(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-29
(45)【発行日】2024-02-06
(54)【発明の名称】睡眠改善用組成物及び組成物を含む食品、医薬品、飼料
(51)【国際特許分類】
A23L 33/18 20160101AFI20240130BHJP
A61K 38/01 20060101ALI20240130BHJP
A61P 25/20 20060101ALI20240130BHJP
A23K 10/28 20160101ALI20240130BHJP
A23K 20/142 20160101ALI20240130BHJP
A23L 33/19 20160101ALN20240130BHJP
A23J 3/34 20060101ALN20240130BHJP
A23L 2/00 20060101ALN20240130BHJP
A23L 2/52 20060101ALN20240130BHJP
【FI】
A23L33/18
A61K38/01
A61P25/20
A23K10/28
A23K20/142
A23L33/19
A23J3/34
A23L2/00 B
A23L2/52
(21)【出願番号】P 2019106129
(22)【出願日】2019-06-06
【審査請求日】2022-04-28
(73)【特許権者】
【識別番号】711002926
【氏名又は名称】雪印メグミルク株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000774
【氏名又は名称】弁理士法人 もえぎ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】村上 弘樹
(72)【発明者】
【氏名】神 太郎
(72)【発明者】
【氏名】新井 利信
(72)【発明者】
【氏名】塚田 祥雄
(72)【発明者】
【氏名】森田 如一
【審査官】堂畑 厚志
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-008916(JP,A)
【文献】特表2011-523547(JP,A)
【文献】特開平04-112753(JP,A)
【文献】特表2012-530779(JP,A)
【文献】国際公開第2005/094849(WO,A1)
【文献】中国特許出願公開第108157963(CN,A)
【文献】国際公開第2003/039565(WO,A1)
【文献】中国特許出願公開第1557475(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第1557196(CN,A)
【文献】ROB, Markus C. et al.,Evening intake of α-lactalbumin increases plasma tryptophan availability and improves morning alertness and brain measures of attention,The American Journal of Clinical Nutrition,2005年,vol. 81, issue 5,p. 1026-1033
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 5/40-5/49
A23L 31/00-33/29
A23K 10/00-40/35
A23K 50/15
A61K 38/00-38/58
A61K 41/00-45/08
A61K 48/00
A61K 50/00
A61K 51/00-51/12
A61P 1/00-43/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580/JSTChina(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ホエイタンパク質加水分解物を有効成分とする睡眠改善用組成物。
【請求項2】
前記睡眠改善用組成物が、ノンレム睡眠時間増加用組成物、睡眠時間増加用組成物、及び睡眠導入促進用組成物からなる群より選択される1つ以上であることを特徴とする、請求項1に記載の睡眠改善用組成物。
【請求項3】
前記ホエイタンパク質加水分解物の分解率が25%以上であることを特徴とする請求項1又は請求項2のいずれか1項に記載の睡眠改善用組成物。
【請求項4】
前記ホエイタンパク質加水分解物が、以下の特徴を有するものである請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の睡眠改善用組成物。
(A)分子量分布は10kDa以下、メインピーク200Da~3kDaである。
(B)APL(平均ペプチド鎖長)は2~8である。
(C)遊離アミノ酸含量が20%以下である。
(D)抗原性がβ-ラクトグロブリンの抗原性の1/10,000以下である。
【請求項5】
前記ホエイタンパク質加水分解物が、ホエイタンパク質をpH6~10、50~70℃において耐熱性のタンパク質加水分解酵素を用いて熱変性させながら酵素分解し、加熱して酵素を失活させて得られるものであることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の睡眠改善用組成物。
【請求項6】
前記ホエイタンパク質加水分解物が、ホエイタンパク質をpH6~10、20~55℃においてタンパク質加水分解酵素を用いて酵素分解し、これを50~70℃に昇温させ、pH6~10、50~70℃において耐熱性のタンパク質加水分解酵素を用いて未分解のホエイタンパク質を熱変性させながら酵素分解し、加熱して酵素を失活させて得られるものであることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の睡眠改善用組成物。
【請求項7】
請求項1から請求項6のいずれかに記載の睡眠改善用組成物を含むことを特徴とする睡眠改善用食品、睡眠改善用食品組成物、睡眠改善用医薬品、睡眠改善用医薬品組成物、又は睡眠改善用飼料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、睡眠を改善させ、安定性及び安全性に優れた睡眠改善用組成物に関する。また、本発明は、該睡眠改善用組成物を含有する、食品、食品組成物、医薬品、医薬組成物、及び飼料に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ライフスタイルの変化により、生活リズムが乱れ、不眠などの睡眠障害の罹患率が上昇している。厚生労働省の調査によると5人に1人は何らかの睡眠に関する悩みを抱えている(非特許文献1)。睡眠障害は、眠気などによる労働生産性の低下だけでなく、認知症やうつ病などの精神疾患、肥満や糖尿病などの生活習慣病と密接に関連することが明らかとなった。この睡眠不足による経済損失は約3.5兆円になると試算されている(非特許文献2)。
【0003】
不眠などの睡眠障害を持つ人に対しては、医薬品である睡眠薬の使用が考えられる。睡眠薬としては、バルビツール酸系睡眠薬やベンゾジアゼピン系睡眠薬、非ベンゾジアゼピン系睡眠薬が主として用いられている。しかしながら、バルビツール酸系睡眠薬は依存性などの副作用が強く、ベンゾジアゼピン系睡眠薬による睡眠は、ベンゾジアゼピン速波と呼ばれる異常な周波数領域を示す睡眠を誘発するため、生理的で良質な睡眠を導かないことが知られている。また、ベンゾジアゼピン系及び非ベンゾジアゼピン系の睡眠薬は、いずれも、ふらつき、頭痛、めまい等の副作用や入眠までの出来事や中途覚醒時の出来事を覚えていないなどの症状が現れる場合があることが知られている。
【0004】
このことから、医薬品に代わり日常的に摂取することができ、生理的な睡眠を誘発することができる素材の開発が盛んに実施されており、天然成分や食品成分などから様々なものが提案されている。例えば、アミノ酸であるグリシンによる熟眠障害改善剤(特許文献1)や、テアニンによる睡眠促進組成物(特許文献2)がある。
【0005】
牛乳や乳製品は古来より食されており、入眠前に加温した牛乳を摂取することで、寝つきが良くなるなど、睡眠が改善されるといわれている。実際にホエイに含まれるαラクトアルブミンによる睡眠改善効果が報告されている(非特許文献3)。また、牛乳カゼイン由来のペプチドによる不安症、睡眠障害及びてんかんを治療できるとする旨の特許が報告されている(特許文献3)。
【0006】
しかしながら、前出のαラクトアルブミンの摂取により睡眠改善効果を得るためには、1日あたり40gの摂取が必要であり、日常的に摂取するのは困難である。また、牛乳カゼイン由来のペプチドに関する特許では、不安様行動について動物の行動を目視やビデオ撮影によって評価しているのみであり、該ペプチドが実際に睡眠障害を治療できるかは明らかではなく、実証されたこのペプチドの効果は、抗不安作用に限られる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2013-121961号公報
【文献】国際公開WO01/074352号公報
【文献】特表2011-524163号公報
【非特許文献】
【0008】
【文献】平成26年度国民健康・栄養調査
【文献】内山 真, 日本精神科病院協会雑誌 31(11), 1163-1169, 2012-11
【文献】Markus, C. R. et. al.: Am. J. Clin. Nutr.,81,1026-1033,2005
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、睡眠を改善させ、安定性及び安全性に優れた睡眠改善用組成物を提供することを課題とする。また、本発明は、該睡眠改善用組成物を含有する食品、食品組成物、医薬品、医薬組成物、及び飼料を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記の課題を解決するため鋭意検討を進めたところ、ホエイタンパク質加水分解物が睡眠を改善させ、その効果は加水分解前のホエイタンパク質よりも有意に強いことを見出した。
すなわち本発明は、以下の様態を含むものである。
(1)ホエイタンパク質加水分解物を有効成分とする睡眠改善用組成物。
(2)前記睡眠改善用組成物が、ノンレム睡眠時間増加用組成物、睡眠時間増加用組成物、及び睡眠導入促進用組成物からなる群より選択される1つ以上であることを特徴とする、(1)に記載の睡眠改善用組成物。
(3)前記ホエイタンパク質加水分解物の分解率が25%以上であることを特徴とする(1)又は(2)のいずれかに記載の睡眠改善用組成物。
(4)前記ホエイタンパク質加水分解物が、以下の特徴を有するものである(1)から(3)のいずれかに記載の睡眠改善用組成物。
(A)分子量分布は10kDa以下、メインピーク200Da~3kDaである。
(B)APL(平均ペプチド鎖長)は2~8である。
(C)遊離アミノ酸含量が20%以下である。
(D)抗原性がβ-ラクトグロブリンの抗原性の1/10,000以下である。
(5)前記ホエイタンパク質加水分解物が、ホエイタンパク質をpH6~10、50~70℃において耐熱性のタンパク質加水分解酵素を用いて熱変性させながら酵素分解し、加熱して酵素を失活させて得られるものであることを特徴とする(1)から(4)のいずれかに記載の睡眠改善用組成物。
(6)前記ホエイタンパク質加水分解物が、ホエイタンパク質をpH6~10、20~55℃においてタンパク質加水分解酵素を用いて酵素分解し、これを50~70℃に昇温させ、pH6~10、50~70℃において耐熱性のタンパク質加水分解酵素を用いて未分解のホエイタンパク質を熱変性させながら酵素分解し、加熱して酵素を失活させて得られるものであることを特徴とする(1)から(4)のいずれかに記載の睡眠改善用組成物。
(7)(1)から(6)のいずれかに記載の睡眠改善用組成物を含むことを特徴とする睡眠改善用食品、睡眠改善用食品組成物、睡眠改善用医薬品、睡眠改善用医薬品組成物、又は睡眠改善用飼料。
【発明の効果】
【0011】
本発明は、新規な睡眠改善用組成物を提供するものであり、本願でいう睡眠改善とは、ノンレム睡眠時間の増加、1日あたりの睡眠時間の増加、または入眠潜時の短縮の1つ以上を指している。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】ホエイタンパク質加水分解物(左)またはホエイタンパク質濃縮物(右)の投与後12時間のノンレム睡眠時間について、投与前日と投与日との比較を示す。
【
図2】ホエイタンパク質加水分解物(左)またはホエイタンパク質濃縮物(右)の投与後12時間の覚醒時間について、投与前日と投与日との比較を示す。
【
図3】ホエイタンパク質加水分解物(左)またはホエイタンパク質濃縮物(右)の投与後1時間のノンレム睡眠時間について、投与前日と投与日との比較を示す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
(睡眠改善用組成物)
本願の睡眠改善用組成物について説明する。
本願の睡眠改善用組成物は、ホエイタンパク質を加水分解したものである。
より具体的には、
ホエイタンパク質加水分解物の分解率が25%以上であり、
分子量分布は10kDa以下、メインピーク200Da~3kDaであり、
APL(平均ペプチド鎖長)は2~8であり、
遊離アミノ酸含量が20%以下であり、
抗原性がβ-ラクトグロブリンの抗原性の1/10,000以下、
という特徴を有するものである。
本願の睡眠改善用組成物に使用するホエイタンパク質加水分解物には、全長のαラクトアルブミンは実質的に含まれていない(HPLCによる当該ホエイタンパク質加水分解物の分析結果に基づく。データを示さず。)。より具体的には、当該ホエイタンパク質加水分解物に含まれる全長のαラクトアルブミンの量は、加水分解前のホエイタンパク質に含まれるαラクトアルブミンの量の10%以下、好ましくは、5%以下、2%以下、1%以下、0.5%以下、0.2%以下、又は0.1%以下である。
睡眠改善用組成物のホエイタンパク質加水分解物の分解率は、遊離のアミノ基を修飾して測定するオルトフタルアルデヒド(OPA)法等で測定することができる。ホエイタンパク質加水分解物の分子量分布は、High performance size exclusion chromatography (HPSEC)法等の方法で測定することができる。APL(平均ペプチド鎖長)は、TNBS(2,4,6-トリニトロベンゼンスルホン酸)法等の方法によって測定することができる。遊離アミノ酸含量は、75%エタノール等で遊離アミノ酸を抽出して、アミノ酸分析装置等で測定することができる。抗原性はInhibition ELISA法により評価することができる。
【0014】
(睡眠改善用組成物の摂取量)
本発明の睡眠改善用組成物は、上記したように複数のペプチドを含むことから、2つ以上のペプチドの相加・相乗効果により0.01g/日以上の摂取で睡眠改善作用を発現しうる。一方、本発明の睡眠改善用組成物は、抗原性がβ-ラクトグロブリンの1/10,000以下で安全に摂取できるため、摂取量は投与対象者や食品の形態に応じて0.025g/日以上、0.1g/日以上、0.25g/日以上、1g/日以上、又は2.5g/日以上、及び、30g/日以下、20g/日以下、10g/日以下、5g/日以下、2.5g/日以下、又は1g/日以下とすることができる。
本発明の睡眠改善用組成物は、以下に記載のとおり、食品、食品組成物、医薬品、医薬品組成物、及び飼料に添加することができるが、その際の睡眠改善用組成物の添加量は上記した有効量が摂取できるよう適宜調整すればよい。
【0015】
(睡眠改善用組成物の睡眠改善作用の評価方法)
本発明の睡眠改善用組成物の睡眠改善作用は、実施例に記載したラットを対象とした動物試験により確認することができる。
【0016】
(睡眠改善用組成物の製造方法)
本発明の睡眠改善用組成物の有効成分であるホエイタンパク質加水分解物は、例えば特開平4-112753号公報で報告されている方法によって得ることができる。この方法では、ホエイタンパク質をpH6~10、50~70℃とし、これに耐熱性のタンパク質加水分解酵素を加えて熱変性させながら酵素分解し、これを加熱して酵素を失活させることによって得られる。なお、上記酵素分解を行う前に、ホエイタンパク質をpH6~10、20~55℃においてタンパク質加水分解酵素を用いて酵素分解し、これを冷却することなく直ちに上記条件で酵素分解すると収率を一層高めることができる。
【0017】
また、上記のように調製したホエイタンパク質加水分解物を、分画分子量1kDa~20kDa、好ましくは、2kDa~10kDaの限外濾過(UF)膜及び/又は分画分子量100Da~500Da、好ましくは150Da~300Daのナノ濾過(NF)膜から選ばれる方法で濃縮することも可能である。このような膜処理により、ホエイタンパク質加水分解物の平均分子量を300~500Daとすることによって、さらに苦味を軽減し、透明性を向上させることが可能である。
【0018】
本発明におけるホエイタンパク質は、ウシやヤギ、ヒツジ、ヒト等の哺乳類の乳から調製したホエイ、その凝集物、粉末、あるいは精製タンパク質をいい、これを酵素反応させる時は水溶液の状態で使用する。
【0019】
特開平4-112753号公報で報告されている方法によってホエイタンパク質加水分解物を調製する場合、前述の溶液をpH6~10に調整するが、通常ホエイタンパク質はこの範囲のpHになっているので格別pHの調整を行う必要はないが、必要な場合は、塩酸、クエン酸及び乳酸等の酸溶液あるいは苛性ソーダ、水酸化カルシウム及び燐酸ソーダ等のアルカリ溶液を用いてpH6~10とする。加熱は50~70℃で行うが、耐熱性のタンパク質加水分解酵素は、この温度で添加するよりも、むしろ加熱前から加え酵素分解を行った方が収率の面から好ましい。
【0020】
また、一般的なプロテアーゼの至適温度は40℃以下であるが、耐熱性のタンパク質加水分解酵素の至適温度は45℃以上であり、耐熱性のタンパク質加水分解酵素としては、従来このような至適温度を有する耐熱性のタンパク質加水分解酵素として知られているものであれば特に制限なく使用できる。このような耐熱性のタンパク質加水分解酵素としては、パパイン、サーモリシン、サーモリシンS、プロテアーゼS(商品名)、プロレザー(商品名)、サモアーゼ(商品名)、アルカラーゼ(商品名)、プロチンA(商品名)等を例示することができる。耐熱性のタンパク質加水分解酵素は、80℃で30分加熱して残存活性が約10%あるいはそれ以上になるものが望ましい。また、単独よりも複数の酵素を併用する方が効果的である。反応は、30分~10時間程度行うことが好ましい。
最後に、反応液を加熱して酵素を失活させる。酵素の失活は、反応液を100℃以上で10秒間以上加熱することにより行うことができる。
【0021】
そして反応液を遠心分離して上清を回収し、上清を乾燥して粉末製品とする。なお、遠心分離した時に生ずる沈殿物は上清に比べ低アレルゲン化の程度が小さいので、これを除去した方が好ましいが、勿論反応液をそのまま乾燥して使用しても差し支えない。
【0022】
本発明の睡眠改善用組成物はそのまま使用してもよいが、食品、医薬品、及び飼料に通常含まれる他の原材料とともに使用できることから、常法に従い、粉末剤、顆粒剤、錠剤、カプセル剤、ドリンク剤等に用いることも出来る。また、ヨーグルト、乳飲料、ウエハース等の飲食品、及び飼料に配合することも可能である。
【0023】
以下に実施例、試験例を示し、本発明について詳細に説明するが、これらは単に例示するのみであり、本発明はこれらによって何ら限定されるものではない。
【実施例】
【0024】
(実施例1)
ホエイタンパク質10%水溶液1Lに、パパイン50U/g・ホエイタンパク質及びプロレザー(天野エンザイム社製)150U/g・ホエイタンパク質を加え、pH8に調整し、55℃において6時間ホエイタンパク質を変性させながら酵素分解を行った。反応液を100℃で15秒間以上加熱して酵素を失活させ、遠心分離して上清を回収し、これを乾燥してホエイタンパク質加水分解物(実施例品1)を得た。
得られたホエイタンパク質加水分解物の分子量分布は10kDa以下、メインピークは1.3kDa、APLは7.2、すべての構成成分に対する遊離アミノ酸含量は18.9%であった。
Inhibition ELISA法によってβ-ラクトグロブリンに対する抗原性の低下を測定したところ1/10,000以下で、分解率は28%、収率(酵素反応液を遠心分離し、仕込み量の乾燥重量に対する上清の乾燥重量の比率(%))は80.3%であった。
このようにして得られたホエイタンパク質加水分解物は、そのまま本発明の睡眠改善用組成物として使用可能である。
【0025】
(試験例1)
ホエイタンパク質加水分解物を使用して、睡眠改善効果について評価した。
8週齢のWistar系雄性ラット(日本SLC社)を購入し、12時間ごとの明暗周期の下で、市販固形飼料CRF-1(オリエンタル酵母社製)を与えて、飼料と水を自由に摂取させた。ラットに、脳波及び筋電位を測定するための電極を装着する手術を実施し、回復期として1週間以上の期間をおいて、試験を実施した。
ホエイタンパク質分解物を水に溶解し、ラット体重1kgあたり2.5g経口投与した(FDAのガイドラインをもちいてヒトに換算すると、1日当たり約30gに相当する)、また、比較対象として、ホエイタンパク質濃縮物(タンパク質含量80%)を水に溶解し、ラット体重1kgあたり2.5g経口投与した。投与は17時~18時(消灯1時間以内)に行い、投与前日の睡眠・覚醒時間と比較した。
脳波及び筋電位は睡眠解析ソフト「スリープサイン」(キッセイコムテック社製、Sleep sign ver2.0)を用いて、覚醒、ノンレム睡眠、レム睡眠の各睡眠ステージに分類した。
投与後12時間の覚醒時間、ノンレム睡眠時間を積算し、投与前日の覚醒時間、ノンレム睡眠時間と比較した。また、Student’s t-testの検定を行い、p<0.05で有意差ありと判定した。
【0026】
図1、2に示すように、ホエイタンパク質加水分解物の投与により、投与後12時間のノンレム睡眠時間が、投与前日と比較して有意に増加し、覚醒時間が減少することが示された(投与前日を100%として表す。以下同じ。)。さらに、
図3に示すように、ホエイタンパク質加水分解物の投与により、投与直後1時間の睡眠量が有意に増加していることから、睡眠導入作用があることが示唆された。ホエイタンパク質加水分解物には、全長のαラクトアルブミンは含まれていなかったので(HPLCによる当該ホエイタンパク質加水分解物の分析結果に基づく。データを示さず。)、観察された効果はαラクトアルブミンの効果ではない。
一方で、比較対象として用いたホエイタンパク質濃縮物では、投与12時間のノンレム睡眠時間、覚醒時間、及び投与直後1時間のノンレム睡眠時間は、投与前日と比較して差はなかった。
ホエイタンパク質の加水分解に、パパイン及びプロレザーとは異なるプロテアーゼ(システインエンドペプチダーゼ、メタロエンドペプチダーゼ、セリンエンドペプチダーゼ、アスパラギン酸プロテアーゼ)を使用した場合に、
図1~3と同様の結果が得られた(データを示さず)。
【0027】
(実施例品2)睡眠改善用カプセル剤
表1に示す配合で原材料を混合後、常法により造粒し、カプセルに充填して、睡眠改善用カプセル剤を製造した。
【0028】
【0029】
(実施例品3)睡眠改善用飲料
10gの実施例品1を700gの脱イオン水に添加し、50℃まで加熱後、9,500rpmで30分間撹拌混合した。
前記混合物に表2の原材料を添加した後、100mlのガラス瓶に充填し、95℃、15秒間殺菌後、密栓し、睡眠改善用飲料10本(100ml入り)を調製した。
【0030】
【0031】
(実施例品4)イヌ用睡眠改善用飼料
5kgの実施例品1を95kgの脱イオン水に添加し、50℃まで加熱後、3,600rpmで40分間撹拌混合して、実施例品1を5kg/100kg含有する溶液を得た。この溶液20kgに、表3の原材料の全量を混合し、120℃、4分間殺菌して、本発明のイヌ用睡眠改善用飼料100kgを製造した。
【0032】
【産業上の利用可能性】
【0033】
本発明は、新たな睡眠を改善する組成物として、ホエイタンパク質加水分解物を含む組成物と該組成物を含む食品、食品組成物、医薬品、医薬品組成物、及び飼料を提供するものである。本発明の組成物等を摂取することにより睡眠を改善できる。