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特許7428632多孔質ガラス母材の製造方法及び製造装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-29
(45)【発行日】2024-02-06
(54)【発明の名称】多孔質ガラス母材の製造方法及び製造装置
(51)【国際特許分類】
   C03B 8/04 20060101AFI20240130BHJP
   C03B 37/018 20060101ALI20240130BHJP
【FI】
C03B8/04 C
C03B37/018 C
【請求項の数】 17
(21)【出願番号】P 2020207133
(22)【出願日】2020-12-14
(65)【公開番号】P2022094218
(43)【公開日】2022-06-24
【審査請求日】2021-12-14
【審判番号】
【審判請求日】2022-11-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000002060
【氏名又は名称】信越化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000877
【氏名又は名称】弁理士法人RYUKA国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】野田 直人
【合議体】
【審判長】宮澤 尚之
【審判官】立木 林
【審判官】後藤 政博
(56)【参考文献】
【文献】特表2016-522149(JP,A)
【文献】特開2016-74584(JP,A)
【文献】特開平9-156947(JP,A)
【文献】特開2000-264648(JP,A)
【文献】特開平5-17107(JP,A)
【文献】特開2013-166144(JP,A)
【文献】国際公開第2020/054861(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03B 8/04
C03B 37/018
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
原料である液体状態の有機シロキサンをキャリアガスと気化器内で混合し、加熱により気化させて、気体原料としてバーナに供給し、前記気体原料の燃焼により生成されたガラス微粒子を出発材に堆積させることにより多孔質ガラス母材を製造し、これを焼結するガラス母材の製造方法であって、
前記気化器に導入するキャリアガス中の水分濃度をvolppm以下にして、前記キャリアガスを0℃1気圧換算値で15~40リットル/分の流量で前記気化器に供給し、
前記気化器に導入する前記有機シロキサンを含む原料液の水分濃度を20wtppm以下にして、前記原料液を100g/分以下の流量で前記気化器に供給することで、ゲル状の重合物質の生成を抑制する、ガラス母材の製造方法。
【請求項2】
前記気化器に導入するキャリアガス中の水分濃度を0.1volppm以下にする、請求項1に記載のガラス母材の製造方法。
【請求項3】
前記加熱が、予熱された前記キャリアガスによる、請求項1または2に記載のガラス母材の製造方法。
【請求項4】
前記加熱が、ヒータにより加熱された前記気化器の内壁から生じる熱による、請求項1~のいずれか一項に記載のガラス母材の製造方法。
【請求項5】
前記キャリアガスとして、窒素、アルゴン、ヘリウム等の不活性ガスを用いる、請求項1~のいずれか一項に記載のガラス母材の製造方法。
【請求項6】
前記キャリアガスとして、酸素または酸素と不活性ガスとの混合ガスを用いる、請求項1~のいずれか一項に記載のガラス母材の製造方法。
【請求項7】
前記キャリアガス中の水分濃度を、水分除去手段により下げる、請求項1~のいずれか一項に記載のガラス母材の製造方法。
【請求項8】
前記水分除去手段は、複数並列に設置しておいて、切り替えて使用する、請求項に記載のガラス母材の製造方法。
【請求項9】
前記水分除去手段により水分濃度が下げられた前記キャリアガスを、ガス中の露点を計測しながら、前記気化器に供給する、請求項又はに記載のガラス母材の製造方法。
【請求項10】
前記キャリアガスは、200~300℃に予熱した状態で前記気化器に供給する、請求項1からのいずれか一項に記載のガラス母材の製造方法。
【請求項11】
前記有機シロキサンは、オクタメチルシクロテトラシロキサンである、請求項1から10のいずれか一項に記載のガラス母材の製造方法。
【請求項12】
前記有機シロキサンを含む原料液中の水分濃度を別の水分除去手段により下げる、請求項1から11のいずれか一項に記載のガラス母材の製造方法。
【請求項13】
原料である液体状態の有機シロキサンをキャリアガスと気化器内で混合し、加熱により気化させて、気体原料としてバーナに供給し、前記気体原料の燃焼により生成されたガラス微粒子を出発材に堆積させることにより多孔質ガラス母材を製造する多孔質ガラス母材の製造装置であって、
前記キャリアガス中の水分を水分濃度volppm以下まで除去してキャリアガスを前記気化器に供給する、前記キャリアガスの水分除去手段と、
前記キャリアガスの流量を、0℃1気圧換算値で15~40リットル/分に調整するガスマスフローコントローラと、
前記有機シロキサンを含む原料液の水分濃度を20wtppm以下まで除去して前記気化器に供給する、前記原料液の水分除去手段と、
前記原料液の流量を100g/分以下に調整する液体マスフローコントローラと、を備えることで、ゲル状の重合物質の生成を抑制する、多孔質ガラス母材の製造装置。
【請求項14】
前記キャリアガスの水分除去手段は複数並列に設置する、請求項13に記載の多孔質ガラス母材の製造装置。
【請求項15】
前記水分除去手段により水分が除去された前記キャリアガスの露点を計測する露点計をさらに備える、請求項13又は14に記載の多孔質ガラス母材の製造装置。
【請求項16】
前記気化器に供給される前記キャリアガスを予熱する加熱手段をさらに備える、請求項1315のいずれか一項に記載の多孔質ガラス母材の製造装置。
【請求項17】
前記有機シロキサンは、オクタメチルシクロテトラシロキサンである、請求項1316のいずれか一項に記載の多孔質ガラス母材の製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機シロキサン原料を用いた多孔質ガラス母材の製造方法及び製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ガラスロッドなどの出発材にガラス微粒子を堆積させてスートを形成する多孔質ガラス微粒子体(多孔質ガラス母材)の製造方法が従来から知られている。多孔質ガラス母材は、脱水し焼結させることで、光ファイバの製造などに用いるガラス母材とすることができる。
【0003】
光ファイバ製造用のガラス母材は、具体的には例えば、VAD法などにより製造されたコア母材上に、有機シロキサンなどのケイ素化合物原料を燃焼させて生成したSiO微粒子をOVD法などにより外付け堆積させて多孔質ガラス母材を製造し、これを焼結して透明ガラス化することにより得ることができる。
【0004】
ガラス母材の製造方法に関しては、特許文献1に、150℃以上250℃以下の温度に加熱した気化器内に液体ケイ素化合物原料を導入して気化させ、気化した原料ガスをバーナで燃焼させて生成したSiO微粒子を堆積して製造する方法が記載されている。また、特許文献2に、気化器内に導入した液体原料を、150℃以上230℃以下の高温キャリアガスと接触させることによって気化させ、気化した原料ガスをバーナで燃焼させて生成したSiO微粒子を堆積して製造する方法が記載されている。特許文献3では、少なくとも3ppm の残留水分量を含むポリアルキルシロキサン化合物を原料とした合成石英ガラスの製造方法が記載されている。
特許文献1 特開2013-177297号公報
特許文献2 特表2015-502316号公報
特許文献3 特許第6661318号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
オクタメチルシクロテトラシロキサン(OMCTS)に代表される液体状態の有機シロキサンをガラス微粒子の原料とする場合、気化させて反応系に供給する方法がある。液体状態の原料を気化させる方法としては、例えば、気化器内に原料を導入し、気化器内で原料を加熱して気化させる方法が挙げられる。しかし、気化器に原料を導入して気化する際に原料の一部が分解重合するなどして、気化器の内壁や配管にゲル状の重合物質が堆積する場合がある。気化器の内壁や配管にゲル状の重合物質が堆積すると、気化器内の圧力の上昇や、最悪の場合、配管の閉塞を引き起こす。ゲル状の重合物質を取り除くために気化器を洗浄するには、設備をしばらく停止させる必要があるため、生産プロセスが非効率となる。また、気化器の内壁に重合物質が堆積することで、気化器の内壁の伝熱状態が変わり、気化器の気化能力が低下するおそれがある。
【0006】
本発明の目的は、ガラス微粒子の原料として、液体状態の有機シロキサンを用いる場合に、気化器内で気化させた際のゲル状の重合物質の生成を抑制可能な多孔質ガラス母材の製造方法及び製造装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の第1の態様においては、原料である液体状態の有機シロキサンをキャリアガスと気化器内で混合し、加熱により気化させて、気体原料としてバーナに供給し、気体原料の燃焼により生成されたガラス微粒子を出発材に堆積させることにより多孔質ガラス母材を製造し、これを焼結するガラス母材の製造方法であって、気化器に導入するキャリアガス中の水分濃度を3volppm以下にする、ガラス母材の製造方法が提供される。
【0008】
本発明の第2の態様においては、原料である液体状態の有機シロキサンをキャリアガスと気化器内で混合し、加熱により気化させて、気体原料としてバーナに供給し、気体原料の燃焼により生成されたガラス微粒子を出発材に堆積させることにより多孔質ガラス母材を製造する多孔質ガラス母材の製造装置であって、キャリアガス中の水分を除去してキャリアガスを気化器に供給する水分除去手段を備える多孔質ガラス母材の製造装置が提供される。
【発明の効果】
【0009】
本発明の多孔質ガラス母材の製造方法及び製造装置によれば、ガラス微粒子の原料として、液体状態の有機シロキサンを用いる場合に、気化器内で気化させた際の重合物質の生成を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】多孔質ガラス母材製造装置の原料供給系の一例を示す図である。
図2】本発明の多孔質ガラス母材製造方法の実施に使用する気化器の構成の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態について説明する。背景技術の説明に用いた図も含め、各図面における共通の構成要素については同じ符号を付す。
【0012】
図1に、本発明の多孔質ガラス母材製造方法の実施に用いる多孔質ガラス母材製造装置12の原料供給系の一例を示す。
【0013】
液体状態の有機シロキサン(「原料液」とも呼ぶ。)は、原料液注入配管から原料液タンク1に注入され貯蔵された上で、気化器6に向けて送液される。原料液タンク1からの原料液の送液方法としては、例えば送液ポンプやガス圧送などを採用することができる。図1では送液ポンプ2を採用する場合を例示している。送液ポンプ2を経た原料液は送液配管に送液される。送液配管は、途中で循環配管3aと気化器6に向かう原料液供給配管3bとに分かれている。原料液供給配管3bの途中には、原料液を精密に流量制御する液体マスフローコントローラ5が設けられる。なお、送液配管は、送液される原料液が凝固しない程度に加熱するのが好ましい。液体マスフローコンローラ5で流量制御された原料液は気化器6に供給される。気化器6には、原料液供給配管3bを経て供給された原料液とともに、キャリアガス供給配管3cを経たキャリアガスが供給される。キャリアガス供給配管3cの途中にはガスマスフローコントローラ7が設けられる。原料液が気化器6内でキャリアガスと混合され加熱されることにより生じた原料混合ガスは、原料混合ガス配管3dを経て、多孔質ガラス母材製造12装置内のバーナ13に供給される。
【0014】
図2に、本発明の多孔質ガラス母材製造方法の実施に使用する気化器6の構成の一例を示す。
【0015】
気化器6は、原料液とキャリアガスを気化器6内に噴出させるアトマイザ15と、内壁を加熱するヒータ16と、を備える。
【0016】
アトマイザ15は、中央から原料液を噴出させるとともに、その周囲からキャリアガスを噴出させる。原料液は、キャリアガスの流れにより粉砕され、微細な液滴となってアトマイザ15を起点に所定の噴霧角度で円錐状に噴霧される。噴霧された原料液の液滴は、気化器6内で加熱されて気化する。加熱は、原料液の液滴を取り囲む予熱されたキャリアガスから受ける熱伝導、気化器6の内壁からの輻射熱、液滴が内壁に付着して受ける熱伝導により行われる。
【0017】
気化器6の内壁に付着した原料液の液滴が過度に加熱されると、原料由来の分解重合反応が進行し、内壁等に重合物質が堆積しやすくなる。有機シロキサン原料として沸点175℃のオクタメチルシクロテトラシロキサン(OMCTS)を用いる場合、原料液を効率よく気化させる観点から、気化器6の内壁の温度は150℃以上230℃以下に制御するのが好ましく、180℃以上210℃以下に制御できればより好ましい。
【0018】
図1に示すように、原料液は、液体マスフローコントローラ5により気化器6に供給される。液体マスフローコントローラ5は、多孔質ガラス母材製造時の堆積状態によって原料液の供給流量を、例えば、0g/分から100g/分までといった範囲で変化させる。
【0019】
有機シロキサン原料としてOMCTSを用いる場合、純度が99質量%以上、好ましくは99.5質量%以上、さらに好ましくは99.9質量%以上であるとよい。OMCTSには、三量体の環状シロキサンであるヘキサメチルシクロトリシロキサン(HMCTS)や五量体の環状シロキサンであるデカメチルシクロペンタシロキサン(DMCPS)が不純物成分として含有されやすい。これらの不純物成分はOMCTSとは反応性や沸点が異なる。OMCTSの純度を高めることによって、反応性が高いHMCTSの反応が進んで重合生成物が生じたりすることも防げ、また、高沸点のDMCPSに合わせて、原料ガス用配管の加熱温度を過度に高める必要もなくなる。
【0020】
キャリアガスは、ガスマスフローコントローラ7により流量を調整され、更に予熱器11を用いて予熱された後、気化器6に供給される。予熱温度としては200℃以上300℃以下が好ましい。ガスマスフローコントローラ7は、多孔質ガラス母材作製時の堆積状態によって、例えば15リットル/分(0℃、1気圧換算値)から40リットル/分(0℃、1気圧換算値)まで供給流量を変化させながら供給される。キャリアガスを増やすと、アトマイザ15から噴霧される原料液の液滴径が小さくなり、液滴の気化が進行しやすくなる。
【0021】
キャリアガスは原料の気化を促進させるために、予熱器11で予熱した状態で気化器6に供給してもよい。予熱温度としては200℃以上300℃以下が好ましい。
【0022】
気化器に導入するキャリアガスに含まれる水分濃度を3volppm以下にするのが好ましい。より好ましくは1volppm以下、更に好ましくは0.1volppm以下とする。
【0023】
水分はOMCTSの分子内で開環反応を引き起こしやすくし、水分との反応によって末端ヒドロキシル基を含む直鎖のシロキサンが形成される。末端ヒドロキシル基を含む直鎖シロキサンは、脱水縮合反応が起きると、高分子量の重合物を形成する。そのため、重合生成物を抑制するには、気化器6内で原料液と接触・混合して加熱するキャリアガス中の水分濃度の管理も重要である。
【0024】
図1に示すように、キャリアガス供給配管3c中には、キャリアガスの露点を計測する露点計10及び、キャリアガス中の水分濃度を下げる水分除去手段8を設けてもよい。
【0025】
窒素、アルゴン、ヘリウム等の不活性ガスや酸素等のガスは、ガス中の水分を除去するために一般にドライヤー等を使用する。気化器6に供給するキャリアガス供給配管3c中に、追加の水分除去手段8を設けることで、水分濃度をさらに低減させることが可能である。例えば、日本パイオニクス株式会社製のパイオファインカートリッジを使用すれば、ガス中の出口水分濃度を1ppb以下まで低減させることが可能である。さらに、キャリアガス供給配管3c中の水分除去手段8の下流に、圧力計9と露点計10を設けることで、キャリアガス中の水分濃度を露点と圧力より確認することが可能である。露点から水蒸気圧への変換は、日本工業規格JIS Z8806:2001に示されたSON-NTAGの式に基づいて求められた付表1.1~1.3に示されたものを用い、露点計測点における圧力との比から体積水分濃度を計算する。例えば、ゲージ圧力0.4MPaGのとき、露点―50℃で水分濃度7.85volppm、露点-60℃で水分濃度2.16volppm、露点-70℃で水分濃度0.52volppm、露点-80℃で0.11ppm、露点-90℃で水分濃度0.02ppmになる。
【0026】
水分除去手段8は、図1に示すように、複数並列に備えてもよい。例えば、並列2系列8aおよび8bの一方のみ(8a)を使用し、他方(8b)はバルブで閉止しておき、使用中の系列(8a)の精製能力低下を露点計10で計測された露点の上昇によって検知したら、バルブを開閉してもう一方の系列(8b)に切り替えて使用する。その間に、精製能力低下した系列(8a)の再生作業を行えば、製造工程を停止することなく連続的に水分除去を行うことが出来る。
【0027】
また、流量レンジの異なる系列を複数並列に備えておき、キャリアガスの流量に応じて切り替えて使用しても良く、あるいは流量レンジが同程度の系列を複数並列に備えておき、キャリアガスの流量に応じて同時使用する系列数を増減させてもよい。こうすると、製造段階に応じてキャリアガスの流量を幅広く変化させることが出来る。
【0028】
キャリアガスは、窒素、アルゴン、ヘリウム等の不活性ガスまたは、酸素や、酸素と不活性ガスの混合ガスを用いることができる。キャリアガスとして、窒素、アルゴン、ヘリウム等の不活性ガスを用いることで安全に原料を移送することができる。一方で、反応に無関係な不活性ガスの割合をあまり増やすのは好ましくない。キャリアガスとして、酸素や、酸素と不活性ガスの混合ガスを用いる場合、気化器6で原料と予混合しておくことにより完全燃焼が促進される。なお、酸素の供給量としては、逆火が生じない程度にするのが好ましい。
【0029】
有機シロキサン原料液中の水分濃度を20wtppm以下にすると更に好ましい。図1に示すように、原料液供給配管3b中には、有機シロキサン原料の水分濃度をさらに下げる水分除去手段4を設けてもよい。液中の水分除去手段としては、活性炭、シリカゲル、ゼオライトなどを使用することができる。例えば、巴工業株式会社製のモレキュラーシーブを使用すれば、原料液中の水分濃度を数wtppmまで低減することが可能である。
【0030】
気化器6で気化された原料ガスとキャリアガスとが混合された原料混合ガスは、原料混合ガス配管3dを通ってバーナ13に供給される。原料混合ガス配管3dは、原料ガス成分の再液化を防ぐために、原料混合ガスの分圧から計算される液化温度以上に加熱するのが好ましい。具体的には、原料がOMCTSの場合、分圧が1気圧のとき液化温度は175℃、0.3気圧のとき134℃になる。原料混合ガス配管3dの加熱には、例えば電気ヒータを用いることができる。
【0031】
バーナ13において、原料ガスの燃焼反応が不十分であると、不完全燃焼により生成されたゲルや炭素微粒子等の不純物がバーナ13に付着して燃焼反応を更に妨げたり、多孔質ガラス母材に混入したりする。多孔質ガラス母材に混入した不純物は、焼結した際に気泡となり、多孔質ガラス母材に生じる欠陥の原因となる。そこで、キャリアガスとして酸素を使用し、予め原料と酸素を予混合してバーナ13に供給することにより、原料の反応性を高めることができる。このように、キャリアガスとして酸素を用い、気化器6内で原料と酸素とを混合してもよいし、キャリアガスとして窒素等の不活性ガスを用い、気化器6の下流で酸素を原料混合ガスと混合してもよい。気化器6の下流で酸素を原料混合ガスと混合する場合には、原料ガス成分の再液化を防ぐため、酸素に予熱を加えた上で原料混合ガスと混合してもよい。
【0032】
バーナ13として、複数のノズルを並べたマルチノズルバーナや、ノズルを同心多重に配置した多重管バーナ等を用いることができる。バーナ13に供給されるガスには、予混合された原料混合ガスのほかに、シールガス、燃焼用可燃性ガス、燃焼用酸素ガス等が挙げられる。燃焼用可燃性ガスとしては、例えば、水素やメタン、エタン、プロパン等を用いることができる。
【実施例
【0033】
<実施例1>
図2に示す気化器6を用いて多孔質ガラス母材14の作製を実施した。具体的には、気化器6の内壁が直径40mm、高さ120mmの円柱状であり、アトマイザ15が円柱の一方の底面に設けられており、液滴が他方の底面方向に向けて噴出される。気化器6内壁温度は185℃になるように制御した。
【0034】
続いて、有機シロキサン原料のOMCTSを流量65g/分で気化器6に供給した。このときOMCTS中に含まれる水分濃度は重量分率で15wtppm(重量ppm)であった(カールフィッシャー電量滴定方式で計測)。
【0035】
キャリアガスの窒素をガスマスフローコントローラで流量制御しながら流量30リットル/分(0℃、1気圧換算値)で気化器6に供給した。キャリアガスは気化器直前の露点計10における露点は-69~-68℃(±2℃計測精度)に保たれ、予熱器11で250℃に予熱した状態で気化器6に供給された。尚、露点計は、General Eastern Instruments製のHygrotec(商標)を用いた。このときの圧力計9の圧力はゲージ圧で0.4MPaGだった。圧力と露点より計算されるキャリアガス中の水分濃度は計測誤差を考慮して0.44~0.92volppm(体積ppm)である。そして、気化器6で発生した原料混合ガスをバーナ13に供給し、バーナ13で生成されたSiO微粒子を出発材に堆積して多孔質ガラス母材14とし、それを焼結して透明ガラス母材を作製した。
【0036】
85kgの多孔質ガラス母材を作製後、気化器6を分解し、気化器6内面に付着していたゲルの重量の計測を行ったところ、1.3gであった。
【0037】
<実施例2>
実施例1と同様に、図2に示す気化器6を用いて多孔質ガラス母材14の作製を実施した。気化器6温度は185℃になるように制御した。
【0038】
続いて、有機シロキサン原料のOMCTSを流量65g/分で気化器6に供給した。このときOMCTS中に含まれる水分濃度は重量分率で15wtppmであった(カールフィッシャー電量滴定方式で計測。)キャリアガスの空気をガスマスフローコントローラで流量制御しながら流量30リットル/分(0℃、1気圧換算値)で気化器6に供給した。このとき、マスフローコントローラから出たキャリアガスの空気は、水分除去手段(日本パイオニクス株式会社製パイオファインカートリッジ)によってその水分が除去され、気化器直前の露点計10において露点-69~-68℃(±2℃計測精度)に保ち、予熱器11で250℃に予熱した状態で気化器6に供給した。このときの圧力計9の圧力はゲージ圧で0.4MPaGだった。圧力と露点より計算されるキャリアガス中の水分濃度は計測誤差を考慮して0.44~0.92volppmである。そして、気化器6で発生した原料混合ガスをバーナ13に供給し、バーナ13で生成されたSiO2微粒子を出発材に堆積して多孔質ガラス母材14とし、それを焼結して透明ガラス母材を作製した。
【0039】
85kgの多孔質ガラス母材を作製後、気化器6を分解し、気化器6内面に付着していたゲルの重量の計測を行ったところ、1.1gであった。
【0040】
<実施例3>
実施例1と同様に、図2に示す気化器6を用いて多孔質ガラス母材14の作製を実施した。気化器6温度は185℃になるように制御した。
【0041】
続いて、有機シロキサン原料のOMCTSを流量50g/分で気化器6に供給した。このときOMCTS中に含まれる水分濃度は重量分率で15wtppmであった(カールフィッシャー電量滴定方式で計測。)キャリアガスの窒素をガスマスフローコントローラで流量制御しながら流量30リットル/分(0℃、1気圧換算値)で気化器6に供給した。このとき、マスフローコントローラから出たキャリアガスの窒素は、水分除去手段(日本パイオニクス株式会社製パイオファインカートリッジ)によってその水分が除去され、気化器直前の露点計10において露点-88~-87℃(±2℃計測精度)に保ち、予熱器11で250℃に予熱した状態で気化器6に供給した。このときの圧力計9の圧力はゲージ圧で0.4MPaGだった。圧力と露点より計算されるキャリアガス中の水分濃度は計測誤差を考慮して0.02~0.05volppmである。そして、気化器6で発生した原料混合ガスをバーナ13に供給し、バーナ13で生成されたSiO微粒子を出発材に堆積して多孔質ガラス母材14とし、それを焼結して透明ガラス母材を作製した。
【0042】
85kgの多孔質ガラス母材を作製後、気化器6を分解し、気化器6内面に付着していたゲルの重量の計測を行ったところ、0.4gであった。
【0043】
<実施例4>
実施例1と同様に、図2に示す気化器6を用いて多孔質ガラス母材14の作製を実施した。気化器6温度は185℃になるように制御した。
【0044】
続いて、有機シロキサン原料のOMCTSを流量50g/分で気化器6に供給した。このときOMCTS中に含まれる水分濃度は重量分率で5wtppmであった(カールフィッシャー電量滴定方式で計測。)キャリアガスの窒素をガスマスフローコントローラで流量制御しながら流量30リットル/分(0℃、1気圧換算値)で気化器6に供給した。このとき、マスフローコントローラから出たキャリアガスの窒素は、水分除去手段(日本パイオニクス株式会社製パイオファインカートリッジ)によってその水分が除去され、気化器直前の露点計10において露点-88~-87℃(±2℃計測精度)に保ち、予熱器11で250℃に予熱した状態で気化器6に供給した。このときの圧力計9の圧力はゲージ圧で0.4MPaGだった。圧力と露点より計算されるキャリアガス中の水分濃度は計測誤差を考慮して0.02~0.05volppmである。そして、気化器6で発生した原料混合ガスをバーナ13に供給し、バーナ13で生成されたSiO微粒子を出発材に堆積して多孔質ガラス母材14とし、それを焼結して透明ガラス母材を作製した。
【0045】
85kgの多孔質ガラス母材を作製後、気化器6を分解し、気化器6内面に付着していたゲルの重量の計測を行ったところ、0.2gであった。
【0046】
<比較例1>
実施例1と同様に、図2に示す気化器6を用いて多孔質ガラス母材13の作製を実施した。気化器6温度は185℃になるように制御した。
【0047】
続いて、有機シロキサン原料のOMCTSを流量65g/分で気化器6に供給した。このときOMCTS中に含まれる水分濃度は重量分率で15wtppmであった(カールフィッシャー電量滴定方式で計測。)キャリアガスの窒素をガスマスフローコントローラで流量制御しながら流量20リットル/分(0℃、1気圧換算値)で気化器6に供給した。キャリアガスの気化器直前の露点計10における露点は-55~-54℃(±2℃計測精度)であり、これを予熱器11で250℃に予熱した状態で気化器6に供給した。このときの圧力計の圧力はゲージ圧で0.4MPaGだった。圧力と露点より計算される水分濃度は計測誤差を考慮して3.2~6.1volppmである。気化器6で発生した原料混合ガスをバーナ13に供給し、バーナ13で生成されたSiO微粒子を出発材に堆積して多孔質ガラス母材14とし、それを焼結して透明ガラス母材を作製した。
【0048】
62kgの多孔質ガラス母材を作製後、気化器6を分解し、気化器6内面に付着していたゲルの重量の計測を行ったところ、7.4gであった。
【0049】
表1は、実施例1~4、および比較例1について、各種条件と気化器6内面に付着していたゲル量をまとめた表である。例示したように、気化器6に導入するキャリアガス中に含まれる水分濃度を3volppm以下にすることで、気化器6内で気化させた際の重合物質の生成を抑制された。
【表1】
【0050】
なお、本発明は上記の実施形態や実施例に限定されるものではなく、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一の構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなる変更がされたものであっても本発明の技術的範囲に包含される。
【符号の説明】
【0051】
1 原料液タンク
2 送液ポンプ
3a 循環配管
3b 原料液供給配管
3c キャリアガス供給配管
3d 原料混合ガス配管
4 水分除去手段
5 液体マスフローコントローラ
6 気化器
7 ガスマスフローコントローラ
8、8a、8b 水分除去手段
9 圧力計
10 露点計
11 予熱器
12 多孔質ガラス母材製造装置
13 バーナ
14 多孔質ガラス母材
15 アトマイザ
16 ヒータ
図1
図2