(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-25
(45)【発行日】2024-02-02
(54)【発明の名称】パーフルオロ(2-メチレン-4-メチル-1,3-ジオキソラン)含有組成物の安定化方法及び安定化されたパーフルオロ(2-メチレン-4-メチル-1,3-ジオキソラン)含有組成物
(51)【国際特許分類】
C07D 317/42 20060101AFI20240126BHJP
【FI】
C07D317/42
(21)【出願番号】P 2020561535
(86)(22)【出願日】2019-12-20
(86)【国際出願番号】 JP2019050014
(87)【国際公開番号】W WO2020130122
(87)【国際公開日】2020-06-25
【審査請求日】2022-08-05
(31)【優先権主張番号】P 2018238590
(32)【優先日】2018-12-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003300
【氏名又は名称】東ソー株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】301005614
【氏名又は名称】東ソー・ファインケム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】弁理士法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】宮内 英紀
(72)【発明者】
【氏名】西田 翔大
(72)【発明者】
【氏名】井上 大輔
(72)【発明者】
【氏名】重田 優輔
(72)【発明者】
【氏名】近藤 典久
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 真人
(72)【発明者】
【氏名】弓野 翔平
(72)【発明者】
【氏名】下野 智弥
【審査官】早乙女 智美
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/062193(WO,A1)
【文献】独国特許出願公開第102007029869(DE,A1)
【文献】米国特許第06639039(US,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07D 317/42
CAplus/REGISTRY(STN)
JSTPlus/JST7580/JSTChina(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
パーフルオロ(2-メチレン-4-メチル-1,3-ジオキソラン)含有組成物中に下記一般式(1)で表される水酸基含有含フッ素芳香族化合物及び下記一般式(2)で表される水酸基含有含フッ素芳香族化合物からなる群から選ばれる1種以上を存在させることを含む、パーフルオロ(2-メチレン-4-メチル-1,3-ジオキソラン)の安定化方法。
【化1】
(式中、R
1~R
6
のうち、1つまたは2つは水酸基を表し、他の置換基はそれぞれ独立に、フッ素原子、
CF
3
、C
2
F
5
及びC
4
F
9
からなる群から選ばれる1種を表す。)
【化2】
(式中、R
7~R
14
のうち、1つまたは2つは水酸基を表し、他の置換基はフッ素原子
を表
す。)
【請求項2】
前記水酸基含有含フッ素芳香族化合物は、パーフルオロヒドロキノンを含む、請求項1に記載のパーフルオロ(2-メチレン-4-メチル-1,3-ジオキソラン)の安定化方法。
【請求項3】
温度を0℃以下に保つことを含む、請求項1または2に記載のパーフルオロ(2-メチレン-4-メチル-1,3-ジオキソラン)の安定化方法。
【請求項4】
下記一般式(1)で表される水酸基含有含フッ素芳香族化合物及び下記一般式(2)で表される水酸基含有含フッ素芳香族化合物からなる群から選ばれる1種以上を含む、パーフルオロ(2-メチレン-4-メチル-1,3-ジオキソラン)含有組成物。
【化3】
(式中、R
1~R
6
のうち、1つまたは2つは水酸基を表し、他の置換基はそれぞれ独立に、フッ素原子、
CF
3
、C
2
F
5
及びC
4
F
9
からなる群から選ばれる1種を表し、R
1~R
6のうちの少なくとも1つは水酸基である。)
【化4】
(式中、R
7~R
14
のうち、1つまたは2つは水酸基を表し、他の置換基はフッ素原
子を表
す。)
【請求項5】
前記水酸基含有含フッ素芳香族化合物を重量比で0.1~2000ppm含有する、請求項4に記載のパーフルオロ(2-メチレン-4-メチル-1,3-ジオキソラン)含有組成物。
【請求項6】
前記水酸基含有含フッ素芳香族化合物は、パーフルオロヒドロキノンを含む、請求項4または5に記載のパーフルオロ(2-メチレン-4-メチル-1,3-ジオキソラン)含有組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パーフルオロ(2-メチレン-4-メチル-1,3-ジオキソラン)含有組成物の安定化方法及び安定化されたパーフルオロ(2-メチレン-4-メチル-1,3-ジオキソラン)含有組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
パーフルオロ(2-メチレン-4-メチル-1,3-ジオキソラン)は、開始剤の存在下でラジカル重合が可能であり、ポリ[(パーフルオロ(2-メチレン-4-メチル-1,3-ジオキソラン)]の合成原料として用いられる。ポリ[(パーフルオロ(2-メチレン-4-メチル-1,3-ジオキソラン)]は、ガス分離膜用樹脂、光ファイバー用透明樹脂等として有望である。詳しくは、ポリ[(パーフルオロ(2-メチレン-4-メチル-1,3-ジオキソラン)]は、アモルファス構造を有する透明性のポリマーであり、且つ高いガラス転移温度(133~136℃)を有することから、次世代の光ファイバー用樹脂やガス分離膜用樹脂として期待されている(非特許文献1)。
【0003】
一方、従来、含フッ素モノマーの保管中の安定化を目的として、特許文献1に記載されているテルペン系化合物や特許文献2に記載されているフェノール系化合物等の一般的な重合禁止剤の添加が検討されている。また、特許文献3には、パーフルオロ(2-メチレン-4-メチル-1,3-ジオキソラン)を含む環構造モノマー用の重合禁止剤として、t-ブチル基等を有する6員環の不飽和炭化水素が開示されている。
【0004】
特許文献1:米国特許2737533号公報
特許文献2:特公昭50-7046号公報
特許文献3:WO2018/062193号公報
【0005】
非特許文献1:Y. Okamoto, et.al., Polym.Adv.Technol. 2016, 27 33-41
【発明の概要】
【0006】
ポリ[(パーフルオロ(2-メチレン-4-メチル-1,3-ジオキソラン)]の適用が期待されている上記用途においては、用途に応じて分子量やポリマー性状を制御する必要がある。そのためには、原料モノマーであるパーフルオロ(2-メチレン-4-メチル-1,3-ジオキソラン)の保管中の重合反応や分解反応等を抑制し、モノマーの品質を保った状態で重合反応に用いることが望ましい。パーフルオロ(2-メチレン-4-メチル-1,3-ジオキソラン)の場合、保管中の重合反応の抑制に加え、特に光ファイバー等の光学用途においては着色防止等の高度な品質安定性が求められる。したがって、より優れたパーフルオロ(2-メチレン-4-メチル-1,3-ジオキソラン)の安定化方法及び安定化されたパーフルオロ(2-メチレン-4-メチル-1,3-ジオキソラン)含有組成物が望まれている。
【0007】
以上に鑑み、本発明の一態様は、安定化されたパーフルオロ(2-メチレン-4-メチル-1,3-ジオキソラン)含有組成物を提供することにあり、詳しくは、保管中に重合反応や着色等の品質変化を起こしにくいパーフルオロ(2-メチレン-4-メチル-1,3-ジオキソラン)含有組成物を提供する。
【0008】
本発明者らは、パーフルオロ(2-メチレン-4-メチル-1,3-ジオキソラン)含有組成物の安定化方法について鋭意検討した結果、パーフルオロ(2-メチレン-4-メチル-1,3-ジオキソラン)含有組成物に特定構造の水酸基含有含フッ素芳香族化合物を存在させることで、保管中に重合反応や着色等の品質変化を起こしにくくすることが可能になることを見出し、本発明を完成させるに至った。即ち、本発明は下記の要旨に係るものである。
【0009】
[1]パーフルオロ(2-メチレン-4-メチル-1,3-ジオキソラン)含有組成物中に下記一般式(1)で表される水酸基含有含フッ素芳香族化合物及び下記一般式(2)で表される水酸基含有含フッ素芳香族化合物からなる群から選ばれる1種以上を存在させることを含む、パーフルオロ(2-メチレン-4-メチル-1,3-ジオキソラン)の安定化方法(以下、単に「安定化方法」とも記載する)。
【化1】
(式中、R
1~R
6はそれぞれ独立に、フッ素原子、パーフルオロアルキル基及び水酸基からなる群から選ばれる1種を表し、R
1~R
6のうちの少なくとも1つは水酸基である。)
【化2】
(式中、R
7~R
14はそれぞれ独立に、フッ素原子、パーフルオロアルキル基及び水酸基からなる群から選ばれる1種を表し、R
7~R
14のうちの少なくとも1つは水酸基である。)
[2]上記水酸基含有含フッ素芳香族化合物は、パーフルオロヒドロキノンを含む、[1]に記載のパーフルオロ(2-メチレン-4-メチル-1,3-ジオキソラン)の安定化方法。
[3]温度を0℃以下に保つこと含む、[1]または[2]に記載のパーフルオロ(2-メチレン-4-メチル-1,3-ジオキソラン)の安定化方法。
[4]上記一般式(1)で表される水酸基含有含フッ素芳香族化合物及び上記一般式(2)で表される水酸基含有含フッ素芳香族化合物からなる群から選ばれる1種以上を含む、パーフルオロ(2-メチレン-4-メチル-1,3-ジオキソラン)含有組成物。
[5]上記水酸基含有含フッ素芳香族化合物を重量比で0.1~2000ppm含有する、[4]に記載のパーフルオロ(2-メチレン-4-メチル-1,3-ジオキソラン)含有組成物。
[6]上記水酸基含有含フッ素芳香族化合物は、パーフルオロヒドロキノンを含む、[4]または[5]に記載のパーフルオロ(2-メチレン-4-メチル-1,3-ジオキソラン)含有組成物。
【0010】
本発明の一態様により、保管中に重合反応や着色等の品質変化を起こしにくいパーフルオロ(2-メチレン-4-メチル-1,3-ジオキソラン)含有組成物を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の安定化方法では、パーフルオロ(2-メチレン-4-メチル-1,3-ジオキソラン)含有組成物に、上記一般式(1)で表される水酸基含有含フッ素芳香族化合物及び上記一般式(2)で表される水酸基含有含フッ素芳香族化合物からなる群から選ばれる1種以上を存在させる。これにより、保管中のパーフルオロ(2-メチレン-4-メチル-1,3-ジオキソラン)の重合反応の進行を抑制できるとともに、着色も抑制することができる。
【0012】
上記一般式(1)で表される水酸基含有含フッ素芳香族化合物及び上記一般式(2)で表される水酸基含有含フッ素芳香族化合物は、1種のみ用いることもでき、2種以上を任意の割合で組み合わせて用いることもできる。かかる水酸基含有含フッ素芳香族化合物は、パーフルオロ(2-メチレン-4-メチル-1,3-ジオキソラン)の安定化に寄与し得る安定化剤として機能することができる。
【0013】
一般式(1)において、R1~R6はそれぞれ独立に、フッ素原子、パーフルオロアルキル基及び水酸基からなる群から選ばれる1種を表し、R1~R6のうちの少なくとも1つは水酸基である。一般式(2)において、R7~R14はそれぞれ独立に、フッ素原子、パーフルオロアルキル基及び水酸基からなる群から選ばれる1種を表し、R7~R14のうちの少なくとも1つは水酸基である。即ち、本発明の安定化方法において用いられる水酸基含有含フッ素芳香族化合物は、分子内に1個以上の水酸基を有し、分子内に2個以上の水酸基を有していてもよい。分子内に含まれる水酸基の数は、例えば1~3個であることができ、好ましくは2個である。水酸基含有含フッ素芳香族化合物が2個の水酸基を有する場合、十分な安定化効果を示し、且つ、水酸基含有含フッ素芳香族化合物がパーフルオロ(2-メチレン-4-メチル-1,3-ジオキソラン)に溶解しにくいため、必要に応じてろ過等の簡便な操作を行うのみで重合反応に付することができる。
また、一般式(1)で表される化合物は、含フッ素化合物であるため、R1~R6がすべて水酸基であることはなく、R1~R6のうちの少なくとも1つは、フッ素原子またはパーフルオロアルキル基を表す。一般式(2)で表される化合物も、含フッ素化合物であるため、R7~R14がすべて水酸基であることはなく、R7~R14のうちの少なくとも1つは、フッ素原子またはパーフルオロアルキル基を表す。本発明の安定化方法において用いられる水酸基含有含フッ素芳香族化合物は、分子内に1個以上のフッ素原子を有することができ、分子内に2個以上のフッ素原子を有することもできる。また、本発明の安定化方法において用いられる水酸基含有含フッ素芳香族化合物は、分子内に1個以上のパーフルオロアルキル基を有することができ、分子内に2個以上のパーフルオロアルキル基を有することもできる。パーフルオロアルキル基は、CnF2n+1で表すことができる1価の基であり、ここでnは、1~6の範囲の整数であることができる。
【0014】
本発明の安定化方法において用いられる水酸基含有含フッ素芳香族化合物の具体例としては、以下の例示化合物を挙げることができるが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0015】
【0016】
上記水酸基含有含フッ素芳香族化合物の添加量は、パーフルオロ(2-メチレン-4-メチル-1,3-ジオキソラン)に対して、重量比で、0.1~2000ppmであることが好ましく、1~1000ppmであることがより好ましい。添加量を0.1ppm以上とすることにより、より一層の安定化効果を得ることができる。他方、2000ppmを超えて添加しても、安定化効果の増大は得られにくく、また、重合反応を行う際に水酸基含有含フッ素芳香族化合物の除去操作が煩雑になるおそれがある。なお、添加した水酸基含有含フッ素芳香族化合物は、パーフルオロ(2-メチレン-4-メチル-1,3-ジオキソラン)含有組成物に対して溶解していてもよく、溶解せずに沈降または相分離していても問題なく、安定化効果を発現することができる。
【0017】
本発明の安定化方法による安定化の対象であるパーフルオロ(2-メチレン-4-メチル-1,3-ジオキソラン)は、以下の式(A)で表すことができる。
【0018】
【0019】
パーフルオロ(2-メチレン-4-メチル-1,3-ジオキソラン)は、例えば、トリフルオロメチルピルビン酸フルオリドモノマーまたはそのダイマーとヘキサフルオロプロピレンオキシドを、フッ化セシウム存在下で反応させて得られたパーフルオロ(2,4-ジメチル-2-フルオロホルミル-1,3-ジオキソラン)を加水分解し、中和後、得られたアルカリ金属塩を脱炭酸させる方法等により得ることができる。かかる方法は、文献既知であり、例えば、Macromolecules 2005, 38, 4237-4245に記載されている。
【0020】
また、本発明において、「パーフルオロ(2-メチレン-4-メチル-1,3-ジオキソラン)含有組成物」とは、パーフルオロ(2-メチレン-4-メチル-1,3-ジオキソラン)の純品を少なくとも含む組成物であって、純品に加えてパーフルオロ(2-メチレン-4-メチル-1,3-ジオキソラン)を合成する過程で生じた副生物等を含む混合物であってもよい。かかる組成物に、上記水酸基含有含フッ素芳香族化合物の1種以上を添加することによって、パーフルオロ(2-メチレン-4-メチル-1,3-ジオキソラン)を安定化することができる。ここで、合成過程で生じた副生物としては、2-ヒドロ-パーフルオロ(2,4-ジメチル-1,3-ジオキソラン)(下記式(B))
【化5】
等が挙げられる。通常こうした副生物の含有量は、パーフルオロ(2-メチレン-4-メチル-1,3-ジオキソラン)に対して、重量比で10%未満である。また、本発明において、パーフルオロ(2-メチレン-4-メチル-1,3-ジオキソラン)含有組成物は、パーフルオロ(2-メチレン-4-メチル-1,3-ジオキソラン)が溶媒により希釈されていてもよい。この際の溶媒としては、特に限定されるものではないが、パーフルオロ(2-メチレン-4-メチル-1,3-ジオキソラン)を溶解し、パーフルオロ(2-メチレン-4-メチル-1,3-ジオキソラン)と反応せず、次工程の重合反応を阻害しない溶媒が好ましい。好ましい溶媒の具体例としては、パーフルオロヘキサン、C
6F
13C
2H
5、C
2F
5CHFCHFCF
3等のフッ素化鎖状アルカン、c-C
5F
7H
3等のフッ素化環状アルカン、ヘキサフルオロベンゼン、トリフルオロメチルベンゼン、パーフルオロトルエン等のフッ素化芳香族化合物、CF
3CH
2OCF
2CF
2H、C
4F
90CH
3、C
4F
90C
2H
5、C
6F
130CH
3等のフルオロアルキルエーテル、パーフルオロトリプロピルアミン、パーフルオロトリブチルアミン等のフッ素化アルキルアミン等の含フッ素溶媒を挙げることができる。溶媒の使用量は、パーフルオロ(2-メチレン-4-メチル-1,3-ジオキソラン)に対し、重量比で0.1~10倍量であることが好ましい。
【0021】
本発明において、パーフルオロ(2-メチレン-4-メチル-1,3-ジオキソラン)含有組成物を保管、運搬する際の容器材質としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリテトラフルオロエチレンの樹脂製容器、ステンレス鋼等の金属製容器、硝子製容器、樹脂と金属の複合容器等が挙げられ、耐食性等の面で樹脂製容器及び樹脂と金属の複合容器が好ましい。また、パーフルオロ(2-メチレン-4-メチル-1,3-ジオキソラン)を容器に充填後、容器内の気相部を窒素、アルゴン、二酸化炭素等の不活性ガスで満たすことが、安定性等の面で好ましい。また、保管、運搬の際の温度を0℃以下の低温条件とすることで、より安定化効果を高めることができる。保管、運搬の際の雰囲気温度を0℃以下とすることにより、パーフルオロ(2-メチレン-4-メチル-1,3-ジオキソラン)含有組成物の温度を0℃以下に保つことができる。保管、運送の際の雰囲気温度およびパーフルオロ(2-メチレン-4-メチル-1,3-ジオキソラン)含有組成物の温度は、好ましくは、-30℃以上10℃以下とすることができる。
【実施例】
【0022】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
なお、分析に当たっては下記機器を使用した。
19F-NMR:ブルカー社(BRUKER)製AVANCE II 400
GC:島津製 GC-2025
【0023】
参考例1 パーフルオロ(2,4-ジメチル-2-フルオロホルミル-1,3-ジオキソラン)の調製
耐圧が8MPaの撹拌機を備えたSUS316製10Lオートクレーブに、以下の式で示されるトリフルオロピルビン酸フルオリドダイマー(2222.4g、純分1980.3g、6.88mol)、フッ化セシウム(315.6g、2.08mol)及びジエチレングリコールジメチルエーテル(1338.8g、9.98mol)を仕込み、氷浴上で0℃に冷却した。次いでこれにヘキサフルオロプロピレンオキシド(2284.4g、13.76mol)を2時間かけて添加した後、120℃に加熱し、24時間反応を行った。
【0024】
【0025】
反応終了後、室温まで冷却、下層を分取し、粗パーフルオロ(2,4-ジメチル-2-フルオロホルミル-1,3-ジオキソラン)を得た(黄色液体、3047.4g)。ベンゾトリフルオリドを内部標準物質として用いた19F-NMRでの定量において、目的物である、以下のパーフルオロ(2,4-ジメチル-2-フルオロホルミル-1,3-ジオキソラン)は2901.0g(9.36mol)生成していた(収率68%/トリフルオロメチルピルビン酸フルオリドダイマー基準)。なお、得られた目的物は、2種類のジアステレオマーの混合物で、その比は6/4(モル比)であった。
19F-NMR(neat,376MHz)(異性体1)δ23.63,-77.76(d,J=131.6Hz),-80.13,-81.57,-83.56(d,J=135.4Hz),-124.91。(異性体2)δ23.16,-78.45(d,J=131.6Hz),-80.37,-81.56,-84.05(d,J=139.1Hz),-123.72。
【0026】
【0027】
参考例2 パーフルオロ(2,4-ジメチル-1,3-ジオキソラン-2-イル)カルボン酸カリウム塩水溶液の調製
撹拌機及び滴下ロートを備えたガラス製10Lの三口丸底フラスコに、炭酸カリウム(659.8g、4.77mol)及び水(1400mL)を仕込み、撹拌しながら溶解させた後、氷浴上で0℃に冷却した。次いで、これに参考例1で調製したパーフルオロ(2,4-ジメチル-2-フルオロホルミル-1,3-ジオキソラン)(1510.2g、純分1450.5g、4.68mol)を、0~10℃の温度範囲で発熱を制御しながら2時間かけて滴下した後、さらに同温度で1時間撹拌、1時間静置後、下層を分取し、目的物のパーフルオロ(2,4-ジメチル-1,3-ジオキソラン-2-イル)カルボン酸カリウム塩の水溶液2703gを得た(ベンゾトリフルオリドを内部標準物質として用いた19F-NMRでの定量分析による純分1602.2g、4.63mol、収率99%)。
【0028】
【0029】
参考例3 パーフルオロ(2-メチレン-4-メチル-1,3-ジオキソラン)の合成
1L三口丸底フラスコに、参考例2で得られたパーフルオロ(2,4-ジメチル-1,3-ジオキソラン-2-イル)カルボン酸カリウム塩水溶液(270g、純分160.2g、0.463mol)及びジエチレングリコールジメチルエーテル(320g)及び30重量%炭酸カリウム水溶液(120g)を仕込み、0.5時間撹拌、0.5時間静置後、二層に分離した反応生成物から分液操作により上層を分取した。次に撹拌機及び蒸留装置を備えたガラス製1Lの三口丸底フラスコに分取した上層を仕込み、油浴上で60℃で加熱し、13kPa~1kPaの圧力で徐々に減圧度を上げながら含有水分をジエチレングリコールジメチルエーテルと共沸留去し、パーフルオロ(2,4-ジメチル-1,3-ジオキソラン-2-イル)カルボン酸カリウム塩のジエチレングリコールジメチルエーテル溶液411.5gを得た(目的物含量158.8g、0.459mol、水分0.06重量%)。次に、撹拌機、滴下ロート及びコールドトラップ(-20℃及び-78℃の2段)付き蒸留装置を備えたガラス製1Lの三口丸底フラスコに、流動パラフィン(富士フイルム和光純薬製、初留点300℃、159g)を仕込み、30kPaに減圧下、撹拌しながら130℃に加熱した後、これに上記パーフルオロ(2,4-ジメチル-1,3-ジオキソラン-2-イル)カルボン酸カリウム塩のジエチレングリコールジメチルエーテル溶液(411.5g)を3時間かけて滴下し、さらに同減圧下及び同温度で1時間保持した。反応終了後、コールドトラップに回収された生成物(99.66g)をベンゾトリフルオリドを内部標準物質として19F-NMRにて分析することにより、パーフルオロ(2-メチレン-4-メチル-1,3-ジオキソラン)が92.96g(0.381mol、収率83%)生成していることが確認された。なお、2-ヒドロ-パーフルオロ(2,4-ジメチル-1,3-ジオキソラン)の生成量は3.64g(収率3.0%)であった。
コールドトラップから回収された生成物を、桐山パック10段の精留塔からなる蒸留装置及び撹拌子を備えた200mLの丸底フラスコに仕込み、常圧下、分配比10/1で精密蒸留を行い、精製パーフルオロ(2-メチレン-4-メチル-1,3-ジオキソラン)(沸点43~44℃、76.2g、純度98.2%)を得た。
19F-NMR(CDCl3,376MHz)δ-82.08(m),-83.90(dq,J=136.3Hz,7.5Hz),-90.30(dq,J=136.3Hz,5.0Hz),-126.78(d,J=124.1Hz),-128.13(dquin,J=124.1Hz,1.0Hz),-130.48(m)。
【0030】
実施例1
10mlのポリエチレン製サンプル瓶に、参考例3で得られたパーフルオロ(2-メチレン-4-メチル-1,3-ジオキソラン)2.0g(GC面積百分率=98.2%、2-ヒドロ-パーフルオロ(2,4-ジメチル-1,3-ジオキソラン)GC面積百分率=1.6%含有、ヘキサフルオロベンゼンを用いた内標法によるパーフルオロ(2-メチレン-4-メチル-1,3-ジオキソラン)定量値=98.3%)を入れ、次いでパーフルオロヒドロキノン(例示化合物1-4)0.0012g(600ppm)を加え、サンプル瓶を振り混ぜた。添加したパーフルオロヒドロキノンはほとんどが溶解せずサンプル瓶底に固体が残留した。サンプル瓶に窒素を封入した後密栓し、-18℃に設定した冷凍庫内で保管した。35日後、内容物を再度ヘキサフルオロベンゼンによる内標法により分析したところ定量値=98.1%であり含量低下は認められなかった。また、保管後の液体は無色であり着色は認められなかった。
【0031】
比較例1
パーフルオロヒドロキノンを添加しなかったこと以外は実施例1と同様の方法にて試験を行った。35日後、内容物を再度ヘキサフルオロベンゼンによる内標法により分析したところ定量値=84.3%であり含量低下が認められ、保管中に一部重合が進行したことが推測された。
【0032】
比較例2
パーフルオロヒドロキノンに代えて、2,6-ジ-t-ブチル-p-クレゾール 0.0012g(600ppm)を添加した以外は、実施例1と同様の方法にて試験を行った。35日後、内容物を再度ヘキサフルオロベンゼンによる内標法により分析したところ定量値=98.0%であり含量低下は認められなかったが、保管後の液体は淡黄色への着色が認められた。
【0033】
比較例3
パーフルオロヒドロキノンに代えて、D-リモネン 0.0012g(600ppm)を添加した以外は、実施例1と同様の方法にて試験を行った。35日後、内容物を再度ヘキサフルオロベンゼンによる内標法により分析したところ定量値=98.1%であり含量低下は認められなかったが、保管後の液体は淡黄色への着色が認められた。
【0034】
実施例2~9
パーフルオロ(2-メチレン-4-メチル-1,3-ジオキソラン)に、表1に示す化合物を安定化剤とし、かつ、表1に示す量を添加し、表1に示す条件で保存試験を行ったこと以外は実施例1と同様の方法で試験を行った。結果を表1に示す。
【0035】
【0036】
本発明の一態様により、保管中に重合反応や着色等の品質変化を起こしにくいパーフルオロ(2-メチレン-4-メチル-1,3-ジオキソラン)含有組成物の安定化方法の実施が可能となり、安定化されたパーフルオロ(2-メチレン-4-メチル-1,3-ジオキソラン)含有組成物を得ることが可能となった。得られるパーフルオロ(2-メチレン-4-メチル-1,3-ジオキソラン)含有組成物は、ガス分離膜用樹脂、光ファイバー用透明樹脂として有望なポリ[(パーフルオロ(2-メチレン-4-メチル-1,3-ジオキソラン)]の合成原料として用いることができる。
【0037】
本出願は、2018年12月20日出願の日本特願2018-238590号の優先権を主張し、それらの全記載は、ここに特に開示として援用される。