(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-29
(45)【発行日】2024-02-06
(54)【発明の名称】立体物の回旋角度検出装置、網膜投影表示装置、頭部装着型表示装置、検眼装置、及び入力装置
(51)【国際特許分類】
G02B 27/02 20060101AFI20240130BHJP
G01B 11/26 20060101ALI20240130BHJP
H04N 5/64 20060101ALI20240130BHJP
G02B 27/00 20060101ALI20240130BHJP
【FI】
G02B27/02 Z
G01B11/26 Z
H04N5/64 511A
G02B27/00 P
(21)【出願番号】P 2020046926
(22)【出願日】2020-03-17
【審査請求日】2023-01-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000006747
【氏名又は名称】株式会社リコー
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】三宮 俊
【審査官】近藤 幸浩
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-154815(JP,A)
【文献】特開2019-211705(JP,A)
【文献】特開2017-122775(JP,A)
【文献】特表2019-506017(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2019/0050051(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2011/0109880(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B27/02
G02B27/01
A61B3/00 - 3/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の発光部を備える光源手段と、
前記複数の発光部から射出された光を、立体物における曲率を有する被照射面に向けて反射して集束させる集束反射手段と、
前記光の前記被照射面により反射された反射光を受光し、前記反射光の受光位置を検出する受光位置検出手段と、を備え、
前記受光位置検出手段は、前記複数の発光部のうちの第1発光部から射出された光に由来する前記反射光
の中心部が前記受光位置検出手段の一端
に重なるような位置関係で
、前記第1発光部から射出された光に由来する前記反射光を受光する際に、前記複数の発光部のうちの前記第1発光部とは異なる第2発光部から射出された光に由来する前記反射光
の中心部が前記受光位置検出手段の他端
に重なるような位置関係で
、前記第2発光部から射出された光に由来する前記反射光を受光
し、
前記第1発光部と前記第2発光部は隣接しており、
前記立体物は、回転中心で回転可能な回転体と、曲率中心を有する曲面体とを含んで構成されている
立体物の回旋角度検出装置。
【請求項2】
前記複数の発光部は、非等間隔に配置されている
請求項
1に記載の立体物の回旋角度検出装置。
【請求項3】
前記複数の発光部は、隣接する前記発光部同士の間隔が徐々に異なるように配置されている
請求項
2に記載の立体物の回旋角度検出装置。
【請求項4】
前記複数の発光部のそれぞれが射出する光を偏向する偏向手段を備える
請求項1乃至
3の何れか1項に記載の立体物の回旋角度検出装置。
【請求項5】
前記複数の発光部は2次元に配置され、
前記受光位置検出手段は、
前記第1発光部から射出された光に由来する前記反射光
の中心部が、所定方向における前記受光位置検出手段の一端、又は前記所定方向と交差する交差方向における前記受光位置検出手段の一端の何れか一方
に重なるような位置関係で
、前記第1発光部から射出された光に由来する前記反射光を受光する際に、
前記第1発光部から前記所定方向に離れて配置された前記第2発光部から射出された光に由来する前記反射光
の中心部が、前記所定方向における前記受光位置検出手段の他端
に重なるような位置関係、前記第2発光部から射出された光に由来する前記反射光を受光する請求項1乃至
4の何れか1項に記載の立体物の回旋角度検出装置。
【請求項6】
前記第1発光部から前記交差方向に離れて配置された第3発光部から射出された光に由来する前記反射光を、前記交差方向における前記受光位置検出手段の他端で受光する
請求項
5に記載の立体物の回旋角度検出装置。
【請求項7】
前記光源手段は、垂直共振器面発光レーザである
請求項1乃至
6の何れか1項に記載の立体物の回旋角度検出装置。
【請求項8】
前記回転体の前記回転中心の位置と
前記曲面体の前記曲率中心の位置は異なっている
請求項1乃至
7の何れか1項に記載の立体物の回旋角度検出装置。
【請求項9】
前記立体物は、眼球である
請求項
8に記載の立体物の回旋角度検出装置。
【請求項10】
請求項1乃至
9の何れか1項に記載の立体物の回旋角度検出装置を有する
網膜投影表示装置。
【請求項11】
請求項1乃至
9の何れか1項に記載の立体物の回旋角度検出装置を有する
頭部装着型表示装置。
【請求項12】
請求項1乃至
9の何れか1項に記載の立体物の回旋角度検出装置を有する
検眼装置。
【請求項13】
請求項1乃至
9の何れか1項に記載の立体物の回旋角度検出装置を有する
入力装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、立体物の回旋角度検出装置、網膜投影表示装置、頭部装着型表示装置、検眼装置、及び入力装置に関する。
【背景技術】
【0002】
眼球等の曲率を有する立体物の回旋角度を検出する技術の開発が進み、回旋角度に基づく眼球の瞳孔位置(視線)等を用いて、電子機器制御のインターフェースや、ヘッドマウントディスプレイ等のウェアラブル表示機器の映像形成支援、熟練技術者等の視線データ収集、商品の注目度分析等の多様な用途への応用が期待されている。
【0003】
また、指向性を有する光を射出する発光部を複数備える光源手段から眼球に光を照射し、眼球による反射光の受光位置を検出することで、眼球の傾き位置を検出する構成が開示されている(例えば、特許文献1参照)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1の構成では、複数の発光部毎で回旋角度の検出範囲が重複すること等によって、眼球等の回旋角度を広い範囲で検出できない場合がある。
【0005】
本発明は、曲率を有する立体物の回旋角度を少数の発光部で広範囲に検出することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様に係る立体物の回旋角度検出装置は、複数の発光部を備える光源手段と、 前記複数の発光部から射出された光を、立体物における曲率を有する被照射面に向けて反射して集束させる集束反射手段と、前記光の前記被照射面により反射された反射光を受光し、前記反射光の受光位置を検出する受光位置検出手段と、を備え、前記受光位置検出手段は、前記複数の発光部のうちの第1発光部から射出された光に由来する前記反射光の中心部が前記受光位置検出手段の一端に重なるような位置関係で、前記第1発光部から射出された光に由来する前記反射光を受光する際に、前記複数の発光部のうちの前記第1発光部とは異なる第2発光部から射出された光に由来する前記反射光の中心部が前記受光位置検出手段の他端に重なるような位置関係で、前記第2発光部から射出された光に由来する前記反射光を受光し、前記第1発光部と前記第2発光部は隣接しており、前記立体物は、回転中心で回転可能な回転体と、曲率中心を有する曲面体とを含んで構成されている。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、曲率を有する立体物の回旋角度を少数の発光部で広範囲に検出できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】実施形態に係る瞳孔位置検出装置の構成例を示す図である。
【
図2】眼球の回旋とPSDへのレーザ光の入射位置との関係例を示す図であり、(a)は眼球が回旋していない状態の図、(b)は眼球が回旋している状態の図である。
【
図3】軸外し光学系が満たすべき条件例を示す図であり、(a)は素子間の距離を示す図、(b)は同軸光学系で表した幾何学的距離関係を示す図である。
【
図4】凹面ミラー有効領域直径とPSD受光面でのビーム半径の関係例の図である。
【
図5】実施形態に係る処理部のハードウェア構成例を示すブロック図である。
【
図6】実施形態に係る処理部の機能構成例を示すブロック図である。
【
図7】実施形態に係る瞳孔位置検出装置による処理例のフローチャートである。
【
図8】第1実施形態に係る瞳孔位置検出装置の構成例を示す図である。
【
図9】眼球の回旋角度とPSDによる受光位置との関係例の図であり、(a)は眼球の回旋角度に応じた受光位置変化の図、(b)はPSDにおける位置の図である。
【
図10】複数の発光部の配置例を示す図であり、(a)はアンカー位置と発光部の位置との関係を示す図、(b)はVCSELにおける各発光部の位置を示す図である。
【
図11】眼球が2軸方向に回旋する場合のPSDの受光領域例を示す図である。
【
図12】受光位置調整手段の他の例の図であり、(a)はプリズム構造体を用いる場合の断面図、(b)は回折構造体を用いる場合の断面図、(c)はレンズアレイを用いる場合の断面図、(d)は2次元配列のレンズアレイを用いる場合の平面図である。
【
図13】液晶反射型集光構造を含む反射型集光素子について説明する図である。
【
図14】液晶反射型集光構造内の液晶分子配光状態について説明する図である。
【
図15】液晶反射型集光構造による入射及び出射光線の配光状態を説明する図である。
【
図16】液晶反射型集光構造を用いた導光部材結合光学系について説明する図である。
【
図17】第2実施形態に係る網膜投影表示装置の構成例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面を参照して発明を実施するための形態について説明する。各図面において、同一構成部には同一符号を付し、重複した説明を適宜省略する。
【0010】
立体物の回旋角度検出装置の一例として、実施形態では眼球の瞳孔位置検出装置を説明し、また、瞳孔位置検出装置を眼鏡型支持体に実装した場合を一例として説明する。
【0011】
なお、各実施形態では、「人」の右目の眼球を例に説明するが、左目の眼球に対しても同様である。また光学装置、又は網膜投影表示装置をそれぞれ2つ備え、両目の眼球に対して適用することもできる。
【0012】
[実施形態]
<瞳孔位置検出装置10の構成例>
図1は、実施形態に係る瞳孔位置検出装置10の構成の一例を説明する図である。
【0013】
図1に示すように、瞳孔位置検出装置10は、VCSEL(垂直共振器面発光レーザ;Vertical Cavity Surface Emitting LASER)1と、凹面ミラー2と、PSD(Position Sensitive Detector)3と、処理部100とを有する。
【0014】
VCSEL1、凹面ミラー2、及びPSD3は、光学系支持体4に配置されている。光学系支持体4は、眼鏡レンズ21と眼鏡フレーム22を含む眼鏡型支持体20の眼鏡フレーム22に、球継手4aを介して傾斜可能に固定されている。球継手4aを介することで、光学系支持体4の傾きを調整することができる。設置微調整機構を構成する球継手4aとしては、球体構造とその外殻構造の間に働く機械的な圧力を用いて固定する方式のほか、着磁した球体構造と金属開口構造との間に働く磁力を用いた固定する方式等が利用できる。
【0015】
眼鏡型支持体20は人の頭部に装着可能である。眼鏡型支持体20が装着されると、VCSEL1、凹面ミラー2、及びPSD3を含む光学系は、眼球30に近接した位置(眼前)に配置された状態になる。
【0016】
「光源手段」の一例としてのVCSEL1は、平面内に2次元的に配列された複数の発光部を有する。各発光部は、指向性と有限の広がり角を有するレーザ光を射出する。ここで、射出されたレーザ光は「光」の一例である。また、「複数の発光部」は、「複数の発光点」、又は「複数の発光素子」と同義である。
【0017】
但し、光源手段は、光を射出することができれば、VCSELに限定されるものではない。レーザ光を射出する複数のLD(半導体レーザ;Laser Diode)やLED(発光ダイオード;Light Emitting Diode)を平面内に2次元的に配列して光源手段を構成してもよい。またパルスレーザ光を射出するパルスレーザでもよい。さらに、複数の種類の光源を組み合わせて光源手段を構成してもよい。
【0018】
また、VCSEL1から射出されるレーザ光の波長は、瞳孔位置を検出される「人」の視認を阻害しないように、非可視光である近赤外光の波長であることが好適である。但し、これに限定されるものではなく、可視光であってもよい。
【0019】
VCSEL1から射出されたレーザ光L0は、眼前の空間を、眼鏡型支持体20を装着した人の顔面、又は装着された眼鏡レンズ21のレンズ面に略平行な方向に、凹面ミラー2に向けて伝搬する。また、レーザ光L0は、VCSEL1の射出部開口での回折により、ビームの直径を広げながら伝搬する発散光である。発散光の発散角は射出部の開口の形状によって制御可能である。レーザ光L0は、発散しながら伝搬し、凹面ミラー2に入射する。
【0020】
集束反射手段の一例としての凹面ミラー2は、曲率を有する反射面を有し、入射したレーザ光L0を反射して、眼球30に集束レーザ光(集束光とも表現する)L1を照射する。集束レーザ光L1は、眼球30の瞳孔31近傍に入射する。凹面ミラー2の凹面の曲率中心は、VCSEL1から凹面ミラー2までの光路の光軸から外れた位置にあり、VCSEL1、凹面ミラー2、及びPSD3を含む光学系は、いわゆる軸外し光学系を構成している。
【0021】
実施形態に係る軸外し光学系では、眼球30に到達する前の光は、眼球30に隣接する眼前の空間を、眼球30による反射や散乱を受けることなく、少なくとも一回以上折り返して伝搬した後、眼球30に到達している。
【0022】
眼球30への集束レーザ光L1の入射角度は、正視時における眼球30の瞳孔31の中心に所定角度で入射するように調整されている。また、VCSEL1は複数の発光部からレーザ光を射出することができ、複数の発光部から射出されたレーザ光は、眼球30の複数の箇所に照射され、或いは眼球30に複数の角度で照射される。
【0023】
VCSEL1は上述したように複数の発光部を有することに加え、高速変調が可能である。眼球30に照射するレーザ光を時間変調し、PSD3により得られる出力信号から入射レーザ光に適合した変調周波数を有する成分を抽出することで、(変調を伴わない)外部環境からの光の影響を取り除くことができる。この結果、SN比を向上することができ、明るい環境下での瞳孔位置検出において有利となる。また、眼球に照射するレーザ光の光量を低減することもできる。
【0024】
被照射面の一例としての眼球30の瞳孔表面(角膜表面)は、水分を含む透明体であり、約2~4%の反射率を有するのが一般的である。眼球30の瞳孔31近傍に入射した集束レーザ光L1は、眼球30の瞳孔31の表面で反射(反射光とも表現する)され、反射光はPSD3に向けて伝搬する。なお、以下では、説明を簡単にするため、眼球30の表面を眼球30と称し、瞳孔31の表面を瞳孔31と称し、角膜32の表面を角膜32と称する場合がある。
【0025】
ここで、凹面ミラー2の反射面の曲率は、眼球30、又は角膜32の曲率による反射レーザ光の発散を相殺するように定められている。このようにすることで、PSD3に向けて伝搬するレーザ光L2のビームの直径がPSD素子の受光面において広がらないようにすることができる。
【0026】
なお、集束反射手段の一例として凹面ミラーを示したが、光を集束(集光)させられるものであれば、これに限定されるものではなく、凸面レンズと平面ミラーを合わせた構成や、ホログラムを用いた波面制御素子、回折光学素子等を用いても良い。
【0027】
また、凹面ミラーの凹面として、集束レーザ光L1の光軸に交差する平面内における直交2方向で、曲率の異なるアナモフィックな非球面を用いると、レーザ光L2のビームの直径を更に微小化し、また等方な状態にビームを整形することができて好適である。
【0028】
さらに、被照射面は眼球30に限定されるものではなく、曲率を有する立体物であれば、実施形態を適用可能である。例えば、回転中心で回転可能な回転体と、曲率中心を有する曲面体とを含んで構成され、回転中心の位置と曲率中心の位置は異なっている立体物に対して実施形態を適用できる。
【0029】
「受光位置検出手段」の一例としてのPSD3は、受光面内で直交する2方向において、入射した光の電極までの距離に応じた電流値を検出し、直交2方向の電流値の比から入射光の位置を示す検出信号を算出し、出力する2次元の光位置検出素子である。PSD3は、PSD3の受光面に形成されたビームスポットの位置を示す検出信号を出力することができる。
【0030】
より具体的には、PSD3は4つの出力端子を備え、連続的な受光面(画素分割されていない受光面)に抵抗膜が配され、また直交2方向の電極対が設けられている。ビームスポット位置で発生した光電流は、各出力端子との距離に応じて4つに分割される。このとき、抵抗膜による電気抵抗はビームスポット位置と出力端子との距離が長いほど電流が小さくなるよう作用する。PSD3は抵抗膜を経た電気信号を4つの端子を介して検出し、電気的な後処理により得られる受光面内の位置を示す検出信号を出力することができる。
【0031】
また、PSD3は光電変換で生じた電流をアナログ電圧信号に変換し、検出信号として4つの端子から出力することができる。つまり、PSD3は表面抵抗を利用して各端子との距離を求めることで入射した位置を検出することができる。
【0032】
ところで、PSD3に代えてイメージセンサ(撮像素子)を受光位置検出手段に適用した場合、イメージセンサは、各画素への入射光の強度により出力結果が変化し、強度が低いと出力電流が少なくなる。太陽光等のノイズ光の影響を低減するためには、光源の出力を上げてイメージセンサへの入射光の強度を上げる必要があるが、眼球30に光源からの光を入射させる装置に適用する場合、入射光の強度を上げることは、眼球への安全性の観点で好ましくない。
【0033】
また、イメージセンサの場合、位置検出するための画像処理が必要となるが、処理時に位置精度誤差が生じる場合があり、また、処理負荷も大きくなる。
【0034】
PSD3を受光位置検出手段に用いることで、出力端子間で分割される電流分割比(割合)を使って位置を検出するため、入射光の強度に依存せず入射光の位置を検出でき、また、画像処理を必要としない点で好適である。
【0035】
但し、上記のPSD3の構成は一例であって、他の構成であってもよい。また、PSD3として受光面内の2次元的な位置を検出する2次元PSDの例を示すが、受光面内の1次元的な位置を検出する1次元PSDを用いても良い。
【0036】
処理部100は、制御信号を出力して、VCSEL1を発光駆動させる。また、処理部100は、PSD3による検出信号を入力し、後述するように、眼球30の瞳孔31の位置を検出する処理を実行する。処理部100は、一例として眼鏡フレーム22等に配置することができる。
【0037】
眼球30の傾きによって、レーザ光L2によりPSD3の受光面に形成されるビームスポットの位置が変わるため、処理部100は、PSD3の検出信号を座標情報に変換することで眼球30の瞳孔位置を検出することができる。
【0038】
PSD3は、眼球30での反射点の位置と法線ベクトルの向きを検出することができ、瞳孔位置検出装置10は、検出された反射点の位置と法線ベクトルと眼球の表面形状モデルとの対応に基づき、瞳孔位置を「推定」することができる。
【0039】
図1では、光学系および処理部を眼鏡フレーム22に配置する例を示したが、これに限定されるものではなく、ヘッドマウントディスプレイやヘッドギア型の保持構造体等を用いてもよい。
【0040】
<瞳孔位置検出装置10の眼球運動への追従動作>
次に、瞳孔位置検出装置10の眼球運動への追従動作について説明する。
【0041】
眼球30は回旋等の眼球運動をするため、回旋によりレーザ光L2の方向が変わることで、レーザ光L2がPSD3の受光面から外れる場合がある。これに対し、瞳孔位置検出装置10は、VCSEL1で発光させる発光部を順次、又は選択的に変更する制御を行うことで、レーザ光L2がPSD3の受光面から外れることを防止することができる。
【0042】
図2は、眼球30の回旋とレーザ光L2のPSD3への入射位置との関係を説明する図であり、(a)は眼球が回旋していない状態(正視時)を説明する図、(b)は眼球が回旋している状態を説明する図である。
【0043】
図2は、VCSEL1の2つの発光部から射出されたレーザ光の伝搬を示している。一方の発光部から射出されたレーザ光11は実線で示され、他方の発光部から射出されたレーザ光12は破線で示されている。
【0044】
図2(a)において、眼球30で反射されたレーザ光11は、PSD3の受光面の中央付近に入射している。そのため、PSD3は受光面上でのレーザ光11の位置を検出することができ、瞳孔位置検出装置10はPSD3の検出信号に基づいて、瞳孔31の位置を検出することができる。
【0045】
一方、眼球30で反射されたレーザ光12は、PSD3の受光面に入射していないため、PSD3は受光面上でのレーザ光12の位置を検出できず、瞳孔位置検出装置10は瞳孔31の位置を検出することができない。
【0046】
また、眼球30が大きく回旋した場合、
図2(b)に示すように、眼球30で反射されたレーザ光11はPSD3の受光面に入射していない。そのため、PSD3は受光面上でのレーザ光11の位置を検出できず、瞳孔位置検出装置10は瞳孔31の位置を検出することができない。
【0047】
一方、眼球30で反射されたレーザ光12は、PSD3の受光面の中央付近に入射しているため、PSD3は受光面上でのレーザ光12の位置を検出することができ、瞳孔位置検出装置10はPSD3の検出信号に基づき、瞳孔31の位置を検出することができる。
【0048】
このように、1つの発光部のみからの光では、限られた角度範囲でしか眼球30の瞳孔位置を検出できないが、VCSEL1の発光部を変化させることで、何れかの発光部から射出されたレーザ光をPSD3の受光面上に入射させることができる。これにより、眼球30が回旋しても、眼球30で反射されたレーザ光がPSD3の受光面に入射しない状態を減らし、瞳孔位置を検出可能な範囲を拡大することができる。
【0049】
換言すると、PSD3が眼球30の回旋運動に基づくレーザ光12の微動を検出し、VCSEL1の複数の発光部の配列が眼球30の回旋運動に基づくレーザ光12の粗動を検出することで、眼球30の回旋運動の回旋角度検出において、高い検出分解能と広い検出範囲を両立することが可能となる。
【0050】
VCSEL1の発光部の変化は、眼球30の眼球運動に応じて(追従して)、処理部100からの駆動信号により時系列に行うことができる。また、眼球30の回旋運動に応じて発光部を制御することで、光の利用効率向上や推定時間の短縮を図ることができる。
【0051】
但し、必ずしも眼球の回旋運動に応じてVCSEL1の発光部を変化させる必要はない。例えば、瞳孔位置検出装置10は、眼球運動とは独立に所定の時間間隔でVCSEL1の発光部をラスター走査(順次発光)させ、その場合のPSD3の検出信号に基づいて、眼球30の粗動位置を検出するようにしても良い。
【0052】
なお、
図2では説明を簡単にするため、2つの発光部から射出されたレーザ光のみを例示したが、眼球30の回旋に応じて、VCSEL1の更に多くの発光部を利用可能である。この場合は、瞳孔31の位置が適切に検出されるように、PSD3の受光面サイズ及び眼球30のサイズに合わせ、VCSEL1の発光部の数、及び位置を適正化することが好適である。
【0053】
<軸外し光学系の条件について>
次に、VCSEL1、凹面ミラー2、及びPSD3を含む軸外し光学系が満たすべき条件について説明する。
【0054】
本実施形態では、VCSEL1から射出されたレーザ光がPSD3の受光面に入射するための条件、また、集束レーザ光L1が角膜32での反射後に平行光に変換されるための条件として、凹面ミラー2の有効領域の直径(レーザ光を反射可能な領域。有効径)を定めている。
【0055】
図3は、軸外し光学系が満たすべき条件について説明する図であり、(a)は素子間の距離を説明する図、(b)は同軸光学系で表した幾何学的距離関係を説明する図である。
【0056】
図3(a)に示すように、VCSEL1から凹面ミラー2までの距離をd0、凹面ミラー2から角膜32までの距離をd1、角膜32からPSD3までの距離をd2とする。また、凹面ミラー2の曲率と有効領域に注目し、簡単のため、VCSEL1、凹面ミラー2、及びPSD3を同軸に配置した同軸光学系を想定する。
【0057】
図3(b)は、VCSEL1からの発散レーザ光が凹面ミラー2に入射し、凹面ミラー2で反射されたレーザ光が集束しながら角膜32に入射し、その後、角膜32で反射されたレーザ光がPSD3に入射する様子を示している。位置41はVCSEL1の発光部の位置、位置42は角膜32の表面の位置、位置43は凹面ミラー2の表面の位置をそれぞれ示している。
【0058】
ビームの半径hPSDは、ABCD行列を用いた光線追跡で導出された次の(1)式により算出することができる。
【0059】
【数1】
(1)式において、rcは角膜32の曲率半径、hPSDはPSD3の受光面でのレーザ光のビームの半径、Dmは凹面ミラー2の有効領域の直径、λはVCSEL1の波長、hULはPSD3の受光面でのレーザ光の、設計者が決定するビームの半径の上限値である。また、中央の式の第2項で、凹面ミラー2で反射後のレーザ光の回折によるレーザ光の広がりの効果が重畳されている。
【0060】
(1)式に基づき、凹面ミラー2の有効領域の直径Dmは、(2)式から定めることができる。
【0061】
【数2】
ここで、
図4は、(2)式に基づき取得された、凹面ミラー2の有効領域の直径Dmと、PSD3の受光面でのレーザ光のビームの半径hPSDとの関係の一例を示す図である。
【0062】
図4に示す関係において、PSD3の受光面でのレーザ光のビームの半径hPSDの上限値はhUL=200um、凹面ミラー2から角膜32までの距離d1は24mm、角膜32の曲率半径rcは8mm、レーザ光の波長λは940nmである。これらの値は、眼鏡型支持体20を想定した値であるが、用途や使用環境に応じて任意の値を設定しても良い。
【0063】
図4において、凹面ミラー2の有効領域の直径Dmが小さくなると、回折に起因してPSD3の受光面のビームの半径hPSDが急激に拡大している。また、凹面ミラー2の有効領域の直径Dmが大きくなるにつれ、PSD3の受光面のビームの半径hPSDが徐々に拡大している。ビームの半径hPSDの拡大に応じて、PSD3によるレーザ光の位置検出分解能は低下する。
【0064】
図4に示すように、PSD3の受光面でのビームの半径hPSDを最小化するために、凹面ミラー2の有効領域の直径Dmには適切な範囲が存在する。灰色でハッチングした領域は適切な範囲であり、(2)式を満足する凹面ミラー2の有効領域の直径Dmの範囲である。(2)式に当てはめると、凹面ミラー2の有効領域の直径Dmは、0.225mm≦Dm≦2.574mmで定められる。この条件を満足することで、PSD3の受光面上のビームの半径hPSDを200μm以下にすることができ、PSD3によるレーザ光の位置検出分解能を適切にすることができる。
【0065】
なお、レーザ光が眼球30に60°の入射角で入射する条件として、d0=24√3(mm)とすると、VCSEL1から射出されたレーザ光は全角で約7.1°以下の発散角が必要になるが、この発散角はVCSEL1の開口の制御により実現可能である。
【0066】
<処理部100の構成例>
次に、実施形態に係る処理部100のハードウェア構成について説明する。
図5は、処理部100のハードウェア構成の一例を説明するブロック図である。
【0067】
処理部100は、CPU(Central Processing Unit)101と、ROM(Read Only Memory)102と、RAM(Random Access Memory)103と、SSD(Solid State Drive)104と、光源駆動回路105と、A/D(Analog/Digital)変換回路106と、入出力I/F(Interface)107とを有している。それぞれはシステムバス108で相互に接続されている。
【0068】
CPU101は、ROM102やSSD104等の記憶装置からプログラムやデータをRAM103上に読み出し、処理を実行することで、処理部100全体の制御や後述する機能を実現する。なお、CPU101の有する機能の一部、又は全部を、ASIC(application specific integrated circuit)やFPGA(Field-Programmable Gate Array)といったハードウェアにより実現させてもよい。
【0069】
ROM102は、電源を切ってもプログラムやデータを保持することが可能な不揮発性の半導体メモリ(記憶装置)である。ROM102には、処理部100の起動時に実行されるBIOS(Basic Input/Output System)、OS設定等のプログラムやデータが格納されている。RAM103は、プログラムやデータを一時保持する揮発性の半導体メモリ(記憶装置)である。
【0070】
SSD104は、処理部100による処理を実行するプログラムや各種データが記憶された不揮発性メモリである。なお、SSDはHDD(Hard Disk Drive)であっても良い。
【0071】
光源駆動回路105は、VCSEL1に電気的に接続され、入力された制御信号に従ってVCSEL1に駆動電圧等の駆動信号を出力する電気回路である。光源駆動回路105は、VCSEL1の備える複数の発光部を同時、又は順次に発光駆動させることができる。また、駆動電圧の周期を変調することで、異なる発光周期で発光駆動させることができる。
【0072】
駆動電圧として矩形波や正弦波、又は所定の波形形状の電圧波形を用いることができる。光源駆動回路105は、電圧波形の周期(周波数)を変化させて、駆動電圧信号の周期を変調することができる。
【0073】
A/D変換回路106は、PSD3に電気的に接続され、PSD3の出力するアナログ電圧信号をA/D変換したデジタル電圧信号を出力する電気回路である。
【0074】
入出力I/F107は、PC(Personal Computer)や映像機器等の外部機器と接続するためのインターフェースである。
【0075】
次に、処理部100の機能構成について説明する。
図6は、処理部100の機能構成の一例を説明するブロック図である。
図6に示すように、処理部100は、発光駆動部110と、検出信号入力部111と、演算部120と、瞳孔位置出力部130とを有する。
【0076】
発光駆動部110は、VCSEL1に周期T1の駆動信号を出力し、VCSEL1の備える発光部を周期T1で発光駆動させる。発光駆動部110は、光源駆動回路105等で実現することができる。
【0077】
検出信号入力部111は、A/D変換回路106等により実現され、PSD3から入力したアナログ電圧信号をA/D変換したデジタル電圧信号を、演算部120の備える眼球回旋角度推定部121に出力する。
【0078】
演算部120は、眼球回旋角度推定部121と、瞳孔位置取得部122とを有し、検出信号入力部111からの入力信号に基づき、眼球30の瞳孔位置を取得する演算処理を実行する。
【0079】
眼球回旋角度推定部121は、検出信号入力部111からの入力信号に基づき、眼球30の回旋角度を推定し、推定した回旋角度データを瞳孔位置取得部122に出力する。瞳孔位置取得部122は、推定された眼球30の回旋角度に基づき、瞳孔31の位置を取得する処理を実行する。取得された瞳孔31の位置データは、入出力I/F107等により実現される瞳孔位置出力部130を介して、外部装置等に向けて出力される。
【0080】
<瞳孔位置検出装置10による処理>
次に、瞳孔位置検出装置10による処理について説明する。
【0081】
ここで、瞳孔位置検出装置10では、瞳孔位置検出の事前準備として、VCSEL1による眼球30への照射レーザ光が眼球30に入射する入射角度と、眼球30の回旋角度の算出式が予め決定されるため、先ず、これらについて説明する。
【0082】
眼球30の回旋角度の算出式は、1次関数、又は2次関数の算出式である。但し、これに限定はされるものではなく、レーザ光の入射角度とPSD3の受光面での位置から回旋角度を定めることができる算出式であれば、式の形式は問わない。簡単な近似式として、本実施形態では2次関数による算出式を採用している。
【0083】
レーザ光が眼球30に入射する角度の決定には、眼球30の表面形状モデルを利用することができる。例えば、一般的な眼球の表面形状モデルとして古くから知られている略式模型眼(例えば、「眼の光学的機構」、精密機械27-11、1961参照)等を利用できる。
【0084】
一方、眼球30へのレーザ光の入射角度は、PSD3へのレーザ光の入射位置が受光面の中心になるように、光線追跡計算等により予め決定される。
【0085】
また、PSD3の受光面へのレーザ光の入射位置は、眼球30へのレーザ光の入射角度、眼球30でのレーザ光の反射位置、及び眼球30の接面の傾きに基づき、理論解析することができる。そして、理論解析の解から、多項式近似により眼球30の回旋角度を推定する逆演算式(近似式)を決定することができる。
【0086】
眼球30へのレーザ光の入射角度と、眼球30の回旋角度を推定する逆演算式は、処理部100のROM102やSSD104等のメモリに記憶され、発光駆動部110による発光部の変更や、演算部120による瞳孔位置取得処理において参照される。
【0087】
次に、
図7は、瞳孔位置検出装置10による処理の一例を示すフローチャートである。
【0088】
先ず、ステップS71において、発光駆動部110は、VCSEL1を発光周期T1で発光駆動させる。
【0089】
続いて、ステップS72において、検出信号入力部111は、PSD3の検出信号を入力し、演算部120の備える眼球回旋角度推定部121に出力する。
【0090】
続いて、ステップS73において、眼球回旋角度推定部121は、検出信号入力部111からの入力信号を、回旋角度を推定する逆演算式に代入して眼球回旋角度を算出する。そして、算出した眼球回旋角度データを瞳孔位置取得部122に出力する。
【0091】
続いて、ステップS74において、瞳孔位置取得部122は、入力した眼球回旋角度データに基づき、眼球の表面形状モデルを用いて取得する。取得された瞳孔位置データは瞳孔位置出力部130を介して外部装置に出力される。
【0092】
このようにして、処理部100は、PSD3の出力する検出信号に基づいて眼球30の瞳孔31の位置を取得し、取得された位置データを外部装置に出力することができる。
【0093】
<瞳孔位置検出装置10の作用効果>
瞳孔位置(視線)の検出技術の開発が進み、視線による電子機器制御のインターフェース、ヘッドマウントディスプレイ又は眼前(ニア・アイ)ディスプレイといったウェアラブル映像表示機器における映像形成支援、工場等における熟練技術者の視線データ収集、商品の注目度分析(ロギング)など、多様な用途への応用が期待されている。特に電子機器と人とのインターフェースとして機能する瞳孔位置検出装置では、リアルタイム性と装置の小型・軽量化が要求される。
【0094】
従来技術では、照明環境下において眼球の反射像を取得し、パターンマッチングを基本とした画像処理部により瞳孔位置を検出するため、画像処理の負荷が大きく、また、リアルタイム性と瞳孔位置の検出分解能との間にトレードオフの関係があった。また、撮像装置やプロセッサ、駆動電源等を搭載する必要があり、装置の小型・軽量化が困難だった。
【0095】
また、従来技術として、眼球表面で高速走査したレーザ光の反射光強度の時間変化を検出し、撮像システムを使わない非画像方式で、瞳孔位置を高速検出する技術が開示されている。しかし、この技術では、曲率が大きい眼球や角膜での反射により、光検出器の受光面でレーザ光のビームの直径が広がり、瞳孔位置を適切に検出できなくなる場合があった。
【0096】
実施形態では、光を射出するVCSEL1、光を集束光に変換し、この集束光を、曲率を有した被照射面に向けて折り返す凹面ミラー2、及び、集束光の前記被照射面による反射光を受光し、前記反射光の位置を検出するPSD3を含む軸外し光学系を眼前に配置する。
【0097】
より詳しくは、眼球30に到達する前の光は、眼球30に隣接する眼前の空間を、眼球30による反射や散乱を受けることなく、少なくとも一回以上折り返して伝搬した後、眼球30に到達する。また、凹面ミラー2は眼球30に向けて集束レーザ光を照射する。
【0098】
これにより、集束レーザ光の曲率により眼球30、又は角膜32の曲率を相殺できるため、眼球30や角膜32で反射されたレーザ光が広がらないようにすることができる。
【0099】
また、VCSEL1から凹面ミラー2までの距離d0(
図3参照)を調整して凹面ミラー2に対するレーザ光の照射範囲の直径を変化させることで凹面ミラー2の有効領域の直径(開口)Dmを制御することが可能である。(2)式の条件を満足するように凹面ミラー2の有効領域の直径(開口)Dmを決定することで、凹面ミラー2の有効領域の直径Dmを大きくでき、大きな開口でレーザ光を集束させることができるため、PSD3の受光面でのビームの直径を小さくすることができる。
【0100】
このようにして、PSD3の受光面でのレーザ光のビームの直径を微小化することで、PSD3による位置検出分解能、及び瞳孔位置の検出精度を確保でき、瞳孔位置を適切に検出することができる。
【0101】
[第1実施形態]
次に、第1実施形態に係る瞳孔位置検出装置10aについて説明する。
【0102】
瞳孔位置検出装置では、複数の発光部毎で回旋角度の検出範囲が重複すること等によって、回旋角度を広い範囲で検出できない場合がある。
【0103】
本実施形態では、受光位置検出手段は、複数の発光部のうちの第1発光部から射出された光に由来する反射光を受光位置検出手段の一端で受光する際に、複数の発光部のうちの第1発光部とは異なる第2発光部から射出された光に由来する反射光を受光位置検出手段の他端で受光する。これにより、複数の発光部毎で回旋角度の検出範囲が重複することを防ぎ、曲率を有する立体物の回旋角度を少数の発光部で広範囲に検出可能にする。
【0104】
<瞳孔位置検出装置10aの構成例>
図8は、瞳孔位置検出装置10aの構成の一例を説明する図である。
図8に示したX方向は水平方向を示し、Y方向は垂直方向を示し、Z方向は眼球が回旋していない状態での正視方向を示している。Z方向はX方向及びY方向の両方に直交する方向であり、また眼鏡型支持体20を装着した人にとっての前方に対応する方向である。
【0105】
図8に示すように、瞳孔位置検出装置10aは、VCSEL1aを備えている。VCSEL1aはPSD3の+Z方向側に配置され、凹面ミラー2に向けてレーザ光L0を照射する。VCSEL1aは、VCSEL1と同様に複数の発光部ch1~ch7(以下、区別しない場合は発光部chと表記する。また
図8では図示を省略する。)を有し、各発光部chから指向性と有限の広がり角を有するレーザ光L0を射出する。但し、次述するように複数の発光部chにおける発光部ch間の間隔は、非等間隔になるように構成されている。
【0106】
レーザ光L0は凹面ミラー2で反射され、集束レーザ光L1として眼球30に向けて照射される。眼球30で反射されたレーザ光L2は、PSD3の受光面に到達する。PSD3によりレーザ光L2の受光位置が検出される。ここで、レーザ光L2は「発光部から射出された光に由来する反射光」に対応する。
【0107】
なお、瞳孔位置検出装置10aは球継手4aを備えていないが、球継手4aを備えるように構成することもできる。
【0108】
<眼球30の回旋角度とPSD3による受光位置との関係>
次に、眼球30の回旋角度とPSD3によるレーザ光L2の受光位置との関係について、
図9を参照して説明する。ここで、
図9は、眼球30の回旋角度とPSD3による受光位置との関係の一例を説明する図であり、(a)は眼球30の回旋角度に応じた受光位置の変化を示す図、(b)はPSD3における位置を説明する図である。
【0109】
図9(a)における横軸は、水平方向(
図8のX方向)における眼球30の回旋角度θxを示し、縦軸はPSD3によるZ方向の受光位置zを示している。またグラフG1~G8は、VCSEL1aにおける7つの発光部ch1~ch7がそれぞれ射出したレーザ光L0に由来する反射光の、PSD3による受光位置のシミュレーション結果をプロットしたものである。
【0110】
発光部ch1~ch7は、VCSEL1内でZ方向に配列する発光部であり、発光部ch1~ch7毎で眼球30に対する相対位置が異なっている。
【0111】
図9(a)におけるグラフG1は発光部ch1に、グラフG2は発光部ch2に、グラフG3は発光部ch3に、グラフG4は発光部ch4に、グラフG5は発光部ch5に、グラフG6は発光部ch6に、グラフG7は発光部ch7にそれぞれ対応する。
【0112】
また領域A1~A7は、発光部ch1~ch7に対応するPSD3でのレーザ光L2の受光領域を表している。
図9(a)では4隅にL字図形を配した破線の長方形により、領域A1~A7のそれぞれを表している。なお、領域A1~A7におけるグラフの横軸に沿う長さは、眼球30の回旋角度θxに応じた長さである。
【0113】
図9(a)における領域A1は発光部ch1に、領域A2は発光部ch2に、領域A3は発光部ch3に、領域A4は発光部ch4に、領域A5は発光部ch5に、領域A6は発光部ch6に、領域A7は発光部ch7にそれぞれ対応する。
【0114】
また
図9(a)における端部位置C1~C7は、発光部ch1~ch7から射出した光がPSD3の端部位置(z=-2mm)に着地する際の眼球30の回旋角度θxに対応している。また端部位置F1~F7は、発光部ch1~ch7から射出した光がPSD3の端部位置C1~C7とは反対の端部位置(z=2mm)に着地する際の眼球30の回旋角度θxに対応している。
【0115】
なお、Z方向におけるPSD3の受光領域の長さは±2mmである。また、
図9(a)では、眼球30の回旋は水平方向の1次元方向に限定してシミュレーションを行っている。
【0116】
図9(a)に示すように、眼球30の回旋角度θxのマイナス側とプラス側で、眼球30の回旋角度θxに応じたPSD3での受光位置の変化の様子が相違している。また領域A1~A8の水平方向の長さも相違している。またグラフG1~G7に示すように、発光部ch1~ch7毎で眼球30の回旋角度θxに応じたPSD3での受光位置の変化の様子が異なっている。
【0117】
一方、
図9(b)はPSD3の受光面3aを示している。受光面3aはYZ平面に沿う平面である。眼球30が水平方向に回旋すると、レーザ光L2の位置はZ方向に変化する。
【0118】
図9(b)において、レーザ光L2
5は、発光部ch1~ch7のうちの発光部ch5が射出したレーザ光L0に由来するレーザ光L2である。またレーザ光L2
6は、発光部ch1~ch7のうちの発光部ch6が射出したレーザ光L0に由来するレーザ光L2である。
【0119】
本実施形態では、PSD3が+Z方向側の端部3bでレーザ光L25を受光する際に、PSD3が-Z方向側の端部3dでもレーザ光L26を受光するように、発光部chの配置が予め定められている。
【0120】
ここで、端部3bでレーザ光L2
5を受光するとは、
図9(b)に示すように、レーザ光L2
5の中心部L2
5aが端部3bに重なるような位置関係で、PSD3がレーザ光L2
5を受光することをいう。同様に、端部3dでレーザ光L2
6を受光するとは、レーザ光L2
6の中心部L2
6aが端部3dに重なるような位置関係で、PSD3がレーザ光L2
6を受光することをいう。この定義は、他の発光部chに由来するレーザ光L2を、PSD3の端部で受光する場合においても同様である。
【0121】
端部3bにおけるレーザ光L2
5は
図9(a)における端部位置F5に対応し、端部3dにおけるレーザ光L2
6は、
図9(a)における端部位置C5に対応する。
【0122】
ここで、発光部ch5は「第1発光部」の一例であり、発光部ch6は「第2発光部」の一例である。但し、「第1発光部」は発光部ch1~ch7の何れであってもよいし、「第2発光部」は発光部ch1~ch7の何れであってもよい。「第1発光部」と「第2発光部」とが隣接している方が、発光部chの配置を容易に定めることができるため、より好適である。
【0123】
また、端部3bは「受光位置検出手段の一端」に対応し、端部3dは「受光位置検出手段の他端」に対応する。
【0124】
<VCSEL1aにおける複数の発光部の配置例>
次に、PSD3が第1発光部に由来するレーザ光L2をPSD3の端部3bで受光する際に、PSD3が第2発光部に由来するレーザ光L2をPSD3の端部3dで受光するための、VCSEL1aにおける発光部ch1~ch7の配置について説明する。
【0125】
図10は、VCSEL1aにおける複数の発光部chの配置の一例を説明する図であり、(a)はアンカー位置とVCSEL1aの発光部chの位置との関係を示す図、(b)はVCSEL1aにおける各発光部chの位置を示す図である。
【0126】
ここで、アンカーとはVCSEL1aの発光部chの位置を決めるための目標をいう。
図10では眼球30の所定の回旋角度をアンカーとしている。
図10(a)におけるアンカーθ
x,1~θ
x,7は、
図9(a)における端部位置C1~C7に対応する眼球30の回旋角度を意味する。
【0127】
図10(a)の「発光部の位置」はアンカーに対応する目標を達成するためのVCSEL1aの発光部の位置を示している。この位置はシミュレーションにより算出されるものであり、VCSEL1aの中心(重心)からの距離に該当する。
【0128】
図10(a)に示すように、アンカーθ
x,1が-21.81度の場合には、発光部chを位置ΔZ
1に配置すればよく、アンカーθ
x,2が-17.80度の場合には、発光部chを位置ΔZ
2に配置すればよい。同様に、アンカーθ
x,3~θ
x,7が-13.50~+14.24度の場合には、それぞれ発光部chを位置ΔZ
3~ΔZ
7に配置すればよい。
【0129】
本実施形態では、位置ΔZ1に発光部ch1を配置し、位置ΔZ2に発光部ch2を配置し、位置ΔZ3に発光部ch3を配置し、位置ΔZ4に発光部ch4を配置する。また位置ΔZ5に発光部ch5を配置し、位置ΔZ6に発光部ch6を配置し、位置ΔZ7に発光部ch7を配置する。
【0130】
図10(b)は、位置ΔZ
1~ΔZ
7に対応するように、VCSEL1aに配置された発光部ch1~ch7を示している。
図10(b)に示すように、発光部ch1~ch7は、隣接する発光部ch同士の間隔が隣接する発光部ch毎で異なるように配置されている。換言すると、発光部ch1~ch7は非等間隔に配置されている。
【0131】
ここで、VCSEL1aの発光部chの位置を決定するための演算方法について、発光部ch5及びch6を一例として説明する。
【0132】
光線追跡の原理に基づき、PSD3の受光面3aにおけるレーザ光L2の受光位置zと、VCSEL1aの発光部chの位置Δzの関係がZ=f(Δz;θx)として予め定められているとする。関数fは、VCSEL1a、凹面ミラー2、PSD3及び眼球30(角膜部)の位置関係と、眼球形状のモデルとに基づき数式化できる。
【0133】
まず、基準となる発光部chを求めるために、{f(Δz5;θx,5)=-2、f(Δz5;-θx,5)=2}を満たすΔz5およびθx,5を数値的に求解する。すなわち、θx,6=-θx,5となる対称角度に調整する。
【0134】
次いで、眼球30の回旋角度θxの正の方向へ、{f(Δz6;θx,6)=-2、f(Δz6;θx,7)=2}を満たすΔz6及びθx,7を数値的に求解する。また、眼球30の回旋角度θxの負の方向へ、{f(Δz4;θx,4)=-2、f(Δz4;θx,5)=2}を満たすようなΔz4およびθx,4を数値的に求解する。
【0135】
Δz1~Δz3及びθx,1~θx,3についても、上記の演算を逐次繰り返すことで、VCSEL1aの発光部chの位置を算出することができる。
【0136】
図10(b)に示すように発光部ch1~ch7を配置すると、PSD3は第1発光部に由来するレーザ光L2を端部3bで受光する際に、PSD3は第2発光部に由来するレーザ光L2を端部3dで受光することができる。
【0137】
これにより、レーザ光L2による眼球30の回旋角度の検出範囲を無駄に使うことなく、少数の発光部chの数で、眼球30の回旋角度を広範囲に検出可能になっている。
【0138】
なお上述した例では、隣接する発光部ch5及びch6を第1発光部及び第2発光部の一例として説明したが、これに限定されるものではなく、第1発光部と第2発光部は隣接する発光部でなくてもよい。
【0139】
<眼球30の2軸方向への回旋への対応例>
上述した例では、眼球30が水平方向に沿って回旋する場合を説明したが、眼球30が2軸方向に回旋する場合にも実施形態を適用可能である。
【0140】
図11は、眼球30が2軸方向に回旋する場合のPSDの受光領域の一例を説明する図である。
図11では、
図8におけるX及びY方向への眼球30の回旋に対し、VCSEL1aの各発光部chに由来するレーザ光L2を、PSD3が受光面3a上で受光する受光領域を示している。この場合、VCSEL1aにおける複数の発光部chは、ΔyΔz平面(
図10(b)参照)内に2次元的に配置される。ここで、
図8のX方向は「所定方向」に対応し、
図8のY方向は「交差方向」に対応する。
【0141】
図9(a)と同様に、
図11における4隅にL字図形を配した破線の長方形は、領域Aを示している。領域Aにおける
図11の横軸に沿う長さは、眼球30のX方向への回旋角度に応じた長さである。また領域Aにおける
図11の縦軸に沿う長さは、眼球30のY方向への回旋角度に応じた長さである。
【0142】
PSD3の受光面3a上の四隅においてレーザ光L2が切断され、隣接する4つの受光面3a上の上下左右対称位置で、1つのレーザ光L2が切断されて共有されるように、VCSEL1aにおける複数の発光部chの位置が予め定められている。
【0143】
<レーザ光L2の受光位置調整手段の他の例>
上述した例では、PSD3が第1発光部に由来するレーザ光L2を端部3bで受光する際に、PSD3が第2発光部に由来するレーザ光L2を端部3dで受光するための受光位置調整手段として、VCSEL1aにおける発光部ch1~ch7を非等間隔に配置する例を示した。但し、受光位置調整手段は、発光部ch1~ch7の配置を調整することに限定されるものではない。
【0144】
図12は、レーザ光L2の受光位置調整手段の他の例を説明する図であり、(a)はプリズム構造体15aを用いる場合の構成例を示す断面図、(b)は回折構造体15bを用いる場合の構成例を示す断面図、(c)はレンズアレイ15cを用いる場合の構成例を示す断面図、(d)は2次元配列のレンズアレイ15dを用いる場合の構成例を示す平面図である。
【0145】
プリズム構造体15aは、複数の微小なプリズムが設けられた光学素子である。プリズム構造体15aでは、複数のプリズムがVCSEL1aの発光部chに1対1で対応するように配置されている。プリズムにおける斜面部の傾きをプリズム毎で異ならせることで、発光部ch毎で射出されたレーザ光1の伝搬方向を、発光部ch毎に異ならせることができる。
【0146】
これにより、VCSEL1aにおける発光部chを等間隔に配置した場合に受光位置調整手段の機能を実現でき、VCSEL1aにおける発光部chの配置を調整することと同様の作用効果が得られる。
【0147】
回折構造体15bは、レーザ光L1を回折させるための微細な周期構造が形成された光学素子である。発光部chに1対1で対応して周期構造の周期を異ならせることで、発光部ch毎で射出されたレーザ光1の伝搬方向を、発光部ch毎に異ならせることができる。
【0148】
これにより、VCSEL1aにおける発光部chを等間隔に配置した場合に受光位置調整手段の機能を実現でき、VCSEL1aにおける発光部chの配置を調整することと同様の作用効果が得られる。
【0149】
レンズアレイ15cは、複数の微小レンズが設けられた光学素子である。レンズアレイ15cでは、複数のレンズがVCSEL1aの発光部chに1対1で対応するように配置されている。レンズの発光部chに対する偏心量をレンズ毎で異ならせることで、発光部ch毎で射出されたレーザ光1の伝搬方向を、発光部ch毎に異ならせることができる。
【0150】
これにより、VCSEL1aにおける発光部chを等間隔に配置した場合に受光位置調整手段の機能を実現でき、VCSEL1aにおける発光部chの配置を調整することと同様の作用効果が得られる。
【0151】
プリズム構造体15a、回折構造体15b及びレンズアレイ15cは何れも、複数の発光部chのそれぞれが射出する光を偏向する偏向手段に対応する。
【0152】
また
図12(d)に示すように、VCSEL1aの発光部chが2次元に配置されている場合にも適用可能である。複数の微小レンズが2次元方向に配置されたレンズアレイ15dを用いて、発光部ch毎で射出されたレーザ光1の伝搬方向を発光部ch毎に2次元方向に異ならせることができる。
【0153】
同様に、複数の微小なプリズムが2次元方向に配置されたプリズム構造体や、周期構造の周期が2次元方向に異なる回折構造体を用いて、発光部ch毎で射出されたレーザ光1の伝搬方向を発光部ch毎に異ならせることも可能である。
【0154】
<瞳孔位置検出装置10aの作用効果>
以上説明したように、本実施形態では、PSD3は、第1発光部から射出された光に由来するレーザ光L2をPSD3の端部3bで受光する際に、第2発光部から射出された光に由来するレーザ光L2をPSD3の端部3dで受光する。
【0155】
これにより、レーザ光L2による眼球30の回旋角度の検出範囲を無駄に使うことがなくなるため、複数の発光部毎で回旋角度の検出範囲が重複することを防ぎ、曲率を有する眼球30の回旋角度を少数の発光部で広範囲に検出することができる。
【0156】
また本実施形態では、PSD3が第1発光部に由来するレーザ光L2をPSD3の端部3bで受光する際に、PSD3が第2発光部に由来するレーザ光L2をPSD3の端部3dで受光するための受光位置調整手段の機能を、VCSEL1aにおける複数の発光部chを非等間隔に配置することで実現する。
【0157】
VCSEL1aは半導体プロセスで製造されるため、発光部chの間隔は容易に調整可能である。そのため、受光位置調整手段の機能を容易に実現することができる。また、VCSEL1aにおける複数の発光部chで、隣接する発光部ch同士の間隔が徐々に異なるように配置すると、発光部ch同士の間隔をより容易に調整できるため、さらに好適である。
【0158】
ここで、隣接する発光部ch同士の間隔が徐々に異なるとは、隣接する発光部ch同士の間隔が少しずつ小さくなるように配置されること、或いは隣接する発光部ch同士の間隔が少しずつ大きくなるように配置されることをいう。具体的には、発光部ch1と発光部ch2とが間隔e1で配置され、これに隣接する発光部ch2と発光部ch3は間隔e1より少し小さい間隔e2で配置され、これに隣接する発光部ch3と発光部ch4は間隔e2より少し小さい間隔e3で配置される場合である。或いは間隔e2は間隔e1より少し大きく、間隔e2は間隔e1より少し大きくしてもよい。
【0159】
また、上記の受光位置調整手段は、VCSEL1aにおける発光部ch1~ch7の配置を調整することに限定されるものではない。複数の発光部chのそれぞれが射出する光を偏向する偏向手段によっても受光位置調整手段の作用効果を得ることができる。このような受光位置調整手段として、プリズム構造体15a、回折構造体15b及びレンズアレイ15c等が挙げられる。
【0160】
また複数の発光部chを2次元に配置し、PSD3は、第1発光部に由来するレーザ光L2を、X方向におけるPSD3の一端、又はY方向におけるPSD3の一端の何れか一方で受光する際に、第1発光部からX方向に離れて配置された第2発光部に由来するレーザ光L2を、X方向におけるPSD3の他端で受光し、第1発光部からY方向に離れて配置された第3発光部に由来するレーザ光L2を、Y方向におけるPSD3の他端で受光することもできる。
【0161】
この構成により、曲率を有する眼球30の2軸方向への回旋角度及び瞳孔位置を広範囲に検出することができる。
【0162】
また本実施形態では、眼球30の回旋角度を検出し、この回旋角度に基づき、眼球30の瞳孔位置を検出する瞳孔位置検出装置10aの例を示したが、これに限定されるものではない。
【0163】
実施形態に係る立体物の回旋角度検出装置は、例えば、回転中心で回転可能な回転体と、曲率中心を有する曲面体とを含んで構成される立体物であって、回転中心の位置と曲率中心の位置が異なっている立体物においても、立体物の回旋角度を広範囲に検出することが可能である。
【0164】
以下、実施形態に係る瞳孔位置検出装置の変形例を説明する。
【0165】
(第1変形例)
本変形例に係る瞳孔位置検出装置は、凹面ミラー2に代えて、異方性分子材料が封入された液晶部202を有する第1反射型集光素子200を備える。ここで、異方性分子材料とは液晶材料等をいう。
【0166】
図13は、第1反射型集光素子200を用いた軸外し光学系の構成の一例を説明する図である。
図13に示すように、第1反射型集光素子200は、支持基板201と、液晶部202と、1/4波長シフト部203とを含む。ここで、第1反射型集光素子200は、「集束反射手段」の一例であり、液晶部202は、「封入部」の一例である。
【0167】
VCSEL1から出射された直線偏光の光は、1/4波長シフト部203により円偏光に変換され、液晶部202に入射する。液晶部202で眼球30に向けて反射された光は、1/4波長シフト部203を往きとは逆向きに通過して再び直線偏光に変換され、眼球30の角膜表面に入射する。その後、角膜表面で反射された光はPSD3に入射する。
【0168】
また、
図14に示すように、液晶部202は、支持基板2021と、配向膜2022と、配向膜2023と、光を透過させる透過支持基板2024とを備えている。
【0169】
配向膜2022と配向膜2023で形成される膜内部の空間には、液晶分子2025が含まれている。液晶分子2025は、配向膜2022及び2023の面に垂直な方向にらせん状に旋回して配列している。
【0170】
液晶分子2025の配向は、配向膜2022及び2023により空間的に制御されている。具体的には、配向膜2022及び2023のそれぞれの面内が微小な空間領域に分割され、それぞれの領域に対して特定方向に偏光したUV光が照射され、光配向が施されることで、微小な空間領域毎での液晶分子2025の配向が制御されている。
【0171】
換言すると、液晶分子2025は、液晶部202の内部において三次元的な準周期構造を形成するように配向している。ここで、準周期構造とは、集光特性を発現するように構造周期またはその位相が空間的に調整されている構造をいう。
【0172】
図14の右から左の方向に、液晶部202に入射する光は、透過支持基板2024、配向膜2023を通過し、液晶分子2025の作用により反射されて、配向膜2023、及び透過支持基板2024を往きとは逆向きに通過して、液晶部202から出射する。
【0173】
図14の例では、液晶分子2025によるらせん構造の開始位置に該当する配向膜2022、又は2023の面上における配向方向の調整により、らせん構造を示す曲線の等位相面2026が光の入射方向に対して凹面状に湾曲している。これにより、液晶分子2025をレンズとして機能させ、液晶分子2025の作用により反射されて図の右方向に進む光を、集光させることができる。液晶分子を、レンズ等の光学素子として機能させる技術には、公知の技術(例えば、Nature Photonics Vol.10 (2016) p.389参照)を適用できるため、ここでは更に詳細な説明を省略する。なお、
図13において、一点鎖線で示した2027は、液晶部202に入射する光を示し、二点鎖線で示した2028は、液晶部202で反射され、集光される光を示している。
【0174】
次に、
図15を参照して、液晶部202の光学特性をさらに説明する。
図15(a)及び(b)は、右回り円偏光の光を集光させる液晶部202について示している。液晶部202は、液晶分子2025の回旋方向に依存して、右回り偏光と左回り偏光のそれぞれに対して異なる反射または透過特性を備えている。
【0175】
図15(a)において、液晶部202には、1/4波長シフト部203により円偏光に変換された光が入射する。液晶部202で反射された光は、再度1/4波長板を往きとは逆向きに通過することで直線偏光に戻され、眼球30に照射される。眼球30へのレーザ光の侵入を極力低減するために、直線偏光は紙面垂直方向に電場振動面を有するS偏光とすることが好ましい。
【0176】
一方、
図15(b)は、VCSEL1からの光線が偏光制御されていないランダム偏光の場合の例を示している。液晶部202に入射するランダム偏光のうち、右回り円偏光のみが、支持基板2021で反射して集光され、1/4波長シフト部203を通過して、直線偏光に変換される。一方、左回り偏光成分は支持基板201をそのまま透過し、角膜表面には照射されない。
【0177】
本変形例に係る瞳孔位置検出装置では、液晶分子2025の三次元的な配向分布を、配向膜2022及び2023の2次元的な配向制御により制御でき、これにより、反射および回折効率が高く、薄型の第1反射型集光素子200を提供できる。また、第1反射型集光素子200に偏光選択性を付与することが可能であり、光学部品点数の低減とレーザ光に対する目の安全性確保を両立した瞳孔位置検出装置を提供できる。
【0178】
(第2変形例)
本変形例に係る瞳孔位置検出装置は、異方性分子材料を含む第2反射型集光素子210を備える。
【0179】
図16は、第2反射型集光素子210を用いた軸外し光学系の構成の一例を説明する図である。
図16に示すように、第2反射型集光素子210は、液晶部211と、導光手段212と、1/4波長シフト部213とを備える。ここで、第2反射型集光素子210は、「集束反射手段」の一例であり、液晶部211は、「異方性分子材料部」の一例である。
【0180】
液晶部211は、導光手段212における導光領域界面に接触するように設けられている。液晶部211の内部では、上述した液晶部202と同様に、液晶分子が、液晶部211の内部において三次元的な準周期構造を形成するように配向している。
【0181】
VCSEL1から出射された光は、導光手段212の入射端の斜面を介して導光手段212内に結合される。なお、グレーティングを介して導光手段212内に結合される形態でも良いが、実装の簡便性および精度を考慮して、VCSEL1の実装基板面と導光手段212が直交した配置を取る構成が好ましい。
【0182】
導光手段212内に結合された光は、導光手段212の界面で全反射を繰り返し、導光手段212の内部を眼前付近まで伝搬する。導光手段212を内部伝搬した光のうちの右回り円偏光、又は左回り円偏光の光が液晶部211により選択的に反射され、液晶部211のレンズ機能により集光され、1/4波長シフト部213により直線偏光(S偏光)に変換された後、眼球30の角膜表面に照射される。
【0183】
なお、導光手段212を用いる場合、角膜表面に対して浅い角度で光を照射することは困難であるため、眼球30の正面近傍で、液晶部211により光を反射するようにしている。この場合、PSD3に光を入射させるためには、角膜上の瞳孔中心位置よりPSD3側にシフトした位置(鏡面反射位置)に光を集光させる必要がある。
【0184】
本変形例に係る瞳孔位置検出装置では、VCSEL1から出射された光を導光手段212内で光路長を確保した上で角膜表面へ照射できるため、装置を小型化できる。またVCSEL1、導光手段212、及びPSD3等を一体に構成することができる。
【0185】
[第2実施形態]
次に、第2実施形態に係る網膜投影表示装置を、
図17を参照して説明する。
【0186】
図17は、本実施形態に係る網膜投影表示装置の構成の一例を説明する図である。
【0187】
網膜投影表示装置60は、RGB(Red、Green、Blue)レーザ光源61と、走査ミラー62と、平面ミラー63と、ハーフミラー64と、画像生成部65と、瞳孔位置検出装置10aとを備えている。
【0188】
RGBレーザ光源61は、RGB3色のレーザ光を時間的に変調して出力する。走査ミラー62は、RGBレーザ光源61からの光を2次元的に走査する。走査ミラー62は、MEMSミラー等である。但し、これに限定されるものではなく、ポリゴンミラー、ガルバノミラー等、光を走査する反射部を有するものであればよい。小型化・軽量化の点でMEMSミラーが有利となる。なお、MEMSミラーの駆動方式は、静電式、圧電式、電磁式等の何れであってもよい。
【0189】
平面ミラー63は、ハーフミラー64に向けて走査ミラー62による走査光を反射する。ハーフミラー64は、入射する光の一部を透過し、一部を眼球30に向けて反射する。ハーフミラー64は、凹型の曲面形状を有しており、反射した光を眼球30の瞳孔31の近傍に集束させ、網膜33の位置で結像させる。これにより、走査光で形成される画像を網膜33に投影する。図中破線で示されている光61aは、網膜33上に画像を形成する光を表している。なお、ハーフミラー64は、必ずしも反射光と透過光の光量が1対1にならなくてもよい。
【0190】
瞳孔位置検出装置10aは、眼球運動に応じた瞳孔31の位置を検出し、瞳孔31の位置のフィードバック信号を画像生成部65に送信する。
【0191】
画像生成部65は、走査ミラー62の振れ角制御機能と、RGBレーザ光源61の発光制御機能とを有している。また、画像生成部65は、瞳孔位置検出装置10aから瞳孔31の位置のフィードバック信号を受信する。瞳孔位置検出装置10aにより検出された瞳孔31の位置に応じて、走査ミラー62の振れ角と、RGBレーザ光源61の発光を制御し、画像の投影角度、又は画像内容を書き換える。これにより、眼球運動に伴う瞳孔31の位置の変化に追従(アイトラッキング)した画像を、網膜33上に形成することができる。
【0192】
上述した例では、網膜投影表示装置60をウェアラブル端末であるヘッドマウントディスプレイ(HMD;Head Mount Display)とする場合を示したが、これに限定されるものではない。ヘッドマウントディスプレイとしての網膜投影表示装置60は、「人」の頭部に直接装着させるだけでなく、固定部等の部材を介して間接的に「人」の頭部に装着させるもの(頭部装着型表示装置)であってもよい。また、左右眼用に一対の網膜投影表示装置60を設けた両眼式の網膜投影表示装置としてもよい。
【0193】
[比較例」
ここで、比較例に係るUS2016/0166146に記載の装置と、実施形態に係る瞳孔位置検出装置10aとを比較する。
【0194】
比較例に係る装置では、レーザ光源を用い、レーザ光をMEMSミラーにより走査し、眼球への光の入射角度を変更している。これに対し、実施形態では、複数の発光部を有するVCSELを光源とし、VCSELの発光部の変更により、眼球への光の入射角度を変更している。実施形態では、このように眼球への光の入射角度を、可動部を用いずに変更する。そのため、可動部を有する構成と比較して、振動や外的衝撃等に強くなる。
【0195】
比較例に係る装置では、角膜に照射した光の反射光強度を光検出器により検出するのに対し、実施形態では、PSDを用い、眼球で反射され、PSDの受光面に入射する光の位置を検出する。PSDは、光強度に依存せずに入射光の位置を検出するため、眼球における光の反射位置等に起因して反射光量に差が生じても、反射光量の差の影響を受けずに高感度の位置検出が可能である。その結果、瞳孔等の眼球の傾き位置を高精度に検出できる。
【0196】
実施形態では、発光駆動部110を備え、発光駆動部110によりVCSELの発光部の位置と、発光部間の発光タイミングをずらして個別点灯する。これにより、眼球の運動の粗動を捕らえて、PSDの受光面に眼球からの反射光が収まるようにし、かつPSDによる位置検出で眼球運動の微動を捉えることができる。
【0197】
比較例に係る装置では、眼球での反射光の時間軸上の2つのピーク強度(2点の角膜上の反射位置)から眼球位置を推定している。実施形態では、角膜等の眼球上の1点の反射位置により眼球位置を推定する。そのためVCSELとPSDは、必ずしも対称位置になくともよい。実施形態では、PSDを、眼球の正反射(鏡面反射)角近傍に配置せず、VCSELと同じ側に配置してもよい。
【0198】
以上、本発明の実施形態の例について記述したが、本発明は斯かる特定の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。
【0199】
また、瞳孔位置検出装置10aにより検出された瞳孔位置の情報を、電子機器の入力装置におけるアイトラッキングに利用することもできる。例えば、
図1に示した瞳孔位置検出装置10aの出力を、電子機器への入力情報としてアイトラッキングに利用する場合等である。換言すると、瞳孔位置検出装置10aを備える入力装置を構成することができる。これにより頭部位置ずれ等にロバストな電子機器の入力を実現することができる。
【0200】
また、 眼球の傾きや瞳孔位置(角膜)の検出する機能を有する検眼装置にも採用する事ができる。検眼装置とは、視力検査、眼屈折力検査、眼圧検査、眼軸長検査など種々の検査を行う事が出来る装置を指す。検眼装置は、眼球に非接触で検査可能な装置であって、被験者の顔を支持する支持部と、検眼窓と、検眼に際し被検者の眼球の向き(視線の向き)を一定にする表示を行う表示部と、制御部と、測定部とを有している。測定部の測定精度を上げるために眼球(視線)を動かさず一点を見つめる事が求められ、被検者は支持部に顔を固定し、検眼窓から表示部に表示される表示物を凝視する。このとき、眼球の傾き位置を検出する際に、本実施形態の眼球の傾き位置検出装置が利用可能である。眼球の傾き位置検出装置は測定の妨げにならないよう、測定部の側方に配置される。眼球の傾き位置検出装置で得られた眼球の傾き位置(視線)情報は、制御部にフィードバックする事が可能で、眼球の傾き位置情報に応じた測定をする事ができる。
【符号の説明】
【0201】
1a VCSEL(光源手段の一例)
2 凹面ミラー(集束反射手段の一例)
3 PSD(受光位置検出手段の一例)
3a 受光面
3b 端部(一端の一例)
3d 端部(他端の一例)
10a 瞳孔位置検出装置(立体物の回旋角度検出装置の一例)
15a プリズム構造体(偏向手段の一例)
15b 回折構造体(偏向手段の一例)
15c レンズアレイ(偏向手段の一例)
20 眼鏡型支持体
21 眼鏡レンズ
22 眼鏡フレーム
30 眼球(被照射面の一例、立体物の一例)
31 瞳孔
32 角膜
33 網膜
60 網膜投影表示装置
61 RGBレーザ光源
62 走査ミラー
63 平面ミラー
64 ハーフミラー
65 画像生成部
100 処理部
101 CPU
102 ROM
103 RAM
104 SSD
105 光源駆動回路
106 A/D変換回路
107 入出力I/F
110 発光駆動部
111 検出信号入力部
120 演算部
121 眼球回旋角度推定部
122 瞳孔位置取得部
130 瞳孔位置出力部
ch 発光部
X方向 水平方向(所定方向の一例)
Y方向 垂直方向(交差方向の一例)
Z方向 眼球が回旋していない状態での正視方向
θx,θy 回旋角度
d 距離(所定距離の一例)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0202】