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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-29
(45)【発行日】2024-02-06
(54)【発明の名称】単結晶製造装置
(51)【国際特許分類】
   C30B 29/06 20060101AFI20240130BHJP
   C30B 15/00 20060101ALI20240130BHJP
【FI】
C30B29/06 502E
C30B29/06 502C
C30B15/00 Z
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2021004380
(22)【出願日】2021-01-14
(65)【公開番号】P2022109056
(43)【公開日】2022-07-27
【審査請求日】2022-12-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000190149
【氏名又は名称】信越半導体株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100102532
【弁理士】
【氏名又は名称】好宮 幹夫
(74)【代理人】
【識別番号】100194881
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 俊弘
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼橋 寛貴
(72)【発明者】
【氏名】小内 駿英
(72)【発明者】
【氏名】菅原 孝世
【審査官】山本 一郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-152612(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C30B 29/06
C30B 15/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
原料融液を収容するルツボ及び前記原料融液を加熱するヒーターを格納するメインチャンバーと、該メインチャンバーの上部に連設され、成長した単結晶が引き上げられ収容される引上げチャンバーと、前記引上げ中の単結晶を取り囲むように前記メインチャンバーの少なくとも天井部から原料融液表面に向かって延伸し、冷却媒体で強制冷却される冷却筒とを有したチョクラルスキー法によって回転させながら単結晶を育成する単結晶製造装置であって、
前記冷却筒の内側に嵌合され、内壁面が下部に向かうほど内径が小さくなるテーパー形状を有する冷却補助筒と、前記冷却補助筒に嵌合された径拡大部材とを更に備え、
前記冷却補助筒は、育成する単結晶の回転軸の方向に貫く切れ目を有し、
前記冷却補助筒は、前記径拡大部材により下向きに押し込まれることで、前記内壁面が外側に押圧され、それにより前記切れ目が広がって径が拡大して、前記冷却筒の内面に密着し、
前記冷却補助筒は、前記冷却筒の前記原料融液に対面する底面を覆うように外側に延伸する鍔部を有し、
前記冷却補助筒の前記鍔部と前記冷却筒の底面の間に嵌合された密着補助部材によって、前記冷却筒の前記底面と、前記密着補助部材と、前記冷却補助筒の前記鍔部とが密着するものであることを特徴とする単結晶製造装置。
【請求項2】
前記冷却補助筒の材質は、黒鉛材、炭素複合材、ステンレス鋼、モリブデン及びタングステンのいずれかであることを特徴とする請求項1に記載の単結晶製造装置。
【請求項3】
前記密着補助部材の材質は、黒鉛材、炭素複合材、ステンレス鋼、モリブデン及びタングステンのいずれかであることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の単結晶製造装置。
【請求項4】
前記密着補助部材は、前記原料融液と対向する前記冷却筒の前記底面と前記冷却補助筒の前記鍔部とに対面する突起部と、該突起部の上側及び下側に延出した円弧部とを有し、
前記円弧部は、前記冷却筒及び前記冷却補助筒の外周部と同心円であり、
前記密着補助部材の前記突起部の、前記冷却補助筒の前記鍔部と接触する面はテーパー形状であることを特徴とする請求項1~3のいずれか1項に記載の単結晶製造装置。
【請求項5】
前記密着補助部材の前記突起部の、前記冷却補助筒の前記鍔部と接触する面のテーパー角度は5~25°であることを特徴とする請求項4に記載の単結晶製造装置。
【請求項6】
前記冷却補助筒の前記鍔部の内外周には下方に向けて第1の円筒部と第2の円筒部とが溝部を介して形成され、
外周側の前記第2の円筒部の外周面にはネジ穴が設けられており、
前記密着補助部材は、前記冷却補助筒の前記第2の円筒部の前記ネジ穴と対応した位置に貫通孔を有し、
前記冷却補助筒と前記密着補助部材とが、前記貫通孔を貫通し且つ前記ネジ穴にねじ込まれたボルトにより締め付けられて固定されているものであることを特徴とする請求項1~5のいずれか1項に記載の単結晶製造装置。
【請求項7】
前記ボルトの材質は、黒鉛材、炭素複合材、ステンレス鋼、モリブデン、及びタングステンのいずれかであることを特徴とする請求項6に記載の単結晶製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、チョクラルスキー法によるシリコン単結晶等の製造装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
シリコンやガリウム砒素などの半導体基板は単結晶で構成され、小型から大型までのコンピュータのメモリ等に使用されており、記憶装置の大容量化、低コスト化、高品質化が要求されている。
【0003】
従来、これらの半導体基板の要求を満たす単結晶を製造する為の単結晶製造方法の1つとして、坩堝内に収容されている溶融状態の半導体原料に種結晶を浸した後、これを引き上げることで、大直径かつ高品質の単結晶を製造するチョクラルスキー法(CZ法)が知られている。
【0004】
以下、従来のCZ法による単結晶製造装置について、シリコン単結晶の育成を例にして、図8を参照しながら説明する。
【0005】
CZ法で単結晶を育成する際に使用される単結晶製造装置(従来例)100は、一般に、原料融液5が収容された昇降可能な石英るつぼ3と、石英るつぼ3を支持する黒鉛るつぼ4と、該るつぼ3及び4を取り囲むように配置されたヒーター2とが、単結晶6を育成するメインチャンバー1内に配置されており、メインチャンバー1の上部には、育成した単結晶6を収容し、取り出すための引上げチャンバー7が連設されている。
【0006】
単結晶製造装置100は、ガス導入口11、ガス流出口12、冷却補助筒13、冷却筒14及び熱遮蔽部材22を更に含むことができる。これらについては、後段で説明する。
【0007】
このような単結晶製造装置100を使用して単結晶(以下、単に結晶という場合がある)6を製造する場合には、種結晶8を原料融液5に浸漬し、回転させながら静かに上方に引き上げて棒状の単結晶6を成長させると同時に、所望の直径と結晶品質を得るための融液面の高さが常に一定に保たれるように、結晶の成長に合わせて、るつぼ3及び4を上昇させている。
【0008】
そして、単結晶を育成する際には、種ホルダー9に取り付けられた種結晶8を原料融液に浸した後、引上げ機構(不図示)により種結晶8を所望の方向に回転させながら静かにワイヤー10を巻き上げ、種結晶8の先端部に単結晶6を成長させている。このとき、種結晶8を融液に着液させた際の熱衝撃により発生する転位を消滅させるため、一旦、成長初期の結晶を3-5mm程度まで細く絞り、転位が抜けたところで径を所望の位置まで拡大して、目的とする品質の単結晶6を成長させていく。
【0009】
このとき、単結晶6の一定の直径を有する定径部の引上げ速度は、引き上げる単結晶6の直径にも依存するが、0.4~2.0mm/minの非常にゆっくりしとしたものであり、無理に早く引き上げようとすると、育成中の単結晶6が変形して定径を有する円柱状部品が得られなくなる。あるいは単結晶6にスリップ転位が発生したり、単結晶6が融液から切り離され製品とならなくなってしまうなどの問題が生じてしまい、結晶成長速度の高速化を図るには限界があった。
【0010】
しかし、上述のCZ法による単結晶6の製造において、生産性の向上を図り、コストを低減させるためには、単結晶6の成長速度を高速化することが一つの大きな手段であり、これまでにも単結晶6の成長速度高速化を達成させるために多くの改良がなされてきた。
【0011】
単結晶6の成長速度は単結晶6の熱収支によって決定され、これを高速化するには単結晶6の表面から放出される熱を効率的に除去すればよいことが知られている。単結晶6の冷却効果を高めることができればさらに効率のよい単結晶6の製造が可能である。
【0012】
さらに、単結晶6の冷却速度によって結晶の品質が変わることが知られている。例えば、シリコン単結晶中で単結晶中に形成されるグローンイン(Grown-in)欠陥は結晶内温度勾配と単結晶の引き上げ速度(成長速度)との比で制御可能であり、これをコントロールすることで無欠陥の単結晶6を引き上げることも可能である(特許文献1)。
【0013】
従って、無欠陥結晶を製造する上でも、単結晶6の成長速度を高速化して生産性の向上を図る上でも、育成中の単結晶6の冷却効果を高めることが重要である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【文献】特開平11-157996号公報
【文献】国際公開第WO01/57293号パンフレット
【文献】特開2009-161416号公報
【文献】特開2020-152612号公報
【文献】特開2014-43386号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
そこで、効率よく単結晶を冷却する方法として、結晶周りに水冷された冷却筒を配する方法が提案されている(特許文献2)。この方法では、冷却筒と冷却補助部材とを組み合わせることにより、ヒーターから結晶への輻射熱を遮るとともに、結晶が上方に移動するに従って冷却筒により冷却されるが、結晶が冷却筒に至るまでの冷却効果がやや弱いという問題がある。
【0016】
また、特許文献3には、冷却筒に嵌合して黒鉛材などを延伸する方法が挙げられている。しかし、この方法では、冷却筒より延伸する黒鉛材が外側からの熱を受けて十分な冷却効果が発揮できない上、冷却筒と黒鉛材を密着させることが難しく、黒鉛材から冷却筒への効率的な伝熱ができなかった。
【0017】
この問題を解決するため、特許文献4では、図8に示すように、冷却筒14に冷却補助筒13を嵌合する方法が挙げられている。また、冷却補助筒に径拡大部材を嵌合することで、冷却筒と冷却補助筒の密着性を高めることができ、それにより、冷却補助筒から冷却筒への伝熱を向上させ、結晶の引上げ速度を向上させることが可能となった。
【0018】
しかし、冷却筒内面と冷却補助筒外面の密着性の向上だけではこれ以上の冷却補助筒から冷却筒への伝熱向上は見込まれず、結晶成長速度の高速化には限界があった。
【0019】
本発明は、上記問題を解決するためになされたものであり、育成中の単結晶を効率よく冷却することで該単結晶の成長速度の高速化を図ることが可能な単結晶製造装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0020】
上記課題を解決するために、本発明では、原料融液を収容するルツボ及び前記原料融液を加熱するヒーターを格納するメインチャンバーと、該メインチャンバーの上部に連設され、成長した単結晶が引き上げられ収容される引上げチャンバーと、前記引上げ中の単結晶を取り囲むように前記メインチャンバーの少なくとも天井部から原料融液表面に向かって延伸し、冷却媒体で強制冷却される冷却筒とを有したチョクラルスキー法によって単結晶を育成する単結晶製造装置であって、
前記冷却筒の内側に嵌合された冷却補助筒と、前記冷却補助筒に嵌合された径拡大部材とを更に備え、
前記冷却補助筒は、軸方向に貫く切れ目を有し、
前記冷却補助筒は、前記径拡大部材により押し込まれることで前記冷却筒の内面に密着し、
前記冷却補助筒は、前記冷却筒の前記原料融液に対面する底面を覆うように外側に延伸する鍔部を有し、
前記冷却補助筒の前記鍔部と前記冷却筒の底面の間に嵌合された密着補助部材によって、前記冷却筒の前記底面と、前記密着補助部材と、前記冷却補助筒の前記鍔部とが密着するものであることを特徴とする単結晶製造装置を提供する。
【0021】
このような単結晶製造装置によれば、冷却筒に冷却補助筒が嵌合し、冷却筒内面と冷却補助筒外面の密着性を高めながら、かつ、原料融液と対面する冷却筒底面と冷却補助筒の鍔部とを密着補助部材を介して密着させるため、冷却補助筒が低温化し、単結晶からの輻射熱をより多く排熱することが可能となり、結晶成長速度の高速化が可能となる。すなわち、本発明によれば、育成中の単結晶を効率よく冷却することで該単結晶の成長速度の高速化を図ることが可能な単結晶製造装置を提供することができる。
【0022】
前記冷却補助筒の材質は、黒鉛材、炭素複合材、ステンレス鋼、モリブデン及びタングステンのいずれかであることが好ましい。
【0023】
これらの材質の冷却補助筒であれば、単結晶からの輻射熱を効率よく吸収し、その熱を冷却筒に効率よく伝達することができる。
【0024】
前記密着補助部材の材質は、黒鉛材、炭素複合材、ステンレス鋼、モリブデン及びタングステンのいずれかであることが好ましい。
【0025】
これらの材質の密着補助部材であれば、単結晶からの輻射熱を効率よく吸収し、その熱を冷却筒に効率よく伝達することができる。
【0026】
前記密着補助部材は、前記原料融液と対向する前記冷却筒の前記底面と前記冷却補助筒の前記鍔部とに対面する突起部と、該突起部の上側及び下側に延出した円弧部とを有し、
前記円弧部は、前記冷却筒及び前記冷却補助筒の外周部と同心円であり、
前記密着補助部材の前記突起部の、前記冷却補助筒の前記鍔部と接触する面はテーパー形状であることが好ましい。
【0027】
密着補助部材は、突起部より上側に円弧部を延出させることで、冷却媒体により強制冷却された冷却筒外面と密着補助部材が近接し、密着補助部材を効果的に冷却することができる。密着補助部材が低温化することで、単結晶からの熱を効率的に排熱することが可能となる。
【0028】
また、密着補助部材の突起部の、冷却補助筒の鍔部と接触する面にテーパーを設けることで、冷却筒と冷却補助筒に寸法公差があったとしても、密着補助部材の突起部を押し込むことで、強固に密着させることができる。
【0029】
このとき、前記密着補助部材の前記突起部の、前記冷却補助筒の前記鍔部と接触する面のテーパー角度は5~25°であることがより好ましい。
【0030】
テーパー角度がこの範囲内にあると、密着補助部材の支持及び固定が困難になることを防ぎながら、冷却筒の外周面と密着補助部材の内周面との十分なクリアランスを確保できる。
【0031】
前記冷却補助筒の前記鍔部の内外周には下方に向けて第1の円筒部と第2の円筒部とが溝部を介して形成され、
外周側の前記第2の円筒部の外周面にはネジ穴が設けられており、
前記密着補助部材は、前記冷却補助筒の前記第2の円筒部の前記ネジ穴と対応した位置に貫通孔を有し、
前記冷却補助筒と前記密着補助部材とが、前記貫通孔を貫通し且つ前記ネジ穴にねじ込まれたボルトにより締め付けられて固定されていることが好ましい。
【0032】
このような単結晶製造装置であれば、密着補助部材を、より強固に押し込み、嵌合させて、脱落をより確実に防ぐことができる。
【0033】
このとき、前記ボルトの材質は、黒鉛材、炭素複合材、ステンレス鋼、モリブデン、及びタングステンのいずれかであることが好ましい。
【0034】
このような材質のボルトであれば、操業中の炉内の高温、及び炉内部材からの輻射に耐えることができる。
【発明の効果】
【0035】
以上のように、本発明の単結晶製造装置は、強制冷却された冷却筒、冷却筒に嵌合された冷却補助筒、径拡大部材、および密着補助部材を有し、径拡大部材を押し込み冷却筒内面に冷却補助筒外面を密着させると同時に、原料融液と対面する冷却筒底面と冷却補助筒の鍔部との間に密着補助部材を嵌合することで、冷却補助筒を低温化することができる。これにより、育成中の単結晶からの熱を効率よく排熱することが可能となり、単結晶の成長速度の高速化が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
図1】本発明の単結晶製造装置の一例を示す概略断面図である。
図2図1の単結晶製造装置における、冷却筒、冷却補助筒、密着補助部材、及び径拡大部材を示す拡大断面図である。
図3】本発明における径拡大部材と冷却補助筒の一例を示す概略斜視図である。
図4】実施例1で使用した単結晶製造装置を示す概略断面図である。
図5】実施例1で使用した単結晶製造装置における、冷却筒、冷却補助筒、密着補助部材及び径拡大部材を示す拡大断面図である。
図6】比較例1で使用した単結晶製造装置を示す概略断面図である。
図7】比較例2で使用した単結晶製造装置を示す概略断面図である。
図8】従来の単結晶製造装置の一例を示す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0037】
上述のように、CZ法による単結晶の製造において、生産性の向上を図り、コストを低減する為には、単結晶の成長速度を高速化することが一つの大きな手段であり、単結晶の成長速度を高速化する為には、単結晶からの輻射熱を効率的に除去し、結晶の温度勾配を増大すればよいことが知られている。
【0038】
この課題を克服する為、特許文献4にあるように、引上げ中の単結晶を取り囲むようにメインチャンバーの天井部から原料融液に向かって延伸し、冷却媒体で強制冷却される冷却筒の内面に冷却補助筒を嵌合することで、育成中の単結晶の熱を効率的に排熱し、単結晶の成長速度の高速化を図る技術が開発された。
【0039】
しかし、冷却筒と冷却補助筒の密着性には限界がある。加えて、冷却補助筒は厚く長いほど高い熱容量を持つが、冷却筒との接触部から遠ざかるほど高温化するため、結晶成長速度高速化への効果は期待できない。従来技術では、これ以上冷却筒を低温化することは困難であり、結晶成長速度の高速化に限界があった。更なる結晶成長速度の高速化には、冷却筒と冷却補助部材の密着性を高めながら、接触面積を増大させ、効率的に冷却補助筒を低温化することが重要である。
【0040】
本発明者らは、上記課題について鋭意検討を重ねた結果、強制冷却された冷却筒、冷却筒に嵌合された冷却補助筒、径拡大部材、および密着補助部材を有し、径拡大部材を押し込み冷却筒内面に冷却補助筒外面を密着させると同時に、原料融液と対面する冷却筒底面と冷却補助筒の鍔部との間に密着補助部材を嵌合することで、冷却補助筒を低温化することができ、これにより、育成中の単結晶からの熱を効率よく排熱することが可能となり、単結晶の成長速度の高速化が可能となることを見出し、本発明を完成させた。
【0041】
即ち、本発明は、原料融液を収容するルツボ及び前記原料融液を加熱するヒーターを格納するメインチャンバーと、該メインチャンバーの上部に連設され、成長した単結晶が引き上げられ収容される引上げチャンバーと、前記引上げ中の単結晶を取り囲むように前記メインチャンバーの少なくとも天井部から原料融液表面に向かって延伸し、冷却媒体で強制冷却される冷却筒とを有したチョクラルスキー法によって単結晶を育成する単結晶製造装置であって、
前記冷却筒の内側に嵌合された冷却補助筒と、前記冷却補助筒に嵌合された径拡大部材とを更に備え、
前記冷却補助筒は、軸方向に貫く切れ目を有し、
前記冷却補助筒は、前記径拡大部材により押し込まれることで前記冷却筒の内面に密着し、
前記冷却補助筒は、前記冷却筒の前記原料融液に対面する底面を覆うように外側に延伸する鍔部を有し、
前記冷却補助筒の前記鍔部と前記冷却筒の底面の間に嵌合された密着補助部材によって、前記冷却筒の前記底面と、前記密着補助部材と、前記冷却補助筒の前記鍔部とが密着するものであることを特徴とする単結晶製造装置である。
【0042】
なお、特許文献5には、冷却筒の内面を冷却補助筒で密着させ、融液面に対面する冷却筒の底面を遮熱部材でカバーするHZ構造が開示されている。
【0043】
しかしながら、特許文献5にも、先に説明した特許文献1~4にも、冷却筒の底面と冷却補助筒の鍔部との間に密着補助部材を嵌合させ、両者を密着させるHZ構造は開示されていない。
【0044】
以下、本発明の実施形態の一例を、図1及び図2を参照しながら詳細に説明する。なお、従来装置と同じものについては説明を適宜省略することがある。
【0045】
図1は、本発明の単結晶製造装置の一例を示す概略断面図である。図2は、図1の単結晶製造装置における、冷却筒、冷却補助筒、密着補助部材、及び径拡大部材を示す拡大断面図である。
【0046】
本発明の一例の単結晶製造装置200は、原料融液5を収容する石英るつぼ3と黒鉛るつぼ4および原料融液5を加熱するヒーター2を格納するメインチャンバー1と、メインチャンバー1の上部に連設され、成長した単結晶6が引上げられて収容される引上げチャンバー7と、引上げ中の単結晶6を取り囲むようにメインチャンバー1の少なくとも天井部1aから原料融液5に向かって延伸し、冷却媒体で強制冷却される冷却筒14と、冷却筒14の内側に嵌合された冷却補助筒13とを有する単結晶製造装置200である。
【0047】
単結晶製造装置200の冷却補助筒13は、冷却筒14の原料融液5に対面する底面14aを覆うように外側に延伸した鍔部16を有する。
【0048】
また、単結晶製造装置200では、冷却補助筒13の鍔部16と冷却筒14の底面14aの間に嵌合された密着補助部材15によって、冷却筒14の底面14aと、密着補助部材15と、冷却補助筒13の鍔部16とが密着する。
【0049】
図2に、冷却筒14、冷却補助筒13、及び密着補助部材15の拡大断面図を示した。密着補助部材15は、原料融液に対面する冷却筒底面14aと冷却補助筒13の鍔部16との間に押し込むことで嵌合し、冷却筒底面14aと冷却補助筒13の鍔部16とが、密着補助部材15を介して密着する。密着補助部材15は、原料融液と対向する冷却筒14の底面14aと冷却補助筒13の鍔部16とに対面する突起部15aを有する。
【0050】
図2の冷却補助筒13の鍔部16から原料融液方向に延伸する円筒部は、整流を目的とした第1の円筒部19、及び密着補助部材15と冷却補助筒13とを固定するために設けた第2の円筒部20からなり、第1の円筒部19と第2の円筒部20は溝部21を介して形成することができる。このとき、冷却補助筒13は、図4、5に示すように第2の円筒部20を形成しない構造とすることもできる。
【0051】
密着補助部材15は、突起部15aより上側に円弧部15bを延出させることで、冷却媒体により強制冷却された冷却筒14外面と密着補助部材15が近接し、密着補助部材15が効果的に冷却される。密着補助部材15が低温化することで、単結晶6からの熱を効率的に排熱することが可能となる。
【0052】
密着補助部材15の形状は、前記冷却筒14の原料融液と対向する底面14aと、冷却補助筒13の鍔部16とに対面する突起部15aを有し、該突起部15aの上側及び下側に延出した円弧部15b及び15cを有し、突起部15aの上側及び下側の円弧部15b及び15cは、冷却筒14及び冷却補助筒13外周部と同心円となる。密着補助部材15の突起部15aの、冷却補助筒13の鍔部16と接触する面15dはテーパー形状とし、冷却筒14の底面14aと冷却補助筒13の鍔部16と間に密着補助部材15の突起部15aを押し込むことで、冷却筒14の底面14aと密着補助部材15の突起部15a、および密着補助部材15の突起部15aと冷却補助筒13の鍔部16が密着するようにする。テーパーを設けることで、冷却筒14と冷却補助筒13に寸法公差があったとしても、密着補助部材15の突起部15aを押し込むことで、強固に密着させることができる。この時の密着補助部材15の突起部15aのテーパー面15dのテーパー角度は5~25°が望ましい。密着補助部材15の押し込み量はテーパー角度によって決定されるが、テーパー角度が小さすぎると、押し込み量が大きくなり、冷却筒14の外周面と密着補助部材15の内周面との十分なクリアランス確保が難しいため、テーパー角度は5°以上が好ましい。テーパー角度が大きいほど、密着補助部材15の押し込み量は小さくて済むが、密着補助部材15の重量が増加し、ボルトによる支持、固定作業が困難となることから、テーパー角度は25°以下であることが望ましい。このようなテーパー角度であれば、図4、5に示すように冷却補助筒13に第2の円筒部20を形成せずとも密着補助部材15を支持・固定することができる。
【0053】
この密着補助部材15を複数用意し、密着補助部材15の突起部15aを冷却補助筒13の鍔部と冷却筒14の底面14aの隙間に全周にわたり押し込むことで、冷却筒14の内面に加え、冷却筒14の底面14aについても、密着補助部材15を介して冷却補助筒13に密着させることが出来る。冷却筒14の底面14aと冷却補助筒13の鍔部16との隙間に密着補助部材15を押し込むため、密着補助部材15は、分割形状、例えば3分割又は4分割形状としてもよく、これより多くても少なくてもよい。
【0054】
単結晶製造装置200は、冷却補助筒13に嵌合された径拡大部材17を更に備える。
【0055】
図3に径拡大部材17及び冷却補助筒13の斜視図を示した。冷却補助筒13は軸方向Aに貫く切れ目13aを有し、冷却補助筒13の内面に径拡大部材17が嵌合する。
【0056】
冷却補助筒13は、径拡大部材17により押し込まれることで、冷却筒14の内面に密着する。
【0057】
単結晶6からの輻射熱を効率よく吸収し、その熱を冷却筒14に効率よく伝達する為、本発明の冷却補助筒13、密着補助部材15の材質は、黒鉛材、炭素複合材、ステンレス鋼、モリブデン、タングステンのいずれか1つ以上であることが好ましい。上記材質の中でも特に、熱伝導率が金属と比較して同等以上であり、かつ輻射率が金属より高い黒鉛材が好ましい。
【0058】
冷却筒底面14aと冷却補助筒鍔部16との間に密着補助部材15の突起部15aを押し込むことで嵌合する。より強固に押し込み、嵌合させ、脱落を防ぐためには、例えば図2に示すように、冷却補助筒13の鍔部16から原料融液方向に延伸する円筒部のうち外周側の第2の円筒部20の外周面にネジ穴23を設け、密着補助部材15のうち、ネジ穴23に対応した位置に貫通孔15eを設け、ボルト18により締め付ける。それにより、冷却補助筒13と密着補助部材15とが、貫通孔15eを貫通しかつネジ穴23にねじ込まれたボルト18により締め付けられ、固定されている。この際より強固に嵌合させるため、六角レンチを使用してボルトを締め付けることが望ましい。なお、図2では、ネジ穴23及び貫通孔15eを設けた位置を、破線の引き出し線で示している。
【0059】
操業中炉内は高温であり、炉内部材からの輻射を受けることから、本発明のボルト18の材質は、黒鉛材、炭素複合材、ステンレス鋼、モリブデン、タングステンのいずれかが望ましい。
【0060】
また、メインチャンバー1の上部内面に取り付けた例えばSUS製の部材に対し、例えば黒鉛材からなる熱遮蔽部材22が、吊り下げる形で取り付けられ、固定されている。
【0061】
引上げチャンバー7には、雰囲気ガス(例えば、Arガス)を導入するためのガス導入口11が設けられ、メインチャンバー1の底部には、導入された雰囲気ガスを排出するためのガス流出口12が設けられる。そして、ガス導入口11から雰囲気ガスを導入しながら、種ホルダー9に取り付けられた種結晶8を原料融液5に浸し、引上げワイヤー10を回転させながら巻き上げて、単結晶6を引き上げていく。
【実施例
【0062】
以下、実施例及び比較例を用いて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0063】
(実施例1)
図4及び図5に示すような単結晶製造装置300を使用し単結晶製造を行った。以下では、図1及び図2を用いて説明した単結晶製造装置200と同じ部材に関しては、適宜説明を省略する。
【0064】
冷却筒14と冷却補助筒13は径拡大部材17により密着させた。かつ、冷却筒14の底面14aと冷却補助筒13の鍔部16との間隙に密着補助部材15をねじ込んだ。なお、冷却補助筒13、密着補助部材15の材質は熱伝導率が金属と比較して同等以上であり、かつ輻射率が金属よりも高い黒鉛材を使用した。
【0065】
冷却補助筒13は径拡大部材17を嵌合するため、上部に向かうほど内径が大きくなるテーパー形状とし、テーパー角度は10.5°とした。さらに、冷却補助筒13には、径方向に延伸する鍔部16を設けた。加えて、鍔部16から原料融液方向である下方に向けて延伸する円筒部19を設けた。
【0066】
径拡大部材17は、冷却補助筒13同様、上部に向かうほど外径が大きくなるテーパー形状とし、テーパー角度は10.5°とした。
【0067】
密着補助部材15の形状は、原料融液5と対向する冷却筒14の底面14aと冷却補助筒13の鍔部16とに対面する突起部15aを有し、突起部15aの上側及び下側には延出した円弧部15b及び15cを有し、円弧部15b及び15cは、冷却筒14および冷却補助筒13の外周部と同心円とした。密着補助筒15の突起部15aの冷却補助筒13の鍔部16と接触する面15dはテーパー形状であり、テーパー角は10°とした。
【0068】
冷却筒14の底面14aと冷却補助筒13の鍔部16との隙間に密着補助部材15を押し込むため、密着補助部材15は4分割形状とした。径拡大部材17を冷却補助筒13の内面に押し込むことで、冷却筒14の内面と冷却補助筒13の外面を密着させた。また、密着補助部材15を介して冷却筒14の底面14aと冷却補助筒13の鍔部16とを密着させた。その後、メインチャンバー1の上部内面に取り付けたSUS製の部材に対し、黒鉛材から為る熱遮蔽部材22を吊り下げる形でこの熱遮蔽部材22を取り付け、固定した。
【0069】
このような単結晶製造装置300を使用し直径300mmのシリコン単結晶6を育成し、全てが無欠陥となる成長速度を求めた。無欠陥結晶を得るための成長速度はそのマージンが非常に狭い為、適切な成長速度が判断しやすい。単結晶の欠陥の有無の評価は、作製した単結晶からサンプルを切り出し、無欠陥領域になったかどうかを選択エッチングにより評価した。
【0070】
(実施例2)
図1及び図2に示すような単結晶製造装置200を使用し単結晶製造を行った。
【0071】
冷却筒14と冷却補助筒13は径拡大部材17により密着させた。かつ、冷却筒14の底面14aと冷却補助筒13の鍔部16との間隙に密着補助部材15をねじ込んだ。なお、冷却補助筒13、密着補助部材15の材質は熱伝導率が金属と比較して同等以上であり、かつ輻射率が金属よりも高い黒鉛材を使用した。
【0072】
冷却補助筒13は径拡大部材17を嵌合するため、上部に向かうほど内径が大きくなるテーパー形状とし、テーパー角度は10.5°とした。
【0073】
さらに、冷却補助筒13には、径方向に延伸する鍔部16を設けた。加えて、鍔部16から原料融液方向である下方に向けて延伸する第1の円筒部19、および第2の円筒部20を設け、内周側の第1の円筒部19と外周側の第2の円筒部20は溝部21を介して形成されている。
【0074】
冷却補助筒13の第2の円筒部20の下端から30mm、86.5mmの位置に深さ10mm、それぞれ周方向に20°等配で計36カ所のネジ穴23を設けた。
【0075】
径拡大部材17は、冷却補助筒13同様、上部に向かうほど外径が大きくなるテーパー形状とし、テーパー角度は10.5°とした。密着補助部材15の形状は、原料融液5と対向する冷却筒14の底面14aと冷却補助筒13の鍔部16に対面する突起部15aを有し、突起部15aの上側及び下側には延出した円弧部15b及び15cを有し、円弧部15b及び15cは、冷却筒14および冷却補助筒13の外周部と同心円とした。密着補助部材15の突起部15aの冷却補助筒13の鍔部16と接触する面15dはテーパー形状であり、テーパー角は10°とした。密着補助部材15の円弧部15cには、冷却補助筒13へのネジ止めの為、下端から88mm、144.5mmの位置に、周方向20°等配で計36カ所の貫通孔15eを設けた。
【0076】
冷却筒底面14aと冷却補助筒鍔部16との間に密着補助部材15の突起部15aを押し込んでから、固定用ボルト18を貫通孔15eに貫通させ、次いで固定用ボルト18をネジ穴23にねじ込むことにより、固定用ボルト18で冷却補助筒13と密着補助部材15とを締め付けて固定した。
【0077】
冷却筒14と冷却補助筒13の隙間に密着補助部材15を押し込むため、密着補助部材15は4分割形状とした。固定用ボルト18には高強度で高温の炉内環境にも耐えられる炭素複合材を使用した。径拡大部材17を冷却補助筒13の内面に押し込むことで、冷却筒14の内面と冷却補助筒13の外面を密着させた。また、密着補助部材15を介して、冷却筒14の底面14aと冷却補助筒13の鍔部16とを密着させた。操業中の密着補助部材15の脱落をより確実に防ぐ目的で、固定用ボルト18をネジ穴23にねじ込み、密着補助部材15を固定した。その後、メインチャンバー1の上部内面に取り付けたSUS製の部材に対し、黒鉛材から為る熱遮蔽部材22を吊り下げる形で熱遮蔽部材22を取り付け、固定した。
【0078】
この装置を用いて単結晶製造を行った。それ以外の条件は実施例1に記載の条件と同一で行った。
【0079】
(比較例1)
冷却補助筒13、密着補助部材15、径拡大部材17を用いないこと以外は、実施例1に記載の単結晶製造装置300と同様の装置を用いて単結晶製造を行った。それ以外の条件は実施例1に記載の条件と同一で行った。図6に、比較例1で用いた単結晶製造装置400を概略的に示す。なお、図6では、冷却筒14のみに参照番号を付している。
【0080】
(比較例2)
密着補助部材15を用いないこと以外は、実施例1に記載の単結晶製造装置300と同様の装置を用いて単結晶製造を行った。それ以外の条件は実施例1に記載の条件と同一で行った。図7に、比較例2で用いた単結晶製造装置500を概略的に示す。なお、図7では、冷却補助筒13、冷却補助筒13の鍔部16、径拡大部材17、及び冷却筒14のみに参照番号を付している。
【0081】
実施例1及び2、並びに比較例1及び比較例2の結果を表1に示す。
【0082】
【表1】
【0083】
本発明に係る単結晶製造装置300を用いた実施例1では、図6に示すような冷却補助筒、密着補助部材を用いない場合である比較例1と比べて20.0%、図7に示すような密着補助部材を用いない場合である比較例2と比べて12.1%の結晶成長速度の高速化が確認された。
【0084】
また、本発明に係る単結晶製造装置200を用いた実施例2では、図6に示すような冷却補助筒、密着補助部材を用いない場合である比較例1と比べて21.0%、図7に示すような密着補助部材を用いない場合である比較例2と比べて13.1%の結晶成長速度の高速化が確認された。
【0085】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。
【符号の説明】
【0086】
1…メインチャンバー、 1a…天井部、 2…ヒーター、 3…石英るつぼ、 4…黒鉛るつぼ、5…原料融液、 6…単結晶、 7…引上げチャンバー、 8…種結晶、 9…種ホルダー、 10…ワイヤー、 11…ガス導入口、 12…ガス流出口、 13…冷却補助筒、 13a…切れ目、 14…冷却筒、 14a…底面、 15…密着補助部材、 15a…突起部、 15b及び15c…円弧部、 15d…鍔部に接触する面(テーパー面)、 15e…貫通孔、 16…冷却補助筒の鍔部、 17…径拡大部材、 18…固定用ボルト、 19…第1の円筒部、 20…第2の円筒部、 21…溝部、 22…熱遮蔽部材、 23…ネジ穴、 100、200、300、400及び500…単結晶製造装置。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8