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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-26
(45)【発行日】2024-02-05
(54)【発明の名称】有機エレクトロルミネッセンス素子
(51)【国際特許分類】
   H10K 85/30 20230101AFI20240129BHJP
   H10K 50/10 20230101ALI20240129BHJP
   C09K 11/06 20060101ALI20240129BHJP
   H10K 101/10 20230101ALN20240129BHJP
【FI】
H10K85/30
H10K50/10
C09K11/06 660
H10K101:10
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2021509506
(86)(22)【出願日】2020-03-25
(86)【国際出願番号】 JP2020013340
(87)【国際公開番号】W WO2020196624
(87)【国際公開日】2020-10-01
【審査請求日】2023-03-09
(31)【優先権主張番号】P 2019059192
(32)【優先日】2019-03-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】504176911
【氏名又は名称】国立大学法人大阪大学
(74)【代理人】
【識別番号】100168583
【弁理士】
【氏名又は名称】前井 宏之
(72)【発明者】
【氏名】直田 健
(72)【発明者】
【氏名】川守田 創一郎
(72)【発明者】
【氏名】中山 健一
(72)【発明者】
【氏名】有泉 恒亮
【審査官】酒井 康博
(56)【参考文献】
【文献】特表2007-535807(JP,A)
【文献】特開2015-172007(JP,A)
【文献】国際公開第2015/053291(WO,A1)
【文献】KOMIYA, N et al.,Highly Phosphorescent Crystals of Vaulted trans-Bis(salicylaldiminato)platinum(II) Complexes,J. Am. Chem. Soc.,米国,American Chemical Society,2011年04月08日,vol. 133,6493-6496
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H10K 85/30
H10K 50/10
C09K 11/06
H10K 101/10
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
陽極と、陰極と、前記陽極及び前記陰極の間に設けられた発光層とを備える有機エレクトロルミネッセンス素子であって、
前記発光層は、下記一般式(I)、下記一般式(II)、下記一般式(III)又は下記一般式(IV)で表される白金錯体のみを含む、有機エレクトロルミネッセンス素子。
【化1】
(前記一般式(I)、前記一般式(II)、前記一般式(III)及び前記一般式(IV)中、
n1及びn2は、それぞれ独立して、2以上20以下の整数であり、
1及びR2は、それぞれ独立して、ハロゲン原子、炭素原子数1以上32以下のアルキル基、炭素原子数2以上16以下のアルケニル基、炭素原子数2以上16以下のアルキニル基、炭素原子数5以上8以下のシクロアルキル基、炭素原子数1以上16以下のアルコキシ基、アミノ基、炭素原子数1以上16以下のアルキルアミノ基、ヒドロキシ基、カルボキシ基、炭素原子数2以上17以下のアルコキシカルボニル基、フェニル基、フェノキシ基、ニトリル基、ニトロ基又はチオール基であり、
11、R12、R13及びR14は、それぞれ独立して、ハロゲン原子、炭素原子数1以上16以下のアルキル基、炭素原子数2以上16以下のアルケニル基、炭素原子数2以上16以下のアルキニル基、炭素原子数5以上8以下のシクロアルキル基、炭素原子数1以上16以下のアルコキシ基、アミノ基、炭素原子数1以上16以下のアルキルアミノ基、ヒドロキシ基、カルボキシ基、炭素原子数2以上17以下のアルコキシカルボニル基、フェニル基、フェノキシ基、ニトリル基、ニトロ基又はチオール基であり、
a及びcは、それぞれ独立して、0以上2以下の整数であり、
b及びdは、それぞれ独立して、0以上4以下の整数である。)
【請求項2】
前記一般式(I)、前記一般式(II)、前記一般式(III)及び前記一般式(IV)中、a、b、c及びdは、0である、請求項1に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項3】
前記発光層は、前記一般式(I)又は前記一般式(II)で表される白金錯体を含む、請求項1又は2に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項4】
前記発光層は、前記一般式(III)又は前記一般式(IV)で表される白金錯体を含み、
前記一般式(III)及び前記一般式(IV)中、R1及びR2は、それぞれ独立して、炭素原子数1以上32以下のアルキル基である、請求項1又は2に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項5】
前記発光層は、下記化学式(1)で表される白金錯体を含む、請求項1に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【化2】
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機エレクトロルミネッセンス素子(以下、有機EL素子と記載することがある)に関する。
【背景技術】
【0002】
電荷輸送性材料であるホスト化合物と、燐光発光性材料とを発光層中に含む有機EL素子が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】国際公開第2005/112520号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ホスト化合物と燐光発光性材料とを発光層中に含む有機EL素子(以下、ホスト化合物含有素子と記載することがある)では、発光層中の燐光発光性材料の濃度を高めると、有機EL素子の発光効率(以下、単に「発光効率」と記載することがある)が低下する場合がある。一方、ホスト化合物含有素子では、発光層中の燐光発光性材料の濃度が低くなるほど、ホスト化合物と燐光発光性材料との間のエネルギー移動の効率が低下する傾向がある。
【0005】
よって、ホスト化合物含有素子において、発光層中の燐光発光性材料の最適な濃度は、6質量%以上8質量%以下程度とされている。従って、ホスト化合物含有素子では、発光層を形成する際、燐光発光性材料の濃度の許容範囲(プロセスマージン)が狭くなる傾向があるため、生産性を向上させることが困難となる場合がある。
【0006】
本発明は上記の課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、生産性の高い有機EL素子を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る有機EL素子は、陽極と、陰極と、前記陽極及び前記陰極の間に設けられた発光層とを備える。前記発光層は、下記一般式(I)、下記一般式(II)、下記一般式(III)又は下記一般式(IV)で表される白金錯体を含む。
【0008】
【化1】
【0009】
前記一般式(I)、前記一般式(II)、前記一般式(III)及び前記一般式(IV)中、n1及びn2は、それぞれ独立して、2以上20以下の整数である。R1及びR2は、それぞれ独立して、ハロゲン原子、炭素原子数1以上32以下のアルキル基、炭素原子数2以上16以下のアルケニル基、炭素原子数2以上16以下のアルキニル基、炭素原子数5以上8以下のシクロアルキル基、炭素原子数1以上16以下のアルコキシ基、アミノ基、炭素原子数1以上16以下のアルキルアミノ基、ヒドロキシ基、カルボキシ基、炭素原子数2以上17以下のアルコキシカルボニル基、フェニル基、フェノキシ基、ニトリル基、ニトロ基又はチオール基である。R11、R12、R13及びR14は、それぞれ独立して、ハロゲン原子、炭素原子数1以上16以下のアルキル基、炭素原子数2以上16以下のアルケニル基、炭素原子数2以上16以下のアルキニル基、炭素原子数5以上8以下のシクロアルキル基、炭素原子数1以上16以下のアルコキシ基、アミノ基、炭素原子数1以上16以下のアルキルアミノ基、ヒドロキシ基、カルボキシ基、炭素原子数2以上17以下のアルコキシカルボニル基、フェニル基、フェノキシ基、ニトリル基、ニトロ基又はチオール基である。a及びcは、それぞれ独立して、0以上2以下の整数である。b及びdは、それぞれ独立して、0以上4以下の整数である。
【0010】
ある実施形態では、前記一般式(I)、前記一般式(II)、前記一般式(III)及び前記一般式(IV)中のa、b、c及びdは、0である。
【0011】
ある実施形態では、前記発光層は、前記一般式(I)又は前記一般式(II)で表される白金錯体を含む。
【0012】
ある実施形態では、前記発光層は、前記一般式(III)又は前記一般式(IV)で表される白金錯体を含み、前記一般式(III)及び前記一般式(IV)中、R1及びR2は、それぞれ独立して、炭素原子数1以上32以下のアルキル基である。
【0013】
ある実施形態では、前記発光層は、下記化学式(1)で表される白金錯体を含む。
【0014】
【化2】
【0015】
ある実施形態では、前記発光層は、ホスト化合物を更に含む。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、生産性の高い有機EL素子を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の実施形態に係る有機EL素子の構造の一例を示す断面図である。
図2】実施例の有機EL素子における電圧と電流密度との関係を示すグラフである。
図3】実施例の有機EL素子の発光スペクトルを示すグラフである。
図4】実施例の有機EL素子における電圧と輝度との関係を示すグラフである。
図5】実施例の有機EL素子における電流密度と外部量子効率との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の好適な実施形態について説明する。なお、説明が重複する箇所については、適宜説明を省略する場合があるが、発明の要旨を限定するものではない。
【0019】
まず、本明細書中で使用される用語について説明する。「ハロゲン原子」は、フッ素原子、塩素原子、臭素原子又はヨウ素原子を意味する。ハロゲン原子としては、フッ素原子が好ましい。
【0020】
「炭素原子数1以上16以下のアルキル基」は、直鎖状又は分枝鎖状で非置換である。炭素原子数1以上16以下のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基及びヘキサデシル基が挙げられる。炭素原子数1以上16以下のアルキル基としては、炭素原子数1以上13以下のアルキル基が好ましく、炭素原子数1以上8以下のアルキル基がより好ましく、炭素原子数1以上5以下のアルキル基が更に好ましい。
【0021】
「炭素原子数1以上32以下のアルキル基」は、直鎖状又は分枝鎖状で非置換である。炭素原子数1以上32以下のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、オクタデシル基、ノナデシル基、イコシル基、ヘンイコシル基、ドコシル基、トリコシル基、テトラコシル基、ペンタコシル基、ヘキサコシル基、ヘプタコシル基、オクタコシル基、ノナコシル基、トリアコンチル基、ヘントリアコンチル基及びドトリアコンチル基が挙げられる。炭素原子数1以上32以下のアルキル基としては、炭素原子数4以上24以下のアルキル基が好ましく、炭素原子数4以上20以下のアルキル基がより好ましく、炭素原子数5以上16以下のアルキル基が更に好ましい。
【0022】
「炭素原子数2以上16以下のアルケニル基」は、直鎖状又は分枝鎖状で非置換である。炭素原子数2以上16以下のアルケニル基としては、例えば、ビニル基、アリル基、イソプロペニル基、ブテニル基、ペンテニル基、へキセニル基、ヘプテニル基、オクテニル基、ノネニル基、デシニル基、ウンデシニル基、ドデシニル基、トリドデシニル基、テトラデシニル基、ペンタデシニル基及びヘキサデシニル基が挙げられる。炭素原子数2以上16以下のアルケニル基としては、炭素原子数2以上12以下のアルケニル基が好ましく、炭素原子数2以上10以下のアルケニル基がより好ましく、炭素原子数2以上8以下のアルケニル基が更に好ましい。なお、炭素原子数2以上16以下のアルケニル基において、二重結合の位置は限定されない。
【0023】
「炭素原子数2以上16以下のアルキニル基」は、直鎖状又は分枝鎖状で非置換である。炭素原子数2以上16以下のアルキニル基としては、例えば、アセチレニル基、プロピニル基、ブチニル基、ペンチニル基、ヘキシニル基、ヘプチニル基及びオクチニル基が挙げられる。炭素原子数2以上16以下のアルキニル基としては、炭素原子数2以上12以下のアルキニル基が好ましく、炭素原子数2以上10以下のアルキニル基がより好ましく、炭素原子数2以上8以下のアルキニル基が更に好ましい。なお、炭素原子数2以上16以下のアルキニル基において、三重結合の位置は限定されない。
【0024】
「炭素原子数5以上8以下のシクロアルキル基」は、炭素原子数5以上8以下の非置換かつ環状のアルキル基である。炭素原子数5以上8以下のシクロアルキル基としては、例えば、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基及びシクロオクチル基が挙げられる。炭素原子数5以上8以下のシクロアルキル基としては、炭素原子数5以上7以下のシクロアルキル基が好ましく、シクロペンチル基又はシクロヘキシル基がより好ましい。
【0025】
「炭素原子数1以上16以下のアルコキシ基」は、直鎖状又は分枝鎖状で非置換である。炭素原子数1以上16以下のアルコキシ基としては、例えば、メトキシ基、エトキシ基、プロピルオキシ基、ブチルオキシ基、ペンチルオキシ基、ヘキシルオキシ基、ヘプチルオキシ基、オクチルオキシ基、ノニルオキシ基、デシルオキシ基、ウンデシルオキシ基、ドデシルオキシ基、トリデシルオキシ基、テトラデシルオキシ基、ペンタデシルオキシ基及びヘキサデシルオキシ基が挙げられる。「炭素原子数1以上16以下のアルコキシ基」としては、炭素原子数1以上13以下のアルコキシ基が好ましく、炭素原子数1以上8以下のアルコキシ基がより好ましく、炭素原子数1以上5以下のアルコキシ基が更に好ましい。
【0026】
「炭素原子数1以上16以下のアルキルアミノ基」は、直鎖状又は分枝鎖状で非置換である。炭素原子数1以上16以下のアルキルアミノ基としては、例えば、メチルアミノ基、エチルアミノ基、プロピルアミノ基、ブチルアミノ基、ペンチルアミノ基、ヘキシルアミノ基、ヘプチルアミノ基、オクチルアミノ基、ノニルアミノ基、デシルアミノ基、ウンデシルアミノ基、ドデシルアミノ基、トリデシルアミノ基、テトラデシルアミノ基、ペンタデシルアミノ基及びヘキサデシルアミノ基が挙げられる。炭素原子数1以上16以下のアルキルアミノ基としては、炭素原子数1以上13以下のアルキルアミノ基が好ましく、炭素原子数1以上8以下のアルキルアミノ基がより好ましい。
【0027】
「炭素原子数2以上17以下のアルコキシカルボニル基」とは、アルコキシ基とカルボニル基とが結合した基のうち、合計の炭素原子数が2以上17以下の基を意味する。炭素原子数2以上17以下のアルコキシカルボニル基は、非置換であり、かつアルコキシ基部分が直鎖状又は分枝鎖状である。炭素原子数2以上17以下のアルコキシカルボニル基としては、例えば、メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、プロピルオキシカルボニル基、ブチルオキシカルボニル基、ペンチルオキシカルボニル基、ヘキシルオキシカルボニル基、ヘプチルオキシカルボニル基、オクチルオキシカルボニル基、ノニルオキシカルボニル基、デシルオキシカルボニル基、ウンデシルオキシカルボニル基、ドデシルオキシカルボニル基、トリデシルオキシカルボニル基、テトラデシルオキシカルボニル基、ペンタデシルオキシカルボニル基及びヘキサデシルオキシカルボニル基が挙げられる。炭素原子数2以上17以下のアルコキシカルボニル基としては、炭素原子数2以上14以下のアルコキシカルボニル基が好ましく、炭素原子数2以上9以下のアルコキシカルボニル基がより好ましく、炭素原子数2以上6以下のアルコキシカルボニル基が更に好ましい。
【0028】
「ホスト化合物」は、電荷輸送性能を有する材料であり、発光層中において、例えばエネルギーを燐光発光性材料(白金錯体)に供与する役割を担う化合物である。
【0029】
<有機EL素子>
本実施形態に係る有機EL素子は、陽極と、陰極と、陽極及び陰極の間に設けられた発光層とを備える。発光層は、下記一般式(I)、下記一般式(II)、下記一般式(III)又は下記一般式(IV)で表される白金錯体を含む。
【0030】
【化3】
【0031】
一般式(I)、一般式(II)、一般式(III)及び一般式(IV)中、n1及びn2は、それぞれ独立して、2以上20以下の整数である。R1及びR2は、それぞれ独立して、ハロゲン原子、炭素原子数1以上32以下のアルキル基、炭素原子数2以上16以下のアルケニル基、炭素原子数2以上16以下のアルキニル基、炭素原子数5以上8以下のシクロアルキル基、炭素原子数1以上16以下のアルコキシ基、アミノ基、炭素原子数1以上16以下のアルキルアミノ基、ヒドロキシ基、カルボキシ基、炭素原子数2以上17以下のアルコキシカルボニル基、フェニル基、フェノキシ基、ニトリル基、ニトロ基又はチオール基である。R11、R12、R13及びR14は、それぞれ独立して、ハロゲン原子、炭素原子数1以上16以下のアルキル基、炭素原子数2以上16以下のアルケニル基、炭素原子数2以上16以下のアルキニル基、炭素原子数5以上8以下のシクロアルキル基、炭素原子数1以上16以下のアルコキシ基、アミノ基、炭素原子数1以上16以下のアルキルアミノ基、ヒドロキシ基、カルボキシ基、炭素原子数2以上17以下のアルコキシカルボニル基、フェニル基、フェノキシ基、ニトリル基、ニトロ基又はチオール基である。a及びcは、それぞれ独立して、0以上2以下の整数である。b及びdは、それぞれ独立して、0以上4以下の整数である。
【0032】
以下、一般式(I)、一般式(II)、一般式(III)及び一般式(IV)で表される白金錯体を、それぞれ白金錯体(I)、白金錯体(II)、白金錯体(III)及び白金錯体(IV)と記載することがある。また、白金錯体(I)、白金錯体(II)、白金錯体(III)及び白金錯体(IV)からなる群より選ばれる少なくとも1種の白金錯体を、特定白金錯体と記載することがある。本実施形態の有機EL素子は、発光層中に、燐光発光性材料として特定白金錯体のうちの1種又は複数種を含む。
【0033】
本実施形態によれば、生産性の高い有機EL素子を提供できる。その理由は、以下のように推測される。
【0034】
本実施形態に係る有機EL素子では、発光層が特定白金錯体を含む。特定白金錯体が有する配位子は、イミノピラゾール骨格を有するキレート配位子である。より具体的には、特定白金錯体が有する配位子は、下記一般式(V)で表される構造(又は、部分構造)を有する。以下、一般式(V)で表される構造(又は、部分構造)を有する配位子を、IP配位子と記載することがある。なお、一般式(V)中、RAは、一般式(I)中の-(CH2n1-の一部、一般式(II)中の-(CH2n2-の一部、一般式(III)中のR1又は一般式(IV)中のR2である。
【0035】
【化4】
【0036】
特定白金錯体は、IP配位子を2つ有するため、発光層中に高濃度で含まれていても、失活(消光)しにくい傾向がある。このため、本実施形態の有機EL素子は、発光層中の特定白金錯体の濃度に依らず、高い発光効率を示す。よって、本実施形態の有機EL素子は、発光層を形成する際に特定白金錯体の濃度を厳密に調整する必要がないため、プロセスマージンを広く確保できる。従って、本実施形態によれば、生産性の高い有機EL素子を提供できる。
【0037】
[特定白金錯体]
以下、特定白金錯体について詳細に説明する。
【0038】
発光効率をより高めるためには、一般式(V)中のRAが水素原子を含む基(より具体的には、炭素原子数1以上32以下のアルキル基、-(CH2n1-の一部、-(CH2n2-の一部等)であることが好ましい。RAが水素原子を含む基である特定白金錯体が、発光効率をより高めることができる理由は、以下のように推測される。RAが水素原子を含む基である場合、特定白金錯体において、一方のIP配位子におけるRAが有する水素原子と、他方のIP配位子のピラゾール環を構成する窒素原子との間で分子内水素結合が形成されるため、特定白金錯体の平面性が高まると考えられる。平面性が高い燐光発光性材料は失活(消光)しにくい傾向があるため、RAが水素原子を含む基である特定白金錯体は、発光効率をより高めることができると考えられる。
【0039】
発光効率をより高めるためには、特定白金錯体としては、一般式(I)中のaが0である白金錯体(I)、一般式(II)中のbが0である白金錯体(II)、一般式(III)中のcが0である白金錯体(III)、又は一般式(IV)中のdが0である白金錯体(IV)が好ましい。
【0040】
発光効率を更に高めるためには、特定白金錯体としては、白金錯体(I)又は白金錯体(II)が好ましく、一般式(I)中のn1が8以上15以下の整数である白金錯体(I)、又は一般式(II)中のn2が8以上15以下の整数である白金錯体(II)がより好ましい。特定白金錯体として白金錯体(I)又は白金錯体(II)を用いると発光効率が更に高くなる理由は、以下のように推測される。白金錯体(I)は、2個のIP配位子の窒素原子間を、一般式(I)中の-(CH2n1-で表されるアルキレン基で架橋させた渡環型錯体である。また、白金錯体(II)は、2個のIP配位子の窒素原子間を、一般式(II)中の-(CH2n2-で表されるアルキレン基で架橋させた渡環型錯体である。白金錯体(I)及び白金錯体(II)は、結晶状態において、架橋構造部分により、各錯体分子の互いの位置が固定されることで平面性がより高くなると共に、分子振動による熱失活も抑制できると考えられる。このため、特定白金錯体として白金錯体(I)又は白金錯体(II)を用いると、発光効率が更に高くなるものと考えられる。なお、特定白金錯体として、一般式(I)中のn1が8以上15以下の整数である白金錯体(I)、及び一般式(II)中のn2が8以上15以下の整数である白金錯体(II)を併用する場合、n1とn2とは、同一であっても異なっていてもよい。
【0041】
また、発光層が白金錯体(III)又は白金錯体(IV)を含む場合、発光効率をより高めるためには、発光層は、一般式(III)中のR1が炭素原子数1以上32以下のアルキル基である白金錯体(III)、又は一般式(IV)中のR2が炭素原子数1以上32以下のアルキル基である白金錯体(IV)を含むことが好ましく、一般式(III)中のR1が炭素原子数1以上32以下のアルキル基である白金錯体(III)を含むことがより好ましい。なお、特定白金錯体として、一般式(III)中のR1が炭素原子数1以上32以下のアルキル基である白金錯体(III)、及び一般式(IV)中のR2が炭素原子数1以上32以下のアルキル基である白金錯体(IV)を併用する場合、R1とR2とは、同一であっても異なっていてもよい。
【0042】
発光層が白金錯体(I)を含む場合、発光効率をより高めるためには、発光層中に含まれる白金錯体(I)としては、一般式(I)中のn1が8以上15以下の整数である白金錯体(I)が好ましく、一般式(I)中のn1が9以上13以下の整数である白金錯体(I)がより好ましく、一般式(I)中のn1が9以上12以下の整数である白金錯体(I)が更に好ましい。
【0043】
また、発光層が白金錯体(I)を含む場合、発光効率を更に高めるためには、発光層中に含まれる白金錯体(I)としては、一般式(I)中のn1が8以上15以下の整数であり、かつ一般式(I)中のaが0である白金錯体(I)が好ましく、一般式(I)中のn1が9以上13以下の整数であり、かつ一般式(I)中のaが0である白金錯体(I)がより好ましく、一般式(I)中のn1が9以上12以下の整数であり、かつ一般式(I)中のaが0である白金錯体(I)が更に好ましく、下記化学式(1)で表される白金錯体(以下、化合物(1)と記載することがある)が特に好ましい。
【0044】
【化5】
【0045】
発光層が白金錯体(II)を含む場合、発光効率をより高めるためには、発光層中に含まれる白金錯体(II)としては、一般式(II)中のn2が8以上15以下の整数である白金錯体(II)が好ましく、一般式(II)中のn2が9以上13以下の整数である白金錯体(II)がより好ましく、一般式(II)中のn2が9以上12以下の整数である白金錯体(II)が更に好ましい。
【0046】
また、発光層が白金錯体(II)を含む場合、発光効率を更に高めるためには、発光層中に含まれる白金錯体(II)としては、一般式(II)中のn2が8以上15以下の整数であり、かつ一般式(II)中のbが0である白金錯体(II)が好ましく、一般式(II)中のn2が9以上13以下の整数であり、かつ一般式(II)中のbが0である白金錯体(II)がより好ましく、一般式(II)中のn2が9以上12以下の整数であり、かつ一般式(II)中のbが0である白金錯体(II)が更に好ましく、下記化学式(2)で表される白金錯体が特に好ましい。
【0047】
【化6】
【0048】
発光層が白金錯体(III)を含む場合、発光効率をより高めるためには、発光層中に含まれる白金錯体(III)としては、一般式(III)中のR1が炭素原子数1以上32以下のアルキル基である白金錯体(III)が好ましく、一般式(III)中のR1が炭素原子数4以上24以下のアルキル基である白金錯体(III)がより好ましく、一般式(III)中のR1が炭素原子数4以上20以下のアルキル基である白金錯体(III)が更に好ましい。
【0049】
また、発光層が白金錯体(III)を含む場合、発光効率を更に高めるためには、発光層中に含まれる白金錯体(III)としては、一般式(III)中のR1が炭素原子数1以上32以下のアルキル基であり、かつ一般式(III)中のcが0である白金錯体(III)が好ましく、一般式(III)中のR1が炭素原子数4以上24以下のアルキル基であり、かつ一般式(III)中のcが0である白金錯体(III)がより好ましく、一般式(III)中のR1が炭素原子数4以上20以下のアルキル基であり、かつ一般式(III)中のcが0である白金錯体(III)が更に好ましく、下記化学式(3)で表される白金錯体(以下、化合物(3)と記載することがある)又は下記化学式(4)で表される白金錯体(以下、化合物(4)と記載することがある)が特に好ましい。
【0050】
【化7】
【0051】
発光層が白金錯体(IV)を含む場合、発光効率をより高めるためには、発光層中に含まれる白金錯体(IV)としては、一般式(IV)中のR2が炭素原子数1以上32以下のアルキル基である白金錯体(IV)が好ましく、一般式(IV)中のR2が炭素原子数4以上24以下のアルキル基である白金錯体(IV)がより好ましく、一般式(IV)中のR2が炭素原子数4以上20以下のアルキル基である白金錯体(IV)が更に好ましい。
【0052】
また、発光層が白金錯体(IV)を含む場合、発光効率を更に高めるためには、発光層中に含まれる白金錯体(IV)としては、一般式(IV)中のR2が炭素原子数1以上32以下のアルキル基であり、かつ一般式(IV)中のdが0である白金錯体(IV)が好ましく、一般式(IV)中のR2が炭素原子数4以上24以下のアルキル基であり、かつ一般式(IV)中のdが0である白金錯体(IV)がより好ましく、一般式(IV)中のR2が炭素原子数4以上20以下のアルキル基であり、かつ一般式(IV)中のdが0である白金錯体(IV)が更に好ましい。
【0053】
発光効率を特に高めるためには、特定白金錯体としては、白金錯体(I)が好ましく、一般式(I)中のn1が8以上15以下の整数である白金錯体(I)がより好ましく、一般式(I)中のn1が8以上15以下の整数であり、かつ一般式(I)中のaが0である白金錯体(I)が更に好ましく、化合物(1)が特に好ましい。
【0054】
白金錯体(I)は、例えば、下記反応式(RA-1)及び(RA-2)に従って、又はこれに準ずる方法によって合成される。以下、反応式(RA-1)及び(RA-2)で表される反応を、それぞれ、反応(RA-1)及び(RA-2)と記載することがある。なお、反応式(RA-1)で示される一般式(XA)、(XIA)及び(XII)中のR11、a及びn1は、それぞれ、一般式(I)中のR11、a及びn1と同義である。また、反応式(RA-2)で示されるPt-Cоmは、白金化合物を意味する。
【0055】
【化8】
【0056】
反応(RA-1)では、一般式(XA)で表されるアルデヒド誘導体(以下、アルデヒド誘導体(XA)と記載する)と、アルデヒド誘導体(XA)に対して0.5モル当量のジアミン(より詳しくは、一般式(XIA)で表される化合物)とを、溶媒中で加熱することにより、一般式(XII)で表される化合物(以下、化合物(XII)と記載する)を得る。反応(RA-1)の反応温度は、例えば20℃以上100℃以下である。反応(RA-1)の反応時間は、例えば1時間以上48時間以下である。反応(RA-1)で使用される溶媒としては、特に限定されないが、例えば、メタノール、エタノール、ジメチルホルムアミド(以下、DMFと記載することがある)とメタノールとの混合物、及びジメチルスルホキシド(以下、DMSOと記載することがある)が挙げられる。
【0057】
反応(RA-2)では、化合物(XII)と、白金化合物とを、塩基存在下、溶媒中で反応させて、白金錯体(I)を得る。白金化合物としては、例えば、PtCl2(CH3CN)2及びK2PtCl4が挙げられる。塩基としては、例えば、K2CO3、NaH及びトリエチルアミンが挙げられる。反応(RA-2)の反応温度は、例えば20℃以上130℃以下である。反応(RA-2)の反応時間は、例えば1時間以上48時間以下である。反応(RA-2)で使用される溶媒としては、特に限定されないが、例えば、DMFとメタノールとの混合物、DMSO、及びトルエンとDMSOとの混合物が挙げられる。
【0058】
白金錯体(II)は、例えば、下記反応式(RB-1)及び(RB-2)に従って、又はこれに準ずる方法によって合成される。以下、反応式(RB-1)及び(RB-2)で表される反応を、それぞれ、反応(RB-1)及び(RB-2)と記載することがある。なお、反応式(RB-1)で示される一般式(XVIA)、(XIB)及び(XIII)中のR12、b及びn2は、それぞれ、一般式(II)中のR12、b及びn2と同義である。また、反応式(RB-2)で示されるPt-Cоmは、白金化合物を意味する。
【0059】
【化9】
【0060】
反応(RB-1)では、一般式(XVIA)で表されるアルデヒド誘導体(以下、アルデヒド誘導体(XVIA)と記載する)と、アルデヒド誘導体(XVIA)に対して0.5モル当量のジアミン(より詳しくは、一般式(XIB)で表される化合物)とを、溶媒中で加熱することにより、一般式(XIII)で表される化合物(以下、化合物(XIII)と記載する)を得る。反応(RB-1)の反応温度は、例えば20℃以上100℃以下である。反応(RB-1)の反応時間は、例えば1時間以上48時間以下である。反応(RB-1)で使用される溶媒としては、特に限定されないが、例えば、メタノール、エタノール、DMFとメタノールとの混合物、及びDMSOが挙げられる。
【0061】
反応(RB-2)では、化合物(XIII)と、白金化合物とを、塩基存在下、溶媒中で反応させて、白金錯体(II)を得る。白金化合物としては、例えば、PtCl2(CH3CN)2及びK2PtCl4が挙げられる。塩基としては、例えば、K2CO3、NaH及びトリエチルアミンが挙げられる。反応(RB-2)の反応温度は、例えば20℃以上130℃以下である。反応(RB-2)の反応時間は、例えば1時間以上48時間以下である。反応(RB-2)で使用される溶媒としては、特に限定されないが、例えば、DMFとメタノールとの混合物、DMSO、及びトルエンとDMSOとの混合物が挙げられる。
【0062】
白金錯体(III)は、例えば、下記反応式(RC-1)及び(RC-2)に従って、又はこれに準ずる方法によって合成される。以下、反応式(RC-1)及び(RC-2)で表される反応を、それぞれ、反応(RC-1)及び(RC-2)と記載することがある。なお、反応式(RC-1)で示される一般式(XB)、(XIVA)及び(XV)中のR13及びcは、それぞれ、一般式(III)中のR13及びcと同義である。また、反応式(RC-2)で示されるPt-Cоmは、白金化合物を意味する。
【0063】
【化10】
【0064】
反応(RC-1)では、一般式(XB)で表されるアルデヒド誘導体(以下、アルデヒド誘導体(XB)と記載する)と、アルデヒド誘導体(XB)に対して1モル当量のアミン(より詳しくは、一般式(XIVA)で表される化合物)とを、溶媒中で加熱することにより、一般式(XV)で表される化合物(以下、化合物(XV)と記載する)を得る。反応(RC-1)の反応温度は、例えば20℃以上100℃以下である。反応(RC-1)の反応時間は、例えば1時間以上48時間以下である。反応(RC-1)で使用される溶媒としては、特に限定されないが、例えば、メタノール、エタノール、DMFとメタノールとの混合物、及びDMSOが挙げられる。
【0065】
反応(RC-2)では、化合物(XV)と、白金化合物とを、塩基存在下、溶媒中で反応させて、白金錯体(III)を得る。白金化合物としては、例えば、PtCl2(CH3CN)2及びK2PtCl4が挙げられる。塩基としては、例えば、K2CO3、NaH及びトリエチルアミンが挙げられる。反応(RC-2)の反応温度は、例えば20℃以上130℃以下である。反応(RC-2)の反応時間は、例えば1時間以上48時間以下である。反応(RC-2)で使用される溶媒としては、特に限定されないが、例えば、DMFとメタノールとの混合物、DMSO、及びトルエンとDMSOとの混合物が挙げられる。
【0066】
白金錯体(IV)は、例えば、下記反応式(RD-1)及び(RD-2)に従って、又はこれに準ずる方法によって合成される。以下、反応式(RD-1)及び(RD-2)で表される反応を、それぞれ、反応(RD-1)及び(RD-2)と記載することがある。なお、反応式(RD-1)で示される一般式(XVIB)、(XIVB)及び(XVI)中のR14及びdは、それぞれ、一般式(IV)中のR14及びdと同義である。また、反応式(RD-2)で示されるPt-Cоmは、白金化合物を意味する。
【0067】
【化11】
【0068】
反応(RD-1)では、一般式(XVIB)で表されるアルデヒド誘導体(以下、アルデヒド誘導体(XVIB)と記載する)と、アルデヒド誘導体(XVIB)に対して1モル当量のアミン(より詳しくは、一般式(XIVB)で表される化合物)とを、溶媒中で加熱することにより、一般式(XVI)で表される化合物(以下、化合物(XVI)と記載する)を得る。反応(RD-1)の反応温度は、例えば20℃以上100℃以下である。反応(RD-1)の反応時間は、例えば1時間以上48時間以下である。反応(RD-1)で使用される溶媒としては、特に限定されないが、例えば、メタノール、エタノール、DMFとメタノールとの混合物、及びDMSOが挙げられる。
【0069】
反応(RD-2)では、化合物(XVI)と、白金化合物とを、塩基存在下、溶媒中で反応させて、白金錯体(IV)を得る。白金化合物としては、例えば、PtCl2(CH3CN)2及びK2PtCl4が挙げられる。塩基としては、例えば、K2CO3、NaH及びトリエチルアミンが挙げられる。反応(RD-2)の反応温度は、例えば20℃以上130℃以下である。反応(RD-2)の反応時間は、例えば1時間以上48時間以下である。反応(RD-2)で使用される溶媒としては、特に限定されないが、例えば、DMFとメタノールとの混合物、DMSO、及びトルエンとDMSOとの混合物が挙げられる。
【0070】
[有機EL素子の構成]
次に、本実施形態に係る有機EL素子の構成について説明する。
【0071】
(層構成)
本実施形態に係る有機EL素子の層構成は、陽極と、陰極と、陽極及び陰極の間に設けられた発光層とを備える層構成である限り、特に限定されない。本実施形態に係る有機EL素子の層構成としては、例えば、以下に示すC1~C7の層構成が挙げられる。
【0072】
C1:陽極/発光層/陰極
C2:陽極/発光層/電子輸送層/陰極
C3:陽極/正孔輸送層/発光層/陰極
C4:陽極/正孔輸送層/発光層/電子輸送層/陰極
C5:陽極/正孔輸送層/発光層/電子輸送層/電子注入層(陰極バッファー層)/陰極
C6:陽極/正孔注入層(陽極バッファー層)/正孔輸送層/発光層/電子輸送層/陰極
C7:陽極/正孔注入層(陽極バッファー層)/正孔輸送層/発光層/電子輸送層/電子注入層(陰極バッファー層)/陰極
【0073】
また、本実施形態に係る有機EL素子は、陽極又は陰極を支持する基板を有していてもよい。本実施形態に係る有機EL素子が基板を有する場合、本実施形態に係る有機EL素子は、基板と反対側に光を取り出すトップエミッション型であってもよいし、基板側に光を取り出すボトムエミッション型であってもよい。
【0074】
以下、本実施形態に係る有機EL素子の一例として、C7の層構成と陽極を支持する基板とを有し、かつボトムエミッション型の有機EL素子について、図面を参照しながら説明する。参照する図1は、本実施形態に係る有機EL素子の構造の一例を示す断面図である。なお、参照する図1は、理解しやすくするために、それぞれの構成要素を主体に模式的に示しており、図示された各構成要素の大きさ、個数、形状等は、図面作成の都合上から実際とは異なる場合がある。
【0075】
図1に示される有機EL素子10は、基板11と、陽極12と、正孔注入層13と、正孔輸送層14と、発光層15と、電子輸送層16と、電子注入層17と、陰極18とを含む。陽極12、正孔注入層13、正孔輸送層14、発光層15、電子輸送層16、電子注入層17及び陰極18は、この順に基板11上に積層されている。
【0076】
基板11の厚さは、例えば0.1mm以上30mm以下であり、好ましくは0.5mm以上5mm以下である。陽極12の厚さは、例えば10nm以上1000nm以下であり、好ましくは30nm以上200nm以下である。正孔注入層13の厚さは、例えば1nm以上1000nm以下であり、好ましくは5nm以上50nm以下である。正孔輸送層14の厚さは、例えば10nm以上150nm以下であり、好ましくは20nm以上100nm以下である。発光層15の厚さは、例えば3nm以上100nm以下であり、好ましくは5nm以上50nm以下である。電子輸送層16の厚さは、例えば10nm以上150nm以下であり、好ましくは20nm以上100nm以下である。電子注入層17の厚さは、例えば0.1nm以上10nm以下であり、好ましくは0.5nm以上5nm以下である。陰極18の厚さは、例えば10nm以上500nm以下であり、好ましくは50nm以上200nm以下である。
【0077】
有機EL素子10は、例えば、基板11上に、陽極12、正孔注入層13、正孔輸送層14、発光層15、電子輸送層16、電子注入層17及び陰極18を、この順に積層させることにより得られる。基板11上に各層を積層させる際の積層方法は、特に限定されず、各層を構成する材料に応じて、例えば公知の積層方法(より具体的には、スパッタ法、スピンコート法、真空蒸着法、印刷法等)を採用できる。
【0078】
次に、有機EL素子10の各層を構成する好適な材料について説明する。
【0079】
(基板11)
有機EL素子10がボトムエミッション型の有機EL素子であるため、基板11の材料としては、透明性の高い材料(透明性材料)が好ましい。基板11に好適な透明性材料としては、例えば、ガラス材料及び樹脂材料が挙げられる。ガラス材料としては、例えば、石英ガラス及びソーダガラスが挙げられる。樹脂材料としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリカーボネート及びポリアリレートが挙げられる。基板11の材料は、1種のみを使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0080】
(陽極12)
陽極12は、正孔注入層13に正孔を注入する。このため、陽極12の材料としては、仕事関数が比較的大きい材料が用いられる。また、有機EL素子10がボトムエミッション型の有機EL素子であるため、陽極12の材料としては、透明性の高い材料が好ましい。陽極12に好適な材料(仕事関数が比較的大きく、透明性の高い材料)としては、例えば、スズがドープされた酸化インジウム(以下、ITOと記載することがある)、及びフッ素がドープされた酸化スズが挙げられる。陽極12の材料は、1種のみを使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。発光効率をより高めるためには、陽極12の材料としては、ITOが好ましい。
【0081】
(正孔注入層13)
正孔注入層13の材料としては、例えば、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)(PEDOT)とポリスチレンスルホン酸(PSS)とからなる複合物(以下、PEDOT-PSSと記載することがある)、銅フタロシアニン、及びポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)が挙げられる。正孔注入層13の材料は、1種のみを使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。発光効率をより高めるためには、正孔注入層13の材料としては、PEDOT-PSSが好ましい。
【0082】
(正孔輸送層14)
正孔輸送層14の材料としては、例えば、芳香族アミン誘導体、ポリビニルカルバゾール、ポリビニルカルバゾール誘導体、ポリシラン、ポリシラン誘導体、ポリシロキサン誘導体、ピラゾリン誘導体、スチルベン誘導体、ポリアニリン、ポリアニリン誘導体、ポリチオフェン、ポリチオフェン誘導体、ポリピロール、及びポリピロール誘導体が挙げられる。正孔輸送層14の材料は、1種のみを使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。発光効率をより高めるためには、正孔輸送層14の材料としては、芳香族アミン誘導体が好ましく、N,N’-ジ-1-ナフチル-N,N’-ジフェニルベンジジン(以下、NPBと記載することがある)がより好ましい。
【0083】
(発光層15)
発光層15は、上述した特定白金錯体を含む。また、発光層15は、特定白金錯体に加えて、ホスト化合物を含んでいてもよい。発光効率をより高めるためには、発光層15が特定白金錯体及びホスト化合物を含むことが好ましく、発光層15が特定白金錯体及びホスト化合物から構成される(特定白金錯体及びホスト化合物だけで構成される)ことがより好ましい。なお、発光層15がホスト化合物を含む場合、発光層15は、1種のホスト化合物のみを含んでいてもよく、2種以上のホスト化合物を含んでいてもよい。
【0084】
また、発光層15は、特定白金錯体から構成されてもよい。発光層15が特定白金錯体から構成される(特定白金錯体だけで構成される)場合、例えば、発光層15を形成する際に共蒸着が不要となる。よって、有機EL素子10の生産性をより向上させるためには、発光層15が特定白金錯体から構成されることが好ましい。
【0085】
発光層15がホスト化合物を含む場合、発光効率を更に高めるためには、発光層15中の特定白金錯体の濃度は、発光層15の全質量に対して、1質量%以上80質量%以下であることが好ましく、5質量%以上50質量%以下であることがより好ましく、5質量%以上35質量%以下であることが更に好ましい。
【0086】
発光層15がホスト化合物を含む場合、発光効率を更に高めるためには、発光層15中に含まれるホスト化合物としては、4,4’-ビス(9H-カルバゾール-9-イル)ビフェニル(以下、CBPと記載することがある)、1,3-ビス(9-カルバゾリル)ベンゼン、4,4’-ビス(カルバゾール-9-イル)-2,2’-ジメチルビフェニル、ポリビニルカルバゾール、ポリフェニレン及びポリフルオレンからなる群より選ばれる1種以上が好ましく、CBPがより好ましい。
【0087】
(電子輸送層16)
電子輸送層16の材料としては、例えば、2,2’,2’’-(1,3,5-ベンゼントリイル)トリス(1-フェニル-1H-ベンゾイミダゾール)(以下、TPBiと記載することがある)、2-フェニル-4,6-ビス(3,5-ジピリジルフェニル)ピリミジン、ピラジン誘導体、及びフェナントロリン誘導体が挙げられる。電子輸送層16の材料は、1種のみを使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。発光効率をより高めるためには、電子輸送層16の材料としては、TPBiが好ましい。
【0088】
(電子注入層17)
電子注入層17の材料としては、例えば、フッ化リチウム、フッ化マグネシウム及び酸化アルミニウムが挙げられる。電子注入層17の材料は、1種のみを使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。発光効率をより高めるためには、電子注入層17の材料としては、フッ化リチウムが好ましい。
【0089】
(陰極18)
陰極18は、電子注入層17に電子を注入する。このため、陰極18の材料としては、仕事関数の比較的小さい材料が用いられる。陰極18の材料としては、例えば、アルミニウム、銀、マグネシウム、カルシウム及び金が挙げられる。陰極18の材料は、1種のみを使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。発光効率をより高めるためには、陰極18の材料としては、アルミニウムが好ましい。
【0090】
以上、図1を参照しながら本実施形態に係る有機EL素子10(C7の層構成を有する有機EL素子)について説明したが、本発明は、図1に示される有機EL素子10に限定されるものではない。
【0091】
例えば、本発明の有機EL素子は、上述したC1~C6のいずれかの層構成を有していてもよい。本発明の有機EL素子の層構成として、C1~C6のいずれかの層構成を採用する場合、有機EL素子を構成する各層の材料としては、例えば、有機EL素子10における同一名称の層の材料として例示した材料が使用できる。
【0092】
また、本発明の有機EL素子は、陽極と、陰極と、陽極及び陰極の間に設けられた発光層とを備える層構成である限り、上述したC1~C7の層構成とは異なる層構成を有していてもよい。
【0093】
また、本発明の有機EL素子では、発光層の材料として使用される特定白金錯体以外の材料は特に限定されない。よって、本発明の有機EL素子における特定白金錯体以外の材料は、有機EL素子10を構成する材料として例示した材料とは異なっていてもよい。
【実施例
【0094】
以下、本発明の実施例について説明するが、本発明は実施例の範囲に何ら限定されるものではない。なお、白金錯体の核磁気共鳴スペクトル(1H-NMRスペクトル)は、核磁気共鳴装置(バリアン社製「UNITY-INOVA」、共鳴周波数:500MHz)を用いて測定した。白金錯体の1H-NMRスペクトルの測定では、測定溶媒(CDCl3)の残存シグナルを内部基準として使用した。また、白金錯体の固体発光量子収率φは、分光蛍光光度計(日本分光株式会社製「FP-6500N」)、及び積分球ユニット(日本分光株式会社製「INK-533」)を用いて測定した。
【0095】
また、以下で説明する合成方法で得られた化合物(1)、化合物(3)、化合物(4)、化合物(5)及び化合物(6)の分子構造は、いずれもイメージングプレート単結晶自動X線構造解析装置(株式会社リガク製「PAPID-AUTO」)を用い、Mo-Kα線(λ=0.71075Å)により単結晶X線構造解析を行うことで確認した。
【0096】
<白金錯体の合成>
[化合物(1)の合成]
下記反応式(R1-1)及び(R1-2)に従って、化合物(1)を合成した。以下、反応式(R1-1)及び(R1-2)で表される反応を、それぞれ、反応(R1-1)及び(R1-2)と記載することがある。
【0097】
【化12】
【0098】
反応(R1-1)では、ピラゾール-3-カルボアルデヒド(0.480g、5.0mmol)と、1,12-ドデカンジアミン(0.501g、2.5mmol)とを、エタノール(50mL)に加え、得られた混合物を加熱して還流させた(還流時間:20時間)。その後、減圧下で反応液から溶媒(エタノール)を除去し、配位子であるN,N’-(ドデカン-1,12-ジイル)ビス[1-(1H-ピラゾール-5-イル)メタンイミン](以下、配位子1-1と記載することがある)を黄色液体として得た。得られた配位子1-1は、精製せずに次の反応である反応(R1-2)に使用した。
【0099】
反応(R1-2)では、アルゴン雰囲気下、配位子1-1(0.891g、2.5mmol)、PtCl2(CH3CN)2(0.870g、2.5mmol)及びK2CO3(4.146g、30.0mmol)を、トルエン(300mL)とDMSO(75mL)との混合溶媒中で、温度120℃の条件で24時間加熱した。その後、減圧下で反応液からトルエンを除去し、析出した固体をろ過(固液分離)により分離した。次いで、分離した固体を酢酸エチル(400mL)中に溶解させた。次いで、得られた溶液を飽和食塩水(200mL)で3回洗浄した後、洗浄後の液から有機層を分離した。次いで、分離した有機層をNa2SO4で乾燥させた後、乾燥させた有機層をろ過した。次いで、得られたろ液を減圧濃縮することにより、粗生成物を得た。次いで、展開溶媒としてCH2Cl2/ヘキサン(体積比:CH2Cl2/ヘキサン=3/7)を用いて、得られた粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(充填剤:アミノ修飾シリカゲル)にて精製することにより、化合物(1)を黄色固体として得た(収量:0.345g、収率:25%)。得られた化合物(1)の1H-NMRスペクトルの化学シフト値δ(単位:ppm)を以下に示す。
【0100】
化合物(1):1H-NMR(500MHz,CDCl3) δ=0.93-1.05(m,2H),1.12-1.41(m,14H),1.55-1.65(m,2H),2.20-2.31(m,2H),3.39(ddd,J=11.1,11.1,3.0Hz,2H),5.34(dddd,J=11.1,4.7,3.9,1.1Hz,2H),6.62(d,J=2.1Hz,2H),7.68(d,J=2.1Hz,2H),7.84(s,2H).
【0101】
[化合物(3)の合成]
下記反応式(R3-1)及び(R3-2)に従って、化合物(3)を合成した。以下、反応式(R3-1)及び(R3-2)で表される反応を、それぞれ、反応(R3-1)及び(R3-2)と記載することがある。
【0102】
【化13】
【0103】
反応(R3-1)では、ピラゾール-3-カルボアルデヒド(0.480g、5.0mmol)と、ペンチルアミン(0.436g、5.0mmol)とを、エタノール(30mL)に加え、得られた混合物を加熱して還流させた(還流時間:24時間)。その後、減圧下で反応液から溶媒(エタノール)を除去し、配位子であるN-ペンチル-1-(1H-ピラゾール-5-イル)メタンイミン(以下、配位子3-1と記載することがある)を黄色液体として得た。得られた配位子3-1は、精製せずに次の反応である反応(R3-2)に使用した。
【0104】
反応(R3-2)では、アルゴン雰囲気下、配位子3-1(0.360g、2.0mmol)、PtCl2(CH3CN)2(0.348g、1.0mmol)及びK2CO3(1.658g、12.0mmol)を、トルエン(120mL)とDMSO(30mL)との混合溶媒中で、温度120℃の条件で24時間加熱した。その後、減圧下で反応液からトルエンを除去し、析出した固体をろ過(固液分離)により分離した。次いで、分離した固体を酢酸エチル(200mL)中に溶解させた。次いで、得られた溶液を飽和食塩水(200mL)で3回洗浄した後、洗浄後の液から有機層を分離した。次いで、分離した有機層をNa2SO4で乾燥させた後、乾燥させた有機層をろ過した。次いで、得られたろ液を減圧濃縮することにより、粗生成物を得た。次いで、展開溶媒としてCH2Cl2/ヘキサン(体積比:CH2Cl2/ヘキサン=2/3)を用いて、得られた粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(充填剤:アミノ修飾シリカゲル)にて精製することにより、化合物(3)をオレンジ色固体として得た(収量:0.330g、収率:63%)。得られた化合物(3)の1H-NMRスペクトルの化学シフト値δ(単位:ppm)を以下に示す。
【0105】
化合物(3):1H-NMR(500MHz,CDCl3) δ=0.90(t,J=7.0Hz,6H),1.32-1.43(m,8H),1.78-1.86(m,4H),4.26(t,J=7.0Hz,4H),6.57(d,J=2.1Hz,2H),7.65(d,J=2.1Hz,2H),7.70(s,2H).
【0106】
[化合物(4)の合成]
下記反応式(R4-1)及び(R4-2)に従って、化合物(4)を合成した。以下、反応式(R4-1)及び(R4-2)で表される反応を、それぞれ、反応(R4-1)及び(R4-2)と記載することがある。
【0107】
【化14】
【0108】
反応(R4-1)では、ピラゾール-3-カルボアルデヒド(0.380g、4.0mmol)と、ヘキサデカンアミン(0.970g、4.0mmol)とを、エタノール(50mL)に加え、得られた混合物を加熱して還流させた(還流時間:24時間)。その後、減圧下で反応液から溶媒(エタノール)を除去し、配位子であるN-ヘキサデカン-1-(1H-ピラゾール-5-イル)メタンイミン(以下、配位子4-1と記載することがある)を黄色液体として得た。得られた配位子4-1は、精製せずに次の反応である反応(R4-2)に使用した。
【0109】
反応(R4-2)では、アルゴン雰囲気下、配位子4-1(1.280g、4.0mmol)、PtCl2(CH3CN)2(0.700g、2.0mmol)及びK2CO3(3.320g、24.0mmol)を、トルエン(400mL)とDMSO(100mL)との混合溶媒中で、温度120℃の条件で24時間加熱した。その後、減圧下で反応液からトルエンを除去し、析出した固体をろ過(固液分離)により分離した。次いで、分離した固体を酢酸エチル(150mL)中に溶解させた。次いで、得られた溶液を飽和食塩水(200mL)で3回洗浄した後、洗浄後の液から有機層を分離した。次いで、分離した有機層をNa2SO4で乾燥させた後、乾燥させた有機層をろ過した。次いで、得られたろ液を減圧濃縮することにより、粗生成物を得た。次いで、展開溶媒としてCH2Cl2/ヘキサン(体積比:CH2Cl2/ヘキサン=2/8)を用いて、得られた粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(充填剤:アミノ修飾シリカゲル)にて精製することにより、化合物(4)をオレンジ色固体として得た(収量:0.270g、収率:21%)。得られた化合物(4)の1H-NMRスペクトルの化学シフト値δ(単位:ppm)を以下に示す。
【0110】
化合物(4):1H-NMR(500MHz,CDCl3) δ=0.89(t,6H),1.20-1.36(m,48H),1.36-1.44(m,4H),1.81-1.90(m,4H),4.37(t,4H),6.62(d,2H),7.66(d,2H),7.87(s,2H).
【0111】
[比較化合物の合成]
比較化合物として、下記化学式(5)で表される化合物(以下、化合物(5)と記載することがある)、及び下記化学式(6)で表される化合物(以下、化合物(6)と記載することがある)を、それぞれ合成した。
【0112】
【化15】
【0113】
化合物(5)は、配位子を合成する際、ピラゾール-3-カルボアルデヒド(5.0mmol)の代わりに下記化学式(5A)で表される化合物(5.0mmol)を使用したこと以外は、化合物(1)の合成と同じ方法で合成した。また、化合物(6)は、配位子を合成する際、ピラゾール-3-カルボアルデヒド(5.0mmol)の代わりに下記化学式(6A)で表される化合物(5.0mmol)を使用したこと以外は、化合物(1)の合成と同じ方法で合成した。
【0114】
【化16】
【0115】
<固体発光量子収率φの測定>
得られた化合物(1)、化合物(3)、化合物(4)、化合物(5)及び化合物(6)を、それぞれ再結晶化した後、得られた結晶のそれぞれについて、温度298K及び温度77Kにおける固体発光量子収率φ(単位:%)を測定した。再結晶化する際の再結晶溶媒としては、化合物(3)についてはクロロホルムを用い、化合物(1)、化合物(4)、化合物(5)及び化合物(6)についてはトルエンを用いた。
【0116】
固体発光量子収率φの測定は、励起光として波長420nmの光を使用し、絶対法により行った。また、測定する際、酸素の影響を除くため、サンプル(化合物(1)の結晶、化合物(3)の結晶、化合物(4)の結晶、化合物(5)の結晶及び化合物(6)の結晶のいずれか)を、石英セル中に入れて、石英セル内においてアルゴンガスを1分間流通させた後、アルゴンガス雰囲気下で測定した。更に、温度77Kにおける測定では、石英製デュワー冷却器を用いて、結晶を入れた上記石英セルを液体窒素で冷やしながら測定した。測定で得られた発光スペクトルは、標準光源を利用することにより補正を行った。固体発光量子収率φの算出には、固体量子効率計算プログラム(日本分光株式会社製)を用いた。また、サンプル(化合物(1)の結晶、化合物(3)の結晶、化合物(4)の結晶、化合物(5)の結晶及び化合物(6)の結晶のいずれか)が発する光の極大波長(固体発光極大波長)も、併せて測定した。固体発光量子収率φ及び固体発光極大波長の結果を表1に示す。
【0117】
【表1】
【0118】
表1に示すように、化合物(1)、化合物(3)及び化合物(4)は、比較化合物である化合物(5)及び化合物(6)に比べ、温度298K(室温)における固体発光量子収率φが高かった。この結果から、化合物(1)、化合物(3)及び化合物(4)が固体発光素子である有機EL素子に好適であることが示された。
【0119】
<有機EL素子の作製>
実施例の有機EL素子として、上述した合成方法により得られた化合物(1)を用いて有機EL素子D-1~D-3を作製した。以下、有機EL素子D-1~D-3の作製方法について説明する。なお、以下の説明において、「蒸着速度」は、単位時間あたりに形成される膜の厚さ(成膜速度)である。
【0120】
[有機EL素子D-1の作製]
まず、以下に示す材料を準備した。
【0121】
透明基材D-1a:ガラス基板(厚さ:0.7mm)上に、スパッタ法により150nmの厚さでITOからなる膜(陽極)が形成された透明基材
正孔注入層用塗布液D-1b:PEDOT-PSS(Bayer社製「Baytron P Al4083」)
正孔輸送層用材料D-1c:NPB
燐光発光性材料D-1d:化合物(1)
ホスト化合物D-1e:CBP
電子輸送層用材料D-1f:TPBi
電子注入層用材料D-1g:フッ化リチウム
陰極用材料D-1h:アルミニウム
【0122】
準備した透明基材D-1aを、アセトン中で10分間超音波洗浄した後、2-プロパノール中で10分間超音波洗浄した。次いで、超音波洗浄した透明基材D-1aを、2-プロパノール中で5分間煮沸洗浄し、窒素ガスで乾燥させた後、UVオゾン洗浄した。
【0123】
次いで、UVオゾン洗浄した透明基材D-1aの陽極上に、スピンコート法により正孔注入層用塗布液D-1bを塗布した。スピンコート法による塗布条件は、回転速度が5000rpmであり、回転時間が40秒であった。次いで、塗布された正孔注入層用塗布液D-1bを、温度120℃で20分間加熱することにより、陽極上に正孔注入層(厚さ:20nm)を形成した。
【0124】
次いで、上記正孔注入層上に、真空蒸着法(真空度:1×10-4Pa)により正孔輸送層用材料D-1cを蒸着し、正孔輸送層(厚さ:30nm)を得た。正孔輸送層用材料D-1cを蒸着する際の蒸着速度は、1.5Å/秒であった。
【0125】
次いで、上記正孔輸送層上に、真空蒸着法(真空度:1×10-4Pa)により、燐光発光性材料D-1dとホスト化合物D-1eとを共蒸着し、燐光発光性材料D-1d及びホスト化合物D-1eから構成される発光層(厚さ:15nm、発光層中の燐光発光性材料D-1dの濃度:発光層の全質量に対して20質量%)を得た。燐光発光性材料D-1dとホスト化合物D-1eとを共蒸着する際の燐光発光性材料D-1dの蒸着速度は、0.4Å/秒であった。また、燐光発光性材料D-1dとホスト化合物D-1eとを共蒸着する際のホスト化合物D-1eの蒸着速度は、1.6Å/秒であった。なお、燐光発光性材料D-1d及びホスト化合物D-1eの上記蒸着速度は、いずれも単独で蒸着した場合の蒸着速度に換算した値である。
【0126】
次いで、上記発光層上に、真空蒸着法(真空度:1×10-4Pa)により電子輸送層用材料D-1fを蒸着し、電子輸送層(厚さ:50nm)を得た。電子輸送層用材料D-1fを蒸着する際の蒸着速度は、2.0Å/秒であった。
【0127】
次いで、上記電子輸送層上に、真空蒸着法(真空度:1×10-4Pa)により電子注入層用材料D-1gを蒸着し、電子注入層(厚さ:0.8nm)を得た。電子注入層用材料D-1gを蒸着する際の蒸着速度は、0.1Å/秒であった。
【0128】
次いで、上記電子注入層上に、真空蒸着法(真空度:1×10-4Pa)により陰極用材料D-1hを蒸着し、陰極(厚さ:100nm)を得た。陰極用材料D-1hを蒸着する際の蒸着速度は、8.0Å/秒であった。以上の工程により、有機EL素子D-1を得た。
【0129】
[有機EL素子D-2の作製]
発光層の形成方法を以下に示す方法に変更したこと以外は、有機EL素子D-1の作製と同じ方法により有機EL素子D-2を得た。
【0130】
(有機EL素子D-2の発光層の形成方法)
正孔輸送層上に、真空蒸着法(真空度:1×10-4Pa)により燐光発光性材料D-1dを蒸着し、燐光発光性材料D-1dから構成される(燐光発光性材料D-1dだけで構成される)発光層(厚さ:10nm)を得た。燐光発光性材料D-1dを蒸着する際の蒸着速度は、2.0Å/秒であった。
【0131】
[有機EL素子D-3の作製]
発光層の形成方法を以下に示す方法に変更したこと以外は、有機EL素子D-1の作製と同じ方法により有機EL素子D-3を得た。
【0132】
(有機EL素子D-3の発光層の形成方法)
正孔輸送層上に、真空蒸着法(真空度:1×10-4Pa)により燐光発光性材料D-1dを蒸着し、燐光発光性材料D-1dから構成される(燐光発光性材料D-1dだけで構成される)発光層(厚さ:30nm)を得た。燐光発光性材料D-1dを蒸着する際の蒸着速度は、2.0Å/秒であった。
【0133】
<評価方法>
以下、有機EL素子D-1~D-3の評価方法について説明する。なお、以下で説明する評価は、いずれも室温(298K)下で行った。
【0134】
[電流密度]
直流電圧/電流源(ケースレー・インスツルメンツ社製「Model 2400」)を用いて、有機EL素子D-1~D-3のそれぞれに直流電圧を印加した際の電流密度を測定した。結果を図2に示す。図2に示すように、電圧6V以上8V以下の範囲において、発光層中にホスト化合物を含有しない有機EL素子D-2及びD-3は、発光層中にホスト化合物を含有する有機EL素子D-1よりも電流密度が高かった。
【0135】
[発光スペクトル]
直流電圧/電流源(ケースレー・インスツルメンツ社製「Model 2400」)を用いて有機EL素子D-1~D-3のそれぞれに7Vの電圧を印加した際の発光スペクトルを、分光放射計(株式会社トプコン製「SR-3」)により測定した。結果を図3に示す。なお、図3の縦軸の規格化発光強度とは、波長450nm以上750nm以下の範囲で測定した波長ごとの発光強度を、波長450nm以上750nm以下の範囲の最大発光強度により除して規格化した発光強度を意味する。図3に示すように、有機EL素子D-1~D-3のそれぞれの発光スペクトルのピーク位置は、一致していた。また、別途、ガラス基板上に化合物(1)からなる薄膜(厚さ:60nm)を設けたサンプル(以下、サンプルTFと記載する)を作製し、波長400nmの励起光を上記薄膜に照射した際の発光スペクトルを、紫外・可視分光光度計(大塚電子株式会社製「MCPD-3700」)により測定した。測定したサンプルTFの発光スペクトル(図示せず)のピーク位置は、有機EL素子D-1~D-3の発光スペクトルのピーク位置と一致していた。
【0136】
[輝度及び外部量子効率]
直流電圧/電流源(ケースレー・インスツルメンツ社製「Model 2400」)を用いて有機EL素子D-1~D-3のそれぞれに電圧を印加した際の輝度を、輝度計(コニカミノルタ株式会社製「LS-110」)を用いて測定することにより、電流密度-電圧-輝度特性を評価した。また、直流電圧/電流源(ケースレー・インスツルメンツ社製「Model 2400」)を用いて有機EL素子D-1~D-3のそれぞれに電圧を印加した際の発光スペクトルを、輝度計(コニカミノルタ株式会社製「LS-110」)を用いて測定した。得られた電流密度-電圧-輝度特性及び発光スペクトルに基づいて、輝度換算法により有機EL素子D-1~D-3の外部量子効率を算出した。結果を図4及び図5に示す。図4は、有機EL素子D-1~D-3における電圧と輝度との関係を示すグラフである。また、図5は、有機EL素子D-1~D-3における電流密度と外部量子効率との関係を示すグラフである。
【0137】
図4に示すように、電圧6V以上8V以下の範囲において、発光層中にホスト化合物を含有しない有機EL素子D-2及びD-3は、発光層中にホスト化合物を含有する有機EL素子D-1よりも輝度が高かった。
【0138】
図5に示すように、有機EL素子D-2及びD-3では、発光層中にホスト化合物が含有されていなくても0.4%程度の外部量子効率が得られた。また、発光層中にホスト化合物を含有する有機EL素子D-1では、2.0%程度の外部量子効率が得られた。
【0139】
以上の結果から、本発明によれば、発光層中の特定白金錯体の濃度に依らず、発光効率の高い有機EL素子(即ち、生産性の高い有機EL素子)を提供できることが示された。
【産業上の利用可能性】
【0140】
本発明に係る有機EL素子は、生産性の高い有機EL素子として有用である。
【符号の説明】
【0141】
10 :有機EL素子(有機エレクトロルミネッセンス素子)
12 :陽極
15 :発光層
18 :陰極
図1
図2
図3
図4
図5