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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-29
(45)【発行日】2024-02-06
(54)【発明の名称】繊維強化複合材料成形品
(51)【国際特許分類】
   B32B 5/28 20060101AFI20240130BHJP
   B32B 5/24 20060101ALI20240130BHJP
   B32B 27/00 20060101ALI20240130BHJP
   B29C 70/06 20060101ALI20240130BHJP
   B29C 70/42 20060101ALI20240130BHJP
   B60R 13/02 20060101ALI20240130BHJP
【FI】
B32B5/28 Z
B32B5/24 101
B32B27/00 Z
B29C70/06
B29C70/42
B60R13/02 A
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2019094433
(22)【出願日】2019-05-20
(65)【公開番号】P2020163822
(43)【公開日】2020-10-08
【審査請求日】2022-03-24
(31)【優先権主張番号】P 2019058080
(32)【優先日】2019-03-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100123788
【弁理士】
【氏名又は名称】宮崎 昭夫
(74)【代理人】
【識別番号】100127454
【弁理士】
【氏名又は名称】緒方 雅昭
(74)【復代理人】
【識別番号】100143856
【弁理士】
【氏名又は名称】中野 廣己
(72)【発明者】
【氏名】池田 和久
(72)【発明者】
【氏名】佐々 喜紀
【審査官】河内 浩志
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-016278(JP,A)
【文献】特開2008-006745(JP,A)
【文献】特表2014-503377(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00-43/00
B29C70/00-70/88
B60R13/01-13/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
表皮材と芯材とを含み、前記表皮材は、FRP(繊維強化プラスチック)およびプラスチックから選択される材質からなり、
前記芯材は、小さな空孔の集合により形成されるマイクロセルを有するマイクロセル形材料(発泡気泡材料)からなり、
式(1-1)を満たし:
式(1-1) γ’/γ≦0.90
γ:芯材の破断せん断ひずみ
γ’:芯材の成形品中のせん断ひずみ
厚み方向にせん断ひずみが生じた場合に、前記芯材のせん断破壊より先に前記表皮材の曲げ破壊に至ることを特徴とする繊維強化複合材料成形品。
【請求項2】
前記芯材は、前記表皮材よりも密度が小さい、請求項記載の繊維強化複合材料成形品。
【請求項3】
前記表皮材は繊維強化プラスチックからなり、前記芯材は発泡気泡材料からなる、請求項1または2記載の繊維強化複合材料成形品。
【請求項4】
芯材の厚みに対する表皮材の厚みの比(表皮材厚み/芯材厚み)が0.3~0.8の範囲にある、請求項1~のいずれか一項記載の繊維強化複合材料成形品。
【請求項5】
厚み方向に、表皮材、芯材および表皮材が、この順に積み重ねられている、請求項1~のいずれか一項記載の繊維強化複合材料成形品。
【請求項6】
一方の表皮材の厚みともう一方の表皮材の厚みが異なる、請求項記載の繊維強化複合材料成形品。
【請求項7】
芯材が露出していないことを特徴とする、請求項1~のいずれか一項記載の繊維強化複合材料成形品。
【請求項8】
請求項1~のいずれか一項記載の繊維強化複合材料成形品を含むことを特徴とする自動車用ルーフ部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維強化複合材料成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、スポーツ用途、自動車、航空機、産業用途、医療用途等に用いる部材として、繊維強化複合材料からなる成形品が提案されている。特に、軽量かつ高い機械特性が求められる分野においては、炭素繊維強化プラスチック(CFRP)が積極的に採用されている。例えば、自動車分野においては、走行性能に大きな影響を及ぼすルーフ、フード、トランクリッド等へのCFRPの適用が進められている。
【0003】
また、これらの部材には、剛性を落とさずさらに軽量化したいという要求もあり、例えば、CFRPを表皮材として、その間により軽量な物質を芯材として組み合わせる構成の成形品もある。
【0004】
組み合わせ構造を有した繊維強化複合材料成形品(以下、単に「成形品」ということがある)の製造方法として、強化繊維に未硬化のマトリックス樹脂を含浸させたシート状のプリプレグを複数枚積層した積層体を2つ用意し、その間により軽量な発泡材を挟む込み、成形金型内で加熱、加圧する方法が知られている。(特許文献1)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2011-16278号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
成形品をより軽量化するため、より密度の低い芯材を用いることが考えられるが、一般的に密度が下がると機械的物性は低下する。そのため、成形品に曲げモーメントが発生するような場合、中立軸になる芯材のせん断破壊が生じやすい。これは、最大せん断応力は中立軸で発生するためである。
【0007】
芯材における破壊は表皮材側からは容易に観察できず、一方、成形品の断面切断による目視確認又は超音波探傷などによる確認には大変な手間を要する。したがって、成形品の破壊の有無を容易に判断することが求められる。
【0008】
本発明の目的は、表皮材と芯材を含む繊維強化複合材料成形品において破壊の有無を容易に判断できる成形品を提供することである。本発明の別の目的は、破壊の有無を容易に判断できる自動車用ルーフ部材を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、下記の態様を有する。
<1>表皮材と芯材とを含み、前記表皮材は、FRP(繊維強化プラスチック)およびプラスチックから選択される材質からなり、
前記芯材は、小さな空孔の集合により形成されるマイクロセルを有するマイクロセル形材料(発泡気泡材料)からなり、
式(1-1)を満たし:
式(1-1) γ’/γ≦0.90
γ:芯材の破断せん断ひずみ
γ’:芯材の成形品中のせん断ひずみ
厚み方向にせん断ひずみが生じた場合に、前記芯材のせん断破壊より先に前記表皮材の曲げ破壊に至ることを特徴とする繊維強化複合材料成形品。
【0010】
<2>前記芯材は、前記表皮材よりも密度が小さい、前記<1>記載の繊維強化複合材料成形品。
>前記表皮材は繊維強化プラスチックからなり、前記芯材は発泡気泡材料からなる、前記<1>または<2>記載の繊維強化複合材料成形品。
【0013】
>芯材の厚みに対する表皮材の厚みの比(表皮材厚み/芯材厚み)が0.3~0.8の範囲にある、前記<1>~<>のいずれか一項記載の繊維強化複合材料成形品。
【0014】
>厚み方向に、表皮材、芯材および表皮材が、この順に積み重ねられている、前記<1>~<>のいずれか一項記載の繊維強化複合材料成形品。
【0015】
>一方の表皮材の厚みともう一方の表皮材の厚みが異なる、前記<>記載の繊維強化複合材料成形品。
【0016】
>芯材が露出していないことを特徴とする、前記<1>~<>のいずれか一項記載の繊維強化複合材料成形品。
【0017】
>前記<1>~<>のいずれか一項記載の繊維強化複合材料成形品を含むことを特徴とする自動車用ルーフ部材。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、表皮材と芯材を含む繊維強化複合材料成形品において破壊の有無を容易に判断できる成形品が提供される。また本発明によれば、破壊の有無を容易に判断できる自動車用ルーフ部材が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】3点曲げ試験を説明するための模式図である。
図2】成形品の模式断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
<表皮材>
本発明に係る繊維強化複合材料成形品は表皮材と芯材と含み、典型的には表皮材と芯材とからなる。表皮材の材質としては、例えば、FRP(繊維強化プラスチック)、金属、プラスチック、木材、ガラス、紙が挙げられる。表皮材としては、比強度および比弾性に優れる点から、FRPが好ましい。
【0021】
FRPに用いられる強化繊維としては、例えば、炭素繊維、ガラス繊維、アラミド繊維、高強度ポリエステル繊維、ボロン繊維、アルミナ繊維、窒化珪素繊維、ナイロン繊維が挙げられる。強化繊維としては、比強度および比弾性に優れる点から、炭素繊維が好ましい。強化繊維は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0022】
FRPに用いられるマトリックス樹脂としては、例えば、熱硬化性樹脂または熱可塑性樹脂を含む樹脂組成物が挙げられる。熱硬化性樹脂としては、例えば、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、ビニルエステル樹脂、フェノール樹脂、ベンゾオキサジン樹脂が挙げられる。樹脂組成物としては、硬化後の強度を高くできる点から、エポキシ樹脂を含む樹脂組成物が好ましい。
樹脂組成物には、必要に応じて、硬化剤、硬化促進剤、増粘剤、重合開始剤、無機充填剤等の助剤が含まれていてもよい。
【0023】
表皮材(単体)の機械的特性、曲げ強度や曲げ弾性率など、はASTM D790に準じて測定するか、もしくはその測定値から算出することができる。
【0024】
<芯材>
芯材の形態としては、例えば、(1)小さな空孔の集合により形成されるマイクロセルを有するマイクロセル形材料、すなわち発泡気泡材料、(2)大きな閉じた空間の集合により形成されるマクロセルを有するマクロセル形材料、(3)波形、ワッフル形、コルゲートコアなどの1枚のシートを上下に規則正しく連続的に配置した屈曲シート形の材料が挙げられる。その形態としては機械的物性に優れる(1)マイクロセル形材料が好ましい。
【0025】
マイクロセル形材料とは、典型的には泡状のプラスチックのことであり、それぞれのセルが独立しているものと、互いにセルが連続しているものとがあり、前者を独立気泡、後者を連続気泡と呼ぶ。表皮材がプリプレグなどの樹脂を含んだ材料である場合、樹脂の浸透をほぼ一定に調整できることから、独立気泡形のマイクロセル材料が好ましい。表皮材の意匠面を良好にすることが容易だからである。
【0026】
発泡気泡材料は、一般的に合成樹脂中に気相を細かく分散させ発泡させることで成形される。合成樹脂を発泡させる気相を得る方法は主に、化学反応を利用する方法(化学反応ガス活用法)、沸点が低い溶剤を用いる方法(低沸点溶剤活用法)、空気を混入させる方法(機械的混入法)、含ませた溶剤を除去する過程で空隙を作る方法(溶剤除去法)などがある。
【0027】
芯材の素材としては、例えば、プラスチックフォーム、金属、木材が挙げられる。素材としては、軽量且つ加工性に優れる点から、プラスチックフォームが好ましい。
プラスチックフォームに用いられる樹脂としては、ポリメタクリルイミド樹脂、ポリウレタン樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、アクリル樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリスチレン樹脂、ABS樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、などがある。軽量で成形中の耐熱性が優れることが好ましく、特にポリメタクリルイミド樹脂、アクリル樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂が好ましい。
【0028】
芯材(単体)の機械的特性、特には破断せん断強度やせん断弾性率はASTM C273に準じて測定するか、もしくは得られた測定値から算出することができる。
【0029】
<表皮材と芯材の組み合わせ方法>
表皮材と芯材の組み合わせ方法としては、「表皮材/芯材/表皮材」又はこれらを繰り返す構成が好ましい。「表皮材/芯材/表皮材」の構成では、厚み方向に、表皮材、芯材および表皮材を、この順に積層する。これらを繰り返す構成では、例えば、表皮材、芯材、表皮材、芯材および表皮材を、この順に積層する。高剛性と軽量化を達成させるため、機械的特性が高い材料を最外層へ、中間層へ軽量な材料配置することが良い。曲げ剛性は成形品の厚みの三乗に比例する。成形品厚みを厚くする場合、曲げ応力は最外層が主に負担する。そのため、剛性に寄与しない中間層には、機械的特性の低いつまり軽量な材料を厚く用いることが好ましい。
【0030】
<表皮材と芯材の成形方法>
表皮材(プリプレグ)と芯材の積層体を一体成形する方法としては、プレス成形、オートクレーブ成形、RTM(Resin Transfer Molding)成形、VaRTM(Vacuum Assisted Resin Transfer Molding)成形、オーブン成形など挙げられるが、意匠性からプレス成形、オートクレーブ成形が好ましく、量産性の観点からプレス成形がより好ましい。
【0031】
<成形品の破壊試験方法>
成形品の試験方法としては、成形品の一部を切り取り試験片にするか、又は成形品と同じ構成の試験片を作製し、ASTM D790に準じて、3点曲げ試験を実施する。
【0032】
<支点間距離>
成形品の3点曲げ試験において、に、支点間距離を極端に長くすると曲げモーメントが大きくなり、表皮材の曲げ破壊が生じやすく、極端に短くすると曲げモーメントが小さくなり、芯材のせん断破壊が生じやすい傾向がある。実用性を考えた場合は支点間距離を試験片の厚みの40倍程度にすることが好ましい。
【0033】
<破壊の順番>
本発明に関しては、厚み方向にせん断ひずみが生じた場合に、特には成形品の破壊試験(ASTM D790に準じる3点曲げ試験)において、芯材のせん断破壊より先に表皮材の曲げ破壊に至ることが成形品の破壊有無の検知性の面で好ましい。
【0034】
<成形品の設計>
(厚み比)
表皮材と芯材の各単体の機械的特性を使い、成形品に掛る曲げ応力とせん断応力を汎用式に当て嵌めて計算すれば成形品の破壊予想は可能である。特に、表皮材に対し芯材厚み比が大きい場合は、表皮材については曲げ応力だけを考慮し、芯材についてはせん断応力だけを考慮すれば、実際の特性と計算値はおおよそ合致する。しかし、厚み比が小さい場合は、表皮材と芯材ともに曲げ応力、せん断応力の負担割合は非線形挙動のため、計算が煩雑化し、実際の特性と計算値はおおよそ合致しない。
【0035】
(芯材の状態)
また、表皮材は芯材よりも十分大きい曲げおよびせん断の強度、曲げおよびせん断の剛性を備えているため、表皮材は単体でも芯材と組み合わせた場合でも同等の機械的特性となると言える。
これに対して、芯材は表皮材の樹脂が芯材表面に入り込むことで、実質的に芯材厚みが変化し、また発泡気泡のため場所による密度違いが発生する。したがって、成形品に組み込まれた芯材の機械的特性は、芯材単体の機械的特性とは異なってくるため、実際の特性と計算値の差が広まり、破壊を予想することが困難であった。
【0036】
(計算の基本方針)
本発明者らは、破壊される際の形態においては機械的特性が変化してしまう芯材を基準とし、成形品の試験値から芯材の実質の機械的特性を算出し、それを芯材単体がもつ限界の機械的特性と比較することで、表皮材破壊(芯材せん断破壊より先に表皮材の曲げ破壊が生じること)の設計を可能とした。
【0037】
(せん断ひずみ)
芯材の実質と限界の機械的特性比較においては、具体的にはせん断ひずみを比較することとする。物体に外力を与えた場合に、これに対応した応力が材料内部に発生し、材料は応力に比例した断面の収縮する変形が発生する。その変形量がひずみである。せん断とは成形品の厚み方向に掛る力方向を指す。せん断応力は非線形挙動を示し煩雑な計算を要するのに対し、せん断ひずみは線形挙動を示すため単純化できる。
式(1-1)が満たされると、表皮材破壊が実現される。
【0038】
【数2】
【0039】
γ‘は、曲げ試験における破壊したときの最大荷重値を用いて逆算し導き出される芯材の成形品中のせん断ひずみである。γ‘は、表皮材単体についてのASTM D790に準じた3点曲げ試験から得られる試験値と、成形品についてのASTM D790に準じた3点曲げ試験から得られる試験値とから求めることができる。γ‘は、具体的には後述のδ、l、P、E、tf1、tf2、tから求めることができる。
γは芯材単体をASTM C273に規定される方法で試験した試験値から導き出される芯材単体の破断せん断ひずみである。ここでいうγを求めるための試験値は、具体的には後述のτおよびGである。
【0040】
一般的に、芯材のせん断ひずみが破断せん断ひずみを超えると、せん断破壊に至る。しかし、上記記載の通り表皮材と芯材の厚み比が小さい場合は、曲げ応力とせん断応力の分布が変化し、また表皮材と芯材の界面の状態は樹脂の染み込みで変化していることが多い。式(1-1)の右辺にある値0.92はそれらを考慮して得た値であり、0.92は実際の試験から得られた値である。また、γ‘/γ比は、0.92以下が好ましく、0.90以下がさらに好ましい。この比が0.92未満であれば芯材がせん断破壊する前に表皮材の曲げ破壊に至るようにすることが容易であり、0.90以下であればより余裕を持って表皮材曲げ破壊へ導くことができる。
【0041】
<γ‘/γ比各値の算出方法>
以下、式(1-1)の左辺におけるγ‘/γ比の求め方を説明する。
【0042】
図1に成形品を3点曲げで試験する時の模式図を示す。図2に試験片の厚み方向の構成を示す。成形品10は、芯材12(厚さt)と、芯材12の両側にそれぞれ1つずつ積層された表皮材11からなる。一方の表皮材は厚みtf1を有し、他方の表皮材は厚みtf2を有する。近似厚みhが、各部材の厚みから算出される。3点曲げ試験に際しては、成形品10からなる試験片(幅bを有する)を、二つの支持体30(支点間距離lをもたらす)で支持する。試験片の中央部に、圧子20を用いて荷重を加え、最大荷重P等を測定する。
【0043】
主要パラメータの記号と名称は以下のとおりである。
f1:二つの表皮材の一方の厚み(成形品の実測値)
f2:二つの表皮材のもう一方の厚み(成形品の実測値)
:表皮材の曲げ弾性率(表皮材単体につきASTM D790に準じた3点曲げ試験で測定)
:芯材の厚み(成形品の実測値)
:芯材のせん断弾性率(芯材単体につきASTM C273に準じた強度試験で測定)
τ:芯材の破断せん断強度(芯材単体につきASTM C273に準じた強度試験で測定)
b:幅(成形品(試験片)の実測値)
h:近似厚み、h=(tf1+tf2)/2+t
l:支点間距離(成形品につきASTM D790に準じた3点曲げ試験で測定)
P:最大荷重(成形品につきASTM D790に準じた3点曲げ試験で測定)
δ:芯材の成形品中のせん断たわみ(成形品につきASTM D790に準じた3点曲げ試験で測定した最大荷重時のせん断たわみ)
D:表皮材の曲げ剛性
δfm:表皮材の曲げたわみ
S‘:芯材の成形品中のせん断剛性
τ‘:成形品中の芯材に働くせん断応力
‘:芯材の成形品中のせん断弾性率
γ‘:芯材の成形品中のせん断ひずみ
γ:芯材の破断せん断ひずみ
【0044】
芯材の破断せん断ひずみγおよび芯材の成形品中のせん断ひずみγ‘について、式(2-1)および(3-1)が成り立つ。
【0045】
【数3】
【0046】
芯材の成形品中のせん断ひずみγ‘は式(3-7)から導きだす。式(3-7)は以下の手順にて求めることができる。
成形品の3点曲げ試験から得られる試験値のたわみδについて次式が成り立つ。
【0047】
【数4】
【0048】
このとき、表皮材の機械的特性は十分に安定し、表皮材単独での値に相当すると考え、式(3-2)の右辺の第一項が曲げたわみδfmと等価であるとして、芯材の成形品中のせん断剛性S‘を求める。
【0049】
【数5】
【0050】
式(3-4)右辺の芯材の成形品中のせん断剛性S‘は以下のように置き換えられる。
【0051】
【数6】
【0052】
式(3-4)を式(3-3)へ代入すると芯材の成形品中のせん断弾性率Gc‘を求めることができる。
【0053】
【数7】
【0054】
成形品中の芯材に発生しているせん断応力τ‘は以下の式で求められる。
【0055】
【数8】
【0056】
式(3-5)、式(3-6)を式(3-1)へ代入すると、
【0057】
【数9】
【0058】
このようにして芯材の成形品中のせん断ひずみγ‘が求められる。
また、曲げたわみδfmは式(3-9)の様に求められる。式(3-8)は表皮材の曲げ剛性Dを求める式である。
【0059】
【数10】
【0060】
<表皮材の破壊の定義>
繊維強化プラスチックは繊維が連続的につながっていることで機械的物性を保っている。つまり、繊維が切断されると機械的物性は著しく低下することになり、表皮材の破壊は、繊維の切断有無と等価であると考えることができる。一般的に、連続繊維が破断した場合、意匠面に亀裂が発生するため下記記載の破壊判断で検知できる。
【0061】
<表皮材の破壊判断>
表皮材が破壊しているかどうかの判断方法としては例えば以下の2つが挙げられる。
(1)目視検査:あらかじめ検査項目(気泡、ひび、き裂、ちぢれ、ふくれ、穴、変色、波打ち)を決めてチェックする。
(2)探傷剤:一般的な探傷剤を用いて、き裂の有無を判断する。き裂があれば色が付き容易に破壊が判断できる。
【0062】
<表皮材/芯材の厚み比>
表皮材と芯材の厚み比(表皮材厚み/芯材厚み)は、0.3~0.8が好ましく、0.5~0.7がさらに好ましい。当該比率は、芯材のせん断破壊よりも先に表皮材の曲げ破壊を生じさせる観点から0.3以上が好ましい。また、成形品の軽量化効果の観点から0.8以下が好ましい。なお、当該比率を求めるにあたっての「表皮材厚み」は表皮材の総厚みを意味し、「芯材厚み」は芯材の総厚みを意味する。例えば図2に示す構成では、当該比率は「(tf1+tf2)/t」である。
【0063】
「表皮材/芯材/表皮材」の構成における表皮材厚みは両面で互いに異なってもよい。成形品が片面からのみ外力を受ける場合に、外力を受ける側の表皮材を厚く、もう一方の表皮材を薄くすることで効率的に材料を使用でき、材料費を低減させることができる。
【0064】
<芯材の配置>
例えば「表皮材/芯材/表皮材」の構成において、ボルト止めなどの機械締結のための強度やラップシェア方向の強度を考慮して、場合によっては成形品の一部分だけ表皮材のみの構成(芯材を挟まない構成)にすることもできる。
【0065】
また、発泡気泡の芯材は吸湿に弱いことがあるため、芯材が露出しないように、芯材全面(端面を含めて)を表皮材が覆うようにして成形品を得てもよい。
【実施例
【0066】
以下、本発明を実施例及び比較例で詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。各例における試験値や各式から算出された値を表1に示す。
【0067】
(実施例1)
表皮材を形成するためのCFRPプリプレグとして、次のものを用意した。
クロスプリプレグ:三菱ケミカル社製、商品名:パイロフィルTR3110 360GMP(織物の100質量部に対するマトリックス樹脂の含有量が40質量部、織物目付が200g/mであり、密度は1.50g/cm、1枚あたりの厚みは約0.2mm、曲げ弾性率Eは52000MPаであった)。ここで、曲げ弾性率Eの測定は以下のとおりに行った。まず、経糸方向を0°とし、前記クロスプリプレグを同じ0°方向に向くように10プライ積層した後、プレス成形して(プレス金型温度140℃、成形時間5分間、4MPaの力で押し込み)、厚さ2mmの板を取得した。この板から、前記0°方向を長手方向として、試験片(幅12.7mm、長さ120mm)を採取し、ASTM D790に準じて、支点間距離80mm、圧子半径5mm、支持体半径3.2mm、試験速度10mm/分以下、試験環境23℃×50%(相対湿度)の条件で曲げ弾性率Eを測定した。
【0068】
芯材を形成する発泡気泡材料として、次のものを用意した。
独立気泡プラスチックフォーム:エボニック社製、商品名:ロハセル71SL(密度0.077kg/cm、主成分:ポリメタクリルイミド、厚さ1.8mmの発泡済みフォーム材。ASTM C 273による破断せん断強度τは1.5MPa、せん断弾性率Gは33MPаであった。)
【0069】
プレス金型として、次のものを用意した。
プレス金型:金属製、上下一対の型で得られる成形品は□300mm×厚み3mmの設定であった。
【0070】
以下の手順(1)~(3)で□300mmの平板(成形品)を製作した。
手順(1):前記クロスプリプレグの経糸方向を0°方向とし、緯糸が90°となるように、クロスプリプレグを直角に□298mmサイズへ裁断した。裁断したクロスプリプレグを3枚同じ0°方向を向く様に積層し、真空脱気して、積層板(1)を得た。積層板(1)は2枚作製した。
手順(2):前記フォーム材を□298mmサイズに裁断し、手順(1)の積層体の上へ積層し、最後にフォーム材の上に手順(1)の積層板を積層することにより、積層構成「積層板(1)/フォーム材/積層(1)]の構成を得、その後真空脱気をして積層板(2)を得た。
手順(3):積層板(2)を、140℃に加熱されたプレス金型へ投入し、4MPaの力で押し込み、5分間で硬化させ、成形品を得た。
【0071】
得られた成形品から、前記0°方向を長手方向として次のような試験片を採取した。
試験片寸法:
表皮材厚み:1.2mm(tf1およびtf2それぞれ0.6mm)
芯材厚み(t):1.8mm
成形品厚み:3.0mm
幅(b):12.7mm
長さ:150.0mm
【0072】
インストロン製万能試験機を使用し、ASTM D790に沿って試験片の3点曲げ試験を実施した。試験条件は以下の通りであった。
・圧子半径:5mm
・支持体半径:3.2mm
・支点間距離:120mm(試験片厚み×40)
・試験速度:8mm/min
・試験環境:23℃×50%(相対湿度)
【0073】
試験片の3点曲げ試験における最大荷重の時の各値は以下の通りであった。
荷重(P):107N
実測たわみ(δ):5.8mm
【0074】
式(3-7)から芯材の成形品中のせん断ひずみを求めるとγ‘=0.0404であった。
式(2-1)から芯材の破断せん断ひずみを求めるとγ=0.0455であった。
式(1-1)から芯材の破断せん断応力と成形品中のせん断ひずみの比(γ‘/γ)は0.89であった。
また、この試験では表皮材側からの目視で容易に表皮材からの破壊が確認できた。
【0075】
(実施例2)
二つの積層板(1)のうちの一方の作製において、クロスプリプレグの積層枚数を2枚にし、その表皮材の厚みを0.4mmとした。もう一方の積層板(1)(厚み0.6mm)が圧子側に位置するように、試験片を配置した。それ以外は実施例1と同様の試験を行った。
【0076】
最大荷重の時の各値は以下の通りであった。
荷重(P):94N
実測たわみ(δ):5.8mm
【0077】
式(3-7)から芯材の成形品中のせん断ひずみを求めるとγ‘=0.0294であった。
式(2-1)から芯材の破断せん断ひずみを求めるとγ=0.0455であった。
式(1-1)から芯材の破断せん断応力と成形品中のせん断ひずみの比は0.65であった。
また、この試験では表皮材側からの目視で容易に表皮材からの破壊が確認できた。
【0078】
(比較例1)
発泡気泡材料として独立気泡プラスチックフォーム(エボニック社製、商品名:ロハセル51IG-F。密度0.054kg/cm、ASTM C 273による破断せん断強度τは0.8MPa、せん断弾性率Gは19MPаであった。)を使用した。また、支点間距離は118mmであった。それ以外は実施例1と同様の試験を行った。
【0079】
最大荷重の時の各値は以下の通りであった。
荷重(P):68N
実測たわみ(δ):4.7mm
【0080】
式(3-7)から芯材の成形品中のせん断ひずみを求めるとγ‘=0.0451であった。
式(2-1)から芯材の破断せん断ひずみを求めるとγ=0.0421であった。
式(1-1)から芯材の破断せん断応力と成形品中のせん断ひずみの比は1.07であった。
また、この試験では表皮材の目視確認では破壊が確認できず、試験片の断面方向からの目視確認で芯材のせん断破壊が確認できた。
【0081】
【表1】
【0082】
本発明の式(1-1)を満たす成形品に関しては、実施例1~2にあるように、表皮材側から先に破壊し、その破壊を表皮材側から(成形品の表面観察により)容易に確認することができた。一方、式(1-1)を満たさない成形品に関しては、比較例1のように、芯材の破壊が生じ、その破壊は表皮材側からは確認できなかった。
【0083】
このように、実施例1~2の材料と構成を用いることで、表皮材から破壊する成形品を製作できる。すなわち、本発明の成形品によれば、外力を加えた時に表皮材から破壊し、損傷の有無が容易に判断できるようになる。
【産業上の利用可能性】
【0084】
本発明の成形品は、スポーツ用品、自動車、航空機、産業機器等に用いる部材として有用であり、特に、自動車用の外板部材(自動車用ルーフ等)として有用である。
【符号の説明】
【0085】
10:成形品、11:表皮材、12:芯材、20:圧子、30:支持体、b:幅、l:支点間距離(=スパン)、P:荷重、tf1:表皮材厚み、tf2:表皮材厚み、t:芯材厚み
図1
図2