(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-29
(45)【発行日】2024-02-06
(54)【発明の名称】成形体、複合成形体および複合成形体の製造方法
(51)【国際特許分類】
B29C 45/14 20060101AFI20240130BHJP
B29C 65/70 20060101ALI20240130BHJP
B29C 70/78 20060101ALI20240130BHJP
【FI】
B29C45/14
B29C65/70
B29C70/78
(21)【出願番号】P 2019226143
(22)【出願日】2019-12-16
【審査請求日】2022-11-07
(31)【優先権主張番号】P 2019001601
(32)【優先日】2019-01-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】390006323
【氏名又は名称】ポリプラスチックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【氏名又は名称】林 一好
(72)【発明者】
【氏名】望月 章弘
(72)【発明者】
【氏名】見置 高士
【審査官】和瀬田 芳正
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-052669(JP,A)
【文献】国際公開第2014/125999(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 45/14
B29C 65/00-65/82
B29C 70/00-70/88
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第2樹脂を射出成形により複合するための溝付き第1成形体であって、
前記溝が、
前記第2樹脂射出成形時の流動体の第1成形体に対する流動方向Xに対して魚の骨形状であ
り、
前記魚の骨形状が、前記第1成形体の側面端部まで溝が達する連続した形状を有し、
前記魚の骨形状が、前記流動方向Xに対して上流側が頭、下流側が尾となる向きである、溝付き第1成形体。
【請求項2】
前記溝の少なくとも30%以上の本数の溝形成方向Mが、前記流動方向Xと、流動中心から見て
前記流動方向Xに垂直な方向Y
1またはY
2の間にある、請求項1
に記載の溝付き第1成形体。
【請求項3】
前記流動体の先頭部分の法線方向Hと
前記溝形成方向Mとのなす角θが0°≦θ<45°である、請求項
2に記載の溝付き第1成形体。
【請求項4】
溝付き第1成形体と第2樹脂成形体との複合成形体であって、
前記溝が、
前記第2樹脂射出成形時の流動体の第1成形体に対する流動方向Xに対して魚の骨形状であ
り、
前記魚の骨形状が、前記第1成形体の側面端部まで溝が達する連続した形状を有し、
前記魚の骨形状が、前記流動方向Xに対して上流側が頭、下流側が尾となる向きであり、
前記流動体の先頭部分の法線方向Hと溝形成方向Mとのなす角θが0°≦θ<45°である、複合成形体。
【請求項5】
第1成形体に第2樹脂を射出成形し複合成形体を製造する方法であって、
前記第1成形体に魚の骨形状の溝を形成する工程
と、
前記魚の骨形状の溝を有する第1成形体に、魚の背骨方向に第2樹脂を射出成形する工程
と、を有
し、
前記魚の骨形状が、前記第1成形体の側面端部まで溝が達する連続した形状を有し、
前記魚の骨形状が、流動方向Xに対して上流側が頭、下流側が尾となる向きである、
複合成形体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、成形体、複合成形体および複合成形体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車、電気製品、産業機器等をはじめとした分野では、二酸化炭素の排出量削減、製造コストの削減等の要請に応えるため、金属成形体を樹脂成形体に置き換える動きが広がっている。それに伴い、一の樹脂成形体と他の樹脂成形体または金属成形体等とを強固に一体化する技術の提供が求められる。
【0003】
特許文献1は、一の樹脂成形体と他の成形体とを一体化して複合成形品を製造する方法を開示する。この方法は、繊維状無機充填剤を含有する樹脂成形品に樹脂の一部除去を行い、側面から無機充填剤が露出された溝を形成して溝付き樹脂成形体を得た後、溝付き樹脂成形体の溝を有する面を接触面として他の成形体と一体化する。溝付き樹脂成形体を得る際、樹脂の一部除去は、レーザ照射によって行われる。この方法によると、溝で露出する無機充填剤が溝付き樹脂成形体及び他の成形体の破壊を抑えるアンカーの役割を果たし、結果として複合成形体の強度を著しく高めることができる。
【0004】
また、特許文献2では、第1成形体に溝を形成するにあたって、溝を凹部、溝間を凸部として、第2樹脂の流動体が射出された方向の凸部、凹部等の溝の形状を規定することにより、複合成形体の接合強度を向上させる技術が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許2015-91642号公報
【文献】特許第6366861号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
このような溝付き第1成形体を使用する複合成形体では、非常に接合強度を向上させることができたが、溝の形状、大きさによっては、射出成形時に空気を巻き込み、その空気が気泡となって複合成形体に大量に残ってしまうという問題が発生した。その気泡が多い場合には、接合強度や気密性の低下を引き起こし、さらには透明な複合成形体では外観を劣化させることにもなり、大きな課題となった。
【0007】
本発明は、以上のような課題を解決するためになされたものであり、その目的は、複合成形体の製造時に残る気泡の発生を抑制することのできる溝形状を有する第1成形体、そして気泡の発生が抑えられた複合成形体およびその複合成形体の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、下記によって上記課題を解決した。
【0009】
1. 第2樹脂を射出成形により複合するための溝付き第1成形体であって、該溝が、該第2樹脂射出成形時の流動体の第1成形体に対する流動方向Xに対して魚の骨形状である、溝付き第1成形体。
2. 該魚の骨形状が、該流動方向Xに対して上流側が頭、下流側が尾となる向きである、前記1記載の溝付き第1成形体。
3. 前記溝の少なくとも30%以上の本数の溝形成方向Mが、前記流動方向Xと、流動中心から見て該流動方向Xに垂直な方向Y1またはY2の間にある、前記1または2記載の溝付き第1成形体。
4. 該流動体の先頭部分の法線方向Hと該溝形成方向Mとのなす角θが0°≦θ<45°である、前記1~3いずれかに記載の溝付き第1成形体。
5. 溝付き第1成形体と第2樹脂成形体との複合成形体であって、該溝が、魚の骨形状である、複合成形体。
6. 第1成形体に第2樹脂を射出成形し複合成形体を製造する方法であって、第1成形体に魚の骨形状の溝を形成する工程、
該魚の骨形状の溝を有する第1成形体に、魚の頭から尾の向きであって背骨方向に第2樹脂を射出成形する工程、を有する複合成形体の製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によると、射出成形時に空気を巻き込み、その空気が気泡となって複合成形体に大量に残ってしまうという課題を解決し、外観の劣化を抑制し安定した接合強度を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本実施形態に係る第1成形体が有する溝の形状および、第1成形体上に第2樹脂の流動体を射出成形しているときの状態を示す概略模式図である。
【
図2】本実施形態に係る各方向を示す模式図である。
【
図13】比較例となる、溝が第2樹脂の流動方向Xのみである試料の結果を示す写真である。
【
図14】比較例となる、溝が第2樹脂の流動方向Xとそれに垂直なY
1,Y
2方向のみで格子を形成している試料の結果を示す写真である。
【
図15】比較例となる、溝が第2樹脂の流動方向Xに対して斜格子を形成している試料の結果を示す写真である。
【
図16】本発明である溝が魚の骨形状を、直線のトレッドパターンで形成した試料の結果を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明するが、本発明は、以下の実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の目的の範囲内において、適宜変更を加えて実施することができる。なお、説明が重複する箇所については、適宜説明を省略する場合があるが、発明の要旨を限定するものではない。
【0013】
<第1成形体>
第1成形体は、通常使用される金属、ガラス等の無機成形体や樹脂成形体を使用することができる。
金属としては、アルミニウム、マグネシウム、ステンレス鋼、銅、チタン等を挙げることができる。金属は、金属合金から構成されてもよい。また、金属材料の表面には、陽極酸化処理等の表面処理や塗装がされていてもよい。軽量、強度の点からアルミニウム、マグネシウム、銅、チタンが好ましく、端子等の導電性が必要とされる用途においてはアルミニウム、銅がより好ましく、銅が特に好ましい。また、携帯端末筐体等の薄肉での剛性が要求される用途においてはマグネシウム、チタンが好ましく、チタンが特に好ましい。
【0014】
樹脂成形体の場合の樹脂は、熱可塑性であれば、特に限定されない。好適な樹脂の例として、ポリアセタール(POM)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、液晶ポリマー(LCP)等が挙げられる。樹脂に、無機充填剤であるガラス繊維等を混合した強化樹脂であっても良い。
【0015】
図1は、本発明の実施形態である第1成形体1が有する魚の骨形状の溝3を示している。
図1中の2は第1成形体上に射出成形される第2樹脂の流動体であり、その流動する先頭(フローフロントともいう)は、略放物線を形成している。魚の骨形状の溝3は、流動体の先頭の中心線(流動中心CともいいXで示す方向に連続する)を背骨とすると、その背骨から第2樹脂の流動方向Xに垂直な第1成形体1の側面外側方向Y
1、Y
2方向に、魚の骨形状を有し傾斜している。なお、ここで背骨は必ずしも必要ではない。魚の骨形状は、流動方向Xに対して上流側が頭、下流側が尾となる向きである。
魚の骨は、直線であっても曲線であっても良く、その第1成形体1の側面端部まで溝が達する連続した形状であればよい。
【0016】
さらに
図1の魚の骨形状は、
図2で示すように溝の少なくとも30%以上の本数の溝形成方向Mが、流動方向Xと、流動中心Cから見て流動方向Xに垂直な方向Y
1またはY
2の間にあることが好ましい。当該の範囲を満たす方向の本数の割合は、50%以上であることが好ましく、60%以上であることがより好ましく、70%以上であることがさらに好ましく、80%以上であることが特に好ましく、90%以上であることが最も好ましい。
【0017】
図2のA点、B点は、第2樹脂流動体のフローフロントのY
1方向およびY
2方向の任意の2点を表している。A点では、第1成形体の溝の方向M
Aは、流動方向Xと側面外側方向Y
1の間に形成される。同様にB点では、溝の方向M
Bは、流動方向Xと側面外側方向Y
2の間に形成される。M
A、M
Bは、流動方向XとY
1方向、Y
2方向の間にあることから、X方向、Y
1方向およびY
2方向とは、溝の始点付近および終点付近を除き、通常は一致しない。
【0018】
さらに溝の方向Mは、第2樹脂の流動体のフローフロントの法線方向Hと該溝形成方向Mとのなす角θが0°≦θ<45°であることが好ましく、0°≦θ<30°であることがより好ましく、0°≦θ<20°であることがさらに好ましく、0°≦θ<15°であることが特に好ましく、0°≦θ<10°であることが最も好ましい。
【0019】
なお、上記の通り角θは、法線方向Hと溝形成方向Mとのなす角であり、その値は絶対値として扱う。すなわち法線方向Hに対して溝形成方向Mが、時計回り方向に45°未満の範囲にある場合、及び反時計回り方向に45°未満の範囲にある場合のいずれをも含むものである。
【0020】
図2のA点では、A点の法線方向をH
Aとすると溝の方向M
Aは、θ
Aの範囲に形成することが好ましい。またB点では、B点の法線方向をH
Bとすると溝の方向M
Bは、θ
Bの範囲に形成することが好ましい。
【0021】
本発明の魚の骨形状として好ましく使用できる形状として、模式的に
図3~
図12の形状を挙げることができる。
図3~
図9は、
図1の魚の骨形状を適宜変形した溝を示している。
図10では、放射状パターンの中心部からピンゲートにより第1成形体上に第2樹脂を流動させ、同心円状に第2樹脂を流動させる場合に有効である溝を示している。
図10は、一見通常の魚の骨形状とは離れているが、中心を背骨とし第2樹脂が背骨から同心円状に流動することから、作用効果が一致しており、本発明の実施態様の一つとすることができる。
【0022】
図11では、リング形状の第1成形体をリング形状の金型に配置し((a)の状態)、金型((b)の状態)の一部のゲートから第2樹脂を流動させる場合に有効である溝を示している。
図12では、リング形状に溝を形成した第1成形体の全面((a)の状態)に第2樹脂を流動させる場合((b)の状態)を示している。
溝の断面形状としては、通常知られている形状を適宜選択することができ、矩形・台形・V字・U字・円弧等であることが好ましい。溝の幅は50~200μm、深さは10~300μmであることが好ましい。
【0023】
<溝付き第1成形体の製造方法>
本発明の第1成形体の溝を形成する方法は、第1成形体製造時の金型により転写し溝形成する方法、第1成形体製造後にレーザ、切削、型押し、エッチング等により溝を形成する方法等が知られているが、通常のいかなる方法も使用することができる。特にレーザによる方法は、金型の準備を必要とせず細かな溝を製造できる点から好ましい。レーザによる方法を使用する場合、第1成形体にはレーザを吸収する化合物を含有させてもよい。
【0024】
さらに、複合成形体にかかる応力の方向がある程度想定できる場合は、レーザを第1成形体表面に対し、垂直に照射するだけでなく、斜めに照射することにより、応力方向に対するアンカー効果をより高めるようにして溝を形成してもよい。そして第1成形体表面に対し、垂直な溝と斜めの溝を併存させてもよい。
【0025】
<複合成形体>
本発明の複合成形体は、第1成形体に第2樹脂成形体を結合することによって製造することができる。第1成形体への結合は、第1成形体に第2樹脂成形体を構成する第2樹脂を射出成形することによって製造することができる。
【0026】
第2樹脂成形体を構成する樹脂は、熱可塑性又は熱硬化性である。第1成形体を構成する第1樹脂と、第2樹脂成形体を構成する第2樹脂とは、同じであってもよいし、異なっていてもよい。第1成形体、第2樹脂成形体ともに、繊維状無機充填剤を含有する樹脂成形体であってもよく、その他公知の添加剤(酸化防止剤、安定剤、紫外線吸収剤、滑剤、離型剤、可塑剤、着色剤、強化材、靱性改良剤、流動性改良剤、耐加水分解性改良剤等)を含有する樹脂成形体であってもよい。
【0027】
<複合成形体の製造方法>
まず第1成形体を構成する第1樹脂を溶融し、所望の形状を形成する金型によって射出成形する。この時金型に凹凸を設け、溝を形成してもよい。第1成形体の製造時に溝を形成しなかった場合は、その後レーザ等によって第1成形体の第2樹脂成形体と結合する面に所望に溝を形成する。ついで、溝を形成した溝付き第1成形体を金型に配置し、そこに第2樹脂成形体を構成する第2樹脂を流動し射出成形する。第1成形体への射出成形は、通常の条件を適宜選択することができる。
【実施例】
【0028】
以下、本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0029】
図13~16に示すように、第1成形体として、ガラス繊維を40質量%含むポリフェニレンサルファイド樹脂(ポリプラスチックス株式会社製、ジュラファイド(登録商標)1140A6)を用いて、シリンダー温度320℃、金型温度140℃、射出速度30mm/sec、保圧力60MPaにて、幅13mm×長さ40mm×高さ3.2mmの樹脂板を作製し、13mm×40mmの面に流動方向Xだけの直線状溝、流動方向に垂直および水平な格子状溝、斜格子状溝、本発明の魚の骨形状の溝を形成した。
【0030】
溝は、レーザ照射により幅100μm×深さ100μm、溝間隔300μmのものを形成した(ただし、魚の骨形状の溝では、樹脂のフローフロントに合わせて溝の方向を変更している都合上、溝間隔が若干増減している箇所を有するが、ほぼ300μmとなるようにしている)。
【0031】
次いで、当該樹脂板を13mm×40mm×6.4mmのキャビティ内に配置し、溝を形成した面上に第2樹脂が充填されるように、キャビティの13mm×6.4mmの面の一端側から、13mm×40mm×3.2mmの空間に向けて、13mm×2mmのフィルムゲートで第2樹脂を射出した。ここで、残っている気泡が観察しやすいように、第2樹脂として透明なポリスチレン樹脂を使用し、シリンダー温度220℃、金型温度40℃、射出速度20mm/sec、保圧力60MPaで、13mm×3.2mmの射出成形をした。なお
図16ではθはすべての位置において0°であった。
【0032】
<結果>
図13~16は試料の結果を示す写真である。左側が光学顕微鏡による1.5倍の写真であり、右側が光学顕微鏡による8倍の写真である。白く見える部分が残った気泡部分である。
【0033】
比較の試料の結果を示す
図13~15の写真では、残った気泡が観察されている。写真で示すように、直線状溝(1)、格子状溝(2)、斜格子状溝(3)では気泡の残りがはっきりと観察されたが、
図16の本発明の魚の骨形状の溝(トレッドパターン)(4)では、気泡はまったく観察されなかった。
【符号の説明】
【0034】
1 第1成形体
2 第2樹脂成形体
3 溝
A,B フローフロント放物線上の任意の2点
C フローフロントの円周の中心
X 第2樹脂の流動方向
Y1、Y2 Cから見て流動する第2樹脂流動方向Xに垂直な二つの方向
HA A点での法線方向
MA A点で形成された溝の方向
θA HAとMAの成す角度
HB B点での法線方向
MB B点で形成された溝の方向
θB HBとMBの成す角度