(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-26
(45)【発行日】2024-02-05
(54)【発明の名称】量子ドットの製造方法
(51)【国際特許分類】
C01G 21/00 20060101AFI20240129BHJP
C09K 11/08 20060101ALI20240129BHJP
C01G 19/00 20060101ALI20240129BHJP
B82Y 40/00 20110101ALI20240129BHJP
H01L 31/0352 20060101ALI20240129BHJP
【FI】
C01G21/00
C09K11/08 A ZNM
C01G19/00 A
B82Y40/00
H01L31/04 342A
(21)【出願番号】P 2020102926
(22)【出願日】2020-06-15
【審査請求日】2022-06-23
(73)【特許権者】
【識別番号】000002060
【氏名又は名称】信越化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100102532
【氏名又は名称】好宮 幹夫
(74)【代理人】
【識別番号】100194881
【氏名又は名称】小林 俊弘
(72)【発明者】
【氏名】野島 義弘
(72)【発明者】
【氏名】青木 伸司
(72)【発明者】
【氏名】鳶島 一也
【審査官】青木 千歌子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/220165(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/139446(WO,A1)
【文献】中国特許出願公開第111909694(CN,A)
【文献】特開2021-62334(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01G 21/00,21/16
C09K 11/08
C01G 19/00
B82Y 40/00
H01L 31/04
JSTPlus/JSTChina/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ペロブスカイト型の量子ドットの製造方法であって、
それぞれ異なる元素を含む複数の前駆体溶液を用い、前記複数の前駆体溶液をそれぞれ加熱し、
前記前駆体溶液の温度を20~250℃とし、前記前駆体溶液のエアロゾルとしてそれぞれ噴霧し、複数の前記エアロゾルを衝突させて気相反応させ、
前記前駆体溶液の温度よりも低い温度であって-10~20℃の温度とした溶媒に滴下することにより
反応を停止させて、前記異なる元素を含むコア粒子を合成することを特徴とする量子ドットの製造方法。
【請求項2】
前記噴霧を、1流体ノズル又は2流体ノズルを用いて行うことを特徴とする請求項1に記載の量子ドットの製造方法。
【請求項3】
前記噴霧を超音波方式で行うことを特徴とする請求項1に記載の量子ドットの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、量子ドットの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
粒子径がナノサイズである半導体結晶粒子は量子ドットと呼ばれ、光吸収により生じた励起子がナノサイズの領域に閉じ込められることにより、半導体結晶粒子のエネルギー準位は離散的となり、また、そのバンドギャップは粒子径により変化する。これらの効果により、量子ドットの蛍光発光は一般的な蛍光体と比較して、高輝度かつ高効率かつその発光はシャープである。
【0003】
また、量子ドットは、その粒子径によりバンドギャップが変化するという特性から、発光波長を制御できるという特徴を有しており、固体照明やディスプレイの波長変換材料としての応用が期待されている。例えばディスプレイに量子ドットを波長変換材料として用いることで、従来の蛍光体材料よりも広色域化、低消費電力化が実現できる。
【0004】
量子ドットを波長変換材料として用いる実装方法として、量子ドットを樹脂材料中に分散させ、透明フィルムで量子ドットを含有した樹脂材料をラミネートすることで、波長変換フィルムとしてバックライトユニットに組み込む方法が提案されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【非特許文献】
【0006】
【文献】Journal of the American Chemical Society, 1993, vol.115, p. 8706-8715
【文献】Nano Letters 2015, Vol.15, Issue 6, p3692-3696
【文献】Journal of American Chemical Society 2003, Vol.125, Issue 41, p12567-12575
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、量子ドットは粒子径によってバンドギャップが変化し、発光波長がシフトすることにより、目的の波長を得るために粒子径をナノメートルオーダーで制御しなければならないという問題や、さらに、粒子径のばらつきにより発光がブロードになるという問題がある。量子ドットは一般的に溶液中で前駆体を反応させコロイド粒子として合成されているが、溶液反応においてこのように粒子径をナノメートルサイズで精密に制御することは容易ではない。さらに、工業化に際しスケールアップした場合は、溶液反応では前駆体の濃度ムラや温度分布の問題もあり、粒子径の制御がさらに困難となる。
【0008】
一般的な量子ドットの合成方法として、ホットインジェクション法が用いられている。ホットインジェクション法とは、不活性雰囲気下において高温で加熱されたCd、Inなどの金属元素の前駆体の溶液にS、Se、Pなどの前駆体溶液を素早く投入し、均一な核発生により粒子径の揃ったナノサイズのコロイド粒子を合成する方法である(非特許文献1)。
【0009】
しかし、このホットインジェクション法は、フラスコサイズの小スケールの合成においては均一な粒子径のナノ粒子の合成が可能であるが、数十L、数百Lの大スケールの合成においては前駆体溶液の投入時に局所濃度ムラが発生し、ナノ粒子の均一性が悪くなるという問題が発生する。またこの局所濃度ムラは合成スケールが大きくなるほど大きくなり、粒子径の不均一性の問題となる。
【0010】
特に、一般的なペロブスカイト型の量子ドットの製造方法としてホットインジェクション法を行った後、急冷することで反応を停止し、粒子径の制御を行っている(非特許文献2)。しかし、合成スケールが大きくなると加熱状態からの急冷が難しくなるため、粒子径制御がより困難となる。
【0011】
本発明は、上記問題を解決するためになされたものであり、粒子径の制御を高精度に行いながら、大スケールの合成においても均一な粒子径のナノ粒子を得ることができる量子ドットの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、上記目的を達成するためになされたものであり、ペロブスカイト型の量子ドットの製造方法であって、それぞれ異なる元素を含む複数の前駆体溶液を用い、前記複数の前駆体溶液をそれぞれ加熱し、前記前駆体溶液のエアロゾルとしてそれぞれ噴霧し、複数の前記エアロゾルを衝突させて気相反応させ、溶媒に滴下することにより前記異なる元素を含むコア粒子を合成する量子ドットの製造方法を提供する。
【0013】
このような量子ドットの製造方法によれば、粒子径の制御を高精度に行いながら、大スケールの合成においても均一な粒子径のナノ粒子を得ることができる。
【0014】
このとき、前記噴霧を、1流体ノズル又は2流体ノズルを用いて行うことが好ましい。
【0015】
このような噴霧の方法によれば、粒子径の制御をより精度良く行いながら、大スケールの合成においてもより精度良く均一な粒子径のナノ粒子を得ることができる。
【0016】
このとき、前記噴霧を超音波方式で行うことが好ましい。
【0017】
このような噴霧の方法によれば、粒子径の制御をより精度良く行いながら、大スケールの合成においてもより精度良く均一な粒子径のナノ粒子を得ることができる。
【発明の効果】
【0018】
以上のように、本発明の量子ドットの製造方法によれば、粒子径の制御を高精度に行いながら、大スケールの合成においても均一な粒子径のナノ粒子を得ることができる。また、これにより所望の発光波長を有し、発光波長の分布が狭い量子ドットを得ることができる。また、本発明に係る量子ドットを波長変換材料や画像表示装置に用いることで、色再現性の良い波長変換材料や画像表示装置を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明の実施形態の一例(実施例1)を示す図である。
【
図2】本発明の実施形態の一例(実施例2)を示す図である。
【
図3】比較例1で用いた量子ドットを製造する装置を示す図である。
【
図4】比較例2で用いた量子ドットを製造する装置を示す図である。
【
図5】比較例3で用いた量子ドットを製造する装置を示す図である。
【
図6】比較例4で用いた量子ドットを製造する装置を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0021】
上述のように、大スケールの合成における量子ドットの粒子径の不均一化およびそれに伴う発光波長の分布の増大という問題があり、粒子径の制御を高精度に行いながら、大スケールの合成においても均一な粒子径のナノ粒子を得ることができる量子ドットの製造方法が求められていた。
【0022】
すなわち、本発明者らは、上記課題について鋭意検討を重ねた結果、ペロブスカイト型の量子ドットの製造方法であって、それぞれ異なる元素を含む複数の前駆体溶液を用い、前記複数の前駆体溶液をそれぞれ加熱し、前記前駆体溶液のエアロゾルとしてそれぞれ噴霧し、複数の前記エアロゾルを衝突させて気相反応させ、溶媒に滴下することにより前記異なる元素を含むコア粒子を合成する量子ドットの製造方法により、粒子径の制御を行い、大スケールの合成においても均一な粒子径のナノ粒子を得ることができることを見出し、本発明を完成した。
【0023】
本発明に係る量子ドットの製造方法で製造する量子ドットはペロブスカイト型であれば特に限定されず、コアシェル構造を有しても良く、また複数のシェルを有するものであっても良い。
【0024】
量子ドットの組成は特に制限されず、製造した量子ドットを用いて作製する波長変換材料、光学素子に応じ適宜選択することが可能である。
【0025】
ペロブスカイト型の量子ドットのコア粒子の組成としては、 CsPbCl3、 CsPbBr3、 CsPbI3、 CH3NH3PbCl3、 CH3NH3PbBr3、 CH3NH3PbI3、 CsSnCl3、 CH3NH3SnCl3、 CsSnBr3、 CH3NH3SnBr3、 CsSnI3、 CH3NH3SnI3、 Cs2TiCl6、 Cs2TiBr6、 Cs2TiI6、 CH3NH3Bi2Cl9、 CH3NH3Bi2Br9、 CH3NH3Bi2I9、 Cs2AgInCl6、 Cs2AgInBr6、 Cs2AgInI6、 Cs2CuInCl6、 Cs2CuInBr6、 Cs2CuInI6、 Cs2AgGaCl6、 Cs2AgGaBr6、 Cs2AgGaI6、 Cs2CuGaCl6、 Cs2CuGaBr6、 Cs2CuGaI6及びこれらの混晶などが例示される。
【0026】
ペロブスカイト型の量子ドットのシェル層の組成としては、 ZnSe、 ZnS、 AlP、 AlN、 GaN、 Ga2S3、 MgSe、 MgSなどが例示される。シェル層は1層であっても良く、また2層以上であっても良く、コア粒子の組成や目的に応じ適宜変更できる。また、シェルの合成方法は特に制限されず適宜選択できる。シェル合成方法としては、異なる元素のシェル前駆体溶液を交互に滴下し反応させるSILAR(Successive Ion Layer Adsorption and Reaction)法(非特許文献3)などが例示される。
【0027】
コア粒子及びシェル層のサイズ、形状は特に限定されず、目的の発光波長、特性に合わせ適宜選択できる。例えば、コア粒子は2~6nmとすることができ、シェル層の厚さは0.4~3nmとすることができる。
【0028】
さらに、ペロブスカイト型の量子ドットの表面に有機分子や無機分子、あるいはポリマーの被覆層をさらに有していても良い。また、それらの構造は制限されず、被覆層の厚さも目的に応じ適宜選択できる。被覆層の厚さは特に制限されないが、量子ドットの粒子径が100nm未満であれば、分散性の低下と、それに伴う光透過率の低下や凝集の発生がより有効に抑制されるため、量子ドットの粒子径が100nm未満となる程度の厚さとすることが望ましい。
【0029】
被覆層としては、ステアリン酸、オレイン酸、パルミチン酸、ジメルカプトコハク酸、オレイルアミン、ヘキサデシルアミン、オクタデシルアミン、1-ドデカンチオールなどの有機分子や、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリシルセスキオキサン、ポリメタクリル酸メチル、ポリアクリロニトリル、ポリエチレングリコールなどのポリマーや、シリカ、アルミナ、チタニア、ジルコニア、酸化亜鉛、酸化ガリウムなどの無機分子が例示される。
【0030】
以下、本発明に係る量子ドットの製造方法について図面を参照して説明する。
【0031】
図1は、本発明の実施形態の一例を示す図である。
図1は、反応容器10に収納されている溶媒11を撹拌棒12で撹拌しているところに、前駆体溶液13aと、前駆体溶液13aとは異なる元素を含む前駆体溶液14aをそれぞれ加熱し、流体ノズル15を用いて、前駆体溶液13aのエアロゾル13bと前駆体溶液14aのエアロゾル14bとして噴霧し、エアロゾル13bとエアロゾル14bとを衝突させて気相反応させ、溶媒11に滴下することにより、異なる元素を含むコア粒子を合成している様子を示している。
図1の例では、それぞれ異なる元素を含む前駆体溶液として2種類の前駆体溶液を用いているが、本発明に係る量子ドットの製造方法では、さらに多くの前駆体溶液を用いることができる。
【0032】
図1の下部は、反応容器10内の点線で囲われた部分を拡大した模式図である。流体ノズル15によって霧化した前駆体溶液13a、14aは、気相反応し、極微小な液滴16となって溶媒11に滴下される。反応容器10に収納された溶媒11は、加熱した前駆体溶液13a、14aと比べて温度が低い。本発明に係る量子ドットの製造方法において、エアロゾル13b、14bの衝突時に気相反応し、反応容器10中の溶媒11に液滴16となって滴下されて急冷されることで反応停止する。
【0033】
本発明のように複数の前駆体溶液をエアロゾル化して気相反応させれば、前駆体溶液が微細な液滴となって、全ての液滴の表面積の合計が大きくなり、溶液同士の衝突確率が高くなり、溶媒中で反応させるよりも反応性が向上し、生成粒子のばらつきが抑制できる。そのため、本発明に係る量子ドットの製造方法によれば、生成粒子のサイズのばらつきが小さくなり、粒子径の制御を高精度に行いながら、大スケールの合成においても均一な粒子径のナノ粒子を得ることができる。
【0034】
また、ペロブスカイト型の量子ドットの製造時における温度、濃度等の合成条件は特に制限されず、その組成や目的の発光特性に応じ適宜選択できる。例えば、反応容器内での溶媒の温度は-10~20℃とすることができる。室温以下の温度に冷却することが好ましい。一方、噴霧する前駆体溶液の温度は20~250℃とすることができ、濃度としては0.01~3.0M(mol/L)とできる。
【0035】
本発明に係るコア粒子の合成において、加熱したそれぞれ異なる元素を含む複数の前駆体溶液を噴霧し、エアロゾルの状態で衝突させて気相反応させる方法における、エアロゾル状態は、800μm以下の液体コロイド状態とすることが好ましい。エアロゾルの微粒子のサイズは噴霧方法、噴霧条件により制御することが可能であり、求める量子ドットの特性に応じ適宜選択することができる。エアロゾル状態での噴霧方法は特に制限されず、合成装置のスケールや目的の量子ドットの特性に合わせ選択できる。
【0036】
噴霧方法としては、不活性ガスキャリアを用いた1流体ノズルや2流体ノズルが例示される。特に2流体ノズルを用いることで、微粒化性能が高く、比較的低圧で微粒化することができ、また、ノズルの詰まりが起こりにくく好ましい。一般的に量子ドットの合成は酸素や湿気を除外するために不活性ガス雰囲気下で行われるため、キャリアガスが不活性ガスとすることが好ましい。不活性ガスの種類は自由に選択でき、窒素やアルゴンなどが例示される。1流体ノズルおよび2流体ノズルの構造や噴霧圧力、噴霧流量は特に制限されず、目的のペロブスカイト型の量子ドットの特性や反応条件により適宜選択できる。また、液体の供給方式としては液加圧方式やサクション方式などがあるが、前駆体溶液の性質により適宜選択できる。さらにノズルの噴霧パターンは扇状や円錐状などがあるが、合成スケールや前駆体溶液の反応性などに応じ適宜変更できる。
【0037】
別の好ましい噴霧方法としては、超音波方式による噴霧方法がある。超音波方式による噴霧方法には、超音波ノズルにより直接前駆体溶液を噴霧する方法と、超音波霧化により前駆体溶液をコロイド化し、キャリアガスによりコロイド状の前駆体を噴霧する方法などがある。噴霧方法としては特に制限されず、合成装置のスケールや目的の量子ドットの特性に合わせ選択できる。
【0038】
また、噴霧方法としては上記方式を有するノズルを複数個用いても良く、前駆体溶液に合わせて異なる方式を組み合わせても良く、合成装置のスケールや合成条件に応じ適宜変更できる。
【0039】
また、本発明に係る量子ドットを用いて、波長変換材料を提供することができる。波長変換材料としては、例えば、波長変換フィルムやカラーフィルタなどの用途が挙げられるが、これらの用途に限定されない。本発明に係る量子ドットの効果により、目的の発光波長を有する、色再現性が良く、発光効率の良い波長変換材料を得ることができる。
【0040】
例えば、本発明に係る量子ドットを樹脂と混合することで、量子ドットを樹脂中に分散させ、さらに、樹脂材料をラミネートすることで、本発明に係る量子ドットを含有した波長変換フィルムを得ることができる。この工程においては、量子ドットを溶媒に分散させたものを樹脂に添加、混合し、樹脂中に分散させることができる。また、溶媒を除去し粉体状となった量子ドットを樹脂に添加し、混練することで樹脂中に分散させることもできる。あるいは樹脂の構成要素のモノマーやオリゴマーを量子ドット共存下で重合させる方法がある。量子ドットの樹脂中への分散方法は特に制限されず、例示した方法以外にも目的に応じ適宜選択できる。
【0041】
量子ドットを分散させる溶媒は、用いる樹脂との相溶性があれば良く、特に制限されない。また樹脂材料は特に制限されず、シリコーン樹脂、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂等を所望の特性に応じ適宜選択できる。これらの樹脂は、波長変換材料として効率を高めるため透過率が高いことが望ましく、透過率が80%以上であることが特に望ましい。
【0042】
また、波長変換材料には量子ドット以外の物質が含まれていても良く、光散乱体としては、シリカやジルコニア、アルミナ、チタニアなどの微粒子が含まれていても良く、無機蛍光体や有機蛍光体が含まれていても良い。無機蛍光体としては、YAG、LSN、LYSN、CASN、SCASN、KSF、CSO、β-SIALON、GYAG、LuAG、SBCA等が、有機蛍光体としてペリレン誘導体、アントラキノン誘導体、アントラセン誘導体、フタロシアニン誘導体、シアニン誘導体、ジオキサジン誘導体、ベンゾオキサジノン誘導体、クマリン誘導体、キノフタロン誘導体、ベンゾオキサゾール誘導体、ピラリゾン誘導体などが例示される。
【0043】
本発明に係る量子ドットを含有した波長変換材料の作製方法は特に限定されず、目的に応じ適宜選択できる。例えば、本発明に係る量子ドットを樹脂に分散させた樹脂組成物をPETやポリイミドなどの透明フィルムに塗布し、硬化させ、ラミネート加工することで波長変換材料を得ることができる。
【0044】
透明フィルムへの塗布は、スプレーやインクジェットなどの噴霧法、スピンコートやバーコーター、ドクターブレード法やグラビア印刷法やオフセット印刷法を用いることができ、塗布により樹脂層を形成することができる。また、樹脂層及び透明フィルムの厚さは特に制限されず用途に応じ適宜選択することができる。
【0045】
本発明に係る量子ドットの実施形態の1つとして、本発明に係る量子ドットを用いた波長変換フィルムが青色LEDに結合された導光パネル面に設置されるバックライトユニットを提供することができる。また、実施形態の1つとして、本発明に係る量子ドットを用いた波長変換フィルムが青色LEDに結合された導光パネル面と液晶ディスプレイパネルとの間に配置される画像表示装置を提供することができる。これらの実施形態において本発明に係る量子ドットを用いた波長変換フィルムは光源である1次光の青色光の少なくとも一部を吸収し、1次光よりも波長の長い2次光を放出することにより、量子ドットの発光波長に依存した任意の波長分布を持った光に変換することができる。
【実施例】
【0046】
以下、実施例を挙げて本発明について具体的に説明するが、これは本発明を限定するものではない。
【0047】
量子ドットの蛍光発光特性評価は量子効率測定システム(大塚電子製QE-2100)を用い、励起波長を450nmとして発光特性を測定した。また、前駆体溶液を噴霧する時の液滴の粒子径はレーザードップラー法による測定値の平均で示した。また、測定した量子ドットの発光特性のうち、発光の半値幅は粒子径の分布を反映しており、発光の半値幅が狭いほど粒子径の分布が均一であると評価することができる。
【0048】
(実施例1)
実施例1では、
図1に示す装置を用いて量子ドットを製造した。炭酸セシウム1.2gとオレイン酸0.4mLを1-オクタデセン5Lに投入し、150℃で60min脱気を行った。その後容器内を窒素雰囲気下としてセシウム溶液(前駆体溶液13a)を作製した。
また、臭化鉛1.5g、オレイン酸0.7mL、オレイルアミン0.7mLを6Lの1-オクタデセンへ投入し、50℃で60min脱気を行った。その後容器内を窒素雰囲気下として臭化鉛溶液(前駆体溶液14a)を作製した。
【0049】
50Lの反応容器10に1-オクタデセン12L(溶媒11)を入れ、10℃に保持した。この反応容器10内に上記セシウム溶液(前駆体溶液13a)と臭化鉛溶液(前駆体溶液14a)をそれぞれ200℃に加熱した状態で、それぞれ別の扇型1流体ノズル15により互いの液滴が衝突するように噴霧し、それぞれエアロゾル13b、14b状態にして気相反応させ、撹拌棒12で撹拌中の1-オクタデセン12L(溶媒11)に滴下した。噴霧条件はいずれも窒素ガス圧力0.05MPa、噴霧流量を約1L/minとした。このときの液滴の平均粒子径は約220μmであった。
【0050】
反応後の量子ドット溶液に対し、体積比で5倍のアセトンを添加し、量子ドットを沈殿させ、遠心分離機により10000rpm(min-1)で10minの遠心分離処理を行い、回収した沈殿物をトルエンに再分散させて量子ドットを精製した。
【0051】
上記工程により得られたCsPbBr3量子ドットの発光特性を測定した結果、発光波長が539nm、発光の半値幅が27nm、内部量子効率が82%であった。
【0052】
(比較例1)
図3は、比較例1で用いた量子ドットを製造する装置を示す図である。炭酸セシウム1.2gとオレイン酸0.4Lを1-オクタデセン5Lに投入し、150℃で60min脱気を行った。その後容器内を窒素雰囲気下として、セシウム溶液(前駆体溶液33a)を作製した。
また、臭化鉛1.5g、オレイン酸0.7L、オレイルアミン0.7Lを6Lの1-オクタデセンへ投入し、50℃で60min脱気を行った。その後容器内を窒素雰囲気下として、臭化鉛溶液(前駆体溶液34a)を作製した。
【0053】
50Lの反応容器30に1-オクタデセン12L(溶媒31)を入れ、200℃に保持した。この反応容器30内に上記セシウム溶液(前駆体溶液33a)と臭化鉛溶液(前駆体溶液34a)をプランジャーポンプ37により送液し、セシウム溶液(前駆体溶液33a)と臭化鉛溶液(前駆体溶液34a)をそれぞれ別の
滴下ノズル35より反応容器30内の撹拌棒32で撹拌中の溶媒31に液滴33b、34bとして滴下した。このとき流量は約0.8L/minであった。滴下完了後、反応容器30内の溶液を室温まで冷却した。
図3の下部は、反応容器30内の点線で囲われた部分を拡大した模式図である。前駆体溶液は、
滴下ノズル35によって液滴36として溶媒31に滴下される。
【0054】
この反応後の量子ドット溶液に対し、体積比で5倍のアセトンを添加し量子ドットを沈殿させ、遠心分離機により10000rpm(min-1)で10minの遠心分離処理を行い、回収した沈殿物をトルエンに再分散させて量子ドットを精製した。
【0055】
上記工程により得られたCsPbBr3量子ドットの発光特性を測定した結果、発光波長が550nm、発光の半値幅が41nm、内部量子効率が53%であった。このように、加熱した溶媒中で、複数の前駆体溶液を反応させて作製した量子ドットは、実施例1と比べて半値幅が大きいものとなった。
【0056】
(比較例2)
図4は、比較例2で用いた量子ドットを製造する装置を示す図である。炭酸セシウム1.2gとオレイン酸0.4Lを1-オクタデセン5Lに投入し、150℃で60min脱気を行った。その後容器内を窒素雰囲気下として、セシウム溶液(前駆体溶液43a)を作製した。
また、臭化鉛1.5g、オレイン酸0.7L、オレイルアミン0.7Lを6Lの1-オクタデセンへ投入し、50℃で60min脱気を行った。その後容器内を窒素雰囲気下として、臭化鉛溶液(前駆体溶液44a)を作製した。
【0057】
50Lの反応容器40に1-オクタデセン12L(溶媒41)を入れ、10℃に保持した。この反応容器40内に上記セシウム溶液(前駆体溶液43a)と臭化鉛溶液(前駆体溶液44a)をそれぞれ200℃に加熱した状態でプランジャーポンプ47により送液し、T字型ミキサー48で2液を混合してから、滴下ノズル45より反応容器40内の撹拌棒42で撹拌中の溶媒41に、液滴46として滴下した。このとき流量は約0.8L/minであった。滴下後、反応容器40内の溶液を室温まで冷却した。
【0058】
反応後の量子ドット溶液に対し、体積比で5倍のアセトンを添加し量子ドットを沈殿させ、遠心分離機により10000rpm(min-1)で10minの遠心分離処理を行い、回収した沈殿物をトルエンに再分散させて量子ドットを精製した。
【0059】
上記工程により得られたCsPbBr3量子ドットの発光特性を測定した結果、発光波長が543nm、発光の半値幅が38nm、内部量子効率が80%であった。このように、予め複数の前駆体溶液を反応させた後に液滴として冷却することにより作製した量子ドットは、実施例1と比べて半値幅が大きいものとなった。
【0060】
(比較例3)
図5は、比較例3で用いた量子ドットを製造する装置を示す図である。炭酸セシウム1.2gとオレイン酸0.4mLを1-オクタデセン5Lに投入し、150℃で60min脱気を行った。その後容器内を窒素雰囲気下として、セシウム溶液(前駆体溶液53a)を作製した。
また、臭化鉛1.5g、オレイン酸0.7mL、オレイルアミン0.7mLを6Lの1-オクタデセンへ投入し、50℃で60min脱気を行った。その後容器内を窒素雰囲気下として、臭化鉛溶液(前駆体溶液54a)を作製した。
【0061】
50Lの反応容器50に1-オクタデセン12L(溶媒51)を入れ、200℃に保持した。この反応容器50内に上記セシウム溶液(前駆体溶液53a)と臭化鉛溶液(前駆体溶液54a)をそれぞれ別の扇型1流体ノズル55によりお互いの液滴が衝突しないよう噴霧し、それぞれエアロゾル53b、54b状態として滴下し撹拌棒52で撹拌しながら溶媒51中で反応させた。噴霧条件はいずれも窒素ガス圧力0.05MPa、噴霧流量を約1L/minとし、このとき液滴の平均粒子径は約220μmであった。噴霧後、反応容器50内の溶液を室温まで冷却した。
【0062】
反応後の量子ドット溶液に対し、体積比で5倍のアセトンを添加し量子ドットを沈殿させ、遠心分離機により10000rpm(min-1)で10minの遠心分離処理を行い、回収した沈殿物をトルエンに再分散させて量子ドットを精製した。
【0063】
上記工程により得られたCsPbBr3量子ドットの発光特性を測定した結果、発光波長が542nm、発光の半値幅が36nm、内部量子効率が77%であった。このように、エアロゾル状態とした複数の前駆体溶液を、加熱した溶媒中で反応させて作製した量子ドットは、実施例1と比べて半値幅が大きいものとなった。
【0064】
(実施例2)
図2は、実施例2で用いた量子ドットを製造する装置を示す図である。臭化セシウム2.4gとオレイン酸0.5mLを1-オクタデセン8Lに投入し、150℃で60min脱気を行い、セシウム溶液(前駆体溶液23a)を作製した。その後2.4MHzの超音波霧化ユニット28を取り付けた密封容器内を窒素置換し、窒素雰囲気下とした容器内にセシウム溶液(前駆体溶液23a)を投入した。
また、臭化スズ(II)2.2g、オレイン酸1.0mL、オレイルアミン1.0mLを8Lの1-オクタデセンへ投入し、50℃で60min脱気を行い、臭化スズ(II)溶液(前駆体溶液24a)を作製した。その後2.4MHzの超音波霧化ユニット28を取り付けた密封容器内を窒素置換し、窒素雰囲気下とした容器内に臭化スズ(II)溶液(前駆体溶液24a)を投入した。
【0065】
50Lの反応容器20に1-オクタデセン16L(溶媒21)を入れ、10℃に保持した。この反応容器20内に上記セシウム溶液(前駆体溶液23a)と臭化スズ(II)溶液(前駆体溶液24a)をそれぞれ200℃に加熱した状態で、それぞれ別の超音波霧化ユニット28により霧化し、それぞれエアロゾル23b、24b状態とした。窒素ガスをキャリアとして反応容器20内にエアロゾル23b、24bを送り込み、噴霧ノズル25からそれぞれのエアロゾル23b、24bの互いの液滴が衝突するように噴霧し、気相反応させ、撹拌棒22で撹拌中の溶媒21に滴下した。噴霧条件はいずれも窒素ガス圧力0.05MPa、噴霧流量を約1L/minとした。このときの液滴の平均粒子径は約220μmであった。
【0066】
反応後の量子ドット溶液に対し、体積比で5倍のアセトンを添加し量子ドットを沈殿させ、遠心分離機により10000rpm(min-1)で10minの遠心分離処理を行い、回収した沈殿物をトルエンに再分散させて量子ドットを精製した。
【0067】
上記工程により得られたCsSnBr3量子ドットの発光特性を測定した結果、発光波長が537nm、発光の半値幅が35nm、内部量子効率が71%であった。
【0068】
(比較例4)
図6は、比較例4で用いた量子ドットを製造する装置を示す図である。臭化セシウム2.4gとオレイルアミン0.5mLを1-オクタデセン8Lに投入し、150℃で60min脱気を行い、セシウム溶液(前駆体溶液63a)を作製した。その後2.4MHzの超音波霧化ユニット68を取り付けた密封容器内を窒素置換し、窒素雰囲気下とした容器内にセシウム溶液(前駆体溶液63a)を投入した。
臭化スズ2.2g、オレイン酸1.0mL、オレイルアミン1.0mLを8Lの1-オクタデセンへ投入し、50℃で60min脱気を行い、臭化スズ(II)溶液(前駆体溶液64a)を作製した。その後2.4MHzの超音波霧化ユニット68を取り付けた密封容器内を窒素置換し、窒素雰囲気下とした容器内に臭化スズ(II)溶液(前駆体溶液64a)を投入した。
【0069】
50Lの反応容器60に1-オクタデセン16L(溶媒61)を入れ、220℃に保持した。この反応容器60内に上記セシウム溶液(前駆体溶液63a)と臭化スズ(II)溶液(前駆体溶液64a)をそれぞれ200℃に加熱した状態で、それぞれ別の超音波霧化ユニット68により霧化し、それぞれエアロゾル63b、64b状態とした。窒素ガスをキャリアガスとして反応容器60内にエアロゾル63b、64bを送り込み、噴霧ノズル65からそれぞれのエアロゾル63b、64bが互いの液滴が衝突しないよう噴霧し、撹拌棒62で撹拌中の溶媒61に滴下して、溶媒61中で反応させた。噴霧条件はいずれも噴霧流量を約0.2L/minとした。このときの液滴の平均粒子径は約5μmであった。噴霧後の溶液を室温まで冷却した。
【0070】
反応後の量子ドット溶液に対し、体積比で5倍のアセトンを添加し量子ドットを沈殿させ、遠心分離機により10000rpm(min-1)で10minの遠心分離処理を行い、回収した沈殿物をトルエンに再分散させて量子ドットを精製した。
【0071】
上記工程により得られたCsSnBr3量子ドットの発光特性を測定した結果、発光波長が544nm、発光の半値幅が49nm、内部量子効率が61%であった。このように、エアロゾル状態とした複数の前駆体溶液を、加熱した溶媒中で反応させて作製した量子ドットは、実施例2と比べて半値幅が大きいものとなった。
【0072】
上記実施例、比較例の結果より、ペロブスカイト型の量子ドットの合成時に、加熱したそれぞれ異なる元素を含む複数の前駆体溶液を噴霧し、エアロゾルの状態で衝突させて気相反応させ、溶媒に滴下することで、スケールアップをしても量子ドットの粒子径を均一に制御できるため、発光の半値幅の増加を抑制することができることがわかった。
【0073】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。
【符号の説明】
【0074】
10、20、30、40、50、60…反応容器、
11、21、31、41、51、61…溶媒、
12、22、32、42、52、62…撹拌棒、
13a、14a、23a、24a、33a、34a、43a、44a、53a、54a、63a、64a…前駆体溶液、
13b、14b、23b、24b、53b、54b、63b、64b…エアロゾル、
15、25、55、65…流体ノズル、
16、33b、34b、36、46…液滴、
28、68…超音波霧化ユニット、
35、45…滴下ノズル、
37、47…プランジャーポンプ、
48…T字型ミキサー。