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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-29
(45)【発行日】2024-02-06
(54)【発明の名称】高タンパク含有油性成形食品
(51)【国際特許分類】
   A23G 1/44 20060101AFI20240130BHJP
   A23L 5/00 20160101ALI20240130BHJP
【FI】
A23G1/44
A23L5/00 M
A23L5/00 L
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2019207526
(22)【出願日】2019-11-15
(65)【公開番号】P2021078385
(43)【公開日】2021-05-27
【審査請求日】2022-10-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000006116
【氏名又は名称】森永製菓株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100137338
【弁理士】
【氏名又は名称】辻田 朋子
(74)【代理人】
【識別番号】100196313
【弁理士】
【氏名又は名称】村松 大輔
(72)【発明者】
【氏名】信田 直毅
(72)【発明者】
【氏名】石黒 聖子
(72)【発明者】
【氏名】片桐 春奈
【審査官】関根 崇
(56)【参考文献】
【文献】特開昭57-033547(JP,A)
【文献】特表2008-505659(JP,A)
【文献】特開2019-041721(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23G
A23L
A23D
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
カルシウムカゼイネート-ホスフェート錯体をタンパク質濃度として5質量%以上含
タンパク質含有量が10質量%以上である、高タンパク含有油性成形食品。
【請求項2】
カルシウムカゼイネート-ホスフェート錯体をタンパク質濃度として5質量%以上含み、カルシウムカゼイネート-ホスフェート錯体以外の他のタンパク質を5質量%以上含
タンパク質含有量が10質量%以上である、
高タンパク含有油性成形食品。
【請求項3】
前記他のタンパク質の含有割合を1とした時の、カルシウムカゼイネート-ホスフェート錯体の含有割合が、タンパク質濃度として0.25以上である、請求項2に記載の高タンパク含有油性成形食品。
【請求項4】
油脂を含む油性組成物に対して、カルシウムカゼイネート-ホスフェート錯体を添加して、高タンパク含有油性組成物を調整する工程と、前記高タンパク含有油性組成物を成形する工程を含む、タンパク質含有量が10質量%以上である高タンパク含有油性成形食品の製造方法。
【請求項5】
タンパク質を10質量%以上含む高タンパク含有油性成形食品の、食感改良方法であって、
タンパク質として、カルシウムカゼイネート-ホスフェート錯体を用いることで、高タンパク含有油性成形食品のきしみ感を低減することを含む、食感改良方法。
【請求項6】
食品中に含まれるタンパク質の20質量%以上を、カルシウムカゼイネート-ホスフェート錯体由来のタンパク質とする、請求項5に記載の食感改良方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タンパク質が高含有された油性成形食品に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、タンパク質を手軽に摂取できる食品が、開発されている。
【0003】
例えば特許文献1には、プロテアーゼ処理をした大豆タンパク質を使用した、タンパク質を高含有するチョコレートが記載されている。
また、特許文献2には、大豆タンパク質を含む懸濁液を、特定のpHで加熱処理し、80℃以下で乾燥及び粉末化して得られた大豆タンパク質素材を使用した、タンパク質を高含有するチョコレート様食品が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開昭57-33547号公報
【文献】国際公開第2016/147754号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明者らは、研究を進める中で、油脂含有食品に一定量以上のタンパク質を含有させると、「きしみ感」が発生するという課題に直面した。
ここで、「きしみ感」とは、咀嚼した際に、歯に当たるざらつきの感覚もしくは歯に付く感覚を有する食感のことを指す。
そこで、本発明は、タンパク質を高含有する油性成形食品のきしみ感を低減し、食感を改良することができる、新たな技術を提供することを、課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決する本発明は、カルシウムカゼイネート-ホスフェート錯体及び/又はナトリウムカゼイネートをタンパク質濃度として5質量%以上含む。
本発明によれば、タンパク質を高含有しつつも、きしみ感が低減された、油性成形食品を提供することができる。
【0007】
上記課題を解決する本発明は、カルシウムカゼイネート-ホスフェート錯体をタンパク質濃度として5質量%以上含み、カルシウムカゼイネート-ホスフェート錯体以外の他のタンパク質を5質量%以上含む。
本発明によれば、タンパク質を高含有するにも関わらず、きしみ感が低減された、高タンパク含有油性成形食品を提供することができる。
【0008】
本発明の好ましい形態では、上記他のタンパク質の含有割合を1とした時の、カルシウムカゼイネート-ホスフェート錯体の含有割合が、タンパク質濃度として0.25以上である
本発明によれば、タンパク質を高含有するにも関わらず、きしみ感が低減された、高タンパク含有油性成形食品を提供することができる。
【0009】
上記課題を解決する本発明は、油脂を含む油性組成物に対して、カルシウムカゼイネート-ホスフェート錯体及び/又はナトリウムカゼイネートを添加して、高タンパク含有油性組成物を調整する工程と、上記高タンパク含有油性組成物を成形する工程を含む、高タンパク含有油性成形食品の製造方法である。
本発明によれば、きしみ感が低減された高タンパク含有油性成形食品を製造することができる。
【0010】
上記課題を解決する本発明は、タンパク質として、カルシウムカゼイネート-ホスフェート錯体を用いることで、高タンパク含有油性成形食品のきしみ感を低減することを含む、食感改良方法である。
本発明によれば、高タンパク含有油性成形食品のきしみ感を効果的に低減することができる。
【0011】
本発明の好ましい形態では、食品中に含まれるタンパク質の20質量%以上を、カルシウムカゼイネート-ホスフェート錯体由来のタンパク質とする。
本形態とすることにより、高タンパク含有油性成形食品のきしみ感を効果的に低減することができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、タンパク質を高含有するにも関わらず、きしみ感が低減された、油性成形食品を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明において、「油性成形食品」は、油脂が連続相を為す食品であって、成形されたものであって、少なくとも喫食時には、固体であるものをいう。
また、本発明において「油性組成物」は、油脂が連続相を為す組成物であって、上記成形前のものをいう。
本発明の成形食品の成形方法は特に制限されず、例えば所望の形状の型に充填した後冷却し、固化したものを取り出す方法によって製造することができる。また、所望の形状に成形した後、焼成する方法によっても製造することができる。
上記油性成形食品は、油性成形食品のみからなる形態でもよく、ナッツ類や焼成菓子等の他の可食物を油性成形食品中に練り込む形態や、他の可食物を油性成形食品で被覆する形態等、他の可食物と組み合わせる形態でもよい。
本発明において、油性成形食品又は油性組成物における各成分の「含有量」及び「含有割合」は、上記油性成形食品又は油性組成物を構成する連続相に対する含有量及び含有割合のことをいう。すなわち、上記油性成形食品又は油性組成物が、他の可食物を含む形態である場合には、当該他の可食物を除いた部分を基準とした、含有量及び含有割合のことをいう。
【0014】
本発明に係る油性成形食品に含まれる油脂としては、通常食品に使用される油脂であれば、特に制限なく使用することができる。油性成形食品における油脂の含有量は好ましくは、15~35質量%程度である。
【0015】
上記油脂は、植物性油脂でも、動物性油脂でもよい。
植物性油脂としては、例えば、カカオ脂、ヤシ油、パーム油、パーム核油、大豆油、サフラワー油、コーン油、ナタネ油、ゴマ油、オリーブ油等が例示できる。
動物性油脂としては、例えば、バター等が例示できる。
油脂は、1種類の油脂を使用してもよく、複数種類の油脂を併用してもよい。
【0016】
また、上記油脂は、常温(25℃)で固体の油脂でも、常温で半固体の油脂でも、常温で液体の油脂でもよい。
好ましくは、常温で固体の油脂及び/又は常温で半固体の油脂を併用する。
常温で固体の油脂及び/又は常温で半固体の油脂は、油性成形食品に対し15~35質量%程度含有させることができる。
なお、上記油脂の含有量は、当業者であれば適宜変更することができる。
【0017】
本発明に係る油性成形食品は、好ましくは糖類を含む。
上記糖類としては、通常食品に用いられている糖類を、制限なく使用することができる。また糖類は、例えば10~35質量%含有させることができるが、当業者であれば適宜変更することができる。
例えば、上記糖類としては、スクロース、マルトース、トレハロース等を例示することができる。
糖類は、1種類の糖類を使用してもよく、複数種類の糖類を併用してもよい。
【0018】
本発明に係る高タンパク含有油性成形食品は、カルシウムカゼイネート-ホスフェート錯体及び/又はナトリウムカゼイネートを含む。
ここで、シウムカゼイネート-ホスフェート錯体及び/又はナトリウムカゼイネートの含有割合としては、タンパク質構造部分のみの質量を基準として、タンパク質含量、タンパク質含有割合(濃度)として、定義する。
なお、上記カルシウムカゼイネート-ホスフェート錯体は、後述する製造方法で添加する際に錯体の形態であればよく、食品中の形態は問わない。
本形態とすることにより、きしみ感が低減された、高タンパク含有油性成形食品を提供することができる。
【0019】
上記カルシウムカゼイネート-ホスフェート錯体及び/又はナトリウムカゼイネートの含有割合は、タンパク質濃度として5質量%以上が好ましく、10質量%以上がより好ましい。
本形態とすることにより、きしみ感が低減された、高タンパク含有油性成形食品を提供することができる。
【0020】
また、食品中の上記カルシウムカゼイネート-ホスフェート錯体及び/又はナトリウムカゼイネートの含有割合は、タンパク質濃度として35質量%以下が好ましく、30質量%以下がより好ましい。
【0021】
本発明で使用するカルシウムカゼイネート-ホスフェート錯体及びナトリウムカゼイネートは、市販されているものを購入して使用してもよく、また、全乳から調製したものを使用してもよい。
市販されているカルシウムカゼイネート-ホスフェート錯体としては、例えばミセラカゼインを使用することができる。
【0022】
上記カルシウムカゼイネート-ホスフェート錯体は、例えば以下の工程を経て、調製することができる。
まず、全乳から、スキムミルクを調製する。調製したスキムミルクを、精密ろ過やダイアフィルトレーションに供することより、ホエイとカルシウムカゼイネート-ホスフェート錯体に分離することができる。
ホエイと分離したカルシウムカゼイネート-ホスフェート錯体は、そのまま本発明に使用してもよく、また、カルシウムカゼイネート-ホスフェート錯体又はその濃縮物を、スプレードライ法により乾燥させ、粉末状にしたものを使用してもよい。
【0023】
本発明の高タンパク含有油性成形食品に、上記カルシウムカゼイネート-ホスフェート錯体を含有させる場合には、カルシウムカゼイネート-ホスフェート錯体以外に、他のタンパク質を含んでいてもよい。
上記他のタンパク質は、通常食品に配合されるタンパク質であれば、植物由来のタンパク質でも、動物由来のタンパク質でも、特に制限なく使用することができる。
動物由来のタンパク質としては、乳タンパク質(ホエイタンパク質、カゼイン、又はこれらの混合物でもよい)、コラーゲンを好適に例示することができる。また植物由来のタンパク質としては、大豆タンパク質、エンドウタンパク質、小麦タンパク質などを好適に例示することができる。
上記他のタンパク質としては、1種類のタンパク質を使用してもよく、複数種類のタンパク質を併用してもよい。
【0024】
本発明において、タンパク質は、原料から抽出したタンパク質のみならず、その濃縮物、分離物、加水分解物等、各種処理の結果物をも含む。さらに、耐熱処理などが施されたものでもよい。
タンパク質として、カゼインを用いる場合、例えば、水溶性カゼイネート(カルシウムカゼイネート、マグネシウムカゼイネート、カリウムカゼイネート等)、酸カゼイン、レンネットカゼインを使用することができる。ただし、カルシウムカゼイネート-ホスフェート錯体は除く。
なお、使用するカゼインが塩や錯体を形成している場合には、タンパク質構造部分のみの質量を基準として、タンパク質含有割合(含量、濃度)として、定義する。
【0025】
本発明の高タンパク含有油性食品が、カルシムカゼイネート-ホスフェート錯体以外の他のタンパク質を含む場合、上記他のタンパク質の含有割合は、5質量%以上が好ましく、10質量%以上がより好ましい。
また、上記他のタンパク質の含有割合は、25質量%以下が好ましく、20質量%以下がより好ましい。
【0026】
上記他のタンパク質の含有割合と、カルシウムカゼイネート-ホスフェート錯体の含有割合の合計は、タンパク質濃度として10質量%以上が好ましく、15質量%以上がより好ましい。
また、上記他のタンパク質の含有割合と、カルシウムカゼイネート-ホスフェート錯体の含有割合の合計は、タンパク質濃度として35質量%以下が好ましく、30質量%以下がより好ましい。
【0027】
本発明において、カルシウムカゼイネート-ホスフェート錯体と、上記他のタンパク質の両方を含む場合、上記他のタンパク質の含有割合を1とした時の、カルシウムカゼイネート-ホスフェート錯体の含有割合が、タンパク質濃度として0.25以上であることが好ましく、0.5以上であることがより好ましい。
また、カルシウムカゼイネート-ホスフェート錯体と、上記他のタンパク質の両方を含む場合、上記他のタンパク質の含有割合を1とした時の、カルシウムカゼイネート-ホスフェート錯体の含有割合は、タンパク質濃度として6以下であることが好ましく、4以下であることがよりであることが好ましい。
本形態とすることにより、高タンパク含有油性成形食品のきしみ感を低減することができる。
【0028】
上記の通り、タンパク質を5質量%以上含む、高タンパク油脂含有成形食品に、カルシウムカゼイネート-ホスフェート錯体を含有させることによって、タンパク質を高含有することに起因するきしみ感を、低減させることができる。
【0029】
本発明において、常温で固体の油脂及び/又は半固体の油脂を含む場合、カルシウムカゼイネート-ホスフェート錯体及び/又はナトリウムカゼイネートのタンパク質としての含有質量を1とした時の、常温で固体の油脂及び/又は常温で半固体の油脂の含有質量は、1以上が好ましく、1.1以上がより好ましい。
また、カルシウムカゼイネート-ホスフェート錯体及び/又はナトリウムカゼイネートのタンパク質としての含有質量を1とした時の、上記常温で固体の油脂及び/又は常温で半固体の油脂の含有質量は、1.4以下が好ましく、1.35以下がより好ましい。
本形態とすることにより、高タンパク含有油性成形食品のきしみ感を低減することができる。
【0030】
また、本発明において、カルシウムカゼイネート-ホスフェート錯体以外の他のタンパク質を含む場合は、カルシウムカゼイネート-ホスフェート錯体のタンパク質としての含有質量と、上記他のタンパク質の含有質量の合計を1として、上記常温で固体の油脂及び/又は常温で半固体の油脂の含有質量について、上記の事項を適用することができる。
【0031】
本発明に係る高タンパク含有油性成形食品は、本発明の効果を損ねない範囲で、通常食品に使用する食品添加物、例えば食物繊維や乳化剤等を、適宜添加することができる。
【0032】
本発明の好ましい形態では、上記高タンパク含有油性成形食品は、チョコレート食品である。
ここで、本発明において、チョコレート食品とは、チョコレート(チョコレート生地が全重量の60質量%以上のチョコレート加工品)、準チョコレート(準チョコレート生地が全重量の60質量%以上のチョコレート加工品)、チョコレート菓子(チョコレート生地が全重量の60質量%未満のチョコレート加工品)、準チョコレート菓子(準チョコレート生地が全重量の60質量%未満のチョコレート加工品)を含む。
なお、チョコレート加工品とは、他の可食物を練り込んだチョコレート食品や、チョコレートによって他の可食物を被覆した食品等を例示することができる。
【0033】
上記の通り、本発明者らは、チョコレート食品にタンパク質を高含有させると、きしみ感が生じ、食感が悪化することを発見した。
本形態とすることにより、きしみ感が低減された、タンパク質を高含有するチョコレート食品を提供することができる。
【0034】
本発明に係るチョコレート食品は、カカオマス及び/又はカカオバター、糖類、並びにカルシウムカゼイネート-ホスフェート錯体及び/又はナトリウムカゼイネートを少なくとも含む。
チョコレート食品において、カカオマスは、15~60質量%を目安に含有することができる。
【0035】
上記チョコレート食品に含まれる糖類については、上述の事項を適用することができる。
また、本発明に係るチョコレート食品においては、上記原料の他に、通常食品に使用される食品添加物、例えば非カカオ由来の油脂や乳化剤等を、適宜添加することができる。
なお、非カカオ由来の油脂を含む場合には、後述する製造方法での製造効率の観点から、常温で固体及び/又は半固体の油脂を含むことが好ましい。
【0036】
本発明に係るチョコレート食品は、カルシウムカゼイネート-ホスフェート錯体以外の他のタンパク質を含んでいてもよい。
当該他のタンパク質については、上記の事項を適用することができる。
【0037】
また、本発明は、高タンパク含有油性成形食品の製造方法にも関する。
【0038】
本発明に係る高タンパク含有油性成形食品の製造方法は、油脂を含む油性組成物に対し、カルシウムカゼイネート-ホスフェート錯体及び/又はナトリウムカゼイネートを添加する工程と、カルシウムカゼイネート-ホスフェート及び/又はナトリウムカゼイネートを添加した油性組成物を成形する工程を含む。
すなわち、本発明に係る高タンパク含有油性成形食品は、油脂を含む油性組成物に対して、カルシウムカゼイネート-ホスフェート錯体及び/又はナトリウムカゼイネートを添加してなる。
本工程で上記カルシウムカゼイネート-ホスフェート錯体を添加する場合には、乳における錯体の状態を保ったまま調製されたものであることが好ましい。
【0039】
上記油脂を含む油性組成物としては、例えば、チョコレート液等と呼ばれる、カカオ原料と、非カカオ由来の常温で固体及び/又は半固体の油脂を混合したものが挙げられる。上記非カカオ由来の常温で固体及び/又は半固体の植物油脂は、カカオバター代替油脂等を例示することができる。また、上記油性組成物は、好ましくは糖類を含む。
油脂及び糖類の種類については、上述した事項を適用することができる。製造効率の観点から、油脂としては、常温で及び/又は半固体の油脂を含むことが好ましい。
【0040】
上記油性組成物に対して、カルシウムカゼイネート-ホスフェート錯体及び/又はナトリウムカゼイネートを混合し、高タンパク含油油性組成物を得る。
上記カルシウムカゼイネート-ホスフェート錯体及び/又はナトリウムカゼイネートを添加する量は、調製される高タンパク含有油性組成物に対して、タンパク質濃度として10質量%以上であることが好ましく、15質量%以上であることがより好ましい。
また、上記カルシウムカゼイネート-ホスフェート錯体及び/又はナトリウムカゼイネートの添加量は、調製される高タンパク含有油性組成物に対して、タンパク質濃度として45質量%以下であることが好ましく、40質量%以下であることが好ましい。
【0041】
また、上記油性組成物中の上記カルシウムカゼイネート-ホスフェート錯体及び/又はナトリウムカゼイネートのタンパク質としての含有質量を1とした時の、上記常温で固体の油脂及び/又は常温で半固体の油脂の含有質量は、1以上が好ましく、1.1以上がより好ましい。
また、上記油性組成物中の上記カルシウムカゼイネート-ホスフェート錯体及び/又はナトリウムカゼイネートの含有質量を1とした時の、上記常温で固体の油脂及び/又は常温で半固体の油脂の含有質量は、1.4以下が好ましく、1.35以下がより好ましい。
上記油性組成物中のタンパク質の含有量が多くなると、上記油性組成物の粘性が高くなるため、常温で固体の油脂及び/又は常温で半固体の油脂の含有量を前記範囲とすることで、適切な粘度とし、後述する成形工程における取り扱い性を良好にする。
【0042】
そして、上記高タンパク含有油性組成物を、適当な方法で成形することにより、本発明に係る高タンパク含有油性成形食品を製造することができる。
成形方法は、例えば、所望の形状の型に充填した後冷却し、固化したものを取り出す方法を採用することができる。
また、所望の形状に成形した後、焼成する方法によっても製造することができる。
本発明に係る製造方法であれば、タンパク質が高含有であるにも関わらず、きしみ感が低減された油性成形食品を製造することができる。
【0043】
本発明に係る高タンパク含有油性成形食品の製造方法は、カルシウムカゼイネート-ホスフェート錯体以外の他のタンパク質を添加する工程を含んでいてもよい。
当該他のタンパク質については、上記の事項を適用することができる。
【0044】
本発明に係る高タンパク含有油性成形食品の製造方法は、製造する油性成形食品にあわせて、適宜必要な工程を含んでいてもよい。
【0045】
本発明の好ましい形態では、上記製造方法は、タンパク質を高含有するチョコレート食品(以下、高タンパク含有チョコレート食品という)の製造方法である。
本形態とすることにより、きしみ感が低減された高タンパク含有チョコレート食品を製造することができる。
【0046】
本発明が、上記高タンパク含有チョコレート食品の製造方法である場合は、上記油脂を含む油性組成物として、例えば、カカオバター、カカオマス及び糖類を含む、チョコレート原液が挙げられる。
上記チョコレート原液は、乳化剤や非カカオ由来の油脂を含んでいてもよい。
上記チョコレート原液は、市販されているチョコレート原液を使用してもよく、また自ら調製したものを使用してもよい。
【0047】
本発明が、上記チョコレート食品の製造方法である場合は、好ましくは、高タンパク含有油性成形食品に含まれるタンパク質の20質量%以上を、上記カルシウムカゼイネート-ホスフェート錯体及び/又はナトリウムカゼイネート由来のタンパク質が占めるように、タンパク質を添加する。
【0048】
また、上記チョコレート食品の製造方法は、カルシウムカゼイネート-ホスフェート錯体以外の他のタンパク質を添加する工程を含んでいてもよい。
当該他のタンパク質については、上記の事項を適用することができる。
【0049】
本発明に係る高タンパク含有チョコレート食品の製造方法は、上記の工程の他に、適宜必要な工程を含んでいてもよい。
【0050】
また、本発明は、高タンパク含有油性成形食品の食感改良方法にも関する。
本形態の好ましい形態では、上記食感改良方法は、高タンパク含有チョコレート食品の食感改良方法である。
【0051】
本発明に係る食感改良方法は、タンパク質として、カルシウムカゼイネート-ホスフェート錯体を用いることを含む。
上記食感改良方法で用いる上記カルシウムカゼイネート-ホスフェート錯体は、乳における錯体の状態を保ったまま調製された錯体であることが好ましい。
カルシウムカゼイネート-ホスフェート錯体については、上述した事項を適用することができる。
本形態とすることにより、高タンパク含有油性成形食品のきしみ感を、効果的に低減することができる。
【0052】
本発明に係る食感改良方法は、カルシウムカゼイネート-ホスフェート錯体以外の他のタンパク質を含む、高タンパク含有油性成形食品にも適用することができる。
当該他のタンパク質については、上記の事項を適用することができる。
【実施例
【0053】
以下、実施例を示しながら、本発明についてより詳細に説明するが、本発明の技術的範囲は、以下の実施例に限定されない。
【0054】
<試験例1>タンパク質の含有量が、油脂含有食品の食感に与える影響
本試験例では、タンパク質の含有量が、油脂含有食品の食感に与える影響を試験した。
【0055】
カカオマス、砂糖、植物油脂(カカオバター代替油脂)及び乳化剤を含む、チョコレート原液を用意した。
用意した上記チョコレート原液、砂糖、植物油脂(カカオバター代替油脂)、タンパク質及び乳化剤を原料として、常法により、タンパク質濃度が異なるチョコレート生地(高タンパク含有油性組成物)を調製した。調製したチョコレート生地を、1cm角のキューブ状に成形し、タンパク質濃度が異なるチョコレート食品を得た。
得られたチョコレートの組成を、表1に示す。
【0056】
【表1】
【0057】
上記試験例1~5の食感について、4人のチョコレート評価の専門パネルA、B、C及びDが以下の3段階の評価基準で評価した。
評価基準は、チョコレートを口に入れて咀嚼した時に、きしみ感がないものを1点、きしみ感がややあるものを2点、きしみ感があるものを3点とした。
各パネルは、各試験例につき3回評価を行った。表2に、3回の評価の平均を示した。
4人のパネルの評価を平均し、平均が2点以下のチョコレートを合格(〇)、2点より点数が高いチョコレートを不合格(×)と評価した。
結果を表2に示す。なお、1人のパネルによる1つの試験例についての3回の評価において、1点と3点が混在することはなかった。
【0058】
【表2】
【0059】
上記表2で示された通り、カルシウムカゼイネート由来のタンパク濃度が10質量%以上のサンプル(試験例3~5)は、きしみ感が生じていた。
ここで、カカオマスには一般的に、カカオマス由来のタンパク質が11~14質量%含まれるから、本試験例で製造したチョコレートは、カカオマス由来タンパク質を1.75質量%以上含む。
したがって、本試験例のチョコレートでは、カカオマス由来のタンパク質及びカゼインカルシウムの合計含量は、10質量%以上である。
本試験により、食品中にタンパク質が10質量%以上のチョコレート(高タンパク含有油性成形食品)は、食感が悪くなることが明らかになった。
また、タンパク濃度が20質量%以上となると、さらに食感が悪くなる傾向があることがわかった。
【0060】
<試験例2>タンパク質の種類による油脂含有食品の食感改良効果
本試験例では、製造過程において異なるタンパク質を添加した高タンパク含有油性成形食品について、その食感を評価した。
【0061】
上記表1に示す組成になるように、試験例1と同様の方法で、添加するタンパク質の種類及びタンパク質濃度が異なるチョコレート生地(高タンパク含有油性組成物)を調製した。このチョコレート生地を、1cm角のキューブ状に成形し、添加するタンパク質の種類が異なる高タンパク含有チョコレートを得た。
なお、タンパク質としては、カルシウムカゼイネート-ホスフェート錯体、ナトリウムカゼイネート、カルシウムカゼイネート、大豆タンパク質、酸カゼイン、及びレンネットカゼインを使用した。
【0062】
製造した各チョコレートの食感について、試験例1と同様に評価した。なお、1人のパネルによる1つの試験例についての3回の評価において、1点と3点が混在することはなかった。
結果を表3に示す。なお、表3中「‐」は、食感を評価していないことを示す。
【0063】
【表3】
【0064】
上記表3に示すように、カゼインカルシウム、大豆タンパク、酸カゼイン、レンネットカゼインをタンパク質として使用したサンプルは、その濃度が10質量%以上の場合は、きしみ感が感じられ、食感が悪化していた。
一方、カルシウムカゼイネート-ホスフェート錯体又はナトリウムカゼイネートをタンパク質として使用したサンプルは、食品に対して10質量%以上含有する場合でも、きしみ感が感じられず、タンパク質濃度が低いサンプルと同等の、きしみ感の少ない食感を有していた。
以上より、タンパク質としてカルシウムカゼイネート-ホスフェート錯体又はナトリウムカゼイネートを使用すれば、タンパク質を高含有する場合でも、良好な食感の油脂含有食品を製造することができることが明らかになった。
【0065】
また、カカオマスには、一般的に、カカオマス由来のタンパク質が11~14質量%含まれている。
そうすると、本試験例のチョコレートに含まれる、カカオマス由来のタンパク質は、2質量%以上である。
したがって、本実施例においては、チョコレートに含まれるタンパク質の80質量%以上を、カルシウムカゼイネート-ホスフェート錯体又はナトリウムカゼイネート由来のタンパク質が占める。
【0066】
<試験例3>カルシウムカゼイネート-ホスフェート錯体の食感改良効果
本試験例では、カルシウムカゼイネート-ホスフェート錯体の食感改良効果を試験した。
【0067】
常法により、カルシウムカゼイネート-ホスフェート錯体(と、カルシウムカゼイネートを共に添加した、チョコレート生地(高タンパク含有油性組成物)を調製した。このチョコレート生地を、1cm角のキューブ状に成形し、カルシウムカゼイネート-ホスフェート錯体のタンパク質としての含有割合が異なるチョコレートを得た。
成形したチョコレートの組成を、表4に示す。
【0068】
【表4】
【0069】
製造した各チョコレートの食感について、試験例1と同様に評価した。なお、1人のパネルによる1つの試験例についての3回の評価において、1点と3点が混在することはなかった。
結果を表5に示す。
【0070】
【表5】
【0071】
上記試験例1で示されたように、タンパク質(カルシウムカゼイネート)をタンパク質として20質量%含むチョコレート(比較例1)は、きしみ感が生じる。
しかし、カルシウムカゼイネート-ホスフェート錯体をタンパク質として5質量%以上添した実施例1、2のチョコレートは、きしみ感の少ない食感を有していた。
以上より、カルシウムカゼイネート-ホスフェート錯体をタンパク質として5質量%以上添加する高タンパク含有油性成形食品は、他のタンパク質を5質量%以上含んでいても、きしみ感のない、良好な食感を呈することがわかった。
【0072】
また、高タンパク含有油性成形食品中の、他のタンパク質の含有割合を1とした時、カルシウムカゼイネート-ホスフェート錯体の含有割合がタンパク質として0.25以上であれば、当該食品は、きしみ感のない、良好な食感を呈することがわかった。
また、高タンパク含有油性成形食品中に含まれるタンパク質のうち、20質量%以上をカルシウムカゼイネート-ホスフェート錯体由来のタンパク質が占めれば、当該食品は、きしみ感のない、良好な食感を呈することがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0073】
本発明は、タンパク質を高含有する油脂含有食品の製造に応用することができる。