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特許7428051光導波路素子とそれを用いた光変調デバイス及び光送信装置
<図1>
  • 特許-光導波路素子とそれを用いた光変調デバイス及び光送信装置 図1
  • 特許-光導波路素子とそれを用いた光変調デバイス及び光送信装置 図2
  • 特許-光導波路素子とそれを用いた光変調デバイス及び光送信装置 図3
  • 特許-光導波路素子とそれを用いた光変調デバイス及び光送信装置 図4
  • 特許-光導波路素子とそれを用いた光変調デバイス及び光送信装置 図5
  • 特許-光導波路素子とそれを用いた光変調デバイス及び光送信装置 図6
  • 特許-光導波路素子とそれを用いた光変調デバイス及び光送信装置 図7
  • 特許-光導波路素子とそれを用いた光変調デバイス及び光送信装置 図8
  • 特許-光導波路素子とそれを用いた光変調デバイス及び光送信装置 図9
  • 特許-光導波路素子とそれを用いた光変調デバイス及び光送信装置 図10
  • 特許-光導波路素子とそれを用いた光変調デバイス及び光送信装置 図11
  • 特許-光導波路素子とそれを用いた光変調デバイス及び光送信装置 図12
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-29
(45)【発行日】2024-02-06
(54)【発明の名称】光導波路素子とそれを用いた光変調デバイス及び光送信装置
(51)【国際特許分類】
   G02F 1/035 20060101AFI20240130BHJP
   G02B 6/12 20060101ALI20240130BHJP
【FI】
G02F1/035
G02B6/12 363
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2020063336
(22)【出願日】2020-03-31
(65)【公開番号】P2021162683
(43)【公開日】2021-10-11
【審査請求日】2022-09-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000183266
【氏名又は名称】住友大阪セメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100116687
【弁理士】
【氏名又は名称】田村 爾
(74)【代理人】
【識別番号】100098383
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 純子
(74)【代理人】
【識別番号】100155860
【弁理士】
【氏名又は名称】藤松 正雄
(72)【発明者】
【氏名】釘本 有紀
(72)【発明者】
【氏名】宮崎 徳一
(72)【発明者】
【氏名】片岡 優
【審査官】堀部 修平
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-276518(JP,A)
【文献】特開2015-061278(JP,A)
【文献】特開2004-093905(JP,A)
【文献】特開2006-301612(JP,A)
【文献】特開2018-077356(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2003/0133638(US,A1)
【文献】特開平01-178917(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02F 1/00 - 1/125
G02F 1/21 - 7/00
G02B 6/12 - 6/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気光学効果を有し、厚みが10μm以下の薄板と、該薄板には光導波路が形成されており、さらに、該薄板を支持する補強基板を備えた光導波路素子において、
該薄板は、平面視した形状が長方形であり、
該薄板の外周と該光導波路との間の少なくとも一部に、該薄板を構成する元素と異なる元素であって、基板中に熱拡散できる元素が該薄板内に配置された異種元素層が形成され、
該薄板の長辺から該光導波路を横切ると共に、該薄板の各長辺と該光導波路との間に位置する、該薄板の劈開によって割れ易い全ての面のそれぞれに対し、該異種元素層の形成領域を該薄板の劈開によって割れ易い面が横切る長さにおける該薄板の短辺方向の成分の長さの総和は、該薄板の短辺方向の幅の5%以上であることを特徴とする光導波路素子。
【請求項2】
請求項1に記載の光導波路素子において、該異種元素層の厚みは、該薄板の厚みの半分以上であることを特徴とする光導波路素子。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の光導波路素子において、該異種元素層は、チタンが拡散して形成されていることを特徴とする光導波路素子。
【請求項4】
請求項3に記載の光導波路素子において、該光導波路は高屈折率材料を拡散させた拡散導波路であり、該異種元素層と該光導波路は該薄板の同じ面に形成され、該薄板の表面から該異種元素層の最も高い部分までの厚みは、該光導波路の最も高い部分までの厚みより厚くなるように設定されていることを特徴とする光導波路素子。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれかに記載の光導波路素子において、該薄板に電極が形成され、該電極と該異種元素層とは離間して形成されていることを特徴とする光導波路素子。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれかに記載の光導波路素子と、該光導波路素子を収容する筐体と、該光導波路に光波を該筐体の外部から入力又は出力する光ファイバとを有することを特徴とする光変調デバイス。
【請求項7】
請求項6に記載の光変調デバイスにおいて、該光導波路素子に入力する変調信号を増幅する電子回路を該筐体の内部に有することを特徴とする光変調デバイス。
【請求項8】
請求項6又は7に記載の光変調デバイスと、該光変調デバイスに変調動作を行わせる変調信号を出力する電子回路とを有することを特徴とする光送信装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光導波路素子とそれを用いた光変調デバイス及び光送信装置に関し、特に、電気光学効果を有し、厚みが10μm以下の薄板と、該薄板に光導波路を形成し、さらに該薄板を支持する補強基板を備えた光導波路素子に関する。
【背景技術】
【0002】
光計測技術分野や光通信技術分野において、電気光学効果を有する基板を用いた光変調器などの光導波路素子が多用されている。また、周波数応答特性を広帯域化するためや、駆動電圧を低減するため、基板の厚みを10μm程度かそれ以下まで薄く構成し、変調信号であるマイクロ波の実効屈折率を下げ、マイクロ波と光波との速度整合を図り、さらには電界効率の向上を図ることが行われている。
【0003】
10μm以下の薄板を用いる場合は、薄板自体の機械的強度が弱く、特許文献1に示すように、薄板を支持する補強基板を接着固定することが行われている。
【0004】
しかしながら、基板の厚み10μm以下の薄板は、靭性が損なわれ非常に脆くなるため、補強基板によって補強されていた場合においても、薄板のみにクラックが発生して光導波路を損ない、光損失が増大する問題が生じていた。特に、光導波路を形成したウェハ基板から、各光導波路素子用のチップを切り出す際には、薄板自体に機械的負荷が掛り、薄板が容易に破損するという問題を生じていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2010-85789号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明が解決しようとする課題は、上述したような問題を解決し、薄板の破損、特に、光導波路の破損を防止した光導波路素子とそれを用いた光変調デバイス及び光送信装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、本発明の光導波路素子は、以下の技術的特徴を有する。
(1) 電気光学効果を有し、厚みが10μm以下の薄板と、該薄板には光導波路が形成されており、さらに、該薄板を支持する補強基板を備えた光導波路素子において、該薄板は、平面視した形状が長方形であり、該薄板の外周と該光導波路との間の少なくとも一部に、該薄板を構成する元素と異なる元素であって、基板中に熱拡散できる元素が該薄板内に配置された異種元素層が形成され、該薄板の長辺から該光導波路を横切ると共に、該薄板の各長辺と該光導波路との間に位置する、該薄板の劈開によって割れ易い全ての面のそれぞれに対し、該異種元素層の形成領域を該薄板の劈開によって割れ易い面が横切る長さにおける該薄板の短辺方向の成分の長さの総和は、該薄板の短辺方向の幅の5%以上であることを特徴とする。
なお、本明細書において、「劈開によって割れ易い面」を単に「劈開面」と称する場合もある。
【0008】
(2) 上記(1)に記載の光導波路素子において、該異種元素層の厚みは、該薄板の厚みの半分以上であることを特徴とする。
【0009】
(3) 上記(1)又は(2)に記載の光導波路素子において、該異種元素層は、チタンが拡散して形成されていることを特徴とする。
【0010】
(4) 上記(3)に記載の光導波路素子において、該光導波路は高屈折率材料を拡散させた拡散導波路であり、該異種元素層と該光導波路は該薄板の同じ面に形成され、該薄板の表面から該異種元素層の最も高い部分までの厚みは、該光導波路の最も高い部分までの厚みより厚くなるように設定されていることを特徴とする。
【0011】
(5) 上記(1)乃至(4)のいずれかに記載の光導波路素子において、該薄板に電極が形成され、該電極と該異種元素層とは離間して形成されていることを特徴とする。
【0012】
(6) 上記(1)乃至(5)のいずれかに記載の光導波路素子と、該光導波路素子を収容する筐体と、該光導波路に光波を該筐体の外部から入力又は出力する光ファイバとを有することを特徴とする光変調デバイスである。
【0013】
(7) 上記(6)に記載の光変調デバイスにおいて、該光導波路素子に入力する変調信号を増幅する電子回路を該筐体の内部に有することを特徴とする。
【0014】
(8) 上記(6)又は(7)に記載の光変調デバイスと、該光変調デバイスに変調動作を行わせる変調信号を出力する電子回路とを有することを特徴とする光送信装置である。
【発明の効果】
【0015】
本発明は、電気光学効果を有し、厚みが10μm以下の薄板と、該薄板には光導波路が形成されており、さらに、該薄板を支持する補強基板を備えた光導波路素子において、該薄板は、平面視した形状が長方形であり、該薄板の外周と該光導波路との間の少なくとも一部に、該薄板を構成する元素と異なる元素であって、基板中に熱拡散できる元素が該薄板内に配置された異種元素層が形成され、該薄板の長辺から該光導波路を横切ると共に、該薄板の各長辺と該光導波路との間に位置する、該薄板の劈開によって割れ易い全ての面のそれぞれに対し、該異種元素層の形成領域を該薄板の劈開によって割れ易い面が横切る長さにおける該薄板の短辺方向の成分の長さの総和は、該薄板の短辺方向の幅の5%以上であるため、薄板の外周から光導波路に向かって、該薄板の劈開面に沿って亀裂が入った場合でも、該異種元素層により該亀裂の進行が阻止され、光導波路が破損することを抑制することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の光導波路素子に係る第1の実施例を説明する平面図である。
図2図1の点線X-X’における断面図である。
図3】本発明の光導波路素子に係る第2の実施例を説明する平面図である。
図4】本発明の光導波路素子に係る第3の実施例を説明する平面図である。
図5】本発明の光導波路素子に係る第4の実施例を説明する平面図である。
図6】本発明の光導波路素子に係る第5の実施例を説明する平面図である。
図7】異種元素層の形成領域と劈開面との関係を説明する図である。
図8】光導波路と異種元素層との配置関係を説明する図である。
図9】本発明の光導波路素子を形成するウェハの一例(その1)を示す図である。
図10】本発明の光導波路素子を形成するウェハの一例(その2)を示す図である。
図11】本発明の光導波路素子を形成するウェハの一例(その3)を示す図である。
図12】本発明の光変調デバイス及び光送信装置を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の光導波路素子とそれを用いた光変調デバイス及び光送信装置について、好適例を用いて詳細に説明する。
本発明の光導波路素子は、図1図6に示すように、電気光学効果を有し、厚みが10μm以下の薄板1と、該薄板には光導波路2(WG)が形成されており、さらに、該薄板を支持する補強基板5を備えた光導波路素子において、該薄板1は、平面視した形状が長方形であり、該薄板の外周と該光導波路2との間の少なくとも一部に、該薄板を構成する元素と異なる元素であって、基板中に熱拡散できる元素が該薄板内に配置された異種元素層3が形成され、該薄板の各長辺から該光導波路を横切ると共に、該薄板の各長辺と該光導波路との間に位置する、該薄板の劈開によって割れ易い全ての面のそれぞれに対し、該異種元素層の形成領域を該薄板の劈開によって割れ易い面が横切る長さにおける該薄板の短辺方向の成分の長さの総和は、該薄板の短辺方向の幅の5%以上であることを特徴とする。
【0018】
本発明の光導波路素子に使用される基板1としては、ニオブ酸リチウム(LN)やタンタル酸リチウム(LT)、PLZT(ジルコン酸チタン酸鉛ランタン)などの電気光学効果を有する基板が利用可能である。特に、劈開面がウエハの表面に沿って形成されるX板のLN基板に対しては、本発明を効果的に適用することが可能である。
【0019】
基板1に形成する光導波路は、Tiなどを熱拡散法やプロトン交換法などで基板表面に拡散させることにより形成することができる。また、基板1における光導波路以外の部分をエッチングしたり、光導波路の両側に溝を形成するなど、光導波路に対応する部分の基板を凸状としたリブ形状の導波路を利用することも可能である。
【0020】
基板1の厚さは、変調信号のマイクロ波と光波との速度整合を図るため、10μm以下、より好ましくは5μm以下に設定される。基板1の機械的強度を高めるため、図2に示すように、基板(薄板)1の裏面側に樹脂等の接着層4を介して、補強基板5が基板1に接着固定されている。補強基板5には、基板1と同じLN基板など、基板1と熱膨張係数の近い材料が使用される。さらに、基板(薄板)1と補強基板5を接着層4を用いずに、直接接合する場合では、基板1の厚さは1μm以下、好ましくは0.7μm以下に設定することが可能である。
【0021】
本発明の光導波路素子の特徴は、図1図3図6に示すように、薄板1の外周と光導波路2との間の少なくとも一部に、該薄板を構成する元素と異なる元素が該薄板内に配置された異種元素層3が形成されていることである。異種元素層を構成する材料としては、Ti、MgO又はZnなど熱拡散によって基板中に異種元素層を形成できる材料が好適に利用可能である。
【0022】
異種元素層3では、電気光学効果を有する結晶基板に熱拡散によって異種元素が固溶している。これにより、転位の運動が抑制され、材料が強化(固溶強化)する。また、異種元素層3の存在により、製造工程における熱応力や切断応力による薄板でのクラック(亀裂)の発生を抑制することができる。さらに、異種元素を拡散することで、LNなどが有する劈開面が局所的に乱されるため、クラックが入った場合においてもそれが劈開方向に延伸せず、光導波路を損傷することを防ぐことができる。
【0023】
図1図3図6は、光導波路素子を平面視した際の異種元素層の形成パターンを例示したものである。図1は、薄板1の外周から光導波路2までの間で、広い範囲に異種元素層3を配置したものである。図3は、亀裂が発生し易い薄板1の外周近傍を中心に、異種元素層3を配置したものである。図4は、薄板1の長辺に沿って異種元素層3を配置し、例えば、長辺に沿ってチップを切断する際に発生し易い亀裂の影響を抑制したものである。
【0024】
図5及び図6は異種元素層3を離散的に配置したものであり、薄板1に発生する劈開面Aの進行方向に沿って、異種元素層3の一部が必ず存在するように、異種元素層3が形成されている。
【0025】
異種元素層3の配置パターンは、図5の領域AR1に示すように、一定のピッチで規則的に配置ものだけでなく、領域AR2に示すように、異種元素層3で特に保護したい場所に絞って、不規則なパターンで配置することも可能である。さらに、劈開面Aの方向に導波路が無い場合は、領域AR3のように、異種元素層を省略することも可能である。
【0026】
異種元素層3は、薄板1の劈開面Aに沿った長さが長いほど、亀裂の進行を効果的に阻止することが可能である。図7は、劈開面Aに沿って離散的に配置される異種元素層を図示したものである。本発明では、劈開面が異種元素層を横切る長さ(L1、L2)における薄板の短辺方向の成分の長さの総和が、後述するように、薄板の短辺方向の幅の5%以上になる場合に、劈開面に沿った亀裂に進行を、ある程度、効果的に抑制することができる。
【0027】
図2に示すように、異種元素層3と光導波路2との間隔Gは、光導波路を伝搬する光波が、異種元素層の存在により、散乱・吸収されないようにするため、光導波路を伝播している光波のモードフィールド径(MFD)以上に設定することが好ましい。
【0028】
また、異種元素層3の厚みについては、薄板1の厚さ方向に関して、劈開面が発生する、所謂、異種元素層が形成されていない部分の厚みと比較し、異種元素層3の厚みの方が同じかそれ以上である場合には、劈開面での亀裂の発生を効果的に抑制することが可能となる。このため、薄板の厚みt0の半分以上の厚みに、異種元素層3の厚みt1を設定することが好ましい。当然、異種元素層3を、薄板1の厚さ方向全体に形成することが、より好ましい。
【0029】
図8は、各種の光導波路WGに対して、異種元素層3を配置した例を示したものである。図8(a)は、図2と同様に、拡散導波路WGと同じ面に、異種元素層3を配置している。本構成において、異種元素層3でチタンを使用する場合には、光導波路のチタン熱拡散と同時に異種元素層3を形成することが可能である。ただし、光導波路の部分よりも異種元素層の機械的強度を高く設定するため、熱拡散前に薄板表面に形成するチタンの量(単位面積当たりのチタンの配置量)を光導波路よりも異種元素層の方を多くし、実質的に異種元素層の厚みを光導波路よりも厚くしてもよい。図8(f)に示すように、この場合、異種元素層3や光導波路WGの上面は、薄板表面より盛上がる凸状となり、この凸状部分の高さは、異種元素層の方が光導波路よりも符号Δで示す分だけ高くなる。なお、光導波路と異種元素層とでは、熱拡散する元素が異なる場合であっても、異種元素層の高さを光導波路の高さより高く設定する方が、より安定的に亀裂の光導波路への到達を抑制することができる。
【0030】
図8(b)に示すように、光導波路WGを形成する面と異種元素層3を形成する面とを、薄板1の異なる面(互いに対向する面)に設定することも可能である。薄板の厚みが10μm以下、特に5μm以下の場合には、一方の面から熱拡散した元素が、反対側の面の近傍まで到達させることが容易になるため、より均一性の高い異種元素層を形成することができる。図8(b)のように、異なる面に光導波路と異種元素層を形成した場合であっても、十分な亀裂の抑制効果が得られる。
【0031】
図8(c)及び(d)は、光導波路WGとしてリブ型光導波路を形成した場合を示している。この場合も、図8(a)及び(b)と同様に、異種元素層3を光導波路WGと同じ面又は異なる面(互いに対向する面)に形成することも可能である。さらに、図8(e)に示すように、薄板1の裏面の全体に渡り異種元素層3を形成することも可能である。この場合は、異種元素層3の形成領域が薄板全体に及ぶため、一様に薄板の機械的強度を高めることができる。なお、光導波路WGの構成として、リブ型導波路の凸部にTi等の拡散導波路を合わせて形成することも可能である。
【0032】
光変調器などの光導波路素子では、光導波路を伝搬する光波を変調したり、バイアス点を制御するために、信号電極、接地電極又はDCバイアス電極などの制御電極を、光導波路の上側や近傍に設置する。このような電極を薄板上に設けると、電極の熱膨張係数と薄板、特に異種元素層の熱膨張係数との差が大きい場合には、異種元素層の形成領域での電極の剥離や、異種元素層の形成領域での内部応力が高くなり、最悪の場合は異種元素層の部分で基板が破損することとなる。このため、異種元素層の形成領域と電極の形成領域とは離間するように配置することが好ましい。なお、本発明は、上述したような電極の剥離や基板の破損が発生しない範囲で、異種元素層の上に電極を形成することを妨げるものではない。
【0033】
図9~11は、ウェハ状態における異種元素層の形成領域のパターンを示したものである。ウェハ10は、薄板に加工する前後の何れの状態であっても良い。熱拡散する際の熱応力でウェハが破損することを抑制するためには、薄板に加工する前に、光導波路や異種元素層を形成することが好ましい。
【0034】
図9では、光導波路素子を構成するチップ部分(C1,C2)のみに異種元素層3を形成し、ウェハ10の周辺部から発生した亀裂がチップ部分の内部に進行するのを抑制している。図10では、異種元素層をウェハ全体に広げ、ウェハ全体での亀裂の発生・進行を抑制している。さらに、図11では、光導波路素子を構成するチップ部分(C1,C2)を最終的にウェハ10から切り出すことを容易にするため、各チップ部分(C1,C2)を取り囲む近傍領域30には、異種元素層3の形成を行わず、ウェハの切断を容易にしている。
【0035】
本発明の効果を検証するため、以下に示す試験を行ない、亀裂(クラック)の発生率を計測した。
LN基板(ウェハ)上に全面Tiを成膜した後、フォトリソグラフィにより光導波路及び異種元素層部分を形成し、加熱によって光導波路及び異種元素層をLN基板中に熱拡散させた。その後、光導波路素子(チップ)を切り出し、切り出したチップの数に対する光導波路まで亀裂が達しているものの数の割合を、「亀裂発生率」として数値化した。
なお、いずれの光導波路基板も次の数値で作製し、薄板化した光導波路基板は、厚さ30μmの接着剤を介し厚さ500μmの補強基板に接合する構成とした。
薄板の厚みt0=10μm、異種元素層の厚みt1=10μm、チップ(長方形)の短辺方向の幅W0=2000μm、光導波路のMFD=φ10μm。
【0036】
実施例1では、図1に示した異種元素層の形成領域のパターンを使用し、光導波路と異種元素層との間隔(ギャップ)Gは30μmに設定した。
実施例2では、図3に示した異種元素層の形成領域のパターンを使用し、薄板の周囲に沿って形成する異種元素層の幅を100μmの幅で形成した。
実施例3では、図4に示すパターンを使用し、異種元素層の幅W1は100μmの幅で形成した。
実施例4では、図5に示すパターンを使用し、薄板の長辺に沿った異種元素層の幅は100μmとし、隣接する異種元素層との間隔を50μmとなるように設定した。なお、Xカットの薄板の劈開面の角度θは60度である。
比較例1では、異種元素層を全く形成しなかった。
比較例2では、図4に示すパターンを使用し、異種元素層の幅W1は20μmの幅で形成した。
試験結果を表1に示す。
【0037】
【表1】
【0038】
表1の結果より、実施例1~4に示すように、異種元素層を薄板の周辺部に形成した場合には、比較例1に示すような従来10%前後発生していた亀裂発生率を、半分以下程度に抑制することが可能となる。特に、実施例3と比較例2とを対比すると、異種元素層の幅がチップの短辺方向の幅に対して5%以上の場合は、より効果的に亀裂の発生・進行を抑制することが確認できた。
【0039】
さらに、本発明では、上述した光導波路素子を用いて、光変調デバイスや光送信装置を構成することも可能である。図12に示すように、本発明の光導波路素子の基板1を金属等の筐体SH内に収容し、筐体の外部と光導波路素子1とを光ファイバFで接続することで、コンパクトな光変調デバイスMDを提供することができる。当然、基板1の光導波路の入射部又は出射部と光ファイバとを空間光学系で光学的に接続するだけでなく、光ファイバを基板1に直接接続することも可能である。
【0040】
光変調デバイスMDに変調動作を行わせる変調信号Soを出力する電子回路(デジタル信号プロセッサーDSP)を、光変調デバイスMDに接続することにより、光送信装置OTAを構成することが可能である。光制御素子に印加する変調信号SはDSPの出力信号Soを増幅する必要があるため、ドライバ回路DRVが使用される。ドライバ回路DRVやデジタル信号プロセッサーDSPは、筐体SHの外部に配置することも可能であるが、筐体SH内に配置することも可能である。特に、ドライバ回路DRVを筐体内に配置することで、ドライバ回路からの変調信号の伝搬損失をより低減することが可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0041】
以上説明したように、本発明によれば、薄板の破損、特に、光導波路の破損を防止した光導波路素子を提供することが可能となる。
【符号の説明】
【0042】
1 電気光学効果を有する基板(薄板)
2 光導波路
3 異種元素層
4 接着層
5 補強基板
MD 光変調デバイス
OTA 光送信装置
SH 筐体

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12