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特許7428346リチウム二次電池、及びリチウム二次電池の製造方法
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  • 特許-リチウム二次電池、及びリチウム二次電池の製造方法 図1
  • 特許-リチウム二次電池、及びリチウム二次電池の製造方法 図2
  • 特許-リチウム二次電池、及びリチウム二次電池の製造方法 図3
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-29
(45)【発行日】2024-02-06
(54)【発明の名称】リチウム二次電池、及びリチウム二次電池の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/0567 20100101AFI20240130BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20240130BHJP
   H01M 4/587 20100101ALI20240130BHJP
   H01M 10/0525 20100101ALI20240130BHJP
【FI】
H01M10/0567
H01M4/36 C
H01M4/587
H01M10/0525
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2020032227
(22)【出願日】2020-02-27
(65)【公開番号】P2021136172
(43)【公開日】2021-09-13
【審査請求日】2022-11-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000005887
【氏名又は名称】三井化学株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504132881
【氏名又は名称】国立大学法人東京農工大学
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】清水 雄介
(72)【発明者】
【氏名】張 涵
(72)【発明者】
【氏名】野木 栄信
(72)【発明者】
【氏名】須黒 雅博
(72)【発明者】
【氏名】大橋 秀伯
(72)【発明者】
【氏名】藤井 一洋
【審査官】佐溝 茂良
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-176987(JP,A)
【文献】特開2019-075320(JP,A)
【文献】特開2019-179609(JP,A)
【文献】特開2018-113218(JP,A)
【文献】特開平09-180721(JP,A)
【文献】特開2007-250415(JP,A)
【文献】特開2019-057431(JP,A)
【文献】特開2013-062026(JP,A)
【文献】特開2011-204666(JP,A)
【文献】特開2014-137861(JP,A)
【文献】特開2014-120227(JP,A)
【文献】特開2002-329528(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/05-10/0587
H01M 4/00-4/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極と、
リチウムイオンの吸蔵及び放出が可能な負極活物質を含有する負極と、
前記正極と前記負極との間に介在するセパレータと、
非水電解液と、
を備えるリチウム二次電池であって、
前記負極活物質は炭素質材料であり、前記炭素質材料の表面の少なくとも一部がフッ素を含む官能基で修飾されており、
前記表面の少なくとも一部がフッ素を含む官能基で修飾されている前記炭素質材料の表面の、飛行時間型二次イオン質量分析法による負イオン分析で得られたm/zが0超200以下のスペクトルにおいて、検出されるすべてのフラグメントイオンの強度の合計値(I )に対するフッ素イオン強度(I )の比率[I /I ]が、3.0×10 -4 以上3.0×10 -3 以下であり、
前記フッ素を含む官能基は、モノフルオロメチル基、ジフルオロメチル基、トリフルオロメチル基、トリフルオロエチル基、ジフルオロメチレン基、トリフルオロメチルスルホニル基、及びトリフルオロアセチル基から選ばれる少なくとも1種を含み、
前記非水電解液は、下記一般式(A)で表される環状化合物を含有するリチウム二次電池。
【化1】

【化2】

〔一般式(A)中、Lは、酸素原子、または炭素数1~6の2価の炭化水素基を表し、かつ、Lは、炭素数1~6の2価の炭化水素基、カルボニル基または一般式(a)で表される基を表す。*は、結合位置を示す。〕
【請求項2】
前記表面の少なくとも一部がフッ素を含む官能基で修飾されている前記炭素質材料は、飛行時間型二次イオン質量分析法によって、Fのフラグメントが検出される材料である請求項1に記載のリチウム二次電池。
【請求項3】
前記炭素質材料が、結晶性の炭素質材料である請求項1又は請求項2に記載のリチウム二次電池。
【請求項4】
前記結晶性の炭素質材料が、黒鉛である請求項3に記載のリチウム二次電池。
【請求項5】
前記一般式(A)において、前記Lは炭素数1~3のアルキレン基、ビニレン基、または酸素原子であり、前記Lは炭素数1~3のアルキレン基、ビニレン基、カルボニル基または前記式(a)で表される基である請求項1~請求項4のいずれか1項に記載のリチウム二次電池。
【請求項6】
更に、炭素-炭素不飽和結合を有するカーボネート化合物、フッ素原子を有するカーボネート化合物、フルオロリン酸化合物、オキサラト化合物、及びフッ素原子を有する脂肪族環状化合物からなる群から選ばれる少なくとも1種である添加剤を含有する請求項1~請求項5のいずれか1項に記載のリチウム二次電池。
【請求項7】
正極を準備する工程と、
リチウムイオンの吸蔵及び放出が可能な負極活物質であって、表面の少なくとも一部がフッ素を含む官能基で修飾されている炭素質材料を含む負極活物質を含有する負極を準備する工程と、
下記一般式(A)で表される環状化合物を含有する非水電解液を準備する工程と、
前記正極と、前記負極と、前記正極と前記負極との間に介在するセパレータと、前記非水電解液とを備えるリチウム二次電池前駆体を製造する工程と、
前記リチウム二次電池前駆体に対して、充電及び放電を施してリチウム二次電池を得る工程と、
を含み、
前記表面の少なくとも一部がフッ素を含む官能基で修飾されている前記炭素質材料の表面の、飛行時間型二次イオン質量分析法による負イオン分析で得られたm/zが0超200以下のスペクトルにおいて、検出されるすべてのフラグメントイオンの強度の合計値(I )に対するフッ素イオン強度(I )の比率[I /I ]が、3.0×10 -4 以上3.0×10 -3 以下であり、
前記フッ素を含む官能基は、モノフルオロメチル基、ジフルオロメチル基、トリフルオロメチル基、トリフルオロエチル基、ジフルオロメチレン基、トリフルオロメチルスルホニル基、及びトリフルオロアセチル基から選ばれる少なくとも1種を含む、
リチウム二次電池の製造方法。
【化3】

【化4】

〔一般式(A)中、Lは、酸素原子、または炭素数1~6の2価の炭化水素基を表し、かつ、Lは、炭素数1~6の2価の炭化水素基、カルボニル基または一般式(a)で表される基を表す。*は、結合位置を示す。〕
【請求項8】
前記負極を準備する工程は、フッ素化カルボン酸及びフッ素化カルボン酸無水物の少なくとも一方と、前記炭素質材料と、を反応させることにより、前記表面の少なくとも一部がフッ素を含む官能基で修飾されている炭素質材料を得る工程を含む、請求項7に記載のリチウム二次電池の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、リチウム二次電池、及びリチウム二次電池の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
非水電解液を用いた電池(例えばリチウム二次電池)の性能を改善するために、非水電解液に対し、種々の添加剤を含有させることが行われている。
リン酸リチウム化合物、例えば、モノフルオロリン酸リチウム及びジフルオロリン酸リチウムの少なくとも一方を添加剤として含有する電池用非水電解液が知られている(例えば、特許文献1参照)。
ホウ酸リチウム化合物も添加剤として用いられ、例えば、ビス(オキサラト)ホウ酸リチウムを含むリチウムイオン電池用電解液が知られている(例えば、特許文献2参照)。また、例えば、ジフルオロ(オキサラト)ホウ酸リチウムを含むリチウムイオン電池用電解液も知られている(例えば、特許文献3参照)。
また、リン酸ホウ素リチウム化合物も添加剤として用いられ、例えば、LiBF(PO)等の化合物を含むリチウムイオン電池用電解液が知られている(例えば、特許文献4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許3439085号公報
【文献】特許3730855号公報
【文献】特許3722685号公報
【文献】特許5544748号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本開示の一態様の課題は、保存時の容量損失が抑制されるリチウム二次電池を提供することである。
本開示の別の一態様の課題は、保存時の容量損失が抑制されるリチウム二次電池の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するための手段には、以下の態様が含まれる。
<1>
正極と、リチウムイオンの吸蔵及び放出が可能な負極活物質を含有する負極と、前記正極と前記負極との間に介在するセパレータと、非水電解液と、を備えるリチウム二次電池であって、前記負極活物質は炭素質材料であり、前記炭素質材料の表面の少なくとも一部がフッ素を含む官能基で修飾されており、前記非水電解液は、下記一般式(A)で表される環状化合物を含有するリチウム二次電池。
【化1】

【化2】

〔一般式(A)中、Lは、酸素原子、または炭素数1~6の2価の炭化水素基を表し、かつ、Lは、炭素数1~6の2価の炭化水素基、カルボニル基または一般式(a)で表される基を表す。*は、結合位置を示す。〕
<2>
前記表面の少なくとも一部がフッ素を含む官能基で修飾されている前記炭素質材料は、飛行時間型二次イオン質量分析法によって、Fのフラグメントが検出される材料である<1>に記載のリチウム二次電池。
<3>
前記表面の少なくとも一部がフッ素を含む官能基で修飾されている前記炭素質材料の表面の、飛行時間型二次イオン質量分析法による負イオン分析で得られたm/zが0超200以下のスペクトルにおいて、検出されるすべてのフラグメントイオンの強度の合計値(I)に対するフッ素イオン強度(I)の比率[I/I]が、3.0×10-4以上3.0×10-3以下である<1>または<2>に記載のリチウム二次電池。
<4>
前記炭素質材料が、結晶性の炭素質材料である<1>~<3>のいずれか1つに記載のリチウム二次電池。
<5>
前記結晶性の炭素質材料が、黒鉛である<4>に記載のリチウム二次電池。
<6>
前記フッ素を含む官能基は、モノフルオロメチル基、ジフルオロメチル基、トリフルオロメチル基、トリフルオロエチル基、ジフルオロメチレン基、トリフルオロメチルスルホニル基、及びトリフルオロアセチル基から選ばれる少なくとも1種を含む、<1>~<5>のいずれか1つに記載のリチウム二次電池。
<7>
前記一般式(A)において、前記Lは炭素数1~3のアルキレン基、ビニレン基、または酸素原子であり、前記Lは炭素数1~3のアルキレン基、ビニレン基、カルボニル基または前記式(a)で表される基である<1>~<6>のいずれか1つに記載のリチウム二次電池。
<8>
更に、炭素-炭素不飽和結合を有するカーボネート化合物、フッ素原子を有するカーボネート化合物、フルオロリン酸化合物、オキサラト化合物、及びフッ素原子を有する脂肪族環状化合物からなる群から選ばれる少なくとも1種である添加剤を含有する<1>~<7>のいずれか1つに記載のリチウム二次電池。
<9>
正極を準備する工程と、リチウムイオンの吸蔵及び放出が可能な負極活物質であって、表面の少なくとも一部がフッ素を含む官能基で修飾されている炭素質材料を含む負極活物質を含有する負極を準備する工程と、下記一般式(A)で表される環状化合物を含有する非水電解液を準備する工程と、前記正極と、前記負極と、前記正極と前記負極との間に介在するセパレータと、前記非水電解液とを備えるリチウム二次電池前駆体を製造する工程と、前記リチウム二次電池前駆体に対して、充電及び放電を施してリチウム二次電池を得る工程と、を含むリチウム二次電池の製造方法。
【化3】

【化4】

〔一般式(A)中、Lは、酸素原子、または炭素数1~6の2価の炭化水素基を表し、かつ、Lは、炭素数1~6の2価の炭化水素基、カルボニル基または一般式(a)で表される基を表す。*は、結合位置を示す。〕
<10>
前記負極を準備する工程は、フッ素化カルボン酸及びフッ素化カルボン酸無水物の少なくとも一方と、前記炭素質材料と、を反応させることにより、前記表面の少なくとも一部がフッ素を含む官能基で修飾されている炭素質材料を得る工程を含む、<9>に記載のリチウム二次電池の製造方法。
【発明の効果】
【0006】
本開示の一態様によれば、保存時の容量損失が抑制されるリチウム二次電池が提供される。
本開示の別の一態様によれば、保存時の容量損失が抑制されるリチウム二次電池の製造方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】本開示のリチウム二次電池の一例である、ラミネート型電池の一例を示す概略斜視図である。
図2図1に示すラミネート型電池に収容される積層型電極体の、厚さ方向の概略断面図である。
図3】本開示のリチウム二次電池の別の一例である、コイン型電池の一例を示す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本明細書において、「~」を用いて表される数値範囲は、「~」の前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味する。
本明細書において、組成物中の各成分の量は、組成物中に各成分に該当する物質が複数存在する場合は、特に断らない限り、組成物中に存在する当該複数の物質の合計量を意味する。
本明細書において、「工程」との用語は、独立した工程だけではなく、他の工程と明確に区別できない場合であってもその工程の所期の目的が達成されれば、本用語に含まれる。
【0009】
〔リチウム二次電池〕
本開示の一実施形態に係るリチウム二次電池は、正極と、リチウムイオンの吸蔵及び放出が可能な負極活物質を含有する負極と、前記正極と前記負極との間に介在するセパレータと、非水電解液と、を備えるリチウム二次電池であって、前記負極活物質は炭素質材料であり、前記炭素質材料の表面の少なくとも一部がフッ素を含む官能基で修飾されており、前記非水電解液は、下記一般式(A)で表される環状化合物を含有する。
【0010】
【化5】
【0011】
一般式(A)中、Lは、酸素原子、または炭素数1~6の2価の炭化水素基を表し、かつ、Lは、炭素数1~6の2価の炭化水素基、カルボニル基または一般式(a)で表される基を表す。*は、結合位置を示す。
【0012】
【化6】
【0013】
本実施形態のリチウム二次電池によれば、保存時の容量損失を抑制することができる。
【0014】
本実施形態のリチウム二次電池は、上記構成とすることにより、保存時の容量損失を抑制できる。
かかる効果は、表面の少なくとも一部がフッ素を含む官能基で修飾された負極活物質と、非水電解液中に含まれる環状化合物と、の組み合わせによってもたらされる効果である。
【0015】
上記効果が奏される理由は、以下のように推測される。ただし、本実施形態のリチウム二次電池は、以下の理由によって限定されることはない。
【0016】
本実施形態のリチウム二次電池は、負極活物質表面に存在するフッ素と、初回充電時に正極から供給されたLiイオンが結合することで、化学的に安定なLiFが生成される。LiFは、溶媒やLi塩分解に伴う高温保存中の不動態被膜(SEIともいう)の劣化を抑制する働きを有する。さらに充電初期にSEIを形成する添加剤を併用することで、より優れたSEI劣化を抑制する効果が得られる。その結果、高温保存時の容量損失が抑制されると考えられる。
【0017】
以上の理由により、本実施形態のリチウム二次電池によれば、高温保存時の容量損失を抑制することができると考えられる。
【0018】
<正極>
本実施形態のリチウム二次電池における正極は、リチウムイオンを吸蔵及び放出可能な正極である。
本実施形態のリチウム二次電池における正極は、好ましくは、リチウムイオンの吸蔵及び放出可能な正極活物質を少なくとも1種含む。
本実施形態のリチウム二次電池における正極は、より好ましくは、正極集電体と、正極活物質及びバインダーを含有する正極合材層と、を備える。
正極合材層は、正極集電体の表面の少なくとも一部に設けられる。
【0019】
(正極活物質)
正極活物質としては、リチウムイオンの吸蔵及び放出が可能な物質であれば特に限定されず、リチウム二次電池に通常用いられる正極活物質であり得る。
正極活物質としては、例えば;
リチウム(Li)とニッケル(Ni)とを構成金属元素とする酸化物;
Liと、Niと、Li及びNi以外の金属元素(例えば、遷移金属元素、典型金属元素等)の少なくとも1種と、を構成金属元素として含む酸化物;
等が挙げられる。
酸化物中において、Li及びNi以外の金属元素は、好ましくは、原子数換算で、Niと同程度、又は、Niよりも少ない割合で含まれる。
Li及びNi以外の金属元素は、例えば、Co、Mn、Al、Cr、Fe、V、Mg、Ca、Na、Ti、Zr、Nb、Mo、W、Cu、Zn、Ga、In、Sn、La及びCeからなる群から選択される少なくとも1種であり得る。これらの正極活物質は、単独で用いても複数を混合して用いてもよい。
【0020】
正極活物質は、好ましくは、下記一般式(C1)で表されるリチウム含有複合酸化物(以下、「NCM」ともいう)を含む。
リチウム含有複合酸化物(C1)は、単位体積当たりのエネルギー密度が高く、熱安定性にも優れるという利点を有する。
【0021】
LiNiCoMn … 一般式(C1)
〔一般式(C1)中、a、b及びcは、それぞれ独立に、0超1未満であり、a、b及びcの合計は、0.99~1.00である。〕
【0022】
NCMの具体例としては、LiNi0.33Co0.33Mn0.33、LiNi0.5Co0.2Mn0.3、LiNi0.6Co0.2Mn0.2、LiNi0.8Co0.1Mn0.1等が挙げられる。
【0023】
正極活物質は、下記一般式(C2)で表されるリチウム含有複合酸化物(以下、「NCA」ともいう)を含んでもよい。
【0024】
LiNi1-x-yCoAl … 一般式(C2)
(一般式(C2)中、tは、0.95以上1.15以下であり、xは、0以上0.3以下であり、yは、0.1以上0.2以下であり、x及びyの合計は、0.5未満である。)
【0025】
NCAの具体例としては、LiNi0.8Co0.15Al0.05等が挙げられる。
【0026】
本実施形態のリチウム二次電池における正極が、正極集電体と、正極活物質及びバインダーを含有する正極合材層と、を備える場合、正極合材層中の正極活物質の含有量は、正極合材層の全量に対し、例えば10質量%以上、好ましくは30質量%以上、更に好ましくは50質量%以上であり、特に好ましくは70質量%以上である。
また、正極合材層中の正極活物質の含有量は、例えば99.9質量%以下、好ましくは99質量%以下である。
【0027】
(バインダー)
正極合材層に含有され得るバインダーとしては、例えば、ポリ酢酸ビニル、ポリメチルメタクリレート、ニトロセルロース、フッ素樹脂、ゴム粒子等が挙げられる。
フッ素樹脂としては、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、フッ化ビニリデン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体等が挙げられる。
ゴム粒子としては、スチレン-ブタジエンゴム粒子、アクリロニトリルゴム粒子等が挙げられる。
これらの中でも、正極合材層の耐酸化性を向上させる観点から、フッ素樹脂が好ましい。
バインダーは1種を単独で使用でき、必要に応じて2種以上を組み合わせて使用できる。
【0028】
正極合材層中におけるバインダーの含有量は、正極合材層の物性(例えば、電解液浸透性、剥離強度、等)と電池性能との両立の観点から、正極合材層に対し、0.1質量%~4質量%であることが好ましい。
バインダーの含有量が0.1質量%以上である場合には、正極集電体に対する正極合材層の接着性、及び、正極活物質同士の結着性がより向上する。
バインダーの含有量が4質量%以下である場合には、正極合材層中における正極活物質の量をより多くすることができるので、電池容量がより向上する。
【0029】
(導電助材)
本実施形態の電池リチウム二次電池における正極が、正極集電体と正極合材層とを備える場合、正極合材層は、導電助材を含むことが好ましい。
導電助材としては、公知の導電助材を使用することができる。
【0030】
導電助材としては、公知の導電助材を使用することができる。
公知の導電助材としては、導電性を有する炭素材料であれば特に限定されるものではないが、グラファイト、カーボンブラック、導電性炭素繊維(カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバー、カーボンファイバー)、フラーレン等を単独で、もしくは2種類以上を併せて使用することができる。
市販のカーボンブラックとしては、例えば、トーカブラック#4300、#4400、#4500、#5500等(東海カーボン社製、ファーネスブラック)、プリンテックスL等(デグサ社製、ファーネスブラック)、Raven7000、5750、5250、5000ULTRAIII、5000ULTRA等、Conductex SC ULTRA、Conductex 975ULTRA等、PUER BLACK100、115、205等(コロンビヤン社製、ファーネスブラック)、#2350、#2400B、#2600B、#30050B、#3030B、#3230B、#3350B、#3400B、#5400B等(三菱ケミカル社製、ファーネスブラック)、MONARCH1400、1300、900、VulcanXC-72R、BlackPearls2000、LITX-50、LITX-200等(キャボット社製、ファーネスブラック)、Ensaco250G、Ensaco260G、Ensaco350G、Super-P(TIMCAL社製)、ケッチェンブラックEC-300J、EC-600JD(アクゾ社製)、デンカブラック、デンカブラックHS-100、FX-35(デンカ社製、アセチレンブラック)等が挙げられる。
グラファイトとしては、例えば、人造黒鉛、天然黒鉛(例えば、燐片状黒鉛、塊状黒鉛、土状黒鉛等)等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0031】
(その他の成分)
本実施形態のリチウム二次電池における正極が、正極集電体と正極合材層とを備える場合、正極合材層は、上記各成分に加えて、その他の成分を含んでいてもよい。
その他の成分としては、増粘剤、界面活性剤、分散剤、濡れ剤、消泡剤等が挙げられる。
【0032】
(正極集電体)
正極集電体としては、各種のものを使用することができるが、例えば、金属又は合金が用いられる。
正極集電体として、より具体的には、アルミニウム、ニッケル、SUS等が挙げられる。中でも、導電性の高さとコストとのバランスの観点から、アルミニウムが好ましい。ここで、「アルミニウム」は、純アルミニウム又はアルミニウム合金を意味する。
正極集電体として、特に好ましくはアルミニウム箔である。
アルミニウム箔としては特に限定されないが、A1085材、A3003材、等が挙げられる。
【0033】
(正極合材層の形成方法)
正極合材層は、例えば、正極活物質及びバインダーを含む正極合材スラリーを正極集電体の表面に塗布し、乾燥させることによって形成できる。
正極合材スラリーに含まれる溶媒としては、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)等の有機溶媒が好ましい。
【0034】
正極集電体に対して正極合剤スラリーを塗布し、乾燥させる上で、塗布方法及び乾燥方法は特に限定されない。
塗布方法としては、例えば、スロット・ダイコーティング、スライドコーティング、カーテンコーティング、グラビアコーティング等が挙げられる。
乾燥方法としては、温風、熱風、低湿風による乾燥;真空乾燥;赤外線(例えば遠赤外線)照射による乾燥;が挙げられる。
乾燥時間及び乾燥温度については、特に限定されないが、乾燥時間は例えば1分~30分であり、乾燥温度は例えば40℃~80℃である。
正極合材層の製造方法は、正極集電体上に正極合剤スラリーを塗布し、乾燥させた後、金型プレス、ロールプレス等を用いた加圧処理により、正極活物質層の空隙率を低くする工程を有することが好ましい。
【0035】
<負極>
本実施形態のリチウム二次電池における負極は、リチウムイオンの吸蔵及び放出が可能な負極活物質を含有する。この負極活物質は炭素質材料である。この炭素質材料の表面の少なくとも一部は、フッ素を含む官能基で修飾されている。
本実施形態のリチウム二次電池における負極は、より好ましくは、負極集電体と、負極活物質及びバインダーを含有する負極合材層と、を備える。
負極合材層は、負極集電体の表面の少なくとも一部に設けられる。
【0036】
(負極活物質)
負極活物質として用いられる炭素質材料は、リチウムイオンの吸蔵及び放出が可能な炭素質材料であれば特に制限はない。
上記炭素質材料としては、カーボンブラック、活性炭、黒鉛材料(例えば、人造黒鉛、天然黒鉛等)、非晶質炭素質材料、等が挙げられる。
上記炭素質材料の形態は、繊維状、球状、ポテト状、フレーク状いずれの形態であってもよい。
上記炭素質材料の粒径は特に限定されないが、例えば5μm~50μm、好ましくは20μm~30μmである。
【0037】
非晶質炭素質材料として、具体的には、ハードカーボン、コークス、1500℃以下に焼成したメソカーボンマイクロビーズ(MCMB)、メソフェーズピッチカーボンファイバー(MCF)などが例示される。
【0038】
黒鉛材料(以下、単に「黒鉛」ともいう。)としては、天然黒鉛、人造黒鉛が挙げられる。
人造黒鉛としては、黒鉛化MCMB、黒鉛化MCFなどが用いられる。
また、黒鉛材料としては、ホウ素を含有するものなども用いることができる。
また、黒鉛材料としては、金、白金、銀、銅、スズなどの金属で被覆したもの、非晶質炭素で被覆したもの、非晶質炭素と黒鉛を混合したものも使用することができる。
【0039】
炭素質材料として、黒鉛等の結晶性の炭素質材料を使用することが好ましい。
これらの炭素質材料は、1種類で使用してもよく、2種類以上混合して使用してもよい。
【0040】
(フッ素を含む官能基)
負極活物質として使用される炭素質材料は、表面の少なくとも一部がフッ素を含む官能基で修飾されている。
フッ素を含む官能基としては、モノフルオロメチル基、ジフルオロメチル基、トリフルオロメチル基、トリフルオロエチル基、ジフルオロメチレン基、トリフルオロメチルスルホニル基、及びトリフルオロアセチル基から選ばれる少なくとも1種を含むことが好ましく、これらの中でも、トリフルオロアセチル基、トリフルオロメチル基から選ばれる少なくとも1種を含むことがより好ましい。
【0041】
上記のフッ素を含む官能基によって表面の少なくとも一部が修飾されている炭素質材料は、例えば、炭素質材料に対して後述するフッ化カルボン酸を反応させることにより得られる。
具体的な反応方法として、例えば、炭素質材料に対して気体状態のフッ化カルボン酸を反応させる方法、溶媒中に分散したフッ化カルボン酸を反応させる方法等が挙げられる。
【0042】
負極活物質として使用される、表面の少なくとも一部がフッ素を含む官能基で修飾されている炭素質材料(以下、「表面修飾炭素質材料」ともいう。)は、飛行時間型二次イオン質量分析法によって、Fのフラグメントが検出される材料である。
言い換えると、炭素質材料の表面の少なくとも一部が、フッ素を含む官能基で修飾されていることは、飛行時間型二次イオン質量分析法により確認することができる。
具体的には、飛行時間型二次イオン質量分析法(TOF-SIMS:Time-of-Flight Secondary Ion Mass Spectrometry)により表面修飾炭素質材料の表面を測定したときの二次イオンに、Fフラグメントが検出されることにより、炭素質材料の表面の少なくとも一部にフッ素を含む官能基を有することが確認される。
【0043】
表面の少なくとも一部がフッ素を含む官能基で修飾されている炭素質材料(すなわち、「表面修飾炭素質材料」)の表面の、飛行時間型二次イオン質量分析法による負イオン分析で得られたm/zが0超200以下のスペクトルにおいて、検出されるすべてのフラグメントイオンの強度の合計値(I)に対するフッ素イオン強度(I)の比率[I/I]が、3.0×10-4以上3.0×10-3以下であることが好ましく、5.0×10-4以上2.0×10-3以下であることがより好ましい。
比率[I/I]が、3.0×10-4以上3.0×10-3以下の範囲であれば、修飾後の化合物自体が充放電の妨げとなる現象が抑制され、容量減少の抑制が期待できるため、好ましい。
【0044】
(導電助材)
本実施形態のリチウム二次電池における負極が、負極集電体と負極合材層とを備える場合、負極合材層は、導電助材を含むことが好ましい。
導電助材としては、公知の導電助材を使用することができる。
負極合材層に含まれ得る導電助材の具体例は、前述した、正極合材層に含まれ得る導電助材の具体例と同様である。
【0045】
(その他の成分)
本実施形態のリチウム二次電池における負極が、負極集電体と負極合材層とを備える場合、負極合材層は、上記各成分に加えて、その他の成分を含んでいてもよい。
その他の成分としては、増粘剤、界面活性剤、分散剤、濡れ剤、消泡剤等が挙げられる。
【0046】
(負極合材層の形成方法)
負極合材層は、例えば、負極活物質及びバインダーを含む負極合材スラリーを負極集電体の表面に塗布し、乾燥させることによって形成できる。
負極合材スラリーに含まれる溶媒としては、水を使用することが好ましいが、必要に応じて、例えば、集電体への塗工性向上のために、水と相溶する液状媒体を使用してもよい。
水と相溶する液状媒体としては、アルコール類、グリコール類、セロソルブ類、アミノアルコール類、アミン類、ケトン類、カルボン酸アミド類、リン酸アミド類、スルホキシド類、カルボン酸エステル類、リン酸エステル類、エーテル類、ニトリル類等が挙げられ、水と相溶する範囲で使用してもよい。
【0047】
負極合材層の形成方法の好ましい態様は、前述した、正極合材層の形成方法の好ましい態様と同様である。
【0048】
<セパレータ>
本実施形態のリチウム二次電池におけるセパレータとしては、例えば、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリエステル、セルロース、ポリアミド等の樹脂を含む多孔質の平板が挙げられる。また、セパレータとしては、上記樹脂を含む不織布も挙げられる。
好適例として、一種または二種以上のポリオレフィン樹脂を主体に構成された単層または多層構造の多孔性樹脂シートが挙げられる。
セパレータの厚みは、例えば5μm~30μmとすることができる。
セパレータは、好ましくは、正極と負極との間に配置される。
【0049】
<非水電解液>
本実施形態のリチウム二次電池における非水電解液は、下記一般式(A)で表される環状化合物を含有する。
【0050】
【化7】
【0051】
一般式(A)中、Lは、酸素原子、または炭素数1~6の2価の炭化水素基を表し、かつ、Lは、炭素数1~6の2価の炭化水素基、カルボニル基または一般式(a)で表される基を表す。*は、結合位置を示す。
【0052】
【化8】
【0053】
式(A)中、Lは炭素数1~3のアルキレン基、ビニレン基、または酸素原子であることが好ましく、トリメチレン基、ジメチレン基、ビニレン基、カルボニル基、酸素原子であることがより好ましい。
また、式(A)中、Lは炭素数1~3のアルキレン基、ビニレン基、カルボニル基または上記式(a)で表される基であることが好ましく、メチレン基、ビニレン基、ジメチレン基、式(a)で表される基であることがより好ましい。
【0054】
式(A)中、Lで表される炭素数1~6の2価の炭化水素基としては、アルキレン基、アルケニレン基、又はアルキニレン基が好ましい。2価の炭化水素基は、鎖状であることが好ましく、隣接していない酸素原子又は硫黄原子を含んでいてもよい。また、2価の炭化水素基は、置換基を有していてもよく、置換基としては、ハロゲン原子(フッ素、塩素、臭素)、シアノ基、メチル基、エチル基等が挙げられる。
【0055】
式(A)で表される化合物の具体例としては、下記式(A-1)~(A-4)、下記式(A-101)~(A-103)で表される化合物(以下、それぞれ、化合物(A-1))~(A-4)、化合物(A-101)~(A-103)ともいう)が挙げられるが、式(A)で表される化合物は、これらの具体例には限定されない。
【0056】
【化9】
【0057】
上記の具体例のうち、特に好ましいものは、式(A)中、Lがビニレン基であるとき、Lがメチレン基であること、すなわち、式(A)で表される環状化合物が、化合物(A-1)(即ち、1,3-プロペンスルトン;以下、「PRS」ともいう)であるもの、または、式(A)中、Lが酸素原子であるとき、Lが式(a)で表される基であること、すなわち、式(A)で表される環状化合物が、上記の化合物(A-101)であるものである。
【0058】
本開示の非水電解液は、上記一般式(A)で表される環状化合物を1種のみ含有していてもよいし、2種以上含有していてもよい。
本開示の非水電解液は、上記一般式(A)で表される環状化合物を電池用添加剤として含んでもよいし、電解質の供給源として含んでもよい。
【0059】
本開示の非水電解液における一般式(A)で表される環状化合物の含有量には特に制限はないが、非水電解液の全量に対し、好ましくは0.1質量%~5.0質量%である。
非水電解液の全量に対する一般式(A)で表される環状化合物の含有量が0.1質量%以上である場合には、本開示の非水電解液による効果がより効果的に奏される。非水電解液の全量に対する一般式(A)で表される環状化合物の含有量は、より好ましくは0.2質量%以上であり、更に好ましくは0.3質量%以上であり、更に好ましくは0.5質量%以上である。
非水電解液の全量に対する一般式(A)で表される環状化合物の含有量が5.0質量%以下である場合には、非水電解液の化学的安定性がより向上する。
非水電解液の全量に対する一般式(A)で表される環状化合物の含有量は、より好ましくは3.0質量%以下であり、更に好ましくは2.0質量%以下であり、更に好ましくは1.0質量%以下である。
【0060】
本開示の非水電解液が、上記一般式(A)で表される環状化合物を電解質の供給源として含む場合、電解質の濃度は、0.1mol/L~3mol/Lが好ましく、0.5mol/L~2mol/Lがより好ましい。
【0061】
なお、実際に電池を解体して採取した非水電解液を分析しても、上記一般式(A)で表される環状化合物の量が、非水電解液への添加量と比較して減少している場合がある。従って、電池から取り出した非水電解液中に少量でも上記一般式(A)で表される環状化合物が検出できる場合には、本開示の非水電解液の範囲に含まれる。
また、非水電解液から上記一般式(A)で表される環状化合物が検出できない場合であっても、非水電解液中や電極の被膜中に、上記一般式(A)で表される環状化合物の分解物由来の化合物が検出される場合も、本開示の非水電解液の範囲に含まれるとみなされる。
これらの取り扱いは、非水電解液に含有され得る上記一般式(A)で表される環状化合物以外の化合物についても同様である。
【0062】
(その他の添加剤)
本開示の非水電解液は、更に、炭素-炭素不飽和結合を有するカーボネート化合物、フッ素原子を有するカーボネート化合物、フルオロリン酸化合物、オキサラト化合物、及びフッ素原子を有する脂肪族環状化合物からなる群から選ばれる少なくとも1種である添加剤を含有することが好ましい。
【0063】
(炭素-炭素不飽和結合を有するカーボネート化合物)
炭素-炭素不飽和結合を有するカーボネート化合物(ただし、添加剤Cを除く)としては、メチルビニルカーボネート、エチルビニルカーボネート、ジビニルカーボネート、メチルプロピニルカーボネート、エチルプロピニルカーボネート、ジプロピニルカーボネート、メチルフェニルカーボネート、エチルフェニルカーボネート、ジフェニルカーボネートなどの鎖状カーボネート類;ビニルエチレンカーボネート、4,4-ジビニルエチレンカーボネート、4,5-ジビニルエチレンカーボネート、エチニルエチレンカーボネート、4,4-ジエチニルエチレンカーボネート、4,5-ジエチニルエチレンカーボネート、プロピニルエチレンカーボネート、4,4-ジプロピニルエチレンカーボネート、4,5-ジプロピニルエチレンカーボネートなどの環状カーボネート類;などが挙げられる。これらのうち、好ましくは、メチルフェニルカーボネート、エチルフェニルカーボネート、ジフェニルカーボネート、ビニルエチレンカーボネート、4,4-ジビニルエチレンカーボネート、又は4,5-ジビニルエチレンカーボネートであり、より好ましくは、ビニルエチレンカーボネートである。
【0064】
(フッ素原子を有するカーボネート化合物)
フッ素原子を有するカーボネート化合物としては、メチルトリフルオロメチルカーボネート、エチルトリフルオロメチルカーボネート、ビス(トリフルオロメチル)カーボネート、メチル(2,2,2-トリフルオロエチル)カーボネート、エチル(2,2,2-トリフルオロエチル)カーボネート、ビス(2,2,2-トリフルオロエチル)カーボネートなどの鎖状カーボネート類;4-フルオロエチレンカーボネート、4,4-ジフルオロエチレンカーボネート、4,5-ジフルオロエチレンカーボネート、4-トリフルオロメチルエチレンカーボネートなどの環状カーボネート類;などが挙げられる。これらのうち、好ましくは、4-フルオロエチレンカーボネート、4,4-ジフルオロエチレンカーボネート、又は4,5-ジフルオロエチレンカーボネートである。
【0065】
(フルオロリン酸化合物)
フルオロリン酸化合物としては、ジフルオロリン酸リチウム、モノフルオロリン酸リチウム、ジフルオロリン酸、モノフルオロリン酸、ジフルオロリン酸メチル、ジフルオロリン酸エチル、フルオロリン酸ジメチル、フルオロリン酸ジエチルなどが挙げられる。これらのうち、好ましくはジフルオロリン酸リチウム又はモノフルオロリン酸リチウムである。
【0066】
(オキサラト化合物)
オキサラト化合物(ただし、ビス(オキサラト)ホウ酸リチウム及びジフルオロ(オキサラト)ホウ酸リチウムを除く)としては、ジフルオロビス(オキサラト)リン酸リチウム、テトラフルオロ(オキサラト)リン酸リチウム、トリス(オキサラト)リン酸リチウムなどが挙げられる。これらのうち、好ましくはジフルオロビス(オキサラト)リン酸リチウム又はテトラフルオロ(オキサラト)リン酸リチウムである。
【0067】
(フッ素原子を有する脂肪族環状化合物)
フッ素原子を有する脂肪族環状化合物としては、下記一般式(VII)又は下記一般式(VIII)で表される化合物が挙げられる。
【0068】
【化10】

【0069】
一般式(VII)中、mは1~8の整数であり、一般式(VIII)中、nは1~10の整数である。
【0070】
一般式(VII)又は一般式(VIII)で表される化合物のうち、特に好ましくは1,1,2,2,3,3,4-ヘプタフルオロシクロペンタン、1,1,2,2,3,3,4,5-オクタフルオロシクロペンタン、1,2,3,4,5,6-ヘキサフルオロシクロヘキサン、1,1,2,2,3,4,5,6-オクタフルオロシクロヘキサン、1,1,2,2,3,3,4,4,5,6-デカフルオロシクロヘキサンである。
【0071】
次に、非水電解液の他の成分について説明する。
非水電解液は、一般的には、電解質と非水溶媒とを含有する。
【0072】
<電解質>
本実施形態の非水電解液は、フッ素を含むリチウム塩(以下、「含フッ素リチウム塩」ともいう)である電解質を少なくとも1種含有する。
含フッ素リチウム塩としては、例えば;
六フッ化リン酸リチウム(LiPF)、四フッ化ホウ酸リチウム(LiBF)、六フッ化ヒ酸リチウム(LiAsF)、六フッ化タンタル酸リチウム(LiTaF)、等の無機酸陰イオン塩;
トリフルオロメタンスルホン酸リチウム(LiCFSO)、リチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(Li(CFSON)、リチウムビス(ペンタフルオロエタンスルホニル)イミド(Li(CSON)等の有機酸陰イオン塩;
等が挙げられる。
含フッ素リチウム塩としては、LiPFが特に好ましい。
【0073】
本実施形態の非水電解液は、フッ素を含まないリチウム塩である電解質を含有していてもよい。
フッ素を含まないリチウム塩としては、過塩素酸リチウム(LiClO)、四塩化アルミニウム酸リチウム(LiAlCl)、リチウムデカクロロデカホウ素酸(Li10Cl10)等が挙げられる。
【0074】
本実施形態の非水電解液に含有される電解質全体に占める、含フッ素リチウム塩の割合は、好ましくは50質量%~100質量%であり、より好ましくは60質量%~100質量%であり、更に好ましくは80質量%~100質量%である。
【0075】
本実施形態の非水電解液に含有される電解質全体に占める、LiPFの割合は、好ましくは50質量%~100質量%であり、より好ましくは60質量%~100質量%であり、更に好ましくは80質量%~100質量%である。
【0076】
本実施形態の非水電解液における電解質の濃度は、好ましくは0.1mol/L~3mol/Lであり、より好ましくは0.5mol/L~2mol/Lである。
【0077】
本実施形態の非水電解液におけるLiPFの濃度は、好ましくは0.1mol/L~3mol/Lであり、より好ましくは0.5mol/L~2mol/Lである。
【0078】
<非水溶媒>
本実施形態の非水電解液は、非水溶媒を少なくとも1種含有する。
非水溶媒としては、例えば、環状カーボネート類、含フッ素環状カーボネート類、鎖状カーボネート類、含フッ素鎖状カーボネート類、脂肪族カルボン酸エステル類、含フッ素脂肪族カルボン酸エステル類、γ-ラクトン類、含フッ素γ-ラクトン類、環状エーテル類、含フッ素環状エーテル類、鎖状エーテル類、含フッ素鎖状エーテル類、ニトリル類、アミド類、ラクタム類、ニトロメタン、ニトロエタン、スルホラン、燐酸トリメチル、ジメチルスルホキシド、ジメチルスルホキシド燐酸、等が挙げられる。
【0079】
環状カーボネート類としては、例えば、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、ブチレンカーボネート(BC)、等が挙げられる。
含フッ素環状カーボネート類としては、例えば、フルオロエチレンカーボネート(FEC)、等が挙げられる。
鎖状カーボネート類としては、例えば、ジメチルカーボネート(DMC)、ジエチルカーボネート(DEC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、メチルプロピルカーボネート(MPC)、エチルプロピルカーボネート(EPC)、ジプロピルカーボネート(DPC)、等が挙げられる。
脂肪族カルボン酸エステル類としては、例えば、ギ酸メチル、酢酸メチル、プロピオン酸メチル、酪酸メチル、イソ酪酸メチル、トリメチル酪酸メチル、ギ酸エチル、酢酸エチル、プロピオン酸エチル、酪酸エチル、イソ酪酸エチル、トリメチル酪酸エチル、等が挙げられる。
γ-ラクトン類としては、例えば、γ-ブチロラクトン、γ-バレロラクトン、等が挙げられる
環状エーテル類としては、例えば、テトラヒドロフラン、2-メチルテトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン、1,3-ジオキソラン、4-メチル-1,3-ジオキソラン、1,3-ジオキサン、1,4-ジオキサン、等が挙げられる
鎖状エーテル類としては、例えば、1,2-エトキシエタン(DEE)、エトキシメトキシエタン(EME)、ジエチルエーテル、1,2-ジメトキシエタン、1,2-ジブトキシエタン、等が挙げられる。
ニトリル類としては、例えば、アセトニトリル、グルタロニトリル、アジポニトリル、メトキシアセトニトリル、3-メトキシプロピオニトリル、等が挙げられる。
アミド類としては、例えば、N,N-ジメチルホルムアミド、等が挙げられる。
ラクタム類としては、例えば、N-メチルピロリジノン、N-メチルオキサゾリジノン、N,N'-ジメチルイミダゾリジノン、等が挙げられる。
【0080】
非水溶媒は、環状カーボネート類、含フッ素環状カーボネート類、鎖状カーボネート類、及び含フッ素鎖状カーボネート類からなる群から選択される少なくとも1種を含むことが好ましい。
この場合、非水溶媒中に占める、環状カーボネート類、含フッ素環状カーボネート類、鎖状カーボネート類、及び含フッ素鎖状カーボネート類の合計の割合は、好ましくは50質量%~100質量%であり、より好ましくは60質量%~100質量%であり、更に好ましくは80質量%~100質量%である。
【0081】
また、非水溶媒は、環状カーボネート類及び鎖状カーボネート類からなる群から選択される少なくとも1種を含むことが好ましい。
この場合、非水溶媒中に占める、環状カーボネート類及び鎖状カーボネート類の合計の割合は、好ましくは50質量%~100質量%であり、より好ましくは60質量%~100質量%であり、更に好ましくは80質量%~100質量%である。
【0082】
本実施形態の非水電解液中に占める非水溶媒の割合は、好ましくは60質量%以上であり、より好ましくは70質量%以上である。
本実施形態の非水電解液中に占める非水溶媒の割合の上限は、他の成分(リン酸ホウ素リチウム化合物(X)、電解質、等)の含有量にもよるが、上限は、例えば99質量%であり、好ましくは97質量%であり、更に好ましくは90質量%である。
【0083】
非水溶媒の固有粘度は、電解質の解離性及びイオンの移動度をより向上させる観点から、25℃において10.0mPa・s以下であることが好ましい。
【0084】
本実施形態の非水電解液の固有粘度は、電解質の解離性及びイオンの移動度をより向上させる観点から、25℃において10.0mPa・s以下であることが好ましい。
【0085】
<非水電解液の製造方法>
本実施形態の非水電解液を製造する方法には特に限定はない。本実施形態の非水電解液は、各成分を混合して製造すればよい。
【0086】
本実施形態の非水電解液を製造する方法としては、例えば、
非水溶媒に電解質を溶解させて溶液を得る工程と、
得られた溶液に対し、一般式(A)で表される環状化合物を添加して混合し、非水電解液を得る工程と、
を含む製造方法が挙げられる。
【0087】
<リチウム二次電池の製造方法>
本開示の実施形態に係るリチウム二次電池の製造方法(以下、「本実施形態の電池の製造方法」ともいう)は、
正極を準備する工程と、リチウムイオンの吸蔵及び放出が可能な負極活物質であって、表面の少なくとも一部がフッ素を含む官能基で修飾されている炭素質材料を含む負極活物質を含有する負極を準備する工程と、既述の一般式(A)で表される環状化合物を含有する非水電解液を準備する工程と、前記正極と、前記負極と、前記正極と前記負極との間に介在する前記セパレータと、前記非水電解液とを備えるリチウム二次電池前駆体を製造する工程と、
前記リチウム二次電池前駆体に対して、充電及び放電を施してリチウム二次電池を得る工程と、を含む。
【0088】
また、本実施形態の電池の製造方法において、負極を準備する工程は、フッ素化カルボン酸及びフッ素化カルボン酸無水物の少なくとも一方(以下、「フッ化カルボン酸類X」ともいう。)と、炭素質材料と、を反応させることにより、表面の少なくとも一部がフッ素を含む官能基で修飾されている炭素質材料(すなわち、「表面修飾炭素質材料」)を得る工程を含むことが好ましい。
表面修飾炭素質材料を得る工程において、フッ化カルボン酸類Xと、炭素質材料との反応は、フッ化カルボン酸類Xが気体状態または液体状態で炭素質材料に接触させることが好ましく、フッ化カルボン酸類Xが気体状態で炭素質材料に接触させることがより好ましい。
【0089】
ここで、フッ素化カルボン酸としては、公知のものの中から適宜選択して用いることができ、例えば、下記一般式(1)で表される化合物を挙げることができる。また、フッ素かカルボン酸無水物としては、下記一般式(1)で表される化合物の無水物を挙げることができる。
【0090】
CR3(CR2nCOOH 一般式(1)
〔式中、nは0~4の整数を表す。また、Rは、水素又はフッ素であり、複数のRのうちの少なくとも1つはフッ素である。〕
【0091】
式(4)で表される化合物の中でも、トリフルオロ酢酸であることが特に好ましい。
【0092】
本実施形態の電池の製造方法において、リチウム二次電池前駆体(以下、「電池前駆体」ともいう。)に対して、充電及び放電を施してリチウム二次電池を得る工程を「エージング工程」ともいう。
エージング工程における処理条件は、好ましくは、
電池前駆体を30℃~70℃(好ましくは、30℃~60℃)の環境下で保持する初期保持フェーズと、
初期保持フェーズ後の電池前駆体を、30℃~70℃(好ましくは、30℃~60℃)の環境下で充電する初期充電フェーズと、
初期充電フェーズ後の電池前駆体を、30℃~70℃(好ましくは、30℃~60℃)の環境下で保持する第2保持フェーズと、
第2保持フェーズ後の電池前駆体に対し、30℃~70℃(好ましくは、30℃~60℃)の環境下で、充電及び放電の組み合わせを1回以上施す充放電フェーズと、
を含む。
【0093】
上記好ましい態様によれば、リチウム二次電池の保存時の容量損失の抑制効果がより効果的に発揮される。
【0094】
<電池の構成>
本開示のリチウムイオン二次電池は、種々公知の形状をとることができ、円筒型、コイン型、角型、ラミネート型、フィルム型その他任意の形状に形成することができる。しかし、電池の基本構造は、形状によらず同じであり、目的に応じて設計変更を施すことができる。
【0095】
本開示のリチウムイオン二次電池の例として、ラミネート型電池が挙げられる。
図1は、本開示のリチウムイオン二次電池の一例であるラミネート型電池の一例を示す概略斜視図であり、図2は、図1に示すラミネート型電池に収容される積層型電極体の厚さ方向の概略断面図である。
図1に示すラミネート型電池は、内部に非水電解液(図1中では不図示)及び積層型電極体(図1中では不図示)が収納され、且つ、周縁部が封止されることにより内部が密閉されたラミネート外装体1を備える。ラミネート外装体1としては、例えばアルミニウム製のラミネート外装体が用いられる。
ラミネート外装体1に収容される積層型電極体は、図2に示されるように、正極板5と負極板6とがセパレータ7を介して交互に積層されてなる積層体と、この積層体の周囲を囲むセパレータ8と、を備える。正極板5、負極板6、セパレータ7、及びセパレータ8には、本開示の非水電解液が含浸されている。正極板5は、正極集電体及び正極活物質層とを含む。負極板5は、負極集電体及び負極活物質層とを含む。
上記積層型電極体における複数の正極板5は、いずれも正極タブを介して正極端子2と電気的に接続されており(不図示)、この正極端子2の一部が上記ラミネート外装体1の周端部から外側に突出している(図1)。ラミネート外装体1の周端部において正極端子2が突出する部分は、絶縁シール4によってシールされている。
同様に、上記積層型電極体における複数の負極板6は、いずれも負極タブを介して負極端子3と電気的に接続されており(不図示)、この負極端子3の一部が上記ラミネート外装体1の周端部から外側に突出している(図1)。ラミネート外装体1の周端部において負極端子3が突出する部分は、絶縁シール4によってシールされている。
なお、上記一例に係るラミネート型電池では、正極板5の数が5枚、負極板6の数が6枚となっており、正極板5と負極板6とがセパレータ7を介し、両側の最外層がいずれも負極板6となる配置で積層されている。しかし、ラミネート型電池における、正極板の数、負極板の数、及び配置については、この一例には限定されず、種々の変更がなされてもよいことは言うまでもない。
【0096】
本開示のリチウムイオン二次電池の別の一例として、コイン型電池も挙げられる。
図3は、本開示のリチウムイオン二次電池の別の一例であるコイン型電池の一例を示す概略斜視図である。
図3に示すコイン型電池では、円盤状負極12、非水電解液を注入したセパレータ15、円盤状正極11、必要に応じて、ステンレス、又はアルミニウムなどのスペーサー板17、18が、この順序に積層された状態で、正極缶13(以下、「電池缶」ともいう)と封口板14(以下、「電池缶蓋」ともいう)との間に収納される。正極缶13と封口板14とはガスケット16を介してかしめ密封する。
この一例では、セパレータ15に注入される非水電解液として、本開示の非水電解液を用いる。円盤状正極11は、正極集電体及び正極活物質層を含む。円盤状負極12は、負極集電体及び負極活物質層を含む。
【0097】
なお、本開示のリチウムイオン二次電池は、正極と、負極と、本開示の非水電解液と、を備えるリチウムイオン二次電池(充放電前のリチウムイオン二次電池)を、充放電させて得られたリチウムイオン二次電池であってもよい。
即ち、本開示のリチウムイオン二次電池は、まず、正極と、負極と、本開示の非水電解液と、を備える充放電前のリチウムイオン二次電池を作製し、次いで、この充放電前のリチウムイオン二次電池を1回以上充放電させることによって作製されたリチウムイオン二次電池(充放電されたリチウムイオン二次電池)であってもよい。
【0098】
本開示のリチウムイオン二次電池の用途は特に限定されず、種々公知の用途に用いることができる。例えば、ノート型パソコン、モバイルパソコン、携帯電話、ヘッドホンステレオ、ビデオムービー、液晶テレビ、ハンディークリーナー、電子手帳、電卓、ラジオ、バックアップ電源用途、モーター、自動車、電気自動車、バイク、電動バイク、自転車、電動自転車、照明器具、ゲーム機、時計、電動工具、カメラ等、小型携帯機器、大型機器を問わず広く利用可能なものである。
【実施例
【0099】
以下、本開示の実施例を示すが、本開示は以下の実施例には限定されない。
以下の実施例において、「添加量」は、最終的に得られる非水電解液中における含有量(即ち、最終的に得られる非水電解液全量に対する量)を意味する。
また、「wt%」は、質量%を意味する。
【0100】
〔実施例1〕
以下の手順にて、リチウムイオン二次電池であるコイン型電池(試験用電池)を作製した。
【0101】
<負極の作製>
1.炭素質材料の修飾
黒鉛粉末、無水トリフルオロ酢酸、バイアル瓶、デュワーフラスコ、真空ポンプ、及びセパラブルフラスコを準備した。
デュワーフラスコに液体窒素を入れ、液体窒素中に無水トリフルオロ酢酸の入ったバイアル瓶を浸けた。バイアル瓶の内部が凍結するまで数分待機した後、デュワーフラスコからバイアル瓶を取り出して、このバイアル瓶と、シャーレに入れた上記黒鉛粉末とを共にセパラブルフラスコの内部に置き、真空ポンプで20Pa以下まで減圧した。この時、凍らせた無水トリフルオロ酢酸の表面が溶け出した段階、すなわち無水トリフルオロ酢酸が気化していることが確認された段階で真空ラインを閉じ、24時間静置した。静置中はバイアル瓶内に常に無水トリフルオロ酢酸が残存していることを確認し、セパラブルフラスコ内が無水トリフルオロ酢酸の飽和蒸気で満たされていることを確認した。静置後、セパラブルフラスコ内を常圧に戻し、無水トリフルオロ酢酸の入ったバイアル瓶を取り出してから再び真空ラインを開け、再び20Pa以下まで減圧して、乾燥させた。5分後に真空ラインを閉じ、セパラブルフラスコから黒鉛粉末を取り出した。上記の操作は室温で実施した。さらに、この黒鉛粉末に対し、真空乾燥器で80℃24時間乾燥処理を行った。
【0102】
得られた黒鉛粉末は、表面の少なくとも一部がトリフルオロアセチル基で修飾されている黒鉛粉末(以下、「表面修飾黒鉛粉末」ともいう。)である。
【0103】
2.スラリー調製
スラリーの作成には自転・公転ミキサーを用いた。表面修飾黒鉛粉末30gと、Super-P(導電性カーボン、BET比表面積62m/g)0.31gに、1%CMC(CMCを純水で溶解させた)を22g加え30分間混合した。次いで、1%-CMC水溶液5.5gを加えて30分間混練した後、バインダーとなるSBR(40%乳化液)1.3gを加えて30分間混合した後、真空脱泡30分間を行った。こうして固形分濃度50%のスラリーを調製した。
【0104】
3.塗工・乾燥
スラリー塗工にはダイコーターを用いた。乾燥後の塗布重量が12.0mg/cmになるように、上記スラリーを銅箔(厚み10μm)の片面に塗布し乾燥した。次いで、反対面(未塗工面)に、同様に塗布重量が12.0mg/cmになるように、上記スラリーを銅箔に塗布し乾燥した。こうして得た片面塗工の負極ロールを、真空乾燥オーブンで120℃、12時間乾燥し、電極を得た。
【0105】
4.プレス
小型プレス機を用いた。上下ロールのギャップ(隙間)を調整し、上記負極をプレス密度が1.30±0.05g/cmになるように圧縮した。
【0106】
<正極の作製>
1.スラリー調整
スラリー調製は5Lのプラネタリーディスパを用いた。NCM523(Umicore社製、組成式LiNi0.5Co0.2Mn0.3)920gと、Super-P(TIMCAL社製導電性カーボン)20g、KS-6(TIMREX社製鱗片状黒鉛)20gを10分間混合した後、N-メチルピロリドン(NMP)を100g加え更に20分間混合した。
【0107】
次いで、8質量%-バインダー溶液150gを加えて、30分間混練した後、更に8質量%-バインダー溶液150gを加えて30分間混練した。その後、8質量%-バインダー溶液200gを加えて30分間混練した。次いで、NMPに溶解した溶液を80g加えて30分間混練した。その後、粘度調整のためNMP27gを加えて30分間混合した後、真空脱泡30分間を行った。こうして固形分濃度60%のスラリーを調製した。
【0108】
2.塗工・乾燥
スラリー塗工にはダイコーターを用いた。乾燥後の塗布重量が22.0mg/cmになるように、上記スラリーをアルミ箔(厚み20μm、幅200mm)の片面に塗布し乾燥した。こうして得た片面塗工の正極ロールを、真空乾燥オーブンで120℃、12時間乾燥した。
【0109】
3.プレス
小型プレス機を用いた。上下ロールのギャップ(隙間)を調整し、上記負極をプレス密度が1.30±0.05g/cmになるように圧縮した。
【0110】
<非水電解液の調製>
非水溶媒として、エチレンカーボネート(EC)とジメチルカーボネート(DMC)とメチルエチルカーボネート(EMC)とをそれぞれ30:35:35(体積比)の割合で混合し、混合溶媒を得た。
得られた混合溶媒中に、電解質としてのLiPFを、最終的に調製される非水電解液中における電解質濃度が1モル/リットルとなるように溶解させた。
得られた溶液に対して、添加剤として、既述の化合物(A-101)を、最終的に調製される非水電解液全質量に対する含有量が0.5質量%となるように添加し、非水電解液を得た。
【0111】
<コイン型電池の作製>
上述の負極を直径14.5mmで、上述の正極を直径13mmで、それぞれ円盤状に打ち抜いて、コイン状の電極(負極及び正極)を得た。また、厚さ20μmの微多孔性ポリエチレンフィルムを直径16mmの円盤状に打ち抜きセパレータを得た。
得られたコイン状の負極、セパレータ及びコイン状の正極を、この順序でステンレス製の電池ケース(2032サイズ)内に積層し、上記非水電解液40μlを注入してセパレータと正極と負極に含漬させた。
さらに、正極上にアルミニウム製の板(厚さ1.2mm、直径16mm)及びバネを乗せ、ポリプロピレン製のガスケットを介して、電池ケースの蓋をかしめることにより電池を密封し、直径20mm、高さ3.2mmの図3で示す構成を有するコイン型電池(即ち、コイン型のリチウムイオン二次電池)を作製した。
【0112】
<評価>
得られたコイン型電池について、以下の評価を実施した。
評価結果を表1に示す。
【0113】
[コイン型電池の評価]
得られたコイン型電池について、ASKA充放電装置(ASKA CHARGE DISCHARGE SYSTEM ACD-M01A, ASKA ElectronicCo.,Ltd.,Japan)と恒温槽(LU-113,ESPEC CORP.,Japan)を用いて、以下の評価を実施した。
【0114】
-コンディショニング-
上記コイン型電池を、恒温槽内で25℃にて、充電レート0.2Cで4.2VまでCC-CV充電してから放電レート0.2Cで2.5VまでCC放電する操作を1回実施した。このとき、充電時のカットオフ電流値を0.05Cとした。
【0115】
-初期の放電容量(0.2C)-
コンディショニング後のコイン型電池を充電レート0.2CにてSOC(State of Chargeの略)100%まで充電させた後、25℃にて、放電レート0.2CにてCC放電する操作を実施し、このときの放電容量を初期の放電容量(0.2C)とした。
【0116】
-初期の放電容量(2C)-
放電レートを0.2Cから2Cに変更したこと以外は初期の放電容量(0.2C)と同様にして、初期の放電容量(2C)を測定した。
【0117】
-高温保存後の残存容量(0.2C)-
上記初期充放電後のコイン型電池に対し、高温保存試験を施した。
ここで、高温保存試験は、初期充放電後のコイン型電池に対し、充電レート0.2CにてSOC100%まで充電させ、その後、60℃にて1週間静置する操作とした。このとき、保存前の充電に要した容量を高温保存試験前のSOC調整容量とした。
高温保存試験後のコイン型電池を用い、放電レート0.2CにてSOC0%まで放電させ、残存容量(0.2C)を測定した。
後述する比較例1についても同様にして、コイン型電池の高温保存後の残存容量(0.2C)を求めた。比較例1におけるコイン型電池の高温保存後の残存容量(0.2C)を100とした場合の相対値として、実施例1におけるコイン型電池の高温保存後の残存容量(0.2C)(相対値)を求めた。結果を表1に示す。
【0118】
-高温保存後の回復放電容量(0.2C)-
上記残存容量測定後のコイン型電池に対し、初期放電容量を測定した時と同様にして、高温保存後の回復容量(0.2C)を求めた。
【0119】
-高温保存後の回復放電容量(2C)-
その後、放電レートを0.2Cから2Cに変更したこと以外は初期の放電容量(0.2C)と同様にして、高温保存後の放電容量(2C)を測定した。
後述する比較例1についても同様にして、コイン型電池の高温保存後の回復放電容量を求めた。比較例1におけるコイン型電池の高温保存後の回復容量(2C)を100とした場合の相対値として、実施例1におけるコイン型電池の高温保存後の回復容量(2C)(相対値)を求めた。結果を表1に示す。
【0120】
-高温保存中の容量損失-
下記式に基づき、高温保存後の容量損失を求めた。後述する比較例1についても同様にして、コイン型電池の高温保存後の高温保存後の容量損失を求めた。結果を表1に示す。
高温保存後の容量損失(%)={1-高温保存後の残存容量(0.2C)/高温保存試験前のSOC調整容量(0.2C)}×100
【0121】
-物性の測定方法-
電極を作成する前の負極活物質に対し、TOF-SIMS(Time Of Flight Secondary Ion Mass Spectroscopy:飛行時間型二次イオン質量分析法)分析を実施し、修飾した物質に由来するピークを調べた。そして、検出されるすべてのフラグメントイオンの強度の合計値(I)に対するフッ素イオン強度(I)の比率[I/I]を、既述の方法により求めた。結果を表1に示す。
このとき、分析装置にはアルバック・ファイ製のPHI nano TOF IIを用いた。また、一次イオンにはBi 2+を用い、イオン銃の加速電圧は25keV、分析領域は500μm×500μmとした。
【0122】
〔実施例2、比較例1~6〕
炭素質材料の表面修飾の有無と、非水電解液に含まれる添加剤との組み合わせを表1に示すように変更した以外は、実施例1と同様にリチウム二次電池を作製して、実施例1と同様の評価を行った。結果を表1に示す。
【0123】
表1中の「TFAA」は、炭素質材料の表面の少なくとの一部がトリフルオロアセチル基で修飾されていることを示す。
また、表1中の「PRS」は、既述の化合物(A-1)を示す。
また、表1中の「TFAALi」は、無水トリフルオロ酢酸のリチウム塩を示す。
【0124】
【表1】
【0125】
表1に示すように、表面の少なくとも一部をフッ素を含む官能基で修飾した負極活物質と、一般式(A)で表される環状化合物を添加剤として含有する非水電解液とを組み合わせて使用した実施例のリチウム二次電池では、比較例に比べ、保存時の容量損失が抑制されていた。更に、実施例のリチウム二次電池では、保存時の残存容量の維持性、保存時の回復容量の維持性等の電池特性が優れていることがわかる。
【符号の説明】
【0126】
1 ラミネート外装体
2 正極端子
3 負極端子
4 絶縁シール
5 正極板
6 負極板
7、8 セパレータ
11 正極
12 負極
13 正極缶
14 封口板
15 セパレータ
16 ガスケット
17、18 スペーサー板
図1
図2
図3