(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-29
(45)【発行日】2024-02-06
(54)【発明の名称】液体吐出装置
(51)【国際特許分類】
B41J 2/175 20060101AFI20240130BHJP
【FI】
B41J2/175 301
B41J2/175 175
B41J2/175 501
B41J2/175 119
(21)【出願番号】P 2019203971
(22)【出願日】2019-11-11
【審査請求日】2022-09-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000006747
【氏名又は名称】株式会社リコー
(72)【発明者】
【氏名】五十嵐 正典
【審査官】亀田 宏之
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-239676(JP,A)
【文献】特開2009-214470(JP,A)
【文献】特開2017-056651(JP,A)
【文献】特開2019-177554(JP,A)
【文献】特開2010-064464(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41J 2/01-2/215
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
インクを吐出する記録ヘッドと、
前記記録ヘッドへのインクを貯留するヘッドタンクと、
着脱可能に取り付けられるインクカートリッジであり、当該インクカートリッジの使用不可情報、及びインク残量情報を記憶する情報記憶素子を有するインクカートリッジと、
前記インクカートリッジから前記ヘッドタンクへインクを供給する送液手段と、
前記送液手段によるインクの供給可否を判定する制御手段と、
を有する液体吐出装置であって、
前記インク残量情報の現在値をA、前記インク残量情報に係る第1閾値をA1、前記第1閾値よりも小さい値である第2閾値をA2としたとき、
前記制御手段は、
前記送液手段によるインクの供給を不可と判定した後に、前記A、前記A1及び前記A2を参照し、
前記A1≦前記Aの場合は、液体吐出装置の不具合である通知を行い、
前記A2≦前記A<前記A1の場合は、前記A2≦前記A<前記A1になった回数をカウントし、当該回数が規定値に達した場合、前記インクカートリッジの交換を促す通知を行い、かつ前記情報記憶素子に前記使用不可情報を書き込み、
前記A<前記A2の場合は、前記インクカートリッジの交換を促す通知を行い、かつ、前記情報記憶素子に前記使用不可情報を書き込む、
ことを特徴とする液体吐出装置。
【請求項2】
インクカートリッジの抜き差しを検知する第一検知手段を有し、
前記制御手段は、前記A2≦前記A<前記A1の場合において、前記第一検知手段がカートリッジの抜き差しを検知したとき、前記インクの供給を再度やり直すように制御することを特徴とする、請求項1
に記載の液体吐出装置。
【請求項3】
インクカートリッジを覆うカバーの開閉を検知する第二検知手段を有し、
前記制御手段は、前記A2≦前記A<前記A1の場合において、前記第二検知手段が前記カバーの開閉を検知したとき、前記インクの供給を行うように制御することを特徴とする、請求項1
に記載の液体吐出装置。
【請求項4】
前記送液手段は、チュービングポンプであることを特徴とする、請求項1乃至
3のいずれか一項に記載の液体吐出装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体吐出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット方式の画像形成装置において、記録ヘッドにインク(液体)を供給するヘッドタンク(サブタンク、バッファタンクとも称される)と、画像形成装置の本体に着脱可能なインクカートリッジ(メインタンクとの称される)とを有し、インクカートリッジからヘッドタンクに供給チューブを介して液体を供給する方式のものが知られている。
【0003】
このようなインク供給方式にあっては、インクカートリッジが空になったにもかかわらず送液ポンプを駆動して送液動作が継続されると、インクカートリッジ内及び供給チューブなどのインク供給経路内が負圧になる。この状態でインクカートリッジを交換するために取り外すと、インク供給経路内に空気が混入し、気泡となってヘッドタンクから記録ヘッドに送られて吐出不良を発生することがある。
【0004】
そこで、送液ポンプとして可逆型ポンプを使用して、インクカートリッジの液体残量が不足した状態で送液ポンプによる送液動作を行ったときには、送液ポンプを逆転駆動することで、ヘッドタンクからインクカートリッジにインクを逆送させて供給経路内に空気が混入しないようにする技術が開示されている(例えば特許文献1)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
インクカートリッジからヘッドタンクへインクを供給する動作において、ヘッドタンクが満充填にならずにインクの供給動作が完了しない場合、画像形成装置は、インクカートリッジ内のインクが空(インク残量の不足した状態も含む。以下同様)になったと判定する。そして画像形成装置は、このことを示す規定値(以下、「インクエンド」と称する)を、インクカートリッジに備えられている記憶領域に書き込み、インクカートリッジの交換を利用者に通知する。
【0006】
また画像形成装置は、インクエンドが書き込まれたインクカートリッジを使用不可として取り扱う。このように取り扱うことで、利用者が取り違えて空となったインクカートリッジを画像形成装置に差し込んでも、画像形成装置は、インクの供給動作を行わずに利用者に通知することができる。
【0007】
また一方で、新規のインクカートリッジが差し込まれたにもかかわらず、上記の気泡の混入やその他の画像形成装置側の不具合によりインクの供給動作が完了しない場合、画像形成装置は、インクエンドをインクカートリッジの記憶領域に書き込んでインクの交換を促す。すなわち、インクカートリッジには問題がないにもかかわらず使用不可のカートリッジができ上がる。これに加え、本来は画像形成装置側の不具合を通知するところを、インクカートリッジの交換を促す誤った通知を行うことになる。
【0008】
本発明は、インクカートリッジのインク残量を見極めることで、インクカートリッジの好適な運用を行うことを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明は、インクを吐出する記録ヘッドと、前記記録ヘッドへのインクを貯留するヘッドタンクと、着脱可能に取り付けられるインクカートリッジであり、当該インクカートリッジの使用不可情報、及びインク残量情報を記憶する情報記憶素子を有するインクカートリッジと、前記インクカートリッジから前記ヘッドタンクへインクを供給する送液手段と、前記送液手段によるインクの供給可否を判定する制御手段と、を有する液体吐出装置であって、前記インク残量情報の現在値をA、前記インク残量情報に係る第1閾値をA1、前記第1閾値よりも小さい値である第2閾値をA2としたとき、前記制御手段は、前記送液手段によるインクの供給を不可と判定した後に、前記A、前記A1及び前記A2を参照し、前記A1≦前記Aの場合は、液体吐出装置の不具合である通知を行い、前記A2≦前記A<前記A1の場合は、前記A2≦前記A<前記A1になった回数をカウントし、当該回数が規定値に達した場合、前記インクカートリッジの交換を促す通知を行い、かつ前記情報記憶素子に前記使用不可情報を書き込み、前記A<前記A2の場合は、前記インクカートリッジの交換を促す通知を行い、かつ、前記情報記憶素子に前記使用不可情報を書き込む、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明により、インクカートリッジのインク残量を見極めることで、インクカートリッジの好適な運用を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】実施形態の画像形成装置を前方から見た斜視図である。
【
図2】実施形態の画像形成装置の機構部の概要を示す側面図である。
【
図3】実施形態の画像形成装置の機構部の概要を示す要部平面図である。
【
図4】実施形態におけるインク供給配管の構成を示す概略構成図である。
【
図5】チューブポンプの構成を示す概略平面図である。
【
図7】ヘッドタンク内の負圧作成の様子を示す概略断面図である。
【
図8】インクタンクにおける負圧破壊の様子を示す概略断面図である。
【
図9】第1実施形態の画像形成装置の制御系の構成を例示するブロック図である。
【
図10】不具合の一覧及び表示されるメッセージを例示する図である。
【
図11】第1実施形態の画像形成装置の動作例を示すフローチャートである。
【
図12】第1閾値の数値決めについて説明する図である。
【
図13】第3状態から第1状態に復帰するときの動作例を示すフローチャートである。
【
図14】第1実施形態の画像形成装置の制御系の構成を例示するブロック図である。
【
図15】第2実施形態の画像形成装置の動作例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態を説明するが、本発明は後述する実施形態に限定されるものではない。尚、以下に参照する各図においては、共通する要素について同じ符号を用い、適宜その説明を省略するものとする。また、以下の説明では、記録媒体として用紙に対し画像形成を行うインクジェット式の画像形成装置を例に説明するが、これに限定するものではない。
【0013】
<画像形成装置の構成>
【0014】
図1は本実施形態の画像形成装置を前方から見た斜視図である。画像形成装置100は、装置本体101と、装置本体101に装着された用紙を装填するための給紙トレイ102と、装置本体101に着脱自在に装着されて画像が記録(形成)された用紙をストックするための排紙トレイ103とを備えている。また、装置本体101の前面の一端部側(給排紙トレイ部の側方)には、前面から装置本体101の前方側に突き出し、上面よりも低くなったインクカートリッジを装填するためのカートリッジ装填部104を有し、このカートリッジ装填部104の上面には操作ボタンや表示器などの操作/表示部105が設けられている。
【0015】
カートリッジ装填部104は、色の異なる色材であるインク(液体)、例えば黒(K)インク、シアン(C)インク、マゼンタ(M)インク、イエロー(Y)インクをそれぞれ収容したインクカートリッジ110k、110c、110m、110y(色を区別しないときは「インクカートリッジ110」という)を、装置本体101の前面側から後方側に向って装填することができる。カートリッジ装填部104の前面側には、インクカートリッジ110を着脱するときに開く前カバー106が開閉可能に設けられている。また、インクカートリッジ110k、110c、110m、110yは縦置き状態で横方向に並べて装填する構成となっている。
【0016】
操作/表示部105には、各色のインクカートリッジ110k、110c、110m、110yの装着位置(配置位置)に対応する配置位置で、各色のインクカートリッジ110k、110c、110m、110yの残量が無くなった、もしくは不足した状態になったことを表示する各色の残量表示部111k、111c、111m、111yを配置している。更に、この操作/表示部105には、電源ボタン112、用紙送り/印刷再開ボタン113、キャンセルボタン114も配置されている。また操作/表示部105には、画像形成装置100の状態をテキスト情報やビープ音などにより利用者に通知するディスプレイやスピーカなども有している。
【0017】
画像形成装置100には、装置内の各種ハードウェアを統括的に制御する制御部150(制御手段)が備えられている。制御部150は、演算処理装置、記憶装置、ASICやFPGAなどを含むマイクロコンピュータとする。
【0018】
次に、画像形成装置100の機構部について
図2及び
図3を参照して説明する。尚、
図2は同機構部の概要を示す側面図であり、
図3は要部平面図である。
【0019】
画像形成装置100の機構部において、フレーム121を構成する左右の側板121A、121Bに横架したガイド部材であるガイドロッド131とステー132とでキャリッジ133を主走査方向に摺動自在に保持している。キャリッジ133は、図示しない主走査モータによってタイミングベルトを介して
図3のキャリッジ主走査方向に移動走査する。
【0020】
キャリッジ133には、前述したようにイエロー(Y)、シアン(C)、マゼンタ(M)、ブラック(Bk)の各色のインクを吐出する4個の液滴吐出ヘッドからなる記録ヘッド134が配列しており、インク滴吐出面を下方に向けて装着されている。
【0021】
記録ヘッド134を構成するインクジェットヘッドとして、圧電素子などの圧電アクチュエータ、発熱抵抗体などの電気熱変換素子を用いて液体の膜沸騰による相変化を利用するサーマルアクチュエータ、温度変化による金属相変化を用いる形状記憶合金アクチュエータ、静電力を用いる静電アクチュエータなどを圧力発生手段として備えたものを使用することができる。
【0022】
この記録ヘッド134はドライバICを搭載しており、制御部150との間でハーネス(フレキシブルプリントケーブル)122を介して接続している。また、キャリッジ133は、インクを一時貯留するとともに、記録ヘッド134に各色のインクを供給するための各色のヘッドタンク135を搭載している。この各色のヘッドタンク135には各色のインク供給チューブ136を介して、前述したように、カートリッジ装填部104に装着された各色のインクカートリッジ110から各色のインクが補充供給される。尚、このカートリッジ装填部104にはインクカートリッジ110内のインクを送液するための供給ポンプユニット124が設けられ、またインク供給チューブ136は這い回しの途中でフレーム121を構成する後板121Cに係止部材125にて保持されている。
【0023】
一方、給紙トレイ102の用紙積載部(圧板)141上に積載した用紙142を給紙するための給紙部として、用紙積載部141から用紙142を1枚ずつ分離給送する半月コロ(給紙コロ)143、及び当該給紙コロ143に対向し、摩擦係数の大きな材質からなる分離パッド144が備えられ、この分離パッド144は給紙コロ143側に付勢されている。
【0024】
そして、この給紙部から給紙された用紙142を記録ヘッド134の下方側に送り込むために、用紙142を案内するガイド部材145と、カウンタローラ146と、搬送ガイド部材147と、先端加圧コロ149を有する押さえ部材148とを備えるとともに、給送された用紙142を静電吸着して記録ヘッド134に対向する位置で搬送するための搬送手段である搬送ベルト151を備えている。
【0025】
この搬送ベルト151は無端状ベルトであり、搬送ローラ152とテンションローラ153との間に掛け渡されて、ベルト搬送方向(副走査方向)に周回するように構成している。また、この搬送ベルト151の表面を帯電させる帯電ローラ156を備えている。この帯電ローラ156は、搬送ベルト151の表層に接触し、搬送ベルト151の回動に従動して回転するように配置されている。更に、搬送ベルト151の裏面側には、記録ヘッド134による印写領域に対応してガイド部材157が配置されている。
【0026】
この搬送ベルト151は、副走査モータによってタイミングを介して搬送ローラ152が回転駆動されることによって、
図3のベルト搬送方向に周回移動する。
【0027】
更に、記録ヘッド134で記録された用紙142を排紙するための排紙部として、搬送ベルト151から用紙142を分離するための分離爪161と、排紙ローラ162及び排紙コロ163とを備え、排紙ローラ162の下方に排紙トレイ103を備えている。
【0028】
装置本体101の背面部には両面ユニット171が着脱自在に装着されている。この両面ユニット171は、搬送ベルト151の逆方向回転で戻される用紙142を取り込んで反転させ、再度カウンタローラ146と搬送ベルト151との間に給紙する。また、この両面ユニット171の上面は手差しトレイ172としている。
【0029】
更に、
図3に示すように、キャリッジ133の走査方向一方側の非印字領域には、記録ヘッド134のノズルの状態を維持し、回復するための維持回復機構181が配置されている。
【0030】
この維持回復機構181には、記録ヘッド134の各ノズル面をキャッピングするための各キャップ部材(以下「キャップ」という。)182a~182d(区別しないときは「キャップ182」という。)と、ノズル面をワイピングするためのブレード部材であるワイパーブレード183と、増粘した記録液を排出するために記録に寄与しない液滴を吐出させる空吐出を行うときの液滴を受ける空吐出受け184などを備えている。ここでは、キャップ182aを吸引及び保湿用キャップとし、他のキャップ182b~182dは保湿用キャップとしている。
【0031】
そして、この維持回復機構181による維持回復動作で生じる記録液の廃液、キャップ182に排出されたインク、あるいはワイパーブレード183に付着してワイパークリーナ185で除去されたインク、空吐出受け194に空吐出されたインクは、廃液タンク23(
図7参照)に排出されて収容される。
【0032】
また、
図3に示すように、キャリッジ133の走査方向他方側の非印字領域には、記録中などに増粘した記録液を排出するために記録に寄与しない液滴を吐出させる空吐出を行うときの液滴を受ける空吐出受け188を配置し、この空吐出受け188には記録ヘッド134のノズル列方向に沿った開口189などを備えている。
【0033】
このように構成した画像形成装置100においては、給紙トレイ102から用紙142が1枚ずつ分離給紙され、略鉛直上方に給紙された用紙142はガイド部材145で案内され、搬送ベルト151とカウンタローラ146との間に挟まれて搬送され、更に先端を搬送ガイド部材147で案内されて先端加圧コロ149で搬送ベルト151に押し付けられ、略90°搬送方向を転換される。
【0034】
このとき、制御部150から帯電ローラ156に対してプラス出力とマイナス出力とが交互に繰り返すように電圧が印加され、搬送ベルト151が帯電電圧パターン、すなわち周回方向である副走査方向に、プラスとマイナスが所定の幅で帯状に交互に帯電されたものとなる。このプラス、マイナス交互に帯電した搬送ベルト151上に用紙142が給送されると、用紙142が搬送ベルト151に吸着され、搬送ベルト151の周回移動によって用紙142が副走査方向に搬送される。
【0035】
そこで、リニアエンコーダ137による主走査位置情報に基づいてキャリッジ133を主走査方向に移動させながら画像信号に応じて記録ヘッド134を駆動することにより、停止している用紙142にインク滴を吐出して1行分を記録し、用紙142を所定量搬送後、次の行の記録を行う。記録終了信号又は用紙142の後端が記録領域に到達した信号を受けることにより、記録動作を終了して、用紙142を排紙トレイ103に排紙する。
【0036】
また、印字(記録)待機中にはキャリッジ133は維持回復機構181側に移動されて、キャップ182で記録ヘッド134がキャッピングされて、ノズルを湿潤状態に保つことによりインク乾燥による吐出不良を防止する。また、キャップ182で記録ヘッド134をキャッピングした状態で図示しない吸引ポンプによってノズルから記録液を吸引し(「ノズル吸引」又は「ヘッド吸引」という。)し、増粘した記録液や気泡を排出する回復動作を行う。また、記録開始前、記録途中などに記録と関係しないインクを吐出する空吐出動作を行う。これによって、記録ヘッド134の安定した吐出性能を維持する。
【0037】
図4は画像形成装置100におけるインク供給配管の構成を示す概略構成図である。
図4に示すように、画像形成装置100は、ヘッドタンク135内のインクをノズル面から排出して廃液タンクに回収するのではなく、ヘッドタンク135内のインクを供給ポンプユニット124によりインクカートリッジ110に戻す。これにより画像形成装置100は、負圧作成時に、使用するインクの再利用を可能とし、無駄なインクの消費を低減する。
【0038】
次に、送液条件について説明すると、本体を長期放置すると配管内に多量の気泡が発生する。配管負圧内で引き込まれた空気である配管内の空気が混在したインクを無条件で逆流、つまりヘッドタンク135からインクカートリッジ110へと流すと、インクカートリッジ110の中にエアーが溜まり、ヘッドタンク135へインクを送液する際、インクカートリッジ110内部に溜まったエアーがヘッドタンク135内で気泡となり、インクの吐出を阻害する不具合の原因となる。そこで、本実施形態の負圧作成時送液条件として、始めにインクカートリッジ110からヘッドタンク135にインク送液を送液(正転送液)した後に、ヘッドタンク135からインクカートリッジ110に送液(逆転送液)して負圧作成を行う。尚、正転送液の送液量は逆転送液の送液量以上(正転送液≧逆転送液)とする。
【0039】
ここで、本実施形態で使用する供給ポンプユニット124は、ポンプ構造が複雑ではなく、インクの正逆送が駆動モータの回転方向を変えることにより可能な、
図5(A)に示すようなチューブポンプを採用している。この供給ポンプユニット124のポンプ内部には送液用のゴムチューブ31が這いまわされ、ゴムチューブ31をポンプ内部に内蔵されているポンプロータ32の押圧部33を用いて局所的に潰し、ポンプロータ32を回転させることにより潰すポイントを回転方向に移動させることで、ポンプロータ32の回転方向にインクが送液される。具体的には、インクカートリッジ110からヘッドタンク135へインクを正転送液するときは、ポンプロータ32を矢印Aの回転方向に回転させる。逆に、ヘッドタンク135からインクカートリッジ110を逆転送液するときは、ポンプロータ32を矢印Bの回転方向に回転させる。ここで、ポンプロータ32の回転において矢印Aの回転方向の回転を正回転と称し、矢印Bの回転方向の回転を逆回転と称する。ポンプロータ32の回転を正逆転制御することで、インク送液方向を制御できる。また、供給ポンプユニット124として、構成が単純なチューブポンプを使用することにより、小スペースなポンプ構成とすることができる。更に、送液方向を制御することに対して、ポンプ駆動モータの正逆制御で可能なので、配管がシンプルになる。尚、チューブポンプの構造は
図6に示すような回転コロタイプ以外の変心カムタイプなどでも構わない。
【0040】
図5(B)はインクがポンプロータ32の回転可動領域にまで進入している状態となっている供給ポンプユニット124を示し、
図5(C)はインクがポンプロータ32の回転可動領域にまで進入していない状態となっている供給ポンプユニット124を示している。
【0041】
図5(B)に示す状態において、このままポンプロータ32が正回転すると、回転可動部に溜まっていたインク38が押圧部33により押し出され、ゴムチューブ31の内壁をこじ開けながら進行し、ヘッドタンク135に向けて排出される。これに対し、
図5(C)に示すように、ゴムチューブ31の流出入口が押圧部33により遮られた状態でポンプロータ32が長時間停止することがある。この状態からポンプロータ32が回転すると、ゴムチューブ31の内壁をこじ開けるためのインクが存在しないため、インクの供給ができないことがある(この現象を「ポンプの張り付き」と称する)。この流出入口のポンプの貼り付きも考慮して、本実施形態ではインクの供給の正転前に逆転送液しているが、確実ではない。
【0042】
図6は、ヘッドタンク135の構造を示す斜視図である。
図6において、負圧レバー14-1は、フィルム14-2の変位に追随して動作するレバー(フィラ)である。フィルム14-2は、バネなどにより付勢されてヘッドタンク135の内部に負圧を生じさせ、またインクの消費量に応じて変位する。
【0043】
供給口14-3は、インクカートリッジ110からインク供給チューブ136を経由してインクが供給される供給口である。また、大気開放ピン14-4は、ヘッドタンク135の内部を必要に応じて大気状態に開放したり大気と遮断したりするためのピンである。このようなヘッドタンク135の下方には、インク滴を噴射する記録ヘッド134が取り付けられている。また、インク又は空気との接触を検知することでインクが満充填されているかを検知する検知ピンである検知機構14-6が設けられている。
【0044】
検知機構14-6は、電極ピンに液面がついているか空気がついているかを検知する。また、大気開放しながら供給ポンプユニット124が正転送液してインクの供給が開始されると、ヘッドタンク内の液面が上昇する。この液面が電極ピンに到達した時点で、インクの供給が完了したものとし、供給ポンプユニット124による供給が停止する。
【0045】
また、負圧レバー14-1は、大気と遮断しながら、供給ポンプユニット124より正転送液すると、ヘッドタンク135内の圧力が上昇し(負圧が弱まる)、開く方向へ動く。一方、大気と遮断しながら、供給ポンプユニット124より逆転送液すると、ヘッドタンク135内の圧力が低下し(負圧が強まる)、負圧レバー14-1は閉じる方向へ動く。負圧レバー14-1は、インクジェットプリンタ本体側に取り付けられたセンサによるセンシングで停止させることができる。
【0046】
ヘッドタンク135の内部の負圧作成は、
図7に示す模式図のように、記録ヘッド134のヘッドノズルを覆うキャップ182により、ヘッドノズルからインクを排出して、ヘッドタンク135内の容積変化を行うことで、ヘッドタンク135内部のバネを変形させて行う。キャップ182によりヘッドノズル15から排出されたインクは吸引ポンプ22によって廃液タンク23に廃液として収納される。
【0047】
キャップ182を上昇しながら吸引を行うと、ヘッドタンク内のインクを廃液タンクへ排出(ヘッド吸引)することができ、ノズルの増粘インクなどを排除することができる。また、大気と遮断しながらヘッド吸引を行うことで、ヘッドタンク135内の圧力を下げ、負圧を作成することができる(負圧レバー14-1が閉じ状態になる)。これとは逆に、大気開放しながらヘッド吸引することで、ヘッドタンク135内の液面を下げることができる(負圧レバー14-1は開き状態のまま)。
【0048】
更にヘッドタンク135は、負圧を作成する際に、
図8(a)に示すように大気開放ピン14-4により大気開放した状態で、一定量までインクを入れる。そして
図8(b)に示すように、大気開放ピン14-4を閉じた状態で0.6ccのインクをヘッドタンクから抜き、側面のフィルム14-2を変形させ、フィルム14-2に接続されているバネの反発力で負圧を発生させている。このことから、放置状態でヘッドタンク135の負圧が破壊された場合、
図7の(c)に示すように、0.6cc分のインク液面が下がることになる。よって、負圧作成のためヘッドタンクからインクを吸引する前に、0.6cc以上のインクをヘッドタンクに入れる必要がある。つまり、本実施形態の送液条件は、ヘッドタンク135の構造を変更することなく採用することが可能である。
【0049】
このように、インクカートリッジ110から供給されたインクを一時的に貯蔵しておくヘッドタンク135を搭載している構成において、インクカートリッジ110が空である場合に不必要にインクをヘッドタンク135に送液した場合、インクカートリッジ110と供給ポンプユニット124の連結部が強い負圧状態になる。この状態でインクカートリッジ110を挿抜すると、送液ポンプの供給経路に気泡が入り込み、次の供給動作で気泡がヘッドタンク内に送られることとなる。ヘッドタンク内に過度の気泡が入り込むと、例えばヘッドタンク135に大気開放ピン14-4などの大気に開放する機構が備わっていた場合、当該機構から気泡だけでなく、インクも漏出し、記録ヘッド134などの破損や、当該ヘッドタンク135に気泡が混入し、その気泡が記録ヘッド134の液室に入り込むことによるノズル抜けや、負圧制御異常等の不具合につながる。
【0050】
<本実施形態の課題>
また、上記のように気泡が混入すると、たとえ新規のインクカートリッジが差し込まれても、画像形成装置100は、気泡が影響してインクが流入されずにインクの供給が完了しないと判定してしまう。そして画像形成装置100は、新規のインクカートリッジの記憶領域内に、当該インクカートリッジ内のインクが空状態もしくは残量の少ない状態となったことを示す規定値(この状態若しくはこの規定値を「インクエンド」と称する)を書き込み、インクの交換を促すこととなる。インクエンドが書き込まれたカートリッジは、他の画像形成装置に装着されても使用不可として扱われ、記憶領域が初期化されるまで使用できなくなる。すなわち、気泡の混入や画像形成装置100側の不具合によりインクの供給が完了しない場合、インクカートリッジには問題が無いにもかかわらず使用不可のカートリッジが大量にでき上がる。そして、本来は画像形成装置100側の不具合を通知するところを、インクカートリッジの交換を促す誤った通知を行うことになる。
【0051】
これに対し、インクの残量もしくはインクを使用した量をインクカートリッジ110に持たせてカウントする実装が考えられる(このカウント値を「ソフトカウンタ」と称する)。この場合、インクの供給動作が完了しない場合であっても、ソフトカウンタと判定用閾値とを比較してインクの残量が十分にある判定されると、インクエンドを書き込まずに画像形成装置側の不具合として通知する、との実装が可能となる。しかしながら、下記の理由で適式な判定用閾値を設けるのが困難となる。
・閾値が大きすぎると、インクを大量に余らせた上でインクエンドを書き込んで使用不可とすることから、大量の残存インクを破棄することとなり、無駄となる。
・ソフトカウンタと実際の残量(実残量)とで誤差が無ければ問題ないが、実際には、ソフトカウンタと実残量とでは、少なからず誤差が生じる。よって、閾値が小さすぎる場合は、本当にインクが空であるにもかかわらず、ソフトカウンタの値がこのことを示さないことが想定される。この場合、インクエンドが書き込まれず、また画像形成装置側の不具合として誤った通知を行ってしまう。
【0052】
上記の課題を解決するため、具体的な態様例を以下に説明する。すなわち、以下の各課題を解決するための実装例について説明する。
課題1.インクが十分に充填されているインクカートリッジが使用不可となってしまう。
課題2.インクが十分に充填されているインクカートリッジが差し込まれても、インクの交換を促す表示が繰り返し行われてしまう。
課題3.インクカートリッジが空となっている場合において、本来インクの交換を促す表示をすべきところを画像形成装置の不具合系のエラー表示が繰り返し行われてしまう。
【0053】
<第1実施形態>
第1実施形態では、ソフトカウンタの値と比較するための2以上の閾値を設けておく。この複数の閾値のうち、ソフトカウンタの値を判定するための第1閾値を「A1」とする。また、第1閾値よりも小さい値であって、同じくソフトカウンタの値を判定するための第2閾値を「A2」とする。したがって、A2<A1である。第1実施形態の画像形成装置100は、インクカートリッジ110からのインク供給が完了しなかった場合、インクカートリッジ内のインク残量を、ソフトカウンタから取得する。したがって、ソフトカウンタの値がインク残量を示す情報として機能する。そして画像形成装置100は、インク残量の(ソフトカウンタの値)と第1閾値(A1)及び当該第1閾値よりも小さい第2閾値(A2)と比較することで、画像形成装置100の状態を第1状態~第4状態のいずれかに遷移させる。
【0054】
第1状態~第4状態は、以下の状態を意味する。
・「第1状態」(正常状態)・・・インクカートリッジ110にはインクエンドを書込まない。通常の画像形成動作を継続して実施可能とする。
・「第2状態」(インク残量が多い場合)・・・インク残量が第1閾値以上の場合、画像形成装置100の不具合が発生した可能性がある旨の通知(インク供給エラーメッセージ)を行い、インクカートリッジ110にはインクエンドを書込まない。
・「第3状態」(インク残量が少ない場合)・・・インク残量が第2閾値以上、且つ第1閾値未満の場合、インクエンドとなった旨の通知(カートリッジ交換メッセージ)を行うが、インクカートリッジ110にはインクエンドを書き込まない。
・「第4状態」(インク残量が空もしくは不足している場合)・・・インク残量が第2閾値未満の場合、インクエンドとなった旨を通知するとともに、インクカートリッジ110にインクエンドを書き込む。
【0055】
言い換えると、第1状態は、画像形成装置100及びインクカートリッジ110が正常に動作(液体を吐出する動作)する状態である。第1状態のときは、インクカートリッジ110にはインクエンドが書き込まれず、通常の画像形成動作を継続して行うことができる。
【0056】
第2状態は、インクカートリッジ110へのインクの供給が「不可」であると判定された後において、インク残量の現在値である「A」を参照し、「A」が第1閾値である「A1」以上であるとき(A1≦A)、画像形成装置100の不具合が発生した可能性がある旨の通知(インク供給エラーメッセージ)を行う状態である。なお、第2状態になったときは、インクカートリッジ110への「インクエンド」の書き込みは行われない。
【0057】
また、第3状態は、インクカートリッジ110へのインクの供給が「不可」であると判定された後において、インク残量の現在値である「A」を参照し、「A」が第2閾値である「A2」以上であり、かつ第1閾値未満であるとき(A2≦A<A1)、インクカートリッジ110が「インクエンド」となった旨の通知を行う状態である。第3状態になったときも、インクカートリッジ110への「インクエンド」の書き込みは行われない。
【0058】
また、第4状態は、インクカートリッジ110へのインクの供給が「不可」であると判定された後において、インク残量の現在値である「A」を参照し、「A」が第2閾値未満であるとき(A<A2)、インクカートリッジ110が「インクエンド」となった旨の通知を行い、かつ、インクカートリッジ110への「インクエンド」の書き込みも行う状態である。
【0059】
また以降の説明において、各色のインクに対応するインクカートリッジ110ごとの制御を区別した説明にはしないが、当然ながら、各色に係るインクカートリッジ110を区別して正しく管理し、制御するときにも本実施形態は適用可能である。これに加えて、インクカートリッジを一意に識別するためにインクカートリッジ110ごとに識別情報が付与されている構成についても、同様にインクカートリッジ110ごと正しく区別して管理、制御することで適用可能となる。
【0060】
図9は、第1実施形態における制御系の構成例を示すブロック図である。ここで、インクカートリッジ110、ヘッドタンク135、前カバー106、供給ポンプユニット124は上記のとおりである。
【0061】
図9に示すインクカートリッジ110には、当該インクカートリッジ110がインクエンドであるか、もしくはインクエンドで無いか(「Notエンド」とも称する)を示す情報(=インクカートリッジの使用の可否に関する情報である使用可否情報)を記憶する記憶領域950(情報記憶素子、記憶装置、記憶手段)を有している。記憶領域950は、初期状態としてNotエンドが書き込まれており、制御部150から指示があるとインクエンドに書き替えられる。また記憶領域950には、上記のソフトカウンタ(=インク残量に関する情報であるインク残量情報)も記憶されており、制御部150から読み書き可能な状態となっている。
【0062】
前カバー106には、当該前カバー106の開閉状態を検知する開閉検知機構960(第二検知手段)を有している。
【0063】
制御部150は、インク供給完了判定手段901、判定手段902、処理手段903、ポンプ制御手段904、表示制御手段905を有する。これらに加え、制御部150は、インクカートリッジ110の記憶領域950にアクセス可能な手段も有している。
【0064】
インク供給完了判定手段901は、ヘッドタンク135に備えられる検知機構14-6から出力される検知信号を入力し、ヘッドタンク135へのインクの供給が完了したかを判定する。
【0065】
判定手段902は、閾値記憶部910に記憶されている第1閾値、第2閾値と、ソフトカウンタの値とを比較し、この比較結果に基づき、第1状態~第4状態を示す情報(後述の3つの要素)を状態記憶部912に書き込む。
【0066】
処理手段903は、画像形成装置100の各動作全般の処理や制御を担う機能部である。処理手段903は、ポンプ制御手段904、表示制御手段905に対し、状態記憶部912に書き込まれている第1状態~第4状態に応じた動作を行うように指示する。
【0067】
また処理手段903は、開閉検知機構960から、前カバー106の開閉状態を示す信号を入力する。そして、開き状態から閉じ状態に遷移する信号を入力すると、処理手段903は、これを契機としてインクカートリッジ110からインクの供給が行われるように制御する。
【0068】
ポンプ制御手段904は、供給ポンプユニット124に対し、インクカートリッジ110からのインクの供給の開始/停止を指示する機能部である。またポンプ制御手段904は、供給ポンプユニット124に対する自らの制御動作に基づき、インクカートリッジ110のインク残量をソフトカウンタとして記憶領域950に書き込む。尚、ここではポンプ制御手段904がソフトカウンタを書き込むものとするが、インクカートリッジ110が自らでインク残量を把握し、記憶領域950にソフトカウンタを書き込んでもよい。
【0069】
表示制御手段905は、カートリッジ交換を促す通知や、画像形装置側の不具合によるインク供給エラーの通知などを操作/表示部105に行わせる機能部である。
【0070】
図10は、インクカートリッジ110からインクの供給を行う際に想定される不具合の一覧を例示する図であり、操作/表示部105に表示される内容(メッセージ)を例示する図である。本実施形態では、各種不具合を「マシン不具合」、「偶発的なインク供給不良」、「インクが空」に区分し、不具合の内容に応じて、
図10に図示する「インク供給エラー」「カートリッジ交換」のメッセージを表示する。尚、「偶発的なインク供給不良」としては、上記の「ポンプの張り付き」や、電源異常による供給モータの非駆動などが想定される。「マシン不具合」、「インクが空」については、
図10に示すとおりの不具合内容を想定している。
【0071】
図11は、本実施形態の動作例を例示するフローチャートであり、第1状態~第4状態に切り替え制御を行う際の動作例を示している。本実施形態では、「1.印刷可否」「2.マシン表示」「3.インクエンドフラグ」の3つの要素を用いて第1状態~第4状態の各状態を定義付けている。また
図11のフローチャートでは、正常状態であることを意味する第1状態(印刷可否:印刷可能状態、マシン表示:インク残量あり(正常表示)、インクエンドフラグ:Notエンド)のときに、インクカートリッジ110からヘッドタンク135へインクを供給する処理が行われるケースを示している。
【0072】
インク供給完了判定手段901は、検知機構14-6からの信号に基づき、インクの供給が正常に完了したかを判定する(S1101)。正常に完了した場合(S1101:Yes)、インク供給完了判定手段901は、このことを示す情報を判定手段902に引き渡す。判定手段902は、この情報を取得すると、正常に完了したものと判定し、状態記憶部912を書き替えずに第1状態のままとする。
【0073】
インク供給完了判定手段901から規定時間内に供給完了を示す情報を取得しなかった場合(S1101:No)、判定手段902は、インクカートリッジ110のインク残量の現在値(A)を、ソフトカウンタを参照することで取得し、これに加えて第1閾値(A1)及び第2閾値(A2)を閾値記憶部910から取得する。ここでは第1閾値を40%とし、第2閾値を10%とするが、これに限定されない。
【0074】
判定手段902は、ソフトカウンタの値と第1閾値とを比較し、またソフトカウンタの値と第2閾値とを比較する(S1102)。すなわち、ソフトカウンタの値(インク残量の現在値)は、インクカートリッジ110におけるインク残量の最大値に対する割合(パーセンテージ)で示されるものとする。
【0075】
ソフトカウンタの値が第1閾値以上である場合、判定手段902は、状態記憶部912に記憶されている情報を第1状態から第2状態(印刷可否:印刷不可、マシン表示:インク供給エラー、インクエンドフラグ:Notエンド)に書き替える。
【0076】
また一方で、ソフトカウンタの値が第2閾値以上且つ第1閾値未満である場合、判定手段902は、状態記憶部912に記憶されている情報を第1状態から第3状態(印刷可否:印刷不可、マシン表示:カートリッジ交換、インクエンドフラグ:Notエンド)に書き替える。
【0077】
ソフトカウンタの値が第2閾値未満である場合、判定手段902は、状態記憶部912に記憶されている情報を第1状態から第4状態(印刷可否:印刷不可、マシン表示:カートリッジ交換、インクエンドフラグ:インクエンド)に書き替える。
【0078】
判定手段902は、判定処理が完了したことを示す情報を処理手段903に引き渡す。処理手段903は、この情報を取得すると、状態記憶部912に記憶されている第1状態~第4状態を示す情報、具体的には「印刷可否」、「マシン表示」、「インクエンドフラグ」の各要素を取得し、各要素に示された動作となるように、表示制御手段905、ポンプ制御手段904などを制御する。したがって、判定手段902は、送液手段(供給ポンプユニット124)によるインクの供給可否を判定する。具体的には以下の動作となる。
【0079】
「印刷可否」が「印刷可能状態」である場合、処理手段903は、通常のとおり画像形成を行うことができるように、換言すると、記録ヘッド134からインクの吐出が可能となるように制御する。一方、「印刷可否」が「印刷不可」である場合、処理手段903は画像形成を抑止するように、換言すると、記録ヘッド134からのインクの吐出が不可となるように制御する。
【0080】
「マシン表示」が「インク残量あり(正常)」である場合、処理手段903は、正常である旨を通知するか、もしくはエラー通知などを行わないように表示制御手段905を制御する。一方、「マシン表示」が「カートリッジ交換」もしくは「インク供給エラー」である場合、処理手段903は、これらのメッセージを表示するように表示制御手段905を制御する。
【0081】
「インクエンドフラグ」が「Notエンド」である場合、処理手段903は、インクカートリッジ110の記憶領域950にインクエンドを書き込まないようにする。一方、「インクエンドフラグ」が「インクエンド」である場合、処理手段903は、記憶領域950にインクエンドを書き込み、当該インクカートリッジ110の使用を不可とする。したがって、記憶領域950に書き込まれる「インクエンド」は、インクカートリッジ110の使用不可情報に相当する。
【0082】
以上をまとめると、処理手段903は以下の状態となるように制御する。
・「第1状態」・・・インクカートリッジ110にはインクエンドを書込まない。通常の画像形成動作を継続して実施可能とする。
・「第2状態」(インク残量が多い場合)・・・インク残量が第1閾値以上の場合、画像形成装置100の不具合が発生した可能性がある旨の通知を行い、インクカートリッジ110にはインクエンドを書き込まない。通常の画像形成を実施不可とし、画像形成装置側の不具合を意味するインク供給エラーを表示する。該当するインクカートリッジ110については、インクエンドを書き込まないため継続使用可能とする。また利用者は、一旦電源をOFFにして再びONにするか、不具合要因を排除して電源をONにすることで、第1状態に復旧させることができる。
・「第3状態」(インク残量が少ない場合)・・・インク残量が第1閾値よりも小さい第2閾値以上、且つ第1閾値未満の場合、インクエンドとなった旨を通知するが、インクカートリッジ110にはインクエンドを書き込まない。通常の画像形成を実施不可とし、カートリッジ交換を表示する。該当するインクカートリッジ110については、インクエンドを書き込まないため継続使用可能とする。また利用者は、新規カートリッジへ交換するか、カートリッジを抜き差しすることで、第1状態に復旧させることができる。
・「第4状態」(インク残量が空もしくは不足している場合)・・・インク残量が第2閾値未満の場合、インクエンドとなった旨を通知するとともに、インクカートリッジ110にインクエンドを書き込む。通常の画像形成を実施不可とし、カートリッジの交換を促すように通知する。またインクエンドを書き込むため、該当するインクカートリッジ110は使用不可となる。利用者は、新規カートリッジへ交換することで、第1状態に復旧させることができる。
【0083】
上記の構成により、インクカートリッジ110からインクが正常に供給されないにもかかわらず、インクが相当量残っている場合、第1状態から第2状態もしくは第3状態に遷移させ、インクカートリッジ110にインクエンドを書き込まないようにすることが可能となる。よって、インクの大量余りでのインクカートリッジ110の使用不可を防ぐことができる(課題1の解消)。
【0084】
また、「偶発的インク供給不良」や「マシン不具合」の場合、第1状態から第2状態~第4状態のいずれかに遷移させることができる。利用者は、メッセージの内容に従い、電源の再投入、修理、新規カートリッジへの交換などを行う。ここで、新規カートリッジに交換されて
図11の処理が再び作動しても、インク残量が第1閾値以上となるため第1状態もしくは第2状態となることから、誤表示(マシン不具合であるにもかかわらずインク交換指示)が連発するリスクを減少させることができる(課題2の解消)。
【0085】
インク残量判定閾値について、第1閾値をインクが空とならない程度の大きい値に設定しているため、カートリッジが空であるにもかかわらずマシン不具合のエラーが頻発する誤表示も防ぐことができる(課題3の解消)。
【0086】
ここで
図12に示すヒストグラムを参照しつつ、第1閾値(40%)の設定手法について説明する。
図12は、実機を用いて検証を行った結果を示すものであり、実際のインク消費量とソフトカウンタの値との比率を横軸にしたヒストグラムである。尚、ここでは「インク消費量」としているが、容易にインク消費量をインク残量に一意に変換することができるため、インク消費量をインク残量として扱っている。
【0087】
上記のように、実際のインク消費量とソフトカウンタの値とでは差異が生じるが、検証の結果、その比率は
図12に示すような1.0~1.4にまとまる分布となった(実際のインク消費量とソフトカウンタの値とが完全一致する場合は1.0になる)。
【0088】
ここで、(実消費量÷ソフトカウンタ)の最大値想定を「平均値+4σ」(=1.56)とすると、ソフトカウンタの値が35.89%の時点で、実インクの残量が0となると想定することができる。また、マシン不具合とカートリッジの空状態とを見極めるためには、第1閾値を35.89%以上にする必要ある。よって本実施形態では、第1閾値をインクが空とならない程度の大きい値に設定するため、40%を第1閾値として採用した。
【0089】
次に、第3状態になった後の動作について
図13のフローチャートを参照にしつつ説明する。第3状態になると、利用者は、カートリッジの交換を促すメッセージに従い、インクカートリッジ110の交換を行うために前カバー106を開き状態にする。そしてインクカートリッジ110を取り出して新規のカートリッジを差し込むことになるが、ここで、当該インクカートリッジ110のインクが残っていると、(重量感などにより)これに気付いて同じインクカートリッジ110を差し込むことがある。
図13のフローチャートは、このように同じインクカートリッジ110が差し込まれた場合を想定した動作となる。
【0090】
前カバー106に備えられる開閉検知機構960は、前カバー106の開き状態から閉じ状態になったことを検知する(S1301)。本実施形態では、このように前カバー106の開閉を検知するものとするが、カートリッジの抜き差しを検知するセンサ(第一検知手段)を別途設けて、これによりカートリッジの抜き差しを検知する実装でもよい。
【0091】
処理手段903は、開閉検知機構960から検知信号を入力し、これを契機に供給ポンプユニット124を動作させて、インクカートリッジ110からのインクの供給を開始させる(S1302)。
【0092】
インク供給完了判定手段901は、上記のS1101と同様に、検知機構14-6からの信号に基づき、インクの供給が正常に完了したかを判定する(S1303)。ここで、不具合の発生事由が実際には「偶発的なインク供給不良」であったなら、今回のインクの供給においては正常に完了し(S1303:Yes)、第1状態へ戻ることができる。すなわち、同じインクカートリッジ110を再度使用することができ、大量余りでの使用不可を防止することができる(課題1の解消)。
【0093】
また利用者の判断ミスで本当にインク残量が空もしくは少なかった場合(S1303:No)、第3状態のままだが、ここで改めて第3状態における画面の指示のとおり、新規のカートリッジへ交換すれば、インクの供給が正常に完了するため(S1303:Yes)、第1状態へ戻ることができる。
【0094】
尚、不具合の発生事由が実際には「マシン不具合」であったなら、今回もインク供給が完了しないため(S1303:No)、第3状態のままとなり、カートリッジの交換を促すメッセージが表示される。利用者は、当該指示に従い新規のカートリッジへ交換すれば、インク残量が第1閾値以上となるため第2状態となり(
図11のS1102の判定を参照)、画像形成装置100の不具合が発生した可能性がある旨の通知が行われる。すなわち、誤表示(マシン不具合にもかかわらずインク交換指示)が連発することを抑制することができる(課題2の解消)。
【0095】
<第2実施形態>
第1実施形態で説明したとおり、実際のインク消費量とソフトカウンタの値とでは少なからず差異が生じる。このことから、インクカートリッジ110が実際には空状態であるにもかかわらず、ソフトカウンタの値は第2閾値以上(10%以上)となってしまうことも想定される(第3状態となる)。よって、インクエンドが書き込まれず、空のカートリッジから何度もインク供給を行わせることが可能な仕組みとなる。
【0096】
このような課題を解消するため、第2実施形態では、
図14に示すように供給失敗カウンタ1410を設ける。供給失敗カウンタ1410は、繰り返し第3状態となった回数をカウントするためのカウンタである。
【0097】
図15は、第2実施形態の動作例を示す図である。
図15のフローチャートにおいて、S1101、S1102は、
図11に示すものと同じである。
【0098】
S1102の判定で、ソフトカウンタの値が第2閾値以上且つ第1閾値未満である場合、判定手段902は、供給失敗カウンタ1410を1つカウントアップさせる(S1501)。そして判定手段902は、供給失敗カウンタ1410を参照して、供給失敗回数が規定数以上であるかを判定する(S1502)。供給失敗回数が規定数に満たない場合(S1502:No)、判定手段902は第3状態に遷移させる。尚、
図15の例では第1状態から開始しているが、第3状態で開始した場合は第3状態のままとする。一方、供給失敗回数が規定数以上となる場合(S1502:Yes)、判定手段902は第4状態に遷移させる。このように第3状態に繰り返しなった場合は第4状態に遷移させて、インクエンドを書き込ませる。
【0099】
液体吐出装置は、本実施形態の記録ヘッド134、ヘッドタンク135、着脱可能なインクカートリッジ110、送液手段である供給ポンプユニット124、制御手段である制御部150を有する構成に相当する。
【0100】
以上、本実施形態によって、インクカートリッジのインク残量を見極めることで、インクカートリッジの好適な運用を行うことができる。また送液手段としてチュービングポンプを採用するにおいて、インクの供給の正転前に逆転送液する不確実な制御を行わなくても、本実施形態の態様を適用することで、いきなりインクエンドになることを防ぐことができる。
【符号の説明】
【0101】
14-6:検知機構
15:ヘッドノズル
100:画像形成装置
105:操作/表示部
106:前カバー
110:インクカートリッジ
124:供給ポンプユニット
134:記録ヘッド
135:ヘッドタンク
150:制御部
901:インク供給完了判定手段
902:判定手段
903:処理手段
904:ポンプ制御手段
905:表示制御手段
910:閾値記憶部
912:状態記憶部
950:記憶領域
960:開閉検知機構
1410:供給失敗カウンタ
【先行技術文献】
【特許文献】
【0102】