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  • 特許-視覚機能再生剤又は視覚機能低下予防剤 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-26
(45)【発行日】2024-02-05
(54)【発明の名称】視覚機能再生剤又は視覚機能低下予防剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 48/00 20060101AFI20240129BHJP
   A61K 35/761 20150101ALI20240129BHJP
   A61K 35/76 20150101ALI20240129BHJP
   A61K 38/17 20060101ALI20240129BHJP
   A61P 27/02 20060101ALI20240129BHJP
   C12N 15/62 20060101ALI20240129BHJP
   C12N 15/867 20060101ALI20240129BHJP
   C12N 15/864 20060101ALI20240129BHJP
【FI】
A61K48/00 ZNA
A61K35/761
A61K35/76
A61K38/17
A61P27/02
C12N15/62 Z
C12N15/867 Z
C12N15/864 100Z
【請求項の数】 17
(21)【出願番号】P 2022101163
(22)【出願日】2022-06-23
(62)【分割の表示】P 2020050903の分割
【原出願日】2017-09-01
(65)【公開番号】P2022126804
(43)【公開日】2022-08-30
【審査請求日】2022-06-23
(31)【優先権主張番号】P 2016172149
(32)【優先日】2016-09-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】598121341
【氏名又は名称】慶應義塾
(73)【特許権者】
【識別番号】304021277
【氏名又は名称】国立大学法人 名古屋工業大学
(74)【代理人】
【識別番号】100136629
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 光宜
(74)【代理人】
【識別番号】100080791
【弁理士】
【氏名又は名称】高島 一
(74)【代理人】
【識別番号】100118371
【弁理士】
【氏名又は名称】▲駒▼谷 剛志
(72)【発明者】
【氏名】栗原 俊英
(72)【発明者】
【氏名】堅田 侑作
(72)【発明者】
【氏名】國見 洋光
(72)【発明者】
【氏名】坪田 一男
(72)【発明者】
【氏名】神取 秀樹
【審査官】新熊 忠信
(56)【参考文献】
【文献】特表2016-519063(JP,A)
【文献】特表2009-536219(JP,A)
【文献】SASAKI, K. et al.,"Chimeric Proton-Pumping Rhodopsins Containing the Cytoplasmic Loop of Bovine Rhodopsin",PLOS ONE,2014年03月12日,Vol.9,No.3,e91323,P.1-12,[online], [検索日 2017.09.28],<URL, http://journals. plos.org/plosone/article/file?id=10.1371/jo
【文献】"業績紹介:動物型ロドプシンと微生物型ロドプシンのキメラタンパク質の機能",新学術領域研究「柔らかな分子系」ニュースレター 平成26年04月号,No.8,2014年04月,P.34,[online], [検索日 2017.09.28], <URL,http://www.yawaraka.org/letter/NL08_1404.pdf>
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 48/00
A61K 38/00-38/58
A61K 35/00-35/768
A61P 27/00
C12N 15/00-90/00
C07K 14/00-14/825
C07K 19/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号1に記載のアミノ酸配列をコードする塩基配列を有するDNAを含む、網膜疾患の治療または予防のための組成物。
【請求項2】
配列番号1に記載のアミノ酸配列をコードする塩基配列を有するDNAを含む、網膜色素変性症、加齢黄斑変性、近視性黄斑症、黄斑ジストロフィ、糖尿病網膜症、ぶどう膜炎、および網膜剥離からなる群より選択される少なくとも1つの疾患の治療または予防のための組成物。
【請求項3】
前記網膜疾患は、網膜色素変性症、加齢黄斑変性、近視性黄斑症、黄斑ジストロフィ、糖尿病網膜症および網膜剥離からなる群より選択される少なくとも1つの疾患を含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
前記疾患は、網膜色素変性症である、請求項1に記載の組成物。
【請求項5】
前記DNAは発現ベクターに組み込まれたものである、請求項1~4のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項6】
配列番号1に記載のアミノ酸配列をコードする塩基配列を含むアデノ随伴ウイルス(AAV)ベクター又はレンチウイルスベクター。
【請求項7】
配列番号1に記載のアミノ酸配列をコードする塩基配列を有するDNA。
【請求項8】
網膜疾患の治療または予防に使用するための医薬を製造するための、配列番号1に記載のアミノ酸配列をコードする塩基配列を有するDNAの使用。
【請求項9】
網膜色素変性症、加齢黄斑変性、近視性黄斑症、黄斑ジストロフィ、糖尿病網膜症、ぶどう膜炎、および網膜剥離からなる群より選択される少なくとも1つの疾患の治療または予防に使用するための医薬を製造するための、配列番号1に記載のアミノ酸配列をコードする塩基配列を有するDNAの使用。
【請求項10】
前記網膜疾患は、網膜色素変性症、加齢黄斑変性、近視性黄斑症、黄斑ジストロフィ、糖尿病網膜症および網膜剥離からなる群より選択される少なくとも1つの疾患を含む、請求項8に記載の使用。
【請求項11】
前記疾患は、網膜色素変性症である、請求項8~10のいずれか一項に記載の使用。
【請求項12】
配列番号1に記載のアミノ酸配列からなるキメラタンパク質を含む、網膜疾患の治療または予防のための組成物。
【請求項13】
配列番号1に記載のアミノ酸配列からなるキメラタンパク質を含む、網膜色素変性症、加齢黄斑変性、近視性黄斑症、黄斑ジストロフィ、糖尿病網膜症、ぶどう膜炎、および網膜剥離からなる群より選択される少なくとも1つの疾患の治療または予防のための組成物。
【請求項14】
前記網膜疾患は、網膜色素変性症、加齢黄斑変性、近視性黄斑症、黄斑ジストロフィ、糖尿病網膜症および網膜剥離からなる群より選択される少なくとも1つの疾患を含む、請求項12に記載の組成物。
【請求項15】
前記疾患は、網膜色素変性症である、請求項12~14のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項16】
ヒトにおける前記疾患の治療または予防のための、請求項1~5および12~15のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項17】
ヒトにおける前記疾患の治療または予防に使用するための医薬を製造するための、請求項8~11のいずれか一項に記載の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、視覚機能再生剤又は視覚機能低下予防剤に関する。
【背景技術】
【0002】
ロドプシンは、ヒトの動物の網膜中に7回膜貫通型構造を有する光感受性の受容体であるが、微生物に由来するイオンチャネル型やイオンポンプ型のロドプシンも知られている。
【0003】
例えば、非特許文献1には、イオンチャネル型のロドプシンであるチャネルロドプシン2(ChR2)が開示されている。また、非特許文献2において、変異型チャネルロドプシンを網膜神経節細胞に導入することで、マウス・ラットにおいて一定の視覚機能が再生することが報告されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【文献】Bi et al.,“Ectopic expression of a microbial-type rhodopsin restores visual responses in mice with photoreceptor degeneration.” Neuron. 2006; 50(1):23-33
【文献】Tomita et al., “Restoration of the Majority of the Visual Spectrum by Using Modified Volvox Channelrhodopsin-1”,Molecular Therapy (2014); 22 8, 1434-1440
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、イオンチャネル型ロドプシンは、視覚機能の再生効果が未だ十分とはいえず、改善の余地があった。
【0006】
本発明は以上の実情に鑑みてなされたものであり、優れた視覚機能の再生能を有する視覚機能再生剤又は視覚機能低下予防剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、微生物に由来するイオン輸送型ロドプシンと、動物由来のGタンパク質共役型受容体ロドプシンという全く異なる2種類のロドプシンを融合させたキメラタンパク質が、実際に優れた視覚機能の再生能を有することを見出し、本発明を完成するに至った。より具体的には、本発明は以下の構成からなる。
【0008】
(1) 微生物由来のイオン輸送型受容体ロドプシンのアミノ酸配列と動物由来のGタンパク質共役型受容体ロドプシンのアミノ酸配列とを有するキメラタンパク質を有効成分として含有する、視覚機能再生剤又は視覚機能低下予防剤。
【0009】
(2) 前記キメラタンパク質は、微生物由来のイオン輸送型受容体ロドプシンのアミノ酸配列のうち、細胞質側の第2ループ及び/又は細胞質側の第3ループのアミノ酸配列が、Gタンパク質共役型受容体ロドプシンの細胞質側の第2ループ及び/又は細胞質側の第3ループのアミノ酸配列に置き換えられたものである、(1)に記載の視覚機能再生剤又は視覚機能低下予防剤。
【0010】
(3) 前記微生物由来のイオン輸送型受容体ロドプシンがグロエオバクター(Gloeobacter)属に属する微生物由来のロドプシンであり、かつ、前記Gタンパク質共役型受容体ロドプシンがウシ又はヒト由来のロドプシンである、(1)又は(2)に記載の視覚機能再生剤又は視覚機能低下予防剤。
【0011】
(4) 前記キメラタンパク質が、以下の(a)から(d)のいずれかに記載のDNAがコードするアミノ酸配列を有する、(1)~(3)のいずれかに記載の視覚機能再生剤又は視覚機能低下予防剤。
(a)配列番号1~4のいずれかに記載のアミノ酸配列をコードする塩基配列を有するDNA
(b)配列番号1~4のいずれかに記載のアミノ酸配列をコードする塩基配列に相補的な塩基配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズできる塩基配列を有するDNA
(c)配列番号1~4のいずれかに記載のアミノ酸配列において1もしくは複数のアミノ酸が置換、欠失及び/又は付加されたアミノ酸配列をコードする塩基配列を有し、かつ、視覚機能再生能又は視覚機能低下予防能を有する、DNA
(d)配列番号1~4のいずれかに記載のアミノ酸配列と90%以上の相同性を有するアミノ酸配列をコードする塩基配列からなり、かつ、視覚機能再生能又は視覚機能低下予防能を有するDNA
【0012】
(5) (1)~(4)のいずれかに記載のキメラタンパク質のアミノ酸配列をコードするDNAが組み込まれた発現ベクターを有効成分として含有する、視覚機能再生剤又は視覚機能低下予防剤。
【0013】
(6) 網膜色素変性症の治療又は予防に用いられる、(1)~(5)のいずれかに記載の視覚機能再生剤又は視覚機能低下予防剤。
【0014】
(7) 微生物由来のイオン輸送型受容体ロドプシンのアミノ酸配列と動物由来のGタンパク質共役型受容体ロドプシンのアミノ酸配列とを有するキメラタンパク質の配列が挿入されたアデノ随伴ウイルス(AAV)ベクター又はレンチウイルスベクター。
【0015】
(8) 視覚機能再生又は視覚機能低下予防する医薬を製造するための、微生物由来のイオン輸送型受容体ロドプシンのアミノ酸配列と動物由来のGタンパク質共役型受容体ロドプシンのアミノ酸配列とを有するキメラタンパク質の配列が挿入されたアデノ随伴ウイルス(AAV)ベクター又はレンチウイルスベクターの使用。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、優れた視覚機能の再生能を奏することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】AAV2-CAGGS-EGFP-WPRE-pAを硝子体内に注射した野生型マウスの網膜について蛍光顕微鏡で観察した画像である。
図2】(a)コントロールの網膜色素変性症モデル(rd1)マウスについて多電極アレイ(MEA)により網膜神経節細胞の細胞外電位記録を行った結果のグラフである。(b)AAV2-CAGGS-GR/BvRh-WPRE-pAを注射した網膜色素変性症モデル(rd1)マウスについてMEAにより網膜神経節細胞の細胞外電位記録を行った結果のグラフである。
図3】(a)コントロールの網膜色素変性症モデル(rd1)マウス、及び、(b)AAV2-CAGGS-GR/BvRh-WPRE-pAを注射した網膜色素変性症モデル(rd1)マウスについて多電極アレイ(MEA)により網膜神経節細胞の細胞外電位記録を行った結果を示す図である。図3の上段は、10回分の網膜神経節細胞の発火をラスタープロット表示であり、図3の下段は、縦軸に1秒間あたりの発火頻度をとったヒストグラムである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の具体的な実施形態について詳細に説明するが、本発明は以下の実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の目的の範囲内において、適宜変更を加えて実施することができる。なお、説明が重複する箇所については、適宜説明を省略する場合があるが、発明の要旨を限定するものではない。
【0019】
<視覚機能再生剤又は視覚機能低下予防剤>
本発明の視覚機能再生剤又は視覚機能低下予防剤は、微生物由来のイオン輸送型受容体ロドプシンのアミノ酸配列と動物由来のGタンパク質共役型受容体ロドプシンのアミノ酸配列とを有するキメラタンパク質を有効成分として含有する。
【0020】
ロドプシンは、レチナールという色素を内部に有し、これが光を受けることで活性化して、視覚シグナルが脳へと伝えられる。微生物由来のイオン輸送型受容体ロドプシンは、光を照射してもレチナールが外れることがないため、光を吸収することで繰り返し活性化させることができるが、動物由来のGタンパク質共役型受容体ロドプシンのように、Gタンパク質を活性化することができない。これに対し、本発明によると、繰り返し使用できる微生物由来のイオン輸送型受容体ロドプシンに、動物由来のGタンパク質共役型受容体ロドプシンを融合することで、微生物由来のイオン輸送型受容体イオンチャネル型受容体ロドプシンが持つ繰り返し活性化する機能を保持しつつ、Gタンパク質共役型受容体による内在性のGタンパク質を介した高い活性を得ることができ、優れた視覚再生効果を得られるものと推測される。このように、微生物由来のロドプシンと動物由来のGタンパク質共役型受容体は全く機能の異なるタイプの受容体であり、このような2種の受容体を組み合わせたキメラタンパク質が、優れた視覚機能の再生能を有することを本発明者らは現実に見出した。また、上述のとおり、高い活性を得ながら繰り返し活性化できるため、視覚機能の低下の予防効果(例えば、網膜色素変性症等の網膜疾患の進行抑制)も期待できる。
【0021】
イオン輸送型受容体ロドプシンとしては、イオンポンプ型受容体ロドプシン、イオンチャネル型受容体ロドプシンが挙げられる。
【0022】
本発明のキメラタンパク質は、微生物由来のイオン輸送型受容体ロドプシンとGタンパク質共役型受容体ロドプシンとのキメラタンパク質であり、7回膜貫通型構造を有する。本発明において、微生物由来のイオン輸送型受容体ロドプシンとGタンパク質共役型受容体ロドプシンとのキメラタンパク質は、微生物由来のイオン輸送型受容体ロドプシンの繰り返し活性化させる機能とGタンパク質共役型受容体ロドプシンによるGタンパク活性の両方を高く有するように設計されることが好ましい。この観点で、両者の活性を高く維持し、特に、高い視覚機能再生能を奏することから、本発明のキメラタンパク質は、微生物由来のイオン輸送型受容体ロドプシンのアミノ酸配列のうち、細胞質側の第2ループ及び/又は細胞質側の第3ループのアミノ酸配列が、Gタンパク質共役型受容体ロドプシンの細胞質側の第2ループ及び/又は細胞質側の第3ループのアミノ酸配列に置き換えられたものであることが好ましい。なお、「細胞質側の第2ループ」、「細胞質側の第3ループ」とは、それぞれが7つのループのうちN末端側から2番目、N末端側から3番目に位置するループのことを指す。
【0023】
微生物由来のイオン輸送型受容体ロドプシンとしては、例えば、グロエオバクター(Gloeobacter)属等の真正細菌、ボルボックス(Volvox)属、クラミドモナス(Chlamydomonas)属、グィラルディア(Guillardia)属等の真核生物等に属する微生物由来のロドプシンが挙げられる。グロエオバクター(Gloeobacter)属としては、グロエオバクター・ビオラセウス(Gloeobacter violaceus)等が挙げられる。ボルボックス(Volvox)属としては、ボルボックス・カルテリ(Volvox carteri)等が挙げられる。クラミドモナス(Chlamydomonas)属としては、クラミドモナス・ラインハーティ(Chlamydomonas reinhardtii)等が挙げられる。グィラルディア(Guillardia)属としては、グィラルディア・セータ(Guillardia theta)等が挙げられる。より高い視覚再生・予防効果を得るためには、Gタンパク質活性化ループとの立体構造的相性と膜移行効率が重要であると考えられるが、微生物由来のイオン輸送型受容体ロドプシンは、特に、Gタンパク質活性化ループとの立体構造的相性と膜移行効率が良好であるため、グロエオバクター(Gloeobacter)属であることが好ましい。特に、グロエオバクター(Gloeobacter)属に属する微生物のうち、グロエオバクター・ビオラセウスが好ましい。また、グロエオバクター属に属する微生物は、動物由来のGタンパク質共役型受容体ロドプシンのうち、ウシ又はヒト由来のGタンパク質共役型受容体ロドプシンと組み合わせて融合させることが好ましい。また、グロエオバクター(Gloeobacter)属は、真正細菌である大腸菌でも真核生物であるヒトの細胞でもよく発現するという重要な性質を有する点においても好ましい。
【0024】
動物由来のGタンパク質共役型受容体ロドプシンとしては、例えば、ウシ、ヒト、マウス、ラット、ネコ、イヌ、ブタ、ヒツジ、ウマ等由来のロドプシンが挙げられる。これらのうち、ウシ又はヒト由来のロドプシンが、特に好ましい。
【0025】
より具体的には、キメラタンパク質は、以下の(a)から(d)のいずれかに記載のDNAがコードするアミノ酸配列を有するものが好ましい。
(a)配列番号1~4のいずれかに記載のアミノ酸配列をコードする塩基配列を有するDNA
(b)配列番号1~4のいずれかに記載のアミノ酸配列をコードする塩基配列に相補的な塩基配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズできる塩基配列を有するDNA
(c)配列番号1~4のいずれかに記載のアミノ酸配列において1もしくは複数のアミノ酸が置換、欠失及び/又は付加されたアミノ酸配列をコードする塩基配列を有し、かつ、視覚機能再生能又は視覚機能低下予防能を有する、DNA
(d)配列番号1~4のいずれかに記載のアミノ酸配列と90%以上の相同性を有するアミノ酸配列をコードする塩基配列からなり、かつ、視覚機能再生能又は視覚機能低下予防能を有するDNA
【0026】
上述のGタンパク質共役型受容体ロドプシンの細胞質側の第2ループとしては、以下の(e)~(h)に記載のDNAがコードするアミノ酸配列を有するものが好ましい。
(e)配列番号5又は6に記載のアミノ酸配列をコードする塩基配列を有するDNA
(f)配列番号5又は6に記載のアミノ酸配列をコードする塩基配列に相補的な塩基配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズできる塩基配列を有するDNA
(g)配列番号5又は6に記載のアミノ酸配列において1もしくは複数のアミノ酸が置換、欠失及び/又は付加されたアミノ酸配列をコードする塩基配列を有するDNA
(h)配列番号5又は6に記載のアミノ酸配列と90%以上の相同性を有するアミノ酸配列をコードする塩基配列からなるDNA
【0027】
上述のGタンパク質共役型受容体ロドプシンの細胞質側の第3ループとしては、以下の(i)~(l)に記載のDNAがコードするアミノ酸配列を有するものが好ましい。
(i)配列番号7に記載のアミノ酸配列をコードする塩基配列を有するDNA
(j)配列番号7に記載のアミノ酸配列をコードする塩基配列に相補的な塩基配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズできる塩基配列を有するDNA
(k)配列番号7に記載のアミノ酸配列において1もしくは複数のアミノ酸が置換、欠失及び/又は付加されたアミノ酸配列をコードする塩基配列を有するDNA
(l)配列番号7に記載のアミノ酸配列と90%以上の相同性を有するアミノ酸配列をコードする塩基配列からなるDNA
【0028】
配列番号1~4のいずれかに記載のアミノ酸配列をコードする塩基配列は、本発明のキメラタンパク質をコードする塩基配列の好ましい配列である。この配列番号1~4のいずれかに記載のアミノ酸配列をコードする塩基配列は、視覚機能再生能又は視覚機能低下予防能を有する。なお、本明細書において、「塩基配列が視覚機能再生能又は視覚機能低下予防能を有する」とは、塩基配列がコードするポリペプチドが視覚機能再生能又は視覚機能低下予防能を有することを意味する。配列番号1~4のいずれかに記載のアミノ酸配列をコードする塩基配列を有するDNAの変異体やホモログには、例えば、配列番号1~4のいずれかに記載のアミノ酸配列をコードする塩基配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズできる塩基配列を有するDNAが含まれる。また、配列番号5~7のいずれかに記載のアミノ酸配列をコードする塩基配列を有するDNAの変異体やホモログには、配列番号5~7のいずれかに記載のアミノ酸配列をコードする塩基配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズできる塩基配列を有するDNAが含まれる。「ストリンジェントな条件」としては、例えば、通常のハイブリダイゼーション緩衝液中、40~70℃(好ましくは、50~67℃、より好ましくは、60~65℃)で反応を行い、塩濃度15~300mM(好ましくは、15~150mM、より好ましくは15~60mM、更に好ましくは、30~50mM)の洗浄液中で洗浄を行う条件が挙げられる。
【0029】
配列番号1~4のいずれかは、本発明のキメラタンパク質のアミノ酸配列として使用できる。本発明のキメラタンパク質のアミノ酸配列をコードするDNAには、かかる配列番号1~4のいずれか記載のアミノ酸配列において1もしくは複数のアミノ酸が置換、欠失及び/又は付加されたアミノ酸配列をコードする塩基配列を有するDNAも含まれる。ここで配列番号1~4のいずれかにおいて、「1もしくは複数」とは、通常、50アミノ酸以内であり、好ましくは30アミノ酸以内であり、更に好ましくは10アミノ酸以内(例えば、5アミノ酸以内、3アミノ酸以内、1アミノ酸)である。また、配列番号5~7のいずれかにおいて、「1もしくは複数」とは、通常、6アミノ酸以内であり、好ましくは5アミノ酸以内であり、更に好ましくは4アミノ酸以内(例えば、3アミノ酸以内、2アミノ酸以内、1アミノ酸)である。キメラタンパク質の視覚機能再生能又は視覚機能低下予防能を維持する場合、変異するアミノ酸残基においては、アミノ酸側鎖の性質が保存されている別のアミノ酸に変異されることが望ましい。例えばアミノ酸側鎖の性質としては、疎水性アミノ酸(A、I、L、M、F、P、W、Y、V)、親水性アミノ酸(R、D、N、C、E、Q、G、H、K、S、T)、脂肪族側鎖を有するアミノ酸(G、A、V、L、I、P)、水酸基含有側鎖を有するアミノ酸(S、T、Y)、硫黄原子含有側鎖を有するアミノ酸(C、M)、カルボン酸及びアミド含有側鎖を有するアミノ酸(D、N、E、Q)、塩基含有側鎖を有するアミノ離(R、K、H)、芳香族含有側鎖を有するアミノ酸(H、F、Y、W)を挙げることができる(括弧内はいずれもアミノ酸の一文字標記を表す)。なお、あるアミノ酸配列に対する1又は複数個のアミノ酸残基の欠失、付加及び/又は他のアミノ酸による置換により修飾されたアミノ酸配列を有するタンパク質がその生物学的活性を維持することは公知である(Mark,D.F.et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA(1984)81,5662-5666、Zoller,M.J.& Smith,M.Nucleic Acids Research(1982)10,6487-6500、Wang,A.et al.,Science 224,1431-1433、Dalbadie-McFarland,G.et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA(1982)79,6409-6413)。
【0030】
配列番号1~4のいずれかに記載のアミノ酸配列をコードする塩基配列を有するDNAの変異体やホモログには、配列番号1~4のいずれかに記載のアミノ酸配列をコードする塩基配列と高い相同性を有する塩基配列からなるDNAが含まれる。このようなDNAは、好ましくは、配列番号1~4のいずれかに記載のアミノ酸配列をコードする塩基配列と90%以上、更に好ましくは95%以上(96%以上、97%以上、98%以上、99%以上)の相同性を有する。また、配列番号5~7のいずれかに記載のアミノ酸配列をコードする塩基配列を有するDNAの変異体やホモログには、配列番号5~7のいずれかに記載のアミノ酸配列をコードする塩基配列と高い相同性を有する塩基配列からなるDNAが含まれる。このようなDNAは、好ましくは、配列番号5~7のいずれかに記載のアミノ酸配列をコードする塩基配列と90%以上、更に好ましくは95%以上(96%以上、97%以上、98%以上、99%以上)の相同性を有する。アミノ酸配列や塩基配列の相同性は、Karlin and AltschulによるアルゴリズムBLAST(Proc.Natl.Acad.Sci.USA 90:5873-5877,1993)によって決定することができる。このアルゴリズムに基づいて、BLASTNやBLASTXと呼ばれるプログラムが開発されている(Altschul et al.J.Mol.Biol. 215:403-410,1990)。BLASTに基づいてBLASTNによって塩基配列を解析する場合には、パラメータは例えばscore=100、wordlength=12とする。また、BLASTに基づいてBLASTXによってアミノ酸配列を解析する場合には、パラメータは例えばscore=50、wordlength=3とする。BLASTとGapped BLASTプログラムを用いる場合には、各プログラムのデフォルトパラメータを用いる。これらの解析方法の具体的な手法は公知である(http://www.ncbi.nlm.nih.gov.)。
【0031】
本発明における「DNA」は、センス鎖又はアンチセンス鎖(例えば、プローブとして使用できる)のいずれでもよく、その形状は一本鎖又は二本鎖のいずれでもよい。また、ゲノムDNAであっても、cDNAであってもよく、あるいは合成されたDNAであってもよい。
【0032】
本発明のDNAを取得する方法としては、特に限定されないが、mRNAから逆転写することでcDNAを得る方法(例えば、RT-PCR法)、ゲノムDNAから調整する方法、化学合成により合成する方法、ゲノムDNAライブラリーやcDNAライブラリーから単離する方法等の公知の方法(例えば、特開平11-29599号公報参照)が挙げられる。
【0033】
本発明の視覚機能再生剤又は視覚機能低下予防剤で使用されるキメラタンパク質の調製は、例えば、前述のキメラタンパク質をコードするDNAを含む発現ベクターが導入された形質転換体を使用することで行うことができる。例えば、まず、この形質転換体を適宜の条件で培養し、このDNAがコードするキメラタンパク質を合成させる。そして、合成されたタンパク質を形質転換体又は培養液から回収することにより、本発明のキメラタンパク質を得ることができる。
【0034】
より具体的に説明すると、適当な発現ベクターに上述のキメラタンパク質をコードするDNAを挿入することにより、作製できる。「適当なベクター」とは、原核生物及び/又は真核生物の各種の宿主内で複製保持又は自己増殖できるものであればよく、使用の目的に応じて適宜選択できるものである。例えば、DNAを大量に取得したい場合には高コピーベクターを選択でき、ポリペプチド(キメラタンパク質)を取得したい場合には発現ベクターを選択できる。その具体例としては、特に限定されず、例えば、特開平11-29599号公報に記載された公知のベクターが挙げられる。
【0035】
また、発現ベクターは、キメラタンパク質を合成するのみならず、本発明の視覚機能再生剤又は視覚機能低下予防剤においても利用することができる。すなわち、本発明の視覚機能再生剤又は視覚機能低下予防剤は、上述のキメラタンパク質のアミノ酸配列をコードするDNAが組み込まれた発現ベクターを有効成分として含有するものであってもよい。かかる発現ベクターをヒトに直接導入することで、視覚機能再生、視覚機能低下予防に用いることができる。この場合におけるベクターは、ヒトの細胞内に導入可能なベクターを用いる。かかるベクターとしては、例えば、アデノ随伴ウイルスベクター(AAVベクター)、レンチウイルスベクターが好適である。
【0036】
ベクターの導入方法は、ベクターや宿主の種類等に応じて適宜選択できる。その具体例としては、特に限定されないが、例えば、細菌を宿主とした場合、プロトプラスト法、コンピテント法等の公知の方法(例えば、特開平11-29599号公報参照)が挙げられる。また、発現ベクターを本発明の視覚機能再生剤又は視覚機能低下予防剤の有効成分として用いる場合、例えば、上述のAAVベクター等を眼内に注射することで導入することができる。
【0037】
発現ベクターを導入する宿主は、発現ベクターに適合し形質転換され得るものであればよく、その具体例としては、特に限定されないが、細菌、酵母、動物細胞、昆虫細胞等の、公知の天然細胞もしくは人工的に樹立された細胞(特開平11-29599号公報参照)、あるいは、ヒト、マウス等の動物が挙げられる。形質転換体の培養は、キメラタンパク質が大量にかつ容易に取得できるように、形質転換体の種類等に応じて、公知の栄養培地から適宜選択し、温度、栄養培地のpH、培養時間等を適宜調整して行うことができる(例えば、特開平11-29599号公報参照)。
【0038】
キメラタンパク質の単離方法及び精製方法としては、特に限定されず、溶解度を利用する方法、分子量の差を利用する方法、荷電を利用する方法等の公知の方法(例えば、特開平11-29599号公報参照)が挙げられる。
【0039】
本明細書における「有効成分」は、視覚機能再生効果又は視覚機能低下予防効果を得るために必要な量で含有される成分を指し、効果が所望のレベル未満にまで損なわれない限りにおいて、他の成分も含有されてよい。また、本発明の視覚機能再生剤又は視覚機能低下予防剤は製剤化されたものであってもよい。また、本発明の視覚機能再生剤又は視覚機能低下予防剤の投与経路は、経口又は非経口のいずれであってもよく、製剤の形態等に応じて適宜設定することができる。
【0040】
経口投与の場合、錠剤、顆粒剤、細粒剤、散剤、カプセル剤等の種々の形状に製剤化して用いてもよく、製剤中に一般に使用される結合剤、包含剤、賦形剤、滑沢剤、崩壊剤、湿潤剤のような添加剤を含有させてもよい。また、これらのほか、経口投与の場合における製剤は、内用水剤、懸濁剤、乳剤、シロップ剤等の液体状態として製剤化してもよく、使用時に再溶解される乾燥状態のものとして製剤化してもよい。
【0041】
非経口投与の場合、単位投与量アンプルもしくは多投与量容器又はチューブ内に収容された状態に製剤化してもよく、また、安定剤、緩衝剤、保存剤、等張化剤等の添加剤も含有させてもよい。また、非経口投与の場合における製剤は、使用時に、適当な担体(滅菌水等)で再溶解可能な粉体に製剤化されてもよい。
非経口投与としては、硝子体内投与、結膜下投与、前房内投与、点眼投与等が挙げられ、硝子体内投与であることが好ましい。
【0042】
以上で述べた本発明の視覚機能再生剤又は視覚機能低下予防剤は、上記で述べたような方法で、ヒトに投与することにより、視覚機能再生又は視覚機能低下予防に用いることができる。
【0043】
本発明において、「視覚機能再生」とは、低下した視覚機能が改善されること指し、視覚機能の一部の再生であってもよく、完全な再生であってもよい。また、「視覚機能低下予防」とは、視覚機能低下を防ぐこと、あるいは、視覚機能低下の進行を抑制すること等を指す。このような視覚機能としては、視力、コントラスト感度、明暗順応、色覚等が挙げられる。
【0044】
本発明の視覚機能再生剤又は視覚機能低下予防剤は、視覚機能再生又は視覚機能低下予防により期待される用途として用いてもよく、例えば、視覚機能低下に関連する疾患の治療又は予防に用いてもよい。視覚機能低下に関連する疾患としては、網膜色素変性症、加齢黄斑変性、近視性黄斑症、黄斑ジストロフィー、糖尿病網膜症、ぶどう膜炎、網膜剥離等が挙げられる。
【0045】
<ベクター>
本発明は、微生物由来のイオン輸送型受容体ロドプシンのアミノ酸配列と動物由来のGタンパク質共役型受容体ロドプシンのアミノ酸配列とを有するキメラタンパク質の配列が挿入されたアデノ随伴ウイルス(AAV)ベクター又はレンチウイルスベクターを包含する。
【0046】
また、本発明は、視覚機能再生又は視覚機能低下予防する医薬を製造するための、微生物由来のイオン輸送型受容体ロドプシンのアミノ酸配列と動物由来のGタンパク質共役型受容体ロドプシンのアミノ酸配列とを有するキメラタンパク質の配列が挿入されたアデノ随伴ウイルス(AAV)ベクター又はレンチウイルスベクターの使用を包含する。
【0047】
キメラタンパク質は、上述のものと同様のものを用いることができる。
【実施例
【0048】
以下のとおりに、マウスを用いて視覚機能に関する実験を行った。
【0049】
(実験動物)
実験には、野生型マウス(C57BL/6J,日本クレア株式会社)と網膜色素変性症モデル(rd1)マウス(C3H/HeJ Jcls,日本クレア株式会社)を用い、ともに3週齢オスのものを使用した。
【0050】
(キメラタンパク(GR/BvRh)をコードするDNAの作製)
グロエオバクター・ビオラセウスのロドプシン(Gloeobacter violaceus Rhodopsin(GR)、配列番号8)の細胞質側の第2ループに相当するN末端より137-145番目のアミノ酸に相当する配列を、ウシロドプシン(BvRh)(配列番号9)の137-145番目のアミノ酸相当配列に置換し、また、グロエオバクター・ビオラセウスのロドプシンの細胞質側の第3ループに相当するN末端より198-206番目のアミノ酸に相当する配列を、ウシロドプシンの225-252番目のアミノ酸相当配列に置換し、さらにグロエオバクター・ビオラセウスのロドプシンの132番目のアミノ酸であるグルタミン酸をグルタミンに置換したキメラタンパク質をコードするDNAをpCDNA3.1ベクターに挿入した。変異体の作製はクイックチェンジ法により行った。
【0051】
(キメラタンパク質の配列が挿入されたアデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターの作製)
AAV2シャトルプラスミドに、EGFP、又はGR/BvRh遺伝子をサブクローニングし、ウイルス発現コンストラクトとして、AAV2-CAGGS-EGFP-WPRE-pA(EGFPの発現用のベクター)、及び、AAV2-CAGGS-GR/BvRh-WPRE-pA(キメラタンパク質発現用のベクター)を作製した。ウイルスベクターのパッケージングはHEK293細胞にベクタープラスミド、AAVベクタープラスミド、アデノウイルスヘルパープラスミドの3種類のプラスミドをトランスフェクションすることにより行い、ウイルスベクターの精製には塩化セシウム法を用いた。なお、ベクター中、「ITR」は、「Inverted Terminal Repeat」の略である。「CAGGS」は、CAGプロモーターの領域の配列である。「WPRE」は、「woodchuck hepatitis virus post-transcriptional regulatory element」の略である。「pA」は、ペプチド・タグを意味する。「EGFP」は、「enhanced green fluorescent protein」の略である。
【0052】
(硝子体注射)
野生型マウス又は網膜色素変性症モデル(rd1)マウスに対し、塩酸メデトミジン(0.75mg/kg)、ミダゾラム(4mg/kg)、酒石酸ブトルファノール(5mg/kg)の混合液を腹腔内投与し、全身麻酔下にて、32ゲージ針を装着したマイクロシリンジを用いて鋸状縁付近から硝子体内に上述のAAVベクター(「AAV2-CAGGS-EGFP-WPRE-pA」又は「AAV2-CAGGS-GR/BvRh-WPRE-pA」)をそれぞれ1×1012vg/ml 1μl注射施行した。
【0053】
(レポーター観察)
AAV2-CAGGS-EGFP-WPRE-pAを注射した野生型マウスに注射してから7週後に網膜を摘出し、4%パラホルムアルデヒドで1時間固定し、whole mountした網膜を蛍光顕微鏡で観察した。その結果を図1に示す。図1中、GCL:神経節細胞層、INL:内顆粒層、ONL:外顆粒層を意味する。観察の結果、緑の蛍光(例えば、図1の矢印)が網膜中に見られたことから、ベクターの導入、目的遺伝子の発現は正常に行われることが確認できた。
【0054】
(Multielectorode Array Recording(MEA):多電極アレイ測定)
AAV2-CAGGS-GR/BvRh-WPRE-pAを網膜色素変性症モデル(rd1)マウスに注射してから7週後に全身麻酔下で眼球を摘出し、その後95%O及び5%COでバブリングしたAmes medium (Sigma-Aldrich,St Louis, MO; A1420)内に静置して網膜を摘出した。網膜について神経節細胞層が下向きに電極に接触するようにマウントし、光刺激を行い(白色光、1000cd/m、1秒間)網膜神経節細胞の細胞外電位記録を行った。また、AAV2-CAGGS-GR/BvRh-WPRE-pAを注射していない網膜色素変性症モデル(rd1)マウスをコントロールとして、同様の方法で網膜神経節細胞の細胞外電位記録を行った。多電極アレイ測定には、MEA2100-Lite system(Multi-Channel Systems, Reutlingen, Germany)を用いた。その結果を図2に示す。図2中、(a)がコントロールのマウスについてのグラフを示し、図2中、(b)がAAV2-CAGGS-GR/BvRh-WPRE-pAを注射したマウスについてのグラフを示す。なお、図2のグラフ中、横軸は経過時間を示し、矢印で示した領域が光刺激を行った領域を示す。
【0055】
図2に示すように、コントロールにおいては光刺激を行った領域において何の変化もみられなかったが、AAV2-CAGGS-GR/BvRh-WPRE-pAを注射したマウスにおいては、電位が増加したことがわかった。この結果より、GR/BvRhが、網膜色素変性症に対して視覚機能再生効果を有することがわかった。
【0056】
また、上記と同様の手法により多電極アレイ測定を行い、10回分の網膜神経節細胞の発火をラスタープロット表示したもの(図3の上段)と、縦軸に1秒間あたりの発火頻度をとったヒストグラム(図3の下段)を得た。光刺激は0~1秒で行った。図3中、(a)がコントロールのマウスについてのグラフを示し、図3中、(b)がAAV2-CAGGS-GR/BvRh-WPRE-pAを注射したマウスについてのグラフを示す。
【0057】
図3に示すように、コントロールマウスにおいては、光応答がみられなかったのに対し、AAV2-CAGGS-GR/BvRh-WPRE-pAを注射したマウスでは神経節細胞の発火が見られ、視覚再生効果を認められた。
図1
図2
図3
【配列表】
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