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特許7426996ブロックコポリマーを含んでなるアモルファスシリコン形成組成物、およびそれを用いたアモルファスシリコン膜の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-25
(45)【発行日】2024-02-02
(54)【発明の名称】ブロックコポリマーを含んでなるアモルファスシリコン形成組成物、およびそれを用いたアモルファスシリコン膜の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08L 83/16 20060101AFI20240126BHJP
   C08G 77/60 20060101ALI20240126BHJP
   C09D 183/16 20060101ALI20240126BHJP
   H01L 21/308 20060101ALI20240126BHJP
【FI】
C08L83/16
C08G77/60
C09D183/16
H01L21/308 D
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2021523698
(86)(22)【出願日】2019-11-26
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-04-21
(86)【国際出願番号】 EP2019082577
(87)【国際公開番号】W WO2020109298
(87)【国際公開日】2020-06-04
【審査請求日】2022-05-24
(31)【優先権主張番号】P 2018223636
(32)【優先日】2018-11-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】591032596
【氏名又は名称】メルク パテント ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング
【氏名又は名称原語表記】Merck Patent Gesellschaft mit beschraenkter Haftung
【住所又は居所原語表記】Frankfurter Str. 250,D-64293 Darmstadt,Federal Republic of Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100091487
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 行孝
(74)【代理人】
【識別番号】100120031
【弁理士】
【氏名又は名称】宮嶋 学
(74)【代理人】
【識別番号】100187159
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 英明
(74)【代理人】
【識別番号】100206265
【弁理士】
【氏名又は名称】遠藤 逸子
(72)【発明者】
【氏名】中本 奈緒子
(72)【発明者】
【氏名】藤原 嵩士
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 敦彦
【審査官】松元 洋
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-305974(JP,A)
【文献】特開平05-086200(JP,A)
【文献】特開2003-055556(JP,A)
【文献】特表2018-511905(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 77/00 - 77/62
C08L 1/00 - 101/14
Japio-GPG/FX
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)ケイ素を5以上含んでなるポリシラン骨格を有する、直鎖および/または環状の、ブロックAと、ケイ素を20以上含んでなるポリシラザン骨格を有するブロックBとを含んでなり、ブロックAの少なくとも1つのケイ素とブロックBの少なくとも一つのケイ素とを単結合および/またはケイ素を含んでなる架橋基によって連結されている、ブロックコポリマー、および
(b)溶媒
を含んでなる、アモルファスシリコン形成組成物。
【請求項2】
前記ブロックAが、以下の式(I-1)~(I-3):
【化1】
(式中、RIa、RIbおよびRIcは、それぞれ独立に、水素、ハロゲン、C1~6のアルキルまたはC6~10のアリールである)
からなる群から選択される繰り返し単位を5つ以上含んでなり、
前記ブロックBが、以下の式(II-1)~(II-6):
【化2】
(式中、RIIa~RIIiは、それぞれ独立に、水素、またはC1~4のアルキルである)
からなる群から選択される繰り返し単位を20以上含んでなる、
請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記ブロックコポリマーの質量平均分子量が1,100~25,000である、請求項1または2に記載の組成物。
【請求項4】
前記ブロックコポリマーの分子中に含まれる、Si原子数に対するN原子数の比率が、0.9~95%である、請求項1~3のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項5】
前記ブロックコポリマーの分子中に含まれる、式(II-1)~(II-6)の繰り返し単位の総数に対する、式(I-1)~(I-3)の繰り返し単位の総数の比率が、0.3~114である、請求項2に記載の組成物。
【請求項6】
前記ブロックA中の、RIa、RIbおよびRIcが全て水素である、請求項2または5に記載の組成物。
【請求項7】
前記ブロックB中の、RIIa~RIIiの全てが水素である、請求項2、5または6に記載の組成物。
【請求項8】
前記ブロックポリマーが、前記ブロックBを含んでなる主鎖と、前記ブロックAを含んでなる側鎖とで構成される、請求項1~7のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項9】
ブロックAの少なくとも1つが以下の式(I-4):
【化3】
(式中、
IdおよびRIeは、それぞれ独立に、水素、ハロゲン、C1~6のアルキル、C6~10のアリールまたは単結合であり、ただし、RIdおよびRIeうちの少なくとも1つが単結合であり、
pは5以上の整数である)
で示される、請求項1~8のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項10】
前記ブロックポリマーにおいて、ブロックAと別のブロックAとの間、ブロックBと別のブロックBとの間、またはブロックAとブロックBとの間が、ケイ素を含んでなる架橋基によって連結されている、請求項1~9のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項11】
前記溶媒の比誘電率が3.0以下である、請求項1~10のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項12】
請求項1~11のいずれか一項に記載の組成物を基材に塗布して、塗膜を形成させること、および
前記塗膜を非酸化雰囲気中で加熱すること
を含んでなる、アモルファスシリコン膜の製造方法。
【請求項13】
塗膜を形成後、波長248~436nmの光を照射する、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
加熱が、200~1,000℃で行われる、請求項12または13に記載の方法。
【請求項15】
請求項12~14のいずれか一項に記載の方法を含んでなる、電子素子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリシラン骨格を有するブロックと、ポリシラザン骨格を有するブロックとを含んでなるブロックコポリマーを含んでなるアモルファスシリコン形成組成物、およびそれを用いたアモルファスシリコン膜の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
電子デバイス、とりわけ半導体デバイスは、半導体膜、絶縁膜、導電膜などの薄膜で構成されている。シリコン膜は半導体膜として、絶縁膜加工時のエッチングマスクとして、メタルゲートなどの製造時の犠牲膜として用いられる。
【0003】
アモルファスシリコン膜やポリクリスタラインシリコン膜の形成方法としては化学気相成長法(CVD法)、蒸着法、スパッタ法などが用いられている。先端のノードでは、CVDなどの気相法プロセスを用いると、狭いトレンチに対して、過度の成長をさせてしまい、エッチングとCVDを繰り返し行う必要がある。そこで、液体組成物を塗布して焼成することによって成膜するスピンオンプロセスを用いて、10~20nmより狭いトレンチに対して、埋め込むことができるように成膜することが求められている。
また、従来よりもさらに厚膜化ができることもが求められている。
【0004】
また、水素化ポリシランを含む組成物を用いて、スピンオンプロセスで、膜を形成する際、基板との親和性が低く、これを用いて膜形成ができるケースは非常に限定されていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】米国特許8455604号明細書
【文献】米国特許7118943号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上述のような背景技術に基づいてなされたものであり、基板との親和性が高く、埋め込み性に優れ、厚膜化も可能となる、アモルファスシリコン形成組成物を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明によるアモルファスシリコン形成組成物は、
(a)ケイ素を5以上含んでなるポリシラン骨格を有する、直鎖および/または環状の、ブロックAと、ケイ素を20以上含んでなるポリシラザン骨格を有するブロックBとを含んでなり、ブロックAの少なくとも1つのケイ素とブロックBの少なくとも1つのケイ素とを単結合および/またはケイ素を含んでなる架橋基によって連結されている、ブロックコポリマー、および
(b)溶媒
を含んでなるものである。
【0008】
また、本発明によるアモルファスシリコン膜の製造方法は、
前記したアモルファスシリコン形成組成物を基材に塗布して塗膜を形成させること、および
前記塗膜を加熱すること
を含んでなるものである。
【0009】
また、本発明による電子素子の製造方法は、上記したアモルファスシリコン膜の製造方法を含んでなるものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明によると、基板との親和性が高く、埋め込み性に優れ、厚膜化も可能となる、アモルファスシリコン形成組成物を提供することができる。またこの組成物を用いて形成されたアモルファスシリコン膜は、フッ化水素酸に対する耐性を有し、アルカリ水溶液で、除去できることができる。さらに、この膜は、耐熱性も有している。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態について、詳細に説明する。以下、本明細書において、特に限定されない限り、記号、単位、略号、用語は以下の意味を有するものとする。
【0012】
本明細書において、~を用いて数値範囲を示した場合、これらは両方の端点を含み、単位は共通する。例えば、5~25モル%は、5モル%以上25モル%以下を意味する。
【0013】
本明細書において、炭化水素は、炭素および水素を含み、必要に応じて、酸素または窒素を含むものを意味する。炭化水素基は、1価または2価以上の、炭化水素を意味する。 本明細書において、脂肪族炭化水素は、直鎖状、分岐鎖状または環状の脂肪族炭化水素を意味し、脂肪族炭化水素基は、1価または2価以上の、脂肪族炭化水素を意味する。芳香族炭化水素は、必要に応じて脂肪族炭化水素基を置換基として有することも、脂環と縮合していていることもできる、芳香環を含む炭化水素を意味する。芳香族炭化水素基は、1価または2価以上の、芳香族炭化水素を意味する。これらの脂肪族炭化水素基、および芳香族炭化水素基は必要に応じて、フッ素、オキシ、ヒドロキシ、アミノ、カルボニル、またはシリル等を含む。また、芳香環とは、共役不飽和環構造を有する炭化水素を意味し、脂環とは、環構造を有するが共役不飽和環構造を含まない炭化水素を意味する。
【0014】
本明細書において、アルキルとは直鎖状または分岐鎖状飽和炭化水素から任意の水素をひとつ除去した基を意味し、直鎖状アルキルおよび分岐鎖状アルキルを包含し、シクロアルキルとは環状構造を含む飽和炭化水素から水素をひとつ除外した基を意味し、必要に応じて環状構造に直鎖状または分岐鎖状アルキルを側鎖として含む。
【0015】
本明細書においてアリールとは、芳香族炭化水素から任意の水素をひとつ除去した基を意味する。アルキレンとは、直鎖状または分岐鎖状飽和炭化水素から任意の水素を二つ除去した基を意味する。アリーレンとは、芳香族炭化水素から任意の水素を二つ除去した炭化水素基を意味する。
【0016】
本明細書において、「Cx~y」、「C~C」および「C」などの記載は、分子または置換基中の炭素の数を意味する。例えば、C1~6アルキルは、1以上6以下の炭素を有するアルキル(メチル、エチル、プロピル、ブチル、ペンチル、ヘキシル等)を意味する。また、本明細書でいうフルオロアルキルとは、アルキル中の1つ以上の水素がフッ素に置き換えられたものをいい、フルオロアリールとは、アリール中の1つ以上の水素がフッ素に置き換えられたものをいう。
【0017】
本明細書において、ポリマーが複数種類の繰り返し単位を有する場合、これらの繰り返し単位は共重合する。これら共重合は、交互共重合、ランダム共重合、ブロック共重合、グラフト共重合、またはこれらの混在のいずれであってもよい。
本明細書において、%は質量%、比は質量比を表す。
【0018】
本明細書において、温度の単位は摂氏(Celsius)を使用する。例えば、20度とは摂氏20度を意味する。
【0019】
<アモルファスシリコン形成組成物>
本発明によるアモルファスシリコン形成組成物(以下、組成物ということがある)は、(a)ケイ素を5以上含んでなるポリシラン骨格を有する、直鎖および/または環状の、ブロックAと、ケイ素を20以上含んでなるポリシラザン骨格を有するブロックBとを含んでなり、ブロックAの少なくとも1つのケイ素とブロックBの少なくとも1つのケイ素とを単結合および/またはケイ素を含んでなる架橋基によって連結されている、ブロックコポリマー(以下、ブロックコポリマーということがある)、および(b)溶媒を含んでなるものである。
【0020】
(a)ブロックコポリマー
本発明に用いられるブロックコポリマーは、
ケイ素を5以上含んでなるポリシラン骨格を有する、直鎖および/または環状の、ブロックAと、
ケイ素を20以上含んでなるポリシラザン骨格を有するブロックBと
を含んでなり、ブロックAの少なくとも1つのケイ素とブロックBの少なくとも1つのケイ素とを単結合および/またはケイ素を含んでなる架橋基によって連結されている。
【0021】
ここで、本発明において、ブロックコポリマーとは、少なくとも1つの上記ブロックAと、少なくとも1つの上記ブロックBとを含んでなるポリマーのことをいう。複数のブロックAまたはブロックBが存在する場合に、それぞれ、異なる構造であってよい。ブロックAとブロックBとは、ランダムに並んでいてもよいし、交互に並んでいてもよい。また、グラフトポリマーのように、例えば、幹となるブロックBに対し、ところどころに、枝のように、1または複数のブロックAが連結されていてもよい。つまり、ブロックBを含んでなる主鎖に、複数のブロックAが側鎖として結合されていてもよい。
また、ブロック間は、直接結合されていてもよいし、例えばケイ素化合物を介して、結合されていてもよい。
さらに、1分子中において、ブロックAとブロックB、ブロックAと別のブロックA、ブロックBと別のブロックBが、架橋により結合されていてもよい。
【0022】
本発明において、ポリシラン骨格とは、Si-Si結合のみからなる主鎖を有する骨格をいう。
本発明において、ポリシラザン骨格とは、Si-N結合の繰り返し単位からなる主鎖を有する骨格をいう。
【0023】
好ましくは、ブロックAは、以下の式(I-1)~(I-3):
【化1】
(式中、RIa、RIbおよびRIcは、それぞれ独立に、水素、ハロゲン、C1~6のアルキルまたはC6~10のアリールである)
からなる群から選択される繰り返し単位を5つ以上含んでなるものであり、
前記ブロックBは、以下の式(II-1)~(II-6):
【化2】
(式中、RIIa~RIIiは、それぞれ独立に、水素、またはC1~4のアルキルである)
からなる群から選択される繰り返し単位を20以上含んでなるものである。
【0024】
ブロックA中の、RIa、RIbおよびRIcとしては、例えば、水素、メチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、イソブチル、フェニル、トリル、キシリルが挙げられる。好ましくは、RIa、RIbおよびRIcの全て水素である。
繰り返し単位の(I-1)(I-2)(I-3)の組み合わせは特に制限されないが、(I-2)または(I-3)が少なくとも1つ含まれていることが好ましい。
1分子中の、ブロックAの数は、好ましくは1~95であり、より好ましくは3~90である。
【0025】
ブロックAが直鎖状である場合に、1つのブロックAを構成する式(I-1)~(I-3)の繰り返し単位の総数は、5~20であることが好ましく、より好ましくは5~15である。このとき各繰り返し単位が直接結合してSi-Si結合を形成していることが好ましい。
【0026】
ブロックAの少なくとも1つが以下の式(I-4):
【化3】
(式中、RIdおよびRIeは、それぞれ独立に、水素、ハロゲン、C1~6のアルキル、C6~10のアリールまたは単結合であり、ただし、RIdおよびRIeうちの少なくとも1つが単結合であり、
pは5以上の整数である)
で示されるものであることが好ましい。
好ましくは、pは、5または6である。
好ましくは、上記単結合は、別のブロックAまたはブロックBのケイ素に直接結合している。
好ましくは、RIdおよびRIeのうち、1つが単結合であり、その他が全て水素である。
【0027】
ブロックB中の、RIIa~RIIiとしては、例えば、水素、メチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、イソブチルが挙げられる。好ましくは、RIIa~RIIiの全てが水素である。
繰り返し単位の(II-1)~(II-6)の組み合わせは特に制限されないが、(II-3)~(II-6)が少なくとも1つ含まれていることが好ましい。
1つのブロックB中の繰り返し単位の数は、20以上であるが、好ましくは20~330であり、より好ましくは20~130である。このとき、各繰り返し単位が(II-1)~(II-6)以外の繰り返し単位を介さず、直接結合していることが好ましい。
1分子中の、ブロックBの数は、好ましくは1~24であり、より好ましくは1~6である。
【0028】
本発明に用いられるブロックコポリマーは、ブロックAどうし、ブロックBどうし、またはブロックAとBとの間を架橋する、ケイ素を含んでなる架橋基をさらに含むことが好ましい。
ケイ素を含んでなる架橋基としては、例えば、-Si-(式中、Rは、それぞれ独立に水素、ハロゲン、アルキルまたはアルコキシであり、好ましくは水素またはClである)が挙げられる。
【0029】
ブロックAとブロックBの組み合わせは、特に限定されないが、式(II-1)~(II-6)の繰り返し単位の総数に対する、式(I-1)~(I-3)の繰り返し単位の総数の比率(本発明において、簡単に「繰り返し単位比率」ということがある)は、好ましくは8~100%であり、より好ましくは15~95%である。
繰り返し単位比率の測定方法は、例えば、インバースゲートデカップリング法に基づく定量的29Si-NMR(本発明において、簡単に「29Si-NMR」ということがある)により得られるスペクトルにおいて、-25ppm~-55ppmに検出されるピークの面積に対する、-95ppm~-115ppmに検出されるピークの面積に対する比率により測定することができる。
本発明においては29Si-NMRの測定は具体的に以下のようにして行うことができる。
まず、合成して得られた本発明によるブロックコポリマーをエバポレーターで溶媒を除去し、得られたブロックコポリマー0.4gを重溶媒、たとえば重クロロホルム(関東化学株式会社製)1.6gに溶解させ試料溶液を得る。試料溶液をJNM-ECS400型核磁気共鳴装置(商品名、日本電子株式会社製)を用いて、1,000回測定しての29Si-NMRスペクトルを得る。NMRスペクトルには、ポリシラザン骨格に含まれるSiに帰属されるピーク(δ=-25~-55ppm付近)、ポリシラン骨格に含まれるSiに帰属されるピーク(δ=-95~-115ppm付近)が認められる。
【0030】
また、分子中に含まれる、Si原子数に対するN原子数の比率(本発明において、簡単に「N/Si比率」ということがある)は、好ましくは0.9~95%であり、より好ましくは2~60%である。
ポリマー分子中に含まれる、N/Si比率は、例えば、ポリマーを用いて形成させた皮膜をラザフォード後方散乱分光法によって元素分析を行い、得られた元素比から算出することができる。具体的には、以下のようにして測定することができる。本発明によるブロックコポリマー溶液と溶媒を含んでなるブロックコポリマー溶液を窒素雰囲気下でスピンコーター(ミカサ株式会社製スピンコーター1HDX2(商品名))を用いて、4インチウェハに回転数1,000rpmでスピン塗布する。得られた塗布膜を窒素雰囲気下、240℃で10分間ベークする。ベークされた膜をPelletron 3SDH(商品名、National Electrostatics Corporation製)を用いて、ラザフォード後方散乱分光法にて元素分析を行うことで原子数比率を測定する。
【0031】
本発明によるブロックコポリマーの質量平均分子量は、ブロックコポリマーの溶媒への溶解性、ブロックコポリマー膜の平坦性および基板への密着性の理由から、1,100~25,000であることが好ましく、より好ましくは2,000~20,000であり、特に好ましくは2,500~10,000である。ここで質量平均分子量とは、ポリスチレン換算質量平均分子量であり、ポリスチレンの基準としてゲル浸透クロマトグラフィーにより測定することができる。
【0032】
本発明に用いられるブロックコポリマーの製造方法は、特に限定されないが、例えば、(A)ケイ素を5以上含んでなる環状ポリシランに光照射する工程、
(B)光照射されたケイ素を5以上含んでなる環状ポリシランと、ケイ素を20以上含んでなるポリシラザンとを含んでなる混合物を調製する工程、
(C)前記混合物に光照射する工程、
を含んでなる方法で、製造される。
以下、製造方法の一例を、工程ごとに説明する。
【0033】
(A)ケイ素を5以上含んでなる環状ポリシランに光照射する工程
本発明による製造方法に用いられるケイ素を5以上含んでなる環状ポリシラン(以下、単に環状ポリシランということがある)は、本発明の効果を損なわない限り任意に選択することができる。これらは無機化合物あるいは有機化合物のいずれでもあってもよく、また直鎖状、分岐鎖状、または一部に環状構造を有するものであってもよい。
【0034】
好ましくは、環状ポリシランは、以下の式(I-5):
【化4】
(式中、RIfおよびRIgは、それぞれ独立に、水素、ハロゲン、C1~6のアルキルまたはC6~10のアリールであり、qは5以上の整数である)
で示される。
好ましくは、qは、5~8であり、より好ましくは5または6である。
好ましい環状ポリシランの例としては、シリルシクロペンタシラン、シリルシクロヘキサシラン、ジシリルシクロヘキサシラン、シクロペンタシランおよびシクロヘキサシランが挙げられ、好ましくは、シクロペンタシランまたはシクロヘキサシランである。
【0035】
工程(A)の露光波長は、少なくとも172~405nmの波長を含んでなることが好ましく、より好ましくは、282~405nmである。照射強度は、好ましくは10~250mW/cmであり、より好ましくは50~150mW/cmであり、照射時間は、好ましくは30~300秒間であり、より好ましくは50~200秒間である。
シクロペンタシランまたはシクロヘキサシランは、室温で液体であるので、その液体状態の環状ポリシランに撹拌しながら光照射することができる。なお、シクロシランが固体である場合には適当な溶媒に溶解させて、撹拌しながら光照射することができる。
この工程の光照射によって、環状ポリシランの一部または全てが開環すると考えられる。
【0036】
(B)光照射されたケイ素を5以上含んでなる環状ポリシランと、ケイ素を20以上含んでなるポリシラザンとを含んでなる混合物を調製する工程
この工程では、(A)工程で光照射された環状ポリシランと、ケイ素を20以上含んでなるポリシラザン(以下、単にポリシラザンということがある)を含んでなる混合物を調製するが、このとき、さらにケイ素を含んでなる架橋剤を含むことが好ましい。
【0037】
本発明による製造方法に用いられるポリシラザンは、本発明の効果を損なわない限り任意に選択することができる。これらは無機化合物あるいは有機化合物のいずれでもあってもよく、また直鎖状、分岐鎖状、または一部に環状構造を有するものであってもよい。
本発明による製造方法に用いられるポリシラザンは、好ましくは、以下の式(II-1)~(II-6):
【化5】
(式中、RIIa~RIIiは、それぞれ独立に、水素、またはC1~4のアルキルである)
からなる群から選択される繰り返し単位を20以上含んでなる。
【0038】
さらに好ましくは、本発明による製造方法用いられるポリシラザンは、ペルヒドロポリシラザン(以下、PHPSという)である。PHPSは、Si-N結合を繰り返し単位として含み、かつSi、N、およびHのみからなるケイ素含有ポリマーである。このPHPSは、Si-N結合を除き、SiおよびNに結合する元素がすべてHであり、その他の元素、たとえば炭素や酸素を実質的に含まないものである。ペルヒドロポリシラザンの最も単純な構造は、下記の繰り返し単位を有する鎖状構造である。
【0039】
【化6】
【0040】
本発明では、分子内に鎖状構造と環状構造を有するPHPSを使用してもよく、例えば、分子内に下記一般式(IIa)~(IIf)で表される繰り返し単位と下記一般式(IIg)で表される末端基とから構成されるPHPSが挙げられる。
【0041】
【化7】
【0042】
このようなPHPSは、分子内に分岐構造や環状構造を有するものであり、そのようなPHPSの具体的な部分構造の例は下記一般式に示されるものである。
【0043】
【化8】
【0044】
また、下記式に示される構造、すなわち複数のSi-N分子鎖が架橋された構造を有していてもよい。
【化9】
【0045】
本発明によるPHPSは、Si-N結合を繰り返し単位として含み、かつSi、N、およびHのみからなるケイ素含有ポリマーであれば、その構造は限定されず、上記に例示したほかの種々の構造を取りえる。たとえば、前記したような直鎖構造、環状構造、架橋構造を組み合わせた構造を有するものであってもよい。なお、本発明におけるPHPSは、環状構造または架橋構造、特に架橋構造を有するものが好ましい。
【0046】
本発明による製造方法に用いられるポリシラザンの質量平均分子量は、溶媒への溶解性および反応性の観点から、900~15,000であることが好ましく、より好ましくは900~10,000である。ここで質量平均分子量とは、ポリスチレン換算重量平均分子量であり、ポリスチレンの基準としてゲル浸透クロマトグラフィーにより測定することができる。
【0047】
本発明の製造方法に用いられる架橋剤は、ケイ素を含んでなる。この架橋剤は、2官能以上であることが好ましい。このような架橋剤としては、例えば、ハロゲン化シラン化合物、アルコキシシラン化合物が挙げられ、具体的には、ヘキサクロロジシラン、1,1,2,2-テトラクロロ-1,2-ジメチルジシラン、1,2-ジクロロジシラン、1,1-ジクロロジシラン、1,2-ジクロロテトラメチルジシラン、オクタクロロトリシラン、1,1,1,3,3,3-ヘキサクロロ-2,2-ジメチルトリシラン、ジクロロシラン、メチルジクロロシラン、ジクロロジメチルシラン、トリクロロシラン、メチルトリクロロシラン、ヘキサクロロジシラザン、テトラクロロジシラザン、ヘキサクロロジシロキサン、1,1,3,3-テトラクロロ-1,3-ジメチルジシロキサン、1,3-ジクロロ-1,1,3,3-テトラメチルジシロキサン、1,3-ジクロロジシロキサン、ビストリクロロシリルアセチレン、1,2-ビストリクロロシリルエテン、1,2-ビスジクロロメチルシリルエテン、トリメトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、メチルジメトキシシラン、ジメトキシジメチルシラン、トリエトキシシラン、ジエトキシシラン、メチルジエトキシシラン、ジエトキシジメチルシラン等が挙げられる。
この架橋剤は、ポリシランとポリシラザン、ポリシランどうし、またはポリシラザンどうしを架橋する。このように架橋されたブロックコポリマーは、ブロックAとブロックBの相分離を抑制するため、硬化膜にした場合に、均一な膜を形成しやすくなると考えられる。
【0048】
本発明の製造方法に用いられる架橋剤の分子量は、100~350であることが好ましく、より好ましくは125~270である。
【0049】
(C)前記混合物に光照射する工程
この工程の光照射によって、ブロックAとブロックBの縮重合の反応が起こると考えられる。
このときの露光波長は、少なくとも172~405nmの波長を含んでなることが好ましく、より好ましくは、282~405nmである。照射強度は、好ましくは10~250mW/cmであり、より好ましくは50~150mW/cmであり、照射時間は、好ましくは5~100分間であり、より好ましくは5~60分間である。照射エネルギーは、好ましくは3~1,500Jであり、より好ましくは25~500Jである。
上記(A)~(C)工程は、不活性ガス雰囲気下で行われることが好ましい。
【0050】
(C)工程後、シクロオクタン等の溶媒を加え、フィルターを用いて、濾過することで、副生成物を除去し、本発明に用いられるブロックコポリマーを得ることができる。この生成物は、2種類のブロックを有する本発明のブロックコポリマーである。
【0051】
(b)溶媒
本発明による組成物は、溶媒を含んでなる。この溶媒は、組成物に含まれる各成分を均一に溶解または分散させるものから選択される。具体的には溶媒としては、例えばエチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノプロピルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテルなどのエチレングリコールモノアルキルエーテル類、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールジプロピルエーテル、ジエチレングリコールジブチルエーテルなどのジエチレングリコールジアルキルエーテル類、メチルセロソルブアセテート、エチルセロソルブアセテートなどのエチレングリコールアルキルエーテルアセテート類、プロピレングリコールモノメチルエーテル(PGME)、プロピレングリコールモノエチルエーテル等のプロピレングリコールモノアルキルエーテル類、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(PGMEA)、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノプロピルエーテルアセテートなどのプロピレングリコールアルキルエーテルアセテート類、ベンゼン、トルエン、キシレン、メシチレンなどの芳香族炭化水素類、メチルエチルケトン、アセトン、メチルアミルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノンなどのケトン類、イソプロパノール、プロパンジオールなどのアルコール類、シクロオクタン、デカリンなどの脂環式炭化水素類などが挙げられる。好ましくは、シクロオクタン、トルエン、デカリン、メシチレンである。
これらの溶媒は、それぞれ単独で、または2種以上を組み合わせて用いられる。
【0052】
溶媒の比誘電率は、ポリマーを均質に溶解させるため、溶剤ハンドブック第1版 講談社サイエンティフィクに記載の値で3.0以下であることが好ましく、より好ましくは2.5以下である。
【0053】
溶媒の配合比は、塗布方法や塗布後の膜厚の要求によって異なるが、溶媒以外の化合物の比率(固形分比)が、1~96質量%、好ましくは以上、好ましくは2~60質量%である。
【0054】
本発明に用いられる組成物は、前記した(a)および(b)を必須とするものであるが、必要に応じて更なる化合物を組み合わせることができる。これらの組み合わせることができる材料について説明すると以下の通りである。なお、組成物全体にしめる(a)および(b)以外の成分は、全体の質量に対して、10%以下が好ましく、より好ましくは5%以下である。
【0055】
(c)任意成分
また、本発明による組成物は必要に応じて任意成分を含んでいてもよい。そのような任意成分としては、例えば、界面活性剤などが挙げられる。
【0056】
界面活性剤は塗布性を改善することができるため、用いることが好ましい。本発明におけるシロキサン組成物に使用することのできる界面活性剤としては、例えば非イオン系界面活性剤、アニオン系界面活性剤、両性界面活性剤などが挙げられる。
【0057】
上記非イオン系界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンオレイルエーテル、ポリオキシエチレンセチルエーテルなどのポリオキシエチレンアルキルエーテル類やポリオキシエチレン脂肪酸ジエステル、ポリオキシエチレン脂肪酸モノエステル、ポリオキシエチレンポリオキシピロピレンブロックポリマー、アセチレンアルコール、アセチレングリコール、アセチレンアルコールのポリエトキシレートなどのアセチレンアルコール誘導体、アセチレングリコールのポリエトキシレートなどのアセチレングリコール誘導体、フッ素含有界面活性剤、例えばフロラード(商品名、スリーエム株式会社製)、メガファック(商品名、DIC株式会社製)、スルフロン(商品名、旭硝子株式会社製)、又は有機シロキサン界面活性剤、例えばKP341(商品名、信越化学工業株式会社製)などが挙げられる。前記アセチレングリコールとしては、3-メチル-1-ブチン-3-オール、3-メチル-1-ペンチン-3-オール、3,6-ジメチル-4-オクチン-3,6-ジオール、2,4,7,9-テトラメチル-5-デシン-4,7-ジオール、3,5-ジメチル-1-ヘキシン-3-オール、2,5-ジメチル-3-ヘキシン-2,5-ジオール、2,5-ジメチル-2,5-ヘキサンジオールなどが挙げられる。
【0058】
またアニオン系界面活性剤としては、アルキルジフェニルエーテルジスルホン酸のアンモニウム塩又は有機アミン塩、アルキルジフェニルエーテルスルホン酸のアンモニウム塩又は有機アミン塩、アルキルベンゼンスルホン酸のアンモニウム塩又は有機アミン塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸のアンモニウム塩又は有機アミン塩、アルキル硫酸のアンモニウム塩又は有機アミン塩などが挙げられる。
【0059】
さらに両性界面活性剤としては、2-アルキル-N-カルボキシメチル-N-ヒドロキシエチルイミダゾリウムベタイン、ラウリル酸アミドプロピルヒドロキシスルホンベタインなどが挙げられる。
【0060】
これら界面活性剤は、単独で又は2種以上混合して使用することができ、その配合比は、組成物の総質量に対し、通常50~10,000ppm、好ましくは100~5,000ppmである。
【0061】
<アモルファスシリコン膜の製造方法>
本発明によるアモルファスシリコン膜の製造方法は、上記アモルファスシリコン形成組成物を基材に塗布して、塗膜を形成させ、そして、この塗膜を加熱することを含んでなるものである。
【0062】
基材表面に対する組成物の塗布方法としては、従来公知の方法、例えば、スピンコート法、ディップ法、スプレー法、転写法、ロールコート、バーコート、刷毛塗り、ドクターコート、フローコート、およびスリット塗布等から任意に選択することができる。また組成物を塗布する基材としては、シリコン基板、ガラス基板、樹脂フィルム等の適当な基材を用いることができる。これらの基材には、必要に応じて各種の半導体素子などが形成されていてもよい。基材がフィルムである場合には、グラビア塗布も利用可能である。所望により塗膜後に乾燥工程を別に設けることもできる。また、必要に応じて塗布工程を1回または2回以上繰り返して、形成される塗膜の膜厚を所望のものとすることもできる。
【0063】
本発明による組成物の塗膜を形成した後、その塗膜の乾燥、および溶媒残存量を減少させるため、その塗膜をプリベーク(加熱処理)することが好ましい。プリベーク工程は、非酸化雰囲気中で、好ましくは80~200℃の温度で、ホットプレートによる場合には10~300秒間、クリーンオーブンによる場合には1~30分間実施することができる。本発明において、非酸化雰囲気とは、酸素濃度1ppm以下、かつ露点-76℃以下である雰囲気のことをいう。好ましくは、N、Ar、He、Ne、H、またはこれらの2種類以上の混合ガス雰囲気である。
【0064】
その後、加熱し、塗膜を硬化させて、アモルファスシリコン膜を形成させる。この加熱工程における加熱温度としては、適切な結晶性を有する塗膜を得ることができる温度であれば特に限定されず、任意に定めることができる。ただし、硬化膜の薬品耐性が不十分となったり、硬化膜の誘電率が高くなることがある。このような観点から加熱温度は一般的には相対的に高い温度が選択される。硬化反応を促進し、十分な硬化膜を得るために、硬化温度は200℃以上であることが好ましく、より好ましくは300℃以上である。一般的に、アモルファスシリコンの結晶化が進行するため、硬化温度は、1,000℃以下であることが好ましい。また、加熱時間は特に限定されず、一般に10分~24時間、好ましくは0.001秒~24時間とされる。加熱は、フラッシュアニールを適用してもよい。なお、この加熱時間は、塗膜の温度が所望の加熱温度に達してからの時間である。通常、加熱前の温度からパターン膜が所望の温度に達するまでには数秒から数時間程度要する。また、硬化の際の雰囲気は、非酸化雰囲気であることが好ましい。
【0065】
本発明による組成物を用いて塗膜を形成した後、前記硬化工程の前に、塗膜への光照射を行うことができる。塗膜への光照射により硬化工程での膜厚減少を抑えることができる。光照射は、好ましくは波長248~436nm、より好ましくは282~405nmの光を照射するものである。照射強度は、好ましくは10~700mW/cmであり、より好ましくは40~500mW/cmであり、照射時間は、好ましくは30~3,000秒間であり、より好ましくは50~2,500秒間である。
【0066】
形成された硬化膜の膜厚は、特に限定されないが、50nm~1μmであることが好ましく、より好ましくは、100~800nmである。
【0067】
形成された硬化膜の結晶性は、X線回折(XRD)により評価することができる。ここで硬化後に結晶Siの回折ピークが観測されなかった場合にその硬化膜がアモルファスシリコンからなるものであると確認される。
【0068】
このアモルファスシリコン膜は、アルカリ水溶液に対して、容易に溶解するものであり、それゆえ、犠牲膜として用いることが好ましい。アルカリ水溶液は、形成された硬化膜により、適切なものが選択される。アルカリ水溶液としては、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム水溶液、アンモニア水、水酸化テトラメチルアンモニウム(TMAH)水溶液などが挙げられる。例えば、室温(20~30℃)での10質量%の水酸化カリウム水溶液に対するエッチング速度が0.1~1,000Å/分であることが好ましく、より好ましくは10~1,000Å/分である。
一方、このアモルファスシリコン膜は、フッ化水素酸水溶液等に対して、耐性を有するものである。具体的には、室温での0.5質量%フッ化水素酸水溶液に対するエッチング速度が0~200Å/分であることが好ましく、より好ましくは0~50Å/分である。
なお、アモルファスシリコン膜の製造条件を調整することで、アルカリ水溶液に対する耐性を調整することもできる。アモルファスシリコン膜を形成する際の加熱温度を高くする、または加熱時間を長くすることにより、アルカリ水溶液に対する耐性を高くすることができる。
【0069】
また、本発明による電子素子の製造方法は、上記の製造方法を含んでなるものである。
【0070】
以降において本発明を実施例により説明する。これらの実施例は説明のためのものであり、本願発明の範囲を制限することを意図しない。
なお、以下において、「部」は、特に断りのない限り質量基準である。
【0071】
以下の実施例および比較例におけるブロックコポリマーの合成および組成物の調製工程は、全て、窒素雰囲気下、酸素濃度1.0ppm以下かつ露点温度-76.0℃以下に管理されたグローブボックス内にて行われた。
【0072】
実施例1
6mLのスクリュー管にスターラーチップを入れ、ここにシクロヘキサシランを292mg(1.62mmol)を加えスターラーを使って攪拌を行なった。ここに、LEDランプを光源とする波長365nmの紫外線を8.6J/cm照射した。紫外線照射後、シクロオクタンにて濃度50質量%に調整した質量平均分子量1,800のポリペルヒドロシラザン溶液35.0mg(0.389mmol)を加えた。攪拌を続けながら、水銀キセノンランプを光源とする波長365nmの紫外線を照射強度82mW/cmで光ファイバーを通して20分間照射を行ない、ブロックコポリマーを形成させた。反応後、ブロックコポリマーの濃度が25質量%になるようにシクロオクタンが加えられ、3分間撹拌され、そして5.0μmPTFEフィルター(Whatman製、Syringe filter)および0.2μmPTFEフィルター(Advantec製、DISMIC-13JP)を用いて濾過を行い、アモルファスシリコン形成組成物Aを調製した。なお、合成されたブロックコポリマーの質量平均分子量は2,820であった。
【0073】
アモルファスシリコン形成組成物AをSi基板に、窒素雰囲気中で、スピンコーター(ミカサ株式会社製スピンコーター1HDX2(商品名))を用いて、塗布して、塗膜を形成させた。その後、波長405nmの波長の光を18J/cm照射した。得られた塗膜を窒素中、ホットプレート上で150℃で30秒間ベークした。得られた塗膜を、ホットプレート上で400℃で15分加熱し、アモルファスシリコン膜を得た。二次イオン質量分析法(SIMS)により得られた膜を測定したところ、Si:97.99質量%、O:0.41質量%、N:0.92質量%、C:0.63質量%、H:0.05質量%であり、XRDから結晶Siの回折ピークが認められなかったためアモルファスシリコンであることが確認された。
得られたアモルファスシリコン膜の膜厚は、3,330Åであり、屈折率(633nm)は3.07であった。KLA Tencor社製のTencor(商標)FLX-2320で測定した膜ストレスは、334MPaの引張応力であった。また、10質量%水酸化カリウム水溶液にエッチングされ、エッチング速度は、258Å/分であった。一方、0.5質量%フッ化水素酸水溶液を用いたエッチングでは、エッチング速度は、6Å/分と、HF耐性を有していた。
【0074】
実施例2
6mLのスクリュー管にスターラーチップを入れ、ここにシクロヘキサシランを284mg(1.58mmol)を加えスターラーを使って攪拌を行なった。ここに、水銀キセノンランプを光源とする波長365nmの紫外線を8.6J/cm照射した。紫外線照射後、シクロオクタンにて濃度50質量%に調整した質量平均分子量1,800のポリペルヒドロシラザン溶液35.3mg(0.392mmol)を加えた。攪拌を続けながら、水銀キセノンランプを光源とする波長405nmの紫外線を照射強度82mW/cmで光ファイバーを通して20分間照射を行ない、ブロックコポリマーを形成させた。反応後、ブロックコポリマーの濃度が25質量%になるようにシクロオクタンが加えられ、3分間撹拌され、そして5.0μmPTFEフィルターおよび0.2μmPTFEフィルターを用いて濾過を行い、アモルファスシリコン形成組成物Bを調製した。なお、合成されたブロックコポリマーの質量平均分子量は2,580であった。
【0075】
アモルファスシリコン形成組成物Bを用いて、実施例1のときと同様にして、アモルファスシリコン膜を得た。
得られたアモルファスシリコン膜の膜厚は、2,969Åであり、屈折率(633nm)は3.15であった。膜ストレスは321MPaであった。また、10質量%水酸化カリウムにエッチングされ、エッチング速度は、191Å/分であった。一方、0.5質量%フッ化水素酸を用いたエッチングでは、エッチング速度は、4Å/分と、HF耐性を有していた。
【0076】
実施例3
6mLのスクリュー管にスターラーチップを入れ、ここにシクロヘキサシランを281mg(1.56mmol)を加えスターラーを使って攪拌を行なった。ここに、水銀キセノンランプを光源とする波長405nmの紫外線を8.4J/cm照射した。紫外線照射後、シクロオクタンにて濃度50質量%に調整した質量平均分子量1,800のポリペルヒドロシラザン溶液35mg(0.390mmol)を加えた。攪拌を続けながら、水銀キセノンランプを光源とする波長405nmの紫外線を照射強度82mW/cmで光ファイバーを通して20分間照射を行ない、ブロックコポリマーを形成させた。反応後、ブロックコポリマーの濃度が25質量%になるようにシクロオクタンが加えられ、3分間撹拌され、そして5.0μmPTFEフィルターおよび0.2μmPTFEフィルターを用いて濾過を行い、アモルファスシリコン形成組成物Cを調製した。なお、合成されたブロックコポリマーの質量平均分子量は2,480であった。
【0077】
アモルファスシリコン形成組成物Cを用いて、実施例1のときと同様にして、アモルファスシリコン膜を得た。
得られたアモルファスシリコン膜の膜厚は、4162Åであり、屈折率(633nm)は3.19であった。膜ストレスは372MPaであった。また、10質量%水酸化カリウム水溶液にエッチングされ、エッチング速度は、216Å/分であった。一方、0.5質量%フッ化水素酸水溶液を用いたエッチングでは、エッチング速度は、4Å/分と、HF耐性を有していた。
【0078】
実施例4
6mLのスクリュー管にスターラーチップを入れ、ここにシクロヘキサシランを927mg(5.15mmol)を加えスターラーを使って攪拌を行なった。ここに、水銀キセノンランプを光源とする波長365nmの紫外線を8.6J/cm照射した。紫外線照射後、シクロオクタンにて濃度50質量%に調整した質量平均分子量1,800のポリペルヒドロシラザン溶液46mg(0.510mmol)を加えた。攪拌を続けながら、水銀キセノンランプを光源とする波長405nmの紫外線を照射強度82mW/cmで光ファイバーを通して20分間照射を行ない、ブロックコポリマーを形成させた。反応後、ブロックコポリマーの濃度が25質量%になるようにシクロオクタンが加えられ、3分間撹拌され、そして5.0μmPTFEフィルターおよび0.2μmPTFEフィルターを用いて濾過を行い、アモルファスシリコン形成組成物Dを調製した。なお、合成されたブロックコポリマーの質量平均分子量は2,250であった。
【0079】
アモルファスシリコン形成組成物Dを用いて、ホットプレート上で600℃で15分間加熱すること以外は実施例1のときと同様にして、アモルファスシリコン膜を得た。
得られたアモルファスシリコン膜の膜厚は、3,343Åであり、屈折率(633nm)は4.16であった。膜ストレスは263MPaであった。また、10質量%水酸化カリウム水溶液にエッチングされ、エッチング速度は、20Å/分であった。60℃の10質量%水酸化テトラメチルアンモニウム水溶液を用いたエッチング速度は、2,020Å/分であった。一方、0.5質量%フッ化水素酸水溶液を用いたエッチングでは、エッチング速度は、3Å/分と、HF耐性を有していた。
【0080】
実施例5
50mLのスクリュー管にスターラーチップを入れ、ここにシクロヘキサシランを0.35g(1.94mmol)を加えスターラーを使って攪拌を行なった。水銀キセノンランプを光源とする波長365nmの紫外線を8.6J/cm照射した。紫外線照射後、シクロオクタンにて濃度50質量%に調整した質量平均分子量1,200のポリペルヒドロシラザン溶液10.8g(120.2mmol)と架橋剤としてトリクロロシラン0.16g(1.15mmol)とを加えた。攪拌を続けながら、水銀キセノンランプを光源とする波長405nmの紫外線を照射強度82mW/cmで光ファイバーを通して20分間照射を行ない、ブロックコポリマーを形成させた。反応後、ブロックコポリマーの濃度が25質量%になるようにシクロオクタンが加えられ、3分間撹拌され、そして5.0μmPTFEフィルターおよび0.2μmPTFEフィルターを用いて濾過を行い、アモルファスシリコン形成組成物Eを調製した。なお、合成されたブロックコポリマーの質量平均分子量は7,750であった。
【0081】
アモルファスシリコン形成組成物Eを用いて、ホットプレート上で600℃で15分間加熱すること以外は実施例1のときと同様にして、アモルファスシリコン膜を得た。
得られたアモルファスシリコン膜の膜厚は、3,653Åであり、屈折率(633nm)は3.16であった。膜ストレスは323MPaであった。また、10質量%水酸化カリウム水溶液にエッチングされ、エッチング速度は、15Å/分であった。60℃の10質量%水酸化テトラメチルアンモニウム水溶液を用いたエッチング速度は、2,970Å/分であった。一方、0.5質量%フッ化水素酸水溶液を用いたエッチングでは、エッチング速度は、8Å/分と、HF耐性を有していた。
【0082】
実施例6
6mLのスクリュー管にスターラーチップを入れ、ここにシクロヘキサシランを223mg(1.24mmol)を加えスターラーを使って攪拌を行なった。ここに、水銀キセノンランプを光源とする波長365nmの紫外線を8.6J/cm照射した。紫外線照射後、シクロオクタンにて濃度50質量%に調整した質量平均分子量1,800のポリペルヒドロシラザン溶液446mg(4.96mmol)を加えた。攪拌を続けながら、水銀キセノンランプを光源とする波長405nmの紫外線を照射強度82mW/cmで光ファイバーを通して20分間照射を行ない、ブロックコポリマーを形成させた。反応後、ブロックコポリマーの濃度が25質量%になるようにシクロオクタンが加えられ、3分間撹拌され、そして5.0μmPTFEフィルターおよび0.2μmPTFEフィルターを用いて濾過を行い、アモルファスシリコン形成組成物Fを調製した。なお、合成されたブロックコポリマーの質量平均分子量は2,810であった。
【0083】
アモルファスシリコン形成組成物Fを用いて、ホットプレート上で600℃で15分間加熱すること以外は実施例1のときと同様にして、アモルファスシリコン膜を得た。
得られたアモルファスシリコン膜の膜厚は、2,916Åであり、屈折率(633nm)は3.01であった。膜ストレスは463MPaであった。また、10質量%水酸化カリウム水溶液にエッチングされ、エッチング速度は、10Å/分であった。60℃の10質量%水酸化テトラメチルアンモニウム水溶液を用いたエッチング速度は、2,450Å/分であった。一方、0.5質量%フッ化水素酸水溶液を用いたエッチングでは、エッチング速度は、5Å/分と、HF耐性を有していた。
【0084】
比較例1
6mLのスクリュー管にスターラーチップを入れ、ここにシクロヘキサシランを272mg(1.5mmol)を加えスターラーを使って攪拌を行なった。ここに、水銀キセノンを光源とする波長365nmの紫外線を8.6J/cm照射した。照射後、水銀キセノンを光源とする波長365nmの紫外線を98.4J/cm照射し、20分間撹拌した。その後、固形分濃度が19質量%となるように、シクロオクタンを加え、3分間撹拌した。そして、5.0μmPTFEフィルターおよび0.2μmPTFEフィルターを用いて濾過を行い、比較組成物Aを得た。
【0085】
比較組成物AをSi基板に、窒素雰囲気中で、スピンコーターを用いて、塗布して、塗膜の形成を試みたが、比較組成物Aは基板に塗着せず、膜形成には至らなかった。
【0086】
比較例2
6mLのスクリュー管にスターラーチップを入れ、ここにシクロヘキサシランを297mg(1.65mmol)を加えスターラーを使って攪拌を行なった。ここに、LEDランプを光源とする波長365nmの紫外線を8.6J/cm照射した。紫外線照射後、シクロオクタンにて濃度50質量%に調整した質量平均分子量1,800のポリペルヒドロシラザン溶液37.1mg(0.412mmol)を加えた。固形分濃度が25質量%になるようにシクロオクタンが加えられ、3分間撹拌され、そして5.0μmPTFEフィルターおよび0.2μmPTFEフィルターを用いて濾過を行い、比較組成物Bを調製した。
【0087】
比較組成物Bを用いて、実施例1のときと同様にして、アモルファスシリコン膜を得た。
得られたアモルファスシリコン膜の膜厚は、755Åであり、屈折率(633nm)は2.95であった。膜ストレスは268MPaであった。また、10質量%水酸化カリウム水溶液にエッチングされ、エッチング速度は、147Å/分であった。一方、0.5質量%フッ化水素酸水溶液を用いたエッチングでは、エッチング速度は、6Å/分と、HF耐性を有していた。
【0088】
比較例3
質量平均分子量5,800のポリペルヒドロシラザン溶液の20質量%シクロオクタン溶液を調製し、実施例1と同様に塗膜を形成後、窒素中、ホットプレート上で150℃で60秒間加熱(プリベーク)した。その後、ホットプレート上で400℃で15分間加熱し比較例3の膜を得た。得られた酸窒化ケイ素質膜の膜厚は、6100Åであり、屈折率(633nm)は1.57であった。膜ストレスは-340MPaの圧縮応力であった。また、10質量%水酸化カリウム水溶液にエッチングされ、エッチング速度は、1,178Å/分であった。一方、0.5質量%フッ化水素酸水溶液を用いたエッチングでは、エッチング速度は、4,245Å/分であった。