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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-29
(45)【発行日】2024-02-06
(54)【発明の名称】積層体および複層ガラス
(51)【国際特許分類】
   B32B 9/00 20060101AFI20240130BHJP
   B32B 15/01 20060101ALI20240130BHJP
   C03C 17/36 20060101ALI20240130BHJP
   C03C 27/06 20060101ALI20240130BHJP
【FI】
B32B9/00 A
B32B15/01 E
C03C17/36
C03C27/06 101H
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2021545150
(86)(22)【出願日】2020-07-21
(86)【国際出願番号】 JP2020028288
(87)【国際公開番号】W WO2021049179
(87)【国際公開日】2021-03-18
【審査請求日】2023-02-20
(31)【優先権主張番号】P 2019163998
(32)【優先日】2019-09-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000044
【氏名又は名称】AGC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】瀧 駿也
(72)【発明者】
【氏名】岡田 奈緒子
【審査官】市村 脩平
(56)【参考文献】
【文献】特表2014-508093(JP,A)
【文献】特表2017-524629(JP,A)
【文献】国際公開第2018/207555(WO,A1)
【文献】特開2012-219007(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B1/00-43/00
C03C15/00-23/00
27/00-29/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
積層体であって、
第1の表面を有する透明基板と、
前記透明基板の前記第1の表面に設置された積層膜と、
を有し、
前記積層膜は、
前記第1の表面に近い順に、
窒化ケイ素、酸化亜鉛、または窒化ケイ素および酸化亜鉛を含む第1の誘電体層、
前記第1の誘電体層の上に配置された、チタン酸化物を含む第1の層、
前記第1の層の上に配置された、ニッケルおよびクロムを含む第1のバリア層、ならびに
前記第1のバリア層の直上に配置された銀含有金属層、
を有
さらに、前記第1の層と前記第1のバリア層との間に、両者と接するように配置された第2の層を有し、
該第2の層は、金属チタン、金属クロム、酸化チタン(TiO :ここでxは、0.01以上2.0未満である)、金属ニオブ、酸化クロム、窒化アルミニウムからなる群から選定された、少なくとも一つを有する、積層体。
【請求項2】
前記第1の層は、チタン酸化物からなる、請求項1に記載の積層体。
【請求項3】
前記第1のバリア層の厚さに対する前記第1の層の厚さの比が、0.1~2.5の範囲である、請求項1または2に記載の積層体。
【請求項4】
前記第1の層は、前記第1のバリア層の直下に配置される、請求項1乃至3のいずれか1項に記載の積層体。
【請求項5】
前記第1のバリア層の厚さに対する前記第2の層の厚さの比が、0.02~10の範囲である、請求項に記載の積層体。
【請求項6】
さらに、前記銀含有金属層の上部に第2の誘電体層を有する、請求項1乃至のいずれか一項に記載の積層体。
【請求項7】
前記銀含有金属層と前記第2の誘電体層の間に、第2のバリア層を有する、請求項に記載の積層体。
【請求項8】
前記第2の層は、0.1nm~10nmの厚さを有する、請求項1乃至7のいずれか一項に記載の積層体。
【請求項9】
前記第1のバリア層厚さに対する前記第2の層の厚さの比は、0.02~10の範囲である、請求項1乃至8のいずれか一項に記載の積層体。
【請求項10】
相互に平行に配置された第1および第2のガラス部材を有する複層ガラスであって、
前記第1および第2のガラス部材の少なくとも一方は、請求項1乃至のいずれか一項に記載の積層体で構成される、複層ガラス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層体および複層ガラスに関する。
【背景技術】
【0002】
近年の省エネルギー意識の高まりから、建物の窓ガラス等において、遮熱ガラスを適用する例が増えている。
【0003】
遮熱ガラスは、熱線反射ガラスとも呼ばれ、例えば、ガラス基板の表面に、銀層を含む積層膜を設置することにより構成される(例えば特許文献1)。
【0004】
そのような遮熱ガラスを窓ガラスに適用した場合、室外から遮熱ガラスに照射される熱線は、積層膜で反射される。このため、熱線が室内に入射されることが抑制され、窓ガラスの遮熱性を高めることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】米国特許第8,119,194号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本願発明者らによれば、遮熱ガラスにおいて、しばしば、積層膜を構成する層と層の間で剥離が生じることが観測されている。
【0007】
特に、近年は、建物の窓ガラスなどに対して、遮熱性のさらなる向上が求められるようになって来ており、この要望に対応するため、遮熱ガラスの積層膜に含まれる層の数は、増加する傾向にある。
【0008】
しかしながら、遮熱ガラスの積層膜を構成する層の数が多くなればなる程、これに伴い、層間の界面の数も増加する。従って、層間での剥離の問題は、今後より顕著になる可能性がある。
【0009】
本発明は、このような背景に鑑みなされたものであり、本発明では、良好な遮熱性を有する上、積層膜に含まれる各層同士の間の密着性が改善された積層体を提供することを目的とする。また、本発明では、そのような積層体を含む複層ガラスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明では、積層体であって、
第1の表面を有する透明基板と、
前記透明基板の前記第1の表面に設置された積層膜と、
を有し、
前記積層膜は、
前記第1の表面に近い順に、
窒化ケイ素、酸化亜鉛、または窒化ケイ素および酸化亜鉛を含む第1の誘電体層、
前記第1の誘電体層の上に配置された、チタン酸化物を含む第1の層、
前記第1の層の上に配置された、ニッケルおよびクロムを含む第1のバリア層、ならびに
前記第1のバリア層の直上に配置された銀含有金属層、
を有する、積層体が提供される。
【0011】
また、本発明では、
相互に平行に配置された第1および第2のガラス部材を有する複層ガラスであって、
前記第1および第2のガラス部材の少なくとも一方は、前述のような特徴を有する積層体で構成される、複層ガラスが提供される。
【発明の効果】
【0012】
本発明では、良好な遮熱性を有する上、積層膜に含まれる各層同士の間の密着性が改善された積層体を提供することができる。また、本発明では、そのような積層体を含む複層ガラスを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の一実施形態による積層体の概略的な断面を示した図である。
図2】本発明の一実施形態による別の積層体の概略的な断面を示した図である。
図3】本発明の一実施形態による積層体が適用された、建物の窓ガラスの構成を模式的に示した断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の一実施形態について説明する。
【0015】
本発明の一実施形態では、積層体であって、
第1の表面を有する透明基板と、
前記透明基板の前記第1の表面に設置された積層膜と、
を有し、
前記積層膜は、
前記第1の表面に近い順に、
窒化ケイ素、酸化亜鉛、または窒化ケイ素および酸化亜鉛を含む第1の誘電体層、
前記第1の誘電体層の上に配置された、チタン酸化物を含む第1の層、
前記第1の層の上に配置された、ニッケルおよびクロムを含む第1のバリア層、ならびに
前記第1のバリア層の直上に配置された銀含有金属層、
を有する、積層体が提供される。
【0016】
本発明の一実施形態による積層体において、第1のバリア層は、上部に配置される銀含有金属層の結晶配向性を改善し、結晶構造を安定化させる役割を有する。
【0017】
本発明の一実施形態による積層体では、第1のバリア層の下に第1の層が設置される。この第1の層は、チタン酸化物を含む。第1の層の表面には、チタン酸化物由来の微細な正方晶材料が形成されていると考えられる。正方晶材料は、原子間距離が近く最も安定な面である、110面(正方格子)に優先的に配向することが知られている。また、第1のバリア層であるニッケルおよびクロムは、それぞれ、六方最密構造および体心立方格子を有する。ニッケルは、数nm程度の厚さの場合、正方格子状に配向した材料上では、
【0018】
【化1】
に優先的に配向することが知られている。また、体心立方格子は、原子間距離が近く最も安定な面である、110面(正方格子)に優先的に配向することが知られている。これらの材料の面は、ほぼ一致する。従って、第1のバリア層の下に第1の層を配置することにより、結晶系の違いがあっても、第1のバリア層の結晶性を高めることができる。またこれにより、第1のバリア層の直上に設置される銀含有金属層の結晶性も高めることができる。銀含有金属層の結晶性が向上すると、銀含有金属層に、特定の方向に支配的な配向を有する結晶構造を発現させることができる。そのため、銀含有金属層の結晶性の向上は、積層体全体のシート抵抗値の低減にも寄与することができる。
【0019】
ここで、シート抵抗値は、積層体の遮熱性に相関するパラメータであり、積層体のシート抵抗値が低いほど、積層体の遮熱性は高いと言える。従って、本発明の一実施形態では、積層体のシート抵抗値の低減効果により、積層体の遮熱性を高めることも可能となる。
【0020】
また、銀含有金属層と第1のバリア層とが接触しており、銀含有金属層と第1のバリア層との間に酸化亜鉛が含まれないことにより、銀含有金属層と第1のバリア層との界面に合金層が形成される。その結果、第1のバリア層と銀含有金属層との間における層間の密着性が改善される。
【0021】
従って、本発明の一実施形態では、従来の遮熱ガラスのような、積層膜を構成する層と層の間の界面で剥離が生じ得るという問題を有意に抑制できる。
【0022】
以上の効果の結果、本発明の一実施形態では、良好な遮熱性を有するとともに、層間の密着性が高められた積層体を得ることができる。
【0023】
なお、本願では、積層体の遮熱性と透過性とのバランスを表すため、指標Tv/Rsを導入する。ここで、Tvは、積層体の可視光透過率(%)であり、Rsは、積層体のシート抵抗値(Ω/sq)である。
【0024】
一般に、積層体の遮熱性と透過性とのバランスを表す指標として、セレクティビティSeと呼ばれるパラメータがよく使用される。比Tv/Rsは、このセレクティビティSeと相関する指標として使用できる。すなわち、積層体において、透過率が高く、シート抵抗値が低いほど、すなわち比Tv/Rsが大きいほど、その積層体は、透過性が高く遮熱性が高いと言える。
【0025】
また、本願において、「透明」とは、可視光透過率が50%以上であることを意味する。
【0026】
(本発明の一実施形態による積層体)
以下、図1を参照して、本発明の一実施形態による積層体について、より詳しく説明する。
【0027】
図1には、本発明の一実施形態による積層体(以下、「第1の積層体」と称する)の概略的な断面を示す。
【0028】
図1に示すように、第1の積層体100は、透明基板110と、積層膜120とを有する。
【0029】
透明基板110は、第1の表面112および第2の表面114を有し、積層膜120は、透明基板110の第1の表面112に設置される。
【0030】
積層膜120は、第1の誘電体層130、第1の層140、第1のバリア層150、銀含有金属層(以下、単に「金属層」とも称する)160、第2のバリア層170、および第2の誘電体層180を有する。
【0031】
第1の誘電体層130は、窒化ケイ素を含む誘電体で構成され、可視光反射率を低減する役割を有する。
【0032】
第1の層140は、チタン酸化物を含む材料で構成される。第1の層の表面には、チタン酸化物由来の微細な正方晶材料が形成されていると考えられる。正方晶材料は、原子間距離が近く最も安定な面である、110面(正方格子)に優先的に配向することが知られている。また、第1のバリア層は、六方最密構造および体心立方格子を有する。六方最密構造は、数nmの厚さの場合、正方格子状に配向した材料上では、
【0033】
【化2】
に優先的に配向することが知られている。体心立方格子は、原子間距離が近しく最も安定な面である、110面(正方格子)に優先的に配向することが知られている。両者の110面は、ほぼ一致する。従って、第1のバリア層の下に第1の層を配置することにより、結晶系の違いがあっても、第1のバリア層の結晶性を高めることができる。
【0034】
なお、図1に示した例では、第1の層140は、第1のバリア層150の直下に配置される。
【0035】
第1のバリア層150は、金属層160の結晶配向性を改善し、安定化する役割を有する。第1のバリア層150は、ニッケルおよびクロムを含む材料で構成される。第1のバリア層150は、透明である。
【0036】
なお、図1に示すように、第1のバリア層150は、金属層160の直下に設置される。
【0037】
金属層160は、銀を含み、第1の積層体100に入射する熱線を反射する役割を有する。金属層160は、透明である。
【0038】
なお、図1に示すように、金属層160は、第1のバリア層150の直上に設置される。
【0039】
第2のバリア層170および第2の誘電体層180は、金属層160を外界から保護する役割を有する。ただし、第2のバリア層170および第2の誘電体層180は、省略されてもよい。
【0040】
第1の積層体100では、第1のバリア層150の直下に第1の層140が設置され、第1のバリア層150の直上に、金属層160が設置される。このような構成を有する第1の積層体100では、第1の層140によって、第1のバリア層150の結晶性を高めることができる。またこれにより、金属層160の結晶性も高めることができる。
【0041】
また、銀含有金属層と第1のバリア層とが接触しており、銀含有金属層と第1のバリア層との間に酸化亜鉛が含まれないことにより、銀含有金属層と第1のバリア層との界面に合金層が形成される。その結果、第1のバリア層150と金属層160との間における層間の密着性が改善される。
【0042】
また、金属層160の結晶性の向上により、金属層160のシート抵抗値が低減され、これに伴い積層膜120、さらには第1の積層体100のシート抵抗値を低減させることができる。従って、第1の積層体100において、高い比Tv/Rsを得ることができる。
【0043】
以上の効果の結果、第1の積層体100では、良好な遮熱性が得られる上、層間の密着性を有意に高めることができる。
【0044】
(本発明の一実施形態による積層体に含まれる各部材の構成)
次に、本発明の一実施形態による積層体に含まれる各部材の構成について、より詳しく説明する。なお、ここでは、第1の積層体100を例に、その構成部材について説明する。従って、各部材等を表す際には、図1に示した参照符号を使用する。
【0045】
(透明基板110)
透明基板110は、例えば樹脂またはガラスのような、透明な材料で構成される。
【0046】
(第1の誘電体層130)
第1の誘電体層130は、窒化ケイ素を含む誘電体で構成される。第1の誘電体層130は、さらにAlを含んでもよい。例えば、第1の誘電体層130は、SiAlNで構成されてもよい。
【0047】
第1の誘電体層130は、10nm~60nmの範囲の厚さを有する。厚さは、20nm~50nmの範囲であることが好ましい。
【0048】
(第1の層140)
第1の層140は、前述のように、チタン酸化物を含む。なお、第1の層140が、六方晶材料を含んでいても、同様の効果を得ることができる。
【0049】
第1の層140は、チタン酸化物で構成されていることが好ましい。チタン酸化物は、二酸化チタン(TiO)であることが特に好ましい。
【0050】
第1の層140の厚さは、例えば、1nm~20nmの範囲である。厚さは、3nm~15nmの範囲であることが好ましい。厚さが上記範囲であることにより、第1の層140の表面には、チタン酸化物由来の微細な正方晶材料が一定量形成されると考えられる。
【0051】
また、第1のバリア層150の厚さに対する第1の層140の厚さの比が、0.1~2.5の範囲であることが好ましく、0.25~2.0の範囲であることが特に好ましい。厚さの比が0.1以上であることにより、第1のバリア層150の結晶性を十分高められる。厚さの比が2.5以下であることにより、優れた密着性を確保できる。すなわち、厚さの比が上記範囲であることにより、優れた密着性と高い比Tv/Rsとを得ることができる。
【0052】
(第1のバリア層150)
前述のように、第1のバリア層150は、ニッケルおよびクロムを含む。
【0053】
第1のバリア層150に含まれるニッケルとクロムの割合は、特に限られないが、通常、ニッケルとクロムの割合は、質量比で、50:50~90:10の範囲である。
【0054】
第1のバリア層150は、1nm~8nmの範囲の厚さを有することが好ましく、1nm~6nmの範囲であることがより好ましい。第1のバリア層150の厚さを8nm以下とすることにより、優れた可視光透過率と高い比Tv/Rsとを得ることができる。第1のバリア層150の厚さを1nm以上とすることで、優れた密着性を得ることができる。
【0055】
(金属層160)
金属層160は、銀を含む層で構成される。金属層は、例えば、銀合金で構成されてもよい。そのような銀合金としては、例えば、Ag-Au合金、Ag-Pd合金、およびAg-Ni合金などが挙げられる。なお、銀合金に含まれる銀の量は、90質量%以上であることが好ましい。
【0056】
金属層160は、7nm~25nmの範囲の厚さを有する。金属層160の厚さが25nm以下であると、金属層160の透過性が高まる。
【0057】
(第2のバリア層170)
第2のバリア層170は、第1のバリア層150と同様の材料で構成されてもよい。また、第2のバリア層170は、複数の膜で構成されてもよい。
【0058】
第2のバリア層170の厚さは、これに限られるものではないが、例えば、0.1nm~10nmの範囲である。
【0059】
なお、前述のように、第2のバリア層170は、省略されてもよい。
【0060】
(第2の誘電体層180)
第2の誘電体層180は、任意の誘電体材料で構成される。第2の誘電体層180は、例えば、第1の誘電体層130と同じ材料で構成されてもよい。
【0061】
あるいは、第2の誘電体層180は、バリア性や耐摩耗性の点で、一般式SiAlで表される化合物で構成されてもよい。ここで、0≦y/(x+y)≦0.5、0≦w<z、0.8<z/(x+y)<1.5、0≦w/(x+y)≦0.2である。
【0062】
第2の誘電体層180の厚さは、これに限られるものではないが、例えば、20nm~60nmの範囲である。
【0063】
なお、前述のように、第2の誘電体層180は、省略されてもよい。
【0064】
(本発明の別の実施形態による積層体)
次に、図2を参照して、本発明の別の実施形態による積層体について説明する。
【0065】
図2には、本発明の一実施形態による積層体(以下、「第2の積層体」と称する)の概略的な断面を示す。
【0066】
図2に示すように、第2の積層体200は、透明基板210と、積層膜220とを有する。
【0067】
透明基板210は、第1の表面212および第2の表面214を有し、積層膜220は、透明基板210の第1の表面212に設置される。
【0068】
透明基板210は、前述の第1の積層体100における透明基板110と同様の構成を有してもよい。
【0069】
積層膜220は、第1の誘電体層230、第1の層240、第2の層245、第1のバリア層250、銀含有金属層(以下、単に「金属層」とも称する)260、第2のバリア層270、および第2の誘電体層280を有する。
【0070】
ここで、第2の層245を除く積層膜220を構成する各層の特徴については、前述の第1の積層体100における積層膜120の記載が参照できる。そこで、ここでは、第2の層245の構成および特徴について説明する。
【0071】
第2の層245は、第1の層240の直上であって、第1のバリア層250の直下に配置される。
【0072】
第2の層245は、金属チタン、金属クロム、酸化チタン(TiO:ここでxは、0.01以上2.0未満である)、金属ニオブ、酸化クロム、および窒化アルミニウムからなる群から選定された、少なくとも一つを含む。特に、第2の層245は、金属チタンまたは酸化チタンで構成されることが好ましい。
【0073】
第2の層245は、第1の層240と第1のバリア層250との間の密着性を、よりいっそう高める役割を有する。すなわち、第1の層240と第1のバリア層250との間に第2の層245を介在させることにより、第1の層240と第1のバリア層250との間で剥離が生じる可能性をより低減できる。
【0074】
なお、第2の層245は、比較的薄く構成され、例えば0.1nm~10nmの範囲の厚さを有する。これは、第2の層245の介在によって、第1の層240が第1のバリア層250に及ぼす結晶性に関する影響が阻害されないようにするためである。
【0075】
すなわち、第2の層245を薄く構成することにより、第1の層240に含まれる微細な正方晶材料によって、正方格子状に優先的に配向する結晶構造を有する第1のバリア層250の結晶性を高めることができる。
【0076】
第1のバリア層250の厚さに対する、第2の層245の厚さの比は、0.02~10の範囲であることが好ましく、0.08~8.0の範囲であることが特に好ましい。厚さの比が、上記の範囲であることにより、優れた密着性と高い比Tv/Rsとを得ることができる。
【0077】
このように、第2の積層体200においても、第1の積層体100と同様、積層膜220に含まれる各層の間の密着性を有意に高めることができる。
【0078】
また、第2の層245は、第1の層240および第1のバリア層250の結晶構造の整合性を阻害しないように構成される。従って、第1の層240によって、第1のバリア層250の結晶性を高めることができ、これにより、金属層260の結晶性も高めることができる。
【0079】
その結果、金属層260のシート抵抗値が低減され、これに伴い積層膜220、さらには第2の積層体200のシート抵抗値を低減させることができる。従って、第2の積層体200において、高い比Tv/Rsを得ることができる。
【0080】
以上の効果の結果、第2の積層体200では、良好な遮熱性が得られる上、層間の密着性を有意に高めることができる。
【0081】
(本発明の一実施形態による積層体の適用例)
本発明の一実施形態による積層体は、例えば、建物の窓ガラスおよび調理オーブンの扉のような、良好な遮熱性と高い透過性の両方が要求される部材に適用することができる。
【0082】
図3には、本発明の一実施形態による積層体が適用された建物の窓ガラス(以下、単に「窓ガラス300」と称する)の断面を模式的に示す。
【0083】
図3に示すように、窓ガラス300は、複層ガラス構造を有し、第1のガラス部材355と、第2のガラス部材365とを、相互に離間して配置することにより構成される。両者の間には、内部空間375が形成される。内部空間375は、真空であっても、不活性ガスが充填されていてもよい。
【0084】
窓ガラス300は、例えば、第1のガラス部材355の側が屋内側301となり、第2のガラス部材365の側が屋外側303となるようにして、建物のサッシ等に設置される。
【0085】
第1のガラス部材355は、第1のガラス基板357を有する。第1のガラス基板357の一方の表面には、積層膜359が設置される。積層膜359は、内部空間375の側に設置される。
【0086】
一方、第2のガラス部材365は、第2のガラス基板367を有する。第2のガラス部材365において、第2のガラス基板367は、単独で使用されてもよく、あるいは一方の表面に積層膜を有してもよい。
【0087】
ここで、第1のガラス部材355は、本発明の一実施形態による積層体で構成される。例えば、第1のガラス部材355は、前述の第1の積層体100または第2の積層体200で構成されてもよい。この場合、第1のガラス基板357は、前述の透明基板110または透明基板210となる。
【0088】
このような窓ガラス300では、第1のガラス部材355に含まれる積層膜359において、層同士の間の密着性を有意に高めることができる。また、第1のガラス部材355は、高い比Tv/Rsを有する。従って、窓ガラス300では、良好な遮熱性を発揮できる上、積層膜359内での層間の剥離を抑制することができる。
【0089】
特に、第1のガラス部材355に加えて、第2のガラス部材365が本発明の一実施形態による積層体で構成される場合、より良好な遮熱性を有する窓ガラス300を提供することができる。
【実施例
【0090】
以下、本発明の実施例について説明する。なお、以下の記載において、例1~例3は、実施例であり、例11~例13は、比較例である。
【0091】
(例1)
以下の方法により、ガラス基板の一方の表面に積層膜を形成して、積層体を製造した。
【0092】
ガラス基板には、縦100mm×横50mm×厚さ3.0mmの寸法を有するソーダライムガラスを使用した。
【0093】
積層膜の構成は、ガラス基板に近い側から、第1の誘電体層、第1の層、第1のバリア層、銀含有金属層、第2のバリア層、および第2の誘電体層の6層構造とした。
【0094】
第1の誘電体層はアルミニウムを含有する窒化ケイ素(目標膜厚40nm)とし、第1の層は、TiO(目標膜厚3nm)とし、第1のバリア層はNiCr(目標膜厚2nm)とし、銀含有金属層は金属銀(目標膜厚16nm)とし、第2のバリア層はNiCr(目標膜厚1nm)とし、第2の誘電体層はアルミニウムを含有する窒化ケイ素(目標膜厚51nm)とした。
【0095】
これらの層は、いずれもスパッタリング法により成膜した。
【0096】
より具体的には、第1の誘電体層の成膜には、Si-10wt%Al製のプレーナーターゲットを使用し、放電ガスとして、アルゴンと窒素の混合ガスを使用した。混合ガス中のアルゴンと窒素の比は、アルゴン:窒素=40:60(sccm)とした。成膜時の圧力は0.42Paとし、投入電力密度は、36kW/mとした。
【0097】
第1の層の成膜には、金属Ti製のプレーナーターゲットを使用し、放電ガスとして酸素ガスを使用した。成膜時の圧力は0.42Paとし、投入電力密度は、36kW/mとした。
【0098】
第1のバリア層の成膜には、Ni-20wt%Cr製のプレーナーターゲットを使用し、放電ガスとしてアルゴンガスを使用した。成膜時の圧力は0.48Paであった。
【0099】
銀含有金属層の成膜には、銀製のプレーナーターゲットを使用し、放電ガスとしてアルゴンガスを使用した。成膜時の圧力は0.46Paであった。
【0100】
第2のバリア層の成膜には、Ni-20wt%Cr製のプレーナーターゲットを使用し、放電ガスとしてアルゴンガスを使用した。成膜時の圧力は0.48Paであった。
【0101】
第2の誘電体層の成膜には、Si-10wt%Al製のプレーナーターゲットを使用した。放電ガスとして、アルゴンと窒素の混合ガスを使用した。混合ガス中のアルゴンと窒素の比は、アルゴン:窒素=40:60(sccm)とした。成膜時の圧力は0.42Paであった。
【0102】
各層の成膜は、同一のスパッタリングチャンバ内で実施した。
【0103】
ガラス基板に積層膜を成膜後、大気雰囲気において、ガラス基板を730℃で3分間、焼成した。
【0104】
これにより、積層体(以下、「サンプル1」と称する)が製造された。
【0105】
(例2)
例1と同様の方法により、積層体を製造した。
【0106】
ただし、この例2では、第1のバリア層の目標膜厚を1.4nmとした。また、第1の層と第1のバリア層との間に、第2の層としてTiを成膜した。
【0107】
第2の層の成膜には、金属Ti製のプレーナーターゲットを使用し、放電ガスとして、アルゴンガスを使用した。成膜時の圧力は0.48Paとした。第2の層の目標厚さは、1nmとした。
【0108】
その他の製造条件は、例1の場合と同様である。
【0109】
これにより、積層体(以下、「サンプル2」と称する)が製造された。
【0110】
(例3)
例1と同様の方法により、積層体を製造した。ただし、この例3では、第1の層の目標膜厚を1nmとした。
【0111】
これにより、積層体(以下、「サンプル3」と称する)が製造された。
【0112】
(例4)
例1と同様の方法により、積層体を製造した。
【0113】
ただし、この例4では、第1のバリア層の目標膜厚を1.4nmとした。また、第1の層と第1のバリア層との間に、第2の層としてTiOを成膜した。
【0114】
第2の層の成膜には、金属Ti製のプレーナーターゲットを使用し、放電ガスとして、アルゴンと酸素の混合ガスを使用した。混合ガス中のアルゴンと酸素の比は、アルゴン:酸素=70:10(sccm)とした。成膜時の圧力は0.47Paとした。第2の層の目標厚さは、3.0nmとした。
【0115】
その他の製造条件は、例1の場合と同様である。
【0116】
これにより、積層体(以下、「サンプル4」と称する)が製造された。
【0117】
(例11)
例1と同様の方法により、積層体を製造した。
【0118】
ただし、この例11では、第1の層を成膜せず、第1の誘電体層の上に、直接第1のバリア層を成膜した。
【0119】
また、第1のバリア層は、ZnO:Al(目標膜厚5nm)とした。
【0120】
第1のバリア層の成膜には、ZnO+3wt%AlO製のターゲットを使用し、放電ガスとしてアルゴンと酸素の混合ガスを使用した。混合ガス中のアルゴンと酸素の比は、アルゴン:酸素=50:50(sccm)とした。成膜時の圧力は0.46Paであった。
【0121】
その他の製造条件は、例1の場合と同様である。
【0122】
これにより、積層体(以下、「サンプル11」と称する)が製造された。
【0123】
(例12)
例1と同様の方法により、積層体を製造した。
【0124】
ただし、この例12では、第1の層を成膜せず、第1の誘電体層の上に、直接第1のバリア層を成膜した。また、第1のバリア層の目標膜厚は、1.4nmとした。
【0125】
その他の製造条件は、例1の場合と同様である。
【0126】
これにより、積層体(以下、「サンプル12」と称する)が製造された。
【0127】
(例13)
例1と同様の方法により、積層体を製造した。
【0128】
ただし、この例13では、第1の層の目標膜厚を3nmとした。また、第1の層と第1のバリア層との間に、第2の層としてNiCrを成膜した。さらに、第1のバリア層は、ZnO:Al(目標膜厚5nm)とした。
【0129】
第2の層の成膜には、NiCr製のプレーナーターゲットを使用し、放電ガスとして、アルゴンガスを使用した。成膜時の圧力は0.48Paとした。第2の層の目標厚さは、2nmとした。
【0130】
第1のバリア層の成膜には、ZnO+3wt%AlO製のターゲットを使用し、放電ガスとしてアルゴンと酸素の混合ガスを使用した。混合ガス中のアルゴンと酸素の比は、アルゴン:酸素=50:50(sccm)とした。成膜時の圧力は0.46Paであった。
【0131】
その他の製造条件は、例1の場合と同様である。
【0132】
これにより、積層体(以下、「サンプル13」と称する)が製造された。
【0133】
以下の表1には、サンプル1~3およびサンプル11~13における積層膜の構成をまとめて示した。ただし、各サンプルにおいて、銀含有金属層よりも上部の層についての仕様は同一であるため、表1における記載を省略した。
【0134】
【表1】
(評価)
各サンプルを用いて、以下の評価を行った。
【0135】
(比Tv/Rsの評価)
各サンプルを用いて、可視光透過率Tv(%)、およびシート抵抗値Rs(Ω/Sq)を測定した。
【0136】
可視光透過率の測定には、視感度透過率測定器(TLV-304-LC;ASAHI SPECTRA社製)を使用した。視感度補正フィルターを用いて測定された、透明基板の側から入射するA光源光の透過率を、各サンプルの可視光透過率Tv(%)とした。
【0137】
シート抵抗値Rsの測定には、シート抵抗測定器(717B CONDUCTANCE MONITOR;DELCOM INSTRUMENTS,INC社製)を使用した。測定面は、積層膜の表面であった。
【0138】
得られた可視光透過率Tv(%)およびシート抵抗値Rs(Ω/Sq)から、比Tv/Rsを算出した。
【0139】
(密着性評価試験)
各サンプルを用いて、積層膜の密着性評価試験を実施した。
【0140】
密着性評価試験には、表面特性試験機(IMC-1550;井元製作所製)を使用した。まず、この装置に付随の圧子の先端(直径2cmの円形)に、布地(SDCE Cotton Lawn;SDC Enterprises Limited社製)を取り付けた。
【0141】
次に、サンプルの積層膜の表面を純水で濡らしてから、この積層膜に、布地が取り付けられた圧子の先端を押し付けた。圧子の接触面積は、3.1cmである。
【0142】
次に、サンプルを固定し、圧子に1000gの荷重を加えた状態で、圧子を水平方向に500回往復移動させた。1回の往路および復路の移動距離は、40mmとした。
【0143】
その後、前述のシート抵抗測定器を用いて、サンプルのシート抵抗値を測定した。
【0144】
試験前後のサンプルのシート抵抗値の変化から、積層膜に含まれる層の密着性を評価した。
【0145】
この評価試験では、積層膜に含まれる各層の界面での剪断方向における剥離耐性を評価することができる。すなわち、試験前後におけるシート抵抗値の変化が少ないほど、層間の密着性が高いと言える。
【0146】
以下の表2には、各サンプルにおいて得られた評価試験結果をまとめて示す。
【0147】
【表2】
表2に示すように、サンプル11およびサンプル13では、密着性評価試験の前後で、シート抵抗の値が大きく上昇している。このことから、サンプル11およびサンプル13では、積層膜内の層と層の界面で、剪断的な剥離が生じているものと考えられる。
【0148】
また、サンプル12では、比Tv/Rsが低くなっており、あまり良好な遮熱性が得られないことがわかる。
【0149】
このように、サンプル11~サンプル13では、良好な遮熱性と良好な密着性の両方を兼ね備えた特性は得られなかった。
【0150】
一方、サンプル1~サンプル4では、比Tv/Rsが十分に大きくなった。また、サンプル1~サンプル4では、密着性評価試験の前後において、シート抵抗値に変化は認められなかった。
【0151】
このように、サンプル1~サンプル4では、良好な遮熱性を有するとともに、良好な密着性が得られることが確認された。
【0152】
本願は、2019年9月9日に出願した日本国特許出願第2019-163998号に基づく優先権を主張するものであり、同日本国出願の全内容を本願に参照により援用する。
【符号の説明】
【0153】
100 第1の積層体
110 透明基板
112 第1の表面
114 第2の表面
120 積層膜
130 第1の誘電体層
140 第1の層
150 第1のバリア層
160 銀含有金属層
170 第2のバリア層
180 第2の誘電体層
200 第2の積層体
210 透明基板
212 第1の表面
214 第2の表面
220 積層膜
230 第1の誘電体層
240 第1の層
245 第2の層
250 第1のバリア層
260 銀含有金属層
270 第2のバリア層
280 第2の誘電体層
300 窓ガラス
301 屋内側
303 屋外側
355 第1のガラス部材
357 第1のガラス基板
359 積層膜
365 第2のガラス部材
367 第2のガラス基板
375 内部空間
図1
図2
図3