(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-26
(45)【発行日】2024-02-05
(54)【発明の名称】鉱物質バインダー系の混合時間を短縮するための分散剤
(51)【国際特許分類】
C04B 24/26 20060101AFI20240129BHJP
C04B 28/02 20060101ALI20240129BHJP
C08F 290/06 20060101ALI20240129BHJP
【FI】
C04B24/26 E
C04B28/02
C04B24/26 F
C04B24/26 H
C04B24/26 B
C04B24/26 D
C08F290/06
(21)【出願番号】P 2020533139
(86)(22)【出願日】2019-01-22
(86)【国際出願番号】 EP2019051413
(87)【国際公開番号】W WO2019145266
(87)【国際公開日】2019-08-01
【審査請求日】2022-01-19
(32)【優先日】2018-01-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】506416400
【氏名又は名称】シーカ テクノロジー アクチェンゲゼルシャフト
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100123593
【氏名又は名称】関根 宣夫
(74)【代理人】
【氏名又は名称】胡田 尚則
(74)【代理人】
【識別番号】100116975
【氏名又は名称】礒山 朝美
(72)【発明者】
【氏名】ユルグ バイトマン
(72)【発明者】
【氏名】ヨルク ツィンマーマン
(72)【発明者】
【氏名】ファビア ウルバー
【審査官】小川 武
(56)【参考文献】
【文献】特表2017-510681(JP,A)
【文献】特表2005-535758(JP,A)
【文献】特開2009-298645(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 2/00-32/02
C04B 40/00-40/06
C04B 103/00-111/94
C08F 290/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
セメント組成物と水との混合時間を短縮するための櫛形ポリマーKの使用であって、
櫛形ポリマーK
を含むセメント組成物、又は櫛形ポリマーK及び櫛形ポリマーKではない櫛形ポリマーを含む
セメント組成物と水との混合物の混合時間が、櫛形ポリマーKではない櫛形ポリマーを含み、かつ櫛形ポリマーKを含まない同一の
セメント組成物と水との比較混合物の混合時間に比較して短縮され、ここで、櫛形ポリマーKではない前記櫛形ポリマーは、そのポリマー骨格に沿ってモノマー単位のランダムなシーケンスを有する櫛形ポリマーであり、かつ前記混合物及び前記比較混合物は同じ水分含量を有しており、
前記櫛型ポリマーKでない櫛型ポリマーは、メトキシポリエチレングリコールメタクリレートと(メタ)アクリル酸とのランダムコポリマーであり、かつ、
前記混合物中の櫛型ポリマーKの総使用量、又は前記混合物中の櫛型ポリマーKと櫛型ポリマーKでない櫛型ポリマーの総使用量は、前記比較混合物中の櫛型ポリマーKでない櫛型ポリマーの総使用量と同じであり、
前記混合時間は、前記
セメント組成物と水とを混合してから、前記混合物及び前記比較混合物が、それぞれ、JIS A 1150に従って測定して、少なくとも55cmのスランプフロー値を有し、かつ前記混合物及び前記比較混合物のスランプフロー値の差が12cm以下となるまでの時間であり、
櫛形ポリマーKの使用において、
前記櫛形ポリマーKが、ブロックコポリマーであり、
少なくとも一つの第一のセクションA’及び少なくとも一つの第二のセクションB’を含み、
その第一のセクションA’が、モノマー単位M1を含み、第二のセクションB’がモノマー単位M2を含み、
第一のセクションA’の中に存在するモノマー単位M2の比率が、第一のセクションA’の中の全部のモノマー単位M1を基準にして、25mol%未満であり、
第二のセクションB’の中に存在するモノマー単位M1の比率が、第二のセクションB’の中の全部のモノマー単位M2を基準にして、25mol%未満であり、
前記モノマー単位M1は下記の式I
【化1】
を有し、かつ前記モノマー単位M2は式II
【化2】
を有する、
(式中、
基R
1
は、それぞれ互いに独立して、-COOM、-SO
2
-OM、-O-PO(OM)
2
、及び/又は-PO(OM)
2
であり、
R
2
及びR
5
は、それぞれ互いに独立して、H、-CH
2
COOM、又は1~5個の炭素原子を有するアルキル基であり、
R
3
及びR
6
は、それぞれ互いに独立して、H、又は1~5個の炭素原子を有するアルキル基であり、
R
4
及びR
7
は、それぞれ互いに独立して、H、-COOM、又は1~5個の炭素原子を有するアルキル基であるか、
又は、R
1
がR
4
と共になって、-CO-O-CO-を含む環(無水物)を形成し、
M部分は、互いに独立して、H
+
、アルカリ金属イオン、アルカリ土類金属イオン、二価若しくは三価の金属イオン、アンモニウムイオン、又は有機アンモニウム基であり;
m=0、1、又は2であり、
p=0又は1であり、
X部分は、それぞれ互いに独立して、-O-、NH-、又は-NR
8
-であり、
基R
8
は、それぞれ互いに独立して、式-[AO]
n
-R
a
の基であり、
ここで、A=C
2
-~C
4
-アルキレンであり、R
a
はH、C
1
-~C
20
-アルキル基、シクロヘキシル基、又は-アルキルアリール基であり、かつn=2~250である)
前記櫛形ポリマーKにおける、前記モノマー単位M2に対する前記モノマー単位M1のモル比が、0.5~6の範囲であり、
前記櫛形ポリマーKが、ポリマー骨格と側鎖とを含み、
前記櫛形ポリマーKが、酸基を含む少なくとも一種のモノマー単位M1、及び側鎖を含む少なくとも一種のモノマー単位M2を含み、
前記モノマー単位M1及びM2が、前記ポリマー骨格に沿って配列し、前記ブロックコポリマーを形成していることを特徴とする、
櫛形ポリマーKの使用。
【請求項2】
前記混合時間が、少なくとも20%短縮される、請求項1に記載の櫛形ポリマーKの使用。
【請求項3】
水と混合した前記
セメント組成物が、450~1600kg/m
3の範囲の
セメントの含量を有することを特徴とする、請求項1又は2に記載の櫛形ポリマーKの使用。
【請求項4】
セメントに対する水の重量比が、0.10~0.40の範囲であることを特徴とする、請求項1~3のいずれか一項に記載の櫛形ポリマーKの使用。
【請求項5】
前記
セメント組成物中に存在する
、セメント、フライアッシュ、スラグサンド、メタカオリン、シリカダスト、石英粉、微細炭酸カルシウム、及び不活性な砕石からなる群から選ばれる粉状の粒子状物質の量に対する水の重量比が、0.12~0.35の範囲であることを特徴とする、請求項1~4のいずれか一項に記載の櫛形ポリマーKの使用。
【請求項6】
水と混合する前記
セメント組成物が、コンクリート、又はモルタルであることを特徴とする、請求項1~5のいずれか一項に記載の櫛形ポリマーKの使用。
【請求項7】
水と混合する前記
セメント組成物が、自己充填コンクリートであることを特徴とする、請求項1~6のいずれか一項に記載の櫛形ポリマーKの使用。
【請求項8】
前記櫛形ポリマーKが、1.5未満の多分散性を有することを特徴とする、請求項1~
7のいずれか一項に記載の櫛形ポリマーKの使用。
【請求項9】
乾燥
セメント組成物を、水及び櫛形ポリマーKと混合することによって、コンクリート又はモルタルを製造するための方法であって、
櫛形ポリマーK
を含むセメント組成物、又は櫛形ポリマーK及び櫛形ポリマーKではない櫛形ポリマーを含む
セメント組成物と水との混合物の混合時間を、櫛形ポリマーKではない櫛形ポリマーを含み、かつ櫛形ポリマーKを含まない同一の
セメント組成物と水との比較混合物の混合時間に比較して低減し、ここで、櫛形ポリマーKではない前記櫛形ポリマーは、そのポリマー骨格に沿ってモノマー単位のランダムなシーケンスを有する櫛形ポリマーであり、かつ前記混合物及び前記比較混合物は同じ水分含量を有しており、
前記櫛型ポリマーKでない櫛型ポリマーは、メトキシポリエチレングリコールメタクリレートと(メタ)アクリル酸とのランダムコポリマーであり、かつ、
前記混合物中の櫛型ポリマーKの総使用量、又は前記混合物中の櫛型ポリマーKと櫛型ポリマーKでない櫛型ポリマーの総使用量は、前記比較混合物中の櫛型ポリマーKでない櫛型ポリマーの総使用量と同じであり、
前記混合時間は、前記
セメント組成物と水とを混合してから、前記混合物及び前記比較混合物が、それぞれ、JIS A 1150に従って測定して、少なくとも55cmのスランプフロー値を有し、かつ前記混合物及び前記比較混合物のスランプフロー値の差が12cm以下となるまでの時間であり、
前記
セメント組成物が、コンクリート又はモルタルであり、
前記櫛形ポリマーKが、ブロックコポリマーであり、
少なくとも一つの第一のセクションA’及び少なくとも一つの第二のセクションB’を含み、
その第一のセクションA’が、モノマー単位M1を含み、第二のセクションB’がモノマー単位M2を含み、
第一のセクションA’の中に存在するモノマー単位M2の比率が、第一のセクションA’の中の全部のモノマー単位M1を基準にして、25mol%未満であり、
第二のセクションB’の中に存在するモノマー単位M1の比率が、第二のセクションB’の中の全部のモノマー単位M2を基準にして、25mol%未満であり、
前記モノマー単位M1は下記の式I
【化3】
を有し、かつ前記モノマー単位M2は式II
【化4】
を有する、
(式中、
基R
1
は、それぞれ互いに独立して、-COOM、-SO
2
-OM、-O-PO(OM)
2
、及び/又は-PO(OM)
2
であり、
R
2
及びR
5
は、それぞれ互いに独立して、H、-CH
2
COOM、又は1~5個の炭素原子を有するアルキル基であり、
R
3
及びR
6
は、それぞれ互いに独立して、H、又は1~5個の炭素原子を有するアルキル基であり、
R
4
及びR
7
は、それぞれ互いに独立して、H、-COOM、又は1~5個の炭素原子を有するアルキル基であるか、
又は、R
1
がR
4
と共になって、-CO-O-CO-を含む環(無水物)を形成し、
M部分は、互いに独立して、H
+
、アルカリ金属イオン、アルカリ土類金属イオン、二価若しくは三価の金属イオン、アンモニウムイオン、又は有機アンモニウム基であり;
m=0、1、又は2であり、
p=0又は1であり、
X部分は、それぞれ互いに独立して、-O-、NH-、又は-NR
8
-であり、
基R
8
は、それぞれ互いに独立して、式-[AO]
n
-R
a
の基であり、
ここで、A=C
2
-~C
4
-アルキレンであり、R
a
はH、C
1
-~C
20
-アルキル基、シクロヘキシル基、又は-アルキルアリール基であり、かつn=2~250である)
前記櫛形ポリマーKにおける、前記モノマー単位M2に対する前記モノマー単位M1のモル比が、0.5~6の範囲であり、
前記櫛形ポリマーKが、ポリマー骨格と側鎖とを含み、
前記櫛形ポリマーKが、酸基を含む少なくとも一種のモノマー単位M1、及び側鎖を含む少なくとも一種のモノマー単位M2を含み、
前記モノマー単位M1及びM2が、前記ポリマー骨格に沿って配列し、ブロックコポリマーを形成していることを特徴とする、
方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉱物質バインダー組成物における分散剤としての櫛形ポリマー(comb polymer)の使用に関する。本発明はさらに、短縮された混合時間を有するモルタル及びコンクリートを製造するためのプロセスにも関する。
【背景技術】
【0002】
コンクリート及びモルタルは、建築材料として全世界的に使用されている。これらは、実質的には、鉱物質バインダー、通常はセメントと、砂及び砂利(sand and gravel)との混合物である。水と混合した結果として、セメントは、化学反応で硬化して、水和物(水和セメントとも呼ばれる)を形成し、水和セメント、砂、及び砂利が固化した構造物が得られる。
【0003】
近年になって、特殊コンクリート、たとえば自己充填コンクリート(SCC)、高性能コンクリート(HPC)、及び超高性能コンクリート(UHPC)、並びにさらには、高性能及び超高性能モルタルも市場に出現してきた。SCCは、自己充填性を有するコンクリートで、デミキシング(demixing)無しでも、極めて流動性が高い。SCCは、振動をかけなくても型枠の中に導入することが可能であり、その結果、組込が容易となり、騒音公害や、作業者に及ぼす可能性がある健康被害も低減される。
【0004】
HPC及びUHPCは、極めて良好な処理性、60MPaを超えるか又は80MPa以上の高強度、及び高耐久性を示す。高性能及び超高性能コンクリートでは、構成材の寸法(component dimension)を極めて小さくすることが可能であり、それによって、容積が減り、輸送コストが低減される。
【0005】
それらの特殊なコンクリート及びモルタルには、0.125mm未満の鉱物質バインダー及び微粒を高い比率で含んでいる。このような粉状の粒子状物質の高い比率、すなわち0.125mm未満の粒径を有するセメント及びその他の鉱物質バインダーを含むすべての微粒を合計したものが、SCC、HPC、及びUHPCの特徴である。微粒の比率が高いことによって、コンクリートの良好な均質性が得られ、鉱物質バインダーの比率が高いことによって、高強度が得られる。高性能コンクリート及びモルタルはさらに、水をわずかから極めてわずかまでしか含んでいないが、その理由は、セメントを水和させるのに必要とされない水は、蒸発して、その後に気孔を残し、それが強度を低下させるからである。標準のコンクリートの場合においては、W/C値、すなわち水対セメントの質量比が、通常、0.45~0.60の範囲にあるが、それに対して、HPC及びUHPCの場合においては、W/Cが顕著に低く、0.40未満、多くの場合には、0.30未満又は0.25未満である。SCCの場合のW/Cも同様に低いが、その理由は、水が多すぎると、不均質性、セメントペーストのブリード、及び沈降がもたらされる可能性があり、それが、自己充填性に悪影響を与えるからである。
【0006】
高い微粒含量を有し、水を少量しか含まないコンクリート及びモルタルは、一般的に、粘り気があって処理するのが困難であり、特に効果の高い分散剤を添加した場合にのみ、処理することが可能となる。
【0007】
それに加えて、これらのコンクリート及びモルタルは、均質な分布としそして全部の成分を濡らすためには、長時間かけて混合しなければならない。標準のコンクリートでは、コンクリート作業では、わずか20~40秒しか混合しないことが多いのに対して、たとえばUHPCでは、容易に処理することが可能なコンシステンシーに到達させるには、数分間、いくつかの場合では10分間以上も、強力に混合しなければならない。このことが、これらの特殊コンクリートの大きな欠点であり、長い混合時間でエネルギーを消費し、生産性が顕著に低下するために、それらの用途が限定される。過剰に長い混合時間は、コンクリート及びモルタル混合物の場合においてはさらに、低水分及び高剪断力のために、望ましくない温度の上昇がもたらされる可能性もある。このことは、その混合物が処理可能である時間を顕著に低くする恐れがある。
【0008】
建築産業においては、鉱物質バインダー組成物のための可塑剤又は水低減剤(water-reducing agent)として、分散剤又は流動化剤が使用される。分散剤は、一般的には有機ポリマーであって、混合水に添加されるか、又はバインダー組成物に固形物として添加される。この方法で、処理の際のバインダー組成物のコンシステンシー、及びさらには硬化させた状態における物性の両方を、有利になるように変化させることができる。たとえば、ポリカルボキシレートをベースとする櫛形ポリマーは、特に効果の高い分散剤として知られている。そのような櫛形ポリマーは、酸基及びポリエーテルの側鎖を含むポリマー骨格を有している。それらは、通常、酸基を含むモノマーとポリエーテル鎖を含むモノマーとをフリーラジカル共重合させる手段により製造される。そのようなポリマーは、たとえば、欧州特許出願公開第2522680A1号明細書に記載されている。それらを製造するためのさらなる可能性は、その一端にヒドロキシル基又はアミノ基を有するポリエーテルを用いて、カルボキシル基を含むポリマーを、ポリマー類似の(polymer-analogous)エステル化及び/又はアミド化させることである。そのようなポリマーは、たとえば、欧州特許出願公開第1138697A1号明細書に記載されている。
【0009】
これらの櫛形ポリマーにおいて、その酸基とその側鎖は、そのポリマー骨格の中にランダムに分散されている。
【0010】
建築産業において、極めて効果的な流動化剤として使用される、慣用される櫛形ポリマーは、時によっては、SCC、HPC、及びUHPCを容易に流動化させることもできるが、それを使用した場合であってさえも、そのコンクリートは、均質になって容易に作業ができるようになるまでには、極めて長い時間混合しなければならない。
【0011】
国際公開第2015/144886号パンフレットには、鉱物質バインダー組成物のための分散剤としてのブロックコポリマーが記載されており、それは、その硬化挙動を大きく損なうことなしに効果的な流動化及び良好な処理性を可能とする。
【0012】
国際公開第2017/050907号パンフレットには、鉱物質バインダー組成物のための分散剤として、傾斜構造(gradient structure)を有するコポリマーが記載されており、それは、効果的な流動化と良好な処理性を可能とし、その効果が極めて長時間保持される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
今日までの従来技術では、特に、高い含量のセメント及び/又は粉状の粒子状物質を含む鉱物質バインダー組成物と少量の水との混合時間を短縮するための、安価で、簡単な解決法は、開示されていない。
【0014】
この理由から、セメント及び/又は粉状の粒子状物質の高い含量と少量の水を含むコンクリート又はモルタル、特にSCC、HPC、UHPC並びに高性能及び超高性能モルタルの場合において、それらの製造における欠点(特にその長い混合時間)を大幅に克服する、可能であれば分散剤の面での、簡単な解決法が依然として必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0015】
したがって、本発明の一つの目的は、他の性質、たとえばスランプ、強度、又は処理可能時間に悪影響を与えることなく、鉱物質バインダー組成物の混合時間での目標とする短縮を可能とする分散剤を提供することである。それに加えて、その分散剤は、好ましくは、他の添加物と同時に使用することができるべきである。その分散剤は、特に、高性能コンクリート(HPC)及び超高性能コンクリート(UHPC)並びに高性能モルタル及び超高性能モルタル、並びに自己充填コンクリート(SCC)に適したものであるべきである。
【0016】
この目的は、驚くべきことには、請求項1に記載のプロセスにより、達成される。
【0017】
本発明のキーとなる態様は、鉱物質バインダー組成物と水との混合時間を短縮するための櫛形ポリマーKの使用であり、ここでその櫛形ポリマーKは、ポリマー骨格及び側鎖を有し、ここでその櫛形ポリマーKは、酸基を含む少なくとも1種のモノマー単位M1及び側鎖を含む少なくとも1種のモノマー単位M2を含み、ここでそのモノマー単位M1及びM2は、そのポリマー骨格に沿って、ランダムでないシーケンスで配列されている。
【0018】
驚くべきことには、鉱物質バインダー組成物は、特にそれらが、セメント及び/又は粉状の粒子状物質の高い含量を有し、且つ少量の水しか含まない場合には、それらが、そのポリマー骨格に沿って、従来からの櫛形ポリマーを含む組成物よりも、モノマー単位のランダムでないシーケンスを有する櫛形ポリマーKを含んでいると、それらが、均質で、流動可能となるまでに、顕著に短い混合時間しか必要としないということが見出された。さらに、特に驚くべきことは、混合時間が短縮されるにも関わらず、良好な処理性、長い処理ウィンドウ、及びバインダー組成物の良好な強度の発現が達成される。
【0019】
それに加えて、そのポリマー骨格に沿ってモノマー単位のランダムでないシーケンスを有する、そのような櫛形ポリマーKは、そのような鉱物質バインダー組成物の中でおいてさえも、他の添加物、たとえばさらなる分散剤と、容易に相溶することが可能であるということも見出された。
【0020】
本発明のさらなる態様が、さらなる独立請求項の主題である。本発明の特に好ましい実施態様が、従属請求項の主題である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明は、鉱物質バインダー組成物と水との混合時間を短縮するための櫛形ポリマーKの使用を提供し、
ここで、その混合時間が、そのポリマー骨格に沿ってモノマー単位のランダムなシーケンスを有する櫛形ポリマーを含み、かつ櫛形ポリマーKを含まない、同一の鉱物質バインダー組成物の混合時間に比較して短縮され、
ここで、そのバインダー組成物は、その混合時間の終了後には比較的良好な処理性を有し、
ここで、その櫛形ポリマーKは、ポリマー骨格及び側鎖を有し、
ここで、その櫛形ポリマーKは、酸基を含む少なくとも一種のモノマー単位M1及び側鎖を含む少なくとも一種のモノマー単位M2を含み、
ここで、そのモノマー単位M1及びM2は、そのポリマー骨格に沿ってランダムでないシーケンスで配列している。
【0022】
本明細書においては、「混合時間」という用語は、乾燥した鉱物質バインダー組成物に水を添加してから、均質な混合物が得られるまでの時間である。この場合、「均質な混合物」とは、濡れていない粉体、塊状物、及びその他の固く結びついた物質が存在しない混合物である。具体的には、その均質な混合物は、流動性を有している。
【0023】
均質な混合物が得られたとする時点は、各種の方法で決めることができる。
【0024】
第一には、当業熟練者ならば、混合したバインダー組成物を見ただけで、それが均質かどうかを判定することができる。熟練者は、その混合物の中でスコップを手で動かしてみることにより、その混合抵抗と流動挙動を評価することが可能であって、この方法で、その混合が完全か不足かを評価することができる。
【0025】
第二には、混合装置に動力計を取り付けることもできる。この場合、所定の回転速度とするのに必要な動力は、通常、回転の開始時に高くなり、次いで、混合物が均質となると直ぐに動力が低下して比較的安定な値となり、そしてその混合操作が完了する。
【0026】
本明細書においては、「鉱物質バインダー組成物(mineral binder composition)」は、少なくとも1種の鉱物質バインダーを含む組成物である。
【0027】
本明細書においては、「粉状の粒子状物質(flour particles)」は、鉱物質バインダー組成物中の微粒である。一般的には、粉状の粒子状物質の最大粒子直径は、たとえば篩別分析により求めて、0.125mm未満である。本明細書では、粉状の粒子状物質には、以下のものが含まれる:セメント、フライアッシュ、スラグサンド、メタカオリン、シリカダスト、石英粉、微細炭酸カルシウム、及び/又は不活性な砕石、並びにさらには、そのバインダー組成物の中に存在している0.125mm未満の最大粒子直径を有する微細鉱物質粉体。
【0028】
本明細書においては、「モノマー単位のランダムでないシーケンス(nonrandom sequence of the monomer units)」という表現は、ランダムには得られていない、モノマー単位の分布を指している。このことは、フリーラジカル共重合又はポリマー類似反応の通常の条件下では得られないということを意味している。ランダムでないシーケンスの場合においては、そのポリマー骨格の少なくとも一つのセクションの中に、少なくとも1種のモノマー単位が、より高い濃度で存在している。このタイプのコポリマーは、たとえば、ブロックコポリマー、又は傾斜構造を有するコポリマーである。
【0029】
同様にして、「モノマー単位のランダムなシーケンス(ranndom sequence of the monomer units)」という表現は、モノマーの反応性に従って、ランダムに起きているモノマー単位の分布を指している。モノマー単位のランダムなシーケンスは、フリーラジカル共重合又はポリマー類似反応の普通の条件下で得られる。
【0030】
櫛形ポリマーKを使用することによって、鉱物質バインダー組成物と水との混合時間を短縮することが可能となる。その混合時間は、特に、モノマー単位のランダムなシーケンスを有する櫛形ポリマーを含み櫛形ポリマーKを含まない比較の混合物と比較して、短縮される。この場合、櫛形ポリマーKを含む鉱物質バインダー組成物及び比較の混合物は、混合時間の最後には、比較的良好な処理性を有する。
【0031】
具体的には、そのポリマー骨格に沿ってモノマー単位のランダムなシーケンスを有する櫛形ポリマーを含みそして櫛形ポリマーKを含まない鉱物質バインダー組成物の混合時間に比較して、その混合時間が、少なくとも20%、好ましくは少なくとも25%、特には少なくとも30%短縮されるが、水と混合するそのバインダー組成物は、櫛形ポリマーの点以外は同一の組成を有し、混合時間終了後には比較的良好な処理性を有している。
【0032】
具体的には、そのポリマー骨格に沿ってモノマー単位のランダムなシーケンスを有する櫛形ポリマーを含む比較の混合物が、3分より長い、特には4分より長い混合時間を有している場合に、櫛形ポリマーKを使用すると、特に有効である。
【0033】
混合時間の最後にその鉱物質バインダー組成物のスランプフロー(JIS A 1150に従って測定)が、少なくとも55cmであり、そして両方の混合物が同じ水分を有していて、バインダー組成物のスランプフロー値の差が、12cm以下である場合には、比較的良好な処理性が存在している。スランプフローは、特に、櫛形ポリマーの計量添加によって設定される。
【0034】
鉱物質バインダー組成物には、少なくとも1種の鉱物質バインダーが含まれる。好適な鉱物質バインダーは、特には、水の存在下に、水和反応に与って、固体の水和物又は水和相を与える鉱物質バインダーである。
【0035】
これは、特には、水の手段により、水中でも硬化することが可能な水硬バインダー、特にはセメント、又は、添加物、特にはスラグサンド、又はポゾランバインダー、特にはフライアッシュ又はシリカダストの作用の下に水の存在下で硬化する潜在的水硬バインダーであってよい。
【0036】
鉱物質バインダー組成物には、好ましくは、少なくとも1種の水硬バインダー、好ましくはセメントタイプのバインダーが含まれる。
【0037】
セメントとしては、各種入手可能なセメントのタイプ、又は2種以上のセメントのタイプの混合物を使用することが可能であるが、そのようなものとしては、たとえば以下のものが挙げられる:DIN EN 197-1の分類によるセメントすなわち、ポルトランドセメント(CEM I)、ポルトランド複合セメント(CEM II)、高炉スラグセメント(CEM III)、ポゾランセメント(CEM IV)、及び複合セメント(CEM V)、又は日本工業規格JIS、特には、JIS R 5210、JIS R 5211、JIS R 5212、又はJIS R 5213の分類によるセメント。言うまでもないことであるが、それらに代わる標準、たとえばASTM標準又はインド標準に従って製造されたセメントも同様に好適である。
【0038】
特殊セメントたとえば、場合によっては硫酸カルシウムとの混合物の形態にある、スルホアルミン酸カルシウムセメント及びアルミン酸カルシウムセメント又はそれらの混合物もまた、好適である。
【0039】
最も好ましいのは、ポルトランドセメント、又はDIN EN 197-1に従ったポルトランドセメントを含むセメントである。ポルトランドセメントは、特に容易に入手可能であり、そしてコンクリート及びモルタルが、良好な性質を有するようにすることができる。
【0040】
比較的小さい割合のC3S及びC3Aを有するポルトランドセメントも同様に有利である。そのようなセメントは、よりゆっくりと硬化し、そして、それを用いて生成する、それらの成分、特には大きな体積を有するものは、硬化の際に熱くなりにくく、そのことが有利であるが、その理由は、過剰な発熱が、ひび割れを起こしやすいからである。
【0041】
好ましいのは、水硬バインダーの比率が、全部の鉱物質バインダーを基準にして、少なくとも5重量%、特には少なくとも20重量%、より好ましくは少なくとも35重量%、特別には少なくとも65重量%、最大比率として100重量%である。さらに有利な一つの実施態様においては、その鉱物質バインダーが、95~100重量%の水硬バインダー、特にはセメントクリンカーからなっている。
【0042】
そのバインダー組成物に、水硬バインダーに加えるか又はそれに代えて、他のバインダーが含まれているのが有利となることもあり得る。それらは、特には、潜在的な水硬バインダー及び/又はポゾランバインダーである。好適な潜在的な水硬バインダー及び/又はポゾランバインダーは、特には、スラグサンド、フライアッシュ、及び/又はシリカダストである。
【0043】
一つの有利な実施態様においては、その鉱物質バインダーに、5~95重量%、特には10~65重量%、特に好ましくは15~40重量%の、潜在的な水硬バインダー及び/又はポゾランバインダーが含まれる。有利な潜在的な水硬バインダー及び/又はポゾランバインダーは、スラグサンド、シリカダスト、及び/又はフライアッシュである。
【0044】
一つの特に好ましい実施態様においては、その鉱物質バインダーに、水硬バインダー、特にはセメント又はセメントクリンカー、及び潜在的な水硬バインダー及び/又はポゾランバインダー、好ましくはスラグサンド、シリカダスト、及び/又はフライアッシュが含まれる。潜在的な水硬バインダー及び/又はポゾランバインダーの比率は、好ましくは5~65重量%、特に好ましくは15~40重量%であるが、その一方で、少なくとも35重量%、特別には少なくとも60重量%の水硬バインダーが存在している。
【0045】
特殊コンクリートたとえば、SCC、又は高性能及び超高性能のコンクリート及びモルタルは、当業者には公知である。それらは、鉱物質バインダーの、特には350kg/m3を超える高い含量を有しているのが好ましい。そのようにすることで、良好な均質性、処理性能、及び/又は高強度を得ることができる。
【0046】
水と混合した鉱物質バインダー組成物は、450~1600kg/m3、好ましくは500~1500kg/m3の範囲の鉱物質バインダーの含量を有しているのが好ましい。
【0047】
具体的には、鉱物質バインダーの含量は、450~800kg/m3、好ましくは500~700kg/m3、特別には550~650kg/m3の範囲である。そのような鉱物質バインダーの含量を有するバインダー組成物は、SCCに特別に適している。
【0048】
同様に好ましい鉱物質バインダーの含量は、550~1500kg/m3、より好ましくは650~1400kg/m3、特には700~1300kg/m3、特別には750~1200kg/m3の範囲である。そのような鉱物質バインダーの含量を有するバインダー組成物は、高性能コンクリート(HPC)及び超高性能コンクリート(UHPC)並びに高性能及び超高性能のモルタルに特に適している。
【0049】
鉱物質バインダー組成物に微細な添加物が含まれているのが好ましい。好適な添加物は、化学的に不活性化又は反応性の微細な粒子状の鉱物質物質、たとえば砕石、フライアッシュ、シリカダスト、スラグサンド、繊維、又は着色顔料である。
【0050】
その鉱物質バインダー組成物がさらに、岩石粒子分を含んでいるのが好ましい。そのような粒子分は、特には、化学的に不活性な固体粒子状物質であり、各種の形態、サイズで、砂粒状物質から大きな粗岩石まで種々の異なった物質として入手可能である。原則的には、コンクリート及びモルタルで慣用されている各種の砂及び砂利が適している。
【0051】
その粒径は用途に依存するが、32mm以上までの粒径が好適である。
【0052】
岩石粒子分の最大粒径が、32mm、特には20mm、特別には16mm又は8mmであるのが、好ましい。そのような粒径は、コンクリートに特別に適している。
【0053】
しかしながら、最大粒径をもっと小さく、好ましくは4mm以下、特には3mm又は2mmとすることもできる。そのような粒径は、モルタルに特別に適している。
【0054】
好ましいのは、最適な方法で鉱物質バインダー組成物の性質を設定する目的で、微細な添加物と異なった粒径の岩石粒子分とを混合することである。そのような混合物は、当業者には公知である。
【0055】
その鉱物質バインダー組成物が、450~2000kg/m3、より好ましくは500~1800kg/m3、さらにより好ましくは550~1600kg/m3の粉状の粒子状物質を一定の割合で含んでいるのが好ましい。粉状の粒子状物質の中での鉱物質バインダーの比率は、好ましくは少なくとも60重量%、特には少なくとも80重量%であり、最大比率は100重量%である。
【0056】
粉状の粒子状物質及びバインダーをそのような含量にすると、混合物の良好な凝集性及び高強度がもたらされる。
【0057】
その粉状の粒子状物質は、好ましくは少なくとも1,000cm2/g、特には少なくとも1,500cm2/g、好ましくは少なくとも2,500cm2/g、さらにより好ましくは少なくとも3,500cm2/g、又は少なくとも5,000cm2/gのブレーン粉末度(Blaine fineness)を有している。
【0058】
その鉱物質バインダー組成物には、櫛形ポリマーKに加えて、少なくとも1種の添加剤、たとえばコンクリート添加剤及び/又はモルタル添加剤及び/又は加工用化学物質を含んでいてもよい。その少なくとも1種の添加剤としては、特には、以下のものが挙げられる:分散剤、消泡剤、湿潤剤、染料、保存剤、可塑剤、遅延剤、促進剤、ポリマー、気孔形成剤、レオロジー助剤、粘度調節剤、ポンピング助剤、収縮低減剤、若しくは腐食抑制剤、又はそれらの組合せ。
【0059】
その鉱物質バインダー組成物は、好ましくはモルタル又はコンクリート組成物、特には自己充填コンクリート、高性能若しくは超高性能コンクリート、又は高性能若しくは超高性能モルタルである。その鉱物質バインダー組成物は、特には、水と予め混合されている処理済みの鉱物質バインダー組成物である。
【0060】
鉱物質バインダー組成物と共に混合する水の量は、極めて少量であるのが好ましいが、その理由は、水が多すぎると、硬化させた後の成形体の強度に悪影響が出るからである。
【0061】
水対鉱物質バインダーの重量比は、有利には0.10~0.40、好ましくは0.11~0.35、より好ましくは0.12~0.32、特には0.13~0.30、特別には0.14~0.28の範囲である。
【0062】
そのような水対バインダーの比率は、コンクリートにおいて高強度から極めて高強度を得るのに、特に問題なく適している。
【0063】
バインダー組成物中に存在する、粉状の粒子状物質の量に対する水の重量比は、好ましくは0.12~0.35、好ましくは0.13~0.30、特には0.14~0.25の範囲である。
【0064】
本発明の一つの好ましい実施態様においては、水と混合させた鉱物質バインダー組成物が、高性能コンクリート(HPC)若しくは超高性能コンクリート(UHPC)、又は高性能若しくは超高性能のモルタルである。
【0065】
一つのさらに好ましい実施態様においては、水と混合させた鉱物質バインダー組成物が、自己充填コンクリート(SCC)である。
【0066】
櫛形ポリマーKは、鉱物質バインダーの含量を基準にして、0.01~10重量%、特には0.1~7重量%、又は0.2~5重量%の比率で使用するのが有利である。
【0067】
櫛形ポリマーKには、ポリマー骨格と側鎖とが含まれる。具体的には、そのポリマー骨格は、実質的に直鎖状で、事実上分岐はない。
【0068】
モノマー単位M1には、酸基、特にはカルボン酸、スルホン酸、リン酸、及び/又はホスホン酸基が含まれる。
【0069】
側鎖を担持するモノマー単位M2には、好ましくは、ポリアルキレンオキシド側鎖、特にはポリエチレンオキシド及び/又はポリプロピレンオキシド側鎖、及び/又はエチレンオキシドとプロピレンオキシドとから構成されている側鎖が含まれる。
【0070】
好ましいのは、式I
【化1】
を有するモノマー単位M1及び式II
【化2】
を有するモノマー単位M2である
[式中、
基R
1は、それぞれ互いに独立して、-COOM、-SO
2-OM、-O-PO(OM)
2、及び/又は-PO(OM)
2であり、
R
2及びR
5は、それぞれ互いに独立して、H、-CH
2COOM、又は1~5個の炭素原子を有するアルキル基であり、
R
3及びR
6は、それぞれ互いに独立して、H、又は1~5個の炭素原子を有するアルキル基であり、
R
4及びR
7は、それぞれ互いに独立して、H、-COOM、又は1~5個の炭素原子を有するアルキル基であるか、
又は、R
1がR
4と共になって、-CO-O-CO-を含む環(無水物)を形成し、
残基Mは、互いに独立して、H
+、アルカリ金属イオン、アルカリ土類金属イオン、二価若しくは三価の金属イオン、アンモニウムイオン、又は有機アンモニウム基であり;
m=0、1、又は2であり、
p=0又は1であり、
残基Xは、それぞれ互いに独立して、-O-、NH-、又は-NR
8-であり、
基R
8は、それぞれ互いに独立して、式-[AO]
n-R
aの基である
(式中、A=C
2-~C
4-アルキレンであり、R
aはH、C
1-~C
20-アルキル基、シクロヘキシル基、又は-アルキルアリール基であり、そしてn=2~250、特には10~200である)]。
【0071】
特に有利な櫛形ポリマーKは、以下のものである:R1=-COOM;R2及びR5が、それぞれ互いに独立して、H、-CH3又はそれらの混合物;R3及びR6が、それぞれ互いに独立して、H又は-CH3、好ましくはH;R4及びR7が、それぞれ互いに独立して、H又は-COOM、好ましくはH。
【0072】
特には、R1=-COOM、R2=H又はCH3、R3=R4=Hである。したがって、櫛形ポリマーKは、アクリル酸又はメタクリル酸モノマー(これらは、コスト的な面からも注目される)をベースにして製造することができる。それに加えて、本発明の文脈においては、そのような櫛形ポリマーは、短い混合時間を与え、分散作用が良好で、硬化時間の遅れがほとんどない。
【0073】
R1=-COOM、R2=H、R3=H、そしてR4=-COOMである櫛形ポリマーKも同様に、有利となりうる。そのような櫛形ポリマーは、マレイン酸モノマーをベースにして製造することができる。
【0074】
モノマー単位M2の中の基Xは、モノマー単位M2全部の少なくとも75mol%、特には少なくとも90mol%、特別には少なくとも95mol%、又は少なくとも99mol%で、-O-(=酸素原子)であるのが、有利である。
【0075】
R5=H又は-CH3、R6=R7=H、そしてX=-O-であるのが有利である。そのような櫛形ポリマーは、たとえば、アクリルエステル若しくはメタクリルエステル、ビニル、メタアリル、アリル、又はイソプレノールエーテルから製造することができる。
【0076】
一つの特に有利な実施態様においては、基R2及びR5が、それぞれ、40~60mol%のHと40~60mol%の-CH3との混合物である。
【0077】
一つのさらなる有利な実施態様においては、R1=-COOM、R2=H、R5=-CH3、そしてR3=R4=R6=R7=Hである。
【0078】
一つのまた別な有利な実施態様においては、R1=-COOM、R2=R5=H又は-CH3、そしてR3=R4=R6=R7=Hである。
【0079】
モノマー単位M2の中の基の-[AO]n-は、好ましくは、櫛形ポリマーKの中の全部の基-[AO]n-を基準にして、少なくとも50mol%、特には少なくとも75mol%、好ましくは少なくとも95mol%又は少なくとも99mol%の量の、ポリエチレンオキシドからなっている。櫛形ポリマーKの中の全部のアルキレンオキシド単位を基準にしたエチレンオキシド単位の比率は、特には75mol%を超え、特には90mol%を超え、好ましくは95mol%を超え、そして特別には100mol%である。
【0080】
具体的には、基-[AO]n-は、実質的に疎水性基を有さない、特には3個以上の炭素原子を有するアルキレンオキシドを有していない。このことは、特には、次のことを意味している:3個以上の炭素原子を有するアルキレンオキシドの比率が、全部のアルキレンオキシドを基準にして、5mol%未満、特には2mol%未満、好ましくは1mol%未満、又は0.1mol%未満である。具体的には、3個以上の炭素原子を有するアルキレンオキシドが前もって存在しないか、又はその比率が0mol%である。
【0081】
Raが、H及び/又はメチル基であるのが有利である。
【0082】
A=C2-アルキレンであり、そしてRaがH又はメチル基であれば、特に有利である。
【0083】
具体的には、パラメーターnは、10~150、好ましくはn=15~100、特に好ましくはn=17~70、特別にはn=19~45又はn=20~25である。特に好ましいとした範囲では、それにより、良好な処理性と共に、特に短い混合時間が達成される。
【0084】
一つのさらに有利な実施態様においては、R1=COOM、R2=H又は-CH3、R5=H又は-CH3、R3=R4=R6=R7=H、m=0、p=1、X=酸素原子、A=C2-アルキレン、Ra=-CH3、そしてn=10~115である。
【0085】
そのような櫛形ポリマーは、アクリル酸及び/又はメタクリル酸、並びにアクリル酸及び/又はメタクリル酸と、一端をメトキシ基によって封止されたポリエチレンオキシドとのエステルから製造することができる。この構造を有するモノマーは、適切な重合方法の手段によって、ランダムでないモノマーの分布を有する櫛形ポリマーを製造するのに極めて適している。
【0086】
櫛形ポリマーKの中での、モノマー単位M1対モノマー単位M2のモル比は、有利には0.5~6、特には0.7~5、好ましくは0.9~4.5、より好ましくは1.0~4、又は2~3.5の範囲である。そのことによって、鉱物質バインダー組成物の中での、急速な分散作用、したがって短い混合時間が達成される。
【0087】
しかしながら、特定の用途では、別なモル比も、有利となりうる。
【0088】
さらには、櫛形ポリマーKが、少なくとも1種のさらなるモノマー単位MS(これは、特にはモノマー単位M1及びM2とは化学的に異なる)を含んでいると、有利となることもありうる。具体的には、複数の異なったさらなるモノマー単位MSを存在させることが可能である。この点で、櫛形ポリマーKの性質をさらに改良して、たとえば特定の用途に適合させることができる。
【0089】
その少なくとも1種のさらなるモノマー単位MSが式IIIのモノマー単位であれば、特に有利である:
【化3】
[式中、
R
5’、R
6’、R
7’、m’、及びp’は、R
5、R
6、R
7、m及びpについての定義と同じであり;
Yは、それぞれの場合において独立して、化学結合又は-O-であり;
Zは、それぞれの場合において独立して、化学結合、-O-、又は-NH-であり;
基R
9は、それぞれ互いに独立して、H、それぞれの場合において1~20個の炭素原子を有する、アルキル基、シクロアルキル基、アルキルアリール基、アリール基、ヒドロキシアルキル基、又はアセトキシアルキル基である。]
【0090】
その少なくとも1種のさらなるモノマー単位MSが、共重合された、酢酸ビニル、スチレン、及び/又は(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキル、特にはアクリル酸ヒドロキシエチルからなっているのが、特に有利である。
【0091】
モノマー単位MSは、櫛形ポリマーK中の全部のモノマー単位を合計したものを基準にして、0~50mol%、好ましくは1~40mol%、特別には2~30mol%、特には5~20mol%の量で存在させるのが有利である。
【0092】
具体的には、櫛形ポリマーKが、モノマー単位M1及びモノマー単位M2の、少なくとも50mol%、特には少なくとも75mol%、特別には少なくとも90mol%、又は95mol%の量からなっている。
【0093】
式Iの複数の異なったモノマー単位M1及び/又は式IIの複数の異なったモノマー単位M2が、櫛形ポリマーKの中に存在しうる。
【0094】
櫛形ポリマーKが、1.5未満、好ましくは1.0~1.4の範囲、特には1.1~1.3の範囲の多分散性を有しているのが好ましい。
【0095】
本発明の目的においては、多分散性とは、重量平均分子量Mw対数平均分子量Mn(いずれも、単位はg/mol)の比率である。
【0096】
全櫛形ポリマーKの重量平均分子量Mwは、特には8,000~100,000g/mol、有利には10,000~80,000g/mol、特別には12,000~50,000g/molの範囲である。本発明の文脈においては、重量平均分子量Mw及び数平均分子量Mnのような分子量は、標準としてポリエチレングリコール(PEG)を使用したゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)により求める。
【0097】
モノマー単位M1及びM2は、櫛形ポリマーKの中で、そのポリマー骨格に沿って、ランダムでないシーケンスで配列されている。
【0098】
この場合、少なくとも1種のモノマー単位M1又はM2が、ポリマー鎖の少なくとも一つのセクションの中で、より高い濃度で存在している。
【0099】
一つの有利な実施態様においては、その櫛形ポリマーKが、モノマー単位M1又はモノマー単位M2が、そのセクションAの中で、より高い濃度で存在しているような、少なくとも一つのセクションAを有している。
【0100】
酸基を含むモノマー単位M1が、少なくとも一つのセクションの中で、より高い濃度で存在しているのが有利である。その結果として、その櫛形ポリマーKは、このセクションの中で高い電荷密度を有し、そのことが、混合時間の短縮には特別に有利である。
【0101】
同様にして、側鎖を含むモノマー単位M2が、少なくとも一つのセクションの中で、より高い濃度で存在しているのが有利である。そのことによって、局所的に側鎖の高い密度を達成することが可能となり、それにより、特に良好な空間的な分散作用をもたらすことができる。
【0102】
具体的には、櫛形ポリマーKには、その中で、全部のモノマー単位M1の、好ましくは少なくとも30mol%、より好ましくは少なくとも40mol%、特には少なくとも50mol%、特別には少なくとも60mol%が、組みこまれた形で存在し、そしてこのセクションの中ではモノマー単位M2がまったく組みこまれていないような、セクションAが含まれる。
【0103】
しかしながら、セクションAの中に、全部のモノマー単位M2の少なくとも30mol%、より好ましくは少なくとも40mol%、特には少なくとも50mol%、特別には少なくとも60mol%が存在し、そしてこのセクションの中にはモノマー単位M1がまったく組みこまれていないということも、同様に有利となりうる。
【0104】
特には、モノマー単位M1及びモノマー単位M2の両方が、少なくとも一つのセクションの中に、より高い濃度で存在している。
【0105】
また別な有利な実施態様においては、その櫛形ポリマーKが、その中で、モノマー単位M1が、セクションAにおいて、より高い濃度で存在している少なくとも一つのセクションAと、その中で、モノマー単位M2が、セクションBにおいて、より高い濃度で存在しているさらなるセクションBとからなっている。
【0106】
そのことによって、短い混合時間で且つ極めて良好な分散作用が達成することが可能となる。
【0107】
しかしながら、たとえば、櫛形ポリマーKが、少なくとも二つの異なったセクションAを含むか、及び/又は少なくとも二つの異なったさらなるセクションBを含むということもまた可能である。
【0108】
一つの好ましい実施態様においては、その櫛形ポリマーKが、モノマー単位MSを含み、そのモノマー単位MSは、その櫛形ポリマーKのすべてのセクションの中に存在していることが可能である。それが、それぞれのセクションの中にランダムに組みこまれて存在しているのが好ましい。
【0109】
しかしながら、モノマー単位MSはさらに、たとえば、モノマー単位M1及び/又はモノマー単位M2のいずれかが、それぞれ他のものよりはより高い濃度で存在しるようなセクションを空間的に分離して、一つのセクションの中に、より高い濃度で存在しているのもまた有利である。
【0110】
コポリマーの構造は、核磁気共鳴スペクトル測定法(NMR分光法)の手段により、測定及び解析することができる。13C-NMR及び1H-NMR分光法は、特に、コポリマーの中の隣接基効果に基づき、そして統計的評価に基づいて、自体公知の方法で、コポリマーの中のモノマー単位のシーケンスを測定することができる。
【0111】
一つの好ましい実施態様においては、その櫛形ポリマーKが、ブロックコポリマーであるか、又は傾斜構造を有するコポリマーである。ブロックコポリマーについての説明は、国際公開第2015/144886号パンフレットに記載されており、傾斜ポリマーについての説明は、国際公開第2017/050907号パンフレットに記載されている。
【0112】
有利には、その櫛形ポリマーKがブロックコポリマーであって、少なくとも一つの第一のセクションA’及び少なくとも一つの第二のセクションB’を含み、その第一のセクションA’が、モノマー単位M1を含み、そして第二のセクションB’がモノマー単位M2を含み、そして、第一のセクションA’の中に存在するモノマー単位M2の比率が、第一のセクションA’の中の全部のモノマー単位M1を基準にして、25mol%未満、特には10mol%以下であり、そして第二のセクションB’の中に存在するモノマー単位M1の比率が、第二のセクションB’の中の全部のモノマー単位M2を基準にして、25mol%未満、特には10mol%以下である。
【0113】
セクションA’とB’とは、同じ数又は異なった数のモノマー単位を含んでいてよい。セクションA’とB’とが、同じサイズを有していない方が、有利である。このようにして、櫛形ポリマーの構造を、目標の方向に変えることができる。
【0114】
第一のセクションA’の中のモノマー単位M1及び各種のさらなるモノマー単位は、特に、統計的すなわちランダムに分散されている。同様にして、第二のセクションB’の中のモノマー単位M2及び各種のさらなるモノマー単位も、特に、統計的すなわちランダムに分散されている。
【0115】
別の言い方をすれば、その少なくとも一つのセクションA’及び/又は少なくとも一つのセクションB’は、好ましくは、それぞれの場合において、ランダムなモノマー分布を有する部分的なポリマーとして存在している。
【0116】
その少なくとも一つの第一のセクションA’は、有利には、5~70個、特には7~40個、好ましくは10~25個のモノマー単位M1を含み、及び/又は、その少なくとも一つの第二のセクションB’は、5~70個、特には7~40個、好ましくは10~25個のモノマー単位M2を含む。
【0117】
一つのさらなる好ましい実施態様においては、その第一のセクションA’には、25~35個のモノマー単位M1が含まれ、及び/又はその少なくとも一つの第二のセクションB’には、10~20個のモノマー単位M2が含まれる。
【0118】
同様に、櫛形ポリマーKが、傾斜ポリマーであり、そしてそのポリマー骨格の方向に沿って、少なくとも一つのセクションA”におけるモノマー単位M1及び/又はモノマー単位M2に関しての傾斜構造を有しているのが、有利である。
【0119】
別の言い方をすれば、その傾斜ポリマーは、少なくとも一つのセクションA”において、そのポリマー骨格の方向に沿って、モノマー単位M1に関して、及び/又はモノマー単位M2に関しての濃度勾配を有している。
【0120】
本発明の目的においては、「傾斜構造(gradient structure)」又は「濃度勾配(concentration gradient)」という表現は、特に、少なくとも一つのセクションの中でモノマー単位の局所的濃度が、そのコポリマーの主鎖の方向に沿って、連続的に変化していることを指している。「濃度勾配」の別な言い方は、「濃度スロープ(concentration slope)」である。
【0121】
少なくとも一つのセクションA”の中で、少なくとも1種のモノマー単位M1の局所的濃度が、そのポリマー骨格に沿って連続的に増加し、且つ少なくとも1種のモノマー単位M2の局所的濃度が、そのポリマー骨格に沿って連続的に低下するか、又はその逆であるのが、好ましい。
【0122】
具体的には、少なくとも一つのセクションA”の第一の末端におけるモノマー単位M1の局所的濃度が、セクションA”の第二の末端におけるよりも低く、それに対して、セクションA”の第一の末端におけるモノマー単位M2の局所的濃度が、セクションA”の第二の末端におけるよりも高いか、その逆である。
【0123】
少なくとも一つのセクションA”は、そのポリマー骨格の中のモノマー単位の総数を基準にして、モノマー単位の、有利には少なくとも30%、特には少なくとも50%、好ましくは少なくとも75%又は90%の比率を有している。
【0124】
その櫛形ポリマーKは、好ましくは、傾斜構造を有する少なくとも一つのセクションA”に加えて、さらなるセクションB”を有しているが、その中では、セクションB”全体にわたって、モノマーが実質的に一定の局所的濃度になっているか、及び/又はモノマーが統計的すなわちランダムな分布をしている。セクションB”は、たとえば、単一のタイプのモノマーか、又はランダムに分散された複数の異なったモノマーからなっていてよい。しかしながら、セクションB”の中で、そのポリマー骨格に沿っての傾斜構造がないか、又は濃度勾配がないのが、特に好ましい。
【0125】
櫛形ポリマーKにはさらに、化学的及び/又は構造的に異なっていてよい、二つ以上のさらなるセクションB”、たとえば、二つ、三つ、四つ、さらにはそれ以上のセクションB”が含まれていてもよい。
【0126】
少なくとも一つのセクションA”が、さらなるセクションB”に直接隣接しているのが好ましい。
【0127】
その櫛形ポリマーKは、有利には、ポリマーの中ではモノマー単位M1、M2、及びMSを形成する適切なモノマーのm1、m2、及びmsを、制御されたフリーラジカル重合させるか、及び/又はリビングフリーラジカル重合させることによって、製造することができる。
【0128】
制御されたフリーラジカル重合及び/又はリビングフリーラジカル重合のための技術としては、なかんずく、ニトロキシド介在重合(NMP)、原子移動ラジカル重合(ATRP)、又は可逆的付加開裂連鎖移動重合(RAFT)が挙げられる。好ましいのは、RAFT重合である。
【0129】
好適な製造方法及び櫛形ポリマーKの説明は、国際公開第2015/144886号パンフレット及び国際公開第2017/050907号パンフレットに記載されている。
【0130】
リビングフリーラジカル重合は、実質的に不可逆的な連鎖移動又は停止反応なしで実施される。活性な鎖末端の数が少なく、重合の間、実質的に一定に保たれる。これは、たとえば、RAFT剤及び少なすぎない程度の量の重合開始剤を使用することによるRAFT重合の場合には、達成される。このことによって、実質的に鎖の同時的な成長が起こり、それが、全重合プロセスの間ずっと、可能に維持される。このことによって、このプロセスの手段によって、ブロックポリマー又は傾斜ポリマーを製造することが可能となり、そしてそれに応じて、ポリマーの狭い分子量分布又は多分散性が得られる。これは、慣用される「フリーラジカル重合」又は非リビング条件下又は制御されない条件下で実施されるフリーラジカル重合では、不可能である。
【0131】
一つの好適な反応においては、第一のステップa)で、そのモノマーm1又はモノマーm2を、重合開始剤、特にはアゾビスイソブチロニトリル(AIBN)、α,α’-アゾジイソブチルアミジンジヒドロクロリド(AAPH)又はアゾビスイソブチルアミジン(AIBA)の手段により、RAFT剤、特にはジチオエステル、ジチオカルバメート、トリチオカーボネート、又はキサンテートの存在下、水中で、不活性ガス雰囲気、70~95℃で、60~80mol%の反応転化率まで重合させ、次いで、さらなるステップb)において、それぞれ他のモノマー、m2、又はm1を添加する。他のモノマーの添加は、一つのステップで、或いはある時間範囲で連続的に、或いは段階的に実施することも可能である。この反応により櫛形ポリマーKが得られるが、それは、モノマー単位M1を含みそしてモノマー単位M2を含まないか、或いはそれとは逆のセクションと、第二のモノマーを、より高い濃度で含み、その中では、2種のモノマーが、ランダムに存在するか又は傾斜した形で配列されているさらなるセクションとから構成されている。
【0132】
これにより、ポリマー鎖の一端にあるセクションの中にモノマー単位M1又はM2のみを含む、有利な櫛形ポリマーKを得ることが可能となる。
【0133】
任意成分のモノマーのmsは、早くも第一の反応ステップa)において、モノマーm1又はモノマーm2と共に添加することもできるし、或いはさらなる反応ステップb)で、第二のモノマーm2又はm1と共に添加することもできるし、或いは、反応ステップa)と反応ステップb)の間に割り込ませた反応ステップc)又は反応ステップb)に続く反応ステップc’)で添加することもできる。
【0134】
この場合、反応転化率は、たとえば、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)の手段により、重合溶液中のモノマー濃度の低下から、求めることができる。そのような方法は、当業者には公知である。
【0135】
好ましい櫛形ポリマーKは、たとえば、モノマーm1としてのアクリル酸及び/又はメタクリル酸、モノマーm2としてのメトキシポリエチレングリコールメタクリレート、さらには、任意成分のモノマーmsとしてのアクリル酸ヒドロキシエチル又はメタクリル酸ヒドロキシエチルを、リビングフリーラジカル重合、特にはRAFT重合させることによって、製造することができる。そのメトキシポリエチレングリコールメタクリレートは、10~115個のオキシエチレン単位を含んでいるのが好ましい。反応におけるm1:m2:msのモル比は、好ましくは(1.5~4):1:(0~3)である。
【0136】
その反応は、水中、保護ガス雰囲気下、特にはN2又はAr下、70℃~95℃の温度で実施するのが好ましい。
【0137】
その鉱物質バインダー組成物には、櫛形ポリマーKに加えて、少なくとも1種のさらなる分散剤を含んでいるのが、有利となり得る。
【0138】
このようにすることで、鉱物質バインダー組成物のさらなる性能、たとえば、処理性及び処理ウィンドウを、目標に設定することができる。そのようなブレンド物もまた、コスト的には有用である。
【0139】
少なくとも1種のさらなる分散剤は、好ましくは、コンクリート又はモルタルのための可塑剤である。好適な可塑剤は、たとえば、以下のものである:リグノスルホネート、スルホン化ナフタレン-ホルムアルデヒド縮合物、スルホン化メラミン-ホルムアルデヒド縮合物、ポリアルキレンオキシド鎖及び酸基を含むフェノール縮合物、スルホン化ビニルコポリマー、ホスホネート基を有するポリアルキレングリコール、ホスフェート基を有するポリアルキレングリコール、ポリカルボキシレート、又はアニオン性基及びポリエーテルの側鎖を有する櫛形ポリマー。特には、その少なくとも1種のさらなる分散剤が、さらなる櫛形ポリマーである。そのさらなる櫛形ポリマーは、好ましくは、アニオン性の基及びポリアルキレンオキシド側鎖を有しており、そのアニオン性の基は、カルボキシレート基、スルホネート基、ホスホネート基、又はホスフェート基から選択され、そして、そのさらなる櫛形ポリマーのモノマー単位は、そのポリマー骨格に沿って、純粋にランダムに配列されている。
【0140】
好ましいさらなる櫛形ポリマーは、慣用されるフリーラジカル共重合の手段、又はポリマー類似のエステル化/アミド化の手段によって製造され、そしてカルボキシレート基、並びにエステル、エーテル、イミド、及び/又はアミド基によってポリマー骨格に結合されたポリエチレンオキシドからなる側鎖を含む、櫛形ポリマーである。
【0141】
鉱物質バインダー組成物には、好ましくは、追加の分散剤、好ましくはさらなる櫛形ポリマーが含まれるが、そのさらなる櫛形ポリマーのモノマー単位は、そのポリマー骨格に沿って、純粋にランダムに分散されている。
【0142】
その櫛形ポリマーK及びそのさらなる分散剤は、好ましくは、それらが鉱物質バインダー組成物に添加されるまでは、ブレンド物の形態で存在している。
【0143】
櫛形ポリマーKをそのさらなる分散剤と組み合わせることによって、極めて良好な処理性と合わせて、大きく短縮された混合時間を達成することが可能となる。
【0144】
櫛形ポリマーK対さらなる分散剤の混合比は、乾燥ポリマー基準で、好ましくは(10:1)から(1:10)まで、より好ましくは(5:1)から(1:5)まで、特には(3.5:1)から(1:3.5)までである。
【0145】
櫛形ポリマーKは、液体の形態又は固体の形態で存在させることができる。櫛形ポリマーKは、特に好ましくは、溶液又は分散体の成分として存在させるが、そこでの櫛形ポリマーKの比率は、特には10~90重量%、好ましくは20~65重量%、又は25~50重量%である。このことによって、たとえば、バインダー組成物に櫛形ポリマーKを添加するのを、極めて容易とすることができる。
【0146】
しかしながら、特にさらなる分散剤との組合せにおいて、櫛形ポリマーKの他の比率も有利となり得る。したがって、溶液又は分散体は、20重量%の櫛形ポリマーKと5~10重量%のさらなる分散剤、又は15重量%の櫛形ポリマーKと30重量%のさらなる分散剤、又は10重量%の櫛形ポリマーKと10~20重量%のさらなる分散剤の比率とすることができる。
【0147】
また別の有利な実施態様においては、その櫛形ポリマーKを、固体の形態、特には粉体の形態、ペレットの形態、又は板状物の形態で存在させる。このようにすると、特に輸送が、簡素化される。それらの粉体は、乾燥バインダー組成物、湿潤バインダー組成物、又は混合水に添加するのがよい。
【0148】
櫛形ポリマーKは、有利には、粉体の中で、さらなる分散剤とブレンドして存在させることもできる。
【0149】
具体的には、櫛形ポリマーKを、仕上げ処理した乾燥コンクリート又はモルタル混合物に対して、粉体として添加することができる。
【0150】
そのようなポリマー粉体は、ポリマーの水溶液又は分散体を乾燥、特にはスプレー乾燥することによるか、又は固化させたポリマーの溶融物を摩砕することによって、得ることができる。この場合、添加剤、たとえば安定剤、特には酸化安定剤、又は担持物質をポリマーに添加して、その粉体の貯蔵安定性を向上させることができる。
【0151】
一つのさらなる態様においては、本発明は、先に述べたように、乾燥鉱物質バインダー組成物を水及び櫛形ポリマーKと混合することにより、コンクリート又はモルタルを製造するためのプロセスを提供するが、それが特徴としているのは、櫛形ポリマーKを含むバインダー組成物の混合時間を、そのポリマー骨格に沿ってモノマー単位のランダムなシーケンスを有する櫛形ポリマーを含みそして櫛形ポリマーKを含まない鉱物質バインダー組成物(ここで、水と混合するそのバインダー組成物は、櫛形ポリマーを除いては同一の組成を有している)の混合時間に比較して、好ましくは少なくとも20%、特には少なくとも25%、特別には少なくとも30%削減すること、及び混合時間が終了した後での比較的良好な処理性である。
【0152】
先にも述べたように、乾燥した鉱物質バインダー組成物を水及び櫛形ポリマーKと混合することは、連続式でも、或いはバッチ式でも実施することができる。適切な混合装置は、当業者には自体公知である。混合装置には、動的及び/又は静的な混合要素を含むことができる。一つの好ましい実施態様においては、スタチックミキサーが使用される。一つのさらなる好ましい実施態様においては、移送するためのセクションと、混合するべき物質を混合するためのセクションとに分離される、動的混合装置が使用される。
【0153】
適切な混合装置の例としては、以下のものが挙げられる:水平式単軸スクリューミキサー、二軸スクリューミキサー、垂直式ミキサー、ベルトミキサー、サークムファレンシャル(circumferential)ミキサー、タンブルシェーカー、Hobartミキサー、プラネタリーミキサー、コンクリートミキサー、ドラムミキサー、ミキシングバケット、ミキシングチューブ、パドルミキサー、ジェットミキサー、及びスクリューミキサー。
【0154】
具体的には、コンクリート又はモルタルを短い混合時間で製造するためのプロセスにおける、水対鉱物質バインダーの重量比は、0.10~0.40、好ましくは0.11~0.35、より好ましくは0.12~0.32、特には0.13~0.30、特別には0.14~0.28の範囲であり、及び/又は、水の、バインダー組成物中に存在している粉状の粒子状物質の量に対する重量比は、0.12~0.35、好ましくは0.13~0.30、特には0.14~0.25の範囲である。
【0155】
具体的には、水と混合した鉱物質バインダー組成物は、350kg/m3を超える、好ましくは450~1600kg/m3の鉱物質バインダーの含量、450~2000kg/m3の粉状の粒子状物質の含量、及び0.1~0.4の水対鉱物質バインダーの重量比を有している。
【0156】
そのようなコンクリート及びモルタルは、特別に良好な強度を達成し、そして、そのような混合物においては、混合時間を短縮するための櫛形ポリマーKの効果が特に優れている。
【0157】
一つのさらなる態様においては、本発明は、水と混合した鉱物質バインダー組成物、特には少なくとも1種の先に述べたような櫛形ポリマーKを含む、自己充填コンクリート(SCC)、高性能コンクリート(HPC)、超高性能コンクリート(UHPC)、又は高性能若しくは超高性能のモルタルを提供する。
【0158】
本発明の追加の態様は、先に述べたような、鉱物質バインダー組成物を硬化させることによって得ることが可能な、成形体、特には建造物用の構成要素(constituent of a construction)を提供する。
【0159】
建造物は、たとえば、橋、ビルディング、トンネル、道路、又は滑走路などであってよい。
【0160】
本発明のさらに有利な実施態様は、以下の実施例から挙げることができる。
【実施例】
【0161】
1.ポリマーの分子量及び多分散性並びにポリマー溶液の固形分含量の測定
ポリマーの重量平均分子量Mw及び多分散性は、標準としてポリエチレングリコール(PEG)を使用したゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)により測定した。
【0162】
使用したカラムカスケード:3本の8×300mm Suprema GPCカラム(10μm、2×1000Å、1×30Å、プレカラム付き)、PSS Polymer Standards Service(Germany)製
溶出液:0.1N NaNO3溶液、NaOHの手段によりPH12に調節
流量:0.8mL/min
検出器:RI検出器 2414、Waters(USA)製
カラムオーブン及び検出器の温度:45℃
【0163】
評価は、手段として評価ソフトウェアのWaters(登録商標)Breeze(商標)2(Waters,USA)を使用し、ポリエチレンオキシド標準(PSS Polymer Standards Service,Germany)に関連させて、実施した。
【0164】
ポリマー溶液の固形分含量は、Mettler Toledo(Switzerland)製のハロゲンドライヤーモデルHG63を使用して測定した。
【0165】
2.ポリマーの製造
2.1.ブロックコポリマーP1
RAFT重合の手段によりブロックコポリマーP1を製造するために、57.4gの、メトキシポリエチレングリコール1000メタクリレート(0.03mol;ポリエチレングリコールの平均分子量、約1,000g/mol)の50%重量強度水溶液、及び30.1gの脱イオン水を、還流冷却器、スターラー、温度計、及び不活性ガス注入管を備えた丸底フラスコの中に入れた。その反応混合物を、激しく撹拌しながら加熱して、80℃とした。加熱の際及び残りの反応時間ずっと、溶液の中に不活性ガス気流(N2)を穏やかに流した。
【0166】
次いで、756mgの4-シアノ-4-(チオベンゾイル)ペンタン酸(2.7mmol;RAFT剤)をその混合物に添加した。物質が完全に溶解したら、135mgのアゾビスイソブチロニトリル(0.82mmol;重合開始剤)を添加した。そのあとは、一定時間間隔で、HPLCの手段により、転化率を測定した。
【0167】
メトキシポリエチレングリコールメタクリレートを基準にした転化率が80mol%を超えたらすぐに、9.32gのメタクリル酸(0.11mol)を、その反応混合物に添加した。その混合物をさらに2時間反応させておいてから、冷却した。透明で、少し赤みがかった水溶液が得られた。水を加えることにより、その溶液の固形分含量を30重量%に設定した。
【0168】
メタクリル酸対メトキシポリエチレングリコールメタクリレートのモル比は3.7である。そのポリマーの分子量Mwは、24,000g/molであり、その多分散性は1.2である。
【0169】
2.2.ランダムコポリマーP2
22gのメトキシポリエチレングリコール1000メタクリレート(0.021mol、ポリエチレングリコールの平均分子量、約1,000g/mol)、129gのメトキシポリエチレングリコール3000メタクリレート(0.042mol、ポリエチレングリコールの平均分子量、約3,000g/mol)、26.6g(0.37mol)のアクリル酸、及び188gの水を、リザーバーの中で混合した。第二のリザーバーの中で、1.9g(0.01mol)のNa2S2O5を、25gの水の中に溶解させ、第三のリザーバーの中で、2.4g(0.01mol)のNa2S2O8を、25gの水の中に溶解させた。100gの水を、還流冷却器、機械式スターラー、温度計、及び溶液のための入口を備えた、多口フラスコの中に入れ、加熱して90℃とした。撹拌しながら加熱して85~90℃とし、計量ポンプの手段により、リザーバーからの溶液を、別々の入口から、同時且つ均一に、4時間かけて計量仕込みした。計量仕込みが完了したら、その反応混合物をさらに30分間、85~90℃で撹拌した。冷却してから、30%重量強度のNaOH溶液を添加することにより、その溶液のpHを5に調節した。水を加えることにより、その溶液の固形分含量を30重量%に設定した。
【0170】
酸モノマー対メトキシポリエチレングリコールメタクリレートのモル比は、5.9である。そのポリマーの分子量Mwは、32,000g/molであり、その多分散性は2.4である。
【0171】
2.3.ランダムコポリマーP3
コポリマーP3は、アクリル酸とメタクリル酸とのコポリマー(平均分子量Mw、約4,000)を、メトキシポリエチレングリコール3000(一端をメトキシ基により封止し、3000の平均分子量Mwを有するポリエチレングリコール)を用いて、ポリマー類似エステル化させることにより得た。水を加えることにより、その溶液の固形分含量を30重量%に設定した。
【0172】
そのポリマーの中での、酸基対ポリエチレングリコール鎖のモル比は、4.5である。そのポリマーの分子量Mwは、48,000g/molであり、その多分散性は2.4である。
【0173】
2.4.ランダムコポリマーP4
コポリマーP4は、アクリル酸とメタクリル酸とのコポリマー(平均分子量Mw、約4,000)を、メトキシポリエチレングリコール1000(一端をメトキシ基により封止し、1000の平均分子量Mwを有するポリエチレングリコール)及びメトキシポリエチレングリコール3000(一端をメトキシ基により封止し、3000の平均分子量Mwを有するポリエチレングリコール)を用いて、ポリマー類似エステル化させることにより得た。水を加えることにより、その溶液の固形分含量を20重量%に設定した。
【0174】
そのポリマーの中での、酸基対ポリエチレングリコール鎖のモル比は、約1.6である。そのポリマーの分子量Mwは、30,000g/molであり、その多分散性は2.6である。
【0175】
3.コンクリート混合物における試験
3.1.トライアル1及びトライアル2のためのコンクリート混合物の製造及び測定方法
コンクリートの製造:セメント、シリカダスト、砂及び砂利を、二軸スクリューミキサーの中で15秒間混合し、次いで、前もってポリマーをその中に溶解させてある水を添加した。次いでそのコンクリートを、均質で、易流動性のコンシステンシーが得られるまで混合し、それに必要とした混合時間を記録した。次いで、そのフレッシュなコンクリートの性質を測定した。コンクリート混合物はすべて、1基の同一のコンクリートミキサーを使用して調製した。
【0176】
その混合時間は、以下のようにして測定した:櫛形ポリマーを含む水を添加した後で、そのコンクリートを60秒間混合して、その均質性とコンシステンシーを、目視及びスコップを手でかき回すことにより判定した。必要があれば、混合を続け、その均質性とコンシステンシーを、一定時間ごとに試験した。このようにして、その混合物が、乾燥しているか濡れているか、不均質か均質か、固いか柔らかいか、そして流動性があるかどうかを、評価した。その混合時間は、水を添加してから、コンクリートが均質で、柔らかく、流動性のあるコンシステンシーに達するまでの時間間隔であって、停止させていた時間はカウントせずに、純粋な混合時間だけである。
【0177】
コンクリート混合物の空気含量は、JIS A 1128に従って求めた。
【0178】
スランプフローは、JIS A 1150に従って求めた。
【0179】
50cm流動時間は、スランプフローを用いて求めたが、スランプコーンを引き上げてから、コンクリートの直径が50cmに達するのに必要な時間である。
【0180】
L-流動試験は、コンクリートの流動速度を表し、コンクリートの粘度の尺度である。これは、JSCE-F-514に従って測定した。
【0181】
コンクリートの硬化開始と硬化終了は、コンクリートを篩別して得られたモルタルのサンプルについて、JIS A 1147に従った針入度試験によって測定した。
【0182】
3.2.トライアル1
トライアル1における試験の目的で使用したコンクリート混合物は、表1に記載した組成を有している。
【0183】
【0184】
表2に、使用した櫛形ポリマー及び添加したそれらの量、さらには、均質な混合物とするに必要とした混合時間、並びにそのコンクリート混合物のフレッシュなコンクリートの性質を示す。
【0185】
【0186】
3.3.トライアル2
トライアル2における試験の目的で使用したコンクリート混合物は、表3に記載した組成を有している。
【0187】
【0188】
表4に、使用した櫛形ポリマー及び添加したそれらの量、さらには、均質な混合物とするに必要とした混合時間、並びにそのコンクリート混合物のフレッシュなコンクリートの性質を示す。
【0189】
【0190】
3.4.トライアル3のためのコンクリート混合物の製造及び測定方法
コンクリートの製造:セメント、スラグサンド、シリカダスト、及び砂を、機械式ミキサーの中で30秒間混合し、次いで、前もってポリマーをその中に溶解させてある水を添加した。次いで、そのコンクリートを、表6に示したようにして、6分間又は3分間混合した。次いで、そのフレッシュなコンクリートの性質を測定した。コンクリート混合物はすべて、1基の同一のコンクリートミキサーを使用して調製した。
【0191】
スランプフローは、混合直後及び30分後に、DIN-EN 12350-2に従って測定した。
【0192】
所定の混合時間の後での混合物の均質性を、目視により評価して、1~5のグレード付けをしたが、ここで、1は、不均質であることを意味し、5は、完全に均質であることを意味している。
【0193】
所定の混合時間の後での混合物の処理性は、コンクリートを、手動で、スコップでかき回して、抵抗及び粘度を評価することにより、1~5のグレード付けで判定したが、ここで、1は、極めて固く、粘稠であることを意味しており、そして5は、極めて柔らかく、良好な流動性を有していることを意味しており、そして2、3及び4の値は、相応の中間の状態を意味している。
【0194】
3.5.トライアル3
トライアル3における試験の目的で使用したコンクリート混合物は、表5に記載した組成を有している。
【0195】
【0196】
表6に、使用した櫛形ポリマー及び添加したそれらの量、さらには、混合時間、並びにそのコンクリート混合物のフレッシュなコンクリートの性質を示す。
【0197】
【表6】
本明細書に開示される発明は以下の態様を含む:
[1]鉱物質バインダー組成物と水との混合時間を短縮するための櫛形ポリマーKの使用であって、
前記混合時間が、鉱物質バインダー組成物であって、そのポリマー骨格に沿ってモノマー単位のランダムなシーケンスを有する櫛形ポリマーを含み、かつ櫛形ポリマーKを含まない同一の鉱物質バインダー組成物の混合時間に比較して、短縮され、
前記バインダー組成物が、前記混合時間の終了後に、比較的良好な処理性を有する、
櫛形ポリマーKの使用において、
前記櫛形ポリマーKが、ポリマー骨格と側鎖とを含み、
前記櫛形ポリマーKが、酸基を含む少なくとも一種のモノマー単位M1、及び側鎖を含む少なくとも一種のモノマー単位M2を含み、
前記モノマー単位M1及びM2が、前記ポリマー骨格に沿って、ランダムでないシーケンスで配列していることを特徴とする、
櫛形ポリマーKの使用。
[2]前記混合時間が、少なくとも20%、好ましくは少なくとも25%、とりわけ少なくとも30%短縮される、上記[1]に記載の櫛形ポリマーKの使用。
[3]水と混合した前記鉱物質バインダー組成物が、450~1600kg/m
3
、好ましくは500~1500kg/m
3
の範囲の鉱物質バインダーの含量を有することを特徴とする、上記[1]又は[2]に記載の櫛形ポリマーKの使用。
[4]鉱物質バインダーに対する水の重量比が、0.10~0.40、好ましくは0.11~0.35、より好ましくは0.12~0.32、特に0.13~0.30、とりわけ0.14~0.28の範囲であることを特徴とする、上記[1]~[3]のいずれか一つに記載の櫛形ポリマーKの使用。
[5]前記バインダー組成物中に存在する粉状の粒子状物質の量に対する水の重量比が、0.12~0.35、好ましくは0.13~0.30、特に0.14~0.25の範囲であることを特徴とする、上記[1]~[4]のいずれか一つに記載の櫛形ポリマーKの使用。
[6]水と混合する前記鉱物質バインダー組成物が、高性能若しくは超高性能のコンクリート、又は高性能若しくは超高性能のモルタルであることを特徴とする、上記[1]~[5]のいずれか一つに記載の櫛形ポリマーKの使用。
[7]水と混合する前記鉱物質バインダー組成物が、自己充填コンクリートであることを特徴とする、上記[1]~[6]のいずれか一つに記載の櫛形ポリマーKの使用。
[8]前記モノマー単位M1が下記の式Iを有し、かつ前記モノマー単位M2が式IIを有することを特徴とする、上記[1]~[7]のいずれか一つに記載の櫛形ポリマーKの使用:
【化4】
【化5】
(式中、
基R
1
は、それぞれ互いに独立して、-COOM、-SO
2
-OM、-O-PO(OM)
2
、及び/又は-PO(OM)
2
であり、
R
2
及びR
5
は、それぞれ互いに独立して、H、-CH
2
COOM、又は1~5個の炭素原子を有するアルキル基であり、
R
3
及びR
6
は、それぞれ互いに独立して、H、又は1~5個の炭素原子を有するアルキル基であり、
R
4
及びR
7
は、それぞれ互いに独立して、H、-COOM、又は1~5個の炭素原子を有するアルキル基であるか、
又は、R
1
がR
4
と共になって、-CO-O-CO-を含む環(無水物)を形成し、
M部分は、互いに独立して、H
+
、アルカリ金属イオン、アルカリ土類金属イオン、二価若しくは三価の金属イオン、アンモニウムイオン、又は有機アンモニウム基であり;
m=0、1、又は2であり、
p=0又は1であり、
X部分は、それぞれ互いに独立して、-O-、NH-、又は-NR
8
-であり、
基R
8
は、それぞれ互いに独立して、式-[AO]
n
-R
a
の基であり、
ここで、A=C
2
-~C
4
-アルキレンであり、R
a
はH、C
1
-~C
20
-アルキル基、シクロヘキシル基、又は-アルキルアリール基であり、かつn=2~250、特に10~200である)。
[9]前記櫛形ポリマーKにおける、前記モノマー単位M2に対する前記モノマー単位M1のモル比が、0.5~6、特に0.7~5、好ましくは0.9~4.5、より好ましくは1.0~4、又は2~3.5の範囲であることを特徴とする、上記[1]~[8]のいずれか一つに記載の櫛形ポリマーKの使用。
[10]前記櫛形ポリマーKが、1.5未満、好ましくは1.0~1.4の範囲、特に1.1~1.3の範囲の多分散性を有することを特徴とする、上記[1]~[9]のいずれか一つに記載の櫛形ポリマーKの使用。
[11]前記櫛形ポリマーKが、ブロックコポリマーであるか、又は傾斜構造を有するコポリマーであることを特徴とする、上記[1]~[10]のいずれか一つに記載の櫛形ポリマーKの使用。
[12]前記鉱物質バインダー組成物がさらに、分散剤、好ましくはさらなる櫛形ポリマーを含み、ここで、前記さらなる櫛形ポリマーのモノマー単位が、そのポリマー骨格に沿って、純粋にランダムに分布していることを特徴とする、上記[1]~[11]のいずれか一つに記載の櫛形ポリマーKの使用。
[13]乾燥鉱物質バインダー組成物を、水及び上記の櫛形ポリマーKと混合することによって、コンクリート又はモルタルを製造するための方法であって、
前記櫛形ポリマーKを含む前記バインダー組成物の混合時間を、そのポリマー骨格に沿ってモノマー単位のランダムなシーケンスを有する櫛形ポリマーを含み、かつ櫛形ポリマーKを含まない鉱物質バインダー組成物の混合時間に比較して、好ましくは少なくとも20%まで、特に少なくとも25%まで、とりわけ少なくとも30%まで低減し、
水と混合する前記バインダー組成物が、前記櫛形ポリマーを除いては、同一の組成を有し、かつ前記混合時間終了後に比較的良好な処理性を有し、
前記鉱物質バインダー組成物が、特に、自己充填コンクリート、高性能コンクリート、超高性能コンクリート、又は高性能若しくは超高性能のモルタルであり、
水と混合した前記鉱物質バインダー組成物が、好ましくは350kg/m
3
を超え、とりわけ450~1600kg/m
3
の鉱物質バインダーの含量を有し、450~2000kg/m
3
の粉状の粒子状物質の含量を有し、かつ0.1~0.4の鉱物質バインダーに対する水の重量比を有することを特徴とする、
方法。
[14]少なくとも一種の上記の櫛形ポリマーKを含む、水と混合した鉱物質バインダー組成物であって、
前記鉱物質バインダー組成物が、特に、自己充填コンクリート、高性能コンクリート、超高性能コンクリート、又は高性能若しくは超高性能のモルタルであり、
水と混合した前記鉱物質バインダー組成物が、好ましくは350kg/m
3
を超え、とりわけ450~1600kg/m
3
の鉱物質バインダーの含量を有し、450~2000kg/m
3
の粉状の粒子状物質の含量を有し、かつ0.1~0.4の鉱物質バインダーに対する水の重量比を有する、
鉱物質バインダー組成物。
[15]上記[14]に記載の前記鉱物質バインダー組成物を硬化させることによって得られる、成形体、特に建造物用の構成要素。