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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-26
(45)【発行日】2024-02-05
(54)【発明の名称】乳化粉末の製造方法
(51)【国際特許分類】
   A23L 27/00 20160101AFI20240129BHJP
   A23L 23/10 20160101ALI20240129BHJP
   A23D 9/007 20060101ALI20240129BHJP
   A23D 9/013 20060101ALI20240129BHJP
   A23L 7/109 20160101ALI20240129BHJP
【FI】
A23L27/00 A
A23L23/10
A23D9/007
A23D9/013
A23L7/109 Z
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020036842
(22)【出願日】2020-03-04
(65)【公開番号】P2021136909
(43)【公開日】2021-09-16
【審査請求日】2022-07-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000226976
【氏名又は名称】日清食品ホールディングス株式会社
(72)【発明者】
【氏名】那須 元太郎
(72)【発明者】
【氏名】内藤 厚憲
【審査官】高山 敏充
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-153120(JP,A)
【文献】特開2015-192639(JP,A)
【文献】特開2010-051183(JP,A)
【文献】特開昭63-062535(JP,A)
【文献】特開2018-153119(JP,A)
【文献】特開2007-222139(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23D
A23L
Google
日経テレコン
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
1)精製水、澱粉分解物、ポリグリセリン脂肪酸エステル及びレシチンを攪拌混合して第一乳化液を調製する工程、
2)食用油及びシュガーエステルを攪拌混合し溶解させ第二乳化液を調製する工程、
3)前記第一乳化液中に前記第二乳化液を添加し、撹拌・混合する工程、
4)前記混合後の乳化液を噴霧乾燥する工程、
の各工程を含む乳化粉末の製造方法。
【請求項2】
前記第一乳化液又は第二乳化液においてシーズニングオイル及び/ 又は香料が添加される請求項に記載の乳化粉末の製造方法。
【請求項3】
前記乳化粉末が加工食品に含有又は添付される粉末調味料である請求項1又は2に記載の乳化粉末の製造方法。
【請求項4】
請求項1~のいずれかに記載の製造方法により製造される乳化粉末を含有又は添付した加工食品。
【請求項5】
前記加工食品が即席カップめんである請求項3又は4に記載の加工食品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乳化粉末の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
即席麺の分野においては、鍋で調理するのが一般的な袋めんと、お湯を注湯してから喫食する即席カップめんの2つの大きな種類がある。ここで、鍋で袋めんを調理する場合、コンロやIH等を利用して加熱しながら沸騰水中に即席麺塊を投入し、攪拌等を伴いながら所定時間の加熱調理をすることが一般的である。一方、即席カップめんの場合、熱湯を注湯して所定時間保持してから喫食するのが一般的である。
袋めんの調理においては、煮沸させながら加熱して調理するため、麺塊からの溶出する澱粉質と油分が煮沸されることによって生じる乳化物状の白濁物が生じることが多い。
【0003】
また、当該白濁物が鍋等で加熱調理された袋めんに特有の成分となっており、独特に風味を調理後の即席麺に付与することが知られている。
一方、即席カップめんにおいては、熱湯を注加するのみで袋めんのように煮沸させながら加熱調理をすることは無く、前述のような煮沸による乳化した白濁物が少ない状態となっている。
【0004】
このため、カップめんにおいても袋めんの調理感を再現することが求められている。すなわち、袋めんを鍋等の沸騰させた熱湯中で加熱調理したの際のゆで汁に見られる特有の乳化状の白濁物をカップめんにおいても再現することができれば好適である。
一方、このような目的に対する先行技術は開示されていない。一方、これに関連するものとして“穀物を水と共に加熱した際に生じる茹で、炊き又は蒸し等の加熱調理をした際の風味(調理感)”呈する風味付与剤として以下の先行技術が開示されているのみである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特願2018-227990号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで、本発明者らは、袋めんのように加熱しながら調理する工程(鍋炊き調理)を経て完成する調理商品に見られる、澱粉と油脂が一体となった乳化状態(白濁状態)について熱湯を注加するだけで再現できるような素材を開発することを課題とした。
また、このような粉末乳化物を利用すれば即席カップめんのみならず、様々な種類の加工食品に利用することが期待できる。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らの鋭意研究の結果、
精製水、澱粉分解物、ポリグリセリン脂肪酸エステル及びレシチンを加え加温しながら攪拌混合溶解させ第一乳化液を調製する工程、
食用油及びシュガーエステルを攪拌混合し溶解させ第二乳化液を調製する工程、
前記第一乳化液中に前記第二乳化液を添加し、撹拌・混合する工程、
前記混合後の乳化液を噴霧乾燥する工程、
の各工程を含む乳化粉末の製造方法、によって得られる乳化粉末が、当該乳化粉末を熱湯等に溶解させた際に上述の白濁状の乳化物を再現できることを見出した。このようにして本発明を完成させたのである。
すなわち、本願第一の発明は、
“1)精製水、澱粉分解物、ポリグリセリン脂肪酸エステル及びレシチンを攪拌混合して第一乳化液を調製する工程、
2)食用油及びシュガーエステルを攪拌混合し溶解させ第二乳化液を調製する工程、
3)前記第一乳化液中に前記第二乳化液を添加し、撹拌・混合する工程、
4)前記混合後の乳化液を噴霧乾燥する工程、
の各工程を含む乳化粉末の製造方法。“、である。
【0008】
次に、第一の発明においてレシチンについては、第二乳化液に添加してもよい。
すなわち、本願第二の発明は、
“1)精製水、澱粉分解物及びポリグリセリン脂肪酸エステルを加え攪拌混合して第一乳化液を調製する工程、
2)食用油、シュガーエステル及びレシチンを攪拌混合して第二乳化液を調製する工程、
3)前記第一乳化液中に前記第二乳化液を添加し、撹拌・混合する工程、
4)前記混合後の乳化液を噴霧乾燥する工程、
の各工程を含む乳化粉末の製造方法。“、である。
【0009】
次に、請求項1又は2に記載の第一乳化液又は第二乳化液に対しては、シーズニングオイル及び/又は香料を添加することが好適である。
すなわち、本願第三の発明は、
“前記第一乳化液又は第二乳化液においてシーズニングオイル及び/又は香料が添加される請求項1又は2に記載の乳化粉末の製造方法。”、である。
【0010】
次に、請求項1~3のいずれかに記載の粉末乳化剤は加工食品に利用されるのが好適である。すなわち、本願第四の発明は、
“前記乳化粉末が加工食品に含有又は添付される粉末調味料である請求項1~3のいずれかに記載の乳化粉末の製造方法。”、である。
【0011】
次に、本発明は請求項1~4のいずれかに記載した製造方法により製造される乳化粉末を含有又は添付等した加工食品、も意図している。
すなわち、本願第五の発明は、
“請求項1~4のいずれかに記載の製造方法により製造される乳化粉末を含有又は添付した加工食品。”、である。
【0012】
次に請求項4又は5に記載の加工食品は、即席カップめんである場合に好適に利用することができる。
すなわち、本願第六の発明は、
“前記加工食品が即席カップめんである請求項4又は5に記載の加工食品。”、である。
【発明の効果】
【0013】
本発明を利用することで、袋めんのように加熱しながら調理する工程(鍋炊き調理)を経て完成する調理商品に見られる、澱粉と油脂が一体となった乳化状態(白濁状態)について熱湯を注加するだけで再現できるような素材を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に本発明の実施の形態を説明する。但し、本発明はこれらの実施態様に限定されるものではない。本発明は以下の構成を有する。
1)精製水、澱粉分解物、ポリグリセリン脂肪酸エステル(及びレシチン)を加え加温しながら攪拌混合溶解させ第一乳化液を調製する工程、
2)食用油(シーズニングオイル、香料及びトコフェロールを必要により添加)及び乳化剤(シュガーエステル)(及びレシチン)を攪拌混合し溶解させ第二乳化液を調製する工程、
3)前記第一乳化液中に前記第二乳化液を添加し、撹拌・混合する工程、
4)前記混合後の乳化液を噴霧乾燥する工程、
の各工程を含む乳化粉末の製造方法。
以下にこれらの内容について詳細を説明する。
【0015】
◎第一乳化液(水系)
・澱粉分解物
本発明の水系の第一乳化液には澱粉分解物を利用する。前述のように本澱粉分解物が麺塊からの溶出する澱粉質と油質が煮ることによって生じする乳化物状の白濁物のベースとなる。また、使用するデキストリンによって乳化状態が異なる。
澱粉分解物ととしては種々のタイプを用いることができるが、澱粉分解物(デキストリン)の場合、その分解の程度としてDE(dextrose equivalent:ぶどう糖を100とした場合の糖液の持つ還元力を固形分当りにしたもの)がDE3~25のものが好ましい、特にDE5~16のものが好適である。
【0016】
本発明においては、このように種々の糖類又はデキストリンを各々単独で又は複数の組合せで、更には糖類及びデキストリンの両者を併用して利用することができるが、これらの糖類及び/又はデキストリンを選択する基準としては、乳化状態と、本発明の乳化粉末の使用の用途と食味への影響を考慮すればよい。
澱粉分解物の使用量については特に限定されないが、第一乳化液中において概ね25~50重量%程度の濃度であれば好適である。
【0017】
・水
本発明の水系の第一乳化液に利用するために必要である。すなわち、上述の澱粉分解物を溶解するために水を利用する。また、水系の香料を添加する場合、水を含む第一乳化液に添加するこが可能である。第一乳化液に添加可能な香料の具体的には、揮発性が高く、水に溶解可能な香料をいう。本発明については、当該水系香料について安定した乳化状態を形成させることも可能である。本発明においては、揮発性成分としては、トリメチルアミンやピロリジン、トリメチルアミンやピロリジン、ピリジン、モノメチルアミン、ジメチルアミン、モノエチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、アンモニア等の揮発性の高く水に溶解可能な成分が挙げられる。
【0018】
・ポリグリセリン脂肪酸エステル
本発明にいうポリグリセリン脂肪酸エステルとは、グリセリンが脱水縮合によりポリグ
リセリンと、当該ポリグリセリンの一部に脂肪酸がエステル結合したものである。HLBの
幅が広いため他の乳化剤より広い範囲での利用が可能である。
本発明に使用するポリグリセリン脂肪酸エステルは、平均重合度が8~12程度であれ
ば利用可能である。また、好ましくは9~10程度である。
さらに、親水性(親油性)を示す指標として、HLB値(Hydrophilic Lipophilic Balance
)とは界面活性剤の水と油(水に不溶性の有機化合物)への親和性の程度を表す値をいうが
、本発明で用いるポリグリセリン脂肪酸エステルは、第一乳化液において、HLB値が15.
5~17程度のタイプを利用することができる。また、さらに好ましくは、16~17程
度が好適である。
ポリグリセリン酸脂肪酸エステルの濃度については、特に限定されないが、第一乳化液中において概ね0.001~0.1重量%程度の濃度であれば好適である。
【0019】
・レシチン
本発明においてはレシチンを利用する。レシチンについては第一乳化液及び/又は第二乳化液の何れかにおいて利用する。本発明におけるレシチンは、通常のレシチンの他に酵素分解リゾレシチン等の種々のタイプを用いることができる。当該レシチンを含有することでより乳化を促進することができる。また、本発明にいうレシチンとは、通常のレシチンの他のタイプ(リゾレシチン等)も含むものとする。
【0020】
レシチンは、脂肪酸である疎水基と親水基を有し、油と水の乳化作用を有する。種々の生物の膜中に存在している。グリセロリン脂質の一種であり、自然界の動植物においてすべての細胞中に存在しており、生体膜の主要構成成分である。
原料としては、卵黄(卵黄レシチン)や大豆(大豆レシチン)が挙げられる。また、特に本願発明においてはリゾレシチンも用いることが好適である。ここで、リゾレシチンとは、レシチンの2位の脂肪酸がホスホリパーゼにより加水分解してより水溶性を高めたものをいう。
【0021】
リゾレシチンの性状は、粉末状やペースト状のタイプがあるが、本発明においてはいず
れのタイプを用いることができるが、本発明における第二乳化液においては粉末状のタイ
プを利用することが好ましい。
また、レシチンやリゾレシチンに含まれるリン脂質としては、ホスファチジルコリン、ホ
スファチジルエタノールアミン等が挙げられる。
本発明において、レシチン(リゾレシチンを含む)については、その濃度は特に限定されないが、概ね第一乳化液又は第二乳化液中において0.1重量%~1.5重量%程度の濃度であれば好適である。
【0022】
・調製の順序
第一乳化液においては、好ましくは、精製水に澱粉分解物を加えて混合・溶解させた状態でポリグリセリン酸脂肪酸エステルとレシチンを加えて加温しながら攪拌混合し溶解させることによって調製することが好ましい。また、撹拌は1500~3000rpmの範囲内で、3分~8分程度で行うことが好ましい。尚、必要に応じて水系香料等も添加することができる。尚、レシチンについては以下に説明する第二乳化液に混合してもよい。
【0023】
◎第二乳化液(油系)
─食用油─
本発明にいう食用油としては種々のオイルを利用することができるが、すなわち、植物油脂、動物油脂等の種々の食用油を使用することができる。より、具体的には、植物油脂としては、キャノーラ油、パーム油、菜種油、米油、コーン油、オリーブ油、白絞油、ひまわり油等の種々の植物油脂が挙げられる。また、動物油脂としては、豚脂、牛脂、鶏油等の種々のオイルを利用することができる。
また、本発明にいう食用油は植物性油脂、動物性油脂のいずれも用いることができるが、常温で液状油脂が好ましい。本発明においては、特にパーム油、キャノーラ油が好ましい。
【0024】
─シュガーエステル─
本発明にいうシュガーエステル(ショ糖脂肪酸エステル)は、親水基のショ糖と、親油基の食用油脂から得られる脂肪酸で構成された乳化剤である。シュガーエステルとも称する。ショ糖分子中には水酸基に、結合させる脂肪酸の種類と数を変化させることにより、幅広い性質、機能を持たせることができる。
本発明で用いる第二乳化液におけるシュガーエステル(ショ糖脂肪酸エステル)のHLB値(Hydrophilic Lipophilic Balance:界面活性剤の水と油(水に不溶性の有機化合物への親和性の程度)は1~3程度のタイプを利用するのが好ましい。
シュガーエステル(ショ糖脂肪酸エステル)の濃度については、特に限定されないが、第一乳化液中において概ね0.001~0.1重量%部度の濃度であれば好適である。
【0025】
○香料及び/又はシーズニングオイル
本発明においては、乳化粉末に対してフレーバーを付与するために種々のシーズニングオイルを利用することができる。シーズニングオイルとしては、種々のタイプを利用することができる。
特に、本発明においては麺のゆで汁における乳化物を再現することを目的としているため、上記の食用油に対して、ゆで汁由来の香気成分を添加することが好適である。具体的には、香料としては2,4-デカジエナール、メチオナール、2-アセチル-1-ピロリン、2-アセチル-1,4,5,6-テトラヒドロピリジン、2-アセチル-3,4,5,6-テトラヒドロピリジン、2-アセチルチアゾール等を添加することが好ましい。
【0026】
尚、これらについては、単品ではなく、これらの組み合わせを添加することが好ましい。
具体的には、2,4-デカジエナール及びメチオナールの組み合わせや、これにさらに2-アセチル-1-ピロリン、2-アセチル-1,4,5,6-テトラヒドロピリジン、2-アセチル-3,4,5,6-テトラヒドロピリジン、2-アセチルチアゾールのいずれかや、これらの組み合わせを添加する方法がある。
【0027】
さらに、これらの香料としての添加ではなく、同じく穀物の茹で又は炊き当の加熱調理をした際の調理感を呈する風味付与剤として、プロリン、糖類、穀粉、アルカリ剤、水及び食用油を加熱して製造する風味付与剤を利用することも可能である。また、この場合、前記糖類はフルクトース又はグルコースであることが好ましい。また、前記穀粉については小麦粉又は米粉を利用することが好適である。
【0028】
これらの香料成分や風味付与剤を添加することで、“穀物を水と共に加熱した際に生じる茹で、炊き又は蒸し等の加熱調理した際の風味(調理感)”を付与することができる。このため、本発明における乳化粉末について即席カップめん等に本発明の乳化粉末を利用した場合に本発明の目的とする
【0029】
○ビタミンE
本発明においては、ビタミンE(トコフェロール)を添加することが好ましい。ビタミンEを添加することで油脂分の酸化を防止することができる。これによって本発明の粉末乳化剤の保存安定性を確保することができる。また、ビタミンE以外の抗酸化剤も利用できる。
ビタミンEの濃度については、特に限定されないが、第二乳化液中において概ね0.001~0.1重量%部度の濃度であれば好適である。
【0030】
○その他の添加物
前記の第一乳化液及び第二乳化液に対しては香料、フレーバー以外にその他の種々の添加物を添加することが可能である。例えば、肉系のエキス(植物エキス、動物エキス)や香辛料、各種澱粉質や蛋白加水分解物等を添加することが可能である。
【0031】
・第二乳化液の混合の順序
食用油を加温し(50~60℃)。次に、シュガーエステル、ビタミンE、(レシチン)、を加え、加温撹拌・混合を行う。当該状態で500~1500rpmで3分~10分程度撹拌を実施して溶解させることが好ましい。尚、レシチンについては、第一乳化液に添加してもよい。
【0032】
◎前記第一乳化液中に前記第二乳化液を添加し、撹拌・混合する工程
(1)混合割合
前記第一乳化液に、前記第二乳化液を添加して均一になるまで攪拌・混合し最終的な乳化物を得る。最終的な第一乳化液(水系)と第二乳化液(油系)の混合割合は、1:9~5:5程度である。また、好ましくは2:8~4;6程度である。
【0033】
(2)混合方法
種々の混合方法が可能であるが、乳化状態を維持しつつ混合を完成させるために、前記第一乳化液を準備しておき、当該第一乳化液に対して上部より第二乳化液を滴下して添加する。滴下の速度は概ね20ml~70ml/分(1kg作成時)程度が好適である。さらに好ましくは、30ml~50ml/分(1kg作成時)程度である。
【0034】
◎前記混合後の乳化液を噴霧乾燥する工程
噴霧乾燥については通常の方法を利用することができる。具体的な噴霧条件は特に限定されるものではないが、入口温度が140℃~170℃、出口温度が70℃~90℃程度である。ノズル方式、アトマイザー方式のいずれも可能である。
【0035】
○本発明の粉末乳化物の利用範囲
本発明の粉末乳化物は様々な食品分野で利用できる。特に、加工食品に有効に利用することができる。特に熱湯を注加して喫食することができる各種の加工食品に利用することができる。例えば、即席カップめんを始めとして、即席カップスープ、即席カップライス等、レトルト食品を挙げることができる。尚、即席カップめんに使用する麺塊を利用する場合、当該麺塊についてはフライ処理された麺塊、又は熱風乾燥された麺塊のいずれも利用可能であるがフライ処理された麺塊により好適に利用することができる。例えば、これらに対する添付調味料又は添付スープとして利用することができる。
また、熱湯を注加する商品のみならず、鍋等で加熱する商品に利用してもよい。これらに使用することで澱粉質を加熱調理した際の風味を一層付与することができる。
【実施例
【0036】
以下に本発明の実施例を説明する。但し、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
評価試験1(試験例1~6:各種レシチンを利用した場合、第一乳化液及び第二乳化液のいずれかに各種レシチンを入れた場合の変動)
添加するレシチンの種類及び第一乳化液又は第二乳化液に添加した場合について検討した。
【0037】
[試験例1](第一乳化液にレシチンを加えた場合)
精製水50gに澱粉分解物(パインデックス#1(登録商標)DE値5) 松谷化学工業)29.4gを加えて混合・溶解させた後に、ポリグリセリン脂肪酸エステル(ポリグリエステルL-7D 三菱化学フーズ社製)0.7gとレシチン(SLPホワイト 辻製油)0.2gを加え、50℃で加温しながら攪拌混合し溶解させた。5分間撹拌を十分に行い、第一乳化液を調製した。
また、食用油脂(パーム油またはキャノーラ油)19.25重量部を加温して、ビタミンE(理研Eオイル600)0.1重量部、ショ糖脂肪酸エステル(リョートーシュガーエステルO-170 HLB1)5重量部を加えて1000rpm 5分間攪拌混合して溶解させ、第二乳化液を調製した。
【0038】
次に、温度を45℃±5℃に保ちながら上述の第一乳化液に対して、第二乳化液を滴下して均一になるまで攪拌混合し乳化状態とした。
当該得られた乳化液の乳化状態について評価した。評価は、以下の10段階で行い、以
下の評価基準とした。
1(乳化状態 悪:乳化物の分離が多い(72時間静置後)、常温)⇔10(乳化状態 良:乳化の分離少ない(72時間静置後)、常温)とした。
、尚、評価は、熟練の技術者3名で行い、客観的な分離を目視で実施した。
その他の評価項目として、乳化液の混合の際の操作性についても評価の対象とした。評価
は乳化液の調製時間、各成分の溶解性等によって判断した。評価は以下の5段階で行った
。1(乳化液の調製が容易ではない 悪)⇔10(乳化液の調製が容易である 良)とした。結果を表1に示す。
【0039】
上記で得られた乳化液をストレーナー処理後、スプレードライ機(東京理化機械株式会社、噴霧乾燥機:スプレードライヤーSD-1000型)によって160℃~170℃付近で噴霧乾燥して乳化粉末を得た。
【0040】
[試験例2]
試験例1において第一乳化液の調製においてレシチンの代わりにリゾレシチン(SLP-ホワイトリゾ、辻製油(株))を用いた点を除いて試験例1と同様にした。
【0041】
[試験例3]
試験例1において第一乳化液の調製においてレシチンの代わりに分別レシチン(SLP-PC70、辻製油(株))を用いた点を除いて試験例1と同様にした。
【0042】
[試験例4](第二乳化液にレシチンを加えた場合)
精製水50gに澱粉分解物(パインデックス#1(登録商標)DE値5) 松谷化学工業)29.4gを加えて混合・溶解させた後に、ポリグリセリン脂肪酸エステル(ポリグリエステルL-7D 三菱化学フーズ社製)0.7gを加え、50℃で加温しながら攪拌混合し溶解させた。5分間撹拌を十分に行い、第一乳化液を調製した。
次に第二乳化液として、食用油脂(パーム油)19.25重量部を加温して、ビタミンE(理研Eオイル600)0.1重量部、ショ糖脂肪酸エステル(リョートーシュガーエステルO-170 HLB1)5重量部及びとレシチン(SLPホワイト 辻製油)0.2gを加えて1000rpm 5分間攪拌混合して溶解させ、第二乳化液を調製した。
次に、温度を45℃±5℃に保ちながら上述の第一乳化液に対して、第二乳化液を滴下して均一になるまで攪拌混合し乳化状態とした。当該得られた乳化液の乳化状態について評価した。評価は試験例1と同様である。
【0043】
[試験例5]
試験例4において第一乳化液の調製においてレシチンの代わりにリゾレシチン(SLP-ホワイトリゾ、辻製油(株))を用いた点を除いて試験例1と同様にした。
【0044】
[試験例6]
試験例4において第一乳化液の調製においてレシチンの代わりに分別レシチン(SLP-PC70、辻製油(株))を用いた点を除いて試験例1と同様にした。
【0045】
【表1】
【0046】
─結果─
第一乳化液及び第二乳化液に対して、レシチン、リゾレシチン、分別レシチンの何れかを用いた場合について調べた。これらのうち、レシチン、リゾレシチンが好ましいことが分かった。また、レシチンは第一乳化液又は第二乳化液のいずれにも使用できることが分かった。
【0047】
評価試験2(試験例7~12:第一乳化液の澱粉分解物に各種DE値の澱粉分解物を利用した場合の変動)
第一乳化液の澱粉分解物の種類(DE値)を変動させた場合について調べた。
【0048】
【表2】
【0049】
─結果─
第一乳化液の澱粉分解物について種々のDE(5~25)のタイプを利用して試験した。その結果、乳化状態について5~18の範囲が好ましいことが判明した。さらに好ましくは5~16の範囲であることがわかった。
【0050】
評価試験3(試験例13~15:実際に調製した乳化粉末を商品(袋めん等)に添加した場合の実施例)
[試験例13](鍋炊き調理)
フライ処理して得られたフライ麺塊70g(小麦粉9部及び澱粉1部を主成分として、水、かん水を添加して混練しドウを形成させ、当該ドウを圧延した後、切り出して0.8mmの丸型麺線としたものを蒸煮した後、型枠に収めてフライ処理することによって、フライ麺塊を得たもの)をコンロで加熱煮沸中の熱湯350ml中に投入し、2分間、コンロで加熱しながら麺線をほぐして加熱調理した。当該加熱後においてコンロの火を消してから、粉末スープ7g(醤油系)を添加して攪拌して調理を終了した。得られた調理後の袋めんを丼に移して喫食に供した。
【0051】
[試験例14](熱湯注加のみで本発明の乳化粉末を加えた場合)
比較例1で利用したフライ麺塊に対して、以下の調製方法によって調製した粉末乳化剤を添加して熱湯注加によって調理して喫食試験に供した。
[乳化粉末の調製]
精製水50gに澱粉分解物(パインデックス2)29.4gを加えて混合・溶解させた。ポリグリセリン脂肪酸エステル(ポリグリエステルL-7D 三菱化学フーズ社製 HLB15.5~17)0.7gとレシチン(SLPホワイト 辻製油)0.2gを加え、50℃で加温しながら攪拌混合し溶解させた。
次に、第二乳化液として、食用油脂(キャノーラ油)340重量部及びビタミンE 0.3重量部、シュガーエステル(リョートーシュガーエステルO-170 HLB1)5重量部を加えて1000rpm 5分間攪拌混合して溶解させ、第二乳化液を調製した。
【0052】
尚、食用油脂(キャノーラ油)には、2,4-デカジエナール、メチオナール、2-アセチル-1-ピロリン、2-アセチル-1,4,5,6-テトラヒドロピリジン及び2-アセチル-3,4,5,6-テトラヒドロピリジンを添加しておいたものを利用した。
次に、上述の第一乳化液に対して、第二乳化液を滴下して混合した、滴下する速度は、第
一乳化液を10~20量部/分となるように滴下しつつ混合した。
得られた乳化液をノズル式の市販の噴霧乾燥装置(スプレードライ装置)(東京理化機械株式会社)によって熱風温度160℃、排風温度85℃で噴霧乾燥を行い、乳化粉末を得た。
比較例1で利用したフライ麺塊(70g)をカップ状容器に収納し、粉末スープ7g(醤油系)及び上記の調製方法で得た乳化粉末を0.1g加え、熱湯330mlを加えた後、上部に蓋をして3分間保持した後、調理後の喫食に供した。
【0053】
[試験例15](熱湯注加のみで乳化粉末を添加しないもの)
試験例14において、本発明の乳化粉末0.1gをフライ麺塊(70g)を収納したカップ状容器に添加しない点を除いて、試験例14と同様に処理し、調理後の喫食に供した。
試験例13~15について官能検査は熟練のパネラー3名によって、行い。鍋炊き調理の袋めんのスープにおける乳化状態(乳濁感)を評価対象とした。
【0054】
結果として乳化粉末を添加した試験例14(乳化粉末+熱湯注湯)においては、試験例13(鍋炊き調理)で得られたのと同様ないわゆる鍋炊き調理における乳化状態のスープを得ることができ、鍋炊き調理感を得ることができた。
一方、乳化粉末を添加しない試験例15では、試験例13で得られた鍋炊き調理タイプの乳化状態のスープを得ることはできなかった。