理解できる。
【0028】
本実施形態の湿潤体の製造方法では、シリカヒドロゲルを調製し、第一の液体(ここでは水)で空隙が満たされたシリカ粒子前駆体を製造する。
【0029】
シリカヒドロゲルの調製方法としては、例えば、特許第6241252号公報に記載された球状シリカの製造方法の工程(1)~工程(4)のうち、工程(1)から工程(3)までを有する方法が挙げられる。
【0030】
工程(3)で熟成したシリカヒドロゲルを調製した後、上記シリカヒドロゲルに含まれる水を上記第二の液体(例えばハイドロフルオロエーテル類と水混和性アルコールとの混合物)で置換することにより、本発明の多孔体の製造方法において用いる湿潤体が得られる。
シリカヒドロゲルに含まれる水を第二の液体で置換するには、従来公知の方法によってシリカヒドロゲルに含まれる水を第二の液体で置換すればよいが、熟成したシリカヒドロゲルを第二の液体中に浸漬して、シリカヒドロゲルに含まれる水を第二の液体で置換することが好ましい。浸漬の時間及び温度は、シリカヒドロゲルに含まれる水を第二の液体で完全に置換できる条件とすることが好ましい。
【0031】
<多孔体>
本発明の多孔体の製造方法によって得られる多孔体の空隙率は、83.0%以上が好ましく、84.0%以上がより好ましく、85.0%以上がさらに好ましい。
多孔体の比表面積は、100m2/g以上が好ましく、200m2/g以上がより好ましく、400m2/g以上がさらに好ましい。
多孔体の細孔容積は、2.0mL/g以上が好ましく、2.3mL/g以上がより好ましく、2.5mL/g以上がさらに好ましい。
空隙率が83.0%以上の多孔体は、断熱材、真空断熱材の芯材、食品添加剤、医療用診断剤、塗料用フィラー、化粧品用フィラー、樹脂フィルム用フィラー、液晶用スペーサー、クロマトグラフィー用充填剤、触媒、触媒担体、樹脂充填剤、吸着剤又は乾燥剤等の用途に好適である。
【0032】
本発明の製造方法により得られる多孔体は、多孔体前駆体によるが、無機酸化物粒子が好ましい。
無機酸化物粒子としては、例えば、シリカ粒子、アルミナ粒子、チタニア粒子及びジルコニア粒子が挙げられるが、シリカ粒子が好ましい。
【0033】
多孔体は球状粒子が好ましい。多孔体が球状粒子である場合の平均粒子径は、1~1000μmが好ましく、5~500μmが好ましく、10~200μmがより好ましい。
【0034】
<作用効果>
空隙に液体を含む多孔体前駆体を乾燥して多孔体を得る際の収縮は、乾燥時に空隙内に残存する液体の気液界面の表面張力が原因である。表面張力を下げるためには、一般的には表面張力(対空気)が低い液体で、多孔体前駆体の空隙内部を置換する溶媒置換法が用いられる。
表面張力が低い液体は、有機溶媒が多く、親水表面になじまないため、多孔体前駆体表面を疎水化した後に溶媒置換、乾燥工程へ進む。
有機溶媒には可燃性の物質が多く安全性に懸念があるうえ、乾燥して得られる乾燥体は表面が疎水化されているため、表面が親水性の粒子を得るには焼成により疎水化に用いた有機物を除去する必要がある。また、低表面張力の有機溶媒であっても乾燥収縮が全くなくなるというわけではない。表面張力が低い液体として、フッ素系液体があるが、水、有機基ともになじみやすいわけではなく、溶媒置換が容易ではない。
したがって、湿潤体を乾燥収縮させずに乾燥させるためには、超臨界乾燥や凍結乾燥という手法が選択される場合がある。両者ともに非常に高額な装置を要するうえ、凍結乾燥法は、凍結時の液体の体積変化により微細構造内部が破壊されるおそれがある。
【0035】
これに対して、本発明の多孔体の製造方法では、第一の液体と第二の液体との表面張力差が小さいこと、及び第二の液体と空気との表面張力差が小さいことから、表面張力の変化率が緩和される。その結果、おだやかな条件で空隙内部の液体が空気に置換されることにより、多孔体前駆体の乾燥収縮が抑制され、得られる多孔体の空隙率の低下も抑制される。
【0036】
<多孔体の用途>
本発明の多孔体の製造方法によって製造した多孔体の用途及び有利な点について、以下に説明する。
化粧品用途:軽量感が加わることによる感触向上、香料担持量増加に伴う保持時間上昇が期待できる。
触媒担持用途:触媒内部までの物質の拡散速度が上昇することによる活性向上が期待できる。特に、担体を崩壊させながら重合を行う場合には、易崩壊性にもつながり、反応速度が向上することが期待できる。
断熱材用途:空隙率が高く、断熱性能が高いだけではなく、特に、ナノ細孔構造が性能に影響を与えている断熱材において、乾燥収縮を起こさないことが期待できる。
コーティング用途:微粒子のコーティングで薄膜を形成する場合、乾燥収縮に伴う変形を抑制する効果が規定できる。
クロマト充填剤:乾燥収縮がないことで、均一な細孔構造が得られ、分離性能が向上することが期待できる。
【実施例】
【0037】
以下では実施例によって本発明をより具体的に説明する。しかし、本発明は後述する実施例に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない限り、種々の変形が可能である。
例1及び例5は実施例に相当し、例2~4及び例6~8は比較例に相当する。
【0038】
[調製例1]
<サンプルAの調製>
(1)分散相及び連続相の調製
分散相として、3号ケイ酸ソーダ(AGCエスアイテック株式会社製、ケイ酸ナトリウム水溶液、Na2O/SiO2(モル比)=3.09)を、硫酸ナトリウム(Na2SO4)水溶液で薄めて、SiO2濃度を11質量%、硫酸ナトリウム濃度を4.0質量%としたものを用いた。このときの密度は1150kg/m3であった。
連続相の有機溶媒としてn-デカン(C10H22、密度730kg/m3)を用いた。また、あらかじめ、このn-デカンに界面活性剤としてモノオレイン酸ソルビタン(三洋化成工業株式会社製「イオネットS80」)を0.3質量%溶解したものを連続相として用いた。
【0039】
(2)乳化装置Aの作製
調製例1では、乳化装置Aを用いて乳化を行った。乳化装置Aの断面模式図は
図1に示す通りである。
【0040】
乳化装置Aにおいて、ステンレス鋼板3は、厚さ600μmのSUS304製のシートに対し、流路(マイクロチャネル)に相当する幅3.0mm×長さ74mmの1本の貫通加工部がエッチング加工されたものであり、すなわち幅3.0mm×高さ600μmの流路3aが形成されている。
【0041】
ステンレス鋼板4は、厚さ50μmのSUS304製のシートに対し、ステンレス鋼板3と重ね合わせた際に流路3aの中央部に微小孔部4aが重なるような位置に微小孔部4aが加工されたものである。微小孔部4aは流路の中央部の2.61mm×37.9mmの面積(9.89×10-5m2)に、出口側(下側、すなわちステンレス鋼板3側)の孔径が12.7μmである円形の貫通孔部4bが100μmピッチで10260個加工してある。
【0042】
ステンレス鋼板3の流路3aが形成された面及びステンレス鋼板4の微小孔部4aが形成された面に撥水処理を施した。撥水処理は、溶媒可溶型フッ素樹脂(AGC株式会社製「サイトップ」)を溶媒(AGC株式会社製「CT-Solv100」)に溶解した溶液を、乾燥後の被覆厚が0.1μmになるようにディップコート法により被覆した。
【0043】
このステンレス鋼板3とステンレス鋼板4とを
図1のように重ね、分散相供給部7を有する分散相流路形成用のアクリル樹脂製部材2と、連続相入口部5及びエマルション出口部6のそれぞれの流路を有するアクリル樹脂製部材1とで挟み込み、乳化装置Aを作製した。乳化装置Aの4辺をクランプにて均等な力で締め付けて固定し、事前に水を供給することで漏洩がないことを確認した。
【0044】
(3)エマルション作製
上記(2)で作製した乳化装置Aを流路が水平方向になるように置いて使用し、連続相入口部5より上記(1)で調製した界面活性剤を溶解したn-デカンを、分散相供給部7より微小孔部4aを通して上記(1)で調製した3号ケイ酸ソーダを供給することで、3号ケイ酸ソーダが界面活性剤を溶解したn-デカン中に分散したW/O型エマルションを連続的に製造した。
【0045】
このとき、n-デカンの供給量は1流路あたり12.3L/hであり、流路における流れ方向の線速(流速)は1.9m/sであった。また、3号ケイ酸ソーダの供給量は微小孔部形成領域(乳化装置Aでは9.89×10-5m2)の単位面積あたり5.48L/hであり、微小孔部4aの1孔(4b)あたりの流れ方向の線速(流速)は1.17m/sであった。
【0046】
(4)ゲル化及び熟成
上記(3)で15分間W/O型エマルションを作製し続けた後に、エマルションを350ml採取し、10℃に温度調整した後、撹拌しながら100質量%濃度の炭酸ガスを100mL/分の供給速度で25分間吹き込んでゲル化を行った。生成したシリカヒドロゲルに対し、水200mLを加えて10分間静置させた後、比重差により2相分離してシリカヒドロゲルの水スラリー(水相)を得た。得られたシリカヒドロゲルの水スラリーをろ過して、イオン交換水2Lで洗浄した後、1規定の水酸化ナトリウム水溶液を添加し、pH5とした。次いで、熟成工程として80℃に昇温後、1時間攪拌した。
【0047】
(5)洗浄、固液分離
上記(4)で熟成をかけた水スラリーに0.1既定の硫酸を添加し、pH2とした。次いで水スラリーをろ過して、イオン交換水2Lで洗浄した後、吸引ろ過してシリカケーキのサンプルAを得た。
【0048】
[調製例2]
<サンプルBの調製>
調製例1の(1)から(3)までと同一手順、条件にてエマルションを作製した。
【0049】
(4)ゲル化及び熟成」
上記(3)で15分間W/O型エマルションを作製し続けた後に、エマルションを350ml採取し、10℃に温度調整した後、撹拌しながら100質量%濃度の炭酸ガスを100mL/分の供給速度で25分間吹き込んでゲル化を行った。生成したシリカヒドロゲルに対し、水200mLを加えて10分間静置させた後、比重差により2相分離してシリカヒドロゲルの水スラリー(水相)を得た。得られたシリカヒドロゲルの水スラリーをろ過して、イオン交換水2Lで洗浄した後、1規定の水酸化ナトリウム水溶液を添加し、pH8とした。次いで、熟成工程として80℃に昇温後、1時間攪拌した。
【0050】
(5)洗浄、固液分離
上記(4)で熟成をかけた水スラリーに0.1既定の硫酸を添加し、pH2とした。次いで水スラリーをろ過して、イオン交換水2Lで洗浄した後、吸引ろ過してシリカケーキのサンプルBを得た。
【0051】
[例1]
シリカケーキ(サンプルA)41.6g(乾燥質量9.5g)を水-エタノール混合液(水80体積%、エタノール20体積%、表面張力38.4mN/m)6720gに浸漬して、シリカ粒子中の水を水-エタノール混合液に置換して湿潤体を得た。
【0052】
上記湿潤体を含むスラリーをそのまま撹拌を続け、湿潤体中の水-エタノール混合液を含フッ素溶媒混合物(AGC社製、AE-3100E)に置換した。容器を70℃の水浴に漬け、容器内の含フッ素溶媒混合物を煮沸、留去してシリカ粒子を得た。
【0053】
得られたシリカ粒子の比表面積(SA)及び細孔容積(PV)を測定し、空隙率を算出した。結果を表1に示す。
【0054】
[例2]
シリカケーキ(サンプルA)8.4g(乾燥質量2.1g)を容器内のアサヒクリンAE-3000(AGC社製)7000gと混合し、撹拌した。撹拌を続け、シリカゲル中の水をAE-3000に置換した。
容器を70℃の水浴に漬け、容器内のAE-3000を煮沸、留去してシリカ粒子を得た。
【0055】
得られたシリカ粒子の比表面積(SA)及び細孔容積(PV)を測定し、空隙率を算出した。結果を表1に示す。
【0056】
[例3]
シリカケーキ(サンプルA)40g(乾燥質量9.2g)を水145gと混合し、攪拌することで5wt.%のシリカスラリーを得た。このスラリーをスプレードライにより乾燥して、シリカ粒子を得た。
【0057】
得られたシリカ粒子の比表面積(SA)及び細孔容積(PV)を測定し、空隙率を算出した。結果を表1に示す。
【0058】
[例4]
シリカケーキ(サンプルA)40gを120℃で減圧乾燥して、シリカ粒子を得た。
【0059】
得られたシリカ粒子の比表面積(SA)及び細孔容積(PV)を測定し、空隙率を算出した。結果を表1に示す。
【0060】
[例5~8]
シリカケーキ(サンプルA)をシリカゲル(サンプルB)に変更した点を除いて、それぞれ、例1~4と同様にしてシリカ粒子を得た。
【0061】
得られたシリカ粒子の比表面積(SA)及び細孔容積(PV)を測定し、空隙率を算出した。結果を表1に示す。
【0062】
【0063】
[結果の説明]
例1及び例5では、空隙率が83.0%以上のシリカ粒子が得られた。
例2~4及び例6~8では、乾燥収縮を抑制できず、空隙率が83.0%未満となった。
【産業上の利用可能性】
【0064】
本発明の多孔体の製造方法によって得られる多孔体は、断熱材、真空断熱材の芯材、食品添加剤、医療用診断剤、塗料用フィラー、化粧品用フィラー、樹脂フィルム用フィラー、液晶用スペーサー、クロマトグラフィー用充填剤、触媒、触媒担体、樹脂充填剤、吸着剤又は乾燥剤等の多様な用途に利用できる。
【符号の説明】
【0065】
1,2 アクリル樹脂製部材
3,4 ステンレス鋼板
3a 流路
4a 微小孔部
4b 貫通孔部
5 連続相入口部
6 エマルション出口部
7 分散相供給部