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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-26
(45)【発行日】2024-02-05
(54)【発明の名称】磁性薄帯およびそれを用いた磁性コア
(51)【国際特許分類】
   H01F 1/153 20060101AFI20240129BHJP
   H01F 41/02 20060101ALI20240129BHJP
   H01F 27/25 20060101ALI20240129BHJP
   C22C 38/00 20060101ALI20240129BHJP
   C22C 38/32 20060101ALI20240129BHJP
   C21D 6/00 20060101ALN20240129BHJP
   B22D 11/06 20060101ALN20240129BHJP
【FI】
H01F1/153 133
H01F1/153 108
H01F41/02 C
H01F27/25
C22C38/00 303V
C22C38/32
C21D6/00 C
B22D11/06 360A
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2021545581
(86)(22)【出願日】2020-09-09
(86)【国際出願番号】 JP2020034201
(87)【国際公開番号】W WO2021049554
(87)【国際公開日】2021-03-18
【審査請求日】2023-01-19
(31)【優先権主張番号】P 2019164598
(32)【優先日】2019-09-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(73)【特許権者】
【識別番号】303058328
【氏名又は名称】東芝マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】斉藤 忠雄
(72)【発明者】
【氏名】前田 貴大
(72)【発明者】
【氏名】土生 悟
【審査官】木下 直哉
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-145373(JP,A)
【文献】特開平9-125135(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F 1/153
H01F 41/02
H01F 27/25
C22C 38/00
C22C 38/32
C21D 6/00
B22D 11/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Fe-Nb-Cu-Si-B系磁性薄帯をXRD分析したとき、結晶相のピーク総面積/(アモルファス相のピーク面積+結晶相のピーク総面積)で示される結晶化度が0.05以上0.4以下であることを特徴とする磁性薄帯。
【請求項2】
前記結晶相をEBSD分析したとき、KIKUCHIパターンが検出される領域を有することを特徴とする請求項1に記載の磁性薄帯。
【請求項3】
前記磁性薄帯の板厚は25μm以下であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の磁性薄帯。
【請求項4】
請求項1に記載の磁性薄帯を巻回または積層したことを特徴とする磁性コア。
【請求項5】
請求項4に記載の磁性コアを熱処理して平均結晶粒経が200nm以下の結晶構造にしたことを特徴とする磁性コア。
【請求項6】
前記磁性コアをXRD分析したとき、結晶化度の値が0.9以上であることを特徴とする請求項4または請求項5に記載の磁性コア。
【請求項7】
コイルを巻回したことを特徴とする請求項4に記載の磁性コア。
【請求項8】
10kHzのインダクタンスをL10とし、100kHzのインダクタンスをL100としたときL10/L100が1.5以下であり、100kHzにける透磁率が15000以上である請求項4に記載の磁性コア。
【請求項9】
100kHのインダクタンスをL100とし、1MHzのインダクタンスをL1MとしたときL100/L1Mが11以下であり、100kHzにける透磁率が15000以上である請求項4に記載の磁性コア。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
実施形態は、概ね、磁性薄帯およびそれを用いた磁性コア、に関する。
【背景技術】
【0002】
スイッチングレギュレータ等の電力変換装置の入出力にはインダクタンス部品とコンデンサ部品を組み合わせたノイズフィルターが使用されている。このインダクタンス部品にはコモンモードノイズを除去するためのコモンモードチョークコイルが採用されている。コモンモードチョークコイルは磁性コアにコイルを巻回したものである。
【0003】
磁性コアに使用される磁性材料としては、フェライト、アモルファス合金、Fe系微結晶材などがある。これらのうち、小型軽量化の視点からFe系微結晶材が普及している。Fe系微細結晶材はCuを含有したFe系アモルファス合金を結晶化温度以上で熱処理したものである。Fe系微結晶材を使用することで、高透磁率化されることによって部品インダクタンス値が稼げるため、小型軽量化ができる。また、Fe系微結晶材は高磁束密度かつ低損失であるため、高電圧パルス減衰能を要する用途や大電流の用途を中心に使われている。
【0004】
例えば、特許文献1には周波数100kHzにおける透磁率が25000以上である磁心が開示されている。また、特許文献1には、平均結晶粒径100nm以下の結晶構造を有する鉄基軟磁性合金板を巻回した磁性コアが開示されている。特許文献1では、絶縁層の厚さなどを制御することにより、透磁率の向上を図っていた。つまり、特許文献1では、絶縁層の制御により磁性薄帯の占積率を向上させ、透磁率を向上させている。
【0005】
一方、電波法では、10kHz以上の高周波電流を使う設備において設置許可を申請するように定められている。また、電波法では設置条件などが定められている。設置条件を満たすためには、電力変換装置の小型化が効果的である。電力変換装置としては主に100kHz~1MHzの範囲のものが使われている。このため、10kHz以上、さらには100kHz~1MHzの範囲で小型化できる磁性コアが求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】国際公開第2018/062409号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
磁性コアの小型化を達成するためには、高透磁率化が有効である。特許文献1の磁性コアでは透磁率は良いものの、高透磁率化には限界があった。特に、10kHz以上、さらには100kHz~1MHzの範囲での高透磁率化には限界があった。この原因を追究した結果、熱処理前のFe基アモルファス合金薄帯の結晶相の存在量が重要であることが分かった。
【0008】
Fe基微細結晶合金薄帯を製造するときは、Fe基アモルファス合金薄帯を熱処理して結晶化する。熱処理前のFe基アモルファス合金薄帯は、実質的に結晶の無い状態である。実質的に結晶の無いアモルファス合金を熱処理する方式では、高透磁率化には限界があることが分かったのである。
【0009】
1つの側面では、本発明は、このような問題に対処するためのものであり、高透磁率化を可能とする磁性薄帯を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
実施形態にかかる磁性薄帯は、Fe-Nb-Cu-Si-B系磁性薄帯をXRD分析したとき、結晶相のピーク総面積/(アモルファス相のピーク面積+結晶相のピーク総面積)で示される結晶化度が0.05以上0.4以下であることを特徴とするものである。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、実施形態にかかる磁性薄帯の一例を示す図である。
図2図2は、実施形態にかかる磁性コアの一例を示す図である。
図3図3は、実施形態にかかる磁性コアの他の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
実施形態にかかる磁性薄帯は、Fe-Nb-Cu-Si-B系磁性薄帯をXRD分析したとき、結晶相のピーク総面積/(アモルファス相のピーク面積+結晶相のピーク総面積)で示される結晶化度が0.05以上0.4以下であることを特徴とするものである。
【0013】
Fe-Nb-Cu-Si-B系とは、鉄(Fe)、ニオブ(Nb)、銅(Cu)、珪素(Si)、硼素(B)を構成元素として含有する鉄合金である。
【0014】
鉄合金の組成は、例えば下記一般式(組成式)により表される。
【0015】
一般式:FeCuNbSi
【0016】
aはa+b+c+d+e+f=100原子%を満足する数であり、bは0.01≦b≦8原子%を満足する数であり、cは0.01≦c≦10原子%を満足する数であり、dは0≦d≦20原子%を満足する数であり、eは10≦e≦25原子%を満足する数であり、fは3≦f≦12原子%を満足する数である。また、式中、Mは周期表の4族元素、5族元素(Nbを除く)、6族元素および希土類元素からなる群より選ばれる少なくとも一つの元素である。
【0017】
鉄(Fe)は珪素(Si)と結晶相を構成する元素である。Feを主成分とすることにより、安価な材料とすることができる。
【0018】
銅(Cu)は耐食性を高め、結晶粒の粗大化を防ぎ、鉄損、透磁率等の軟磁気特性の改善に有効である。Cuの含有量は0.01原子%以上8原子%以下(0.01≦b≦8)であることが好ましい。含有量が0.01原子%未満では添加の効果が小さく、8原子%を超えると磁気特性が低下する。
【0019】
ニオブ(Nb)は結晶粒径の均一化や温度変化に対する磁気特性の安定化に有効である。M元素の含有量は0.01原子%以上10原子%以下(0.01≦c≦10)であることが好ましい。
【0020】
珪素(Si)および硼素(B)は、製造時における合金の非晶質化または微結晶の析出を助成する。SiおよびBは、結晶化温度の改善や、磁気特性向上のための熱処理に対して有効である。特に、Siは微細結晶粒の主成分であるFeに固溶し、磁歪や磁気異方性の低減に有効である。Siの含有量は10原子%以上25原子%以下(10≦e≦25)であることが好ましい。Bの含有量は3原子%以上12原子%以下(3≦f≦12)であることが好ましい。
【0021】
Mは、周期表の4族元素、5族元素(Nbを除く)、6族元素、および希土類元素からなる群より選ばれる少なくとも一つの元素である。4族元素の例は、Ti(チタン)、Zr(ジルコニウム)、Hf(ハフニウム)等を含む。5族元素の例は、V(バナジウム)、Ta(タンタル)等を含む。6族元素の例は、Cr(クロム)、Mo(モリブデン)、W(タングステン)等を含む。希土類元素の例は、Y(イットリウム)、ランタノイド元素、アクチノイド元素等を含む。M元素は、結晶粒径の均一化や温度変化に対する磁気特性の安定化に有効である。M元素の含有量は、0原子%以上20原子%以下(0≦d≦20)であることが好ましい。
【0022】
また、一般式としては、Fe、Nb、Cu、Si、Bからなるもの(d=0原子%)が好ましい。また、上記一般式を満たす場合、FeSi相が形成される。FeSi相はα’-Fe相の一種である。α’-Fe相は広義にはα-Fe相に含まれる。微細結晶粒は、主に、α-Fe相、FeSi相、およびFeB相からなる群より選ばれる少なくとも一つの相を有する。各結晶は、一般式を満たす構成元素を含んでいてもよい。
【0023】
また、磁性薄帯は、鋳造後の長尺の薄帯や長尺の薄帯を所定サイズに切断したものを示す。長尺の薄帯を所定サイズに切断したものとは、任意のサイズであってよい。
【0024】
また、実施形態にかかる磁性薄帯は、XRD分析(X-ray Diffraction)したとき、結晶相のピーク総面積/(アモルファス相のピーク面積+結晶相のピーク総面積)で示される結晶化度が0.1以上0.4以下であることを特徴とする。図1に磁性薄帯の一例を示した。図中、1は磁性薄帯である。
【0025】
まず、XRD分析条件について説明する。XRD分析は、Cuターゲット、管電圧40kV、管電流40mA、スリット幅(RS)0.40mmの条件で行われる。また、測定条件はOut of Plane(θ/2θ)とし、回折角2θが5°~140°の範囲を測定する。
【0026】
回折角(2θ)が30°~60°に最強ピークを有し、かつ、半値幅3°以上のピークをアモルファス相のピークとする。このアモルファス相のピークの面積をアモルファス相のピーク面積とする。5°~140°に検出されるアモルファス相のピーク以外をすべて結晶相のピークとする。結晶相のピークの合計面積を結晶相のピーク総面積とする。
【0027】
上記のXRD分析条件であれば、アモルファス相のピークは22°±1°および44°±1°に検出される。言い換えると、これら以外のピークは結晶相のピークとしてカウントするものとする。
【0028】
結晶化度=結晶相のピーク総面積/(アモルファス相のピーク面積+結晶相のピーク総面積)となる。結晶化度が0.05以上0.4以下であるということは、磁性薄帯に所定量の結晶相が存在することを示す。後述するように磁性薄帯を巻回した磁性コアを熱処理して微細結晶構造を形成している。このため、微細結晶構造を形成するための熱処理を行う前の磁性コア(または磁性薄帯)の結晶化度が0.05以上0.4以下であるということを示している。また、上記の磁性コアは、微細結晶構造を形成するための熱処理を行う前の磁性コア(または磁性薄帯)であるから、鋳造後の磁性薄帯に結晶相が存在することを示している。
【0029】
微細結晶粒は、主に、α-Fe相、FeSi相およびFeB相からなる群より選ばれる少なくとも一つの結晶相を有している。これら結晶相を鋳造後の磁性薄帯に形成させることが好ましい。鋳造後の磁性薄帯に結晶相を設けることにより、熱処理時にもともと存在する結晶相が核となり微細結晶構造を形成することができる。これにより、高透磁率化を実現することができる。
【0030】
また、結晶化度が0.05未満であると結晶相を設ける効果が小さい。また、結晶化度が0.4を超えると結晶の微細化が困難となる可能性がある。また、コアに巻回する際に破損する可能性が高くなる。このため、結晶化度は0.05以上0.4以下の範囲内であることが好ましく、0.05以上0.3以下の範囲内であることがより好ましく、0.1以上0.3以下の範囲内であることが更に好ましい。結晶化度を0.3以下とすると磁性薄帯の強度が向上する。結晶化度を0.1以上とすることにより、結晶性が安定する。また、実施形態にかかる磁性薄帯は、例えば薄帯表面のどこをXRD分析したとしても結晶化度が0.05以上0.4以下の範囲内になるものである。
【0031】
また、結晶相をEBSD分析したとき、KIKUCHIパターンが検出される領域があることが好ましい。EBSD分析とは、電子後方散乱回析法(Electron Backscatter Diffraction Pattern)のことである。EBSD分析では結晶方位の解析を行うことができる。また、KIKUCHIパターン(菊池像)とは、回折スポットの他に見られる線やバンドのことである。菊池図形とも呼ばれている。KIKUCHIパターンは、入射電子が結晶内で原子の熱振動による非弾性散乱を受けた後にブラッグ反射を起こすことによって生じる図形である。
【0032】
KIKUCHIパターンの明暗の線は、入射線の方向に近い線は暗く、遠い線は明るくなる。結晶性が良いほど明るい線に見える。これにより、結晶の成長方向も判別可能である。したがって、一般的には、KIKUCHIパターンが検出されると、結晶方位<111><120><110>などがあることを示している。
【0033】
KIKUCHIパターンが検出される領域があるということは、結晶相が存在することを示す。熱処理により、結晶相を核として微細結晶構造を形成することができる。このため、磁性薄帯の結晶相のどこを測定してもKIKUCHIパターンが検出される領域があることが好ましい。
【0034】
なお、EBSD分析では、電子ビーム条件を15kVとし評価した。EBSD分析装置は、EDAX(TSL)社製Hikari High Speed EBSD Detector OIM解析ソフトver.7を用いた。また、測定視野は5点以上とした。5回以内にKIKUCHIパターンが検出されたら、測定を止めてもよい。
【0035】
また、磁性薄帯の板厚は25μm以下であることが好ましい。磁性薄帯の板厚を薄くすることにより渦電流損失を小さくすることができる。このため、磁性薄帯の板厚は25μm以下であることが好ましく、20μm以下であることがより好ましい。なお、磁性薄帯の板厚は平均板厚である。平均板厚は、マイクロ測定器を使用して磁性薄帯の断面を観察したとき、任意の5ヶ所の厚さの平均値により求めるものとする。
【0036】
また、磁性薄帯の表面粗さRaは1.0μm以下が好ましい。表面粗さRaが小さい方が巻回したときに磁性薄帯が破損するのを抑制することができる。また、磁性コアの層間絶縁の絶縁層の厚さを均一にすることができる。また、絶縁層と磁性薄帯の間に空隙が形成されるのを抑制することができる。したがって、占積率を向上させることができる。
【0037】
また、磁性薄帯の表面部と中心部で結晶相の面積を比べたとき、表面部の方に結晶相が多いことが好ましい。このとき、磁性薄帯のどちらか一方の表面部に結晶相が存在すればよい。表面部とは磁性薄帯の表面の凹部から2μm以内の領域である。中心部とは磁性薄帯の厚み方向の中心から±2μmの領域である。表面の凹部は測定エリアの表面凹凸の中でもっとも窪んだ個所とした。結晶相とは、α-Fe相、FeSi相およびFeB相から選ばれる1種以上が主体となった相である。磁性薄帯の表面部に結晶相を多くすることにより、後述する結晶化熱処理により微細な結晶を得ることができる。これにより、磁気特性を向上させることが出来る。また、磁性薄帯の中心部には、結晶相がないことが好ましい。磁性薄帯の断面をEBSD分析することにより、表面部および中心部の結晶相の面積比を調べることができる。
【0038】
以上のような磁性薄帯を巻回または積層して磁性コアにするものとする。磁性薄帯は必要なサイズに加工した後、巻回または積層するものとする。また、必要に応じ、層間絶縁を行うものとする。
【0039】
図2および図3に磁性コアの一例を示した。図2は巻回型コアの一例である。また、図3は積層型磁性コアの一例である。図中、2-1は巻回型磁性コア、2-2は積層型磁性コア、である。
【0040】
巻回型磁性コア2-1は、磁性薄帯1を巻回したものである。巻回型磁性コア2-1は、中心部が中空になったドーナツ型の形状を有している。また、磁性薄帯1の表面に絶縁層を設けてもよいものとする。また、図2では円形のものを例示したが、四角形状、楕円形状、U字形状に巻回したものであってもよい。
【0041】
また、積層型磁性コア2-2は、磁性薄帯1を積層したものである。積層枚数は任意である。また、磁性薄帯1の表面に絶縁層を設けてもよいものとする。磁性薄帯1の形状としては、長方形、正方形、H字形、U字形、三角形、円形、など様々なものが挙げられる。
【0042】
磁性コアを形成した後、熱処理を施して平均結晶粒径が200nm以下の結晶構造にすることが好ましい。また、熱処理後の磁性コアは、結晶化度の値が0.9以上であることが好ましい。熱処理温度を第1の結晶化温度よりも高い温度とする。第1の結晶化温度とは500℃~520℃付近にある。
【0043】
結晶化温度とは、結晶が析出し始める温度のことである。結晶化温度付近で熱処理することにより、結晶を析出させることができる。Fe-Nb-Cu-Si-B系磁性薄帯は、第1の結晶化温度と第2の結晶化温度を有している。第1の結晶化温度は500℃~520℃付近にある。また、第2の結晶化温度は600℃以上にある。第1の結晶化温度付近または第1の結晶化温度よりも高い温度で熱処理することにより、結晶を析出することができる。また、第2の結晶化温度付近または第2の結晶化温度よりも高い温度で熱処理することにより、結晶を析出することができる。
【0044】
第1の結晶化温度付近または第1の結晶化温度よりも高い温度での熱処理を第1の熱処理と呼ぶ。また、第2の結晶化温度付近または第2の結晶化温度よりも高い温度での熱処理を第2の熱処理と呼ぶ。第1の熱処理および第2の熱処理を組み合わせることにより、結晶化度を制御することができる。
【0045】
また、平均結晶粒径はXRD分析により求められる回折ピークの半値幅からシェラー(Scherrer)の式により求められる。シェラーの式は、D=(K・λ)/(βcosθ)、で示される。ここでDは平均結晶粒径、Kは形状因子、λはX線の波長、βはピーク半値全幅(FWHM)、θはブラッグ角である。形状因子Kは0.9とする。ブラッグ角は回折角2θの半分である。なお、XRD分析の条件は、前述の結晶化度を測定した条件と同じである。
【0046】
平均結晶粒径は200nm以下であることが好ましく、50nm以下であることがより好ましい。平均結晶粒径を小さくすることにより、鉄損の低減や透磁率の向上を図ることができる。
【0047】
また、結晶化度は0.9以上であることが好ましく、0.95以上1.0以下であることがより好ましい。結晶化度が大きくなるほど、磁性薄帯中の結晶の割合が高くなる。つまり、磁性コアを熱処理することにより、結晶の割合を増加させているのである。また、熱処理後は、磁性薄帯の平均結晶粒径よりも磁性コアの平均結晶粒径を小さくすることが好ましい。
【0048】
以上のような磁性コアは、樹脂モールドまたは絶縁ケースに収納するなどの絶縁処理を施すものとする。また、コイルを巻回することが好ましい。コイルを巻回することにより、チョークコイルなどの磁性部品になる。また、磁性コアに絶縁処理を施すことにより、コイルとの絶縁性を図ることができる。また、コイル巻回時に磁性コアが破損することを防ぐこともできる。
【0049】
なお、実施形態にかかる磁性コアには、絶縁処理またはコイル巻回を施したものも含めるものとする。
【0050】
以上のような磁性コアにより、高透磁率化を実現することができる。特に、10kHz以上、さらには100kHz~1MHzの範囲での高透磁率化を可能とする。
【0051】
また、10kHzのインダクタンスをL10とし、100kHzのインダクタンスをL100としたときL10/L100が1.5以下であり、100kHzにおける透磁率が15000以上であることが好ましい。また、100kHのインダクタンスをL100とし、1MHzのインダクタンスをL1MとしたときL100/L1Mが11以下であり、100kHzにおける透磁率が15000以上であることが好ましい。
【0052】
10/L100が1.5以下であるということは10kHz~100kHzでのインダクタンス値の変動が抑制されていることを示す。また、L100/L1Mが11以下であるということは100kHz~1MHzでのインダクタンス値の低下が抑制されていることを示す。また、100kHzでの透磁率は15000以上である。
【0053】
例えば、特許文献1の表5には10kHzと100kHzの透磁率が示されている。特許文献1の表5によれば周波数が上がると、透磁率は半分程度になっている。このように従来の微結晶材は高透磁率になるほど透磁率の低下を招いていた。インダクタンス値も同様である。これに対応するためには、コイルの巻回数の増加や磁性コアの大型化が必要である。一方、巻数増や大型コアサイズで対応すると100kHz以下の低周波側ではインダクタンスの増加による乱調等が大きくなる問題があった。
【0054】
実施形態にかかる磁性コアは、10kHz以上1MHz以下でのインダクタンス値および透磁率の変動を抑制している。このため、10kHz以上1MHz以下の範囲内で安定的に、高透磁率化した磁性コアを提供することができる。つまり、磁性コアの周波数依存性を改善しているのである。なお、実施形態にかかる磁性コアは1MHzを超えた領域に使用してもよいものとする。
【0055】
また、L10/L100の下限値は特に限定されるものではないが、1.1以上が好ましい。また、L100/L1Mの下限値は特に限定されるものではないが、6以上が好ましい。L10/L100またはL100/L1Mが小さすぎると、透磁率が低すぎる可能性がある。
【0056】
インダクタンス値および透磁率の測定方法は、インピーダンスアナライザ(日本ヒューレットパッカート社YHP4192A)にて、室温、1turn、1V、で行うものとする。透磁率については周波数10kHz、100kHz、1MHzでのインダクタンス値から透磁率を求めるものとする。
【0057】
実施形態にかかる磁性コアにおいては、AL値を大きくすることができる。AL値は、式:AL値∝μ×Ae/Leの関係を満たす。μは透磁率を表し、Leは平均磁路長を表し、Aeは有効断面積を表す。AL値は、磁性コアの性能を示す指標である。AL値が高いほど、インダクタンス値が高いことを示す。
【0058】
磁性コアのサイズ(Ae/Le)が同じとき、透磁率μが大きいほどAL値は高くなる。平均磁路長Leを長くすることによりAL値は小さくなる。有効断面積Aeを小さくすることにより、AL値は小さくなる。
【0059】
磁性コアを大型化すればAL値は大きくなる。一方で、磁性コアの大型化は電子機器内の配置スペースの問題を生じさせる。実施形態にかかる磁性コアにおいては、インダクタンス値および透磁率μの周波数依存性が抑制されている。これにより、磁性コアの有効断面積Leを小さくすることができる。AL値の向上が磁性コアの小型化を可能とする。これにより、磁性コアを軽量化して電子機器への配置スペースを確保しやすくなる。よって、電子機器内の設計の自由度を向上させることができる。
【0060】
磁性コアを小型化すると、磁性コアを構成する磁性薄帯が少なくて済むのでコストダウンも可能である。また、巻線回数を減らしても、同等の特性を得ることができる。巻線回数の減少により、巻線の使用量を減らすことができるためコストダウンにつながる。さらに、巻線回数を減らすことにより、巻線工程中に磁心が破損する確率を減らすことができる。このため、巻線工程での歩留りを向上させることができる。また、巻線回数を減少させると、巻き線の発熱量を低減できる。
【0061】
磁性コアの小型化は軽量化にもつながる。つまり、磁性コアの特性が従来の磁性コアの特性と同等の場合、小型軽量化が可能となる。磁性コアの小型軽量化は、スイッチング電源、アンテナ装置、インバータ等の電子機器の小型軽量化につながる。また、前述のように実施形態にかかる磁性コアにおいては発熱量を抑制できる。このため、使用環境の温度変化の大きな分野または大電流分野(20アンペア以上)に適している。このような分野として、太陽光インバータ、EVモータ駆動用インバータ等が挙げられる。
【0062】
次に実施形態にかかる磁性薄帯の製造方法について説明する。実施形態にかかる磁性薄帯は上記構成を有していればその製造方法については特に限定されるものではないが歩留り良く得るための方法として次のものが挙げられる。
【0063】
まず、磁性薄帯を製造する工程を行う。まず、前述の一般式(組成式)を満たすように、各構成成分を混合した原料粉末を調製する。次に、この原料粉末を溶解して原料溶湯を作製する。原料溶湯を用いてロール急冷法により、長尺の磁性薄帯を製造する。ロール急冷法は、高速回転する冷却ロールに原料溶湯を射出する方法である。ロール急冷法を行う際に、冷却ロールの表面粗さRaを1μm以下にすることが好ましい。
【0064】
また、ロール急冷法を行う際に、ロール表面を清浄化することが好ましい。ロール表面を清浄化することにより、冷却ロールと原料溶湯との接触の仕方を安定化させることができる。例えば、冷却ロールの半周程度を原料溶湯の接触面とし、冷却ロールが回転中に、原料溶湯が接触していない表面を清浄化する方法が好ましい。回転中の冷却ロールを清浄化することにより、冷却ロールと原料溶湯との接触の仕方を安定化させることができる。清浄化には、ブラシの押付け、コットン(綿布)の押付け、ガス噴射などの方法が挙げられる。
【0065】
これを行うことにより、冷却効率が上がって結晶化度を制御できる。よって、結晶化度が0.05以上0.4以下の磁性薄帯を製造することができる。また、表面粗さRaを1μm以下にできる。
【0066】
また、ロール急冷法後の磁性薄帯の結晶化度が0.05未満である場合、レーザ処理により、結晶化度を調整する方法を行っても良いものとする。
【0067】
この工程により、実施形態にかかる磁性薄帯を得ることができる。次に、磁性コアの製造方法を説明する。
【0068】
得られた磁性薄帯に絶縁層を設ける工程を行う。磁性薄帯は目的とするサイズに加工したものを用いても良いし、長尺の薄帯に絶縁層を設けても良いものとする。
【0069】
次に、磁性コアを製造する工程を行う。巻回型磁性コアの場合は、絶縁層を設けた長尺の磁性薄帯を巻回して製造する。券回の最外周をスポット溶接、または接着剤で固定する。
【0070】
積層型磁性コアの場合は、絶縁層が設けられた長尺の磁性薄帯を積層してから、必要なサイズに切断する方法が挙げられる。また、絶縁層が設けられた長尺の磁性薄帯を必要なサイズに切断してから積層してもよい。積層体の側面を接着剤で固定する。磁心の表面には樹脂をコーティングすることが好ましい。樹脂コーティングにより、磁心の強度を向上させることができる。
【0071】
次に、磁性コアを熱処理して微細結晶を析出させて、微細結晶構造を形成する。磁性薄帯は微細結晶を析出させることにより脆くなるので、磁性コアの状態に成形してから熱処理することが好ましい。
【0072】
熱処理温度は結晶化温度(第1の結晶化温度)近傍の温度またはそれよりも高い温度であることが好ましい。このとき、結晶化温度の-20℃よりも高い温度が好ましい。磁性薄帯が前述の一般式を満たす鉄基軟磁性合金板であれば、結晶化温度は500℃以上520℃以下である。このため、熱処理温度は480℃以上600℃以下であることが好ましい。熱処理温度は510℃以上560℃以下であることがより好ましい。第1の結晶化温度近傍の温度またはそれよりも高い温度での熱処理を第1の熱処理と呼ぶ。
【0073】
熱処理時間は30時間以下であることが好ましい。熱処理時間とは、磁心の温度が480℃以上600℃以下であるときの時間である。40時間を超えると微細結晶粒の平均粒径が200nmを超える場合がある。熱処理時間は20分以上25時間以下であることがより好ましい。熱処理時間は1時間以上10時間以下であることがよりいっそう好ましい。この範囲であれば平均結晶粒径を50nm以下に制御しやすい。
【0074】
また、第2の結晶化温度近傍の温度またはそれよりも高い温度での熱処理を第2の熱処理と呼ぶ。第2の熱処理温度は600℃以上が好ましい。第2の結晶化温度とは、第1の結晶化温度よりも高い温度領域の結晶化が促進される温度である。第2の熱処理を行うことにより、さらに結晶化を促進することができる。つまり、例えば第1の熱処理で析出しなかった領域の結晶化を行うことができる。また、第1の熱処理で析出した結晶から、さらに結晶を析出させることができる。このため、結晶化度を向上させることができる。
【0075】
また、以上の熱処理条件であれば磁性コアの結晶化度を0.9以上にすることができる。つまり、XRD分析により、例えば、どこを測定しても結晶化度を0.9以上にすることができる。
【0076】
また、必要に応じ、磁場中熱処理を行ってもよい。磁場中熱処理では、磁場を磁性コアの短辺方向に印加することが好ましい。巻回型磁性コアでは、幅方向に磁場を印加する。積層型磁心では、積層体の短辺側方向に磁場を印加する。磁性コアの短辺方向に磁場を印加しながら熱処理を行うことにより、磁性薄帯の磁壁を低減し、または消失させることができる。磁壁を低減させることにより損失が低減されるため透磁率が向上する。印加する磁場は80kA/m以上であることが好ましく、100kA/m以上であることがより好ましい。熱処理温度は200℃以上700℃以下であることが好ましい。磁場中熱処理の熱処理時間は、20分以上10時間以下であることが好ましい。磁場中熱処理は、前述の微細結晶析出のための熱処理と一つの工程で行ってもよい。必要に応じ、磁心を絶縁ケースに収納するなどの絶縁処理を施すものとする。各種電子機器に搭載する際は、必要に応じ、コイルを巻く処理、つまり、巻線処理を施すものとする。
【実施例
【0077】
(実施例1~3、比較例1~2、参考例1)
第一の磁性薄帯としてFe73.5Cu1.0Nb3.0Si16.06.5の比率(原子%)となるよう原料粉末を調製した。第二の磁性薄帯としてFe73.4Cu1.0Nb2.6Si14.09.0の比率(原子%)となるよう原料粉末を調製した。各成分の原子%の合計値は100%である。
【0078】
次に、この原料粉末を溶解して原料溶湯を作製した。原料溶湯を用いてロール急冷法により、長尺の磁性薄帯を作製した。ロール急冷法を行う際に、冷却ロールの表面粗さRaが1μm以下のものを用いた。
【0079】
また、実施例ではロール急冷法を行う際に、冷却ロール表面を清浄化する方法を用いた。また、比較例1では、冷却ロール表面の清浄化は行わなかった。また、比較例2は比較例1の磁性薄帯に熱処理して結晶化度を0.62にしたものである。
【0080】
実施例および比較例にかかる磁性薄帯について、結晶化度を測定した。
【0081】
結晶化度の測定はXRD分析により行った。XRD分析は、Cuターゲット、管電圧40kV、管電流40mA、スリット幅(RS)0.40mmの条件で行った。回折角2θを5°~140°の範囲を測定した。
【0082】
回折角(2θ)が30°~60°に最強ピークを有し、かつ、半値幅3°以上のピークをアモルファス相のピークとする。このアモルファス相のピークの面積をアモルファス相のピーク面積とした。5°~140°に検出されるアモルファス相のピーク以外をすべて結晶相のピークとした。結晶相のピークの合計面積を結晶相のピーク総面積とした。
【0083】
結晶化度は結晶相のピーク総面積/(アモルファス相のピーク面積+結晶相のピーク総面積)により求めたものである。
【0084】
また、結晶相をEBSD分析することにより、KIKUCHIパターンの有無を測定した。EBSD分析では任意の3箇所を測定し、1回でもKIKUCHIパターンが確認できたものを「あり」、1回も確認できなかったものを「なし」とした。
【0085】
また、板厚はマイクロ測定器にて評価したpeak to peakの値とした。任意の5ヶ所を測定し、その平均値を平均板厚とした。
【0086】
また、結晶相の平均結晶粒径を求めた。平均結晶粒径はXRD分析を行い、シェラーの式から求めた。また、XRD分析の条件は結晶化度を測定したときと同じである。
【0087】
その結果を表1に示す。
【0088】
【表1】
【0089】
また、実施例および比較例に係る磁性薄帯の断面について表面部と中心部の結晶相の有無を調べた。磁性薄帯の断面をEBSD分析した。磁性薄帯の断面において、表面の凹部から2μm以内の表面部の結晶相の有無を調べた。また、磁性薄帯の中心から±2μmの中心部の結晶相の有無を調べた。その結果を表2に示す。
【0090】
【表2】
【0091】
実施例および比較例にかかる磁性薄帯を用いて磁性コアを作製した。磁性コアは外径37mm×内径23mm×幅15mmの巻回型コアとした。また、層間絶縁にはSiO膜を用いた。また、磁性薄帯の第1の結晶化温度を示差走査熱量計(DSC:Differential Scanning Calorimetry)にて測定したところ509℃であった。また、第2の結晶化温度は710℃であった。
【0092】
磁性コアを530℃、窒素雰囲気中、1時間~10時間行うことにより微細結晶構造を得た。この熱処理は第1の熱処理である。次に、第2の熱処理として、磁性コアを530℃、大気雰囲気中、1時間~10時間行うことにより微細結晶構造を得た。また、実施例1に対して第2の熱処理として大気中熱処理を施したものを参考例1とした。この作業により、実施例および比較例にかかる磁性コアを作製した。
【0093】
各磁性コアに対し、結晶化度、平均結晶粒径の測定を行った。測定方法は磁性薄帯と同じである。
【0094】
また、磁性コアに対しインダクタンスおよび透磁率の測定を行った。インダクタンスの測定は、磁性コアを絶縁ケースに収納したものを用いた。コイルを1turnとして開放設定電圧1Vにて測定した。また、測定機器はYHP製4192Aを用いた。それぞれ、周波数が10kHz、100kHz、1MHzのインダクタンスを求めた。また、インダクタンス値から透磁率を測定した。
【0095】
その結果を表3、表4、表5に示す。
【0096】
【表3】
【0097】
【表4】
【0098】
【表5】
【0099】
表3~5から分かるように、実施例にかかる磁性コアではインダクタンスおよび透磁率の周波数による変化が抑制されている。このため、10kHz以上1MHz以下の領域で使用する磁性コアとして優れた特性を示している。
【0100】
以上、本発明のいくつかの実施形態を例示したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更等を行うことができる。これら実施形態やその変形例は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。前述の各実施形態は、相互に組み合わせて実施することができる。
【符号の説明】
【0101】
1…磁性薄帯
2-1…巻回型磁性コア
2-2…積層型磁性コア
図1
図2
図3